(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】濃褐色の天然カカオの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23G 1/30 20060101AFI20241203BHJP
A23G 1/06 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
A23G1/30
A23G1/06
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020191446
(22)【出願日】2020-11-18
(62)【分割の表示】P 2016521425の分割
【原出願日】2014-06-04
【審査請求日】2020-12-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-21
(32)【優先日】2013-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515356292
【氏名又は名称】オラム インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】デ ムインク,リアン
【合議体】
【審判長】加藤 友也
【審判官】植前 充司
【審判官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/004619(WO,A1)
【文献】Food Research International,2010年,Vol.43,p.1614-1623
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/30
A23G 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃褐色の天然カカオ粉末の製造方法であって、
カカオケーキと水とを混合して混合物を製造する工程、
前記混合物に、34kPa(5psi)~172kPa(25psi)高めた圧力をかけ、
少なくとも85℃以上かつ125℃未満の温度に加熱する工程、
前記混合物を乾燥させて、乾燥したカカオケーキを製造する工程、および
前記乾燥したカカオケーキを、濃褐色の天然カカオ粉末に磨り潰す工程、
を含み、
前記濃褐色の天然カカオ粉末の製造方法がアルカリ化を含ま
ず、
前記カカオケーキが、殻が剥かれたカカオ豆から調製される、方法。
【請求項2】
前記混合物の含水率が27%~35%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記圧力が34kPa(5psi)~152kPa(22psi)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記混合物に20分~40分の時間にわたり前記圧力をかける、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記混合物が85℃~120℃の温度である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
カカオニブ、殻を剥いたカカオ豆またはこれらの組み合わせを磨り潰してカカオリカーを製造する工程、および
前記カカオリカーを圧搾してカカオバターおよび前記カカオケーキを製造する工程
を更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記カカオニブ、前記殻を剥いたカカオ豆またはこれらの組み合わせを焙煎する工程を更に含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記濃褐色の天然カカオ粉末と第2のカカオ粉末とを混合する工程を更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記天然カカオ粉末が、
10~15のL値、
4~6.2のa値、
3.5~6.0のb値、および
6未満のpH
