(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】アスファルト組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 95/00 20060101AFI20241203BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20241203BHJP
C08K 5/01 20060101ALI20241203BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20241203BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20241203BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20241203BHJP
E01C 7/26 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C08L95/00
C08L67/00
C08K5/01
C08L21/00
C08L53/02
C08L9/00
E01C7/26
(21)【出願番号】P 2020170973
(22)【出願日】2020-10-09
【審査請求日】2023-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2019187934
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏木 啓孝
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107033610(CN,A)
【文献】特開平08-302201(JP,A)
【文献】特開2019-019325(JP,A)
【文献】特開平05-295273(JP,A)
【文献】特開2004-018823(JP,A)
【文献】特開2012-021294(JP,A)
【文献】特許第0141032(JP,C1)
【文献】特開2019-019663(JP,A)
【文献】特開2019-172757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
E01C 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱した骨材と、アスファルトと、ポリエステルと、炭化水素溶剤とを混合する工程を含
み、
前記ポリエステルの軟化点が、90℃以上140℃以下であり、
前記混合する温度が、ポリエステルの軟化点よりも高い温度であり、
(i)加熱した骨材に、アスファルトを添加及び混合して混合物を得た後、ポリエステル及び炭化水素溶剤を添加して、該混合物とポリエステルと炭化水素溶剤とを混合する、
(ii)加熱した骨材に、アスファルト、ポリエステル及び炭化水素溶剤を同時に添加及び混合する、又は
(iii)加熱した骨材に、事前に加熱混合したアスファルトとポリエステルと炭化水素溶剤との混合物を添加及び混合する、アスファルト混合物の製造方法。
【請求項2】
前記加熱した骨材の温度が、130℃以上230℃以下であり、かつ、
前記混合する温度が、130℃以上220℃以下である、請求項1に記載のアスファルト混合物の製造方法。
【請求項3】
前記炭化水素溶剤が、炭素数8以上16以下の脂肪族炭化水素及び炭素数8以上16以下の芳香族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1
又は2に記載の
アスファルト混合物の製造方法。
【請求項4】
前記ポリエステルの
配合量が、前記アスファルト100質量部に対して0.5質量部以上30質量部以下である、請求項1
~3のいずれか1つに記載の
アスファルト混合物の製造方法。
【請求項5】
前記炭化水素溶剤の
配合量が、前記アスファルト100質量部に対して0.5質量部以上25質量部以下である、請求項1~
4のいずれか1つに記載の
アスファルト混合物の製造方法。
【請求項6】
アスファルトが熱可塑性エラストマーを含有する改質アスファルトである、請求項1~
5のいずれか1つに記載の
アスファルト混合物の製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性エラストマーが、スチレン/ブタジエンブロック共重合体、スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体、スチレン/ブタジエンランダム共重合体、スチレン/イソプレンブロック共重合体、スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体、及びスチレン/イソプレンランダム共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項
6に記載の
アスファルト混合物の製造方法。
【請求項8】
前記ポリエステルが、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物を含む、請求項1~
7のいずれか1つに記載の
アスファルト混合物の製造方法。
【請求項9】
前記炭化水素溶剤が、炭素数10以上12以下の直鎖状脂肪族炭化水素及び炭素数10以上12以下の環状脂肪族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~
8のいずれか1つに記載の
アスファルト混合物の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1つに記載のアスファルト混合物の製造方法によりアスファルト混合物を製造する工程、及び
前記アスファルト混合物を道路に施工してアスファルト舗装材層を形成する工程を含む、道路の舗装方法。
【請求項11】
アスファルト混合物を道路に施工してアスファルト舗装材層を形成する工程が、締固め施工を含み、アスファルト混合物の締固め温度が100℃以上200℃以下である、請求項10に記載の道路の舗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路の舗装に用いられるアスファルト組成物、アスファルト混合物及びその製造方法、並びに、舗装体及び道路の舗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車道や駐車場、貨物ヤード、歩道等の舗装には、敷設が比較的容易であり、舗装作業開始から交通開始までの時間が短くてすむことから、アスファルト混合物を用いるアスファルト舗装が行われている。
