(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】熱電変換素子、熱電変換モジュール、光センサ、熱電変換材料の製造方法および熱電変換素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 10/17 20230101AFI20241203BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20241203BHJP
H02N 11/00 20060101ALI20241203BHJP
H10N 10/01 20230101ALI20241203BHJP
H10N 10/851 20230101ALI20241203BHJP
【FI】
H10N10/17 A
B22F1/14 400
H02N11/00 A
H10N10/01
H10N10/851
(21)【出願番号】P 2020541034
(86)(22)【出願日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 JP2019026678
(87)【国際公開番号】W WO2020049852
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-01-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2018164419
(32)【優先日】2018-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】足立 真寛
(72)【発明者】
【氏名】山本 喜之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 恒博
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】大橋 達也
【審判官】中野 浩昌
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/155591号
【文献】特開2003-31860号公報
【文献】国際公開第99/22410号
【文献】特開2013-140883号公報
【文献】特開2010-219255号公報
【文献】国際公開第2018/043478号
【文献】特開平6-291370号公報
【文献】特開平9-202906号公報
【文献】国際公開第2010/010721号
【文献】特開2011-141158号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/01, 10/17, 10/851
H02N 11/00
B22F 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンドギャップを有する材料からなる熱電変換材料部と、
前記熱電変換材料部に接触して配置される第1電極と、
前記熱電変換材料部に接触し、前記第1電極と離れて配置される第2電極と、
前記熱電変換材料部を封止する封止部と、を備え、
前記熱電変換材料部を取り囲む領域の酸素の分圧は、前記封止部により大気中の酸素の分圧よりも低く維持され、
前記熱電変換材料部は、アモルファスを含有する半導体材料からなり、
前記熱電変換材料部は、n型キャリアが移動するn型熱電変換材料部を含み、
前記n型熱電変換材料部はSi、Ge、FeおよびPを含む、熱電変換素子。
【請求項2】
前記熱電変換材料部は、p型キャリアが移動するp型熱電変換材料部をさらに含み、
前記p型熱電変換材料部はSi、Ge、AuおよびBを含む、請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項3】
前記領域内の圧力は、1×10
-2Pa以下である、請求項1または請求項2に記載の熱電変換素子。
【請求項4】
前記領域には不活性ガスが封入されている、請求項
3に記載の熱電変換素子。
【請求項5】
前記封止部は、前記領域を充填する封止材から構成される、請求項1または請求項2に記載の熱電変換素子。
【請求項6】
請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の熱電変換素子を複数個含む、熱電変換モジュール。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の熱電変換素子と、
光エネルギーを吸収する吸収体と、を備え、
前記熱電変換素子の第1電極が前記吸収体に接続される、光センサ。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の熱電変換素子を複数個含む、熱電変換モジュールと、
光エネルギーを吸収する吸収体とを備え、
前記熱電変換素子の第1電極が前記吸収体に接続される、光センサ。
【請求項9】
還元雰囲気中においてメカニカルアロイングを実施してアモルファスの半導体材料の粉体を得る工程と、
前記粉体を押し固めて圧粉体
からなる熱電変換材料部を形成する工程と、
前記熱電変換材料部が接触する雰囲気の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低い状態を維持しつつ前記熱電変換材料部を加熱する工程と、を含み、
前記メカニカルアロイングは、水素の含有割合が4体積%以下である水素と窒素との混合ガス中で実施される、熱電変換材料
部の製造方法。
【請求項10】
メカニカルアロイングを実施してアモルファスの半導体材料の粉体を得る工程と、
前記粉体を押し固めて圧粉体からなる熱電変換材料部を形成する工程と、
前記熱電変換材料部が接触する雰囲気の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低い状態を維持しつつ前記熱電変換材料部を加熱する工程と、
前記熱電変換材料部を取り囲む領域の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低くなるように封止部により前記熱電変換材料部を封止する工程と、を含み、
前記メカニカルアロイングは、水素の含有割合が4体積%以下である水素と窒素との混合ガス中で実施される、熱電変換素子の製造方法。
【請求項11】
