(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】空調システムおよび空調制御方法
(51)【国際特許分類】
F24F 11/46 20180101AFI20241203BHJP
F24F 11/65 20180101ALI20241203BHJP
【FI】
F24F11/46
F24F11/65
(21)【出願番号】P 2021029647
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2023-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】本田 光弘
(72)【発明者】
【氏名】中谷 和希
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-105473(JP,A)
【文献】特開2009-58171(JP,A)
【文献】特開2021-148338(JP,A)
【文献】特開2022-54035(JP,A)
【文献】特開2018-100791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象の空間に空気を供給する複数の吹出口と前記空間から空気を排出する複数の吸込口のうち、前記空間を分割した複数のエリア内の第1のエリアの吹出口を開いて吸込口を閉じ、前記複数のエリア内の第2のエリアの吹出口を閉じて吸込口を開くように指示するように構成された気流環境設定部と、
前記気流環境設定部の指示に応じて、前記第1のエリアの吹出口を開いて、前記第2のエリアの吹出口を閉じるように構成された吹出口制御部と、
前記気流環境設定部の指示に応じて、前記第1のエリアの吸込口を閉じて、前記第2のエリアの吸込口を開くように構成された吸込口制御部と
、
前記空間の各エリアに設けられた人検知センサの検出結果に基づいて、各エリアにおける人の滞在時間をエリア毎および人毎に算出するように構成された滞在時間算出部と、
前記滞在時間算出部によって算出された過去の滞在時間の履歴から、人の滞在時間が長いと判定したエリアを前記第1のエリアに分類し、人の滞在時間が短いと判定したエリアを前記第2のエリアに分類するように構成されたエリア判定部とを備えることを特徴とする空調システム。
【請求項2】
制御対象の空間に空気を供給する複数の吹出口と前記空間から空気を排出する複数の吸込口のうち、前記空間を分割した複数のエリア内の第1のエリアの吹出口を開いて吸込口を閉じ、前記複数のエリア内の第2のエリアの吹出口を閉じて吸込口を開くように指示する第1のステップと、
前記第1のステップの指示に応じて、前記第1のエリアの吹出口を開いて、前記第2のエリアの吹出口を閉じるように制御する第2のステップと、
前記第1のステップの指示に応じて、前記第1のエリアの吸込口を閉じて、前記第2のエリアの吸込口を開くように制御する第3のステップと
、
前記空間の各エリアに設けられた人検知センサの検出結果に基づいて、各エリアにおける人の滞在時間をエリア毎および人毎に算出する第4のステップと、
前記第4のステップで算出した過去の滞在時間の履歴から、人の滞在時間が長いと判定したエリアを前記第1のエリアに分類し、人の滞在時間が短いと判定したエリアを前記第2のエリアに分類する第5のステップとを含むことを特徴とする空調制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調システムに係り、特に感染症を防ぐための気流制御を実現することが可能な空調システムおよび空調制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、オフィス等の空間では、各部屋の室内温度を計測して、部屋に流れる給気風量を調整する変風量空調システム(VAV(Variable Air Volume)空調システム)が採用されている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の流行により、空調制御(換気)が注目されている。空気調和衛生工学会の専門家の見解では次の(I)~(IV)のことが示されている。
【0004】
(I)飛沫感染を空調(換気)で防ぐことはできない。1~2m以上の距離を保つなどの対策が必要である。
(II)対人距離を1~2m以上確保した上で、中性能フィルタによるろ過、および適切な換気の両方を行うことが望ましい。
【0005】
(III)換気は、換気回数2回/h以上が望ましい(日本病院設備設計ガイドライン)。換気回数は、1時間あたりの外気取入量を部屋の容積を割ったものである。