このアスファルト舗装は、骨材をアスファルトで結合したアスファルト混合物によって路面が形成されているので、舗装道路は良好な硬度や耐久性を有している。
しかしながら、アスファルト舗装面は、長期使用によって轍やひび割れが入るため、舗装の補修を行う必要が生じ、維持費用が増大するとともに、自動車の交通に大きな影響を与える結果となっていた。
【0003】
特許文献1には、高温での保管安定性に優れ、乾燥強度の高いアスファルト組成物として、アスファルトと、ポリエステル樹脂と、分散剤と、を含有するアスファルト組成物が開示されている。
特許文献2には、従来の再生アスファルト用添加剤と同等に劣化アスファルト成分の物性を回復させ、かつ常温で流動性の高い低コストの再生アスファルト用添加剤を提供することを目的とし、石油系炭化水素を熱分解してオレフィンを製造する際に副生される熱分解副生油40質量%~95質量%と、ゲル状または餅状ポリスチレンを100℃~220℃の沸点を有する芳香族炭化水素溶剤で溶解させて得られる液状ポリスチレン5質量%~60質量%とを混合して得られる、再生アスファルト用添加剤が開示されている。
特許文献3には、施工後の舗装面の耐久性に優れるアスファルト組成物として、アスファルト、熱可塑性エラストマー及びポリエステルを含有してなり、前記ポリエステルが、90℃以上140℃以下の軟化点、及び40℃以上80℃以下のガラス転移点を有し、前記ポリエステルの比率が、アスファルト100質量部に対し1質量部以上17質量部以下である、アスファルト組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-030996号公報
【文献】特開2008-095062号公報
【文献】特開2019-019325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、轍掘れの抑制と、アスファルト組成物の高温での保存安定性を同時に満足することは困難であった。例えば特許文献2及び3の技術では、轍掘れの抑制が可能であるが高温でのアスファルトの保存安定性に課題があった。特許文献1では分散剤の添加により保存安定性を向上させているものの、轍掘れの抑制にはまだ改善の余地があった。 本発明が解決しようとする課題は、保存安定性に優れ、かつ、施工後の舗装面の轍掘れを抑制することができるアスファルト組成物、アスファルト混合物及びその製造方法、並びに、舗装体及び道路の舗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の〔1〕~〔5〕に関する。
〔1〕 アスファルト、ポリエステル及び炭化水素溶剤を含有する、アスファルト組成物。
〔2〕 上記〔1〕に記載のアスファルト組成物と、骨材とを含む、アスファルト混合物。
〔3〕 上記〔2〕に記載のアスファルト混合物で舗装してなる、舗装体。
〔4〕 上記〔2〕に記載のアスファルト混合物を道路に施工してアスファルト舗装材層を形成する工程を含む、道路の舗装方法。
〔5〕 加熱した骨材と、アスファルトと、ポリエステルと、炭化水素溶剤とを混合する工程を含む、アスファルト混合物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、保存安定性に優れ、かつ、施工後の舗装面の轍掘れを抑制することができるアスファルト組成物、アスファルト混合物及びその製造方法、並びに、舗装体及び道路の舗装方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[アスファルト組成物]
本発明のアスファルト組成物は、アスファルト、ポリエステル及び炭化水素溶剤を含有する。本発明のアスファルト組成物によれば、保存安定性に優れ、かつ、施工後の舗装面の轍掘れを従来技術よりも大幅に抑制することができるアスファルト組成物が得られる。更にこの技術を応用して、アスファルト混合物及びその製造方法、並びに、舗装体及び道路の舗装方法を提供することができる。
【0009】
本発明の効果が得られる詳細な機構は不明であるが、一部は以下のように考えられる。
ポリエステルはアスファルテンと相互作用して高強度のポリエステル-アスファルテン複合体を形成し、その結果として、施工後の舗装面の轍掘れを抑制することができると推定される。
一方、アスファルトにおいてアスファルテンはレジンに囲まれているため、レジンがポリエステルとアスファルテンとの相互作用を阻害する。ここで、ドデカン等の炭化水素溶剤は、レジンとの親和性が高く、アスファルテンとの親和性はやや低い。そのため、炭化水素溶剤を配合することでアスファルテンからレジンを脱着させるのを促進させ、その結果として、アスファルテンとポリエステルとの相互作用を更に促進し、その結果として、施工後の舗装面の轍掘れを更に抑制することができると推定される。
また、炭化水素溶剤を配合することで、ポリエステルがアスファルト成分となじみやすくなり、ポリエステル粒子がアスファルト中に細かく分散し、ポリエステルの凝集が抑制され、その結果として、アスファルト組成物の保存安定性が向上すると推定される。
【0010】
なお、「轍掘れ」とは、夏季等の高温化において、舗装面を形成するアスファルト層が流動し、道路走行部分に縦断方向に連続して生じる凹凸である。轍掘れは、アスファルト舗装のバインダであるアスファルト組成物の塑性流動抵抗性と相関し、SUPERPAVEのバインダ規格(社団法人日本道路協会、舗装試験法便覧別冊、1996年)によれば、アスファルト組成物(バインダ)のG*/sinδで評価することが可能である。ここで、G*は複素弾性率を表し、G*及びsinδは、レオメーターにて測定される。
G*/sinδの値が大きいほど、塑性流動抵抗性が大きいことから、該アスファルト組成物により、耐轍掘れ性に優れるアスファルト舗装が提供できると評価される。
【0011】
本明細書における各種用語の定義等を以下に示す。
「バインダ混合物」とは、アスファルトと熱可塑性エラストマーとを含む混合物を意味し、例えば、後述の熱可塑性エラストマーで改質されたアスファルト(以下、「改質アスファルト」ともいう)を含む概念である。
ポリエステル中、「アルコール成分由来の構成単位」とは、アルコール成分の水酸基から水素原子を除いた構造を意味し、「カルボン酸成分由来の構成単位」とは、カルボン酸成分のカルボキシル基から水酸基を除いた構造を意味する。
