(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】気泡生成用電極及び気泡生成用電極の表面形成方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/02 20210101AFI20241203BHJP
C25B 11/03 20210101ALI20241203BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20241203BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20241203BHJP
【FI】
C25B11/02 303
C25B11/03
C25B11/052
C25B11/081
(21)【出願番号】P 2021533915
(86)(22)【出願日】2020-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2020026284
(87)【国際公開番号】W WO2021014940
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2019135536
(32)【優先日】2019-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】島崎 勝輔
(72)【発明者】
【氏名】吉本 慎之介
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-522708(JP,A)
【文献】特表2010-526938(JP,A)
【文献】特開2013-216940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略半円弧状に屈曲させた架橋部により複数の電極板部が一定の間隙を形成しつつ重畳し連結された折畳み電極と、同折畳み電極の前記間隙に介装された介装電極板と、を備え、前記折畳み電極の内外両側表面
は複数の凹部よりなる凹部群を有し、同凹部による前記表面の二乗平均平方根高さRqが1.5~20.0μmであることを特徴とする気泡生成用電極。
【請求項2】
前記折畳み電極の電極板部及び/または前記介装電極板には貫通孔が形成されており、同貫通孔の周縁に尖鋭状の電荷集中部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の気泡生成用電極。
【請求項3】
前記凹部は直線状の凹溝であって、前記凹部群は複数の凹溝をそれぞれ略同一方向に伸延させて構成したことを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の気泡生成用電極。
【請求項4】
前記凹部は直線状の凹溝であって、前記凹部群は、第1の方向に伸延する互いに略平行な複数の第1の凹溝と、同第1の方向と交叉する第2の方向に伸延する互いに略平行な複数の第2の凹溝とにより構成したことを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の気泡生成用電極。
【請求項5】
前記凹溝は、伸延方向にその幅員がランダムに変化していることを特徴とする請求項
3又は請求項
4に記載の気泡生成用電極。
【請求項6】
前記凹部は点状であることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の気泡生成用電極。
【請求項7】
前記折畳み電極の内外両側表面は、複数の凹部よりなる凹部群を備えた梨地状
であることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の気泡生成用電極。
【請求項8】
前記凹部は波線状の凹溝であって、前記凹部群は、複数の凹溝のそれぞれの山谷を一致させていることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の気泡生成用電極。
【請求項9】
前記表面は白金により61%を越える被覆率で被覆していることを特徴とする請求項1~
8いずれか1項に記載の気泡生成用電極。
【請求項10】
気泡生成用電極の表面形成方法であって、
前記気泡生成用電極は、複数の電極板部を架橋部で連結してなる電極板連結体の前記架橋部を略半円弧状に屈曲させ前記複数の電極板部を一定の間隙を形成しつつ重畳させた折畳み電極と、同折畳み電極の前記間隙に介装された介装電極板と、を備え、前記折畳み電極の内外両側表面
を複数の凹部よりなる凹部群を有する
梨地状とした
ものであり、
前記電極板連結体は、エッチング加工により前記
内外両側表
面を梨地状とし、次いで梨地状とした部位に対し
前記内外両側表面を平滑化する条件でブラスト加工を施して同部位の二乗平均平方根高さRqの値を
小さくしつつ1.5~20.0μmとすることを特徴とする気泡生成用電極の表面形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気泡生成用電極及び気泡生成用電極の表面形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水の電気分解により水素や酸素、添加物に応じた気体を発生させ、これを水に含有させて電解水を生成する装置(以下、電解水生成装置と称する。)が知られている。
【0003】
電解水生成装置には、水を電気分解するための電極が内蔵されており、例えば水素を含有させる電解水素水生成装置であれば、陰極表面にて発生させた水素を水中に拡散し溶存させることで電解水素水を生成する。
【0004】
電解水素水は、生体内酸化ストレスの低下や血中LDLの増加が抑制される等の報告がなされており、生成した電解水素水を飲用や浴用に供すれば、使用者の健康増進に役立つことが期待される。
【0005】
それゆえ、電解水素水生成装置の使用者には高い健康志向を持つ者も多く、自らが使用する電解水素水にどの程度の水素が含まれているのかが、最も重要な関心事の一つとなっている。
【0006】
従って、生成した電解水素水について溶存水素濃度を測定した際に、これが高値を示すことは、使用者の高い満足度を得るためには重要である。
【0007】
しかしながら、電解水素水生成装置を頻繁に使用する者ほど、水素濃度の測定を毎度行うのは煩雑であり現実的とは言い難い。
【0008】
これに対し、本発明者らは、水素気泡が大量に発生していることを視覚的に示すことは、溶存乃至は分散する水素の高濃度化の目安となるため、使用者の満足度に大きく貢献すると考えた。
【0009】
特に、様々な電解水素水生成装置の中でも、浴槽中の浴湯の如き溜水中に装置自体を投入し、着底状態や浮遊状態で使用するタイプの電解水素水生成装置(以下、水中投入型装置とも称する。)や、水筒やケトルに電解機能を付帯させた電解水素水生成装置の如く、装置内の貯水空間に水を収容し、これを電解に供して電解水素水を生成するタイプの電解水素水生成装置(以下、貯水型装置とも称する。)は、電解対象の水が静水であり、使用者の目視による水素気泡の確認には適した種類の電解水素水生成装置でもある。
【0010】
そこで本発明者らは過去に、パンチングメタル製電極板の貫通孔部(気泡流通孔)の周縁に尖鋭状の電荷集中部を形成することで気泡を発生させることが可能であることを見出し、水中投入型装置を採用の一例として、電極の構造を提案している(特許文献1参照。)。
【0011】
この特許文献1に開示された構造の電極は、発生する気泡が極めて特徴的である。すなわち、目視困難な程度に気泡径が0.1μmを下回る程度と小さく溶存効率に優れた気泡や、100μmを上回る程度の径を有し、気体であることが認識できる程度の視認性に優れた大きな気泡のいずれでもなく、白濁状で水の中を煙のように漂う水素気泡(0.1~100μm程度。以下、単に白濁気泡と称する。)の発生に特化した電極を開示している。
【0012】
そして、この構造を備えた電極によれば、小さい気泡が有する視覚効果が得られないという問題や、大きな気泡が有する水中での滞留時間が極めて短く溶存効率が悪いという問題に対し、白濁状という極めて特徴的な視覚効果を伴いつつ、煙のように比較的長時間に亘り水中を漂わせることができ、第3の新たな気泡態様による演出を行いつつ使用者に対し大きな満足感を惹起させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述の特許文献1は、単に白濁気泡を発生可能な構造を開示するに止まり、白濁気泡を如何に効率的に発生させるかと言った観点の技術は何ら提案していない。
【0015】
すなわち、上述した特許文献1は、電極板を貫通する気泡流通孔の周縁部分より白濁気泡を発生できることについて開示しているものの、仮にこれに基づいて白濁気泡発生の効率化を図るならば、電極板の至る所に貫通孔を形成しなければならず、対向面積が減少し、その結果白濁気泡の発生効率は低下してしまう。
【0016】
また、水素の生成を目的の一つとする電解水素水生成装置に限らず、例えば酸素の如く水素以外の気体の生成を目的の一つとする電解水生成装置において、その気体が大量に発生していることを視覚的に示し、溶存乃至は分散する気体の高濃度化の目安を使用者に提供することは、その気体の発生を目当てに入手した使用者の満足度に貢献する。
