(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】太陽電池
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0216 20140101AFI20241203BHJP
H01L 31/0747 20120101ALI20241203BHJP
【FI】
H01L31/04 240
H01L31/06 455
(21)【出願番号】P 2020172629
(22)【出願日】2020-10-13
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】和田 英敏
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-155710(JP,A)
【文献】国際公開第2020/195324(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0042945(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105118870(CN,A)
【文献】国際公開第2017/110456(WO,A1)
【文献】特開2000-150935(JP,A)
【文献】特開平11-284214(JP,A)
【文献】特開2001-274431(JP,A)
【文献】特開2003-258279(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0301581(US,A1)
【文献】特開2017-226924(JP,A)
【文献】特許第4496401(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02-31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶シリコン基板と、前記結晶シリコン基板の一方主面側と反対側の他方主面側の一部である第1領域に順に形成された第1真性シリコン系薄膜および第1導電型シリコン系薄膜と、前記結晶シリコン基板の前記他方主面側の他の一部である第2領域に順に形成された第2真性シリコン系薄膜および第2導電型シリコン系薄膜と、前記結晶シリコン基板の前記一方主面側に形成された第3真性シリコン系薄膜と、前記第3真性シリコン系薄膜の上に形成されたシリコン系化合物薄膜とを備えるバックコンタクト型の結晶シリコン系の太陽電池の製造方法であって、
前記第3真性シリコン系薄膜を形成する工程では、プラズマCVD法を用いて、チャンバ内に複数の前記結晶シリコン基板を導入し、前記結晶シリコン基板の側から順に第一真性薄膜と第二真性薄膜とを形成し、
前記第一真性薄膜を形成する工程では、
前記結晶シリコン基板の前記一方主面上に、前記第一真性薄膜を製膜し、
前記第一真性薄膜の表面を水素プラズマに暴露することにより、水素プラズマエッチングを行い、前記第一真性薄膜の表面に境界真性薄膜を形成し、
前記第一真性薄膜の膜厚は、前記チャンバ内の端から中央に向けて次第に薄くなり、
前記第二真性薄膜を形成する工程では、
前記第一真性薄膜の前記境界真性薄膜上に前記第二真性薄膜を、前記第一真性薄膜よりも高水素希釈で製膜することにより、前記第二真性薄膜は、1.95eV以上の光学バンドギャップを有し、波長550nmの光に対して3.3以上3.7以下の屈折率を有
し、
前記第二真性薄膜の膜厚は、前記チャンバ内の端から中央に向けて次第に厚くなる、
太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記第3真性シリコン系薄膜を形成する工程は、p型の前記第1導電型シリコン系薄膜の製膜後、同一チャンバにて行われることにより、
前記第3真性シリコン系薄膜における前記第一真性薄膜または前記第二真性薄膜は、1×10
15/cm
3以上1×10
16/cm
3未満のp型ドーパントを含有した、実質的に真性な薄膜である、
請求項
1に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記p型ドーパントは、ホウ素を含む、請求項2に記載の太陽電池
の製造方法。
【請求項4】
前記第二真性薄膜は、波長550nmの光に対して、実部3.3以上3.7以下および虚部0.1以下の複素屈折率を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の太陽電池
の製造方法。
【請求項5】
前記シリコン系化合物薄膜は、炭素、窒素または酸素のうちの少なくとも一種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の太陽電池
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックコンタクト型の太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、バックコンタクト型の太陽電池が開示されている。このようなバックコンタクト型の太陽電池は、光電変換膜として機能する結晶シリコン基板と、結晶シリコン基板の裏面側の一部に順に製膜された第1真性シリコン系薄膜、第1導電型シリコン系薄膜および第1電極膜と、結晶シリコン基板の裏面側の他の一部に順に製膜された第2真性シリコン系薄膜、第2導電型シリコン系薄膜および第2電極膜とを備える。また、この太陽電池は、結晶シリコン基板の受光面側に順に製膜された第3真性シリコン系薄膜およびシリコン系化合物薄膜を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
結晶シリコン基板の受光面側の第3真性シリコン系薄膜の形成方法としては、CVD(Chemical Vapor Deposition)法が知られている。CVD法では、例えば基板トレイを用いて複数の結晶シリコン基板に同時に、シリコン系薄膜を製膜する。このような製膜方法では、製膜プロセス中のパワーのかかり方、ガスの流れ方などに起因して、複数の結晶シリコン基板においてシリコン系薄膜の膜厚分布(膜厚の不均一)が生じることがある。
【0005】
複数の結晶シリコン基板において第3真性シリコン系薄膜の膜厚が異なると、これらの結晶シリコン基板を用いた太陽電池の受光面側の見た目の色が異なる。複数の太陽電池1を並べて設置する場合、見た目の色が異なると、外観(意匠性)が損なわれてしまう。
【0006】
