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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】押出装置および樹脂製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/04 20060101AFI20241203BHJP
   B29C 48/92 20190101ALI20241203BHJP
   B29C 48/05 20190101ALI20241203BHJP
   B29C 48/695 20190101ALI20241203BHJP
   B29C 48/693 20190101ALI20241203BHJP
   B29B 9/06 20060101ALI20241203BHJP
   G01L 7/00 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
G01N11/04 B
B29C48/92
B29C48/05
B29C48/695
B29C48/693
B29B9/06
G01L7/00 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021014742
(22)【出願日】2021-02-02
(65)【公開番号】P2022118312
(43)【公開日】2022-08-15
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横溝 和哉
(72)【発明者】
【氏名】福澤 洋平
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-007819(JP,A)
【文献】特開2003-121330(JP,A)
【文献】特開平05-329864(JP,A)
【文献】特公昭62-034532(JP,B2)
【文献】米国特許第07143637(US,B1)
【文献】特開平05-281128(JP,A)
【文献】特開2005-349794(JP,A)
【文献】特開2019-027959(JP,A)
【文献】特開平01-292233(JP,A)
【文献】特開2003-262579(JP,A)
【文献】国際公開第96/014930(WO,A1)
【文献】特開2018-144312(JP,A)
【文献】特開2017-177550(JP,A)
【文献】特開2019-89250(JP,A)
【文献】特開2008-230130(JP,A)
【文献】特開昭59-54538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00-13/04
B29C 48/92
B29C 48/05
B29C 48/695
B29C 48/693
B29B 9/06
G01L 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む押出装置:
シリンダ;
前記シリンダに取り付けられたダイ;
前記ダイに設けられ、前記シリンダから溶融樹脂が供給される樹脂流路部;
前記ダイに設けられ、前記樹脂流路部とつながり、かつ前記溶融樹脂を吐出するための複数の孔部;
前記ダイ内における前記溶融樹脂の圧力を測定する圧力測定;および
前記圧力測定部の測定値に基づいて、前記溶融樹脂の粘度を算出する算出部
ここで、
前記ダイは、前記複数の孔部が形成されたダイ本体部と、前記シリンダに取り付けられ、かつ前記ダイ本体部を保持するダイホルダ部とを有し、
前記樹脂流路部は、前記ダイホルダ部と前記ダイ本体部とにわたって形成され、
前記圧力測定部は、前記ダイ本体部内に配置され、かつ、前記ダイ本体部内における前記樹脂流路部を流れる前記溶融樹脂の圧力を測定し、
前記複数の孔部から吐出された前記溶融樹脂を用いて樹脂ペレットが製造される。
【請求項2】
請求項1記載の押出装置において、
前記複数の孔部よりも上流側において、前記溶融樹脂が通過可能な複数の開口部を有する部材を更に有し、
前記圧力測定部は、前記部材よりも下流側で、かつ、前記孔部よりも上流側において、前記溶融樹脂の圧力を測定する、押出装置。
【請求項3】
請求項記載の押出装置において、
前記部材は、前記シリンダと前記ダイとの間に配置されている、押出装置。
【請求項4】
請求項記載の押出装置において、
前記部材は、ブレーカープレートを含む、押出装置。
【請求項5】
請求項記載の押出装置において、
前記部材は、スクリーンメッシュを含む、押出装置。
【請求項6】
請求項1記載の押出装置において、
前記算出部で算出された粘度を表示する表示部を更に有する、押出装置。
【請求項7】
請求項記載の押出装置において、
前記算出部で算出された粘度を記憶する記憶部を更に有する、押出装置。
【請求項8】
請求項1記載の押出装置において、
前記圧力測定部は、圧力センサを含む、押出装置。
【請求項9】
以下の工程を含む、樹脂製品の製造方法:
(a)シリンダと前記シリンダに取り付けられたダイと、前記ダイ内に配置された圧力測定部と、算出部とを有する押出装置を準備する工程
(b)前記シリンダ内に樹脂材料を供給して溶融樹脂を形成し、前記ダイの複数の孔部から前記溶融樹脂を吐出する工程、
(c)前記複数の孔部から吐出された前記溶融樹脂を用いて樹脂ペレットを製造する工程、
前記ダイ内における前記溶融樹脂の圧力を前記圧力測定部により測定する工程、
)前記(d)工程で測定された前記溶融樹脂の圧力に基づいて前記溶融樹脂の粘度を前記算出部により算出する工程、
ここで、
前記ダイは、前記複数の孔部が形成されたダイ本体部と、前記シリンダに取り付けられ、かつ前記ダイ本体部を保持するダイホルダ部とを有し、
前記シリンダから前記溶融樹脂が供給される樹脂流路部が、前記ダイホルダ部と前記ダイ本体部とにわたって形成されており、
前記複数の孔部は、前記樹脂流路部とつながっており、
前記圧力測定部は、前記ダイ本体部内に配置され、
前記(d)工程では、前記圧力測定部は、前記ダイ本体部内における前記樹脂流路部を流れる前記溶融樹脂の圧力を測定する。
