IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古野電気株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-同軸導波管変換器及び導波路 図1
  • 特許-同軸導波管変換器及び導波路 図2
  • 特許-同軸導波管変換器及び導波路 図3
  • 特許-同軸導波管変換器及び導波路 図4
  • 特許-同軸導波管変換器及び導波路 図5
  • 特許-同軸導波管変換器及び導波路 図6
  • 特許-同軸導波管変換器及び導波路 図7
  • 特許-同軸導波管変換器及び導波路 図8
  • 特許-同軸導波管変換器及び導波路 図9
  • 特許-同軸導波管変換器及び導波路 図10
  • 特許-同軸導波管変換器及び導波路 図11
  • 特許-同軸導波管変換器及び導波路 図12
  • 特許-同軸導波管変換器及び導波路 図13
  • 特許-同軸導波管変換器及び導波路 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】同軸導波管変換器及び導波路
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/103 20060101AFI20241203BHJP
【FI】
H01P5/103 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020189386
(22)【出願日】2020-11-13
(65)【公開番号】P2022078596
(43)【公開日】2022-05-25
【審査請求日】2023-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石野 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】箟 耕治
(72)【発明者】
【氏名】坂井 敏文
(72)【発明者】
【氏名】山本 淳弘
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-022016(JP,A)
【文献】実開昭62-193301(JP,U)
【文献】特開2008-244877(JP,A)
【文献】米国特許第02207845(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 5/103
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を形成する外導体と、導波管が接続される導波管接続部と、同軸線路が接続される同軸コネクタと、当該同軸コネクタの内導体に接続されて前記内部空間内に突出するプローブと、を備え、同軸線路と導波管との伝送路変換を行う同軸導波管変換器であって、
前記外導体の、同軸導波管変換器の設置状態での自由落下方向の位置に、排液排塵埃のための開口部を備え、前記外導体の内面に撥水性の表面処理層を有する
同軸導波管変換器。
【請求項2】
内部空間を形成する外導体と、導波管が接続される導波管接続部と、同軸線路が接続される同軸コネクタと、当該同軸コネクタの内導体に接続されて前記内部空間内に突出するプローブと、を備え、同軸線路と導波管との伝送路変換を行う同軸導波管変換器であって、
前記外導体の、同軸導波管変換器の設置状態での自由落下方向の位置に、排液排塵埃のための開口部を備え、前記自由落下方向以外の面に、水を通さず空気を通す通気口を有する、
同軸導波管変換器。
【請求項3】
内部空間を形成する外導体と、導波管が接続される導波管接続部と、同軸線路が接続される同軸コネクタと、当該同軸コネクタの内導体に接続されて前記内部空間内に突出するプローブと、を備え、同軸線路と導波管との伝送路変換を行う同軸導波管変換器であって、
前記外導体の、同軸導波管変換器の設置状態での自由落下方向の位置に、排液排塵埃のための開口部を備え、前記外導体の内面に前記開口部への方向に先細りとなる先細り形状部を備える、
同軸導波管変換器。
【請求項4】
内部空間を形成する外導体と、導波管が接続される導波管接続部と、同軸線路が接続される同軸コネクタと、当該同軸コネクタの内導体に接続されて前記内部空間内に突出するプローブと、を備え、同軸線路と導波管との伝送路変換を行う同軸導波管変換器であって、
前記外導体の、同軸導波管変換器の設置状態での自由落下方向の位置に、排液排塵埃のための開口部を備え、
前記同軸コネクタが接続される同軸線路部と、当該同軸線路部と前記導波管接続部との間で伝送モードを変換する伝送モード変換部と、を備え、前記同軸線路部は前記プローブに導通する中心導体と前記外導体とで構成され、前記伝送モード変換部は前記プローブと前記外導体とで構成され、前記伝送モード変換部の前記外導体に先細り形状部を備える
