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特許7597706UPE測定により皮膚状態を決定する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】UPE測定により皮膚状態を決定する方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20241203BHJP
【FI】
A61B5/00 M
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021513725
(86)(22)【出願日】2020-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2020016183
(87)【国際公開番号】W WO2020209378
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2019076401
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】土田 克彦
【審査官】鳥井 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-212177(JP,A)
【文献】特開平10-243935(JP,A)
【文献】特開平05-329133(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121518(WO,A1)
【文献】特開2000-095643(JP,A)
【文献】麦沢 俊亮 他,超高感度CCDによるヒト体表生物フォトン発光画像計測システムの開発と生理情報計測への応用I,平成16年度電気関係学会東北支部連合大会講演論文集,2005年07月27日,pp. 349
【文献】小林 正樹,4.超高感度CCDによるバイオフォトンイメージング,Electrochemistry,2014年04月05日
【文献】資生堂、紫外線による肌の酸化ダメージのサンスクリーンでの防止効果を可視化,[online],2018年06月07日,インターネット<URL: http://corp.shiseido.com/jp/newsing/2465_s5v42_jp.pdf>
【文献】IWASA Torai et al.,ヒト体表のバイオフォトン画像及び分光分析による酸化ストレス計測法の検討,生体医工学,2018年09月14日,Vol. 56, Abstract号,pp. 7-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
暗室において顔全体を馴化する工程;
暗室において顔全体のUPEイメージング又はフォトカウンタにより顔のパーツ毎のUPE強度を測定する工程;及び
パーツ毎のUPE強度を対照部のUPE強度により標準化し、標準化されたパーツ毎のUPE強度を閾値と比較することにより、各パーツにおける皮膚状態を決定する工程
を含む、皮膚状態の決定方法。
【請求項2】
対照部が、非露光部又はUPE強度が低い部位である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記皮膚状態が、皮膚の酸化レベルである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
パーツが、上瞼又は目じりである場合に、前記皮膚状態が、皮膚加齢状態である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
パーツが、口もと、目じり、上瞼、下瞼、頬、眉間及び額である場合に、前記皮膚状態が、シワ状態である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
パーツが、目じり、頬、額、鼻からなる群から選ばれ、皮膚トラブルがシミである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
皮膚状態が健常である対象において、将来の皮膚トラブルの発生を予測する方法であって、
暗室において顔全体を馴化する工程;
暗室において、顔全体のUPEイメージング又はフォトカウンタにより顔のパーツ毎のUPE強度を測定する工程;及び
パーツ毎のUPE強度を対照部のUPE強度により標準化し、標準化されたパーツ毎のUPE強度を閾値と比較することにより、各パーツにおける将来の皮膚トラブルの発生を予測する工程
を含む、前記方法。
【請求項8】
将来の皮膚トラブルの発生を予測する工程が、パーツ毎のUPE強度を対照部のUPE強度により標準化し、閾値と比較することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
対照部が、非露光部又はUPE強度が低い部位である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
パーツが、口もと、目じり、上瞼、下瞼、頬、眉間及び額からなる群から選ばれ、前記皮膚トラブルがシワである、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
