IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日清紡ケミカル株式会社の特許一覧

特許7597724ポリカルボジイミド化合物、水性樹脂組成物、及び食品包装容器
<>
  • 特許-ポリカルボジイミド化合物、水性樹脂組成物、及び食品包装容器 図1
  • 特許-ポリカルボジイミド化合物、水性樹脂組成物、及び食品包装容器 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ポリカルボジイミド化合物、水性樹脂組成物、及び食品包装容器
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/09 20060101AFI20241203BHJP
   C08G 18/79 20060101ALI20241203BHJP
   C08G 18/75 20060101ALI20241203BHJP
   C09D 175/12 20060101ALI20241203BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20241203BHJP
   C09J 175/12 20060101ALI20241203BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20241203BHJP
   B65D 85/50 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C08G18/09 050
C08G18/79 070
C08G18/75
C09D175/12
C09D201/00
C09J175/12
C09J201/00
B65D85/50 100
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021553425
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2020039255
(87)【国際公開番号】W WO2021085215
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2019199066
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309012122
【氏名又は名称】日清紡ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 展幸
(72)【発明者】
【氏名】中島 駿太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴彦
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/123362(WO,A1)
【文献】特表2007-521360(JP,A)
【文献】特開平10-060272(JP,A)
【文献】国際公開第2020/196055(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0122229(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0246393(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00- 18/87
C09D 175/00-175/16
C09D 201/00-201/10
C09J 175/00-175/16
C09J 201/00-201/10
B65D 85/00- 85/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるポリカルボジイミド化合物(A)及び水性樹脂を含有し、
前記水性樹脂がカルボキシル基を含有し、
前記水性樹脂のカルボキシル基に対する前記ポリカルボジイミド化合物(A)のカルボジイミド基の当量比が1.1~2.0であり、
前記水性樹脂の酸価は1~100mgKOH/gである、水性樹脂組成物。
【化1】

(式中、Rはイソシアネートと反応し得る官能基を有する親水性化合物からイソシアネートと反応し得る官能基を除いた残基を表し、Rは脂肪族ジイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた2価の残基を表し、Rは炭素数が2又は3であるグリコール化合物から水酸基を除いた2価の残基を表す。Xは前記親水性化合物と前記脂肪族ジイソシアネート化合物との反応により形成される基を表す。n1は1~10の数を表し、n2は1~10の数を表し、pは2~4の数を表す。複数のR及びRは、それぞれ、同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記グリコール化合物が、エチレングリコール及びプロピレングリコールの少なくともいずれかである、請求項1に記載の水性樹脂組成物
【請求項3】
前記脂肪族ジイソシアネート化合物が、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネートの少なくともいずれかである、請求項1又は2に記載の水性樹脂組成物
【請求項4】
前記ポリカルボジイミド化合物(A)のカルボジイミド当量が640以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性樹脂組成物
【請求項5】
前記水性樹脂が、水性ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、及びゴム系ラテックス樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか一項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項6】
前記水性樹脂が、水性ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、及びポリエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、水及び親水性溶剤から選択される少なくとも1種を含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の水性樹脂組成物からなる層を備える、食品包装容器。
【請求項9】
前記層を最表面層として備える、請求項に記載の食品包装容器。
【請求項10】
前記層を接着層として備える、請求項に記載の食品包装容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカルボジイミド化合物、水性樹脂組成物、及び食品包装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水性樹脂の塗膜の強度、耐水性、耐久性などの諸物性を向上させる手段として、該水性樹脂が有する官能基(例えば、カルボキシル基)と反応して架橋構造を形成し得るカルボジイミド化合物等の架橋剤を併用する方法が採用されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