【0017】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、電極板を貫通する貫通孔の周縁でなくとも白濁気泡を効率的に発生できる気泡生成用電極や、気泡生成用電極の表面形成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述のとおり、発生する気泡は小さすぎると短時間で圧壊し、消滅してしまう。また、大きい気泡であると発生後ただちに水面に浮上してしまい、いずれも水中を長時間に亘り浮遊して白濁する気泡とはならない。本発明者は、発生する気泡の大きさが電極表面の凹凸形状によって変化することを見出し、水の中を煙のように漂う白濁気泡を豊富に発生させることのできる気泡生成用電極の条件を得た。すなわち上記従来の課題を解決するために、本発明に係る気泡生成用電極では、(1)略半円弧状に屈曲させた架橋部により複数の電極板部が一定の間隙を形成しつつ重畳し連結された折畳み電極と、同折畳み電極の前記間隙に介装された介装電極板と、を備え、前記折畳み電極の内外両側表面は複数の凹部よりなる凹部群を有し、同凹部による前記表面の二乗平均平方根高さRqが1.5~20.0μmであることとした。
【0019】
また、本発明に係る気泡生成用電極では、以下の点にも特徴を有する。
(2)前記折畳み電極の電極板部及び/または前記介装電極板には貫通孔が形成されており、同貫通孔の周縁に尖鋭状の電荷集中部が形成されていること。
(3)前記凹部は直線状の凹溝であって、前記凹部群は複数の凹溝をそれぞれ略同一方向に伸延させて構成したこと。
(4)前記凹部は直線状の凹溝であって、前記凹部群は、第1の方向に伸延する互いに略平行な複数の第1の凹溝と、同第1の方向と交叉する第2の方向に伸延する互いに略平行な複数の第2の凹溝とにより構成したこと。
(5)前記凹溝は、伸延方向にその幅員がランダムに変化していること。
(6)前記凹部は点状であること。
(7)前記折畳み電極の内外両側表面は、複数の凹部よりなる凹部群を備えた梨地状であること。
(8)前記凹部は波線状の凹溝であって、前記凹部群は、複数の凹溝のそれぞれの山谷を一致させていること。
(9)前記表面は白金により61%を越える被覆率で被覆していること。
【0020】
また、本発明に係る気泡生成用電極の表面形成方法では、(10)気泡生成用電極の表面形成方法であって、前記気泡生成用電極は、複数の電極板部を架橋部で連結してなる電極板連結体の前記架橋部を略半円弧状に屈曲させ前記複数の電極板部を一定の間隙を形成しつつ重畳させた折畳み電極と、同折畳み電極の前記間隙に介装された介装電極板と、を備え、前記折畳み電極の内外両側表面を複数の凹部よりなる凹部群を有する梨地状としたものであり、前記電極板連結体は、エッチング加工により前記内外両側表面を梨地状とし、次いで梨地状とした部位に対し前記内外両側表面を平滑化する条件でブラスト加工を施して同部位の二乗平均平方根高さRqの値を小さくしつつ1.5~20.0μmとすることとした。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、略半円弧状に屈曲させた架橋部により複数の電極板部が一定の間隙を形成しつつ重畳し連結された折畳み電極と、同折畳み電極の前記間隙に介装された介装電極板と、を備え、前記折畳み電極の内外両側表面は複数の凹部よりなる凹部群を有し、同凹部による前記表面の二乗平均平方根高さRqが1.5~20.0μmであることとしたため、電極板を貫通する貫通孔の周縁でなくとも白濁気泡を効率的に発生できる気泡生成用電極を提供することができる。
【0023】
また、前記凹部は直線状の凹溝であって、前記凹部群は複数の凹溝をそれぞれ略同一方向に伸延させて構成すれば、白濁気泡の効率的な発生が可能であり、しかも、同一方向に整列した複数の直線状の模様を備える気泡生成用電極とすることができる。また、前記凹部群を、複数の凹溝を略同一方向に伸延させて構成すると、気泡が発生する際に該伸延方向に沿って成長することができ、スムースに拡大していくことができ、該気泡の成長を促進することもできる。
【0024】
また、前記凹部は直線状の凹溝であって、前記凹部群は、第1の方向に伸延する互いに略平行な複数の第1の凹溝と、同第1の方向と交叉する第2の方向に伸延する互いに略平行な複数の第2の凹溝とにより構成すれば、白濁気泡の効率的な発生が可能であり、しかも、第1の方向へ向け同一方向に整列した複数の直線状の模様と、第2の方向へ向け同一方向に整列した複数の直線状の模様とが交叉した表面デザインを備える気泡生成用電極とすることができる。また、当該交叉する直線状の凹溝を有する構成においては、気泡が成長する際に、凹溝が延伸する方向に気泡が成長しつつ、さらに交叉する凹溝にも方向を拡大して成長することができるため、該気泡の成長をさらに促進することもできる。
【0025】
また、前記凹溝は、伸延方向にその幅員がランダムに変化していることとすれば、白濁気泡の効率的な発生が可能であり、しかも、ランダムに変化する幅員の先鋭化した縁部を電荷集中部の如く機能させることができ、同部位からの気泡発生を促すことができる。また、前記凹溝は、伸延方向にその幅員をランダムに変化させることにより発生する気泡の大きさも分布をもつことになり、長く浮遊する小型の気泡と、比較的短時間で水面に浮上する気泡とが混在した風合いを醸し出すこともできる。
【0026】
また、前記凹部は点状であることとすれば、白濁気泡の効率的な発生が可能であり、しかも、ドット状の模様を備える気泡生成用電極とすることができる。また、該ドットのサイズを略均一に形成することにより、電極表面から離脱する気泡のサイズを所定の大きさに略均一にすることもできる。
【0027】
また、前記凹部は梨地状に形成されていることとすれば、白濁気泡の効率的な発生が可能であり、しかも、梨地状の模様を備える気泡生成用電極とすることができる。また、梨地状に形成することにより該凹部はその大きさに所定の幅をもった不定形状とすることができる。これによって、電極表面から離脱する気泡の大きさも所定の分布をもつことになり、長く浮遊する小型の気泡と、比較的短時間で水面に浮上する気泡とが混在した風合いを醸し出すこともできる。
【0028】
また、前記凹部は波線状の凹溝であって、前記凹部群は、複数の凹溝のそれぞれの山谷を一致させていることとすれば、白濁気泡の効率的な発生が可能であり、しかも、波線状の模様を備える気泡生成用電極とすることができる。また、該波線状の凹溝はこれに沿って気泡が発生することにより、波打ってたなびくような風合いの気泡の流れを形成することもできる。
【0029】
また、前記表面は白金により61%を越える被覆率で被覆していることとすれば、チタンやチタンを含む合金などの金属板からなる基板の露出部が少なく耐久性に優れた気泡生成用電極とすることができる。また、チタンなどの基板の露出部における酸化被膜の形成による電圧の上昇を防止し、より低い電力で白濁気泡を発生させることができる。
【0030】
また、本発明に係る気泡生成用電極の表面形成方法によれば、気泡生成用電極の表面形成方法であって、前記気泡生成用電極は、複数の電極板部を架橋部で連結してなる電極板連結体の前記架橋部を略半円弧状に屈曲させ前記複数の電極板部を一定の間隙を形成しつつ重畳させた折畳み電極と、同折畳み電極の前記間隙に介装された介装電極板と、を備え、前記折畳み電極の内外両側表面を複数の凹部よりなる凹部群を有する梨地状としたものであり、前記電極板連結体は、エッチング加工により前記内外両側表面を梨地状とし、次いで梨地状とした部位に対し前記内外両側表面を平滑化する条件でブラスト加工を施して同部位の二乗平均平方根高さRqの値を小さくしつつ1.5~20.0μmとすることとしたため、電極板を貫通する貫通孔の周縁でなくとも白濁気泡を効率的に発生できる気泡生成用電極の表面形成方法、特に、エッチング加工表面をベースに、白濁気泡発生に好適な粗度を持ちつつ、かつ白金メッキ膜が十分な付着力を持つ電極表面を形成できるよう制御可能な気泡生成用電極の表面形成方法を提供することができる。
【0031】
また、前記ブラスト加工は、前記エッチング加工後の梨地状表面の二乗平均平方根高さRqの値を小さくする加工であることとすれば、白濁気泡の発生割合を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本実施形態に係る気泡生成用電極の基本構成を示す説明図である。
【
図2】本実施形態に係る気泡生成用電極の基本構成を示す説明図である。
【
図3】本実施形態に係る気泡生成用電極の基本構成を示す説明図である。
【
図4】実施例1に係る気泡生成用電極の表面構造を示した説明図である。
【
図5】実施例2に係る気泡生成用電極の表面構造を示した説明図である。
【
図6】実施例3に係る気泡生成用電極の表面構造を示した説明図である。
【
図7】実施例4に係る気泡生成用電極の表面構造を示した説明図である。
【
図8】実施例5及び実施例6に係る気泡生成用電極の表面構造を示した説明図である。
【
図9】実施例7及び実施例8に係る気泡生成用電極の表面構造を示した説明図である。
【
図10】実施例9及び実施例10に係る気泡生成用電極の表面構造を示した説明図である。
【
図11】実施例11及び実施例12に係る気泡生成用電極の表面構造を示した説明図である。
【
図12】実施例13に係る気泡生成用電極の表面構造を示した説明図である。
【
図13】実施例14に係る気泡生成用電極の表面構造を示した説明図である。
【
図14】実施例15に係る気泡生成用電極の表面構造を示した説明図である。
【
図15】実施例16に係る気泡生成用電極の表面構造を示した説明図である。
【
図16】実施例17に係る気泡生成用電極の表面構造を示した説明図である。
【
図17】白濁気泡発生試験の試験内容を示す説明図である。
【
図18】白濁気泡発生試験の試験内容を示す説明図である。
【
