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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ヒートシール用塗工紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/48 20060101AFI20241203BHJP
   D21H 19/82 20060101ALI20241203BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
D21H19/48
D21H19/82
B65D65/40 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021168944
(22)【出願日】2021-10-14
(65)【公開番号】P2023059062
(43)【公開日】2023-04-26
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098899
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 信市
(74)【代理人】
【識別番号】100163865
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 健
(72)【発明者】
【氏名】田村 篤
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】桑野 浩
(72)【発明者】
【氏名】横山 健一
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-167000(JP,A)
【文献】国際公開第2007/069683(WO,A1)
【文献】特開2018-053400(JP,A)
【文献】特開平08-052827(JP,A)
【文献】特開2021-046233(JP,A)
【文献】国際公開第2020/152753(WO,A1)
【文献】特開2016-060973(JP,A)
【文献】特開2001-254295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 19/48
D21H 19/82
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙を用意するステップと、
最外層塗工層用塗料を用意するステップと、
内層塗工層用塗料を用意するステップと、
前記基紙の印刷に前記内層塗工層用塗料を塗工して一層以上の内層塗工層を設けるステップと、
前記印刷面の前記内層塗工層上に前記最外層塗工層用塗料を塗工して最外層塗工層を設けるステップと
前記基紙の非印刷面側に前記最外層塗工層用塗料を塗工して非印刷面塗工層を設けるステップとを有し、
前記最外層塗工層用塗料には顔料と接着剤が含まれており、前記最外層塗工層用塗料の接着剤には平均粒子径が100nm以上のスチレン-ブタジエンゴム系共重合体ラテックスが含まれており
前記印刷面側に設けられた塗工層の乾燥塗工量は合計で17~28g/m 2 であり、前記非印刷面側に設けられた塗工層の乾燥塗工量は7~15g/m 2 であること、を特徴とするヒートシール用塗工紙の製造方法。
【請求項2】
前記最外層塗工層用塗料には、前記顔料100質量部に対して前記平均粒子径が100nm以上のスチレン-ブタジエンゴム系共重合体ラテックスが5~30質量部の範囲で含まれていることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール用塗工紙の製造方法。
【請求項3】
前記平均粒子径が100nm以上のスチレン-ブタジエンゴム系共重合体ラテックスは、平均粒子径が100~200nmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール用塗工紙の製造方法。
【請求項4】
前記基紙の離解フリーネスは300~550mlの範囲であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール用塗工紙の製造方法。
【請求項5】
前記内層塗工層と前記最外層塗工層との間に、1層または2層以上の中間塗工層を形成することを特徴とする請求項1に記載のヒートシール用塗工紙の製造方法。
【請求項6】
一方の面を印刷面、他方の面を非印刷面としたヒートシール用塗工紙において、
前記印刷面には、基紙に内層塗工層用塗料を塗工して得られた1層以上の内層塗工層と、前記内層塗工層上に最外層塗工層用塗料を塗工して得られた最外層塗工層を含む2層以上の塗工層が設けられ、
前記非印刷面には、基紙に塗工層用塗料を塗工して得られた1層の非印刷面塗工層が設けられ、
