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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】釣具及び釣具の表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/04 20060101AFI20241203BHJP
   C25D 11/00 20060101ALI20241203BHJP
   C25D 11/16 20060101ALI20241203BHJP
   C25D 11/18 20060101ALI20241203BHJP
   A01K 89/01 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C25D11/04 312A
C25D11/00 302
C25D11/04 305
C25D11/16 301
C25D11/18 305
A01K89/01 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021198986
(22)【出願日】2021-12-08
(65)【公開番号】P2023084737
(43)【公開日】2023-06-20
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隆太郎
(72)【発明者】
【氏名】阿部 佑太郎
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-098034(JP,A)
【文献】特開2019-122273(JP,A)
【文献】特開2005-013153(JP,A)
【文献】特開昭58-217697(JP,A)
【文献】特開2007-063574(JP,A)
【文献】特開2000-004721(JP,A)
【文献】特開平11-332430(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0247940(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/00
A01K 89/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金をダイカスト成形した基材の表面に、基材よりも純度の高いアルミニウムによる高純度アルミ層が被着されると共に、その上にアルマイト処理によるアルマイト層が形成されている釣具において、
前記アルマイト層の一部が除去されることで前記高純度アルミ層が露出した部分に、再度のアルマイト処理によって第2アルマイト層が形成されていることを特徴とする釣具。
【請求項2】
前記再度のアルマイト処理では、染色処理が施されて色彩が付されていることを特徴とする請求項1に記載の釣具。
【請求項3】
前記高純度アルミ層が露出した部分は複数個所存在しており、位置によって深さが異なっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の釣具。
【請求項4】
前記高純度アルミ層は2層以上形成されており、下層に対して上層の純度が高いことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の釣具。
【請求項5】
前記高純度アルミ層は2層以上形成されており、上層に行くに従い段階的に膜厚が薄く形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の釣具。
【請求項6】
前記高純度アルミ層の肉厚は、10~200μmに形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の釣具。
【請求項7】
前記高純度アルミ層の表面、又は、2層以上の高純度アルミ層が形成される場合は、各層の表面もしくはいずれかの層の表面に、ショットピーニング処理が施されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の釣具。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の前記釣具は、魚釣用リールであることを特徴とする。
【請求項9】
アルミニウム合金をダイカスト成形した釣具の基材の表面に、基材よりも純度の高いアルミニウムによる高純度アルミ層を被着する被着工程と、
前記被着工程に引き続き、アルマイト処理をすることで第1アルマイト層を形成する第1アルマイト層形成工程と、
前記第1アルマイト層の一部を除去し、前記高純度アルミ層を露出させる除去工程と、
