(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】水中における構造物の施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 15/02 20060101AFI20241203BHJP
E02D 5/04 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
E02D15/02
E02D5/04
(21)【出願番号】P 2021038301
(22)【出願日】2021-03-10
【審査請求日】2024-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】小倉 大季
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-068531(JP,A)
【文献】特開2006-063596(JP,A)
【文献】特開2000-319845(JP,A)
【文献】特開昭62-050505(JP,A)
【文献】特表2015-502870(JP,A)
【文献】実開平06-001611(JP,U)
【文献】実開昭61-254720(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2012/0328368(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 15/02
E02D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動可能な吐出部から連続的に柔性の水硬性混合物を吐出する機構を備えた付加製造装置の前記吐出部から吐出された前記水硬性混合物を積層させることにより、水中で構造物を形成する、水中における構造物の
施工方法であって、
前記付加製造装置は、
水上に設けられ、前記水硬性混合物を貯留するホッパーと、
前記ホッパーに接続して水上に設けられ、前記ホッパーから前記水硬性混合物を供給可能なポンプと、
前記ポンプに設けられ、前記ポンプの駆動を制御するコントローラと、
前記ポンプに一方の端部が接続され、前記ポンプから供給された前記水硬性混合物を配送可能なホースと、
前記ホースの他方の端部に接続され、前記ホースを介して配送された前記水硬性混合物を吐出するノズルと、
前記ノズルに設けられ、前記水硬性混合物の吐出量を制御する電磁弁と、
を備え、
前記ホースは、前記構造物の施工位置の水底面に到達する十分な長さを有す
る水中における構造物の施工システム
を用いた水中における構造物の施工方法であって、
前記構造物の施工位置の周囲を該周囲の水深以上の高さを有する矢板部材によって締め切って矢板止水構造体を形成し、
前記付加製造装置の前記ノズルから吐出された前記水硬性混合物を前記矢板部材の前記構造物が設けられる側の面に接着させて水底面から積層させて積層壁を形成し、
前記矢板部材と前記積層壁とが、一体となった合成壁を形成する、
水中における構造物の施工方法。
【請求項2】
前記付加製造装置の前記ノズルから吐出された前記水硬性混合物を前記合成壁により包囲された前記水底面に積層させて積層底版を形成し、
前記合成壁と前記積層底版とが、一体となった合成止水構造体を形成し、
前記合成止水構造体の内部に形成された函内水中部に前記構造物を施工する、
請求項1に記載の水中における構造物の施工方法。
【請求項3】
前記函内水中部に、水中不分離性コンクリートを前記函内水中部に貯留されている水と前記水中不分離性コンクリートとを入れ替えながら、前記積層底版の上面から上方へ打設して函内充填構造体を形成し、
前記合成止水構造体と前記函内充填構造体とが一体となり、前記構造物を構築する、
請求項2に記載の水中における構造物の施工方法。
【請求項4】
前記合成止水構造体を形成後、前記函内水中部に貯留されている水を完全に排水して函内空隙部を形成し、
前記函内空隙部に、気中で供用可能な建設材料を打設し、前記構造物を構築する、
請求項2に記載の水中における構造物の施工方法。
【請求項5】
前記矢板部材は、前記積層壁が設けられる側の面にスタッドおよび凹凸溝の少なくとも一方が形成される、
