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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】細胞製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20241203BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20241203BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20241203BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20241203BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20241203BHJP
   A61K 35/32 20150101ALI20241203BHJP
   A61K 35/33 20150101ALI20241203BHJP
   A61K 35/34 20150101ALI20241203BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20241203BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20241203BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20241203BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20241203BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20241203BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20241203BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20241203BHJP
【FI】
A61K35/28
C12N5/071
C12N5/074
C12N5/0735
A61K35/30
A61K35/32
A61K35/33
A61K35/34
A61P1/16
A61P7/00
A61P9/10 101
A61P9/04
A61P1/00
A61P17/00
A61P19/00
A61P19/02
A61P19/10
A61P25/00
A61P25/16
A61P27/02
A61P29/00 101
A61P35/00
A61P37/06
A61K9/00
A61K47/36
A61K47/26
A61K47/18
A61K47/02
A61K35/545
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021043728
(22)【出願日】2021-03-17
(65)【公開番号】P2022020549
(43)【公開日】2022-02-01
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2020124063
(32)【優先日】2020-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田畑 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】古田 瑛理
(72)【発明者】
【氏名】駒田 行哉
(72)【発明者】
【氏名】水野 克秀
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第92/021234(WO,A1)
【文献】特開2017-048306(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110159(WO,A1)
【文献】特開2020-130163(JP,A)
【文献】国際公開第2018/084228(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/208053(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/166711(WO,A1)
【文献】Fuller BJ,Cryo Letters,2004年,Vol.25 No.6,p.375-388
【文献】Int J Pharmaceu.,2018年,Vol.548,p.206-216
【文献】氏平 政伸,凍結による生体組織レベルの細胞膜損傷の評価と保湿剤による損傷低減効果,科学研究費研究報告書,2011年,https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENH I-PROJECT-20560197/20560197seika.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3000より大きく、500000以下である粘度平均分子量を有し、ヒアルロン酸もしくはプルランからなる高分子またはその塩と、
3000以下の粘度平均分子量を有するヒアルロン酸またはその塩と、
細胞と、
薬学的に許容可能な担体と
を含み、ジメチルスルホキシドを含まず、凍結保存および解凍される細胞製剤。
【請求項2】
前記薬学的に許容可能な担体が、緩衝剤、安定剤および等張化剤から選ばれる少なくとも1種以上である請求項1記載の細胞製剤。
【請求項3】
前記薬学的に許容可能な担体が、等張化剤および緩衝剤を含む請求項2記載の細胞製剤。
【請求項4】
前記細胞製剤が、さらに、アミノ酸を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞製剤。
【請求項5】
前記等張化剤が、無機塩類を含む請求項2~4のいずれか1項に記載の細胞製剤。
【請求項6】
前記無機塩類が、塩化物である請求項5に記載の細胞製剤。
【請求項7】
前記緩衝剤が、リン酸塩または重炭酸塩である請求項2~6のいずれか1項に記載の細胞製剤。
【請求項8】
前記アミノ酸が、プロリンである請求項4~7のいずれか1項に記載の細胞製剤。
【請求項9】
前記細胞製剤が、さらにタンパク質活性剤を含む請求項1~8のいずれか1項に記載の細胞製剤。
【請求項10】
前記タンパク質活性剤が、マグネシウム塩またはカルシウム塩である請求項9に記載の細胞製剤。
【請求項11】
前記細胞製剤中の前記高分子の濃度が、5w/v%以上、20w/v%以下である請求項1~10のいずれか1項に記載の細胞製剤。
【請求項12】
前記細胞製剤中の前記3000以下の粘度平均分子量を有するヒアルロン酸の濃度が、0.1w/v%以上、10w/v%以下である請求項1~11のいずれか1項に記載の細胞製剤。
【請求項13】
前記細胞製剤が、細胞シートまたはシート状細胞培養物の形態である請求項1~12のいずれかに記載の細胞製剤。
【請求項14】
前記細胞が、幹細胞または幹細胞由来の細胞である請求項1~13のいずれか1項に記載の細胞製剤。
【請求項15】
前記細胞が、幹細胞、間葉系幹細胞、Muse細胞、ES細胞、iPS細胞、毛乳頭細胞、毛包幹細胞、皮脂腺幹細胞、神経幹細胞、嗅神経鞘細胞、骨髄間葉細胞、歯髄細胞、シュワン細胞、神経前駆細胞、ドパミン神経前駆細胞、角膜実質細胞、角膜内皮細胞、角膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、筋芽細胞、心筋細胞、ネフロン前駆細胞、分化腎細胞、腎臓幹細胞、肝細胞、肝前駆細胞、大腸上皮幹細胞、大腸吸収系上皮細胞、大腸分泌系上皮細胞、DFAT細胞、血管内皮細胞、血管周皮細胞、平滑筋細胞、骨髄単核球細胞、軟骨芽細胞、培養軟骨、表皮細胞、表皮幹細胞、皮膚線維芽細胞、歯髄(幹)細胞、エナメル芽細胞、歯根膜幹細胞、骨芽細胞、破骨細胞、樹状細胞(活性化)、単核球細胞、T細胞、CAR-T細胞、γδT細胞、NK細胞、CAR-NK細胞、造血幹細胞、血小板、血漿、または赤血球である請求項1~14のいずれか1項に記載の細胞製剤。
【請求項16】
前記細胞シートが、角膜上皮シート、網膜色素シート、心筋細胞シート、肝細胞シート、表皮シート、軟骨シート、骨膜シートまたは幹細胞シートである請求項13記載の細胞製剤。
【請求項17】
神経障害、皮膚欠損、脳血管障害、脊髄損傷、脳外傷、中枢神経疾患、パーキンソン病、角膜障害、スティーブンスジョンソン症候群、眼類天疱瘡、角膜化学傷・熱傷、瘢痕性角結膜上皮症、水疱性角膜症、感染性角膜炎、角膜ジストロフィ、網膜視神経障害、角膜上皮幹細胞疲弊症、肝障害、高アンモニア血症、虚血性心疾患、心不全、血小板減少症、閉塞性動脈硬化症、火傷、創傷、軟骨損傷、骨髄移植の際の合併症、再生不良貧血、代謝性肝疾患、大腸炎、閉塞性動脈硬化症、虚血、末梢動脈疾患、非動脈硬化症、骨系統疾患、変形性関節症、骨腫瘍、骨壊死、下肢虚血疾患、ガン、リウマチ、骨粗しょう症、または筋ジストロフィーの治療および/または予防用である請求項1~16のいずれかに記載の細胞製剤。
【請求項18】
骨髄内、静脈内、筋肉内、腹腔内、眼内、または脳内に投与される請求項1~17のいずれかに記載の細胞製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の再生医療研究の飛躍的な発展に伴い、細胞治療などの再生医療が積極的に行われている。このような再生医療や再生医療研究には、多能性幹細胞胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、体性幹細胞、体細胞等の細胞由来の細胞・組織加工製品である再生医療等製品が用いられる。
【0003】
細胞・組織加工製品は、生きた目的細胞を含み、この目的細胞が有する多様な特徴により薬効を示す。薬効や安全性などにおいて同じ規格である細胞の安定的な供給が求められてきている。
【0004】
目的細胞は通常、大量培養され、その後、任意には製剤化等の過程を経るなどして、凍結保存されて利用される。しかしながら、凍結保存した細胞株に関して、解凍後に不均一性または不十分な生存率をもたらすことがある。これは、細胞の凍結保存メカニズムにおいて、凍結および/または解凍の過程で細胞内に氷結晶が成長するなどして、細胞の細胞膜や細胞内構造が損傷を受けたり、細胞のタンパク質が変性したりして細胞が致命的なダメージを受けてしまうためであることが知られている。したがって、細胞を凍結保存する際には、細胞内凍結を防ぐことが重要であり、通常、細胞の凍結保存には、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセリン、プロピレングリコールなどの低分子化合物が細胞内浸透型の凍結保護試薬として、培養培地などの緩衝液に加えることにより用いられている(特許文献1)。このうち、DMSOが最もよく用いられており、細胞や細胞小器官を保護する効果は良好である。しかしながら、DMSOは、細胞への浸透性が高く(非特許文献1)、DMSOを凍結保護試薬とし、これをそのまま細胞製剤の生理担体溶液として使用すると人体への影響が懸念される。
【0005】
そこで、特許文献2にあるように、所定の方法で製造したトロンビン血清と多血小板血漿(PRP)組成物または血小板濃厚液組成物とを混合し、さらに一以上の細胞抽出物、細胞組成物、リン酸三カルシウム(TCP)、骨代用材、キトサン、ヒアルロン酸、クリーム、クリームマスク、脂肪細胞、脂肪組織、骨髄濃縮物、ラブリシン、cd-ゼラチン、ボツリヌス毒素、グルコン酸カルシウムおよび/もしくは幹細胞を混合する細胞製剤の調製方法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭63-216476号公報
【文献】特開2019-206594号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】REJUVENATION RESEARCH Volume 18 Number 5 (2015): 422-436, Mary Ann Liebert, Inc.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2の細胞製剤は、凍結保存時に細胞の生存率が低く、実用的ではなかった。