前記除去工程に引き続き、再度のアルマイト処理をすることで第2アルマイト層を形成する第2アルマイト層形成工程と、
を有することを特徴とする釣具の表面処理方法。
【請求項10】
前記第2アルマイト層形成工程では、染色処理を行なうことを特徴とする請求項9に記載の釣具の表面処理方法。
【請求項11】
前記除去工程は、位置によって深さを変えると共に、前記基材を露出させないことを特徴とする請求項9又は10に記載の釣具の表面処理方法。
【請求項12】
前記第1アルマイト層形成工程時における高純度アルミ層と、前記第2アルマイト層形成工程における高純度アルミ層は、表面性状を変えることを特徴とする請求項9から11のいずれか1項に記載の釣具の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣りに際して携行される各種の釣具、及び、そのような釣具の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、魚釣用リール等の釣具には、特許文献1に開示されているように、外観を向上すると共に、十分な耐食性や強度を確保できるように、アルミダイカストによって構成部品を形成し、表面にアルマイト処理を施した構成が知られている。図5(a)に示すように、このような構成部品の基材50は、価格性、入手し易さ、加工性、強度等を考慮して、アルミニウム合金(主にADC12)が用いることが多く、その表面に高純度なアルミニウムを、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の物理蒸着法や、電析めっき等の方法で被着することが行なわれている(基材50上に高純度アルミ層51を被着する)。
【0003】
特許文献1には、そのような高純度アルミ層51が被着された構成部品に対してアルマイト処理(陽極酸化処理)を施すことで、表面が改質処理されたアルマイト層52を形成し、これにより、耐摩耗性、耐食性に優れ、かつ、光輝性のある外観の釣具(魚釣用リール)を得ることが開示されている。
【0004】
上記した表面処理方法では、高純度アルミ層51を形成することから光輝性のある外観が得られるが、図5(b)に示すように、アルミニウム合金の基材50上に、直接アルマイト処理を行なってアルマイト層52を形成し、その表面に塗装によって色彩を有する塗装層55を形成したり、図5(c)に示すように、アルミニウム合金の基材50上に、直接アルマイト処理を行なってアルマイト層52を形成し、その表面に染色処理及び封孔処理を施して染色アルマイト層56を形成することも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-13153号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1に開示された従来の技術では、外観の向上を図り、かつ、表面強度を確保するために、所定の厚さのアルマイト層を形成する必要がある。
しかしながら、ダイカスト素材と高純度アルミ層との熱収縮度(線膨張係数)の違いにより、いわゆるひび割れ(クラック)が高純度アルミ層に生じる。そして、アルマイト処理の際に、ひび割れ個所からアルマイト処理液の染み出しなどによって変色が起きてしまうことから、機械的な性能を満たしているにもかかわらず、製品検査時に外観不良により出荷することが出来なくなる可能性がある。
【0007】
また、上記したようなひび割れ現象は、アルマイト処理する際の体積増加による応力や、基材の形状によるアルマイトの構造が影響するものと考えられる。
すなわち、高純度アルミ層51に対してアルマイト処理を行なうと、そのアルマイト層52は体積が増加(高純度アルミ層51に対して約1.4倍程度に増加)することから、高純度アルミ層20は引っ張られるような応力が作用する。この応力がアルマイト層でのひび割れ(クラックとも称する)の要因の一つと考えられる。さらに、ダイカスト成形する基材を、凸面を有する形状にすると、凸面側では表面に対して垂直にアルマイト層が成長するため、放射状に広がって多孔質層の部分でひび割れが生じ易くなる。すなわち、急なエッジ部分や凸湾曲面を有する釣具に対してアルマイト処理を施すと、上記した蒸着層の肉厚や残留応力と相俟ってひび割れ(外観不良)が生じ易くなるものと考えられる。
