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特許7597715ニオブ酸化合物系ゾル、ゾル塗布膜および膜担持基材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ニオブ酸化合物系ゾル、ゾル塗布膜および膜担持基材
(51)【国際特許分類】
   C01G 33/00 20060101AFI20241203BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C01G33/00 A
C09D1/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021537401
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2020030329
(87)【国際公開番号】W WO2021025144
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2019146758
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】原 周平
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 彰記
(72)【発明者】
【氏名】荒川 泰輝
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-239018(JP,A)
【文献】特開2011-190115(JP,A)
【文献】特開2014-175065(JP,A)
【文献】特開平01-069522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 33/00
C09D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ酸化合物と、
ジルコニウム、及びセリウムから選択される金属の酸化物、並びに、マグネシウム及びカルシウムから選択される金属のフッ化物からなる群より選択される化合物、の少なくとも1種と、
を含むゾルであって、
前記ニオブ酸化合物が、1質量%以上、20質量%以下含まれ、
前記ジルコニウム、及びセリウムから選択される金属の酸化物、並びに、マグネシウム及びカルシウムから選択される金属のフッ化物からなる群より選択される化合物は、前記ニオブ酸化合物との合計量(固形分換算)100質量部に対して、1質量部以上、20質量部以下含まれる、ゾル。
【請求項2】
ニオブ酸化合物と、
酸化珪素と、
ジルコニウム、及びセリウムから選択される金属の酸化物、並びに、マグネシウム及びカルシウムから選択される金属のフッ化物からなる群より選択される化合物、の少なくとも1種と、
を含む、ゾル。
【請求項3】
薄膜形成用である、請求項1または2に記載のゾル。
【請求項4】
ジルコニウム、スズ、亜鉛、珪素、及びセリウムから選択される少なくとも1種の金属の酸化物、並びにマグネシウム、及びカルシウムから選択される少なくとも1種の金属のフッ化物からなる群より選択される化合物の2種以上を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のゾル。
【請求項5】
ゾル中に分散しているコロイド粒子の、動的光散乱法により測定された累積体積90容量%における粒子径(D90)が20nm以上である、請求項1~のいずれか一項に記載のゾル。
【請求項6】
前記ニオブ酸化合物が、0.1質量%以上、50質量%以下含まれる、請求項1または3に記載のゾル。
【請求項7】
アンモニアを更に含む、請求項1~の何れか一項に記載のゾル。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載のゾルを含有する膜。
【請求項9】
請求項に記載の膜を基材表面上に備える、膜担持基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ酸化合物系ゾルに関し、より詳細には、干渉縞の発生が抑制された膜が得られるニオブ酸化合物系ゾル、ゾル塗布膜および膜担持基材に関する。
【背景技術】
【0002】
ニオブ酸化合物は、高屈折率で高い光透過性を有することから機能性薄膜材料として注目されており、オプトエレクトロニクス材料、表面保護材、反射防止材、屈折率調整材への適用が検討されている。ニオブ酸化合物からなる薄膜を作製する手法としては、乾式法と湿式法の二つに大別できる。乾式法としては、スパッタリング法、イオンプレーティング法、原子層蒸着(ALD)法、化学気相蒸着(CVD)法などが挙げられる。また、湿式法としては、ゾル-ゲル法、有機金属塗布分解(MOD)法などが挙げられる。
【0003】
