(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】駅ホームの監視システム
(51)【国際特許分類】
B61L 23/00 20060101AFI20241203BHJP
B61B 1/02 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
B61L23/00 Z
B61B1/02
(21)【出願番号】P 2020136563
(22)【出願日】2020-08-13
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 隼人
(72)【発明者】
【氏名】中村 信彦
(72)【発明者】
【氏名】武田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】喜多村 章悟
(72)【発明者】
【氏名】野中 雄一
(72)【発明者】
【氏名】三田 仁士
(72)【発明者】
【氏名】浜岡 光沙
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-191853(JP,A)
【文献】特開2004-009993(JP,A)
【文献】特開2018-197023(JP,A)
【文献】特開2019-041207(JP,A)
【文献】特開2019-046241(JP,A)
【文献】特開2008-241707(JP,A)
【文献】特開2019-077200(JP,A)
【文献】特開2019-080247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 1/00 - 99/00
B61B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたカメラにより撮影された画像に基づいて駅ホーム上における危険事象を検知し報知する駅ホームの監視システムであって、
車両の側面に設置された複数のカメラと、
前記複数のカメラのそれぞれに対応して設けられ、撮影された画像を解析して危険事象を検知する危険事象検知手段と、
隣接して設置されているカメラに対応して設けられている複数の前記危険事象検知手段による検知結果を論理演算して危険事象の発生領域を判定する判定手段と、
前記判定手段による判定結果に基づいて危険事象の発生を知覚に対して報知する検知結果出力手段と、
監視対象の車両の運転に関する情報を取得する運転情報取得手段と、
前記カメラの撮影画像の画質を評価する画質評価手段と、
を備え
、
前記判定手段は、前記画質評価手段による評価結果に応じて対応する前記危険事象検知手段の検知結果を絞り込み、
前記検知結果出力手段は、前記運転情報取得手段により取得した運転情報に応じて報知の強度を変えるように構成されていることを特徴とする駅ホームの監視システム。
【請求項2】
車両運転時の天候に関する情報を取得する天候情報取得手段を備え、
前記運転情報取得手段により取得する運転情報には車両進行方向情報が含まれ、
前記画質評価手段は、前記運転情報取得手段により取得した車両進行方向情報および前記天候情報取得手段により取得した天候情報に応じて前記カメラの撮影画像の画質を評価することを特徴とする請求項1に記載の駅ホームの監視システム。
【請求項3】
前記運転情報取得手段により取得した運転情報に応じて前記危険事象検知手段による検知条件を変更する検知条件変更手段を備えていることを特徴とする請求項
1または2に記載の駅ホームの監視システム。
【請求項4】
前記車両の側面に設置された複数のカメラは、車両の前端の側面に車両中央側を撮影するように設置されたカメラと、車両の後端の側面に車両中央側を撮影するように設置されたカメラであることを特徴とする請求項
1~3のいずれかに記載の駅ホームの監視システム。
【請求項5】
監視対象の検知エリアは、危険度に応じて段階的に設定された複数のエリアに区分けされており、