【0008】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、表面にアルマイト処理を施した際、表面強度を保ちながら外観不良を低減する釣具、及び、そのような釣具の表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明に係る釣具は、アルミニウム合金をダイカスト成形した基材の表面に、基材よりも純度の高いアルミニウムによる高純度アルミ層が被着されると共に、その上にアルマイト処理によるアルマイト層が形成されており、前記アルマイト層の一部が除去されることで前記高純度アルミ層が露出した部分に、再度のアルマイト処理によって第2アルマイト層が形成されていることを特徴とする。
【0010】
上記した構成では、基材に対して純度の高いアルミニウムによる高純度アルミ層を形成し、その表面を研磨後にアルマイト処理することから、光沢を有する光輝性外観が得られようになる。また、形成されたアルマイト層の一部を除去して高純度アルミ層が露出した部分に、再度のアルマイト処理によって第2アルマイト層を形成するので、最初のアルマイト層を形成した際に、例えば、ひび割れ等によって外観不良が生じていても、その部分を除去する等して第2アルマイト層を形成することから、外観不良を無くすことが可能になり、表面強度を低下させることもない。
【0011】
また、上記した目的を達成するために、本発明は、釣具の表面処理方法を提供するのであり、その表面処理方法は、アルミニウム合金をダイカスト成形した釣具の基材の表面に、基材よりも純度の高いアルミニウムによる高純度アルミ層を被着する被着工程と、前記被着工程に引き続き、アルマイト処理をすることで第1アルマイト層を形成する第1アルマイト層形成工程と、前記第1アルマイト層の一部を除去し、前記高純度アルミ層を露出させる除去工程と、前記除去工程に引き続き、再度のアルマイト処理をすることで第2アルマイト層を形成する第2アルマイト層形成工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
このような処理方法においても、第1アルマイト層を形成した際に外観不良が生じていても、その部分を除去して第2アルマイト層をすることから、外観不良を無くすことが可能になり、表面強度を低下させることもない。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る釣具、及び、その表面処理方法によれば、表面にアルマイト処理を施した際、表面強度を保ちながら外観不良を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る釣具の一例であるスピニングリール(魚釣用リール)の外装体の構成例を示す図。
図2】アルミニウム合金(ADC12)に高純度アルミ層を被着して、アルマイト層を形成した後、そのアルマイト層の一部を除去し、高純度アルミ層を露出させる除去工程を概略的に示した模式図。
図3図2に示す除去工程の後に、第2アルマイト層が形成された状態を概略的に示す模式図。
図4】本発明に係る釣具の表面処理工程を示す図。
図5】(a)から(c)は、それぞれ従来の表面処理(アルマイト処理)方法を説明する図。
図6図1に示す魚釣用リールにビンテージ感を出す表面処理(ダメージ加工処理)を行なった状態を示す写真であり、(a)は、加工処理前の写真、(b)は、加工処理後の写真。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、アルミ製の各種の釣具に適用可能であり、魚釣用リールの本体フレーム、カバー、ハンドル等に適用することが可能である。例えば、図1に示すように、スピニングリールの外装体1をアルミニウム合金で作成するに際しては、外装体1を、アルミニウム合金を用いてダイカスト成形することが可能である。この場合、外装体1の基材をADC12などのアルミニウム合金とし、これをダイカスト成形することで、図1のような形態に加工することが可能である。
【0016】
図2から図4は、図1に示した外装体1を作成するに際して、本発明の表面処理方法を具体的に説明する図である。
【0017】
本実施形態では、ADC12などのアルミニウム合金(基材10)をダイカスト成形することで(図4;S1)、図1に示すような形態の外装体1が作成される。このように成形された外装体1の表面には、例えば、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の物理蒸着法や、電析めっきなどの蒸着工程によって、高純度アルミ層11が被着される(図4;S2)。
この高純度アルミ層11の厚さについては、特に限定されることはないが、10~200μmであることが好ましく、後述するように、部分的に除去することから、30~40μm以上あることが好ましい。
【0018】
