(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】リン酸ジルコニウム、及び、スラリー
(51)【国際特許分類】
C01B 25/37 20060101AFI20241203BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C01B25/37 K
C01B25/37 L
C01B25/45 H
(21)【出願番号】P 2021567357
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2020047119
(87)【国際公開番号】W WO2021132008
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-01-11
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-02
(31)【優先権主張番号】P 2019232514
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000208662
【氏名又は名称】第一稀元素化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金指 賢
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】小野 久子
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/118159(WO,A1)
【文献】特開2006-306676(JP,A)
【文献】特開2006-306677(JP,A)
【文献】ORLOVA, Albina I, et al.,Ultralow and negative thermal expansion in zirconium phosphate ceramics,High Temperatures-High Pressures,2002年,Vol. 34, No.3,pp. 315-322,ISSN:0018-1544, DOI:10.1068/htjr025
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/37
C01B 25/45
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[1]で表され、
粒子径D
90と粒子径D
10との差が1μm以下であることを特徴とするリン酸ジルコニウム。
M1Zr
2(M2PO
4)
a(PO
4)
b・nH
2O [1]
ただし、式[1]において、M1及びM2は、一価のカチオンであり、互いに同一であっても、異なっていてもよく、a及びbは、0.3<a≦1.8、3.1≦(a+b)≦3.6、2a+3b=9を満たす数
(ただし、(a+b)が3.32未満の場合を除く)であり、nは0≦n≦2を満たす数である。
【請求項2】
結晶構造として菱面体晶を含み、
前記菱面体晶の割合が、リン酸ジルコニウム全体に対して90%より大きいことを特徴とする請求項1に記載のリン酸ジルコニウム。
【請求項3】
粒子径D
90が1.5μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリン酸ジルコニウム。
【請求項4】
粒子径D
90と粒子径D
10との差が0.05μm以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載のリン酸ジルコニウム。
【請求項5】
純水に固形分濃度50質量%で分散させ、粒ゲージで測定したときに、2.5μm以上の箇所に線状痕が存在しないことを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載のリン酸ジルコニウム。
【請求項6】
水系溶媒に、請求項1~5のいずれか1に記載のリン酸ジルコニウムを分散させたことを特徴とするスラリー。
【請求項7】
前記リン酸ジルコニウムは、前記水系溶媒に固形分濃度50質量%以上で分散しており、
前記スラリーは、粒ゲージで測定したときに、2.5μm以上の箇所に線状痕が存在しないことを特徴とする請求項6に記載のスラリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸ジルコニウム、及び、スラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リン酸ジルコニウムとしては、リン原子が3原子含まれる構成を有するMZr2(PO4)3が存在する。また、従来、リン酸ジルコニウムとして、リン原子が2原子含まれる構成を有するもの(例えば、MZrH(PO4)2)も存在する。
【0003】
リン酸ジルコニウムの製造法としては、固相法(焼成法)及び、湿式法があるが、固相法ではリン酸ジルコニウムの粒径が粗くなり、結果として比表面積が低くなるため、スラリー化することが難しい。湿式法を開示する特許文献としては、例えば特許文献1~4が挙げられる。
【0004】
特許文献1には、AxNH4(1-x)Zr2(PO4)3・nH2O(但し、Aはアルカリ金属イオンを示し、Xは0<X<1を満たす数であり、nは0≦n≦2を満たす数である。)が開示されている。
【0005】
特許文献2には、AZr2(PO4)3・nH2O(但し、Aはアンモニウムイオン又はアルカリ金属イオンの少なくとも一種を示し、nは0≦n≦2を満たす数である。)が開示されている。