【請求項10】
請求項記載の樹脂製品の製造方法において、
)前記()工程で算出された前記溶融樹脂の粘度を表示部に表示する工程、
を更に含む、樹脂製品の製造方法。
【請求項11】
請求項記載の樹脂製品の製造方法において、
前記押出装置は、前記複数の孔部よりも上流側において、前記溶融樹脂が通過可能な複数の開口部を有する部材を更に有し、
前記圧力測定部は、前記部材よりも下流側で、かつ、前記複数の孔部よりも上流側において、前記溶融樹脂の圧力を測定する、樹脂製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出装置および樹脂製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2016-7819号公報(特許文献1)には、押出機を備えるストランド製造装置に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-7819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
押出装置から押し出される樹脂を用いて樹脂製品、例えば樹脂ペレットを製造することができる。製造された樹脂ペレットの品質を管理するためには、製造された樹脂ペレットを定期的に抜き出して粘度測定を行うことにより、品質が安定しているか確認する必要がある。しかしながら、製造された樹脂ペレットを定期的に抜き出して粘度測定を行うことは、手間がかかるため、樹脂ペレットの品質管理を難しくし、また、樹脂ペレットの製造コストの増加を招いてしまう。このため、押出装置から押し出される樹脂を用いて製造される樹脂製品の品質を管理しやすくすることが望まれる。
【0005】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施の形態によれば、押出装置は、シリンダと、溶融樹脂を吐出するための孔部を有するダイと、前記シリンダ内または前記ダイ内における前記溶融樹脂の圧力を測定する圧力測定部と、前記圧力測定部の測定値に基づいて、前記溶融樹脂の粘度を算出する算出部と、を有する。
【0007】
一実施の形態によれば、樹脂製品の製造方法は、(a)シリンダと前記シリンダに取り付けられたダイとを有する押出装置を準備する工程、(b)前記シリンダ内に樹脂材料を供給して溶融樹脂を形成し、前記ダイの孔部から前記溶融樹脂を吐出する工程、を有する。樹脂製品の製造方法は、更に、(c)前記シリンダ内または前記ダイ内における前記溶融樹脂の圧力を測定する工程、(d)前記(c)工程で測定された前記溶融樹脂の圧力に基づいて前記溶融樹脂の粘度を算出する工程、を有する。
【発明の効果】
【0008】
一実施の形態によれば、押出装置から押し出される樹脂を用いて製造される樹脂製品の品質を管理しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一本実施の形態の押出装置を用いたペレット製造システムの構成例を示す説明図である。
図2】一本実施の形態の押出装置の正面図である。
図3】一実施の形態の押出装置の要部断面図である。
図4】一実施の形態の押出装置の変形例を示す要部断面図である。
図5】シリンダのフランジ部およびダイに形成されている樹脂流路部および複数の孔部を示す平面図である。
図6】ブレーカープレートを示す斜視図である。
図7】樹脂のせん断速度と粘度との相関を示すグラフである。
図8】押出装置の先端部の構造と、その構造の各位置における溶融樹脂の圧力を示すグラフとを示す説明図である。
図9】一実施の形態の押出装置の更なる変形例で用いられるダイの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0011】
(実施の形態)
<押出装置およびそれを用いたペレット製造システムの構成例について>
図1は、本実施の形態の押出装置(押出成形装置)1を用いたペレット製造システム(ペレット製造装置)12の構成例を示す説明図(側面図)である。
【0012】
まず、図1を参照して、押出装置1の概略構成について説明する。図1に示される押出装置1は、シリンダ(バレル)2と、シリンダ2内に回転可能(回転自在)に配置された2本のスクリュ17と、シリンダ2内のスクリュ17を回転させるための回転駆動機構3と、シリンダ2の上流側(後端側)に配置されたホッパ(樹脂投入部)4と、シリンダ2の下流側先端に取り付けられたダイ(金型)5と、操作盤(操作部、操作台)6と、を有している。ホッパ4は、シリンダ2の上面に接続されており、ホッパ4を介してシリンダ2内に樹脂を供給できるようになっている。シリンダ2は、ヒータなどの図示しない温度調整手段(温度調節機構)によって、温度制御される。押出装置1は、更に、シリンダ2に接続されたフィラー供給装置(図示せず)を有する場合もあり得るが、その場合は、そのフィラー供給装置からシリンダ2内に所望のフィラーを供給することができる。
【0013】
なお、押出装置1に関して「下流側」および「上流側」と称する場合、「下流側」とは、押出装置1における樹脂の流れの下流側を意味し、「上流側」とは、押出装置1における樹脂の流れの上流側を意味する。このため、押出装置1において、ダイ5の後述する複数の孔部21に近い側が下流側であり、ダイ5の複数の孔部21から遠い側、すなわちホッパ4に近い側が上流側である。
【0014】
シリンダ2の内部には、2本のスクリュ17が回転可能(回転自在)に挿入されて内蔵されている。このため、押出装置1は、二軸押出装置(二軸押出機)とみなすこともできる。シリンダ2内において、2本のスクリュ17は、互いに噛み合うように配置されて回転する。シリンダ2の長手方向(長辺方向、軸方向、延在方向)と、シリンダ2内のスクリュの長手方向(長辺方向、軸方向、延在方向)とは、同じである。
【0015】
