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特許7597588ポリブチレンナフタレート樹脂組成物およびそれを用いた成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ポリブチレンナフタレート樹脂組成物およびそれを用いた成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20241203BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20241203BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20241203BHJP
   C08L 91/06 20060101ALI20241203BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L23/26
C08K7/06
C08L91/06
C08K3/36
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021006308
(22)【出願日】2021-01-19
(65)【公開番号】P2022110724
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊與 直希
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-236660(JP,A)
【文献】特開平05-339478(JP,A)
【文献】特開平11-323103(JP,A)
【文献】特開平04-351647(JP,A)
【文献】特開2020-193247(JP,A)
【文献】特開2019-039003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンナフタレート樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度が5~28dl/gである無水マレイン酸で変性された変性超高分子量ポリエチレン(B成分)5~30重量部、(C)炭素繊維(C成分)2~9重量部および(D)ポリオレフィン系ワックス(D成分)1~15重量部を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
D成分がポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックスおよび酸変性ポリエチレンワックスの群より選ばれる少なくとも一つのポリオレフィン系ワックス含むことを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
A成分100重量部に対し、(E)JIS Z8825、JIS Z8819-2に従い、レーザー回折散乱法により得た粒子径分布から算出された体積平均径である平均粒子径が1~15μmの球状シリカ粒子1~15重量部を含有することを特徴とする請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載の樹脂組成物からなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高荷重下での摺動時に低摩擦係数を発現しつつ、耐ブリードアウト性に優れるポリブチレンナフタレート樹脂組成物およびそれを用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂は、機械特性、耐熱性および耐薬品性に優れており、電気電子部品用途、家電用途および自動車用部品用途に広く使用されている。中でもポリブチレンナフタレート樹脂は、ポリブチレンテレフタレート樹脂等と比較して摺動性や耐加水分解性に優れるという特徴を有しているため各種ギヤや研磨パッド用途に用いられている。しかしながら、より高荷重下の使用環境において摺動性が必要とされる分野では、部品の強度を維持しつつ低摩擦係数を実現するのは困難であった。
【0003】
特許文献1には摺動性に優れたポリブチレンナフタレート樹脂組成物およびそれを用いた摺動部品として、ポリブチレンナフタレート樹脂、高密度ポリエチレン樹脂および酸変性ポリエチレン樹脂からなる樹脂組成物が提案されている。しかしながら、低荷重下での摺動性の改善はみられるものの、高荷重下での摺動性が不足しており更なる改善が必要である。特許文献2および3には合成樹脂、繊維状充填材およびオレフィン系ワックスまたはパラフィンワックスからなる樹脂組成物が提案されており、樹脂の摺動性を高める試みがなされている。しかしながら、ワックス成分は時間とともに樹脂部品からブリードアウトしていくため、成形時の成分分離による工程汚染や、長期に渡る摺動性能の安定化には課題が残っていた。さらに、高荷重下での摺動時における摩擦係数低減に関する知見も不十分であった。特許文献4では、ポリエステル樹脂、超高分子量ポリエチレンおよび炭素繊維からなる摩擦摩耗特性に優れる樹脂組成物が提案されているが、こちらも高荷重下での摺動時における摩擦係数低減に関する知見が不十分であり、更なる改善が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-111759号公報
【文献】特許第4209666号公報
【文献】特開昭59-84990号公報