「カルボン酸化合物」とは、そのカルボン酸のみならず、反応中に分解して酸を生成する無水物、及びカルボン酸のアルキルエステル(例えば、アルキル基の炭素数1以上3以下)も含む概念である。カルボン酸化合物がカルボン酸のアルキルエステルである場合、カルボン酸化合物の炭素数には、エステルのアルコール残基であるアルキル基の炭素数を算入しない。
【0012】
<アスファルト>
本発明のアスファルト組成物は、アスファルトを含有する。
アスファルトとしては、種々のアスファルトが使用できる。例えば舗装用石油アスファルトであるストレートアスファルトの他、改質アスファルトが挙げられる。改質アスファルトとしては、ブローンアスファルト;熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂等の高分子材料で改質したアスファルト等が挙げられる。ストレートアスファルトとは、原油を常圧蒸留装置、減圧蒸留装置等にかけて得られる残留瀝青物質のことである。また、ブローンアスファルトとは、ストレートアスファルトと重質油との混合物を加熱し、その後空気を吹き込んで酸化させることによって得られるアスファルトを意味する。耐轍掘れ性の観点からは改質アスファルトが好ましく、汎用性の観点からはストレートアスファルトが好ましい。
【0013】
(熱可塑性エラストマー)
アスファルト組成物は、耐轍掘れ性の観点から、熱可塑性エラストマーを含有することが好ましい。アスファルト及び熱可塑性エラストマーは、これらの混合物であるバインダ混合物として使用されることが好ましい。バインダ混合物としては、熱可塑性エラストマーで改質されたストレートアスファルト(改質アスファルト)等が挙げられる。
【0014】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン/ブタジエンブロック共重合体(以下、単に「SB」ともいう)、スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体(以下、単に「SBS」ともいう)、スチレン/ブタジエンランダム共重合体(以下、単に「SBR」ともいう)、スチレン/イソプレンブロック共重合体(以下、単に「SI」ともいう)、スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体(以下、単に「SIS」ともいう)、スチレン/イソプレンランダム共重合体(以下、単に「SIR」ともいう)、エチレン/酢酸ビニル共重合体、及びエチレン/アクリル酸エステル共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
エチレン/アクリル酸エステル共重合体の市販品としては、例えば、「Elvaroy」(デュポン社製)が挙げられる。
【0015】
これらの熱可塑性エラストマーの中でも、耐轍掘れ性を向上させる観点から、スチレン/ブタジエンブロック共重合体、スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体、スチレン/ブタジエンランダム共重合体、スチレン/イソプレンブロック共重合体、スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体、及びスチレン/イソプレンランダム共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、スチレン/ブタジエンランダム共重合体及びスチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0016】
アスファルト組成物中の熱可塑性エラストマーの含有量は、耐轍掘れ性を向上させる観点から、アスファルト組成物100質量%中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0017】
アスファルト組成物において、熱可塑性エラストマーの含有量は、耐轍掘れ性を向上させる観点から、アスファルト100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0018】
本発明のアスファルト組成物中、アスファルトの含有量は、耐轍掘れ性の観点とアスファルト性能を発揮する観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、ポリエステル及び炭化水素溶剤を含有し、轍掘れを改善する観点から、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下である。
【0019】
<ポリエステル>
本発明のアスファルト組成物は、ポリエステルを含有する。ポリエステルは、施工後の舗装面の耐轍掘れ性を向上させる観点から、好ましくは、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物を60モル%以上含むアルコール成分由来の構成単位とカルボン酸成分由来の構成単位とを含む。
【0020】
(アルコール成分)
アルコール成分としては、例えばジオール、3価以上の多価アルコール等が挙げられる。ジオールとしては、脂肪族ジオール、芳香族ジオールが挙げられる。これらのアルコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
アルコール成分は、優れた耐轍掘れ性を得る観点から、好ましくはビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物を含み、より好ましくは式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物を含む。
【化1】
〔式中、OR
1及びR
1Oはアルキレンオキシドであり、R
1は炭素数2又は3のアルキレン基、x及びyはアルキレンオキシドの平均付加モル数を示す正の数を示し、xとyの和は好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上であり、そして、好ましくは16以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは4以下である。〕
【0021】
式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物としては、例えば、ビスフェノールA〔2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン〕のプロピレンオキシド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物が挙げられる。これらのビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物の含有量は、アスファルトへの溶融分散性を高め、かつ優れた耐轍掘れ性を得る観点から、アルコール成分100モル%中、好ましくは60モル%以上、より好ましくは75モル%以上、更に好ましくは90モル%以上であり、そして、100モル%以下である。