【0009】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたもので、凍結保存の際、凍結から融解までの過程で細胞が保護されており、融解後の細胞が高い細胞生存率を示し、かつ融解後の細胞の品質が適切に維持されている細胞製剤を提供する。特には、ジメチルスルホキシド(DMSO)、プロピレングリコール(PG)、エチレングリコール(EG)等の化学物質を基本的に使用せず、また、血清や血清由来タンパク質を基本的に添加せずとも、凍結状態でおよび融解に対して細胞が保護されている細胞製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、3000より大きく、500000以下である粘度平均分子量を有する高分子であって、親水性基を有するモノマーを繰り返し単位として含む高分子またはその塩と、3000以下の粘度平均分子量を有する糖類またはその塩と、細胞と、薬学的に許容可能な担体とを含む、細胞製剤に関する。高分子または糖類の塩は、金属塩、ハロゲン塩または硫酸塩が望ましい。金属塩としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩が望ましい。アルカリ金属またはアルカリ土類金属としてはナトリウム、カリウム、カルシウムなどが選択される。ハロゲンとしては、塩素、臭素などを使用できる。
【0011】
本明細書において、薬学的に許容可能な担体とは、細胞を生存可能な状態で保持するための固体または液体であって、その浸透圧やpHを、細胞が生存可能な組成、濃度に調製したものをいう。
【0012】
薬学的に許容可能な担体は、緩衝剤、安定剤および等張化剤から選ばれる少なくとも1種以上が望ましい。
【0013】
本発明においては、3000より大きく、500000以下である粘度平均分子量を有する高分子であって、親水性基を有するモノマーを繰り返し単位として含む高分子またはその塩が、主成分として、そして、3000以下の粘度平均分子量を有する糖類またはその塩が、副成分として細胞製剤に含まれていることが望ましい。本明細書において、主成分とは、細胞製剤中に溶解している成分の中で、重量比の最も高い成分をいう。主成分以外の、細胞製剤中に溶解している成分は副成分である。
【0014】
本発明において使用される親水性基を有するモノマーを繰り返し単位として含む高分子は、その親水性基が修飾されていないか、修飾されていてもその親水性基の全数の50%以下であることが望ましい。高分子中の親水性基が、細胞製剤中の細胞の保護および溶媒のガラス化、分子量3000以下の糖と細胞周辺の水との置換に関与していると推定され、親水性基が修飾されることで、疎水化されてしまうと、細胞への凍結保存効果が低下してしまうからである。従って、主成分としてカルボキシポリアミノ酸のような疎水化した高分子は除かれることが望ましい。
【0015】
また、本発明の細胞製剤は、細胞内浸透型の凍結保護物質であるジメチルスルホキシドを含まないことが望ましい。また、本発明の細胞製剤は、プロピレングリコールおよびエチレングリコールなどの細胞毒性のある凍結保護剤は含まない方が望ましい。これらは、融解後の細胞にとって有害だからである。
【0016】
本発明においては、高分子またはその塩の粘度平均分子量は、400000以下、特に200000以下であることが望ましい。粘度を低く調整でき、細胞製剤として取扱いやすいからである。
【0017】
本発明の薬学的に許容可能な担体が、等張化剤および緩衝剤を含んでいることが好ましい。
【0018】
本発明の細胞製剤が、さらに、アミノ酸を含んでいることが好ましい。
【0019】
本発明の細胞製剤が、さらに、単糖類を含んでいることが好ましい。ここでいう単糖類は、「3000以下の粘度平均分子量を有する糖類またはその塩」でいう糖類とは異なるものである。
【0020】
本発明の高分子の親水性基を有するモノマーが、ヒドロキシル基ならびにカルボン酸基およびその塩からなる群より選択される少なくとも一つである親水性基を有するモノマーである細胞製剤が好ましい。
【0021】
高分子がさらに、置換されていてもよいアミノ基または置換されていてもよいアミド基を有する窒素含有モノマーを繰り返し単位として含む細胞製剤が好ましい。
【0022】
高分子が、前記親水性基を有するモノマーと前記窒素含有モノマーとの交互共重合体である細胞製剤が好ましい。
【0023】
親水性基を有するモノマーが、エクアトリアル位に置換したヒドロキシル基を有するモノマーである細胞製剤が好ましい。
【0024】
5000以上の粘度平均分子量を有する高分子またはその塩を含む細胞製剤が好ましい。
【0025】
高分子が、複数の糖残基を含む高分子である細胞製剤が好ましい。
【0026】
糖類が、単糖類、二糖類、またはオリゴ糖である細胞製剤が好ましい。
【0027】
糖類が、グルコース、フルクトース、ガラクトースまたはそれらのアルコール基が酸化したウロン酸もしくはアルコール基がアミノ基で置換されたアミノ糖、スクロース、グリコサミノグリカンの切断生成物、グリコサミノグリカンの構成単糖、または、それらの重合体もしくは組み合わせである細胞製剤が好ましい。
【0028】
糖類が、グルクロン酸またはN-アセチルグルコサミンである細胞製剤が好ましい。
【0029】
等張化剤が、無機塩類である細胞製剤が好ましい。等張化剤としては、カリウム塩、ナトリウム塩またはカルシウム塩やD-ソルビトール、D-マンニトールなどであることが望ましい。
【0030】
無機塩類が、塩化物である細胞製剤が好ましい。
【0031】
緩衝剤が、リン酸塩または重炭酸塩である細胞製剤が好ましい。
【0032】
アミノ酸が、プロリンである細胞製剤が好ましい。
【0033】
単糖類が、グルコースである細胞製剤が好ましい。
【0034】
タンパク質活性剤をさらに含む細胞製剤が好ましい。
【0035】
タンパク質活性剤が、マグネシウム塩またはカルシウム塩である細胞製剤が好ましい。
【0036】
細胞製剤中の高分子またはその塩の濃度が、5w/v%以上、20w/v%以下である細胞製剤が好ましい。
【0037】
細胞製剤中の糖類またはその塩の濃度が、0.1w/v%以上、10w/v%以下である細胞製剤が好ましい。
【0038】
本発明の細胞製剤は、細胞シートまたはシート状細胞培養物の形態である細胞製剤であってもよい。
【0039】
本発明の細胞製剤は、凍結状態であってもよい。
【0040】
凍結状態にある細胞製剤が、解凍に引き続いて回収された前記細胞が、少なくとも80%の生存率を前記凍結状態時点で有する、複数の凍結保存細胞を含んでなることが好ましい。
【0041】
本発明の細胞製剤中の細胞が、幹細胞または幹細胞由来の細胞である細胞製剤が好ましい。また、細胞は、遺伝子編集細胞であってもよく、その編集手法は、アデノ随伴ウイルスベクターやクリスパーCas9など、通常用いられる手法が用いられてよい。
【0042】
細胞が、幹細胞、間葉系幹細胞、Muse細胞、ES細胞、iPS細胞、毛乳頭細胞、毛包幹細胞、皮脂腺幹細胞、神経幹細胞、嗅神経鞘細胞、骨髄間葉細胞、歯髄細胞、シュワン細胞、神経前駆細胞、ドパミン神経前駆細胞、角膜実質細胞、角膜内皮細胞、角膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、筋芽細胞、心筋細胞、ネフロン前駆細胞、分化腎細胞、腎臓幹細胞、肝細胞、肝前駆細胞、大腸上皮幹細胞、大腸吸収系上皮細胞、大腸分泌系上皮細胞、DFAT細胞、血管内皮細胞、血管周皮細胞、平滑筋細胞、骨髄単核球細胞、軟骨芽細胞、培養軟骨、表皮細胞、表皮幹細胞、皮膚線維芽細胞、歯髄(幹)細胞、エナメル芽細胞、歯根膜幹細胞、骨芽細胞、破骨細胞、樹状細胞(活性化)、単核球細胞、T細胞、CAR-T細胞、γδT細胞、NK細胞、CAR-NK細胞、造血幹細胞、血小板、血漿、または赤血球である細胞製剤が好ましい。なお、一般には、血小板、血漿、赤血球は、細胞成分に分類されるが、本発明の明細書では、細胞として定義する。
【0043】
細胞シートが、角膜上皮シート、網膜色素シート、心筋細胞シート、肝細胞シート、表皮シート、軟骨シートまたは骨膜シートや間葉系幹細胞などの幹細胞シートである細胞製剤が好ましい。
【0044】
細胞製剤が、神経障害、皮膚欠損、脳血管障害、脊髄損傷、脳外傷、中枢神経疾患、パーキンソン病、角膜障害、スティーブンスジョンソン症候群、眼類天疱瘡、角膜化学傷・熱傷、瘢痕性角結膜上皮症、水疱性角膜症、感染性角膜炎、角膜ジストロフィ、網膜視神経障害、角膜上皮幹細胞疲弊症、肝障害、高アンモニア血症、虚血性心疾患、心不全、血小板減少症、閉塞性動脈硬化症、火傷、創傷、軟骨損傷、骨髄移植の際の合併症、再生不良貧血、代謝性肝疾患、大腸炎、閉塞性動脈硬化症、虚血、末梢動脈疾患、非動脈硬化症、骨系統疾患、変形性関節症、骨腫瘍、骨壊死、下肢虚血疾患、ガン、リウマチ、骨粗しょう症、または筋ジストロフィーの治療および/または予防用である細胞製剤であることが好ましい。
【0045】
細胞製剤が、骨髄内、静脈内、筋肉内、腹腔内、眼内、または脳内に投与される細胞製剤であることが好ましい。
【0046】
また、本発明は、神経障害、皮膚欠損、脳血管障害、脊髄損傷、脳外傷、中枢神経疾患、パーキンソン病、角膜障害、スティーブンスジョンソン症候群、眼類天疱瘡、角膜化学傷・熱傷、瘢痕性角結膜上皮症、水疱性角膜症、感染性角膜炎、角膜ジストロフィ、網膜視神経障害、角膜上皮幹細胞疲弊症、肝障害、高アンモニア血症、虚血性心疾患、心不全、血小板減少症、閉塞性動脈硬化症、火傷、創傷、軟骨損傷、骨髄移植の際の合併症、再生不良貧血、代謝性肝疾患、大腸炎、閉塞性動脈硬化症、虚血、末梢動脈疾患、非動脈硬化症、骨系統疾患、変形性関節症、骨腫瘍、骨壊死、下肢虚血疾患、ガン、リウマチ、骨粗しょう症、および筋ジストロフィーからなる群より選択される疾患の患者に対して、本発明の細胞製剤を治療上有効量、投与するステップを含む治療法に関する。
【0047】
また、本発明は、3000より大きく、500000以下である粘度平均分子量を有する高分子であって、親水性基を有するモノマーを繰り返し単位として含む高分子またはその塩と、3000以下の粘度平均分子量を有する糖類またはその塩と、薬学的に許容可能な担体とを含む、細胞を保存するための溶液に関する。
【0048】
本発明の細胞を保存するための溶液が、さらに、アミノ酸を含むことが好ましい。
【0049】
本発明の細胞を保存するための溶液が、さらに、単糖類を含むことが好ましい。
【0050】
また、本発明は、3000より大きく、500000以下である粘度平均分子量を有する高分子であって、親水性基を有するモノマーを繰り返し単位として含む高分子またはその塩と、3000以下の粘度平均分子量を有する糖類またはその塩と、薬学的に許容可能な担体とを含む溶液の、細胞を保存するための使用に関する。
【0051】
細胞が、幹細胞、間葉系幹細胞、Muse細胞、ES細胞、iPS細胞、毛乳頭細胞、毛包幹細胞、皮脂腺幹細胞、神経幹細胞、嗅神経鞘細胞、骨髄間葉細胞、歯髄細胞、シュワン細胞、神経前駆細胞、ドパミン神経前駆細胞、角膜実質細胞、角膜内皮細胞、角膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、筋芽細胞、心筋細胞、ネフロン前駆細胞、分化腎細胞、腎臓幹細胞、肝細胞、肝前駆細胞、大腸上皮幹細胞、大腸吸収系上皮細胞、大腸分泌系上皮細胞、DFAT細胞、血管内皮細胞、血管周皮細胞、平滑筋細胞、骨髄単核球細胞、軟骨芽細胞、培養軟骨、表皮細胞、表皮幹細胞、皮膚線維芽細胞、歯髄(幹)細胞、エナメル芽細胞、歯根膜幹細胞、骨芽細胞、破骨細胞、樹状細胞(活性化)、単核球細胞、T細胞、CAR-T細胞、γδT細胞、NK細胞、CAR-NK細胞、造血幹細胞、血小板、血漿、または赤血球である使用が好ましい。
【0052】
本発明によれば、細胞内浸透型の凍結保護物質であるDMSOやエチレングリコールなどの細胞毒性を有する化合物を用いなくても、細胞製剤が、安全に、細胞の性状を変えてしまうことなく保存され得る。
【0053】
また、本発明の細胞製剤は、血清、血清由来タンパク質を必須としないため、細菌やウイルスに汚染されることもなく、またロット間格差など問題も生じない。なお、細菌やウイルスに汚染されていないようなタンパク質を添加することは可能である。また、細胞毒性を有する化学物質を細胞製剤中の細胞の機能を損なわない程度の低濃度で含むことは可能である。
【0054】
なお、本発明において使用される高分子または糖類の「粘度平均分子量」とは、以下のような方法と計算式とによって求められる。
【0055】
極限粘度測定:
(1)所定量のNaClを30℃のイオン交換水に溶解させ、0.2MのNaCl溶液(標準液)を調製する。
(2)高分子または糖類の試料を30℃の標準液に溶解させ、原液を調製する。標準液および原液それぞれの粘度を測定し、標準液に対する原液の相対粘度が2.0~2.4となるように調整する。