前記最外層塗工層用塗料には顔料と接着剤が含まれており、前記最外層塗工層用塗料の接着剤には平均粒子径が100nm以上のスチレン-ブタジエンゴム系共重合体ラテックスが含まれており、
前記印刷面側に設けられた塗工層の乾燥塗工量は合計で17~28g/m 2 であり、前記非印刷面側に設けられた塗工層の乾燥塗工量は7~15g/m 2 であること、を特徴とするヒートシール用塗工紙。
【請求項7】
前記非印刷面塗工層に用いられる前記塗工層用塗料は、前記最外層塗工層用塗料であることを特徴とする請求項6に記載のヒートシール用塗工紙。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のヒートシール用塗工紙を用いた紙カップ容器。
【請求項9】
請求項6又は7に記載のヒートシール用塗工紙を用いた包装用紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷適性に優れヒートシール性が良好なヒートシール用塗工紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒートシールとはシール加工法の一つであり一定の加熱・加圧によってプラスチックフィルムを溶融接着させる方法である。従来から包装材料の製袋の接着や紙カップ等の成型等にヒートシール加工が使用されている。ヒートシール性を付与した紙カップとしては、ヒートシール層として2軸延伸ポリエチレンテレフタレートを使用する、複数の樹脂を特定の割合で使用する、などの提案がある(例えば、特許文献1~4参照)。しかしながら、ヒートシール層の反対面に良質な印刷を施す場合には顔料塗工層を設けるが、この塗工層との接着性を満足のいくものにすることが出来ない。顔料を含む所定量の下塗り層の上に耐水耐油樹脂層を設ける提案がある(例えば、特許文献5参照)。この方法では顔料塗工層が無いため良好な印刷品質とならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-43388号公報
【文献】特開2011-79584号公報
【文献】特開2009-149351号公報
【文献】特開2006-256643号公報
【文献】特開平9-158089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、前述した問題点を解消し、印刷適性に優れヒートシール性が良好なヒートシール用塗工紙の製造方法を提供することにある。
【0005】
また、本発明の他の目的とするところは、ヒートシール用塗工紙の破損時に基紙乃至原紙部分と塗工層が界面で剥離せず、一体のまま材破するヒートシール用塗工紙の製造方法を提供することにある。
【0006】
本発明の更に他の目的並びに作用効果については、以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ヒートシール用塗工紙の製造方法について鋭意検討を重ねた結果、次の構成によって、課題を達成できることを見出した。すなわち、本発明に係るヒートシール用塗工紙の製造方法は、基紙を用意するステップと、塗工層用塗料を用意するステップと、前記基紙の少なくとも一方の面に前記塗工層用塗料を塗工して一層の塗工層を設けるステップとを有し、前記塗工層用塗料には顔料と接着剤が含まれており、前記接着剤には平均粒子径が100nm以上のスチレン-ブタジエンゴム系共重合体ラテックスが含まれていることを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、優れた印刷適性を有する比較的薄手のヒートーシール用塗工紙を製造することができる。
【0009】
また、本発明に係るヒートシール用塗工紙の製造方法の異なる形態としては、基紙を用意するステップと、最外層塗工層用塗料を用意するステップと、内層塗工層用塗料を用意するステップと、前記基紙の少なくとも一方の面に前記内層塗工層用塗料を塗工して一層以上の内層塗工層を設けるステップと、前記内層塗工層上に前記最外層塗工層用塗料を塗工して最外層塗工層を設けるステップとを有し、前記最外層塗工層用塗料には顔料と接着剤が含まれており、前記最外層塗工層用塗料の接着剤には平均粒子径が100nm以上のスチレン-ブタジエンゴム系共重合体ラテックスが含まれていること、を特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、優れた印刷適性を有する比較的厚手のヒートーシール用塗工紙を製造することができる。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記塗工層用塗料及び前記最外層塗工層用塗料には、前記顔料100質量部に対して前記平均粒子径が100nm以上のスチレン-ブタジエンゴム系共重合体ラテックスが5~30質量部の範囲で含まれていることが好ましい。