【0023】
脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-ブテンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオールが挙げられる。
3価以上の多価アルコールは、例えば3価アルコールである。3価以上の多価アルコールとしては、例えばグリセリンが挙げられる。
【0024】
(カルボン酸成分)
カルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸化合物、芳香族ジカルボン酸化合物、3価以上6価以下の多価カルボン酸化合物が挙げられる。これらのカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
脂肪族ジカルボン酸化合物の主鎖の炭素数は、耐轍掘れ性を向上させる観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは8以下である。
脂肪族ジカルボン酸化合物としては、例えば、フマル酸、マレイン酸、シュウ酸、マロン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、炭素数1以上20以下のアルキル基若しくは炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸が挙げられる。置換されたコハク酸としては、例えば、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸が挙げられる。以上の脂肪族ジカルボン酸化合物の中でも、フマル酸、マレイン酸及びアジピン酸からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、アジピン酸がより好ましい。
【0026】
芳香族ジカルボン酸化合物としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。以上の芳香族ジカルボン酸化合物の中でも、耐轍掘れ性を得る観点から、イソフタル酸及びテレフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
【0027】
3価以上6価以下の多価カルボン酸化合物は、好ましくは3価カルボン酸である。3価以上6価以下の多価カルボン酸化合物としては、例えば、トリメリット酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸が挙げられる。なお、多価カルボン酸化合物を含む場合、物性調整の観点から、アルコール成分には1価のアルコールが適宜含有されていてもよく、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が適宜含有されていてもよい。
【0028】
脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、ポリエステルの可撓性を上げて、耐轍掘れ性を向上させる観点から、カルボン酸成分100モル%中、好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以上、更に好ましくは10モル%以上であり、そして、好ましくは40モル%以下、より好ましくは25モル%以下である。
【0029】
芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、アスファルトへの溶融分散性を高め、かつ優れた耐轍掘れ性を得る観点から、カルボン酸成分100モル%中、好ましくは60モル%以上、より好ましくは75モル%以上であり、そして、好ましくは99モル%以下、より好ましくは95モル%以下、更に好ましくは90モル%以下である。
【0030】
(アルコール成分由来の構成単位に対するカルボン酸成分由来の構成単位のモル比)
アルコール成分由来の構成単位に対するカルボン酸成分由来の構成単位のモル比〔カルボン酸成分/アルコール成分〕は、酸価の調整の観点から、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上であり、そして、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.3以下、更に好ましくは1.1以下である。
【0031】
本発明のポリエステルは、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステルであってもよい。変性されたポリエステルは、具体的には、特開平11-133668号公報、特開平10-239903号公報、特開平8-20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステルが挙げられる。好ましい変性されたポリエステルは、ポリエステルをポリイソシアネート化合物でウレタン伸長したウレタン変性ポリエステルが挙げられる。
【0032】
(ポリエステルの物性)
ポリエステルの軟化点は、耐轍掘れ性を得る観点から、好ましくは90℃以上、より好ましくは95℃以上、更に好ましくは100℃以上であり、そして、好ましくは140℃以下、より好ましくは130℃以下、更に好ましくは125℃以下、更に好ましくは120℃以下、更に好ましくは115℃以下である。
【0033】
ポリエステルの酸価は、骨材への吸着を促進し、耐轍掘れ性を向上させる観点から、好ましくは2mgKOH/g以上、より好ましくは3mgKOH/g以上、更に好ましくは4mgKOH/g以上であり、そして、舗装面の耐水性を高める観点から、好ましくは30mgKOH/g以下、より好ましくは20mgKOH/g以下、更に好ましくは18mgKOH/g以下である。
【0034】
ポリエステルの水酸基価は、耐轍掘れ性を向上させる観点から、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは2mgKOH/g以上、更に好ましくは5mgKOH/g以上、更に好ましくは10mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは70mgKOH/g以下、より好ましくは50mgKOH/g以下、更に好ましくは30mgKOH/g以下、更に好ましくは25mgKOH/g以下である。