を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記pHが4.5以上6未満である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記天然カカオ粉末が、5~10の算出されたC値を有する、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記天然カカオ粉末が、42~49の算出されたH値を有する、請求項9または10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2013年6月25日に出願された米国仮特許出願第61/839,100号に対する優先権を主張するものであり、この仮特許出願の内容全体がこの参照により援用される。
【0002】
技術分野
天然カカオ(cocoa、ココア)製品の製造方法を開示する。カカオリカー、カカオ粉末が挙げられるがこれらに限定されない天然カカオ製品、およびそのようなカカオ製品を含む食品を開示する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
カカオ豆の加工は、収穫した豆を発酵させる工程、この豆を乾燥させる工程、ニブを製造するためにこの豆の外皮を剥く工程、このニブを滅菌する工程、このニブを焙煎する工程、カカオリカーにこのニブを押し潰す工程、および任意選択的にカカオバターおよびカカオ粉末を得るためにこのカカオリカーを圧搾する工程を含む。
【0004】
伝統的に、天然カカオ製品は色が薄い褐色であり、5.1~6.0の範囲のpHを有する。Hunterlab比色計により測定した、30グラムの水中における10gの天然カカオの典型的なL値は20以上であり、a値およびb値は8.5以上である。
【0005】
カカオ製品をより濃くてより赤みがかった色にするために、アルカリ化処理において、一定量のある種のアルカリが添加される。アルカリ化とは、一定量の水蒸気下で、一定温度で、任意選択的に加圧下で一定時間にわたりカカオ製品をアルカリ化する処理のことである。アルカリ化処理は、ナトリウム、カリウム、アンモニウムまたはマグネシウムの水酸化物または炭酸塩の存在下で起こり、例えば限定されないがカリ(K2CO3)の存在下で起こる。アルカリ化処理により、水中におけるカカオ粉末の風味、色合いおよび溶解性が変化する。
【0006】
カカオ製造業者への現在の商業上の要望は、幅広い色調の色、風味またはその両方でカカオ製品を製造することである。各製造業者は、温度、含水量、処理継続時間およびpH等の処理条件の操作が、製造したカカオ粉末の色および風味に影響を及ぼすであろうということを理解しているが、常に望ましい色、風味またはその両方を持つカカオ製品をどのようにして製造するかについての一般的な統一見解はまだない。
【0007】
アルカリ化処理を使用して、より濃いおよび/またはより赤みがかったカカオ製品を製造することができるが、アルカリ化剤の存在は、そのようなカカオ製品の表示にも影響を及ぼす。そのようなアルカリ化カカオ製品は、「アルカリで処理されている」と表示されることが多い。そのため、アルカリ化剤の存在は、そのようなカカオ製品を「天然」と見なすことができないことを意味しており、消費者は「全てが天然の」製品を求めているが、天然カカオ製品のほとんどは色が薄い褐色である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そのため、アルカリ化カカオ製品の色を持つが、それにもかかわらず「天然」と見なされるカカオ製品へのニーズが高まっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要約
様々な実施形態それぞれにおいて、本発明はこのニーズを満たすのに役立ち、アルカリ化カカオ製品の色を有する「天然」カカオ製品の製造方法を開示する。そのような方法で製造されているカカオ製品も開示される。
【0010】
一実施形態では、濃褐色の天然カカオ製品の製造方法は、カカオケーキと水とを混合して混合物を製造する工程、混合物を高圧にかける工程、および混合物を乾燥させる工程を含む。濃褐色の天然カカオ製品はアルカリ化されない。
【0011】
更なる実施形態では、天然カカオ製品は、約10~約15のL値、約4~約6.2のa値、約3.5~約6.0のb値、および約6未満のpHを有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】コンパウンドコーティングにおける本発明の様々な実施形態の濃褐色の天然カカオのL値を示すグラフである。