このような構成によれば、印刷適性に加えて良好なヒートシール適性を有するヒートシール用塗工紙を製造することが出来る。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記平均粒子径が100nm以上のスチレン-ブタジエンゴム系共重合体ラテックスは、平均粒子径が100~200nmの範囲であることが好ましい。このような構成によれば、より良好なヒートシール適性を付与することが出来る。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記基紙の離解フリーネスは300~550mlの範囲であることが好ましい。このような構成によれば、紙力と加工適正のバランスに優れたヒートシール用塗工紙が得られる。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記内層塗工層と前記最外層塗工層との間に、1層または2層以上の中間塗工層を形成してもよい。
【0015】
本願発明は、ヒートシール用塗工紙の発明としても捉えることができる。
【0016】
また、本願発明は、ヒートシール用塗工紙を用いた紙カップ容器や包装用紙の発明としても捉えることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、印刷適性に優れヒートシール性が良好なヒートシール用塗工紙の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係るヒートシール用塗工紙の構成の一例を示す図である。
図2】本発明に係るヒートシール用塗工紙の基紙の構成の一例を示す図である。
図3】実施例及び比較例に係るヒートシール用塗工紙の構成及び評価を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明について一実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形を行ってもよい。
【0020】
本発明に係るヒートシール用塗工紙の構成の一例が図1に示されている。同図において、10は基紙、20はサイズ層、30は原紙、31は原紙表面、40は塗工層、41は内層塗工層、42は中間塗工層、43は最外層塗工層、50はヒートシール用塗工紙外表面、100はヒートシール用塗工紙、である。図1(a)は塗工層が1層の場合のヒートシール用塗工紙の構成例であり、この例では基紙10の両面にサイズ層20が設けられ、サイズ層20上に塗工層40が設けられている。図1(b)は塗工層が3層の場合のヒートシール用塗工紙の構成例であり、この例では基紙10の片面にサイズ層20が設けられ、基紙10の表面にサイズ層が設けられた状態のものが原紙30である。原紙表面31上に塗工層40として、内層塗工層41、中間塗工層42、最外層塗工層43が順に設けられている。図1(b)の例では塗工層を3層としているが、塗工層を2層とする場合には中間塗工層42は不要であり、逆に塗工層を4層以上とする場合には中間塗工層42を複数層設けることが好ましい。なお、図1は本発明に係るヒートシール用塗工紙の構成を模式的に表したものであり、図中の各層の厚みは各層の実際の比率に基づくものではない。
【0021】
本発明に係るヒートシール用塗工紙の基紙の構成の一例が図2に示されている。同図において、10は基紙、11は中間層、12は白下層、13は白層、14は基紙表面、である。図2に示された構成は基紙を多層抄きとする場合の一構成例であり、両基紙表面14に露出する層が白層13であり、白層13の内側に隣接する層が白下層12、白下層12よりも内側に設けられているのが内層11である。この例では基紙が5層構造であるが、3層構造とする場合には白下層12若しくは内層11を省くことが可能となる。一方、6層以上の構造とする場合には、白下層12若しくは内層11の層数を適宜増加させることが好ましい。
【0022】
本発明において基紙に用いるパルプとしては、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹漂白サルファイトパルプ(LBSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、機械パルプ(GP、TMP、BCTMP)、脱墨パルプ(DIP)など既知のパルプを用いることができる。また、必要に応じて、木材パルプ以外に、非木材パルプ、合成パルプ、合成繊維などを適宜用いてもよい。なお、ヒートシール用塗工紙に白色度や清潔感を与えるためには、表面となる白層にLBKP、NBKPを用いることが好ましく、機械パルプを用いる場合には退色性の面から白層に配合せず、白下層若しくは中層に配合することが好ましい。また、脱墨パルプ(DIP)については上質系古紙であれば白層に配合してもよいが、中質系古紙の場合は白層に配合せず、白下層若しくは中層に配合することが好ましい。
