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特許7597595ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20241203BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20241203BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20241203BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20241203BHJP
   C08G 75/0263 20160101ALI20241203BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L23/26
C08K7/06
C08K9/02
C08G75/0263
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021010469
(22)【出願日】2021-01-26
(65)【公開番号】P2022114252
(43)【公開日】2022-08-05
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 惟允
(72)【発明者】
【氏名】野村 悟志
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/119123(WO,A1)
【文献】特開平06-240149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジヨードアリール化合物、固体硫黄並びに重合停止剤および/または重合反応触媒を、極性溶媒を使用せずに直接加熱して重合させる方法によって得られるポリアリーレンスルフィド樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)金属被覆炭素繊維(B成分)5~100重量部および(C)無水マレイン酸で変性された変性超高分子量ポリエチレン(C成分)1~50重量部を含有する樹脂組成物。
【請求項2】
A成分の末端基がフェニル基であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂、金属被覆炭素繊維および変性超高分子量ポリエチレンよりなる樹脂組成物であって、優れた機械強度を維持しつつ、電磁波遮蔽性に優れる樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、耐薬品性、耐熱性、機械的特性などに優れるエンジニアリングプラスチックである。このため、ポリアリーレンスルフィド樹脂は、優れた特性を活かし金属代替材料として、電気電子、車両関連、航空機、住設などの用途に広く利用されている。
【0003】
近年、電子機器の小型軽量化に伴う回路の高集積化および高密度化に伴い、電子機器が電磁波によって誤作動を引き起こすことが問題となっている。その為、電子機器の筐体には、外部からの電磁波を遮蔽するための電磁波遮蔽効果および外部への電磁波の漏洩を防止するための電磁波遮蔽効果を付与することが求められている。電磁波遮蔽効果を得る為には、電子機器筐体に導電性が必要であり、一般的に導電性が高いほど良好な電磁波遮蔽性を有する。従来、このような筐体には金属が使用されていたが、加工性、軽量化の観点からポリアリーレンスルフィド樹脂などのプラスチックを使用する試みがなされている。しかし、一般的にプラスチックは金属のような導電性を有していないので、電磁妨害波および電磁波ノイズ対策のために導電性の付与が必要となる。プラスチックに電磁波遮蔽性を付与する方法として、メッキなどの導電性表面処理や金属粉、金属繊維、炭素繊維、金属被覆炭素繊維等を含有させる方法が代表的な方法として例示される。プラスチックの電磁波遮蔽性をさらに向上させる試みとしては、例えば特許文献1には、導電性繊維を含有する熱可塑性樹脂およびカルボン酸無水物グループおよび/またはカルボキシ基を有するオレフィン系ワックスまたはオレフィン系重合体からなる電磁波遮蔽用樹脂組成物が提案されており、特許文献2にはニッケル金属被覆炭素繊維のニッケル金属被覆処理前の炭素繊維表面におけるESCA法で測定されるO1S/C1Sを特定範囲に調整して得られたニッケル金属被覆炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物が提案されている。しかしながら、ポリアリーレンスルフィド樹脂に対して有用な方法ではなく、電磁波遮蔽性も十分ではなかった。また、特許文献3にはポリアリーレンスルフィド樹脂、変性ポリオレフィン組成物および繊維状充填剤からなる樹脂組成物が提案されているが、電磁波遮蔽性について何ら記載されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2732986号公報
【文献】特許第4674066号公報
【文献】特開2019-218568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、優れた機械強度を維持しつつ、電磁波遮蔽性に優れる樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、ジヨードアリール化合物、固体硫黄並びに重合停止剤および/または重合反応触媒を、極性溶媒を使用せずに直接加熱して重合させる方法に