前記検知結果出力手段は、前記判定手段により危険事象の発生が検知されたエリアの危険度に応じた報知強度で危険事象の発生を報知することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の駅ホームの監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駅ホームの監視システムに関し、特に車両側面に設置されたカメラで撮影された画像を処理して駅ホーム上の安全を監視する監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、列車発車時における駅ホームの安全確認は、一般に、駅ホームの上方に設置された数台のカメラと、これらのカメラにより撮影された画像を表示する表示装置とにより、駅ホーム上の利用者の状況を乗務員に視覚的に知らせるシステムを構築することで行われていた。
また、駅ホームの上方にホーム端部と軌道部を撮影するように設置されたカメラからの映像に基づいて、車両部分とホーム部分とに分割し、車両部分の画像から列車の進入/発車の状況を判別するとともに、ホーム部分の画像から要監視領域に人物がいるか検出して、検出された場合に警報信号を発するようにしたホーム監視装置に関する発明が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上記のようなカメラの画像により知らせるシステムにあっては、人重なりや利用者が物陰に隠れているような場合に、監視対象を喪失するという課題があった。
そこで、駅ホームではなく車両の側面であってドアの直上にそれぞれカメラを設置して、車両の外側を撮影範囲とするとともに、隣接するカメラの画像同士をつなぎ合わせることで死角を減らすとともに、つなぎ目に映った人物等を消失しないようにするため、画像に含まれる所定の領域にそれぞれ透過度を設定して第1の画像と第2の画像を連続した画像として合成するようにした画像処理装置に関する発明が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-338135号公報
【文献】特開2019-191853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているホーム監視装置は、人重なりや利用者が物陰に隠れているような場合に、監視対象を喪失するという課題を有しているとともに、ホーム監視のスタート時に撮影し保存した画像と列車の進入から発車時に撮影した画像とを比較してホームの要監視領域に人物がいるか検出するようにしている。しかし、駅ホームの撮影環境(特に明るさ)は、天候や時間帯によって大きく変化する。そのため、過去に撮影し保存した画像との比較で検出する特許文献1のホーム監視装置にあっては、撮影条件の異なる画像の比較による検出であるため、正確な検出が行えないという課題がある。
【0006】
一方、特許文献2に記載されている画像処理装置によれば、隣接するカメラの画像のつなぎ目に映った人物等を消失するのを回避することができるものの、運転士は発車の際に前方注視を行うことから表示装置の画面から目を離すため、仮に車両に接触もしくはドアに挟まれた利用者が画像に映っていたとしても見逃してしまうおそれがある。また特許文献2の画像処理装置は、最終的な判断を人が行うことを前提としているので、誤認や見落としが発生するという課題がある。
【0007】
本発明は、上記のような課題に着目してなされたもので、駅ホーム上の危険事象を正確に検知することができ、それによって列車の運転士に対して注意を喚起することができる駅ホームの監視システムを提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、表示装置の画面において運転士の誤認や見落としによる危険な状況の発生を回避するこができる駅ホームの監視システムを提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、駅ホームにおける監視カメラの撮影条件が大きく変化したとしても、ホーム上の危険な状況を検知して適切な注意喚起を行うことができる駅ホームの監視システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明は、
車両に搭載されたカメラにより撮影された画像に基づいて駅ホーム上における危険事象を検知し報知する駅ホームの監視システムであって、
車両の側面に設置された複数のカメラと、