【0023】
ヒートシール用塗工紙の基紙に用いる各層のパルプの離解フリーネスは、いずれも300~550mlの範囲であることが好ましく、350~500mlの範囲であればより好ましい。離解フリーネスが300ml未満になると、基紙が緻密となり硬すぎるために紙カップに成型した際に割れが生じたり、包装用紙に加工した際に折り目等で割れが生じたりするおそれがある。一方、550mlを超えると繊維間結合が弱くなり、紙力の低下が生じ容器加工後若しくは包装用紙としての使用時に強度が低く使用に支障をきたすおそれがある。本発明における各層のパルプの離解フリーネスは、カナダ標準形ろ水度試験機(JIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」に準拠)で測定することによって得られる。
【0024】
本発明に係るヒートシール用塗工紙の基紙においては、填料を配合してもよい。使用する填料としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、焼成クレー、二酸化チタン、水酸化アルミニウムである。
【0025】
本発明に係るヒートシール用塗工紙の基紙においては、パルプと填料以外の原料を配合してもよい。このような原料としては、例えば、硫酸バンド、サイズ剤、カチオン澱粉若しくはポリアクリルアミド系などの内添紙力増強剤、歩留り向上剤、濾水性向上剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、蛍光消色剤などの各種助剤を、各製品に合わせて好適に配合してもよい。また、必要に応じてピッチコントロール剤や消泡剤等の抄紙工程において必要とする薬剤を用いてもよい。
【0026】
本発明にヒートシール用塗工紙において、用途を包装用紙とする場合には基紙は単層抄き若しくは2層抄きとし、完成品であるヒートシール用塗工紙としての坪量が50~150g/m2の範囲であることが好ましい。坪量が50g/m2未満であると包装用紙とするのに十分な強度が得られずに破れが発生しやすくなる。一方、坪量が150g/m2を超えると、基紙の厚みも増すためにヒートシール用塗工紙が硬くなり、包装用紙としての柔軟性に欠けるおそれがある。坪量が150g/m2未満の場合には基紙は単層若しくは2層が好ましく、層数が多くなるほど用紙自体が硬くなり、また多層構造であると層間が生じるために層間?離が起こる可能性が出てくるために、より好ましくは単層である。
【0027】
また、用途を紙カップとする場合には、基紙は3層抄き以上の多層抄きとし、完成品であるヒートシール用塗工紙としての坪量が150~400g/m2の範囲であることが好ましい。坪量が150g/m2未満であると十分な強度が得られず、掴んだ時に紙カップがつぶれてしまうおそれがある。一方、坪量が400g/m2を超えると、基紙の厚みも増すためにヒートシール用塗工紙が硬くなり、紙カップに加工するのに適した柔軟性が得られず発生加工不良が発生するおそれがある。また、単層抄き若しくは2層抄きの基紙で紙カップ用途に適した厚みを得ようとすると、抄紙機入口濃度であるインレット濃度を高くして1層当たりの坪量を大きくする必要があり、結果として原料のフロックが大きくなり地合いが悪く印刷適性に劣る基紙となりやすい。このため、紙カップ等の用途に用いるために基紙の坪量を大きくする場合には、3層以上の多層抄きとすることが好ましい。
【0028】
本発明に係るヒートシール用塗工紙の基紙において基紙の製造方法は特に限定されるものではなく既知の製造方法で製造することができるが、包装用紙用途などの比較的薄いヒートシール用塗工紙を製造する場合には、単層抄き若しくは2層抄きに適した抄紙機を用いることが好ましい。一方、紙カップ用途などの比較的厚みのあるヒートシール用塗工紙を製造する場合には、これら既知の製造方法の中でも、長網多層抄紙機、円網多層抄紙機、長網円網コンビ多層抄紙機などの3層以上の多層抄きが可能な抄紙機である各種装置が好ましい。
【0029】
本発明に係るヒートシール用塗工紙においては、基紙の表面及び/または裏面に表面サイズ液を塗布してもよい。ここで用いる表面サイズ液は特に限定するものではないが、例えば、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどの公知の水溶性高分子が上げられる。表面サイズ液の塗布方法についても特に限定はせず、サイズプレスのようなポンドを設けるタイプ、ゲートロールサイズプレス若しくはシムサイザーのようなフィルムメタリングタイプ、ロッドコーター又はエアーナイフコーターなどの公知の塗布機を用いることができる。
【0030】