本発明は、受光面側の外観(意匠性)を向上できる太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る太陽電池は、結晶シリコン基板と、前記結晶シリコン基板の一方主面側と反対側の他方主面側の一部である第1領域に順に形成された第1真性シリコン系薄膜および第1導電型シリコン系薄膜と、前記結晶シリコン基板の前記他方主面側の他の一部である第2領域に順に形成された第2真性シリコン系薄膜および第2導電型シリコン系薄膜とを備えるバックコンタクト型の結晶シリコン系の太陽電池であって、前記結晶シリコン基板の前記一方主面側に形成された第3真性シリコン系薄膜と、前記第3真性シリコン系薄膜の上に形成されたシリコン系化合物薄膜と、を備える。前記第3真性シリコン系薄膜は、前記結晶シリコン基板の側から順に第一真性薄膜と第二真性薄膜とを有する。前記第二真性薄膜は、前記第一真性薄膜よりも高水素希釈で製膜されてなることにより、1.95eV以上の光学バンドギャップを有し、波長550nmの光に対して3.3以上3.7以下の屈折率を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バックコンタクト型の太陽電池において、受光面側の外観(意匠性)を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る太陽電池を裏面側からみた図である。
【
図2】
図1の太陽電池におけるII-II線断面図である。
【
図3A】本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第1シリコン系材料膜形成工程、第3真性シリコン系薄膜形成工程およびリフトオフ膜(保護膜)形成工程を示す図である。
【
図3B】本実施形態に係る太陽電池の製造方法におけるレジスト形成工程を示す図である。
【
図3C】本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第1シリコン系薄膜形成工程を示す図である。
【
図3D】本実施形態に係る太陽電池の製造方法におけるレジスト除去工程を示す図である。
【
図3E】本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第2シリコン系材料膜形成工程を示す図である。
【
図3F】本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第2シリコン系薄膜形成工程を示す図である。
【
図3G】本実施形態に係る太陽電池の製造方法におけるシリコン系化合物薄膜形成工程を示す図である。
【
図3H】本実施形態に係る太陽電池の製造方法における電極膜形成工程を示す図である。
【
図4A】プラズマCVD装置のチャンバ内における水素プラズマエッチングのばらつきを示す図である。
【
図4B】プラズマCVD装置のチャンバ内における高水素希釈での製膜のばらつきを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態の一例について説明する。なお、各図面において同一または相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。また、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、他の図面を参照するものとする。
【0011】
(太陽電池)
図1は、本実施形態に係る太陽電池を裏面側からみた図である。
図1に示す太陽電池1は、バックコンタクト型(裏面接合型、裏面電極型ともいう。)の太陽電池である。太陽電池1は、2つの主面を備える結晶シリコン基板11を備え、結晶シリコン基板11の主面において第1領域7と第2領域8とを有する。
【0012】
第1領域7は、いわゆる櫛型の形状をなし、櫛歯に相当する複数のフィンガー部7fと、櫛歯の支持部に相当するバスバー部7bとを有する。バスバー部7bは、結晶シリコン基板11の一方の辺部に沿って第1方向(X方向)に延在し、フィンガー部7fは、バスバー部7bから、第1方向(X方向)に交差する第2方向(Y方向)に延在する。
【0013】
同様に、第2領域8は、いわゆる櫛型の形状であり、櫛歯に相当する複数のフィンガー部8fと、櫛歯の支持部に相当するバスバー部8bとを有する。バスバー部8bは、結晶シリコン基板11の一方の辺部に対向する他方の辺部に沿って第1方向(X方向)に延在し、フィンガー部8fは、バスバー部8bから、第2方向(Y方向)に延在する。
【0014】
フィンガー部7fとフィンガー部8fとは、第1方向(X方向)に交互に設けられている。なお、第1領域7および第2領域8は、ストライプ状に形成されてもよい。
【0015】
図2は、
図1の太陽電池におけるII-II線断面図である。
図2に示すように、太陽電池1は、結晶シリコン系のヘテロ接合型の太陽電池である。太陽電池1は、結晶シリコン基板11の主面のうちの受光する側の受光面側(一方主面側)に順に形成された第3真性シリコン系薄膜13およびシリコン系化合物薄膜15を備える。また、太陽電池1は、結晶シリコン基板11の主面のうちの受光面の反対側の裏面側(他方主面側)の一部(主に、第1領域7)に順に形成された第1真性シリコン系薄膜23、第1導電型シリコン系薄膜25および第1電極膜27を備える。また、太陽電池1は、結晶シリコン基板11の裏面側の他の一部(主に、第2領域8)に順に形成された第2真性シリコン系薄膜33、第2導電型シリコン系薄膜35および第2電極膜37を備える。
【0016】
結晶シリコン基板11は、単結晶シリコンまたは多結晶シリコン等の結晶シリコン材料で形成される。結晶シリコン基板11は、例えば結晶シリコン材料にn型ドーパントがドープされたn型の結晶シリコン基板である。なお、結晶シリコン基板11は、例えば結晶シリコン材料にp型ドーパントがドープされたp型の結晶シリコン基板であってもよい。n型ドーパントとしては、例えばリン(P)が挙げられる。p型ドーパントとしては、例えばホウ素(B)が挙げられる。結晶シリコン基板11は、受光面側からの入射光を吸収して光キャリア(電子および正孔)を生成する光電変換基板として機能する。
【0017】
結晶シリコン基板11の材料として結晶シリコンが用いられることにより、暗電流が比較的に小さく、入射光の強度が低い場合であっても比較的高出力(照度によらず安定した出力)が得られる。
【0018】
結晶シリコン基板11は、裏面側に、テクスチャ構造と呼ばれるピラミッド型の微細な凹凸構造を有していてもよい。これにより、結晶シリコン基板11に吸収されず通過してしまった光の回収効率が高まる。
【0019】
また、結晶シリコン基板11は、受光面側に、テクスチャ構造と呼ばれるピラミッド型の微細な凹凸構造を有していてもよい。これにより、受光面において入射光の反射が低減し、結晶シリコン基板11における光閉じ込め効果が向上する。
【0020】
第3真性シリコン系薄膜13は、結晶シリコン基板11の受光面側に形成されている。第1真性シリコン系薄膜23は、結晶シリコン基板11の裏面側の第1領域7に形成されている。第2真性シリコン系薄膜33は、結晶シリコン基板11の裏面側の第2領域8に形成されている。第3真性シリコン系薄膜13、第1真性シリコン系薄膜23および第2真性シリコン系薄膜33は、例えば真性(i型)アモルファスシリコンを主成分とする材料で形成される。第3真性シリコン系薄膜13、第1真性シリコン系薄膜23および第2真性シリコン系薄膜33は、いわゆるパッシベーション膜として機能し、結晶シリコン基板11で生成されたキャリアの再結合を抑制し、キャリアの回収効率を高める。
