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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】人工心臓装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/196 20210101AFI20241203BHJP
   A61M 60/232 20210101ALI20241203BHJP
   A61M 60/411 20210101ALI20241203BHJP
   A61M 60/538 20210101ALI20241203BHJP
   A61M 60/592 20210101ALI20241203BHJP
   A61M 60/804 20210101ALI20241203BHJP
   A61M 60/816 20210101ALI20241203BHJP
   A61M 60/873 20210101ALI20241203BHJP
   A61M 60/876 20210101ALI20241203BHJP
   A61M 60/878 20210101ALI20241203BHJP
【FI】
A61M60/196
A61M60/232
A61M60/411
A61M60/538
A61M60/592
A61M60/804
A61M60/816
A61M60/873
A61M60/876
A61M60/878
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021206324
(22)【出願日】2021-12-20
(65)【公開番号】P2023091533
(43)【公開日】2023-06-30
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】北澤 浩一
【審査官】松山 雛子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0270981(US,A1)
【文献】特開2010-104694(JP,A)
【文献】特表2019-506238(JP,A)
【文献】特開平03-021257(JP,A)
【文献】特開2010-261386(JP,A)
【文献】国際公開第2017/137486(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/196
A61M 60/232
A61M 60/538
A61M 60/816
A61M 60/804
A61M 60/411
A61M 60/873
A61M 60/876
A61M 60/878
A61M 60/592
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のポンプと、
第2のポンプと、
前記第1のポンプの流入口を大静脈に、前記第1のポンプの流出口を肺動脈にそれぞれ接続させると共に、前記第2のポンプの流入口を肺静脈に、前記第2のポンプの流出口を大動脈にそれぞれ接続させる第1の状態と、前記第1のポンプの流入口を前記肺静脈に、前記第1のポンプの流出口を前記大動脈にそれぞれ接続させると共に、前記大静脈と前記第1のポンプの流入口との接続及び前記第1のポンプの流出口と前記肺動脈との接続を遮断して前記大静脈と前記肺動脈とを連通させる第2の状態とを切り替え可能な切替機構と、
前記第2のポンプに異常が生じたか否かを判定する判定部と、
前記判定部により前記第2のポンプに異常が生じたと判定された場合に、前記切替機構を前記第1の状態から前記第2の状態に切り替えると共に、前記第1のポンプの出力を上昇させる制御部と、
を備える人工心臓装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記第2のポンプを駆動するモータの消費電流、コイル抵抗、又は温度を閾値と比較することにより、前記第2のポンプに異常が生じたか否かを判定する、
請求項1に記載の人工心臓装置。
【請求項3】
前記判定部の判定結果に基づいて前記第2のポンプに異常が生じたと判定されたことを示す情報を無線で体外に送信する処理を行う送信処理部をさらに備える、
請求項1又は2に記載の人工心臓装置。
【請求項4】
前記第1の状態における、前記第1のポンプの出力と前記第2のポンプの出力とを異ならせる、
請求項1から3のいずれか1項に記載の人工心臓装置。
【請求項5】