【0006】
特許文献3には、HnR1-nZr2(PO4)3・mH2O(但し、Rは、NH4又はアミンカチオンを示し、0≦n≦1、0≦m≦2である)が開示されている。
【0007】
特許文献4には、リン酸ジルコニウムとして、MaZrb(PO4)3・nH2O(但し、Mはアルカリ金属イオン、水素イオンおよびオキソニウムイオンから選ばれる少なくとも1種のイオンであり、aおよびbは、1.75<b<2、a+4b=9を満たす数であり、nは2以下である)が開示されている。
【0008】
特許文献4のリン酸ジルコニウムは、bが2未満であるものの、a+4b=9であるため、aは、1より大きい数となる。aが1よりも大きい数となるのは、Zrの数を2より小さくしたことに伴い、電荷を調整するために一価のカチオンであるMの数を増加させたためであるが、アニオンであるリン原子の数は3で固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平6-48713号公報
【文献】特開平5-17112号公報
【文献】特開昭60-239313号公報
【文献】特開2006-306677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の通り、リン原子の数が3より大きく4未満であるリン酸ジルコニウムは従来知られていない。すなわち、ジルコニウム2原子(相当)に対して、リン原子を3.1原子~3.6原子の比率で含有するリン酸ジルコニウムは知られていない。
【0011】
本発明の目的は、ジルコニウム2原子(相当)に対して、リン原子を3.1原子~3.6原子の比率で含有するリン酸ジルコニウムを提供することにある。また、本発明の他の目的は、当該リン酸ジルコニウムを水系溶媒に分散させたスラリーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、リン酸ジルコニウムについて鋭意検討を行った。その結果、ジルコニウム2原子(相当)に対して、リン原子を3.1原子~3.6原子の比率で含有するリン酸ジルコニウムを創出することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係るリン酸ジルコニウムは、下記式[1]で表されることを特徴とする。
M1Zr2(M2PO4)a(PO4)b・nH2O [1]
ただし、式[1]において、M1及びM2は、一価のカチオンであり、互いに同一であっても、異なっていてもよく、a及びbは、0.3<a≦1.8、3.1≦(a+b)≦3.6、2a+3b=9を満たす数であり、nは0≦n≦2を満たす数である。
【0014】
前記構成によれば、式[1]において、(a+b)が3.1以上3.6以下であり、ジルコニウム2原子に対して、リン原子を3.1原子~3.6原子の比率で含有する。このようなリン酸ジルコニウムは、従来知られていない新規なリン酸ジルコニウムである。
【0015】
前記構成においては、結晶構造として菱面体晶を含み、
前記菱面体晶の割合が、リン酸ジルコニウム全体に対して90%より大きいことが好ましい。
【0016】
結晶構造として菱面体晶を含み、前記菱面体晶の割合が、リン酸ジルコニウム全体に対して90%より大きいと、粒度が細かく、且つ、粒径が比較的均一なリン酸ジルコニウム粉末が得られやすい。このことは、実施例からも明らかである。
【0017】
ここで、ジルコニウム2原子に対してリン原子を3.6より大きい比率で含有する場合、結晶構造は、単斜晶を多く含むことになり、菱面体晶の割合を、リン酸ジルコニウム全体に対して90%より大きくすることは困難である。
一方、前記構成によれば、結晶構造として菱面体晶を多く含むにも関わらず、リン原子の含有量を従来よりも多く含ませることができる。リン原子の含有量が多いということは、リン酸イオン(PO4
3-)やリン酸水素イオン(HPO4
2-)の含有量が多いことを意味する。そして、リン酸イオン(PO4
3-)やリン酸水素イオン(HPO4
2-)は、水との親和性が高いため、リン酸イオン(PO4
3-)やリン酸水素イオン(HPO4
2-)の含有量の多いリン酸ジルコニウムは、水系溶媒への分散性が向上する。
【0018】
このように、前記構成によれば、菱面体晶を90%より大きく含み、且つ、リン原子の数が3.1以上であるため、粒径を微粒とすることができ、且つ、水系溶媒への分散性を高くすることができる。その結果、高濃度で水系溶媒に分散させても凝集しにくくすることができる。
【0019】
前記構成においては、粒子径D90が1.5μm以下であることが好ましい。
【0020】
粒子径D90が1.5μm以下であると、粒径の細かいリン酸ジルコニウムを提供することができる。
また、一般的に、粒子(粉末)は、粒径が細かいほど凝集しやすく、溶媒への分散性が低下する。一方、前記構成によれば、リン原子の数が3.1以上であり、水との親和性が高いため、粒子径D90を1.5μm以下と細かくしても、水系溶媒への分散性が高いリン酸ジルコニウムを提供することができる。
【0021】
前記構成においては、粒子径D90と粒子径D10との差が1μm以下であることが好ましい。
【0022】
粒子径D90と粒子径D10との差が1μm以下であると、粒径が比較的均一であるといえる。従って、分級等が必要がなく、品質の安定したリン酸ジルコニウムを提供することが可能となる。
【0023】
前記構成においては、粒子径D90と粒子径D10との差が0.05μm以上であることが好ましい。
【0024】
粒子径D90と粒子径D10との差が0.05μm以上であると、粒径の均一なリン酸ジルコニウムを提供することができる。