なお、本実施の形態では、シリンダ2内のスクリュ17の数が2本の場合について説明しているが、他の形態として、シリンダ2内のスクリュ17の数を1本とすることもできる。しかしながら、シリンダ2内のスクリュ17の数を2本とした場合には、空間容積を大きくとれるため、同一スクリュ口径の場合、単軸(スクリュ17が1本)よりも二軸(スクリュ17が2本)の方が原料の供給能力を高くすることができる。
【0016】
ダイ5は、押出装置1のシリンダ2から押し出されてくる溶融樹脂を、所定の断面形状(ここでは紐状)に成形して吐出するように機能することができる。このため、ダイ5は、押出成形用のダイ(金型)である。
【0017】
なお、本願において、「溶融」とは、熱で溶かす場合に限定されず、溶剤などで溶かす場合も含むものとする。このため、加熱により樹脂を溶かした場合だけでなく、溶剤で樹脂を溶かした場合や、マイクロ波により樹脂を溶かした場合なども、「溶融樹脂」に含まれ得る。また、液状樹脂も、「溶融樹脂」に含まれ得る。
【0018】
操作盤6は、表示部7と入力部8とを有している。入力部8は、例えば、入力用のキーボード、スイッチ、ダイヤル、ボタン、タッチパネルなどにより構成されている。押出装置1の操作に必要な指令やデータなどを入力部8に入力することにより、押出装置1の動作を制御することができる。表示部7は、例えば、入力部8に入力した情報や、押出装置1の動作や状態に関連した情報などを表示することができる。
【0019】
操作盤6は、押出装置1の動作を制御する制御部9を含んでいる。制御部9は、入力部8に入力された指令やデータなどに応じて、押出装置1の動作を制御する。制御部9は、例えば、制御用の半導体チップ(半導体プロセッサ)や記憶用の半導体チップ(メモリチップ)などを含むコンピュータにより構成することができる。
【0020】
また、制御部9は、後述する圧力測定部31の測定値(圧力測定部31によって測定された溶融樹脂の圧力値)に基づいて溶融樹脂の粘度を算出する算出部10を含んでいる。算出部10は、例えば、算出用の半導体チップ(半導体プロセッサ)などにより構成されている。算出部10によって算出された粘度は、表示部7に表示することができる。
【0021】
また、制御部9は、記憶部11を含んでいる。算出部10で算出した粘度は、記憶部11に記憶(記録)させることもできる。記憶部11は、例えば、記憶用の半導体チップ(メモリチップ)などにより構成されている。
【0022】
なお、ここでは、制御部9が操作盤6に内蔵されている場合について説明しているが、他の形態として、制御部9(制御用のコンピュータ)を、操作盤6とは別に(すなわち操作盤6の外部に)設けることもできる。また、ここでは、算出部10および記憶部11が制御部9に含まれている場合について説明しているが、算出部10および記憶部11の一方または両方を、制御部9(制御用のコンピュータ)とは別々に設けることもできる。また、表示部7を操作盤6とは別に(すなわち操作盤6の外部に)設けることもできる。
【0023】
図1に示されるペレット製造システム12は、押出装置1に加えて、更に、冷却槽13と切断装置14とを含んでいる。
【0024】
次に、図1に示される押出装置1を含むペレット製造システム12の動作の概略について説明する。
【0025】
押出装置1において、ホッパ4からシリンダ2内に供給された樹脂材料(熱可塑性樹脂)は、シリンダ2内でスクリュ17の回転により前方へ送られながら溶融される(すなわち溶融樹脂となる)。フィラー供給装置(図示せず)からシリンダ2内にフィラーが供給される場合は、押出装置1のシリンダ2内において、樹脂(溶融樹脂)とフィラーとがスクリュ17の回転により混練されるため、シリンダ2内の溶融樹脂は、フィラーを含有した状態になる。なお、押出装置1の操作は、押出装置1の操作に必要な指令やデータなどを入力部8に入力することにより行われ、制御部9によって押出装置1の動作が制御される。
【0026】
押出装置1において、スクリュ17の回転によりシリンダ2内を前方に送られた溶融樹脂は、シリンダ2の先端に取り付けられたダイ5(より具体的にはダイ5の後述する複数の孔部21)から押し出される(吐出される)。この際、溶融樹脂は、ダイ5で紐状に成形されてダイ5からストランド(樹脂ストランド)15として押し出される。押出装置1のダイ5から押し出されたストランド15は、冷却槽13において冷却されて凝固(固化)する。凝固したストランド15は、切断装置14で所定の長さに切断される。これにより、樹脂製品としてペレット(樹脂ペレット)16が製造される。ペレット製造システム12において、押出装置1は、ストランド製造装置として機能することができる。
【0027】
このため、樹脂製品(ここではペレット16)を製造する工程は、シリンダ2とシリンダ2に取り付けられたダイ5とを有する押出装置1を準備する工程と、押出装置1のシリンダ2内に樹脂材料を供給して溶融樹脂を形成し、ダイ5の孔部21から溶融樹脂を吐出する工程と、を含んでいる。樹脂製品(ここではペレット16)を製造する工程は、更に、押出装置1のシリンダ2内またはダイ5内における溶融樹脂の圧力を後述する圧力測定部31によって測定する工程と、圧力測定部31によって測定された溶融樹脂の圧力に基づいて溶融樹脂の粘度を算出部10で算出する工程と、を含んでいる。圧力測定部31による溶融樹脂の圧力の測定と、算出部10による溶融樹脂の粘度の算出については、後でより詳細に説明する。
【0028】
<ダイの構成について>
次に、本実施の形態の押出装置1の先端部付近の構成、特にダイ(金型)5の構成について、図2図6を参照して説明する。
【0029】
図2は、本実施の形態の押出装置1の正面図であり、シリンダ2の先端に取り付けられたダイ5の正面図が示されている。図3は、本実施の形態の押出装置1の要部断面図である。図3は、図2に示されるA1-A1線の位置での断面図にほぼ対応している。図4は、本実施の形態の押出装置1の変形例を示す要部断面図であり、図3に相当する断面が示されている。なお、図2図4では、簡略化のために、各部材を固定するための固定部材(ネジなど)については、図示を省略してある。図5は、シリンダ2のフランジ部2aおよびダイ5に形成されている開口部23、樹脂流路部22および複数の孔部21を示す平面図である。図5では、溶融樹脂の流れを矢印で模式的に示してある。また、図4のようにブレーカープレート32を設ける場合は、図5では、点線で示される位置にブレーカープレート32が位置することになる。なお、図3および図4は、図2のA1-A1線の位置での断面図に対応しているが、図5のA2-A2線の位置での断面図にも対応している。図6は、ブレーカープレート32を示す斜視図である。