パーツが、目じり、頬、額、鼻からなる群から選ばれ、皮膚トラブルがシミである、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
暗室において顔全体を馴化する工程;
暗室において、顔全体のUPEイメージング又はフォトカウンタにより顔のパーツ毎のUPE強度を測定する工程;
パーツ毎のUPE強度を対照部のUPE強度により標準化し、標準化されたパーツごとのUPE強度を閾値と比較することにより、各パーツにおけるポルフィリン量を決定する工程
を含む、皮膚のポルフィリン量の推測方法。
【請求項13】
前記ポルフィリン量を決定する工程が、各パーツにおけるポルフィリン量と、UPE強度との関係を示すグラフに基づいて決定される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
パーツが、頬、鼻、下瞼、眉間、額である、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
暗室において顔全体を馴化する工程;
顔全体のUPEイメージング又はフォトカウンタにより顔のパーツ毎のUPE強度を測定する工程;
パーツ毎のUPE強度を対照部のUPE強度により標準化し、標準化されたパーツ毎のUPE強度を閾値と比較することにより、各パーツに適した美容成分及びその濃度を決定する工程;
パーツ毎に決定された成分を、スキンケアパックの該パーツに対応する領域に決定された濃度で含有するスキンケアパックを提供する工程
を含む、スキンケアパックの製造方法。
【請求項16】
暗室において顔全体を馴化する工程;
暗室において顔全体のUPEイメージング又はフォトカウンタにより顔のパーツ毎のUPE強度を測定する工程;
パーツ毎のUPE強度を対照部のUPE強度により標準化し、標準化されたパーツ毎のUPE強度を閾値と比較することにより、各パーツ毎に適したスキンケア及びサンケア製品とその使用方法を決定する工程、
を含む、スキンケア及び/又はサンケア製品と、その使用方法を提供する方法。
【請求項17】
パーツ毎のUPE強度を対照部のUPE強度により標準化する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
対照部が、非露光部又はUPE強度が低い部位である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
スキンケア及びサンケア製品とその使用方法を決定する工程が、UPE強度に応じたキンケア及びサンケア製品とその使用方法について対応関係に基づいて決定される、請求項118のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔全体において生じるUPEの測定技術に関する。顔の各パーツにおけるUPEを測定することで、各パーツにおける皮膚状態を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
UPE(Ultra-weak photon emission)とは、生体から放射される微弱な発光であり、生体内での生化学反応に伴う発光現象である。エネルギー代謝を始めとする、主に活性酸素が関与する生化学反応過程で放射される発光であり、そのメカニズムも多岐にわたる。またUPEはバイオフォトン、生物フォトン、生体極微弱発光、生体極微弱化学発光などと呼ばれることもある。
【0003】
すなわち、UPEによる発光は主に、生化学反応過程における酸化還元反応により産生されるエネルギーにより生じる。特にUPEによる発光は、活性酸素やフリーラジカルの生成を伴う生化学反応において生じ、実際の発光は、生体を構成する多様な物質の酸化的修飾過程で生じる分子の励起による。
【0004】
生体における活性酸素の産生は、生体内における代謝過程や、紫外線、放射線、薬剤、環境汚染物質などの外的要因が引き起こす酸化ストレスと深く関連している。また、生体における活性酸素の産生によるUPEの増加は、酸化ダメージなどのストレスと関連しており、例えば紫外線などの電磁波の照射によって皮膚の酸化が進むと、UPEの放出量が増加する。特に外部刺激によって増加したUPEは遅延発光と呼ばれる。
【0005】
紫外線(UV)が皮膚に与える研究の一環として、角質層や表皮に対する紫外線の透過率を測定した研究結果が報告されている(非特許文献1)。
【0006】
一方、UPEを計測する技術として、超高感度CCD(Charge Coupled Device、電荷結合素子)を用いた方法が紹介されており(非特許文献2)、光電子増倍管(PMT)を備えたフォトンカウンターを用いた方法も紹介されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Photochemistry and Photobiology Vol. 40, No. 4, pp. 485-494, 1984
【文献】Electrochemistry, 82(4), 294-298 (2014)
【文献】J Photochem Photobiol B. 2014 Oct 5;139:63-70. doi: 10.1016/j.jphotobiol.2013.10.003. Epub 2013 Oct 26.