前記判定部は、さらに前記第1のポンプに異常が生じたか否かを判定し、前記送信処理部は、さらに前記判定部の判定結果に基づいて、前記第1のポンプに異常が生じたと判定されたことを示す情報を無線で体外に送信する処理を行う、
請求項3又は請求項3を引用する請求項4に記載の人工心臓装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工心臓装置に関する。
【背景技術】
【0002】
埋込型の人工心臓が知られている(特許文献1、非特許文献1、2)。埋込型の人工心臓が使用される場合、電源等の補器を患者が携行する必要がある。補器等の破損を防止するため、患者の行動には細心の注意が必要とされる。また、モータを駆動するための電力を供給するドライブラインを患者の体外でどのように適切かつ安全に保持するかについても重要である。従って、人工心臓を使用する場合には、故障を防止するために多くの留意事項を遵守せねばならず、患者やその介助家族は日常生活に大きな制約を受けるのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-72533号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】一般社団法人日本機械学会,情報・知能・精密機器部門,ニュースレター28号:完全埋め込み型全人工心臓の開発:国立循環器病センターにおける開発現状,<URL:https://www.jsme.or.jp/iip/Japanese/Newsletter/No28/03.html>
【文献】週刊医学界新聞「インタビュー:人工心臓開発の新たな可能性(妙中義之)」,第2329号,1999年3月8日,医学書院,<URL:https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/old/old_article/n1999dir/n2329dir/n2329_06.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の技術では、右心用のポンプと左心用のポンプを備えているが、一方のポンプに異常が発生した場合の制御について考慮されていなかった。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、一部のポンプに異常が発生した場合に、必要な機能を少なくとも一時的に維持することができる人工心臓装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る人工心臓装置は、以下の構成を採用した。
【0008】
(1):この発明の一態様に係る人工心臓装置は、第1のポンプと、第2のポンプと、前記第1のポンプの流入口を大静脈に、前記第1のポンプの流出口を肺動脈にそれぞれ接続させると共に、前記第2のポンプの流入口を肺静脈に、前記第2のポンプの流出口を大動脈にそれぞれ接続させる第1の状態と、前記第1のポンプの流入口を前記肺静脈に、前記第1のポンプの流出口を前記大動脈にそれぞれ接続させると共に、前記大静脈と前記第1のポンプの流入口との接続及び前記第1のポンプの流出口と前記肺動脈との接続を遮断して前記大静脈と前記肺動脈とを連通させる第2の状態とを切り替え可能な切替機構と、前記第2のポンプに異常が生じたか否かを判定する判定部と、前記判定部により前記第2のポンプに異常が生じたと判定された場合に、前記切替機構を前記第1の状態から前記第2の状態に切り替えると共に、前記第1のポンプの出力を上昇させる制御部と、を備える人工心臓装置である。
【0009】
(2):上記(1)の態様において、前記判定部は、前記第2のポンプを駆動するモータの消費電流、コイル抵抗、又は温度を閾値と比較することにより、前記第2のポンプに異常が生じたか否かを判定するものである。
【0010】
(3):上記(1)の態様において、前記判定部の判定結果に基づいて前記第2のポンプに異常が生じたと判定されたことを示す情報を、無線で体外に送信する処理を行う送信処理部をさらに備えるものである。
【0011】
(4):上記(1)の態様において、前記第1の状態における、前記第1のポンプの出力と前記第2のポンプの出力とを異ならせるものである。
【0012】
(5):上記(3)の態様において、前記判定部は、さらに前記第1のポンプに異常が生じたか否かを判定し、前記送信処理部は、さらに前記判定部の判定結果に基づいて、前記第1のポンプに異常が生じたと判定されたことを示す情報を無線で体外に送信する処理を行うものである。