同軸導波管変換器。
【請求項5】
内部空間を形成する外導体と、導波管が接続される導波管接続部と、同軸線路が接続される同軸コネクタと、当該同軸コネクタの内導体に接続されて前記内部空間内に突出するプローブと、を備え、同軸線路と導波管との伝送路変換を行う同軸導波管変換器であって、
前記外導体の、同軸導波管変換器の設置状態での自由落下方向の位置に、排液排塵埃のための開口部を備え、
前記同軸コネクタが接続される同軸線路部と、当該同軸線路部と前記導波管接続部との間で伝送モードを変換する伝送モード変換部と、を備え、前記同軸線路部は前記プローブに導通する中心導体と前記外導体とで構成され、前記伝送モード変換部は前記プローブと前記外導体とで構成され、前記プローブは、前記導波管接続部の方向に先細りの形状である、
同軸導波管変換器。
【請求項6】
内部空間を形成する外導体と、導波管が接続される導波管接続部と、同軸線路が接続される同軸コネクタと、当該同軸コネクタの内導体に接続されて前記内部空間内に突出するプローブと、を備え、同軸線路と導波管との伝送路変換を行う同軸導波管変換器であって、
前記外導体の、同軸導波管変換器の設置状態での自由落下方向の位置に、排液排塵埃のための開口部を備え、
前記開口部の上部は電波の漏洩を阻止する等価的開放端であり、
前記同軸コネクタが接続される同軸線路部と、当該同軸線路部と前記導波管接続部との間で伝送モードを変換する伝送モード変換部と、中心導体を支持する中心導体支持具と、を備え、前記同軸線路部は前記プローブに導通する前記中心導体と前記外導体とで構成され、前記伝送モード変換部は前記プローブと前記外導体とで構成され、前記中心導体支持具は前記等価的開放端に設けられた、
同軸導波管変換器。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載の同軸導波管変換器であって、前記開口部の上部は電波の漏洩を阻止する等価的開放端である、同軸導波管変換器。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の同軸導波管変換器であって、前記等価的開放端は、前記外導体の内面から概ね1/2管内波長離れた位置に短絡端を有するチョーク構造部で形成される、同軸導波管変換器。
【請求項9】
請求項1からのいずれかに記載の同軸導波管変換器であって、前記外導体の内面に腐食防止処理層を有する、同軸導波管変換器。
【請求項10】
請求項1からのいずれかに記載の同軸導波管変換器であって、前記同軸コネクタの内導体の周囲に入水を阻止し、撥水性を有する入水阻止部を備える、同軸導波管変換器。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の前記同軸導波管変換器と、当該同軸導波管変換器の前記導波管接続部に接続された導波管と、で構成される導波路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸線路及び導波管が接続されて伝送モードの変換を行う同軸導波管変換器及びそれを備える導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
同軸導波管変換器は同軸線路と導波管との間で伝送モードの変換を行うために用いられる。具体的には、同軸モードと導波管モードとの伝送モードの変換及び伝送路のインピーダンス変換を行う。同軸線路と導波管とでは伝送波の電磁界分布が異なるため、電界エネルギー・磁界エネルギーの比率を表す特性インピーダンスが伝送路により異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平08-186410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特性インピーダンスの不連続部分では反射波が生じるため、信号を効率よく伝送することができない。また、反射波によって導波管内部で定在波が生じるので、導波管アンテナを用いた通信システムでは、その定在波によってフェージング現象が発生し、無線通信の伝送特性を著しく劣化させる。
【0005】
このように導波管アンテナを用いた通信システムでは、反射波の改善が核となる技術となる。また、同軸導波管変換器及び導波管内に異物が混入した場合も問題がある。金属片が混入した場合、金属片に電流が流れることで導波管の伝送モードがいびつなものとなり、特性インピーダンスも変化するため反射波が著しく生じる。場合によっては遮断導波管となり、全反射となることもある。また、その他の異物の場合、発泡体など空気の比率が高いものは反射波を増やさないこともある。しかし、特に誘電率が大きな異物であれば、同軸導波管変換器及び導波管内の電界・磁界エネルギーの比率を変化させるため、特性インピーダンスも変化させてしまう。また、液滴である場合はそれが溜まる問題がある。