【
図2】コンパウンドコーティングにおける本発明の様々な実施形態の濃褐色の天然カカオのa値を示すグラフである。
【
図3】コンパウンドコーティングにおける本発明の様々な実施形態の濃褐色の天然カカオのb値を示すグラフである。
【
図4】本発明の様々な実施形態の濃褐色の天然カカオで作ったコンパウンドコーティングの味覚評価を示すレーダーチャートである。
【
図5】本発明の様々な実施形態の濃褐色の天然カカオで作ったケーキの味覚評価を示すレーダーチャートである。
【
図6】本発明の様々な実施形態の濃褐色の天然カカオで作ったプディングの味覚評価を示すレーダーチャートである。
【
図7】本発明の様々な実施形態の濃褐色の天然カカオで作ったアイスクリームの味覚評価を示すレーダーチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
一実施形形態では、濃い天然カカオが製造される。この濃い天然カカオは濃褐色であることができる。このカカオは、カカオケーキまたはカカオ粉末であることができる。
【0014】
更なる実施形態では、濃い天然カカオの製造方法は、カカオケーキと水とを混合して混合物を製造する工程、混合物を高圧にかける工程、および/または混合物を乾燥させる工程を含む。混合物の水分は約26%~約35%であることができる。水を、約125℃未満、約85℃~120℃の温度または約190°F~約250°Fの温度に加熱することもできる。
【0015】
別の実施形態では、カカオケーキと水の混合物を、例えば約5~約25psiの圧力にかけることができる。混合物をこの圧力で約30分~約200分の時間にわたり反応させることができる。この混合物を、例えば大気圧または減圧下で乾燥させることもできる。このカカオケーキを磨り潰してカカオ粉末にすることもでき、このカカオ粉末は、最小でも98%が200メッシュスクリーンを通る粉末度を有することができる。
【0016】
ある実施形態では、カカオケーキは西アフリカ起源であることができ、その他の実施形態ではその他の起源であることができる。
【0017】
更に追加の実施形態では、ニブ、殻が剥かれた豆またはこれらの組み合わせを滅菌する。
【0018】
更なる実施形態では、カカオニブ、殻が剥かれた豆またはこれらの組み合わせを磨り潰してカカオリカーを製造することができる。このカカオリカーをカカオバターおよびカカオ圧搾ケーキに分離することができ、またはこのカカオリカーを脱脂することができる。このカカオ圧搾ケーキを更に磨り潰してカカオ粉末にすることができる。
【0019】
別の実施形態では、本発明の天然カカオ製品は、約15.0、14.0、13.0、12.0、11.0、10.0、9.0、8.0、7.0、6.0、5.0、4.0未満またはこれより低いL値を有するカカオ製品を意味する濃い色を有することができる(これらの値の中間値も含む)。L値は、約10~約15であることもできる。a値は、約4~約6.2であることができる。b値は、約3.5~約6.5であることができる。算出されたC値は、約5~約10であることができる。算出されたH値は、約42~約49であることができる。
【0020】
さらに別の実施形態では、本発明の天然カカオ製品は、約6未満、約3~約6のpH、約4.5~約6のpHまたは約5~約6のpHを有する。
【0021】
一実施形態では、本明細書に記載する方法の出発物質は、殻が実質的に除去されている、破壊されているおよび/または吹き飛ばされている任意の適切なカカオ豆の断片/製品を意味する、殻が剥かれたカカオ豆であることができる。殻が剥かれたカカオ豆の非限定的な例として、ニブ、仁(kernel)および子葉が挙げられるがこれらに限定されない。殻が剥かれたカカオ豆は典型的には、商業的に許容される誤差内であるほんのわずかな混入殻を含む。なぜならば、殻を剥く処理は100%完全ではないからである。
【0022】
追加の実施形態では、本発明の天然カカオ製品を製造するのに使用するカカオ豆は十分に発酵されている。更なる実施形態では、本発明の天然カカオ製品を製造するのに使用するカカオ豆は不十分な発酵または未発酵である。
【0023】