前記メカニカルアロイングは、還元雰囲気中において実施される、請求項10に記載の熱電変換素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱電変換素子、熱電変換モジュール、光センサ、熱電変換材料の製造方法および熱電変換素子の製造方法に関するものである。本出願は、2018年9月3日に出願した日本特許出願である特願2018-164419号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
近年、石油などの化石燃料に代わるクリーンなエネルギーとして、再生可能エネルギーが注目されている。再生可能エネルギーには、太陽光、水力および風力を利用した発電のほか、温度差を利用した熱電変換による発電で得られるエネルギーが含まれる。熱電変換においては、熱が電気へと直接変換されるため、変換の際に余分な廃棄物が排出されない。熱電変換は、モータなどの駆動部を必要としないため、装置のメンテナンスが容易であるなどの特長がある。
【0003】
熱電変換を実施するための材料(熱電変換材料)を用いた温度差(熱エネルギー)の電気エネルギーへの変換効率ηは以下の式(1)で与えられる。
【0004】
η=ΔT/Th・(M-1)/(M+Tc/Th)・・・(1)
ηは変換効率、ΔTはThとTcとの差、Thは高温側の温度、Tcは低温側の温度、Mは(1+ZT)1/2、ZTはα2ST/κ、ZTは無次元性能指数、αはゼーベック係数、Sは導電率、κは熱伝導率である。変換効率はZTの単調増加関数である。ZTを増大させることが、熱電変換材料の開発において重要である。
【0005】
熱電変換材料として、Si、Ge、Auを積層した後に得られた積層体を熱処理し、SiGe(シリコンゲルマニウム)中にAuのナノ粒子を形成する技術が報告されている(例えば、非特許文献1)。熱電変換材料として、Si/GeBを用いる技術が報告されている(例えば、非特許文献2)。
【0006】
特許文献1には、母材元素で構成される半導体材料からなる母材中に、母材元素と母材元素と異なる異種元素とを含むナノ粒子を含む熱電変換材料が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Hiroaki Takiguchi et al.、“Nano Structural and Thermoelectric Properties of SiGeAu Thin Films”、Japanese Journal of Applied Physics 50 (2011) 041301
【文献】Akinari Matoba et al.、“Crystallinity and Thermoelectric Properties of Si/GeB Multilayers Prepared with Si Buffer Layer and SiO2 Substrates”、Japanese Journal of Applied Physics 48 (2009) 061201
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【0009】
本開示に従った熱電変換素子は、バンドギャップを有する材料からなる熱電変換材料部と、熱電変換材料部に接触して配置される第1電極と、熱電変換材料部に接触し、第1電極と離れて配置される第2電極と、熱電変換材料部を封止する封止部と、を備える。熱電変換材料部を取り囲む領域の酸素の分圧は、封止部により大気中の酸素の分圧よりも低く維持される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施の形態1における熱電変換素子であるπ型熱電変換素子(発電素子)の構造を示す概略図である。
【
図2】
図2は、熱電変換素子の代表的な製造工程を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、熱電変換材料部における温度と抵抗率との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施の形態2における発電モジュールの構造の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施の形態2における発電モジュールの構造の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、実施の形態3における発電モジュールの構造の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、光センサの構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示が解決しようとする課題]
非特許文献1、非特許文献2および特許文献1に開示の熱電変換材料よりも高い変換効率を有する熱電変換材料を用いた熱電変換素子が求められている。熱電変換素子に備えられる熱電変換材料について、導電率の逆数である抵抗率を低く維持することができれば、熱電変換の効率を向上させることができる。
【0012】
そこで、熱電変換の効率を向上させた熱電変換素子、熱電変換モジュール、光センサ、熱電変換材料の製造方法および熱電変換素子の製造方法を提供することを目的の1つとする。
[本開示の効果]
本開示の熱電変換素子によれば、熱電変換の効率を向上させることができる。
【0013】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示に係る熱電変換素子は、バンドギャップを有する材料からなる熱電変換材料部と、熱電変換材料部に接触して配置される第1電極と、熱電変換材料部に接触し、第1電極と離れて配置される第2電極と、熱電変換材料部を封止する封止部と、を備える。熱電変換材料部を取り囲む領域の酸素の分圧は、封止部により大気中の酸素の分圧よりも低く維持される。
【0014】
上記熱電変換素子は、バンドギャップを有する材料からなる熱電変換材料部を封止する封止部を備える。熱電変換材料部を取り囲む領域の酸素の分圧は、封止部により大気中の酸素の分圧よりも低く維持される。したがって、熱電変換材料部を構成する材料の表面における酸化膜の形成を大気中よりも抑制することができる。その結果、熱電変換材料部の抵抗率の上昇を抑制し、ZTを高く維持することができる。このような熱電変換素子によれば、熱電変換の効率の向上を図ることができる。
【0015】