図19】エッチングとブラストの組合せにより形成した各気泡生成用電極表面の検鏡像である。
【
図20】エッチングとブラストの組合せにより形成した各気泡生成用電極表面における二乗平均平方根高さ(Rq)を示す図である。
【
図21】エッチングとブラストの組合せにより形成した代表的な気泡生成用電極表面の模式図である。
【
図22】エッチングとブラストの各組合せにより形成した各気泡生成用電極における気泡の発生状態の評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、気泡生成用電極に関するものであり、特に、電極板を貫通する貫通孔の周縁でなくとも白濁気泡を効率的に発生できる気泡生成用電極を提供するものである。
【0034】
前述の通り、単に気泡を効率的に発生させるという目的の電極はこれまでに幾つか提案されている。
【0035】
しかしながら、煙のように比較的長時間に亘り水中を漂うミルキーな泡(白濁気泡)を発生させることに特化した提案は、本発明者らが行った先の出願を除き未だなされていない。
【0036】
そこで本実施形態に係る気泡生成用電極では、表面に複数の凹部よりなる凹部群を有し、同凹部による前記表面の二乗平均平方根高さRqが1.5~20.0μmであることで、貫通孔の周縁でなくとも電極板表面全体で白濁気泡を効率的に発生可能としている。なお、貫通孔は電極板に存在していても良く、電極板への貫通孔の形成を妨げるものではない。
【0037】
ここで、電極表面に形成される凹部は、凹溝であっても良く、また、点状であっても良い。
【0038】
また、凹溝の形状は特に限定されるものではなく、直線状や曲線状、波線状とすることができる。またこの場合、複数の凹溝の集合である凹部群は、全ての直線が略同一方向に伸延する構造、例えばヘアライン加工を施した金属表面の如き構造とすることもできる。
【0039】
また凹溝の幅員はランダムに変化するよう構成しても良い。このような構成とすることで、変化する幅員の先鋭化した縁部を電荷集中部の如く機能させることができ、同部位からの気泡発生を促すことができる。
【0040】
また、凹部は不定形状であって凹部群として梨地を現出するものとすることもできる。
【0041】
また、前記表面は白金により61%以上の被覆率、より好ましくは66%以上の被覆率で被覆していることとすれば、基板の露出部分を低減して電気分解に必要な電力を低減できるので、該凹部による白濁気泡の発生をより促進することができる。また、耐久性に優れた気泡生成用電極とすることもできる。
【0042】
なお、白濁気泡を構成する気体成分は特に限定されるものではなく、例えば、水素や酸素、オゾンなど、水の電気分解により生成される気体、あるいは食塩水を電解対象とした場合には塩素などのように電解対象となる水中の溶質に応じた気体を含ませたり、これらが複合的に含まれていても良い。
【0043】
以下、本実施形態に係る気泡生成用電極について、まずは図面を参照しつつ各電極に共通する電極の躯体構造について説明を行い、その後、表面の凹部構造をそれぞれ違えた20の実施例について説明する。
【0044】
〔1.電極の躯体構造〕
図1は、所謂折畳み電極Aが採用された本実施形態に係る気泡生成用電極Bの外観を示す説明図である。
図1に示すように気泡生成用電極Bは、電極積層部10と、同電極積層部10より伸延させた2本の導通棒11a及び導通棒11bとを備えており、各導通棒11a,11bに対し相対的に異なる電位の電圧を印加することで、電極積層部10と接触する水を電解し、後述の1~20の各実施例に示す表面構造により白濁気泡を生成可能としている。
【0045】
電極積層部10は、折畳み電極Aと、同折畳み電極Aの間隙に介装された介装電極板12とで構成しており、複数枚(本実施形態に係る気泡生成用電極Bでは3枚)の板状の電極板が一定の間隙を形成しつつ重畳する構造を有している。特に、本実施形態において電極積層部10の極間の間隙は0.3~1.0mmとしており、電解効率に優れた狭隘電極体を構成している。
【0046】
介装電極板12は
図2(a)に示すように、後述する折畳み電極Aの電極板部14と略同形状(平面視略矩形状)の金属板体であり、折畳み電極Aの対極として機能するものである。任意の構成であるが、介装電極板12には長穴状の孔12aが複数形成されており、電極板間への水の導入が容易になされるよう構成している。また、介装電極板12には破線で示すように導通棒11bが接続される。
【0047】
またこれも任意の構成ではあるが、介装電極板12が陰極(水素発生極)として使用される場合には、孔12aの周縁に尖鋭状の電荷集中部を設け、同電荷集中部に電荷を集中させて電解を部分的に促進することで、白濁状に視認される水素気泡を生成するよう構成しても良い。電荷集中部は、例えば介装電極板12の形成素材としてのチタン基板をパンチング加工し、穿孔したエッジ部分を尖鋭状とすることで形成可能である。
【0048】
一方、
図1に示した折畳み電極Aは、
図2(b)に示す電極板連結体13を屈曲させて形成している。電極板連結体13は一枚の金属平板から打ち抜き等によって得られたものであり、複数(本実施形態では2箇所)の電極板部14と、各電極板部14を電気的に接続する架橋部15とを備えており、一点鎖線で示した各架橋部15を横断する線に沿って屈曲させることで折畳み電極Aが形成される。
【0049】
電極板部14は、介装電極板12の対極であって折畳み電極Aの電解機能を発揮する電極板として機能する部位である。任意の構成であるが、本実施形態に係る折畳み電極Aにも、電極板部14に、同電極板部14の連結方向(
図2(a)において上下方向)へ伸延する複数の長穴状の孔14aを形成しており、電極板間への水の導入が容易になされるよう構成している。
【0050】
また前述の介装電極板12と同様これも任意の構成ではあるが、折畳み電極Aが陰極(水素発生極)として使用される場合には、孔14aの周縁に尖鋭状の電荷集中部を設け、同電荷集中部に電荷を集中させて電解を部分的に促進することで、白濁状に視認される水素気泡を生成するよう構成しても良い。電荷集中部は、例えば電極板部14の形成素材としてのチタン基板をパンチング加工し、穿孔したエッジ部分を尖鋭状とすることで形成可能である。
【0051】
また、電極板部14には破線で示すように導通棒11aが接続され、折畳み電極Aに対し所定の電圧で電流を供給可能としている。導通棒11aは、電極板連結体13の折畳み前に電極板部14に取付を行ってもよく、また、折畳み後に取り付けても良い。
【0052】
架橋部15は、各電極板部14を電気的に接続しつつ一体的な構成とするための部位である。特に、本実施形態における折畳み電極Aの特徴としては、
図1に示すように、この架橋部15に形成する屈曲構造を略半円弧状としている点が挙げられる。なお、架橋部15の数は特に限定されるものでなく、単数でも良いが、
図2(b)に示す如く複数設けることもできる。架橋部15を複数設けると、当該電極板連結体13に折り曲げ加工を行い、折畳み電極、平行電極板構造、積層電極対を形成した際に、電極板相互の平行度を精度よく確保しやすく、また構造的な強度も高めることができ好適である。
【0053】
図3は、
図1の気泡生成用電極BについてP1-P1線における断面を模式的に示した説明図である。なお、折畳み電極Aと介装電極板12との間隔や厚み、位置関係、詳細な構成等は、説明の便宜上、一部省略や誇張して示す場合があり、その他の図面もまた同様である。折畳み電極Aの形成にあたっては、
図2(b)にて電極板連結体13に示した折畳み線に沿って架橋部15の折畳みを行うのであるが、この際、
図3に示すように、架橋部15に略半円弧状の屈曲構造を形成する。
【0054】
このような構成とすることにより、従来の折畳み電極の如く架橋部の2箇所の根元をそれぞれ高精度で直角に折曲させる煩雑な作業を伴わず、折曲作業を極めて簡便なものとすることができる。なお、屈曲構造は折曲加工のほか、プレス加工等によっても形成することができる。また、屈曲構造は典型的には折曲加工により形成される自然屈曲構造であり、そのため当該屈曲構造は正確に半円弧形状である必要はない。また、折畳み電極Aの各電極板部14や介装電極板12は、例えば板厚が0.1mm~1.0mm、より好ましくは0.2mm~0.5mmとすることができ、材質としては、例えば、白金をメッキしたチタン板などを用いることができる。白金によるメッキは、チタン板の打ち抜き加工等の後に行っても良く、また、メッキ済のチタン板に対し打ち抜き加工等を行うようにしても良い。
【0055】
これから以下に述べる各実施例に示す気泡生成用電極は、上述してきた躯体構造を共通の構造として備えるものであり、水と接触させた状態で通電することにより、陰極や陽極とした介装電極板12又は電極板部14の各実施例に示す表面構造から、水素や酸素、その他気体を白濁気泡として発生させる。
【0056】
〔2.表面構造〕
次に、上述した気泡生成用電極Bの表面構造について、各実施例を参照しながら更に説明する。なお、以下では、折畳み電極Aを陰極(水素発生極)とし、介装電極板12を陽極(酸素発生極)として説明するが、これに限定されるものではない。また、気泡生成用電極Bの構造を説明するに際し、同電極を水中に配した際に鉛直方向となる方向を上下方向と称し、気泡生成用電極Bの長手方向を左右方向、積層方向を厚み方向と称する。本実施例ではいずれも、
図4(a)に示す正面視において紙面上下方向を上下方向、紙面左右方向を左右方向、紙面奥行き方向を厚み方向として説明する。また、図面上に表された表面構造は、単位面積あたりの凹部の形成密度や大きさ、凹溝の間隔、形状などについて必ずしも正確に示されたものではなく、スクラッチラインや梨地、その他表面構造において発明の理解に供すべく必要に応じて模式的に示されている点に留意されたい。