【発明の効果】
【0013】
(1)~(4)の態様によれば、判定部により第2のポンプに異常が生じたと判定された場合に、切替機構を第1の状態から第2の状態に切り替えると共に、第1のポンプの出力を上昇させることにより、肺静脈から大動脈への血流を維持することが可能となる。したがって、一部のポンプに異常が発生した場合に、必要な機能を少なくとも一時的に維持することができる人工心臓装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】心臓の構造と血液の流れを示す図である。
図2】実施形態に係る人工心臓装置を示す図である。
図3】実施形態に係る人工心臓装置の要部を詳細に示す図である。
図4】第1の状態における各部の状態を示す図である。
図5】第2の状態における各部の状態を示す図である。
図6】正常時と異常時の動作を簡略に示す模式図である。
図7】ポンプの異常を判定する処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の人工心臓装置の実施形態について説明する。
【0016】
図1は、心臓の構造と血液の流れを示す図である。全身から戻ってきた静脈血は、上下大静脈1及び2から右心房3に流れ込む(丸印A)。右心房3の血液は、三尖弁4が開くと右心室5に流れ込む。右心室5の血液は、肺動脈弁6が開くと肺動脈7に流れ込み(丸印B)、図示しない肺で酸素を取り込む。酸素を取り込んだ血液は、左右の肺から各2本ずつの肺静脈8及び9を経て左心房10に流れ込む(丸印C)。左心房10の血液は、僧帽弁11が開くと左心室12に流れ込む(丸印D)。ここで、血液は左心室12の強い収縮力を受けて、大動脈弁13を通過して大動脈14から全身に送り出される(丸印E)。心拍出量は毎分約5~6L、心拍数は毎分約60~70回である。このように心臓は、収縮と拡張を繰り返すことで血液を送り出して体の隅々にまで循環させるためのポンプの役割を果たしている。
【0017】
図2は、実施形態に係る人工心臓装置を示す図である。実施形態に係る人工心臓装置は、例えば、ポンプユニット100と、接続機構110及び120と、ECU200と、バッテリ301及び302と、ワイヤレス給電の受信パッド400と、ケーブルハーネス501及び502とを備える。これらの構成は、例えばユーザPの体内に埋め込まれる。すなわち本実施形態は、置換型又は全置換型の人工心臓装置を想定したものである。ポンプユニット100は、ユーザPの体内において心臓の代わりに血液を循環させ、又は心臓を補助して血液を循環させるための装置であり、左心用と右心用の2つのポンプを備える。
【0018】
ECU(Electronic Control Unit)200は、ポンプユニット100、接続機構110及び120の動作を制御する。ECU200の処理の詳細については後述する。
【0019】
バッテリ301及び302のそれぞれは、例えばリチウムイオンバッテリである。バッテリ301及び302は、仮に液漏れ、発火、爆発等の不測の事態が発生したとしてもそのことが人体に影響を与えないように、例えばチタンなどの頑強なケースに収納することが好ましい。受信パッド400は、体外のワイヤレス充電の送信パッドWからワイヤレス給電を受けて、体内に埋め込まれたケーブルハーネス501を通してバッテリ301及び302を充電することができる。なお、バッテリ301及び302を体内に埋め込む構成は必須ではない。また、バッテリ301及び302をワイヤレス給電により充電する構成も必須ではない。
【0020】
ケーブルハーネス501は電源供給に用いられ、ケーブルハーネス502は制御信号通信に用いられる。これらケーブルハーネス501及び502は、ユーザPの体内に通線されるため、被覆の周囲をシリコン系素材でさらに覆うなどして保護することが好ましい。
【0021】
状態認識装置600は、例えばユーザPの腕に装着される。状態認識装置600は、体内のECU200からアンテナ201を介して送信された種々の生理的情報を受信することができる。また、状態認識装置600は、ECU200との間の通信によって、人工心臓装置(特にモータ)に障害が発生したことを認識することが可能である。なお、ECU200は、状態認識装置600以外の外部装置と通信可能であってもよいし、状態認識装置600を介して外部装置と通信可能であってもよい。
【0022】