【0021】
第3真性シリコン系薄膜13は、結晶シリコン基板11側から順に第一真性薄膜131と第二真性薄膜132とを有する。第一真性薄膜131は、1.95eV以上の光学バンドギャップを有する。また、第一真性薄膜131は、波長550nmの光に対して3.3以上3.7以下の屈折率を有する。
【0022】
一方、第二真性薄膜132は、第一真性薄膜131よりも高水素希釈で製膜されてなる(詳細は後述する)。これにより、第二真性薄膜132は、1.95eV以上の光学バンドギャップを有する。また、第二真性薄膜132は、波長550nmの光に対して3.3以上3.7以下の屈折率を有する。より具体的には、第二真性薄膜132は、波長550nmの光に対して、実部3.3以上3.7以下および虚部0.1以下の複素屈折率を有する。
【0023】
光学バンドギャップ、屈折率および複素屈折率は、分光エリプソメトリーにて測定したデータをTauc-Lorentz振動子にてフィッティングした各パラメータ、誘電関数から導出している。
【0024】
また、第3真性シリコン系薄膜13は、第一真性薄膜131と第二真性薄膜132との境界に位置する境界真性薄膜133を含んでいてもよい。境界真性薄膜133は、第一真性薄膜131が水素プラズマに暴露されてなる(詳細は後述する)。
【0025】
また、第3真性シリコン系薄膜13における第一真性薄膜131または第二真性薄膜132は、1×1015/cm3以上1×1016/cm3未満のp型ドーパント(例えば、上述したホウ素(B))を含有した、実質的に真性な薄膜であってもよい(詳細は後述する)。p型ドーパントの含有量の測定方法としては、二次イオン質量分析法(SIMS)、X線光電子分光法(XPS)などで測定可能である。
【0026】
シリコン系化合物薄膜15は、結晶シリコン基板11の受光面側の第3真性シリコン系薄膜13上に形成されている。シリコン系化合物薄膜15は、例えば酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン(SiN)、炭化シリコン(SiC)、または酸窒化シリコン(SiON)のような、酸素、窒素、炭素のうちの少なくとも一種を含むシリコン化合物で形成される。シリコン系化合物薄膜15は、入射光の反射を防止する反射防止膜として機能するとともに、結晶シリコン基板11の受光面側および第3真性シリコン系薄膜13を保護する保護膜として機能する。
【0027】
第1導電型シリコン系薄膜25は、第1真性シリコン系薄膜23上に、すなわち結晶シリコン基板11の裏面側の第1領域7に形成されている。第1導電型シリコン系薄膜25は、例えばアモルファスシリコン材料で形成される。第1導電型シリコン系薄膜25は、例えばアモルファスシリコン材料にp型ドーパント(例えば、上述したホウ素(B))がドープされたp型のシリコン系薄膜である。
【0028】
第2導電型シリコン系薄膜35は、第2真性シリコン系薄膜33上に、すなわち結晶シリコン基板11の裏面側の第2領域8に形成されている。第2導電型シリコン系薄膜35は、例えばアモルファスシリコン材料で形成される。第2導電型シリコン系薄膜35は、例えばアモルファスシリコン材料にn型ドーパント(例えば、上述したリン(P))がドープされたn型のシリコン系薄膜である。なお、第1導電型シリコン系薄膜25がn型のシリコン系薄膜であり、第2導電型シリコン系薄膜35がp型のシリコン系薄膜であってもよい。
【0029】
第1電極膜27は、第1導電型シリコン系薄膜25上に形成されており、第2電極膜37は、第2導電型シリコン系薄膜35上に形成されている。第1電極膜27は、第1導電型シリコン系薄膜25上に順に製膜された透明電極膜28と金属電極膜29とを有する。第2電極膜37は、第2導電型シリコン系薄膜35上に順に製膜された透明電極膜38と金属電極膜39とを有する。
【0030】
透明電極膜28,38は、透明な導電性材料で形成される。透明導電性材料としては、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムおよび酸化スズの複合酸化物)等が挙げられる。金属電極膜29,39は、銀等の金属粉末を含有する導電性ペースト材料で形成される。
【0031】
(太陽電池の製造方法)
以下、
図3A~
図3Hを参照して、
図1および
図2に示す本実施形態の太陽電池1の製造方法について説明する。
図3Aは、本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第1シリコン系材料膜形成工程、第3真性シリコン系薄膜形成工程およびリフトオフ膜(保護膜)形成工程を示す図であり、
図3Bは、本実施形態に係る太陽電池の製造方法におけるレジスト形成工程を示す図である。また、
図3Cは、本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第1シリコン系薄膜形成工程を示す図であり、
図3Dは、本実施形態に係る太陽電池の製造方法におけるレジスト除去工程を示す図である。また、
図3Eは、本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第2シリコン系材料膜形成工程を示す図であり、
図3Fは、本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第2シリコン系薄膜形成工程を示す図である。また、
図3Gは、本実施形態に係る太陽電池の製造方法におけるシリコン系化合物薄膜形成工程を示す図であり、
図3Hは、本実施形態に係る太陽電池の製造方法における電極膜形成工程を示す図である。
【0032】
まず、
図3Aに示すように、例えばプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて、結晶シリコン基板11の裏面側の全面に、第1真性シリコン系材料膜23Zおよび第1導電型シリコン系材料膜25Zを順に製膜する(第1シリコン系材料膜形成工程)。
【0033】
また、例えばプラズマCVD法を用いて、結晶シリコン基板11の受光面側の全面に、第3真性シリコン系薄膜13を製膜する(第3真性シリコン系薄膜形成工程)。まず、結晶シリコン基板11の受光面上に、第一真性薄膜131を製膜する。その後、第一真性薄膜131の表面を水素プラズマに暴露することにより、水素プラズマエッチングを行う。これにより、第一真性薄膜131の表面に境界真性薄膜133が形成される。その後、水素プラズマエッチング後の第一真性薄膜131上に、すなわち境界真性薄膜133上に、高水素希釈で第二真性薄膜132を製膜する。第3真性シリコン系薄膜形成工程の詳細は後述する。
【0034】