上記熱電変換素子において、上記熱電変換材料部は、アモルファスを含有する半導体材料からなっていてもよい。半導体材料はバンドギャップが導電材料よりも大きいため、ゼーベック係数を大きくすることができる。アモルファスを含有する半導体材料により、熱伝導率を低くすることができる。したがって、熱電変換素子に含まれる熱電変換材料部において、無次元性能指数ZTを大きくすることができる。その結果、熱電変換の効率の向上を図ることができる。
【0016】
上記熱電変換素子において、封止部は、上記領域を挟んで熱電変換材料部を取り囲んでもよい。上記領域内の雰囲気中における酸素の分圧は、2×105Pa以下であってもよい。このようにすることにより、熱電変換材料部を構成する材料の表面における酸化膜の形成を効率的に抑制することができる。したがって、熱電変換材料部の抵抗率の低い状態を維持して、高い熱電変換の効率を確保することができる。
【0017】
上記熱電変換素子において、上記領域内の圧力は、1×10-2Pa以下であってもよい。このようにすることにより、上記領域内の酸素の量を低減して、熱電変換材料部を構成する材料の表面における酸化膜の形成を抑制することができる。したがって、熱電変換材料部の抵抗率の低い状態を維持して、高い熱電変換の効率を確保することができる。なお、上記領域内の圧力は、1×10-7Pa以上とすることが好ましい。
【0018】
上記熱電変換素子において、上記領域内には不活性ガスが封入されていてもよい。このようにすることにより、熱電変換材料部を構成する材料の表面における酸化膜の形成をより確実に抑制することができる。したがって、熱電変換材料部の抵抗率の低い状態を維持して、高い熱電変換の効率を確保することができる。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガスや窒素ガスが挙げられる。
【0019】
上記熱電変換素子において、封止部は、上記領域を充填する封止材から構成されていてもよい。封止材によって、熱電変換材料部が酸素分子と接触することを抑制することができる。その結果、熱電変換材料部を構成する材料の表面における酸化膜の形成を抑制することができる。したがって、熱電変換材料部の抵抗率の低い状態を維持して、高い熱電変換の効率を確保することができる。封止材の材質としては、例えば、エポキシ樹脂が挙げられる。
【0020】
上記熱電変換素子において、上記半導体材料は、導電型がn型であって、Si、Ge、FeおよびPを含んでもよい。このような熱電変換素子によれば、確実に熱電変換材料部の抵抗率の低い状態を維持して、熱電効率の向上を図ることができる。
【0021】
本開示の熱電変換モジュールは、上記熱電変換素子を複数個含む。本開示の熱電変換モジュールによれば、熱電変換の効率に優れた本開示の熱電変換素子を複数個含むことにより、熱電変換の効率を向上させた熱電変換モジュールを得ることができる。
【0022】
本開示の光センサは、光エネルギーを吸収する吸収体と、第1電極が吸収体に接続される上記した本開示の熱電変換素子と、を備える。
【0023】
このような光センサは、熱電変換素子において熱電変換の効率の向上が図られている。そのため、高感度な光センサを提供することができる。
【0024】
本開示の熱電変換材料の製造方法は、還元雰囲気中においてメカニカルアロイングを実施してアモルファスの半導体材料の粉体を得る工程と、アモルファスの粉体を押し固めて圧粉体を形成する工程と、を含む。
【0025】
このような熱電変換材料の製造方法によると、還元雰囲気中においてメカニカルアロイングを実施しているため、圧粉体を構成する粒の表面における酸化膜の形成を抑制することができる。このようにして得られた圧粉体を用いることで、熱電変換の効率を向上させた熱電変換材料を提供することができる。
【0026】
上記熱電変換材料の製造方法において、メカニカルアロイングは、水素の含有割合が4体積%以下である水素と窒素との混合ガス中で実施されてもよい。このようにすることにより、粉体を得る工程における酸化膜の形成を抑制することができる。
【0027】
本開示の熱電変換素子の製造方法は、メカニカルアロイングを実施してアモルファスの半導体材料の粉体を得る工程と、アモルファスの粉体を押し固めて圧粉体からなる熱電変換材料部を形成する工程と、熱電変換材料部が接触する雰囲気の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低い状態を維持しつつ熱電変換材料部を加熱する工程と、熱電変換材料部を取り囲む領域の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低くなるように封止部により熱電変換材料部を封止する工程と、を含む。
【0028】
本開示の熱電変換素子の製造方法によると、熱電変換材料部が接触する雰囲気の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低い状態を維持しつつ熱電変換材料部を加熱しているため、圧粉体を構成する粒の表面における酸化膜のうちの酸素原子を粒の内部に拡散させ、粒の表面の酸化膜を薄くすることができる。よって、圧粉体を構成する粒間における導電性を向上させ、熱電変換材料部の抵抗率を低くすることができる。また、熱電変換材料部を取り囲む領域の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低くなるように封止部により熱電変換材料部を封止しているため、圧粉体を構成する粒の表面における酸化膜の形成を抑制して、熱電変換材料部の抵抗率の低い状態を維持することができる。したがって、このような熱電変換素子の製造方法によると、熱電変換の効率の向上を図ることができる熱電変換素子を製造することができる。
【0029】
上記熱電変換素子の製造方法において、メカニカルアロイングは、還元雰囲気中において実施されてもよい。このようにすることにより、アモルファスの半導体材料の粉末を得る工程において、圧粉体を構成する粒の表面における酸化膜の形成を抑制することができる。したがって、熱電変換材料部の抵抗率を低くした熱電変換素子を製造することができる。
【0030】
上記熱電変換素子の製造方法において、メカニカルアロイングは、水素の含有割合が4体積%以下である水素と窒素との混合ガス中で実施されてもよい。このようにすることにより、粉体を得る工程における酸化膜の形成を抑制することができる。したがって、熱電効率を向上した熱電変換素子を製造することができる。