請求項2から4のいずれか一項に記載の水中における構造物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中における構造物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋脚などの水中に設けられる構造物の施工方法においては、先ず、構造物を設ける箇所の周囲を鋼管矢板等の大掛かりな止水構造物で包囲して締め切ることで止水構造物内部への水の浸入を防ぎ、止水構造物内部の水を排出する。これにより、止水構造物内部での作業空間を確保して構造物を施工する施工方法が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
また、別の施工方法として、港湾のドッグなどの陸上で予め函体等の形状の沈設構造物(ケーソン)を製作して施工現場まで曳航し、ケーソンの内部に水を満たして沈降させて所定の水底面に沈設させる。沈設させたケーソンの内部に、トレミー管等の水中での材料分離を防ぐ機器を用いて水中不分離性コンクリート等の水中での使用に適した充填材料を順次打設し、水中トンネル等の構造物を構築する施工方法も一般的に用いられている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-303096号公報
【文献】特開2005-330718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
その一方で、上記の水中における構造物の施工方法においては、水圧により止水構造物に生じる大きな応力や矢板継手部からの漏水に対応するため、鋼管矢板等の大掛かりな止水構造物やケーソン等の大規模な構造物を必要とすることから、作業効率の低下による工期の長期化や工費の高騰等につながるという課題がある。
また、構造物の沈設精度の管理の際に、水中にある現場へ潜行し精度管理にあたる潜水士が必要となる場合があるが、潜水士の労働単価は高価であり、かつ、潜水士の数が減少傾向にあることから、人員確保が今後難化するという課題もある。また、水中という特殊な施工現場に直接人を投入するという点において、施工現場の諸所の条件(水中の透明度、流速、水温等)によって工期、コスト、安全面での効率低下を受け、工費が高額になるという課題もある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、大規模な止水構造物や沈設構造物および潜水士の現場への潜行を要することなく、水中で高精度に構造物を施工することができ、水中施工する構造物の施工費用の削減および工期の短縮が可能となる、水中における構造物の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る水中における構造物の施工方法は、移動可能な吐出部から連続的に柔性の水硬性混合物を吐出する機構を備えた付加製造装置の前記吐出部から吐出された前記水硬性混合物を積層させることにより、水中で構造物を形成する、水中における構造物の施工方法であって、前記付加製造装置は、水上に設けられ、前記水硬性混合物を貯留するホッパーと、前記ホッパーに接続して水上に設けられ、前記ホッパーから前記水硬性混合物を供給可能なポンプと、前記ポンプに設けられ、前記ポンプの駆動を制御するコントローラと、前記ポンプに一方の端部が接続され、前記ポンプから供給された前記水硬性混合物を配送可能なホースと、前記ホースの他方の端部に接続され、前記ホースを介して配送された前記水硬性混合物を吐出するノズルと、前記ノズルに設けられ、前記水硬性混合物の吐出量を制御する電磁弁と、を備え、前記ホースは、前記構造物の施工位置の水底面に到達する十分な長さを有する水中における構造物の施工システムを用いた水中における構造物の施工方法であって、前記構造物の施工位置の周囲を該周囲の水深以上の高さを有する矢板部材によって締め切って矢板止水構造体を形成し、前記付加製造装置の前記ノズルから吐出された前記水硬性混合物を前記矢板部材の前記構造物が設けられる側の面に接着させて水底面から積層させて積層壁を形成し、前記矢板部材と前記積層壁とが、一体となった合成壁を形成する。