(IV)オフィスでは「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」に基づき、一人当たり30m3/hの外気取入れ量を基準とする(二酸化炭素濃度に基づく外気取入量)。天井高2.8mで、占有面積5m2/人とすると換気回数2.1回/hとなる。
【0006】
このように新型コロナウイルス感染対策としての空調設備の運用が提唱されている。しかしながら、特許文献1、特許文献2に開示された従来の空調システムでは、必要な換気回数が満たされていても、室内の空間の空気の流れの中で、局所的に換気が良い場所、悪い場所が存在する。つまり、従来の空調システムでは、気流の流れを意図して制御しているわけではなく、新型コロナウイルスなどの感染症を防ぐための適切な気流になっていない可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-132396号公報
【文献】特開平9-178249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、ウイルス感染予防のための気流制御を実現することができる空調システムおよび空調制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の空調システムは、制御対象の空間に空気を供給する複数の吹出口と前記空間から空気を排出する複数の吸込口のうち、前記空間を分割した複数のエリア内の第1のエリアの吹出口を開いて吸込口を閉じ、前記複数のエリア内の第2のエリアの吹出口を閉じて吸込口を開くように指示するように構成された気流環境設定部と、前記気流環境設定部の指示に応じて、前記第1のエリアの吹出口を開いて、前記第2のエリアの吹出口を閉じるように構成された吹出口制御部と、前記気流環境設定部の指示に応じて、前記第1のエリアの吸込口を閉じて、前記第2のエリアの吸込口を開くように構成された吸込口制御部と、前記空間の各エリアに設けられた人検知センサの検出結果に基づいて、各エリアにおける人の滞在時間をエリア毎および人毎に算出するように構成された滞在時間算出部と、前記滞在時間算出部によって算出された過去の滞在時間の履歴から、人の滞在時間が長いと判定したエリアを前記第1のエリアに分類し、人の滞在時間が短いと判定したエリアを前記第2のエリアに分類するように構成されたエリア判定部とを備えることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の空調制御方法は、制御対象の空間に空気を供給する複数の吹出口と前記空間から空気を排出する複数の吸込口のうち、前記空間を分割した複数のエリア内の第1のエリアの吹出口を開いて吸込口を閉じ、前記複数のエリア内の第2のエリアの吹出口を閉じて吸込口を開くように指示する第1のステップと、前記第1のステップの指示に応じて、前記第1のエリアの吹出口を開いて、前記第2のエリアの吹出口を閉じるように制御する第2のステップと、前記第1のステップの指示に応じて、前記第1のエリアの吸込口を閉じて、前記第2のエリアの吸込口を開くように制御する第3のステップと、前記空間の各エリアに設けられた人検知センサの検出結果に基づいて、各エリアにおける人の滞在時間をエリア毎および人毎に算出する第4のステップと、前記第4のステップで算出した過去の滞在時間の履歴から、人の滞在時間が長いと判定したエリアを前記第1のエリアに分類し、人の滞在時間が短いと判定したエリアを前記第2のエリアに分類する第5のステップとを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第1のエリアの吹出口を開いて吸込口を閉じ、第2のエリアの吹出口を閉じて吸込口を開くように指示する気流環境設定部と、気流環境設定部の指示に応じて吹出口の開閉を制御する吹出口制御部と、気流環境設定部の指示に応じて吸込口の開閉を制御する吸込口制御部とを設けることにより、新型コロナウイルスなどの感染症を防ぐための適切な気流制御を実現することができる。
【0014】
また、本発明では、滞在時間算出部とエリア判定部とを設けることにより、第1のエリアと第2のエリアを自動的に指定することができる。本発明では、空調システムの管理者などが手動でエリアを指定する手間を省くことができる。
【0015】
また、本発明では、エリア判定部を設けることにより、感染症を防ぐための気流制御をリアルタイムに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施例に係る空調システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施例において1つのVAVユニットに複数の吹出口が設けられている例を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施例において1つの吸込口ダンパに複数の吸込口が設けられている例を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1の実施例に係る空調コントローラの構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、本発明の第1の実施例に係るVAVコントローラの構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、本発明の第1の実施例に係る気流制御の動作を説明するフローチャートである。