よって得られるポリアリーレンスルフィド樹脂、金属被覆炭素繊維および変性超高分子量ポリエチレンを含有する樹脂組成物が、優れた機械強度を維持しつつ、電磁波遮蔽性に優れる樹脂組成物であることを見出し本発明に至った。
【0007】
具体的には、上記課題は、(A)ジヨードアリール化合物、固体硫黄並びに重合停止剤および/または重合反応触媒を、極性溶媒を使用せずに直接加熱して重合させる方法によって得られるポリアリーレンスルフィド樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)金属被覆炭素繊維(B成分)5~100重量部および(C)変性超高分子量ポリエチレン(C成分)1~50重量部を含有する樹脂組成物により達成される。
【0008】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0009】
(A成分:ポリアリーレンスルフィド樹脂)
本発明のA成分として使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂は、ジヨードアリール化合物、固体硫黄並びに重合停止剤および/または重合反応触媒を、極性溶媒を使用せずに直接加熱して重合させる方法によって得られるポリアリーレンスルフィド樹脂である。
【0010】
ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、その構成単位として、例えばp-フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、o-フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位、等よりなるものを挙げることができ、その中でも、p-フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましく、さらに、ポリ(p-フェニレンスルフィド)がより好ましい。
【0011】
本発明のA成分として使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)で表される分散度(Mw/Mn)は好ましくは2.7以上、より好ましくは2.8以上、さらに好ましくは2.9以上である。分散度が2.7未満の場合は、成形時のバリ発生が多くなる場合がある。なお、分散度(Mw/Mn)の上限は特に規定されないが、10以下であることが好ましい。ここで、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)はゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出された値である。なお、溶媒には1-クロロナフタレンを使用し、カラム温度は210℃とした。
【0012】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法としては、例えば米国登録特許第4,746,758号、第4,786,713号、特表2013-522385、特開2012-233210および特許5167276等に記載された製造方法が挙げられる。
【0013】
前記製造方法はヨウ化工程および重合工程を含む。該ヨウ化工程ではアリール化合物をヨードと反応させて、ジヨードアリール化合物を得る。続く重合工程で、重合停止剤を用いてジヨードアリール化合物を固体硫黄と重合反応させてポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する。ヨードはこの工程で気体状で発生し、これを回収して再びヨウ化工程に用いられる。実質的にヨードは触媒である。
【0014】
前記製造方法で用いられる代表的な固体硫黄としては、室温で8個の原子が連結されたシクロオクタ硫黄形態(S)が挙げられる。しかしながら重合反応に用いられる硫黄化合物は限定されるものではなく、常温で固体または液体であればいずれの形態でも使用し得る。
【0015】
前記製造方法で用いられる代表的なジヨードアリール化合物としては、ジヨードベンゼ
ン、ジヨードナフタレン、ジヨードビフェニル、ジヨードビスフェノールおよびジヨードベンゾフェノンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられ、またアルキル基やスルホン基が結合していたり、酸素や窒素が導入されたりしているヨードアリール化合物の誘導体も使用される。ヨードアリール化合物はそのヨード原子の結合位置によって異なる異性体に分類され、これらの異性体のうち好ましい例は、p-ジヨードベンゼン、2,6-ジヨードナフタレン、及びp,p’-ジヨードビフェニルのようにヨードがアリール化合物の分子両端に対称的に位置する化合物である。該ヨードアリール化合物の含有量は前記固体硫黄100重量部に対し500~10,000重量部であることが好ましい。この量はジスルフィド結合の生成を考慮して決定される。
【0016】
前記製造方法で用いられる代表的な重合停止剤としては、ジフェニルスルフィド、ジフェニルジスルフィドなどが挙げられる。重合停止剤の含有量は前記固体硫黄100重量部に対し1~30重量部であることが好ましい。この量はジスルフィド結合の生成を考慮して決定される。
【0017】