その後、一般的に知られている陽極酸化処理(アルマイト処理)を施すことで、表面には、アルマイト層(以下、第1アルマイト層と称する)12が形成され(図4;S3)、同時に染色処理及び封孔処理を施すことによって光輝性のある外観模様が形成される(図4;S4)。すなわち、アルミ純度が高い表面にアルマイト処理を施すことから、光輝性のあるメタリック感(光沢)が得られると共に、染色アルマイト処理を行なうことで、表面の色彩バリエーションも増加する。
【0019】
この第1アルマイト層12の厚さについては、アルマイトによる内部応力を減少させるために薄肉厚に形成することが好ましく、前記高純度アルミ層11の厚さよりも薄肉厚にするのが良い。これは、第1アルマイト層12を厚く形成し過ぎると、高純度アルミ層11に生じる残留応力が大きくなり過ぎてひび割れ等が発生し易くなる傾向になるためである。第1アルマイト層12を高純度アルミ層11の厚さよりも薄肉厚に形成することで、第1アルマイト層12の部分でひび割れ等が発生することを効果的に防止することが可能となる。
【0020】
ところで、上述したように、ダイカスト素材であるアルミニウム合金と高純度アルミ層とは、熱収縮度(線膨張係数)が相違しており、高純度アルミ層にひび割れ等が生じることがある。このようなひび割れが生じると、アルマイト処理をする際に、ひび割れ個所からアルマイト処理液の染み出しなどによって変色が起きてしまうことから、機械的な性能を満たしているにもかかわらず、製品検査時に外観不良が起きる可能性がある。このため、本実施形態では、そのようなひび割れ個所や変色個所を目立たなくするような表面処理方法、或いは、そのようなひび割れ個所や変色個所を無くすような表面処理方法を用いており、デザイン性(デザインバリエーション)の向上を図るようにしている。
【0021】
具体的には、前記第1アルマイト層12の一部を除去し、前記高純度アルミ層11を露出させ(図4;S5)、高純度アルミ層11が露出した部分(図2では、露出した部分を符号11aで示してある)に、再度のアルマイト処理(第2アルマイト処理(図4;S6))をすることによって第2アルマイト層15を形成している。
この場合、第1アルマイト層12の除去方法については、例えば、孔開け等の機械加工、レーザ加工、エッチング、バレル等を用いることができ、必要とされる外観によって除去方法については適宜選択することができる。例えば、物品表面に精密な模様・印字が欲しい場合は機械加工、レーザ加工、エッチングを選択すればよい。また、あえて物品の表面を傷付けてビンテージ感を演出するのであれば、バレルによる除去が有効となる。
【0022】
上記した除去方法については、図2の穴14Aで示す凹部のように、前記第1アルマイト層12を貫通し、高純度アルミ層11の表面を露出させる手法であってもよいし、図2の穴14Bで示す凹部のように、前記第1アルマイト層12を貫通し、高純度アルミ層11の中間部分まで除去する手法であってもよいし、図2の穴14Cで示す凹部のように、前記第1アルマイト層12を貫通し、基材10の表面を露出させる手法であってもよい。また、除去する部分は、一部であればよく、その一部は、ひび割れ等が発生している部分に限定されることはない。
【0023】
上記のように、第1アルマイト層12を貫通させるのは、第1アルマイト層が残った状態で第2アルマイト処理(染色アルマイト処理)を行なうと、狙った色彩が出ないという問題が生じるためであり、高純度アルミ層11を露出させることで、狙った色彩を出すことが可能となる。すなわち、高純度アルミ層11が露出している部分(切削した側面や底面)を利用して第2アルマイト処理を施すことで第2アルマイト層15を形成している。この場合、研磨の仕方等によっては、図2に示すように、高純度アルミ層11の加工穴の深さ(高純度アルミ層11の厚さ)を変えることが可能であり、深さが異なる高純度アルミ層11の凹部領域に露出した高純度アルミ層11に対して第2アルマイト処理を行なうことで、同色のアルマイト処理でも濃淡の違いで色合いの異なるデザインを施すことができる。
【0024】
以上のような除去方法によって第1アルマイト層12が除去された後、第2アルマイト処理を施すことで、その凹部の表面に第2アルマイト層15が形成される。すなわち、表面全体で見ると、表面強度を保ちながら新しいデザインを施すことが可能となる。また、バレル処理によってビンテージ感を演出する外観を選択した場合、バレル処理によるランダムな傷が、外観上問題となる筈であった不良を覆い隠すことから、不良発生率を低減することが可能となる。
【0025】
なお、第2アルマイト処理では、染色処理を施して封孔処理することで、所望の色彩を付すことが可能である(図4;S7)。また、図2に示した除去方法以外にも、基材10の内部に至るまで凹部を形成してもよいが、第2アルマイト処理時に染色処理をしても、狙った色彩を出すことが難しくなる(ただし多彩な色彩やその組み合わせは可能となる)。
