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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】吸着パッド
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/06 20060101AFI20241203BHJP
【FI】
B25J15/06 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021174380
(22)【出願日】2021-10-26
(65)【公開番号】P2023064232
(43)【公開日】2023-05-11
【審査請求日】2024-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】横上 利之
(72)【発明者】
【氏名】空閑 融
(72)【発明者】
【氏名】才木 みゆき
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-028120(JP,A)
【文献】特開平08-294891(JP,A)
【文献】特開2008-074565(JP,A)
【文献】特開2010-005707(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0248370(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110248536(CN,A)
【文献】独国実用新案第202021104348(DE,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 15/06
A01D 46/00
B65G 47/91
C12N 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を吸着して保持する吸着パッドであって、
弾性変形可能な部材で形成され、基端部を保持されたパッド本体と、
前記パッド本体の内部に基端側から先端側へ延びるように形成された空洞部と、
前記空洞部に連通し、前記パッド本体の先端部に開口する吸着穴と、を備え、
前記吸着穴の開口径が、前記空洞部の内径より小さく、
前記対象物を吸着する際に、前記パッド本体は、前記吸着穴の縁部が前記空洞部側へ潰れるように弾性変形することを特徴とする吸着パッド。
【請求項2】
前記パッド本体は、その先端部が弾性変形可能に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の吸着パッド。
【請求項3】
前記パッド本体は、その先端部が基端部より肉薄に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の吸着パッド。
【請求項4】
前記弾性変形可能な部材が、スポンジであることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の吸着パッド。
【請求項5】
前記パッド本体は、その先端部が連続気泡を有するスポンジで形成され、その基端部が独立気泡を有するスポンジで形成されていることを特徴とする請求項4に記載の吸着パッド。
【請求項6】
前記パッド本体は、その先端部に、基端側から先端側に向かって前記空洞部の内径が縮径するテーパ部が設けられていることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の吸着パッド。
【請求項7】
前記テーパ部は、その先端側が基端側より肉薄に形成されていることを特徴とする請求項6に記載の吸着パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物を吸着して保持する吸着パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
任意に操作しようとする対象物を保持する手段として、当該対象物を真空吸着する吸着パッドが従来用いられている(例えば、特許文献1を参照)。この特許文献1の図1に示されるように、吸着パッド(真空吸着パッド10)は、真空源装置に接続された蛇腹状のベローズ(スカート部2)と、ベローズの下端に設けられたパッドホルダ(エッジホルダ4)と、パッドホルダに嵌合された軟質ゴムからなる環状のパッド本体(エッジ部5)と、を有している。そして、この真空吸着パッド10を用いて凹凸を有する平板状のワークを吸着する場合、真空源装置からの吸引を開始すると共に、パッド本体(エッジ部5)をワークに押し当てる。そうすると、図4(a)に示されるように、ワークtの表面の凹凸がパッド本体(エッジ部5)の弾性変形によって吸収されることにより、パッド本体によるワークtの良好な吸着が確保される。