【0025】
前記構成においては、純水に固形分濃度50質量%で分散させ、粒ゲージで測定したときに、2.5μm以上の箇所に線状痕が存在しないことが好ましい。
【0026】
純水に固形分濃度50質量%で分散させ、粒ゲージで測定したときに、2.5μm以上の箇所に線状痕が存在しないということは、純水に固形分濃度50質量%で分散させても、2.5μm以上の凝集体(粗粒)が存在しないことを意味する。従って、前記構成によれば、高濃度で水系溶媒に分散させても、粒子(粉末)の凝集がほとんどなく、ほぼ均一に分散可能させることができる。
【0027】
また、本発明に係るスラリーは、水系溶媒に、前記リン酸ジルコニウムを分散させたことを特徴とする。
【0028】
前記構成によれば、ジルコニウム2原子に対して、リン原子を3.1原子~3.6原子の比率で含有するリン酸ジルコニウムを水系溶媒に分散させた新規なスラリーを提供することができる。
【0029】
前記構成において、前記リン酸ジルコニウムは、前記水系溶媒に固形分濃度50質量%以上で分散しており、
前記スラリーは、粒ゲージで測定したときに、2.5μm以上の箇所に線状痕が存在しないことが好ましい。
【0030】
リン酸ジルコニウムが水系溶媒に固形分濃度50質量%以上で分散しており、当該スラリーを粒ゲージで測定したときに、2.5μm以上の箇所に線状痕が存在しないということは、当該スラリーは、2.5μm以上の凝集体(粗粒)が存在しないことを意味する。従って、前記構成によれば、水系溶媒に高濃度且つほぼ均一にリン酸ジルコニウムを分散させたスラリーを提供することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、ジルコニウム2原子(相当)に対して、リン原子を3.1原子~3.6原子の比率で含有するリン酸ジルコニウムを提供することができる。また、当該リン酸ジルコニウムを水系溶媒に分散させたスラリーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】実施例5のリン酸ジルコニウムのX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。なお、本明細書において、リン酸ジルコニウムを構成するジルコニウムには、その一部としてハフニウムを含む不可避不純物が含まれる。また、本明細書において、リン酸ジルコニウムは、ハフニウム以外のシリカやチタニア等の不純物が製造上等の理由により、1質量%以下の量で含有され得る。
【0034】
[リン酸ジルコニウム]
本実施形態に係るリン酸ジルコニウムは、下記式[1]で表される。
M1Zr2(M2PO4)a(PO4)b・nH2O [1]
【0035】
式[1]において、M1及びM2は、一価のカチオンであり、互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0036】
前記一価のカチオンとしては、一価のカチオンであれば特に限定されず、水素イオン、アルカリ金属イオン、遷移金属イオン、一価の電荷を有する分子イオンが挙げられる。これらは単独でも複数混合されていてもよい。前記アルカリ金属イオンとしては、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Agが挙げられる。前記一価の電荷を有する分子イオンとしては、アンモニウムイオン(NH4
+)、オキソニウムイオンOH3
+等が挙げられる。なお、一価の電荷を有する分子イオンとは、全体として一価(+1)の電荷を有し、且つ、2つ以上の原子で構成される分子をいう。前記一価のカチオンは、容易にイオン交換できる観点から、なかでも、水素イオン、アンモニウムイオンが好ましい。
【0037】
式[1]において、a及びbは、0.3<a≦1.8、3.1≦(a+b)≦3.6、2a+3b=9を満たす数である。
【0038】
a+bは、3.1以上3.6以下であれば、特に限定されない。a+bは、水系溶媒への分散性の向上の観点からは、大きいほど好ましく、例えば、3.2以上が好ましく、3.21以上がより好ましい。また、a+bは、菱面体晶を多く含ませる観点からは、小さい方が好ましく、例えば、3.55以下が好ましく、3.5以下がより好ましい。
a+bを3.1以上3.6以下の範囲内に制御する方法としては、リン酸ジルコニウムを製造するための各原料の混合比率、混合の順番、混合の条件(温度、圧力、時間)等を調整すること等が挙げられる。
【0039】
aは、0.3より大きく1.8以下であれば、特に限定されない。aは、分散性の観点からは、大きいほど好ましく、例えば、0.31以上が好ましく、0.35以上がより好ましい。また、aは、粒径の観点からは、小さい方が好ましく、例えば、1.79以下が好ましく、1.75以下がより好ましい。
【0040】
式[1]において、nは0≦n≦2を満たす数である。nは、0以上2以下であれば、特に限定されない。nは、大きいほど好ましく、例えば、0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。また、nは、小さい方が好ましく、例えば、1.95以下が好ましく、1.8以下がより好ましい。
【0041】
本実施形態に係るリン酸ジルコニウムは、式[1]において、(a+b)が3.1以上3.6以下であり、ジルコニウム2原子に対して、リン原子を3.1原子~3.6原子の比率で含有する。このようなリン酸ジルコニウムは、従来知られていない新規なリン酸ジルコニウムである。
【0042】
