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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】涙液分泌促進用眼科組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20241203BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P27/04
A61P27/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021537387
(86)(22)【出願日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2020030231
(87)【国際公開番号】W WO2021025129
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2019145670
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019239605
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100135242
【弁理士】
【氏名又は名称】江守 英太
(72)【発明者】
【氏名】高井 良宏
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 孝弘
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-046470(JP,A)
【文献】国際公開第2011/013785(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/006968(WO,A1)
【文献】中村雅胤,ドライアイ研究の最前線,日薬理誌,2010年,135,第138-141頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-[(3S,4R)-3-メチル-6-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-1,6-ジアザスピロ[3.4]オクタン-1-イル]-3-オキソプロパンニトリル又はその塩を含有する、涙液分泌促進用眼科組成物。
【請求項2】
角結膜上皮障害を改善するために用いられる、請求項1に記載の眼科組成物。
【請求項3】
ドライアイを改善するために用いられる、請求項1に記載の眼科組成物。
【請求項4】
3-[(3S,4R)-3-メチル-6-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-1,6-ジアザスピロ[3.4]オクタン-1-イル]-3-オキソプロパンニトリル又はその塩を含有する、角結膜上皮障害改善用眼科組成物。
【請求項5】
角結膜上皮障害がドライアイに起因する、請求項2又は4に記載の眼科組成物。
【請求項6】
3-[(3S,4R)-3-メチル-6-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-1,6-ジアザスピロ[3.4]オクタン-1-イル]-3-オキソプロパンニトリル又はその塩の含有量が、眼科組成物の総量を基準として、0.01質量%~1質量%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の眼科組成物。
【請求項7】
点眼剤である、請求項1~6のいずれか一項に記載の眼科組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、涙液分泌促進用眼科組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
角結膜上皮障害は、ドライアイ等の内因性疾患、又はコンタクトレンズ装用等による外因性疾患に起因して発生し、流涙、異物感、目の痛み、充血などの症状を呈する疾患である。角結膜上皮障害の治療剤として、角膜上皮の進展促進作用と水分保持作用とを有するヒアルロン酸ナトリウムを含有する点眼剤が上市されている。また、ドライアイの治療剤であるジクアホソルナトリウムが、ラットのドライアイモデルにおいて、涙液の分泌を促進したこと、及び角膜上皮障害を改善したことが報告されている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