乾式法では、一般的に大型の真空装置など設備を要するのに対して、湿式法では、そのような設備を必要としない点で安価に薄膜を形成できるといった利点がある。また、一般的に、大面積の薄膜を形成するには乾式法よりも湿式法の方が優れているといわれている。
【0004】
湿式法によりニオブ酸化合物薄膜を形成する場合は、一般的にニオブのアルコキシドやニオブゾルが使用されるが、ニオブのアルコキシドは非常に分解し易く取り扱いが困難である。そのため、各種のニオブゾルが提案されている。一例として、過酸化水素を用いたペルオキシニオブ酸ゾル(特許文献1等)、シュウ酸やクエン酸により安定化したニオブゾル(特許文献2等)、ニオブ酸化合物を電気分解によって作製したゾル(特許文献3等)、ニオブ化合物をフッ酸等に溶解させた水溶液とアンモニア水溶液とを反応させて得られるニオブ酸アンモニウムゾル(特許文献4等)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-81378公報
【文献】特開2005-200235号公報
【文献】特開平5-222562公報
【文献】特開2011-190115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したようなゾルから薄膜は、通常、ガラス等の基材の表面にゾルを塗布し、塗布膜を加熱乾燥することにより得られる。しかしながら、得られた薄膜には干渉縞が生じることがあり、美観等の膜品質に問題があった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、干渉縞の発生が抑制された膜が得られるニオブ酸化合物系ゾルを提供することである。また、本発明の別の目的は、上記ニオブ酸化合物系ゾルの塗布膜およびそれを用いた膜担持基材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは今般、ニオブ酸化合物に、特定の酸化物またはフッ化物を添加したゾルを用いることにより、得られる膜において干渉縞の発生を抑制できるとの知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0009】
本発明によるゾルは、
ニオブ酸化合物と、
ジルコニウム、スズ、亜鉛、及びセリウムから選択される金属の酸化物、並びに、マグネシウム及びカルシウムから選択される金属のフッ化物からなる群より選択される化合物、の少なくとも1種と、
を含むものである。
【0010】
また、本発明の別の実施態様によれば、上記ゾルを含有する膜も提供される。
【0011】
さらに、本発明の別の実施態様によれば、上記膜を基材表面上に備える、膜担持基材も提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ニオブ酸化合物と特定の酸化物またはフッ化物とを含むゾルとすることにより、当該ゾルから得られる膜の干渉縞の発生を抑制することができる。当該膜は、半導体デバイスやオプティカルデバイスにおける透明導電膜、高誘電率膜、絶縁膜、反射防止膜、ハードコート層、光触媒性部材等に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ニオブ酸化合物系ゾル>
本発明のゾルについて説明する。本発明のゾルは、ニオブ酸化合物と、少なくとも1種の特定の酸化物またはフッ化物とを含むものである。ニオブ酸化合物ゾルとしては、公知のニオブ酸化合物ゾルを使用することができる。なお、本発明において「ゾル」とは、粒子が分散媒に分散しているものをいうが、ゾルを用いて膜形成を行った場合には、膜が分散媒を含有するゲルになったものや、分散媒を含有しないキセロゲルになったものも包含する概念として定義される。また、「ニオブ酸化合物」とは、酸化ニオブ(Nb)、水酸化ニオブ、ニオブのポリ酸を含むものとする。
【0014】
上記した公知のニオブ酸化合物ゾルは、ゾルを用いて膜形成を行った場合に得られる膜の干渉縞が生じる場合があった。干渉縞はニオブ酸化合物の高い屈折率に起因すると考えられる。本発明においては、この高い屈折率を維持しながら、特定の酸化物またはフッ化物をニオブ酸化合物ゾルに添加することにより、ゾルから得られる膜の干渉縞の発生を抑制することができたものである。この理由は明らかではないが、ニオブ酸化合物は、表面電荷として負電荷を有していることが知られており、特定の酸化物またはフッ化物を添加することでゾルの電位が変化し、膜特性に何らかの影響を与えているものと考えられる。
【0015】
本発明のゾルに使用されるニオブ酸化合物ゾルは、ニオブ酸を主たる成分とする微粒子が分散媒に分散してなるものである。ニオブ酸微粒子中の主たる成分はニオブ酸であり、好ましくは、非晶質の酸化ニオブ、水酸化ニオブ、ニオブのポリ酸等が挙げられる。
【0016】