また、本発明に係る水中における構造物の施工方法は、前記付加製造装置の前記ノズルから吐出された前記水硬性混合物を前記合成壁により包囲された前記水底面に積層させて積層底版を形成し、前記合成壁と前記積層底版とが、一体となった合成止水構造体を形成し、前記合成止水構造体の内部に形成された函内水中部に前記構造物を施工してもよい。
【0009】
上記の構成を有することで、矢板止水構造体を形成する矢板部材と積層壁とが一体となった合成壁と積層底版とを形成し、合成止水構造体として一体化することにより、曲げ耐力と剛性を大幅に向上させることが可能となる。そのため、水圧や潮流等の外力に対して、強固に支持することが可能となる。
また、簡易な構成で合成止水構造体と函内水中部が形成されることにより、鋼管矢板等の大掛かりな止水構造体やケーソン等の大規模な沈設構造物を要することなく、水中に継手のない積層壁で一体化された漏水がなく止水性能に優れた構造物を施工することが可能となる。そのため、水中に施工する構造物の施工費用の削減および工期の短縮が可能となる。
【0010】
また、本発明に係る水中における構造物の施工方法において、前記函内水中部に、水中不分離性コンクリートを前記函内水中部に貯留されている水と前記水中不分離性コンクリートとを入れ替えながら、前記積層底版の上面から上方へ打設して函内充填構造体を形成し、前記合成止水構造体と前記函内充填構造体とが一体となり、前記構造物を構築してもよい。
【0011】
上記の構成を有することで、合成止水構造体を形成してから時間を掛けずに函内水中部に水硬性混合物を打設することが可能となる。また、潜水士の現場への潜行を要することなく水中に構造物を施工することが可能となる。そのため、水中における構造物の施工費用の削減および工期の短縮が可能となる。
【0012】
また、本発明に係る水中における構造物の施工方法において、前記合成止水構造体を形成後、前記函内水中部に貯留されている水を完全に排水して函内空隙部を形成し、前記函内空隙部に、気中で供用可能な建設材料を打設し、前記構造物を構築してもよい。
【0013】
上記の構成を有することで、合成止水構造体の内部に函内空隙部が形成されることにより、水中で施工していた構造物を大気中で施工することが可能となる。そのため、施工する構造物の品質管理を容易に行うことが可能となる。また、大気中で施工を行うことが可能であるため、施工する構造物の形状や施工法を自由に選択することが可能となる。
【0014】
また、本発明に係る水中における構造物の施工方法において、前記矢板部材は、前記積層壁が設けられる側の面にスタッドおよび凹凸溝の少なくとも一方が形成されてもよい。
【0015】
上記の構成を有することで、鋼矢板と積層壁との付着力を高めることが可能となり、より強固な合成止水構造体を形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、大規模な止水構造物や沈設構造物および潜水士の現場への潜行を要することなく、水中に構造物を施工することが可能となり、水中における構造物の施工費用の削減および工期の短縮が可能となる、水中における構造物の施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態による水中における構造物の施工方法の一例における鋼矢板止水構造体の斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態による水中における構造物の施工方法の一例における積層構造体の施工状況を示す
図1のA方向から見た一部矢視図と
図1のB‐B′線に沿う一部断面図である。
【
図4】本発明の実施形態による水中における構造物の施工方法の一例における合成止水構造体の斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態による水中における構造物の施工方法の一例における充填構造体の施工状況を示す
図4のC方向から見た一部矢視図と
図4のD‐D′線に沿う一部断面図である。
【
図6】本発明の実施形態による水中における構造物の施工方法の一例における水中構造物の斜視図である。
【
図8】本発明の実施形態の変形例における合成止水構造体を示す。なお、(a)は、
