(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】クレーン、及びクレーンの制御装置
(51)【国際特許分類】
B66C 13/22 20060101AFI20241203BHJP
【FI】
B66C13/22 S
(21)【出願番号】P 2020146689
(22)【出願日】2020-09-01
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】503002732
【氏名又は名称】住友重機械搬送システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】林 大作
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-100086(JP,A)
【文献】特開平08-310759(JP,A)
【文献】特開平02-106462(JP,A)
【文献】国際公開第2015/118746(WO,A1)
【文献】米国特許第04380049(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンの動作を制動するブレーキと、
前記ブレーキの制動時におけるブレーキトルクを演算する演算部と、
前記演算部の演算結果に基づいて、前記ブレーキの状態を監視する監視部と、を備え、
前記演算部は、前記ブレーキが動作するときのブレーキ動作遅れの影響を考慮して前記ブレーキトルクを演算
し、
前記監視部は、通常の運転時におけるクレーンの動作時に前記演算部によって演算されたブレーキトルクをモニタリングすることによる前記ブレーキの状態の監視を行う、クレーン。
【請求項2】
前記演算部は、前記ブレーキ動作遅れを演算する、請求項1に記載のクレーン。
【請求項3】
前記ブレーキ動作遅れは、前記ブレーキの動作が開始してから制動力が作用するまでの機械的な遅れを含む、請求項1又は2に記載のクレーン。
【請求項4】
前記ブレーキ動作遅れは、前記ブレーキに対して制御信号が送信されてから前記ブレーキの動作が開始するまでの制御的な遅れを含む、請求項1~3の何れか一項に記載のクレーン。
【請求項5】
前記演算部は、前記ブレーキへの動作指令信号が発信されてから、時間を進めながらブレーキ制動時減速度の遷移を把握することで制御遅延時間を推定する、請求項1~4の何れか一項に記載のクレーン。
【請求項6】
前記演算部は、前記ブレーキの制動力の立ち上がり時におけるブレーキ制動時減速度から、前記ブレーキの制動力が完全に作用しているときのブレーキ制動時減速度となるまでの時間を機械遅延時間と推定し、
前記監視部は、前記制御遅延時間、及び前記機械遅延時間を監視する、請求項5に記載のクレーン。
【請求項7】
前記演算部は、前記ブレーキトルクに影響を及ぼす外的要因の影響を考慮して、前記ブレーキトルクを演算する、請求項1~4の何れか一項に記載のクレーン。
【請求項8】
動作を制動するブレーキを備えるクレーンを制御するクレーンの制御装置であって、
前記ブレーキの制動時におけるブレーキトルクを演算する演算部
と、
前記演算部の演算結果に基づいて、前記ブレーキの状態を監視する監視部と、を備え、
前記演算部は、前記ブレーキが動作するときのブレーキ動作遅れの影響を考慮して前記ブレーキトルクを演算
し、
前記監視部は、通常の運転時におけるクレーンの動作時に前記演算部によって演算されたブレーキトルクをモニタリングすることによる前記ブレーキの状態の監視を行う、クレーンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クレーン、及びクレーンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ブレーキの故障診断を行うことができるクレーンが記載されている。特許文献1のクレーンにおいては、駆動モータにブレーキを作動させてから駆動モータが停止するまでの所要時間まではその間における駆動モータの回転軸の回転数を自動的に計測している。この計測値を演算装置に入力して演算装置にメモリーされた規準値と比較することによりブレーキの性能を判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のクレーンにおいては、回転角度(あるいは所要時間)を計測し、その値を閾値と比較してブレーキの動作状態を判定(故障診断)しているが、動作開始から停止までの回転角度となっているため、途中の遷移状態が考慮されていない。そのため、ブレーキの性能を精度よく把握することができないという問題がある。
【0005】
