(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20241203BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2021082376
(22)【出願日】2021-05-14
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕登
(72)【発明者】
【氏名】並河 勲
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳夫
(72)【発明者】
【氏名】末廣 優樹
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 康佑
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-127153(JP,A)
【文献】特開2020-152331(JP,A)
【文献】特開2021-030837(JP,A)
【文献】特開2007-331623(JP,A)
【文献】特開2019-206269(JP,A)
【文献】特開2018-184129(JP,A)
【文献】特開2019-131073(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0047618(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00 - 6/10
B62D 5/00 - 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵輪を転舵させる転舵シャフトとの間の動力伝達が分離されたステアリングホイールに付与される操舵反力を発生する反力モータを操舵状態に応じて演算される指令値に基づき制御するとともに、前記転舵輪を転舵させるための力である転舵力を発生する転舵モータを操舵状態に応じて制御する操舵制御装置であって、
前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの目標回転角を前記反力モータの回転角から得られる前記ステアリングホイールの操舵角に基づき演算する第1の演算部と、
前記ステアリングホイールの操作に伴いねじれるトーションバーのねじれ角から得られる操舵トルクおよび前記目標回転角に基づき前記指令値を演算する第2の演算部と、
前記ねじれ角を補償値として前記操舵角に付加す
る第3の演算部と、を備え、
前記第3の演算部は、前記指令値の演算に使用される状態変数の変化の度合いに応じて、前記操舵角に付加するねじれ角の値を変更する操舵制御装置。
【請求項2】
前記第2の演算部は、前記状態変数に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力を使用して前記指令値を演算し、
前記第3の演算部は、前記状態変数に対する前記軸力の変化の割合である傾きに応じて、前記操舵角に付加するねじれ角の値を変更する請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記第2の演算部は、前記状態変数に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力を使用して前記指令値を演算し、
前記第3の演算部は、前記状態変数に対する前記軸力の変化の割合である傾きに基づき、前記トーションバーのねじれ角を前記操舵角に付加するかどうかを切り替える請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記軸力は、前記目標回転角に基づき演算される角度軸力である請求項2または請求項3に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記軸力は、前記目標回転角に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である角度軸力、および前記転舵モータの電流の値に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である電流軸力に対して、前記目標回転角および車速に基づき個別に設定される配分比率を乗算した値を合算することにより得られる配分軸力である請求項2または請求項3に記載の操舵制御装置。
【請求項6】
前記第2の演算部は、前記目標回転角に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である角度軸力、および前記転舵モータの電流の値に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である電流軸力に対して、前記目標回転角および車速に基づき個別に設定される配分比率を乗算した値を合算することにより得られる配分軸力を使用して前記指令値を演算し、
前記第3の演算部は、前記電流軸力に対して個別に設定される前記配分比率、および車両が旋回するときの加速度である横加速度に応じて、前記操舵角に付加するねじれ角の値を変更する請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項7】
前記第2の演算部は、前記目標回転角に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である角度軸力、および前記転舵モータの電流の値に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である電流軸力に対して、前記目標回転角および車速に基づき個別に設定される配分比率を乗算した値を合算することにより得られる配分軸力を使用して前記指令値を演算し、
前記第3の演算部は、前記電流軸力に対して個別に設定される前記配分比率、および車両が旋回するときの加速度である横加速度に基づき、前記トーションバーのねじれ角を前記操舵角に付加するかどうかを切り替える請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項8】
前記第3の演算部は、前記操舵角に対する前記目標回転角の変化の割合である傾きに応じて、前記操舵角に付加するねじれ角の値を変更する請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項9】
前記第3の演算部は、前記操舵角に対する前記目標回転角の変化の割合である傾きに基づき、前記トーションバーのねじれ角を前記操舵角に付加するかどうかを切り替える請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項10】
前記第2の演算部は、前記目標回転角に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である角度軸力、および前記転舵モータの電流の値に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である電流軸力に対して、前記目標回転角および車速に基づき個別に設定される配分比率を乗算した値を合算することにより得られる配分軸力を使用して前記指令値を演算し、
前記第3の演算部は、前記電流軸力に対して個別に設定される前記配分比率に応じて、前記操舵角に付加するねじれ角の値を変更する請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項11】
前記第2の演算部は、前記目標回転角に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である角度軸力、および前記転舵モータの電流の値に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である電流軸力に対して、前記目標回転角および車速に基づき個別に設定される配分比率を乗算した値を合算することにより得られる配分軸力を使用して前記指令値を演算し、
前記第3の演算部は、前記電流軸力に対して個別に設定される前記配分比率に基づき、前記トーションバーのねじれ角を前記操舵角に付加するかどうかを切り替える請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項12】
前記第2の演算部は、前記目標回転角に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である角度軸力、および前記転舵モータの電流の値に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である電流軸力に対して、前記目標回転角および車速に基づき個別に設定される配分比率を乗算した値を合算することにより得られる配分軸力を使用して前記指令値を演算し、
前記第3の演算部は、前記目標回転角に対する前記電流軸力の変化の割合である第1の傾き、および前記目標回転角に対する前記配分軸力の変化の割合である第2の傾きに応じて、前記操舵角に付加するねじれ角の値を変更する請求項1に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置が知られている。この操舵装置は、反力モータ、転舵モータおよび制御装置を有している。反力モータは、ステアリングシャフトに付与される操舵反力を発生する。転舵モータは、転舵輪を転舵させる転舵力を発生する。車両の走行時、制御装置は、反力モータの制御を通じて操舵反力を発生させるとともに、転舵モータの制御を通じて転舵輪を転舵させる。
【0003】
たとえば特許文献1の制御装置は、理想軸力および路面軸力を演算する。理想軸力は、目標転舵角に基づく理想的なラック軸力である。路面軸力は、転舵モータの電流値に基づくラック軸力の推定値である。制御装置は、理想軸力と路面軸力とを所定の配分割合で合算し、この合算した軸力を使用して反力モータを制御する。路面軸力には路面状態が反映されるため、反力モータが発生する操舵反力にも路面状態が反映される。したがって、運転者は、路面状態を、ステアリングホイールを介した手応えとして感じることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の操舵制御装置は、目標転舵角に基づく理想軸力を使用して反力モータを制御する。このため、ステアリング操作に対する操舵反力の応答は、目標転舵角の応答によって決まる。したがって、転舵応答性が目標とする応答性に適合するように目標転舵角を調整する場合、その目標転舵角の設定が操舵反力にも影響する。ところが、目標の転舵応答性を得るための調整が、逆に操舵反力の応答性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
たとえば転舵応答性をより高めるように目標転舵角を調整する場合、操舵反力の応答性が高くなりすぎることが懸念される。また、操舵反力の応答性が過剰に高められることによって、制御装置により演算される理想軸力、ひいてはステアリングホイールに付与される操舵反力が急激に変化するおそれがある。したがって、ステアリングホイールの操舵感触が低下し、運転者に違和感を与えるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成し得る操舵制御装置は、転舵輪を転舵させる転舵シャフトとの間の動力伝達が分離されたステアリングホイールに付与される操舵反力を発生する反力モータを操舵状態に応じて演算される指令値に基づき制御する。また、操舵制御装置は、前記転舵輪を転舵させるための力である転舵力を発生する転舵モータを操舵状態に応じて制御する。操舵制御装置は、前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの目標回転角を前記反力モータの回転角から得られる前記ステアリングホイールの操舵角に基づき演算する第1の演算部と、前記ステアリングホイールの操作に伴いねじれるトーションバーのねじれ角から得られる操舵トルクおよび前記目標回転角に基づき前記指令値を演算する第2の演算部と、前記ねじれ角を補償値として前記操舵角に付加する第3の演算部と、を備えている。前記第3の演算部は、前記指令値の演算に使用される状態変数の変化の度合いに応じて、前記操舵角に付加するねじれ角の値を変更する。
