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特許7597583難燃性ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】難燃性ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20241203BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20241203BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20241203BHJP
   C08K 5/5399 20060101ALI20241203BHJP
   C08K 5/134 20060101ALI20241203BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20241203BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20241203BHJP
   B29C 45/27 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L79/08
C08K7/02
C08K5/5399
C08K5/134
C08K5/49
B29C45/00
B29C45/27
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021000423
(22)【出願日】2021-01-05
(65)【公開番号】P2022105841
(43)【公開日】2022-07-15
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】服部 良平
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-109547(JP,A)
【文献】特開平11-343334(JP,A)
【文献】特開2006-265539(JP,A)
【文献】国際公開第2006/090751(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
B29C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエチレンナフタレート樹脂(A成分)51~95重量%および(B)ポリエーテルイミド樹脂(B成分)5~49重量%からなる樹脂成分100重量部に対し、(C)繊維状充填材(C成分)25~150重量部および(D)ホスファゼン化合物(D成分)2~20重量部を含有することを特徴とする難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
C成分がガラス繊維および炭素繊維よりなる群より選ばれる少なくとも1種の繊維状充填材であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
樹脂成分100重量部に対し、(E)ヒンダードフェノール系安定剤(E成分)0.0001~3重量部を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂成分100重量部に対し、(F)リン系安定剤(F成分)0.0001~3重量部を含有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物からなる成形体。
【請求項6】
樹脂組成物を流路が縮小する制限ゲートを通過させキャビティに流入させることにより成形することを特徴とする請求項5に記載の成形体。
【請求項7】
制限ゲートが、下記式(1)を満たすことを特徴とする請求項6に記載の成形体。
0.04≦S/S<1.0 ・・・(1)
(式中、Sはランナー断面積(mm)、Sはゲート部断面積(mm)を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温および高温領域における強度、難燃性、耐湿熱性に優れ、かつ、制限ゲートを使用した場合に発生するゲート部での配向結晶化が抑制された難燃性ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンナフタレート樹脂は機械特性、耐熱性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れた樹脂であり、電気・電子部品分野や機構部品分野など幅広く使用されている。近年、電気・電子部品や機構部品分野において高性能化・軽薄短小化が進んでおり、樹脂材料に対し室温での強度に加え高温領域での強度が高いこと、また製品の安全性を保つために薄肉難燃性を有することが強く求められるようになってきている。
【0003】
特許文献1には、ポリエチレンナフタレートの引張強度などの機械物性を改良するために繊維状充填材を配合する方法、特許文献2には更に剛性を高めるために、ポリエチレンナフタレート樹脂に液晶性ポリマーおよび繊維状無機強化材を配合した例が報告されている。しかしながら、ポリエチレンナフタレート樹脂は射出成形体のゲート部等の急縮小流路においてせん断により配向結晶化し脆化するため、引張ダンベル片等の引張試験においては高い強度が得られるが、実製品形状において十分な強度が発現しない課題があった。特許文献3には、ポリエチレンナフタレート樹脂のゲート部での配向結晶化を抑制するためにガラス転移温度が80℃以上の非晶性共重合ポリエステル樹脂を添加する方法が例示されている。しかしながら、ガラス転移温度が80℃以上の非晶性共重合ポリエステル樹脂を混合することによりゲート部での配向結晶化の抑制効果はみられるものの、得られた樹脂組成物はポリエチレンナフタレート樹脂に比べ耐熱性が低下し、高温領域における強度が低下する。
【0004】
また、熱可塑性ポリエステル樹脂の難燃化は、一般的に難燃剤としてハロゲン系難燃剤や難燃助剤としての三酸化アンチモンを使用することにより優れた機械的強度と高度な難燃性を有する樹脂組成物が得られてきたが、成形加工時に熱分解してハロゲン化水素を発生し、金型を腐食させたり、樹脂組成物の熱安定性を低下させるなどの問題がある。さらに燃焼時に有害物質を発生するという問題点もあり、環境負荷低減の観点よりノンハロゲン系難燃剤を用いることが望まれるようになってきている。
【0005】
特許文献4には、ポリエチレンナフタレート樹脂に難燃性を付与するため特定構造を有する有機リン系難燃剤を配合した試みが行われている。特許文献5には、ポリブチレンテレフタレート樹脂に強度と難燃性を付与するために、リン酸エステル系化合物とガラス繊維を配合した例が報告されている。しかし、どちらもリン系の難燃剤を添加することにより難燃性は高まるものの、室温および高温領域での強度低下、また、耐湿熱性が大きく低下する課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-181489号公報
【文献】特開2007-277292号公報
【文献】特開2018-104654号公報
【文献】特開2014-214180号公報
