(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】固形剤および潤滑剤の調製方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/12 20060101AFI20241203BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20241203BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20241203BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20241203BHJP
A61K 31/55 20060101ALI20241203BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20241203BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20241203BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20241203BHJP
A23L 33/12 20160101ALI20241203BHJP
【FI】
A61K47/12
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/48
A61K31/55
A61K47/18
A61P9/12
A23L5/00 A
A23L5/00 C
A23L33/12
(21)【出願番号】P 2022507367
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(86)【国際出願番号】 EP2020072212
(87)【国際公開番号】W WO2021023848
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-07-24
(31)【優先権主張番号】201941032091
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アシシュ グーハ
(72)【発明者】
【氏名】ビナイ ジェイン
(72)【発明者】
【氏名】シュラッダー ジョーシ
(72)【発明者】
【氏名】テレジア クンツ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン マールマイスター
(72)【発明者】
【氏名】ジャン リュック エルボウズ
【審査官】今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/034698(WO,A1)
【文献】Journal of Oleo Science,2015年,Vol.64, No.10,p.1095-1100,doi:10.5650/jos.ess15090
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸塩
からなる潤滑剤を調製する工程と、
b)前記潤滑剤と、固形剤成分と、をミキサーに加える工程と、
c)必要に応じて、造粒、乾燥、および分粒のうちの1つまたは複数を行う工程と、
d)前記ミキサーの内容物を混合する工程と、
e)混合した前記内容物を圧縮またはスラッギングして、固形剤を生成する工程と、
を有
し、前記潤滑剤は、示差走査熱量計(DSC)を使用して測定されるガラス転移温度(Tg)が120℃~180℃である固形剤の調製方法。
【請求項2】
前記固形剤が錠剤である場合、混合した前記内容物は打錠機で圧縮され、かつ前記打錠機の放出力は150N以
下である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記多価不飽和脂肪酸塩は、ω-3脂肪酸であるEPAおよび/またはDHAを含む、請求項1または請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記多価不飽和脂肪酸塩は、少なくとも1つの塩基性アミノ酸、またはマグネシウム(Mg
2+)およびカリウム(K
+)から選択される少なくとも対イオンを含む、請求項1~請求項3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
混合前の前記潤滑剤の平均粒径は、2μm~600μmである、請求項1~請求項4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記潤滑剤は、