本発明に係るヒートシール用塗工紙100において塗工層40は、基紙10または原紙30の表面及び/または裏面に設ける。基紙10の表裏いずれかの外表面14に直接塗工層40設けても良いし、基紙10の外表面14に表面サイズ処理を施してサイズ層20を設け、サイズ層20含む原紙30の外表面31に塗工層40を設けても良い。また、塗工層を表裏両面に設ける場合には、表面側と裏面側の塗工層の組成は、目的に応じて同一の組成としてもよいし異なる組成としてもよい。
【0031】
本発明において塗工層を一層構造とする場合、若しくは多層構造とする場合の最外層塗工層に用いる顔料としては、扁平状であるため塗工層表面に配向して平滑度の向上に寄与し、印刷適性も向上させるカオリンクレーや、白色度が高い重質炭酸カルシウム(粉砕炭酸カルシウム)、軽質炭酸カルシウム、酸化チタンなどが好ましく、これらのうちから1種または2種以上を組み合わせて用いることが望ましい。特に、包装対象がヨーグルトやアイスクリームなどの白い食品である場合には、包装容器に高い白色度が求められることが多い。
【0032】
これらの顔料の好ましい配合割合としては、それぞれ以下の通りである。カオリンクレーは、顔料全量に対して10~30%の範囲であることが好ましい。カオリンクレーの配合割合が10%を下回ると十分なインク受理性が得られず印刷適性が低下するおそれがある。カオリンクレーの配合割合が30%を上回ると相対的に白色度に寄与する顔料の配合割合が下がることで白色度が低下して、用途によっては必要な白色度が得られないおそれがある。重質炭酸カルシウムは、顔料全量に対して50~90%の範囲であることが好ましい。重質炭酸カルシウムの配合割合が50%を下回ると、白色度が低下して用途によっては必要な白色度が得られないおそれがある。重質炭酸カルシウムの配合割合が90%を上回ると、相対的にカオリンクレーの配合割合が低下するために十分なインク受理性が得られず印刷適性が低下するおそれがある。軽質炭酸カルシウムは、顔料全量に対して0~20%の範囲であることが好ましい。軽質炭酸カルシウムの配合割合が20%を上回ると、相対的にカオリンクレーの配合割合が低下するために十分なインク受理性が得られず印刷適性が低下するおそれがあり、また塗料の流動性が低下することで加工適正が低下するおそれもある。軽質炭酸カルシウムの配合は必須ではないが、軽質炭酸カルシウムを含めて白色度に寄与する顔料の配合割合が少ないと用途によっては必要な白色度が得られないおそれがある。酸化チタンは、顔料全量に対して5~30%の範囲であることが好ましい。酸化チタンの配合割合が5%を下回ると、白色度が低下して用途によっては必要な白色度が得られないおそれがある。酸化チタンの配合割合が30%を上回ると、相対的にカオリンクレーの配合割合が低下するために十分なインク受理性が得られず印刷適性が低下するおそれがあり、また塗料の流動性が低下することで加工適正が低下するおそれもある。
【0033】
本発明において、中間塗工層若しくは内層塗工層に用いる顔料は特に限定するものではなく一般的な顔料を適宜用いることができるが、これらの層の顔料は白色度の向上と上塗りされる層へのアンカー効果を有することが望ましいため、層に含まれる顔料全量のうち90%以上が重質炭酸カルシウムであることが好ましい。
【0034】
本発明においては、各塗工層には必要に応じてその他の顔料を用いてもよい。このような顔料としては特に限定されるものではないが、例えば、タルク、サチンホワイト、リトポン、二酸化チタン、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、焼成カオリン、有色顔料などが挙げられる。
【0035】
本発明に係るヒートシール用塗工紙において、塗工層に用いる接着剤としては平均粒子径が100nm以上のスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス(以下、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスをSBRラテックスと表記する)を含む。また、SBRラテックス以外の接着剤についても、本発明の効果が損なわれない範囲で1種、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。ここで用いることができるその他の接着剤としては、アクリル系、ポリ酢酸ビニル若しくはエチレン-酢酸ビニルなどの各種共重合体ラテックス、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ユリア若しくはメラミン/ホルマリン樹脂、ポリエチレンイミン若しくはポリアミドポリアミン/エピクロルヒドリンなどの水溶性合成物などが挙げられる。