【文献】医器学 vol. 68, No. 8 1998
【文献】日皮会誌:(2008)118(1)17-21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
生体から放射される微弱な発光であり、生体内での生化学反応に伴う発光現象であるUPEを局所的に測定することが行われてきている。一方、UPEは非常に微弱な発光現象であるため、顔全体などの広い範囲において、UPEを測定することは難しかった。また、日常生活では皮膚は紫外線に常にさらされているため、紫外線などの外部刺激に基づく遅延発光の影響が大きい一方で、外部刺激を排除して広範囲の皮膚について、生化学反応のみの影響を調べることは行われていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、暗室での馴化工程を経ることで外部刺激に基づく影響を排除し、それにより皮膚において本来生じている生化学反応の結果生じるUPEのみを顔全体などの広い範囲で検出することができることを見出した。顔全体においてUPEイメージングを用いることにより、検出されるUPE強度が顔のパーツ毎に大きく異なること、並びにそうして検出されたUPE強度が、顔のパーツ毎の皮膚の酸化状態を表していることを見出し、本発明に至った。
【0010】
具体的に、本発明は以下に関する:
[1] 暗室において顔全体を馴化する工程;
暗室において顔全体のUPEイメージング又はフォトカウンタにより顔のパーツ毎のUPE強度を測定する工程;及び
パーツ毎のUPE強度に基づき各パーツにおける皮膚状態を決定する工程
を含む、皮膚状態の決定方法。
[2] 前記皮膚状態を決定する工程が、パーツ毎のUPE強度を対照部のUPE強度により標準化し、閾値と比較することを含む、項目1に記載の方法。
[3] 対照部が、非露光部又は顎部である、項目2に記載の方法。
[4] 前記皮膚状態が、皮膚の酸化レベルである、項目1~3のいずれか一項に記載の方法。
[5] パーツが、上瞼又は目じりである場合に、前記皮膚状態が、皮膚加齢状態である、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
[6] パーツが、口もと、目じり、上瞼、下瞼、頬、眉間及び額である場合に、前記皮膚状態が、シワ状態である、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
[7] パーツが、目じり、頬、額、鼻からなる群から選ばれ、皮膚トラブルがシミである、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
[8] 皮膚状態が健常である対象において、将来の皮膚トラブルの発生を予測する方法であって、
暗室において顔全体を馴化する工程;
暗室において、顔全体のUPEイメージング又はフォトカウンタにより顔のパーツ毎のUPE強度を測定する工程;及び
パーツ毎のUPE強度に基づき各パーツにおける将来の皮膚トラブルの発生を予測する工程
を含む、前記方法。
[9] 将来の皮膚トラブルの発生を予測する工程が、パーツ毎のUPE強度を対照部のUPE強度により標準化し、閾値と比較することを含む、項目8に記載の方法。
[10] 対照部が、非露光部又は顎部である、項目9に記載の方法。
[11] パーツが、口もと、目じり、上瞼、下瞼、頬、眉間及び額からなる群から選ばれ、前記皮膚トラブルがシワである、項目8~10のいずれか一項に記載の方法。
[12] パーツが、目じり、頬、額、鼻からなる群から選ばれ、皮膚トラブルがシミである、項目8~10のいずれか一項に記載の方法。
[13] 暗室において顔全体を馴化する工程;
暗室において、顔全体のUPEイメージング又はフォトカウンタにより顔のパーツ毎のUPE強度を測定する工程;
パーツ毎のUPE強度に基づき各パーツにおけるポルフィリン量を決定する工程
を含む、皮膚のポルフィリン量の推測方法。
[14] 前記ポルフィリン量を決定する工程が、各パーツにおけるポルフィリン量と、UPE強度との関係を示すグラフに基づいて決定される、項目13に記載の方法。
[15] パーツが、頬、鼻、下瞼、眉間、又は額である、項目13又は14に記載の方法。