‐少なくとも1つの多価不飽和ω-3脂肪酸成分または多価不飽和ω-6脂肪酸成分を含む組成物と、リジン、アルギニン、オルニチン、コリンから選択される塩基性アミノ酸またはマグネシウム(Mg
2+)、カリウム(K
+)、およびそれらの混合物から選択される少なくとも対イオンを含む組成物と、の水溶液、水性アルコール溶液、またはアルコール溶液を混合し、
‐その後、得られた混合物を、噴霧乾燥するか、または押出機を利用した処理にかけ、それにより、前記塩基性アミノ酸、またはマグネシウム(Mg
2+)もしくはカリウム(K
+)由来のカチオンと、多価不飽和ω-3脂肪酸または多価不飽和ω-6脂肪酸由来のアニオンと、の少なくとも1つの塩を含む固体生成物組成物を形成すること
により調製される、請求項1~請求項5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記噴霧乾燥は、純粋な噴霧乾燥、または噴霧造粒処理、または連続噴霧造粒を含む、請求項
6記載の方法。
【請求項8】
エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、アラキドン酸(ARA)、αリノレン酸、ステアリドン酸、エイコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、リノール酸、γ-リノレン酸から選択される少なくとも1つのω-3脂肪酸またはω-6脂肪酸を含む少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸塩からなる調製物であり、固体成分の圧縮のために打錠用途で潤滑剤として
の使用。
【請求項9】
前記ω-3脂肪酸成分がEPAまたはDHAから選択される、請求項
8記載の
使用。
【請求項10】
前記
ω-3脂肪酸またはω-6脂肪酸を含む少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸塩が、リジン、アルギニン、オルニチン、コリン、マグネシウム(Mg
2+)、カリウム(K
+)、およびそれらの混合物から選択される対イオンを有する、
請求項8記載の
使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
a)少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸(PUFA)塩を含む潤滑剤を調製する工程と、
b)前記潤滑剤と、固形剤成分と、をミキサーに加える工程と、
c)必要に応じて、造粒、乾燥、および分粒のうちの1つまたは複数を行う工程と、
d)前記ミキサーの内容物を混合する工程と、
e)混合した前記内容物を圧縮またはスラッギングして、固形剤を生成する工程と、
を有する固形剤の調製方法に関する。
本発明は、この方法に従って調製される固形剤と、固体成分を圧縮するための打錠用途での潤滑剤としてのPUFA塩の使用と、をさらに含む。
【背景技術】
【0002】
本発明は、ステアリン酸マグネシウムを含まず、他の既知の潤滑剤を添加する必要がない栄養補助錠剤および医薬錠剤の代替配合を提供し、それにより、それらに関連するすべての課題を回避する。
【0003】
潤滑剤は、医薬固形剤の製造を成功させる上で重要な役割を果たす。潤滑剤は、これを達成するためのロバスト(頑健)な配合に不可欠な成分である。薬品製造業務における失敗の多くは、潤滑に関する問題によって引き起こされているのに、一般に、潤滑剤は、医薬配合物の開発において十分な注目を集めていない。
【0004】
混合、ローラー圧縮、錠剤製造、カプセル充填などの製薬業務では、製造装置の表面と有機固体の表面との間の摩擦を減らし、作業の継続を確保するために、潤滑が不可欠である(非特許文献1)。医薬潤滑剤は、配合物の粉末加工性を向上させるために、錠剤およびカプセル配合物に非常に少ない量(通常は0.25重量%~5.0重量%)で添加される薬剤である。かなり少量だが、潤滑剤は製造上重要な役割を果たす。それらは、放出時における錠剤表面とダイ壁との接触面の摩擦を減らし、それにより、パンチとダイの摩耗を減らす。それらは、錠剤がパンチ面に付着するのを防ぎ、そしてカプセルがドセーター(dosator)およびタンピングピンに付着するのを防ぐ。粉末流に関し、潤滑剤は混合物の流動性を向上させ、単位操作を助けることができる(非特許文献2)。
【0005】