一実施形態では、本明細書で製造される天然カカオ製品は多くの商業目的に適しており、この商業目的として食品が挙げられるがこれに限定されない。食品の例として、チョコレート、ダークチョコレート、ミルクチョコレート、セミスイートチョコレート、ベーキングチョコレート、キャンディ、プラリネ、トリュフ、キャンディバー、フレーバーシロップ、製菓用コーティング、コンパウンドコーティング、フィリング、飲料、乳製品、牛乳、アイスクリーム、飲料ミックス、スムージー、豆乳、ケーキ、チーズケーキ、クッキー、パイ、ダイエットバー、食事代替用の固形食および飲料、エネルギーバー、チョコレートチップ、ヨーグルト、ヨーグルト飲料、プディング、ムース、モーレ、苦味を抑えたチョコレート、ヨーグルトおよび/またはチーズケーキ等のフィリングが入ったチョコレートが挙げられるがこれらに限定されない。
【0024】
カカオ製品の色を測定するための多くの客観的方法が知られている。Hunter表色系またはCIE 1976(CIELAB)および同様の系である一つの方法では、下記の3つのパラメータの観点で色を説明することができる:明度(L)-色の明るい外観または暗い外観、L値が低い程、カカオ粉末はより濃く見えるようになる;彩度(C)-鮮やかな色またはくすんだ色を識別するための色の強度、C値が高い程、粉末はより鮮やかになる;および色相(H)、赤色、黄色または青色等の日常の言葉での色を意味する。カカオ粉末の場合、低いH値は赤色を示し、高いH値は褐色を示す。
【0025】
CIE 1976表色系は、L座標、「a*」座標および「b*」座標という観点で色を説明する。L座標は明度の値と一致しており、a*座標およびb*座標から、彩度および色相を下記のように算出することができる:C*={(a*2+b*2)の平方根}、H=逆タンジェント(b*/a*)。
【0026】
スペクトル色は、光源および反射面によって生じたものである。良好に再現可能な色の測定のために、光源は標準化されている。色を測定するために下記の2種の基本的なアプローチが存在する:目視によるアプローチまたは計測器によるアプローチ。人間は本来、「自分自身の目」のみを信用する傾向がある。このため、色は目視により判断されることが依然として多い。このことを再現可能な方法で行えるようにするために、下記のいくつかの標準条件を満たすことが必要である:光源、例えば限定されないがCIE標準光源;光源に対する試料の位置、好ましくは互いに45°の角度である;試料の背景、均一なおよび好ましくは灰色;目と試料との間の距離および試料に対する目の位置;ならびに試料のサイズ。
【0027】
実際には、目視による色測定のために、カラーキャビネットを標準光源と共に使用する。計測器による色の読み取りの場合は色度計および分光光度計を使用する。本明細書の実施例では、Hunterlab比色計を使用して、水30g中の天然カカオ10gを測定して計測器による色測定を行った。別途指示しない限り、実施例に記載する色値ならびに色値L、aおよびbに対する本明細書における全ての言及は、Hunterlab比色計を使用する読み取り値である。本明細書に記載する色パラメータは、L、aおよびbの読み取り値であり、C値およびH値は算出した。色測定は分光光度計毎に変動する可能性があり、典型的にはL、a、b、CおよびH値に関して+/-0.5の範囲で変動する可能性があるという意味で、本明細書に列挙されている色値は近似値である。従って、L、CおよびHに関して述べた値は、そのような分光光度計間特有の変動を含むことを意図している。
【0028】
下記の実施例は、本開示内の組成物の様々な非限定的実施形態を例示しており、本明細書に記載されているかまたは特許請求されていない限り、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0029】
実施例1
アルカリ化されていないカカオケーキを、27%~35%のレベルの水で、5psi~22psiの圧力レベルおよび約30分の処理時間にて処理した。この処理を、ケーキのアルカリ化処理に概して使用される工業規模の反応器中で実行した。様々な試験の条件を表1に示す。
【0030】
【0031】
処理後に、処理したカカオケーキを真空下で乾燥させ、磨り潰して微粉末にした。この微粉末を下記に関して分析した:(10%水溶液での)pH、(粉末の25%水スラリーでHunterlabを使用する)水中における色、(粉末の4%牛乳溶液での目視による)牛乳中における色、粉末度(75μmのスクリーンを通り抜けるパーセントで決定される湿り気)ならびに(4%の粉末、5%の砂糖および温水を使用する)温水における風味。pH、色および粉末度を表2に示す。表3は、典型的なカカオ粉末のpHおよび色値の範囲を示す。