【
図7】
図7は、本発明の第2の実施例に係る空調システムの構成を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、本発明の第2の実施例に係る空調コントローラの構成を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、本発明の第2の実施例に係る気流制御の動作を説明するフローチャートである。
【
図10】
図10は、本発明の第2の実施例に係る気流制御の動作を説明するフローチャートである。
【
図11】
図11は、本発明の第3の実施例に係る空調システムの構成を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、本発明の第3の実施例に係る空調コントローラの構成を示すブロック図である。
【
図13】
図13は、本発明の第3の実施例に係る気流制御の動作を説明するフローチャートである。
【
図14】
図14は、本発明の第1~第3の実施例に係るVAVコントローラと空調コントローラを実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[発明の原理]
感染症予防のための気流の流れを作るのに吸込口の位置が重要な要素になるが、所望の気流の流れを作るのに吸込口の位置を変化させることはできない。そこで、発明者は、吸込口を開閉することによって吸込口の見かけ上の位置を変えることができることに想到した。
【0018】
[第1の実施例]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の第1の実施例に係る空調システムの構成を示すブロック図である。空調システムは、空調機1と、空調機1への冷水の量を制御する冷水バルブ2と、空調機1への温水の量を制御する温水バルブ3と、空調機1からの給気をエリア9-1~9-3へ供給する給気ダクト7と、エリア9-1~9-3へ供給する給気の量をエリア毎に制御する変風量ユニットであるVAVユニット8-1~8-3と、VAVユニット8-1~8-3を制御するVAVコントローラ11-1~11-3と、システム全体を制御する空調コントローラ12と、エリア9-1~9-3の室内温度を計測する温度センサ13-1~13-3と、還気ダクト14と、エリア9-1~9-3から還気ダクト14へ排出される空気の量を調整する吸込口ダンパ15-1~15-3と、外部に排出される空気の量を調整する排気調整用ダンパ16と、空調機1に戻る還気の量を調整する還気調整用ダンパ17と、空調機1に取り入れる外気の量を調整する外気調整用ダンパ18と、給気の温度を計測する温度センサ19とを備えている。
【0019】
空調機1は、冷却コイル4と、加熱コイル5と、ファン6とから構成される。本実施例では、建物内の空間を複数のエリア9-1~9-3に分割し、各エリア9-1~9-3毎にVAVユニット8-1~8-3とVAVコントローラ11-1~11-3とを設けている。各エリア9-1~9-3は、壁などで区切られておらず、空気の流通が可能な空間となっている。
【0020】
VAVユニット8-1~8-3内にはそれぞれ図示しないダンパが設けられており、VAVユニット8-1~8-3を通過する給気の量を調整できるようになっている。
図1において、10-1~10-3はVAVユニット8-1~8-3からの給気の吹出口、20-1~20-3は吸込口、21は外気の取入口である。
【0021】
図1の例では、VAVユニット毎(エリア毎)に吹出口を1つ設けているが、実際の建物では、
図2に示すように1つのVAVユニット8-1に複数の吹出口10-1を設けることが多い。
【0022】
同様に、
図1の例では、吸込口ダンパ毎(エリア毎)に吸込口を1つ設けているが、
図3に示すように1つの吸込口ダンパ15-1に複数の吸込口20-1を設けるようにしてもよい。
【0023】
次に、一般的なVAVについて簡単に説明する。空調機1の冷却コイル4によって冷却された空気または加熱コイル5によって加熱された空気は、ファン6によって送り出される。ファン6によって送り出された空気(給気)は、給気ダクト7を介して各エリア9-1~9-3のVAVユニット8-1~8-3へ供給され、VAVユニット8-1~8-3を通過して吹出口10-1~10-3から各エリア9-1~9-3へ供給されるようになっている。