前記複数のカメラのそれぞれに対応して設けられ、撮影された画像を解析して危険事象を検知する危険事象検知手段と、
隣接して設置されているカメラに対応して設けられている複数の前記危険事象検知手段による検知結果を論理演算して危険事象の発生領域を判定する判定手段と、
前記判定手段による判定結果に基づいて危険事象の発生を知覚に対して報知する検知結果出力手段と、
監視対象の車両の運転に関する情報を取得する運転情報取得手段と、
前記カメラの撮影画像の画質を評価する画質評価手段と、
を備え、
前記判定手段は、前記画質評価手段による評価結果に応じて対応する前記危険事象検知手段の検知結果を絞り込み、
前記検知結果出力手段は、前記運転情報取得手段により取得した運転情報に応じて報知の強度を変えるように構成したものである。
【0009】
上記のような構成を有する駅ホームの監視システムによれば、複数の危険事象検知手段による検知結果を論理演算して危険事象の発生を判定するため、駅ホーム上の危険事象の誤検知や未検知を防止して危険事象を正確に検知することができる。また、検知結果出力手段が検知した危険事象の発生を知覚に対して報知するため、表示装置の画面の誤認や見落としによる危険な状況の発生を回避することができる。さらに、画質評価手段による評価結果に応じて対応する危険事象検知手段の検知結果を絞り込むため、撮影条件によって複数のカメラのうちいずれか1つでも撮影画像の画質が天候等の撮影条件の影響で低下したとしても危険事象の発生を検知することができる。
【0010】
また、監視対象の車両の運転に関する情報を取得する運転情報取得手段を備え、前記検知結果出力手段は、前記運転情報取得手段により取得した運転情報に応じて報知の強度を変えるため、例えば走行中と停止中とで危険事象発生の報知強度が変わるので、発車時に運転士が前方を注視していたとしても確実に危険事象の発生を認知することができる。
【0011】
さらに、望ましくは、前記運転情報取得手段により取得した運転情報に応じて前記危険事象検知手段による検知条件を変更する検知条件変更手段を備えるようにする。
かかる構成によれば、例えば走行中と停止中とで危険事象の検知条件が変わるため、状況に応じて的確に危険事象の発生を検知することができる。
【0012】
また、望ましくは、前記車両の側面に設置された複数のカメラは、車両の前端の側面に車両中央側を撮影するように設置されたカメラと、車両の後端の側面に車両中央側を撮影するように設置されたカメラであるようにする。
かかる構成によれば、ホーム上の乗降者が一方のカメラの画像で重なって映っていたとしても、隠れている乗降者は他方のカメラの画像に映るため、危険事象の未検知を防止することができる。
【0013】
また、前記監視対象の検知エリアは、危険度に応じて段階的に設定された複数のエリアに区分けされており、前記検知結果出力手段は、前記判定手段により危険事象の発生が検知されたエリアの危険度に応じた報知強度で危険事象の発生を報知するようにしても良い。かかる構成によれば、検知結果出力手段は、判定手段により危険事象の発生が検知されたエリアの危険度に応じた報知強度で危険事象の発生を報知するので、運転士は報知強度によって危険度を推測することができる。
【0014】
また、望ましくは、車両運転時の天候に関する情報を取得する天候情報取得手段を備え、
前記運転情報取得手段により取得する運転情報には車両進行方向情報が含まれ、
前記画質評価手段は、前記運転情報取得手段により取得した車両進行方向情報および前記天候情報取得手段により取得した天候情報に応じて前記カメラの撮影画像の画質を評価するようにする。
かかる構成によれば、車両進行方向および天候に応じてカメラの撮影画像の画質を評価するため、面倒で時間のかかる画像処理を行うことなく撮影画像の画質の低下を判断することができ、それによって危険事象の発生を正確に検知することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る駅ホームの監視システムによれば、駅ホーム上の危険事象を正確に検知することができ、それによって列車の運転士に対して注意を喚起することができる。また、表示装置の画面の誤認や見落としによる危険な状況の発生を回避するこができる。さらに、駅ホームにおける監視カメラの撮影条件が大きく変化したとしても、ホーム上の危険事象を検知することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る駅ホームの監視システムにおいて使用する画像データを取得するカメラの据付け方の一例を示すもので、(A)は車両の平面図、(B)は車両の側面図である。