上記水性樹脂の塗膜は、これまで、塗料、インク、繊維処理剤、接着剤、コーティング剤など、多くの分野で使用されてきたものの、食品包装用としては使用されてこなかった。
このように、上記水性樹脂の塗膜は、食品包装用として使用されてこなかったため、耐水性および密着性(例えば、高温水に浸漬した際の耐水性および浸漬後の密着性)が食品包装用としての使用に耐え得る程度にまでは達していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-047225号公報
【文献】特開2002-363250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の状況の下、水性樹脂の塗膜を食品包装用として使用する要求が高まってきたが、耐水性や密着性が食品包装用としての使用に耐え得る程度にまでは達していないという問題があった。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、食品包装用としての使用に耐え得る耐水性や密着性を有する塗膜(層)を成形可能な水性樹脂組成物を得ることができるポリカルボジイミド化合物、該ポリカルボジイミド化合物を含有する水性樹脂組成物、該水性樹脂組成物からなる層を備える食品包装容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、特定の構造を有するポリカルボジイミド化合物(A)を架橋剤として用いることにより、上記課題を解決することを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[12]を提供する。
[1]下記一般式(1)で表されるポリカルボジイミド化合物(A)。
【化1】

(式中、Rはイソシアネートと反応し得る官能基を有する親水性化合物からイソシアネートと反応し得る官能基を除いた残基を表し、Rは脂肪族ジイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた2価の残基を表し、Rは炭素数が2又は3であるグリコール化合物から水酸基を除いた2価の残基を表す。Xは前記親水性化合物と前記脂肪族ジイソシアネート化合物との反応により形成される基を表す。n1は1~10の数を表し、n2は1~10の数を表し、pは2~4の数を表す。複数のR及びRは、それぞれ、同一でも異なっていてもよい。)
[2]前記グリコール化合物が、エチレングリコール及びプロピレングリコールの少なくともいずれかである、上記[1]に記載のポリカルボジイミド化合物(A)。
[3]前記ジイソシアネート化合物が、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネートの少なくともいずれかである、上記[1]又は[2]に記載のポリカルボジイミド化合物(A)。
[4]カルボジイミド当量が640以下である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のポリカルボジイミド化合物(A)。
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載のポリカルボジイミド化合物(A)と、水性樹脂とを含有する、水性樹脂組成物。
[6]前記水性樹脂が、水性ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、及びゴム系ラテックス樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[5]に記載の水性樹脂組成物。
[7]前記水性樹脂が、水性ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、及びポリエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[6]に記載の水性樹脂組成物。
[8]さらに、水及び親水性溶剤から選択される少なくとも1種を含有する、上記[5]~[7]のいずれかに記載の水性樹脂組成物。
[9]前記水性樹脂がカルボキシル基を含有し、前記水性樹脂のカルボキシル基に対する前記ポリカルボジイミド化合物(A)のカルボジイミド基の当量比が0.1~2.0である、上記[5]~[8]のいずれかに記載の水性樹脂組成物。
[10]上記[5]~[9]のいずれかに記載の水性樹脂組成物からなる層を備える、食品包装容器。
[11]前記層を最表面層として備える、上記[10]に記載の食品包装容器。
[12]前記層を接着層として備える、上記[10]に記載の食品包装容器。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、食品包装用としての使用に耐え得る耐水性や密着性を有する塗膜(層)を成形可能な水性樹脂組成物を得ることができるポリカルボジイミド化合物、該ポリカルボジイミド化合物を含有する水性樹脂組成物、該水性樹脂組成物からなる層を備える食品包装容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例における耐水性評価の評価基準を説明する図である。
図2】実施例における密着性評価の評価基準を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ポリカルボジイミド化合物(A)]
本発明のポリカルボジイミド化合物(A)は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする。本発明のポリカルボジイミド化合物(A)は、後述する水性樹脂と架橋構造を形成し、該水性樹脂の塗膜の耐水性、密着性などを向上させて、食品包装用としての使用に耐え得るものとすることができる。
【0012】
【化2】

(式中、Rはイソシアネートと反応し得る官能基を有する親水性化合物からイソシアネートと反応し得る官能基を除いた残基を表し、Rは脂肪族ジイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた2価の残基を表し、Rは炭素数が2又は3であるグリコール化合物から水酸基を除いた2価の残基を表す。Xは前記親水性化合物と前記脂肪族ジイソシアネート化合物との反応により形成される基を表す。n1は1~10の数を表し、n2は1~10の数を表し、pは2~4の数を表す。複数のR及びRは、それぞれ、同一でも異なっていてもよい。)
【0013】
<R
上記一般式(1)中、Rは脂肪族ジイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた2価の残基を表す。ここで、脂肪族ジイソシアネート化合物には、脂環族ジイソシアネート化合物が含まれる。
脂肪族ジイソシアネート化合物の具体例としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(1級イソシアネート基を2個有する脂肪族ジイソシアネート化合物)、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート(2級イソシアネート基を2個有する脂肪族ジイソシアネート化合物)、イソホロンジイソシアネート(1級イソシアネート基を1個有し、2級イソシアネート基を1個有する脂肪族ジイソシアネート化合物)、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(2級イソシアネート基を2個有する脂肪族ジイソシアネート化合物)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート(1-メチルシクロヘキサン-2,4-ジイルジイソシアネート)(2級イソシアネート基を2個有する脂肪族ジイソシアネート化合物)、及び2,5(2,6)-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(1級イソシアネート基を2個有する脂肪族ジイソシアネート化合物)等が挙げられる。