【0026】
また、前記第1アルマイト層形成工程時における高純度アルミ層と、前記第2アルマイト層形成工程における高純度アルミ層は、表面性状を変えるようにしてもよい。
例えば、第1アルマイト処理をする際は、高純度アルミ層11の表面をショットブラスト等によって梨地調にしておき、第2アルマイト処理のために除去する(凹部を形成する)高純度アルミ層11は、研磨を行なって光沢を出してもよい。
【0027】
このような表面処理方法によれば、凹部を文字等によって構成することで、梨地調となった表面に再度のアルマイト処理を施した際に、刻印等を、光沢をもって浮き出るような外観にすることが可能となる。
【0028】
図6は、上記したダメージ加工処理によってビンテージ感を出した魚釣用リール(図1に示すスピニングリールの外装体)を示す写真であり、(a)は、加工処理前の写真、(b)は、加工処理後の写真である。
図(a)は、第1アルマイト処理及び黒色の染色処理を施した状態を示す図である。この状態の外装体1に対して、バレル研磨を行なうことで、1アルマイト層12を貫通させると共に、高純度アルミ層11が露出するように表面を削り込んだ処理(第1アルマイト層除去処理)を行なっている。
【0029】
このような除去処理を行なうと、高純度アルミ層11の表面における凹部の深さはランダム状になる。この状態で第2アルマイト処理を施すと、図(b)で示すように、1回目のアルマイト処理で変色が生じていたとしても、その変色を目立たなくして、黒とシルバーが混在したビンテージ感のある外観に仕上げることができる。また、第2アルマイト処理と共に染色処理を行なうことで、更に異なる外観に仕上げることも可能となる。
【0030】
以上のように、通常行われている第1アルマイト処理で、変色による外観不良が生じていても、上記したような第1アルマイト層の除去処理、及び、第2アルマイト処理を行なうことで、そのような変色を目立たなくしたり、全体として外観を変更することができるので、外装体1の表面強度を保ちながら外観不良を低減することが可能となる。また、経年劣化等によって、外観が低下した外装体に対しても、上記した除去処理及び第2アルマイト処理を施すことで、そのような外装体を再利用することも可能となる。
【0031】
上記した表面処理工程は一例であり、例えば、以下のように実施しても良い。
上記したように、釣具の構成部品である基材10は、アルミニウム合金(ADC12)をダイカスト成形で所定の形状に形成し、その表面に、基材よりも純度の高い高純度アルミ層11を形成したが、この高純度アルミ層11は、少なくとも2層以上積層、被着してもよい。このように、基材10よりも純度の高い高純度アルミ層を複数層(2層以上)形成することで、1層の場合と比較して1層当たりの膜厚を薄くすることが可能となる。
【0032】
一般的に、蒸着膜の内部応力(残留応力)は、膜厚が厚くなる程、高くなることから、高純度アルミ層を2層以上に分割して被着することにより、内部応力を効果的に低減して、第1アルマイト処理をする際のひび割れの発生を抑制することができる。また、2層目を被着する際、その熱によって1層目の高純度アルミ層の残留応力が取り除かれるため(アニール効果)、残留応力が低減され、ひび割れ等を抑制することが可能となる。また、1層目の表面に多少のひび割れが生じていても(湾曲面において生じ易いと考えられる)、2層目が被着される際、そのようなひび割れの隙間に入り込むことで、クラックの発生を効果的に抑制することも可能となる。
【0033】
なお、上記したように、高純度アルミ層を2層以上形成する際、各層の純度(線膨張係数)については、下層に対して上層の方が高いものを用いることが好ましい。一般的に、純度が高いほど線膨張係数が高くなる傾向にあることから、線膨張係数が高い純アルミニウム素材を最外層にすることで、光輝性の高い外観が得られると考えられる。すなわち、アルミニウムの純度が高くなると、その光沢度が増すので、基材10に対しては、高純度のアルミニウムを被着することが好ましいが、純度が高くなると、上記したように線膨張係数が高くなることから、1層の高純度アルミ層を被着する構成では、基材10との間で線膨張係数の差が大きくなり過ぎてしまって、クラックが生じ易くなる。このため、純度(線膨張係数)が高いアルミニウムについては、基材10に直接被着するのではなく、それよりも純度(線膨張係数)が低い層を介在して複数層にすることで、内部応力の軽減(クラックの軽減)を図りながら、高純度のアルミ層に対してアルマイト処理を行なうことができ、光沢度の高い外観表面を得ることが可能となる。