他方、ヤヌスキナーゼ(JAK)は、細胞内の免疫活性化シグナル伝達に重要な役割を果たす非受容体型チロシンキナーゼであり、ヤヌスキナーゼ阻害活性を有する薬剤は免疫反応の過剰な活性化を抑制することで、自己免疫疾患やアレルギー性疾患を改善することが期待されている。ここで、ヤヌスキナーゼの阻害作用を有する化合物の一つとして、3-[(3S,4R)-3-メチル-6-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-1,6-ジアザスピロ[3.4]オクタン-1-イル]-3-オキソプロパンニトリル(一般名:デルゴシチニブ)が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/006968号
【非特許文献】
【0005】
【文献】ジクアス点眼液3% 添付文書(2017年11月改訂)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、涙液の分泌を促進することのできる新たな眼科組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、3-[(3S,4R)-3-メチル-6-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-1,6-ジアザスピロ[3.4]オクタン-1-イル]-3-オキソプロパンニトリルが、意外にも涙液の分泌を促進させるとともに、角結膜上皮障害を改善することを見出した。本発明は、この知見に基づくものであり、以下の各発明を提供するものである。
【0008】
[1]
3-[(3S,4R)-3-メチル-6-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-1,6-ジアザスピロ[3.4]オクタン-1-イル]-3-オキソプロパンニトリル又はその塩を含有する、涙液分泌促進用眼科組成物。
[2]
角結膜上皮障害を改善するために用いられる、[1]に記載の眼科組成物。
[3]
ドライアイを改善するために用いられる、[1]に記載の眼科組成物。
[4]
3-[(3S,4R)-3-メチル-6-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-1,6-ジアザスピロ[3.4]オクタン-1-イル]-3-オキソプロパンニトリル又はその塩を含有する、角結膜上皮障害改善用眼科組成物。
[5]
角結膜上皮障害がドライアイに起因する、[2]又は[4]に記載の眼科組成物。
[6]
3-[(3S,4R)-3-メチル-6-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-1,6-ジアザスピロ[3.4]オクタン-1-イル]-3-オキソプロパンニトリル又はその塩の含有量が、眼科組成物の総量を基準として、0.01質量%~1質量%である、[1]~[5]のいずれかに記載の眼科組成物。
[7]
点眼剤である、[1]~[6]のいずれかに記載の眼科組成物。
[8]
3-[(3S,4R)-3-メチル-6-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-1,6-ジアザスピロ[3.4]オクタン-1-イル]-3-オキソプロパンニトリル若しくはその塩、又はそれらを含有する眼科組成物を対象に投与する、涙液の分泌を促進させる方法。
[9]
3-[(3S,4R)-3-メチル-6-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-1,6-ジアザスピロ[3.4]オクタン-1-イル]-3-オキソプロパンニトリル若しくはその塩、又はそれらを含有する眼科組成物を対象に投与する、角結膜上皮障害を改善する方法。
[10]
角結膜上皮障害がドライアイに起因する、[9]に記載の方法。
[11]
涙液分泌促進用眼科組成物の製造のための、3-[(3S,4R)-3-メチル-6-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-1,6-ジアザスピロ[3.4]オクタン-1-イル]-3-オキソプロパンニトリル又はその塩の使用。
[12]
角結膜上皮障害改善用眼科組成物の製造のための、3-[(3S,4R)-3-メチル-6-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-1,6-ジアザスピロ[3.4]オクタン-1-イル]-3-オキソプロパンニトリル又はその塩の使用。
[13]
角結膜上皮障害がドライアイに起因する、[12]に記載の使用。
[14]
涙液分泌の促進に使用するための、3-[(3S,4R)-3-メチル-6-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-1,6-ジアザスピロ[3.4]オクタン-1-イル]-3-オキソプロパンニトリル又はその塩。
[15]
角結膜上皮障害の改善に使用するための、3-[(3S,4R)-3-メチル-6-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-1,6-ジアザスピロ[3.4]オクタン-1-イル]-3-オキソプロパンニトリル又はその塩。
[16]