さらには、天然植物から精製した澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、酸化澱粉、エーテル化澱粉、燐酸エステル化澱粉、酵素変性澱粉又はそれらをフラッシュドライして得られる冷水可溶性澱粉、デキストリン、マンナン、キトサン、アラビノガラクタン、グリコーゲン、イヌリン、ペクチン、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどの天然多糖類又はそのオリゴマー又はその変性体である。また、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、コラーゲンなどの天然タンパク質又はその変性体、ポリ乳酸、ペプチドなどの合成高分子又はオリゴマーが挙げられる。なお、塗工層を多層構造とする場合には、平均粒子径が100nm以上のSBRラテックスは最外層塗工層に含まれていればよい。
【0036】
塗工層にSBRラテックスを配合しても、そのSBRラテックスの平均粒子径が100nm未満であると所望するヒートシール強度が発現しない。また平均粒子径の上限は特に限定しないが、SBRラテックスの最大粒子径が200nmを超えると印刷強度が低下するおそれがあるため200nmを上限とすることが好ましい。
【0037】
本発明においては、発明の効果が損なわれない範囲で塗工層に平均粒子径が100nm未満のSBRラテックスを含んでも良い。なお、本発明においてSBRラテックスの平均粒子径の測定は既知の方法で行うことができ、一例として本実施形態においては、動的光散乱法を使用したELSZ-1000(大塚電子社製)にて測定を行い、体積平均値D50の値を平均粒子径とした。
【0038】
本発明においてはSBRラテックスが顔料100質量部に対して5~30質量部で添加されることが好ましい。平均粒子径が100nm以上のSBRラテックスの配合量が5質量部未満では十分な塗工層強度が得られず、塗工層と基紙との間で界面剥離が生じて基紙または原紙からの材破とならないおそれがある。一方、配合量が30質量部を超えると、印刷する際に塗工層のインク吸収性が低下して印刷適性の点で支障をきたすおそれがある。
【0039】
本発明において塗工層形成用の塗料には、必要に応じて、分散剤、消泡剤、耐水化剤、着色染料、着色顔料、増粘剤などの通常使用されている各種助剤、又はこれらの各種助剤をカチオン化したものを好適に用いてもよい。
【0040】
本発明において塗工層は1層で形成してもよいし2層以上で形成してもよい。塗工層を2層以上の多層構造とする場合には、基紙または原紙の表裏面上に設ける内層塗工層41と、内層塗工層41上に必要に応じて設けられる1層又は2層以上の中間層42と、内層塗工層41若しくは中間層42上に設けられる最外層塗工層43とで構成される。2層以上とする場合には内層塗工層41と最外層塗工層43は必須であるが、中間層42は必須ではない。内層塗工層41、中間層42及び最外層塗工層43は、すべて同一の組成としてもよいし、層毎に異なる組成としてもよい。塗工層を2層以上とする場合には、塗工層全層を合計した塗工量が後述する片面当たりの乾燥塗工量の範囲内となるように形成することが好ましい。裏面に塗工が必要がない場合には澱粉などの水溶性高分子をカール防止を塗布及び乾燥のみとする場合がある。
【0041】
本発明において塗工層形成用の塗料を塗工する方法は特に限定されるものではなく、液だまりを有するサイズプレス、メタリングサイズプレス、ゲートロール若しくはシムサイザーなどの各種フィルムトランスファーコーター、エアーナイフコーター、ロッドコーター、ブレードコーター、ダイレクトファウンテンコーター、スプレーコーター、カーテンコーターなどの各方式を適宜使用することができる。また塗工層を多層構造とする場合には、層毎に塗工方法が異なってもよい。
【0042】
本発明において、塗工層の片面当たり乾燥塗工量は7~30g/m2であることが好ましく、12~26g/m2であればより好ましい。また、1回の塗工で所望する塗工量に到達しない場合には2回以上塗工を重ねて所望の塗工量としてもよい。片面当たりの乾燥塗工量が7g/m2未満だと、所望する白色度に到達しないおそれがある。一方、片面当たりの乾燥塗工量が30g/m2を超えると、塗工層強度が低下して加工時に紙粉又は粉落ちが発生し、重大な障害となるおそれがある。
【0043】
ヒートシール用塗工紙は、片面を印刷面とし、もう一方の面はポリエチレンなどでラミネート加工を施すことが主流である。このような構成とする場合には、印刷面の仕上がりを考慮して印刷面側は塗工層を2層以上とし、片面当たりの乾燥塗工量は17~28g/m2とすることが好ましい。一方、ラミネート面側はある程度の白色度とラミネート加工性付与を目的として塗工層は1層とし、片面当たりの乾燥塗工量は7~15g/m2とすることが好ましい。
【0044】