【0034】
この場合、積層される高純度アルミ層については、3層以上形成しても良く、このようなケースでは、上層に移行するにしたがって、段階的に純度が高くなるアルミニウムを被着することが好ましい(一部の隣接する層において、同一の純度のものを被着する構成、下層が純度の高いものが被着する構成が含まれていても良い)。
【0035】
また、高純度アルミ層は、その厚さに比例して引っ張り応力が大きくなることから、上記したように、複数層に分けて被着する場合は、上層に行くに従って膜厚を段階的に薄くすることで、層間での応力の差を緩和することができひび割れが生じ難くなると考えられる。更に好ましくは、第1アルマイト処理によって形成される第1アルマイト層12の肉厚については、アルマイトによる内部応力を減少させるために薄肉厚に形成することが好ましく、具体的には、2層以上形成される高純度アルミ層の肉厚よりも薄肉厚にするのが良い。これは、アルマイト層を厚く形成し過ぎると、最上の高純度アルミ層に生じる残留応力が大きくなり過ぎてひび割れが発生し易くなる傾向になるためである。このため、第1アルマイト層12を薄肉厚に形成することで、アルマイト層の部分でひび割れが発生することをより効果的に防止することが可能となる。
【0036】
特に、基材10が凸面を有する構造では、酸化被膜が垂直に配向することから、アルマイト層そのものにひび割れが入り易くなってしまう。このため、第1アルマイト層12の肉厚については、その凸面の曲率にもよるが、5~10μm程度に形成することで、そのようなひび割れを効果的に防止することが可能となる。なお、前記第1アルマイト処理によって形成される第1アルマイト層12による外観部は、その全てが薄肉厚に形成されていても良いし、その一部が、2層以上形成される高純度アルミ層の肉厚よりも薄肉厚にされていても良い。このように、一部が薄肉厚であっても、ひび割れの発生を抑制することが可能となる。或いは、部材の形状によっては、高純度アルミ層の被着態様が均一でないこともあり得るため、そのようなケースでは、最も厚くなっている部分の高純度アルミ層の厚さよりも薄肉厚に形成しておけば良い。
【0037】
前記2層以上形成される高純度アルミ層の各層については、肉厚が30μm以下に形成することが好ましい。これは各層の肉厚を30μmにすることで、ひび割れの発生を低減できるため、複数層の各高純度アルミ層についても、肉厚を30μm以下に形成することで、ひび割れの発生を抑制することが可能となる。
【0038】
また、最終的にアルマイト処理をする際、体積膨張による引っ張り応力が発生し、それがひび割れの要因になることから、アルマイト処理する前段階で高純度アルミ層に圧縮応力を与えておき、第1アルマイト処理時に発生する引張応力と干渉させて見た目の応力を減少させることがひび割れの発生防止に有効と考えられる。このため、2層以上形成される各層の表面、又は、いずれかの層の表面には、ショットピーニング処理を施しておくことが好ましい。ショットピーニング処理は、表面を叩いて圧縮応力を発生させることで加工硬化をさせるので、第1アルマイト処理前に圧縮応力を加えることとなり、アルマイト時に発生する引っ張り応力を緩和してひび割れの発生を抑制することが可能となる。また、この処理は、結晶粒微細化による硬化もするので、表面の傷や衝撃にも強くなる。なお、このようなショットピーニング処理は、高純度アルミ層が形成される毎に行なっても良いし、最上の高純度アルミ層を被着した後に行なっても良く、意匠性を向上することも可能となる。
【0039】
上記した高純度アルミ層11については、基材10に対して、2層以上被着されていれば良いが、現実的には2層又は3層にすることが好ましい。層数の上限については、限定されることはないが、加工コスト、加工時間、手間などを考慮すると、5層以下に形成しておくことが好ましい。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。例えば、基材10を構成する素材については、ADC12に限定されることはない。また、第1アルマイト層の除去処理は、穿孔、切削、研磨等、各種の手法を用いることができ、必要に応じてマスキングして除去処理を行なうようにしてもよい。また、本発明の表面処理は、図5(b)(c)に示した積層構造に対しても行うことが可能である。さらに、本発明は、リール以外の釣具に適用してもよく、釣具以外の各種のスポーツ用品に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 外装体
10 基材
11 高純度アルミ層
12 第1アルマイト層
15 第2アルマイト層
図1
図2
図3
図4
図5
図6