本開示は、ブレーキの性能を精度よく把握することができるクレーン、及びクレーンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係るクレーンは、クレーンの動作を制動するブレーキと、ブレーキの制動時におけるブレーキトルクを演算する演算部と、を備え、演算部は、ブレーキが動作するときのブレーキ動作遅れの影響を考慮してブレーキトルクを演算する。
【0007】
演算部は、ブレーキの制動時におけるブレーキトルクを演算する。従って、演算結果に係るブレーキトルクの低下などに基づいて、ブレーキの性能を把握することが可能となる。ここで、例えば、演算部がブレーキ動作遅れを含んだままの情報に基づいてブレーキトルクを演算した場合、当該演算結果は、実際のブレーキトルクに対して誤差を含んだものとなる。これに対し、演算部は、ブレーキが動作するときのブレーキ動作遅れの影響を考慮してブレーキトルクを演算する。この場合、演算部は、ブレーキトルクを精度よく演算することができる。これにより、ブレーキの性能を精度よく把握することができる。
【0008】
演算部は、ブレーキ動作遅れを演算してよい。この場合、演算部は、例えば、予め準備されたブレーキ動作遅れを用いる場合に比して、状況に応じて演算したブレーキ動作遅れを用いることで、精度よくブレーキトルクを演算することができる。更に、演算したブレーキ動作遅れを用いてブレーキの性能を把握することも可能となる。
【0009】
ブレーキ動作遅れは、ブレーキの動作が開始してから制動力が作用するまでの機械的な遅れを含んでよい。この場合、演算部は、ブレーキの機械的な要因によって発生する遅れを考慮してブレーキトルクの演算を行うことができる。
【0010】
ブレーキ動作遅れは、ブレーキに対して制御信号が送信されてからブレーキの動作が開始するまでの制御的な遅れを含んでよい。この場合、演算部は、ブレーキの制御的な要因によって発生する遅れを考慮してブレーキトルクの演算を行うことができる。
【0011】
演算部は、ブレーキトルクに影響を及ぼす外的要因の影響を考慮して、ブレーキトルクを演算してよい。この場合、演算部は、外的要因を考慮して、精度よくブレーキトルクを演算することができる。
【0012】
本開示の一側面に係るクレーンの制御装置は、動作を制動するブレーキを備えるクレーンを制御する制御装置であって、ブレーキの制動時におけるブレーキトルクを演算する演算部を備え、演算部は、ブレーキが動作するときのブレーキ動作遅れにの影響を考慮してブレーキトルクを演算する。
【0013】
このクレーンの制御装置によれば、上述のクレーンと同様な作用・効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、ブレーキの性能を精度良く把握することができるクレーン、及びクレーンの制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係るクレーンを示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るクレーンのブロック構成を示すブロック構成図である。
【
図3】ブレーキが動作する直前、及びブレーキが動作しているときのモータ回転数と時間の関係を示すグラフである。
【
図4】演算部が近似を用いてブレーキ動作遅れを演算する方法について説明するためのグラフである。
【
図5】演算部が閾値を用いてブレーキ動作遅れを演算する方法について説明するためのグラフである。
【
図6】本実施形態に係るクレーンの制御装置の制御内容の例示的な各工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係るクレーン100を示す図である。
図1では、クレーン100として、コンテナクレーンが例示されている。クレーン100は、岸壁4上にそれぞれ配置された脚部8,9と、脚部8,9に架け渡されると共に海側へ延びるブーム部10とを備えている。また、荷役装置2は、ブーム部10に沿って移動可能な吊り装置12を有する。脚部8は、レール6上を走行可能であり、脚部9は、レール7上を走行可能である。脚部8,9の下端部8a,9aには、レール6,7に沿って走行するための走行装置13がそれぞれ設けられている。走行装置13は、脚部8,9に対して設けられている。
【0018】
次に、
図2を参照して、本発明の実施形態に係るクレーン100のブロック構成について説明する。
図2は、本発明の実施形態に係るクレーン100のブロック構成を示すブロック構成図である。
図2に示すように、クレーン100は、状態検出部20と、駆動部21と、ブレーキ22と、出力部23と、制御装置50と、を備える。
【0019】