ニオブ酸微粒子は、その表面にアンモニアが強く結合あるいは吸着することが知られている。本発明のゾル中には任意の成分としてアンモニアを含有してもよい。アンモニアを含有するとは、アンモニア(NH)がゾル中に含む形態以外にも、ニオブとアンモニウム部位(NH4+)とを含むアンモニウム塩の形態であってもよい。アンモニウム塩の好ましい例としては、(NHNb(O、(NHNb(Oなどが挙げられ、これらの化合物のうちの1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0017】
上記したニオブ酸化合物ゾルは従来公知の方法により製造することができ、例えば、フッ酸、またはフッ酸と硫酸の混酸にニオブ化合物を溶解させた水溶液と、アンモニア水溶液とを、pHを8以上に維持しつつ混合、反応させてニオブ酸微粒子を含有する分散液を得た後、固液分離および必要に応じて洗浄を行い固形分である析出物を単離し、得られたニオブ酸化合物を分散媒に分散させることによりニオブ酸化合物ゾルを得ることができる。
【0018】
本発明において、上記したニオブ酸化合物ゾルに添加される酸化物は、ジルコニウム、スズ、亜鉛、セリウムから選択される少なくとも1種の金属の酸化物である。酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化セリウムの少なくとも1種をニオブ酸化合物ゾルに添加することにより、ゾルから得られる膜の干渉縞を抑制することができる。また、ニオブ酸化合物ゾルに添加されるフッ化物としては、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウムが挙げられる。これら酸化物およびフッ化物は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
さらに、本発明においては、上記した特定の酸化物またはフッ化物から選択される1種以上の化合物と酸化珪素とが含まれていることが好ましい。ニオブ酸化合物ゾルに酸化珪素を添加しただけでは、ゾルから得られる膜の干渉縞は改善されないが、上記した特定の酸化物またはフッ化物と併用して酸化珪素が含まれていることにより、より一層、干渉縞のない膜を得ることができることは予想外であった。
【0020】
ニオブ酸化合物ゾルに添加される酸化物またはフッ化物の配合量は、ニオブ酸化合物と酸化物またはフッ化物の合計量(固形分換算)100質量部に対して、0.1質量部以上、40質量部以下であることが好ましく、1質量部以上、20質量部以下であることがより好ましく、3質量部以上、15質量部以下であることが更に好ましい。酸化物またはフッ化物の配合量が少なすぎると、ゾルから得られる膜の干渉縞の抑制が不十分となる場合がある。一方、酸化物またはフッ化物の配合量が多くなり過ぎると、ニオブ酸化合物からなる膜特有の性質(例えば、高屈折率等)が損なわれる場合がある。なお、上記した酸化物、フッ化物、酸化珪素はゾルの形態で、ニオブ酸化合物ゾルに添加されてもよい。その場合の配合量は、ゾル中の固形分量である。
【0021】
上記したニオブ酸化合物ゾルに特定の酸化物またはフッ化物を添加したゾルにおいて、分散媒中に分散している分散粒子(コロイド粒子)の粒子径は特に制限されるものではないが、典型的には粒子径(D90)が1000nm以下であり、好ましくは500nm以下である。分散粒子の粒子径が大きくなると、得られる膜の平滑性が低下するとともに、光散乱により膜の透明性が損なわれる場合がある。また、ゾル中に分散している分散粒子の粒子径(D90)は20nm以上であることが好ましい。コロイド粒子の粒子径(D90)が20nm未満であるとゾルの安定性が低下するとともに、ゾルから膜を形成する際の基材に対する膜の密着性や強度が低下する。なお、粒子径(D90)とは、動的光散乱法により測定された累積体積90容量%における体積累積粒径(D90)を意味する。
【0022】
また、ニオブ酸化合物ゾルに特定の酸化物またはフッ化物を添加したゾルにおいて、分散粒子の含有量は、上限値として、ゾル全体に対して70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。また、下限値として、ゾル全体に対して0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。
【0023】
本発明のニオブ酸化合物ゾルは、分散媒として水および有機溶媒のいずれも使用することができるが、ゾル中での分散粒子の安定の観点からは、水、親水性溶媒または水と親水性溶媒の混合物を好適に使用することができる。また、分散媒には、分散媒に可溶な公知の添加剤が含まれていてもよい。親水性溶媒として、アルコール類、エステル類、エーテル類、およびケトン類等が挙げられる。アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、イソブチルアルコール、2-ブタノール、ヘキサノール、ブチルカルビトール、1-メトキシ-2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ペンタエリトリトール、ソルビトール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール等が挙げられる。