図4のD‐D′線に沿う変形例の断面図を示す。(b)は、(a)のF方向から見た上面視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態による水中における構造物の施工システムおよび水中における構造物の施工方法について、
図1乃至
図8に基づいて説明する。本実施形態において水中に施工する構造物は、海底地盤面B.W.の所定の位置に設けられる。
【0019】
図1および
図2に示すように、本実施形態による水中における構造物の施工方法においては、先ず、水中に施工する構造物の施工位置の周囲に該周囲の海水Wの水深以上の高さを有する複数の鋼矢板11(矢板部材)を海底地盤U.W.G.に海水Wの水圧や潮力等の外力により転倒しない打設深さで打設し、該施工位置を締め切る。
鋼矢板11により該施工位置を締め切った後、隣り合う鋼矢板11、11間を隙間なく接合して周囲の海水Wから締め切ることで、鋼矢板止水構造体1(矢板止水構造体)を構築する。鋼矢板11の種類によっては打設時に接合部が施工されるものもあり、その場合は改めて接合する必要はない。
【0020】
本実施形態において鋼矢板止水構造体1は、鋼矢板11が海表面W.L.より上方にある空中部1a、鋼矢板11が海水W中にある水中部1b、鋼矢板11が海底地盤U.W.G.に打設されている地中部1cから構成される。なお、水中に施工する構造物が海表面W.L.より下方に設けられる場合は、鋼矢板止水構造体1に空中部1aが構成されなくてもよい。
【0021】
図2に示すように、鋼矢板11の外形形状は海底地盤U.W.G.に打設する方向に偏長な板状部材である。また、鋼矢板11は、海水Wの水圧や潮力等の外力に対して一定の強度を有する。例えば、海水Wの水圧や潮力等の外力により海底地盤U.W.G.に打設した鋼矢板11に座屈が生じない強度を有する。材質は例えば、鋼材が用いられる。
【0022】
また、隣り合う鋼矢板11、11の接合方法は、接合された鋼矢板11、11間から大きな浸水がなければ、接合方法は問わない。例えば、隣り合う鋼矢板11、11のそれぞれの一部を隙間なく重ね合わせ、ボルト等の固定金具で接合してもよい。また、隣り合う鋼矢板11、11は、接合のための加工がなされていてもよい。
【0023】
また、
図1に示すように、本実施形態における鋼矢板止水構造体1の外形形状は、矩形筒形状を形成している。なお、鋼矢板止水構造体1の外形形状は、水中に施工する構造物が十分に施工可能な鋼矢板止水構造体水底部12を形成し、海水Wの水圧や潮力等の外力により破壊されない強度を有していれば、外形形状は問わない。例えば、鋼矢板止水構造体1を水圧による鋼矢板11の座屈を考慮した円筒形状や楕円筒形状、波型や鋼矢板止水構造体1の内部を向く方向に複数の矩形形状が形成されたリブ型(デッキプレート形状)に形成してもよい。
また、鋼矢板11は、鋼矢板止水構造体1により該施工範囲が締め切られていれば、本実施形態に限らない。例えば、鋼管矢板を用いて該施工範囲を締め切ってもよい。
【0024】
次に、本実施形態による水中における構造物の施工方法を説明するにあたって、構造物の施工システムについて
図3に基づいて説明する。
図3に示すように、本実施形態における水中における構造物の施工システム2(以下、施工システム2と省略する。)は、水上を移動可能な積載船舶28に連続的に水硬性混合物21を吐出する機構を備えた付加製造装置20を有する。施工システム2は、吐出された水硬性混合物21を水中部1bで積層させることにより、水中で構造物を形成する。
また、付加製造装置20は、水硬性混合物21を移動可能に連続的に吐出する機構として、ホッパー22と、ポンプ23と、コントローラ24と、ホース25と、ノズル26(吐出部)と、電磁弁27と、を有する。
【0025】
ホッパー22は、積載船舶28に設けられ、多量の水硬性混合物21を所定の品質が保持される時間内で一時的に貯留することが可能である。ホッパー22の外形形状は、水硬性混合物21を投入する側の口が広い漏斗形状となっている。なお、ホッパー22の外形形状は、水硬性混合物21を一時的に貯留でき、ホース25に供給できるのであれば、本実施形態の外形形状に限らない。例えば、上面が空いた矩形筒形状としてもよい。
【0026】
ポンプ23は、ホッパー22の下流側に接続されている。また、ポンプ23は、ポンプ23に設けられたコントローラ24によってポンプ23の駆動を制御することで、ホッパー22から供給される水硬性混合物21の供給量を調整可能である。