【0008】
この構成によれば、指令値の演算に使用される状態変数の変化の度合いに応じて、操舵角に付加するねじれ角の値が変更される。このため、操舵角にねじれ角が付加されることによって指令値が急激に変化することが抑制される。したがって、良好な操舵感触を確保しつつも、ステアリングホイールの操作に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0009】
上記の操舵制御装置において、前記第2の演算部は、前記状態変数に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力を使用して前記指令値を演算してもよい。この場合、前記第3の演算部は、前記状態変数に対する前記軸力の変化の割合である傾きに応じて、前記操舵角に付加するねじれ角の値を変更するようにしてもよい。
【0010】
この構成によれば、指令値の演算に使用される状態変数に対する軸力の変化の割合である傾きに応じて、操舵角に付加するねじれ角の値が変更される。このため、操舵角にねじれ角が付加されることによって指令値が急激に変化することが抑制される。したがって、良好な操舵感触を確保しつつも、ステアリングホイールの操作に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0011】
上記の操舵制御装置において、前記第2の演算部は、前記状態変数に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力を使用して前記指令値を演算してもよい。この場合、前記第3の演算部は、前記状態変数に対する前記軸力の変化の割合である傾きに基づき、前記トーションバーのねじれ角を前記操舵角に付加するかどうかを切り替えるようにしてもよい。
【0012】
この構成によれば、指令値の演算に使用される状態変数に対する軸力の変化の割合である傾きに基づき、トーションバーのねじれ角を操舵角に付加するかどうかが切り替えられる。このため、操舵角にねじれ角が付加されることによって指令値が急激に変化することが抑制される。したがって、良好な操舵感触を確保しつつも、ステアリングホイールの操作に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0013】
上記の操舵制御装置において、前記軸力は、前記目標回転角に基づき演算される角度軸力であってもよい。
この構成によれば、角度軸力の変化の割合である傾きに応じて操舵角に付加するねじれ角の値が変更される、または、角度軸力の変化の割合である傾きに基づきトーションバーのねじれ角を操舵角に付加するかどうかが切り替えられる。
【0014】
上記の操舵制御装置において、前記軸力は、前記目標回転角に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である角度軸力、および前記転舵モータの電流の値に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である電流軸力に対して、前記目標回転角および車速に基づき個別に設定される配分比率を乗算した値を合算することにより得られる配分軸力であってもよい。
【0015】
この構成によれば、配分軸力の変化の割合である傾きに応じて操舵角に付加するねじれ角の値が変更される、または、配分軸力の変化の割合である傾きに基づきトーションバーのねじれ角を操舵角に付加するかどうかが切り替えられる。
【0016】
上記の操舵制御装置において、前記第2の演算部は、前記目標回転角に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である角度軸力、および前記転舵モータの電流の値に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である電流軸力に対して、前記目標回転角および車速に基づき個別に設定される配分比率を乗算した値を合算することにより得られる配分軸力を使用して前記指令値を演算してもよい。この場合、前記第3の演算部は、前記電流軸力に対して個別に設定される前記配分比率、および車両が旋回するときの加速度である横加速度に応じて、前記操舵角に付加するねじれ角の値を変更するようにしてもよい。
【0017】
この構成によれば、電流軸力に対して個別に設定される前記配分比率、および車両が旋回するときの加速度である横加速度に応じて、操舵角に付加するねじれ角の値が変更される。このため、操舵角にねじれ角が付加されることによって指令値が急激に変化することが抑制される。したがって、良好な操舵感触を確保しつつも、ステアリングホイールの操作に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0018】
上記の操舵制御装置において、前記第2の演算部は、前記目標回転角に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である角度軸力、および前記転舵モータの電流の値に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である電流軸力に対して、前記目標回転角および車速に基づき個別に設定される配分比率を乗算した値を合算することにより得られる配分軸力を使用して前記指令値を演算してもよい。この場合、前記第3の演算部は、前記電流軸力に対して個別に設定される前記配分比率、および車両が旋回するときの加速度である横加速度に基づき、前記トーションバーのねじれ角を前記操舵角に付加するかどうかを切り替えるようにしてもよい。
【0019】
この構成によれば、電流軸力に対して個別に設定される配分比率、および車両が旋回するときの加速度である横加速度に基づき、トーションバーのねじれ角を操舵角に付加するかどうかが切り替えられる。このため、操舵角にねじれ角が付加されることによって指令値が急激に変化することが抑制される。したがって、良好な操舵感触を確保しつつも、ステアリングホイールの操作に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0020】
上記の操舵制御装置において、前記第3の演算部は、前記操舵角に対する前記目標回転角の変化の割合である傾きに応じて、前記操舵角に付加するねじれ角の値を変更するようにしてもよい。
【0021】
この構成によれば、操舵角に対する目標回転角の変化の割合である傾きに応じて、操舵角に付加するねじれ角の値が変更される。このため、操舵角にねじれ角が付加されることによって指令値が急激に変化することが抑制される。したがって、良好な操舵感触を確保しつつも、ステアリングホイールの操作に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0022】
上記の操舵制御装置において、前記第3の演算部は、前記操舵角に対する前記目標回転角の変化の割合である傾きに基づき、前記トーションバーのねじれ角を前記操舵角に付加するかどうかを切り替えるようにしてもよい。
【0023】
この構成によれば、操舵角に対する目標回転角の変化の割合である傾きに基づき、トーションバーのねじれ角を操舵角に付加するかどうかが切り替えられる。このため、操舵角にねじれ角が付加されることによって指令値が急激に変化することが抑制される。したがって、良好な操舵感触を確保しつつも、ステアリングホイールの操作に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0024】
上記の操舵制御装置において、前記第2の演算部は、前記目標回転角に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である角度軸力、および前記転舵モータの電流の値に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である電流軸力に対して、前記目標回転角および車速に基づき個別に設定される配分比率を乗算した値を合算することにより得られる配分軸力を使用して前記指令値を演算してもよい。この場合、前記第3の演算部は、前記電流軸力に対して個別に設定される前記配分比率に応じて、前記操舵角に付加するねじれ角の値を変更するようにしてもよい。
【0025】
この構成によれば、電流軸力に対して個別に設定される前記配分比率に応じて、操舵角に付加するねじれ角の値が変更される。このため、操舵角にねじれ角が付加されることによって指令値が急激に変化することが抑制される。したがって、良好な操舵感触を確保しつつも、ステアリングホイールの操作に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0026】
上記の操舵制御装置において、前記第2の演算部は、前記目標回転角に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である角度軸力、および前記転舵モータの電流の値に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である電流軸力に対して、前記目標回転角および車速に基づき個別に設定される配分比率を乗算した値を合算することにより得られる配分軸力を使用して前記指令値を演算してもよい。この場合、前記第3の演算部は、前記電流軸力に対して個別に設定される前記配分比率に基づき、前記トーションバーのねじれ角を前記操舵角に付加するかどうかを切り替えるようにしてもよい。
【0027】
この構成によれば、電流軸力に対して個別に設定される配分比率に基づき、トーションバーのねじれ角を操舵角に付加するかどうかが切り替えられる。このため、操舵角にねじれ角が付加されることによって指令値が急激に変化することが抑制される。したがって、良好な操舵感触を確保しつつも、ステアリングホイールの操作に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0028】
上記の操舵制御装置において、前記第2の演算部は、前記目標回転角に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である角度軸力、および前記転舵モータの電流の値に基づき演算される前記転舵シャフトの軸力である電流軸力に対して、前記目標回転角および車速に基づき個別に設定される配分比率を乗算した値を合算することにより得られる配分軸力を使用して前記指令値を演算してもよい。この場合、前記第3の演算部は、前記目標回転角に対する前記電流軸力の変化の割合である第1の傾き、および前記目標回転角に対する前記配分軸力の変化の割合である第2の傾きに応じて、前記操舵角に付加するねじれ角の値を変更するようにしてもよい。
【0029】