【0006】
図14(A)、図14(B)は、同軸線路と矩形導波管との接続部の構造を示す部分斜視図である。図14(A)に示すように、導波管のE面又はH面に同軸変換部を有する場合、電気壁EWの面に水WAが溜まると、この水WAの誘電率は空気の誘電率より高いため、同軸変換部から電気壁EWまでの実効的な寸法が変化する。そのことで、同軸変換部と導波管との間の入出力特性に影響がでるため、同軸変換部で著しい反射波が生じる。また、図14(B)に示すように、電気壁EWに同軸変換部を有する場合、同軸変換部に水WAが溜まると、水WAがそこにあることで特性インピーダンスが大きく変化して更に著しい反射波が生じる。
【0007】
そのため、上記水のような異物が同軸導波管変換器内部にそもそも混入しないよう設計する必要がある。最も混入が懸念される箇所は同軸線路と導波管との接続部である。通常、導波管の接続にはフランジ同士をねじで固定するが、間にOリングを挟むことで防水性を高めることができる。
【0008】
しかし、建設現場のような環境において使用されるシステムでは、フランジ接合において、小さなねじをドライバーで取り付けるということは難しい。つまり、現場の職人は10ミリほどのボルト(M10ボルト)をインパクトドライバーで一気に締め上げる作業は日常的に行っており、M10ボルトのビットは身に着けている。M10ボルトに合わせた設計となるとフランジは巨大なものとなり、取り扱いが難しく高額なものとなる。一方、小さなプラスねじを扱うことには慣れておらず、ビットも持ち合わせていないほか、取り付けたとしてもインパクトドライバーで一気に締め上げる作業となり、指定したトルクで締められる保証もない。高所作業では小さなねじであれば作業中に落とす可能性もあり、事故につながりかねない。工場で組み立てて建設現場に運ぶこともできず、建設現場では作業中に降雨となることもしばしあり、作業中に導波管内に雨水が入ることもある。トンネルや船舶内も同様の環境である。
【0009】
このような理由から防水用のフランジは使えず、また雨水等が混入することを完全に防ぐこともできない。
【0010】
また、同軸導波管変換器及び導波管内が高湿度となれば、その結露によって同軸導波管変換器内に水滴が生じることもある。
【0011】
本発明の目的は、液滴や塵埃等の異物の残留や発生を抑制して、電気的特性に大きな影響を与えない同軸導波管変換器及びそれを備える導波路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一例としての同軸導波管変換器は、内部空間を形成する外導体と、導波管が接続される導波管接続部と、同軸線路が接続される同軸コネクタと、当該同軸コネクタの内導体に接続されて前記内部空間内に突出するプローブと、を備え、同軸線路と導波管との伝送路変換を行う同軸導波管変換器であって、前記外導体の、同軸導波管変換器の設置状態での自由落下方向の位置に、排液排塵埃のための開口部を備える。
【0013】
本開示の一例としての導波路は、前記同軸導波路変換器と、当該同軸導波管変換器の前記導波管接続部に接続された導波管と、当該導波管に接続された同軸導波管変換器と、で構成される。
【0014】
この構成によれば、同軸導波管変換器の内部に入った又は生じた液滴や塵埃は、同軸導波管変換器の設置状態で開口部から外部へ排出される。また、同軸導波管変換器内は密閉されないので結露が生じにくい。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、液滴や塵埃等の異物の残留や発生を抑制して、電気的特性に大きな影響を与えない同軸導波管変換器及びそれを備える導波路が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は第1の実施形態に係る同軸導波管変換器101の斜視図である。
図2図2は第1の実施形態に係る同軸導波管変換器101の斜視図である。
図3図3は、図1に示した状態から2つのビス及び1つのナットと共に中心導体支持具25を取り外した状態の斜視図である。
図4図4は、図3に示した状態から端面板24を取り除いた状態での斜視図である。
図5図5は、図4に示した状態から発泡体23を取り除いた状態での斜視図である。
図6図6は、図5に示した状態から外導体21を取り除いた状態での斜視図である。
図7図7は同軸導波管変換器101及び導波管の一部の断面図である。