【0024】
VAVコントローラ11-1~11-3は、エリア9-1~9-3の温度センサ13-1~13-3によって計測された室内温度と室内温度設定値との偏差に基づいてエリア9-1~9-3の要求風量を演算して要求風量値を空調コントローラ12へ送る一方、その要求風量を確保するように、VAVユニット8-1~8-3内のダンパ(不図示)の開度を制御する。
【0025】
VAVユニット8-1~8-3を通過し、吹出口10-1~10-3を介してエリア9-1~9-3へ吹き出される給気は、エリア9-1~9-3における空調制御に貢献した後、吸込口20-1~20-3から吸込口ダンパ15-1~15-3、還気ダクト14を経て排気調整用ダンパ16を介して排出されるが、その一部は還気調整用ダンパ17を介し還気として空調機1へ戻される。そして、この空調機1へ戻される還気に対し、外気が外気調整用ダンパ18を介して所定の割合で取り込まれる。排気調整用ダンパ16、還気調整用ダンパ17、および外気調整用ダンパ18のそれぞれの開度は空調コントローラ12からの指令によって調整される。
【0026】
図4は空調コントローラ12の構成を示すブロック図、
図5はVAVコントローラ11-1の構成を示すブロック図である。
【0027】
空調コントローラ12は、冷水バルブ2および温水バルブ3の開度を示す操作量を算出する操作量演算部120と、操作量を冷水バルブ2および温水バルブ3に出力する操作量出力部121と、空調機1のファン6を制御する風量制御部122と、第1のエリアの吹出口を開いて吸込口を閉じ、第2のエリアの吹出口を閉じて吸込口を開くように指示する気流環境設定部123と、気流環境設定部123の指示に応じて、第1のエリアの吸込口ダンパを閉じて、第2のエリアの吸込口ダンパを開くダンパ制御部124(吸込口制御部)とを有する。
【0028】
VAVコントローラ11-1は、対応するエリア9-1の温度センサ13-1によって計測された室内温度と室内温度設定値との偏差に基づいてエリア9-1の要求風量を演算する風量演算部110と、エリア9-1の要求風量値を空調コントローラ12に通知する要求風量値通知部111と、要求風量を確保するようにVAVユニット8-1内のダンパの開度を制御すると共に、気流環境設定部123の指示に応じてダンパを開閉するダンパ制御部112(吹出口制御部)とを有する。なお、VAVコントローラ11-2,11-3も、VAVコントローラ11-1と同様の構成を有している。
【0029】
空調コントローラ12の操作量演算部120は、温度センサ19によって計測された給気温度計測値と給気温度設定値とが一致するように操作量を算出し、操作量出力部121は、操作量演算部120が算出した操作量を冷水バルブ2および温水バルブ3に出力する。こうして、冷水バルブ2および温水バルブ3の開度が制御され、空調機1に供給される熱媒(冷水または温水)の量が制御される。空調機1が冷却動作時の場合には温水バルブ3の開度は0%に固定され、空調機1が加熱動作時の場合には冷水バルブ2の開度は0%に固定される。
【0030】
VAVコントローラ11-1~11-3の風量演算部110は、それぞれ対応するエリア9-1~9-3の温度センサ13-1~13-3によって計測された室内温度と室内温度設定値との偏差に基づいて、エリア9-1~9-3の要求風量を算出する。
【0031】
VAVコントローラ11-1~11-3のダンパ制御部112は、それぞれ対応するエリア9-1~9-3の要求風量を確保するように、VAVユニット8-1~8-3内のダンパ(不図示)の開度を制御する。
【0032】
VAVコントローラ11-1~11-3の要求風量値通知部111は、それぞれVAVコントローラ11-1~11-3の風量演算部110が決定したエリア9-1~9-3の要求風量値を空調コントローラ12に通知する。
【0033】
空調コントローラ12の風量制御部122は、各VAVコントローラ11-1~11-3から送られてくる要求風量値からシステム全体の総要求風量値を演算し、この総要求風量値に応じたファン回転数を求め、この求めたファン回転数となるように空調機1のファン6を制御する。
以上の空調システムの動作は、従来の空調システムと同様である。
【0034】
次に、本実施例の特徴的な気流制御について説明する。
図6は本実施例の気流制御の動作を説明するフローチャートである。本実施例では、予め指定された座席などの、人の滞在時間が長いエリアの吹出口(VAVユニットのダンパ)を開き、吸込口(吸込口ダンパ)を閉じる。また、予め指定された通路などの、人の滞在時間が短いエリアの吹出口を閉じ、吸込口を開く。
【0035】
例えば空調システムの管理者は、人の滞在時間が長いと認定したエリアを第1のエリアとして予め指定し、人の滞在時間が短いと認定したエリアを第2のエリアとして予め指定しておく。