(3)30℃の原液を、30℃の標準液を用いて5/4、5/3、5/2倍となるようにそれぞれ希釈する。
(4)30℃の標準液、原液および希釈液の粘度をそれぞれ測定する。粘度測定には、E型粘度計を用いる。
(5)原液および希釈液それぞれの粘度を標準液の粘度で割ったものを相対粘度(ηr)とし、下式に基づき還元粘度を導出する。
ここで、ηsp:高分子または糖類の還元粘度[mL/g]、ηr:高分子または糖類の相対粘度[-]、C:高分子または糖類の濃度[g/mL]である。
(6)高分子または糖類の濃度と、高分子または糖類の還元粘度との関係をそれぞれプロットし、近似直線を引く。近似直線の切片(高分子または糖類濃度=0)の値を極限粘度とする。
【0056】
粘度平均分子量:
粘度平均分子量は、極限粘度から算出する。
上記のマークホーイング桜田の式に、測定で導出した極限粘度と、文献等で公開されているKとαの値から粘度平均分子量Mを求める。
【0057】
Kおよびαは高分子の種類によって変動する数値であり、例えば「高分子材料便覧」(社団法人高分子学会編)など多数の公開文献にKとαの値が開示されており、公表されている値を用いて粘度平均分子量の計算を行うことができる。
【0058】
例えば、ヒアルロン酸の場合、K=3.6×10-4およびα=0.78であり、プルランおよびゼラチンの場合、K=9×10-4、α=0.5であり、デキストランの場合、K=6.3×10-8、α=1.4、コンドロイチン硫酸の場合、K=5.8×10-4、α=0.74である。
【0059】
単糖や二糖、単分子と考えられる化合物の場合は、構造式から分子量が明確に特定されるため、本発明においては、構造式から特定される分子量を粘度平均分子量として擬制して扱う。
【発明の効果】
【0060】
本発明の細胞製剤では、製剤中に含まれる粘度平均分子量3000を超え、500000以下である高分子成分により、凍結状態において、細胞製剤の溶媒部分での氷晶の生成が防止されてガラス化される。これにより、細胞製剤中の細胞の、氷晶形成による破裂が抑制され得る。さらに、本発明の細胞製剤は、粘度平均分子量3000以下の低分子量の糖類を含むため、細胞の、溶媒との境界組織近傍の水分子が糖類の分子と置換され、この結果、細胞膜付近の氷晶形成および成長も阻害され得る。これにより、凍結状態の細胞に対する細胞膜障害も抑制され得る。本発明の細胞製剤では、従来達成することのできなかった、細胞内非浸透型の凍結保存剤による高い凍結保存効果が得られるため、細胞製剤の凍結・融解の過程において細胞製剤中の生きた細胞へのダメージや品質の変化が防止され得る。したがって、本発明の細胞製剤によれば、細胞製剤が安心かつ安全に保存され得る。
【0061】
また、本発明の細胞製剤は、DMSOやエチレングリコールなどの細胞内浸透型の化学物質、および血清や血清由来タンパク質を含まないため、凍結・融解後の細胞製剤の直接投与が可能である。
【0062】
本発明の細胞製剤は、-27℃以下で、すなわちディープフリーザー中などで長期間安定に保存することができる。凍結保存温度の範囲としては、-27℃以下であれば限定されるものではないが、上限として、望ましくは、-70℃以下、好ましくは-80℃以下である。また下限として、望ましくは、-196℃以上、好ましくは-150℃以上である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1】RPE細胞を含む本発明の細胞製剤の凍結保存・融解後の細胞の細胞生存率を示す図である。
図2】RPE細胞を含む本発明の細胞製剤の凍結保存・融解後の細胞の培養時観察像を示す図である。
図3】イヌ骨髄由来の正常イヌ間葉系幹細胞を含む本発明の細胞製剤の凍結保存・融解後の細胞の細胞生存率を示す図である。
図4】イヌ骨髄由来の正常イヌ間葉系幹細胞を含む本発明の細胞製剤の凍結保存・融解後の細胞の培養時観察像を示す図である。
図5A】イヌ骨髄由来の正常イヌ間葉系幹細胞を含む本発明の細胞製剤の凍結保存・融解後の細胞の骨細胞への分化を示す図である。
図5B】イヌ骨髄由来の正常イヌ間葉系幹細胞を含む本発明の細胞製剤の凍結保存・融解後の細胞の脂肪細胞への分化を示す図である。
図5C】イヌ骨髄由来の正常イヌ間葉系幹細胞を含む本発明の細胞製剤の凍結保存・融解後の細胞の軟骨細胞への分化を示す図である。
図6A】イヌ骨髄由来の正常イヌ間葉系幹細胞を含む本発明の細胞製剤の凍結保存・融解後の細胞のHGFの産生量を示す図である。
図6B】イヌ骨髄由来の正常イヌ間葉系幹細胞を含む本発明の細胞製剤の凍結保存・融解後の細胞のIL-10の産生量を示す図である。
図7】イヌ脂肪組織由来の正常イヌ間葉系幹細胞を含む本発明の細胞製剤の凍結保存・融解後の細胞のCD抗原発現解析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
本発明の細胞製剤は、3000より大きく、500000以下である粘度平均分子量を有する高分子またはその塩と、3000以下である粘度平均分子量を有する糖類またはその塩と、細胞と、薬学的に許容可能な担体とを含む。そして、本発明の細胞製剤に含まれる高分子は親水性基を有するモノマーを繰り返し単位として含む高分子である。本発明の細胞製剤は、親水性基を有するモノマーを繰り返し単位として含み、3000より大きく、500000以下である粘度平均分子量を有する高分子またはその塩と、3000以下である粘度平均分子量を有する糖類またはその塩との混合物を凍結保存剤として含む細胞製剤である。
【0065】
本発明で使用される高分子またはその塩の粘度平均分子量は、400000以下、特に200000以下であることが望ましい。粘度を低く調整でき、細胞製剤として取扱いやすいからである。
【0066】
なお、本発明において使用される高分子または糖類の「粘度平均分子量」とは、以下のような方法と計算式とから算出される値を意味する。
【0067】
以下に極限粘度の測定方法および極限粘度を用いた粘度平均分子量の計算方法を記載する。
極限粘度測定:
(1)所定量のNaClを30℃のイオン交換水に溶解させ、0.2MのNaCl溶液(標準液)を調製する。
(2)高分子または糖類の試料を30℃の標準液に溶解させ、原液を調製する。高分子または糖類の試料が溶液で入手される場合は、溶液から溶媒を除去した固形分を高分子または糖類の試料とする。高分子および糖類の混合試料、複数の高分子を含む混合試料または複数の糖類を含む混合試料の場合は、各物質を分離、分画した後、各物質から溶媒を除去したものを高分子または糖類の試料とする。また、高分子および/または糖類が未知の場合は、高分子および/または糖類についてHPLC、LC-MSやLC-IR等で物質を同定する。未知の高分子および/または糖類を複数含む場合は、各成分を分離、分画し、それぞれの高分子および/または糖類についてHPLC、LC-MSやLC-IR等で物質を同定し、後述するように粘度平均分子量を計算する。なお、高分子や糖類に不純物が混じった混合物であっても、粘度に影響がなければ(例えば、金属塩のような不純物)、混合物を高分子または糖類の試料とする。また、粘度平均分子量の計算に影響がある不純物を含む場合は、不純物を除去するか、高分子や糖類を分画した後測定する。標準液および原液それぞれの粘度を測定し、標準液に対する原液の相対粘度が2.0~2.4となるように調整する。
(3)30℃の原液を、30℃の標準液を用いて5/4、5/3、5/2倍となるようにそれぞれ希釈する。
(4)30℃の標準液、原液および希釈液の粘度をそれぞれ測定する。粘度測定には、E型粘度計を用いる。
(5)原液および希釈液それぞれの粘度を標準液の粘度で割ったものを相対粘度(ηr)とし、下式に基づき還元粘度を導出する。
ここで、ηsp:高分子または糖類の還元粘度[mL/g]、ηr:高分子または糖類の相対粘度[-]、C:高分子または糖類の濃度[g/mL]である。
(6)高分子または糖類の濃度と、高分子または糖類の還元粘度との関係をそれぞれプロットし、近似直線を引く。近似直線の切片(高分子または糖類濃度=0)の値を極限粘度とする。
粘度平均分子量:
粘度平均分子量は、極限粘度から算出する。
上記のマークホーイング桜田の式に、測定で導出した極限粘度と、文献等で公開されているKとαの値から粘度平均分子量Mを求める。例えばヒアルロン酸の場合は、K=3.6×10-4およびα=0.78を代入して、粘度平均分子量Mを求める。
【0068】
Kおよびαは高分子の種類によって変動する数値であり、例えば「高分子材料便覧」(社団法人高分子学会編)など多数の公開文献にKとαの値が開示されており、公表されている値を用いて粘度平均分子量の計算を行う。
【0069】
本発明では、この方法で算定された分子量を粘度平均分子量とする。なお、スクロースやグルクロン酸のような単糖や二糖、単分子と考えられる化合物の場合は、構造式から分子量が明確に特定されるため、構造式から特定される分子量を粘度平均分子量として擬制して扱う。
【0070】
本発明の細胞製剤によれば、細胞の性状を適切に維持しながら細胞の生存率を低下させることなく、細胞製剤を凍結保存できる。本発明の細胞製剤は、所定の分子量を有しかつ親水性基を多数もつ高分子を含み、この高分子が凍結への冷却過程において親水性基を含む高分子鎖を形成し、細胞製剤中の溶媒の水分子を高分子鎖マトリックス内にトラップする。トラップされた水分子の分子運動が制限されることにより、細胞製剤が冷却される際、水が結晶化されずにガラス化状態で固化および/または凍結され得る。通常、ガラス化法と呼ばれる凍結方法は、溶液が凍結する際に溶質(凍害を防止するための凍結保護剤)が結晶から排除されることにより残存溶液中の塩濃度が上昇し、細胞内外で浸透圧差が生じることにより細胞内を脱水し細胞内部をガラス化するという方法であり、融解後の生存率が特に低い細胞に適用される。このような方法では、水をよりガラス化しやすくするために、溶質(凍結保護剤)の濃度を高めることや、冷却速度を大きくすることが行われる。しかしながら、浸透圧差を大きくすると細胞へのダメージも大きくなってしまう問題や、溶解時に再結晶化が起こり細胞がダメージを受けてしまうという問題が知られてきた。また、手技的にも困難が伴う。
【0071】
本発明の細胞製剤によれば、細胞製剤に含まれる高分子によって形成される高分子鎖の作用により細胞内が脱水されてガラス化されるので、細胞内での氷晶の形成が抑制され、さらに、従来のガラス化法での問題である凍結時の細胞における浸透圧ショックを弱めることができる。
【0072】
さらに、この高分子の粘度平均分子量が、3000を超え、500000以下であることにより、細胞製剤が凍結された状態における非晶質であるガラス状態が安定化される。このため、細胞製剤を凍結しても細胞製剤中の細胞はダメージを受けにくく、細胞が安定に効率よく凍結保存され得る。このため、凍結保存していた本発明の細胞製剤を解凍した後の、融解された細胞の生存率は高く維持されている。高分子の粘度平均分子量が3000以下であると、ガラス化が良好に起こりにくい場合がある。また、高分子の粘度平均分子量が500000より大きいと、粘度が著しく上昇し、また、溶解度が低下したり、製剤時に泡立ちが起こったりしてハンドリング性が悪化するという問題が生じ得る。本発明の細胞製剤中の高分子の粘度平均分子量は例えば、5000以上が好ましい。また、400000以下、さらには200000以下の粘度平均分子量が好ましく、150000以下が特に好ましい。粘度を低く調整でき、細胞製剤の取扱いが容易であると考えられる。
【0073】
本発明の細胞製剤に含まれる高分子は、親水基を有するモノマーを繰り返し単位として含む重合体である。親水性基は、例えば、ヒドロキシル基ならびにカルボン酸基およびその塩である。また、本発明の細胞製剤に含まれる高分子は、置換されていてもよいアミノ基または置換されていてもよいアミド基を有する窒素含有モノマーを繰り返し単位として含んでいてもよい。さらに、本発明の細胞製剤に含まれる高分子は、その構造内にエクアトリアル位のヒドロキシル基を有していることが好ましい。これにより、溶媒の水を凍結時により良好に高分子鎖で形成されるマトリックス内にトラップすることができると考えられる。
【0074】
親水基を有するモノマーは例えば、糖残基である。この場合、本発明の細胞製剤に含まれる高分子は、糖残基が繰り返し単位としてグリコシド結合により結合したものおよびこれらの誘導体を含む高分子であり得る。糖残基としては、単糖、または、単糖のヒドロキシル基および/またはヒドロキシメチル基が置換された単糖、例えば、ヒドロキシル基および/またはヒドロキシメチル基が、カルボキシル基、アミノ基、N-アセチルアミノ基、スルホオキシ基、メトキシカルボニル基およびカルボキシメチル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基で置換された単糖などが例示されるがこれらに限定はされない。