この構成によれば、目標回転角に対する電流軸力の変化の割合である第1の傾き、および目標回転角に対する配分軸力の変化の割合である第2の傾きに応じて、操舵角に付加するねじれ角の値が変更される。このため、操舵角にねじれ角が付加されることによって指令値が急激に変化することが抑制される。したがって、良好な操舵感触を確保しつつも、ステアリングホイールの操作に対する転舵応答性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の操舵制御装置によれば、良好な操舵感触を確保しつつも、ステアリングホイールの操作に対する転舵応答性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】操舵制御装置の第1の実施の形態が搭載される操舵装置の構成図。
【
図3】第1の実施の形態の操舵角と目標ピニオン角との関係を示すグラフ。
【
図4】第1の実施の形態の操舵反力指令値演算部のブロック図。
【
図5】第1の実施の形態の目標ピニオン角と角度軸力との関係を示すグラフ。
【
図6】第1の実施の形態の補償値演算部のブロック図。
【
図7】第2の実施の形態の補償値演算部のブロック図。
【
図8】第2の実施の形態の目標ピニオン角に対する角度軸力の変化の割合である傾きとゲインとの関係を示すグラフ。
【
図9】第3の実施の形態の軸力演算部のブロック図。
【
図10】第3の実施の形態の補償値演算部のブロック図。
【
図11】第4の実施の形態の補償値演算部のブロック図。
【
図12】第4の実施の形態の横加速度とゲインとの関係を示すグラフ。
【
図13】第4の実施の形態の電流軸力の配分比率とゲインとの関係を示すグラフ。
【
図14】第5の実施の形態の補償値演算部のブロック図。
【
図15】第6の実施の形態の補償値演算部のブロック図。
【
図16】第6の実施の形態の操舵角に対する目標ピニオン角の変化の割合である傾きとゲインとの関係を示すグラフ。
【
図17】第7の実施の形態の補償値演算部のブロック図。
【
図18】第8の実施の形態の補償値演算部のブロック図。
【
図19】第8の実施の形態の軸力勾配とゲインとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<第1の実施の形態>
以下、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第1の実施の形態を説明する。
【0033】
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を有している。また、操舵装置10は、車幅方向(
図1中の左右方向)に沿って延びる転舵シャフト14を有している。転舵シャフト14の両端には、それぞれタイロッド15,15を介して左右の転舵輪16,16が連結されている。転舵シャフト14が直線運動することにより、転舵輪16,16の転舵角θ
wが変更される。ステアリングシャフト12および転舵シャフト14は車両の操舵機構を構成する。
【0034】
また、操舵装置10は、操舵反力を生成するための構成として、反力モータ31、減速機構32、回転角センサ33、およびトルクセンサ34を有している。ちなみに、操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操舵方向と反対方向へ向けて作用する力をいう。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0035】
反力モータ31は、操舵反力の発生源である。反力モータ31としてはたとえば三相のブラシレスモータが採用される。反力モータ31の回転軸は、減速機構32を介してステアリングシャフト12に連結されている。反力モータ31のトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト12に付与される。
【0036】
回転角センサ33は反力モータ31に設けられている。回転角センサ33は、反力モータ31の回転角θaを検出する。反力モータ31の回転角θaは、操舵角θsの演算に使用される。反力モータ31とステアリングシャフト12とは減速機構32を介して連動する。このため、反力モータ31の回転角θaとステアリングシャフト12の回転角、ひいてはステアリングホイール11の回転角である操舵角θsとの間には相関がある。したがって、反力モータ31の回転角θaに基づき操舵角θsを求めることができる。
【0037】
トルクセンサ34は、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト12に加わるトルクである操舵トルクThを検出する。トルクセンサ34は、ステアリングシャフト12の途中に設けられるトーションバー34Aの捻じれ量に基づきステアリングシャフト12に印加される操舵トルクThを検出する。トルクセンサ34は、ステアリングシャフト12における減速機構32よりもステアリングホイール11側の部分に設けられている。
【0038】
また、操舵装置10は、転舵輪16,16を転舵させるための動力である転舵力を生成するための構成として、転舵モータ41、減速機構42、および回転角センサ43を有している。
【0039】
転舵モータ41は転舵力の発生源である。転舵モータ41としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。転舵モータ41の回転軸は、減速機構42を介してピニオンシャフト44に連結されている。ピニオンシャフト44のピニオン歯44aは、転舵シャフト14のラック歯14bに噛み合わされている。転舵モータ41のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト44を介して転舵シャフト14に付与される。転舵モータ41の回転に応じて、転舵シャフト14は
図1中の左右方向である車幅方向に沿って移動する。
【0040】
回転角センサ43は転舵モータ41に設けられている。回転角センサ43は転舵モータ41の回転角θbを検出する。
ちなみに、操舵装置10は、ピニオンシャフト13を有している。ピニオンシャフト13は、転舵シャフト14に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト13のピニオン歯13aは、転舵シャフト14のラック歯14aに噛み合わされている。ピニオンシャフト13を設ける理由は、ピニオンシャフト44と共に転舵シャフト14を図示しないハウジングの内部に支持するためである。すなわち、操舵装置10に設けられる図示しない支持機構によって、転舵シャフト14は、その軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオンシャフト13,44へ向けて押圧される。これにより、転舵シャフト14はハウジングの内部に支持される。ただし、ピニオンシャフト13を使用せずに転舵シャフト14をハウジングに支持する他の支持機構を設けてもよい。
【0041】
また、操舵装置10は、制御装置50を有している。制御装置50は、車載される各種のセンサの検出結果に基づき反力モータ31、および転舵モータ41を制御する。センサとしては、前述した回転角センサ33、トルクセンサ34および回転角センサ43に加えて、車速センサ501がある。車速センサ501は、車両の走行速度である車速Vを検出する。
【0042】
制御装置50は、反力モータ31の制御を通じて操舵トルクThに応じた操舵反力を発生させる反力制御を実行する。制御装置50は操舵トルクThおよび車速Vに基づき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力に基づき操舵反力指令値を演算する。制御装置50は、操舵反力指令値に応じた操舵反力を発生させるために必要とされる電流を反力モータ31へ供給する。
【0043】
制御装置50は、転舵モータ41の制御を通じて転舵輪16,16を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。制御装置50は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θbに基づきピニオンシャフト44の実際の回転角であるピニオン角θpを演算する。このピニオン角θpは、転舵輪16,16の転舵角θwを反映する値である。また、制御装置50は、回転角センサ33を通じて検出される反力モータ31の回転角θaに基づき操舵角θsを演算し、この演算される操舵角θsに基づきピニオン角θpの目標値である目標ピニオン角を演算する。そして制御装置50は、目標ピニオン角と実際のピニオン角θpとの偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する。
【0044】
<制御装置>
つぎに、制御装置50について詳細に説明する。
図2に示すように、制御装置50は、反力制御を実行する反力制御部50a、および転舵制御を実行する転舵制御部50bを有している。
【0045】
反力制御部50aは、操舵角演算部51、操舵反力指令値演算部52、および通電制御部53を有している。
操舵角演算部51は、回転角センサ33を通じて検出される反力モータ31の回転角θaに基づきステアリングホイール11の操舵角θsを演算する。
【0046】
操舵反力指令値演算部52は、操舵トルクThおよび車速Vに基づき操舵反力指令値T*を演算する。操舵反力指令値T*は、反力モータ31に発生させるトルクの目標値に対応する値である。反力モータ31に発生させるトルクは、ステアリングホイール11の操舵方向と反対方向のトルクである。操舵反力指令値演算部52は、操舵トルクThの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値の操舵反力指令値T*を演算する。
【0047】
通電制御部53は、操舵反力指令値T*に応じた電力を反力モータ31へ供給する。通電制御部53は、操舵反力指令値T*に基づき反力モータ31に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部53は、反力モータ31に対する給電経路に設けられた電流センサ54を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流Iaの値を検出する。この電流Iaの値は、反力モータ31に供給される実際の電流の値である。通電制御部53は、電流指令値と実際の電流Iaの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ31に対する給電を制御する。これにより、反力モータ31は操舵反力指令値T*に応じたトルクを発生する。運転者に対して路面反力に応じた適度な手応え感を与えることが可能である。
【0048】
転舵制御部50bは、ピニオン角演算部61、目標ピニオン角演算部62、ピニオン角フィードバック制御部63、および通電制御部64を有している。
ピニオン角演算部61は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θbに基づきピニオンシャフト44の実際の回転角であるピニオン角θpを演算する。転舵モータ41とピニオンシャフト44とは減速機構42を介して連動する。このため、転舵モータ41の回転角θbとピニオン角θpとの間には相関関係がある。この相関関係を利用して転舵モータ41の回転角θbからピニオン角θpを求めることができる。また、ピニオンシャフト44は、転舵シャフト14に噛合されている。このため、ピニオン角θpと転舵シャフト14の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θpは、転舵輪16,16の転舵角θwを反映する値である。