角結膜上皮障害がドライアイに起因する、[15]に記載の化合物又はその塩。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、涙液の分泌を促進することのできる眼科組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】試験例1において、正常ウサギを用いたデルゴシチニブの単回点眼投与による涙液分泌促進作用を示すグラフである。
図2】試験例2において、正常マウスを用いたデルゴシチニブの単回点眼投与による涙液分泌促進作用を示すグラフである。
図3】(A)は、試験例3において、正常ラットを用いたデルゴシチニブの単回点眼投与による涙液分泌促進作用を示すグラフである。(B)は、試験例3において、涙腺摘出ラットを用いたデルゴシチニブの単回点眼投与による涙液分泌促進作用を示すグラフである。
図4】試験例4において、涙腺摘出ラットを用いたデルゴシチニブの反復点眼投与による涙液量増加作用を示すグラフである。
図5】試験例5において、涙腺摘出ラットを用いたデルゴシチニブの反復点眼投与による角結膜上皮障害改善作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本実施形態に係る眼科組成物は、3-[(3S,4R)-3-メチル-6-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-1,6-ジアザスピロ[3.4]オクタン-1-イル]-3-オキソプロパンニトリル又はその塩を含有する。
【0013】
3-[(3S,4R)-3-メチル-6-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-1,6-ジアザスピロ[3.4]オクタン-1-イル]-3-オキソプロパンニトリル(一般名:デルゴシチニブ)は、以下の式:
【化1】
で表される化合物である(以下、本化合物を「デルゴシチニブ」ともいう)。デルゴシチニブ又はその塩は、例えば国際公開第2017/006968号、国際公開第2018/117151号に記載の方法により製造することができる。
【0014】
デルゴシチニブの塩は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。このような塩として具体的には、無機酸との塩、有機酸との塩、無機塩基との塩、有機塩基との塩、酸性アミノ酸との塩、塩基性アミノ酸との塩などが挙げられる。
【0015】
無機酸との塩は、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などとの塩が挙げられる。有機酸との塩は、例えば、酢酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ステアリン酸、安息香酸、メタンスルホン酸(メシル酸)、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。無機塩基との塩は、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。有機塩基との塩は、例えば、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、メグルミン、N,N-ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。酸性アミノ酸との塩は、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が挙げられる。塩基性アミノ酸との塩は、例えば、アルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が挙げられる。
【0016】
デルゴシチニブ又はその塩は、涙液の分泌を促進させる効果を奏する。したがって、本発明の一実施形態として、デルゴシチニブ又はその塩を含有する、涙液分泌促進用眼科組成物が提供される。また、涙液分泌の促進は角結膜上皮障害の改善における主要な一因であると考えられる。したがって、本発明の一実施形態として、デルゴシチニブ又はその塩を含有する、角結膜上皮障害改善用眼科組成物が提供される。なお、ヤヌスキナーゼの阻害により涙液の分泌が促進されることについては、これまでにまったく報告されていない。
【0017】
本実施形態に係る眼科組成物は、ドライアイ(眼球乾燥症候群)、シェーグレン症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群等の内因性疾患に起因する角結膜上皮障害、又は術後、薬剤性、外傷、コンタクトレンズ装用等による外因性疾患に起因する角結膜上皮障害のいずれにも用いることができる。中でも、本実施形態に係る眼科組成物は、デルゴシチニブ又はその塩を含有することにより涙液の分泌を促進させることから、内因性要因に起因する角結膜上皮障害の改善に用いることが好ましく、ドライアイに起因する角結膜上皮障害の改善に用いることがより好ましい。角結膜上皮障害の原因となるドライアイは、シェーグレン症候群等の自己免疫疾患に起因するドライアイであってもよく、自己免疫疾患以外の要因に起因するドライアイであってもよい。