製薬工程で使用される潤滑剤のほとんどは、脂肪酸の金属塩である。ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、およびステアリン酸が最も一般的なものである。ステアリン酸マグネシウムは最も頻繁に使用される潤滑剤である。しかし、ステアリン酸とその金属塩(例:ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム)の潤滑剤としての使用には、活性物質の望ましくない遅延溶解、特定の群の薬物(例:アミン、ACE阻害薬)の分解や相互作用など、いくつかの問題がある。
【0006】
最近の研究では、ステアリン酸マグネシウムによって引き起こされる薬物放出の遅延の根底にあるメカニズムが、固定盤法、EDS(エネルギー分散型X線分析)搭載走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)、およびフーリエ変換赤外線分光法(FTIR)を使用して、ステアリン酸マグネシウムを含むモデルメトホルミン塩酸塩(HCl)錠で調査された。結果は、遅延のプロセスとメカニズムを明らかした。錠剤表面におけるステアリン酸マグネシウムの曝露量が溶解工程中に増加し、錠剤の溶解がステアリン酸マグネシウムの分散によって制限される(非特許文献3)。
【0007】
さらに、心臓血管の健康への影響、眼の健康への影響、および免疫系への影響など、健康への悪影響の中には、ステアリン酸、パルミチン酸、および飽和脂肪の使用に関連しているものもある。一般的に使用される潤滑剤(例:ステアリン酸およびその誘導体、水素添加植物油、ベハン酸グリセリル)のほとんどは、上記の有害成分を1つ以上含むか、あるいはフマル酸ステアリルナトリウムの場合のように、体内(in-vivo)で代謝的にステアリン酸に転化される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Wang, J.ら、Eur. J. Pharm. Biopharm. 2010年、75、1~15頁
【文献】LiおよびWu、lubricants 2014年、2: 21~43頁
【文献】アリヤスら、Int J Pharm 2016年、511(2):757~764頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
課題:ステアリン酸マグネシウムは、固形医薬配合物に使用される一般的な潤滑剤であり、錠剤の溶解を遅らせ、より高濃度において錠剤の強度に悪影響を与えるという特性で知られている。従来技術のセクションに記載した通り、一般的に使用される潤滑剤のほとんどは、品質上の問題を抱えているか、あるいは心臓血管の健康への悪影響など健康上の問題を引き起こす。健康上のリスクが何倍にもなる可能性があるため、例えば健康補助食品などにおいてこれらの潤滑剤を長期間使用することは望ましくない。
【0010】
したがって、一般的に使用される潤滑剤(例:ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸カルシウム、水素添加植物油、フマル酸ステアリルナトリウム、ベヘン酸グリセリル、ならびにタルク)を含まない栄養補助配合物および医薬配合物を開発する必要がある。
【0011】
国際公開公報第2008/130883A号は、新たな錠剤潤滑剤を見つけることの重要性と必要性を強調しており、不溶性マトリックスに埋め込まれた油性液体の錠剤用潤滑剤としての使用について記載している。潤滑剤が埋め込まれたマトリックスは、油不溶性材料に細かく分散した油性液体を含んでいる。例示的な実施形態において、栄養補助食品組成物は、実質的にステアリン酸塩を含んでいない。油不溶性材料への分散に適した油性液体には、ビタミンE、好ましくはビタミンEアセテート、動物油、合成油、鉱油、ポリエチレングリコール、シリコン油、およびそれらの組み合わせの形のビタミンEが含まれる。適切な油不溶性材料には、デンプン、デキストリン、微結晶性セルロース、エチルセルロース、ゼラチン、糖、グルコース、マルトース、フルクトース、ソルビトール、スクロース、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マルトデキストリン、二酸化ケイ素、無水リン酸二カルシウム、およびそれらの組み合わせが含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
解決策:驚くべきことだが、錠剤配合物の潤滑剤として多価不飽和脂肪酸の塩を使用すると、多種多様な医薬品成分および栄養補助成分で非常に良好な打錠挙動が得られること、そして、これらの錠剤の崩壊/溶解が高濃度でも大幅に遅延しないことが分かった。