【0030】
なお、図2図5には、X方向、Y方向およびZ方向が示されている。X方向、Y方向およびZ方向は、互いに交差する方向であり、より特定的には互いに直交する方向である。このため、X方向とY方向とは互いに直交し、また、Z方向は、X方向およびY方向に直交している。X方向およびY方向は、水平方向に対応し、Z方向は上下方向(高さ方向)に対応している。Y方向は、シリンダ2の延在方向(長手方向、軸方向)であり、また、開口部23および樹脂流路部22内を溶融樹脂が主として流れる方向でもある。
【0031】
ダイ5は、溶融樹脂(ここでは溶融樹脂からなるストランド15)を吐出するための複数の孔部(ダイ孔部、吐出口、ノズル部、開口部)21と、シリンダ2から供給(導入)された溶融樹脂を複数の孔部21へ導く樹脂流路部22と、を有している。すなわち、ダイ5内に樹脂流路部22と複数の孔部21とが形成されている。複数の孔部21は、樹脂流路部22と空間的につながっている。樹脂流路部22は、シリンダ2から溶融樹脂が流入する流入口から複数の孔部21に至る流路方向(ここではY方向)に延びている。ダイ5において、複数の孔部21は、X方向に並んでおり、かつ、互いに離間している。図2には、複数の孔部21の配列が千鳥配列の場合が示されているが、他の形態として、複数の孔部21の配列が、一列の場合もあり得る。また、図2および図5は模式図であるため、図2における孔部21の数は、図5における孔部21の数と一致していないが、実際には一致する。ダイ5に形成される孔部21の数は、例えば3~100個程度とすることができる。
【0032】
また、ダイ部材5aに設けられた複数の孔部21のそれぞれの延在方向は、Y方向から下側に傾斜していることが好ましい。すなわち、各孔部21は、斜め下方向に延在していることが好ましい。これにより、複数の孔部21から斜め下方向に溶融樹脂が吐出されるため、ストランド15を冷却槽13に導きやすくなる。
【0033】
複数の孔部21は、共通の樹脂流路部22に連通している(空間的に繋がっている)。樹脂流路部22および複数の孔部21は、ダイ5に供給(導入)された溶融樹脂が流動(移動)可能な空間である。樹脂流路部22および複数の孔部21は、ダイ5内に形成された、溶融樹脂が通過するための流路(樹脂流路)とみなすこともできる。樹脂流路部22および複数の孔部21からなる樹脂流路の周囲は、ダイ5を構成する金属材料によって囲まれている。
【0034】
複数の孔部21は、ダイ5から押し出される溶融樹脂(ストランド15)の断面形状を所定の形状に成形するように機能する。すなわち、溶融樹脂が複数の孔部21を通過してダイ5の外部に吐出されるため、溶融樹脂は孔部21によって所定の断面形状に成形されて孔部21からダイ5の外部に吐出される(押し出される)。例えば、孔部21の断面形状(孔部21の延在方向に略垂直な断面形状)が円形状の場合は、孔部21から吐出される溶融樹脂(ストランド15)の断面形状(ストランド15の延在方向に略垂直な断面形状)も円形状となる。また、孔部21の直径により、ストランド15の直径を制御することもできる。但し、孔部21から吐出される際の溶融樹脂の流速によっても、ストランド15の直径は変化する。樹脂流路部22は、シリンダ2からダイ5に供給される溶融樹脂を、複数の孔部21に導くための流路(樹脂流路)として機能する。
【0035】
ダイ5は、ダイ部材(ダイ本体部)5aおよびダイ部材(ダイホルダ部、ダイ保持部)5bにより構成されている。すなわち、ダイ5は、ダイ部材5aとダイ部材5bとを有しており、押出装置1のシリンダ2の先端(下流側先端)のフランジ部2aにダイ部材5bが取り付けられ、ダイ部材5bの前側(シリンダ2のフランジ部2aに接続される側とは逆側)にダイ部材5aが取り付けられている。このため、ダイ部材5aは、ダイ部材5bを介してシリンダ2のフランジ部2aに保持されており、ダイ部材5bは、ダイ部材5aを保持する機能を有している。複数の孔部21はダイ部材5aに形成されている。樹脂流路部22は、ダイ部材5aとダイ部材5bとにわたって形成されているが、主としてダイ部材5bに形成されている。このため、ダイ部材5bは、複数の孔部21が形成されたダイ部材5aを保持するとともに、シリンダ2からの溶融樹脂を複数の孔部21に導くための樹脂流路部22を画定(規定)する機能も有している。
【0036】
ダイ5は、一体的な一つの部材により構成することもできるが、ダイ5を複数の部材(ここではダイ部材5a,5b)により形成すれば、複数の孔部21および樹脂流路部22を形成しやすくなり、ダイ5の加工が容易になる。ストランド15の断面形状を規定するのは、ダイ部材5aに形成された孔部21であるため、ダイ部材5aをダイとみなし、ダイ部材5bを、ダイ(ダイ部材5a)を保持するためのダイホルダ部とみなすこともできる。また、ダイ部材5bを複数の部材(金属部材、金型部材)により構成することもでき、その場合は、複数の部材をネジまたはボルトなどの固定部材で固定することにより、ダイ部材5bを構成することができる。
【0037】
ダイ5は、好ましくは金属材料からなり、従って、ダイ部材5a,5bは、好ましくは金属材料からなる。ダイ部材5aは、ネジまたはボルトなどの固定用部材(図示せず)によりダイ部材5bに固定されている。また、ダイ部材5bは、ネジまたはボルトなどの固定用部材(図示せず)によりシリンダ2のフランジ部2aに取り付けられて固定されている。
【0038】
本実施の形態の押出装置1は、シリンダ2内またはダイ5内の溶融樹脂の圧力を測定する圧力測定部31を有している。圧力測定部31は、例えば圧力センサ(圧力計)を含んでいる。圧力測定部31は、シリンダ2またはダイ5に配置することができる。