【0035】
ポリエステルのガラス転移点は、耐轍掘れ性を得る観点及び高温における耐流動性を向上させる観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは75℃以下、更に好ましくは70℃以下である。
【0036】
軟化点、酸価、水酸基価及びガラス転移点は、実施例に記載の方法により測定することができる。なお、軟化点、酸価、水酸基価及びガラス転移点は、原料モノマー組成、分子量、触媒量又は反応条件により調整することができる。
【0037】
(Sn-C結合を有していない錫(II)化合物)
本発明のポリエステルの1つの態様は、ジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)等のSn-C結合を有していない錫(II)化合物を含む。Sn-C結合を有していない錫(II)化合物は、ポリエステル製造における重縮合反応に由来する。Sn-C結合を有していない錫(II)化合物の含有量は、上述したアルコール成分及びカルボン酸成分の重縮合物100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは0.6質量部以下である。
【0038】
(ポリエステルの製造方法)
ポリエステルの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、上述したアルコール成分及びカルボン酸成分を重縮合することにより製造することができる。
重縮合反応の温度は、特に限定されるものではないが、反応性の観点から、好ましくは160℃以上260℃以下である。
【0039】
重縮合反応には、ジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)等のSn-C結合を有していない錫(II)化合物をエステル化触媒として、耐轍掘れ性の観点から、アルコール成分とカルボン酸成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは0.6質量部以下、用いてもよい。
重縮合反応には、エステル化触媒に加えて、耐轍掘れ性の観点から、没食子酸等のピロガロール化合物を助触媒として、アルコール成分とカルボン酸成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上、更に好ましくは0.01質量部以上、そして、好ましくは0.15質量部以下、より好ましくは0.10質量部以下、更に好ましくは0.05質量部以下、用いてもよい。
【0040】
(ポリエステルの含有量)
本発明のアスファルト組成物において、ポリエステルの含有量は、耐轍掘れ性を向上させる観点から、アスファルト100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは3質量部以上であり、そして、保存安定性の観点から、好ましくは30質量部以下、より好ましくは25質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。
【0041】
<炭化水素溶剤>
本発明のアスファルト組成物は、炭化水素溶剤を含有する。炭化水素溶剤は、アスファルト中のアスファルテンに吸着しているレジンを脱着させ、ポリエステルとアスファルテンとの相互作用の機会を増やすことで耐轍掘れ性をより向上させるとともに、ポリエステルをアスファルト成分となじみやすくさせてポリエステルをアスファルト中に細かく分散させることで、アスファルト組成物の保存安定性を向上させると考えられる。
【0042】
上記の特許文献1では、分散剤として、アスファルトに溶解し、かつポリエステルとの親和性があるものとして、高分子分散剤、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルカノールアミン等の界面活性剤等が使用されている。これらの分散剤を使用した場合、ポリエステルをアスファルト中に分散させて、アスファルト組成物の保存安定性を向上させることはできる。しかし、これらの分散剤は耐轍掘れ性への影響が低く、ポリエステルのみが耐轍掘れ性に寄与する。
これに対し、ドデカン等の炭化水素溶剤は、上述のとおり、レジンとの親和性が高く、アスファルテンとの親和性はやや低い。そのため、炭化水素溶剤を配合することでアスファルテンからレジンを脱着させるのを促進させ、その結果として、アスファルテンとポリエステルとの相互作用を更に促進し、その結果として、ポリエステルと炭化水素溶剤との相乗効果によって施工後の舗装面の轍掘れを更に抑制することができる。
【0043】
本発明で使用される炭化水素溶剤としては、好ましくは炭素数8以上16以下の脂肪族炭化水素及び炭素数8以上16以下の芳香族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは炭素数8以上16以下の直鎖状脂肪族炭化水素、炭素数8以上16以下の環状脂肪族炭化水素及び炭素数8以上16以下の芳香族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくは炭素数10以上12以下の直鎖状脂肪族炭化水素及び炭素数10以上12以下の環状脂肪族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0044】
炭化水素溶剤の沸点はポリエステルの軟化点よりも高温であることが望ましい。アスファルト混合物の製造時にはポリエステルの軟化点以上の温度で撹拌混合するが、炭化水素溶剤の沸点がポリエステルの軟化点より低いと撹拌混合中に炭化水素溶剤が揮発してしまう。そのため、炭化水素溶剤の炭素数は、ポリエステルの軟化点より高い沸点であることから、好ましくは8以上、より好ましくは10以上である。
一方、高沸点の炭化水素溶剤は加熱してもアスファルトと混合しにくい。そのため、炭化水素溶剤の炭素数は、アスファルトとの親和性の観点から、好ましくは16以下、より好ましくは12以下である。
炭化水素溶剤の沸点は、ポリエステルの軟化点以上であることが好ましく、そして、300℃以下であることが好ましい。
【0045】
炭化水素溶剤の具体例としては、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン等の直鎖状脂肪族炭化水素;スクワレン、スクワラン等の分岐鎖脂肪族炭化水素;エチルシクロヘキサン、デカリン、メチルデカリン等の環状脂肪族炭化水素;トルエン、テトラリン、1-メチルナフタレン等の芳香族炭化水素が挙げられる。また、市販されている炭化水素混合物としては、ケロシン、軽油等が挙げられる。