【
図2】本発明に係る駅ホームの監視システムの一実施例を示すブロック図である。
【
図3】(A)~(D)は実施例の監視システムにおける検知エリアの設定例を示す図である。
【
図4】(A),(B)は実施例の監視システムを構成する危険事象判定手段の実施例を示すブロック図である。
【
図5】本発明に係る駅ホームの監視システムを構成する統合判定手段の実施例を示すブロック図である。
【
図6】
図5の統合判定手段における検知結果の絞込み方式を説明するための図である。
【
図7】統合判定手段における検知結果の他の絞込み方式を説明するための図である。
【
図8】本発明に係る駅ホームの監視システムの他の実施例を示すブロック図である。
【
図9】(A),(B)は実施例の監視システムの変形例における検知エリアの設定例を示す図である。
【
図10】(A),(B)は実施例の監視システムの第2の変形例におけるカメラの据付け方および検知エリアの設定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る駅ホームの監視システムの好適な実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明に係る駅ホームの監視システムにおいて使用する画像データを取得するカメラの取付け位置の一例を示すもので、(A)は車両の平面図、(B)は車両の側面図である。図示しないが、同一編成を構成する他の車両も同様である。
【0018】
図1に示すように、本実施形態の駅ホームの監視システムにおいては、各車両10の左右の側面の前端側に、車両の前方から中央側に向けて車両側面とホームを撮影可能にアングルが設定されたカメラ11A(R),11A(L)が設置されている。また、車両の後端側には、車両の後方から中央側に向けて車両側面とホームを撮影可能にアングルが設定されたカメラ11B(R),11B(L)が設置されている。
図1(A)において、符号SA1はカメラ11A(L)の左右方向の撮影範囲、符号SA2はカメラ11A(R)の左右方向の撮影範囲、符号SA3はカメラ11B(L)の左右方向の撮影範囲、符号SA4はカメラ11B(R)の左右方向の撮影範囲である。また、
図1(B)において、矢印は撮影方向であり、符号θaはカメラ11A(R)の上下方向の撮影範囲、符号θbはカメラ11B(R)の上下方向の撮影範囲を示す。反対側のカメラ11A(L),11B(L)も同様である。
【0019】
図2には、本発明に係る駅ホームの監視システムの一実施例のブロック図が示されている。なお、この監視システムは、編成単位で設けられている。ただし、各編成を構成する車両単位で検知を行ってもよい。
図2に示されているように、本実施例の監視システムは、車両前方側のカメラ11A(R)または11A(L)が撮影した映像を受信してデジタル処理して危険物や危険事象の発生を検知する危険事象検知手段12Aと、車両後方側のカメラ11B(R),11B(L)が撮影した映像を受信してデジタル処理して危険物や危険事象の発生を検知する危険事象検知手段12Bを備える。カメラ11A(R)~11B(L)は、動画を撮影可能なビデオカメラが望ましいが、短時間に複数枚の静止画を連続して撮影可能なスチールカメラでも良い。
【0020】
また、本実施例の監視システムは、車両10に搭載され運転に関する各種情報を収集する情報管理装置13から走行速度情報や進行方向情報などの運転情報を取得する運転情報取得手段14を備え、上記危険事象検知手段12A,12Bは、カメラの映像情報と運転情報取得手段14により取得した運転情報とに基づいて危険物や危険事象を検知するように構成されている。
さらに、本実施例の監視システムは、運転情報取得手段14により取得した運転情報に基づいて危険の検知条件を変更する検知条件変更手段15を備えている。
【0021】