【0013】
優れた製品を得るためには、ステアリン酸マグネシウムの非存在下で、潤滑剤として、アミノ酸または多価不飽和脂肪酸のマグネシウム(Mg2+)塩もしくはカリウム(K+)塩を使用することが好ましいこともわかった。
【0014】
本発明は、品質上、加工上、および健康上の問題など、既存の打錠潤滑剤の使用に関連する問題のほとんどに対するワンステップの解決策を提供する。
【0015】
本発明は、
a)少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸塩からなる潤滑剤を調製する工程と、
b)前記潤滑剤と、固形剤成分と、をミキサーに加える工程と、
c)必要に応じて、造粒、乾燥、および分粒のうちの1つまたは複数を行う工程と、
d)前記ミキサーの内容物を混合する工程と、
e)混合した前記内容物を圧縮またはスラッギングして、固形剤を生成する工程と、
を有し、前記潤滑剤は、示差走査熱量計(DSC)を使用して測定されるガラス転移温度(Tg)が120℃~180℃である固形剤の調製方法に関する。
【0016】
本方法によれば、多価不飽和脂肪酸塩の驚くべき潤滑効果により、直接圧縮に適しており、かつさらなる既知の潤滑剤(例:ステアリン酸マグネシウム)を必要としない固形剤を容易に調製することができる。
【0017】
カプセル充填作業では、通常、ドセーターおよびタンピング式カプセル充填機の両方でスラッグを形成した後、粉末をカプセルに充填する。同様に、より高密度で流動性のある顆粒を生成するために、粉末を2台のローラーまたはパンチで圧縮してスラッグを形成する。スラッグはさらに小さな粒子に砕かれ、様々な剤形にさらに加工される。これらの方法はいずれも、本発明ではスラッギング(slugging)と呼ぶ。
【0018】
過去数十年の間に収集された広範な証拠により、多くの健康上の利益が多価不飽和脂肪酸(PUFA)の補足摂取と相関している。心臓血管疾患の予防と炎症状態の症状軽減は、最も顕著な例の1つであるが、ある種の癌の増殖およびステージ進行の予防、血圧および血中コレステロールの低下、ならびに、うつ病および統合失調症、アルツハイマー病、発達性読み書き障害、および注意力欠如障害または多動性障害などの治療におけるプラスの効果も同様に報告されている。さらに、一部のPUFAは脳、神経系、および眼の発達に不可欠であると考えられているため、今日では日常的に、乳幼児栄養が特定のPUFAで補足されている。
【0019】
本明細書の文脈では、用語「PUFA」は、用語「多価不飽和脂肪酸」と交換可能に使用され、以下のように定義される。脂肪酸は、炭素鎖の長さと飽和特性に基づいて分類される。短鎖脂肪酸は、2個~約6個の炭素を有し、通常は飽和している。中鎖脂肪酸は、約6個~約14個の炭素を有し、通常は飽和している。長鎖脂肪酸は、16個~24個以上の炭素を有し、飽和していてもしていなくてもよい。長鎖脂肪酸では、1つまたは複数の不飽和点が存在してよく、それぞれ用語「一不飽和」および「多価不飽和」という。本明細書の文脈では、20個以上の炭素原子を有する長鎖多価不飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸またはPUFAと呼ぶ。
【0020】
PUFAは、確立した用語体系に従って、脂肪酸の二重結合の数と位置によって分類される。脂肪酸のメチル末端に最も近い二重結合の位置に応じて、LC-PUFAには2つの主要な系(シリーズ)または族(ファミリー)がある。ω-3系は3番目の炭素に二重結合を有するが、ω-6系は6番目の炭素まで二重結合はない。したがって、ドコサヘキサエン酸(DHA)は、22個の炭素からなり、かつメチル末端から3番目の炭素から始まる6つの二重結合を持つ鎖長を有しており、「22:6 n-3」(all-cis-4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸)と示される。もう1つの重要なω-3PUFAは、「20:5 n-3」(all-cis-5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸)と示されるエイコサペンタエン酸(EPA)である。重要なω-6PUFAは、「20:4 n-6」(all-cis-5,8,11,14-エイコサテトラエン酸)と示されるアラキドン酸(ARA)である。
【0021】