【0027】
ホース25は、ポンプ23に一方の端部が接続され、ポンプ23から供給された水硬性混合物21を配送可能に配されている。また、ホース25は、内部が空洞な筒形状を有し、水中に施工する構造物の施工位置の海底地盤面B.W.(鋼矢板止水構造体水底部12)に到達する十分な長さを有する。ホース25は弾性材料で形成されている。材質は、例えばゴム材が用いられる。上記の構成により、ホース25は、ホース25の長さを考慮した範囲で移動可能であり、ホース25の弾性を考慮した範囲で変形可能である。
【0028】
ノズル26は、ホース25の他方の端部に接続されている。ノズル26は、ホース25を介して配送された水硬性混合物21を連続的に吐出し、水硬性混合物21の吐出量は電磁弁27により制御される。また、ノズル26は、接続されているホース25の長さを考慮した範囲で移動可能であり、接続されているホース25の弾性を考慮した範囲で吐出方向自在である。
【0029】
なお、付加製造装置20は、付加製造装置20により水中に施工する構造物の施工位置の海底地盤面B.W.から水硬性混合物21を連続して吐出可能であれば、本実施形態の設置構成に限らない。例えば、台船等の他の浮体構造物に設けられてもよいし、施工現場が陸地から近く、ホース25が陸地から水中に施工する構造物の施工位置の海底地盤面B.W.に到達可能である場合は、陸上の沿岸部に設けられてもよい。
【0030】
また、付加製造装置20は、ホース25への水硬性混合物21の供給量を調整する機構が設けられていれば、本実施形態の限りではない。例えば、ホッパー22とホース25とが接続され、水硬性混合物21を配送可能な緩やかな傾斜を設けた配送路を設け、ポンプ23およびコントローラ24を代替する機構として配送路とホース25の接続部に手動または自動で開閉可能な弁を設け、ホース25への水硬性混合物21の供給量を調整する機構を設けてもよい。
【0031】
なお、水硬性混合物21は、吐出時に水中で成型し易い柔らかさを有するとともに、水中で拡散し難い特性を有する。例えば水中不分離性コンクリートや水中で供用可能な種々のセメント系材料(例えば、セメントペースト、モルタル)が用いられる。
また、水硬性混合物21は、積層時に所定の品質が確保されているのであれば、製造方法は限定されない。例えば、予め陸上で製造されたものを別の船舶で運搬して積載船舶28の近傍に停泊させ、ホッパー22に移送してもよいし、積載船舶28に水硬性混合物21を製造する機構を設け、積載船舶28上で水硬性混合物21を製造してホッパー22に投入してもよい。
また、水中において所望の構造物が施工可能であれば、水硬性混合物21の積層方法は問わない。例えば、水硬性混合物21をノズル26から押し出して積層してもよいし、水硬性混合物21を鋼矢板11の構造物を施工する側の面に吹き付けて積層してもよい。
【0032】
また、ホース25は、ホース25が構造物を施工する位置の海底地盤面B.W.に到達する十分な長さを有し、水硬性混合物21が配送途中でホース25から漏出せずに配送可能であれば、ホース25の長さを調整する機構を設けてもよい。例えば、ホース25が複数のセグメントを隙間なく繋ぎ合わせることにより構成され、繋ぎ合わせるセグメントの数によりホース25の長さを調整し、水硬性混合物21の吐出場所の水深によってホースの長さを調整可能な機構を設けてもよい。
【0033】
また、ホース25は、ホース25やノズル26、積載船舶28が海水Wの潮流や波浪によって遊動することにより、ノズル26の吐出位置が定まりにくければ、ホース25の位置を制御する機構を設けてもよい。例えば、ホース25に海水Wの潮流や波浪によって遊動せず、海上風によっても遊動しない等の揺れに対して所定の作業性を有する陸上で遠隔操作可能なロボットアームを設けてもよいし、積載船舶28に門型フレームを設け、水硬性混合物21を吐出する位置へホース25を下ろしてもよい。
【0034】
また、ホース25やノズル26、積載船舶28が海水Wの潮流や波浪によって遊動することにより、ノズル26の吐出位置が定まりにくければ、ホース25およびノズル26の少なくともいずれか一方に移動を制御する機構を設けてもよい。例えば、陸上で遠隔操作が可能な水中ドローンや水中カメラを設けて水硬性混合物21を吐出する位置を制御してもよい。