前記製造方法では重合反応触媒を使用しても良く、代表的な重合反応触媒としては、ニトロベンゼン系触媒が挙げられる。ニトロベンゼン系触媒のうち好ましい例としては、1,3-ジヨード-4-ニトロベンゼン、1-ヨード-4-ニトロベンゼン、2,6-ジヨード-4-ニトロフェノール、ヨードニトロベンゼン、2,6-ジヨード-4-ニトロアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。重合反応触媒の含有量は前記固体硫黄100重量部に対し0.01~20重量部であることが好ましい。この量はジスルフィド結合の生成を考慮して決定される。
【0018】
この重合方法で調製されたポリアリーレンスルフィド樹脂を使うことにより、変性超高分子量ポリエチレンを添加することでポリアリーレンスルフィド樹脂と金属被覆炭素繊維との密着性が低下し、溶融混錬時の金属被覆炭素繊維の折れを抑制することができ、電磁波遮蔽性が向上すると考えられる。
【0019】
(B成分:金属被覆炭素繊維)
本発明で使用される金属被覆炭素繊維は、炭素繊維にメッキ法および蒸着法などの公知の方法で金属を被覆したものであり、導電性、耐食性、生産性および経済性の観点から、ニッケルを被覆したものが好ましい。金属が被覆されていない炭素繊維を使用した場合、電磁波遮蔽性に劣る。さらに本発明の金属被覆炭素繊維は、炭素繊維表面に電気メッキにより金属被覆を設けることが好ましい。電気メッキによってより強固な金属被覆が形成され、良好な電磁波遮蔽性を有する樹脂組成物が提供される。
【0020】
金属被覆される炭素繊維としては、例えば、フェノール樹脂、レーヨン、およびポリアクリロニトリルなどの高分子繊維を出発原料とする炭素繊維、並びに石炭系ピッチ、石油系ピッチまたは液晶ピッチなどのピッチ系繊維を出発原料とする炭素繊維が代表的に例示される。また、芳香族スルホン酸類またはそれらの塩のメチレン型結合による重合体との溶媒よりなる原料組成物を紡糸または成形し、次いで炭化する方法に代表される不融化工程を経ることなく紡糸を行う方法により得られた炭素繊維も使用可能である。更に汎用タイプ、中弾性率タイプ、および高弾性率タイプのいずれも使用可能である。
【0021】
尚、炭素繊維の炭化または黒鉛化処理は、炭化処理においては炭素繊維化可能な繊維を、例えば450~1,500℃程度の温度で焼成処理することが好ましく、黒鉛化処理においては例えば1,500~3,300℃程度の温度で焼成処理することが好ましい。尚、かかる熱処理によって必ずしも黒鉛の結晶構造を生ずることは必要とされない。
【0022】
B成分の含有量は、A成分100重量部に対し、5~100重量部であり、好ましくは
10~80重量部、より好ましくは20~60重量部である。B成分の含有量が5重量部未満では、十分な機械強度が得られず、電磁波遮蔽性も劣る。他方、100重量部を超えると生産性または成形加工性が低下する。
【0023】
(C成分:変性超高分子量ポリエチレン)
本発明で使用される変性超高分子量ポリエチレンは超高分子量ポリエチレンを変性した重合体である。変性超高分子量ポリエチレンは、例えば、超高分子量ポリエチレンおよび変性基を含有する化合物を溶融混練し、超高分子量ポリエチレンをグラフト変性して変性基を導入することにより得られる。変性されるポリエチレンはポリエチレンと超高分子量ポリエチレンの混合物であっても良い。変性に用いられる変性成分としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられるが、特に無水マレイン酸が好ましい。C成分の変性基の含有率は0.05~3重量%であることが好ましい。0.05重量%未満では電磁波遮蔽性に劣る場合があり、他方、3重量%を超えると機械物性に劣る場合がある。このような変性ポリエチレンとしては三井化学(株)よりリュブマー LY1040として容易に入手可能である。なお、変性されていない超高分子量ポリエチレンを使用した場合、電磁波遮蔽性に劣る。また、変性超高分子量ポリエチレンの重量平均分子量は6,000,000未満であることが好ましく、3,000,000未満であることがより好ましく、1,000,000未満であることがさらに好ましい。なお、重量平均分子量の下限は100,000以上が好ましく、150,000以上がより好ましい。重量平均分子量が6,000,000以上の場合、生産性または加工性に劣る場合があり、100,000未満の場合、電磁波遮蔽性に劣る場合がある。
【0024】
C成分の含有量は、A成分100重量部に対し、1~50重量部であり、好ましくは2~40重量部、より好ましくは3~30重量部である。含有量が1重量部未満の場合、電磁波遮蔽性が不十分であり、50重量部を超えると機械物性が著しく低下する。
【0025】
(その他の成分)
本発明における樹脂組成物は本発明の効果を損なわない範囲で金属被覆炭素繊維以外の無機充填剤を併用することができる。無機充填剤としては、金属被覆炭素繊維以外の繊維状充填剤、粉末状充填剤、板状充填剤などが挙げられる。繊維状充填剤としてはガラス繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維、金属以外の導電性物質で被覆された無機繊維などが挙げられる。金属以外の導電性物質で被覆された無機繊維における導電性物質の具体例としてはSnO(アンチモンドープ)、In(アンチモンドープ)などが例示できる。また被覆される無機繊維としては、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、チタン酸系ウィスカー、炭化珪素ウィスカーなどが例示できる。被覆方法としては真空蒸着法、スパッタリング法、無電解メッキ法、焼き付け法などが挙げられる。またこれらはチタネート系、アルミ系、シラン系カップリング剤などの表面処理剤で表面処理を施されていてもよい。また、これら繊維状充填剤をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。粉末状充填剤としてはカーボンブラック、炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン、黒鉛、カーボンナノチューブ、金属粉などが挙げられ、板状充填剤としてはタルクやマイカなどが挙げられる。