【0057】
また、以下の各実施例にて言及する表面構造は、いずれか一方の極の表面にのみ形成することも可能であるが、両方の極の表面に形成しても良い。例えば、以下に説明する気泡生成用電極B1~B20は、後述する浴用水素発生装置F(
図17参照)に水素の発生を主な目的の一つとして取り付けられる電極であるが、当該表面構造は水素発生極(陰極。本実施形態では折畳み電極A)のみならず、酸素発生極(陽極。本実施形態では介装電極板12)にも形成することができる。このような構成とすることにより、水素発生極にて発生させた水素の白濁気泡に加え、酸素発生極からも酸素の白濁気泡を発生させることができ、より多くの白濁気泡を使用者に視認させることができるため、前述した目視効果をより高めることができる。
【0058】
(2-1)実施例1
図4(a)に、実施例1に係る気泡生成用電極B1の正面図を示す。気泡生成用電極B1は、折畳み電極A1と、同折畳み電極A1に介装された介装電極板12とで構成している。
【0059】
気泡生成用電極B1は、陰極(水素発生極)として機能する折畳み電極A1の電極板部14の表面であって介装電極板12と対向する側の面(以下、単に折畳み電極A1の内側表面と称する。)と、対向しない側の面(以下、単に折畳み電極A1の外側表面と称する。)との表面に、上下方向へ伸延する凹部としての直線状の凹溝が略平行に複数形成され、この凹溝群により所謂ヘアライン加工が施された状態となっている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面を上下ヘアライン表面T1と称する。
【0060】
図4(b)は、上下ヘアライン表面T1の検鏡像(×160)を示している。上下ヘアライン表面T1は、折畳み電極A1の内側表面や外側表面を、ワイヤーブラシホイールやヘアライン研磨ホイールで研磨加工することにより形成することができる。
【0061】
この研磨加工は、既に白金メッキが施された内外側表面に対して行うこと(後加工)も可能であるし、白金メッキが施されていない内外側表面に対して研磨加工を行い、その後白金メッキを施して気泡生成用電極B1とすることも可能である(先加工)。特に、上下ヘアライン表面T1を含む内側表面及び外側表面を白金により61%を越える被覆率でメッキして被覆すれば、低電力で白濁気泡の発生が可能でありながら、耐久性に極めて優れた気泡生成用電極B1とすることができる。
【0062】
なお、本実施例に係る気泡生成用電極B1では、折畳み電極A1の内外両側表面を上下ヘアライン表面T1としたが、陽極となる介装電極板12と対向する内側表面のみ上下ヘアライン表面T1としても良い。
【0063】
すなわち、外側表面は介装電極板12と対向しておらず、水素気泡の発生への寄与が少ないため、外側表面を上下ヘアライン表面T1としないことは、気泡生成用電極B1の製造工程上、作業が減る観点から言えば有利である。
【0064】
但し、本実施例の如く、折畳み電極A1の内外両側表面を上下ヘアライン表面T1とすれば、研磨加工に伴う電極板部14の反りを防止することができる。このことは特に、気泡生成用電極Bの如く狭隘な積層電極において、電極板部14と介装電極板12との接触による短絡を防止したり、均一な電解を行う上で極めて有益である。なお、この構成は以下の実施例においても同様である。
【0065】
本実施例に係る気泡生成用電極B1について、上下ヘアライン表面T1の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=3.41であった。また、研磨加工は先加工としたため、白金被覆率は100%であった。
【0066】
(2-2)実施例2
図5(a)に、実施例2に係る気泡生成用電極B2の正面図を示す。気泡生成用電極B2は、折畳み電極A2と、同折畳み電極A2に介装された介装電極板12とで構成している。
【0067】
気泡生成用電極B2は、陰極(水素発生極)として機能する折畳み電極A2の内側表面及び外側表面に、凹部としての略直線状で伸延方向にその幅員がランダムに変化する凹溝(以下、スクラッチラインともいう。)が所定間隔を隔て上下方向へ伸延させて略平行に複数形成され、この凹溝群によりスクラッチライン加工が施された状態となっている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面を上下スクラッチライン表面T2と称する。
【0068】
図5(b)は、上下スクラッチライン表面T2の検鏡像(×80)を示している。上下スクラッチライン表面T2は、硬質の金属や鉱物の鋭利な先端にて折畳み電極A2の内側表面や外側表面をけがくことにより形成することができる。また該鋭利な先端を複数有する、いわゆるのこぎりの刃のような工具を用いて、折畳み電極A2の内側表面や外側表面を引掻くことにより、複数の凹溝を効率よく形成することも可能である。本実施例では、スクラッチラインのライン幅は概ね100~300μm程度、平均約200μmであり、ライン間隔は約1mmとして形成している。
【0069】
けがき加工は、白金メッキ処理に対して前(先加工)であっても、後(後加工)であっても良い。本実施例に係る気泡生成用電極B2は、後加工としている。
【0070】
なお、本実施例に係る気泡生成用電極B2では、折畳み電極A2の内外両側表面を上下スクラッチライン表面T2としたが、陽極となる介装電極板12と対向する内側表面のみ上下スクラッチライン表面T2としても良い。
【0071】
本実施例に係る気泡生成用電極B2について、上下スクラッチライン表面T2の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=3.44であった。また、スクラッチ加工は後加工としたため、白金被覆率は93%であった。
【0072】
(2-3)実施例3
図6に、実施例3に係る気泡生成用電極B3の正面図を示す。気泡生成用電極B3は、折畳み電極A3と、同折畳み電極A3に介装された介装電極板12とで構成している。
【0073】
気泡生成用電極B3は、陰極(水素発生極)として機能する折畳み電極A3の内側表面と外側表面に、左右方向へ伸延する凹部としての直線状の凹溝が略平行に複数形成され、この凹溝群により所謂ヘアライン加工が施された状態となっている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面を左右ヘアライン表面T3と称する。
【0074】
左右ヘアライン表面T3の検鏡像や研磨加工の方法、メッキの後先、内側表面のみの形成等については、前述の上下ヘアライン表面T1と同様であるため、説明を割愛する。
【0075】
本実施例に係る気泡生成用電極B3について、左右ヘアライン表面T3の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=2.77であった。また、研磨加工は先加工としたため、白金被覆率は100%であった。
【0076】
(2-4)実施例4
図7に、実施例4に係る気泡生成用電極B4の正面図を示す。気泡生成用電極B4は、折畳み電極A4と、同折畳み電極A4に介装された介装電極板12とで構成している。
【0077】
気泡生成用電極B4は、陰極(水素発生極)として機能する折畳み電極A4の内側表面及び外側表面に、凹部としての略直線状のスクラッチラインが所定間隔を隔て左右方向へ伸延させて略平行に複数形成され、この凹溝群によりスクラッチライン加工が施された状態となっている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面を左右スクラッチライン表面T4と称する。
【0078】
左右スクラッチライン表面T4の検鏡像やけがき加工の方法、メッキの後先、内側表面のみの形成等については、前述の上下スクラッチライン表面T2と同様であるため、説明を割愛する。
【0079】
本実施例に係る気泡生成用電極B4について、左右スクラッチライン表面T4の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=4.51であった。また、スクラッチ加工は後加工としたため、白金被覆率は91%であった。
【0080】
(2-5)実施例5
図8(a)に、実施例5に係る気泡生成用電極B5の正面図を示す。気泡生成用電極B5は、折畳み電極A5と、同折畳み電極A5に介装された介装電極板12とで構成している。
【0081】
気泡生成用電極B5は、陰極(水素発生極)として機能する折畳み電極A5の内側表面と外側表面に、正面視において上下方向に対し略45度の傾きで右上がり方向へ伸延する凹部としての直線状の凹溝が略平行に複数形成され、この凹溝群により所謂ヘアライン加工が施された状態となっている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面を斜め右上がりヘアライン表面T5と称する。
【0082】
斜め右上がりヘアライン表面T5の検鏡像や研磨加工の方法、メッキの後先、内側表面のみの形成等については、前述の上下ヘアライン表面T1と同様であるため、説明を割愛する。
【0083】
本実施例に係る気泡生成用電極B5について、斜め右上がりヘアライン表面T5の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=2.52であった。また、研磨加工は先加工としたため、白金被覆率は100%であった。
【0084】
(2-6)実施例6