なお、p型シリコン系材料膜25Zを製膜した後、同一チャンバにて第3真性シリコン系薄膜13を形成すると、p型シリコン系材料膜25Zの製膜時に真空チャンバ内または基板トレイ等に残ったp型ドーパントであるホウ素(B)が、第3真性シリコン系薄膜13における第一真性薄膜131または第二真性薄膜132に含有される。
【0035】
次に、例えばプラズマCVD法を用いて、結晶シリコン基板11の裏面側の全面に、具体的には第1導電型シリコン系材料膜25Z上の全面に、リフトオフ膜(犠牲膜)41を製膜する(リフトオフ膜形成工程)。また、例えばプラズマCVD法を用いて、結晶シリコン基板11の受光面側の全面に、具体的には第3真性シリコン系薄膜13上の全面に、保護膜51を製膜する(保護膜形成工程)。リフトオフ膜41および保護膜51は、酸化珪素(SiO)、窒化珪素(SiN)、または酸窒化珪素(SiON)のようなそれらの複合物等の材料で形成される。
【0036】
次に、
図3B~
図3Dに示すように、レジスト90を用いて、結晶シリコン基板11の裏面側において、第2領域8におけるリフトオフ膜41、第1導電型シリコン系材料膜25Zおよび第1真性シリコン系材料膜23Zを除去することにより、第1領域7に、パターン化された第1真性シリコン系薄膜23、第1導電型シリコン系薄膜25およびリフトオフ膜41を形成する。
【0037】
具体的には、
図3Bに示すように、結晶シリコン基板11の裏面側において、第1領域7における第1導電型シリコン系材料膜25Zおよびリフトオフ膜41上に、パターン印刷技術またはフォトレジスト技術を用いてレジスト90を形成する(レジスト形成工程)。また、結晶シリコン基板11の受光面側の全面に、パターン印刷技術またはフォトレジスト技術を用いてレジスト90を形成する(レジスト形成工程)。
【0038】
その後、
図3Cに示すように、レジスト90をマスクとして、結晶シリコン基板11の裏面側において、第2領域8におけるリフトオフ膜41をエッチングすることにより、第1領域7に、パターン化されたリフトオフ膜41を形成する。リフトオフ膜41に対するエッチング溶液としては、例えばフッ酸等の酸性溶液が用いられる。
【0039】
その後、レジスト90をマスクとして、結晶シリコン基板11の裏面側において、第2領域8における第1導電型シリコン系材料膜25Zおよび第1真性シリコン系材料膜23Zをエッチングすることにより、第1領域7に、パターン化された第1真性シリコン系薄膜23および第1導電型シリコン系薄膜25を形成する(第1シリコン系薄膜形成工程)。p型シリコン系薄膜に対するエッチング溶液としては、例えばオゾンを含有するフッ酸、または硝酸とフッ酸の混合液のような酸性溶液が挙げられ、n型シリコン系薄膜に対するエッチング溶液としては、例えば水酸化カリウム水溶液のようなアルカリ性溶液が挙げられる。
【0040】
その後、
図3Dに示すように、裏面側および受光面側のレジスト90を除去する(レジスト除去工程)。レジスト90に対するエッチング溶液としては、KOH等の安価なアルカリ溶液が用いられる。
【0041】
次に、結晶シリコン基板11の両面側をクリーニングする(第1洗浄工程)。第1洗浄工程では、例えばオゾン処理を行った後、フッ酸処理が行われる。フッ酸処理とは、フッ酸のみならず、フッ酸に他の種類の酸(第1洗浄工程では、例えば塩酸)を含めた混合物での処理も含むものとする。
【0042】
次に、
図3Eに示すように、例えばプラズマCVD法を用いて、結晶シリコン基板11の裏面側の全面に、具体的には第1領域7におけるリフトオフ膜41上および第2領域8に、第2真性シリコン系材料膜33Zおよび第2導電型シリコン系材料膜35Zを順に製膜する(第2シリコン系材料膜形成工程)。
【0043】
次に、
図3Fに示すように、リフトオフ膜(犠牲膜)を用いたリフトオフ法を利用して、結晶シリコン基板11の裏面側において、第1領域7における第2真性シリコン系材料膜33Zおよび第2導電型シリコン系材料膜35Zを除去することにより、第2領域8に、パターン化された第2真性シリコン系薄膜33および第2導電型シリコン系薄膜35を形成する(第2シリコン系薄膜形成工程)。
【0044】
具体的には、リフトオフ膜41を除去することにより、リフトオフ膜41上の第2真性シリコン系材料膜33Zおよび第2導電型シリコン系材料膜35Zを除去し、第2領域8に第2真性シリコン系薄膜33および第2導電型シリコン系薄膜35を形成する。リフトオフ膜41の除去溶液としては、例えばフッ酸等の酸性溶液が用いられる。
【0045】
次に、
図3Gに示すように、例えばプラズマCVD法を用いて、結晶シリコン基板11の受光面側の全面に、シリコン系化合物薄膜15を形成する(シリコン系化合物薄膜形成工程)。
【0046】
次に、
図3Hに示すように、結晶シリコン基板11の裏面側に、第1電極膜27および第2電極膜37を形成する(電極膜形成工程)。具体的には、例えばスパッタリング法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法を用いて、結晶シリコン基板11の裏面側の全面に、透明電極膜を製膜する。その後、例えばエッチングペーストを用いたエッチング法を用いて、透明電極材料膜の一部を除去することにより、パターン化された透明電極膜28,38を形成する。透明電極材料膜に対するエッチング溶液としては、例えば塩酸または塩化第二鉄水溶液が用いられる。その後、例えばパターン印刷法または塗布法を用いて、透明電極膜28上に金属電極膜29を形成し、透明電極膜38の上に金属電極膜39を形成することにより、第1電極膜27および第2電極膜37を形成する。
【0047】
なお、透明電極膜28,38は、金属電極膜29,39をマスクとして用いて、透明電極材料膜をパターニングすることにより、パターン化されてもよい。これにより、エッチングペーストを用いたエッチング法と比較して、製造プロセスの簡略化が可能である。
【0048】
以上の工程により、
図1および
図2に示す本実施形態のバックコンタクト型の結晶シリコン系太陽電池1が完成する。
【0049】
ここで、上述したように、結晶シリコン基板11の受光面側の第3真性シリコン系薄膜13の形成方法として、CVD法が用いられる。CVD法では、例えば基板トレイを用いて複数の結晶シリコン基板に同時に、シリコン系薄膜を製膜する。このような製膜方法では、製膜プロセス中のパワーのかかり方、ガスの流れ方などに起因して、複数の結晶シリコン基板においてシリコン系薄膜の膜厚分布(膜厚の不均一)が生じることがある。
【0050】
複数の結晶シリコン基板において第3真性シリコン系薄膜の膜厚が異なると、これらの結晶シリコン基板を用いた太陽電池の受光面側の見た目の色が異なる。本願発明者(ら)の知見によれば、第3真性シリコン系薄膜13が第1真性薄膜131のみで形成される場合、シリコン系化合物薄膜15を介した太陽電池の受光面側の見た目の色が、茶色から濃青色までばらついてしまう。複数の太陽電池1を並べて設置する場合、見た目の色が異なると、外観(意匠性)が損なわれてしまう。