【0031】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の熱電変換素子の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0032】
(実施の形態1)
本願の実施の形態1に係る熱電変換素子の構成について説明する。
図1は、実施の形態1における熱電変換素子であるπ型熱電変換素子(発電素子)21の構造を示す概略図である。
図1を参照して、π型熱電変換素子21は、バンドギャップを有する材料からなる熱電変換材料部22,23、具体的には、アモルファスを含有する半導体材料の圧粉体からなる熱電変換材料部22,23と、熱電変換材料部22,23に接触して配置される第1電極としての高温側電極24と、熱電変換材料部22,23に接触し、高温側電極24と離れて配置される第2電極としての低温側電極25,26と、熱電変換材料部22,23を封止する封止部30と、を備える。
図1中において、封止部30については、二点鎖線で概略的に図示している。熱電変換材料部22は、p型の熱電変換材料部22である。熱電変換材料部23は、n型の熱電変換材料部23である。
【0033】
熱電変換材料部22は、例えば導電型がp型となるように成分組成が調整された熱電変換材料からなる。熱電変換材料部22を構成する熱電変換材料に、例えば多数キャリアであるp型キャリア(正孔)を生成させるp型不純物がドープされることにより、熱電変換材料部22の導電型はp型となっている。
【0034】
熱電変換材料部23は、例えば導電型がn型となるように成分組成が調整された熱電変換材料からなる。熱電変換材料部23を構成する熱電変換材料に、例えば多数キャリアであるn型キャリア(電子)を生成させるn型不純物がドープされることにより、熱電変換材料部23の導電型はn型となっている。
【0035】
熱電変換材料部22と熱電変換材料部23とは、間隔をおいて並べて配置される。高温側電極24は、熱電変換材料部22の一方の端部31から熱電変換材料部23の一方の端部32にまで延在するように配置される。高温側電極24は、熱電変換材料部22の一方の端部31および熱電変換材料部23の一方の端部32の両方に接触するように配置される。高温側電極24は、熱電変換材料部22の一方の端部31と熱電変換材料部23の一方の端部32とを接続するように配置される。高温側電極24は、導電材料、例えば金属からなっている。高温側電極24は、熱電変換材料部22および熱電変換材料部23にオーミック接触している。
【0036】
低温側電極25は、熱電変換材料部22の他方の端部33に接触して配置される。低温側電極25は、高温側電極24と離れて配置される。低温側電極25は、導電材料、例えば金属からなっている。低温側電極25は、熱電変換材料部22にオーミック接触している。
【0037】
低温側電極26は、熱電変換材料部23の他方の端部34に接触して配置される。低温側電極26は、高温側電極24および低温側電極25と離れて配置される。低温側電極26は、導電材料、例えば金属からなっている。低温側電極26は、熱電変換材料部23にオーミック接触している。
【0038】
配線27は、金属などの導電体からなる。配線27は、低温側電極25と低温側電極26とを電気的に接続する。
【0039】
封止部30は、例えば、箱状の部材であって、熱電変換材料部22,23を封止する。封止部30は、領域35を挟んで熱電変換材料部22,23を取り囲む。熱電変換材料部22,23を取り囲む領域35の酸素の分圧は、封止部30により大気中の酸素の分圧よりも低く維持される。この実施形態においては、領域35内の圧力は、1×10-2Pa以下である。具体的には、領域35内の圧力は、1×10-7Pa以上であって1×10-2Pa以下に維持されている。領域35内は、実質的に真空である。封止部30の材質としては、例えば、シリコン樹脂が選択される。
【0040】
π型熱電変換素子21において、例えば熱電変換材料部22の一方の端部31および熱電変換材料部23の一方の端部32の側が高温、熱電変換材料部22の他方の端部33および熱電変換材料部23の他方の端部34の側が低温、となるように温度差が形成されると、熱電変換材料部22においては、一方の端部31側から他方の端部33側に向けてp型キャリア(正孔)が移動する。このとき、熱電変換材料部23においては、一方の端部32側から他方の端部34側に向けてn型キャリア(電子)が移動する。その結果、配線27には、矢印Iの向きに電流が流れる。このようにして、π型熱電変換素子21において、温度差を利用した熱電変換による発電が達成される。すなわち、π型熱電変換素子21は発電素子である。
【0041】
次に、熱電変換材料部23の構成について説明する。熱電変換材料部23は、アモルファスを含有する半導体材料の圧粉体からなる。本実施形態においては、半導体材料は、SiおよびGeを母材元素とする。半導体材料は、第一の添加元素および第二の添加元素を含む。半導体材料は、第一の添加元素としてFeを含む。Feは、SiGeの禁制帯(バンドギャップ)内に、新規準位として第一の付加準位を形成する。半導体材料は、第二の添加元素としてPを含む。Pは、SiGeの禁制帯内において、第一の付加準位と伝導帯との間に第二の付加準位を形成する。この第二の付加準位によって、フェルミ準位が調整される。すなわち、本実施形態における熱電変換材料部23においては、第二の付加準位によりドナー準位を形成することができる。なお、熱電変換材料部22の製造方法としては、例えば、用いる元素をSi、Ge、AuおよびBとして、上記と同様に行う。
【0042】
このような熱電変換材料部22,23を備える熱電変換素子21は、以下のようにして製造される。
図2は、熱電変換素子21の代表的な製造工程を示すフローチャートである。まず、n型の熱電変換材料部23の製造方法について説明する。
図2を参照して、計量したSi、Ge、FeおよびPをステンレス製のポットに入れる。この場合、それぞれの元素の含有割合が、Si
63Ge
24P
10Fe
3となるように調整する。また、ポットの内部には、水素の含有割合が4体積%以下である水素と窒素の混合ガスであるフォーミングガスを充填し、還元雰囲気とする。そして、メカニカルアロイングによりSiGeにFeおよびPが添加されたアモルファスの粉体を得る。すなわち、メカニカルアロイングは、水素の含有割合が4体積%以下である水素と窒素の混合ガス中で実施される。このようにして、還元雰囲気中においてメカニカルアロイングを実施してアモルファスの半導体材料の粉体を得る(S11)。