[16] 顔の各パーツに対応する領域に、パーツ毎に決定された所定の抗酸化成分を所定の濃度で含む、スキンケアパックであって、
パーツ毎に決定された成分及びその濃度が、顔のパーツ毎のUPE強度に基づき決定される、前記スキンケアパック。
[17] 顔のパーツ毎のUPE強度が、暗室において顔全体のUPEイメージング又はフォトカウンタにより決定される、項目16に記載のスキンケアパック。
[18] 暗室において顔全体を馴化する工程;
顔全体のUPEイメージング又はフォトカウンタにより顔のパーツ毎のUPE強度を測定する工程;
パーツ毎のUPE強度に基づき、各パーツに適した美容成分及びその濃度を決定する工程;
パーツ毎に決定された成分を、スキンケアパックの該パーツに対応する領域に決定された濃度で含有するスキンケアパックを提供する工程
を含む、スキンケアパックの製造方法。
[19] 暗室において顔全体を馴化する工程;
暗室において顔全体のUPEイメージング又はフォトカウンタにより顔のパーツ毎のUPE強度を測定する工程;
パーツ毎のUPE強度に基づき、各パーツ毎に適したスキンケア及びサンケア製品とその使用方法を決定する工程、
を含む、スキンケア及び/又はサンケア製品と、その使用方法を提供する方法。
[20] パーツ毎のUPE強度を対照部のUPE強度により標準化する工程をさらに含む、項目19に記載の方法。
[21] 対照部が、非露光部又は顎部である、項目20に記載の方法。
[22] スキンケア及びサンケア製品とその使用方法を決定する工程が、UPE強度に応じたキンケア及びサンケア製品とその使用方法についての対応関係に基づいて決定される、項目19~21のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、顔のパーツ毎の皮膚状態を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、UPE強度解析にあたり、顔のパーツの分類を示す。
図2図2は、UPEイメージングにより撮影された全顔におけるフォトン発生強度を示す写真である。
図3図3は、顔の各部位(額、眉間、目じり、上瞼、下瞼、鼻、鼻きわ、鼻下、頬、唇、顎)におけるUPE強度について、全年代の平均値を示すグラフである。
図4図4は、顎のUPE強度を100とした場合の、他の部位のUPE強度を表す。
図5図5は、上瞼及び目じりにおけるUPE強度と皮膚加齢状態との相関を示すグラフである。
図6図6は、20代~40代の被験者について、下瞼から目じりの領域において、UPE強度と、領域あたりのシワ数との相関を示すグラフである。
図7図7は、頬、鼻、下瞼、眉間、額におけるUPE強度と、領域当たりのポルフィリン数との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、顔全体のUPEイメージング又はフォトカウンタを用いた皮膚状態の決定方法に関する。具体的に、下記の工程:
暗室において顔全体を馴化する工程;
暗室において顔全体のUPEイメージング又はフォトカウンタにより顔のパーツ毎のUPEを測定する工程;及び
パーツ毎のUPE強度に基づき各パーツにおける皮膚状態を決定する工程
を含む。本発明の方法により、パーツ毎における皮膚状態を個別に決定することができる。本発明において、皮膚状態とは、皮膚の酸化レベルのことをいう。皮膚の酸化レベルにより、顔のパーツに応じて、シワ、しみ、ニキビなどの皮膚トラブルを決定することができる。
【0014】
暗室における馴化工程は、紫外線による遅延発光の影響を排除することができる。馴化時間は、紫外線による遅延発光の影響を排除する観点から、5分以上、より好ましくは10分以上、さらに好ましくは15分以上から選ばれうる。方法の簡易化の観点から、通常、馴化時間は、1時間以内であり、より好ましくは15分以下である。外部の影響を避けるため、二重暗室において馴化することもできる。紫外線による遅延発光の影響を排除した場合のUPE強度は、活性酸素やフリーラジカルの生成を伴う生体内の生化学反応に伴う発光現象を反映している。皮膚においては、生化学反応が高いほど酸化レベルが高いことから、馴化工程を経て測定されたUPE強度は、皮膚の酸化レベルを示す(非特許文献4:医器学 vol. 68, No. 8 1998)。