図8図8(A)は同軸線路部1を伝搬するTEMモードの伝搬方向に対する直交面における電磁界の分布を示す図である。図8(B)は導波管201を伝搬するTM01モードの電磁界分布を示す図であり、上部は伝搬方向に対する直交面における電磁界分布、下部は伝搬方向に対する平行面における電磁界分布である。
図9図9は、図7に示した導波管201の先の構造を含む、導波路301の構成を示す正面図である。
図10図10(A)、図10(B)は、同軸導波管変換器101に水を入れ、同軸導波管変換器101の内面及び入水阻止部27を十分に濡らした後、同軸導波管変換器101を2個向かい合わせにした状態で、時間経過に伴う伝送効率S21及び反射率S11の変化を示す図である。
図11図11(A)、図11(B)は図10(B)に続く、伝送効率S21及び反射率S11の変化を示す図である。
図12図12は、図11(B)に続く、伝送効率S21及び反射率S11の変化を示す図である。
図13図13は、第2の実施形態に係る同軸導波管変換器102と、それに接続された導波管201の一部を示す断面図である。
図14図14(A)、図14(B)は、同軸線路と矩形導波管との接続部の構造を示す部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
《第1の実施形態》
第1の実施形態では、導波管の電磁波伝搬方向と自由落下方向とが平行関係にある同軸導波管変換器及び導波路について例示する。
【0018】
図1及び図2は本発明の第1の実施形態に係る同軸導波管変換器101の斜視図である。図3から図6までは、同軸導波管変換器101の構成部品を順に取り除いた状態での説明用の斜視図である。
【0019】
同軸導波管変換器101は、外導体21と、同軸コネクタ10と、を備える。外導体21は、導波管が接続される導波管接続部2Cを備える。また、同軸導波管変換器101は端面板24と、この端面板24に固定された中心導体支持具25を備える。
【0020】
本実施形態では、同軸コネクタ10は同軸プラグ(メスコンタクト)であり、この同軸プラグに、図外の同軸線路の端部に設けられた同軸ジャック(オスコンタクト)が接続される。また、導波管接続部2Cにはフランジ部21Fが形成されていて、このフランジ部21Fに、図外の導波管の端部に形成されているフランジ部が接続される。
【0021】
同軸導波管変換器101は、同軸コネクタ10に接続される同軸線路と、導波管接続部2Cに接続される導波管との伝送路変換を行う。
【0022】
図3は、図1に示した状態から2つのビス及び1つのナットと共に中心導体支持具25を取り外した状態の斜視図である。詳細は後に示すが、中心導体22の一端は中心導体支持具25によって支持されている。端面板24の中心部には、中心導体22の直径より内径の大きな開口部3Aが形成されている。
【0023】
図4は、図3に示した状態から端面板24を取り除いた状態での斜視図である。外導体21の端面にはチョーク溝21Cが形成されている。このチョーク溝21Cには絶縁性樹脂の発泡体23が設けられている。
【0024】
図5は、図4に示した状態から発泡体23を取り除いた状態での斜視図である。発泡体23はチョーク溝21Cを埋める部材であり、チョーク溝21Cに水滴などが入るのを阻止する。この発泡体23は絶縁体又は誘電体であり、電波は伝搬する。
【0025】
発泡体23はチョーク溝21Cの全体を充填する形状ではなく、部分的にくり抜いた形状である。この例では、4箇所をそれぞれ扇形状にくり抜いている。そのため、チョーク溝21Cの実効誘電率を低くできる。つまり、発泡体23を設けることによる、チョーク溝21C内の実効誘電率を大きくすることがなく、発泡体23は電磁界的には悪影響を与えない。
【0026】
図6は、図5に示した状態から外導体21を取り除いた状態での斜視図である。中心導体22の中央部はビス26を介して同軸コネクタ10の内導体12に接続されている。外導体21には、ビス26を同軸コネクタ10の内導体12にねじ留めするドライバーを差し込むための通気口が形成されている。キャップ28は、ビス26を同軸コネクタ10の内導体12にねじ留めした後に上記通気口を塞ぐための部材である。このキャップ28は、通気性はあるが水滴を遮断する部材である。中心導体22の一部は導波管接続部の方向に先細りの形状のプローブ22Pである。同軸コネクタ10の内導体12の周囲には入水阻止部27が設けられている。
【0027】
図7は同軸導波管変換器101及び導波管の一部の断面図である。同軸導波管変換器101の外導体21には同軸コネクタ10の外導体11が接続されている。同軸導波管変換器101の導波管接続部21Jにはフランジ部21Fが形成されている。このフランジ部21Fに、導波管201の端部に形成されているフランジ部201Fが対向する状態で、フランジ部21Fとフランジ部201Fとが、図外のボルト・ナットによってねじ留めされる。