【0049】
目標ピニオン角演算部62は、操舵角演算部51により演算される操舵角θsに基づき目標ピニオン角θp
*を演算する。目標ピニオン角θp
*は、ピニオン角θpの目標値である。目標ピニオン角演算部62は、操舵性の確保を目的として、舵角比を操舵角θsに応じて変更する観点に基づき目標ピニオン角θp
*を演算する。舵角比とは、操舵角θsに対する転舵角θwの比をいう。目標ピニオン角演算部62は操舵角θsの絶対値が大きいほど、舵角比の値がより小さくなるように目標ピニオン角θp
*を演算する。
【0050】
舵角比の値が大きいほど、ステアリングホイール11を操作したときの転舵輪16の転舵角θwがより小さく緩慢(スロー)になる。直進走行時に車線変更などを行う際には、ステアリングホイール11の操舵量に対して車両旋回量がより小さく抑制されるため、車両の操縦安定性が確保される。また、舵角比の値が小さいほど、ステアリングホイール11を操作したときの転舵輪16の転舵角θwがより大きく機敏(クイック)になる。車庫入れなどを行う際には、ステアリングホイール11の操舵量に対してより大きい車両旋回量が得られるため、車両の取り回し性が確保される。
【0051】
目標ピニオン角演算部62は、たとえば
図3のグラフに示されるマップM1を使用して目標ピニオン角θ
p
*を演算する。マップM1は制御装置50の記憶装置に格納される。マップM1は、横軸を操舵角θ
sの絶対値、縦軸を目標ピニオン角θ
p
*の絶対値とする二次元マップであって、つぎの特性を有する。すなわち、操舵角θ
sの絶対値が増加するほど、目標ピニオン角θ
p
*の絶対値はより大きい値に設定される。ただし、操舵角θ
sの絶対値が増加するほど、操舵角θ
sに対する目標ピニオン角θ
p
*の変化の割合である傾きは徐々に小さくなる。換言すると、操舵角θ
sの絶対値と目標ピニオン角θ
p
*の絶対値との関係を示す
図3の特性線は、正の逓減的な傾きを有する曲線である。この
図3のグラフの特性線の傾きは舵角比を示す。
【0052】
ちなみに、目標ピニオン角演算部62は、車速センサ501を通じて検出される車速Vに応じて舵角比を変更する観点に基づき目標ピニオン角θp
*を演算するようにしてもよい。目標ピニオン角演算部62は、車速Vが遅くなるほど操舵角θsに対する転舵角θwがより大きくなるように、目標ピニオン角θp
*を演算する。低速域で車庫入れなどを行う際には、ステアリングホイールの操舵量に対してより大きい車両旋回量が得られるため、車両の取り回し性が確保される。また、目標ピニオン角演算部62は、車速Vが速くなるほど操舵角θsに対する転舵角θwがより小さくなるように、目標ピニオン角θp
*を演算する。高速走行時に車線変更などを行う際には、ステアリングホイールの操舵量に対して車両旋回量がより小さく抑制されるため、車両の操縦安定性が確保される。
【0053】
図2に示すように、ピニオン角フィードバック制御部63は、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θ
p
*、およびピニオン角演算部61により演算される実際のピニオン角θ
pを取り込む。ピニオン角フィードバック制御部63は、実際のピニオン角θ
pを目標ピニオン角θ
p
*に追従させるべくピニオン角θ
pのフィードバック制御を通じてピニオン角指令値T
p
*を演算する。
【0054】
通電制御部64は、ピニオン角指令値Tp
*に応じた電力を転舵モータ41へ供給する。通電制御部64は、ピニオン角指令値Tp
*に基づき転舵モータ41に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部64は、転舵モータ41に対する給電経路に設けられた電流センサ65を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流Ibの値を検出する。この電流Ibの値は、転舵モータ41に供給される実際の電流の値である。通電制御部64は、電流指令値と実際の電流Ibの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する(電流Ibのフィードバック制御)。これにより、転舵モータ41はピニオン角指令値Tp
*に応じた角度だけ回転する。
【0055】
<操舵反力指令値演算部>
つぎに、操舵反力指令値演算部52について詳細に説明する。
図4に示すように、操舵反力指令値演算部52は、操舵力演算部71、軸力演算部72、および減算器73を有している。
【0056】
操舵力演算部71は、操舵トルクThおよび車速Vに基づき操舵力T1を演算する。操舵力T1は、ステアリングホイール11の操舵方向と同じ方向のトルクである。操舵力T1は、操舵装置10が電動パワーステアリング装置であるとした場合のアシストトルクに相当する。アシストトルクは、ステアリングホイール11の操舵を補助するための力である。操舵力演算部71は、操舵トルクThの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値の操舵力T1を演算する。
【0057】
軸力演算部72は、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θp
*を取り込む。軸力演算部72は、その取り込まれる目標ピニオン角θp
*に基づき転舵シャフト14に作用する軸力を演算する。軸力演算部72は、目標ピニオン角θp
*に基づき演算される軸力をステアリングホイール11あるいはステアリングシャフト12に対するトルクに換算することにより軸力トルクT2を演算する。
【0058】
軸力演算部72は、たとえば
図5に示されるマップM2を使用して角度軸力F1を演算する。マップM2は、制御装置50の記憶装置に格納される。角度軸力F1は、転舵シャフト14に作用する軸力の理想値である。また、角度軸力F1は、路面状態あるいは路面から転舵シャフト14に作用する力が反映されない軸力である。
【0059】
図5のグラフに示すように、マップM2は、横軸を目標ピニオン角θ
p
*の絶対値、縦軸を角度軸力F1の絶対値とする二次元マップであって、つぎの特性を有する。すなわち、目標ピニオン角θ
p
*の絶対値が増加するほど、角度軸力F1の絶対値はより大きい値に設定される。ただし、目標ピニオン角θ
p
*の絶対値が増加するほど、目標ピニオン角θ
p
*に対する角度軸力F1の変化の割合である傾きは徐々に小さくなる。換言すると、目標ピニオン角θ
p
*の絶対値と角度軸力F1の絶対値との関係を示す
図5の特性線は、正の逓減的な傾きを有する曲線である。角度軸力F1は、目標ピニオン角θ
p
*の符号と同符号に設定される。
【0060】
軸力演算部72は、マップM2を使用して演算される角度軸力F1をトルクに換算することにより軸力トルクT2を演算する。
減算器73は、操舵力演算部71により演算される操舵力T1から軸力演算部72により演算される軸力トルクT2を減算することにより、操舵反力指令値T*を演算する。
【0061】
<転舵応答性および操舵感触の確保>
このように構成した制御装置50によれば、操舵力T1および軸力トルクT2が操舵反力指令値T*に反映されることによって、ステアリングホイール11の操舵状態あるいは転舵輪16の転舵状態に応じた操舵反力をステアリングホイール11に付与することが可能となる。このため、運転者は、ステアリングホイール11を介した操舵反力を手応えとして感じることにより車両挙動を把握することが可能となる。
【0062】
ところが、制御装置50においては、つぎのようなことが懸念される。すなわち、制御装置50には、製品仕様などに応じて、ステアリングホイール11の操舵に対する転舵輪16の応答性をより向上させることが求められることがある。このため、たとえば制御装置50にトーションバー34Aのねじれに対する補償機能を持たせることが考えられる。具体的には、操舵角演算部51により演算される操舵角θsに対してトーションバー34Aのねじれ角を付加する。これは、つぎの観点に基づく。
【0063】
すなわち、制御装置50は、反力モータ31の回転角θaに基づき操舵角θsを演算し、この演算される操舵角θsに基づき目標ピニオン角θp
*を演算する。このため、ステアリングホイール11が操舵されるとき、トーションバー34Aがねじれる分だけ、ステアリングホイール11の位相に対して目標ピニオン角θp
*に位相遅れが発生する。目標ピニオン角θp
*は、ピニオン角θpの制御目標値であるため、転舵輪16の転舵にも位相遅れが発生する。
【0064】
そこで、操舵角演算部51により演算される操舵角θsに対してトーションバー34Aのねじれ角を付加することにより、ピニオン角θpの制御目標値である目標ピニオン角θp
*の位相を早めることが可能である。このため、トーションバー34Aのねじれに起因する目標ピニオン角θp
*、ひいては転舵輪16の位相の遅れを抑制することが可能である。したがって、ステアリングホイール11の操舵に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0065】
しかし、制御装置50は、目標ピニオン角θp
*に基づく角度軸力F1を使用して反力モータ31を制御する。このため、ステアリングホイール11の操舵に対する操舵反力の応答は、目標ピニオン角θp
*の応答によって決まる。したがって、転舵応答性が目標とする応答性に適合するように目標ピニオン角θp
*を調整する場合、その目標ピニオン角θp
*の設定が操舵反力にも影響する。ところが、目標の転舵応答性を得るための調整が、逆に操舵反力の応答性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0066】
たとえば、前述したように転舵応答性を向上させることを目的として操舵角θ
sにトーションバー34Aのねじれ角を付加することにより目標ピニオン角θ
p
*を調整する場合、操舵反力の応答性が高くなりすぎることが懸念される。特に、目標ピニオン角θ
p
*の値が、先の
図5のグラフに示されるマップM2の特性線の傾きがより大きい領域の値であるときほど、角度軸力F1の絶対値、ひいては操舵反力指令値T
*が急激に変化するおそれがある。したがって、ステアリングホイール11の操舵感触が低下し、運転者に違和感を与えるおそれがある。
【0067】
そこで、本実施の形態では、制御装置50として、つぎの構成を採用している。
<ねじれ角に対する補償値演算部>
図6に示すように、制御装置50は、補償値演算部81を有している。補償値演算部81は、たとえば転舵制御部50bに設けられる。補償値演算部81は、トーションバー34Aのねじれ角を補償するための補償値を演算する。
【0068】
補償値演算部81は、ねじれ角演算部81A、判定部81B、スイッチ81Cおよび加算器81Dを有している。
ねじれ角演算部81Aは、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクThに基づきトーションバー34Aのねじれ角δを演算する。ねじれ角演算部81Aは、たとえば操舵トルクThをトーションバー34Aのねじり剛性の逆数を乗算することによりねじれ角δを演算する。
【0069】
判定部81Bは、トーションバー34Aのねじれ角δを補償するべき状況であるかどうか、すなわち操舵角θsにねじれ角δを付加するべき状況であるかどうかを判定する。判定部81Bは、目標ピニオン角θp
*に対する角度軸力F1の変化の割合である傾きαを軸力演算部72から取り込む。軸力演算部72は、たとえば単位時間当たりの角度軸力F1の変化量を単位時間当たりの目標ピニオン角θp