【0018】
また、本実施形態に係る眼科組成物は、デルゴシチニブ又はその塩を含有することにより涙液の分泌を促進させることから、ドライアイの改善のために用いることもできる。ドライアイは、シェーグレン症候群等の自己免疫疾患に起因するドライアイであってもよく、自己免疫疾患以外の要因に起因するドライアイであってもよい。
【0019】
本実施形態に係る眼科組成物におけるデルゴシチニブ又はその塩の含有量は特に限定されず、他の配合成分の種類及び含有量、製剤形態等に応じて適宜設定される。(A)成分の含有量としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、本実施形態に係る眼科組成物の総量を基準として、デルゴシチニブ又はその塩の総含有量が、0.001質量%~10質量%、0.001質量%~5質量%、0.003質量%~3質量、0.005質量%~1質量%、0.01質量%~0.5質量%、0.015質量%~0.4質量%、0.02質量%~0.3質量%、又は0.03質量%~0.3質量%であってもよい。
【0020】
本実施形態に係る眼科組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、その製剤形態に応じて、常法に従い、種々の添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。
【0021】
本実施形態に係る眼科組成物のpHは、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではない。
【0022】
本実施形態に係る眼科組成物は、例えば、デルゴシチニブ又はその塩、及び必要に応じて他の含有成分を所望の含有量となるように添加及び混和することにより調製することができる。具体的には、例えば、精製水で上記成分を溶解又は懸濁させ、濾過滅菌等により滅菌処理することで調製できる。
【0023】
本実施形態に係る眼科組成物は、目的に応じて種々の剤型をとることができ、例えば、液剤、ゲル剤、半固形剤(軟膏等)等が挙げられる。これらの中でも、液剤が好ましく、水性液剤がより好ましい。
【0024】
本実施形態に係る眼科組成物は、例えば、点眼剤(点眼液又は点眼薬ともいう。また、点眼剤には人工涙液、コンタクトレンズ装用中に点眼可能な点眼剤を含む。)として用いることができる。
【0025】
本実施形態に係る眼科組成物が点眼剤である場合、その用法・用量としては、効果を奏し、副作用の少ない用法・用量であれば特に限定されない。
【0026】
本発明の一実施形態として、デルゴシチニブ若しくはその塩、又はそれらを含有する眼科組成物を対象に投与する、涙液の分泌を促進させる方法が提供される。また、本発明の一実施形態として、デルゴシチニブ若しくはその塩、又はそれらを含有する眼科組成物を対象に投与する、角結膜上皮障害を改善する方法が提供される。
【0027】
本発明の一実施形態として、涙液分泌促進用眼科組成物の製造のための、デルゴシチニブ又はその塩の使用が提供される。また、本発明の一実施形態として、角結膜上皮障害改善用眼科組成物の製造のための、デルゴシチニブ又はその塩の使用が提供される。
【0028】
本発明の一実施形態として、涙液分泌の促進に使用するための、デルゴシチニブ又はその塩が提供される。また、本発明の一実施形態として、角結膜上皮障害の改善に使用するための、デルゴシチニブ又はその塩が提供される。
【実施例
【0029】
以下、試験例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の試験例において、特に記載のない限り、含有量の単位「%」は「w/v%」を意味し、「g/100mL」と同義である。
【0030】
〔試験例1:正常ウサギを用いたデルゴシチニブの単回点眼投与による涙液分泌促進作用〕
正常ウサギを用いてデルゴシチニブの涙液分泌促進作用を評価した。
デルゴシチニブをPBS(コージンバイオ株式会社)に溶解攪拌し、0.05%デルゴシチニブ溶液を調製した。雄性日本白色ウサギ(オリエンタル酵母工業株式会社)を保定管に入れた後、PBS又は0.05%デルゴシチニブ溶液を50μL/eyeの用量で点眼した。15分後にシルメル試験紙を目尻側の結膜嚢に挿入した。1分後に試験紙を抜き取り、試験紙の濡れている部分の長さを測定して、これを涙液量とした。結果を図1に示す。
【0031】
図1に示すとおり、PBS群に比べてデルゴシチニブ溶液群では涙液量が有意に上昇した(Student’s t test)。
【0032】
〔試験例2:正常マウスを用いたデルゴシチニブの単回点眼投与による涙液分泌促進作用〕
正常マウスを用いてデルゴシチニブの涙液分泌促進作用を評価した。