検知条件変更手段15は、例えば運転情報に基づいて次に停車する駅を判別して駅のホーム形態を判断し、ホーム形態(例えば真っ直ぐか曲がっているか)に応じて検知対象エリアや検知方式を変更する。また、検知条件変更手段15は、列車位置情報に基づいて、ホーム進入時にホームに差し掛かっている車両と差し掛かっていない車両を識別、あるいは発車時にホームから抜けた車両とホームから抜けていない車両を識別して、車両単位で検知エリアを変更する。
さらに、ホームに階段の出入り口がある場合には、駆け込み乗車が多いと予想されるので、線路から離れているエリアであっても階段の出入り口の近傍のエリアは検知対象エリアとして設定する。なお、運転情報として駅ホームの混雑度情報あるいは時刻情報を取得して、混雑する時間帯は検知エリアを広げ、混雑しない時間帯は検知エリアを狭くしても良い。
【0022】
また、本実施例の監視システムにおいては、上記危険事象検知手段12A,12Bの検知結果に基づいて統合的に判定を行う統合判定手段16と、統合判定手段16の判定による検知結果を例えば運転席に設けられているスピーカなどによる音声や表示装置による映像で、危険事象の発生を報知する検知結果出力手段17を備えている。統合判定手段16は、他の車両に設けられているカメラから映像についても同様に判定を行う。危険事象検知手段12A,12B、運転情報取得手段14、検知条件変更手段15および統合判定手段16は、マイクロプロセッサ(MPU)と該MPUが実行するプログラムの協働によって実現することができる。
【0023】
上記統合判定手段16は、例えば危険事象検知手段12Aの検知結果と危険事象検知手段12Bの検知結果との論理演算(論理和または論理積)を行う論理演算手段により構成され、論理和または論理積のいずれの演算を実行するか外部から設定可能に構成することができる。
例えば、未検知を少なくしたい場合には論理和演算を選択し、誤検知を少なくしたい場合には論理積演算を選択すればよい。カメラの画像は天候によって左右され、天気が良いときは鮮明な画像が得られ、天気が悪いときは不鮮明な画像が得られる。そこで、照度計あるいは雨量計もしくは湿度計のような天候を検知可能なセンサを車両に設けて、センサからの信号に応じて、晴れの場合には自動的に論理和演算を選択して未検知を減らし、曇りや雨の場合には論理積演算を選択して誤検知を減らすようにしても良い。
【0024】
また、特に限定されるものでないが、本実施例の監視システムにおいては、検知結果出力手段17は、危険事象を検知した領域が車両に近いほど出力する報知強度(アラートの強度)が高くなるように設定されている。さらに、危険を検知したタイミングにおける車両速度が速いほど報知強度が高くなり、車両が停止しているとき危険が検知された場合には報知強度を低くするように設定されている。なお、検知条件変更手段15から危険事象検知手段12A,12Bへ供給される信号(情報)を検知結果出力手段17へも供給して、検知条件が変更されたことに応じて報知強度を変化させるようにしても良い。
【0025】
なお、報知強度の変更は車両からの距離に応じて段階的でも良いし、無段階でも良い。また、柵やゲートが設けられているホームにおいては、柵またはゲートの外側(線路に近い側)で危険が検知された場合には、内側で危険が検知された場合よりも報知強度を高くするようにしても良い。また、上記実施例では車両に搭載されているカメラの画像に基づいて判断しているが、車両に搭載されているカメラとホームに設けられているカメラの両方の画像や情報管理装置13が持つ車両数の情報と地上から送信される信号電文情報など絶対位置情報が分かる情報を組み合わせて車両位置を判断、あるいは車両端に取り付けた信号照射装置からホームへ照射する信号の反射情報有無から車両位置を判断してもよい。そして、車両とホームの両方のカメラの画像を利用して判断するシステムの場合、発車後においては、列車の後端よりも進行側において危険な状況が検知された場合に報知し、列車の後端が通過したエリアにおいて危険な状況が検知された場合には報知しないようにしても良い。
【0026】
また、本実施例の検知結果出力手段17は、表示装置を備え、