状態検出部20は、クレーン100の各種状態、及びクレーン100の周辺環境の各種状態を示す情報を検出する機器である。状態検出部20は、例えば、荷役時にクレーン100に作用する荷重を検出する荷重センサ、各モータのディスク温度を検出する温度センサ、及びクレーン100の周辺環境における風向や風速などを検出する風速計などの各種検出機器によって構成される。状態検出部20は、各種状態に関する情報を状態信号として制御装置50へ送信する。
【0020】
駆動部21は、クレーン100の各種動作を実行させるための駆動力を発生する機器である。駆動部21は、吊り装置12の移動を行うためのモータ、吊り装置12の巻上げ・巻き下げを行うためのモータ、走行装置13のモータ、ブーム部10の起伏を行うための起伏装置のモータ、及びそれらのモータを駆動させるためのインバータなどのドライブ装置によって構成される。駆動部21は、制御装置50から送信される動作指令信号に基づいて動作する。また、駆動部21は、各モータの回転数など、駆動部21の状態を示す情報を状態信号として制御装置50へ送信する。
【0021】
ブレーキ22は、クレーン100の各種動作を制動する機器である。ブレーキ22は、駆動部21に含まれる各モータの回転を停止させるブレーキ装置によって構成される。ブレーキ22は、各モータのディスクにライニングなどの制動力付与部材を押し当てることによって、各モータを停止する。ブレーキ22は、制御装置50から送信される動作指令信号に基づいて動作する。また、ブレーキ22は、各モータの回転数など、駆動部21の状態を示す情報を状態信号として制御装置50へ送信する。
【0022】
出力部23は、各種情報を作業者に対して出力する機器である。出力部23は、例えば、画像で情報を出力するモニタ、音声で情報を出力するスピーカ、光で情報を出力する警告灯などによって構成される。出力部23は、制御装置50からの信号に基づいて、各種情報を出力する。
【0023】
制御装置50は、例えば、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信インタフェースを備え、コンピュータ(機上自動制御PCとも称される)として構成されていてもよい。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)等の演算器である。メモリは、ROM(ReadOnly Memory)又はRAM(Random Access Memory)等の記憶部である。ストレージは、フラッシュメモリー、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶部(記憶媒体)である。通信インタフェースは、データ通信を実現する通信機器である。プロセッサは、メモリ、ストレージ及び通信インタフェースを制御し、後述する制御装置50としての機能を実現する。制御装置50では、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種機能を実現する。制御装置50を構成するコンピュータの数は、単数であってもよいし、複数であってもよい。
【0024】
制御装置50は、運転制御部51と、演算部52と、監視部53と、出力制御部54と、を備える。
【0025】
運転制御部51は、クレーン100の運転を制御する。運転制御部51は、クレーン100の所望の動作を実行させるために、駆動部21へ動作指令信号を送信する。また、運転制御部51は、クレーン100の動作を停止させる場合、ブレーキ22へ動作指令信号を送信する。例えば、クレーン100が吊り装置12の巻上げを行う場合、運転制御部51は、巻上げ用のモータに対して巻上げを行う旨の動作指令を送信する。そして、吊り装置12の巻上げを停止させる場合、運転制御部51は、巻上げ用のモータの回転を停止させるように、当該巻上げ用のモータに対応するブレーキ22に対して動作指令信号を送信する。
【0026】
演算部52は、ブレーキ22の制動時におけるブレーキトルクを演算する。演算部52は、ブレーキ22による制動時における任意のタイミングにて、駆動部21のモータのモータ回転数の変化をモニタリングすることによって、ブレーキトルクを演算する。また、本実施形態では、演算部52は、ブレーキ22が動作するときのブレーキ動作遅れの影響を考慮してブレーキトルクを演算する。ブレーキ動作遅れは、ブレーキ22の動作が開始してから制動力が作用するまでの機械的な遅れを含んでいる。また、ブレーキ動作遅れは、ブレーキ22に対して制御信号が送信されてからブレーキ22の動作が開始するまでの制御的な遅れを含んでいる。
【0027】
ここで、
図3を参照して、演算部52によるブレーキトルクの演算方法の一例、及びブレーキ動作遅れの一例について説明する。
図3は、ブレーキ22が動作する直前、及びブレーキ22が動作しているときのモータ回転数と時間の関係を示すグラフである。なお、
