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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】電池モジュールの検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/396 20190101AFI20241203BHJP
   G01R 31/378 20190101ALI20241203BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20241203BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20241203BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241203BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20241203BHJP
【FI】
G01R31/396
G01R31/378
H01M10/48 P
H01M10/44 P
H01M10/052
H01M10/0585
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021203954
(22)【出願日】2021-12-16
(65)【公開番号】P2023089452
(43)【公開日】2023-06-28
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 直久
(72)【発明者】
【氏名】磯村 亮太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信司
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-009677(JP,A)
【文献】特開2018-026210(JP,A)
【文献】特開2019-192517(JP,A)
【文献】特開2020-202019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
H01M 10/48
H01M 10/44
H01M 10/052
H01M 10/0585
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列接続された複数の電池モジュールの検査方法であって、
前記複数の電池モジュールの各々は、直列接続された複数のセルを含み、
前記検査方法は、
充電処理を実行するステップと、
判定処理を実行するステップと、
前記充電処理および前記判定処理を再度実行するステップとを含み、
前記充電処理を実行するステップは、
前記複数の電池モジュールに含まれるすべてのセルを、いずれかのセルの電圧が上限電圧に到達するまで充電するステップと、
充電された前記すべてのセルの各々に蓄えられた容量を算出するステップと、
充電された前記すべてのセルの各々の電圧を検出するステップとを含み、
前記判定処理を実行するステップは、前記充電処理により充電された前記すべてのセルの各々について、当該セルの容量が最小容量と最大容量との間の容量許容範囲内に位置し、かつ、当該セルの電圧が前記上限電圧と下限電圧との間の電圧許容範囲内に位置するかを判定するステップを含み、
前記最小容量は、当該セルの正極の目付量が許容誤差の範囲内で最小である場合のセル容量であり、
前記最大容量は、当該セルの正極の目付量が許容誤差の範囲内で最大である場合のセル容量であり、
前記再度実行するステップは、前記複数の電池モジュールの中に保留電池モジュールが存在する場合に、
前記保留電池モジュールに含まれる各セルを完全に放電するステップと、
各セルが完全に放電された前記保留電池モジュールに対して前記充電処理および前記判定処理を再度実行するステップとを含み、
前記判定するステップは、前記充電処理により充電された前記すべてのセルの各々について、当該セルの容量と電圧との組合せが、容量-電圧平面上で最大容量曲線および最小容量曲線を用いて規定される第1領域~第3領域内のいずれかに位置するかを判定するステップを含み、
前記最大容量曲線は、前記上限電圧と前記最大容量との交点を通る容量-電圧特性を示す充電曲線であり、
前記最小容量曲線は、前記上限電圧と前記最小容量との交点を通る容量-電圧特性を示す充電曲線であり、
前記第1領域は、前記最小容量曲線と前記最大容量曲線との間に挟まれた領域のうち、容量が前記最小容量以上であり、かつ、電圧が前記上限電圧以下の領域であり、
前記第2領域は、前記挟まれた領域のうち、前記第1領域以外の領域であり、
前記第3領域は、前記第1領域および前記第2領域以外の領域であり、