また、図4(b)に示されるように、ワークtの位置ずれや傾斜に対してベローズ(スカート部2)の変形によって追従することにより、パッド本体によるワークtの良好な吸着が確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5163541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の吸着パッドには、そのパッド本体を押し当てても十分な反力が返ってこない対象物については、良好な吸着を実現することが難しいという問題があった。例えば、対象物が木になった果実である場合、パッド本体を果実に押し当てようとすると果実が逃げるように動くため、果実からは十分な反力が返ってこない。この場合、軟質ゴムからなるパッド本体が弾性変形可能な量は僅かであり、果実の表面に存在する大きな凹凸を完全に吸収することは難しい。従って、パッド本体と果実表面との間には隙間が生じやすく、吸着パッドによる果実の良好な吸着を実現することが難しい。
【0005】
そこで本発明は、かかる事情を考慮してなされたものであり、その目的は、パッド本体を押し当てても十分な反力が返ってこない対象物であっても、良好に吸着することが可能な吸着パッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の態様に係る吸着パッドは、対象物を吸着して保持する吸着パッドであって、弾性変形可能な部材で形成され、基端部を保持されたパッド本体と、前記パッド本体の内部に基端側から先端側へ延びるように形成された空洞部と、前記空洞部に連通し、前記パッド本体の先端部に開口する吸着穴と、を備え、前記吸着穴の開口径が、前記空洞部の内径より小さいことを特徴とする。
【0007】
なお、本発明の一の態様に係る吸着パッドにおいては、前記パッド本体は、その先端部が弾性変形可能に形成されてもよい。
【0008】
また、本発明の一の態様に係る吸着パッドにおいては、前記パッド本体は、その先端部が基端部より肉薄に形成されてもよい。
【0009】
また、本発明の一の態様に係る吸着パッドにおいては、前記弾性変形可能な部材が、スポンジであってもよい。
【0010】
また、本発明の一の態様に係る吸着パッドにおいては、前記パッド本体は、その先端部が連続気泡を有するスポンジで形成され、その基端部が独立気泡を有するスポンジで形成されてもよい。
【0011】
また、本発明の一の態様に係る吸着パッドにおいては、前記パッド本体は、その先端部に、基端側から先端側に向かって前記空洞部の内径が縮径するテーパ部が設けられてもよい。
【0012】
また、本発明の一の態様に係る吸着パッドにおいては、前記テーパ部は、その先端側が基端側より肉薄に形成されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一の態様に係る吸着パッドによれば、パッド本体を押し当てても十分な反力が返ってこない対象物や、表面に大きな凹凸がある対象物についても、良好に吸着することが可能な吸着パッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第一実施形態に係る真空吸着パッド1を示す概略断面図である。
図2】真空吸着パッド1により果実F1を吸着する手順を示す説明図である。
図3】真空吸着パッド1により果実F2を吸着する手順を示す説明図である。
図4】本発明の第二実施形態に係る真空吸着パッド20を示す概略断面図である。
図5】第二実施形態の変形例に係る真空吸着パッド30を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る吸着パッドについて、図面を参照しつつ説明する。なお本実施形態では、吸着パッドの一例である真空吸着パッドについて説明する。
【0016】
(第一実施形態に係る真空吸着パッドの構成)
まず、本発明の第一実施形態に係る真空吸着パッドの構成について説明する。図1は、第一実施形態に係る真空吸着パッド1を示す概略断面図である。真空吸着パッド1は、ホルダ支持部2と、パッドホルダ3と、空気流路4と、パッド本体5と、空洞部6と、吸着穴7と、を備えている。
【0017】
ホルダ支持部2は、パッドホルダ3を支持する役割を果たす。このホルダ支持部2は、樹脂や金属等の硬質な部材や、ゴムや蛇腹のような柔軟な部材で形成され、図1に示すように、円柱形状の外形を有し、真空吸着パッド1の基端側から先端側に向かって延びるように設けられる。なお、本発明における「基端側」とは吸着の対象物から離間する側を、「先端側」とは対象物に近接する側を、それぞれ意味するものとする。
【0018】
パッドホルダ3は、パッド本体5を保持する役割を果たす。このパッドホルダ3は、図1に示すように、樹脂や金属等の硬質な部材からなる円盤形状の部材であって、その外周縁部にはパッド取付部8が周方向全周に亘って形成されている。このように構成されるパッドホルダ3が、ホルダ支持部2の先端部に固定されている。