また、状態認識装置600と体内のECU200との間で光通信が行われてもよい。具体的には、人工心臓駆動に係る体内の情報を、皮膚を侵すことなく体外へ伝送する経皮光テレメトリシステム(TOT:Transcutaneous Optical Telemetry)が適用されても良い。この場合、送信(体内)側に近赤外LEDを設け、受信(体外)側にPDを設けることで経皮的な情報伝送が可能となる。
【0023】
図3は、実施形態に係る人工心臓装置の要部を詳細に示す図である。ポンプユニット100は、接続機構110及び120と人工血管とを介して、大静脈、肺動脈、肺静脈、大動脈のそれぞれに接続される。
【0024】
ポンプユニット100は、例えば、遠心式又は渦巻式のポンプであり、第1のポンプP1と、第2のポンプP2とを備える。第1のポンプP1は、例えば、流入口101と、流出口103と、モータ105と、インペラ107と、を備える。モータ105の回転力を受けてインペラ107が回転することにより、流入口101に血液が流入すると共に、この血液は流出口103から吐出される。第2のポンプP2は、例えば、流入口102と、流出口104と、モータ106と、インペラ108と、を備える。モータ106の回転力を受けてインペラ108が回転することにより、流入口102に血液が流入すると共に、この血液は流出口104から吐出される。なお、モータ105とモータ106は別々に制御可能である。
【0025】
バイパス管BPは、大静脈と肺動脈との間に設けられる。バイパス管BPには、逆流防止弁が設けられもよい。
【0026】
接続機構110は、ポンプユニット100における血液の流入口101及び102に接続される。接続機構110は、回転体117を回転駆動することで流入口と流出口の組み合わせを変更可能なバルブである。接続機構110は、内部空間に連通する孔部111,112,113,114,115を有するケーシング部116と、ケーシング部116の内部で回転する回転体117と、回転体117を駆動する図示しないアクチュエータとを備える。また、接続機構110は、孔部111と孔部112とを連通させると共に孔部113と孔部114とを連通させる第1の状態と、孔部111と孔部112とを遮断すると共に孔部113と孔部115とを連通させる第2の状態と、を切り替え可能である。これら第1の状態と第2の状態との間の切り替えは、回転体117が回転することにより行われる。
【0027】
接続機構120は、回転体125を回転駆動することで流入口と流出口の組み合わせを変更可能なバルブである。接続機構120は、内部空間に連通する孔部121,122,123を有するケーシング部124と、ケーシング部124の内部で回転する回転体125と、回転体125を駆動する図示しないアクチュエータとを備える。また、接続機構120は、孔部121と孔部122とを連通させる第1の状態と、孔部121と孔部123とを連通させ、孔部122を遮断する第2の状態と、を切り替え可能である。これら第1の状態と第2の状態との間の切り替えは、回転体125が回転することにより行われる。
【0028】
接続機構110、接続機構120、及びバイパス管BPを合わせたものが、特許請求の範囲における「切替機構」の一例である。
【0029】
ECU200には、無線電波を放射するアンテナ201が接続されており、アンテナ201もECU200と共に体内に埋め込まれる。
また、ECU200は、例えば、判定部202と、制御部203と、送信処理部204とを備える。
【0030】
これらの構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。
【0031】
判定部202は、第2のポンプP2に異常が生じたか否かを判定する。具体的には、判定部202は、第2のポンプP2を駆動するモータの消費電流、コイル抵抗、又は温度の値を閾値と比較し、その結果に基づいて異常判定を行う。判定部202は、これらの値のいずれかを用いて判定してもよいし、複数の値又はすべての値を用いて総合的に判定してもよい。また、判定部202は、これらの値の絶対値や変位量を用いて判定してもよい。なお、判定部202は、第1のポンプP1に異常が生じたか否かを判定してもよい。異常判定の具体的方法は、第2のポンプP2の場合と同様であってもよい。
【0032】
制御部203は、判定部202により第2のポンプP2に異常が生じたと判定された場合に、接続機構110及び120を第1の状態から第2の状態に切り替えると共に、第1のポンプP1の出力を上昇させる制御を行う。
【0033】