その他のω-3PUFAには、エイコサトリエン酸(ETE)20:3(n-3)(all-cis-11,14,17-エイコサトリエン酸)、エイコサテトラエン酸(ETA)20:4(n-3)(all-cis-8,11,14,17-エイコサテトラエン酸)、ヘネイコサペンタエン酸(HPA)21:5(n-3)(all-cis-6,9,12,15,18-ヘネイコサペンタエン酸)、ドコサペンタエン酸(クルパノドン酸)(DPA)22:5(n-3)(all-cis-7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸)、テトラコサペンタエン酸24:5(n-3)(all-cis-9,12,15,18,21-テトラコサペンタエン酸)、テトラコサヘキサエン酸(ニシン酸)24:6(n-3)(all-cis-6,9,12,15,18,21-テトラコサヘキサエン酸)が含まれる。
【0022】
その他のω-6PUFAには、エイコサジエン酸20:2(n-6)(all-cis-11,14-エイコサジエン酸)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)20:3(n-6)(all-cis-8,11,14-エイコサトリエン酸)、ドコサジエン酸22:2(n-6)(all-cis-13,16-ドコサジエン酸)、アドレン酸22:4(n-6)(all-cis-7,10,13,16-ドコサテトラエン酸)、ドコサペンタエン酸(オズボンド酸)22:5(n-6)(all-cis-4,7,10,13,16-ドコサペンタエン酸)、テトラコサテトラエン酸24:4(n-6)(all-cis-9,12,15,18-テトラコサテトラエン酸)、テトラコサペンタエン酸24:5(n-6)(all-cis-6,9,12,15,18-テトラコサペンタエン酸)が含まれる。
【0023】
本発明の実施形態で使用される好ましいω-3PUFAは、ドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)である。
【0024】
本発明の好ましい構成では、多価不飽和脂肪酸塩は、少なくとも1つの塩基性アミノ酸、またはマグネシウム(Mg2+)およびカリウム(K+)から選択される少なくとも対イオンを含む。さらに好ましい構成では、ω-3またはω-6脂肪酸塩は、リジン、アルギニン、オルニチン、コリン、およびそれらの混合物から選択される有機対イオンを有する。
【0025】
塩基性アミノ酸は、好ましくは、リジン、アルギニン、オルニチンおよびそれらの混合物から選択される。
【0026】
本発明は、錠剤となりうる固形剤であって、混合した内容物を打錠機で圧縮してなる固形剤に特に適している。
【0027】
錠剤の圧縮は、粒子を特定の強度のペレットに圧密することにつながる。錠剤の圧縮は通常、粒子再配列、粒子変形、粒子間結合形成、そしてダイから成形体を放出する際の弾性回復をもたらす。錠剤圧縮工程の最後から2番目の工程は放出である。放出力とは、錠剤をダイから押し出すのに必要な力である。材料および/またはダイが適切に潤滑されると、全体的な放出力の大幅な減少が観察される。潤滑の程度も、錠剤が下部パンチを離れるときの錠剤圧縮の最終工程において重要になる。潤滑剤は錠剤と金属表面間の摩擦を減らし、錠剤圧縮工程全体をよりスムーズにするので、潤滑剤は、錠剤放出工程と錠剤取り出し工程に最も関係している。
【0028】
小規模操作で許容可能な打錠性能を備えた粉末は、実行時間が長くなるか、あるいは規模が拡大すると問題を生じる可能性があり、高放出力、工具の高摩耗率、さらには作業停止につながる機械の過負荷を引き起こすことが観察されている。明らかに、実験室試験による圧縮特性と放出特性の変化に関する確実な予測が実質的に重要である。
【0029】
したがって、本発明の好ましい実施形態では、固形剤が錠剤である場合、混合した内容物を打錠機で圧縮し、打錠機の放出力は150N以下、好ましくは130N以下、より好ましくは120N以下、最も好ましくは50N~120Nである。
【0030】
混合前の潤滑剤の平均粒径が2μm~600μmである場合が特に好ましい。
【0031】
本発明の有利な構成では、潤滑剤は、
‐少なくとも1つの多価不飽和ω-3脂肪酸成分または多価不飽和ω-6脂肪酸成分を含む組成物と、
リジン、アルギニン、オルニチン、コリンから選択される塩基性アミノ酸、またはマグネシウム(Mg2+)、カリウム(K+)、およびそれらの混合物から選択される少なくとも対イオンを含む組成物と、
の水溶液、水性アルコール溶液、またはアルコール溶液を混合し、