【0039】
しかしながら、圧力測定部31は、押出装置1内の溶融樹脂の流動経路において、孔部21よりも上流側で、かつ、孔部21にできるだけ近い位置で、溶融樹脂の圧力を測定することが望ましい。このため、圧力測定部31は、シリンダ2内ではなくダイ5内に配置して、ダイ5における樹脂流路部22内の溶融樹脂(樹脂流路部22を流れる溶融樹脂)の圧力を測定することが好ましい。また、圧力測定部31を、ダイ部材5a内に配置して、ダイ部材5aにおける樹脂流路部22内の溶融樹脂(樹脂流路部22を流れる溶融樹脂)の圧力を圧力測定部31によって測定するようにすれば、更に好ましく、図3および図4には、この場合が示されている。
【0040】
図4は、図3の構造の変形例であり、ブレーカープレート32およびスクリーンメッシュ33を用いた場合が示されている。図4に示されるように、複数の孔部21よりも上流側において、溶融樹脂の流れ(流路)の途中に、ブレーカープレート32を介在させることもできる。図4および図6からも分かるように、ブレーカープレート32は、溶融樹脂が通過可能な複数の開口部(孔部)32aが形成された(配列した)部材である。
【0041】
また、図4に示されるように、複数の孔部21よりも上流側において、溶融樹脂の流れ(流路)の途中に、ブレーカープレート32だけでなく、スクリーンメッシュ33を更に介在させることもできる。スクリーンメッシュ33は、網状の部材であり、溶融樹脂が通過可能な複数の開口部(孔部)を有している。
【0042】
ブレーカープレート32およびスクリーンメッシュ33は、孔部21よりも上流側に配置されており、具体的には、シリンダ2のフランジ部2aとダイ5との間(従ってフランジ部2aの開口部23とダイ5の樹脂流路部22との間)に配置されている。スクリーンメッシュ33の枚数は、1枚であっても、複数枚であってもよい。ブレーカープレート32とスクリーンメッシュ33とは、両方用いることが好ましいが、どちらか一方を用いる場合もあり得る。
【0043】
なお、スクリーンメッシュ33の開口部の寸法は、ブレーカープレート32の開口部32aの寸法よりも小さいため、図4では、スクリーンメッシュ33の開口部は図示していない。しかしながら、スクリーンメッシュ33とブレーカープレート32は、どちらも溶融樹脂が通過可能な複数の開口部を有しているため、シリンダ2から供給された溶融樹脂は、スクリーンメッシュ33(の複数の開口部)とブレーカープレート32(の複数の開口部32a)とを通過して、ダイ5の樹脂流路部22に流入することができる。スクリーンメッシュ33とブレーカープレート32は、溶融樹脂中の異物を濾過する作用や、シリンダ2内の背圧を上げてシリンダ2内での樹脂の混練効果を大きくする作用を有している。
【0044】
ダイ部材5bは、シリンダ2の先端のフランジ部2aの開口部(溶融樹脂の出口)23とダイ5の樹脂流路部22とが連通する(空間的につながる)ように、シリンダ2のフランジ部2aに取り付けられている。このため、シリンダ2内をスクリュ17により混練しながら搬送された溶融樹脂は、シリンダ2の先端のフランジ部2aの開口部23から押し出されて、ダイ5の樹脂流路部22に供給され、樹脂流路部22を通って複数の孔部21に流入し、複数の孔部21からダイ5の外部に吐出される。複数の孔部21から吐出された溶融樹脂が、上記ストランド15となる。また、図4のようにブレーカープレート32とスクリーンメッシュ33を設けた場合は、シリンダ2の先端のフランジ部2aの開口部23から押し出された溶融樹脂は、スクリーンメッシュ33(の複数の開口部)とブレーカープレート32(の複数の開口部32a)とを通過して、ダイ5の樹脂流路部22に供給される。
【0045】
<主要な特徴と効果について>
本実施の形態の押出装置1は、シリンダ2内またはダイ5内における溶融樹脂の圧力を測定する圧力測定部31と、圧力測定部31の測定値(圧力測定部31によって測定した溶融樹脂の圧力値)に基づいて、溶融樹脂の粘度を算出する算出部10と、を有している。また、本実施の形態の押出装置1を用いて樹脂製品(ここではペレット16)を製造する工程は、押出装置1のシリンダ2内またはダイ5内における溶融樹脂の圧力を圧力測定部31によって測定する工程と、圧力測定部31によって測定された溶融樹脂の圧力に基づいて溶融樹脂の粘度を算出部10で算出する工程と、を含んでいる。
【0046】
シリンダ2から押し出された溶融樹脂は、ダイ5の樹脂流路部22に供給され、樹脂流路部22を通って複数の孔部21に流入し、複数の孔部21からダイ5の外部に吐出される(押し出される)。この際、孔部21の開口径はかなり小さいため、孔部21を通過する際に、圧力損失が発生する。溶融樹脂が孔部21を通過する際の圧力損失は、その溶融樹脂の粘度に依存しており、粘度が高いほど、圧力損失も大きくなり、粘度が低いほど、圧力損失は小さくなる。このため、溶融樹脂が孔部21を通過する際の圧力損失が分かれば、孔部21を通過する溶融樹脂の粘度が分かる(推定できる)ことになる。溶融樹脂が孔部21を通過する際の圧力損失は、孔部21を通過する直前の溶融樹脂の圧力と、孔部21を通過してダイ5の外部に吐出された直後の溶融樹脂の圧力との差になるが、ダイ5の外部に吐出された直後の溶融樹脂の圧力は、ほぼ大気圧に等しくなる。このため、圧力測定部31の測定値によって、孔部21を通過する直前の溶融樹脂の圧力を推定することにより、溶融樹脂が孔部21を通過する際に発生する圧力損失を推定することができ、それに基づいて、孔部21を通過する溶融樹脂の粘度を算出することができる。このような、圧力測定部31の測定値に基づいた溶融樹脂の粘度の算出は、算出部10が行うことができる。具体的な算出法の具体例については、後でより詳細に説明する。
【0047】