前記保留電池モジュールは、前記第2領域内に位置するセルを含む一方で前記第3領域内に位置するセルを含まない電池モジュールである、電池モジュールの検査方法。
【請求項2】
前記複数の電池モジュールの各々は、バイポーラ構造を有するリチウムイオン電池である、請求項に記載の電池モジュールの検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池モジュールの検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2021-044151号公報(特許文献1)に開示されたリチウムイオン電池モジュールは、セル毎の充電状態を監視するための回路等を必要とせずに、過充電状態となる単電池が存在することがないように充電できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-044151号公報
【文献】特開2018-026210号公報
【文献】特開2015-125091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、電池モジュールの製造後には良品/不良品の検査が実施される。所定の基準を満たす電池モジュールは良品と判定される一方で、当該基準を満たさない電池モジュールは不良品と判定される。このような電池モジュールの検査における検査精度向上に対する要求が常に存在する。
【0005】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、電池モジュールの検査精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示のある局面に従う電池モジュールの検査方法は、直列接続された複数の電池モジュールの検査方法である。複数の電池モジュールの各々は、直列接続された複数のセルを含む。検査方法は、充電処理を実行するステップと、判定処理を実行するステップと、充電処理および判定処理を再度実行するステップとを含む。充電処理を実行するステップは、複数の電池モジュールに含まれるすべてのセルを、いずれかのセルの電圧が所定電圧に到達するまで充電するステップと、充電されたすべてのセルの各々に蓄えられた容量を算出するステップと、充電されたすべてのセルの各々の電圧を検出するステップとを含む。判定処理を実行するステップは、充電処理により充電されたすべてのセルの各々について、当該セルの容量が容量許容範囲内に位置し、かつ、当該セルの電圧が電圧許容範囲内に位置するかを判定するステップを含む。再度実行するステップは、複数の電池モジュールの中に、容量が容量許容範囲内かつ電圧が電圧許容範囲内に位置しないセルを含む保留電池モジュールが存在する場合に、保留電池モジュールに含まれる各セルを完全に放電するステップと、各セルが完全に放電された保留電池モジュールに対して充電処理および判定処理を再度実行するステップとを含む。
【0007】
(2)判定するステップは、充電処理により充電されたすべてのセルの各々について、当該セルの容量と電圧との組合せが、容量-電圧平面上で最大容量曲線および最小容量曲線を用いて規定される第1領域~第3領域内のいずれかに位置するかを判定するステップを含む。最大容量曲線は、電圧許容範囲の上限電圧と容量許容範囲の最大容量との交点を通る容量-電圧曲線である。最小容量曲線は、上限電圧と容量許容範囲の最小容量との交点を通る容量-電圧曲線である。第1領域は、最小容量曲線と最大容量曲線との間に挟まれた領域のうち、容量が最小容量以上であり、かつ、電圧が上限電圧以下の領域である。第2領域は、挟まれた領域のうち、第1領域以外の領域である。第3領域は、第1領域および第2領域以外の領域である。保留電池モジュールは、第2領域内に位置するセルを含む一方で第3領域内に位置するセルを含まない電池モジュールである。
【0008】
(3)複数の電池モジュールの各々は、バイポーラ構造を有するリチウムイオン電池である。
【0009】
詳細は後述するが、保留電池モジュール(保留品)は、不良品に含まれるセルの電圧が所定電圧に到達したことで、実際には良品であるにも拘わらず不良品であると誤判定される可能性がある。上記(1)~(3)の構成においては、保留電池モジュールに対して完全放電処理が実行されるとともに、充電処理および判定処理が再度実行される。これにより、保留電池モジュールに対する検査精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、電池モジュールの検査精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の実施の形態に係る電池検査システムの全体構成図である。
図2】電池ユニットの概略断面図である。
図3】電池モジュールの概略断面図である。
図4】比較例における検査工程の処理手順を示すフローチャートである。
図5】比較例における検査工程の課題を説明するための図である。