【0035】
施工システム2を用いて合成止水構造体4を施工する方法について説明する。
図3および
図4に示すように、ノズル26から連続的に吐出された水硬性混合物21を、鋼矢板止水構造体1を構成する鋼矢板11の構造物を施工する側の面に接着させて海底地盤面B.W.から水中部1bと空中部1aとの境界まで積層させ、積層壁31を形成する。また、同様に水硬性混合物21を鋼矢板止水構造体水底部12に積層させ、積層底版32を形成する。なお、形成された積層壁31と積層底版32とは、積層壁31の下端と積層底版32の周縁部とで接合され、積層構造体3を形成する。
【0036】
鋼矢板11と積層壁31とは、一体となって合成壁41を形成し、合成壁41と積層底版32とが一体となった合成止水構造体4が形成される。また、合成止水構造体4により締め切られた水中部1bは函内水中部43として形成される。積層壁31に包囲された積層底版32の上面は、合成止水構造体水底面42として形成される。このようにすると、合成止水構造体4の内部の海水Wを抜いた際、合成壁41の鋼矢板11側から水圧が作用して生じる曲げ応力に対し、鋼矢板11が引張りで積層壁31が圧縮で抵抗する構造形式となり、合成壁41は耐力と剛性が大幅に増大した構造体となる。また、積層壁31は圧縮状態となるためひび割れが生じにくく、漏水のおそれがない止水性能が高い構造となる。
また、鋼矢板11は、水硬性混合物21との付着を高めて積層壁31と一体化するために水硬性混合物21と接する面にスタッドや凹凸溝を設けておくことが望ましい。
【0037】
なお、積層壁31は、水硬性混合物21を鋼矢板11の構造物を施工する側の面の反対側の面に接着させて海底地盤面B.W.から水中部1bと空中部1aとの境界まで積層させて積層壁31を形成してもよい。このようにすると、鋼矢板11の防錆効果が高められる。
また、合成止水構造体4は、上記により形成された2つの積層壁31,31と2つの積層壁31,31に挟まれた鋼矢板11とが、一体となって形成されてもよい。
【0038】
施工システム2を用いて水中に構造物を施工する方法について説明する。
図5に示すように、水上を移動可能な積載船舶56に水中不分離性コンクリート51を材料不分離の状態で打設可能な機構を備えた打設装置5を設けた構成を有する。打設装置5は、水中不分離性コンクリート51を材料不分離の状態で打設する機構として、ホッパー52と、ポンプ53と、ホース54と、トレミー管55とを有する。なお、水中不分離性コンクリート51は、静水中で自由落下させても分離しにくく、優れた流動性で自重により狭い間隙へ充填される性能を有する。
【0039】
なお、ホッパー52およびポンプ53は、付加製造装置20を構成するホッパー22、ポンプ23と同等の機構および機能を有する。
また、ホース54は、一方の端部がポンプ53に接続され、他方の端部が下向きに吐出口が設けられ、ポンプ53から配送された水中不分離性コンクリート51を吐出可能に形成されている。ホース54の材質は、ホース25と同等でもよい。また、ホース54は、形状や配置が固定されて設けられてもよい。例えば、断面形状(配送断面)が常に円筒形状に固定されていてもよい。
【0040】
トレミー管55は、合成止水構造体水底面42に近接可能な長さを有し、水中不分離性コンクリート51を配送可能な内部空洞を有する管部材として設けられる。また、トレミー管55は、一方の端部にホース54の吐出口から吐出される水中不分離性コンクリート51を受配して函内水中部43に供給する供給口が設けられ、合成止水構造体水底面42に近接する他方の端部に吐出口が形成されている。
【0041】
図5乃至
図7に示すように、トレミー管55を介して水中不分離性コンクリート51を合成止水構造体水底面42から充填して打設し、函内水中部43に貯留されている海水Wを水中不分離性コンクリート51に入れ替えることで、函内充填構造体6を形成し、函内充填構造体6は合成止水構造体4と一体となって、水中基礎構造物7(水中構造物)を構築する。
なお、水中基礎構造物7が所望の機能を有するのであれば、本実施形態の構成に限らない。例えば、函内水中部43にソイルモルタル、砂利等の土砂を充填し水中基礎構造物7を形成してもよい。