デルゴシチニブをPBS(コージンバイオ株式会社)に溶解攪拌し、各濃度のデルゴシチニブ溶液(0.0125%、0.05%及び0.2%)を調製した。雌性C57BL/6Jマウス(日本エスエルシー株式会社)を保定し、PBS又は各濃度のデルゴシチニブ溶液を3μL/eyeの用量で点眼した。15分後にフェノールレッド糸(ゾーンクイック、あゆみ製薬株式会社)を目尻側の結膜嚢へ挿入した。15秒後にフェノールレッド糸を抜き取り、フェノールレッド糸の濡れている部分の長さを測定して、この測定値を涙液量とした。結果を図2に示す。
【0033】
図2に示すとおり、PBS群に比べて各濃度のデルゴシチニブ溶液群では涙液量が上昇し、特に0.05%及び0.2%群において有意な上昇が確認された(Dunnett’s test)。
【0034】
〔試験例3:正常ラット及び涙腺摘出ラットを用いたデルゴシチニブの単回点眼投与による涙液分泌促進作用〕
正常ラット及び涙腺摘出ラットを用いてデルゴシチニブの涙液分泌促進作用を評価した。
被験物質として、0.05%デルゴシチニブ溶液(精製水中に、有効成分としてデルゴシチニブ、添加物として塩化ナトリウム、塩化カリウム、水酸化ナトリウム、ホウ酸及びクロルヘキシジングルコン酸塩を配合し、溶解攪拌したもの)を調製した。対照物質として、ピロカルピン塩酸塩(東京化成工業株式会社)を生理食塩水(大塚生食注、株式会社大塚製薬工場)に溶解攪拌し、3%ピロカルピン溶液を調製した。
正常の雄性Sprague-Dawley(SD)ラット(日本エスエルシー株式会社)、並びに主涙腺及び副涙腺を摘出して1週間が経過したSDラットに生理食塩水、ジクアス点眼液3%(参天製薬株式会社)、3%ピロカルピン溶液、又は0.05%デルゴシチニブ溶液を5μL/eyeの用量で点眼した。10分後にソムノペンチル(共立製薬株式会社)を用いて麻酔導入し、さらに5分後にシルメル試験紙を目尻側の結膜嚢に挿入した。1分後に試験紙を抜き取り、試験紙の濡れている部分の長さを測定して、この測定値を涙液量とした。結果を図3に示す。
【0035】
図3に示すとおり、正常ラットでは生理食塩水群に比べて、ジクアス点眼液3%群、3%ピロカルピン溶液群及び0.05%デルゴシチニブ溶液群のいずれにおいても涙液量が有意に上昇した(Mann-whitney U test)。一方で、涙腺摘出ラットでは生理食塩水群に比べて、ジクアス点眼液3%群及び0.05%デルゴシチニブ溶液群においてのみ、涙液量が有意に上昇した(Mann-whitney U test)。
【0036】
〔試験例4:涙腺摘出ラットを用いたデルゴシチニブの反復点眼投与による涙液量増加作用〕
ドライアイモデルとして用いられる涙腺摘出ラットを用いてデルゴシチニブの涙液量増加作用を評価した。
デルゴシチニブをPBS(コージンバイオ株式会社)に溶解攪拌し、各濃度のデルゴシチニブ溶液(0.0125%、0.05%及び0.2%)を調製した。
正常の雄性Sprague-Dawley(SD)ラット(日本エスエルシー株式会社)、及び主涙腺を摘出して1週間が経過したSDラットにPBS又は各濃度のデルゴシチニブ溶液を1日4回、5μL/eyeの用量で反復点眼した。点眼開始4週間後、PBS又は各濃度のデルゴシチニブ溶液を5μL/eyeの用量で点眼し、10分後にソムノペンチル(共立製薬株式会社)を用いて麻酔導入し、さらに5分後にシルメル試験紙を目尻側の結膜嚢に挿入した。1分後に試験紙を抜き取り、試験紙の濡れている部分の長さを測定して、この測定値を涙液量とした。結果を図4に示す。
【0037】
図4に示すとおり、PBS群に比べて各濃度のデルゴシチニブ溶液群では涙液量が有意に上昇した。(Steel test)。
【0038】
〔試験例5:涙腺摘出ラットを用いたデルゴシチニブの反復点眼投与による角結膜上皮障害改善作用〕
ドライアイモデルとして用いられる涙腺摘出ラットを用いてデルゴシチニブの角膜上皮障害改善作用を評価した。
フルオレセインナトリウム塩(シグマアルドリッチジャパン)を大塚生食注(株式会社大塚製薬工場)に溶解して10mg/mLのフルオレセイン染色液を調製した。
デルゴシチニブをPBS(コージンバイオ株式会社)に溶解攪拌し、各濃度のデルゴシチニブ溶液(0.0125%、0.05%及び0.2%)を調製した。
主涙腺を摘出して1週間が経過した雄性SDラット(日本エスエルシー株式会社)にPBS又は各濃度のデルゴシチニブ溶液を1日4回、5μL/eyeの用量で反復点眼した。点眼開始4週間後、10mg/mLのフルオレセイン染色液を1μL/eyeの用量で点眼した。イソフルラン吸入麻酔液(ファイザー株式会社)にて麻酔導入を行った後、蛍光顕微鏡(ライカマイクロシステムズ)にて写真撮影を行った。写真に写った角膜を4分割して各箇所の染色スコアを0~5点でスコアリングし、4か所のスコアの合計値をその眼の角膜上皮障害スコアとした。結果を図5に示す。
【0039】
図5に示すとおり、PBS群に比べて各濃度のデルゴシチニブ溶液群では角膜上皮障害スコアが有意に低下した。(Steel test)。
図1
図2
図3
図4
図5