【文献】特開2009-96969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、室温および高温領域における強度、難燃性、耐湿熱性に優れ、かつ、制限ゲートを使用した場合に射出成形体のゲート部に発生する配向結晶化が抑制された難燃性ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成せんとして鋭意検討を重ねた結果、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂および繊維状充填材からなる樹脂組成物に対し、難燃剤としてホスファゼン化合物を特定量添加することにより、室温および高温領域における強度、難燃性、耐湿熱性が改善され、かつ、制限ゲートを使用した場合に射出成形体のゲート部に発生する配向結晶化が抑制されることを見出し本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の課題は、(A)ポリエチレンナフタレート樹脂(A成分)51~95重量%、(B)ポリエーテルイミド樹脂(B成分)5~49重量%からなる樹脂成分100重量部に対し、(C)繊維状充填材(C成分)25~150重量部および(D)ホスファゼン化合物(D成分)2~20重量部を含有する樹脂組成物により達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、室温および高温領域における強度、難燃性、耐湿熱性に優れ、かつ、制限ゲートを使用した場合に射出成形体のゲート部に発生する配向結晶化が抑制された難燃性ポリエステル樹脂組成物を提供することができ、それよりなる成形体は、電気電子機器外装の薄肉成形部材や長期の耐久性が求められる機構部品用途に好適に使用することができるため工業的に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、更に本発明の詳細について説明する。
【0012】
<A成分について>
本発明のA成分であるポリエチレンナフタレート樹脂は、ナフタレンジカルボン酸および/またはナフタレンジカルボン酸のエステル形成誘導体を主とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするグリコール成分を用いて製造することができる。
【0013】
ナフタレンジカルボン酸成分としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸を主成分とするが、特性を損なわない範囲であれば、他のジカルボン酸を併用することができる。他のカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4′-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シュウ酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。他のカルボン酸の使用量は全酸成分に対して好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。ナフタレンジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、2,7-ナフタレンジカルボン酸ジメチルを主成分とするが、特性を損なわない範囲であれば、他のジカルボン酸のエステル形成性誘導体を併用することができる。他のジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4′-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シュウ酸等の脂肪族ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル等が挙げられ、これらの1種若しくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。他のジカルボン酸のエステル形成性誘導体の使用量は、全ジカルボン酸のエステル形成性誘導体成分に対して好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。
【0014】
また、少量のトリメリット酸のような三官能性以上のカルボン酸成分を用いてもよく、無水トリメリット酸のような酸無水物を少量用いてもよい。また、乳酸、グリコール酸のようなヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル等を少量用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。
【0015】
グリコール成分としてはエチレングリコールを主成分とするが、特性を損なわない範囲で他のグリコール成分を併用することができる。他のグリコール成分としては、例えば、1、4ブタンジオール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、ネオペンチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリ(オキシ)エチレングリコール、ポリ(オキシ)テトラメチレングリコール、ポリ(オキシ)メチレングリコール等のアルキレングリコールの1種若しくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。さらに少量のグリセリンのような多価アルコール成分を用いてもよい。また少量のエポキシ化合物を用いてもよい。他のグリコール成分の使用量は、全グリコール成分に対して好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。
【0016】
上記のポリエチレンナフタレート樹脂は、従来公知の製造方法によって製造することができる。すなわちジカルボン酸成分とジオール成分とを直接反応させて水を留去しエステル化した後、減圧下に重縮合を行う直接エステル化法、またはジカルボン酸ジメチルエステルとジオール成分とを反応させてメチルアルコールを留去しエステル交換させた後、減圧下に重縮合を行うエステル交換法により製造される。更に極限粘度数を増大させるために固相重合を行うことができる。
【0017】
上記のエステル交換反応、エステル化反応および重縮合反応時には、触媒および安定剤を使用することが好ましい。エステル交換触媒としてはMg化合物、Mn化合物、Ca化合物、Zn化合物などが使用され、例えばこれらの酢酸塩、モノカルボン酸塩、アルコラート、および酸化物などが挙げられる。またエステル化反応は触媒を添加せずに、ジカルボン酸およびジオールのみで実施することが可能であるが、後述の重縮合触媒の存在下に実施することもできる。重縮合触媒としては、Ge化合物、Ti化合物、Sb化合物などが使用可能であり、例えば二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムアルコラート、チタンテトラブトキサイド、チタンテトライソプロポキサイド、および蓚酸チタンなどが挙げられる。安定剤としてはリン化合物を用いることが好ましい。好ましいリン化合物としては、リン酸およびそのエステル、亜リン酸およびそのエステル並びに次亜リン酸およびそのエステルなどが挙げられる。またエステル化反応時には、ジエチレングリコール副生を抑制するためにトリエチルアミンなどの第3級アミン、水酸化テトラエチルアンモニウムなどの水酸化第4級アンモニウム、および炭酸ナトリウムなどの塩基性化合物を添加することもできる。また得られたポリエステル樹脂には、各種の安定剤および改質剤を配合することができる。
【0018】
A成分の固有粘度は0.5~0.9dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.6~0.85dl/gであり、さらに好ましくは0.65~0.80dl/gである。A成分の固有粘度が0.5dl/g未満では強度に劣る場合があり、0.9dl/gを超えると流動性が劣る場合がある。
【0019】
<B成分について>
本発明のB成分であるポリエーテルイミド樹脂は、環状イミド構造を含有する樹脂であり、本発明の目的に使用できるものであれば特に限定されないが、脂肪族または芳香族系のエーテル単位と環状イミド基を繰り返し単位として含有するポリエーテルイミド樹脂が好ましい。また、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、ポリイミドの主鎖に環状イミドおよびエーテル単位以外の構造単位、例えば、芳香族、脂肪族エステル単位、オキシカルボニル単位等が含有されても良い。