これらの中でも、ポリカルボジイミド化合物の合成の容易さ、及び合成したポリカルボジイミド化合物の保存安定性の観点から、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが好ましく、合成したポリカルボジイミド化合物の保存安定性の観点からジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートがより好ましい。
なお、2級以上のイソシアネート基のみを有する脂肪族ジイソシアネート化合物の方が、1級イソシアネート基を有する脂肪族ジイソシアネート化合物よりも好ましい。
また、1級イソシアネート基を有する脂肪族ジイソシアネート化合物の中では、1級イソシアネート基のみならず2級イソシアネート基をも有するイソホロンジイソシアネートが好適に挙げられる。
本明細書において、「1級イソシアネート基」とは、イソシアネート基が直結している炭素原子が第1級炭素原子であるイソシアネート基のことをいい、「2級イソシアネート基」とは、イソシアネート基が直結している炭素原子が第2級炭素原子であるイソシアネート基のことをいう。
【0014】
<R
上記一般式(1)中、Rはイソシアネートと反応し得る官能基を有する親水性化合物からイソシアネートと反応し得る官能基を除いた残基を表す。上記親水性化合物としては、下記一般式(2)、(3)、(4)、及び(5)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ポリカルボジイミド化合物(A)の水又は親水性溶剤への溶解性又は分散性を向上させる観点から、下記一般式(2)及び(3)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、下記一般式(2)であることが更に好ましく、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、及びポリエチレングリコールモノラウリルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0015】
O-(CH-CHR-O)-H (2)
式中、Rは、炭素数1~12のアルキル基(好ましくは、1~4のアルキル基)、Rは水素原子又はメチル基である。mは4~30の整数である。
上記炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、及びt-ブチル基が挙げられる。
としてはメチル基が好ましく、Rとしては水素原子が好ましい。
mは4~30の整数であり、ポリカルボジイミド化合物(A)とカルボキシル基含有水性樹脂との親和性を向上させる観点から、4~22の整数が好ましく、8~15の整数がより好ましい。
【0016】
(R-N-R-OH (3)
式中、Rは炭素数1~6のアルキル基、Rは炭素数1~10のアルキレン基、又はポリオキシアルキレン基である。
の炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、及びt-ブチル基が好ましい。
の炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、及びデカメチレン基等が挙げられる。アルキレン基の水素原子はメチル基等の一価炭化水素基により置換されていてもよい。
としては、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基が好ましい。
【0017】
(R-N-R-NH (4)
式中、Rは炭素数1~6のアルキル基、Rは炭素数1~10のアルキレン基、又はポリオキシアルキレン基である。
の炭素数1~6のアルキル基としては、上記Rと同じものが挙げられ、中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、及びt-ブチル基が好ましい。
の炭素数1~10のアルキレン基としては、上記Rと同じものが挙げられる。
としては、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基が好ましい。
【0018】
HO-R10-SOM (5)
式中、R10は炭素数1~10のアルキレン基、MはNa、K等のアルカリ金属である。
10の炭素数1~10のアルキレン基としては、上記Rと同じものが挙げられる。中でも、メチレン基、エチレン基が好ましい。
【0019】
<R
前記一般式(1)中、Rは炭素数が2又は3であるグリコール化合物から水酸基を除いた2価の残基を表す。炭素数が2又は3であるグリコール化合物としては、エチレングリコール及びプロピレングリコールの少なくともいずれかであることが好ましい。
上記グリコール化合物において、炭素数が1では、工業的に入手しにくく実使用に向いておらず、逆に、炭素数が3を超えて4以上の整数であると、分子内に占めるグリコール成分が多くなり反応させたいカルボジイミド濃度が低下してしまう。
【0020】
前記一般式(1)中、Xは上記親水性化合物と上記脂肪族ジイソシアネート化合物との反応により形成される基を表す。例えば、上記親水性化合物が、前記一般式(2)、(3)、又は(5)の場合、Xは下記一般式(6)で表される基であり、上記親水性化合物が、前記一般式(4)の場合、Xは下記一般式(7)で表される基である。
【0021】
【化3】
【0022】
【化4】
【0023】
<n1>
前記一般式(1)中、n1としては、1~10の数である限り、特に制限はないが、1~5の数であることが好ましく、1~4の数であることがより好ましく、1~3の数であることが特に好ましい。一般式(1)中のn1が10超であると、ポリカルボジイミド化合物(A)の親水性が低下してしまい水分散が難しくなり水性架橋剤としての使用が難しくなる。
【0024】
<n2>
前記一般式(1)中、n2としては、1~10の数である限り、特に制限はないが、1~5の数であることが好ましく、1~4の数であることがより好ましく、1~3の数であることが特に好ましい。一般式(1)中のn2が10超であると、ポリカルボジイミド化合物(A)の親水性が低下してしまい水分散が難しくなり水性架橋剤としての使用が難しくなる。
【0025】
<p>
前記一般式(1)中、pとしては、2~4である限り、特に制限はないが、2~3が好ましく、2がより好ましい。一般式(1)中のpが、2未満であると、耐水性やPET密着性が低下し、4超であると、ポリカルボジイミド化合物(A)の親水性が低下してしまい水分散が難しくなり水性架橋剤としての使用が難しくなる。
【0026】
上記ポリカルボジイミド化合物(A)は、水及び親水性溶剤から選択される少なくとも1種に溶解、又は分散して用いることが好ましい。
【0027】