*の変化量を除することにより傾きαを演算する。
【0070】
判定部81Bは、傾きαの値と傾きしきい値αthとの比較を通じて、操舵角θsにトーションバー34Aのねじれ角δを付加するべき状況であるかどうかを判定する。操舵角θsにトーションバー34Aのねじれ角δを付加するべき状況とは、たとえば操舵反力の応答性が過剰に高まることなく許容レベルに維持される状況である。すなわち、操舵角θsにトーションバー34Aのねじれ角δを付加して目標ピニオン角θp
*を調整する場合であれ、この調整される目標ピニオン角θp
*の変化に伴い角度軸力F1の絶対値、ひいては操舵反力指令値T*が急激に変化する蓋然性がより低い状況である。このような状況下においては、転舵応答性を高める観点から、操舵角θsにトーションバー34Aのねじれ角δを付加することにより目標ピニオン角θp
*を調整することが好ましい。傾きしきい値αthは、たとえばシミュレーションを通じて設定される。傾きしきい値αthは、たとえば目標ピニオン角θp
*が転舵中立位置に対応する「0°」の近傍値に設定されるときの傾きαを基準として設定される。
【0071】
判定部81Bは、軸力演算部72から取り込まれる傾きαの値が傾きしきい値αth以下の値であるとき、フラグFGの値を「1」にセットする。また、判定部81Bは、軸力演算部72から取り込まれる傾きαの値が傾きしきい値αthよりも大きい値であるとき、フラグFGの値を「0」にセットする。
【0072】
スイッチ81Cは、データ入力として、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δ、および制御装置50の記憶装置に格納された固定値である値「0」を取り込む。また、スイッチ81Cは、制御入力として、判定部81BによりセットされるフラグFGの値を取り込む。スイッチ81Cは、フラグFGの値に基づき、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δ、および固定値である値「0」のうちいずれか一方を、操舵角θsに付加する最終的なねじれ角δ1として選択する。スイッチ81Cは、フラグFGの値が「1」であるとき、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δを最終的なねじれ角δ1として選択する。また、スイッチ81Cは、フラグFGの値が「0」であるとき、固定値である「0」を最終的なねじれ角δ1として選択する。ちなみに、最終的なねじれ角δ1は、トーションバー34Aのねじれ角δを補償するための補償値である。
【0073】
加算器81Dは、操舵角演算部51により演算される操舵角θsと、スイッチ81Cにより選択される最終的なねじれ角δ1とを加算することにより、目標ピニオン角θp
*の演算に使用される最終的な操舵角θs1を演算する。傾きαの値が傾きしきい値αth以下の値であるとき、すなわちフラグFGの値が「1」であるとき、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δが最終的なねじれ角δ1として操舵角θsに加算される。傾きαの値が傾きしきい値αthよりも大きい値であるとき、すなわちフラグFGの値が「0」であるとき、固定値である値「0」が最終的なねじれ角δ1として操舵角θsに加算される。
【0074】
<第1の実施の形態の作用>
つぎに、第1の実施の形態の作用を説明する。
前述したように、傾きαの値が傾きしきい値αth以下の値であるとき、操舵角演算部51により演算される操舵角θsにトーションバー34Aのねじれ角δが加算されることにより目標ピニオン角θp
*が調整される。これにより、ピニオン角θpの制御目標値である目標ピニオン角θp
*の位相が早められる。このため、トーションバー34Aのねじれに起因する目標ピニオン角θp
*、ひいては転舵輪16の位相の遅れが抑制される。したがって、ステアリングホイール11の操舵に対する転舵応答性が向上する。
【0075】
傾きαの値が傾きしきい値αth以下の値であるときは、操舵角θsにトーションバー34Aのねじれ角δを付加して目標ピニオン角θp
*を調整しても操舵反力の応答性が過剰に高まる蓋然性が低い。このため、目標ピニオン角θp
*の変化に伴い角度軸力F1の絶対値、ひいては操舵反力指令値T*が急激に変化することが抑制される。したがって、ステアリングホイール11を介した良好な操舵感触が得られる。運転者に違和感を与えることもない。
【0076】
これに対し、傾きαの値が傾きしきい値αthよりも大きい値であるときは、操舵角θsにトーションバー34Aのねじれ角δを付加して目標ピニオン角θp
*を調整することによって操舵反力の応答性が過剰に高まる蓋然性が高い。このため、傾きαの値が傾きしきい値αthよりも大きい値であるとき、操舵角演算部51により演算される操舵角θsに対してトーションバー34Aのねじれ角δが加算されない。すなわち、操舵角演算部51により演算される操舵角θsがそのまま最終的な操舵角θs1として目標ピニオン角θp
*の演算に使用される。これにより、操舵反力の応答性が過剰に高まることが抑制される。また、目標ピニオン角θp
*の変化に伴い角度軸力F1の絶対値、ひいては操舵反力指令値T*が急激に変化することが抑制される。したがって、ステアリングホイール11を介した良好な操舵感触が得られる。運転者に違和感を与えることもない。
【0077】
<第1の実施の形態の効果>
したがって、第1の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)目標ピニオン角θp
*に対する角度軸力F1の変化の割合である傾きαに応じて操舵角θsにトーションバー34Aのねじれ角δを付加するかどうかを切り替える。これにより、良好な操舵感触を確保しつつもステアリングホイール11の操舵に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0078】
<第2の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の
図1~
図5に示される先の第1の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、補償値演算部81の構成の点で第1の実施の形態と異なる。したがって、第1の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0079】
図7に示すように、補償値演算部81は、ねじれ角演算部81A、ゲイン演算部81E、乗算器81Fおよび加算器81Dを有している。
ねじれ角演算部81Aは、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT
hに基づきトーションバー34Aのねじれ角δを演算する。
【0080】
ゲイン演算部81Eは、目標ピニオン角θp
*に対する角度軸力F1の変化の割合である傾きαを軸力演算部72から取り込む。ゲイン演算部81Eは、傾きαに応じてゲインGを演算する。ゲイン演算部81Eは、制御装置50の記憶装置に格納されたマップM3を使用してゲインGを演算する。マップM3は、傾きαとゲインGとの関係を規定する二次元マップであって、つぎのような特性を有している。
【0081】
すなわち、
図8のグラフに示すように、傾きαが傾きしきい値α
th以下の値である場合、ゲインGの値は「1」に維持される。傾きαの値が傾きしきい値α
thよりも大きい値である場合、傾きαの値が増加するにつれてゲインGの値は「0」へ向けて徐々に減少し、やがて「0」に達する。ゲインGの値が「0」に達した以降、傾きαの値の増加にかかわらずゲインGの値は「0」に維持される。ちなみに、ゲインGは、「0」~「1」の範囲において、たとえば「0.1」刻みで設定することが可能である。
【0082】
乗算器81Fは、ねじれ角演算部81Aにより演算されるトーションバー34Aのねじれ角δと、ゲイン演算部81Eにより演算されるゲインGとを乗算することにより、最終的なねじれ角δ2を演算する。傾きαが傾きしきい値αth以下の値である場合、ゲインGの値は「1」に設定される。このため、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δがそのまま最終的なねじれ角δ2となる。傾きαの値が傾きしきい値αthよりも大きい値である場合、ゲインGの値は、傾きαの値に応じて「1」未満の値または「0」に設定される。このため、最終的なねじれ角δ2の値は、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δよりも小さい値、あるいは「0」となる。
【0083】
加算器81Dは、操舵角演算部51により演算される操舵角θsと、乗算器81Fにより演算される最終的なねじれ角δ2とを加算することにより、目標ピニオン角θp
*の演算に使用される最終的な操舵角θs1を演算する。傾きαが傾きしきい値αth以下の値である場合、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δが最終的なねじれ角δ2として操舵角θsに加算される。傾きαの値が傾きしきい値αthよりも大きい値であるとき、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δよりも小さい値、あるいは「0」が最終的なねじれ角δ2として操舵角θsに加算される。
【0084】
<第2の実施の形態の効果>
したがって、第2の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(2)目標ピニオン角θp
*に対する角度軸力F1の変化の割合である傾きαに応じて、操舵角θsに付加されるトーションバー34Aのねじれ角δの値が変更される。すなわち、操舵角θsに対するトーションバー34Aのねじれ角δの反映度合いが傾きαに応じて変更される。これにより、良好な操舵感触を確保しつつもステアリングホイール11の操舵に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0085】
<第3の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第3の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の
図1~
図5に示される先の第1の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、軸力演算部72および補償値演算部81の構成の点で第1の実施の形態と異なる。したがって、第1の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0086】
図9に示すように、軸力演算部72は、角度軸力演算部72A、電流軸力演算部72B、配分比率演算部72C、配分軸力演算部72D、および換算器72Eを有している。
角度軸力演算部72Aは、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θ
p
*に基づき角度軸力F1を演算する。角度軸力演算部72Aは、先の
図5に示されるマップM2を使用して角度軸力F1を演算する。
【0087】
電流軸力演算部72Bは、転舵モータ41の電流Ibの値に基づき電流軸力F2を演算する。電流軸力は、電流Ibの値に基づく軸力の推定値である。転舵モータ41の電流Ibの値は、路面摩擦抵抗などの路面状態に応じた外乱が転舵輪16に作用することに起因して目標ピニオン角θp