【0020】
本発明で好ましく使用できるポリエーテルイミド樹脂の具体例としては、下記式(1)で示されるポリエーテルイミド樹脂を挙げることができる。
【0021】
【化1】
(式中、nは2以上の整数を表す。)
【0022】
式(1)中Rは、6~30個の炭素原子を含有する2価の芳香族または脂肪族基、Rは6~30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基、2~20個の炭素原子を有するアルキレン基、2~20個の炭素原子を有するシクロアルキレン基、および2~8個の炭素原子を有するアルキレン基で連鎖停止されたポリジオルガノシロキサン基からなる群より選択された2価の有機基である。
【0023】
上記R、Rとしては、例えば下記式(2)~(8)で示される芳香族残基およびアルキレン基を挙げることができる。
【0024】
【化2】
【0025】
【化3】
【0026】
【化4】
【0027】
【化5】
【0028】
【化6】
【0029】
【化7】
【0030】
【化8】
(式(8)中、nは2以上の整数を表す。)
【0031】
なお本発明では、ポリエチレンナフタレート樹脂との相容性の観点から下記式(9)で示されるポリエーテルイミド樹脂が好ましい。
【0032】
【化9】
(式(9)中、nは2以上の整数を表す。)
【0033】
このポリエーテルイミド樹脂としては、SABICジャパン合同会社製の“ULTEM1010”等が挙げられる。
【0034】
B成分の含有量は、A成分とB成分の合計100重量%中、5~49重量%であり、好ましくは10~45重量%、より好ましくは20~40重量%である。B成分の含有量が5重量%未満の場合、難燃性、制限ゲートを使用した場合におけるゲート部での配向結晶化の抑制効果および高温時の引張強度の改善効果が不十分であり、49重量%を超えると流動性が低下する。
【0035】
<C成分について>
本発明のC成分である繊維状充填材は、ガラス繊維および炭素繊維よりなる群より選ばれる少なくとも1種の繊維状充填材であることが好ましい。
【0036】
ガラス繊維としては、丸型断面を有するガラス繊維、繊維長断面の長径の平均値が5~50μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5~8である扁平断面ガラス繊維およびガラスミルドファイバーが好適に例示されるが、特に繊維長断面の長径の平均値が10~40μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5~8である扁平断面ガラス繊維が引張り強度、寸法精度の点でより好ましい。
【0037】
上記のガラス繊維のガラス組成は、Aガラス、Cガラス、およびEガラス等に代表され
る各種のガラス組成が適用され、特に限定されない。かかるガラス繊維は、必要に応じてTiO、SO、およびP等の成分を含有するものであってもよい。これらの中でもEガラス(無アルカリガラス)がより好ましい。かかるガラス繊維は、周知の表面処理剤、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、またはアルミネートカップリング剤等で表面処理が施されたものが機械的強度の向上の点から好ましい。また、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂およびウレタン系樹脂等で集束処理されたものが好ましく、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂が機械的強度の点から特に好ましい。集束処理されたガラス繊維の集束剤付着量は、ガラス繊維100重量%中、好ましくは0.1~3重量%、より好ましくは0.2~1重量%である。
【0038】
炭素繊維としては、例えば金属コートカーボンファイバー、カーボンミルドファイバー、気相成長カーボンファイバー等のカーボンファイバーおよびカーボンナノチューブ等が挙げられる。カーボンナノチューブは繊維径0.003~0.1μmであることが好ましく、単層、2層、および多層のいずれであってもよく、多層(いわゆるMWCNT)が好ましい。
【0039】
これらの中でも機械的強度に優れる点において、カーボンファイバーが好ましい。カーボンファイバーとしては、セルロース系、ポリアクリロニトリル系およびピッチ系などのいずれも使用可能である。また芳香族スルホン酸類またはそれらの塩のメチレン型結合による重合体と溶媒よりなる原料組成を紡糸または成形し、次いで炭化するなどの方法に代表される不融化工程を経ない紡糸を行う方法により得られたものも使用可能である。更に汎用タイプ、中弾性率タイプ、および高弾性率タイプのいずれも使用可能である。これらの中でも特にポリアクリロニトリル系の高弾性率タイプが好ましい。
【0040】
また、カーボンファイバーの表面はマトリックス樹脂との密着性を高め、機械的強度を向上する目的で酸化処理されることが好ましい。酸化処理方法は特に限定されないが、例えば、(1)炭素繊維を酸もしくはアルカリまたはそれらの塩、あるいは酸化性気体により処理する方法、(2)炭素繊維化可能な繊維または炭素繊維を、含酸素化合物を含む不活性ガスの存在下、700℃以上の温度で焼成する方法および(3)炭素繊維を酸化処理した後、不活性ガスの存在下で熱処理する方法などが好適に例示される。
【0041】
金属コートカーボンファイバーは、カーボンファイバーの表面に金属層をコートしたものである。金属としては、銀、銅、ニッケル、およびアルミニウムなどが挙げられ、ニッケルが金属層の耐腐食性の点から好ましい。金属コートの方法としては、メッキ法および蒸着法等の公知の方法が挙げられ、中でもメッキ法が好適に利用される。また、かかる金属コートカーボンファイバーの場合も、元となるカーボンファイバーとしては上記のカーボンファイバーとして挙げたものが使用可能である。金属被覆層の厚みは好ましくは0.1~1μm、より好ましくは0.15~0.5μmである。更に好ましくは0.2~0.35μmである。
【0042】
かかるカーボンファイバー、金属コートカーボンファイバーは、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂およびウレタン系樹脂等で集束処理されたものが好ましい。特にウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂で処理された炭素繊維は、機械的強度に優れることから本発明において好適である。
【0043】
C成分の含有量は、A成分およびB成分からなる樹脂成分100重量部に対し、25~150重量部であり、好ましくは30~140重量部、より好ましくは45~120重量部である。C成分の含有量が25重量部未満では引張強度および難燃性の改善が不十分であり、150重量部を超えると、押出加工性が低下する。
【0044】
<D成分について>
本発明のD成分として用いられるホスファゼン化合物は、ハロゲン原子を含まず、分子中にリン原子と窒素原子からなるホスファゼン構造を持つ化合物であれば特に限定されない。ここでいうホスファゼン構造とは、式:-P(R1)=N-[式中、R1は有機基]で表される構造であり、ホスファゼン化合物とは一般式(10)、(11)で表される化合物である。
【0045】
【化10】
【0046】
【化11】
【0047】
(式中、X、X、X、Xは、水素、水酸基、アミノ基、またはハロゲン原子を含まない有機基を表す。また、nは3~10の整数を表す)。
【0048】