【0075】
単糖としては、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソースおよびヘプトース等が挙げられる。例えば、ペントースとしては、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、キシルロース、リブロース、デオキシリボースなどが挙げられる。ヘキソースとしては、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、タガトース、フコース、フクロース、ラムノースなどが挙げられる。
【0076】
例えば、カルボキシル基で置換された単糖としては、ウロン酸などが挙げられる。ウロン酸としては、例えば、グルクロン酸、イズロン酸、マンヌロン酸およびガラクツロン酸などが挙げられる。アミノ基で置換された単糖としては、アミノ糖などが挙げられる。アミノ糖としては、例えば、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミンおよびムラミン酸などが挙げられる。N-アセチルアミノ基で置換された単糖としては、例えば、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルマンノサミン、N-アセチルガラクトサミンおよびN-アセチルムラミン酸などが挙げられる。スルホオキシ基で置換された単糖としては、ガラクトース-3-硫酸などが挙げられる。また複数の置換基をもつ単糖としては、例えば、N-アセチルグルコサミン-4-硫酸、イズロン酸-2-硫酸、グルクロン酸-2-硫酸、N-アセチルガラクトサミン-4-硫酸、ノイラミン酸およびN-アセチルノイラミン酸などが挙げられる。
【0077】
例えば、本発明の細胞製剤において使用される高分子は、上記に例示されたような単糖類を繰り返し単位として含む高分子である。例えば、本発明の細胞製剤に含まれる高分子は、置換されていてもよいペントース、ヘキソースもしくはウロン酸またはそれらの組合せを繰り返し単位として含む高分子であり得る。また、本発明の細胞製剤に含まれる高分子は、親水性基を有するモノマーと窒素含有モノマーとの交互共重合体であってもよい。窒素含有モノマーは例えばアミノ糖であってもよい。この場合、例えば、本発明の細胞製剤に含まれる高分子は、グリコサミノグリカンであり得る。また、1つ以上のヒドロキシル基がスルホオキシ基で置換された、硫酸化多糖類であってもよい。これらに限定されるわけではないが、本発明の細胞製剤に含まれる高分子としては、例えば、ヒアルロン酸、デキストラン、プルラン、またはコンドロイチン硫酸などが挙げられる。
【0078】
本発明の細胞製剤に使用される高分子は、天然由来のものであってもよく、また、化学的に合成したものを用いてもよい。市販の高分子をそのまま使用してもよい。分子量がより大きな天然由来の高分子化合物や市販の高分子化合物を用いて、加水分解や酵素処理、亜臨界処理等の処理に付してその切断生成物を得、分子量の調整をして本発明の細胞製剤のための高分子としてもよい。また、各モノマーも、天然由来のものであってもよく、天然由来のモノマーを修飾・置換して用いてもよく、また、化学合成されたものでもよい。例えば、好ましくは、本発明の細胞製剤のための高分子に含まれるモノマーは生体構成成分である。高分子自体が細胞製剤中の細胞に対して悪影響を及ぼすおそれが低いと考えられ、また、細胞製剤を直接投与に付すことができると考えられる。
【0079】
本発明の細胞製剤に使用される高分子の親水性基は、修飾されていないか、修飾されていても親水性基の全数の50%以下、すなわち、高分子鎖に置換基が導入されていないか、導入されていても親水性基の全数の50%以下であることが望ましい。高分子の親水性基、特にOH基、NH2基、COOH基が細胞の保護および溶媒のガラス化、糖と細胞周辺の水との置換に寄与していると推定されるため、これらの官能基が修飾されていない方が細胞の生存率向上に有利だからである。さらに、高分子の親水性基を修飾する際に使用される試薬などにより、高分子の凍結保護効果に悪影響を与えたり、さらには、細胞製剤が再生医療目的の細胞・組織加工製品として使用できなくなったりする恐れがある。
【0080】
また、高分子の親水性基は、低分子量の糖類を水素結合により保持できると考えられ、低分子量の糖類が保持された高分子が細胞製剤中の細胞の周りに存在することで、細胞膜近傍の水分子と糖類の置換が促進できると推定される。このため、親水性基が修飾されていると、親水性基の低分子量の糖類の保持効果が低下してしまい、低分子量の糖類が共存していても、細胞の生存率向上に十分寄与できなくなってしまう。この点から、例えば、OH基やNH2基をカルボン酸などで修飾することは好ましくない。
【0081】
本発明の細胞製剤に含まれる高分子または糖類の塩は、多糖類の金属塩、ハロゲン塩または硫酸塩であってもよい。金属塩としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩が望ましい。アルカリ金属またはアルカリ土類金属としてはナトリウム、カリウム、カルシウムなどが選択される。ハロゲンとしては、塩素、臭素などを使用できる。塩類は、溶媒の凝固点を降下させ、これにより溶媒のガラス化に寄与するものと考えられる。
【0082】
本発明の細胞製剤は、3000以下の粘度平均分子量を有する糖類またはその塩を含む。細胞製剤が、高分子と共にこのような小さな分子量を有する糖類を含んでいると、細胞製剤中の細胞の細胞膜付近の水分子が糖類によって置換されて、細胞膜付近の氷晶形成および成長が抑制され、その結果、細胞膜障害が顕著に抑制され得る。すなわち、本発明の細胞製剤に使用される糖類またはその塩は、細胞保護のための成分として機能し得る。本発明の細胞製剤に含まれる糖類は例えば、分子量が3000以下、好ましくは2000以下、さらに好ましくは1000以下である、単糖類、二糖類、またはオリゴ糖などであり得る。
【0083】
糖類は、例えば、高分子を構成するモノマーとして上記に例示される単糖類であってもよい。例えば、糖類は、グルコース、フルクトース、ガラクトースまたはそれらのアルコール基が酸化したウロン酸もしくはアルコール基がアミノ基で置換されたアミノ糖、スクロース、トレハロース、または、それらの重合体または組み合わせである。また、糖類は、例えば、本発明の細胞製剤のために使用される高分子、例えばヒアルロン酸、デキストラン、プルラン、またはコンドロイチン硫酸などの断片であってもよい。本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、糖類は、例えば、グリコサミノグリカンの切断生成物(断片)すなわちグリコサミノグリカンを構成している単糖、その二糖、またはそのオリゴ糖であり得る。
【0084】
好ましくは、糖類は、ヒアルロン酸の切断生成物である。したがって、好ましくは、本発明の細胞製剤のために使用される糖類は、グルクロン酸もしくはN-アセチルグルコサミン、または、それらからなる二糖もしくはオリゴ糖である。好ましくは、糖類は、グルクロン酸もしくはその修飾化合物、またはその二糖もしくはオリゴ糖であり得る。
【0085】
本発明において用いられる「切断生成物」とは、高分子に対して加水分解や酵素処理、亜臨界処理等の処理を行った際に得られると考えられる、元の高分子より小さな分子量をもつ化合物を意味する。本発明の細胞製剤に使用される高分子は、上述のように、より大きな高分子化合物の処理により得られる、3000より大きく、500000以下である粘度平均分子量を有する高分子であってもよく、本発明の細胞製剤に使用される糖類は、本発明の細胞製剤に使用される高分子の処理により得られる、3000以下の粘度平均分子量を有する糖類であってもよい。切断生成物は、元の高分子の構成成分であるモノマーおよび/またはモノマーの種々の重合度の重合体および/またはそれらの混合物であり得る。
【0086】
「亜臨界処理」とは、所定の温度および所定の圧力の条件下で亜臨界状態にした抽出溶媒としての亜臨界流体と、抽出対象の原料とを接触させることを意味する。例えば、水は、圧力22.12MPa以上および温度374.15℃以上まで上げると液体でも気体でもない状態を示す。この点を水の臨界点といい、臨界点より低い近傍の温度および圧力の熱水を亜臨界水という。この亜臨界水の加水分解作用を用いて、抽出対象の原料から所望の成分を得ることができる。本発明において亜臨界処理する場合の条件としては、例えば、150℃以上、350℃以下の温度であり、亜臨界処理圧力は、各温度の飽和蒸気圧以上とすることができるが例えば、0.5MPa以上、25MPa以下とすることができる。亜臨界処理後、所定の分子量以下である成分が分離回収され、本発明における切断生成物として使用され得る。また、加水分解や酵素処理としても、特に限定されず、通常用いられるような試薬および処理方法が問題なく用いられ得る。
【0087】
本発明における所定の分子量を有する高分子および糖類は、一度の亜臨界処理によって同時に得られるものであってもよい。すなわち、本発明の細胞製剤における高分子および糖類は、粘度平均分子量として3000より大きく、500000以下である分子量範囲に第1の分子量分布を有し、粘度平均分子量として3000以下の分子量の範囲に第2の分子量分布を有するような、高分子化合物の亜臨界処理物であってもよい。したがって、例えば、本発明の細胞製剤の製造方法は、粘度平均分子量として500000を超える分子量を有する多糖類である高分子を水に溶解させた後、水の亜臨界条件下で抽出処理を行うことによって、本発明の細胞製剤のための高分子および糖類を得る工程を含んでいてもよい。しかしながら、もちろん、本発明の細胞製剤のための高分子および糖類は、別々の処理工程で処理および/または分子量に基づいて分離されたものを組み合わせたものであってもよい。
【0088】
本発明の細胞製剤は、高分子またはその塩を1w/v%以上、50w/v%以下程度の濃度で含む。5w/v%よりも低い濃度であると、細胞製剤の溶媒部分を良好にガラス化することができない場合がある。また、20w/v%より高い濃度では、粘度が高くなりすぎて、細胞製剤のハンドリング性が悪化するおそれがある。例えば、高分子またはその塩の濃度は、5w/v%以上が好ましく、10w/v%以上が特に好ましい。また、高分子またはその塩の濃度は、50w/v%以下であることが好ましく、20w/v%以下が特に好ましい。好ましくは、高分子またはその塩の濃度は、5w/v%以上、20w/v%以下である。
【0089】
本発明における細胞製剤中の糖類またはその塩の濃度は、0.1w/v%以上、10w/v量%以下程度である。すなわち、本発明における高分子と糖類との割合が約10:1程度であることが好ましい。糖類またはその塩の濃度が0.1w/v%未満であると本発明の効果が十分得られない場合がある。一方、糖類を10w/v%以上の濃度となるように添加しても、細胞保護成分としてのさらなる効果は得られにくい。
【0090】
本発明の細胞製剤の細胞としては、特に限定されない。本発明の細胞製剤において凍結保護剤として機能し得る、所定の分子量を有する高分子および糖類は、細胞内非浸透型の凍結保護剤であるため、種々の細胞に対してその機能性を維持しながら、かつ高い生存率での凍結保護作用を提供し得る。したがって、本発明の細胞製剤は、種々の細胞を用いて調整されたのち、性能試験等を経た後に保存しておくことが可能である。したがって、本発明の細胞製剤によれば、必要とされる時に即時に細胞製剤を提供することが可能となる。本発明の所定の分子量を有する高分子および糖類を含む、様々な細胞のための細胞製剤が製剤化され、良好に凍結保存され、そして融解後に投与されて各種細胞治療に用いられ得る。本発明の細胞製剤を用いれば、薬効や安全性などが同じ規格の細胞を、安全性を担保しながら低コストで安定的に供給することができると考えられる。本発明の細胞製剤では、細胞の凍結および融解時において、氷晶形成および再結晶が効果的に抑制されるため、本発明の細胞製剤は、例えば複雑な構造をもつ哺乳動物細胞等のための細胞製剤として特に好適である。
【0091】