図8(b)に、実施例6に係る気泡生成用電極B6の正面図を示す。気泡生成用電極B6は、折畳み電極A6と、同折畳み電極A6に介装された介装電極板12とで構成している。
【0085】
気泡生成用電極B6は、陰極(水素発生極)として機能する折畳み電極A6の内側表面と外側表面に、正面視において上下方向に対し略45度の傾きで右下がり方向へ伸延する凹部としての直線状の凹溝が略平行に複数形成され、この凹溝群により所謂ヘアライン加工が施された状態となっている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面を斜め右下がりヘアライン表面T6と称する。
【0086】
斜め右下がりヘアライン表面T6の検鏡像や研磨加工の方法、メッキの後先、内側表面のみの形成等については、前述の上下ヘアライン表面T1と同様であるため、説明を割愛する。
【0087】
本実施例に係る気泡生成用電極B6について、斜め右下がりヘアライン表面T6の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=3.07であった。また、研磨加工は先加工としたため、白金被覆率は100%であった。
【0088】
(2-7)実施例7
図9(a)に、実施例7に係る気泡生成用電極B7の正面図を示す。気泡生成用電極B7は、折畳み電極A7と、同折畳み電極A7に介装された介装電極板12とで構成している。
【0089】
気泡生成用電極B7は、陰極(水素発生極)として機能する折畳み電極A7の内側表面及び外側表面に、凹部としての略直線状のスクラッチラインが所定間隔を隔て、正面視において上下方向に対し略45度の傾きで右上がり方向へ伸延させて略平行に複数形成され、この凹溝群によりスクラッチライン加工が施された状態となっている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面を斜め右上がりスクラッチライン表面T7と称する。
【0090】
斜め右上がりスクラッチライン表面T7の検鏡像やけがき加工の方法、メッキの後先、内側表面のみの形成等については、前述の上下スクラッチライン表面T2と同様であるため、説明を割愛する。
【0091】
本実施例に係る気泡生成用電極B7について、斜め右上がりスクラッチライン表面T7の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=3.92であった。また、スクラッチ加工は後加工としたため、白金被覆率は90%であった。
【0092】
(2-8)実施例8
図9(b)に、実施例8に係る気泡生成用電極B8の正面図を示す。気泡生成用電極B8は、折畳み電極A8と、同折畳み電極A8に介装された介装電極板12とで構成している。
【0093】
気泡生成用電極B8は、陰極(水素発生極)として機能する折畳み電極A8の内側表面及び外側表面に、凹部としての略直線状のスクラッチラインが所定間隔を隔て、正面視において上下方向に対し略45度の傾きで右下がり方向へ伸延させて略平行に複数形成され、この凹溝群によりスクラッチライン加工が施された状態となっている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面を斜め右下がりスクラッチライン表面T8と称する。
【0094】
斜め右下がりスクラッチライン表面T8の検鏡像やけがき加工の方法、メッキの後先、内側表面のみの形成等については、前述の上下スクラッチライン表面T2と同様であるため、説明を割愛する。
【0095】
本実施例に係る気泡生成用電極B8について、斜め右下がりスクラッチライン表面T8の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=4.17であった。また、スクラッチ加工は後加工としたため、白金被覆率は92%であった。
【0096】
(2-9)実施例9
図10(a)に、実施例9に係る気泡生成用電極B9の正面図を示す。気泡生成用電極B9は、折畳み電極A9と、同折畳み電極A9に介装された介装電極板12とで構成している。
【0097】
気泡生成用電極B9は、陰極(水素発生極)として機能する折畳み電極A9の内側表面と外側表面に、第1の方向としての上下方向へ伸延する凹部としての直線状の上下凹溝(第1の凹溝)が略平行に複数形成され、この上下凹溝と交叉させて(本実施形態では略直交させて)、第2の方向としての左右方向へ伸延する凹部としての直線状の左右凹溝(第2の凹溝)が略平行に複数形成され、これら凹溝群により縦横方向へのクロスヘアライン加工が施された状態となっている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面を縦横クロスヘアライン表面T9と称する。
【0098】
図10(b)は、縦横クロスヘアライン表面T9の検鏡像(×240)を示している。縦横クロスヘアライン表面T9は、折畳み電極A9の内側表面や外側表面を、ワイヤーブラシホイールやヘアライン研磨ホイールにより、第1の方向としての上下方向と、第2の方向としての左右方向との両方向へ研磨加工することにより形成することができる。
【0099】
縦横クロスヘアライン表面T9のメッキの後先や内側表面のみの形成等については、前述の上下ヘアライン表面T1と同様であるため、説明を割愛する。
【0100】
本実施例に係る気泡生成用電極B9について、縦横クロスヘアライン表面T9の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=1.90であった。また、研磨加工は先加工としたため、白金被覆率は100%であった。
【0101】
(2-10)実施例10
図10(c)に、実施例10に係る気泡生成用電極B10の正面図を示す。気泡生成用電極B10は、折畳み電極A10と、同折畳み電極A10に介装された介装電極板12とで構成している。
【0102】
気泡生成用電極B10は、陰極(水素発生極)として機能する折畳み電極A10の内側表面と外側表面に、第1の方向として正面視において上下方向に対し略45度の傾きで右上がりとなる方向へ伸延する凹部としての直線状の右上がり凹溝(第1の凹溝)が互いに略平行に複数形成され、この右上がり凹溝と交叉させて(本実施形態では略直交させて)、第2の方向として正面視において上下方向に対し略45度の傾きで右下がりとなる方向へ伸延する凹部としての直線状の右下がり凹溝(第2の凹溝)が互いに略平行に複数形成され、これら凹溝群により斜め方向へのクロスヘアライン加工が施された状態となっている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面を斜めクロスヘアライン表面T10と称する。
【0103】
斜めクロスヘアライン表面T10の検鏡像や研磨加工の方法、メッキの後先、内側表面のみの形成等については、前述の縦横クロスヘアライン表面T9と同様であるため、説明を割愛する。
【0104】
本実施例に係る気泡生成用電極B10について、斜めクロスヘアライン表面T10の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=2.17であった。また、研磨加工は先加工としたため、白金被覆率は100%であった。
【0105】
(2-11)実施例11
図11(a)に、実施例11に係る気泡生成用電極B11の正面図を示す。気泡生成用電極B11は、折畳み電極A11と、同折畳み電極A11に介装された介装電極板12とで構成している。
【0106】
気泡生成用電極B11は、陰極(水素発生極)として機能する折畳み電極A11の内側表面と外側表面に、第1の方向としての上下方向へ伸延する凹部としての直線状の上下スクラッチライン(第1の凹溝)が互いに略平行に複数形成され、この上下スクラッチラインと交叉させて(本実施形態では略直交させて)、第2の方向としての左右方向へ伸延する凹部としての直線状の左右スクラッチライン(第2の凹溝)が互いに略平行に複数形成され、これら凹溝群により縦横方向へのクロススクラッチライン加工が施された状態となっている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面を縦横クロススクラッチライン表面T11と称する。
【0107】
縦横クロススクラッチライン表面T11の検鏡像は、
図5(b)にて示した上下スクラッチライン表面T2のスクラッチラインに加え、更に左右方向へのスクラッチラインが付加された像が観察される。なお、けがき加工の方法、メッキの後先、内側表面のみの形成等については、前述の上下スクラッチライン表面T2と同様であるため、説明を割愛する。
【0108】
本実施例に係る気泡生成用電極B11について、縦横クロススクラッチライン表面T11の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=3.23であった。また、スクラッチ加工は後加工としたため、白金被覆率は83%であった。
【0109】
(2-12)実施例12
図11(b)に、実施例12に係る気泡生成用電極B12の正面図を示す。気泡生成用電極B12は、折畳み電極A12と、同折畳み電極A12に介装された介装電極板12とで構成している。
【0110】
気泡生成用電極B12は、陰極(水素発生極)として機能する折畳み電極A12の内側表面と外側表面に、正面視において上下方向に対し略45度の傾きで右上がり方向(第1の方向)へ伸延する凹部としての直線状の斜め右上がりスクラッチライン(第1の凹溝)が互いに略平行に複数形成され、この斜め右上がりスクラッチラインと交叉させて(本実施形態では略直交させて)、正面視において上下方向に対し略45度の傾きで右下がり方向(第2の方向)へ伸延する凹部としての直線状の斜め右下がりスクラッチライン(第2の凹溝)が互いに略平行に複数形成され、これら凹溝群により斜め方向へのクロススクラッチライン加工が施された状態となっている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面を斜めクロススクラッチライン表面T12と称する。