送信処理部204は、判定部202により第2のポンプP2に異常が生じたと判定されたことを示す情報を、アンテナ201を介して無線で体外に送信するための処理を行う。また、判定部202が第1のポンプP1に異常が生じたか否かを判定する構成とした場合には、送信処理部204は、判定部202により第1のポンプP1に異常が生じたと判定されたことを示す情報を、アンテナ201を介して無線で体外に送信するための処理を行う。
【0034】
以下の説明において、判定部202により第2のポンプP2の異常が判定されていないときのことを正常時(又は平常時)と称する。また、判定部202により第2のポンプP2の異常が判定されたときのことを異常時と称する。図4、5を参照して第1の状態と第2の状態について説明する。
【0035】
図4及び図5は、血液が流れる経路を把握しやすいように接続機構110及び120の断面を示したものである。ポンプユニット100は、接続機構110及び120の背面(紙面裏側方向)に配置されてもよい。
【0036】
図4は、第1の状態における各部の状態を示す図である。第1の状態において、接続機構110は、孔部111と孔部112とを連通させることで、大静脈を第1のポンプP1の流入口に接続する。接続機構120は、孔部121と孔部122とを連通させることで、第1のポンプP1の流出口を肺動脈に接続する。また、接続機構110は、孔部113と孔部114とを連通させることで、肺静脈を第2のポンプP2の流入口に接続する。接続機構120は、第2のポンプP2の流出口を大動脈に接続する。
【0037】
従って、大静脈からの血液は、第1のポンプP1の力を受けて、図4のハッチング矢印(1)から(8)の経路を辿って肺動脈に至る。また、肺静脈からの血液は、第2のポンプP2の力を受けて、図4の白抜き矢印(1)から(8)の経路を辿って大動脈に至る。
【0038】
図5は、第2の状態における各部の状態を示す図である。第2の状態において、接続機構110は、回転体117を回転させて孔部111と孔部112とを遮断することで、大静脈から第1のポンプP1への血液の流入を遮断する。また、接続機構110は、孔部113と孔部115とを連通させることで、肺静脈を第1のポンプP1の流入口に接続する。接続機構120は、回転体125を回転させて孔部121と孔部122とを連通させず孔部121と孔部123とを連通させることで、第1のポンプP1の出力口と肺動脈の接続を遮断すると共に第1のポンプP1の流出口を大動脈に接続する。
【0039】
従って、大静脈からの血液は、図5のハッチング矢印(1)から(7)の経路を辿って肺動脈に至る。また、肺静脈からの血液は、第1のポンプP1の力を受けて、図5の白抜き矢印(1)から(8)の経路を辿って大動脈に至る。
【0040】
図6は、正常時と異常時の動作を簡略に示す模式図である。正常時において、接続機構110及び接続機構120はECU200からの制御によって第1の状態にある。接続機構110は、大静脈を第1のポンプP1の流入口に接続すると共に、肺静脈を第2のポンプP2の流入口に接続する。接続機構120は、第1のポンプP1の流出口を肺動脈に接続すると共に、第2のポンプP2の流出口を大動脈に接続する。係る構成によって、第1のポンプP1は大静脈から肺動脈に向かう血流BL1を循環させ、第2のポンプP2は肺静脈から大動脈に向かう血流BL2を循環させる。
【0041】
異常時において、接続機構110及び接続機構120はECU200からの制御によって第2の状態にある。接続機構110は、大静脈から第1のポンプP1への血液の流入を遮断すると共に、肺静脈を第1のポンプP1の流入口に接続する。大静脈はバイパス管BPを通して肺動脈に接続される。接続機構120は、第1のポンプP1の流出口を大動脈に接続する。係る構成によって、大静脈からの血液はバイパス管BPを通って肺動脈に向かう(血流BL1)。第1のポンプP1は、異常を来した第2のポンプP2の代わりに、肺静脈から大動脈に向かう血流BL2を循環させる。なお、他の構成によって同様の機能が実現されてもよい。
【0042】
次に、正常時と異常時のポンプユニット100の出力について説明する。制御部203は、第1のポンプP1の出力すなわち単位時間当たりの血液の吐出量(「P1出力」という)と、第2のポンプP2の出力すなわち単位時間当たりの血液の吐出量(「P2出力」という)の大小関係を次のように制御する。
【0043】