本発明の細胞製剤は、再生医療等製品として使用され得る。したがって、好ましくは、これらに限定されるわけではないが、本発明の細胞製剤の細胞は、例えば胚性幹細胞(ES細胞)もしくは人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの万能性幹細胞、または体性幹細胞、組織幹細胞、成体幹細胞などの幹細胞、または幹細胞由来の細胞である。本発明の細胞製剤によれば、幹細胞は幹細胞としての性状を維持しながら製剤化され得る。したがって、再生医療用途の幹細胞であっても、分化のリスク等を伴うことなしに製剤化され、再生医療等製品とされ得る。
【0092】
本発明の細胞製剤の細胞は生体より採取された細胞であってもよく、また、体外でこれらの細胞を培養して得られた細胞や細胞株が使用されてもよい。拡大培養して得られる同ロットの細胞を小分けしたものを用いると、安定して同様の作用効果が得られるという点から好ましいことがある。また、細胞は、適宜、凍結保存および融解を繰り返した細胞であってもよい。また、細胞の由来種も特に問わない。異種由来細胞であっても同種由来細胞であってもよい。本発明の細胞製剤は、任意の動物種由来の細胞を用いて調整され得る。例えば、細胞製剤が投与される任意の生物に由来していてもよい。このような生物としては例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、げっ歯目動物、ウサギなどが例示される。また、本発明の細胞製剤の細胞は、自己由来細胞(自家細胞ともいう)であってもよく、または非自己由来細胞(他家細胞ともいう)であってもよい。したがって、本発明の細胞製剤は、Off-the-shelf細胞製剤としても製剤化され得る。なお、具体的な細胞についての例は後述されるが、本発明の細胞製剤の細胞は、これらに限定されるわけではない。
【0093】
本発明の細胞製剤に含まれる細胞は、例えば、種々組織から得られる間葉系幹細胞であってもよい。例えば、骨髄由来、臍帯由来、臍帯血由来、子宮内膜由来、胎盤由来、羊膜由来、絨毛膜由来、脱落膜由来、真皮由来、歯小嚢由来、歯根膜由来、歯髄由来、歯胚由来、脂肪組織由来、血管(周囲)由来、骨格筋由来、または滑膜由来等の間葉系幹細胞が挙げられ得る。本発明の細胞はまた、造血幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞、骨格筋幹細胞、上皮幹細胞、表皮幹細胞、網膜幹細胞、または脂肪幹細胞などであってもよい。
【0094】
さらに、本発明の細胞製剤に含まれる細胞は、例えば、間葉系幹細胞から分化能を有する細胞として分離されるMuse細胞、生体より採取した体性幹細胞や成熟細胞をリプログラミングやゲノム編集、活性化などにより編集した細胞、例えば線維芽細胞に遺伝子を導入して肝細胞へ誘導したiHep細胞、成熟肝細胞に低分子化合物を添加することで増殖可能な肝前駆細胞へリプログラミングしたClipなど、であってもよい。
【0095】
また、本発明の細胞製剤の細胞種は、種々の組織由来の細胞であり得る。例えば、毛髪、神経、角膜、網膜、筋肉、心臓、腎臓、肝臓、胃、腸、血管、軟骨、皮膚、または歯などの組織由来の細胞が好適に用いられる。
【0096】
例えば、本発明の細胞製剤における好適な細胞の例としては、毛乳頭細胞、毛包幹細胞、皮脂腺幹細胞、神経幹細胞、嗅神経鞘細胞、骨髄間葉細胞、歯髄細胞、シュワン細胞、神経前駆細胞、ドパミン神経前駆細胞、角膜実質細胞、角膜内皮細胞、角膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、網膜神経節細胞、筋芽細胞、ネフロン前駆細胞、分化腎細胞、腎臓幹細胞、肝細胞、肝前駆細胞、大腸上皮幹細胞、大腸吸収系上皮細胞、大腸分泌系上皮細胞、成熟脂肪細胞、DFAT細胞、血管内皮細胞、血管周皮細胞、毛細血管幹細胞、心筋細胞、心筋芽細胞、平滑筋細胞、末梢血単核球細胞、骨髄単核球細胞、皮膚線維芽細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞、培養軟骨細胞、培養軟骨、表皮幹細胞、表皮細胞、真皮幹細胞、歯髄(幹)細胞、歯根膜幹細胞、歯小嚢幹細胞、歯乳頭幹細胞、象牙芽細胞、エナメル芽細胞、骨芽細胞、骨細胞、骨格筋芽細胞、破骨細胞、樹状細胞(活性化)、単核球細胞、CAR-T細胞(キメラ抗原受容体T細胞)、γδT細胞などのT細胞、CAR-NK細胞などのNK細胞、造血幹細胞、血小板、血漿、赤血球、活性化リンパ球、またはランゲルハンス細胞などが挙げられる。
【0097】
また、本発明の細胞製剤に含まれる細胞は、培養してシート状の組織とされた細胞シートまたはシート状細胞培養物の形態であってもよい。細胞シートまたはシート状細胞培養物を構成する細胞としては、例えば、上記に例示される細胞が挙げられ、細胞シートとしては、特には、筋芽細胞シート、心筋細胞シート、角膜上皮シート、角膜内皮シート、網膜色素シート、網膜シート、肝細胞シート、培養皮膚シート、培養表皮シート、軟骨シート、骨膜シートまたは幹細胞シートなどが挙げられる。細胞シートは、上記に例示される細胞と支持細胞との2層構造などを有する複合細胞シートであってもよい。
【0098】
本発明の細胞製剤は、種々の疾患治療に有用であり、例えば、病気やけがで損なわれた臓器を修復する再生医療、細胞補充療法、心・血管再生医療、がん免疫療法および細胞療法、神経再生療法、T細胞輸注療法例えば任意には遺伝子導入された細胞の細胞輸注療法などに利用され得る。本発明の細胞製剤により処置され得る疾患としては、限定されずに、例えば、神経障害、皮膚欠損、表皮融解性魚鱗症、脳梗塞を含む脳血管障害、小脳疾患、低酸素性虚血性脳症、脊髄損傷、脳外傷、中枢神経疾患、パーキンソン病、角膜障害、スティーブンスジョンソン症候群、眼類天疱瘡、角膜化学傷・熱傷、瘢痕性角結膜上皮症、水疱性角膜症、感染性角膜炎、例えば顆粒状角膜ジストロフィなどの角膜ジストロフィ、例えば加齢黄斑変性、網膜色素変性、緑内障などの網膜視神経障害、角膜上皮幹細胞疲弊症、歯周炎、肝障害、高アンモニア血症、虚血性心疾患、突発性拡張型心筋症、心不全、血小板減少症、閉塞性動脈硬化症、火傷、創傷、軟骨損傷、骨髄移植の際の合併症、再生不良貧血移植片対宿主病、難治性ウイルス感染症、腎不全、代謝性肝疾患、大腸炎、閉塞性動脈硬化症、虚血、末梢動脈疾患、非動脈硬化症、骨系統疾患、変形性関節症、骨腫瘍、骨壊死、下肢虚血疾患、ガン、リウマチ、骨粗しょう症、または筋ジストロフィーなどが挙げられ、例えば、心筋障害部位への移植、心筋再生、骨形成、軟骨形成、新生血管の形成、白質再建、中耳鼓膜再生、神経再生療法、神経軸索の伸長の促進、末梢有髄神経・中枢神経の再生、視機能再生、神経回路の機能的な再生、毛包や表皮の再生、または毛包周囲組織の再生、腸疾患粘膜再生、代謝性臓器の創出等に利用され得る。したがって、本発明の細胞製剤は、上記に例示される疾患の治療および/または予防用、または、細胞もしくは組織の再生用である細胞製剤である。
【0099】
本発明の細胞製剤は、薬学的に許容可能な担体、例えば緩衝液に高分子および糖類を溶解させ、上記に例示される細胞を懸濁させて製造することができる。この際、製剤化は、常法を用いて適宜行われ得る。また、製剤の剤型としては、溶液剤、懸濁剤などの液剤、この液剤を凍結乾燥した粉末、当該粉末を成型した錠剤などの固形剤とすることができる。
【0100】
本発明で使用される薬学的に許容可能な担体は、細胞を生存可能な状態で保持するための固体または液体であって、その浸透圧やpHを、細胞が生存可能な組成、濃度に調製したものをいう。
【0101】
薬学的に許容可能な担体は、緩衝剤、安定剤および等張化剤から選ばれる少なくとも1種以上が望ましい。
【0102】
例えば本発明の薬学的に許容可能な担体は、緩衝剤を含む緩衝液であってもよい。緩衝液は、例えば水性のpH緩衝塩類溶液であり、所定のpH範囲内になるようにpH調整されている。このような緩衝液は、細胞製剤におけるpHの変化ができるだけ小さくなるように機能し得る。
【0103】
好ましくは、本発明の薬学的に許容可能な担体は、等張化剤および緩衝剤を含む。
【0104】
本発明で使用され得る緩衝剤は、本発明の細胞製剤が所定のpH範囲内になるようにpH調整する。細胞製剤のpHの範囲としては、医薬上、薬理学的および/または生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではないが、例えば本発明の細胞製剤のpHは、pH5.5~8.0程度、好ましくはpH6.0~7.6程度、さらに好ましくはpH6.5~7.5程度である。ただし、細胞製剤の対象の細胞種によって、細胞製剤における好ましいpH範囲は変動し得る。また、例えば、上述の親水性基を有するモノマーの親水性基がカルボン酸基などである場合、このようなモノマーが重合された高分子を含む水溶液は酸性を呈することがある。また、上述の糖類がカルボン酸基などを有している場合も、このような糖類により水溶液は酸性を呈し得る。このような場合、緩衝剤により、細胞製剤のpHを適切な範囲に調整することが容易になり得る。そして、必要な場合、細胞製剤は、水溶液のpH調整に通常使用されるものを使用することで細胞の生存により適したpH範囲に調整される。なお、細胞は、薬学的に許容可能な担体のpH調整の前および/または後に薬学的に許容可能な担体と組み合わされる。
【0105】
緩衝剤の例としては、炭酸水素ナトリウムなどの重炭酸塩緩衝剤、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウムなどが挙げられ、また、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)、リンゲル液、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、HBSS(Hanks' Balanced Salt Solution)、MOPS(3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸)、TES(N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]-2-アミノエタンスルホン酸)、TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、TEST(TES/TRISの組み合わせ)、などが用いられてもよい。
【0106】
本発明の等張化剤としては、無機塩類または糖アルコールを使用でき、無機塩類としては、ナトリウム塩、ナトリウム塩またはカルシウム塩から選ばれる少なくとも1種、糖アルコールとしては、ソルビトールまたはマンニトールから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ナトリウム塩としては、塩化ナトリウムを使用できる。塩化ナトリウムとしては生理活性食塩水を使用できる。
【0107】
本発明の薬学的に許容可能な担体の浸透圧は、生体に許容される範囲内で、細胞製剤の細胞種や細胞の状態等によって適宜設定され得るが、200~1000mOSM/L程度に調整され得る。この範囲の浸透圧であれば、本発明の細胞製剤が凍結される際に、高分子および糖類による細胞保護効果に加えて、細胞の脱水が促進され、細胞内部のガラス化がさらに良好に進行する。
【0108】
本発明の細胞製剤のイオン強度は、0.05~0.5程度とされる。本発明の細胞製剤には、アミノ酸、糖、無機塩類および/またはビタミン等が含まれ得るが、無機塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどの塩化物またはこれらの混合物である。本発明の細胞製剤における無機塩類の含有率は、例えば0.15~15mg/mLであり、0.4~10mg/mLとすることが好ましい。
【0109】
本発明で使用され得る安定剤としては、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0110】
本発明の細胞製剤は、細胞培養または凍結にとって有用である他の構成成分を含んでも良い。例えば、本発明の細胞製剤は、他の構成成分として、さらに、本発明の凍結保存剤の凍結保護作用を補助するような凍結保護サポート物質を含んでいてもよい。なお、該凍結保護サポート物質は、3000以下の粘度平均分子量を有する糖類またはその塩として採用される物質とは異なる物質である。このような物質としては、例えば細胞内の水分が凍結するよりも高い温度で溶液中に氷核を形成させる物質であることが知られているアミノ酸などが挙げられる。このようなアミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、アスパラギン、イソロイシン、グルタミン、プロリンおよびヒスチジンなどが挙げられる。このうち、プロリンがより好ましい。また、凍結保護サポート物質としては、細胞膜非透過型凍結保護物質が用いられてもよく、この場合、例えば、糖類やデキストラン等が挙げられる。糖類としては例えば、デキストロース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ラフィノース、ラクトース、スクロース、マルトース、グルコース、ソルビトール、マンニトール、トレハロースなどが挙げられる。このうち、デキストロースがより好ましい。