【0019】
空気流路4は、パッド本体5の内部の空気を外部へ排出するための流路として機能する。この空気流路4は、図1に示すように、ホルダ支持部2とパッドホルダ3を貫通して基端側から先端側へ延びるように設けられている。そして、この空気流路4の上流側端部は空洞部6に接続されている。一方、空気流路4の下流側端部は、図に詳細は示さないが、外部に設けられる真空ポンプ等の真空源装置に接続されている。
【0020】
パッド本体5は、真空吸着パッド1における対象物との接触部として機能する。このパッド本体5は、弾性変形可能な部材としての独立気泡スポンジで形成され、図1に示すように、その基端部を形成する本体部9と、先端部を形成するテーパ部10と、を有している。本体部9は、円柱形状の外形を有し、その先端側から基端側に向かって徐々に肉厚になるように形成されている。これにより、本体部9は、その基端側の方が先端側より弾性変形しにくくなっている。一方、テーパ部10は、その基端側から先端側に向かって徐々に縮径するテーパ形状の外形を有し、本体部9と接続する基端側から先端側に向かって徐々に肉薄になるように形成されている。これにより、テーパ部10は、本体部9と比較して弾性変形しやすく、且つ、先端側に行くに従ってより弾性変形しやすくなっている。すなわち、パッド本体5は、吸着穴7の縁部において最も弾性変形しやすくなっている。なお、パッド本体5を形成する独立気泡スポンジとしては、ポリウレタン、シリコンゴム、エチレンプロピレンゴム、またはフッ素ゴム等の独立気泡スポンジや、植物繊維からなるセルローススポンジ等を用いることができる。
【0021】
空洞部6は、パッド本体5を内部側へ弾性変形しやすくする役割を果たす。この空洞部6は、図1に示すように、パッド本体5の内部に形成された断面円形の穴であり、パッド本体5の基端面に開口している。そして、空洞部6の内径D1は、パッド本体5の厚みに対応して、軸方向の位置によってその大きさが変化している。詳細には、空洞部6の内径D1は、開口部から先端側に向かって徐々に拡径し、パッド本体5の本体部9とテーパ部10の接続部において最も大きくなり、そこから先端側に向かって徐々に縮径し、吸着穴7の縁部において最も小さくなっている。
【0022】
吸着穴7は、外部の空気をパッド本体5の内部へ吸入するための流路として機能する。この吸着穴7は、図1に示すように、パッド本体5の先端面を貫通して形成されて、空洞部6と外部とを連通している。また吸着穴7は、断面円形に形成され、開口径d1を有している。ここで、前述のように空洞部6の内径D1は吸着穴7の縁部において最も小さくなっているので、吸着穴7の開口径d1は、空洞部6の内径D1より小さく設定されている。
【0023】
(第一実施形態の作用効果)
次に、第一実施形態に係る真空吸着パッド1の作用効果について説明する。なお、本実施形態では、真空吸着パッド1を使用して木になった果実を吸着する場合を例に説明する。図2及び図3は、真空吸着パッド1により果実F1または果実F2を吸着する手順を示す説明図である。
【0024】
最初に、表面に大きな凹凸がある果実F1を吸着する場合について説明する。この場合、真空吸着パッド1のユーザは、まず真空源装置を作動させる。これに伴い、空洞部6の内部の空気が空気流路4を介して外部へ排出されて空洞部6の内圧が低下することにより、真空吸着パッド1は、吸着穴7より外部の空気の吸引を開始する。その状態において、ユーザは、真空吸着パッド1を果実F1に近接する方向へ移動させ、図2(a)に示すように、パッド本体5における吸着穴7の付近を果実F1に軽く押し当てる。これにより、パッド本体5は、不規則な表面形状の果実F1に対し、吸着穴7の縁部のうち周方向一部が果実F1と接触し、残部が果実F1から離間した状態となる。
【0025】
次にユーザは、真空吸着パッド1を更に果実F1に近接する方向へ移動させることにより、パッド本体5を果実F1に対して押し込む。ここで、パッド本体5は、独立気泡スポンジで形成されているため弾性変形しやすく、且つ、最も肉薄に形成された吸着穴7の縁部において最も弾性変形しやすくなっている。従って、果実F1から返ってくる僅かな反力に対しても、図2(b)に示すように、パッド本体5は、吸着穴7の縁部が空洞部6側へ潰れるように弾性変形し、果実F1と接触する領域が径方向外側へ徐々に拡大していく。そして、このようにパッド本体5と果実F1との接触領域が拡大すると、果実F1に対する吸着力が大きくなるため、パッド本体5の弾性変形が一層進むことによって果実F1との接触領域が径方向外側へ一層拡大していく。その後、図2(b)に示すように、パッド本体5は、吸着穴7の縁部が周方向全周に亘って果実F1と隙間なく密着した状態となる。これにより、真空吸着パッド1による果実F1の初期吸着が成立する。