図6】本実施の形態における2種類の曲線の一例を示す図である。
図7】最大容量曲線および最小容量曲線により規定される領域を説明するための図である。
図8】本実施の形態における検査工程の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0013】
[実施の形態]
<電池検査システムの全体構成>
図1は、本開示の実施の形態に係る電池検査システムの全体構成図である。電池検査システム100は、接続端子101,102を備える。接続端子101,102は、電池ユニット1を電気的に接続可能に構成されている。電池ユニット1は、直列接続された複数の電池モジュール2を含む。複数の電池モジュール2の各々は、複数のセルを含む。電池検査システム100は、電池モジュール2毎に良品であるか不良品であるかを判定するための検査を実施する。
【0014】
電池ユニット1の構成については図2および図3にて、より詳細に説明する。なお、電池ユニット1は、新たに製造された新品電池であってもよいし、使用先から回収された中古電池であってもよい。
【0015】
電池検査システム100は、直流電源5と、複数の電圧センサ6と、電流センサ7と、温度センサ8と、コントローラ9とをさらに備える。
【0016】
直流電源5は、コントローラ9からの制御指令に従って、電池ユニット1を充放電するように構成されている。直流電源5は、たとえばAC/DCコンバータである。直流電源5は、外部交流電源(たとえば商用電源)900から供給される交流電力を直流電力に変換する。直流電源5は、コントローラ9からの制御指令に従って、直流電力の電圧を昇圧または降圧することも可能である。
【0017】
複数の電圧センサ6の各々は、複数の電池モジュール2のうちの対応する電池モジュールに並列に接続されている。各電圧センサ6は、対応する電池モジュール2内の各セルの電圧Vを検出し、その検出値をコントローラ9に出力する。
【0018】
電流センサ7は、たとえば直流電源5と接続端子101との間に直列に接続されている。電流センサ7は、直流電源5から電池ユニット1に供給される電流Iを検出し、その検出値をコントローラ9に出力する。
【0019】
温度センサ8は、電池ユニット1(複数の電池モジュール2のうちの代表的な電池モジュール)の温度Tを検出し、その検出値をコントローラ9に出力する。
【0020】
コントローラ9は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ91と、ROMおよびRAMなどのメモリ92と、入出力インターフェイス(図示せず)とを含む。コントローラ9は、直流電源5を制御することによって、電池モジュール2を完全に放電したり、電池モジュール2を充電したりする(充電処理)。また、コントローラ9は、電池モジュール2の良品/不良品を判定するための判定処理を実施する。上記の完全放電処理、充電処理および判定処理については後に詳細に説明する。なお、コントローラ9は、機能毎に2以上のユニットに分割して構成されていてもよい。
【0021】
<電池の構成>
図2は、電池ユニット1の概略断面図である。電池ユニット1は、モジュール積層体31と、一対の拘束部材32と、一対の絶縁部材33と、正極端子341と、負極端子342とを含む。
【0022】
モジュール積層体31は、複数の電池モジュール2と、複数の導電板310とを含む。電池モジュール2と導電板310とは、モジュール積層体31の積層方向(図2では上下方向)に交互に配列されている。導電板310は、互いに隣り合う電池モジュール2同士を電気的に接続する。複数の電池モジュール2の各々には、その電池モジュール内に含まれる複数のセルの各々の電圧(後述するように互いに隣り合う2つの電極層412の間の電圧)を検出するための電圧検出線20が設けられている。なお、図2では電池モジュール2の個数が3個であるが、電池モジュール2の個数は2以上であれば特に限定されない。
【0023】
一対の拘束部材32は、モジュール積層体31の積層方向の両側からモジュール積層体31を拘束する。
【0024】
一対の絶縁部材33のうちの一方は、一対の拘束部材32のうちの一方とモジュール積層体31の積層方向の一方端との間に配置されている。一対の絶縁部材33のうちの他方は、一対の拘束部材32のうちの他方とモジュール積層体31の積層方向の他方端との間に配置されている。
【0025】
正極端子341は、モジュール積層体31の積層方向の一方端に位置する導電板310(下方端)に電気的に接続されている。正極端子341は、接続端子101(図1参照)に電気的に接続されている。負極端子342は、モジュール積層体31の積層方向における他方端(上方端)に位置する導電板310に電気的に接続されている。負極端子342は、接続端子102(図1参照)に電気的に接続されている。
【0026】