前記リン酸ジルコニウムは、結晶構造として菱面体晶を含むことが好ましい。前記菱面体晶の割合は、リン酸ジルコニウム全体に対して90%より大きいことが好ましく、92%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。前記菱面体晶の割合は、多いほど好ましいが、例えば、リン酸ジルコニウム全体に対して100%以下、99%以下等とすることができる。前記菱面体晶の割合が、リン酸ジルコニウム全体に対して90%以上であると、粒度が細かく、且つ、粒径が比較的均一なリン酸ジルコニウム粉末が得られやすい。前記菱面体晶の割合は、実施例に記載の方法により得られた値をいう。
菱面体晶の割合を90%以上に制御する方法としては、リン酸ジルコニウムを製造するための各原料の混合比率、混合の順番、混合の条件(温度、圧力、時間)等を調整すること等が挙げられる。
【0043】
(粒子径D90)
前記リン酸ジルコニウムの粒子径D90は、粒径の細かいリン酸ジルコニウムを提供する観点からは、1.5μm以下であることが好ましい。前記粒子径D90は、より好ましくは1.39μm以下、さらに好ましくは0.46μm以下、特に好ましくは0.28μm以下である。
また、前記リン酸ジルコニウムは、リン原子の数が3.1以上であり、水との親和性が高い。従って、粒子径D90が1.5μm以下であると、粒径が細かく、且つ、水系溶媒への分散性が高いリン酸ジルコニウムを提供することができる。前記粒子径D90は、粒径の細かいリン酸ジルコニウムを提供する観点からは、小さいほど好ましく、例えば、0.05μm以上、0.1μm以上等とすることができる。
【0044】
(粒子径D90と粒子径D10との差)
粒子径D90と粒子径D10との差、すなわち、[粒子径D90]-[粒子径D10]は、粒径が比較的均一なリン酸ジルコニウムを提供する観点からは、1μm以下であることが好ましい。前記差は、より好ましくは0.8μm以下、さらに好ましくは0.35μm以下、特に好ましくは0.11μm以下である。前記差が1μm以下であると、分級等が必要がなく、品質の安定したリン酸ジルコニウムを提供することが可能となる。前記差は、0.05μm以上が好ましく、0.08μm以上がより好ましい。
【0045】
(粒子径D10)
前記リン酸ジルコニウムの粒子径D10は、粒径の細かいリン酸ジルコニウムを提供する観点からは、小さい方が好ましいが、特に限定されない。粒子径D10としては、例えば、好ましくは0.59μm以下、より好ましくは0.24μm以下、さらに好ましくは0.11μm以下等とすることができる。また、前記粒子径D10としては、例えば、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上等とすることができる。
【0046】
(粒子径D50)
前記リン酸ジルコニウムの粒子径D50は、粒径の細かいリン酸ジルコニウムを提供する観点からは、小さい方が好ましいが、特に限定されない。粒子径D50としては、例えば、0.93μm以下、好ましくは0.45μm以下、さらに好ましくは0.22μm以下等とすることができる。また、前記粒子径D50としては、例えば、0.01μm以上、好ましくは0.05μm以上等とすることができる。
【0047】
前記粒子径D10、前記粒子径D50、前記粒子径D90は、実施例に記載の方法により得られた値をいう。なお、本明細書に記載の前記粒子径D10、前記粒子径D50、前記粒子径D90は体積基準で測定されており、前記粒子径D10はレーザー回折法により測定される、最少粒径値より累積値10%にあたる粒子径であり、前記粒子径D50はレーザー回折法により測定される、最少粒径値より累積値50%にあたる粒子径であり、前記粒子径D90はレーザー回折法により測定される、最少粒径値より累積値90%にあたる粒子径である。
【0048】
前記リン酸ジルコニウムは、純水に固形分濃度50質量%で分散させ、粒ゲージで測定したときに、2.5μm以上の箇所に線状痕が存在しないことが好ましい。純水に固形分濃度50質量%で分散させ、粒ゲージで測定したときに、2.5μm以上の箇所に線状痕が存在しないということは、純水に固形分濃度50質量%で分散させても、2.5μmより大きい凝集体が存在しないことを意味する。従って、高濃度で水系溶媒に分散させても、粒子(粉末)の凝集がほとんどなく、ほぼ均一に分散させることができる。
粒ゲージでの測定方法の詳細は、実施例に記載の方法による。
【0049】
以上、本実施形態に係るリン酸ジルコニウムについて、説明した。
【0050】
[リン酸ジルコニウムの製造方法]
以下、リン酸ジルコニウムの製造方法の一例について説明する。ただし、本発明に係るリン酸ジルコニウムの製造方法は、以下の例示に限定されない。
【0051】
本実施形態に係るリン酸ジルコニウムの製造方法は、
ジルコニウム化合物と、カルボキシル基を2個以上有する化合物と、リン酸化合物とを所定の比率で含有する水溶液を作製する工程Aと、
前記水溶液を加熱する工程Bとを含む。
【0052】
本実施形態に係るリン酸ジルコニウムの製造方法においては、まず、ジルコニウム化合物と、カルボキシル基を2個以上有する化合物と、リン酸化合物とを所定の比率で含有する水溶液を作製する(工程A)。
【0053】