正常時においては、制御部203は、P1出力<P2出力となるように第1のポンプP1及び第2のポンプP2を制御する。何故なら、血液を大動脈に送り出すには、肺動脈に送り出す力よりも大きな力が必要となるためである。正常時において、第1のポンプP1と第2のポンプP2はどちらも動作している。ECU200は、大静脈から肺動脈への血流のためのP1出力よりも、肺静脈から大動脈への血流のためのP2出力が大きくなるように、第1のポンプP1及び第2のポンプP2を制御する。これによって、生体の心臓に近い動作を行わせることができ、人体に与える違和感を低減することができる。
【0044】
異常時において、制御部203は、第1のポンプP1を動作させると共に、第2のポンプP2を停止させる。第2のポンプP2は、前述したように判定部202によって異常が生じたと判定されているから、故障により動作不可となっており、又は所要のP2出力が得られない状態であると推定される。更に、制御部203は、接続機構110及び120のそれぞれの状態を第1の状態から第2の状態に切り替える。また、制御部203は、第1のポンプP1を制御して、正常時のP2出力と同程度あるいはそれ以上までP1出力を上昇させる。
【0045】
図7は、実施形態のECU200により実行される処理の流れの一例を示すフローチャートである。まず、ECU200の判定部202は、第2のポンプP2に異常が発生したか否かを判定する(ステップS1)。ステップS1で収集した情報を用いて、判定部202は、第2のポンプP2に異常が生じたか否かを判定する(ステップS2)。第2のポンプP2に異常が生じたと判定された場合に、ECU200の制御部203は、第1の状態から第2の状態に遷移するように接続機構110及び120を制御し、P1出力を上昇させるように第1のポンプP1を制御する(ステップS3)。判定部202が、第2のポンプP2に異常がなかったと判定した場合、ステップS1に処理が戻される。
【0046】
以上説明した実施形態によれば、人工心臓装置が、第1のポンプP1と、第2のポンプP2と、第1のポンプP1の流入口を大静脈に、第1のポンプP1の流出口を肺動脈にそれぞれ接続させると共に、第2のポンプP2の流入口を肺静脈に、第2のポンプP2の流出口を大動脈にそれぞれ接続させる第1の状態と、第1のポンプP1の流入口を肺静脈に、第1のポンプP1の流出口を大動脈にそれぞれ接続させると共に、大静脈と第1のポンプP1の流入口との接続及び第1のポンプP1の流出口と肺動脈との接続を遮断して大静脈と肺動脈とを連通させる第2の状態とを切り替え可能な接続機構110及び120と、第2のポンプP2に異常が生じたか否かを判定する判定部202と、判定部202により第2のポンプP2に異常が生じたと判定された場合に、接続機構110及び120を第1の状態から第2の状態に切り替えると共に、第1のポンプP1の出力を上昇させる制御部203と、を備えるため、一部のポンプに異常が発生した場合に、必要な機能を少なくとも一時的に維持することができ、肺静脈から大動脈への血流を維持することが可能となる。
【0047】
なお、実施形態によれば異常時にあっても心機能が維持されるとはいえ、ポンプに異常が発生したことを患者自身が把握することが望まれる。このため、ECU200の送信処理部204は、判定部202により第2のポンプP2に異常が生じたと判定されたことを示す情報の無線電波をアンテナ201から送信させてもよい。また、第1のポンプに異常が発生した場合についても、当該第1のポンプP1は第2のポンプの代わりとして上述した異常時の動作を行わせることができなくなるので、第1のポンプに異常が生じたと判定されたことを示す情報の無線電波を送信させることが望まれる。係る無線電波を受信した状態認識装置600は、その情報を表示し、又は音声でユーザPに通知する。これにより、ユーザPは、異常発生を含む人工心臓装置の状態を把握することができる。また、状態認識装置600が、インターネットなどのネットワークを介して医療センターに情報送信してもよい。
【符号の説明】
【0048】
100…ポンプユニット
P1…第1のポンプ
P2…第2のポンプ
101,102…流入口
103,104…流出口
110,120…接続機構
111,112,113,114,115…孔部
116…ケーシング部
117…回転体
121,122,123…孔部
124…ケーシング部
125…回転体
200…ECU
201…アンテナ
202…判定部
203…制御部
204…送信処理部
BP…バイパス管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7