電池モジュール2は、バイポーラ構造を有する電池(いわゆるバイポーラ電池)である。本実施の形態において、電池モジュール2はリチウムイオン二次電池である。
【0027】
<電池モジュールの構成>
図3は、電池モジュール2の概略断面図である。電池モジュール2は、積層体21と、封止部22とを備える。積層体21は、複数のバイポーラ電極41と、複数のセパレータ40と、電解液とを含む。
【0028】
複数のバイポーラ電極41は、積層方向(図3では上下方向)に積層されている。バイポーラ電極41は、電極板411と、電極層412とを含む。
【0029】
電極板411は、たとえば矩形状の金属箔である。電極板411は、積層方向に並ぶ第1主面411aおよび第2主面411bを有する。
【0030】
電極層412は、電極板411の周縁の内側に配置されている。電極層412は、電極板411の有する両面に配置されている。電極層412は、正極43と負極44とを含む。正極43は、電極板411の第1主面411aに配置されている。正極43は正極活物質を含む。正極43は、正極活物質の他、導電材およびバインダを含有してもよい。負極44は、電極板411の第2主面411bに配置されている。負極44は負極活物質を含む。
【0031】
なお、積層方向における積層体21の一方端(図3における上方端)には負極終端電極が設けられている。負極終端電極の第1主面411a上には正極43が設けられていない。また、積層方向における積層体21の他方端(下方端)には正極終端電極が設けられている。正極終端電極の第2主面411b上には負極44が設けられていない。
【0032】
セパレータ40は、絶縁性の樹脂からなる。セパレータ40は、互いに隣り合う2つの電極層412の間(正極43と負極44との間)に配置されている。具体的には、積層方向の一方側に位置するバイポーラ電極41が有する負極44と、積層方向の他方側に位置するバイポーラ電極41が有する正極43との間に配置されている。以上のように電極層412(正極43および負極44)とセパレータ40とを配置することで、隣り合う電極(バイポーラ電極および終端電極を含む)の間にセルが形成される。
【0033】
封止部22は、絶縁性の樹脂(ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイドなど)からなる。封止部22は、互いに隣り合う2つのバイポーラ電極41の間に空間が形成されるように、複数のバイポーラ電極41の周縁を封止する。封止部22は、その内側において上記の空間を密封している。空間内には電解液が収容されている。電解液は、正極43、負極44およびセパレータ40に含浸される。
【0034】
正極活物質、負極活物質、セパレータ40および電解液には、リチウムイオン二次電池の正極活物質、負極活物質、セパレータおよび電解液として従来公知の材料をそれぞれ用いることができる。一例として、正極活物質にはオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)を用いることができる。ただし、正極活物質は、コバルト酸リチウムの一部がニッケルおよび/またはマンガンにより置換された三元系の材料を用であってもよい。負極活物質には黒鉛(炭素材料)を用いることができる。セパレータには、ポリオレフィンを用いることができる。電解液は、有機溶媒(たとえばDMC(dimethyl carbonate)とEMC(ethyl methyl carbonate)とEC(ethylene carbonate)との混合溶媒)と、リチウム塩(たとえばLiPF)と、添加剤(たとえばLiBOB(lithium bis(oxalate)borate)またはLi[PF(C])等を含む。
【0035】
<比較例>
本実施の形態における検査工程の特徴の理解を容易にするため、まず、比較例における検査工程の処理手順について説明する。比較例に係る電池検査システムの構成は、本実施の形態に係る電池検査システム100の構成(図1図3参照)と同様である。
【0036】
図4は、比較例における検査工程の処理手順を示すフローチャートである。S91において、コントローラ9は、電池ユニットに含まれるすべてのセルを完全放電状態まで放電するように直流電源を制御する。
【0037】
S92において、コントローラ9は、電池ユニット1への充電を開始するように直流電源を制御する。電池ユニット1に含まれるすべてのセルは直列接続されているので、すべてのセルが等しい電流値で充電される。
【0038】
S93において、コントローラ9は、電池ユニットに含まれるすべてのセルのうち、いずれかのセルの電圧が所定の上限電圧ULに到達したかどうかを判定する。コントローラ9は、いずれかのセルの電圧が上限電圧ULに到達するまで(言い換えると、すべてのセルの電圧が上限電圧UL未満である間)は処理をS92に戻し、電池ユニットの充電を継続する。
【0039】