【0046】
(炭化水素溶剤の含有量)
本発明のアスファルト組成物において、炭化水素溶剤の含有量は、耐轍掘れ性及び保存安定性の観点から、アスファルト100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは5質量部以上、更に好ましくは8質量部以上であり、そして、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは15質量部以下、更に好ましくは12質量部以下である。
【0047】
[アスファルト組成物の製造方法]
本発明のアスファルト組成物を製造する方法は、アスファルトと、ポリエステルと、炭化水素溶剤とを混合する工程を有することが好ましい。
【0048】
アスファルト組成物は、アスファルトを加熱溶融し、ポリエステル及び炭化水素溶剤を添加し、通常用いられている混合機にて、各成分が均一に分散するまで撹拌混合することにより得られる。通常用いられている混合機としては、ホモミキサー、ディゾルバー、パドルミキサー、リボンミキサー、スクリューミキサー、プラネタリーミキサー、真空逆流ミキサー、ロールミル、二軸押出機等が挙げられる。
【0049】
上記アスファルトとポリエステルと炭化水素溶剤との混合温度は、アスファルト中にポリエステル及び炭化水素溶剤を均一に分散させ、耐轍掘れ性及び保存安定性の観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは130℃以上、更に好ましくは160℃以上、更に好ましくは170℃以上であり、そして、好ましくは230℃以下、より好ましくは210℃以下、更に好ましくは200℃以下、更に好ましくは190℃以下である。
【0050】
また、アスファルトとポリエステルと炭化水素溶剤との混合時間は、効率的にアスファルト中にポリエステル及び炭化水素溶剤を均一に分散させ、耐轍掘れ性及び保存安定性の観点から、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.5時間以上、更に好ましくは1.0時間以上、更に好ましくは1.5時間以上であり、そして、好ましくは10時間以下、より好ましくは7時間以下、更に好ましくは5時間以下、更に好ましくは3時間以下である。
なお、アスファルトに対するポリエステル及び炭化水素溶剤の好ましい含有量は、上述したとおりである。
【0051】
[アスファルト混合物]
本発明のアスファルト組成物は、バインダ組成物であり、該アスファルト組成物に、骨材を添加して、アスファルト混合物とした後に、舗装に使用される。すなわち、本発明のアスファルト組成物は、舗装用として好適であり、特に道路舗装用として好適である。
本発明の実施形態に係るアスファルト混合物は、前述のアスファルト組成物、及び骨材を含有する。つまり、アスファルト混合物は、アスファルト、ポリエステル、炭化水素溶剤及び骨材を含有し、好ましくはアスファルト、熱可塑性エラストマー、ポリエステル、炭化水素溶剤及び骨材を含有する。
【0052】
骨材としては、例えば、砕石、玉石、砂利、砂、再生骨材、セラミックス等を任意に選択して用いることができる。
骨材としては、粒径2.36mm以上の粗骨材、粒径2.36mm未満の細骨材のいずれも使用することができる。粗骨材としては、例えば、粒径範囲2.36mm以上4.75mm未満の7号砕石、粒径範囲4.75mm以上13.2mm未満の6号砕石、粒径範囲13.2mm以上19mm未満の5号砕石、粒径範囲19mm以上31.5mm未満の4号砕石が挙げられる。
細骨材は、好ましくは粒径0.075mm以上2.36mm未満の細骨材である。細骨材としては、例えば、川砂、丘砂、山砂、海砂、砕砂、細砂、スクリーニングス、砕石ダスト、シリカサンド、人工砂、ガラスカレット、鋳物砂、再生骨材破砕砂が挙げられる。
上記の粒径はJIS A5001:1995に規定される値である。
これらの中でも、粗骨材と細骨材との組み合わせが好ましい。
【0053】
なお、細骨材には、粒径0.075mm未満のフィラー(例えば、砂)が含まれていてもよい。フィラーとしては、砂、フライアッシュ、炭酸カルシウム、消石灰等が挙げられる。このうち、耐轍掘れ性の観点から、炭酸カルシウムが好ましい。
【0054】
フィラーの平均粒径は、耐轍掘れ性の観点から、好ましくは0.001mm以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは0.05mm以下、より好ましくは0.03mm以下、更に好ましくは0.02mm以下である。フィラーの平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定することができる。ここで、平均粒径とは、体積累積50%の平均粒径を意味する。
【0055】
〔フィラー平均粒径の測定方法〕
フィラーの平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置「LA-950」(株式会社堀場製作所製)を用い、以下に示す条件で測定した値である。
・測定方法:フロー法
・分散媒:エタノール
・試料調製:2mg/100mL
・分散方法:撹拌、内蔵超音波1分
【0056】
粗骨材と細骨材との質量比率は、耐轍掘れ性の観点から、好ましくは10/90以上、より好ましくは20/80以上、更に好ましくは30/70以上であり、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは80/20以下、更に好ましくは70/30以下である。
骨材の含有量は、アスファルト組成物100質量部に対して、好ましくは1,000質量部以上、より好ましくは1,200質量部以上、更に好ましくは1,500質量部以上であり、そして、好ましくは3,000質量部以下、より好ましくは2,500質量部以下、更に好ましくは2,000質量部以下である。
【0057】
なお、従来の骨材とアスファルトを含むアスファルト混合物におけるアスファルトの配合割合については、通常、社団法人日本道路協会発行の「舗装設計施工指針」に記載されている「アスファルト組成物の配合設計」から求められる最適アスファルト量に準じて決定してもよい。
本発明においては、上記の最適アスファルト量が、アスファルト、ポリエステル及び炭化水素溶剤の合計量に相当する。したがって、通常、前記最適アスファルト量を、アスファルト、ポリエステル及び炭化水素溶剤の合計配合量とすることが好ましい。
ただし、「舗装設計施工指針」に記載の方法に限定する必要はなく、他の方法によって決定してもよい。
【0058】