【0026】
本発明における樹脂組成物は本発明の効果を損なわない範囲で、エラストマー成分を含むことができる。好適なエラストマー成分としては、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系共重合体(ABS樹脂)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS樹脂)およびシリコーン・アクリル複合ゴム系グラフト共重合体などのコア-シェルグラフト共重合体樹脂、あるいはシリコーン系熱可塑性エラストマー、オレフィン
系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0027】
本発明における樹脂組成物は本発明の効果を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂を含むことができる。他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂などに代表される汎用プラスチックス、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂(非晶性ポリアリレート、液晶性ポリアリレート)等に代表されるエンジニアリングプラスチックス、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、などのいわゆるスーパーエンジニアリングプラスチックスと呼ばれるものを挙げることができる。
【0028】
本発明における樹脂組成物は本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(赤燐、リン酸エステル、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)および他の重合体を添加することができる。
【0029】
(樹脂組成物の製造)
本発明の樹脂組成物は上記各成分を同時に、または任意の順序でタンブラー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等の混合機により混合して製造することができる。好ましくは2軸押出機による溶融混練が好ましく、必要に応じて、任意の成分をサイドフィーダー等を用いて第2供給口より、溶融混合された他の成分中に供給することが好ましい。
【0030】
上記の如く押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。ペレット化に際して外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。得られたペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。かかる円柱の直径は好ましくは1~5mm、より好ましくは1.5~4mm、さらに好ましくは2~3.5mmである。一方、円柱の長さは好ましくは1~30mm、より好ましくは2~5mm、さらに好ましくは2.5~4mmである。
【0031】
(成形品について)
本発明の樹脂組成物を用いてなる成形品は、上記の如く製造されたペレットを成形して得ることができる。好適には、射出成形、押出成形により得られる。射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体を注入する方法を含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、多色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形等を挙げることができる。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。また押出成形では、各種異形押出成形品、シート、フィルム等が得られる。シート、フィルムの成形にはインフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法等も使用可能である。更に特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また本発明の樹脂組成物を回転成形やブロー成形等により成形品とすることも可能である。
【0032】
更に上記各種の方法で製造された成形品には、各種の表面処理を行うことが可能である。ここでいう表面処理とは、蒸着(物理蒸着、化学蒸着など)、メッキ(電気メッキ、無電解メッキ、溶融メッキなど)、塗装、コーティング、印刷などの樹脂成形品の表層上に新たな層を形成させるものであり、樹脂成形品に用いられる各種方法が適用できる。更にシート成形品(リボン状成形品を含む)を更に各種真空成形、熱プレス成形、および曲げ加工などすることにより、各種の搬送容器や電磁波遮蔽カバーなどを製造することもできる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の樹脂組成物は、優れた機械強度を維持しつつ、電磁波遮蔽性に優れるため、本発明の樹脂組成物より得られる成形体は電子機器やアンテナなどのカバーとして好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明者が現在最良と考える本発明の形態は、前記の各要件の好ましい範囲を集約したものとなるが、例えば、その代表例を下記の実施例中に記載する。もちろん本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例