【0032】
【0033】
【0034】
表2の色値は、水で処理したカカオケーキの強い発色(color development)を示す。試験1および試験2は、典型的なアルカリ化された赤色のカカオのL値と典型的なアルカリ化された濃褐色のカカオのL値との間のL値を示し、試験3のL値は、アルカリ化された赤色のカカオのL値と中程度にアルカリ化された褐色のカカオのL値との間のL値を有する。より低いC値は、輝きがより低く灰色がかった色相に相当する。H値は水処理中に大きく変化せず、このことは、粉末は褐色のままであり、アルカリ化カカオ粉末に典型的である赤色の色調を示さなかったことを示す。全体として、色値は、本発明の天然の濃いカカオが従来の天然カカオと比較して真に濃い褐色であることを示す。牛乳で観測した色は、測定したカカオの値の結果を裏付ける。
【0035】
濃い天然カカオの風味は、通常の天然カカオおよびアルカリ化カカオと大きく異なる。典型的な天然カカオは酸味があり(acidic)、渋く、苦く、ある程度の果実のような香りを有し得、ある程度の更なる起源特有の香りを有し得る。典型的なアルカリ化カカオでは、天然カカオの酸味ある香りが、増加するアルカリ性インパクトによって置き換わり、全体的なカカオインパクトはより強烈になり、渋味が減少する。アルカリ化の程度により、これらの香りの強度が決定される。
【0036】
本発明の濃い天然カカオは口当たりのよいカカオインパクトを有し、わずかな香辛料のような香り、わずかな酸っぱい(sour)香りおよび非常にわずかな渋い香りを示す。試験2は、ある程度の焙煎された香りを有し、試験1は、わずかにより強い焙煎された香りを有した。本発明の天然の濃いカカオは、従来の天然カカオ製品またはアルカリ化カカオ製品の風味と異なる。本発明の天然の濃いカカオの色はまた、全体的な色スペクトルの濃い側にあり、天然カカオの風味を有しつつ中程度にアルカリ化されたカカオの色インパクトと同様の色インパクトを作るために、例えば1対2の比率で従来の天然カカオと混合され得る。
【0037】
実施例2
実施例1の濃い天然カカオ製品を使用してコンパウンドコーティングを調製した。表4の配合を使用して、ホワイトベースおよびカカオベースを調製した。
【0038】
【0039】
使用したカカオ粉末は、市販の天然カカオ(N)、市販の赤色カカオ(R)、市販の黒色カカオ(B)、実施例1の試験1のカカオ、試験2のカカオおよび試験3のカカオであった。ホワイトベースおよびカカオベースを混合して、1%~15%のカカオ含有量を有する製品を作った。各製品のL値を評価して
図1に示す。
【0040】
図1は、市販の天然カカオ(N)で調製したコーティング、市販の赤色カカオ(R)で調製したコーティングおよび市販の黒色カカオ(B)で調製したコーティングと比較した、濃い天然カカオのコンパウンドコーティングの色の濃さを示す。試験3のカカオを含むコンパウンドコーティングのL値は、天然(N)カカオで作ったコーティングと赤色(R)カカオで作ったコーティングとの間である。天然(N)カカオを含むコーティングとL値を同じにするためには、試験3のカカオの75~85%が必要である。コーティングにおける試験2のカカオのL値はコーティングにおける赤色(R)カカオのL値と比べて低く、コーティングにおいて天然(N)カカオと同じL値を達成するためには試験2のカカオの60~80%が必要である。試験1からのカカオを含むコーティングは、実施例1の濃い天然化カカオで作った最も濃いコーティングであり、コーティングにおいて天然(N)カカオと同じL値を達成するためには試験1のカカオの50%~70%が必要である。
【0041】
この実施例で作ったコンパウンドコーティングのa測定値およびb測定値も取得しており、
図2および
図3にそれぞれ示す。試験1の濃い天然カカオを含むコーティング、試験2の濃い天然カカオを含むコーティングおよび試験3の濃い天然カカオを含むコーティングのa値は、赤色(R)カカオを有するコーティングおよび天然(N)カカオを有するコーティングのa値と比べて低い。試験3のカカオを含むコーティングのb値は、赤色(R)カカオを有するコーティングとほぼ同じであり、天然(N)カカオを含むコーティングのb値と比べて低い。試験1の濃い天然カカオを有するコーティングおよび試験2の濃い天然カカオを有するコーティングのb値は、赤色(R)カカオを有するコーティングのb値と比べて低い。