前記ジルコニウム化合物としては、オキシ塩化ジルコニウム、ヒドロオキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウム等のハロゲン化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム等の鉱酸のジルコニウム塩、酢酸ジルコニル、ギ酸ジルコニル等の有機酸のジルコニウム塩、炭酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウムナトリウム、酢酸ジルコニウムアンモニウム、シュウ酸ジルコニウムナトリウム、クエン酸ジルコニウムアンモニウム等のジルコニウム錯塩等が挙げられる。これらの化合物の中でも生産性の観点から、オキシ塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム等がより好ましい。
【0054】
カルボキシル基を2個以上有する化合物としては、シュウ酸、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸水素ナトリウム、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸水素アンモニウム、シュウ酸リチウム、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、これらの塩類等の脂肪族二塩基酸とその塩類;クエン酸、クエン酸アンモニウム、酒石酸、リンゴ酸等の脂肪族オキシ酸及びこれらの塩類等が挙げられる。これらの中でも、シュウ酸並びにそのナトリウム塩及びアンモニウム塩がより好ましい。
なお、前記ジルコニウム化合物のうち、シュウ酸ジルコニウムナトリウム、クエン酸ジルコニウムアンモニウム等の、カルボキシル基を2個以上有するカルボン酸のジルコニウム化合物は、カルボキシル基を2個以上有する化合物と同様に混合液中で安定性に優れた錯体を形成するので、ジルコニウム化合物として用いる場合であっても、そのカルボキシル基は混合液におけるC2O4として算入される。
【0055】
前記リン酸化合物としては、リン酸、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム等のオルトリン酸のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩;メタリン酸、ピロリン酸等の少なくとも1個のP-O-P結合を有する縮合リン酸のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、オルトリン酸のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩がより好ましい。
【0056】
前記ジルコニウム化合物と、前記カルボキシル基を2個以上有する化合物と、前記リン酸化合物との混合比率は、モル比で0.75~1.2:0.75~1.2:1.3~1.7の範囲内であることが好ましい。
前記ジルコニウム化合物と、前記カルボキシル基を2個以上有する化合物と、前記リン酸化合物との混合比率が前記数値範囲内であると、菱面体晶を多く含み、且つ、リン酸イオンやリン酸水素イオンを多く含むリン酸ジルコニウムが得られやすい。
特に、本発明者は、カルボキシル基を2個以上有する化合物(特に、シュウ酸)の含有比率に応じて得られる結晶相が異なることを見出している。前記リン酸ジルコニウムの製造において、カルボキシル基を2個以上有する化合物の混合比率を前記数値範囲内とすることにより、菱面体晶を多く含ませることができ、且つ、リン原子の含有量を多くすることができる。
【0057】
前記工程Aにおいて、前記の各原料の混合の順序としては、特に限定されないが、ジルコニウム化合物の水溶液に、リン酸化合物を混合し、その後、カルボキシル基を2個以上有する化合物を混合することが好ましい。
ジルコニウム化合物の水溶液に、先にリン酸化合物を混合しておき、その後カルボキシル基を2個以上有する化合物を混合すると菱面体晶が得られやすくなる。なお、ジルコニウム化合物の水溶液に、先にカルボキシル基を2個以上有する化合物を混合すると、リン酸化合物の混合時に、単斜晶が出来やすくなり、菱面体晶が得られにくくなる。
【0058】
前記の各原料を混合した後、必要に応じてpH調整を行ってもよい。pHは、好ましく1.0以上4.0以下の範囲内、より好ましく1.5以上3.5以下の範囲内、さらに好ましく2.0以上3.0以下の範囲内とすることが好ましい。pHを前記数値範囲内に調整することにより、リン酸ジルコニウムの反応速度を制御することができる。
【0059】
pH調整するためのpH調整剤としては、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸;水酸化アンモニウム(アンモニア水)、炭酸水素アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアンモニウム;アルカリ金属の水酸化物及び炭酸塩等が挙げられる。
【0060】
次に、得られた水溶液を加熱する(工程B)。加熱温度は特に制限されないが、温度が高いほど菱面体晶が得られやすい観点から、例えば、90℃以上、好ましくは100℃℃以上、より好ましくは150℃以上が挙げられる。また、加熱温度の上限は、特に制限されないが、例えば、200℃以下、好ましくは190℃以下、より好ましくは180℃以下が挙げられる。
【0061】
加熱工程(工程B)は、常圧下(標準大気圧(101.33kPa)前後)で行ってもよく、加圧条件下で行ってもよい。菱面体晶が得られやすい観点から、加圧条件下で行うことが好ましい。加圧する場合の加圧条件としては、例えば、0.1MPa以上、0.2MPa以上、0.5MPa以上等が挙げられる。また、加圧条件の上限は、特に制限されないが、例えば、1.0MPa以下、好ましくは0.9MPa以下、さらに好ましくは0.8MPa以下が挙げられる。