上記式(10)、(11)中、X、X、X、Xで表されるハロゲン原子を含まない有機基としては、例えば、アルコキシ基、フェニル基、アミノ基、アリル基などが挙げられる。ホスファゼン化合物は、上記式(10)および(11)に示す線状および環状ホスファゼン化合物のいずれかを用いることができるが、難燃性の観点より環状ホスファゼン化合物が好ましく、環状フェノキシホスファゼンが更に好ましい。商業的に入手可能なホスファゼン化合物としては、SPS-100、SPE-100、SPR-100、SA-100、SPB-100、SPB-100L(以上、大塚化学(株)製)、FP-100、FP-110(以上、伏見製薬所製)が挙げられる。なお、本発明においては、ホスファゼン化合物の機能を妨げない範囲で他のリン系難燃剤を含有することが可能である。
【0049】
D成分の含有量はA成分およびB成分からなる樹脂成分100重量部に対し、2~20重量部であり、好ましくは3.5~15重量部、より好ましくは5~11重量部である。D成分の含有量が2重量部未満であると難燃性と室温における強度が低下し、20重量部を超えると高温時の引張強度が低下する。
【0050】
<E成分について>
本発明のE成分として用いられるヒンダードフェノール系安定剤は、組成物中に配合することにより例えば成形加工時の色相悪化や長期間の使用における色相の悪化などを抑制する効果が発揮される。ヒンダードフェノール系安定剤としては、例えば、α-トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n-オクタデシル-β-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェル)プロピオネート、2-tert-ブチル-6-(3’-tert-ブチル-5’-メチル-2’-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’-メチレンビス(4-メ
チル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、2,2’-ジメチレン-ビス(6-α-メチル-ベンジル-p-クレゾール)2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-ブチリデン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-N-ビス-3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート、1,6-へキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2-tert-ブチル-4-メチル6-(3-tert-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1,-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’-ジ-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-トリ-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2-チオジエチレンビス-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4-ビス(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、N,N’-ヘキサメチレンビス-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス2[3(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、およびテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが例示される。これらはいずれも入手容易である。上記ヒンダードフェノール系安定剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。E成分の含有量は、A成分およびB成分からなる樹脂成分100重量部に対して、好ましくは0.0001~3重量部、より好ましくは0.001~1重量部、さらに好ましくは0.005~0.5重量部である。ヒンダードフェノール系安定剤が上記範囲よりも少なすぎる場合には良好な安定化効果を得ることが難しく、上記範囲を超えて多すぎる場合は、組成物の物性低下を起こす場合がある。
【0051】
<F成分について>
本発明の樹脂組成物は、加水分解性を促進させない程度において、リン系安定剤が配合されることが好ましい。かかるリン系安定剤は製造時または成形加工時の熱安定性を向上させ、機械的特性、色相、および成形安定性を向上させる。リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル、並びに第3級ホスフィンなどが例示される。具体的にはホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-iso-プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-n-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。更に他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2’-エチリデンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。ホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェートなどを挙げることができ、好ましくはトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートである。
【0052】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-n-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト等が挙げられ、テトラキス(ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ-tert-ブチルフェニル)-フェニル-フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-フェニル-フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。ホスホネイト化合物としては、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、およびベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。第3級ホスフィンとしては、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリアミルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジブチルフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、トリナフチルホスフィン、およびジフェニルベンジルホスフィンなどが例示される。特に好ましい第3級ホスフィンは、トリフェニルホスフィンである。上記リン系安定剤は、1種のみならず2種以上を混合して用いることができる。上記リン系安定剤の中でもトリメチルホスフェートに代表されるアルキルホスフェート化合物が配合されることが好ましい。またかかるアルキルホスフェート化合物と、ホスファイト化合物および/またはホスホナイト化合物との併用も好ましい態様である。
【0053】