【0111】
斜めクロススクラッチライン表面T12の検鏡像やけがき加工の方法、メッキの後先、内側表面のみの形成等については、前述の縦横クロススクラッチライン表面T11と同様であるため、説明を割愛する。
【0112】
本実施例に係る気泡生成用電極B12について、斜めクロススクラッチライン表面T12の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=2.82であった。また、スクラッチ加工は後加工としたため、白金被覆率は81%であった。
【0113】
(2-13)実施例13
図12(a)に、実施例13に係る気泡生成用電極B13の正面図を示す。気泡生成用電極B13は、折畳み電極A13と、同折畳み電極A13に介装された介装電極板12とで構成している。
【0114】
気泡生成用電極B13は、陰極(水素発生極)として機能する折畳み電極A13の内側表面と外側表面に、複数の不定形状の凹部が形成され、この凹部群により所謂梨地加工が施された状態となっている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面を梨地表面T13と称する。
【0115】
図12(b)は、梨地表面T13の検鏡像(×160)を示している。ここで梨地とは、機械的又は化学的な処理により表面に複数の不定形状の微細な凹凸を均一に形成させた無方向性のつや消し仕上げ(梨地仕上)の加工が施された面であり、例えば、 JIS H 0201 303や JIS H 0201 304の梨地仕上を含む。梨地仕上の機械的な加工の典型的な方法は、所定の凹凸パターンが形成されたロール状あるいは平板上の金型でプレス加工することにより、該梨地状の凹凸パターンを電極表面に転写する方法などがある。化学的な加工の典型的な方法は、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸などの酸など、金属を溶解する液体に浸漬することにより、表面に微細な凹部を形成する、いわゆるエッチング法などがある。
【0116】
この梨地仕上加工は、既に白金メッキが施された内外側表面に対して梨地仕上加工を行うこと(後加工)も可能であるし、白金メッキが施されていない原料金属板又は電極板連結体13の内外側表面に対して梨地仕上加工を行い、その後白金メッキを施して気泡生成用電極B13とすることも可能である(先加工)。特に後加工を行う場合には、梨地表面T13を含む内側表面及び外側表面に61%を越える被覆率で白金メッキが残留するように当該梨地仕上加工を施すことにより、低電力で白濁気泡の発生が可能でありながら、耐久性に極めて優れた気泡生成用電極B13とすることができる。
【0117】
その他、梨地表面T13の内側表面のみの形成等については、前述の各実施例と同様であるため、説明を割愛する。
【0118】
本実施例に係る気泡生成用電極B13について、梨地表面T13の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=7.71であった。また、梨地仕上加工は先加工としたため、白金被覆率は100%であった。
【0119】
(2-14)実施例14
図13(a)に、実施例14に係る気泡生成用電極B14の正面図を示す。気泡生成用電極B14は、折畳み電極A14と、同折畳み電極A14に介装された介装電極板12とで構成している。
【0120】
気泡生成用電極B14は、陰極(水素発生極)として機能する折畳み電極A14の内側表面と外側表面に、複数の点状(ドット状)の凹部が形成され、この凹部群によりドット加工が施された状態となっている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面をドット表面T14と称する。
【0121】
図13(b)は、ドット表面T14の検鏡像(×160)を示している。ここでドット状凹部は、
図13(a)にて示すように整列していても良いが、
図13(b)の如くランダムに形成されていても良い。ドット状の凹部の典型的な形成方法としては、先端の鋭利な硬質の金属や鉱物などの針状の工具あるいはその結束体にて、折畳み電極の内側表面や外側表面に打痕を形成する方法や、所定のドット状の凹凸パターンが形成されたロール状あるいは平板上の金型で表面にプレス加工することにより、該凹凸パターンを転写する方法などがある。
【0122】
このドット加工は、既に白金メッキが施された内外側表面に対して行うこと(後加工)も可能であるし、白金メッキが施されていない内外側表面に対してドット加工を行い、その後白金メッキを施して気泡生成用電極B14とすることもできる(先加工)。特に後加工を行う場合は、ドット表面T14を含む内側表面及び外側表面に61%を越える被覆率で白金メッキが残留するように当該ドット加工を施すことにより、低電力で白濁気泡の発生が可能でありながら、耐久性に極めて優れた気泡生成用電極B14とすることができる。
【0123】
その他、ドット表面T14の内側表面のみの形成等については、前述の各実施例と同様であるため、説明を割愛する。
【0124】
本実施例に係る気泡生成用電極B14について、ドット表面T14の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=1.50であった。また、ドット加工は後加工としたため、白金被覆率は95%であった。
【0125】
(2-15)実施例15
図14に、実施例15に係る気泡生成用電極B15の正面図を示す。気泡生成用電極B15は、折畳み電極A15と、同折畳み電極A15に介装された介装電極板12とで構成している。
【0126】
気泡生成用電極B15は、陰極(水素発生極)として機能する折畳み電極A15の内側表面と外側表面に、上下方向へ伸延する凹部としての波線状の凹溝が略平行に複数形成され、この凹溝群により凹凸加工が施された状態となっている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面を上下波線表面T15と称する。
【0127】
この上下波線表面T15を形成する凹凸加工は、鋭利な先端を所定の間隔で複数有する、いわゆるのこぎりの刃のような工具を用い、これを進行方向に対して垂直に往復させながら表面を引掻くことにより、当該上下波線表面の凹溝を形成することが可能である。
【0128】
上下波線表面T15のメッキの後先、内側表面のみの形成等については、前述の上下ヘアライン表面T1と同様であるため、説明を割愛する。
【0129】
本実施例に係る気泡生成用電極B15について、上下波線表面T15の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=13.2であった。また、凹凸加工は後加工としたため、白金被覆率は75%であった。
【0130】
(2-16)実施例16
図15に、実施例16に係る気泡生成用電極B16の正面図を示す。気泡生成用電極B16は、折畳み電極A16と、同折畳み電極A16に介装された介装電極板12とで構成している。
【0131】
気泡生成用電極B16は、陰極(水素発生極)として機能する折畳み電極A16の内側表面と外側表面に、左右方向へ伸延する凹部としての波線状の凹溝が略平行に複数形成され、この凹溝群により凹凸加工が施された状態となっている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面を左右波線表面T16と称する。
【0132】
左右波線表面T16の凹凸加工の方法、メッキの後先、内側表面のみの形成等については、前述の上下波線表面T15と同様であるため、説明を割愛する。
【0133】
本実施例に係る気泡生成用電極B16について、上下波線表面T16の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=11.7であった。また、凹凸加工は後加工としたため、白金被覆率は72%であった。
【0134】
(2-17)実施例17
図16に、実施例17に係る気泡生成用電極B17の正面図を示す。気泡生成用電極B17は、折畳み電極A17と、同折畳み電極A17に介装された介装電極板12とで構成している。
【0135】
気泡生成用電極B17は、陰極(水素発生極)として機能する折畳み電極A17の内側表面と外側表面に、サンドブラスト加工が施されており、同加工に由来する複数の凹部が形成されている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面をブラスト表面T17と称する。
【0136】
ブラスト表面T17は、サンドブラスト加工用の微粒子を空気圧などにより加工対象となる金属板や電極板連結体13の表面に対して連続的に衝突させることで形成することが可能である。
【0137】
なお、その他ブラスト表面T17のメッキの後先、内側表面のみの形成等については、前述の上下ヘアライン表面T1と同様であるため、説明を割愛する。
【0138】
本実施例に係る気泡生成用電極B17について、ブラスト表面T17の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=4.33であった。また、サンドブラスト加工は先加工としたため、白金被覆率は100%であった。