【0028】
同軸導波管変換器101は、同軸コネクタ10と、この同軸コネクタ10が接続される同軸線路部1と、同軸線路部1と導波管接続部2Cとの間で伝送モードを変換する伝送モード変換部2と、チョーク構造部3とを備える。
【0029】
同軸線路部1の主要部は、外導体21の円筒形の部分と、この外導体21の中心部に配置された中心導体22とで構成されている。同軸線路部1の下端部21H2は開口部3A方向に先細りとなるホーン形状である。同軸線路部1の、同軸導波管変換器101の設置状態での自由落下方向の位置には(後に示すチョーク構造部に)、排液排塵のための開口部3Aを備える。
【0030】
同軸線路部1において、中心導体22に対する同軸コネクタの内導体12の接続位置(同軸線路部1の下端部21H2からの距離)は、同軸線路部1の線路のインピーダンスが同軸コネクタ10及びそれに接続される同軸ケーブルの特性インピーダンスに整合するように定めればよい。
【0031】
伝送モード変換部2は外導体21の内面21H1とプローブ22Pとで構成されている。この伝送モード変換部2の外導体21の内面21H1は開口部3A方向に内径が次第に先細りとなるホーン形状である。また、プローブ22Pは導波管接続部方向に先細りの形状である。
【0032】
チョーク構造部3の主要部は、外導体21に形成されている開口部3A、外導体21に形成されているチョーク溝21C及び端面板24で構成されている。
【0033】
中心導体22は中心導体支持具25及び同軸コネクタの内導体12の2点で支持されている。そのことにより、中心導体22は同軸線路部1及び伝送モード変換部2の中心位置に配置されている。
【0034】
同軸線路部1とチョーク構造部3のチョーク溝21Cの短絡端(奥行端)Aまでの電気長は、管内波長をλgで表すと概ねλg/2である。また、この例では、同軸線路部1とチョーク構造部3のチョーク溝21Cまでの電気長は、約λg/4であり、チョーク溝21Cの中心から外周までの電気長も約λg/4である。上記λg/2の長さ部分には波が乗るが、チョーク溝21Cの短絡端Aで短絡されているので、同軸線路部1の下端部21H2は等価的短絡端C(電気壁)として作用する。
【0035】
伝送モード変換部2、同軸線路部1及びチョーク構造部3の内面(外導体21の内面)には撥水性の表面処理層が形成されている。この表面処理層は例えば水の接触角が90°以上となる撥水性の膜である。また、この表面処理層は粗面化により微細な凹凸パターンが形成された層である。
【0036】
また、伝送モード変換部2、同軸線路部1及びチョーク構造部3の内面(外導体21の内面)には腐食防止処理層が形成されている。外導体21は銅であり、腐食防止処理層は例えば亜鉛めっき膜、錫めっき膜等である。上記表面処理層は腐食防止処理層の表面に形成されている。
【0037】
何らかの原因で、導波管201又は同軸導波管変換器101内に液滴や塵埃等の異物の残留や発生があっても、これら異物は自然落下により、開口部3Aから外部へ落下放出される。導波管201、伝送モード変換部2、同軸線路部1、チョーク構造部3には異物が溜まる箇所がないので、異物は開口部3Aから外部へ速やかに落下放出される。
【0038】
特に、外導体21の内面に撥水性の表面処理層が形成されているので、水滴等の液滴が滑り落ちて外部へ速やかに排出される。また、外導体21の内面に腐食防止処理層が形成されているので、水滴等の液滴による腐食が予防される。
【0039】
なお、図4に示したように、チョーク溝21Cに絶縁性樹脂の発泡体23が設けられているので、上記異物がチョーク溝21C内に拡がって残留することはない。また、既に記述したとおり、発泡体23はチョーク溝21C内の全体を充填するわけではなく、中心導体22の周囲を囲む中心部と、チョーク溝21Cの外周に接する外周部と、この中心部と外周部とを繋ぐスポーク状部とで構成されている。そのため、チョーク溝21C内を低実効誘電率に保つことができる。
【0040】
同軸コネクタ10の内導体12と同軸導波管変換器101の外導体21との間に設けられている入水阻止部27は絶縁性樹脂の発泡体である。このように、同軸コネクタ10の内導体12と同軸導波管変換器101の外導体21との間に入水阻止部27が形成されているので、この部分から同軸導波管変換器101内部への入水が阻止される。また、逆に、同軸導波管変換器101の内部に一時的に溜まった水が同軸コネクタ10の取付部から同軸コネクタ側へ漏洩することが防止される。
【0041】