【0051】
この点に関し、本実施形態の太陽電池1によれば、第3真性シリコン系薄膜13が、結晶シリコン基板11側から順に第一真性薄膜131と第二真性薄膜132とを有し、第2真性薄膜132は、高水素希釈で製膜されてなることにより、1.95eV以上の光学バンドギャップを有し、波長550nmの光に対して3.3以上3.7以下の屈折率を有する。これにより、CVD法を用いて複数の結晶シリコン基板11に同時にシリコン系薄膜を製膜し、複数の結晶シリコン基板11において第3真性シリコン系薄膜13の膜厚分布(膜厚の不均一)、すなわち第一真性薄膜131および第二真性薄膜132の膜厚分布(膜厚の不均一)が生じても、これらの結晶シリコン基板11を用いた太陽電池1の受光面側の見た目の色のばらつきを低減することができる。具体的には、シリコン系化合物薄膜15を介した太陽電池1の受光面側の見た目の色が、紫色から濃青色までのばらつきに低減される。これにより、複数の太陽電池1を並べて設置する場合に、外観(意匠性)を向上することができる。
【0052】
また、高水素希釈で製膜されてなる第二真性薄膜132は、後の製造プロセスにおける薬液、例えばリフトオフ工程(第2シリコン系薄膜のパターニング)における酸性溶液に対して比較的に耐性を有する。これにより、製造プロセス中の、第3真性シリコン系薄膜13、特に第一真性薄膜131のダメージを低減することができ、パッシベーション性を向上することができる。これにより、太陽電池1の性能を向上することができる。
【0053】
ここで、
図4Aは、プラズマCVD装置のチャンバ内における水素プラズマエッチングのばらつきを示す図であり、
図4Bは、プラズマCVD装置のチャンバ内における高水素希釈での製膜のばらつきを示す図である。
図4Aには、第一真性薄膜131形成後(点線)、第一真性薄膜131の表面を水素プラズマに暴露することにより、水素プラズマエッチングを実施する際に、プラズマCVD装置のチャンバ内に生じる水素プラズマエッチングのばらつきが示されている(実線)。一方、
図4Bには、水素プラズマエッチング後の第一真性薄膜131上に、すなわち境界真性薄膜133上に、高水素希釈で第二真性薄膜132を形成する際に、プラズマCVD装置のチャンバ内に生じる高水素希釈での製膜のばらつきが示されている。
【0054】
図4Bに示すように、プラズマCVD法を用いて複数の結晶シリコン基板11に同時に第二真性薄膜132を高水素希釈で製膜する場合、CVD装置のチャンバ内の端から中央に向けて次第に厚くなるように第二真性薄膜132の膜厚分布(膜厚の不均一)が生じる。一方、
図4Aに示すように、プラズマCVD法を用いて複数の結晶シリコン基板11に同時に第一真性薄膜131の水素プラズマエッチングを行う場合、CVD装置のチャンバ内の端から中央に向けて次第に薄くなるように第一真性薄膜131の膜厚分布(膜厚の不均一)が生じる。
【0055】
このように、本実施形態の太陽電池1では、第3真性シリコン系薄膜13は、第一真性薄膜131と第二真性薄膜132との境界に位置し、第一真性薄膜131が水素プラズマに暴露されてなる境界真性薄膜133を含んでいてもよい。これにより、複数の結晶シリコン基板11において第一真性薄膜131と第二真性薄膜132との総膜厚のばらつき、すなわち第3真性シリコン系薄膜13の膜厚のばらつきを低減することができ、これらの結晶シリコン基板11を用いた太陽電池1の受光面側の見た目の色のばらつきをより低減することができる。
【0056】
また、第一真性薄膜131の水素プラズマエッチングを行うことにより、第一真性薄膜131の膜質改善(膜中への水素導入によるダングリングボンドの終端等)、および界面特性の改善に起因し、パッシベーション性をより向上することができる。これにより、太陽電池1の性能をより向上することができる。
【0057】
また、本実施形態の太陽電池1では、第3真性シリコン系薄膜13における第一真性薄膜131または第二真性薄膜132は、1×1015/cm3以上1×1016/cm3未満のp型ドーパントであるホウ素(B)を含有した、実質的に真性な薄膜であってもよい。これにより、CVD法を用いて複数の結晶シリコン基板11に同時にシリコン系薄膜を製膜し、複数の結晶シリコン基板11において第3真性シリコン系薄膜13の膜厚分布(膜厚の不均一)、すなわち第一真性薄膜131および第二真性薄膜132の膜厚分布(膜厚の不均一)が生じても、これらの結晶シリコン基板11を用いた太陽電池1の受光面側の見た目の色のばらつきをより低減することができる。
【0058】
また、p型ドーパントであるホウ素(B)を含有する第3真性シリコン系薄膜13は、後の製造プロセスにおける薬液、例えばリフトオフ工程(第2シリコン系薄膜のパターニング)における酸性溶液に対して比較的に耐性を有する。これにより、製造プロセス中の、第3真性シリコン系薄膜13、特に第一真性薄膜131のダメージをより低減することができ、パッシベーション性をより向上することができる。これにより、太陽電池1の性能をより向上することができる。
【0059】
上述した太陽電池の製造方法において、シリコン系薄膜の形成方法は特に限定されないが、上述したようにプラズマCVD法が好ましい。プラズマCVDによりシリコン系薄膜が形成される場合は、同一のチャンバ内でシリコン系薄膜の形成と、水素プラズマ処理とを行うことができるため、工程を簡素化できる。
【0060】
プラズマCVDによるシリコン系薄膜の形成には、原料ガスとして、SiH4、Si2H6等のシリコン含有ガスが用いられる。原料ガスは、H2等により希釈されたものがチャンバ内に導入されてもよい。導電型(p型またはn型)のシリコン系薄膜を形成するためのドーパントガスとしては、B2H6またはPH3が好ましく用いられる。PやB等のドーパントの添加量は微量でよいため、ドーパントガスが予め原料ガスやH2等で希釈された混合ガスを用いてもよい。CH4、CO2、NH3、GeH4等の異種元素を含むガスを上記ガスに添加することにより、シリコンカーバイド、シリコンナイトライド、シリコンゲルマニウム等のシリコン合金薄膜を形成できる。プラズマCVDによるシリコン系薄膜の製膜条件は、基板温度100~300℃、圧力20~2600Pa、パワー密度3~500mW/cm2が好ましい。
【0061】
<第3真性シリコン系薄膜形成工程の詳細>
以下では、
図3A、
図4Aおよび
図4Bを参照して、上述した第3真性シリコン系薄膜形成工程について詳細に説明する。まず、シリコン基板11の主面上に、第一真性薄膜131が形成される(
図4Aの点線)。その後、第一真性薄膜131の表面を水素プラズマに暴露することにより、水素プラズマエッチングが実施され、第一真性薄膜131の表面に境界真性薄膜133が形成される(
図4Aの実線)。水素プラズマエッチング後の第一真性薄膜131上に、すなわち境界真性薄膜133上に、高水素希釈で第二真性薄膜132が形成される(