【0026】
初期吸着の成立後も、パッド本体5における果実F1との接触領域が拡大するに従って果実F1に対する吸着力が大きくなるため、パッド本体5の弾性変形が一層進むことにより、パッド本体5における果実F1との接触領域は径方向外側へ一層拡大していく。しかし、パッド本体5は、先端側より基端側の方が弾性変形しにくく形成されている。すなわち、パッド本体5のテーパ部10は、その先端側から基端側に向かって徐々に肉厚になるよう形成されている。また、パッド本体5の本体部9は、テーパ部10より更に肉厚であって、その先端側から基端側に向かって徐々に肉厚になるように形成されている。従って、図2(c)に示すように、パッド本体5の弾性変形が本体部9の所定位置まで進み、パッド本体5の剛性が吸着力に耐え得る程度に高くなると、パッド本体5の弾性変形が止まり、真空吸着パッド1による果実F1の完全吸着が成立する。これにより、果実F1が移動不能に保持されるので、ユーザは果実F1に対する任意の操作を行うことができる。
【0027】
このように、パッド本体5は、吸着穴7の開口径d1が空洞部6の内径D1より小さく設定されているので、表面に大きな凹凸がある果実F1を吸着する場合でも、果実F1表面の狭い領域に対して吸着穴7の縁部を周方向全周に亘って密着させやすい。従って、大きな凹凸の存在にかかわらず、真空吸着パッド1による果実F1の初期吸着を容易に成立させることができる。また、初期吸着が成立した後は、パッド本体5の弾性変形によって果実F1との接触領域が拡大し、それに従って果実F1に対する吸着力が大きくなる。従って、パッド本体5の弾性変形が止まり、真空吸着パッド1による果実F1の完全吸着が成立する時には、大きな吸着力で果実F1が確実に保持される。このように、本発明の真空吸着パッド1によれば、初期吸着を容易に成立させることと、完全吸着の成立時に大きな吸着力を確保することとを、両立させることができる。
【0028】
次に、真空吸着パッド1の中心軸C1から位置ずれした状態の果実F2を吸着する場合について説明する。この場合、ユーザは、まず前述と同様に真空源装置を作動させて吸着穴7からの吸引を開始させる。その状態においてユーザは、図3(a)に示すように、真空吸着パッド1を果実F2(表面に凹凸がない略球形のものとする)に近接させ、パッド本体5における吸着穴7の付近を果実F2に押し当てる。この時、真空吸着パッド1の中心軸C1の位置が果実F2の中心軸C2の位置からずれる場合がある。その場合、パッド本体5は、吸着穴7の縁部のうち周方向一部が果実F2と接触し、残部が果実F2から離間した状態となる。
【0029】
このように中心軸C1と中心軸C2とが一致しない状態で、ユーザは、図3(b)に示すように、真空吸着パッド1を更に果実F2に近接する方向へ移動させることにより、パッド本体5を果実F2に対して押し込む。これにより、パッド本体5は、果実F2と接触した部分が空洞部6側へ潰れるように弾性変形し、果実F2と接触する領域が径方向外側へ徐々に拡大していく。その後、パッド本体5は、図3(b)に示すように、その中心軸C1が果実F2の中心軸C2と一致しない状態のまま、吸着穴7の縁部が周方向全周に亘って果実F2と隙間なく密着した状態となる。これにより、真空吸着パッド1による果実F2の初期吸着が成立する。
【0030】
その後、前述のように、パッド本体5における果実F2との接触領域が拡大するに従って果実F2に対する吸着力が大きくなり、パッド本体5の弾性変形が一層進むことにより、パッド本体5における果実F2との接触領域は径方向外側へ一層拡大していく。そして、図3(c)に示すように、パッド本体5の弾性変形が本体部9の所定位置まで進み、パッド本体5の剛性が吸着力に耐え得る程度に高くなると、パッド本体5の弾性変形が止まり、真空吸着パッド1による果実F2の完全吸着が成立する。
【0031】
ここで、パッド本体5は、その先端側から基端側に向かって徐々に肉厚になるように、すなわち基端側ほど弾性変形しにくく形成されている。従って、パッド本体5の弾性変形が基端側へ拡大するに従って、パッド本体5の弾性変形具合いはその周方向位置によらず均一になっていく。これにより、果実F2の初期吸着から完全吸着に至る過程において、果実F2の中心軸C2が真空吸着パッド1の中心軸C1に近付くように、両者の相対的な位置関係が徐々に変化していく。そして、図3(c)に示すように完全吸着が成立する時、果実F2は、その中心軸C2が真空吸着パッド1の中心軸C1に一致した状態となる。これによりユーザは、真空吸着パッド1の中心軸C1上で保持された果実F2に対し、正確な操作を行うことができる。
【0032】