また、同軸導波管変換器101の外導体21に形成されている通気口21Vは、ビス26を同軸コネクタ10の内導体12にねじ留めするドライバーを差し込むための口としてだけでなく。通気口として作用する。つまり、この通気口21Vには、通気性はあるが水滴を遮断する部材であるキャップ28が設けられているので、同軸導波管変換器101及び導波管201の内部空間21Sの除湿のために効果的に作用する。
【0042】
図8(A)は同軸線路部1を伝搬するTEMモードの伝搬方向に対する直交面における電磁界の分布を示す図である。図8(B)は導波管201を伝搬するTM01モードの電磁界分布を示す図であり、上部は伝搬方向に対する直交面における電磁界分布、下部は伝搬方向に対する平行面における電磁界分布である。これらの図において、実線は電界の方向及び分布、破線は磁界の方向及び分布をそれぞれ示している。
【0043】
図7に示した伝送モード変換部2は上記TEMモードとTM01モードとの変換を相互に行う。
【0044】
ここで、上記チョーク構造部3の有無及び開口部3Aの隙間寸法による電気的特性の変化について示す。表1において、「チョーク構造あり」は図7に示した本実施形態の同軸導波管変換器101の特性であり、「チョーク構造なし」は図7に示したチョーク溝21Cが無い構造の比較例としての同軸導波管変換器の特性である。また、この表1は、2つの同軸導波管変換器101を向かい合わせに接続し、開口部3Aの隙間寸法を変化させた場合の伝送効率(SパラメータのS21)の実測値である。表1においては、隙間の最小値を規格値dで表している。
【0045】
表1に表れているように、チョーク構造がなければ、開口部3Aの隙間寸法が大きくなるほど電波の漏洩が急激に大きくなるが、チョーク構造部3があれば、開口部3Aからの電波の漏洩が軽減され、隙間寸法を大きくしても伝送効率の低下は小さい。そのため、開口部3Aの隙間寸法を大きくできるため、高い排液排塵性能が得られる。
【0046】
【表1】
【0047】
図9は、図7に示した導波管201の先の構造を含む、導波路301の構成を示す正面図である。導波管201はその両端にフランジ部201Fを有し、一方に同軸導波管変換器101が接続されていて、他方に同軸導波管変換器102が接続されている。この導波路は例えば建築中の建物内や船舶内に鉛直方向に配置される。
【0048】
他方の同軸導波管変換器102の構造は同軸導波管変換器102の構造と基本的に同じである。但し、同軸導波管変換器102については、同軸導波管変換器101の開口部3Aに相当する開口部は無く、防水処理が施されている。そのため、同軸導波管変換器102の開口部から異物が内部に入ることはない。
【0049】
図9において、導波管201にはスロットアレイが形成されて、導波管アンテナが構成されている。このアンテナは例えば工事中現場の建物内や船舶内で無線通信のために用いられる。
【0050】
次に、同軸導波管変換器内部への入水後の時間経過に伴う伝送効率の回復特性について示す。
【0051】
図10(A)、図10(B)、図11(A)、図11(B)及び図12は、同軸導波管変換器101に水を入れ、同軸導波管変換器101の内面及び入水阻止部27を十分に濡らした後、同軸導波管変換器101を2個向かい合わせにした状態で、時間経過に伴う伝送効率(SパラメータのS21)及び反射率(SパラメータのS11)の変化を示す図である。
【0052】
図10(A)は入水前の特性、図10(B)は20mlの水を注入して同軸導波管変換器101の内面及び入水阻止部27を十分に濡らした直後の特性である。図11(A)は入水してから12時間経過後の特性であり、図11(B)は入水してから24時間経過後の特性である。図12は入水してから36時間経過後の特性である。この結果から次のことが分かる。
【0053】
入水直後は反射率S11が-1.7dB(全反射状態)であって通信不可能状態である。
12時間経過後は伝送効率S21が-3dBとなって通信可能状態となる。
24時間経過後は伝送効率S21が-0.6dBとなってほぼ正常状態となる。
36時間経過後は伝送効率S21が-0.4dBとなって正常状態となる。
【0054】
この実験結果から、通信不可(全反射)となる時間は限定的で降雨が収まれば通信が復旧することが分かる。
【0055】
なお、入水阻止部27(発泡体)を十分に濡らした状態で実験しても同軸導波管変換器の電気的特性は所定の特定に戻るので、入水阻止部27が撥水性であれば、復旧時間は更に短くなる。
【0056】
なお、以上に示した各図では、データ処理量の都合により、円や円弧を多角形的に表したが、実際には円形である。あるいは、実際に多角形的であってもよい。