[アスファルト混合物の製造方法]
本発明のアスファルト混合物の製造方法は、加熱した骨材と、アスファルトと、ポリエステルと、炭化水素溶剤とを混合する工程を含み、好ましくは、加熱した骨材と、アスファルトと、熱可塑性エラストマーと、ポリエステルと、炭化水素溶剤とを混合する工程を含む。
【0059】
アスファルト混合物の具体的な製造方法としては、従来のプラントミックス方式、プレミックス方式等といわれるアスファルト混合物の製造方法が挙げられる。いずれも加熱した骨材にアスファルト(及び必要に応じて熱可塑性エラストマー)を添加する方法である。添加方法は、例えば、アスファルト(及び必要に応じて熱可塑性エラストマー)、ポリエステル及び炭化水素溶剤を予め溶解させたプレミックス方式、又はアスファルトに熱可塑性エラストマーを溶解させた改質アスファルトを骨材に添加し、その後にポリエステル及び炭化水素溶剤を投入するプラントミックス法が挙げられる。これらの中でも、耐轍掘れ性の観点から、プレミックス方式が好ましい。
より具体的には、アスファルト混合物の製造方法は、当該混合する工程において、好ましくは、
(i)加熱した骨材に、アスファルト(及び必要に応じて熱可塑性エラストマー)を添加及び混合して混合物を得た後、ポリエステル及び炭化水素溶剤を添加して、該混合物とポリエステルと炭化水素溶剤とを混合する、
(ii)加熱した骨材に、アスファルト(及び必要に応じて熱可塑性エラストマー)、ポリエステル及び炭化水素溶剤を同時に添加及び混合する、又は
(iii)加熱した骨材に、事前に加熱混合したアスファルト(及び必要に応じて熱可塑性エラストマー)とポリエステルと炭化水素溶剤との混合物を添加及び混合する。
これらの中でも、耐轍掘れ性の観点から、(iii)の方法が好ましい。
【0060】
(iii)の方法におけるアスファルトとポリエステルと炭化水素溶剤とを事前に混合するときの混合温度は、耐久性の観点から、ポリエステルの軟化点よりも高い温度が好ましく、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上、更に好ましくは170℃以上、更に好ましくは180℃以上であり、そして、アスファルトの熱劣化を防止する観点及び炭化水素溶剤が揮発するのを抑制する観点から、好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは190℃以下である。混合時間は、例えば、10分以上、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上、更に好ましくは2時間以上である。時間の上限は、特に限定されないが例えば約5時間程度である。
【0061】
(i)~(iii)の方法における加熱した骨材の温度は、耐久性の観点から、ポリエステルの軟化点よりも高い温度が好ましく、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上、更に好ましくは170℃以上、更に好ましくは180℃以上であり、アスファルトの熱劣化を防止する観点から、好ましくは230℃以下、より好ましくは210℃以下、更に好ましくは200℃以下である。
【0062】
混合する工程において、混合温度は、ポリエステルの軟化点よりも高い温度が好ましく、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上、更に好ましくは170℃以上、更に好ましくは180℃以上であり、アスファルトの熱劣化を防止する観点及び炭化水素溶剤が揮発するのを抑制する観点から、好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは190℃以下である。混合する工程における混合時間は、例えば、30秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは2分以上であり、時間の上限は、特に限定されないが例えば約10分程度である。
【0063】
アスファルト混合物の製造方法は、耐久性をより向上させる観点から、混合する工程後、得られた混合物をポリエステルの軟化点よりも高い温度以上で保持する工程を有することが好ましい。
保持する工程においては、混合物を更に混合してもよいが、前述の温度以上を保持していればよい。保持温度は、ポリエステルの軟化点よりも高い温度が好ましく、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上、更に好ましくは170℃以上、更に好ましくは180℃以上であり、そして、アスファルト組成物の熱劣化を防止する観点及び炭化水素溶剤が揮発するのを抑制する観点から、好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは190℃以下である。保持する工程における保持時間は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上、更に好ましくは1.5時間以上であり、そして、時間の上限は、特に限定されないが例えば5時間程度である。
【0064】
[道路舗装方法、舗装体]
本発明のアスファルト組成物は、道路舗装用として好適であり、上述したように、アスファルト組成物に骨材を添加したアスファルト混合物が、道路舗装に使用される。本発明の道路舗装方法は、好ましくは、本発明のアスファルト混合物を道路等に施工し、アスファルト舗装材層を形成する工程を含む。本発明のアスファルト混合物で舗装された舗装体は、骨材とアスファルトとの付着力が強く、轍掘れを抑制することができる。
【0065】
なお、道路舗装方法において、アスファルト混合物は、通常のアスファルト混合物と同様の施工機械編成で、同様の方法によって締固め施工すればよい。加熱アスファルト混合物として使用する場合のアスファルト混合物の締固め温度は、耐轍掘れ性の観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、更に好ましくは130℃以上であり、そして、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは170℃以下である。
【実施例】
【0066】
各種物性については、以下の方法により、測定及び評価を行った。
なお、以下の実施例及び比較例において、特に断りのない限り、部及び%は質量基準である。
【0067】
(1)ポリエステルの酸価及び水酸基価