F成分の含有量は、A成分およびB成分からなる樹脂成分100重量部に対し、0.0001~3重量部が好ましく、より好ましくは0.001~0.5重量部、さらに好ましくは0.01~0.3重量部である。リン系安定剤が上記範囲よりも少なすぎる場合には良好な安定化効果を得ることが難しく、上記範囲を超えて多すぎる場合は、組成物の物性低下を起こす場合がある。
【0054】
(その他の添加剤について)
本発明の樹脂組成物は、本発明の趣旨に反しない範囲で、離型剤、含フッ素滴下防止剤、カーボンブラック等の各種添加剤を含むことが出来る。
【0055】
<離型剤>
本発明の樹脂組成物は離型剤を含むことができる。離型剤として具体的には、脂肪酸、脂肪酸金属塩、オキシ脂肪酸、パラフィン、低分子量のポリオレフィン、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸部分鹸化エステル、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステルおよび変性シリコーン等を挙げることができる。これらを配合することで成形性に優れた成形体を得ることができる。
【0056】
脂肪酸としては炭素数6~40のものが好ましく、具体的には、オレイン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、アラキドン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、パルミチン酸、モンタン酸およびこれらの混合物等が挙げられる。脂肪酸金属塩としては炭素数6~40の脂肪酸のアルカリ(土類)金属塩が好ましく、具体的にはステアリン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム等が挙げられる。
【0057】
オキシ脂肪酸としては1,2-オキシステリン酸等が挙げられる。パラフィンとしては炭素数18以上のものが好ましく、流動パラフィン、天然パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラクタム等が挙げられる。
【0058】
低分子量のポリオレフィンとしては例えば分子量5000以下のものが好ましく、具体的にはポリエチレンワックス、マレイン酸変性ポリエチレンワックス、酸化タイプポリエチレンワックス、塩素化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等が挙げられる。
【0059】
脂肪酸アミドとしては炭素数6以上のものが好ましく、具体的にはオレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド等が挙げられる。
【0060】
アルキレンビス脂肪酸アミドとしては炭素数6以上のものが好ましく、具体的にはメチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0061】
脂肪族ケトンとしては炭素数6以上のものが好ましく、高級脂肪族ケトン等が挙げられる。
【0062】
脂肪酸部分鹸化エステルとしてはモンタン酸部分鹸化エステル等が挙げられる。脂肪酸低級アルコールエステルとしてはステアリン酸エステル、オレイン酸エステル、リノール酸エステル、リノレン酸エステル、アジピン酸エステル、ベヘン酸エステル、アラキドン酸エステル、モンタン酸エステル、イソステアリン酸エステル等が挙げられる。
【0063】
脂肪酸多価アルコールエステルとしては、グリセロールトリステアレート、グリセロールジステアレート、グリセロールモノステアレート、ペンタエリスルトールテトラステアレート、ペンタエリスルトールトリステアレート、ペンタエリスルトールジミリステート、ペンタエリスルトールモノステアレート、ペンタエリスルトールアジペートステアレート、ソルビタンモノベヘネート等が挙げられる。脂肪酸ポリグリコールエステルとしてはポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリトリメチレングリコール脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0064】
変性シリコーンとしてはポリエーテル変性シリコーン、高級脂肪酸アルコキシ変性シリコーン、高級脂肪酸含有シリコーン、高級脂肪酸エステル変性シリコーン、メタクリル変性シリコーン、フッ素変性シリコーン等が挙げられる。
【0065】
そのうち脂肪酸、脂肪酸金属塩、オキシ脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸部分鹸化エステル、パラフィン、低分子量ポリオレフィン、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミドが好ましく、脂肪酸部分鹸化エステル、アルキレンビス脂肪酸アミドがより好ましい。なかでもモンタン酸エステル、モンタン酸部分鹸化エステル、ポリエチレンワックス、酸価ポリエチレンワックス、ソルビタン脂肪酸エステル、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドが好ましく、特にモンタン酸部分鹸化エステル、エチレンビスステアリン酸アミドが好ましい。
【0066】
離型剤は、1種類で用いても良いし2種以上を組み合わせて用いても良い。離型剤の含有量は、A成分およびB成分からなる樹脂成分100重量部に対し、好ましくは0.01~3重量部、より好ましくは0.03~2重量部である。
【0067】
<含フッ素滴下防止剤>
本発明の樹脂組成物は含フッ素滴下防止剤を含むことができる。含フッ素滴下防止剤としては、フィブリル形成能を有する含フッ素ポリマーが挙げられる。かかるポリマーとしてはポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、など)、米国特許第4379910号公報に示されるような部分フッ素化ポリマー、フッ素化ジフェノールから製造されるポリカーボネート樹脂などを挙げることができる。中でも好ましくはポリテトラフルオロエチレン(以下PTFEと称することがある)である。
【0068】
フィブリル形成能を有するPTFEの分子量は極めて高い分子量を有し、せん断力などの外的作用によりPTFE同士を結合して繊維状になる傾向を示すものである。その分子量は、標準比重から求められる数平均分子量において100万~1000万、より好ましく200万~900万である。かかるPTFEは、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能である。またかかるフィブリル形成能を有するPTFEは樹脂中での分散性を向上させ、さらに良好な難燃性および機械的特性を得るために他の樹脂との混合形態のPTFE混合物を使用することも可能である。
【0069】
かかるフィブリル形成能を有するPTFEの市販品としては例えば三井・ケマーズフロロプロダクツ(株)のテフロン(登録商標)6-J、ダイキン工業(株)のポリフロンMPA FA500HおよびF-201などを挙げることができる。PTFEの水性分散液の市販品としては、ダイキン工業(株)製のフルオンDシリーズ、三井・ケマーズフロロ
プロダクツ(株)のテフロン(登録商標)31-JRなどを代表として挙げることができる。
【0070】
混合形態のPTFEとしては、(1)PTFEの水性分散液と有機重合体の水性分散液または溶液とを混合し共沈殿を行って共凝集混合物を得る方法(特開昭60-258263号公報、特開昭63-154744号公報などに記載された方法)、(2)PTFEの水性分散液と乾燥した有機重合体粒子とを混合する方法(特開平4-272957号公報に記載された方法)、(3)PTFEの水性分散液と有機重合体粒子溶液を均一に混合し、かかる混合物からそれぞれの媒体を同時に除去する方法(特開平06-220210号公報、特開平08-188653号公報などに記載された方法)、(4)PTFEの水性分散液中で有機重合体を形成する単量体を重合する方法(特開平9-95583号公報に記載された方法)、および(5)PTFEの水性分散液と有機重合体分散液を均一に混合後、さらに該混合分散液中でビニル系単量体を重合し、その後混合物を得る方法(特開平11-29679号などに記載された方法)により得られたものが使用できる。これら混合形態のPTFEの市販品としては、三菱ケミカル(株)の「メタブレン A3800」(商品名)、「メタブレンA3750」などを挙げることができる。