【0139】
(2-18)実施例18
実施例18に係る気泡生成用電極B18は、折畳み電極A18と、同折畳み電極A18に介装された介装電極板12とで構成しており、前述した気泡生成用電極B1と同様に、陰極(水素発生極)として機能する折畳み電極A18の内側表面と外側表面に、上下方向へ伸延する凹部としての直線状の凹溝が略平行に複数形成され、この凹溝群により所謂ヘアライン加工が施された状態となっている点で共通するが、同ヘアライン加工を白金メッキの後に行っている点(後加工としている点)で異なっている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面を上下ヘアライン後加工表面T18と称する。
【0140】
本実施例に係る気泡生成用電極B18について、上下ヘアライン後加工表面T18の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=2.68であった。また、研磨加工は後加工としたため、白金被覆率は61%であった。
【0141】
(2-19)実施例19
実施例19に係る気泡生成用電極B19は、折畳み電極A19と、同折畳み電極A19に介装された介装電極板12とで構成しており、前述した気泡生成用電極B18と大凡同様の構成としているが、白金被覆率が異なっている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面を上下ヘアライン後加工表面T19と称する。
【0142】
本実施例に係る気泡生成用電極B19について、上下ヘアライン後加工表面T19の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=2.34であった。また、研磨加工は後加工であり、白金被覆率は66%であった。
【0143】
(2-20)実施例20
実施例20に係る気泡生成用電極B20は、折畳み電極A20と、同折畳み電極A20に介装された介装電極板12とで構成しており、前述した気泡生成用電極B1と同様に、陰極(水素発生極)として機能する折畳み電極A20の内側表面と外側表面に、上下方向へ伸延する凹部としての直線状の凹溝が略平行に複数形成され、この凹溝群により所謂ヘアライン加工が施された状態となっている点で共通するが、同ヘアライン加工の加工強度を強く、すなわち、凹溝の深さをより深くしている点で異なっている。なお、説明の便宜上、当該加工が施された表面を上下ヘアライン加工(強)表面T20と称する。
【0144】
本実施例に係る気泡生成用電極B19について、上下ヘアライン加工(強)表面T20の二乗平均平方根高さを求めた結果、Rq=20.0であった。また、研磨加工は先加工としたため、白金被覆率は100%であった。
【0145】
〔3.白濁気泡発生試験〕
次に、上述してきた気泡生成用電極B1~B20を用い、白濁気泡の発生試験を行った。具体的には、
図17(a)に示すように、各実施例にて示した気泡生成用電極Bを装着した浴用水素発生装置Fを水槽内に配置し、電力を供給して白濁気泡Gを発生させ、その濁り具合を目視観察することで発生の状況を確認した。
【0146】
浴用水素発生装置Fは、水中投入型装置である。
図17(b)に示すように、本体部20と、下カバー21と、上カバー22とで構成しており、本体部20の上面には気泡生成用電極Bを装着して通電することにより水素気泡(白濁気泡G)の発生を可能としている。発生した水素は、上カバー22に設けた拡散口22aより水中へ放散される。
【0147】
本試験は、水槽に収容した約40℃で20L(導電率約150μS/cm)の水中に浴用水素発生装置Fを沈降させ、電解を開始してから5分後に目視観察することで行った。
【0148】
図18は、本試験における目視観察の判定基準の説明図である。
図18(a)は、試験開始後5分経過した状態の水槽を示している。浴用水素発生装置Fに装着されたこの気泡生成用電極Bは白濁気泡Gを効率良く発生させており、上面から見た状態では、水面から浴用水素発生装置Fの上部まで約20cmの深さがあるところ、浴用水素発生装置Fは殆ど目視観察できない状態である。本試験においては、このような状態を「◎」として評価した。
【0149】
一方、
図18(b)は、同じく試験開始後5分経過した状態の水槽を示しているが、浴用水素発生装置Fに装着された、上記とは別のこの気泡生成用電極Bは、白濁気泡Gを発生させることは可能であるもののあまり効率は良くなく、上面からの観察において浴用水素発生装置Fの目視観察が可能である。本試験においては、このような状態を「△」として評価した。
【0150】
また、
図18(b)の状態「△」よりは白濁気泡Gが多く見られるものの、
図18(a)の状態「◎」ほどは浴用水素発生装置Fの目視観察が困難ではない状態、すなわち、「◎」と「△」との大凡中間の状態を「○」として評価した。
【0151】
また、
図18(b)の状態(△)よりも白濁気泡Gの発生量が少ない状態は、「×」として評価した。これらの評価のうち、「◎」と「○」の評価を得た気泡生成用電極Bは、白濁気泡を効率的に発生できる気泡生成用電極とした。表1に気泡生成用電極B1~気泡生成用電極B20の試験結果を示す。
【表1】
【0152】
表1からも分かるように、本実施形態に係る気泡生成用電極B、すなわち、実施例1~実施例20に係る気泡生成用電極B1~B20は、いずれも白濁気泡を効率的に発生できる気泡生成用電極であることが確認された。
【0153】
また、二乗平均平方根高さ(Rq)については、実施例14を参照すると、Rq=1.5においても良好な白濁気泡Gの発生が確認されており、実施例20を参照するとRq=20.0においても良好な白濁気泡Gの発生が確認されていることから、効率的に白濁気泡Gを発生させるためには、1.5≦Rq≦20.0であるのが望ましいと考えられた。
【0154】
また、白金被覆率については、実施例18を参照すると、61%の被覆率においても良好な白濁気泡Gの発生が確認されており、これと同様の構成とした実施例19では66%の被覆率で更に良好な白濁気泡Gの発生が確認された。併せて、他の実施例においても被覆率61%以上~100%以下において、比較的良好な発生が確認されている。従って、効率的に白濁気泡Gを発生させるためには、被覆率を61%~100%、また実施例18及び実施例19との関係を勘案すれば、より好ましくは白金被覆率の高い66%~100%とすべきであると考えられた。
【0155】
また本試験では、比較検討を行うべく、4つの比較用電極についても同様の試験に供した。1つ目は折畳み電極Aの内側表面と外側表面に、凹部形成の加工を施していない電極である。以下、この電極をノーマル電極と称し、同電極の表面をノーマル表面H1と称する。
【0156】
2つ目は、折畳み電極Aの内側表面と外側表面に弱いブラスト加工を施した、Rqの値が1.5を下回る電極である。ブラスト加工は先加工としたため、白金被覆率は100%である。この電極をブラスト弱加工電極と称し、同電極の表面をブラスト弱加工表面H2と称する。
【0157】
3つ目は、折畳み電極Aの内側表面と外側表面に粗い梨地加工を施した、Rqの値が20を上回る電極である。梨地加工は先加工としたため、白金被覆率は100%である。この電極を粗梨地電極と称し、同電極の表面を粗梨地表面H3と称する。
【0158】
4つ目は、メッキ処理後に後加工で折畳み電極Aの内側表面と外側表面に対しブラスト加工を施すことで、61%を下回る白金被覆率とした電極である。この電極を後加工ブラスト電極と称し、同電極の表面を後加工ブラスト表面H4と称する。表2に比較用電極H1~H4の試験結果を示す。
【表2】
【0159】
表2からも分かるように、比較例1~4のいずれにおいても、効率的な白濁気泡の発生は確認することができなかった。
【0160】
特に、二乗平均平方根高さについては、比較例1や比較例2においてそれぞれ1.5を下回る値であり、比較例3では20.0を上回る値となっており、白濁気泡Gの発生効率が低下している。比較例1や比較例2のように二乗平均平方根高さRqが1.5μmを下回る小さい値であると、発生する気泡が小さすぎることにより、気泡が短時間で圧壊することにより消滅してしまう。また、比較例3のように20.0μmを上回る大きい値であると、発生する気泡が大きすぎてただちに水面に浮上してしまい、いずれも水中を長時間に亘り浮遊して白濁する気泡とはならないことによると考えられる。
【0161】
また、白金被覆率に関し比較例4を参照すると、61%を下回る55%では基板に用いたチタンの露出部が多く、その酸化被膜の形成により電気分解にかかる電力が上昇し気泡の発生自体が減少してしまうため、白濁気泡Gの発生は良好とは言い難い状況であった。
【0162】
〔4.梨地表面をベースとした表面形成〕
次に、前述の梨地表面をベースとした気泡生成用電極の表面形成について説明する。前述の実施例1~8などに示すヘアラインやスクラッチといった表面処理は、形成された凹部や凹部群が電極板の表面にて所定の方向性(指向性)をもって異方的に形成されるのに対し、実施例13に示した梨地処理や実施例17に示したブラスト処理により形成された表面は、所定の方向性を持っておらず等方的である。気泡生成用電極において、このような等方的な表面は均一な気泡の生成を行わせる上で有利な構成であり、梨地加工表面やブラスト加工表面は、良好な気泡発生表面の一つである。
【0163】
また梨地加工表面のうち、エッチングによって得られる梨地加工表面(以下、エッチング梨地表面ともいう。)は、エッチング深さが深いほど(凹部による振幅が大きいほど)気泡発生量は増大する傾向が見られる。