【文献】特開昭63-297455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高荷重下での摺動時に低摩擦係数を発現しつつ、耐ブリードアウト性に優れるポリブチレンナフタレート樹脂組成物およびそれを用いた成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上述の課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、ポリブチレンナフタレート樹脂に変性超高分子量ポリエチレン、炭素繊維およびポリオレフィン系ワックスを特定の割合で配合することにより、上記目的を達成することを見出し本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は(A)ポリブチレンナフタレート樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度が5~28dl/gである無水マレイン酸で変性された変性超高分子量ポリエチレン(B成分)5~30重量部、(C)炭素繊維(C成分)2~9重量部および(D)ポリオレフィン系ワックス(D成分)1~15重量部を含有することを特徴とする樹脂組成物により達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高荷重下での低摩擦係数を発現しつつ、摺動材のブリードアウトを適切に抑制することで、製造工程での防汚性や摺動性の長期安定性に優れるポリブチレンナフタレート樹脂組成物を提供することができ、本発明の樹脂組成物より得られる成形体は電気電子部品や自動車用部品に加え、摺動性の長期安定性の要求の高い建築部材に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、更に本発明の詳細について説明する。
【0010】
<A成分について>
本発明のA成分であるポリブチレンナフタレート樹脂は、ナフタレンジカルボン酸および/またはナフタレンジカルボン酸のエステル形成性誘導体を主とするジカルボン酸成分と、1,4-ブタンジオールを主成分とするグリコール成分を用いて製造することができる。
【0011】
ナフタレンジカルボン酸成分としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸を主成分とするが、特性を損なわない範囲であれば、他のジカルボン酸を併用することができる。他のジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4′-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シュウ酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。他のジカルボン酸の使用量は全酸成分に対して好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。ナフタレンジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、2,7-ナフタレンジカルボン酸ジメチルを主成分とするが、特性を損なわない範囲であれば、他のジカルボン酸のエステル形成性誘導体を併用することができる。他のジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4′-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シュウ酸等の脂肪族ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。他のジカルボン酸のエステル形成性誘導体の使用量は、全ジカルボン酸のエステル形成性誘導体成分に対して好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。
【0012】
また、少量のトリメリット酸のような三官能性以上のジカルボン酸成分を用いてもよく、無水トリメリット酸のような酸無水物を少量用いてもよい。また、乳酸、グリコール酸のようなヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル等を少量用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。
【0013】
グリコール成分としては1,4-ブタンジオールを主成分とするが、特性を損なわない範囲で他のグリコール成分を併用することができる。他のグリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコー
ル、ネオペンチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリ(オキシ)エチレングリコール、ポリ(オキシ)テトラメチレングリコール、ポリ(オキシ)メチレングリコール等のアルキレングリコールの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。さらに少量のグリセリンのような多価アルコール成分を用いてもよい。また少量のエポキシ化合物を用いてもよい。他のグリコール成分の使用量は、全グリコール成分に対して好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。
【0014】
かかるグリコール成分の使用量は、前記ジカルボン酸もしくはジカルボン酸のエステル形成性誘導体に対して1.1モル倍以上1.4モル倍以下であることが好ましい。グリコール成分の使用量が1.1モル倍に満たない場合にはエステル化あるいはエステル交換反応が十分に進行しない場合があり好ましくない。また、1.4モル倍を超える場合にも、理由は定かではないが反応速度が遅くなり、過剰のグリコール成分からテトラヒドロフラン等の副生物の発生量が大となる場合があり好ましくない。
【0015】