ヒートシール用塗工紙の内部結合強度は、100~500mJであることが好ましく、200~400mJであればより好ましい。内部結合強度が100mJ未満であると包装袋に成型する際などの用紙の加工時に破れが発生したり、カップのトップカール成型時に割けが発生しやすくなる。一方、内部結合強度が500mJを超えると、ヒートシール適性である材破が起こりにくくなるおそれがある。
【実施例1】
【0045】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を示す。なお、添加部数は、固形分換算の値である。
【0046】
(実施例1)
<基紙の作製>
広葉樹パルプ(L-BKP)90%と針葉樹パルプ(N-BKP)10%とからなるパルプをCSF450mlに調整し、これに紙力増強剤としてカチオン澱粉(日本食品化工社製 ネオタック40T)を0.5%、凝集助剤として硫酸バンドを0.5%、サイズ剤として中性用ロジンエマルジョンサイズ剤(ハリマ化成株式会社製 ニューサイズ738)を0.5%添加して、白層用原料とした。
次いで、広葉樹パルプ(L-BKP)100%からなるパルプをCSF450mlに調整し、これに紙力増強剤としてカチオン澱粉(日本食品化工社製 ネオタック40T)を0.5%、凝集助剤として硫酸バンドを0.5%、サイズ剤として中性用ロジンエマルジョンサイズ剤(ハリマ化成株式会社製 ニューサイズ738)を0.5%添加して、中間層用原料とした。
調製された白層用原料と中間層原料とを用い長網組み合わせ型抄紙機にて抄速300m/minで抄紙して、中間層1層と中間層の両面に設けられた白層の合計3層からなる3層抄きの基紙を得た。この基紙の総坪量は200g/m2であった。
【0047】
<サイズプレス処理(サイズ層の形成)>
得られた基紙の両面に、酸化澱粉(日本食品化工株式会社製 MS3800)の7%糊液をポンド式サイズプレスによって片面当たり固形分2g/m2となるように塗布し、乾燥させることでサイズ層を形成して原紙を得た。
【0048】
<表面側への塗工層の形成>
顔料として湿式重質炭酸カルシウム(株式会社イメリスミネラメズジャパン製 カービタル90)を100部を配合し、接着剤としてスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスであるスチレン-ブタジエンゴム系ラテックス(旭化成ケミカル社製 BA-333、平均粒子径90nm)を8部と、リン酸エステル化澱粉を3部配合して、内層塗工層用塗料を調製した。内層塗工層用塗料をロッドコーターにて固形分10g/m2となるように原紙の表面側に塗布し、乾燥させることで内層塗工層を形成した。
次いで、顔料としてカオリン(カダム社製 アマゾンSB)を15部と、湿式重質炭酸カルシウム(株式会社イメリスミネラメズジャパン製 カービタル90)を65部と、酸化チタン(デュポン社製 RPS-Vantage)を20部を配合し、接着剤としてスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスであるスチレン-ブタジエンゴム系ラテックス(旭化成ケミカル社製 B-1230、平均粒子径150nm)を18部配合して、最外層塗工層用塗料を調製した。最外層塗工層用塗料をロッドコーターにて固形分10g/m2となるように内層塗工層上に塗布し、乾燥させることで表面側の塗工層を形成した。
【0049】
<裏面側への塗工層の形成>
原紙の裏面側に、最外層塗工層用塗料をロッドコーターにて固形分10g/m2となるように塗布し、乾燥させることでして裏面側の塗工層を形成した。完成したヒートシール用塗工紙の坪量は234g/m2である。
【0050】
<平滑加工処理>
線圧50kg/cmにてキャレンダー処理を行い、その後80kg/cm、140℃にて表面をラスタープレスにて処理することで実施例1に係るヒートシール用塗工紙を得た。
【0051】
(実施例2)
最外層塗工層用塗料中のスチレン-ブタジエンゴム系ラテックスの添加部数を18部から5部に変更した以外は実施例1と同様にして実施例2に係るヒートシール用塗工紙を得た。
【0052】
(実施例3)
最外層塗工層用塗料中のスチレン-ブタジエンゴム系ラテックスの添加部数を18質量部から30質量部に変更した以外は実施例1と同様にして実施例3に係るヒートシール用塗工紙を得た。
【0053】
(実施例4)
最外層塗工層用塗料中の接着剤をスチレン-ブタジエンゴム系ラテックス(旭化成ケミカル社製 B-1230)からスチレン-ブタジエンゴム系ラテックス(旭化成ケミカルズ社製 L1432X、平均粒子径170nm)に変更した以外は実施例1と同様にして実施例4に係るヒートシール用塗工紙を得た。
【0054】
(実施例5)
最外層塗工層用塗料中の接着剤をスチレン-ブタジエンゴム系ラテックス(旭化成ケミカル社製 B-1230)からスチレン-ブタジエンゴム系ラテックス(旭化成ケミカルズ社製 B1335、平均粒子径130nm)に変更した以外は実施例1と同様にして実施例5に係るヒートシール用塗工紙を得た。