図3(A)に示すように、ホーム上に投影した検知エリアA1,A2,A3,A4を危険度ごとに、赤色や黄色、オレンジ色、緑色などで色分けして表示してどのエリアで危険な事象が発生しているのか分かり易くする。ここで、検知エリアA1は危険エリア、A2は要注意エリア、A3は注意エリア、A4は安全エリアである。
図3(A)のように段階的に区分けして表示する代わりに、無段階で色を徐々に変化させて危険度を表示しても良い。
【0027】
さらに、検知した事象の映像部分は検知枠で囲って表示するとともに、枠の色を変えることで危険度を把握し易くする。
図3(B)は柵Fのあるホームのエリア表示の例、(C)は車両走行中のホームのエリア表示の例を示す。柵Fのあるホームの場合、柵Fの外側(線路側)は危険エリアA1で、柵Fの内側は安全エリアA4とすることができる。
なお、検知結果出力手段17は、統合判定手段16で論理演算として論理和を選択しているときは、危険を検知した方のカメラの映像に表示している検知枠を座標変換することで、危険を検知していない方のカメラの映像の危険事象検知領域を囲う検知枠を表示するようにしても良い。また、上記実施例では、2つのカメラに対応してそれぞれ危険事象検知手段12A,12Bを設けて2つのカメラの画像に基づいて判定しているが、3つ以上のカメラとそれぞれに対応した危険事象検知手段を設けて、3つ以上のカメラの画像に基づいて判定する場合にも適用できる。
【0028】
次に、本実施例の監視システムを構成する各手段の機能の詳細について、
図4~
図6を用いて説明する。
図4には、危険事象検知手段12A,12Bのより詳細な構成例がそれぞれ示されている。
図4(A)に示す危険事象検知手段12Aは、例えば各駅のホームごとに設定され記憶装置に記憶されている検知エリア情報と車両運転情報(走行速度、車両位置等)に基づいて、カメラの撮影映像に対して検知エリアを設定する検知エリア設定手段21と、撮影映像を解析して転倒や駆け込み乗車などの危険事象を検知する危険事象判定手段22と、検知された危険事象の中から検知エリア内の危険事象を絞り込む危険事象領域判定手段23とを備えて構成されている。危険事象検知手段12Bも同様な構成を有する。
【0029】
なお、上記検知エリア設定手段21により設定する検知エリアは、車両側面からの距離、カメラから車両と平行な方向への距離、ホームからの高さで規定される3次元空間であり、車両に近い側から順に、危険エリア、要注意エリア、注意エリア、安全エリアのように段階的に設定される。また、危険事象の対象には、人物の他、動物や飛来物、ベビーカー、車椅子、スーツケース、白杖等、車両に接触もしくは車両ドアに挟まれる可能性があるものが含まれる。また、撮影映像の解析による危険事象の検知に関しては、既に種々のアルゴリズムや人工知能によるDNN(ディープ・ニューラル・ネットワーク)などが開発されているので、そのような公知の技術を用いることができる。
【0030】
図4(B)に示す危険事象検知手段12Aは、
図4(A)に示す危険事象検知手段12Aに対して、各カメラからの映像の画質が危険事象の検知の判断に資する画質を有しているか判定する画質評価手段24と外部情報取得手段25をさらに追加するとともに、画質評価手段24による評価結果を映像信号と共に検知エリア設定手段21と危険事象判定手段22へ供給するように構成したものである。
危険事象判定手段22は、画像処理により画質を判定して、前側または後側のカメラの一方の画質が悪い場合には、主として画質の良好な方のカメラの映像を用いて危険事象の検知を行う。
【0031】
ここで、画質が低下する原因としては、レンズへの雨や雪の付着など天候に起因するものや逆光など車両の向きに起因するものがある。雨や雪の付着による画質の低下は、カメラからの映像情報を周波数解析して鮮明度をスコア化することで把握することができる。また、逆光に起因する画質の低下は、カメラからの映像情報の画素の輝度値の分布を求め、高輝度画素の含有量をカメラごとにスコア化することで把握することができる。上記のようにして算出した画質評価スコアは、後述のように統合判定手段16へ出力して、判定に利用するように構成しても良い。
【0032】
なお、