ポリエステルの酸価及び水酸基価は、JIS K0070:1992の方法に基づき測定した。ただし、測定溶媒のみJIS K0070:1992に規定のエタノールとエーテルとの混合溶媒から、アセトンとトルエンとの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0068】
(2)ポリエステルの軟化点
フローテスター「CFT-500D」(株式会社島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
【0069】
(3)ポリエステルのガラス転移点
示差走査熱量計「Q-100」(ティー エイ インスツルメント ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次に昇温速度10℃/分で150℃まで昇温しながら熱量を測定した。吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移点とした。
【0070】
製造例1
(ポリエステル樹脂(A1)の製造)
表1に示すポリエステルのアルコール成分と、テレフタル酸を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)20g及び没食子酸2gを添加した。マントルヒーター中で3時間かけて235℃まで昇温を行い、235℃到達後7時間保持した後、8.0kPaにて1時間減圧反応を行った。その後、180℃まで冷却後、残りの酸を投入し、210℃まで2時間かけて昇温後210℃で1時間保持し、8.0kPaにて減圧反応を行った後、表1に示す軟化点に達するまで反応を行い、ポリエステル樹脂(A1)を得た。
【0071】
【0072】
実施例1
予め180℃に加熱した改質アスファルトA(ポリマー改質アスファルト、Ergon Asphalt and Emulsions社製)100部に対し、製造例1で調製したポリエステル樹脂A1を3部、デカリン(デカヒドロナフタレン、シス/トランス混合物、富士フイルム和光純薬株式会社製)を10部投入し、ホモミキサーで回転数3,000r/min、内温180℃の条件下、2時間撹拌し、アスファルト組成物を得た。
【0073】
実施例2~4
実施例1において、デカリンの配合量を表2に記載の量に変更したこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト組成物を得た。
【0074】
実施例5~8
実施例1において、デカリンを表2に記載の添加剤に変更したこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト組成物を得た。
【0075】
実施例9
実施例1において、改質アスファルトAを改質アスファルトB(改質II型アスファルト、東亜道路工業株式会社製)に変更し、ポリエステル樹脂の配合量を20部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト組成物を得た。
【0076】
比較例1
改質アスファルトAを用いた。
【0077】
比較例2
実施例1において、ポリエステル樹脂を配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト組成物を得た。
【0078】
比較例3
実施例1において、デカリンを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト組成物を得た。
【0079】
比較例4
実施例1において、デカリン10部を高分子分散剤「ソルスパース11200」(ルブリゾール社製)0.5部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト組成物を得た。
【0080】
[評価]
〔アスファルト組成物の保存安定性〕
アスファルト組成物50mLをサンプル瓶(内径3.5cm×高さ7.8cm)に注ぎ込み、180℃オーブンにて12時間保管した後、アスファルト組成物中のポリエステルの沈殿の高さを測定した。アスファルト中のポリエステルが仮に全量沈殿したときの沈殿高さに対して何%の高さまで沈殿が生じたかを計算し、保存安定性の指標とした。数値が低いほど、沈殿量が少なく保存安定性に優れることを示す。なお、表2中、「PES」はポリエステルを意味する。
【0081】
〔施工後の舗装面の耐轍掘れ性〕
180℃に加熱したアスファルトミキサー(20L容量、株式会社岩田工業所製「AI-110-B」)に、180℃に加熱した骨材11kgを投入し60秒混合した後、事前に180℃で加熱混合処理したアスファルト621g(ポリエステル3部)、あるいは723g(ポリエステル20部)、あるいは単純に加熱溶融したアスファルト603g(ポリエステル0部)を投入し120秒混合した。混合したアスファルト混合物を2時間オーブン(180℃)で養生した後、金属型枠(300×300×50mm)に充填し、空圧式ローラーコンパクター(株式会社岩田工業所製)を使用し、線圧29.4kN/mの荷重にて転圧してホイールトラッキング供試体を作成した。作成した供試体を1晩室温で冷却した後、水浸式ホイールトラッキング試験機(株式会社岩田工業所製「AI-1100-S」)を用いて、わだち量測定試験を行った。測定条件は、測定温度60℃,走行速度15±1往復/分,輪荷重100kgf,走行回数2,500往復である。
(骨材配合)
家島産砕石(小) 52質量%
家島産砕砂 10質量%
揖斐川産川砂 22質量%
甲賀バラス砕砂 10質量%
清水工業(株)製ネオフロー 5質量%
【0082】
【0083】
アスファルトにデカリンを配合した比較例2、アスファルトにポリエステルを配合した比較例3及びアスファルトにポリエステル及び高分子分散剤を配合した比較例4では、ポリエステル及び炭化水素溶剤を含まない比較例1のアスファルトに比べて、施工後の舗装面の轍掘れが抑制されていた。これに対し、アスファルトにポリエステル及び炭化水素溶剤を配合した実施例1~9では、比較例2~4に比べて顕著に轍掘れを抑制することができた。
また、比較例3及び4の対比から、高分子分散剤を配合した場合には、ポリエステルをアスファルト中に分散させて、アスファルト組成物の保存安定性を向上させることができるものの、高分子分散剤による耐轍掘れ性の改善効果は無いことが分かる。これに対し、アスファルトにポリエステル及び炭化水素溶剤を配合した実施例1~9では、アスファルト組成物の保存安定性を向上させるだけでなく、ポリエステルと炭化水素溶剤との相乗効果によって施工後の舗装面の轍掘れを更に抑制することができた。
特に、実施例の中でも、炭素数10以上12以下の炭化水素溶剤を配合した実施例1、5及び8では、より顕著に轍掘れを抑制することができ、かつ、アスファルト組成物の保存安定性も顕著に優れていた。