‐その後、得られた混合物を、噴霧乾燥するか、または押出機を利用した処理にかけ、それにより、塩基性アミノ酸、またはマグネシウム(Mg2+)もしくはカリウム(K+)由来のカチオンと、多価不飽和ω-3脂肪酸または多価不飽和ω-6脂肪酸由来のアニオンと、の少なくとも1つの塩を含む固体生成物組成物を形成すること
により調製される。
【0032】
最近、EPA/DHAを含まない脂肪酸をアミノ酸で安定化して、食品またはサプリメント調製物に導入可能なEPA/DHAの固形でやや不活性な塩を生成する技術が記載されている。国際公開公報第2016/102323A1号は、酸化に対して安定化することができる多価不飽和ω-3脂肪酸塩を含む組成物を記載している。
【0033】
酸化に対して安定化することができる多価不飽和脂肪酸を含む組成物は、任意の適切な原料から得ることができ、さらに、当該原料は、そのような原料の任意の適切な処理方法によって処理されたものであってよい。典型的な原料には、魚の死骸、野菜、その他の植物のあらゆる部分、そして微生物および/または藻類の発酵物に由来する材料が含まれる。典型的には、そのような材料は、かなりの量の他の天然に存在する脂肪酸をさらに含んでいる。そのような原料の典型的処理方法は、原油取得工程(例:原料の抽出および分離)、原油精製工程(例:沈殿および脱ガム、脱酸、漂白、ならびに脱臭)、そしてさらに、精製油からのPUFA濃縮物生成工程(例:脱酸、エステル交換、濃縮、および脱臭)を含んでいてよい(食用魚油に関する欧州食品安全機関の科学的見解などを参照)。原料の任意の処理は、PUFA-エステルを、対応する遊離PUFAまたはその無機塩に、少なくとも部分的に変換する工程をさらに含んでいてもよい。
【0034】
本発明の方法により酸化に対して安定化することができるPUFAを含む好ましい組成物は、主に、エステルPUFAと、エステル結合の開裂とその後のエステルとして先に結合したアルコールの除去とによって自然に発生する他の脂肪酸と、からなる組成物から得ることができる。好ましくは、エステル開裂は、塩基性条件下で行われる。エステル開裂の方法は、当技術分野でよく知られている。
【0035】
本発明によれば、噴霧乾燥には、純粋な噴霧乾燥、または噴霧造粒処理、または連続噴霧造粒が含まれる。
【0036】
本発明に従って調製された固形剤は、本発明のさらなる主題である。固形剤は、錠剤またはカプセルであってよく、好ましくは、持続放出性、即時放出性、または遅延放出性である。
【0037】
好ましい実施形態では、固形剤中の多価不飽和脂肪酸塩の量は、50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは0.5~30重量%である。
【0038】
多価不飽和脂肪酸を含むリジンの塩自体は当技術分野で知られており(欧州特許番号第0734373B1号を参照)、「低温でワックス状の外観および粘稠度を有する固体へ変化する非常に濃い透明な油」として記載された(欧州特許番号第0734373B1号の1頁、47~48行目を参照)。しかし、PUFAの塩は、国際公開公報第2016/102323A1号および国際公開公報第2016/102316A1号に記載されているような噴霧乾燥条件によって得ることができる。
【0039】
本発明の好ましい実施形態では、多価不飽和脂肪酸の量は、多価不飽和脂肪酸塩の総重量に対し、65重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは40~55重量%である。
【0040】
本発明に係る固形剤は、1つまたは複数の医薬品有効成分または有効栄養補助成分と、1つまたは複数の賦形剤と、を含み、賦形剤は、好ましくは、結合剤、酸化防止剤、流動化剤、潤滑剤、顔料、可塑剤、ポリマー、光沢剤、希釈剤、香料、界面活性剤、細孔形成剤、安定剤、またはそれらの任意の組み合わせの群から選択される。
【0041】
好ましい実施形態では、組成物は、示差走査熱量計(DSC)を使用して測定されるガラス転移温度(Tg)が120℃~180℃である。
【0042】
心臓血管の健康への影響、眼の健康への影響、および免疫系への影響など、健康への悪影響の中には、ステアリン酸、パルミチン酸、および飽和脂肪の使用に関連しているものがあるため、固形剤中のステアリン酸マグネシウム量を最小限に減らすことが望ましい。したがって、好ましい実施形態では、固形剤は、0.5重量%未満、好ましくは0.2重量%未満、より好ましくは0~0.1重量%のステアリン酸マグネシウムを含むか、あるいはステアリン酸マグネシウムを全く含まない。
【0043】