図4(B)の危険事象検知手段12Aでは、危険事象判定手段22がカメラからの映像に基づいて画質を判定しているが、雨量計のようなセンサを車両に設けて、センサの検出値と運転情報取得手段14により取得した車両の進行方向の情報とから雨や雪による画質の低下するカメラおよび画質の低下具合を判断できるようにする。さらに、時刻情報、車両進行方向や位置情報および外部情報取得手段25が車両外部より取得した天候情報とからいずれかのカメラが逆光状態になっているか判断することで、画質の良否を判定したりするようにしても良い。
また、画質評価手段24が算出した画質評価スコア(多値データ)を統合判定手段16へ出力する代わりに、危険事象の検知に使用可能か使用不可かを示す2値あるいは連続値(アナログ値)で供給するようにしても良い。
【0033】
次に、本発明の駅ホーム監視システムの第2の実施例について説明する。
第2の実施例は、
図4(B)の画質評価手段24で算出したカメラごとの画質評価スコアを、統合判定手段16へ出力して、判定に利用するように構成したものである。
本実施例の統合判定手段16は、
図5に示すように、
図2に示す危険事象検知手段12A,12Bそれぞれの危険事象領域判定手段23からの検知結果と画質評価手段24からの画質評価スコアとに基づいて、確度の高い検知結果を絞り込む検知結果絞込み手段61A,61Bと、検知結果絞込み手段61A,61Bによる検知結果を論理演算する論理演算手段62とを備える。論理演算手段62が実行する論理演算は、前記実施例と同様に論理積または論理和とする。
【0034】
ここで、上記検知結果絞込み手段61A,61Bによる絞込み処理の具体例を、
図6を用いて説明する。なお、表示枠で囲まれた画像は監視対象(人物)である。
画質評価手段24から供給される画質評価スコアが多値またはアナログ値の場合、検知結果絞込み手段61A,61Bは、先ず供給された画質評価スコアにしきい値処理を行なって、
図6(A)に示すように、条件が良ければ検知可能範囲Aのカメラから最も遠いエッジまでの距離に相当する検知距離の最大値dmaxまで検知できるが、画像取得時の最大検知距離dthと、最大検知距離dthでの検知対象物Mの検知画素数の最小値Sthと求める。これを前後両方のカメラの映像に対して行う。検知距離dは、検知枠の定めた点を基準として算出しており、一例として、足元の中央位置と危険エリアとの画像上の座標位置を比較することで、危険エリアと注意エリアのいずれかに存在する人物であるかを特定することが可能である。身長の個人差の影響を受けない足元の位置を用いることで、エリア判定性能を向上させることができる。また、映像内の最小画素数Sthよりも画素数の少ない対象物、前記の場合ではSmin~Sthは検知判定対象から外して最小画素数Sthよりも画素数の多い対象物について検知判定を実行させる。さらに、dthとSthは相互に変換が可能であるため、どちらか一方を使用しても、検知結果を絞り込むことができる。
【0035】
また、検知結果絞込み手段61A,61Bは、算出された最大検知距離dth(前)とdth(後)とから信頼性を判定する。具体例には、
図6(B)に示すように、前方のカメラからの距離d(前)を横軸に、また後方のカメラからの距離d(後)を縦軸にとった直交座標系において、最大検知距離dth(前),dth(後)の点Pをプロットしたときに、当該点Pが、各軸の最大距離dmaxを通る直線Lよりも上にあるときは、検知判定結果は信頼性があると判断し、検知判定結果を有効として論理演算手段62へ供給する。また、点Pが、各軸の最大距離dmaxを通る直線Lよりも下にあるときは、検知判定結果は信頼性がないと判断し、その旨を別の手段で運転士へ通知するシステム構成としても良い。ここで、最大距離dmaxは、カメラから当該車両の反対側の端部までの距離(≒車両長さ)である。
【0036】
一方、画質評価手段24から供給される画質評価スコアが2値の場合、検知結果絞込み手段61A,61Bは、
図7(A)に示す(a),(b),(c)のいずれかの場合に、1車両分の検知範囲全体を検知可能対象範囲として包含することができる。
図7(A)の(a)~(c)において、符号Saは前方カメラの危険事象検知可能な画像範囲、符号Sbは後方カメラの危険事象検知可能な画像範囲である。
【0037】