【0111】
本発明の細胞製剤は、上記凍結保護サポート物質を1種または2種以上含んでいてもよい。本発明の細胞製剤における上記凍結保護サポート物質の含有量は、特に限定されないが、本発明の凍結保存剤である高分子またはその塩および糖類またはその塩の総計の濃度の約1/10程度とすることができる。例えば、上記凍結保護サポート物質の濃度は、0.1w/v%以上、10w/v量%以下程度である。上記凍結保護サポート物質の濃度が10w/v量%以上であると、本発明の凍結保存剤の効果が得られにくくなり、細胞製剤中の細胞の凍結融解後の生存性が低下するおそれがある。上記凍結保護サポート物質の濃度が10w/v量%以下であると、凍結保護サポート物質としての効果が得られにくい。
【0112】
また、本発明の細胞製剤は、他の構成成分として、タンパク活性剤を含んでいてもよい。このようなタンパク活性剤としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、またはこれらの混合物などが挙げられる。これらの物質は、細胞内の酵素を活性化させる機能を持っている。
【0113】
本発明の細胞製剤は水溶液であることが好ましい。水溶液とする場合は、溶媒として蒸留水、注射用蒸留水、細胞培養用蒸留水、胚操作用蒸留水などを用いることが好ましい。
【0114】
本発明の細胞製剤は、上記に例示されるような細胞、前記高分子および糖類、ならびに他の構成成分に加えて、さらに、種々の任意成分、例えば、細胞の生存性、生着性および/または機能などを高める成分や対象疾患の処置に有用な他の有効成分などを本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。ここで、「任意成分」とは、含んでいてもよいし含まなくてもよい成分のことを意味している。かかる任意成分としては、既知のものを使用することができ、一般的な医薬品、医薬部外品等が含むことができる有効成分以外の成分が挙げられる。また、本発明の薬学的に許容可能な担体は、基礎培地を含んでいてもよい。このような基礎培地としては、例えば、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium(D-MEM)培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(E-MEM)培地、αMEM培地、RPMI 1640培地、Medium 199培地、IMDM培地、MCDB201培地、Fischer’s培地、F-12培地およびこれらの混合培地等が挙げられる。
【0115】
本発明における高分子と糖類とを凍結保存剤として含む本発明の細胞製剤は、凍結保存剤の細胞に対する細胞毒性が低く、さらに、凍結時に溶媒の水の分子運動を制限するために溶質の濃度を高める必要がないので、凍結保存されても細胞製剤中の細胞へのダメージが低い。また、本発明の細胞製剤は、凍結保存のための冷却時に、従来のガラス化法と異なり、浸透圧ショックを軽減するための大きな冷却速度を必要としない。したがって、本発明の細胞製剤は、細胞の生存率を低下させることなく簡便な方法で効率よく凍結保存することができる。そして、必要とされるときに適宜、融解した後、対象への投与に付され得る。凍結保存剤の細胞に対する毒性も低いため融解後の細胞製剤中の細胞はその機能を良好に維持し、凍結前と同等の性質を保持している。よって、融解した細胞を、次の凍結保存までに適宜、培養し、再度製剤化して細胞製剤することも可能である。
【0116】
3000より大きく、500000以下である粘度平均分子量を有する高分子であって、親水性基を有するモノマーを繰り返し単位として含む高分子と3000以下の粘度平均分子量を有する糖類とを溶解した水溶液を示差走査熱量分析(DSC)によって熱分析すると、水溶液が-23℃±4℃近辺にガラス転移温度をもつことが発明者らによって明らかにされている。さらに、本発明の高分子と糖類と含む水溶液では、冷却過程において氷晶形成が抑制されているだけでなく、その後の昇温過程での、すなわち融解時の水の再結晶化も抑制されている。このことから、本発明の高分子と糖類とを含む細胞製剤を凍結保存した場合、凍結状態において細胞製剤の溶媒のガラス状態が安定化されていると考えられる。このようにガラス状態がより安定化されるため、本発明の細胞製剤は、従来必要とされてきたヒト、ウシ由来の血清や血清由来成分(例えばアルブミンなど)のタンパク質成分の添加を必要とせずに、高い凍結・融解後の細胞生存率を示す。したがって、本発明の細胞製剤は、感染症などのおそれがなく、さらに、ロット間格差などの影響も受けることもない、ケミカルデファインドな細胞製剤である。本発明の高分子と糖類とからなる凍結保存剤は、細胞毒性も低いため、本発明の細胞製剤においては、凍結保存された後に融解された細胞が高い生存率を示す。なお、感染症の心配の無いようなタンパク質を細胞製剤に添加することはもちろん可能である。
【0117】
本発明の細胞製剤は、上述のように、冷却時に細胞保護のための大きな冷却速度を必要としないため、製剤化後、本発明の本発明の高分子と糖とを含む水溶液のガラス転移点温度である-27℃以下に、冷却する、例えば本発明の細胞製剤を凍結処理容器等に入れて-80℃のディープフリーザー中に放置するだけで、細胞製剤中の細胞は、安定的に、細胞障害が起こることなく凍結、そして保存され得る。細胞の凍結保存時に通常必要とされる-150℃といった低温度は必ずしも必要でない。このため、細胞製剤を液体窒素凍結保存するための特別な容器や液体窒素の準備などを不要とすることができる。細胞製剤の凍結保存に関わる操作が顕著に簡便化され得る。例えば、本発明の細胞製剤は、10℃/min以下程度の冷却速度で冷却され得る。好ましくは、冷却速度は、1℃/min以下程度である。この程度の冷却速度であれば、細胞内が適度に脱水されていって細胞内液のガラス化が良好に起こり、そして高い細胞凍結保護効果が得られると考えられる。従来のガラス化法で求められる急速冷却のための迅速な操作が求められることはない。したがって、操作性が顕著に向上する。さらに、本発明の細胞製剤では、融解時の水の再結晶化も抑制される。よって、凍結および保存だけではなく、細胞製剤の解凍までの一連の工程が、特別な手技を必要とすることなく、容易に効率よく行なわれ得る。細胞製剤の凍結保存温度の範囲としては、-27℃以下であれば限定されない。もちろん、本発明の細胞製剤は、約-150℃以下から-180℃以下などの液体窒素上の気相で凍結保存されてもよい。操作上の観点から、望ましくは、凍結保存温度の範囲は-70℃以下、好ましくは-80℃以下である。また下限として望ましくは、-196℃以上、好ましくは-150℃以上である。
【0118】
凍結状態の本発明の細胞製剤の保存期間は、凍結保存した細胞が融解した後、凍結前と同等の性質を保持している限り、特に限定されるものではないが、例えば、1週間以上、2週間以上、3週間以上、4週間以上、2か月以上、3か月以上、4か月以上、5か月以上、6か月以上、1年以上、またはそれ以上とされ得る。
【0119】
本発明の3000より大きく、500000以下である粘度平均分子量を有する高分子であって、親水性基を有するモノマーを繰り返し単位として含む高分子は、非浸透型の凍結保護試薬であるため、細胞毒性が低いと考えられる。また、本発明の細胞製剤では、高分子と共に用いられる糖類が細胞保護のために機能するため、細胞製剤の凍結保存中に細胞の性状が変化しない。したがって、本発明の細胞製剤は、細胞の特性を凍結前と同等に維持しつつ凍結保存され得る。
【0120】
このように、本発明の細胞製剤においては、凍結状態で溶媒のガラス化状態が安定化されており、毒性も低いため、細胞が長期間安定的に保存され得る。本明細書において、長期間安定的な保存とは、例えば、凍結保存した本発明の細胞製剤の解凍後の、融解された細胞の生存率が、保存直前の細胞の生存率を基準として、5か月後に、10%未満程度、好ましくは5%未満程度の低下、または、6か月後に、20%未満程度、好ましくは10%未満程度の低下、または、12か月後に、15%未満程度、好ましくは30%未満程度の低下しかみられないことを意味する。また、本明細書において、長期間安定的な保存とは、例えば、細胞製剤を凍結して-80℃で長期間保存した後、解凍し、続いて4℃で細胞製剤を保存した場合に、解凍後の24時間後でも、解凍直後の細胞生存率を基準として5%未満の生存率の低下しかみられないことを意味する。凍結状態の本発明の細胞製剤では、凍結保護剤としてDMSOなどを含む場合と比較して、細胞がよりストレスの少ない条件下で凍結保存されていると考えられる。したがって、本発明の細胞製剤の、融解後の細胞について非常に高い細胞生存率を得ることができる。さらに、融解直後のみならず、融解後に冷蔵保存された細胞も高い細胞生存率を示し得る。本発明の細胞製剤によれば、細胞が、細胞の性状を変化させることなしに、安定的に長期間、凍結保存され得る。
【0121】
本発明の3000より大きく、500000以下である粘度平均分子量を有する高分子であって、親水性基を有するモノマーを繰り返し単位として含む高分子としては、例えば、生体構成成分である高分子がより好ましい。このような高分子またはその塩を用いることにより、凍結保存された細胞製剤は解凍され、融解された細胞はそのまま投与され得る。例えば、本発明の好ましい高分子は、ヒアルロン酸である。特には、400000以下、望ましくは200000以下である粘度平均分子量をもつヒアルロン酸である。より特には、粘度平均分子量が3000より大きく、より望ましくは5000より大きく、そして、60000以下、より望ましくは20000以下であるヒアルロン酸が挙げられる。
【0122】
本発明はまた、本発明の細胞製剤の有効量を、それを必要とする対象に適用することを含む、前記対象における疾患を処置する方法に関する。したがって、本発明の細胞製剤は、上記に例示されているような細胞を治療上有効量含む細胞製剤または疾患治療剤であってもよい。処置の対象となる疾患は、本発明の細胞製剤について上記で例示したものが挙げられる。
【0123】
本発明はまた、有効量の本発明の細胞製剤を投与することを含む細胞または組織を再生させる方法に関する。該方法は、本発明の細胞製剤の細胞を、その必要性がある動物の組織に投与するステップを含んでいてもよい。
【0124】
また、本発明はさらに、上記疾患の患者に対して、本発明の細胞製剤を治療上有効量、投与するステップを含む、治療法に関する。
【0125】
本願発明の細胞製剤の投与方法としては、典型的には組織への直接的な適用が挙げられるが特に制限はされない。投与経路としては、例えば血管内投与、特には静脈内投与、または、筋肉内投与、髄腔内投与、腹腔内投与、腸管内投与、経直腸投与、経腟投与、眼内投与、脳内投与、皮下投与、経鼻投与、舌下投与、経口投与、吸入、経皮投与、インプラント、臓器表面への噴霧およびシート等の貼付による直接(患部に局所的な)投与などが挙げられる。投与は例えば、細胞のシリンジでの注入やカテーテルによる挿入、または細胞の外科移植などによって行われてもよい。また、例えば本発明の細胞製剤が細胞シートなどの形態の場合は、組織に適用する際、細胞製剤を対象の組織に縫合糸やステープルなどの係止手段により固定してもよい。対象の負担の軽減の観点から、静脈内投与が好ましい場合もある。また、対象や施術者の負担の軽減のため、注射剤とすることが望ましい場合もある。
【0126】
本発明の細胞製剤の投与量としては、疾患の種類や、その症状の度合い、投与対象(例えば患者)の状態(例えば体重、年齢、症状、体調など)、および剤形等によって異なり得るが、十分な治療効果を得るために十分でありつつ、副作用の発現は抑制され得る量であることが好ましい。例えば、投与量は、細胞数として、1x103~1x1012個/回、好ましくは1x104~1x1011個/回程度である。投与頻度は、典型的には1回の処置につき1回であるが、所望の効果が得られない場合には、複数回投与することも可能である。すなわち上述のような用量を1回量として、複数回投与してもよく、本用量を複数回に分けて投与してもよい。また、継続的に投与してもよい。また、本発明の細胞製剤は、1または2以上の他の薬剤と共に投与してもよい。あるいは、本発明の細胞製剤は、直接投与されずに、例えば細胞を含む細胞製剤をそのまま、または遠心分離等の方法によって分離された細胞を、例えば生理食塩水、ブドウ糖水溶液、リンゲル液、乳酸リンゲル液または酢酸リンゲル液などの輸液で分散して投与対象に投与するための治療用組成物を得るよう用いられてもよい。