ポリブチレンナフタレート樹脂の製造においては、重合触媒としてチタン化合物が使用される。重合触媒として用いられるチタン化合物としては、テトラアルキルチタネートが好ましく、具体的にはテトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラ-sec-ブチルチタネート、テトラ-t-ブチルチタネート、テトラ-n-ヘキシルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネートなどが挙げられ、これらの混合チタネートとして用いても良い。これらのチタン化合物のうち、特にテトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネートが好ましく、最も好ましいのはテトラ-n-ブチルチタネートである。チタン化合物の添加量は生成ポリブチレンナフタレート樹脂中のチタン原子含有量として、10ppm以上60ppm以下であることが好ましく、より好ましくは15ppm以上30ppm以下である。生成ポリブチレンナフタレート樹脂中のチタン原子含有量が60ppmを超える場合は、本発明の樹脂組成物の色調および熱安定性が低下する場合があるために好ましくない。一方チタン原子含有量が10ppm未満の場合には、良好な重合活性を得ることができず、充分な高い固有粘度のポリブチレンナフタレート樹脂を得ることができない場合があり好ましくない。本発明のポリブチレンナフタレート樹脂は、ナフタレンジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体を主とするジカルボン酸成分と1,4-ブタンジオールを主とするグリコール成分とをチタン化合物の存在下にてエステル化あるいはエステル交換反応工程と、それに続く重縮合反応工程とを経由して製造されることが好ましいが、エステル化あるいはエステル交換反応終了の際の温度が180℃以上220℃以下の範囲にある事が好ましく、180℃以上210℃以下であることがより好ましい。当該エステル化反応又はエステル交換反応終了の際の温度が220℃を超える場合には反応速度は大きくなるが、テトラヒドロフラン等の副生物が多くなる場合があり好ましくない。また、180℃未満では反応が進行しなくなる場合がある。エステル化あるいはエステル交換反応により得られた反応生成物(ビスグリコールエーテルおよび/またはその低重合体)は当該反応生成物をポリブチレンナフタレート樹脂の融点以上270℃以下の温度において0.4kPa(3Torr)以下の減圧下で重縮合させることが好ましい。重縮合反応温度が270℃を超える場合にはむしろ反応速度が低下して、着色も大となるので好ましくない。
【0016】
<B成分について>
本発明のB成分である変性超高分子量ポリエチレンは、135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度[η]が5~28dl/gであり、好ましくは8~28dl/g、より好ましくは10~26dl/gである。B成分の極限粘度が5dl/g未満の場合、高荷重下での摺動性が不十分になり、28dl/gを超えると射出成形時に層剥離しやすくなり靭性が低下する。なお、該極限粘度は以下の方法で測定した。すなわち、サンプル20mgを15mLのデカリン溶媒に溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定する。このデカリン溶液に5mLのデカリン溶媒を追加して希釈した後、比粘度ηspを測定する。この希釈操作をさらに2回繰り返し、変性超高分子量ポリエチレンの濃度(C)を0に外挿したときのηsp/Cの値を変性超高分子量ポリエチレンの極限粘度[η]とした。変性超高分子量ポリエチレンの製造に使用される変性成分としては、無水マレンイン酸、無水イタコン酸などが挙げられるが、特に無水マレイン酸が好ましい。変性超高分子量ポリエチレンにおける変性基の含有率は0.05~3重量%が好ましい。変性量が0.05重量%未満ではポリブチレンナフタレート樹脂との反応性が低いため層剥離しやすくなり靭性が低下する場合があり、3重量%超えると反応性が過度に高くなりゲル化する場合がある。なお、変性されていない超高分子量ポリエチレンを使用した場合、靭性が低下する。
【0017】
B成分の含有量は、A成分100重量部に対し、5~30重量部であり、好ましくは7~25重量部、より好ましくは10~20重量部である。含有量が5重量部未満の場合、高荷重下での摺動性が不十分であり、かつポリオレフィン系ワックスのブリードアウト量が増加し、30重量部を超えると層剥離しやくすなり靭性が低下する。
【0018】
<C成分について>
本発明で使用される炭素繊維としては、一般的に炭素繊維と称されるものであればいかなる炭素繊維を用いてもよい。例えば、ポリアクリロニトリルを原料とするPAN系炭素繊維、石油タールや石油ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維、炭化水素などを原料とする気相成長系炭素繊維、ビスコースレーヨンなどを原料とするセルロース系炭素繊維などが挙げられる。
【0019】
炭素繊維の繊維径は特に限定されないが、1~15μmが好ましく、より好ましくは2~13μmである。かかる範囲の平均繊維径を持つ炭素繊維は、成形体外観を損なうことなく良好な摺動性を発現することができる場合がある。
【0020】
また、炭素繊維は生産性や機械強度の観点から集束処理をされていてもよい。収束剤としてはオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、およびウレタン系樹脂等が挙げられるが、特に限定されるものではない。加工性の観点から好ましい集束剤量は0~5重量%であり、より好ましくは0.1~4重量%である。炭素繊維は、炭素繊維の表面に金属層をコートしてもよい。金属としては、銀、銅、ニッケル、およびアルミニウムなどが挙げられ、ニッケルが金属層の耐腐食性の点から好ましい。