*と実際のピニオン角θpとの間に発生する差によって変化する。すなわち、転舵モータ41の電流Ibの値には、実際の路面状態が反映される。このため、転舵モータ41の電流Ibの値に基づき路面状態の影響を反映した軸力を演算することが可能である。電流軸力F2は、たとえば所定の係数であるゲインを転舵モータ41の電流Ibの値に乗算することにより求められる。電流軸力F2は、路面状態あるいは転舵輪16を介して転舵シャフト14に作用する力が反映される軸力である。
【0088】
配分比率演算部72Cは、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θp
*、および車速センサ501を通じて検出される車速Vに基づき、角度軸力F1の配分比率DR1および電流軸力F2の配分比率DR2を演算する。配分比率演算部72Cは、製品仕様などに基づき、2つの配分比率DR1,DR2の値を「0」~「1」の範囲において、たとえば「0.1」刻みで設定することが可能である。ただし、配分比率演算部72Cは、2つの配分比率DR1,DR2の合計が「1」となるように、2つの配分比率DR1,DR2の値をそれぞれ設定する。
【0089】
配分比率演算部72Cは、たとえば目標ピニオン角θp
*の絶対値が増加するほど、角度軸力F1の配分比率DR1をより小さい値に設定する一方、電流軸力F2の配分比率DR2をより大きい値に設定する。すなわち、配分比率演算部72Cは、目標ピニオン角θp
*の絶対値が減少するほど、角度軸力F1の配分比率DR1をより大きい値に設定する一方、電流軸力F2の配分比率DR2をより小さい値に設定する。
【0090】
また、配分比率演算部72Cは、たとえば車速Vが速いときほど、角度軸力F1の配分比率DR1をより大きい値に設定する一方、電流軸力F2の配分比率DR2をより小さい値に設定する。すなわち、配分比率演算部72Cは、車速Vが遅いときほど、角度軸力F1の配分比率FR1をより小さい値に設定する一方、電流軸力F2の配分比率DR2をより大きい値に設定する。
【0091】
配分軸力演算部72Dは、角度軸力F1に対して個別に設定される配分比率DR1を乗算するとともに電流軸力F2に対して個別に設定される配分比率DR2を乗算し、これら乗算した値を合算することにより配分軸力F3を演算する。配分軸力F3は、操舵反力指令値T*に反映させる最終的な軸力である。配分比率DR1は、角度軸力F1を配分軸力F3に反映させる度合いを示す値でもある。配分比率DR2は、電流軸力F2を配分軸力F3に反映させる度合いを示す値でもある。
【0092】
換算器72Eは、配分軸力演算部72Dにより演算される配分軸力F3をステアリングホイール11あるいはステアリングシャフト12に対するトルクに換算することにより軸力トルクT2を演算する。
【0093】
このように構成した制御装置50によれば、軸力演算部72により演算される配分軸力F3をトルクに換算した軸力トルクT2が操舵反力指令値T*に反映されることによって、車両挙動あるいは路面状態に応じた操舵反力をステアリングホイール11に付与することが可能となる。このため、運転者は、ステアリングホイール11を介した操舵反力を手応えとして感じることにより車両挙動あるいは路面状態を把握することが可能となる。
【0094】
図10に示すように、補償値演算部81は、先の第1の実施の形態と同様に、ねじれ角演算部81A、判定部81B、スイッチ81Cおよび加算器81Dを有している。ただし、判定部81Bにより実行される判定処理については第1の実施の形態と異なる。
【0095】
判定部81Bは、目標ピニオン角θp
*に対する角度軸力F1の変化の割合である傾きαの値が、たとえば先の傾きしきい値αthを超える程度の大きい値であるかどうかを間接的に判定する。ここでは、たとえばつぎの2つの条件(A1),(A2)が共に成立する場合、傾きαの値が傾きしきい値αthを超える程度の大きい値となることに着目する。
【0096】
(A1)転舵シャフト14に作用する軸力が「0」の近傍値であること。
(A2)車両が停止した状態、すなわち車速Vが「0」の近傍値であること。
判定部81Bは、2つの条件(A1),(A2)が成立するかどうかを横加速度LAおよび電流軸力F2の配分比率DR2に基づき判定し、その判定結果に基づきトーションバー34Aのねじれ角δを補償するかどうか判定する。
【0097】
横加速度LAは、車両が旋回するときの加速度であって、車載の横加速度センサ502を通じて検出される。横加速度LAと転舵シャフト14に作用する軸力とは、互いに相関関係を有する。たとえば横加速度LAの増加に伴い、転舵シャフト14に作用する軸力は増加する。逆に、横加速度LAの減少に伴い、転舵シャフト14に作用する軸力は減少する。このため、横加速度LAから転舵シャフト14に作用する軸力の程度を認識することが可能である。
【0098】
配分比率DR2は、車速Vに応じて設定される。たとえば、車速Vが遅いときほど、電流軸力F2の配分比率DR2はより大きい値に設定される。また、車速Vが速いときほど、電流軸力F2の配分比率DR2はより小さい値に設定される。このため、配分比率DR2から車速Vの程度を認識することが可能である。
【0099】
判定部81Bは、車載の横加速度センサ502を通じて検出される横加速度LA、および配分比率演算部72Cにより演算される配分比率DR2を取り込む。
判定部81Bは、横加速度LAと横加速度しきい値LAthとの比較を通じて、先の条件(A1)が成立するかどうかを判定する。横加速度しきい値LAthは、たとえばシミュレーションを通じて設定される。横加速度しきい値LAthは、たとえば転舵シャフト14に作用する軸力の値が「0」の近傍値になるときの横加速度LAを基準として設定される。
【0100】
判定部81Bは、横加速度LAの値が横加速度しきい値LAthよりも大きい値であるとき、転舵シャフト14に作用する軸力は「0」の近傍値ではない、すなわち先の条件(A1)が成立しない旨判定する。これに対し、判定部81Bは、横加速度LAの値が横加速度しきい値LAth以下の値であるとき、転舵シャフト14に作用する軸力は「0」の近傍値である、すなわち先の条件(A1)が成立する旨判定する。
【0101】
判定部81Bは、電流軸力F2の配分比率DR2と配分比率しきい値DRthとの比較を通じて、先の条件(A2)が成立するかどうかを判定する。配分比率しきい値DRthは、たとえば車速Vの値が「0」であるときの配分比率DR2を基準として設定される。配分比率しきい値DRthは、たとえば「1」あるいは「1」よりも若干小さい値に設定される。
【0102】
判定部81Bは、電流軸力F2の配分比率DR2の値が配分比率しきい値DRth以下の値であるとき、車両は停止した状態ではない、すなわち先の条件(A2)が成立しない旨判定する。これに対し、これに対し、判定部81Bは、電流軸力F2の配分比率DR2の値が配分比率しきい値DRthよりも大きい値であるとき、車両は停止した状態である、すなわち先の条件(A2)が成立する旨判定する。
【0103】
判定部81Bは、2つの条件(A1),(A2)の少なくとも一方が成立しないとき、フラグFGの値を「1」にセットする。また、判定部81Bは、2つの条件(A1),(A2)が共に成立するとき、フラグFGの値を「0」にセットする。
【0104】
スイッチ81Cは、フラグFGの値が「1」であるとき、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δを最終的なねじれ角δ1として選択する。また、スイッチ81Cは、フラグFGの値が「0」であるとき、固定値である「0」を最終的なねじれ角δ1として選択する。
【0105】
加算器81Dは、操舵角演算部51により演算される操舵角θsと、スイッチ81Cにより選択される最終的なねじれ角δ1とを加算することにより最終的な操舵角θs1を演算する。フラグFGの値が「1」であるとき、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δが最終的なねじれ角δ1として操舵角θsに加算される。フラグFGの値が「0」であるとき、固定値である値「0」が最終的なねじれ角δ1として操舵角θsに加算される。
【0106】
<第3の実施の形態の効果>
したがって、第3の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(3)横加速度LAおよび電流軸力F2の配分比率DR2に基づき、傾きαが先の傾きしきい値αthを超える程度の大きい値となる状況であるかどうかを判定し、その判定結果に基づきトーションバー34Aのねじれ角δを操舵角θsに付加するかどうかを切り替える。これにより、良好な操舵感触を確保しつつもステアリングホイール11の操舵に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0107】
ちなみに、製品仕様などによっては、判定部81Bとして、横加速度LAを考慮しない構成を採用してもよい。この場合、判定部81Bは、軸力勾配と相関関係を有する電流軸力F2の配分比率DR2のみに基づき、トーションバー34Aのねじれ角δを操舵角θsに付加するかどうかを切り替える。このようにしても、操舵角θsにねじれ角が付加されることによって操舵反力指令値T*が急激に変化することが抑制される。
【0108】
<第4の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第4の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の
図9に示される第3の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、補償値演算部81の構成の点で第3の実施の形態と異なる。したがって、第3の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0109】
図11に示すように、補償値演算部81は、ねじれ角演算部81A、2つのゲイン演算部81G,81H、乗算器81Iおよび加算器81Dを有している。
ねじれ角演算部81Aは、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT
hに基づきトーションバー34Aのねじれ角δを演算する。
【0110】
ゲイン演算部81Gは、横加速度センサ502を通じて検出される横加速度LAを取り込む。ゲイン演算部81Gは、横加速度LAに応じてゲインG1を演算する。ゲイン演算部81Gは、制御装置50の記憶装置に格納されたマップM4を使用してゲインG1を演算する。マップM4は、横加速度LAの絶対値とゲインG1との関係を規定する二次元マップであって、つぎのような特性を有している。
【0111】
すなわち、
図12のグラフに示すように、横加速度LAの絶対値が横加速度しきい値LA
th以下の値である場合、ゲインG1の値は「0」に維持される。横加速度LAの絶対値が横加速度しきい値LA
thよりも大きい値である場合、横加速度LAの絶対値が増加するにつれてゲインG1の値は「1」へ向けて徐々に増加し、やがて「1」に達する。ゲインG1の値が「1」に達した以降、横加速度LAの絶対値の増加にかかわらずゲインG1の値は「1」に維持される。ちなみに、ゲインG1は、「0」~「1」の範囲において、たとえば「0.1」刻みで設定することが可能である。
【0112】