いずれかのセルの電圧が上限電圧ULに到達すると(S93においてYES)、コントローラ9は、電池ユニットの充電を終了する(S94)。そして、コントローラ9は、電池ユニットに含まれる複数のセルの各々の電圧を取得する(S95)。
【0040】
S96において、コントローラ9は、電池モジュール毎に、当該電池モジュールの良否判定をS95にて取得された電圧に基づいて実施する。具体的には、コントローラ9は、電池モジュール毎に、当該電池モジュールに含まれるすべてのセルの電圧が所定の許容範囲内であるかどうかを判定する。許容範囲とは、下限電圧LLと上限電圧ULとの間の電圧範囲(LL≦V≦UL)であり、セルの要求仕様等に応じて実験的に事前に定めることができる。
【0041】
電池モジュールに含まれるすべてのセルの電圧が許容範囲内である場合(S96においてYES)、コントローラ9は、当該電池モジュールは良品であると判定する(S97)。一方、電池モジュールに含まれる少なくとも1つのセルの電圧が許容範囲外である場合(S96においてNO)、コントローラ9は、当該電池モジュールは不良品であると判定する(S98)。これにより、一連の処理が終了する。
【0042】
図5は、比較例における検査工程の課題を説明するための図である。横軸は、セル容量(各セルに蓄えられた電力量)を表す。縦軸は、セル電圧(電圧センサにより検出される各セルの閉回路電圧)を表す。後述する図6および図7に関しても同様である。
【0043】
ここでは、電池ユニットに含まれる複数のセルのうちの2つのセルを例に説明する。これらのセルを「第1セル」および「第2セル」と記載する。第1セルと第2セルとは互いに異なる電池モジュールに含まれている。同じ電力量が充電された場合、第1セルの電圧の方が第2セルの電圧よりも上昇しやすいと想定する。
【0044】
より詳細に説明すると、バイポーラ電極41の製造時に電極板411上に電極層412を形成する際に、電極層412の単位面積当たりの質量である目付量が規定量に達しない目付不良が発生する場合がある。第1セルは、目付不良品のバイポーラ電極により構成されるセルである。第2セルは、正常なバイポーラ電極により構成されるセルである。この場合、第1セルに含まれる電極層の量が第2セルに含まれる電極層の量よりも少なくなることで、第1セルの満充電容量が第2セルの満充電容量よりも小さくなり得る。そうすると、同じ電力量を充電された場合に、第1セルの電圧が第2セルの電圧に比べて過度に上昇しやすくなる。
【0045】
第1セルおよび第2セルの両方の完全放電状態(セル容量=0)から充電が開始される。第1セルおよび第2セルの各々にΔAhの電力量が充電された時点で、第1セルの電圧が上限電圧ULに達する(図4のS93においてYES)。そうすると、第1セルおよび第2セルの両方の充電が終了する(S94)。第2セルに関し、電力量ΔAhを超えた充電は行われないことを破線で示している。
【0046】
この例では、実際には第1セルが不良品(たとえば目付不良品)であり、第1セルの電圧が過度に上昇しやすいとする。しかし、充電が終了した時点で第1セルの電圧は上限電圧ULに等しく、許容範囲内である。よって、第1セルを含む電池モジュールは良品と判定され得る(S97)。
【0047】
一方、第2セルは実際には良品である。仮に充電が継続された場合には、第2セルの電圧は、破線で示すように許容範囲まで上昇する。それにも拘わらず、充電が終了した時点では、第2セルの電圧は下限電圧LL未満であって許容範囲外である。よって、第2セルを含む電池モジュールは不良品と判定される(S98)。
【0048】
このように、比較例では、不良品のセル(第1セル)を含む電池モジュールが良品とされる一方で、良品のセル(第2セル)を含む電池モジュールが不良品とされる誤判定が生じる可能性がある。
【0049】
そこで、本実施の形態においては、セル電圧に加えてセル容量も考慮した上で電池モジュール毎に良否判定を実施する構成を採用する。より具体的には、セル容量-セル電圧平面上で、電極層412(正極43および負極44)の目付量の許容誤差(公差)が考慮された2種類の曲線が準備される。そして、2種類の曲線により規定される領域に応じて各電池モジュール(セル)の良否判定が実施される。
【0050】
<2種類の曲線により規定される領域>
図6は、本実施の形態における2種類の曲線の一例を示す図である。本実施の形態では、セル電圧に関して上限電圧ULおよび下限電圧LLにより「電圧許容範囲」が規定されるのに加えて、セル容量についても許容範囲が規定される。この許容範囲を「容量許容範囲」とも称する。容量許容範囲とは、最小容量MINと最大容量MAXとの間の容量範囲(MIN≦Ah≦MAX)であり、セルの要求仕様等に応じて実験的に事前に定めることができる。
【0051】