図4B)。このように、第3真性シリコン系薄膜13の形成において、第一真性薄膜131の形成後に、水素プラズマエッチングが行われ、更に高水素希釈で第二真性薄膜132の形成が行われる。
【0062】
上述したように、第3真性シリコン系薄膜13は、例えばプラズマCVDにより製膜される。プラズマCVDにより第3真性シリコン系薄膜を製膜する場合、まず、シリコン基板が、プラズマCVD装置のチャンバ内に導入される。具体的には、複数のシリコン基板を製膜トレイ等の載置部材上に載置して、チャンバ内に導入する。また、吸引方式等によりチャンバ内の所定位置にシリコン基板を固定してもよい。複数のシリコン基板をチャンバ内に導入し、1バッチで複数のシリコン基板上への製膜を行うことにより、太陽電池の生産効率を向上できる。
【0063】
<<第一真性薄膜の製膜>>
シリコン基板をチャンバ内へ導入後、必要に応じて基板の加熱が行われる。その後、シリコン含有ガス、および必要に応じて水素等の希釈ガスがチャンバ内に導入され、
図3Aおよび
図4Aに示すように、シリコン基板11上に第一真性薄膜131が形成される。
【0064】
第一真性薄膜131は、シリコン基板11に隣接する膜であり、シリコン基板表面のパッシベーション膜として作用する。パッシベーションを有効に行うためには、第一真性薄膜131は、シリコン基板11との界面付近の製膜初期部分が非晶質であることが好ましい。そのため、第一真性薄膜は、高レートで製膜が行われることが好ましい。第一真性薄膜の製膜レートは、0.1nm/秒以上が好ましく、0.15nm/秒以上がより好ましく、0.2nm/秒以上がさらに好ましい。製膜レートを高めることにより、シリコンのエピタキシャル成長が抑制され、非晶質膜が形成されやすくなる。
【0065】
表面にテクスチャが形成されている基板は、テクスチャを有していない平滑基板に比べて表面積が大きいため、テクスチャが形成された基板上での膜形成速度は、平滑面上への製膜レートに比べて小さくなる。製膜レートは、平滑面上への製膜レートに換算した値として求められる。平滑面上への製膜レートは、テクスチャが形成されていないシリコン基板やガラス板等の平滑面上に、同一条件で一定時間の製膜を行い、分光エリプソメトリーにより測定した膜厚から算出できる。なお、テクスチャが形成されたシリコン基板上の薄膜の膜厚は、テクスチャの斜面と垂直な方向を膜厚方向として、断面の透過型電子顕微鏡(TEM)観察により求められる。
【0066】
第一真性薄膜製膜時の水素導入量(水素による希釈倍率)を小さくすることにより、製膜レートが高められる傾向がある。第一真性薄膜の製膜時の水素の導入量は、シリコン含有ガス導入量の50倍未満が好ましい。水素導入量は、シリコン含有ガス導入量の20倍以下がより好ましく、10倍以下がさらに好ましく、6倍以下が特に好ましい。第一真性薄膜は、水素を導入せずに製膜を行ってもよい。製膜時のプロセス圧力やパワー密度等を調整することにより、製膜レートを高めることもできる。
【0067】
第一真性薄膜131は、3nm~15nmの膜厚で製膜されることが好ましい。第一真性薄膜の製膜厚みd0は、水素プラズマエッチングを実施する前の膜厚である。第一真性薄膜の製膜厚みは、3.5nm~12nmがより好ましく、4nm~10nmがさらに好ましい。第一真性薄膜の製膜厚みが小さすぎると、単結晶シリコン基板へのパッシベーション効果が不十分となったり、第一真性薄膜へのプラズマエッチングの際にシリコン基板の表面がプラズマダメージを受けやすくなる傾向がある。第一真性薄膜の製膜厚みは、10nm以下がより好ましく、8nm以下がさらに好ましい。第一真性薄膜の膜厚が大きすぎると、真性シリコン系薄膜による光吸収や、抵抗増大による電気的ロスにより、変換特性が低下する傾向がある。
【0068】
<<第一真性薄膜表面の水素プラズマエッチング>>
第一真性薄膜131の形成後、
図3Aおよび
図4Aに示すように、第一真性薄膜の表面を水素プラズマに暴露することにより、水素プラズマエッチングが行われる。これにより、第一真性薄膜131上に境界真性薄膜133が形成される。第一真性薄膜の形成後、その表面が水素プラズマによってエッチングされることにより、太陽電池の変換特性、特に開放電圧(Voc)および曲線因子(FF)が向上する傾向がある。
【0069】
開放電圧の向上は、水素プラズマへの暴露によるシリコン系薄膜の膜質改善(膜中への水素導入によるダングリングボンドの終端等)、および界面特性の改善に起因すると考えられる。一般には、真性シリコン系薄膜の膜厚が小さくなると、シリコン基板のパッシベーション効果が低減し、太陽電池の開放電圧が低下する傾向がある。これに対して、水素プラズマエッチングにより第一真性薄膜の膜厚を小さくした場合は、膜質の改善および界面特性向上による効果が、膜厚減少によるパッシベーション効果の低減を補って余りあるため、開放電圧が向上すると考えられる。また、水素プラズマエッチングによる第一真性薄膜の膜質改善および膜厚低減により、真性シリコン系薄膜による直列抵抗が減少するため、曲線因子が向上すると考えられる。
【0070】
一般には、シリコン基板上の真性シリコン系薄膜の膜厚を大きくすると開放電圧が向上し曲線因子が低下する傾向があり、真性シリコン系薄膜の膜厚を小さくすると曲線因子が向上し開放電圧が低下する傾向がある。これに対して、第一真性薄膜の形成後に水素プラズマエッチングを行うことにより、曲線因子の向上と開放電圧の向上を両立でき、太陽電池の変換特性が高められる傾向がある。
【0071】
水素プラズマエッチングは、水素含有雰囲気下で行われる。水素プラズマエッチングは、水素濃度が50体積%以上の雰囲気下で行われることが好ましい。水素プラズマエッチング時の水素濃度は、60体積%以上がより好ましく、70体積%以上がさらに好ましい。水素プラズマエッチングにおける雰囲気ガスは、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスを含んでいてもよく、B2H6、PH3等のドーパントガスが微量に含まれていてもよい。一方、水素プラズマエッチングの際には、SiH4等の原料ガスがチャンバ内に導入されないことが好ましい。また、水素プラズマエッチングの際には、第一真性薄膜の製膜に用いられた原料ガスのチャンバ内の残留量が少ないことが好ましく、プラズマ放電中にシリコン系薄膜が実質的に製膜されないことが好ましい。そのため、水素プラズマエッチング時のチャンバ内のシリコン含有ガスの濃度は、水素濃度の1/500未満が好ましく、1/1000以下がより好ましく、1/2000以下がさらに好ましい。
【0072】
水素プラズマエッチングの条件としては、例えば、基板温度100℃~300℃、圧力20Pa~2600Paが好ましい。水素プラズマエッチング時のプラズマパワー密度および処理時間は、プラズマエッチングにより第一真性薄膜の膜厚が減少するように設定すればよい。
【0073】