ゲイン演算部81Hは、配分比率演算部72Cにより演算される電流軸力F2の配分比率DR2を取り込む。ゲイン演算部81Hは、配分比率DR2に応じてゲインG2を演算する。ゲイン演算部81Hは、制御装置50の記憶装置に格納されたマップM5を使用してゲインG2を演算する。マップM5は、配分比率DR2とゲインG2との関係を規定する二次元マップであって、つぎのような特性を有している。
【0113】
すなわち、
図13のグラフに示すように、配分比率DR2の値が配分比率しきい値DR
th以下の値である場合、ゲインG2の値は「1」に維持される。配分比率しきい値DR
thは、配分比率DR2の最大値である「1」よりも若干小さい値に設定されている。配分比率DR2の値が配分比率しきい値DR
thよりも大きい値である場合、配分比率DR2の値が増加するにつれてゲインG2の値は「0」へ向けて徐々に減少し、やがて「0」に達する。ゲインG2の値が「0」に達した以降、配分比率DR2の値の増加にかかわらずゲインG2の値は「0」に維持される。ちなみに、ゲインG2は、「0」~「1」の範囲において、たとえば「0.1」刻みで設定することが可能である。
【0114】
図11に示すように、乗算器81Iは、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δと、ゲイン演算部81Gにより演算されるゲインG1と、ゲイン演算部81Hにより演算されるゲインG2とを乗算することにより、最終的なねじれ角δ
3を演算する。
【0115】
2つのゲインG1,G2の値が共に「1」であるとき、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δがそのまま最終的なねじれ角δ3となる。また、2つのゲインG1,G2の値が共に「0」を超え、かつ2つのゲインG1,G2のうち少なくとも一方が「1」未満の値であるとき、最終的なねじれ角δ3の値は、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δよりも小さい値となる。また、2つのゲインG1,G2のうち少なくとも一方の値が「0」であるとき、最終的なねじれ角δ3の値は「0」となる。
【0116】
加算器81Dは、操舵角演算部51により演算される操舵角θsと、乗算器81Iにより演算される最終的なねじれ角δ3とを加算することにより、目標ピニオン角θp
*の演算に使用される最終的な操舵角θs1を演算する。
【0117】
<第4の実施の形態の効果>
したがって、第4の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(4)軸力勾配と相関関係を有する横加速度LAおよび電流軸力F2の配分比率DR2に応じて、操舵角θsに付加するトーションバー34Aのねじれ角δの値が変更される。すなわち、操舵角θsに対するトーションバー34Aのねじれ角δの反映度合いが横加速度LAおよび電流軸力F2の配分比率DR2に応じて変更される。これにより、良好な操舵感触を確保しつつもステアリングホイール11の操舵に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0118】
<第5の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第5の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の
図1~
図5に示される先の第1の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、補償値演算部81の構成の点で第1の実施の形態と異なる。したがって、第1の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0119】
本実施の形態は、操舵角θ
sの値が、先の
図3に示されるマップM1の特性線の傾きがより大きい領域の値であるときほど、目標ピニオン角θ
p
*の絶対値、ひいては操舵反力指令値T
*が急激に変化するおそれがあることに着目してなされている。
【0120】
図14に示すように、補償値演算部81は、先の第1の実施の形態と同様に、ねじれ角演算部81A、判定部81B、スイッチ81Cおよび加算器81Dを有している。ただし、判定部81Bにより実行される判定処理については第1の実施の形態と異なる。
【0121】
ねじれ角演算部81Aは、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクThに基づきトーションバー34Aのねじれ角δを演算する。
判定部81Bは、トーションバー34Aのねじれ角δを補償するべき状況であるかどうか、すなわち操舵角θsにねじれ角δを付加するべき状況であるかどうかを判定する。判定部81Bは、操舵角θsに対する目標ピニオン角θp
*の変化の割合である傾きβを目標ピニオン角演算部62から取り込む。目標ピニオン角演算部62は、たとえば単位時間当たりの目標ピニオン角θp
*の変化量を単位時間当たりの操舵角θsの変化量を除することにより傾きβを演算する。
【0122】
判定部81Bは、傾きβの値と傾きしきい値βthとの比較を通じて、操舵角θsにトーションバー34Aのねじれ角δを付加するべき状況であるかどうかを判定する。傾きしきい値βthは、たとえばシミュレーションを通じて設定される。傾きしきい値βthは、たとえば操舵角θsが操舵中立位置に対応する「0°」の近傍値であるときの傾きβを基準として設定される。
【0123】
判定部81Bは、目標ピニオン角演算部62から取り込まれる傾きβの値が傾きしきい値βth以下の値であるとき、フラグFGの値を「1」にセットする。また、判定部81Bは、目標ピニオン角演算部62から取り込まれる傾きβの値が傾きしきい値βthよりも大きい値であるとき、フラグFGの値を「0」にセットする。
【0124】
スイッチ81Cは、フラグFGの値が「1」であるとき、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δを最終的なねじれ角δ1として選択する。また、スイッチ81Cは、フラグFGの値が「0」であるとき、固定値である「0」を最終的なねじれ角δ1として選択する。
【0125】
加算器81Dは、操舵角演算部51により演算される操舵角θsと、スイッチ81Cにより選択される最終的なねじれ角δ1とを加算することにより、目標ピニオン角θp
*の演算に使用される最終的な操舵角θs1を演算する。
【0126】
<第5の実施の形態の効果>
したがって、第5の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(5)操舵角θsに対する目標ピニオン角θp
*の変化の割合である傾きβに応じて操舵角θsにトーションバー34Aのねじれ角δを付加するかどうかを切り替える。これにより、良好な操舵感触を確保しつつもステアリングホイール11の操舵に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0127】
<第6の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第6の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の第5の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、補償値演算部81の構成の点で第1の実施の形態と異なる。したがって、第5の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0128】
図15に示すように、補償値演算部81は、ねじれ角演算部81A、ゲイン演算部81J、乗算器81Kおよび加算器81Dを有している。
ねじれ角演算部81Aは、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT
hに基づきトーションバー34Aのねじれ角δを演算する。
【0129】
ゲイン演算部81Jは、操舵角θsに対する目標ピニオン角θp
*の変化の割合である傾きβを目標ピニオン角演算部62から取り込む。ゲイン演算部81Jは、傾きβに応じてゲインG3を演算する。ゲイン演算部81Jは、制御装置50の記憶装置に格納されたマップM6を使用してゲインG3を演算する。マップM6は、傾きβとゲインG3との関係を規定する二次元マップであって、つぎのような特性を有している。
【0130】
すなわち、
図16のグラフに示すように、傾きβが傾きしきい値β
th以下の値である場合、ゲインGの値は「1」に維持される。傾きβの値が傾きしきい値β
thよりも大きい値である場合、傾きβの値が増加するにつれてゲインG3の値は「0」へ向けて徐々に減少し、やがて「0」に達する。ゲインG3の値が「0」に達した以降、傾きβの値の増加にかかわらずゲインG3の値は「0」に維持される。ちなみに、ゲインG3は、「0」~「1」の範囲において、たとえば「0.1」刻みで設定することが可能である。
【0131】
乗算器81Kは、ねじれ角演算部81Aにより演算されるトーションバー34Aのねじれ角δと、ゲイン演算部81Jにより演算されるゲインG3とを乗算することにより、最終的なねじれ角δ4を演算する。傾きβが傾きしきい値βth以下の値である場合、ゲインG3の値は「1」に設定される。このため、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δがそのまま最終的なねじれ角δ4となる。傾きβの値が傾きしきい値βthよりも大きい値である場合、ゲインG3の値は、傾きβの値に応じて「1」未満の値または「0」に設定される。このため、最終的なねじれ角δ4の値は、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δよりも小さい値、あるいは「0」となる。
【0132】
加算器81Dは、操舵角演算部51により演算される操舵角θsと、乗算器81Kにより演算される最終的なねじれ角δ4とを加算することにより、目標ピニオン角θp
*の演算に使用される最終的な操舵角θs1を演算する。傾きβが傾きしきい値αth以下の値である場合、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δが最終的なねじれ角δ4として操舵角θsに加算される。傾きβの値が傾きしきい値βthよりも大きい値であるとき、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δよりも小さい値、あるいは「0」が最終的なねじれ角δ4として操舵角θsに加算される。
【0133】
<第6の実施の形態の効果>
したがって、第6の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(6)操舵角θsに対する目標ピニオン角θp
*の変化の割合である傾きβに応じて、操舵角θsに付加されるトーションバー34Aのねじれ角δの値が変更される。すなわち、操舵角θsに対するトーションバー34Aのねじれ角δの反映度合いが傾きβに応じて変更される。これにより、良好な操舵感触を確保しつつもステアリングホイール11の操舵に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0134】
<第7の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第7の実施の形態を説明する。本実施の形態は、補償値演算部81の構成の点で先の第4の実施の形態と異なる。したがって、第4の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0135】