【0057】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、導波管の電磁波伝搬方向と自由落下方向とが直交する同軸導波管変換器について例示する。
【0058】
図13は、第2の実施形態に係る同軸導波管変換器102と、それに接続された導波管201の一部を示す断面図である。
【0059】
同軸導波管変換器102は、内部空間21Sを形成する外導体21と、導波管201が接続される導波管接続部21Jと、同軸線路が接続される同軸コネクタ10と、当該同軸コネクタ10の内導体に接続されて内部空間21S内に突出するプローブ22Pと、を備える。
【0060】
同軸導波管変換器102の導波管接続部21Jにはフランジ部21Fが形成されている。このフランジ部21Fに、導波管201の端部に形成されているフランジ部201Fが対向する状態で、フランジ部21Fとフランジ部201Fとが、図外のボルト・ナットによってねじ留めされる。
【0061】
同軸導波管変換器102はチョーク構造部3を備える。外導体21の、同軸導波管変換器102の設置状態での自由落下方向の位置に、排液排塵埃のための開口部3Aを備える。
【0062】
チョーク構造部3には、外導体21の内部空間21Sの下面に円錐状の面21Hを有する口と、その位置から放射方向に拡がる円板状の空間とでチョーク溝21Cが形成されている。円錐状の面21Hの中間位置とチョーク溝21Cの短絡端(奥行端)Aまでの電気長は概ねλg/2である。このλg/2の長さ部分には波が乗るが、チョーク溝21Cの短絡端Aで短絡されているので、円錐状の面21Hの中間位置は等価的短絡端C(電気壁)として作用する。
【0063】
上記円錐状の面21Hは、開口部3Aへの方向に先細りとなる先細り形状部である。本実施形態では、円錐状の面21Hの中心線はプローブ22Pの中心線と重なる。
【0064】
上記開口部3Aは電波の漏洩を阻止する等価的開放端Bの位置に設けられている。
【0065】
第1の実施形態で示した例と同様に、外導体の内面には撥水性の表面処理層及び腐食防止処理層が設けられている。
【0066】
上記プローブ22Pは同軸コネクタ10の内導体を兼ねている。このプローブ22Pの周囲に、入水を阻止し、撥水性を有する入水阻止部27が設けられている。
【0067】
内部空間21Sのうちプローブ22P近傍とプローブ22PとでTEMモードとTM01モードとの伝送モード変換がなされる。
【0068】
チョーク構造部3の上面の等価的短絡端Cは外導体21の内面と等価的に同電位であり、短絡面であるので、開口部3AはTEMモード及びTM01モードに影響を与えない。
【0069】
何らかの原因で、導波管201又は同軸導波管変換器102内に液滴や塵埃等の異物の残留や発生があっても、これら異物は自然落下により、開口部3Aから外部へ落下放出される。また、プローブ22Pの結露によって水滴が自然落下しても、その水滴は開口部3Aから速やかに外部へ放出される。
【0070】
最後に、本発明は上述した実施形態に限られるものではない。当業者によって適宜変形及び変更が可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変形及び変更が含まれる。
【0071】
例えば、本発明においての「円形導波管」とは、管内に円形導波管モードの電磁界が生じる導波管のことであり、必ずしも真円に限らない。例えば、軸に直交する面での断面が多角形であってもよい。
【0072】
また、以上に示した各図では、TM01モードの電磁波を伝搬させる導波管を接続する同軸導波管変換器及び、この同軸導波管変換器と導波管とで構成される導波路について示したが、導波管を伝搬する電磁波はTM01モードに限らない。例えば方形導波管を用いて、TE10モード、TE11モード、TM11モード等各種モードの電磁波を伝搬する導波管を用いてもよい。
【符号の説明】
【0073】
A…短絡端
B…等価的開放端
C…等価的短絡端
EW…電気壁
WA…水
1…同軸線路部
2…伝送モード変換部
3…チョーク構造部
3A…開口部
10…同軸コネクタ
11…同軸コネクタの外導体
12…同軸コネクタの内導体
21…外導体
21C…チョーク溝
21F…フランジ部
21H…円錐状の面
21H1…伝送モード変換部2の外導体21の内面
21H2…同軸線路部1の下端部
21J…導波管接続部
21S…内部空間
21V…通気口
22…中心導体
22P…プローブ
23…発泡体
24…端面板
25…中心導体支持具
26…ビス
27…入水阻止部
28…キャップ
101,102…同軸導波管変換器
201…導波管
201F…フランジ部
301…導波路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14