【0043】
次に、グローブボックス内を窒素ガスの雰囲気とした状態で、得られた粉体をダイに充填し、ホットプレス法により圧粉体を形成する。この時の圧力は400MPa、温度は400℃とすることができる。このようにして、アモルファスの粉体を押し固めて圧粉体からなる熱電変換材料部23を形成する(S12)。この場合、加熱しながらアモルファスの粉体を押し固める。なお、圧粉体は、この時に焼結体となっている。このS11およびS12の工程が、本願の熱電変換材料の製造方法における代表的な工程の一例を示している。すなわち、本願の熱電変換材料の製造方法は、還元雰囲気中においてメカニカルアロイングを実施してアモルファスの半導体材料の粉体を得る工程と、アモルファスの粉体を押し固めて圧粉体を形成する工程と、を含む。なお、熱電変換材料部22については、用いる元素をSi、Ge、AuおよびBとしてそれぞれの元素の含有割合を調整し、上記と同様に行う。
【0044】
次に、得られた熱電変換材料部23が接触する雰囲気の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低い状態を維持しつつ熱電変換材料部23を加熱する(S13)。この場合、圧力が1×10-7Pa以上であって1×10-2Pa以下である雰囲気(真空)中に熱電変換材料部23を配置して加熱する。その後、圧力が1×10-7Pa以上であって1×10-2Pa以下である雰囲気中で冷却する。熱電変換材料部22についても同様に行う。
【0045】
次に、熱電変換材料部22および熱電変換材料部23に高温側電極24、低温側電極25,26および配線27を取り付け、封止部30により封止する。ここで、熱電変換材料部22,23を取り囲む領域35の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低くなるように封止部30により熱電変換材料部23を封止する(S14)。この場合、圧力が1×10-7Pa以上であって1×10-2Pa以下である雰囲気中で、高温側電極24、低温側電極25,26および配線27を取り付けた熱電変換材料部22および熱電変換材料部23を封止部30により封止する。このようにして、熱電変換材料部22,23を備える熱電変換素子21を得る。
【0046】
図3は、熱電変換材料部23における温度と抵抗率との関係を示すグラフである。
図3において、縦軸は抵抗率(mΩcm)を示し、横軸は温度(℃)を示す。抵抗率の測定については、4端子法により行った。
【0047】
図3を参照して、圧力を1×10
-7Pa以上1×10
-2Pa以下の状態を維持しつつ矢印36aおよび丸印で示すように室温から加熱していくと、抵抗率が大幅に減少することが把握できる。具体的には、室温で220mΩcmであった抵抗率が、700℃を超えた辺りで10mΩcm以下に低下する。その後、圧力を1×10
-7Pa以上1×10
-2Pa以下の状態を維持しつつ矢印36bおよび四角印で示すように室温まで冷却しても、抵抗率は約10mΩcmを維持している。なお、温度が低下している間も低い抵抗率を維持している。次に、圧力を1×10
-7Pa以上1×10
-2Pa以下の状態を維持しつつ再び矢印36cおよび三角印で示すように800℃まで昇温しても、抵抗率は10mΩcm以下を維持している。一方、室温における×印で示すように、圧力を1×10
-7Pa以上1×10
-2Pa以下の状態を維持しつつ室温まで冷却した後、大気中に開放した状態とすると、抵抗率は110mΩcm程度に上昇する。なお、大気中に開放した後、再び圧力を1×10
-7Pa以上1×10
-2Pa以下の状態として矢印36dおよび×印で示すように温度を上昇させた場合、抵抗率は低下する。
【0048】
このように、圧力を1×10-7Pa以上1×10-2Pa以下の状態を維持していれば、低い抵抗率を維持することができる。一方、大気に開放すると、抵抗率が大きくなる。これは、大気に開放すると、圧粉体を構成する粒の表面における酸化膜が形成するからであると考えられる。なお、圧力は、1×10-7Paであるのはターボ分子ポンプを使用したからであって、イオンポンプ、クライオポンプを減圧に用いることにより1×10-11Pa以上で実験しても、同様の結果であった。
【0049】
本願の熱電変換素子21の製造方法によると、熱電変換材料部22,23が接触する雰囲気の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低い状態を維持しつつ熱電変換材料部22,23を加熱しているため、圧粉体を構成する粒の表面における酸化膜のうちの酸素原子を粒の内部に拡散させ、粒の表面の酸化膜を薄くすることができる。よって、圧粉体を構成する粒間における導電性を向上させ、熱電変換材料部22,23の抵抗率を低くすることができる。また、熱電変換材料部22,23を取り囲む領域の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低くなるように封止部30により熱電変換材料部22,23を封止しているため、圧粉体を構成する粒の表面における酸化膜の形成を抑制して、熱電変換材料部22,23の抵抗率の低い状態を維持することができる。したがって、このような熱電変換素子21の製造方法によると、熱電変換の効率の向上を図ることができる熱電変換素子21を製造することができる。
【0050】
また、本願の熱電変換材料の製造方法によると、還元雰囲気中においてメカニカルアロイングを実施しているため、圧粉体を構成する粒の表面における酸化膜の形成を抑制することができる。このようにして得られた圧粉体を用いることで、熱電変換の効率を向上させた熱電変換材料を提供することができる。
【0051】
本実施形態においては、還元雰囲気中においてメカニカルアロイングを実施しているため、圧粉体を構成する粒の表面における酸化膜の形成を低減することができる。このようにして得られた圧粉体を用いることで、熱電変換の効率を向上させた熱電変換素子21を製造することができる。
【0052】
本実施形態においては、メカニカルアロイングは、水素の含有割合が4体積%以下である水素と窒素との混合ガス中で実施されている。したがって、粉体を得る工程における酸化膜の形成を抑制することができる。