押出装置1を動作させてダイ5の複数の孔部21から溶融樹脂からなるストランド15を吐出しながら、シリンダ2内またはダイ5内の溶融樹脂の圧力を圧力測定部31によって測定し、その測定値に基づいて算出部10で溶融樹脂の粘度を算出することができるため、押出装置1の動作中の溶融樹脂の粘度をリアルタイムで把握することができる。また、溶融樹脂の圧力を圧力測定部31によって継続的に監視(モニタリング)することにより、押出装置1の動作中の溶融樹脂の粘度を継続的に監視することができる。算出部10で算出した溶融樹脂の粘度は、表示部7に表示することができ、例えば、数値またはグラフなどを用いて常に表示部7に表示することができる。すなわち、本実施の形態の押出装置1を用いて樹脂製品(ここではペレット16)を製造する工程は、算出部10で算出された溶融樹脂の粘度を表示部7に表示する工程を更に含んでいる。このため、表示部7を見れば、押出装置1の動作中の溶融樹脂のリアルタイムな粘度や粘度の経時変化などを、容易かつ的確に把握することができる。押出装置1を用いて製造された樹脂製品(ここではペレット16)の品質は、シリンダ2で形成してダイ5の複数の孔部21から吐出する溶融樹脂の粘度に依存する。このため、押出装置1を用いて製造された樹脂製品(ここではペレット16)の品質を適切に管理するためには、押出装置1の動作中の溶融樹脂のリアルタイムな粘度や押出装置1を長時間継続して動作させたときの溶融樹脂の粘度の経時変化などを把握できることは、極めて有用である。本実施の形態では、押出装置1が圧力測定部31と算出部10とを有することにより、それが可能となるため、押出装置1を用いて製造された樹脂製品(ここではペレット16)の品質の管理が、容易となる。このため、押出装置1を用いて製造された樹脂製品(ここではペレット16)の製造コストを抑制することもできる。また、押出装置1の動作中の溶融樹脂の粘度の連続的な経時変化を表示部7で目視で確認することができるため、押出装置1内の樹脂の混練状態(混練指標)やダイ5の複数の孔部21から吐出される溶融樹脂(ストランド15)の品質の安定性を、容易に把握することができる。
【0048】
また、算出部10で算出した溶融樹脂の粘度は、記憶部11に記憶(記録)させることができる。溶融樹脂の粘度が何らかの要因で変化したときには、その変化を表示部7によりリアルタイムで把握することができ、また、溶融樹脂の経時変化を記憶部11に記憶(記録)しておくことにより、溶融樹脂の粘度が何らかの要因で変化したことを、事後的に確認することもできる。
【0049】
また、圧力測定部31と算出部10とにより、溶融樹脂の粘度を不連続(定期的)なデータ(例えば毎日同じ時刻に測定された粘度)として得て、それを利用して樹脂製品(ここではペレット16)の品質の安定性を監視することもできる。また、その不連続(定期的)なデータや、それによって判断された樹脂製品(ここではペレット16)の品質の安定性のデータを、表示部7に表示することもできる。
【0050】
<溶融樹脂の粘度の算出方法の第1の例について>
次に、圧力測定部31で測定した溶融樹脂の圧力値に基づいて、溶融樹脂の粘度を算出する具体的な手法の第1の例について説明する。
【0051】
ダイ5の樹脂流路部22の断面寸法(溶融樹脂が流れる方向に略垂直な断面の面積)に比べて、ダイ5の孔部21の断面寸法(溶融樹脂が流れる方向に略垂直な断面の面積)はかなり小さいため、樹脂流路部22を流れる際の溶融樹脂の圧力損失は、それほど大きくはないのに対して、孔部21を通過する際の溶融樹脂の圧力損失は、かなり大きい。
【0052】
溶融樹脂が孔部21を通過する際のせん断速度γは、次の数式1で表される。
【0053】
【数1】
【0054】
この数式1中のDは、孔部21の直径であり、数式1中のQは、個々の孔部21を通過する溶融樹脂の流量である。流量Qは、Q=Q/Nと表され、Qはシリンダ2からダイ5の樹脂流路部22に供給される溶融樹脂の流量であり、Nは孔部21の数である。Qは、押出装置1を操作する際に押出流量設定値として設定することができる。
【0055】
また、溶融樹脂が孔部21を通過する際のせん断応力σは、次の数式2で表される。
【0056】
【数2】
【0057】
この数式2中のΔPは、溶融樹脂が孔部21を通過する際の圧力損失であり、ΔP=P-Pと表される。ここで、Pは、孔部21を通過する直前の溶融樹脂の圧力であるが、圧力測定部31で測定した溶融樹脂の圧力を、この圧力Pとして用いることができる。Pは、孔部21を通過してダイ5の外部に吐出された直後の溶融樹脂の圧力であるが、この圧力Pの値として、大気圧を用いることができる。数式2中のLは、孔部21の長さ(樹脂が流れる方向での長さ)である。
【0058】
溶融樹脂の粘度ηは、数式1と数式2に基づいて、次の数式3で表される。
【0059】
【数3】
【0060】
この数式3において、孔部21の直径Dと孔部21の長さLは既知の値であり、また、個々の孔部21を通過する溶融樹脂の流量Q(=Q/N)は、押出装置1を操作する際に押出流量(Q)の設定値により、制御することができる値である。このため、この数式3から分かるように、粘度ηは、溶融樹脂が孔部21を通過する際の圧力損失ΔPが分かれば、算出することができることになる。上述のように、ΔP=P-Pで、圧力Pの値として大気圧を用い、圧力Pの値として圧力測定部31で測定した溶融樹脂の圧力を用いることにより、数式3から溶融樹脂の粘度ηを算出することができる。
【0061】
例えば、孔部21の直径Dおよび長さLと孔部21の数Nとについては、算出部10の粘度計算プログラムに予め入力しておき、流量Qについては、押出装置1の押出流量(Q)を設定した際に自動的に入力されるようにしておけばよい。そして、圧力測定部31が溶融樹脂の圧力を測定し、その測定値に基づいて、数式3から溶融樹脂の粘度ηを算出部10が算出することができる。
【0062】