【0024】
エステル類としては、例えばギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸イソプロピルなどのギ酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピルなどの酢酸エステル、γ-ブチロラクトンなどの環状エステル等が挙げられる。
【0025】
エーテル類としては、例えばジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、シクロペンチルエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,3-プロパンジオールジメチルエーテル、1,2-ブタンジオールジメチルエーテル、1,3-ブタンジオールジメチルエーテル、1,4-ブタンジオールジメチルエーテル、2,3-ブタンジオールジメチルエーテル、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸2-メトキシエチル、酢酸3-メトキシプロピル等が挙げられる。
【0026】
ケトン類としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、イソプロピルメチルケトン、tert-ブチルメチルケトン、アセチルアセトン、ジアセチル、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0027】
また、本発明のニオブ酸化合物ゾルには、製膜材料として使用される公知の添加剤が含まれていてもよく、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、増粘剤、レオロジー調整剤等を添加することができる。
【0028】
レベリング剤としては、フッ素系界面活性剤、シリコーン、有機変性ポリシロキサン、アクリル樹脂、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸sec-ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
消泡剤としては、シリコーン、界面活性剤、ポリエーテル、高級アルコール、グリセリン高級脂肪酸エステル、グリセリン酢酸高級脂肪酸エステル、グリセリン乳酸高級脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸高級脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸高級脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸高級脂肪酸エステル、グリセリン酢酸エステル、ポリグリセリン高級脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
増粘剤としては、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、水添加ヒマシ油、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、オクチル酸アルミニウム、脂肪酸アマイド、酸化ポリエチレン、デキストリン脂肪酸エステル、ジベンジリデンソルビトール、植物油系重合油、表面処理炭酸カルシウム、有機ベントナイト、シリカ、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ソーダ、カゼイン、カゼイン酸ソーダ、キサンタンゴム、ポリエーテルウレタン変性物、ポリ(アクリル酸-アクリル酸エステル)、モンモリロナイト等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
レオロジー調整剤としては、酸化ポリオレフィンアマイト、脂肪酸アマイド系、酸化ポリオレフィン系、ウレア変性ウレタン、メチレンジイソシアナト、トリメチレンジイソシアナト、テトラメチレンジイソシアナト、ヘキサメチレンジイソシアナト、ω,ω’-ジプロピルエーテルジイソシアナト、チオジプロピルジイソシアナト、シクロヘキシル-1,4-ジイソシアナト、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアナト、1,5-ジメチル-2,4-ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、1,5-ジメチル-2,4-ビス(ω-イソシアナトエチル)ベンゼン、1,3,5-トリメチル-2,4-ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、1,3,5-トリエチル-2,4-ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