【0036】
図1の例では、例えばエリア9-1~9-3のうち、エリア9-1が人の滞在時間が短いエリア(第2のエリア)として指定され、エリア9-2,9-3が人の滞在時間が長いエリア(第1のエリア)として指定されていたとする。
【0037】
空調コントローラ12の気流環境設定部123は、人の滞在時間が短いエリア9-1のVAVコントローラ11-1に対し吹出口10-1を閉じるよう指示する(
図6ステップS100)。
【0038】
VAVコントローラ11-1のダンパ制御部112は、気流環境設定部123からの指示に応じてVAVユニット8-1のダンパを閉じる(
図6ステップS101)。気流環境設定部123からの吹出口閉鎖の指示がないエリア9-2,9-3のVAVユニット8-2,8-3についてはダンパが開いたままとなり、上記で説明した風量制御が維持されることになる。
【0039】
また、気流環境設定部123は、人の滞在時間が短いエリア9-1の吸込口20-1を開き、人の滞在時間が長いエリア9-2,9-3の吸込口20-2,20-3を閉じるようダンパ制御部124に指示する(
図6ステップS102)。
【0040】
ダンパ制御部124は、気流環境設定部123からの指示に応じてエリア9-1の吸込口ダンパ15-1を開き、エリア9-2,9-3の吸込口ダンパ15-2,15-3を閉じる(
図6ステップS103)。
【0041】
吹出口からの空気は、室内のさまざまな経路を経て吸込口に排出される。空気の移動時間を、吹出口で室内に空気が誕生し、吸込口から排出されて一生を終わる空気の年齢にたとえて、吹出口から特定の地点に到達する時間を空気齢と呼ぶ(文献「加藤信介,“解説:特集 建物の安全性のモニタリング技術 室内空気汚染の時間的空間的変動特性とその検出”,計測と制御,第46巻,第8号,2007年8月号」)。空気齢が長い地点の空気ほどウイルスや汚染物質によって汚染されることになる。また、一般的に吹出口に近い場所ほど空気齢が短くなる。
【0042】
そこで、本実施例では、なるべく汚染されていない空気を人に供給するため、人の滞在時間が長いエリアの吹出口を開く。また、人の近くの吸込口を開いていると、新鮮な空気が人に到達する前に吸込口から逃げて行ってしまう割合が多くなる。そこで、人の滞在時間が長いエリアの吸込口を閉じる。また、吸込口の近くの地点ほど空気齢が長くなり、ウイルスや汚染物質によって空気が汚染される可能性が高くなる。そこで、本実施例では、空気が汚染される可能性が低い、人の滞在時間が短いエリアの吸込口を開く。
【0043】
こうして、本実施例では、新型コロナウイルスなどの感染症を防ぐための適切な気流制御を実現することができる。
【0044】
なお、本実施例では、人の滞在時間が短いエリアの吹出口を閉じるため、そのエリアについては温度制御をしないことになる。温度制御しないエリアでは、温熱環境が不快になる可能性がある。ただし、吹出口を閉じたエリアには人があまり居らず、また上記のとおり各エリアは壁などで区切られていない形態であり、吹出口が開いているエリアで空調制御された空気が吹出口を閉じたエリアにも流れるため、吹出口を閉じたエリアの温熱環境が極端に不快になる可能性は低い。
【0045】
[第2の実施例]
次に、本発明の第2の実施例について説明する。第1の実施例では、人の滞在時間が長いエリアと滞在時間が短いエリアとが予め指定されていることを前提としていた。したがって、空調システムの管理者などが手動でエリアを指定する必要がある。
これに対して、本実施例では、人検知統計情報から滞在時間が長いエリアと滞在時間が短いエリアとを自動的に検出して指定する。
【0046】
図7は本実施例に係る空調システムの構成を示すブロック図、
図8は本実施例の空調コントローラの構成を示すブロック図である。本実施例の空調システムは、第1の実施例の空調システムに対して、エリア毎に例えば赤外線センサからなる人検知センサ22-1~22-3を追加している。
【0047】
本実施例の空調コントローラ12aは、操作量演算部120と、操作量出力部121と、風量制御部122と、気流環境設定部123aと、ダンパ制御部124と、人検知センサ22-1~22-3の検出結果に基づいて、各エリア9-1~9-3における人の滞在時間をエリア毎および人毎に算出する滞在時間算出部125と、滞在時間算出部125の算出結果を記憶する記憶部126と、滞在時間算出部125によって算出された過去の滞在時間の履歴から、人の滞在時間が長いと判定したエリアを第1のエリアに分類し、人の滞在時間が短いと判定したエリアを第2のエリアに分類するエリア判定部127とを有する。
【0048】
図9、