図3の下段のグラフは、ブレーキ22が制御装置50から動作指令信号を受信するタイミングを示すグラフである。当該グラフでは、「Open」から「Close」になったタイミングで、制御装置50がブレーキ22に対してブレーキを行う旨の動作指令信号を送信したことを示すものとする。
図3に示すように、運転制御部51は、モータを停止させる時には、一定速度(例えば定格、すなわち100%の出力)で回転させているものを所定のモータ回転数まで減速させ、当該モータ回転数まで減速したタイミングでブレーキ22へ動作指令信号を送信する。
【0028】
なお、以降の説明において、「N」は、停止対象となるモータのモータ回転数(rpm)を示す。「TS」は、演算部52がブレーキトルクを演算する上での演算処理開始時間(s)を示す。「TE」は、演算部52がブレーキトルクを演算する上での演算処理完了時間(s)を示す。「NS」は、演算処理開始時におけるモータ回転数(rpm)を示す。「NE」は、演算処理完了時におけるモータ回転数(rpm)を示す。この場合、演算部52は、以下の式(1)によってブレーキ22のブレーキトルクBTを演算することができる。なお、「GD2」は慣性モーメントを示している。
BT=GD2 × (|NS-NE|)/(375 × (|TS-TE|)) …(1)
【0029】
ここで、
図3に示すように、運転制御部51がブレーキ22に対して動作指令信号を送信してから時間「Δt1」の間、グラフの傾きは「DC1」のままである。これは、運転制御部51が運転指令信号を発信してからブレーキ22が当該信号を受信して動作を開始するまでの間の制御的な遅れに該当する。従って、「Δt1」は制御遅延時間(s)を示すものと言える。また、ブレーキ22が完全に制動力を発生している状態におけるグラフの傾きは「DC3」で示される。これに対し、傾きが「DC1」から「DC3」になるまでに、時間「Δt2」の間、グラフの傾きが「DC1」よりも大きく「DC3」よりも小さい「DC2」となる。これは、ブレーキ22がモータのディスクと接触してから完全に制動力を発揮するまでの間の機械的な遅れに該当する。従って、「Δt
2」は機械遅延時間(s)を示すものと言える。演算部52は、ブレーキ22が動作するときのブレーキ動作遅れ、すなわち制御遅延時間Δt
1及び機械遅延時間Δt
2を考慮してブレーキトルクを演算する。具体的には、演算部52は、機械遅延時間Δt
2が経過したタイミングを演算処理開始時間TSに設定してる。これにより、演算処理開始時間TSから演算完了時間TEまでの間のグラフの傾きは全域において「DC3」で一定となっている。従って、演算部52は、演算処理開始時間TSと演算完了時間TEとの間の範囲から、グラフの傾きが「DC1」や「DC2」となるようなブレーキ動作遅れ成分を除去して、ブレーキトルクを演算することができる。
【0030】
演算部52は、ブレーキトルクに影響を及ぼす外的要因の影響を考慮して、ブレーキトルクを演算してよい。例えば、慣性モーメントGD2は負荷条件によって変動する。従って、演算部52は、負荷条件による変動を考慮した慣性モーメントGD2に補正した上で、ブレーキトルクを演算してよい。また、演算部52は、ディスク温度による摩擦係数の変動を考慮してブレーキトルクを温度補正して演算してよい。
【0031】
演算部52は、ブレーキ動作遅れを演算によって取得してよい。演算部52がブレーキ動作遅れを演算する際の演算方法の一例を
図4及び
図5を参照して説明する。
図4は、演算部52が近似を用いてブレーキ動作遅れを演算する方法について説明するためのグラフである。
図5は、演算部52が閾値を用いてブレーキ動作遅れを演算する方法について説明するためのグラフである。
【0032】
図4を用いてブレーキ制動時減速度αの算出について説明する。例えば、演算部52は、任意の時間t
nのブレーキ制動時減速度αを算出するときは、当該時間t
nの前後の微少な時間範囲(t
n-X~t
n+Y)におけるグラフの傾き、すなわちブレーキ制動時減速度αを算出する。なお、n-X、n-Yは、それぞれ正の整数である。
図4のうち、「α
f」は、ブレーキ22の制動力が完全に作用しているときのブレーキ制動時減速度を示す。演算部52は、最小二乗法などを用いた線形近似等によって、ブレーキ制動時減速度α
fを算出してよい。「α
m」は、ブレーキ22の制動力の立ち上がり時におけるブレーキ制動時減速度を示す。演算部52は、ブレーキ22への動作指令信号を発信した後、時間t
nを進めながらブレーキ制動時減速度αの遷移を把握する。すなわち、演算部52は、ブレーキ22への動作指令信号が発信されてから、ブレーキ制動時減速度が「α
m」となるまでの時間を制御遅延時間Δt
1と推定する。更に、演算部52は、ブレーキ制動時減速度が「α
m」となってから「α
f」となるまでの時間を機械遅延時間Δt
2と推定する。
【0033】
また、