本発明のゾルは、上記したような溶媒や添加剤を含む場合であっても、ニオブ酸化合物が0.1質量%以上、50質量%以下含まれることが好ましく、より好ましくは1質量%以上、20質量%以下含まれることが好ましい。ニオブ酸化合物の含有量が少なすぎると製膜してもニオブ酸化合物膜が形成されにくくなる。一方、ゾル中のニオブ酸化合物の含有量が多くなり過ぎると、コロイド粒子の安定性が損なわれる場合がある。
【0033】
本発明のゾルは、ニオブ酸化合物粒子と、上記した少なくとも1種の特定の酸化物またはフッ化物の粒子と、分散媒とを混合することにより調製することができる。その際、ニオブ酸化合物のゾル(即ち、ニオブ酸化合物粒子および分散媒とからなるゾル)と、特定の酸化物またはフッ化物のゾル(即ち、特定の酸化物またはフッ化物粒子と分散媒とからなるゾル)とを混合することにより調製してもよいし、ニオブ酸化合物粒子と特定の酸化物またはフッ化物粒子と分散媒とを混合し、粒子を粉砕することにより調製してもよい。また、ニオブ酸化合物のゾルに、特定の酸化物またはフッ化物粒子および必要に応じて分散媒を添加し、混合および粉砕することにより調製してもよいし、特定の酸化物またはフッ化物ゾルに、ニオブ酸化合物粒子および必要に応じて分散媒を添加し、混合および粉砕することにより調製してもよい。
【0034】
粒子を粉砕する際に使用される粉砕手段としては、湿式で微粉砕可能な粉砕装置、例えばビーズミル等の媒体撹拌ミルが挙げられる。粉砕装置に使用する粉砕媒体の材質としては、ガラス、アルミナ、ジルコン、ジルコニア、スチール等が挙げられるが、これらのなかでも、密度が比較的大きく粉砕力が大きいことおよび鉄の汚染がないことからジルコニアを好適に使用することができる。
【0035】
粉砕媒体の形状に特に制限はないが、均一な微粉化の観点から略球状の粉砕媒体を好適に使用することができる。粉砕媒体の大きさも特に制限はないが、安定的なゾルが得られる観点から、形状が球状の場合は、直径が0.5mm以下であることが好ましく、0.2mm以下であることがより好ましく、0.1mm以下であることが特に好ましい。また、ゾルと粉砕媒体との分離が容易であるという観点から、粉砕媒体の大きさの下限値は、0.02mm以上であることが好ましく、0.03mm以上であることがより好ましい。
【0036】
ゾルを調製する際、分散媒を含めた各成分の配合量を適宜調整することにより、分散粒子の含有量を上記した範囲とすることができる。ゾルの濃度調整は、分散媒の配合量により行ってもよい。例えば、所望の濃度よりも高い濃度のゾルを作製しておき、当該ゾルに分散媒を添加、混合することによって、所望の濃度に調整することができる。また、分散媒によってゾルの濃度を調整する場合は、追加の分散媒は、ゾル中の分散媒と同一であってもよく異なっていてもよい。
【0037】
<ゾルを含有する膜>
上記した本発明のゾルは、基材の表面に塗布することで製膜することができる。なお、得られた膜は、ゾルの状態から分散媒を含むゲルの状態や分散媒を含有しないキセロゲルの状態に変化したものであってもよい。製膜方法としては、湿式法による膜作製プロセスにおいて公知の方法が挙げられる。具体的には、スピンコーティング法、ディップコーティング法、スプレーコーティング法、フローコーティング法、ロールコーティング法、カーテンコーティング法、バーコーティング法、スクリーン印刷法等が挙げられるが、良質な膜が形成できる観点から、スピンコーティング法、ディップコーティング法、スプレーコーティング法、バーコーティング法が好ましい。
【0038】
膜を設けるための基材は特に制限はなく、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、AAS樹脂、ポリ塩化ビニール樹脂、ポリエチレンナフタレートなどの樹脂基板や複合樹脂基板、ガラス、石英、陶器等のセラミックス、ケイ素、各種金属、各種金属酸化物膜、及びこれらの複合材などの無機基板も用いることができる。
【0039】
基材の表面に上記したゾルを塗布し、これをさらに加熱することによりゾルをより一層安定にすることができる。加熱処理の方法は100℃以下で加熱しても、100℃以上で水熱処理してもよく、時間も1分間~10時間程度で任意の条件で処理することができる。なお、熱処理時間が長いほどニオブ酸化合物の結晶化が進行するため、一般的に得られる膜の屈折率が向上する。
【0040】
基材表面に設ける膜は、一層膜だけでなく二層以上の多層膜の作製も可能である。多層膜を作製するには、一層ずつ塗布して熱処理する方法を繰り返す順次積層方法、及び塗布を繰り返して多層を形成した後、一度に熱処理する積層方法とも可能である。
【0041】
基材の表面上に膜を形成したものは、膜担持基材として種々の用途に適用できる。例えば、半導体デバイスやオプティカルデバイスにおける透明導電膜、高誘電率膜、絶縁膜、反射防止膜、ハードコート層、光触媒性部材等に適用することができる。