より具体的には、複数のバイポーラ電極41の各々(各セル)は、正極43の容量が負極44の容量よりも小さくなるように構成されている。最大容量MAXとは、正極43の目付量が許容誤差の範囲内で最大である場合のセル容量である。一方、最小容量MINとは、正極43の目付量が許容誤差の範囲内で最小である場合のセル容量である。
【0052】
2種類の曲線を「最大容量曲線Lmax」および「最小容量曲線Lmin」と記載する。最小容量曲線Lmin(1点鎖線参照)は、電圧許容範囲の上限電圧ULと容量許容範囲の最小容量MINとの交点aを通る。最大容量曲線Lmax(実線参照)は、電圧許容範囲の上限電圧ULと容量許容範囲の最大容量MAXとの交点bを通る。最大容量曲線Lmaxと電圧許容範囲の下限電圧LLとの交点をcと記載する。両曲線ともセル容量=0のときには点dを通る。
【0053】
図7は、最大容量曲線Lmaxおよび最小容量曲線Lminにより規定される領域を説明するための図である。本実施の形態では図7に示すように、「良品領域」と「保留領域」とが規定される。
【0054】
良品領域とは、直線abと曲線bcと直線caとで囲まれた領域である。曲線bcとは、最大容量曲線Lmaxのうちの点bと点cとの間の曲線である。良品領域は、上記3つの線上の点も含む。良品領域は、最小容量曲線Lminと最大容量曲線Lmaxとの間に挟まれた領域のうち、容量が最小容量MIN以上であり、かつ、電圧が上限電圧UL以下の領域であるとも言える。
【0055】
保留領域とは、直線acと曲線cdと曲線adとで囲まれた領域である。曲線cdとは、最大容量曲線Lmaxのうちの点cと点dとの間の曲線である。曲線adとは、最小容量曲線Lminのうちの点aと点dとの間の曲線である。保留領域は、曲線cd上の点と曲線ad上の点とを含む一方で、直線ac上の点は含まない。保留領域は、最小容量曲線Lminと最大容量曲線Lmaxとの間に挟まれた領域のうち、良品領域以外の領域とも言える。
【0056】
また、良品領域でも保留領域でもない領域を「不良品領域」と称する。本実施の形態では、以下に説明するように、充電終了時における各セルの容量および電圧の組合せ(セル容量,セル電圧)が良品領域内、保留領域内、不良品領域内のいずれに位置するかが判定される。
【0057】
なお、良品領域は、本開示に係る「第1領域」に相当する。保留領域は、本開示に係る「第2領域」に相当する。不良品領域は、本開示に係る「第3領域」に相当する。上限電圧ULは、本開示に係る「所定電圧」に相当する。
【0058】
<処理フロー>
図8は、本実施の形態における検査工程の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、予め定められた条件成立時(たとえば作業員が図示しない開始スイッチを操作した場合)に実行される。各ステップは、コントローラ9(プロセッサ91)によるソフトウェア処理により実現されるが、コントローラ9内に配置されたハードウェア(電気回路)により実現されてもよい。以下、ステップをSと略す。
【0059】
S1において、コントローラ9は、電池ユニット1に含まれるすべてのセルを完全放電状態まで放電するように直流電源5を制御する(完全放電処理)。なお、電池ユニット1が一度も充電されたことがない場合(電解液の注液後に初めて充電する場合)にはS1の完全放電処理を省略(スキップ)できる。コントローラ9は、完全放電処理の要否を、セル間で電圧がそろっているかどうかに応じて判定できる。セル間で電圧がそろっていない場合(たとえば最高電圧と最低電圧との電圧差が所定値を超過している場合)、コントローラ9は、完全放電処理は必要と判定する。一方、セル間で電圧がそろっている場合(たとえば上記の電圧差が所定値未満である場合)にはコントローラ9は、完全放電処理を省略できる。
【0060】
S2において、コントローラ9は、たとえば定電流での電池ユニット1への充電を開始するように直流電源5を制御する。前述のように、電池ユニット1ではすべてのセルが直列接続されているので、すべてのセルが等しい電流値で充電される。コントローラ9は、電池ユニット1の充電中、たとえば所定の周期毎に各セルの電圧を取得する。
【0061】
S3において、コントローラ9は、電池ユニット1に含まれるすべてのセルのうち、いずれかのセルの電圧が上限電圧ULに到達したかどうかを判定する。コントローラ9は、いずれかのセルの電圧が上限電圧ULに到達するまでは処理をS2に戻し、電池ユニット1の充電を継続する。いずれかのセルの電圧が上限電圧ULに到達すると(S3においてYES)、コントローラは、電池ユニットの充電を終了する(S4)。
【0062】
S5において、コントローラ9は、各セルの容量を算出する。より具体的には、コントローラ9は、電池ユニット1への充電電流Iと充電時間tとを乗算(I×t)することで、各セルの容量を算出できる。なお、電池ユニット1への充電電流Iが定電流であることは例示である。コントローラ9は、時間的に変化する充電電流I(t)を単位時間Δt毎に積算(Σ(I(t)×Δt))することによって各セルの容量を算出してもよい。