上記ポリカルボジイミド化合物(A)のカルボジイミド(NCN)当量としては、特に制限はないが、640以下であることが好ましく、600以下であることがより好ましく、550以下であることがさらに好ましい。ここで、「カルボジイミド(NCN)当量」とは、本明細書において、「ポリカルボジイミド化合物(A)の分子量/ポリカルボジイミド化合物(A)の1分子中において存在する「カルボジイミド(N=C=N)構造」の数」を意味し、ポリカルボジイミド化合物の架橋性能向上の観点から、小さい方がより好ましい。
【0028】
<ポリカルボジイミド化合物(A)の製造方法>
本発明のポリカルボジイミド化合物(A)の製造方法は、下記工程(a)と工程(b)とを有することを特徴とする。
工程(a):脂肪族ジイソシアネート化合物を触媒の存在下でカルボジイミド化反応させ、両末端にイソシアネート基を有するポリカルボジイミド(Y)を得る工程
工程(b):前記ポリカルボジイミド(Y)が両末端に有するイソシアネート基全量に対して0.33当量以下のイソシアネートと反応し得る官能基を有する親水性化合物と、前記ポリカルボジイミド(Y)と、炭素数が2又は3であるグリコール化合物とを反応させる工程
本発明において、上記グリコール化合物は、上記ポリカルボジイミド(Y)の鎖延長剤として働くものである。
【0029】
<<工程(a)>>
工程(a)では、脂肪族ジイソシアネート化合物を触媒の存在下でカルボジイミド化反応させ、両末端にイソシアネート基を有するポリカルボジイミド(Y)を得る。
脂肪族ジイソシアネート化合物としては、[ポリカルボジイミド化合物(A)]の項で挙げた化合物を用いることができる。
カルボジイミド化反応で用いられる触媒としては、例えば、1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド、1-エチル-2-ホスホレン-1-オキシド、3-メチル-2-ホスホレン-1-オキシド及びこれらの3-ホスホレン異性体等のホスホレンオキシド等を挙げることができ、これらの中でも、反応性の観点から、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシドが好ましい。
ポリカルボジイミド化合物(A)の製造方法における上記触媒の使用量は、カルボジイミド化に用いられるジイソシアネート化合物100質量部に対して、通常0.01~2.0質量部である。
【0030】
上記カルボジイミド化反応は、無溶媒でも行うことができ、溶媒中で行うこともできる。使用できる溶媒としては、テトラヒドロキシフラン、1,3-ジオキサン、及びジオキソラン等の脂環式エーテル:ベンゼン、トルエン、キシレン、及びエチルベンゼン等の芳香族炭化水素:クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、パークレン、トリクロロエタン、及びジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、及びシクロヘキサノン等が挙げられる。これらは、単独でもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
溶媒中で反応を行う場合、ジイソシアネート化合物の濃度は、5~55質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。
【0031】
上記カルボジイミド化反応の条件は、特に限定はされないが、好ましくは40~250℃、より好ましくは80~195℃で、好ましくは1~30時間、より好ましくは5~25時間である。また、溶媒中で反応を行う場合は、40℃~溶媒の沸点までであることが好ましい。
【0032】
ポリカルボジイミド化合物(A)の重合度n1及びn2は、1~10の数である限り、に特に制限はないが、ポリカルボジイミド化合物(A)の水又は親水性溶剤への溶解又は分散を容易にさせる観点から、好ましくは1~5の数であり、より好ましくは1~4の数であり、特に好ましくは1~3の数である。
【0033】
<<工程(b)>>
工程(b)では、上記ポリカルボジイミド(Y)が両末端に有するイソシアネート基全量に対して0.33当量以下のイソシアネートと反応し得る官能基を有する親水性化合物と、上記ポリカルボジイミド(Y)と、炭素数が2又は3であるグリコール化合物とを反応させる。
工程(a)で得られたポリカルボジイミド(Y)、上記親水性化合物、及び上記グリコール化合物を反応させる方法は特に限定されず、例えば、(i)上記ポリカルボジイミド(Y)と、特定量の上記親水性化合物とを反応させ、得られた末端に親水性基を有するポリカルボジイミド(Z)と、上記炭素数が2又は3であるグリコール化合物とを反応させる方法、(ii)上記ポリカルボジイミド(Y)と、上記炭素数が2又は3であるグリコール化合物とを反応させて得られた化合物に、上記親水性化合物を反応させる方法、(iii)上記ポリカルボジイミド(Y)、上記親水性化合物、及び上記炭素数が2又は3であるグリコール化合物を同時に反応させる方法等が挙げられる。中でも、局所的に反応が進み高分子量化することを制御する観点から、(i)による方法が好ましい。
【0034】
(i)による方法は、具体的には、工程(a)で得られたポリカルボジイミド(Y)と、該ポリカルボジイミド(Y)が両末端に有するイソシアネート基全量に対して0.33当量以下のイソシアネートと反応し得る官能基を有する親水性化合物とを反応させて、末端に親水性基を有するポリカルボジイミド(Z)を得る工程(b1)と、該工程(b1)で得られたポリカルボジイミド(Z)と、炭素数が2又は3であるグリコール化合物とを反応させて、該ポリカルボジイミド(Z)を鎖延長し、ポリカルボジイミド化合物(A)を得る工程(b2)からなる。
【0035】
工程(b1)では、工程(a)で得られたポリカルボジイミド(Y)と、該ポリカルボジイミド(Y)が両末端に有するイソシアネート基全量に対して0.33当量以下のイソシアネートと反応し得る官能基を有する親水性化合物とを反応させて、該ポリカルボジイミド(Y)の末端に親水性基を導入する。
上記親水性化合物としては、[ポリカルボジイミド化合物(A)]の項で挙げた親水性化合物を用いることができる。
上記親水性化合物の使用量は、上記ポリカルボジイミド(Y)が両末端に有するイソシアネート基全量の官能基当量に対して、好ましくは0.2~0.33当量、より好ましくは0.25~0.33当量である。0.33当量以下とすることで、副反応を制御し、後述する工程(b2)において所望のポリカルボジイミド化合物(A)を得ることができる。
【0036】
上記反応の条件は、特に限定されないが、好ましくは50~200℃、より好ましくは100~180℃で加熱保持した後、前記親水化合物を添加し、更に80~200℃程度で、0.5~5時間程度反応を行うことが好ましい。
【0037】
工程(b2)では、工程(b1)で得られたポリカルボジイミド(Z)と、炭素数が2又は3であるグリコール化合物とを反応させて、該ポリカルボジイミド(Z)を鎖延長する。
上記炭素数が2又は3であるグリコール化合物としては、[ポリカルボジイミド化合物(A)]の項で挙げた炭素数が2又は3であるグリコール化合物を用いることができる。
上記炭素数が2又は3であるグリコール化合物の使用量は、工程(a)で得られたポリカルボジイミド(Y)が両末端に有するイソシアネート基全量の官能基当量に対して、好ましくは0.67~0.8当量、より好ましくは0.67~0.75当量である。これらの範囲とすることで、工程(b1)で得られたポリカルボジイミド(Y)の未反応物、及び炭素数が2又は3であるグリコール化合物の未反応物を抑制し、所望のポリカルボジイミド化合物(A)を得ることができる。