第一真性薄膜の水素プラズマエッチングによるエッチング量、すなわち、水素プラズマエッチング前の第一真性薄膜の膜厚d0と、水素プラズマエッチング後の第一真性薄膜の膜厚d1との差d0-d1は、0.5nm以上が好ましい。プラズマエッチング量が0.5nm以上であれば、膜厚低減による曲線因子の向上効果が発揮されやすい。一方、プラズマエッチング量が過度に大きいと、第一真性薄膜の膜厚が過度に小さくなり、パッシベーション効果の低下や、シリコン基板表面へのプラズマダメージにより、太陽電池の開放電圧が低下する場合がある。そのため、プラズマエッチング量d0-d1は、5nm以下が好ましく、4nm以下がより好ましく、3nm以下がさらに好ましい。なお、1バッチで複数のシリコン基板を処理する場合は、各シリコン基板の面内中心部におけるd0-d1の平均を、プラズマエッチング量として定義する。後述の第二真性薄膜の膜厚d2も同様に定義される。
【0074】
十分なプラズマエッチングを実施するために、水素プラズマエッチング時のパワー密度は40mW/cm2以上が好ましく、60mW/cm2以上がより好ましく、80mW/cm2以上がさらに好ましく、100mW/cm2以上が特に好ましい。第一真性薄膜の水素プラズマエッチングを第一真性薄膜形成時よりも高パワー密度で実施することにより、太陽電池の開放電圧の向上が顕著となる傾向がある。水素プラズマエッチング時のパワー密度は、第一真性薄膜形成時のパワー密度の2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましく、4倍以上がさらに好ましく、5倍以上が特に好ましい。
【0075】
一方、プラズマ処理時のパワー密度が過度に高いと、エッチング量の制御が困難となる場合がある。また、パワー密度が過度に高いと、真性シリコン系薄膜の膜質の低下や、単結晶シリコン基板表面へのプラズマダメージが生じ、太陽電池の変換特性が低下する場合がある。そのため、パワー密度は500mW/cm2以下が好ましく、400mW/cm2以下がより好ましく、300mW/cm2以下がさらに好ましく、250mW/cm2以下が特に好ましい。
【0076】
プラズマ処理時間が過度に短い場合は、パワー密度が過度に小さい場合と同様の傾向が生じる。逆に、プラズマ処理時間が過度に長い場合は、パワー密度が過度に大きい場合と同様の傾向が生じる。そのため、水素プラズマエッチングの処理時間は、3~140秒が好ましく、5~100秒がより好ましく、10~60秒がさらに好ましい。
【0077】
前述の通り、シリコン基板1表面のパッシベーション膜としての作用を高めるためには、第一真性薄膜131の製膜初期部分は非晶質であることが好ましい。一方、第一真性薄膜131の第二真性薄膜132側の界面付近は、水素プラズマに曝されることにより、結晶化される場合がある。第一真性薄膜131の表面が結晶化されることにより、その上に形成される第二真性薄膜132の結晶化が促進される傾向がある。
【0078】
<<第二真性薄膜の製膜>>
図3Aおよび
図4Bに示すように、水素プラズマエッチング後の第一真性薄膜131上に、すなわち境界真性薄膜133上に、第二真性薄膜132が形成される。第二真性薄膜132は、CVDチャンバ内にシリコン含有ガスおよび水素を導入しながら、プラズマCVDにより形成される。第二真性薄膜形成時のチャンバ内への水素導入量は、シリコン含有ガス導入量の50~500倍に設定される。第一真性薄膜形成時よりも高水素希釈倍率で第二真性薄膜を形成することにより、第二真性薄膜132は、より高秩序の膜となり、膜中に結晶粒が生成しやすくなる。そのため、第3真性シリコン系薄膜13と導電性シリコン系薄膜との界面接合が良好となり、水素プラズマエッチングのみを行う場合に比べて、太陽電池の開放電圧および曲線因子がさらに向上する傾向がある。第二真性薄膜形成時のチャンバ内への水素導入量は、シリコン含有ガス導入量の80~450倍がより好ましく、100~400倍がさらに好ましい。
【0079】
第二真性薄膜132の製膜厚みd2は、0.5nm以上が好ましい。d2が0.5nm以上であれば、第二真性薄膜によるカバレッジが良好となるとともに、シリコンの結晶粒が生成しやすくなり、界面特性が向上する傾向がある。一方、第二真性薄膜の厚みが過度に大きいと、太陽電池の曲線因子が低下する傾向がある。そのため、第二真性薄膜132の製膜厚みd2は、5nm以下が好ましく、4nm以下がより好ましく、3nm以下がさらに好ましい。また、第二真性薄膜132の製膜厚みd2は、プラズマエッチング後の第一真性薄膜131の膜厚d1の0.5倍以下が好ましく、0.4倍以下がより好ましく、0.3倍以下がさらに好ましい。
【0080】
結晶粒の生成を促進するために、第二真性薄膜製膜時のパワー密度は40mW/cm2以上が好ましく、60mW/cm2以上がより好ましく、80mW/cm2以上がさらに好ましく、100mW/cm2以上が特に好ましい。また、第二真性薄膜の製膜を第一真性薄膜製膜時よりも高パワー密度で実施することにより、結晶粒が生成しやすくなる傾向がある。そのため、第二真性薄膜製膜時のパワー密度は、第一真性薄膜製膜時のパワー密度の2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましく、4倍以上がさらに好ましく、5倍以上が特に好ましい。第二真性薄膜の製膜レートは、平滑面上への製膜レートに換算した値で、0.001~0.09nm/秒が好ましく、0.005~0.08nm/秒がより好ましく、0.01~0.07nm/秒がさらに好ましい。また、第二真性薄膜の製膜レートは、第一真性薄膜の製膜レートの0.5倍以下が好ましく、0.3倍以下がより好ましい。
【0081】
第一真性薄膜131の水素プラズマエッチング後に、高水素希釈倍率のプラズマCVDにより第二真性薄膜132を形成すれば、導電型シリコン系薄膜との界面接合が改善することに加えて、真性シリコン系薄膜の膜厚分布が緩和される。そのため、セルの品質バラツキが低減する傾向がある。
【0082】
本発明者らの検討によると、真性シリコン系薄膜を製膜後に水素プラズマエッチングを行った場合に、チャンバ内のシリコン基板の位置(製膜ポジション)によって太陽電池の変換特性が異なり、バッチ内でセル特性にバラツキが生じる傾向がみられた。特に、CVDチャンバ内のメンテナンスを行わずに、シリコン基板を入れ替えて、複数バッチの製膜を連続で実施すると、連続製膜バッチ数の増加に伴って、変換特性のバラツキが大きくなる傾向がみられた。さらに検討の結果、チャンバ内の製膜面の中央付近に配置された基板(製膜トレイの中央付近に載置された基板)は、製膜面の端部に配置された基板(製膜トレイの端部に載置された基板)に比べて、水素プラズマエッチング後の真性シリコン系薄膜の膜厚が小さい傾向がみられた。また、連続製膜バッチ数の増加に伴って、バッチ内での膜厚差が拡大し、これに伴って太陽電池の変換特性のバラツキが大きくなる傾向がみられた。
【0083】