【0062】
加熱工程(工程B)を行う時間としては、原料の種類(すなわち、原料の反応性)、原料の配合比、水溶液の濃度、温度、pH、反応生成物の所望の結晶化度等により大幅に変わり得るが、例えば温度150℃の場合、1時間以上(未反応成分が多い)、好ましくは2時間以上、さらに好ましくは3時間以上(ほぼ全量結晶化)等が挙げられる。
【0063】
加熱工程の後、通常、室温(25℃前後)、常圧に戻す。
【0064】
次に、必要に応じて、よく水洗し、得られた沈殿物から余分なイオンを取り除き、その後乾燥させることにより、本実施形態に係るリン酸ジルコニウムを得ることができる。乾燥条件としては特に制限はないが、50℃~150℃の範囲内が好ましい。
【0065】
[スラリー]
本実施形態に係るスラリーは、水系溶媒に、前記リン酸ジルコニウムを分散させたものである。すなわち、本実施形態に係るスラリーは、水系溶媒と、前記水系溶媒に分散された前記リン酸ジルコニウムとを含む。
【0066】
前記水系溶媒としては、水を50質量%以上(より好ましくは55質量%以上、さらに、好ましくは60質量%以上)含有していれば、特に制限されない。前記水系溶媒に含有され得る、水以外の溶媒としては、特に制限されないが、炭素数1~4のアルコール、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール等が挙げられる。前記水系溶媒は、なかでも、純水が好ましい。
【0067】
前記水系溶媒に、前記リン酸ジルコニウムを分散させる方法としては、特に制限されず、前記水系溶媒に、前記リン酸ジルコニウム(粉末)を添加し、攪拌すればよい。攪拌条件としては、特に制限されず、常温、条圧下で、目視で固形分が見られなくなる程度にまで行えばよい。
【0068】
前記スラリーにおいては、前記水系溶媒に、前記リン酸ジルコニウムが、固形分濃度で50質量%以上分散していることが好ましく、55質量%以上分散していることがより好ましく、60質量%以上分散していることがさらに好ましい。
【0069】
前記スラリーは、粒ゲージで測定したときに、2.5μm以上の箇所に線状痕が存在しないことが好ましい。
【0070】
リン酸ジルコニウムが水系溶媒に固形分濃度50質量%以上で分散しており、当該スラリーを粒ゲージで測定したときに、2.5μm以上の箇所に線状痕が存在しないということは、当該スラリーは、2.5μm以上の凝集体(粗粒)が存在しないことを意味する。従って、前記スラリーによれば、水系溶媒に高濃度且つほぼ均一にリン酸ジルコニウムを分散させたスラリーを提供することができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例におけるリン酸ジルコニウム、及び、スラリーには、不可避不純物としてハフニウムをジルコニウムに対して酸化物換算で1.3~2.5質量%含有(下記式(X)にて算出)している。また、実施例及び比較例におけるリン酸ジルコニウム、及び、スラリーには、ハフニウム以外にも製造上等の理由により、シリカやチタニアが不純物として0.1質量%以下の量で含有され得る。
<式(X)>
([酸化ハフニウムの質量]/([酸化ジルコニウムの質量]+[酸化ハフニウムの質量]))×100(%)
【0072】
また、以下の実施例で示される各成分の含有量の最大値、最小値は、他の成分の含有量に関係なく、本発明の好ましい最小値、好ましい最大値と考慮されるべきである。
また、以下の実施例で示される測定値の最大値、最小値は、各成分の含有量(組成)に関係なく、本発明の好ましい最小値、最大値であると考慮されるべきである。
【0073】
<リン酸ジルコニウムの作製>
(実施例1)
純水300mlにオキシ塩化ジルコニウムZrOCl2を0.1モル溶解させた。次に、リン酸一ナトリウム(NaH2PO4)を0.15モル混合した。次に、シュウ酸(HOOC-COOH)0.1モルを水溶液で投入した。投入したシュウ酸水溶液の濃度は、5質量%である。次に、25質量%のアンモニア水を用いてpHを2.7に調整した。ここまでの操作は、室温(25℃)、常圧下にて行った。
【0074】
次に、150℃、加圧下(圧力:0.5MPa)で3時間攪拌を行った。その後、室温(25℃)、常圧に戻した。
【0075】
次に、よく水洗し、得られた沈殿物から余分なイオンを取り除いた。その後、100℃で乾燥した。以上により、実施例1に係るリン酸ジルコニウムを得た。
【0076】
(実施例2)
リン酸一ナトリウムの代わりにリン酸一アンモニウム(NH4H2PO4)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2に係るリン酸ジルコニウムを得た。
【0077】
(実施例3)
シュウ酸の添加量を0.075モルに変更し、攪拌を98℃、常圧下で14時間行ったこと以外は、実施例1と同様にして実施例3に係るリン酸ジルコニウムを得た。
【0078】
(実施例4)
実施例1で得たリン酸ジルコニウムを650℃で5時間加熱し、実施例4に係るリン酸ジルコニウムを得た。
【0079】
(実施例5)
25質量%のアンモニア水の代わりに、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例5に係るリン酸ジルコニウムを得た。
【0080】
(実施例6)
シュウ酸の添加量を0.12モルに変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例6に係るリン酸ジルコニウムを得た。
【0081】
(実施例7)