【0038】
上記反応の条件は、特に限定されないが、反応温度としては80~200℃程度が好ましく、反応時間としては0.5~5時間程度が好ましい。
【0039】
また、ポリカルボジイミド化合物(A)の鎖延長単位pとしては、2~4である限り、特に制限はないが、ポリカルボジイミド化合物(A)の水又は親水性溶剤への溶解又は分散を容易にさせる観点から、好ましくは2~3、より好ましくは2である。
【0040】
このようにして得られるポリカルボジイミド化合物(A)を含有することにより、後述する水性樹脂組成物は、食品包装用としての使用に耐え得る耐水性や密着性を有する塗膜(層)を成形可能である。
【0041】
[水性樹脂組成物]
本発明の水性樹脂組成物は、本発明の一般式(1)で表されるポリカルボジイミド化合物(A)と、水性樹脂とを含有することを特徴とする。
【0042】
<水性樹脂>
本発明で用いる水性樹脂は、特に限定されないが、カルボキシル基を有することが好ましい。前記水性樹脂として、例えば、水性ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ゴム系ラテックス樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を好ましく用いることができる。中でも、本発明の効果を発揮する観点から、水性ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。
これらの樹脂は、単独でもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
<<水性ポリウレタン樹脂>>
水性ポリウレタン樹脂としては、例えば、ポリオール類、カルボキシル基含有ポリオール類、及びポリイソシアネート化合物から得られるカルボキシル基含有のウレタン系プレポリマーを、有機溶媒又は水の存在下、中和剤及び鎖延長剤と反応させ、次いで減圧下、脱溶媒することで得られる樹脂等が挙げられる。
【0044】
-ポリオール類-
上記水性ポリウレタン樹脂の原料であるポリオール類としては、低分子量ポリオールの重合体又は共重合体が挙げられ、具体的には、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートエステルポリオール、ポリカーボネートエーテルポリオール等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
-カルボキシル基含有ポリオール類-
上記水性ポリウレタン樹脂の原料であるカルボキシル基含有ポリオール類は、1分子中に2つ以上の水酸基と、1つ以上のカルボキシル基を含有する化合物であり、1分子中に2つの水酸基と1つのカルボキシ基を有する化合物を含有するものが好ましい。
上記カルボキシル基含有ポリオール類としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸等のジメチロールアルカン酸、N,N-ビスヒドロキシエチルグリシン、N,N-ビスヒドロキシエチルアラニン、3,4-ジヒドロキシブタンスルホン酸、3,6-ジヒドロキシ-2-トルエンスルホン酸等が挙げられる。中でも、入手の容易さの観点から、ジメチロールアルカン酸が好ましく、2,2-ジメチロールプロピオン酸がより好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
また、上記水性ポリウレタン樹脂の原料として、前記ポリオール類、及び前記カルボキシル基含有ポリオール類以外に、必要に応じて、その他のポリオール類を用いることができる。その他のポリオール類としては、前記ポリオール類、及び前記カルボキシル基含有ポリオール類で例示したポリオール類以外であれば特に制限なく用いることができる。
【0047】
-ポリイソシアネート化合物-
上記水性ポリウレタン樹脂の原料であるポリイソシアネート化合物としては、特に制限はなく、具体的には、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニレンメタンジイソシアネート(MDI)、2,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4’’-トリフェニルメタントリイソシアネート、m-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート、p-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート化合物;エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサノエート等の脂肪族ポリイソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水素添加TDI)、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-ジクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート、2,5-ノルボルナンジイソシアネート、2,6-ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート化合物などが挙げられる。これらのポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
上記ポリイソシアネート化合物の1分子当たりのイソシアネート基は通常2個であるが、水性ポリウレタン樹脂がゲル化をしない範囲で、トリフェニルメタントリイソシアネートのようなイソシアネート基を3個以上有するポリイソシアネートも使用することができる。
上記ポリイソシアネート化合物の中でも、反応性の制御と強度付与等の観点から、4,4’-ジフェニレンメタンジイソシアネート(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)が好ましい。
【0049】
-中和剤-
前記中和剤としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-フェニルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、N-メチルモルホリン、ピリジン、2-(ジメチルアミノ)-2-メチル-1-プロパノール等の有機アミン類;アンモニア;などが挙げられる。上記の中でも好ましくは有機アミン類であり、より好ましくは3級アミンであり、トリエチルアミンや2-(ジメチルアミノ)-2-メチル-1-プロパノールが特に好ましい。
【0050】
-鎖延長剤-