【0053】
なお、熱電変換素子21の製造方法においては、メカニカルアロイングを実施してアモルファスの半導体材料の粉体を得る工程と、アモルファスの粉体を押し固めて圧粉体からなる熱電変換材料部23を形成する工程と、熱電変換材料部23が接触する雰囲気の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低い状態を維持しつつ熱電変換材料部23を加熱する工程と、熱電変換材料部23を取り囲む領域の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低くなるように封止部30により熱電変換材料部23を封止する工程と、を含んでもよい。
【0054】
このような熱電変換素子21の製造方法によると、熱電変換材料部23が接触する雰囲気の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低い状態を維持しつつ熱電変換材料部23を加熱しているため、圧粉体を構成する粒の表面における酸化膜のうちの酸素原子を粒の内部に拡散させ、粒の表面の酸化膜を薄くすることができる。よって、圧粉体を構成する粒間における導電性を向上させ、熱電変換材料部の抵抗率を低くすることができる。また、熱電変換材料部23を取り囲む領域の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低くなるように封止部30により熱電変換材料部23を封止しているため、圧粉体を構成する粒の表面における酸化膜の形成を抑制して、熱電変換材料部23の抵抗率の低い状態を維持することができる。したがって、このような熱電変換素子21の製造方法によると、熱電変換の効率の向上を図ることができる熱電変換素子21を製造することができる。
【0055】
本実施形態においては、熱電変換素子21は、熱電変換材料部22,23を封止する封止部30を備える。熱電変換材料部22,23を取り囲む領域の酸素の分圧は、封止部30により大気中の酸素の分圧よりも低く維持される。したがって、圧粉体を構成する粒の表面における酸化膜の形成を大気中よりも抑制することができる。その結果、熱電変換材料部22,23の抵抗率の上昇を抑制し、高いZTを維持することができる。このような熱電変換素子21によれば、熱電変換の効率の向上を図ることができる。
【0056】
本実施形態において、熱電変換材料部22,23は、アモルファスを含有する半導体材料からなっている。具体的には、熱電変換材料部22,23は、アモルファスを含有する半導体材料の圧粉体からなっている。半導体材料はバンドギャップが導電材料よりも大きいため、ゼーベック係数を大きくすることができる。アモルファスを含有する半導体材料により、熱伝導率を低くすることができる。したがって、熱電変換素子21に含まれる熱電変換材料部22,23において、無次元性能指数ZTを大きくすることができる。その結果、熱電変換の効率の向上を図ることができる。
【0057】
本実施形態において、領域35内の圧力は、1×10-7Pa以上1×10-2Pa以下である。したがって、領域35内の酸素の量を低減して、圧粉体を構成する粒の表面における酸化膜の形成を抑制することができる。その結果、熱電変換材料部22,23の抵抗率の低い状態を維持して、高い熱電変換の効率を確保することができる。
【0058】
熱電変換材料部23を構成する半導体材料は、導電型がn型であって、Si、Ge、FeおよびPを含む。このような熱電変換素子21によれば、確実に熱電変換材料部23の抵抗率の低い状態を維持して、熱電効率の向上を図ることができる。
【0059】
なお、上記の実施の形態において、半導体材料は、SiおよびGeを母材元素とすることとしたが、これに限らず、SiGe系材料であってもよい。SiGe系材料とは、SiGeおよびSiGeにおいてSiとGeとの少なくとも一方の一部が他の元素、例えばC、Sn等に置き換えられた材料を意味する。また、半導体材料は、MnSi系材料であってもよい。MnSi系材料とは、MnSiおよびMnSiにおいてMnとSiとの少なくとも一方の一部が他の元素、例えばAl、W等に置き換えられた材料を意味する。さらに半導体材料は、SnSe系材料であってもよい。SnSe系材料とは、SnSeおよびSnSeにおいてSnとSeとの少なくとも一方の一部が他の元素に置き換えられた材料を意味する。さらに半導体材料は、Cu2Se系材料であってもよい。Cu2Se系材料とは、Cu2SeおよびCu2SeにおいてCuとSeとの少なくとも一方の一部が他の元素に置き換えられた材料を意味する。また、第一の添加元素を含まない構成としてもよい。第二の添加元素を含まない構成としてもよい。
【0060】
また、上記の実施の形態においては、熱電変換材料部22,23は、半導体材料からなること、具体的には、熱電変換材料部22,23は、アモルファスを含有する半導体材料の圧粉体からなることとしたが、これに限らず、熱電変換材料部22,23を構成する材料としては、例えば、導電材料から構成されていてもよく、バンドギャップを有する材料であればよい。アモルファスを含有する半導体材料であれば、さらに好適である。このようにすることによっても、熱電変換材料部22,23を構成する材料の表面における酸化膜の形成を大気中よりも抑制することができる。その結果、熱電変換材料部22,23の抵抗率の上昇を抑制し、ZTを高く維持することができる。このような熱電変換素子21によれば、熱電変換の効率の向上を図ることができる。
【0061】