これに対して、第一真性薄膜の水素プラズマエッチング後に、高水素希釈倍率のプラズマCVDにより第二真性薄膜を形成すれば、連続製膜バッチ数が増加した場合でも、バッチ内やバッチ間での真性シリコン系薄膜の膜厚のバラツキが小さくなる。そのため、太陽電池の変換特性のバラツキも小さくなる傾向がある。
【0084】
水素プラズマエッチング後の真性シリコン系薄膜の膜厚が、チャンバ内の中央付近で相対的に小さくなることは、チャンバ内の中央付近のプラズマエッチング量が相対的に大きいことに関連していると考えられる。
図4Aの破線は、水素プラズマエッチング前の第一真性薄膜131を示している。
【0085】
中央付近のプラズマエッチング量が相対的に大きい理由として、製膜面内のプラズマ強度の分布の影響が考えられる。
図4Aでは、端部に比べて中央部のプラズマ強度が大きいことに起因して、中央部のエッチング量が大きくなる様子を表している。
【0086】
本発明者らの検討によると、連続製膜バッチ数の増加に伴って、バッチ内での膜厚差が拡大し、これに伴って太陽電池の変換特性のバラツキが大きくなる傾向がみられた。チャンバ内の清掃等のメンテナンスを実施した直後の製膜バッチでは、製膜面内のプラズマ強度の分布は小さいため、水素プラズマ処理による膜厚変化のバッチ内での差は小さいと考えられる。連続製膜バッチ数の増加に伴うチャンバ内壁等への付着膜の堆積量の増大等に起因して、
図4Aに示すように、プラズマ強度の面内分布が生じ、端部付近に比べて中央部付近のプラズマ強度が大きくなると推定される。
【0087】
太陽電池に用いられるシリコン基板のサイズ(例えば6インチ程度)の範囲内では、プラズマ強度の分布や膜厚の分布は小さいが、1バッチで複数のシリコン基板を処理した場合には、基板間の膜厚分布が顕著となる傾向がみられた。製膜面積の大きい大型CVDチャンバを用い、1回に処理する基板の数が増加するほど、バッチ内での基板間の膜厚分布が大きくなる傾向がみられ、製膜面積が0.3m2以上の場合にその傾向が顕著であり、0.5m2以上の場合に特に顕著であった。
【0088】
本実施形態においては、水素プラズマエッチング後の第一真性薄膜の膜厚に分布が生じた場合でも、その上に高水素希釈倍率で第二真性薄膜を製膜することにより、膜厚分布が緩和される。そのため、バッチ内やバッチ間での真性シリコン系薄膜の膜厚のバラツキを低減できる。これは、第二真性薄膜の堆積厚みが、プラズマエッチング量と同様の面内分布を有していることに起因すると考えられる。すなわち、プラズマ強度が相対的に大きい場所では、プラズマエッチング量(エッチングレート)および第二真性薄膜の堆積量(製膜レート)がいずれも相対的に大きく、プラズマ強度が相対的に小さい場所では、エッチングレートおよび製膜レートがいずれも相対的に小さくなると考えられる。このように、水素プラズマエッチングによる膜厚の減少を補完するように第二真性薄膜が製膜されるため、プラズマ強度の面内分布が生じた場合でも、真性シリコン系薄膜の膜厚のバラツキが小さく、太陽電池の変換特性のバラツキを低減できると考えられる。
【0089】
プラズマのパワー密度が大きいほど、プラズマ強度の面内分布が顕著となる傾向がある。そのため、プラズマエッチング量の面内分布を補完するように第二真性薄膜を形成するためには、第二真性薄膜製膜時のパワー密度が、水素プラズマエッチング時のパワー密度と同等であることが好ましい。具体的には、第二真性薄膜製膜時のパワー密度は、水素プラズマエッチング時のパワー密度の0.7~1.3倍が好ましく、0.8~1.2倍がより好ましい。
【0090】
プラズマエッチング量の面内分布を補完するように第二真性薄膜を形成するためには、第二真性薄膜の製膜厚みd2が、プラズマエッチング量d0-d1と同等であることが好ましい。そのため、第二真性薄膜の製膜厚みd2は、プラズマエッチング量d0-d1の0.5~2倍が好ましく、0.6~1.5倍がより好ましく、0.7~1.3倍がさらに好ましい。
【0091】
真性シリコン系薄膜12の膜厚、すなわち水素プラズマエッチング後の第一真性薄膜の膜厚d1と第二真性薄膜の膜厚d2の和は、3nm~15nmが好ましい。真性シリコン系薄膜12の膜厚は、3.5nm~12nmがより好ましく、4nm~10nmがさらに好ましい。真性シリコン系薄膜の膜厚が上記範囲であれば、導電型シリコン系薄膜形成時の単結晶シリコン基板界面への不純物原子の拡散等による界面欠陥の増大を抑制でき、かつ、真性シリコン系薄膜の光吸収や抵抗に起因する光学ロスおよび電気的ロスを低減できる。
【0092】
上記の水素プラズマエッチング、および第二真性薄膜の形成は、途中でシリコン基板を取り出すことなく、同一のCVDチャンバ内で連続して実施されることが好ましい。水素プラズマエッチングと第二真性薄膜の形成とを同一のCVDチャンバ内で実施すれば、水素プラズマエッチング時のプラズマ強度の面内分布と、第二真性薄膜形成時のプラズマ強度の面内分布とが同等となる。そのため、水素プラズマエッチング後の第一真性薄膜の膜厚分布を緩和するように、第二真性薄膜が形成され、真性シリコン系薄膜の膜厚のバラツキを低減できる。
【0093】
第一真性薄膜の形成後、基板を取り出すことなく、同一のCVDチャンバ内で水素プラズマエッチングが行われてもよい。この場合、第一真性薄膜の形成後、水素プラズマエッチングの開始前に、一旦プラズマ放電が停止されることが好ましい。すなわち、第一真性薄膜形成のためのプラズマ放電が停止された状態で原料ガスの供給が停止され、チャンバ内が水素を主成分とするガス雰囲気となった後に放電が再開されて、水素プラズマエッチングが開始されることが好ましい。第一真性薄膜形成後にプラズマ放電を停止せずに水素プラズマエッチングを実施すると、チャンバ内に残存する原料ガスに起因して、第一真性薄膜と第二真性薄膜との間に、相対的に水素濃度の高い界面膜が形成され、変換特性低下の原因となる場合がある。第一真性薄膜の形成後、プラズマ放電を停止せずに水素プラズマエッチングを実施する場合は、第一真性薄膜形成後に一時的に水素ガス流量を高める等の方法により、短時間で原料ガスをチャンバ外に排気し、雰囲気ガスを置換することが好ましい。
【0094】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更および変形が可能である。
【符号の説明】
【0095】
1 太陽電池
7 第1領域
7b,8b バスバー部
7f,8f フィンガー部
8 第2領域
11 結晶シリコン基板
13 第3真性シリコン系薄膜
131 第1真性薄膜
132 第2真性薄膜
133 境界真性薄膜
15 シリコン系化合物薄膜
23 第1真性シリコン系薄膜
23Z 第1真性シリコン系材料膜
25 第1導電型シリコン系薄膜
25Z 第1導電型シリコン系材料膜
27 第1電極膜
28 第1透明電極膜
29 第1金属電極膜
33 第2真性シリコン系薄膜
33Z 第2真性シリコン系材料膜
35 第2導電型シリコン系薄膜
35Z 第2導電型シリコン系材料膜
37 第2電極膜
38 第2透明電極膜
39 第2金属電極膜
41 リフトオフ膜
51 保護膜
90 レジスト