【0071】
混合形態におけるPTFEの割合としては、PTFE混合物100重量%中、PTFEが1~60重量%が好ましく、より好ましくは5~55重量%である。PTFEの割合がかかる範囲にある場合は、PTFEの良好な分散性を達成することができる。
【0072】
ポリテトラフルオロエチレン系混合体に使用される有機系重合体としてスチレン系単量体としては、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基およびハロゲンからなる群より選ばれた1つ以上の基で置換されてもよいスチレン、例えば、オルト-メチルスチレン、メタ-メチルスチレン、パラ-メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチル-スチレン、パラ-tert-ブチルスチレン、メトキシスチレン、フルオロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、およびトリブロモスチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレンが例示されるが、これらに制限されない。前記スチレン系単量体は単独又は2つ以上の種類を混合して使用することができる。
【0073】
ポリテトラフルオロエチレン系混合体に使用される有機系重合体として使用されるアクリル系単量体は、置換されてもよい(メタ)アクリレート誘導体を含む。具体的に前記アクリル系単量体としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、アリール基、及びグリシジル基からなる群より選ばれた1つ以上基により置換されてもよい(メタ)アクリレート誘導体、例えば(メタ)アクリロ二トリル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートおよびグリシジル(メタ)アクリレート、炭素数1~6のアルキル基、又はアリール基により置換されてもよいマレイミド、例えば、マレイミド、N-メチル-マレイミドおよびN-フェニル-マレイミド、マレイン酸、フタル酸およびイタコン酸が例示されるが、これらに制限されない。前記アクリル系単量体は単独又は2つ以上の種類を混合して使用することができる。これらの中でも(メタ)アクリロ二トリルが好ましい。
【0074】
有機重合体に含まれるアクリル系単量体由来単位の量は、スチレン系単量体由来単位100重量部に対して好ましくは8~11重量部、より好ましくは8~10重量部、さらに好ましくは8~9重量部である。アクリル系単量体由来単位が8重量部より少ないとコーティング強度が低下することがあり、11重量部より多いと成形体の表面外観が悪くなり得る。
【0075】
本発明のポリテトラフルオロエチレン系混合体は、残存水分含量が0.5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.2~0.4重量%、さらに好ましくは0.1~0.3重量%である。残存水分量が0.5重量%より多いと難燃性に悪影響を与えることがある。
【0076】
本発明のポリテトラフルオロエチレン系混合体の製造工程には、開始剤の存在下でスチレン系単量体及びアクリル単量体からなるグループより選ばれた1つ以上の単量体を含むコーティング層を分岐状ポリテトラフルオロエチレンの外部に形成するステップが含まれる。さらに、前記コーティング層形成のステップ後に残存水分含量を0.5重量%以下、好ましくは0.2~0.4重量%、より好ましくは0.1~0.3重量%となるように乾燥させるステップを含むことが好ましい。乾燥のステップは、例えば、熱風乾燥又は真空乾燥方法のような当業界に公知にされた方法を用いて行うことができる。
【0077】
本発明のポリテトラフルオロエチレン系混合体に使用される開始剤は、スチレン系及び/又はアクリル系単量体の重合反応に使用されるものであれば制限なく使用され得る。前記開始剤としては、クミルハイドロパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ハイドロゲンパーオキサイド、およびポタシウムパーオキサイドが例示されるが、これらに制限されない。本発明のポリテトラフルオロエチレン系混合体には、反応条件に応じて前記開始剤を1種以上使用することができる。前記開始剤の量は、ポリテトラフルオロエチレンの量及び単量体の種類/量を考慮して使用される範囲内で自由に選択され、全組成物の量を基準として0.15~0.25重量部使用することが好ましい。
【0078】
本発明のポリテトラフルオロエチレン系混合体は、懸濁重合法により下記の手順にて製造を行うことが好ましい。
【0079】
まず、反応器中に水および分岐状ポリテトラフルオロエチレンディスパージョン(固形濃度:60%、ポリテトラフルオロエチレン粒子径:0.15~0.3μm)を入れた後、攪拌しながらアクリルモノマー、スチレンモノマーおよび水溶性開始剤としてクメンハイドロパーオキサイドを添加し80~90℃にて9時間反応を行なった。反応終了後、遠心分離機にて30分間遠心分離を行うことにより水分を除去し、ペースト状の生成物を得た。その後、生成物のペーストを熱風乾燥機にて80~100℃にて8時間乾燥した。その後、かかる乾燥した生成物の粉砕を行い本発明のポリテトラフルオロエチレン系混合体を得た。
【0080】
かかる懸濁重合法は、特許3469391号公報などに例示される乳化重合法における乳化分散による重合工程を必要としないため、乳化剤および重合後のラテックスを凝固沈殿するための電解質塩類を必要としない。また乳化重合法で製造されたポリテトラフルオロエチレン混合体では、混合体中の乳化剤および電解質塩類が混在しやすく取り除きにくくなるため、かかる乳化剤、電解質塩類由来のナトリウム金属イオン、カリウム金属イオンを低減することは難しい。本発明で使用するポリテトラフルオロエチレン系混合体(B成分)は、懸濁重合法で製造されているため、かかる乳化剤、電解質塩類を使用しないことから混合体中のナトリウム金属イオン、カリウム金属イオンが低減することができ、熱安定性および耐加水分解性を向上することができる。
【0081】
また、本発明では含フッ素滴下防止剤として被覆分岐PTFEを使用することができる。被覆分岐PTFEは分岐状ポリテトラフルオロエチレン粒子および有機系重合体からなるポリテトラフルオロエチレン系混合体であり、分岐状ポリテトラフルオロエチレンの外部に有機系重合体、好ましくはスチレン系単量体由来単位及び/又はアクリル系単量体由来単位を含む重合体からなるコーティング層を有する。前記コーティング層は、分岐状ポリテトラフルオロエチレンの表面上に形成される。また、前記コーティング層はスチレン系単量体及びアクリル系単量体の共重合体を含むことが好ましい。
【0082】
被覆分岐PTFEに含まれるポリテトラフルオロエチレンは分岐状ポリテトラフルオロエチレンである。含まれるポリテトラフルオロエチレンが分岐状ポリテトラフルオロエチレンでない場合、ポリテトラフルオロエチレンの添加が少ない場合の滴下防止効果が不十分となる。分岐状ポリテトラフルオロエチレンは粒子状であり、好ましくは0.1~0.6μm、より好ましくは0.3~0.5μm、さらに好ましくは0.3~0.4μmの粒子径を有する。0.1μmより粒子径が小さい場合には成形体の表面外観に優れるが、0.1μmより小さい粒子径を有するポリテトラフルオロエチレンを商業的に入手することは難しい。また0.6μmより粒子径が大きい場合には成形体の表面外観が悪くなる場合がある。本発明に使用されるポリテトラフルオロエチレンの数平均分子量は1×10~1×10が好ましく、より好ましくは2×10~9×10であり、一般的に高い分子量のポリテトラフルオロエチレンが安定性の側面においてより好ましい。粉末又は分散液の形態いずれも使用され得る。