好ましい実施形態では、固形剤は即時放出性錠剤であり、水中での崩壊時間は30分以下である。好ましくは、水中での崩壊時間は、20分以下、より好ましくは15分以下、最も好ましくは10分以下である。
【0044】
固形剤中、多価不飽和脂肪酸塩が少なくとも1つの塩基性アミノ酸、またはマグネシウム(Mg2+)およびカリウム(K+)から選択される少なくとも対イオンを含む場合が好ましい。さらに好ましい構成では、ω-3脂肪酸塩は、リジン、アルギニン、オルニチン、コリン、およびそれらの混合物から選択される有機対イオンを有する。
【0045】
塩基性アミノ酸は、好ましくは、リジン、アルギニン、オルニチンおよびそれらの混合物から選択される。
【0046】
本発明は、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、アラキドン酸(ARA)、αリノレン酸、ステアリドン酸、エイコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、リノール酸、γ-リノレン酸から選択される少なくとも1つのω-3脂肪酸またはω-6脂肪酸を含む少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸塩からなる調製物であり、固体成分の圧縮のために打錠用途で潤滑剤として使用される調製物にも関する。
【0047】
好ましい構成では、ω-3脂肪酸成分は、EPAまたはDHAから選択される。さらに好ましい構成では、ω-3またはω-6脂肪酸塩は、リジン、アルギニン、オルニチン、コリン、またはマグネシウム(Mg2+)、カリウム(K+)、およびそれらの混合物から選択される有機対イオンを有する。
【0048】
好ましい実施形態では、多価不飽和脂肪酸の量は、多価不飽和脂肪酸塩の総重量に対し、65重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは40~55重量%である。
【0049】
好ましい実施形態では、打錠組成物中の多価不飽和脂肪酸塩の量は、50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは0.5~30重量%である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】
図1は、倍率40XでのC18:0脂肪酸カルシウム塩粒子を示す。
【
図2】
図2は、倍率4Xでのω-3リジン塩粒子を示す。
【
図3】
図3は、ω-3脂肪酸リジン塩とC18:0脂肪酸のカルシウム塩とのDSCサーモグラムを示す。
【実施例】
【0051】
多価不飽和脂肪酸組成物
本発明の実施例では、様々な多価不飽和脂肪酸組成物を使用した。塩基性アミノ酸であるリジン、アルギニン、およびオルニチンから選択された有機対イオンを有する様々なω-3脂肪酸塩を調製した。ω-3脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(C20:5w3c)(EPA)とドコサヘキサエン酸(C22:6w3c)(DHA)は、約2:1の比率で存在する(比率=EPA:DHA)。塩は、国際公開公報第2016/102323A1号に記載されているような噴霧造粒によって調製した。
【0052】
ω-3リジン塩(ω-3-lsy)は、約32重量%のL-リジンと、約65重量%の多価不飽和脂肪酸と、からなる(AvailOm(登録商標)、Evonik Nutrition and Care GmbH社、ドイツ)。組成物中の主要な多価不飽和脂肪酸は、ω-3脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(C20:5w3c)(EPA)とドコサヘキサエン酸(C22:6w3c)(DHA)であり、合計すると組成物の約58重量%になる。この組成物は、少量のドコサエン酸異性体(エルカ酸を含む)(C22:1)、ドコサペンタエン酸(C22:5w3c)と、少量のω-6脂肪酸であるアラキドン酸(C20:4w6)およびドコサテトラエン酸(C22:4w6c)も含んでいる。
【0053】
ω-3アルギニン塩(ω-3-arg)は、約35重量%のL-アルギニンと、約64重量%の多価不飽和脂肪酸と、からなる。組成物中の主要な多価不飽和脂肪酸は、ω-3脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(C20:5w3c)(EPA)とドコサヘキサエン酸(C22:6w3c)(DHA)であり、合計すると組成物の約49重量%になる。この組成物は、少量のドコサエン酸異性体(エルカ酸を含む)(C22:1)、ドコサペンタエン酸(C22:5w3c)と、少量のω-6脂肪酸であるアラキドン酸(C20:4w6)およびドコサテトラエン酸(C22:4w6c)も含んでいる。