前記鎖延長剤としては、例えば、イソシアネート基と反応性を有する化合物が挙げられ、具体的には、エチレンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,4-ヘキサメチレンジアミン、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシリレンジアミン、ピペラジン、アジポイルヒドラジド、ヒドラジン、2,5-ジメチルピペラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアミン化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のジオール化合物;ポリエチレングリコールに代表されるポリアルキレングリコール類;水;などが挙げられる。中でもアミン化合物が好ましく、エチレンジアミンがより好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
<<アクリル樹脂>>
前記アクリル樹脂としては、例えば、重合性不飽和カルボン酸又はその無水物、(メタ)アクリル酸エステル類や(メタ)アクリル酸以外のアクリル系モノマー、及び必要に応じてα-メチルスチレン、酢酸ビニル等を、乳化重合、溶液重合、塊状重合等の重合法により共重合させて得られるアクリル樹脂等が挙げられる。
具体的な重合性不飽和カルボン酸及びそれらの無水物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸及びそれらの無水物等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステル類としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸以外のアクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
【0052】
<<ポリエステル樹脂>>
前記ポリエステル系樹脂としては、例えば、末端に水酸基を有するポリエステルグリコールと、テトラカルボン酸二無水物とを、エステル化反応によって鎖延長して得られるポリエステル系樹脂が挙げられる。
【0053】
<<ゴム系ラテックス樹脂>>
前記ゴム系ラテックス樹脂としては、カルボキシル基を有する天然ゴム系ラテックス樹脂、カルボキシル基を有する合成ゴム系ラテックス樹脂が挙げられる。
【0054】
前記水性樹脂がカルボキシル基を含有する場合、前記水性樹脂のカルボキシル基に対する前記ポリカルボジイミド化合物(A)のカルボジイミド基の当量比は、特に制限はなく、好ましくは0.1~2.0であることが好ましい。0.1以上とすることで、カルボジイミド化合物(A)の添加効果が得られ、2.0以下とすることで、カルボジイミド化合物(A)が過剰に残存せず、該カルボジイミド化合物(A)が過剰に残存することによる性能悪化を抑制することができる。
【0055】
水性樹脂は、その種類や分子量によって異なるが、酸価が1~100mgKOH/gであり、好ましくは5~70mgKOH/gである。酸価は、JIS K 0070:1992を用いて測定される。
なお、水性樹脂がカルボキシル基を含有する場合、「酸価」は、カルボキシル基に基づく樹脂固形分酸価を意味する。
【0056】
水性樹脂におけるカルボキシル基1molに対して、ポリカルボジイミド化合物(A)におけるカルボジイミド基1molを反応させる場合、下記式(2)を満たす量を目安として、ポリカルボジイミド化合物(A)と水性樹脂とを含有させることが好ましい。
ポリカルボジイミド化合物(A)の固形分(g)= (水性樹脂の酸価(mgKOH/g)/(56.11×1000))×カルボジイミド当量×水性樹脂の固形分(g)・・・(2)
【0057】
本発明の水性樹脂組成物は、さらに、水及び親水性溶剤から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0058】
<親水性溶剤>
親水性溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のポリアルキレングリコールジアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート等のポリアルキレングリコールジアセテート類;エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等のポリアルキレングリコールモノフェニルエーテル類;プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール等のモノアルコール類などが挙げられる。
【0059】
<添加剤>
また、本発明の水性樹脂組成物には、必要に応じて、顔料、充填剤、レベリング剤、界面活性剤、分散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、着色剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0060】
水性樹脂組成物の固形分中に含まれる前記水性樹脂及び前記ポリカルボジイミド化合物(A)の合計含有量は、好ましくは80~100質量%、より好ましくは85~100質量%、更に好ましくは95~100質量%である。
【0061】
本発明の水性樹脂組成物はその種類や分子量によって異なるが、一般的に粘度として、好ましくは20~500mPa・s、より好ましくは30~300mPa・sである。なお、上記粘度は、B型粘度計にて測定し、求めることができる。
【0062】
[食品包装容器]
本発明の食品包装容器は、上述の水性樹脂組成物からなる層を備える。ここで、食品包装容器としては、水性樹脂組成物からなる層を最表面層として備えていてもよく、水性樹脂組成物からなる層を接着層として備えていてもよい。
食品包装容器は、その用途において求められる性能等の観点から、耐水性及び密着性の効果が損なわれず、かつ、食品包装容器に適用する安全基準を満たす範囲内において、必要に応じて、添加物が添加されていてもよい。
【0063】
なお、本明細書における食品包装容器は、食品用器具及び食品容器包装を含むものとする。食品用器具としては、例えば、碗、皿、弁当箱、コップ、箸、スプーン、ナイフ、フォーク、包丁、まな板、ボウル、などが挙げられる。食品容器包装としては、例えば、ラミネートフィルム(積層体)、カップ、ボトル、袋、トレー、カプセル、レトルトパウチ、ラッピングフィルム、などが挙げられる。食品包装容器は、使い捨て用であっても、繰り返し利用されるものであってもよい。 ここで、食品包装容器が使い捨て用である場合には、廃棄による環境に対する負荷を軽減する観点から、食品包装容器に生分解性プラスチックが含まれることが好ましい。また、食品包装容器内における食品は、固形状及び液状であるかは問わない。
【0064】
<ラミネートフィルム(積層体)>
ラミネートフィルム(積層体)は、食品用(特に、レトルト用)として使用する場合、耐水性及び密着性が要求されるが、さらに、(i)安全性(食品衛生法、FDA等)に適合していること、(ii)無味、無臭であること、(iii)耐熱性が十分であること、(iv)防湿性、酸素遮断性に優れていること、(v)ヒートシールにより完全密封できること、(vi)強度(シール強度、突刺し、耐圧等)が適合すること、を満たすことが好ましい。
ラミネートフィルム(積層体)の基本構成としては、例えば、ベース基材/接着層/バリア層/接着層/シーラントの構成が挙げられる。
ここで、ベース基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルム(以下PETと称すことがある)、ナイロン延伸フィルム(以下ONと称すことがある)、などが挙げられる。
接着層としては、例えば、本発明の水性樹脂組成物からなる接着層、ヒートシール材料からなる接着層、などが挙げられる。