【0021】
C成分の含有量は、A成分100重量部に対し、2~9重量部であり、好ましくは3~9重量部、より好ましくは4~8重量部である。C成分の含有量が2重量部未満では、高荷重下で十分な強度が維持できず、結果として高荷重下での摺動時の低摩擦係数が発現しない。9重量部を超えた場合も高荷重下での摺動時の低摩擦係数が発現しない。
【0022】
<D成分について>
本発明で使用されるポリオレフィン系ワックスとしては、それ自体公知のものを用いることができ、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、イソブテン、イソブチレン、ブタジエン等の炭素数2~8のオレフィンモノマーの重合体またはその熱分解物であるポリオレフィンワックス、上記ポリオレフィンワックスを融点以上の溶融状態とし、そこへ空気または酸素または酸素含有ガスを導入することで酸化反応による官能基導入を行った酸化ポリオレフィンワックス、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル、プロピオ
ン酸ビニル、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチルエステル等の炭素数3~8の不飽和カルボン酸およびそれらの酸の全体または一部がナトリウム、カリウム、リチウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム等の1~2価の金属陽イオンで中和された金属塩、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、メタクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、マレイン酸モノメチルエステル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、酢酸ビニル、アクリルアミン、アクリルアミド等の官能基含有モノマーを共重合、ブロック重合またはグラフト重合させた酸変性ポリオレフィンワックス等が好ましく挙げられるが、なかでも、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸変性ポリエチレンワックスまたはそれらの混合物がより好ましい。酸変性としては、マレイン酸変性または無水マレイン酸変性が特に好ましい。また、酸化ワックスとしては、カルボキシル基、ケトン基および水酸基が導入されていることが好ましい。ポリオレフィン系ワックスは粘度平均分子量が1,000以上10,000未満であることが好ましく、より好ましくは1,500以上8,000未満である。粘度平均分子量が1,000未満の場合は樹脂とワックスとの分離が発生し、成形時の加工性が低下する場合がある。粘度平均分子量が10,000以上の場合は固体潤滑剤としての性能が十分に発揮されず、摺動性に劣る場合がある。
【0023】
D成分の含有量は、A成分100重量部に対し、1~15重量部であり、好ましくは1~13重量部、より好ましくは2~10重量部である。D成分の含有量が1重量部未満では、ワックスによる固体潤滑効果が不十分であり、高荷重下での摺動性が不足し、15重量部を超えた場合は、耐ブリードアウト性に劣る。
【0024】
本発明における変性超高分子量ポリエチレンとポリオレフィン系ワックスは、A成分100重量部に対して、変性超高分子量ポリエチレンを5~30重量部およびポリオレフィン系ワックスを1~15重量部の範囲で併用することで、それぞれを単独で含有させる場合と比べて高荷重下での摩擦係数低減および樹脂組成物からのブリードアウト量を抑制することができる。この原因は定かではないが、変性超高分子量ポリエチレンとポリオレフィン系ワックスとの分子間相互作用により、マトリックス外へのブリードアウトが適度に抑制される効果が発現するものと考えられる。
【0025】
<E成分について>
本発明で使用される球状シリカは、それ自体公知のものを用いることができ、その製造方法は特に限定されるものではないが、例えば気相法、沈降法、ゲル法、ゾル-ゲル法、爆燃法(VMC法)によって製造された球状シリカが挙げられる。球状シリカの真球度は好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上である。真球度は、シリカ粒子の投影面積と周囲長とを測定し、真球度=4π×(投影面積)/(周囲長)にて算出される。球状シリカの平均粒子径は、成形体の摺動性、靱性確保の観点から直径1~15μmが好ましく、より好ましくは3~12μmである。なお、平均粒子径は以下の方法で測定した。すなわち、JIS Z8825、JIS Z8819-2に従い、レーザー回折散乱法により得た粒子径分布から体積平均径を算出し、平均粒子径とした。
【0026】
E成分の含有量は、A成分100重量部に対し、1~15重量部の範囲が好ましく、より好ましくは2~10重量部である。上記の範囲でE成分を含有することで、高荷重下における成形体の強度を保持すると共に、成形体表面近傍のシリカ粒子に由来する表面凹凸構造によって摺動相手材との接触面積が低下し、低摩擦係数を発現することができる場合がある。
【0027】
なお、本発明の樹脂組成物は、本発明の趣旨に反しない範囲で、他の熱可塑性樹脂を配
合し、必要に応じて酸化防止剤、衝撃改質剤、可塑剤、無機充填剤、非ハロゲン系難燃剤、色材、光安定剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、B成分およびD成分を除く滑材、分散剤、流動改質剤、結晶核剤等の各添加材を含むことが出来る。