【0042】
算出したC値およびH値は、試験1の濃い天然カカオを有するコーティングおよび試験2の濃い天然カカオを有すコーティングは輝度および色相がかなり似ているが、試験3のカカオを含むコーティングは、試験1のカカオを含むコーティングおよび試験2のカカオを含むコーティングと比べてわずかに灰色であることを示す。実施例1の濃い天然カカオを含む3種のコーティングは、アルカリ化カカオで概して見られる赤色の色相の顕色がない濃褐色である。
【0043】
この実施例でのデータは、コンパウンドコーティングにおいて、ある程度のL値を達成するために必要な本発明の濃い天然カカオの量が市販の天然(N)カカオと比較して低いことを示す。このことは有利であるだろう。なぜならば、そのようなカカオ製品を含む食品を製造する際に使用するカカオがより少ないためにコスト削減を実現することができる可能性があるからである。
【0044】
実施例3
実施例1の濃い天然カカオで作ったコンパウンドコーティングの風味を、参照としての市販のカカオと比較した。下記の混和物を使用した:10%の市販の天然カカオおよび5%の市販の赤色カカオを含む参照、10%の市販の天然カカオおよび5%の試験1のカカオを含む試験1、10%の市販の天然カカオおよび5%の試験2のカカオを含む試験2、ならびに10%の市販の天然カカオおよび5%の試験3のカカオを含む試験3。3種の試験を参照に対して試験した。
【0045】
17人の経験豊富なパネリストの群に、コンパウンドコーティングに典型的な記述子に関して-6~+6の範囲のスケールを使用するように求めた。評価の平均を算出し、結果を
図4のレーダーチャートに表す。
【0046】
試験2からのカカオを含む混和物および試験3からのカカオを含む混和物は、酸っぱい(sour)/酸味(acidic)インパクトを除いて非常に似た得点であり、参照カカオを含む参照コーティングと非常に似ていた。試験1からのカカオを含む混和物は甘さがより少なく、カカオ/チョコレートの香り、酸っぱい/酸味ある香りおよび焙煎された香りのインパクトがより高かった。
【0047】
実施例4
試験1、試験2および試験3の濃い天然カカオを含む実施例3の混和物、参照天然カカオ粉末(Ref)ならびに赤色カカオと混合した参照天然カカオ粉末(Red)ならびに全て赤色カカオを、チョコレート風味のケーキでも試験した。従来のレシピを使用してケーキを作り、このケーキは5.4%のカカオを有した。評価した混和物は、2/3(レシピの3.6%)の、参照天然カカオもしくは実施例1の濃い天然カカオと混和した参照天然カカオ、または5.4%の赤色カカオを含んだ。
【0048】
この実施例で評価したケーキは全て、同様のべーキング性能、高さおよび形状を有した。唯一の例外は参照天然カカオで作ったケーキであり、このケーキの高さはより低かった。試験1のカカオを含むケーキの色が最も濃く、参照混和物と比較して、赤みがかった色調よりも強い褐色であった。試験2のカカオを含むケーキおよび試験3のカカオを含むケーキは同様の色、濃さであり、参照カカオの内の1つと比べて強い褐色であり、その他の参照カカオと比べてわずかに薄くて強い褐色であった。
【0049】
これらのケーキの風味を、7人の経験豊かなテスターの群により評価した。味覚評価の結果のレーダーチャートを
図5に示す。Ref混和カカオ(3.6%の標準的な天然カカオおよび1.8%の標準的な赤色カカオ)を含むケーキは、より酸味があり、Red混和物にはないある程度の苦いおよび土の香りを有した。試験1のカカオを含むケーキは、より酸味があり、Ref試料にはない苦い、焦げたようなおよび木材のような香りを有した。試験2のカカオを有するケーキは、Ref試料と比べて強いチョコレートの香りを有し、香辛料のような、木材のような、焦げたようなおよび果実のような香りも有した。試験3のカカオを含むケーキは、より強いチョコレートの香りを有したが、その他ではRef試料と同様であった。
【0050】
試験1からのカカオをクッキーでも使用し、中程度の/赤色のアルカリ化のカカオで作ったクッキーと比較した。試験1のカカオで作ったクッキーは、アルカリ化粉末と比べて強い褐色であった。
【0051】