【0042】
なお、トレミー管55を介して水中不分離性コンクリート51を打設する際は、トレミー管55の先端が常に打設された水中不分離性コンクリート51中にある状態で少しずつ引き上げながら打設することで材料分離を防止する。また、トレミー管55は、水中不分離性コンクリート51を合成止水構造体水底面42から充填可能であれば、本実施形態の構成に限らない。例えば、2本以上のトレミー管を用いる、1本のトレミー管を途中で分岐させる等により水中不分離性コンクリート51の打設場所を複数設けてもよい。
【0043】
次に、上述した本実施形態による水中における構造物の施工システムおよび水中における構造物の施工方法の作用・効果について説明する。
【0044】
先ず、
図3に示すように、水上を移動可能な積載船舶28に水硬性混合物21を移動可能に連続的に吐出する機構として、ホッパー22と、ポンプ23と、コントローラ24と、ホース25と、ノズル26と、電磁弁27と、を有し、ホース25は付加製造装置20を設けた施工システム2を用いることによって、所望の位置(鋼矢板止水構造体水底部12)に水硬性混合物21を水中で積層させることができ、水中で構造物を構築することが可能となる。
【0045】
図1乃至
図4に示すように、付加製造装置20によって吐出する水硬性混合物21を、矢板止水構造体1を形成する鋼矢板11の構造物を施工する側の面に接着させて海底地盤面B.W.から水中部1bと空中部1aとの境界まで積層させ、積層壁31を形成する。また、同様に水硬性混合物21を鋼矢板止水構造体水底部12に積層させ、積層底版32を形成する。鋼矢板止水構造体1と積層壁31とが、一体となって合成壁41が形成され、合成壁41と積層底版32とが、一体となって合成止水構造体4が形成される。また、合成止水構造体4により締め切られた水中部1bは函内水中部43として形成される。
【0046】
図5乃至
図7に示すように、本実施形態による合成止水構造体4により締め切られている函内水中部43に打設装置5を用いて水中不分離性コンクリート51を合成止水構造体水底面42から充填して打設し、函内水中部43に貯留されている海水Wを水中不分離性コンクリート51に入れ替えることで、函内充填構造体6を形成し、函内充填構造体6は合成止水構造体4と一体となって、水中基礎構造物7(水中構造物)を構築する。
【0047】
上記の施工システムを用いることで、ホース25を水中に施工する構造物の施工位置の海底地盤面B.W.(鋼矢板止水構造体水底部12)に到達させることが可能となり、水底面に到達したホース25の端部に接続されたノズル26から水硬性混合物21を吐出させ、積層させることが可能となる。そのため、付加製造装置20を用いることにより、水中で構造物を構築することが可能となる。
【0048】
また、上記の施工方法を用いることで、合成止水構造体4を形成することにより、曲げ耐力と剛性を大幅に向上させた止水構造体とすることが可能となる。そのため、海水Wによる水圧や潮流等の外力に対して、漏水することなく、より強固に支持することが可能となる。
また、簡易な構成で合成止水構造体4と函内水中部43とが形成されることにより、鋼管矢板等の大掛かりな止水構造体やケーソン等の大規模な沈設構造物を要せず水中に構造物を施工することが可能となる。そのため、水中に施工する構造物の施工費用の削減および工期の短縮が可能となる。
【0049】
また、上記の施工方法を用いることで、合成止水構造体4を形成してから時間を掛けずに函内水中部43に水中不分離性コンクリート51を打設することが可能となる。また、潜水士による現場作業を要することなく水中に構造物を施工することが可能となる。そのため、水中における構造物の施工費用の削減および工期の短縮が可能となる。
【0050】
以上、本発明による水中における構造物の施工システムの実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0051】
例えば、本実施形態の変形例として、合成止水構造体4が形成された後に函内水中部43に貯留されている海水Wを完全に排水して函内空隙部を形成し、函内空隙部に気中で供用可能な建設材料を打設し、構造物を施工する方法が挙げられる。