図5に示すように、演算部52は、以下の式(2)に示す式を用いてブレーキ制動時減速度α
nを演算してよい。例えば、演算部52は、任意の時間t
nのブレーキ制動時減速度αを算出するときは、当該時間t
nにおけるモータ回転数N
nを用いて、式(2)を用いてブレーキ制動時減速度α
nを算出する。例えば、
図5のうち、「α
f」は、ブレーキ22の制動力が完全に作用しているときのブレーキ制動時減速度を示す。「α
m」は、ブレーキ22の制動力の立ち上がり時におけるブレーキ制動時減速度の一例を示す。演算部52は、ブレーキ22への動作指令信号を発信した後、時間t
nを進めながらブレーキ制動時減速度α
nの遷移を把握する。すなわち、制御遅延時間Δt
1が終了すると、モータ回転数のグラフの傾きが変化するためブレーキ制動時減速度α
nの値が急激に変動する。すなわち、制御遅延時間Δt
1に対応するブレーキ制動時減速度α
nに対して所定の閾値を設定しておけば、演算部52は、ブレーキ制動時減速度α
nが当該閾値を超えたタイミングで、制御遅延時間Δt
1が終了したことを把握することができる。これにより、演算部52は、制御遅延時間Δt
1を推定することができる。また、機械遅延時間Δt
2が終了すると、モータ回転数のグラフの傾きが変化するためブレーキ制動時減速度α
nの値が急激に変動する。すなわち、機械遅延時間Δt
2に対応するブレーキ制動時減速度α
nに対して所定の閾値を設定しておけば、演算部52は、ブレーキ制動時減速度α
nが当該閾値を超えたタイミングで、機械遅延時間Δt
2が終了したことを把握することができる。これにより、演算部52は、機械遅延時間Δt
2を推定することができる。
α
n = (NE-N
n)/(TE-t
n) …(2)
【0034】
監視部53は、演算部52の演算結果に基づいて、ブレーキ22の状態を監視する。具体的に、監視部53は、演算部52によって演算されたブレーキトルクをモニタリングすることで、ブレーキ22の状態を監視する。例えば、監視部53は、演算部52の演算結果に係るブレーキトルクが規定の値よりも低い場合、機器の故障、整備不良、調整不良などによるブレーキ22の性能低下と判断することができる。更に、監視部53は、演算部52によって演算された制御遅延時間Δt1、及び機械遅延時間Δt2を監視してもよい。例えば、監視部53は、制御遅延時間Δt1、及び機械遅延時間Δt2の少なくとも一方が、規定の値よりも長くなった場合、ブレーキ22の性能低下と判断することができる。
【0035】
なお、監視部53は、複数回の演算結果に基づいて判断を行ってもよい。例えば、監視部53は、複数回の演算結果の平均値などを算出し、当該平均値を用いてブレーキ22の性能低下を判断してよい。このとき、演算結果が明かに過大な値となった場合は、外的要因による一時的な誤差であるとみなして、監視部53は平均値の計算から除外してもよい。また、監視部53は、単独の演算結果に基づいて判断を行ってもよい。例えば、ブレーキ22に油などが付着してしまった場合は、前回の演算結果から大きく値が変動する。従って、監視部53は、一回でも演算結果が基準から大きく外れた場合、ブレーキ22の性能低下を判断してよい。
【0036】
出力制御部54は、出力部23にて出力する情報を生成すると共に、当該情報を出力部23にて出力する。出力制御部54は、監視部53によってブレーキ22の性能低下と判断された場合、作業者に対して警告を発する。あるいは、出力制御部54は、監視部53の監視結果に基づいて、作業者に対して注意喚起を行うに留め、実際のブレーキ22の性能低下の判断は作業者が行うようにしてもよい。
【0037】
また、出力制御部54は、ブレーキ22の性能低下の態様が分かっている場合、性能低下の態様を出力してもよい。例えば、「ブレーキ動作遅れの時間は正常だが、ブレーキトルクが低下」した場合、監視部53は、ライニングやディスクの劣化、汚損であると判断することができる。また、「ブレーキ動作遅れの時間が延びたが、ブレーキトルクは正常」である場合、監視部53は、ブレーキ機構や制御機器(リレーなど)の不調であると判断できる。出力制御部54は、これらの不具合の内容を出力してよい。
【0038】
上述の様な制御装置50によるブレーキ22の性能低下の監視は、毎回のクレーン100の動作に行われてよい。この場合、制御装置50は、ブレーキ22を常時監視することができる。また、定期点検やクレーン設置時などのタイミングで、ブレーキトルクを計測するための運転が行われてもよい。この場合、演算部52が演算を行い易くなるような動作態様(計測モード)にしてもよい。例えば、運転制御部51は、通常の運転時よりも、早いタイミングでブレーキ22を動作させてもよい。例えば、運転制御部51は、通常運転時は微速まで減速してからブレーキ22を動作させるのに対し、計測モードでは、早いタイミング(例えば定格の30%まで減速したタイミング)でブレーキ22を動作させてよい。