【0164】
したがって、エッチング梨地表面は、エッチング処理時間を調整することで、気泡発生量を比較的容易にコントロールできる表面であると言える。
【0165】
しかし、エッチング深さの増大は、径が100μmを上回るような通常の気泡の発生量の増加も招く。
【0166】
そこで本項では、エッチング加工表面をベースに、白濁気泡発生に好適な粗度を持ちつつ、かつ白金メッキ膜が十分な付着力を持つ電極表面を形成できるよう制御可能な気泡生成用電極の表面形成方法を提供する。
【0167】
このような表面加工方法として、ここでは、表面に複数の凹部よりなる凹部群を備えた気泡生成用電極の表面形成方法であって、エッチング加工により前記表面の凹部群を梨地状とし、次いでこの梨地状とした部位に対しブラスト加工を更に施して同部位の二乗平均平方根高さRqの値を1.5~20.0μmとすることとしている。
【0168】
気泡生成用電極の素材としてチタンやチタン合金を採用した場合には、その化学的なエッチング方法として、例えば日本国の特許第4535232号にも示されるように、フッ酸-硝酸混合液で処理する方法やフッ酸-過酸化水素混合液、過酸化水素-アンモニア水-エチレンジアミン四酢酸(塩)混合液、過酸化水素-リン酸塩混合液で処理する方法を採用することができる。
【0169】
ブラスト加工処理は、投射材(研磨剤やメディアなどとも称される。)を噴射し対象物に衝突させて表面を処理する加工法である。投射材の材質には、金属系・スラグ系・天然石砂系・ガラス系・プラスチック系・植物系などがある。目的とする対象物の表面処理に合わせ、投射材の材質、形状、粒度の選択、そして投射条件により、粗度など表面の状態をコントロールすることができる。
【0170】
また一般に、ブラストはその条件次第で表面を粗化したり、逆に凹凸を減少させて平滑化することも可能である。たとえば、鋭角な部分を有するグリッド系投射材は、対象物表面の凸凹を増加させることができる。一方、丸い球状のショット系と呼ばれる投射材によれば、ブラスト処理によって表面を平滑化することができる。
【0171】
特に本実施形態では、ブラスト加工に使用する投射材として丸い球状のショット系のものを採用し、エッチング加工後の梨地状表面の二乗平均平方根高さRqの値を小さくするようにしている。
【0172】
このような構成とすることにより、エッチング加工された表面からの白濁気泡の発生割合を更に高めることができる。
【0173】
次に、本項の気泡生成用電極の表面形成方法に関し、試験結果を参照しながら更に説明する。
【0174】
具体的には、実施例13の梨地の表面形成に用いた化学エッチングと、実施例17で用いたブラストを組み合わせ、さまざまな等方的凹凸を有する表面を形成する実験を行った。化学エッチングについては凹凸を増加する条件を選択し、ブラストにおいては平滑化する条件を選択し組み合わせた。このように梨地加工やブラスト加工といった等方的な表面処理加工によっていくつかの表面を形成し、気泡発生や白濁気泡の割合との関連を調べた。
【0175】
エッチング処理は、50%フッ酸:水=1:50(体積比)で混合した液を用いた。エッチングの時間は浸漬時間を10分、50分、100分、200分と変化させた。なお以下の説明において、エッチングを10分間行ったものを"Et10min"、50分間行ったものを"Et50min"、100分間行ったものを"Et100min"、200分間行ったものを"Et200min"のように示す。
【0176】
ブラスト処理には丸い球状のショット系投射材として平均粒径50μmのシリカビーズを用い、ショットブラスト加工を施した。ブラスト処理時間は0秒(ブラストなし)、20秒、60秒、120秒と変化させた。なお以下の説明において、ブラスト処理を行っていないものを"Bla0sec"、20秒間行ったものを"Bla20sec"、60秒間行ったものを"Bla60sec"、120秒間行ったものを"Bla120sec"のように示す。
【0177】
エッチング処理時間4種とブラスト処理時間4種のそれぞれの組合せで16種の表面状態の気泡生成用電極を作製した。これらの電極板はすべてエッチング処理加工の後、ブラスト処理加工、その後白金メッキを行った。白金被覆率はすべて100%である。
【0178】
図19は、このようにして形成した気泡生成用電極の各表面を示す説明図である。
図19からも分かるように、エッチングの処理時間が長いほど凹凸の粗さは大きくなる一方、ブラスト加工は処理時間が長くなるに伴って平滑化するのが観察された。
【0179】
また凹凸の状態を表す表面粗度の指標として、二乗平均平方根高さ(Rq)を測定した。二乗平均平方根高さ(Rq)は、表面の凹凸に対して垂直な方向の起伏の程度(ここでは、振幅とも称する。)を表すファクターである。
【0180】
図20に示すように、エッチングの処理時間が長くなるとRqは増大し、凹凸の振幅が大きくなっていることが分かる。また相対的に凹凸は鋭くとがる方向に変化している。それに対し、ブラスト加工では、処理時間に伴いRqは低下し、表面は平滑化した。
【0181】
また詳細は割愛するが、表面の凹凸形状の、電極板の面内方向における起伏のうねりの長さ(以下では周期と表現)を表すファクターとして要素の平均長さ(RSm)を測定したところ、Rq、RSmの値から、エッチングとブラストの組合せにより、各種の振幅と周期の組合せの電極表面を作製することができたことが示された。具体的には、
図19に示した各気泡生成用電極のマトリックスのうち四隅の電極表面、(Et10min、Bla0sec)、(Et10min、Bla120sec)、(E200min、Bla0sec)、(Et200min、Bla120sec)に関し、振幅と周期の状態を、
図21に模式的に示した。このように、電極表面に対して垂直方向の起伏の振幅と、面内方向の周期が調整された電極表面を作製できることが示された。
【0182】
また併せて、各気泡生成用電極の気泡の発生状態を観察し、前述の〔3.白濁気泡発生試験〕と同様の手法にて評価を行った。その結果を
図22に示す。なお、各評価記号の下の値は、各表面のRqの値である。
【0183】
図22に示すように、全般的におおよそ表面粗度の大きいほうが気泡発生が良好な状態にあった。そしてRqの値としては1.5μm以上であると気泡発生が良好であることが確認できた。また、Et100min、Et200minのように深くエッチングを行っておくと、重ねてBla20sec、Bla60secといったブラスト加工を行ってもBla0secと同様に、十分な気泡の発生が確認された。後述のようにブラスト処理によってはチタン基板と白金メッキ皮膜との付着力を強化できるので、このようにエッチングとブラストを組合せることにより。気泡発生と白金メッキ皮膜の付着力が両立する気泡生成用電極を構成することができる。
【0184】
ここまで本項にて言及した事項を踏まえると、気泡生成用電極の表面に対しまずエッチング処理を施すことにより、表面の粗度を高める方向で気泡の発生が増加した。次いで実施したブラスト処理は表面を平滑化する条件であり、気泡の発生に関してはおおよそ低減する傾向が見られた。
【0185】
すなわち今回の実験においては、気泡生成用電極の表面状態として粗度が高いほうが気泡の発生として良好な方向であった。
【0186】
しかし表面の粗度に関しては高すぎても発生する気泡が大きくなりすぎて、ただちに水面に浮上してしまい水中を長時間にわたり浮遊する白濁した気泡とはならない。
【0187】
そこでこの平滑化するブラスト処理を組合わせることによって、表面粗度が高くなり過ぎないようにバランスを計り制御することが有効となる。
【0188】
さらにブラスト処理においては、気泡生成用電極のチタン又はチタン合金基板と白金メッキ皮膜との付着力を強化する重要な働きをもっている。
【0189】
よってこれら、ブラスト処理とエッチング処理を組み合わせることにより、気泡発生に好適な粗度を持ち、かつ白金メッキ皮膜が十分な付着力を持つ電極表面を形成できるよう制御することが可能となる。
【0190】
上述してきたように、本実施形態に係る気泡生成用電極によれば、表面に複数の凹部よりなる凹部群を有し、同凹部による前記表面の二乗平均平方根高さRqが1.5~20.0μmであることを特徴とすることとしたため、電極板を貫通する貫通孔の周縁でなくとも白濁気泡を効率的に発生できる気泡生成用電極を提供することができる。
【0191】
また、本実施形態に係る気泡生成用電極によれば、白濁気泡の発生割合を他の形態の気泡に比して増大させることができ、水中を煙状に漂うミルキーな微細気泡を使用者に視認させ、大量の水素が放出されていることを視覚的に示すこともできる。
【0192】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【0193】
本実施形態では折畳み電極が採用された気泡生成用電極としたが、これに限定されるものではなく、あらゆる形状の電極を採用することができる。
【0194】
すなわち、本発明は電極そのものの躯体構造よりも、電極の表面形状を特徴とするものである。但し、出願人が本発明を権利化するにあたり、電極の種類や構造を本発明の構成要素として主張することを妨げるものではない。
【符号の説明】
【0195】
10 電極積層部
11a 導通棒
11b 導通棒
12 介装電極板
12a 孔
13 電極板連結体
14 電極板部
14a 孔
15 架橋部
20 本体部
21 下カバー
22 上カバー
22a 拡散口
A 折畳み電極
A1~A20 折畳み電極
B 気泡生成用電極
B1~B20 気泡生成用電極
F 浴用水素発生装置
G 白濁気泡
T1~T20 表面