なお、函内水中部43に貯留されている海水Wを排水することで合成止水構造体4には合成止水構造体4の外側から大きな水圧による応力が作用するが、合成壁41を形成することで耐力と剛性を大幅に増大させているため、合成壁41に大きな変形を生じることなく安全に施工できる。
【0052】
上記の施工方法を用いることで、合成止水構造体4の内部に函内空隙部が形成されることにより、先の例において水中で施工していた構造物を大気中で施工することが可能となる。そのため、構造物の品質の管理を容易に行うことが可能となる。
【0053】
また、大気中で施工を行うことが可能であるため、施工する構造物の形状や施工法を自由に選択することが可能となる。例えば、函内空隙部に鉄筋を配する等して構造物をさらに補強させてもよい。また、函内空隙部に施工する構造物の型枠を製作して水中コンクリートを打設する等して充填構造物以外の形状の構造物や複雑な形状の構造物を構築し、合成止水構造体と一体化させることで合成構造物を構築してもよい。
【0054】
なお、函内水中部43に貯留されている海水Wを完全に排水し、函内空隙部に建設材料を充填して水中基礎構造物7を構築する施工する際は、函内水中部43に水中不分離性コンクリート51を打設する施工方法とは異なる施工条件がある。
例えば、函内空隙部に充填する建設材料については、空気中で所望の強度が得られる養生が可能であり、水中でも供用が可能な建設材料であることが挙げられる。また、合成止水構造体4については、例えば、施工現場の環境の変化と函内空隙部内の作業安全性(例えば、函内空隙部内に海水Wが越波、越流しない)が考慮された高さであることが挙げられる。
【0055】
また、本実施形態のその他の変形例として、
図8に示すように、鋼矢板止水構造体1の内部に鋼矢板11の構造物が設けられる側の面に接合された支保工部材8を設ける方法が挙げられる。
例えば、鋼矢板止水構造体1の構造物が設けられる側の面において、支保工部材8を任意の対向する一対の鋼矢板11,11に突っ張らせた状態で接合して設ける。この構成の鋼矢板止水構造体1に対して鋼矢板11に接着させて積層壁31を形成すると、鋼矢板11と積層壁31と支保工部材8とが一体となり、合成止水構造体4が形成される。そのため、鋼矢板止水構造体1に簡易な構成を付加することにより、曲げ耐力と剛性をより向上させた合成止水構造体4を形成することが可能となる。また、支保工部材8が鋼矢板止水構造体水底部12に接着させて設けられると、鋼矢板11と積層壁31と積層底版32と支保工部材8とが一体となり、合成止水構造体4を形成するため、合成止水構造体4の曲げ耐力と剛性をさらに向上させることが可能となる。
【0056】
なお、上記の支保工部材8は、合成止水構造体4の曲げ耐力と剛性を向上させるのであれば、外形形状や構成は限定されない。例えば、
図8に示すように、鉄鋼製の板状形状を有する支保工部材8が鋼矢板止水構造体1の内部で十字の形状を形成して、対向する複数の鋼矢板11に接合され、鋼矢板止水構造体水底部12に接着されて設けられてもよい。また、支保工部材8が鋼矢板止水構造体1の内部で放射形状を形成して設けられてもよい。
【0057】
また、本実施形態では、海水W中において構造物を施工する方法を説明したが、本発明による構造物の施工システムおよび施工方法は、淡水中の河川や湖や池においても適用することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 鋼矢板止水構造体(矢板止水構造体)
1a 空中部
1b 水中部
1c 地中部
11 鋼矢板(矢板部材)
12 鋼矢板止水構造体水底部(矢板止水構造体水底部)
2 水中における構造物の施工システム
20 付加製造装置
21 水硬性混合物
22,52 ホッパー
23,53 ポンプ
24 コントローラ
25,54 ホース
26 ノズル(吐出部)
27 電磁弁
28,56 積載船舶
3 積層構造体
31 積層壁
32 積層底版
4 合成止水構造体
41 合成壁
42 合成止水構造体水底面
43 函内水中部
5 打設装置
51 水中不分離性コンクリート
55 トレミー管
6 函内充填構造体
7 水中基礎構造物(水中構造物)
8 支保工部材
W 海水
W.L. 海表面
B.W. 海底地盤面
U.W.G. 海底地盤