実施例5
実施例3(試験1、試験2、試験3およびRef)のコンパウンドコーティングで評価したカカオの試料混和物をプディングでも評価し、軽くアルカリ化されているカカオ(LA)と比較した。下記のプディングのレシピを使用した:1パッケージのJELL-O混和バニラインスタントプディング、3カップの2%牛乳、および25グラムのカカオ(2.7重量%)。先の実施例で見られるように、試験1のカカオは、プディングにおけるRef混和物と比べて濃くて強い褐色であった。プディングにおける試験2のカカオは、プディングにおけるRef混和物と比べて濃くて強い褐色であった。試験1のカカオで作ったプディングおよび試験2のカカオで作ったプディングは、軽くアルカリ化されているカカオで作ったプディングと比べて明らかに濃くて強い褐色であった。
【0052】
プディングにおいて風味評価も実施し、結果を
図6のレーダーチャートに表す。先の実施例と一致して、プディングにおける試験1からのカカオは、Refカカオと比べて酸味があり、チョコレートのおよび牛乳のような香りが少なかった。試験2のカカオを含むプディングは、Refカカオを含むプディングと比べて甘く、カカオ/チョコレートの、牛乳のようなおよび焙煎された香りが弱かった。試験3のカカオを含むプディングは、Refカカオを含むプディングと比べて甘さが抑えられており、チョコレートおよび牛乳のような香りが強烈であった。
【0053】
実施例6
実施例1の天然の濃いカカオをGreekヨーグルトでも評価した。CHOBANI商標のGreekヨーグルトと、3%および5%の濃度のカカオでの、参照カカオおよび試験1のカカオおよび試験2のカカオの混和物とを混合した。2例の試料では、4%および6%の砂糖も加えて苦味を相殺した。評価した5例の試料は下記を含んだ:3%の参照カカオ;1.5%の参照カカオおよび1.5%の試験1のカカオ;1.5%の参照カカオおよび1.5%の試験2のカカオ;2%の参照カカオ、1%の試験1のカカオおよび4%の砂糖;ならびに2.6%の参照カカオ、1.3%の試験1のカカオおよび6%の砂糖。様々な試料の評価から、最後の試料である2.6%の参照カカオ、1.3%の試験1のカカオおよび6%の砂糖が、色および爽やかなチョコレートの風味により人気であった。
【0054】
実施例7
カカオの5例の試料を調製した。市販の天然カカオ(試料1)、2/3の市販の天然カカオおよび1/3の参照赤色カカオの混和物(Ref)、2/3の市販の天然カカオおよび1/3の試験2の天然の濃いカカオの混和物(試料2)、2/3の市販の天然カカオおよび1/3の試験1の天然の濃いカカオの混和物(試料3)をアイスクリームで評価した。下記の配合:315mlのハーフアンドハーフ、315mlのヘビーホイッピングクリーム、115グラムの砂糖、小さじ0.5杯のバニラ抽出物および15グラムのカカオ試料を使用して、アイスクリームを調製した。材料を混合し、こすり落とし、約30~40分にわたりアイスクリームメーカー中で凍らせた。
【0055】
試験1のカカオで作ったアイスクリームおよび試験2のカカオで作ったアイスクリームは、参照ミックスで作ったアイスクリームと比べて濃く、試験1のカカオを含むクリームが最も濃かった。試験1のカカオで作ったアイスクリームおよび試験2のカカオで作ったアイスクリームの色は、軽くアルカリ化されているカカオで作ったアイスクリームと類似していた。
【0056】
14人の経験豊かなテスターのパネルによる官能評価を、この実施例で調製したアイスクリームで実施した。評価の結果のレーダーチャートを
図7に示す。天然カカオで作ったアイスクリーム(試料1)が最も酸味があり、試験2のカカオで作ったアイスクリーム(試料2)は、顕著なメープルの、カラメルのおよび/または香辛料の香りを有しており、試験1のカカオで作ったアイスクリーム(試料3)は、その他のアイスクリームと比較してチョコレート/カカオのインパクトが少し低かった。
【0057】
本開示は、いくつかの例示的な実施形態、組成物およびこれらの使用を参照して説明されている。しかしながら、当業者は、本開示の趣旨および範囲を逸脱することなく、例示的な実施形態の内のいずれかの様々な置換、改変または組み合わせを行うことができることを認識することができる。そのため、本開示は、例示的な実施形態の記載により限定されず、最初の出願時に添付された特許請求の範囲により限定される。