【実施例
【0042】
次に本発明の実施形態について以下の実施例を参照して具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0043】
<ゾルの調製>
ゾル調製用の原料として、以下の材料を使用した。なお、原料の体積累積粒子径(D90)は、粒度分布測定装置(DelsaNano HC、ベックマン・コールター株式会社製)を用いて粒度分布を測定することにより行ったが、ニオブ酸化合物については粒子径が大きかったため、レーザ回折法粒度分布測定装置であるマイクロトラックMT3300EXII(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて粒度分布を測定した。
・ニオブ酸化合物(水酸化Nb、三井金属鉱業株式会社製、D90=3.6μm)
・フッ化カルシウム(三井金属鉱業株式会社製、D90=100nm)
・酸化ジルコニウム(酸化ジルコニウムを40質量%含有するジルコニアゾル:ナノユース(登録商標)ZR、日産化学株式会社製)
・酸化セリウム(三井金属鉱業株式会社製、D90=80nm)
・酸化珪素(酸化珪素を30質量%含有するコロイダルシリカ:スノーテックス(登録商標)、日産化学株式会社製)
・アンモニア(25質量%アンモニア水)
・シリコーンオイル(信越化学株式会社製)
【0044】
下記表1に示す組成に従って、上記した各原料を所定の割合で混合することによりゾルを調製した。具体的には、100mLの計量線を有する200mLのポリビンに、シリコーンオイルを除いた各成分を合計99.9g投入し、直径0.05mmのジルコニアビーズをポリビンの100mLの計量線まで投入した。次いで、ポリビンの蓋を閉め、ペイントシェーカー(浅田鉄工株式会社製)にセットして5時間粉砕した。粉砕後、目開き20μmの試験用ふるいを通過させてジルコニアビーズを分離・除去し、シリコーンオイル0.1gを添加、混合することによりゾルを調製した。
調製した各ゾルについて、粒度分布測定装置(DelsaNano HC、ベックマン・コールター株式会社製)を用いて、ゾル中の分散粒子における体積累積粒子径(D90)をそれぞれ測定した。なお、粒度分布測定装置を用いて体積累積粒子径を測定する際に、先ず得られたゾルを原液のまま測定用セルの標線まで注入し、次いでサンプル濃度が測定可能であることを装置が表示していることを確認し、粒子分布測定を行った。測定結果は下記表1に示されるとおりであった。
【0045】
<膜担持基材の作製>
基材としてガラス基板(76×26mm)を使用し、ガラス基板の表面を洗剤で洗浄した後、アルコール中で10分間超音波洗浄を行い、続いて、ゾルの塗膜直前にガラス基板表面に紫外線(波長325nm)を30秒間照射しUV洗浄を行った。続いて、ガラス基板をスピンコーター上に載置し、上記のようにして得られた各ゾルを、マイクロピペットで採取し、ガラス基板上に0.7mL滴下して製膜した(条件:1000rpm×20秒間)。次いで、製膜したガラス基板を100℃で10分間乾燥することにより、膜担持基材を作製した。
【0046】
<膜の目視評価>
ガラス基板上に形成された膜を目視にて観察し、干渉縞が認められるか評価した。評価基準は以下のとおりとした。
A:干渉縞はほとんど認められない(良)
B:干渉縞がやや認められるが、使用可能なレベルである(可)
C:干渉縞がはっきりと認められる(不可)
評価結果は、下記表1に示されるとおりであった。
【0047】
<膜の半定量評価>
作製した膜担持基材を黒色の紙の上に載置し、撮影方向前方に白色の板を立て、30度斜め上方からデジタルカメラで膜表面を撮影した。各デジタル画像を画像処理ソフト(PhotoShop、登録商標)に取り込み、膜表面に異物が少ない箇所(12mm×12mm)を選択し、選択した箇所を4mm角の領域に9分割し、各領域(4mm×4mm)の中心域のカラーコードの判別を行った。得られた各領域のカラーコード(16進数)を10進数に変換し、変換した数値から9箇所の領域の標準偏差を算出した。標準偏差が小さい方が色差がなく、干渉縞が抑制されていることを表している。上記のようにして算出した各標準偏差は、下記表1に示されるとおりであった。
【0048】
【表1】
【0049】
表1の評価結果から明らかなように、製膜した膜の干渉縞の評価において、デジタルカメラによるカラーコードから算出された標準偏差の値は、目視評価の結果と良く一致していることがわかる。
ニオブ酸化合物ゾルが特定の酸化物またはフッ化物を含んでいない場合(例1)、干渉縞がはっきりと認められるのに対し、特定の酸化物またはフッ化物を含むニオブ酸化合物ゾル(例2、例3、例5~11)では、干渉縞の発生が抑制されていることがわかる。
また、ニオブ酸化合物ゾルに酸化珪素のみを添加しても干渉縞の改善は見られないが(例4)、特定の酸化物またはフッ化物をさらに添加することにより干渉縞が改善されているのがわかる(例7、例9、例11)。