上記の実施の形態においては、得られた熱電変換材料部22,23が接触する雰囲気の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低い状態を維持しつつ熱電変換材料部23を加熱(S13)した後、熱電変換材料部22,23を取り囲む領域35の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低くなるように封止部30により熱電変換材料部22,23を封止した(S14)。しかし、このS13とS14の工程は逆であってもよい。すなわち、熱電変換材料部22,23を取り囲む領域35の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低くなるように封止部30により熱電変換材料部22,23を封止した(S14)後、得られた熱電変換材料部23が接触する雰囲気の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低い状態を維持しつつ熱電変換材料部22,23を加熱(S13)してもよい。この場合、封止部30は、加熱により高温になっても耐久性を有する部材を採用するとよい。また、得られた熱電変換材料部22,23が接触する雰囲気の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低い状態を維持しつつ熱電変換材料部23を加熱(S13)しながら、熱電変換材料部22,23を取り囲む領域35の酸素の分圧が大気中の酸素の分圧よりも低くなるように封止部30により熱電変換材料部22,23を封止する(S14)ことにしてもよい。すなわち、S13の工程とS14の工程とを並行に行ってもよい。
【0062】
上記の実施の形態においては、領域35内の圧力は、1×10-7Pa以上1×10-2Pa以下としたが、これに限らず、領域35内の雰囲気中における酸素の分圧は、2×105Pa以下であってもよい。このようにすることにより、圧粉体を構成する粒の表面における酸化膜の形成を効率的に抑制することができる。したがって、熱電変換材料部22,23の抵抗率の低い状態を維持して、高い熱電変換の効率を確保することができる。
【0063】
上記の実施の形態において、上記領域35内には不活性ガスが封入されていてもよい。このようにすることにより、圧粉体を構成する粒の表面における酸化膜の形成をより確実に抑制することができる。したがって、熱電変換材料部22,23の抵抗率の低い状態を維持して、高い熱電変換の効率を確保することができる。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、窒素ガスが挙げられる。
【0064】
上記の実施の形態においては、本願の熱電変換素子の一例としてπ型熱電変換素子について説明したが、本願の熱電変換素子はこれに限られない。本願の熱電変換素子は、例えばI型(ユニレグ型)熱電変換素子など、他の構造を有する熱電変換素子であってもよい。
【0065】
(実施の形態2)
上記したπ型熱電変換素子21を複数個電気的に接続することにより、熱電変換モジュールとしての発電モジュールを得ることができる。本実施の形態の熱電変換モジュールである発電モジュール41は、π型熱電変換素子21が直列に複数個接続された構造を有する。
【0066】
図4および
図5は、実施の形態2における発電モジュール41の構造の一例を示す図である。理解の容易の観点から、
図4において、一部の構成の図示を省略すると共に、二点鎖線でその形状を示している。
【0067】
図4を参照して、本実施の形態の発電モジュール41は、p型の熱電変換材料部22と、n型の熱電変換材料部23と、低温側電極25,26と、高温側電極24と、低温側絶縁体基板29と、高温側絶縁体基板28と、枠体37と、を備える。低温側絶縁体基板29および高温側絶縁体基板28は、アルミナなどのセラミックからなる。熱電変換材料部22と熱電変換材料部23とは、交互に並べて配置される。低温側電極25,26は、上述のπ型熱電変換素子21と同様に熱電変換材料部22および熱電変換材料部23に接触して配置される。高温側電極24は、上述のπ型熱電変換素子21と同様に熱電変換材料部22および熱電変換材料部23に接触して配置される。熱電変換材料部22は、一方側に隣接する熱電変換材料部23と共通の高温側電極24により接続される。また、熱電変換材料部22は、上記一方側とは異なる側に隣接する熱電変換材料部23と共通の低温側電極25,26により接続される。このようにして、全ての熱電変換材料部22と熱電変換材料部23とが直列に接続される。
【0068】
低温側絶縁体基板29は、板状の形状を有する低温側電極25,26の熱電変換材料部22および熱電変換材料部23に接触する側とは反対側に配置される。低温側絶縁体基板29は、複数の(全ての)低温側電極25,26に対して1枚配置される。高温側絶縁体基板28は、板状の形状を有する高温側電極24の熱電変換材料部22および熱電変換材料部23に接触する側とは反対側に配置される。高温側絶縁体基板28は、複数の(全ての)高温側電極24に対して1枚配置される。
【0069】
枠体37は、低温側絶縁体基板29の外形形状に沿ったある程度の厚みを有する枠状の部材から構成されている。枠体37は、四角筒状である。枠体37の材質としては、例えば、シリコン樹脂である。枠体37は、低温側絶縁体基板29および高温側絶縁体基板28との間に挟み込むように取り付けられる。この場合、枠体37は、低温側絶縁体基板29および高温側絶縁体基板28のそれぞれと接合される。低温側絶縁体基板29、高温側絶縁体基板28および枠体37によって取り囲まれる領域35内に熱電変換材料部22,23、低温側電極25,26および高温側電極24が配置される。本実施形態における熱電変換素子21に備えられる封止部30は、低温側絶縁体基板29、高温側絶縁体基板28および枠体37によって構成される。領域35内の圧力は、例えば、1×10-7Pa以上1×10-2Pa以下(真空)である。
【0070】
直列に接続された熱電変換材料部22および熱電変換材料部23のうち両端に位置する熱電変換材料部22または熱電変換材料部23に接触する高温側電極24または低温側電極25,26に対して、配線42,43が接続される。そして、高温側絶縁体基板28側が高温、低温側絶縁体基板29側が低温となるように温度差が形成されると、直列に接続された熱電変換材料部22および熱電変換材料部23により、上記π型熱電変換素子21の場合と同様に矢印Iの向きに電流が流れる。このようにして、発電モジュール41において、温度差を利用した熱電変換による発電が達成される。
【0071】
上記した発電モジュール41は、上記した熱電変換素子21を複数個含む。ここで、発電モジュール41は、熱電変換の効率に優れた本願の熱電変換素子21を複数個含むことにより、熱電変換の効率を向上させた熱電変換モジュールとしての発電モジュールを得ることができる。なお、上記した
図4に示す領域35内に、不活性ガスが封入されていてもよい。
【0072】
(実施の形態3)