図10は本実施例の気流制御の動作を説明するフローチャートである。空調コントローラ12aの滞在時間算出部125は、人検知センサ22-1~22-3の検出結果に基づいて、各エリア9-1~9-3における人の滞在時間をエリア毎および人毎に算出する(
図9ステップS200)。滞在時間算出部125は、このような滞在時間の算出を常に行う。滞在時間算出部125の算出結果は記憶部126に蓄積される(
図9ステップS201)。
【0049】
滞在時間の算出方法は本実施例の方法でなくても構わない。例えば人検知センサ22-1~22-3としてカメラを用い、カメラで撮影した画像を画像処理した結果に基づいて滞在時間を算出するようにしてもよい。
【0050】
空調コントローラ12aのエリア判定部127は、記憶部126に記憶されている滞在時間のデータに対してエリア毎に統計処理を施すことにより、過去の滞在時間の代表値(最大値、平均値、最小値など)をエリア毎に算出し、このエリア毎の代表値に基づいて、各エリア9-1~9-3を人の滞在時間が長いエリアと滞在時間が短いエリアのいずれかに分類する(
図10ステップS202)。
【0051】
エリア判定部127は、例えば滞在時間の代表値が所定の時間閾値以上のエリアを人の滞在時間が長いエリアとし、滞在時間の代表値が時間閾値未満のエリアを人の滞在時間が短いエリアとする。
【0052】
ただし、滞在時間の代表値が時間閾値以上のエリアが無い場合、エリア判定部127は、各エリア9-1~9-3のうち滞在時間の代表値が最も長いエリアを滞在時間が長いエリアとする。同様に、滞在時間の代表値が時間閾値未満のエリアが無い場合、エリア判定部127は、各エリア9-1~9-3のうち滞在時間の代表値が最も短いエリアを滞在時間が短いエリアとする。このように滞在時間が長いエリアと滞在時間が短いエリアがそれぞれ1つ以上生じるように指定する。
【0053】
空調コントローラ12aの気流環境設定部123aは、エリア判定部127によって人の滞在時間が短いエリアと判定されたエリアのVAVコントローラに対し吹出口を閉じるよう指示する(
図10ステップS203)。
【0054】
気流環境設定部123aから指示を受けたVAVコントローラの動作(
図10ステップS204)は、ステップS101と同じである。
【0055】
また、気流環境設定部123aは、エリア判定部127によって人の滞在時間が短いエリアと判定されたエリアの吸込口を開き、エリア判定部127によって人の滞在時間が長いエリアと判定されたエリアの吸込口を閉じるようダンパ制御部124に指示する(
図10ステップS205)。
【0056】
気流環境設定部123aから指示を受けたダンパ制御部124の動作(
図10ステップS206)は、ステップS103と同じである。
【0057】
こうして、本実施例では、人の滞在時間が長いエリアと滞在時間が短いエリアとを自動的に検出して指定することができる。
なお、ステップS202~S206の処理を定期的に行い、エリアの分類を適宜修正することが好ましい。
【0058】
[第3の実施例]
次に、本発明の第3の実施例について説明する。第2の実施例では、過去の人検知統計情報から滞在時間が長いエリアと滞在時間が短いエリアとを自動的に検出して指定したが、本実施例では、リアルタイムに上記の気流制御を行う。
【0059】
図11は本実施例に係る空調システムの構成を示すブロック図、
図12は本実施例の空調コントローラの構成を示すブロック図である。本実施例の空調システムは、第2の実施例と同様に、エリア毎に例えば赤外線センサからなる人検知センサ22-1~22-3を追加している。
【0060】
本実施例の空調コントローラ12bは、操作量演算部120と、操作量出力部121と、風量制御部122と、気流環境設定部123bと、ダンパ制御部124と、人検知センサ22-1~22-3の検出結果に基づいて、人が居るエリアを第1のエリアに分類し、人が居ないエリアを第2のエリアに分類するエリア判定部127bとを有する。
【0061】
図13は本実施例の気流制御の動作を説明するフローチャートである。空調コントローラ12bのエリア判定部127bは、人検知センサ22-1~22-3の検出結果に基づいて、各エリア9-1~9-3を人が居るエリア(第1のエリア)と人が居ないエリア(第2のエリア)のいずれかに分類する(
図13ステップS300)。
【0062】
空調コントローラ12bの気流環境設定部123bは、エリア判定部127bによって人が居ないエリアと判定されたエリアのVAVコントローラに対し吹出口を閉じるよう指示する(
図13ステップS301)。
【0063】
気流環境設定部123bから指示を受けたVAVコントローラの動作(
図13ステップS302)は、ステップS101と同じである。
【0064】
また、気流環境設定部123bは、エリア判定部127bによって人が居ないと判定されたエリアの吸込口を開き、エリア判定部127によって人が居ると判定されたエリアの吸込口を閉じるようダンパ制御部124に指示する(