【0039】
次に、本実施形態に係るクレーン100の制御装置50による制御内容の例について説明する。
図6は、本実施形態に係るクレーン100の制御装置50の制御内容の例示的な各工程を示すフローチャートである。
図6に示す処理は、クレーン100の荷役動作や、定期点検における計測モードにおける運転時に実行される。
【0040】
まず、演算部52は、状態検出部20、駆動部21、及びブレーキ22から、各種状態を示す情報を取得する(ステップS1)。次に、演算部52は、ブレーキ22のブレーキトルク、及びブレーキ動作遅れを演算する(ステップS2)。次に、監視部53は、ステップS2での演算結果に基づいて、ブレーキ22の性能が低下したか否かを判定する(ステップS3)。
【0041】
監視部53が、ブレーキ22の性能は低下していないと判定した場合(ステップS3でYES)、演算結果を記憶部などに記憶しておく。そして、監視部53は、次回の判定時に記憶部に記憶した演算結果を考慮してよい。一方、監視部53が、ブレーキ22の性能が低下したと判定した場合(ステップS3でNO)、出力制御部54は、出力部23を制御して警告を行う(ステップS5)と共に、演算結果を記憶部などに記憶しておく。
【0042】
次に、本実施形態に係るクレーン100、及びクレーン100の制御装置50の作用・効果について説明する。
【0043】
演算部52は、ブレーキ22の制動時におけるブレーキトルクを演算する。従って、演算結果に係るブレーキトルクの低下などに基づいて、ブレーキ22の性能を把握することが可能となる。ここで、例えば、演算部52がブレーキ動作遅れを含んだままの情報に基づいてブレーキトルクを演算した場合、当該演算結果は、実際のブレーキトルクに対して誤差を含んだものとなる。これに対し、演算部52は、ブレーキ22が動作するときのブレーキ動作遅れの影響を考慮してブレーキトルクを演算する。この場合、演算部52は、ブレーキトルクを精度よく演算することができる。これにより、ブレーキ22の性能を精度よく把握することができる。
【0044】
演算部52は、ブレーキ動作遅れを演算してよい。この場合、演算部52は、例えば、予め準備されたブレーキ動作遅れを用いる場合に比して、状況に応じて演算したブレーキ動作遅れを用いることで、精度よくブレーキトルクを演算することができる。更に、演算したブレーキ動作遅れを用いてブレーキの性能を把握することも可能となる。
【0045】
ブレーキ動作遅れは、ブレーキ22の動作が開始してから制動力が作用するまでの機械的な遅れ(機械遅延時間Δt2)を含んでよい。この場合、演算部52は、ブレーキ22の機械的な要因によって発生する遅れを考慮してブレーキトルクの演算を行うことができる。
【0046】
ブレーキ動作遅れは、ブレーキ22に対して制御信号が送信されてからブレーキ22の動作が開始するまでの制御的な遅れ(制御遅延時間Δt1)を含んでよい。この場合、演算部52は、ブレーキ22の制御的な要因によって発生する遅れを考慮してブレーキトルクの演算を行うことができる。
【0047】
演算部52は、ブレーキトルクに影響を及ぼす外的要因の影響を考慮して、ブレーキトルクを演算してよい。この場合、演算部52は、外的要因を考慮して、精度よくブレーキトルクを演算することができる。
【0048】
本実施形態に係るクレーン100の制御装置50は、動作を制動するブレーキ22を備えるクレーン100を制御する制御装置50であって、ブレーキ22の制動時におけるブレーキトルクを演算する演算部52を備え、演算部52は、ブレーキが動作するときのブレーキ動作遅れの影響を考慮してブレーキトルクを演算する。
【0049】
このクレーンの制御装置50によれば、上述のクレーン100と同様な作用・効果を得ることができる。
【0050】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0051】
例えば、演算部52は、ブレーキ動作遅れを演算しなくともよく、記憶部などから読み出すことによって取得してもよい。
【0052】
また、
図4及び
図5で示したブレーキ動作遅れの演算方法は一例に過ぎず、演算部52は、ブレーキ動作遅れの演算方法を適宜変更してもよい。また、上述の
図3及び式(1)で示したブレーキトルクの演算方法は一例に過ぎず、演算部52は、ブレーキトルクの演算方法を適宜変更してよい。
【0053】
なお、クレーン100の種類は、
図1に示すようなコンテナクレーンに限定されず、天井クレーン、橋形クレーンなどの種類のクレーンが採用されてもよい。
【符号の説明】
【0054】
22…ブレーキ、50…制御装置、52…演算部、100…クレーン。