また、ここでは、圧力損失が孔部21で発生することを前提とし、これ基づいて溶融樹脂の粘度を算出している。このため、孔部21の入り口での溶融樹脂の圧力と、圧力測定部31で測定した溶融樹脂の圧力とが、できるだけ一致していることが好ましく、それにより、圧力測定部31の測定値に基づいて算出した溶融樹脂の粘度の精度を、高めることができる。このため、溶融樹脂が孔部21を通過することにより発生する圧力損失に比べて、圧力測定部31による圧力測定位置から孔部21の入り口まで溶融樹脂が移動することにより発生する圧力損失が十分に低いことが好ましく、これを実現できるように、圧力測定部31による溶融樹脂の圧力測定位置は、孔部21の入り口にできるだけ近いことが好ましい。但し、孔部21内の溶融樹脂の圧力ではなく、孔部21の手前(孔部21よりも上流側)での溶融樹脂の圧力を圧力測定部31で測定する。この観点で、圧力測定部31は、シリンダ2ではなくダイ5内に配置して、ダイ5における樹脂流路部22内の溶融樹脂の圧力を圧力測定部31により測定することが好ましく、また、圧力測定部31を、ダイ部材5a内に配置して、ダイ部材5aにおける樹脂流路部22内の溶融樹脂の圧力を圧力測定部31により測定することが、更に好ましい。
【0063】
図7は、樹脂のせん断速度と粘度との相関を示すグラフである。上記第1の例の手法に従って圧力測定部31の測定値から溶融樹脂の粘度を算出した場合の値を、ひし形でプロットしてある。また、製造された樹脂ペレットの粘度をキャピラリーレオメータを用いて測定して得た粘度フィッティング曲線を実線で示してある。
【0064】
図7からも分かるように、ひし形のプロットと実線の粘度フィッティング曲線とはほぼ一致している。このことからも、上記第1の例の手法に従って圧力測定部31の測定値から溶融樹脂の粘度を算出すれば、製造された樹脂製品(ここでは樹脂ペレット)の粘度特性を把握することができ、製造された樹脂製品(樹脂ペレット)の品質を管理できることが分かる。
【0065】
<溶融樹脂の粘度の算出方法の第2の例について>
次に、圧力測定部31で測定した溶融樹脂の圧力値に基づいて、溶融樹脂の粘度を算出する具体的な手法の第2の例について説明する。この第2の例は、上記図4の構造のように、ブレーカープレート32およびスクリーンメッシュ33を用いる場合を前提としている。
【0066】
上記図4の構造の場合も、上述のように、樹脂流路部22を流れる際の溶融樹脂の圧力損失は、それほど大きくはないのに対して、孔部21を通過する際の溶融樹脂の圧力損失は、かなり大きい。しかしながら、上記図4の構造の場合は、スクリーンメッシュ33の開口部とブレーカープレート32の開口部32aを通過する際の溶融樹脂の圧力損失もかなり大きくなる。
【0067】
このため、上記図4の構造の場合も、スクリーンメッシュ33およびブレーカープレート32よりも下流側において、圧力測定部31により溶融樹脂の粘度を測定すれば、スクリーンメッシュ33およびブレーカープレート32を通過する際の圧力損失を考慮しなくとも、圧力測定部31の測定値に基づいて、上記第1の例の手法を用いて溶融樹脂の粘度を算出することができる。スクリーンメッシュ33およびブレーカープレート32よりも下流側において、圧力測定部31により溶融樹脂の粘度を測定すれば、スクリーンメッシュ33およびブレーカープレート32に何らかの要因で目詰まりなどが発生したとしても、それが圧力測定部31の測定値に影響を与えるのを防止できるため、圧力測定部31の測定値の安定性を高めることができる。このため、上記図4の構造の場合も、スクリーンメッシュ33およびブレーカープレート32よりも下流側において、圧力測定部31により溶融樹脂の粘度を測定することが好ましく、従って、圧力測定部31は、ダイ5内に配置することが好ましく、ダイ部材5a内に配置することが更に好ましい。
【0068】
しかしながら、上記図4の構造の場合において、スクリーンメッシュ33およびブレーカープレート32よりも上流側において、圧力測定部31により溶融樹脂の粘度を測定した場合(すなわち圧力測定部31をシリンダ2に配置した場合)でも、以下に説明する第2の例の手法を用いて、圧力測定部31の測定値に基づいて溶融樹脂の粘度を算出することができる。
【0069】
図8は、押出装置1の先端部の構造と、その構造の各位置における溶融樹脂の圧力を示すグラフとを示す説明図である。図8では、圧力測定部31の図示を省略しているが、それ以外は、上記図4の構造と同様である。
【0070】
図8からも分かるように、スクリーンメッシュ33の開口部およびブレーカープレート32の開口部32aを通過する際と、孔部21を通過する際とに、溶融樹脂の圧力が大きく低下して圧力損失が発生する。それに比べると、樹脂流路部22を通過する際の圧力損失はかなり小さい。このため、スクリーンメッシュ33およびブレーカープレート32よりも上流側で圧力測定部31により溶融樹脂の粘度を測定した場合(すなわち圧力測定部31をシリンダ2に配置した場合)の圧力測定値をPaとすると、圧力測定値Paは、次の数式4で近似して表される。
【0071】
【数4】
【0072】
ここで、数式4中のΔP1は、溶融樹脂が孔部21を通過する際の圧力損失であり、ΔP2は、溶融樹脂がスクリーンメッシュ33の開口部およびブレーカープレート32の開口部32aを通過する際の圧力損失である。また、溶融樹脂の粘度ηは、一定であると仮定する。
【0073】
上記数式1を変形させると、次の数式5が得られる。
【0074】
【数5】
【0075】
ここで、数式5中のDは、孔部21の直径であり、数式5中のQは、個々の孔部21を通過する溶融樹脂の流量である。流量Qは、Q=Q/Nと表され、Qはシリンダ2からダイ5の樹脂流路部22に供給される溶融樹脂の流量であり、Nは孔部21の数である。Qは、押出装置1を操作する際に押出流量設定値として設定することができる。数式5中のLは、孔部21の長さ(樹脂が流れる方向での長さ)である。
【0076】
一方、数式5中のΔP2は、次の数式6で表される。
【0077】
【数6】
【0078】
ここで、数式6中のΔP2は、ブレーカープレート32の開口部32aを通過する際の圧力損失であり、数式6中のΔP2は、スクリーンメッシュ33(の開口部)を通過する際の圧力損失である。数式6に示されるように、ΔP2は、ΔP2とΔP2との和(合計)により表される。
【0079】
ブレーカープレート32の開口部32aを通過する際の圧力損失ΔP2は、孔部21を通過する際の圧力損失ΔP1と同様に計算することができ、次の数式7で表される。