上記の実施の形態における封止部30は、領域35を挟んで熱電変換材料部22,23を取り囲む構成であったが、これに限らず、以下の構成としてもよい。実施の形態3における発電モジュール41は、基本的には実施の形態2の場合と同様の構成を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態3の発電モジュール41は、封止部30が領域35を充填する封止材38から構成される点において、実施の形態2の場合とは異なっている。
【0073】
図6は、実施の形態3における発電モジュールの構造の一例を示す図である。
図6を参照して、バンドギャップを有する材料からなる熱電変換材料部22,23と、熱電変換材料部22,23に接触して配置される第1電極としての高温側電極24と、熱電変換材料部22,23に接触し、高温側電極24と離れて配置される第2電極としての低温側電極、熱電変換材料部22,23を封止する封止部30と、を備える。封止部30は、領域35を充填する封止材38から構成されている。封止材38としては、例えば、エポキシ樹脂が選択される。封止材38は、例えば、以下のようにして構成される。すなわち、枠体37を低温側絶縁体基板29の上に接合して低温側電極25,26、熱電変換材料部22,23および高温側電極24を低温側絶縁体基板29上に配置する。その後、領域35のうちの低温側電極25,26、熱電変換材料部22,23および高温側電極24の隙間を未硬化のエポキシ樹脂等によって充填し、硬化させる。このようにして、硬化したエポキシ樹脂からなる封止材38が構成される。なお、この場合、熱電変換材料部22,23の周囲に気体はなく、酸素分子は存在しない。よって、熱電変換材料部22,23を取り囲む領域の酸素の分圧は、0になっている。すなわち、本願に係る熱電変換素子21において、熱電変換材料部22,23を取り囲む領域35に配置される物質については、気体の場合もあれば、封止材38等の固体の場合も含まれる。このような封止材38によって、熱電変換材料部22,23が酸素分子と接触することを抑制することができる。その結果、圧粉体を構成する粒の表面における酸化膜の形成を抑制することができる。したがって、熱電変換材料部22,23の抵抗率の低い状態を維持して、高い熱電変換の効率を確保することができる。
【0074】
(実施の形態4)
次に、実施の形態2に係る発電モジュール41を利用した他の実施の形態として、光センサについて説明する。
図7は、光センサの構造の一例を示す図である。
図7を参照して、光センサ44は、上記した発電モジュール41と、発電モジュール41を覆うキャップ45と、円板状のベース46と、を備える。発電モジュール41は、ベース46の一方の面48上に取り付けられている。キャップ45は、円筒部47aと、円筒部47aの一方側の開口を覆う蓋部47bとを含む。キャップ45は、発電モジュール41を覆うように、ベース46の一方の面48上に取り付けられている。蓋部47bには、光を取り入れる透明のガラス49が設けられている。発電モジュール41からの配線42,43は、ベース46を板厚方向に貫通して外部への出力を可能としている。本実施形態においては、発電モジュール41は、光エネルギーを吸収する吸収体50を備える。吸収体50は、ガラス49に対向する面側において、高温側絶縁体基板28と接触して配置されている。
図7において、吸収体50は、概略的に図示している。発電モジュール41に含まれる高温側絶縁体基板28は、吸収体50に接続されている。すなわち、発電モジュール41に含まれる第1電極である高温側電極24は、高温側絶縁体基板28を介して吸収体50に接続されている。
【0075】
図7中の矢印で示す方向からガラス49を通って光が円筒部47a内に入射し、発電モジュール41において、吸収体50に光が照射される。ここで、光の入射により発電モジュール41のうちの吸収体50が光エネルギーを吸収すると、吸収体50と接触している高温側絶縁体基板28と低温側絶縁体基板29との間で温度差が発生する。直列に接続された熱電変換材料部22および熱電変換材料部23により、上記π型熱電変換素子21の場合と同様の向きに電流が流れる。
【0076】
本実施の形態の光センサ44においては、熱電変換素子21において熱電変換の効率の向上が図られている。そのため、高感度な光センサを提供することができる。
【0077】
なお、本実施形態では、光センサ44は、上記した
図4に示す発電モジュール41を利用することとしたが、これに限らず、以下の構成を採用してもよい。すなわち、例えば、発電モジュール41において枠体37を備えない構成とし、熱電変換材料部22,23を封止していない状態の発電モジュール41を
図7に示すように配置する。これを、キャップ45およびベース46によって、例えば、圧力が1×10
-7Pa以上1×10
-2Pa以下(真空)である状態で封止する。この場合、キャップ45およびベース46が封止部30を構成する。すなわち、熱電変換素子21は、封止部30として、キャップ45およびベース46を備える構成とする。このようにすることによっても、熱電変換材料部22,23を構成する材料の表面における酸化膜の形成を大気中よりも抑制して、高感度な光センサ44を得ることができる。
【0078】
また、光センサ44は、p型およびn型の対で構成される熱電変換材料部22,23を備える
図1に示す熱電変換素子21を、
図7に示す発電モジュール41に代えて採用することにしてもよい。この場合、高温側電極24に光エネルギーを吸収する吸収体50を設ける構成とする。そして、キャップ45およびベース46によって、圧力が1×10
-7Pa以上1×10
-2Pa以下(真空)である状態で封止する。すなわち、この場合も熱電変換素子21は、封止部30として、キャップ45およびベース46を備える構成とする。このようにすることによっても、熱電変換材料部22,23を構成する材料の表面における酸化膜の形成を大気中よりも抑制して、高感度な光センサ44を得ることができる。
【0079】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0080】
21 π型熱電変換素子、22,23 熱電変換材料部、24 高温側電極、25,26 低温側電極、27,42,43 配線、28 高温側絶縁体基板、29 低温側絶縁体基板、30 封止部、31,32,33,34 端部、35 領域、36a,36b,36c,36d 矢印、37 枠体、38 封止材、41 熱電変換モジュール、44 光センサ、45 キャップ、46 ベース、47a 円筒部、47b 蓋部、48 面、49 ガラス、50 吸収体。