図7(A)の(a)は前後のカメラのいずれの映像も使用可能な場合を、(b) は前方のカメラの映像のみ使用可能な場合を、(c) は後方のカメラの映像のみ使用可能な場合を表わしている。
図7(B)に、(A)の(a),(b),(c)に対応する状態を、カメラからの距離d(前)、d(後)の直交座標系に表わしたものを示す。
図7(B)より、(A)の(a),(b),(c)のいずれの場合も、
図6における点Pに相当する点は各軸の最大距離dmaxを通る線Lよりも上にあることから、1車両分の検知範囲全体を検知可能対象範囲となっていることが分かる。
【0038】
第3の実施例は、
図8(A)に示すように、各カメラからの最大距離dmax (前)とdmax (後)を、カメラから見て遠い側の車両に設置されているカメラまでの距離とする場合の監視システムで、
図8(B)にその場合のシステムのブロック構成例が示されている。
図8(A)に示すように、本実施例においては、各車両に対応して設けられている統合判定手段16へ隣接する車両の遠い側のカメラに対応して設けられている危険事象検知手段からの情報が供給されている。このような構成を有することにより、統合判定手段16は車両と車両の連結部の近傍において発生する危険事象を検知することができる。また、
図8(B)に示すように、検知結果出力手段17は、運転席等に設けられた共通の表示装置DSPと、各車両に設けられた複数のスピーカSPKとを含み、各車両の統合判定手段16から得た情報を車両毎に報知しても良いし、編成でまとめて報知するようにしても良い。
【0039】
(変形例)
次に、上記実施例の第1の変形例について説明する。上記実施例においては、車両ごとに車両全体がホームに対向している場合に検知エリアを設定して危険事象の検知を行う例を説明したが、
図9(A),(B)に示すように、車両の一部がホームにかかっている場合には、ホームにかかっている部位に対応して検知エリアDAを設定して危険事象の検知を行うようにしたものである。なお、
図9(A)は列車の駅進出時、(B)は駅進入時のものである。また、車両ごとに検知エリアの設定のON/OFFを切り替えることができるように構成しても良い。
【0040】
図10には上記実施例の第2の変形例が示されている。
上記実施例においては、各車両の前側と後側にそれぞれ対向する向きに一対のカメラを配設したが、第2の変形例は、
図10(A)に示すように、車両10の各ドアの上部に魚眼レンズのような広い範囲を撮影することのできるレンズを有するカメラ11を設置して、各カメラの映像に基づいて危険事象の検知を行うようにしたものである。なお、この場合、検知エリアは、
図10(B)に示すように、カメラを中心とする同心の半円形領域DA1,DA2に設定しても良いし、魚眼レンズを有するカメラの画像を、本来の長方形の画像に変換(展開)する技術が知られているので、そのような技術を使用して画像を変換して、前記実施例と同様に、ホーム端と平行な検知エリア(
図3参照)を設定しても良い。なお、
図10(B)には、本変形例におけるカメラからの距離dと画素数Sの定義も記載してある。
【0041】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、情報管理装置13のない車両の場合、運転情報取得手段14は、運転操縦にかかる操作信号などから進行方向情報などの運転情報を取得したり、走行速度情報は車輪回転センサなどの信号を運転情報に代わって取得したりしてもよい。また、列車の運転状況を管理する地上側装置から運転情報を取得するようにしてもよい。また、カメラを搭載する位置は全車両の後端と前端に限定されず、連結車両数の少ない編成では最後尾の後端と先頭の車両前端のみであっても良い。
また、上記実施例では、検知結果出力手段17が運転席に設けられた表示装置を備え運転士へ報知するようにしているが、各車両に搭載しているスピーカや表示灯と連動させてホーム上の利用客へ直接報知しても良い。
【符号の説明】
【0042】
10 車両
11 カメラ
12 危険事象検知手段
13 情報管理装置
14 運転情報取得手段
15 検知条件変更手段
16 統合判定手段
17 検知結果出力手段
21 検知エリア設定手段
22 危険事象判定手段
23 危険事象領域判定手段
24 画質評価手段
25 外部情報取得手段