図13ステップS303)。
【0065】
気流環境設定部123bから指示を受けたダンパ制御部124の動作(
図13ステップS304)は、ステップS103と同じである。
【0066】
こうして、本実施例では、感染症を防ぐための気流制御をリアルタイムに行うことができるが、エリア判定部127bによる判定結果として全てのエリアで吸込口が閉じてしまうことが有り得る。供給した風量を回収しなければならないため、必要最低限の吸込口を開ける必要がある。1吸込口あたりの吸込風量は既知なので、システム全体の現時点の総給気風量に対して最低限開けるべき吸込口の数は既知である。
【0067】
そこで、気流環境設定部123bは、最低限開けるべき吸込口の数に対して実際に開いている吸込口の数が不足と判定した場合(
図13ステップS305)、必要最低限の吸込口数を満たすべく任意のエリアを選択し、選択したエリアの吸込口を開くようダンパ制御部124に指示する(
図13ステップS306)。
【0068】
ダンパ制御部124は、気流環境設定部123bからの指示に応じて指定されたエリアの吸込口ダンパを開く(
図13ステップS307)。
開いている吸込口の位置は空間的に疎らであることが好ましいが、気流環境設定部123bは吸込口を開くエリアを任意に選択して構わない。
【0069】
空調コントローラ12bは、空調制御が終了するまで(
図13ステップS308においてYES)、ステップS300~S307の処理を繰り返し行う。
【0070】
なお、第1、第2の実施例においても、給気風量に対して開いている吸込口の数が不足する場合が有り得るが、吸込口の数が不足している場合にはステップS305~S307と同様の処理を行えばよい。
【0071】
また、第1~第3の実施例においては、必要換気回数を満たす必要があるが、ダンパが開いているVAVユニットが既に最大風量で、ダンパが開いているVAVユニットの風量のみでは必要換気回数を満たすことができない場合が有り得る。
【0072】
そこで、気流環境設定部123,123a,123bは、ダンパが開いているVAVユニットの風量のみでは必要換気回数を満たすことができない場合、必要換気回数を満たすべく任意のエリアを選択し、選択したエリアの吹出口を開くようVAVコントローラに対し指示すればよい。
【0073】
第1~第3の実施例のVAVコントローラ11-1~11-3と空調コントローラ12,12a,12bの各々は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置および外部とのインターフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を
図14に示す。コンピュータは、CPU300と、記憶装置301と、インターフェース装置(I/F)302とを備えている。
【0074】
VAVコントローラ11-1~11-3の場合、I/F302には、VAVユニット8-1~8-3と温度センサ13-1~13-3と空調コントローラ12,12a,12bとが接続される。空調コントローラ12,12a,12bの場合、I/F302には、空調機1とバルブ2,3とダンパ15-1~15-3,16~18と温度センサ19とVAVコントローラ11-1~11-3とが接続される。本発明の空調制御方法を実現させるためのプログラムは記憶装置301に格納される。各装置のCPU300は、記憶装置301に格納されたプログラムに従って第1~第3の実施例で説明した処理を実行する。ただし、空調コントローラ12,12a,12bの全ての構成を1台のコンピュータで実現する必要はなく、複数台のコンピュータによって実現するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、空調システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1…空調機、2…冷水バルブ、3…温水バルブ、4…冷却コイル、5…加熱コイル、6…ファン、8-1~8-3…VAVユニット、9-1~9-3…エリア、10-1~10-3…吹出口、11-1~11-3…VAVコントローラ、12,12a,12b…空調コントローラ、13-1~13-3,19…温度センサ、14…還気ダクト、15-1~15-3…吸込口ダンパ、16…排気調整用ダンパ、17…還気調整用ダンパ、18…外気調整用ダンパ、20-1~20-3…吸込口、22-1~22-3…人検知センサ、110…風量演算部、111…要求風量値通知部、112,124…ダンパ制御部、120…操作量演算部、121…操作量出力部、122…風量制御部、123,123a,123b…気流環境設定部、125…滞在時間算出部、126…記憶部、127,127b…エリア判定部。