実施例4で得たリン酸ジルコニウム粉末を0.1モル計量した。次に、硝酸リチウム(LiNO3)0.05モルを粉末で混合した。次に、500℃で3時間加熱し、実施例7に係るリン酸ジルコニウムを得た。
【0082】
(実施例8)
硝酸リチウムの代わりに硝酸銀(AgNO3)を用いたこと以外は、実施例7と同様にして実施例8に係るリン酸ジルコニウムを得た。
【0083】
(比較例1)
純水300mlにシュウ酸2水和物((COOH)2・2H2O)0.1モル、及び、オキシ塩化ジルコニウム8水和物(ZrOCl2・8H2O)0.195モルを溶解させた。次に、攪拌しながらリン酸(H3PO4)0.3モルを加えた。次に、25質量%のアンモニア水を用いてpH2.7に調整した。ここまでの操作は、室温(25℃)、常圧下にて行った。
【0084】
次に、150℃加圧下(圧力:0.5MPa)で3時間攪拌を行った。その後、室温(25℃)、常圧に戻した。
【0085】
次に、よく水洗し、得られた沈殿物から余分なイオンを取り除いた。その後、100℃で乾燥した。以上により、比較例1に係るリン酸ジルコニウムを得た。
【0086】
(比較例2)
純水300mlにシュウ酸2水和物((COOH)2・2H2O))0.1モル、及び、オキシ塩化ジルコニウム8水和物(ZrOCl2・8H2O))0.195モルを溶解させた。次に、攪拌しながらリン酸(H3PO4)0.3モルを加えた。次に、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH2.7に調整した。ここまでの操作は、室温(25℃)、常圧下にて行った。
【0087】
次に、98℃、常圧下で14時間攪拌を行った。その後、室温(25℃)に戻した。
【0088】
次に、よく水洗し、得られた沈殿物から余分なイオンを取り除いた。その後、100℃で乾燥した。以上により、比較例2に係るリン酸ジルコニウムを得た。
【0089】
(比較例3)
150℃、加圧下(圧力:0.5MPa)で3時間攪拌を行う代わりに、98℃、常圧下で24時間攪拌を行ったこと以外は、比較例1と同様にして比較例3に係るリン酸ジルコニウムを得た。
【0090】
(比較例4)
シュウ酸の添加量を0.15モルに変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較例4に係るリン酸ジルコニウムを得た。
【0091】
実施例、比較例で得られたリン酸ジルコニウムは、いずれも粉末状であった。なお、以下で述べる分析に当たっては、実施例、比較例で得られたリン酸ジルコニウムを110℃3時間で乾燥させた粉末を用いた。
【0092】
[結晶相の同定]
実施例、比較例のリン酸ジルコニウムについて、X線回折装置(「RINT2500」リガク製)を用い、X線回折スペクトルを得た。測定条件は下記の通りとした。
<測定条件>
測定装置:X線回折装置(リガク製、RINT2500)
線源:CuKα線源
管電圧:50kV
管電流:300mA
走査速度:2θ=5~60°:4°/分。
【0093】
その後、X線回折スペクトルから、結晶相の同定を行った。リン酸ジルコニウムに含まれる結晶相の各相率は、以下の計算式で求めた。結果を表1に示す。なお、実施例5については、
図1に、X線回折スペクトルを示す。
菱面体晶相率(%)=Ir(116)/(Ir(116)+Im(001)+Ic(111))×100
立方晶相率(%)=(100%-菱面体晶相率(%))×((Ic(111))/(Im(001)+Ic(111))×100
単斜晶相率(%)=(100%-菱面体晶相率(%))×(Im(001))/(Im(001)+Ic(111))×100
リン酸ジルコニウムの菱面体晶相と、立方晶相及び単斜晶相との判別はXRDスペクトルの2θ=5~35°付近で行った。立方晶相と単斜晶相との判別はXRDスペクトルの2θ=5~15°付近で行った。
ここで、Ir(116)は菱面体晶相の(116)の回折強度であり、Ic(111)は立方晶相の(111)の回折強度であり、Im(001)は単斜晶相の(001)の回折強度である。
【0094】
[粒子径D10、粒子径D50、及び、粒子径D90の測定]
実施例、比較例のリン酸ジルコニウム(粉末)0.15gと40mlの0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液とを50mlビーカーに投入し、卓上超音波洗浄機「W-113」(本多電子株式会社製)で5分間分散した後、装置(レーザー回折式粒子径分布測定装置(「LA-950」島津製作所社製))に投入し、粒子径D10、粒子径D50(メジアン径)、及び、粒子径D90を測定した。結果を表1に示す。
【0095】
【0096】
[リン酸ジルコニウムの組成の分析]
実施例、比較例で作製したリン酸ジルコニウムの組成(酸化物換算)を、ICP-AES(「ULTIMA-2」HORIBA製)を用いて分析した。
【0097】
その結果、実施例、比較例で作製したリン酸ジルコニウムの組成は、以下の通りであることが分かった。
実施例1: (NH4)Zr2(NH4PO4)1.5(PO4)2・2H2O
実施例2: (NH4)Zr2(NH4PO4)1.5(PO4)2・2H2O
実施例3: (NH4)Zr2(NH4PO4)0.6(PO4)2.6・2H2O
実施例4: HZr2(HPO4)1.5(PO4)2・0.1H2O
実施例5: NaZr2(NaPO4)0.6(PO4)2.6・1.2H2O
実施例6: (NH4)Zr2(NH4PO4)1.8(PO4)1.8・2H2O
実施例7: LiZr2(HPO4)1.5(PO4)2・0.1H2O