【0080】
【数7】
【0081】
ここで、数式7中のDは、ブレーカープレート32の開口部32aの直径であり、数式7中のQは、個々の開口部32aを通過する溶融樹脂の流量である。流量Qは、Q=Q/Nと表され、Qはシリンダ2からダイ5の樹脂流路部22に供給される溶融樹脂の流量であり、Nは開口部32aの数である。Qは、押出装置1を操作する際に押出流量設定値として設定することができる。数式7中のLは、ブレーカープレート32の開口部32aの長さ(樹脂が流れる方向での長さ)である。
【0082】
スクリーンメッシュ33を通過する際の圧力損失ΔP2は、次の数式8で計算可能である。
【0083】
【数8】
【0084】
ここで、数式8中のuは、溶融樹脂の流速であり、αは粘性抵抗係数であり、βは慣性抵抗係数であり、ρは密度である。粘性抵抗係数αと慣性抵抗係数βは、スクリーンメッシュに固有の値であり、スクリーンメッシュの製造メーカーにより提供され得る。また、スクリーンメッシュ33を複数枚重ね合わせて使用する場合には、重ね合わせる枚数分だけ数式8で得られるΔP2を足し合わせればよい。
【0085】
上記数式4に、上記数式5と上記数式6と上記数式7と上記数式8とを組み込むと、次の数式9が得られる。
【0086】
【数9】
【0087】
ここで、数式9中のAの部分は、ブレーカープレート32を通過する際の圧力損失に関連し、数式9中のCの部分は、孔部21を通過する際の圧力損失に関連し、数式中のBとEの部分は、スクリーンメッシュ33を通過する際の圧力損失に関連しており、このうち粘度ηが寄与するのは、AとBとCの部分である。従って、数式9を変形すると、次の数式10が得られる。
【0088】
【数10】
【0089】
ここで、数式10中のA,B,C,Eは、数式9におけるA,B,C,Eでそれぞれ指し示された部分である。
【0090】
数式10を変形すると、次の数式11が得られる。
【0091】
【数11】
【0092】
この数式11から、スクリーンメッシュ33およびブレーカープレート32よりも上流側で圧力測定部31により溶融樹脂の粘度を測定し、その圧力測定値Paに基づいて、溶融樹脂の粘度ηを算出することができる。
【0093】
このため、上記図4のようにブレーカープレート32やスクリーンメッシュ33を用いる場合において、圧力測定部31をシリンダ2側に配置してスクリーンメッシュ33およびブレーカープレート32よりも上流側で圧力測定部31により溶融樹脂の粘度を測定した場合であっても、圧力測定部31の圧力測定値に基づいて、算出部10が溶融樹脂の粘度を算出することができる。
【0094】
但し、圧力測定部31をシリンダ2側に配置して、スクリーンメッシュ33およびブレーカープレート32よりも上流側で圧力測定部31により溶融樹脂の粘度を測定する場合には、スクリーンメッシュ33およびブレーカープレート32に何らかの要因で目詰まりなどが発生してしまうと、それが圧力測定部31の測定値に影響を与えてしまう。これは、圧力測定部31の測定値に基づいて算出部10が溶融樹脂の粘度を算出した際に、算出された粘度と実際の粘度とのずれ(誤差)につながるため、望ましくない。
【0095】
このため、ブレーカープレート32やスクリーンメッシュ33のような、溶融樹脂が通過する複数の開口部を有する部材を用いる場合には、その部材よりも下流側で、かつ複数の孔部21よりも上流側で、溶融樹脂の圧力を圧力測定部31を用いて測定することが、より好ましい。その場合は、粘度の算出には、上記第1の例の手法を用いればよい。これにより、ブレーカープレート32やスクリーンメッシュ33のような、溶融樹脂が通過する複数の開口部を有する部材が何らかの要因で目詰まりなどを生じたとしても、それが圧力測定部31の測定値に影響を与えるのを防止できる。これにより、圧力測定部31の測定値に基づいて溶融樹脂の粘度を算出部10が算出した際に、算出された粘度と実際の粘度とのずれ(誤差)が生じるのを、より的確に抑制または防止することができる。
【0096】
<変形例>
本実施の形態の押出装置1の更なる変形例について、図9を参照して説明する。図9は、本実施の形態の押出装置1の更なる変形例で用いられるダイ5の平面図であり、上記図2に対応するものである。
【0097】
上記図2の場合は、ダイ5に設けられている孔部(溶融樹脂吐出用の開口部)21の数は複数(2つ以上)であったが、図9の場合は、ダイ5に設けられている孔部(溶融樹脂吐出用の開口部)21の数は1つである。また、図9の場合は、孔部21の断面形状(孔部21の延在方向に略垂直な断面形状)は、例えばスリット状であり、この場合、スリット状の孔部21から吐出される溶融樹脂は、ストランド状ではなく、フィルム状となる。図9に示されるスリット状の孔部21から吐出された(押し出された)フィルム状の溶融樹脂は、冷却ロールなどの冷却装置によって冷却されて固化し、樹脂フィルムとなる。このため、図9の場合は、製造される樹脂製品は、例えば樹脂フィルムである。樹脂フィルムは、巻き取り機(図示せず)に搬送されて巻き取られる。このような場合においても、上述したように、押出装置1のシリンダ2内またはダイ5内の溶融樹脂の圧力を圧力測定部31により測定し、圧力測定部31の測定値に基づいて算出部10が溶融樹脂の粘度を算出し、表示部7に溶融樹脂の粘度を表示することができる。これにより、上述したような効果を得ることができる。
【0098】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0099】
1 押出装置
2 シリンダ
3 回転駆動機構
4 ホッパ
5 ダイ
5a,5b ダイ部材
6 操作盤
7 表示部
8 入力部
9 制御部
10 算出部
11 記憶部
12 ペレット製造システム
13 冷却槽
14 切断装置
15 ストランド
16 ペレット
17 スクリュ
21 孔部
22 樹脂流路部
23 開口部
31 圧力測定部
32 ブレーカープレート
33 スクリーンメッシュ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9