バリア材としては、例えば、アルミニウム箔(以下AL箔と称すことがある)、変性EVOH樹脂、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、などが挙げられる。
シーラントとしては、例えば、本発明の水性樹脂組成物からなる最表面層、プロピレン・エチレンブロック共重合体を主成分とする無延伸フィルム(CPP)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、などが挙げられる。
ラミネートフィルム(積層体)構成の具体例としては、例えば、(i)PET/AL箔/CPP、(ii)PET/ON/AL箔/CPP、(iii)PET/AL箔/ON/CPP、(iv)ON/CPP、(v)PET/AL箔/本発明の水性樹脂組成物からなる最表面層、(vi)PET/ON/AL箔/本発明の水性樹脂組成物からなる最表面層、(vii)PET/AL箔/ON/本発明の水性樹脂組成物からなる最表面層、(viii)ON/本発明の水性樹脂組成物からなる最表面層、などが挙げられる。なおここで、各構成成分間の接着層として、本発明の水性樹脂組成物からなる接着層を用いてもよい。
ラミネートフィルム(積層体)の製造方法としては、例えば、ラミネートフィルム(積層体)の構成フィルムに接着材を用いて貼合せる通常のドライラミネート法が挙げられるが、樹脂を押出して、直接ラミネートする方法を採用してもよい。
ラミネートフィルム(積層体)は、シーラントを袋の内面にシール層として、平袋、スタンディングパウチなどに製袋加工され使用される。
また、これらのラミネートフィルム(積層体)の積層構造は、包装袋の要求特性、例えば包装する食品の品質保持期間を満たすためのバリア性能、内容物の重量に対応できるサイズ・耐低温衝撃性、内容物の視認性などに応じて適宜選択される。
【0065】
<最表面層>
本発明の食品包装容器が備える最表面層は、本発明の水性樹脂組成物からなる層である限り、特に制限はなく、例えば、上述したラミネートフィルム(積層体)の最表面に存在するシーラントとして好適に用いられる。
【0066】
<接着層>
本発明の食品包装容器が備える接着層は、本発明の水性樹脂組成物からなる層である限り、特に制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルム(PET)とナイロン延伸フィルム(ON)との層間接着を行う接着層(架橋剤)、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルム(PET)とアルミニウム箔(AL箔)との層間接着を行う接着層(架橋剤)として好適に用いられる。
【実施例
【0067】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、実施例に記載の形態に限定されるものではない。
【0068】
(製造例1)ポリカルボジイミド含有液(架橋剤1)の製造
ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(HMDI)100質量部と、カルボジイミド化触媒(3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド)0.5質量部とを、還流管及び撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下190℃で6時間撹拌し、イソシアネート末端ポリ4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド(重合度=3)を得た。
得られたイソシアネート末端ポリ4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミドは、赤外分光光度計(FT/IR-6100 日本分光株式会社製)を使用して、赤外吸収(IR)スペクトル測定により、波長2150cm-1前後のカルボジイミド基による吸収ピークを確認した。
次いで、上記で得られたイソシアネート末端ポリ4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミドを120℃まで放冷し、これに末端封止剤として有機化合物であるポリエチレングリコールモノメチルエーテル(PEGME)(平均分子量1000)63.5質量部(イソシアネート末端ポリ4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミドが両末端に有するイソシアネート基全量の官能基当量に対し0.33当量)を加え、150℃まで加熱して撹拌しながらおよそ1時間反応させた。その後さらに、鎖延長剤としてジオール化合物(グリコール化合物)であるエチレングリコール3.9質量部(イソシアネート末端ポリ4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミドが両末端に有するイソシアネート基全量の官能基当量に対し0.67当量)を加え、撹拌しながらおよそ1時間反応させた。
赤外吸収(IR)スペクトル測定により波長2200~2300cm-1のイソシアネート基の吸収が消失したことを確認してポリカルボジイミド化合物を得た。これを約80℃まで冷却し、水を投入して固形分40質量%の淡黄色透明なポリカルボジイミド含有液(架橋剤1)を得た。
【0069】
(製造例2、3、3-2、4~7、9~15)ポリカルボジイミド含有液(架橋剤2、3、3-2、4~7、9~15)の製造
ジイソシアネート化合物、有機化合物(末端封止剤)、ジオール化合物(鎖延長剤)、溶媒を表1A及び表1Bに記載の種類に変更した以外は製造例1と同様にして、ポリカルボジイミド含有液(架橋剤2、3、3-2、4~7、9、11~15)を得た。
なお、製造例10については、ポリカルボジイミド化合物が水に分散しなかったため、ポリカルボジイミド含有液を得ることができなかった(比較例9)。
【0070】
(製造例8)ポリカルボジイミド含有液(架橋剤8)の製造
ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(HMDI)100質量部と、カルボジイミド化触媒(3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド)0.5質量部とを、還流管および撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下190℃で10時間撹拌し、イソシアネート末端ポリ4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド(重合度=8)を得た。
得られたイソシアネート末端ポリ4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミドは、赤外分光光度計(FT/IR-6100 日本分光株式会社製)を使用して、赤外吸収(IR)スペクトル測定により、波長2150cm-1前後のカルボジイミド基による吸収ピークを確認した。