【0127】
さらに、本発明は、本発明の細胞製剤に含有される、上記に例示されるような細胞を保存するための溶液であって、3000より大きく、500000以下である粘度平均分子量を有する高分子であって、親水性基を有するモノマーを繰り返し単位として含む高分子またはその塩と、3000以下の粘度平均分子量を有する糖類またはその塩と、薬学的に許容可能な担体とを含む、細胞を保存するための溶液に関する。本発明の細胞を保存するための溶液によれば、簡便な操作で、保存する細胞の凍結および融解時における氷晶形成および再結晶を効果的に抑制することができ、安定的に細胞を保存することができる。細胞は、本発明の細胞を保存するための溶液中で、細胞の性状および生存率を維持しながら好適に保存され得る。
【0128】
本発明の細胞を保存するための溶液は、さらに、アミノ酸を含んでいてもよい。このようなアミノ酸は、本発明の細胞を保存するための溶液の凍結保護作用を補助するような凍結保護サポート物質として作用し得る。このようなアミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、アスパラギン、イソロイシン、グルタミン、プロリンおよびヒスチジンなどが挙げられる。このうち、プロリンがより好ましい。
【0129】
本発明の細胞を保存するための溶液は、さらに、単糖類を含んでいてもよい。このような単糖類は、細胞膜非透過型凍結保護物質として作用し得る。単糖類としては例えば、グルコースが例示される。
【0130】
また、本発明はさらに、3000より大きく、500000以下である粘度平均分子量を有する高分子であって、親水性基を有するモノマーを繰り返し単位として含む高分子またはその塩と、3000以下の粘度平均分子量を有する糖類またはその塩と、薬学的に許容可能な担体とを含む溶液の、細胞を保存するための使用に関する。
【0131】
本発明の細胞を保存するための溶液によって、好適に保存され得る細胞としては、本発明の細胞製剤について上記で例示した細胞が挙げられ、例えば、幹細胞、間葉系幹細胞、Muse細胞、ES細胞、iPS細胞、毛乳頭細胞、毛包幹細胞、皮脂腺幹細胞、神経幹細胞、嗅神経鞘細胞、骨髄間葉細胞、歯髄細胞、シュワン細胞、神経前駆細胞、ドパミン神経前駆細胞、角膜実質細胞、角膜内皮細胞、角膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、筋芽細胞、心筋細胞、ネフロン前駆細胞、分化腎細胞、腎臓幹細胞、肝細胞、肝前駆細胞、大腸上皮幹細胞、大腸吸収系上皮細胞、大腸分泌系上皮細胞、DFAT細胞、血管内皮細胞、血管周皮細胞、平滑筋細胞、骨髄単核球細胞、軟骨芽細胞、培養軟骨、表皮細胞、表皮幹細胞、皮膚線維芽細胞、歯髄(幹)細胞、エナメル芽細胞、歯根膜幹細胞、骨芽細胞、破骨細胞、樹状細胞(活性化)、単核球細胞、T細胞、CAR-T細胞、γδT細胞、NK細胞、CAR-NK細胞、造血幹細胞、血小板、血漿、または赤血球である。細胞は、培養してシート状の組織とされた細胞シートまたはシート状細胞培養物の形態であってもよい。
【実施例
【0132】
本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、以下において、Shanghai Easier Industrial Development社製のヒアルロン酸は、ヒアルロン酸ナトリウムであるが、簡単化のため、「ヒアルロン酸」と記載している。
【0133】
<凍結保存剤の作製>
・実施例1
容積2Lの耐圧容器に平均分子量100万である高分子ヒアルロン酸(Shanghai Easier Industrial Development社製)と水とを20:100で混合し、処理温度175℃、処理圧力0.89MPa、および処理時間3分で亜臨界処理を行った。その後、亜臨界処理物を凍結乾燥またはスプレードライ法で乾燥した。これにより、極限粘度が0.49dL/gであり、粘度平均分子量が10000の高分子ヒアルロン酸と、極限粘度が0.08dL/gであり、粘度平均分子量が1000の低分子量ヒアルロン酸との混合物、すなわち本発明で使用する凍結保存剤を得た。
【0134】
<細胞製剤の調製および凍結保存効果の評価>
・実施例2
注射用水1Lに、塩化カルシウム140mg、塩化マグネシウム六水和物100mg、硫酸マグネシウム七水和物100mg、塩化カリウム400mg、リン酸二水素カリウム60mg、炭酸水素ナトリウム350mg、リン酸水素二ナトリウム48mg、D(+)-グルコース11g、塩化ナトリウム9g、プロリン10g、および、実施例1で得た本発明の凍結保存剤(固形分)100gを溶解させた。
該溶液に、ヒト網膜色素上皮(RPE)細胞(H-RPE-Human Retinal Pigment Epithelial Cells、Lonza、カタログ番号:00194987)を、細胞密度が1×106個/mLとなるように懸濁させて、細胞製剤を得た。
【0135】
細胞製剤を、緩慢細胞凍結器(Nalgene(登録商標)ミスターフロスティー)中で、-80℃冷凍庫内で凍結した。24時間、凍結した細胞製剤を-80℃で保存した後、37℃の温浴中で急速解凍した。融解直後の細胞の細胞生存率をトリパンブルー排出法により評価した。結果を図1に示す。
【0136】
融解した細胞を、RtEGM(商標) BulletKit(商標)(Lonza)にて、37℃、5%CO2に制御されたCO2インキュベーター内で5日間培養した。培養後の細胞の形態を微鏡観察した。また、対照として、凍結保存前のRPE細胞を同様に培養し、顕微鏡観察した。それぞれの観察像を図2に示す。
【0137】
・比較例1
凍結保存液として、DMSO含有 STEM-CELLBANKER(登録商標) GMP grade(ゼノアックリソース(株)製)(100mLのDMSOと、蒸留水750mL中にカルボキシメチルセルロースナトリウム(分子量76万)5gを溶解させた水溶液と、150mLの蒸留水にグルコース30.0g、炭酸水素ナトリウム0.8g、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸0.36g、リン酸緩衝液1.576gを溶解させた水溶液とを混合したものである)を用い、実施例2と同様に、ヒト網膜色素上皮(RPE)細胞を、1×106個/mLの濃度で、懸濁させた。
実施例2と同様に該懸濁液を凍結保存し、融解後の細胞生存率を調べた。結果を図1に示す。また、実施例2と同様に、融解した細胞を培養し、顕微鏡観察した。観察像を図2に示す。
【0138】
・比較例2
凍結保存液としてプロピレングリコール含有のSTEM-CELLBANKER(登録商標) DMSO Free GMP grade(ゼノアックリソース(株)製)(100mLのプロピレングリコールと、蒸留水750mL中にカルボキシメチルセルロースナトリウム(分子量76万)5gを溶解させた水溶液と、150mLの蒸留水にグルコース30.0g、炭酸水素ナトリウム0.8g、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸0.36g、リン酸緩衝液1.576gを溶解させた水溶液とを混合したものである)を用いたこと以外、比較例1と同様に懸濁液を調製し、凍結保存して融解後の細胞生存率を調べた。結果を図1に示す。また、実施例2と同様に、融解した細胞を培養し、顕微鏡観察した。観察像を図2に示す。
【0139】
図1に示されるように、RPE細胞を含む実施例2の細胞製剤は、凍結・融解後に、凍結保護剤としてDMSOを用いている比較例1とほぼ同等の細胞生存率を示した。また、実施例2の細胞生存率は、DMSOを含まない凍結保護剤を用いている比較例2の細胞生存率よりも顕著に高かった。本発明の細胞製剤では、凍結保存に伴う生存率の低下が起こりにくいことがわかる。DMSOを用いる比較例1とほぼ同等の保護効果が得られたことから、本発明の細胞製剤は良好に凍結保存され得ることがわかる。
図1には記載しなかったが、後述の実施例4についても比較例1とほぼ同等の細胞生存率が期待される。
【0140】
図2に示されるように、実施例2と実施例4と比較例1(DMSO含む)および比較例2(プロピレングリコールを含む)では、融解後のRPE細胞の増殖および形態に大きな差異は確認されなかった。また凍結前(未凍結)のRPE細胞の形態と比較することにより、実施例2および実施例4では凍結前後にて細胞形態の変化がないことが確認された。
【0141】
・実施例3
第三継代のイヌ骨髄由来の正常イヌ間葉系幹細胞(cyagen、カタログ番号:CAXMX-01001)を用いて、実施例2と同様に細胞製剤を調製した。
【0142】
細胞製剤を、緩慢細胞凍結器(Nalgene(登録商標)ミスターフロスティー)中で、-80℃冷凍庫内で凍結したのち、-80℃の冷凍庫内で下記に示す一定期間保存した。凍結翌日(24時間後)に、37℃の温浴中で急速解凍した。融解直後の細胞の細胞生存率をトリパンブルー排出法により評価した。結果を図3に示す。
【0143】
20日間の凍結保存後に融解した細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS/FCS)および100unit/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシンを含有させたDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)にて、37℃、5%CO2に制御されたCO2インキュベーター内で7日間培養した。培養後の細胞の形態を顕微鏡観察した。観察像を図4に示す。
【0144】
培養によりコンフルエントに達した細胞を用いて、骨分化誘導培地(MSCgo(商標) Rapid Osteogenic XF(Biological Industries, Beit Haemek, Israel)にて、37℃、5%CO2に制御されたCO2インキュベーター内で約3週間培養することで、骨細胞への分化を行った。骨細胞の指標としてアリザリンレッドS染色法により石灰化(カルシウムの沈着)を染色することで観察した。結果を図5Aに示す。
【0145】
また、培養によりコンフルエントに足した細胞を用いて、MSCgo(商標) Adipogenic- SF,XF Supplement Mix-1およびMSCgo(商標) Adipogenic- SF,XF Supplement Mix-2を含有したMSCgo(商標) Adipogenic XF(Biological Industries, Beit Haemek, Israel)にて約3週間培養することで、脂肪細胞への分化を行った。オイルレッドO染色により脂肪細胞中の脂肪滴を染色することで分化を確認した。結果を図5Bに示す。
【0146】
また、培養により80~90%コンフルエントに達した細胞を1%PVA(polyvinyl alchol)により非接着処理を行ったU底マイクロプレート(cellstar(登録商標))に、1×105個/wellで播種し、10%ウシ胎児血清(FBS/FCS)および100unit/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシンを含有させたDulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)にて24時間培養し細胞ペレットを形成した後に、MSCgo(商標) Chondrogenic XF Supplement Mixを含有したMSCgo(商標) Chondrogenic XF, Human(Biological Industries, Beit Haemek, Israel)で細胞ペレットを約3週間培養することにより、軟骨細胞への分化を行った。アルシアンブルー染色によりムコ多糖を染色し、軟骨細胞への分化を確認した。結果を図5Cに示す。
【0147】