【0083】
被覆分岐PTFEにおける分岐状ポリテトラフルオロエチレンの含有量は、被覆分岐PTFEの総重量100重量部に対して、好ましくは20~60重量部、より好ましくは40~55重量部、さらに好ましくは47~53重量部、特に好ましくは48~52重量部、最も好ましくは49~51重量部である。分岐状ポリテトラフルオロエチレンの割合がかかる範囲にある場合は、分岐状ポリテトラフルオロエチレンの良好な分散性を達成することができる。
【0084】
含フッ素滴下防止剤の含有量は、A成分およびB成分からなる樹脂成分100重量部に対して、0.01~3重量部が好ましく、より好ましくは0.03~2重量部であり、さらに好ましくは0.05~0.1重量部である。なお、上記成分の割合は正味のドリップ防止剤の量を示し、混合形態のPTFEの場合には、正味のPTFE量を示す。
【0085】
<カーボンブラック>
本発明の樹脂組成物には、着色を目的としてカーボンブラックを配合することができる。カーボンブラックの含有量は、A成分およびB成分からなる樹脂成分100重量部に対して0.1~5重量部であることが好ましく、より好ましくは0.1~3重量部であり、さらに好ましくは0.1~1重量部である。
【0086】
カーボンブラックの添加方法は、樹脂組成物作製時にカーボンブラックをそのまま配合しても良いし、事前に熱可塑性樹脂にカーボンブラックを配合したマスターバッチを用いてもよい。マスターバッチを用いる際に使用する熱可塑性樹脂は、樹脂組成物との相容性と耐熱性、難燃性の観点よりにポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂のいずれかの熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0087】
その他、本発明の樹脂組成物には、成形体に種々の機能の付与や特性改善のために、それ自体知られた添加物を少割合配合することができる。これら添加物は本発明の目的を損なわない限り、通常の配合量である。かかる添加剤としては、摺動剤(例えばPTFE粒子)、カーボンブラックを除く着色剤(例えば酸化チタンなどの顔料、染料)、帯電防止剤、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(例えば微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛)、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤(熱線吸収剤)などが挙げられる。
【0088】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えば各成分、並びに任意に他の成分を予備混合し、その後溶融混練し、ペレット化する方法を挙げることができる。予備混合の手段としては、ナウターミキサー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などを挙げることができる。予備混合においては場合により押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより造粒を行うこともできる。予備混合後、ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練、およびペレタイザー等の機器によりペレット化する。溶融混練機としては他にバンバリーミキサー、混練ロール、恒熱撹拌容器などを挙げることができるが、ベント式ニ軸押出機が好ましい。他に、各成分、並びに任意に他の成分を予備混合することなく、それぞれ独立に二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法も取ることもできる。
【0089】
<成形体について>
本発明の樹脂組成物を用いてなる成形体は、上記の如く製造されたペレットを成形して得ることができる。好適には、射出成形、押出成形により得られる。射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体を注入する方法を含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、多色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形等を挙げることができる。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。コールドランナーを用いて成形体を得る場合、成形体への流入口であるゲート部は制限ゲートでも非制限ゲートのどちらでも良いが、後加工性の観点より制限ゲートの方が好ましい。非制限ゲートとは、ゲート部で流路断面積が縮小しないゲートであり、制限ゲートとはゲート部で流路断面積が縮小するゲートである。なお、制限ゲートは下記式(1)を満たすことが好ましい。
【0090】
【数1】
(式中、Sはランナー断面積(mm)、Sはゲート部断面積(mm)を表す。)
【0091】
非制限ゲートとしては、スプルーゲートが挙げられ、制限ゲートとしては、ピンポイントゲート、サイドゲート、タブゲート、オーバーラップゲート、フィルムゲート、ファンゲート、ディスクゲート、サブマリンゲート等が挙げられる。
【0092】
本発明の樹脂組成物が利用される成形体としては、例えば、コネクター、ソケット、リレー部品、コイルボビン、光ピックアップ、発振子、プリント配線板、コンピュータ関連部品等の電気・電子部品;ICトレー、ウエハーキャリヤー等の半導体製造プロセス関連部品;コンピュータ、VTR、テレビ、アイロン、エアコン、ステレオ、掃除機、冷蔵庫、炊飯器、照明器具等の家庭電気製品部品やハウジング材;ランプリフレクター、ランプホルダー等の照明器具部品;コンパクトディスク、レーザーディスク(登録商標)、スピーカー等の音響製品部品;光ケーブル用フェルール、電話機部品、ファクシミリ部品、モデム等の通信機器部品;分離爪、ヒータホルダー等の複写機関連部品;インペラー、ファン、歯車、ギヤ、軸受け、モーター部品及びケース等の機械部品;自動車用機構部品、エンジン部品、エンジンルーム内部品、電装部品、内装部品等の自動車部品;マイクロ波調理用鍋、耐熱食器等の調理用器具;床材、壁材等の断熱、防音用材料、梁、柱等の支持材料、屋根材等の建築資材又は土木建築用材料;航空機部品、宇宙機部品、原子炉等の放射線施設部材、海洋施設部材、洗浄用治具、光学機器部品、バルブ類、パイプ類、ノズル類、フィルター類、膜、医療用機器部品及び医療用材料、センサー類部品、サニタリー備品、スポーツ用品、レジャー用品等が挙げられる。
【実施例
【0093】
以下、実施例により本発明を実施する形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、諸物性の評価は以下の方法により実施した。
【0094】
[樹脂組成物の評価]
(1)押出加工性
押出時の安定性に関して、以下の基準にて評価を実施した。
〇:押出時のストランドが安定しており、問題なくペレット化が可能である。
△:押出時のストランドがやや不安定ではあるが、ペレット化は可能である。
×:押出時のストランドが不安定であり、ペレット化が困難である。
【0095】
(2)流動性