【0035】
[樹脂組成物の評価]
(1)引張破断強度
ISO527(測定条件23℃)に準拠して測定した。なお、試験片は、下記の方法で成形した。この数値が大きいほど樹脂組成物の機械的強度が優れていることを意味する。
【0036】
(2)電磁波遮蔽性
150×150×2mmtの試験片を用いてネットワークアナライザー(キーサイトテクノロジー社製)およびKEC法測定装置(JSE社製)で電界波(周波数500MHz)について電磁波遮蔽性を測定した。この数値が大きいほど電磁波遮蔽性に優れていることを意味する。
【0037】
[実施例1~6、比較例1~8]
ポリアリーレンスルフィド樹脂、金属被覆炭素繊維および変性超高分子量ポリエチレンを表1に記載の各配合量で、ベント式二軸押出機を用いて溶融混練してペレットを得た。ベント式二軸押出機は日本製鋼所(株)製:TEX30α‐38(完全かみ合い、同方向回転)を使用した。押出条件は吐出量20kg/h、スクリュー回転数200rpm、ベントの真空度3kPaであり、また押出温度は第一供給口からダイス部分まで320℃とした。なお、金属被覆炭素繊維は上記押出機のサイドフィーダーを使用し第二供給口から供給し、ポリアリーレンスルフィド樹脂および変性超高分子量ポリエチレンは第一供給口から押出機に供給した。ここでいう第一供給口とはダイスから最も離れた供給口であり、第二供給口とは押出機のダイスと第一供給口の間に位置する供給口である。得られたペレットを130℃で6時間、熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、射出成形機(東芝機械(株)製 EC160NII-4Y)によりシリンダー温度320℃、金型温度140℃で評価用の試験片を成形した。
【0038】
表1中の記号表記の各成分は下記の通りである。
<A成分>
A-1:以下の製造方法で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂
[製造方法]
パラジヨードベンゼン300.00g及び硫黄27.00gに、重合停止剤としてジフェニルジスルフィド0.60g(最終的に重合されたPPSの重量に基づいて0.65重量%の含量)を投入して180℃に加熱して完全にそれらを溶融及び混合した後、温度を220℃に昇温し、且つ、圧力を200Torrに降圧した。得られた混合物を、最終温度及び圧力が夫々320℃及び1Torrとなるように温度及び圧力を段階的に変化させつつ、8時間重合反応させて末端基がフェニル基であるポリフェニレンスルフィド樹脂(A-1)を得た。
【0039】
A-2:以下の製造方法で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂
[製造方法]
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(NaS・2.9HO)1814g、粒状の苛性ソーダ(100%NaOH:和光純薬特級)8.7g及びN-メチル-2-ピロリドン3232gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、339gの水を留去した。190℃まで冷却した後、p-ジクロロベンゼン2129g、N-メチル-2-ピロリドン1783gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて1時間重合させた後、25分かけて250℃に昇温し、250℃にて2時間重合を行った。次いで、この系に250℃で蒸留水509gを圧入し、255℃まで昇温してさらに2時間重合反応を行った。重合終了後、室温まで冷却し、重合スラリーを遠心濾過器で固液分離した。ケーキを窒素気流下でN-メチル-2-ピロリドン、アセトンで順次3回繰り返し洗浄し、さらに、窒素気流下で0.2%塩酸、及び温水で順次洗浄した。得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を105℃で一昼夜乾燥することによって、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A-2)を得た。
【0040】
<B成分>
B-1:HT C923(帝人(株)製 繊維径:7.5μm、カット長:6mm、ニッケル金属被覆炭素繊維)
B-2:特開昭59-226195号公報に開示された条件に準じて銅めっき処理された銅金属被覆炭素繊維(繊維径:7.5μm、カット長:6mm、銅金属被覆炭素繊維)
B-3:HT P722(帝人(株)製 繊維系:7.0μm、カット長:3mm、PAN系炭素繊維)
【0041】
<C成分>
C-1:LY1040(三井化学(株)製 リュブマー(商品名)、無水マレイン酸変性超高分子量ポリエチレン、重量平均分子量160,000)
C-2:ハイゼックス2200J((株)プライムポリマー製、ポリエチレン、重量平均分子量100,000未満)
C-3:ハイゼックスミリオン630M(三井化学(株)製 超高分子量ポリエチレン、重量平均分子量100,000以上)
【0042】
【表1】