【0063】
S6において、コントローラ9は、電圧センサ6により検出された各セル(電池ユニット1に含まれる全セル)の電圧を取得する。なお、S2~S6の処理を「充電処理」とも称する。
【0064】
S7~S9において、コントローラ9は、電池モジュール2毎に、その電池モジュール2に含まれる各セルがセル容量-セル電圧平面上でどの領域内に位置するかを判定する。具体的には、S7において、コントローラ9は、ある電池モジュール2に含まれるすべてのセルが良品領域内に位置するかどうかを判定する。すべてのセルが良品領域内に位置する場合(S7においてYES)、コントローラ9は、当該電池モジュール2は良品であると判定する(S10)。
【0065】
少なくとも1つのセルが良品領域内でない場合(S7においてNO)、コントローラ9は、保留領域内のセルが1つでも含まれるかどうかを判定する(S8)。保留領域内のセルが1つでも含まれる場合(S8においてYES)、コントローラ9は、不良品領域内のセルが1つでも含まれるかどうかを判定する(S9)。不良品領域内のセルが1つも含まれない場合(S9においてNO)、すなわち、良品領域外のすべてのセルが保留領域内に位置するセルである場合、コントローラ9は、当該電池モジュール2は保留品であると判定する(S11)。
【0066】
S8にて保留領域内のセルが1つも含まれない場合(S8においてNO)、すなわち、良品領域外のすべてのセルが不良品領域内に位置する場合、コントローラ9は、当該電池モジュール2は不良品であると判定する(S12)。また、保留領域内に位置するセルが含まれるものの不良品領域内に位置するセルも含まれる場合、つまり、保留領域内のセルと不良品領域内のセルとが混在している場合にも、コントローラ9は、当該電池モジュール2は不良品であると判定する(S12)。なお、S7~S12の処理を「判定処理」とも称する。
【0067】
判定処理の結果、良品と判定された電池モジュール2は、良品として出荷される。不良品と判定された電池モジュール2は、出荷されることなく廃棄またはリサイクルされる。これに対し、保留品と判定された電池モジュール2に対しては追加工程に送られ、完全放電処理が実行されるとともに、充電処理および判定処理が再度実行される。詳細には、電池ユニット1から良品または不良品と判定された電池モジュール2を除外した上で処理がS1に戻される。これにより、コントローラ9は、保留品と判定された電池モジュール2に対して全セルの完全放電後(S1)に全セルの充電(S2~S4)を再度行う。さらに、コントローラ9は、各セルの容量を算出するとともに各セルの電圧を取得する(S5,S6)。そして、コントローラ9は、保留品と判定された電池モジュール2に含まれる各セルがセル容量-セル電圧平面上でどの領域内に位置するかを判定する(S7~S12)。
【0068】
追加工程では、不良品と判定された電池モジュール2は既に除外されている。したがって、図5での説明と異なり、保留品と判定された電池モジュール2には、電圧が過度に上昇しやすい第1セルのようなセルは含まれていない。電池モジュール2に含まれているのは、第2セルのように、初回の充電が終了した時点では保留領域内に位置した(言い換えると、良品領域の手前までしか進めずり良品領域には至らなかった)ものの、充電を継続していれば良品領域内に位置する可能性があるセルである。したがって、追加工程の実施によって当該電池モジュール2が良品と判定される可能性がある。そうすると、当該電池モジュール2も出荷可能になり、歩留まりを向上させることができる。
【0069】
以上のように、本実施の形態では、「保留品」とのカテゴリが設けられる。保留品は、不良品に含まれるセルの電圧が上限電圧ULに到達したことで、実際には良品であるにも拘わらず不良品であると誤って判定される可能性がある。したがって、保留品に対しては完全放電処理(S1)が実行されるのに加えて、充電処理(S2~S6)および判定処理(S7~S12)が再度実行される。これにより、保留品に対する検査精度を向上させることができる。
【0070】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
1 電池ユニット、2 電池モジュール、20 電圧検出線、21 積層体、22 封止部、31 モジュール積層体、310 導電板、32 拘束部材、33 絶縁部材、341 正極端子、342 負極端子、40 セパレータ、41 バイポーラ電極、411 電極板、411a 第1主面、411b 第2主面、412 電極層、43 正極、44 負極、5 直流電源、6 電圧センサ、7 電流センサ、8 温度センサ、9 コントローラ、91 プロセッサ、92 メモリ、100 電池検査システム、101,102 接続端子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8