【0028】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えば各成分、並びに任意に他の成分を予備混合し、その後溶融混練し、ペレット化する方法を挙げることができる。予備混合の手段としては、ナウターミキサー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などを挙げることができる。予備混合においては場合により押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより造粒を行うこともできる。予備混合後、ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練、およびペレタイザー等の機器によりペレット化する。溶融混練機としては他にバンバリーミキサー、混練ロール、恒熱撹拌容器などを挙げることができるが、ベント式ニ軸押出機が好ましい。他に、各成分、並びに任意に他の成分を予備混合することなく、それぞれ独立に二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法も取ることもできる。
【0029】
<成形体について>
本発明の樹脂組成物を用いてなる成形体は、上記の如く製造されたペレットを成形して得ることができる。好適には、射出成形、押出成形により得られる。射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体を注入する方法を含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、多色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形等を挙げることができる。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。押出成形においては、丸棒を押出成形しその後円盤状に切削加工することにより成形体を得る方法や、厚肉シートを押出成形しその後所定の形状に打ち抜き加工することにより成形体を得ることができる。
【実施例
【0030】
以下、実施例により本発明を実施する形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、諸物性の評価は以下の方法により実施した。
【0031】
[樹脂組成物の評価]
(1)動摩擦係数
下記の方法で得られたペレットを120℃で5時間乾燥した後に射出成形機(東芝機械(株)製 EC130SXII―4Y)によりシリンダー温度280℃、金型温度120℃にてJIS K7218A法に準拠し、外径25.6mm、内径20mm、高さ15mmの中空円筒試験片を成形した。該試験片をJIS K7218A法に準拠し、ステンレス材(SUS304)でできた同様の形状の試験片と摺動させた際の動摩擦係数を測定した。試験は、荷重4,000N、滑り速度200mm/s、滑り距離12mの条件で摩擦摩耗試験機(EFM-3-G、(株)オリエンテック製)を用いて実施した。滑り距離12m時点の動摩擦係数が0.06以下であることが必要である。
【0032】
(2)耐ブリードアウト性
下記の方法で得られたペレットを、ペレットの融点+5℃に加熱したプレス機で圧縮し、シート状の試験片を得た。試験片と厚さ1.5mmのガラス板とを貼り合せた後、120℃で4時間処理した後試験片をガラス板より剥離し、ガラス板のヘーズをヘーズメーター(HR-100、村上色彩技術研究所(株)製)を用いて測定した。ガラス板のヘーズは0.5以下であることが必要である。
【0033】
(3)靭性
下記の方法で得られたペレットを120℃で5時間乾燥した後に射出成形機(東芝機械(株)製 EC130SXII―4Y)によりシリンダー温度280℃、金型温度120℃で試験片を成形し、ISO527-1およびISO527-2に従い引張試験を実施し引張破断伸びにより靭性の評価を行った。引張破断伸びは2%以上であることが必要である。
【0034】
[実施例1-8、比較例1-10]
表1で示した添加量に従って、A成分、B成分、D成分およびE成分からなる混合物を第1供給口より別々に二軸押出機に供給した。かかる混合物はV型ブレンダーにて混合して得た。ここで第1供給口とは根元の供給口のことである。C成分は、第2供給口よりサイドフィーダーを用いて供給した。押出は、径30mmΦのベント式二軸押出機((株)日本製鋼所製:TEX30α-31.5BW-2V)を使用し、スクリュー回転数200rpm、吐出量20kg/h、ベントの真空度3kPaにて溶融混錬しペレットを得た。なお、押出温度は280℃にて行った。
【0035】
本発明の実施例および比較例には、以下の材料を使用した。
【0036】
(A成分)
A-I:製造例Iで得られたポリブチレンナフタレート樹脂
<製造例I>
2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル315.0部、1.4-ブタンジオール200、0部、テトラ-n-ブチルチタネート0.062部をエステル交換反応槽に入れ、エステル交換反応槽が210℃となるように昇温しながら150分間エステル交換反応を行なった。ついで得られた反応生成物を重縮合反応槽に移して重縮合反応を開始した。重縮合反応は常圧から0.13kPa(1torr)以下まで40分かけて除々に重縮合反応層内を減圧し、同時に所定の反応温度260℃まで昇温し、以降は重縮合反応温度が260℃、圧力が0.13kPa(1torr)の状態を維持して140分間重縮合反応を行なった。140分が経過した時点で重縮合反応を終了してポリブチレンナフタレート樹脂をストランド状に抜き出し、水冷しながらカッターを用いてチップ状に切断した。次に、得られたポリブチレンナフタレート樹脂を温度213℃、圧力0.13kPa(1Torr)以下の条件にて8時間固相重合をおこないポリブチレンナフタレート樹脂を得た。