【0015】
UPEイメージングの撮影装置としては、電荷結合素子カメラを使用することができる。また、電荷結合素子カメラとしては、冷却CCDカメラであることが好ましい。UPEイメージングの撮影装置を暗室で用いることにより、顔全体についてUPEを測定することができる。顔の部位としては、例えば額、眉間、鼻、鼻下、唇、顎、目じり、上瞼、下瞼、頬、鼻きわ等の領域が挙げられ、さらに右側、左側など細かく分類することもできる(図1)。また、電荷結合素子カメラに代えて、光電子増倍管(PMT)を備えたフォトンカウンターを用いて、部位ごとにUPE強度を測定することもできる。顔の部位に応じて、UPE強度が大きく異なることが示された(図2)。鼻、鼻きわ、眉間にかけて高いUPE強度を示すことから、酸化レベルがこれらの部位で高いことが示された。理論に限定されることを意図するものではないが、これらの部位は脂質産生量の高いことが知られており、過酸化脂質によるストレスが酸化レベルに寄与すると考えられる。
【0016】
パーツ毎のUPE強度を対照部のUPE強度に基づき標準化することができる。対照部としては、腕、腹、背中などの非露光部を用いてもよいし、顔の任意の部位を使用することもできる。一例として、顔部位においてUPE強度が低い部位を使用する観点から、顎部を使用することができる。非露光部を用いることで、日常生活における紫外線の影響を調べることができる。
【0017】
皮膚における活性酸素は、表皮や真皮の細胞に影響を与えることが知られている。表皮に存在するケラチノサイトでは、活性酸素の影響により分裂速度が低下し、その結果、角層が菲薄化する。また表皮に存在するメラノサイトは、活性酸素により活性化され、メラニンの生成量が増大する。その結果、活性酸素が多い箇所では、シミを発生する可能性が高まる。真皮の線維芽細胞では、活性酸素の影響によりその分裂速度が低下するとともに、コラーゲンやエラスチンなどの間質成分の産生量が低下する。また活性酸素の影響により、マトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP)が活性化され、それにより真皮マトリクスが破壊され、シワが形成する。これらの結果、活性酸素の影響により、シワやたるみの原因となりうる(非特許文献5:日皮会誌:(2008)118(1)17-21)。
【0018】
上述のように、活性酸素は、シミやシワの発生と密接にかかわっているが、それぞれ発生しやすい箇所が異なる。シミは、顔の全体に出現しうるものの、特に目じり、頬、額、鼻がシミの頻出部位になる。したがって、これらの部位における高いUPE強度は、シミの発生に関連する。
【0019】
一方、シワは、皮膚の動きのある場所に形成されることが多く、特に口もと、目じり、眉間、頬、額、上瞼、下瞼がシワの頻出部位となる。したがって、これらの部位における高いUPE強度は、シワの発生に関連する。
【0020】
現状で特にシワやシミが形成されていない健常対象が、高いUPEを有する場合、将来的にシワやシミを発生するリスクが高いといえる。したがって、シワやシミが形成されていない健常対象において、シミ頻出部位又はシワ頻出部位のUPE量を検出することで、シミやシワの予測が可能となる。したがって、別の態様では、本発明は、皮膚状態が健常である対象において、将来の皮膚トラブルの発生を予測する方法に関する。将来の皮膚トラブルの発生を予測する方法は、具体的に以下の:
暗室において顔全体を馴化する工程;
暗室において、顔全体のUPEイメージング又はフォトカウンタにより顔のパーツ毎のUPEを測定する工程;及び
パーツ毎のUPE強度に基づき各パーツにおける将来の皮膚トラブルの発生を予測する工程
を含む。
【0021】
将来の皮膚トラブルの発生を予測する工程は、具体的にパーツ毎の測定されたUPE強度を、閾値と比較することにより行われうる。パーツ毎に閾値は複数設定することができ、トラブル発生の可能性として予測されうる。一例として、目じりにおいて、UPE強度が2以上、より好ましくは2.5以上、さらに好ましくは3.0以上である場合、将来のシワ形成可能性が高いこと、閾値が上がるに従いシワ形成可能性が高まることが示される。
【0022】