流動性は、流路厚み1mm、流路幅8mmのアルキメデス型スパイラルフローの金型を使用して評価を行った。スパイラルフロー長の測定は、下記の方法で得られたペレットを120℃で8時間乾燥した後に射出成形機(住友重機械工業(株)製SE130EV-A)によりシリンダー温度320℃、金型温度100℃、射出圧力100MPaでの条件にて評価を行った。スパイラルフロー長は、50mm以上であることが必要である。
【0096】
(3)室温における引張強度
下記の方法で得られたペレットを120℃で8時間乾燥した後に射出成形機(東芝機械(株)製 EC130SXII―4Y)によりシリンダー温度320℃、金型温度80℃にて試験片を作製し、ISO527-1および527-2に従い温度23℃、速度5mm/minの条件にて引張試験を実施し引張強度を測定した。引張強度は180MPa以上であることが必要である。
【0097】
(4)高温領域における引張強度
下記の方法で得られたペレットを120℃で8時間乾燥した後に射出成形機(東芝機械(株)製 EC130SXII―4Y)によりシリンダー温度320℃、金型温度80℃にて試験片を作製し、ISO527-1および527-2に従い温度85℃、速度5mm/minの条件にて引張試験を実施し引張強度を測定した。高温領域における引張強度は110MPa以上であることが必要である。
【0098】
(5)耐湿熱性
下記の方法で得られたペレットを120℃で8時間乾燥した後に射出成形機(東芝機械(株)製 EC130SXII―4Y)によりシリンダー温度320℃、金型温度80℃にて試験片を成形した。
【0099】
成形した試験片を85℃×85%RH×1000hrの条件にて湿熱処理を行い、湿熱処理後の試験片をISO527-1および527-2に従い温度23℃、速度5mm/minの条件にて引張試験を実施した。湿熱処理後の引張破断強度保持率は以下式にて算出した。引張破断強度保持率は60%以上であることが必要である。
引張破断強度保持率(%)=[湿熱処理後の引張破断強度/湿熱処理前の引張破断強度]×100
【0100】
(6)難燃性
米国アンダーライターラボラトリー社の定める方法(UL94)により、試験片厚さ0.8mmにおける垂直燃焼試験を実施して評価した。なお、V-0、V-1、V-2のいずれの判定にもあてはまらないものについてはnot Vと表記した。
【0101】
(7)配向結晶化抑制効果
下記方法で得られたペレットを120℃で5時間乾燥した後に射出成形機(東芝機械(株)製 EC130SXII―4Y)によりシリンダー温度320℃、金型温度110℃の条件にてゲート模擬金型にて射出成形を行った。ゲート模擬金型はランナー模擬部およびゲート模擬部の二つからなる金型である。
前記、ランナー模擬部は、形状が高さ6mm、幅13mm、長さ5mmであり、ゲート模擬部は幅13mm、長さ125mmであり、高さが任意に変更可能である。ゲート模擬部の高さを任意に選択し、下記式(1)に記載のS/Sの数値を変更し配向結晶化抑制効果の評価を行った。
【0102】
【数2】
(式中、Sはランナー断面積(mm)、Sはゲート部断面積(mm)を表す。)
【0103】
なお、配向結晶化抑制効果は、125mmのゲート模擬部末端まで樹脂を充填させた時に発生する配向結晶による白化長さLを測定し以下の通り評価した。
◎: L=0mm
〇: 0mm<L≦50mm
△: 50mm<L≦100mm
×: 100mm<L≦125mm
【0104】
[実施例1-25、比較例1-9]
表1~表3で示した含有量に従って、C成分を除く成分からなる混合物を二軸押出機の第1供給口より供給した。かかる混合物はV型ブレンダーにて混合して得た。C成分は、第2供給口よりサイドフィーダーを用いて供給した。押出は、径30mmΦのベント式二軸押出機((株)日本製鋼所製:TEX30α-31.5BW-2V)を使用し、スクリュー回転数200rpm、吐出量20kg/h、ベントの真空度3kPaにて溶融混錬しペレットを得た。なお、押出温度は320℃にて行った。
【0105】
本発明の実施例および比較例には、以下の材料を使用した。
(A成分)
A-I:製造例Iで得られたポリエチレンナフタレート樹脂
<製造例I>
ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル100重量部およびエチレングリコール60重量部を酢酸コバルト四水和物0.010重量部(10ミリモル%)および酢酸マンガン四水和物0.030重量部(30ミリモル%)の存在下、常法によりエステル交換反応させ、メタノール溜出20分後に三酸化アンチモン0.012重量部(10ミリモル%)を添加し、エステル交換反応終了前に正リン酸0.020重量部(50ミリモル%)を添加し、次いで295℃、高真空下重縮合反応を行い固有粘度0.51dl/gのポリエチレンナフタレート樹脂(a)を得た。得られたポリエチレンナフタレート樹脂(a)を、温度227℃、真空度0.5Torrの条件にて8時間固相重合を行い固有粘度が0.68dl/gのポリエチレンナフタレート樹脂を得た。
(B成分)
B-I:ポリエーテルイミド(SABICジャパン合同会社制 ULTEM1010(商品名))
(C成分)
C-I:ガラス繊維:扁平断面チョップドガラス繊維(日東紡績(株)製:CSG 3PA-830(商品名)、長径28μm、短径7μm、カット長3mm、エポキシ系集束剤)
C-II:ガラス繊維:丸形断面チョップドガラス繊維(日東紡績(株)製:CSG 3
PE-944(商品名)、径13μm、カット長3mm、エポキシ系集束剤)
C-III:炭素繊維:PAN系炭素繊維(帝人(株)製 IM P303(商品名)、繊維径7μm、カット長3mm、エポキシ系集束剤)
(D成分)
D-I:環状フェノキシホスファゼン(伏見製薬所(株)製:FP-110T(商品名))
D-II:(2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン,3,9-ジベンジル-3,9-ジオキサイド(帝人(株)製:FCX-210(商品名))
D-III:レゾルシノールビス(ジ2、6-キシリルホスフェート)(大八化学工業(株)製:PX-200(商品名))
(E成分)
E-I:ヒンダードフェノール系安定剤((株)ADEKA製 オクタデシル-3-(3、5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(アデカスタブAO-50))
(F成分)
F-I:リン系安定剤(ソンウォンインターナショナルジャパン(株)製 ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(SONGNOX6260PW))
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
<実施例1~25>
本請求の範囲内にある組成物であるため、室温および高温領域における強度、難燃性、耐湿熱性に優れ、かつ制限ゲートを使用した場合に発生するゲート部における配向結晶化が抑制された難燃性ポリエステル樹脂組成物および成形体を得ることができた。
【0110】
<比較例1>
B成分を含まないため、高温領域における引張強度および難燃性に劣り、また、制限ゲートを使用した場合に発生するゲート部における配向結晶化の抑制効果が認められなかった。
【0111】
<比較例2>
B成分の含有量が上限を超えるため、流動性に劣る結果であった。
【0112】
<比較例3、4>
C成分の含有量が下限を下回るため、室温および高温領域における引張強度および難燃
性に劣る結果であった。
【0113】
<比較例5>
C成分の含有量が上限を超えるため、押出加工性に劣る結果であった。
【0114】
<比較例6>
D成分の含有量が下限を下回るため、室温における引張強度および難燃性に劣る結果であった。
【0115】
<比較例7>
D成分の含有量が上限を超えるため、高温領域における引張強度に劣る結果であった。
【0116】
<比較例8、9>
D成分がホスファゼン化合物でないため、耐湿熱性に劣る結果であった。