また、20日間の凍結保存後に融解した細胞を12ウェルプレートに2×105個ずつ播種し、翌日に10%ウシ胎児血清(FBS/FCS)および100unit/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシンを含有させたDulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地に交換した。その3日後、細胞溶解物中のHGF、IL-10、およびVEGF濃度を定量した。HGF、IL-10、およびVEGFの定量には、それぞれ、専用のキット(カタログ番号SEA056Ca、Cloud-Clone社製(IL-10の測定)、カタログ番号SEA047Ca、Cloud-Clone製(HGFの測定)、カタログ番号CAVE00、R&D Systems社製(VEGFの測定))を用い、キット添付の手順書の順序に準じて行った。測定値は、NanoDrop 2000 spectrophotometer(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて測定した細胞溶解物中の総タンパク質濃度を内部標準として標準化した。HGFおよびIL-10の定量結果をそれぞれ、図6Aおよび6Bに示す。
【0148】
・実施例4
(1)容積2Lの耐圧容器に平均分子量100万である高分子ヒアルロン酸(Shanghai Easier Industrial Development社製)と水とを20:100で混合し、処理温度175℃、処理圧力0.89MPa、および処理時間7分で亜臨界処理を行った。その後、亜臨界処理物を凍結乾燥またはスプレードライ法で乾燥した。これにより、極限粘度0.08dL/g、粘度平均分子量約1000のヒアルロン酸を得た。
(2)注射用水1Lに、塩化カルシウム140mg、塩化マグネシウム六水和物100mg、硫酸マグネシウム七水和物100mg、塩化カリウム400mg、リン酸二水素カリウム60mg、炭酸水素ナトリウム350mg、リン酸水素二ナトリウム48mg、D(+)-グルコース11g、塩化ナトリウム9g、プロリン10g、および、粘度平均分子量373000であるプルラン(東京化成工業(株)製)90gと、(1)で得られた粘度平均分子量1000のヒアルロン酸10gを溶解させた。凍結保存剤であるプルランとヒアルロン酸の合計量としては、100gである。
(3)(2)で得られた溶液に、ヒト網膜色素上皮(RPE)細胞(H-RPE-Human Retinal Pigment Epithelial Cells、Lonza、カタログ番号:00194987)を、細胞密度が1×106個/mLとなるように懸濁させて、細胞製剤を得た。
(4)得られた細胞製剤を、緩慢細胞凍結器(Nalgene(登録商標)ミスターフロスティー)中で、-80℃冷凍庫内で凍結した。24時間、凍結した細胞製剤を-80℃で保存した後、37℃の温浴中で急速解凍した。融解直後の細胞の細胞生存率をトリパンブルー排出法により評価した。生存率は90%であった。
また、実施例2と同様に、融解した細胞を培養し、顕微鏡観察した。観察像を図2に示す。
【0149】
・比較例3
凍結保存液として10%DMSOを添加したHanks' balanced salt solution:HBSS(Gibco製)を用いた。HBSSの主たる組成は以下である。塩化カルシウム140mg、塩化マグネシウム六水和物100mg、硫酸マグネシウム七水和物100mg、塩化カリウム400mg、リン酸二水素カリウム60mg、炭酸水素ナトリウム350mg、リン酸水素二ナトリウム48mg、D(+)-グルコース1g、塩化ナトリウム8gを1Lあたりの水溶液中に含有する。
【0150】
この凍結保存液に、実施例2と同様に、正常イヌ間葉系幹細胞を懸濁させ、懸濁液を凍結保存し、凍結翌日(24時間後)に融解後の細胞生存率を調べた。結果を図3に示す。また、実施例3と同様に、融解した細胞を培養し、顕微鏡観察した。培養した細胞の観察像を図4に示す。
【0151】
また、実施例3と同様に、骨細胞、脂肪細胞、および軟骨細胞への分化を行った。結果をそれぞれ、図5A~Cに示す。また、実施例3と同様に、HGF、IL-10、およびVEGF濃度の定量を行った。HGFおよびIL-10の定量結果をそれぞれ、図6Aおよび6Bに示す。
【0152】
・比較例4
凍結保存液としてDMSO含有 STEM-CELLBANKER(登録商標) GMP grade(ゼノアックリソース(株)製)を用いたこと以外、比較例3と同様に懸濁液を調製し、凍結保存して融解後の細胞生存率を調べた。結果を図3に示す。また、実施例3と同様に、融解した細胞を培養し、顕微鏡観察した。培養した細胞の観察像を図4に示す。
【0153】
また、実施例3と同様に、骨細胞、脂肪細胞、および軟骨細胞への分化を行った。結果をそれぞれ、図5A~Cに示す。また、実施例3と同様に、HGF、IL-10、およびVEGF濃度の定量を行った。HGFおよびIL-10の定量結果をそれぞれ、図6Aおよび6Bに示す。
【0154】
・比較例5
凍結保存液としてプロピレングリコール含有のSTEM-CELLBANKER(登録商標) DMSO Free GMP grade(ゼノアックリソース(株)製)を用いたこと以外、比較例3と同様に懸濁液を調製し、凍結保存して融解後の細胞生存率を調べた。結果を図3に示す。また、実施例3と同様に、融解した細胞を培養し、顕微鏡観察した。培養した細胞の観察像を図4に示す。
【0155】
また、実施例3と同様に、骨細胞、脂肪細胞、および軟骨細胞への分化を行った。結果をそれぞれ、図5A~Cに示す。
【0156】
・比較例6
第二継代で10%DMSOを用いて液体窒素中で凍結保存されたイヌ骨髄由来正常イヌ間葉系幹細胞を継代し(第三継代)、未凍結細胞として使用した。培養した細胞の観察像を図4に示す。また、実施例3と同様に、骨細胞、脂肪細胞、および軟骨細胞への分化を行った。結果をそれぞれ、図5A~Cに示す。また、実施例3と同様に、HGF、IL-10、およびVEGF濃度の定量を行った。HGFおよびIL-10の定量結果をそれぞれ、図6Aおよび6Bに示す。
【0157】
図3に示されるように、実施例3の細胞製剤の正常イヌ間葉系幹細胞は、凍結・融解後に、凍結保護剤としてDMSOを用いている比較例3および4の細胞生存率とほぼ同等の細胞生存率を示した。この細胞生存率は、DMSOを含まない比較例5の凍結保護剤の細胞生存率よりも顕著に高いものであった。本発明の細胞製剤では、凍結保存に伴う生存率の低下が起こりにくいことがわかる。DMSOを用いる比較例3および4とほぼ同等の保護効果が得られたことから、本発明の細胞製剤は良好に凍結保存され得ることがわかる。
【0158】
図4に示されるように、実施例3の融解後の正常イヌ間葉系幹細胞は、比較例3~6と同様の形態が維持されており、正常イヌ間葉系幹細胞特有の繊維芽細胞様の細胞形態が同等に維持されていたことがわかる。
【0159】
図5A~Cに示されるように、実施例3の融解後の正常イヌ間葉系幹細胞および未凍結細胞(比較例6)では、骨細胞、脂肪細胞、および軟骨細胞への分化が良好に起こったことがわかる。一方、DMSO添加下で凍結保存された比較例3および4では、融解された細胞からの骨細胞への分化がほぼ見られなかった。この結果は、細胞内浸透型の凍結保護剤であるDMSOの細胞製剤への添加が、融解後の細胞製剤中の細胞の分化能に影響を与えていることを示している。本発明の細胞製剤では、凍結保存を経ても細胞の分化能が良好に維持されていることがわかる。
【0160】
図6Aに示されるように、実施例3の融解後の正常イヌ間葉系幹細胞ならびに比較例3、4および6の比較では、実施例3の細胞内のHGF量が比較例3、4および6に対して同等かそれ以上であることがわかる。
【0161】
図6Bに示されるように、実施例3の融解後の正常イヌ間葉系幹細胞ならびに比較例3、4および6の比較では、実施例3の細胞内のIL-10量が比較例3、4および6に対して同等かそれ以上であることがわかる。
【0162】
実施例3の融解後の正常イヌ間葉系幹細胞ならびに比較例3、4および6では、細胞内でのVEGFが検出されなかった。実施例3ならびに比較例3、4および6においては、凍結によるVEGF産生に変化がなく、保存後も保存前と同等であることがわかる。本発明の細胞製剤では、凍結保存に伴う細胞内のVEGF量の変動が起こりにくいことがわかる。
【0163】
<イヌ脂肪組織由来の正常イヌ間葉系幹細胞を含む細胞製剤における、凍結保存および融解後のイヌ間葉系幹細胞のCD抗原発現解析>
第三継代のイヌ脂肪組織由来の正常イヌ間葉系幹細胞(健康な若齢犬の脂肪組織より採取)を含む実施例3で調製した細胞製剤、および、正常イヌ間葉系幹細胞をDMSO含有 STEM-CELLBANKER(登録商標) GMP grade(ゼノアックリソース(株)製)中に懸濁させた比較例4を、緩慢細胞凍結器(Nalgene(登録商標)ミスターフロスティー)中で、-80℃冷凍庫内で凍結したのち、そのまま-80℃の冷凍庫内で4日間凍結保存した。4日後に、凍結させた細胞製剤および懸濁液を取り出し、7℃の温浴中で急速解凍した。解凍後の細胞懸濁液において、イヌ脂肪組織由来の間葉系幹細胞を、細胞表面抗原(陽性マーカー:CD44、CD90、およびCD29、陰性マーカー:CD45、およびMHCクラスII)に対応する蛍光標識抗体で染色し、フローサイトメトリーにより解析した。結果を図7に示す。
【0164】
なお、解析は以下の通り行った。
【0165】
始めに、5×105個の細胞が入った懸濁液をエッペンチューブに加え、そこに1%アルブミン(Fujifilm-Wako, Osaka, Japan)を含有したPBS(-)(Nacalai Tesque, Kyoto, Japan)(FACSバッファー)を、計1mLになるよう加えた。これを300g×5分で遠心し上清を除去した後、各抗体溶液を100μL加え、氷上で遮光しながら30分間反応させた。標識抗体としては、間葉系幹細胞に発現している陽性マーカーとしてCD44-FITC(カタログ番号:11-5440-42)、CD29-FITC(カタログ番号:11-0299-42)、およびCD90-PE(カタログ番号:12-5900-42)、ならびに、間葉系幹細胞に発現していない陰性マーカーとしてCD45-FITC(カタログ番号:11-5450-42)、およびMHCクラスII-FITC(カタログ番号:11-5909-41)を使用した。また蛍光のコントロールとして、推奨されるアイソタイプコントロールを使用した。すべての抗体は、Invitrogen(US)から購入し、推奨濃度で使用した。抗体反応後、結合していない余分な抗体を落とすために、FACSバファーを900μL加え、300g×4分遠心し上清を除去した。ここにFACSバッファーを500μL加え再懸濁し、分析サンプルとした。分析サンプルはゴミを取り除くため、メッシュを通してテストチューブ(352052; Corning, NY)に加えた。分析は、FACSCanto IIフローサイトメーター(BD Biosciences, San Jose, CA)を使用して、合計10,000イベントのデータを各サンプルで取得して行った。データの解析は、FACSDivaソフトウェア(BD Biosciences, San Jose, CA)を使用して実行した。
【0166】
また、イヌ脂肪組織由来正常イヌ間葉系幹細胞を継代した(第三継代)比較例6の未凍結細胞について、同様に、同じ標識抗体を用いて細胞表面抗原を解析した。結果を図7に示す。
【0167】
・比較例7
凍結保存液としてDMSO含有の血清タイプ細胞保存液であるCELLBANKER(登録商標)1 plus(ゼノアックリソース(株)製)を用いたこと以外、比較例4と同様に、正常イヌ間葉系幹細胞の懸濁液を調製した。調製した懸濁液を緩慢細胞凍結器(Nalgene(登録商標)ミスターフロスティー)中で、-80℃冷凍庫内で凍結し、-80℃の冷凍庫内で4日間凍結保存した後、凍結させた懸濁液を取り出し、37℃の温浴中で急速解凍した。解凍後、同様に、同じ標識抗体を用いて細胞表面抗原を解析した。結果を図7に示す。
【0168】
図7に示されるように、実施例3の細胞は、陽性マーカーであるCD44、CD29およびCD90のいずれも陽性で、陰性マーカーであるCD45およびMHCクラスIIのどちらも陰性であった。したがって、本発明の細胞製剤では、イヌ脂肪組織由来の間葉系幹細胞が間葉系幹細胞として保存されており、未分化状態が維持されていることがわかる。
【0169】
上記の結果より、本発明の細胞製剤では、凍結保存に伴う細胞の機能低下や再生能低下などが顕著に抑制されていることがわかる。本発明の細胞製剤によれば、未分化維持が必要な細胞、例えば再生医療用途の幹細胞なども、分化のリスクを伴うことなしに細胞を提供することができる。本発明の細胞製剤によれば、均質で安定した性能を示す細胞を提供することができると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7