【0055】
(実施例6)
最外層塗工層用塗料中の接着剤をスチレン-ブタジエンゴム系ラテックス(旭化成ケミカル社製 B-1230)からスチレン-ブタジエンゴム系ラテックス(JSR社製 T2788K、平均粒子径130nm)に変更した以外は実施例1と同様にして実施例6に係るヒートシール用塗工紙を得た。
【0056】
(実施例7)
表面側に内層塗工層を設けずに、最外層塗工層用塗料を用いて1層のみの塗工層とした以外は実施例1と同様にして実施例に係るヒートシール用塗工紙を得た。
【0057】
(実施例8)
基紙を3層抄きで総坪量が200g/m2であるものから、単層抄きで坪量が200g/m2であるものに変更した以外は実施例1と同様にして実施例に係るヒートシール用塗工紙を得た。
【0058】
(実施例9)
基紙を3層抄きで総坪量が200g/m2であるものから、単層抄きで坪量が67g/m2であるものに変更した以外は実施例1と同様にして実施例に係るヒートシール用塗工紙を得た。
【0059】
(比較例1)
最外層塗工層用塗料中の接着剤をスチレン-ブタジエンゴム系ラテックス(旭化成ケミカル社製 B-1230)からスチレン-ブタジエンゴム系ラテックス(日本A&L社製 PA6033、平均粒子径95nm)に変更した以外は実施例1と同様にして実施例に係るヒートシール用塗工紙を得た。
【0060】
(比較例2)
表面層への塗工層の形成をしなかった以外は実施例1と同様にして実施例に係るヒートシール用塗工紙を得た。
【0061】
各実施例及び各比較例にて得られたヒートシール用塗工紙について以下の条件に従い評価を行った。評価結果を図3に示す。
【0062】
<ヒートシール適性評価>
各実施例及び各比較例にて得られたヒートシール用塗工紙を、幅8mm、長さ15cmのサイズで2枚カットし、2枚のヒートシール用塗工紙の表面と裏面とを重ね合わせて、ヒートシール装置(パルメック社製、型番:PTS-100)で、接着幅:4mm、温度:180℃、圧力0.4MPa、押し当て時間0.5秒、ピッチ:4mmの条件にてヒートシールして各サンプルを得た。次いで、各サンプルを剥離強度試験機(島津製作所製、型番:オートグラフAGS-X)で、剥離速度:100mm/分、剥離長さ:10cmの条件に剥離して、剥離面を目視によって評価した。
◎:シール部の全部分が紙基材の基紙から材破しており、実用できる。
○:シール部の大部分が紙基材の基紙から材破しており、実用できる。
△:シール部の一部が紙基材の基紙から材破しており、実用できる。(実用下限)
×:シール部が塗工層とサイズ層の界面で剥離している、または接着していない。(実用不可)
【0063】
<印刷適性評価1:平滑性>
各実施例及び各比較例にて得られたヒートシール用塗工紙について、PST2600(FIBRO system ab社製)を使用して、クランピング圧力条件:7.6MPa、クランピング時間:0.02秒の条件にて非接触部の合計面積を求めた。なお、この測定は表面側に対して行った。
◎:非接触部の合計面積が6%以下であり非常に良好である。
○:非接触部の合計面積が6~7%であり良好である。
△:非接触部の合計面積が7~8%である。(実用下限)
×:非接触部の合計面積が8%以上である。(実用不可)
【0064】
<印刷適性評価2:インキセット性>
各実施例及び各比較例にて得られたヒートシール用塗工紙について、RI印刷機(明製作所製)を用いてプロセスインキ 紅(東洋インキ社製)を0.4cc使用し、30rpmの印刷速度で表面側に1回刷りを行った。その後に、ヒートシール用塗工紙上の表面側(印刷面)に転写紙(ミューコートネオス、北越コーポレーション社製)を乗せて印刷機のゴムロールと金属ロールに圧胴させ、転写紙へのインク転移の状態を目視で確認した。圧胴は印刷直後から30秒おきの30秒後、60秒後、90秒後にロールを1/3ずつ(約10cm)回転させ3回にわけて行った。なお、この測定は表面側に対して行った。
◎:転写紙へのインキの転移が少なく良好である。
〇:転写紙へのインキの転移はあるが良好である。
△:転写紙へのインキの転移がある。(実用下限)
×:転写紙へのインキの転移が多い。(実用不可)
【0065】
図3から明らかなように、実施例1~9により得られたヒートシール用塗工紙は、いずれも印刷適性及びヒートシール適性の双方について良好であった。
【0066】
一方、比較例1で得られたヒートシール用塗工紙は、使用したSBRラテックスの平均粒子径が100nmよりも小さかったためにヒートシール適性が劣る結果となった。また比較例2で得られたヒートシール用塗工紙は、印刷を行う表面側に塗工層を設けなかったために表面の凹凸が大きくなり、またインキセット性も遅く印刷適性に劣るものであった。
図1
図2
図3