このように、本発明の真空吸着パッド1によれば、その中心軸C1から位置ずれした状態の果実F2を吸着する場合であっても、弾性変形しやすいパッド本体5の特性を利用して果実F2との相対的な位置関係を変化させることにより、その中心軸C1上で果実F2を完全吸着することができる。従って、果実F2の位置ずれに対応して真空吸着パッド1の向きを変化させるために、図1に示すホルダ支持部2に蛇腹状のベローズ(不図示)を設ける必要がないので、真空吸着パッド1の構成を簡略化することができる。
【0033】
(第一実施形態の変形例)
本実施形態では、パッド本体5が、独立気泡スポンジで形成されている。しかし、パッド本体5は、弾性変形可能で且つ内部の気密性を確保可能であれば、独立気泡スポンジ以外の他の多孔質部材や、中空のバルーン状のシリコーン成形品(例えば、バルーンハンド(登録商標))で形成されてもよい。
【0034】
本実施形態では、パッド本体5の先端部が基端部より弾性変形しやすくなるよう、先端部であるテーパ部10が、基端部である本体部9より肉薄に形成されている。しかし、これに代えて或いはこれと組み合わせて、パッド本体5の先端部が基端部より弾性変形しやすくなるよう、テーパ部10を本体部9よりヤング率の低い素材で形成してもよい。
【0035】
本実施形態では、テーパ部10の先端側が基端側より弾性変形しやすくなるよう、テーパ部10が、その基端側から先端側に向かって徐々に肉薄になるように形成されている。しかし、これに代えて或いはこれと組み合わせて、テーパ部10の先端側が基端側より弾性変形しやすくなるよう、先端側を基端側よりヤング率の低い素材で形成してもよい。
【0036】
本実施形態では、本体部9の基端側が先端側より弾性変形しにくくなるよう、本体部9が、その先端側から基端側に向かって徐々に肉厚になるように形成されている。しかし、これに代えて或いはこれと組み合わせて、本体部9の基端側が先端側より弾性変形しにくくなるよう、基端側を先端側よりヤング率の高い素材で形成してもよい。
【0037】
本実施形態では、ホルダ支持部2が、樹脂や金属等の硬質な部材で形成されている。しかし、図に詳細は示さないが、ホルダ支持部2に蛇腹状のベローズを設けることにより、ホルダ支持部2を弾性変形可能に構成してもよい。この場合、真空吸着パッド1の中心軸から位置ずれした状態の果実F2を吸着する際に、前述のように弾性変形しやすいパッド本体5の特性を利用することに加えて、ホルダ支持部2の弾性変形によって真空吸着パッド1の向きが変化することにより、真空吸着パッド1がその中心軸上で果実F2を完全吸着することができる。従って、より大きく位置ずれした果実F2であっても、真空吸着パッド1で確実に吸着することができるという利点がある。
【0038】
なお、これら第一実施形態の変形例を、後述する第二実施形態の変形例として適用することも可能である。
【0039】
(第二実施形態に係る真空吸着パッドの構成)
次に、本発明の第二実施形態に係る真空吸着パッド1の構成について説明する。図4は、第二実施形態に係る真空吸着パッド20を示す概略断面図である。本実施形態の真空吸着パッド20は、第一実施形態の真空吸着パッド1と同様に、ホルダ支持部2と、パッドホルダ3と、空気流路4と、パッド本体21と、空洞部22と、吸着穴23と、を備えている。ここで、ホルダ支持部2、パッドホルダ3、及び空気流路4については、第一実施形態と同じ構成であるため、第一実施形態と同じ符号を用い、ここでは説明を省略する。
【0040】
パッド本体21は、第一実施形態のパッド本体21と比較すると、独立気泡スポンジで形成されている点で共通しているが、その形状が異なっている。すなわち、本実施形態のパッド本体21は、図4に示すように、その基端部を形成する本体部24と、先端部を形成する平坦部25と、を有している。本体部24は、円柱形状の外形を有し、その先端側から基端側に亘って均一の厚みになるように形成されている。一方、平坦部25は、真空吸着パッド20の中心軸に直交する方向へ延びる平坦面であって、本体部24より肉薄に、且つ、径方向位置によらず均一の厚みになるように形成されている。これにより、平坦部25の全面が、本体部24より弾性変形しやすくなっている。
【0041】
空洞部22は、図4に示すように、パッド本体21の本体部24の内部に形成された断面円形の穴である。この空洞部22は、その先端側から基端側に亘って内径D2が一定の大きさになるように形成されている。それ以外の点は、第一実施形態の空洞部6と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0042】
吸着穴23は、図4に示すように、パッド本体21の平坦部25を貫通して形成され、空洞部22と外部とを連通している。この吸着穴23は、断面円形に形成され、その開口径d2は空洞部22の内径D2より小さく設定されている。それ以外の点は、第一実施形態の吸着穴7と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0043】
(第二実施形態の作用効果)