UPE強度により予測される皮膚トラブルは、皮膚の部位に応じて異なる。目じり、下瞼、頬、鼻がシミの頻出部位となり、これらの部位での皮膚トラブルは、シミとなる。一方で、口もと、目じり、頬、眉間、額、上瞼、下瞼がシワの頻出部位となり、これらの部位での皮膚トラブルは、シワとなる。
【0023】
パーツ毎のUPE強度を対照部のUPE強度により標準化することもできる。対照部を用いて標準化することにより、体質的な影響を排除することができる。例えば、顎部を対照とした場合には、その個人が有する体質、例えばUPE量が高い又は低いという個人的影響を排除し、顔の中で皮膚トラブルを発生しやすい部位を特定できる点で有用である。
【0024】
さらに、頬、鼻、下瞼、眉間、及び額におけるUPE量は、ポルフィリン量と相関がみられた(図7)。したがって、本発明の更なる態様では、本発明は皮膚のポルフィリン量の推測方法に関する。皮膚のポルフィリン量の推測方法は、暗室において顔全体のUPEイメージング又はフォトカウンタを行い測定されたパーツ毎のUPE量に基づいて、各パーツにおけるポルフィリン量を決定することができる。より具体的にパーツ毎のUPE量とポルフィリン量との関係を示すグラフに基づいて、各パーツにおけるポルフィリン量を決定することができる。皮膚におけるポルフィリンは、主にアクネ菌(Propionibacterium acnes)により生産される。したがって、ポルフィリン量を決定することにより、ニキビのできやすさについても判断することができる。例えば、頬、鼻、下瞼、眉間、額などにおいて、UPE強度2.5以上、さらに好ましくは3.0以上である場合、ニキビ形成の可能性が高いことが示される。そのようにニキビ形成の可能性が高いと判断された対象には、洗顔の指導や、ニキビ予防薬配合洗顔剤などの製品についての情報の提供を行うことができる。
【0025】
本発明のさらに別の態様では、本発明はスキンケアパックにも関する。スキンケアパックは、顔に張り付けることで美容成分を皮膚に投与する美容製品である。本発明のスキンケアパックには、顔の各パーツに対応する領域に、パーツ毎に決定された所定の美容成分を所定の濃度で含む、スキンケアパックに関する。ここでパーツ毎に決定される美容成分とその濃度は、顔のパーツ毎のUPE量に基づいて決定される。それにより、UPE量の高い領域、例えば額、頬などにおいて、効力の高い美容成分を配合することで、より優れた美容効果を期待することができる。また、UPE量の高い領域、例えば額、頬などにおいて、美容成分の濃度を高めることができる。顔のパーツ毎のUPE量は、暗室において顔全体のUPEイメージングにより決定することができ、フォトカウンタを用いて決定することもできる。
【0026】
美容成分としては、一例として抗酸化成分が挙げられる。化粧料に配合されうる抗酸化成分としては、例えばビタミンC、ビタミンE、βカロテン、アスタキサンチンなど、及びそれらの誘導体が挙げられる。また、植物エキスの中には抗酸化作用を示すことが知られているものがある。そのような植物エキスとしては、一例として、アロエエキス、イチョウエキス、ウーロン茶エキス、ウコンエキス、ウコン根茎エキス、ウスバサイシン根茎/根エキス、エーデルワイスエキス、オリーブ葉エキス、加水分解シルク末、カワラヨモギエキス、カワラヨモギ花エキス、カンゾウエキス、キイチゴエキス、クチナシエキス、クワエキス、ゲンチアナ根エキス、ゲンノショウコエキス、チャエキス、コーヒーエキス、ゴマエキス、コメヌカエキス、ゴレンシ葉エキス、サイシンエキス、サクラ葉エキス、シロキクラゲ多糖体、スターフルーツ葉エキス、セイヨウノコギリソウエキス、セージエキス、セージ葉エキス、センキュウエキス、トウモロコシエキス、ドクダミエキス、トマトエキス、パセリエキス、ブドウ種子エキス、ベニバナエキス、ボタンエキス、マグワ根皮エキス、マドンナリリー根エキス、メマツヨイグサ種子エキス、ユリエキス、ルイボスエキス、ローズマリーエキスなどが挙げられる。
【0027】
本発明は、さらにスキンケアパックの製造方法に関していてもよい。本発明のスキンケアパックの製造方法は、下記の:
暗室において顔全体を馴化する工程;
顔全体のUPEイメージング又はフォトカウンタにより顔のパーツ毎のUPE強度を測定する工程;
パーツ毎のUPE強度に基づき、各パーツに適した美容成分及びその濃度を決定する工程;