【0037】
(B成分)
B-I:製造例IIで得られた変性超高分子量ポリエチレン
<製造例II>
135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度が31dl/gである超高分子量ポリエチレン(三井化学(株)製 ハイゼックスミリオン630M)80重量%、135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度が2dl/gであるポリエチレン((株)プライムポリマー製ハイゼックス2200J)20重量%のポリエチレン樹脂混合物100重量部に対し、無水マレイン酸0.8重量部および有機過酸化物(日本油脂(株)製パーヘキシン-25B)0.07重量部をナウターミキサーにて混合し、得られた混合物を250℃に設定した一軸押出機(いすず化工機(株)製EXT40m/m押出機)で溶融混練を行いB-I成分を得た。得られた変性超高分子量ポリエチレンの135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度は25dl/gであった。
【0038】
B-II:製造例IIIで得られた超高分子量ポリエチレン
<製造例III>
135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度が31dl/gである超高分子量ポリエチレン(三井化学(株)製 ハイゼックスミリオン630M)30重量%、135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度が2dl/gであるポリエチレン((株)プライムポリマー製ハイゼックス2200J)70重量%のポリエチレン樹脂混合物をナウターミキサーにて混合し、得られた混合物を250℃に設定した一軸押出機(いすず化工機(株)製EXT40m/m押出機)で溶融混練を行いB-II成分を得た。得られた超高分子量ポリエチレンの135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度は11dl/gであった。
【0039】
B-III:製造例IVで得られた変性ポリエチレン
<製造例IV>
135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度が2dl/gであるポリエチレン((株)プライムポリマー製ハイゼックス2200J)100重量部に対し、無水マレイン酸0.8重量部および有機過酸化物(日本油脂(株)製パーヘキシン-25B)0.07重量部をナウターミキサーにて混合し、得られた混合物を250℃に設定した一軸押出機(いすず化工機(株)製EXT40m/m押出機)で溶融混練を行いB-III成分を得た。得られた変性ポリエチレンの135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度は1.8dl/gであった。
【0040】
B-IV:製造例Vで得られた変性超高分子量ポリエチレン
<製造例V>
135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度が31dl/gである超高分子量ポリエチレン(三井化学(株)製 ハイゼックスミリオン630M)100重量部に対し、無水マレイン酸0.8重量部および有機過酸化物(日本油脂(株)製パーヘキシン-25B)0.07重量部をナウターミキサーにて混合し、得られた混合物を250℃に設定した一軸押出機(いすず化工機(株)製EXT40m/m押出機)で溶融混練を行いB-IV成分を得た。得られた変性超高分子量ポリエチレンの135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度は30dl/gであった。
【0041】
(C成分)
C-I:炭素繊維:PAN系炭素繊維(帝人(株)製 IM P303(商品名)、繊維径7μm、カット長3mm、エポキシ系集束剤)
(D成分)
D-I:ポリオレフィン系ワックス:酸化ポリエチレンワックス(三井化学(株)製 三井ハイワックス 310MP(商品名)、粘度平均分子量3,000)
D-II:ステアリン酸カルシウム(富士フイルム和光純薬(株)製)
(E成分)
E-I:球状シリカ((株)アドマテックス製 アドマファイン FE-975A(商品名)、平均粒子径7μm)
【0042】
【表1】
【0043】
<実施例1~8>
本請求の範囲内にある組成物であるため、高荷重下での低い動摩擦係数を発現し、耐ブリードアウト性に優れる結果であった。
【0044】
<比較例1>
D成分を含まないため、高荷重下での動摩擦係数が高い結果であった。
【0045】
<比較例2>
B成分が未変性の超高分子量ポリエチレンであるため、靭性に劣る結果であった。
【0046】
<比較例3>
B成分を含まないため、高荷重下での動摩擦係数が高く、かつ耐ブリードアウト性に劣る結果であった。
【0047】
<比較例4>
B成分の含有量が上限を上回るため、靭性に劣る結果であった。
【0048】
<比較例5>
D成分がポリオレフィン系ワックスでないため、耐ブリードアウト性に劣る結果であった。
【0049】
<比較例6>
C成分の含有量が上限を上回るため、高荷重下での動摩擦係数が高い結果であった。
【0050】
<比較例7>
C成分を含まないため、高荷重下での動摩擦係数が高い結果であった。
【0051】
<比較例8>
D成分の含有量が上限を上回るため、耐ブリードアウト性に劣る結果であった。
【0052】
<比較例9>
B成分の極限粘度が下限を下回るため、高荷重下での動摩擦係数が高い結果であった。
【0053】
<比較例10>
B成分の極限粘度が上限を上回るため、靭性に劣る結果であった。