次いで、上記で得られたイソシアネート末端ポリ4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミドを120℃まで放冷し、これに末端封止剤としてポリエチレングリコールモノメチルエーテル(平均分子量1000)84.7質量部を加え、さらに同じ温度で撹拌しながら1時間反応させ、再び150℃まで加温し、さらに撹拌しながら5時間反応させた後、赤外吸収(IR)スペクトル測定により波長2200~2300cm-1のイソシアネート基の吸収が消失したことを確認してポリカルボジイミド化合物を得た。これを約80℃まで冷却し、水を投入して固形分40%の淡黄色透明なポリカルボジイミド含有液(架橋剤8)を得た。
【0071】
(実施例1~3、3-2、4~8、及び比較例1~8)
製造例1~3、3-2、4~15で製造したポリカルボジイミド含有液(架橋剤)と、表1A及び表1Bに記載の水性樹脂含有液とを表1A及び表1Bに記載の配合量で混合撹拌し、水性樹脂組成物を調製した。
【0072】
水性樹脂組成物の調製に使用した表1A及び表1Bに記載の各成分の詳細は以下のとおりである。
〔ジイソシアネート化合物〕
・HMDI:ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート
・IPDI:イソホロンジイソシアネート
・TDI:トルエンジイソシアネート(2,4-TDI(80質量%)と2,6-TDI(20質量%)の混合物)
・HMDI+IPDI:ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートとイソホロンジイソシアネートの混合物(モル比1:1)
〔ジオール化合物(鎖延長剤)〕
・EG:エチレングリコール(分子量:62.07)
・PG:プロピレングリコール(分子量:76.09)
・BD:1,4-ブタンジオール(分子量:90.12)
・PPG(2000):ポリプロピレングリコール(分子量:2000)
・PCD(2000):ポリカーボネートジオール(分子量:2000)
・PCLD(2000):ポリカプロラクトンジオール(分子量:2000)
〔有機化合物(末端封止剤)〕
・PEGME(550):ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(重量平均分子量:550)
・PEGME(1000):ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(重量平均分子量:1000)
・PEGMEHE:ポリエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル(分子量:約482)
・PEGMLE:ポリエチレングリコールモノラウリルエーテル(分子量:約1066)
・HPSS:ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム(分子量:162.14)
〔溶媒〕
・NMP+水:1-メチル-2-ピロリドン(NMP)と水との混合物(質量比1:1)
〔水性樹脂〕
・MD-1480:東洋紡株式会社製、水系ポリエステル樹脂、酸価3mg/KOHmg、固形分25質量%
・AC-261P:The Dow Chemical Company製、水系アクリル樹脂、酸価15mg/KOHmg、固形分50質量%
【0073】
以下に示す測定条件により、実施例1~3、3-2、4~8及び比較例1~8で調製した水性樹脂組成物の評価を行った。なお、評価結果を表1A及び表1Bに示した。
【0074】
<評価項目>
まず、アセトンで表面脱脂したPET基材(厚み:100μm)上に、実施例1~3、3-2、4~8及び比較例1~8で調製した水性樹脂組成物をバーコーター#4を用いて塗布し、120℃で5分間乾燥し、3μmの乾燥被膜(塗膜)が形成した。この塗膜が形成された塗膜試験片を評価サンプルとして、下記の耐水性試験及び密着性試験に用いた。
(1)耐水性試験(取り出し直後、24時間乾燥後)
得られた塗膜試験片を高度加速寿命試験装置(「EHS-210M」、エスペック株式会社製、恒温恒湿器;温度120℃、相対湿度100%)にセットして0.5時間湿熱処理を行った。
高度加速寿命試験装置から取り出した塗膜試験片の塗膜表面の白化度合いを、取り出し直後と、24時間乾燥後のそれぞれについて目視にて観察し、図1に示す評価基準(左側:良好(白化の割合:10%以下)、中央:許容内(白化の割合:10%超50%以下)、右側:不良(白化の割合:50%超100%以下))で評価した。結果を表1A及び表1Bに示す。
なお、表1A及び表1Bにおいて、良好、許容内及び不良のいずれかで表す。
【0075】
(2)密着性試験
密着性試験をJIS5600-5-6:1999(クロスカット法)に準拠して行った。具体的には、上記(1)の耐水性評価試験(24時間乾燥後)を行った塗膜試験片(0.5時間湿熱処理後に24時間乾燥した塗膜試験片)の試験面に、カッターナイフを用いて、素地(PET基材)まで達する11本の切り傷(切り傷の間隔は1mm)をつけ、25個の碁盤目を作った。碁盤目部分にテープ「セロテープ(登録商標)」(ニチバン株式会社製、接着強度3.9N/cm)を強く圧着させ、テープの端を45°の角度で一気に引き剥がし、碁盤目の状態を図2に示す評価基準(前記JIS規格における、以下に示す0~5の6段階の分類)で評価した。表1A及び表1Bに、密着性評価の結果として示した。分類の数値が小さいほど、塗膜の密着性に優れていると言える。
<評価分類>
0:カットの縁が完全に滑らかで,どの格子の目にもはがれがない。
1:カットの交差点における塗膜の小さなはがれ。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を上回ることはない。
2:塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を超えるが15%を上回ることはない。
3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は目のいろいろな部分が,部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に15%を超えるが35%を上回ることはない。
4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は数か所の目が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に65%を上回ることはない。
5:分類4でも分類できないはがれ程度のいずれか。
【0076】
【表1A】
【0077】
【表1B】
【0078】
表1A及び表1Bに示した評価結果から分かるように、本発明のポリカルボジイミド化合物(A)(実施例1~3、3-2、4~8)を用いることにより、食品包装用としての使用に耐え得る耐水性や密着性を有する塗膜(層)を成形可能な水性樹脂組成物を得ることができることが分かった。
また、実施例1と実施例4とを比較することにより、重合度(n1及びn2)は3以下であることが好ましいことが分かる。
また、実施例1と実施例5とを比較することにより、pの値は3以下が好ましいことが分かる。
また、実施例1と実施例6,7とを比較することにより、脂肪族ジイソシアネート化合物として、イソホロンジイソシアネート(IPDI)よりも、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(HMDI)が好ましいことが分かる。
さらに、実施例8より、水性樹脂として、水系アクリル樹脂を用いることができることが分かる。
図1
図2