パーツ毎に決定された美容成分を、スキンケアパックの該パーツに対応する領域に決定された濃度で含有するスキンケアパックを提供する工程
を含む。これにより、個人の肌に適したスキンケアパックの提供が可能となる。
【0028】
さらに別の態様では、本発明はスキンケア及び/又はサンケア製品と、その使用方法提供する方法に関する。この方法は、具体的に、
暗室において顔全体を馴化する工程;
暗室において顔全体のUPEイメージング又はフォトカウンタにより顔のパーツ毎のUPEを測定する工程;
パーツ毎のUPE強度に基づき、各パーツ毎に適したスキンケア及びサンケア製品とその使用方法を決定する工程、
を含む。この方法により、個人の肌に適したスキンケア及び/又はサンケア製品についての情報を提供するとともに、個人の肌に適した使用方法についての情報を提供することができる。
【0029】
本発明において、UPEイメージングは暗室で行われることから、一般にデパートや店舗型の美容カウンターで行われうる。本発明の皮膚状態の決定方法、皮膚トラブルの発生の予測方法、及びポルフィリン推測方法を実施し、その結果をもとに美容カウンセリングが行われうる。その際に、個人の皮膚状態や将来起こりうるトラブルに応じて、部位ごとにオーダーメイドされたスキンケアパックを製造し、提供することができる。また、様々な皮膚状態やトラブルを有する人に対するスキンケアパックをパターン化し準備しておくこともできる。また、パーツ毎のUPE強度に基づいて、適したスキンケア製品及び/又はサンケア製品を、その使用方法とともに提供することもできる。一例として、目じりのUPE強度が高い対象に対しては、抗酸化作用を有する化粧成分を多く含んだ目元用の美容液を、その使用頻度についての情報とともに提供することができる。また、頬や額などにおいてUPE強度が高い対象については、抗UV剤が配合されたファンデーションなどの化粧料を、使用方法とともに提供することができる。スキンケア及びサンケア製品とその使用方法の決定は、UPE強度に応じたスキンケア及びサンケア製品とその使用方法について対応関係に基づいて決定される。パーツ毎のUPE強度と、それに応じたスキンケア及びサンケア製品とその使用方法との対応関係は、一例として対応表に予め記されていてもよい。。かかる対応関係は、各部位に応じたUPE強度に対するスキンケア及びサンケア製品とその使用方法が、対象者の年齢、位置情報、スキンタイプ、性別等に応じて細分化して決定されており、対応関係に基づき、適切なスキンケア及びサンケア製品とその使用方法を提供することができる。
【実施例
【0030】
実施例1:顔全体のUPEイメージング
20~60代の女性50名を被験者とした。洗顔後、二重暗室下で15分間馴化させ、冷却CCDカメラ(Spectral Instruments, Inc製:600S Series)により15分間にわたり顔全体を撮影した。撮影結果を図2に示す。鼻や鼻際、眉間において、フォトン発生強度(photon emission intensity)が強く、UPEの発生が強いことが示された。UPE量を、部位ごとに20代から60代まですべての被験者で平均して示した(図3)。
【0031】
UPE量に基づいて、顔の酸化レベルを評価することを目的として、顎部位UPEを指標として各部位を比較した(図4)。
【0032】
実施例2:フォトン発生強度と、その他の指数との相関
上瞼及び目じりについて、フォトン発生強度と、年齢との相関性を調べたところ、相関係数がそれぞれr=0.50及び0.46であった(図5)。
【0033】
20~40代の被験者(30名)において、目じり及び下瞼のシワを、VISIA Evolution(Canfield scientific)により解析した。シワと、フォトン発生強度との相関を調べたところ、相関係数がr=0.52であった(図6)。
【0034】
全被験者(50名)において、顔面のポルフィリン量をVISIA(Canfield scientific)により測定した。測定されたポルフィリン量とフォトン発生強度との相関を調べたところ、相関係数r=0.44であった(図7)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7