実施例8: AgZr2(HPO4)1.5(PO4)2・0.1H2O
比較例1: (NH4)0.85Zr2(PO4)2.95・2H2O
比較例2: Na0.85Zr2(PO4)2.95・2H2O
比較例3: (NH4)0.85Zr2(PO4)2.95・2H2O
比較例4: Zr(PO4)(NH4・HPO4)・2H2O
【0098】
なお、実施例5、及び、比較例2のリン酸ジルコニウムの重量分析の結果を表2に示す。
【0099】
【0100】
上述した実施例1~実施例6では、M1とM2とが同一である場合について説明した。しかしながら、本発明は上述した通り、互いに同一であっても、異なっていてもよい。
M1とM2とを異ならせる方法としては、例えば、実施例1において得られた(NH4)Zr2(NH4PO4)1.5(PO4)2・2H2OのM1に相当するNH4を、イオン交換によりH等に交換する方法が挙げられる。M2は、通常、結晶の格子内にあるためイオン交換の際に交換されずそのまま残り、M1のみがイオン交換されることとなる。
M1とM2とを異ならせる他の方法としては、上述した実施例7、8のように、実施例4で得たリン酸ジルコニウム粉末に硝酸リチウム又は硝酸銀を混合焼成してM1に相当するHをLi又はAgに交換する方法が挙げられる。
また、実施例7、実施例8では、実施例4で得たリン酸ジルコニウム粉末に硝酸リチウム又は硝酸銀を混合焼成してM1に相当するHをLi又はAgに交換する方法を説明したが、この例に限定されず、実施例4で得たリン酸ジルコニウム粉末に、Li及びAg以外のアルカリ金属、つまりNa、K、Rb、Cs及びFrの硝酸塩等の金属塩を混合焼成することでM1に相当するHをNa、K、Rb、Cs又はFrに交換することができる。
【0101】
[分散性評価]
実施例、比較例で作製したリン酸ジルコニウムを純水に分散させた。その結果、下記の通りとなった。分散できたか否かは、目視により判断した。
実施例1:固形分濃度70質量%で純水に分散可能
実施例2:固形分濃度70質量%で純水に分散可能
実施例3:固形分濃度55質量%で純水に分散可能
実施例4:固形分濃度60質量%で純水に分散可能
実施例5:固形分濃度70質量%で純水に分散可能
実施例6:固形分濃度60質量%で純水に分散可能
実施例7:固形分濃度50質量%で純水に分散可能
実施例8:固形分濃度50質量%で純水に分散可能
比較例1:固形分濃度60質量%では流動性を失い純水に分散せず。固形分濃度50質量%では純水に分散可能。
比較例2:固形分濃度60質量%で純水に分散可能
比較例3:固形分濃度60質量%では流動性を失い純水に分散せず。固形分濃度50質量%では純水に分散可能。
なお、比較例4については、粒子径D10の値が4.72μmであり、2.5μmを超える粒子が存在するため、分散性評価、及び、凝集評価は行っていない。
【0102】
[凝集評価]
実施例1、実施例2、実施例5については、リン酸ジルコニウムを固形分濃度70質量%で純水に分散させたスラリーを作製した。次に、JIS-K5600-2-5に従い、粒ゲージ(宝泉株式会社製、製品名:グラインドメーター/大/2溝/0~25μm)を用いて、作製したスラリーの粒子(粉末、又は、粉末の凝集体)の大きさを評価した。その結果、2.5μm以上の箇所に線状痕が存在しなかった。この結果は、当該スラリーに粒径2.5μmを超える凝集体が存在しないことを意味する。
【0103】
実施例4、6については、リン酸ジルコニウムを固形分濃度60質量%で純水に分散させたスラリーを作製した。これらのスラリーについて上記と同様、JIS-K5600-2-5に従い、粒ゲージを用いて、作製したスラリーの粒子(粉末、又は、粉末の凝集体)の大きさを評価した。その結果、2.5μm以上の箇所に線状痕が存在しなかった。
【0104】
実施例7、8については、リン酸ジルコニウムを固形分濃度50質量%で純水に分散させたスラリーを作製した。これらのスラリーについて上記と同様、JIS-K5600-2-5に従い、粒ゲージを用いて、作製したスラリーの粒子(粉末、又は、粉末の凝集体)の大きさを評価した。その結果、2.5μm以上の箇所に線状痕が存在しなかった。
【0105】
実施例3については、リン酸ジルコニウムを固形分濃度55質量%で純水に分散させたスラリーを作製した。このスラリーについて上記と同様、JIS-K5600-2-5に従い、粒ゲージを用いて、作製したスラリーの粒子(粉末、又は、粉末の凝集体)の大きさを評価した。その結果、2.5μm以上の箇所に線状痕が存在しなかった。
なお、固形分濃度70、60、55質量%のスラリーで2.5μm以上の箇所に線状痕が存在しなかったということは、当然、固形分濃度50質量%のスラリーで同様の評価を行った場合には、2.5μm以下の箇所に線状痕が存在しないこととなる。
【0106】
比較例1、3については、リン酸ジルコニウムを固形分濃度50質量%で純水に分散させたスラリーを作製した。これらのスラリーについて上記と同様、JIS-K5600-2-5に従い、粒ゲージを用いて、作製したスラリーの粒子(粉末、又は、粉末の凝集体)の大きさを評価した。その結果、2.5μm超の箇所に線状痕が観測された。この結果は、当該スラリーに粒径2.5μmを超える凝集体が存在することを意味する。
【0107】
比較例2については、リン酸ジルコニウムを固形分濃度50質量%で純水に分散させたスラリーを作製した。このスラリーについて上記と同様、JIS-K5600-2-5に従い、粒ゲージを用いて、作製したスラリーの粒子(粉末、又は、粉末の凝集体)の大きさを評価した。その結果、2.5μm超の箇所に線状痕が観測された。