図17に示すように、補償値演算部81は、ねじれ角演算部81A、ゲイン演算部81H、乗算器81Iおよび加算器81Dを有している。すなわち、本実施の形態の補償値演算部81は、先の
図11に示される第4の実施の形態の補償値演算部81におけるゲイン演算部81Gが割愛された構成を有している。
【0136】
ねじれ角演算部81Aは、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT
hに基づきトーションバー34Aのねじれ角δを演算する。
ゲイン演算部81Hは、配分比率演算部72Cにより演算される電流軸力F2の配分比率DR2に応じてゲインG2を演算する。ゲイン演算部81Hは、先の
図13に示されるマップM5を使用してゲインG2を演算する。
【0137】
乗算器81Iは、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δと、ゲイン演算部81Hにより演算されるゲインG2とを乗算することにより、最終的なねじれ角δ5を演算する。ゲインG2の値が「1」であるとき、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δがそのまま最終的なねじれ角δ5となる。また、ゲインG2の値が「0」を超え、かつ「1」未満の値であるとき、最終的なねじれ角δ5の値は、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δよりも小さい値となる。また、ゲインG2の値が「0」であるとき、最終的なねじれ角δ5の値は「0」となる。
【0138】
加算器81Dは、操舵角演算部51により演算される操舵角θsと、乗算器81Iにより演算される最終的なねじれ角δ5とを加算することにより、目標ピニオン角θp
*の演算に使用される最終的な操舵角θs1を演算する。
【0139】
<第7の実施の形態の効果>
したがって、第7の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(7)軸力勾配と相関関係を有する電流軸力F2の配分比率DR2に応じて、操舵角θsに付加するトーションバー34Aのねじれ角δの値が変更される。すなわち、操舵角θsに対するトーションバー34Aのねじれ角δの反映度合いが電流軸力F2の配分比率DR2に応じて変更される。これにより、良好な操舵感触を確保しつつもステアリングホイール11の操舵に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0140】
<第8の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第8の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の
図9に示される第3の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、補償値演算部81の構成の点で第3の実施の形態と異なる。したがって、第3の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0141】
図18に示すように、補償値演算部81は、ねじれ角演算部81A、軸力勾配演算部81L、ゲイン演算部81M、乗算器81Nおよび加算器81Dを有している。
ねじれ角演算部81Aは、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT
hに基づきトーションバー34Aのねじれ角δを演算する。
【0142】
軸力勾配演算部81Lは、電流軸力演算部72Bにより演算される電流軸力F2、および配分軸力演算部72Dにより演算される配分軸力F3を取り込む。軸力勾配演算部81Lは、電流軸力F2および配分軸力F3に基づき現在の軸力勾配γを演算する。軸力勾配γとは、目標ピニオン角θp
*に対する軸力の変化の割合である傾きをいう。
【0143】
軸力勾配演算部81Lは、目標ピニオン角θp
*に対する電流軸力F2の変化の割合である第1の傾きを演算する。また、軸力勾配演算部81Lは、目標ピニオン角θp
*に対する配分軸力F3の変化の割合である第2の傾きを演算する。軸力勾配演算部81Lは、たとえば第1の傾きの値と第2の傾きの値とを比較し、その比較結果に基づき軸力勾配γを設定する。軸力勾配演算部81Lは、第1の傾きの値が第2の傾きの値よりも大きい値であるとき、電流軸力F2の勾配である第1の傾きを軸力勾配γとして設定する。また、軸力勾配演算部81Lは、第2の傾きの値が第1の傾きの値よりも大きい値であるとき、配分軸力F3の勾配である第2の傾きを軸力勾配γとして設定する。
【0144】
なお、軸力勾配演算部81Lは、第1の傾きと第2の傾きの平均値を軸力勾配γとして設定するようにしてもよい。
ゲイン演算部81Mは、軸力勾配演算部81Lにより演算される軸力勾配γを取り込む。ゲイン演算部81Mは、軸力勾配γに応じてゲインG4を演算する。ゲイン演算部81Mは、制御装置50の記憶装置に格納されたマップM7を使用してゲインG4を演算する。マップM7は、軸力勾配γとゲインG4との関係を規定する二次元マップであって、つぎのような特性を有している。
【0145】
すなわち、
図19のグラフに示すように、軸力勾配γの値が軸力勾配しきい値γ
th以下の値である場合、ゲインG4の値は「1」に維持される。軸力勾配γの値が軸力勾配しきい値γ
thを超える場合、軸力勾配γの値が増加するにつれてゲインG4の値は「0」へ向けて徐々に減少し、やがて「0」に達する。ゲインG4の値が「0」に達した以降、軸力勾配γの値の増加にかかわらずゲインG4の値は「0」に維持される。ちなみに、ゲインG4は、「0」~「1」の範囲において、たとえば「0.1」刻みで設定することが可能である。
【0146】
図18に示すように、乗算器81Nは、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δと、ゲイン演算部81Mにより演算されるゲインG4とを乗算することにより、最終的なねじれ角δ
6を演算する。
【0147】
ゲインG4の値が「1」であるとき、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δがそのまま最終的なねじれ角δ6となる。また、ゲインG4の値が「0」を超え、かつ「1」未満の値であるとき、最終的なねじれ角δ6の値は、ねじれ角演算部81Aにより演算されるねじれ角δよりも小さい値となる。また、ゲインG4の値が「0」であるとき、最終的なねじれ角δ6の値は「0」となる。
【0148】
加算器81Dは、操舵角演算部51により演算される操舵角θsと、乗算器81Nにより演算される最終的なねじれ角δ6とを加算することにより、目標ピニオン角θp
*の演算に使用される最終的な操舵角θs1を演算する。
【0149】
<第8の実施の形態の効果>
したがって、第8の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(8)電流軸力F2および配分軸力F3に基づく軸力勾配γに応じて、操舵角θsに付加するトーションバー34Aのねじれ角δの値が変更される。すなわち、操舵角θsに対するトーションバー34Aのねじれ角δの反映度合いが軸力勾配γに応じて変更される。これにより、良好な操舵感触を確保しつつもステアリングホイール11の操舵に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0150】
(9)電流軸力F2には、路面状態、ひいては転舵シャフト14に作用する軸力が反映される。このため、電流軸力F2の傾きに基づき、操舵角θsにトーションバー34Aのねじれ角δを付加するべき状況であるかどうか、あるいは操舵角θsにねじれ角δを付加した場合に操舵反力の応答性が過剰に高まる状況かどうかを、より適切に判定することができる。
【0151】
<他の実施の形態>
なお、第1~第8の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1の実施の形態において、軸力演算部72は、先の
図9に示される第3の実施の形態と同様に、角度軸力演算部72A、電流軸力演算部72B、配分比率演算部72C、配分軸力演算部72Dおよび換算器72Eを有していてもよい。ただし、「角度軸力F1の変化の割合である傾きα」は、「配分軸力F3の変化の割合である傾きα」と読み替える。このようにしても、先の第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、配分軸力F3の変化の割合である傾きαに基づきトーションバー34Aのねじれ角δを操舵角θ
sに付加するかどうかが切り替えられる。これにより、良好な操舵感触を確保しつつもステアリングホイール11の操舵に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0152】
・第2の実施の形態において、軸力演算部72は、先の
図9に示される第3の実施の形態と同様に、角度軸力演算部72A、電流軸力演算部72B、配分比率演算部72C、配分軸力演算部72Dおよび換算器72Eを有していてもよい。ただし、「角度軸力F1の変化の割合である傾きα」は、「配分軸力F3の変化の割合である傾きα」と読み替える。このようにしても、先の第2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、配分軸力F3の変化の割合である傾きαに応じて操舵角θ
sに付加されるトーションバー34Aのねじれ角δの値が変更される。これにより、良好な操舵感触を確保しつつもステアリングホイール11の操舵に対する転舵応答性を向上させることができる。
【0153】
・第1~第8の実施の形態において、制御装置50における反力制御部50aおよび転舵制御部50bを互いに独立した個別の電子制御装置(ECU)として構成してもよい。
・第1~第8の実施の形態において、操舵装置10にクラッチを設けてもよい。この場合、
図1に二点鎖線で示すように、ステアリングシャフト12とピニオンシャフト13とをクラッチ21を介して連結する。クラッチ21としては、励磁コイルに対する通電の断続を通じて動力の断続を行う電磁クラッチが採用される。制御装置50は、クラッチ21の断続を切り替える断続制御を実行する。クラッチ21が切断されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16との間の動力伝達が機械的に切断される。クラッチ21が接続されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16との間の動力伝達が機械的に連結される。
【符号の説明】
【0154】
11…ステアリングホイール
14…転舵シャフト
16…転舵輪
31…反力モータ
34A…トーションバー
41…転舵モータ
44…ピニオンシャフト(シャフト)
50…制御装置(操舵制御装置)
50a…反力制御部
50b…転舵制御部
52…操舵反力指令値演算部(第2の演算部)
62…目標ピニオン角演算部(第1の演算部)
81…補償値演算部(第3の演算部)
F1…角度軸力
F2…電流軸力
F3…配分軸力
DR2…電流軸力の配分比率
Ib…電流(状態変数)
LA…横加速度
Th…操舵トルク
T*…操舵反力指令値(指令値)
α…角度軸力の傾き
β…目標回転角の傾き
θa…反力モータの回転角
θs…操舵角
θp
*…目標ピニオン角(目標回転角、状態変数)
δ…ねじれ角