次に、第二実施形態に係る真空吸着パッド20の作用効果について説明する。第二実施形態の真空吸着パッド20は、第一実施形態の真空吸着パッド1と同様に、表面に大きな凹凸がある果実F1を吸着する場合に、初期吸着を容易に成立させることと、完全吸着の成立時に大きな吸着力を確保することとを、両立させることができる。すなわち、吸着穴23の開口径d2が空洞部22の内径D2より小さく設定されているので、果実F1表面の狭い領域に対して吸着穴23の縁部を周方向全周に亘って密着させやすい。従って、大きな凹凸の存在にかかわらず、真空吸着パッド20による果実F1の初期吸着を容易に成立させることができる。
【0044】
また、第二実施形態の真空吸着パッド20は、その中心軸から位置ずれした状態の果実F2を吸着する場合の対応性能において、第一実施形態の真空吸着パッド20より若干劣っている。すなわち、パッド本体21は、その本体部24が平坦部25より弾性変形しにくくなっている。従って、パッド本体21の弾性変形が平坦部25から本体部24へ拡大する過程において、果実F2の中心軸が真空吸着パッド20の中心軸に近付くように、両者の相対的な位置関係は若干変化する。但し、平坦部25はその全面に亘って均一の厚みに形成され、本体部24もその先端側から基端側に亘って均一の厚みに形成されている。従って、パッド本体21の弾性変形が基端側へ拡大するに従って、弾性変形具合いがその周方向位置によらず均一になっていく効果は、第一実施形態と比較して低いと言える。
【0045】
しかし、第二実施形態のパッド本体21は、第一実施形態のパッド本体5と比較してその形状が単純である。従って、第二実施形態の真空吸着パッド20は、第一実施形態の真空吸着パッド1よりも簡略な工程及び安価なコストで製造することができるという利点がある。
【0046】
(第二実施形態の変形例)
本実施形態では、パッド本体21の先端部が基端部より弾性変形しやすくなるよう、先端部である平坦部25が、基端部である本体部24より肉薄に形成されている。しかし、これに代えて或いはこれと組み合わせて、パッド本体21の先端部が基端部より弾性変形しやすくなるよう、平坦部25が本体部24よりヤング率の低い素材で形成されてもよい。
【0047】
本実施形態では、パッド本体21の本体部24及び平坦部25が、共に独立気泡スポンジで形成されている。しかし、本体部24及び平坦部25を、通気性の異なる別素材でそれぞれ形成することも可能である。図5は、本実施形態の変形例に係る真空吸着パッド30を示す概略断面図である。この真空吸着パッド30では、パッド本体31を構成する本体部32が独立気泡スポンジで、平坦部33が半連続気泡スポンジでそれぞれ形成されている。ここで、半連続気泡スポンジとは、独立気泡と連続気泡とが混在したスポンジを意味し、独立気泡スポンジと比較して通気性があってかつ弾性変形しやすい特性を有している。なお、それ以外の構成は第二実施形態と同じであるため、第二実施形態と同じ符号を用い、ここでは説明を省略する。
【0048】
このように平坦部33を半連続気泡スポンジで形成した場合、真空吸着パッド30は、吸着穴23を通して外部の空気を吸引するだけでなく、平坦部33の全面を通しても外部の空気を吸引する。従って、果実の初期吸着が成立した後、平坦部33の全面及び吸着穴23によって果実が強い力で吸着されるので、パッド本体31における果実との接触領域が迅速に拡大し、果実の完全吸着が早期に成立するという利点がある。更に、果実の完全吸着が成立した後も、吸着穴23だけでなく平坦部33の全面によって果実が吸着されるので、完全吸着成立後の吸着力を高めることができるという利点もある。なお、パッド本体31の本体部32は通気性のない独立気泡スポンジで形成されているので、この本体部32を通した空気の出入りにより、果実の初期吸着や完全吸着の成立が阻害されることはない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る真空吸着パッドは、果実の収穫用としてだけでなく、パッド本体を押し当てても十分な反力が返ってこない、凹凸のある対象物の吸着用として使用することが可能である。例えば、不安定に配置された異形のワークや接地面との摩擦が弱く位置ずれしやすいワークの搬送用として、本発明に係る真空吸着パッドを使用することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 真空吸着パッド
2 ホルダ支持部
3 パッドホルダ
4 空気流路
5 パッド本体
6 空洞部
7 吸着穴
8 パッド取付部
9 本体部
10 テーパ部
20 真空吸着パッド
21 パッド本体
22 空洞部
23 吸着穴
24 本体部
25 平坦部
30 真空吸着パッド
31 パッド本体
32 本体部
33 平坦部
C1 中心軸
C2 中心軸
D1 内径
D2 内径
d1 開口径
d2 開口径
F1 果実
F2 果実
図1
図2
図3
図4
図5