【0054】
ω-3オルニチン塩(ω-3-orn)は、約29重量%のL-オルニチンと、約70重量%の多価不飽和脂肪酸と、からなる。組成物中の主要な多価不飽和脂肪酸は、ω-3脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(C20:5w3c)(EPA)とドコサヘキサエン酸(C22:6w3c)(DHA)であり、合計すると組成物の約54重量%になる。この組成物は、少量のドコサエン酸異性体(エルカ酸を含む)(C22:1)、ドコサペンタエン酸(C22:5w3c)と、少量のω-6脂肪酸であるアラキドン酸(C20:4w6)およびドコサテトラエン酸(C22:4w6c)も含んでいる。
【0055】
K+の塩と、K+とリジンの混合塩(50:50)と、オルニチンとリジンの混合塩(50:50)と、は、上記のPUFA組成物を使用して、国際公開公報第2016/102323A1号に記載されているような噴霧造粒によって調製した。Mg2+の塩と、Mg2+とリジンの混合塩(50:50)と、は、上記のPUFA組成物を使用して、国際公開公報第2017/202935A1号に記載されているような混練によって調製した。
【0056】
実験例1~6(比較例):ベナゼプリル錠の崩壊に対する一般的に使用される潤滑剤の効果
一般的に使用される潤滑剤(例:ステアリン酸マグネシウム(2~3%)、およびルブリタブ(Lubritab)(5~10%))を推奨範囲で使用するプロトタイプ薬として、ベナゼプリルHCl使用した。ベナゼプリル錠を直接圧縮により調製した。galenIQ 721を20#篩に通し、ベナゼプリルHClを60#篩に通し、潤滑剤(ステアリン酸マグネシウムまたはルブリタブ)を80#篩に通した。ベナゼプリルとgalenIQ 721を10分間混合した。その後、必要量の潤滑剤を添加して1分間混合した(*一部のバッチでは、混合時間は、潤滑剤を添加した後5分間であった)。調製した混合物の圧縮を、8mm円形両凸パンチを使用して、平均錠剤重量200mgで実施した(錠剤配合物を表1に示す)。
表1:ベナゼプリル錠の配合(成分量は重量%で示す。)
【0057】
【0058】
一般的に使用される潤滑剤の濃度と混合時間は、錠剤の崩壊時間に悪影響を及ぼす。崩壊時間は、混合時間の増加、および潤滑剤であるステアリン酸マグネシウムの濃度の増加とともに増加した(表2)。
表2:打錠試験の結果
【0059】
【0060】
実験例7(比較例):ステアリン酸およびパルミチン酸含有量の定量化
脂肪酸の金属塩は、製薬業界で潤滑剤として一般的に使用されており、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、およびステアリン酸亜鉛が脂肪酸の三大金属塩である。ステアリン酸マグネシウムが最も頻繁に使用されているが、ω-3脂肪酸塩と組み合わせて使用すると、溶液中のステアリン酸とパルミチン酸の濃度が上昇する。この効果を詳細に分析した。
【0061】
ステアリン酸マグネシウムのみから、水中におけるステアリン酸およびパルミチン酸を定量化するために、1mgのステアリン酸マグネシウムを、高剪断均質化状態下で水中に添加し、連続均質化状態下で15分間混合した。均質化後、調製した分散液を遠心分離して、より大きな粒径を除去した。次に、上澄み溶液を0.2ミクロンのナイロンシリンジフィルターで濾過し、濾液のステアリン酸およびパルミチン酸含有量を分析した。
【0062】
ω-3脂肪酸塩と組み合わせたステアリン酸マグネシウムからの、水中におけるステアリン酸およびパルミチン酸を定量化するために、1gのステアリン酸マグネシウムと、10gのω-3脂肪酸リジン塩(ω-3-lys)と、を高剪断均質化状態下で水中に添加し、連続均質化状態下で15分間混合した。均質化後、調製した分散液を遠心分離して、より大きな粒径を除去した。次に、上澄み液を0.45μm(B1)または0.2μm(B2)のナイロンシリンジフィルターで濾過し、濾液のステアリン酸およびパルミチン酸含有量を分析した。結果を表3に示す。
表3:ω-3脂肪酸塩との混合物中のステアリン酸およびパルミチン酸の定量化(成分量は重量%で示す。)
【0063】
【0064】
実験例1~6(実施例):ベナゼプリル錠の崩壊に対するω-3アミノ酸塩の効果
2~10%の範囲で潤滑剤としてω-3リジン塩を使用するプロトタイプ薬として、ベナゼプリルHClを使用した。ベナゼプリル錠を直接圧縮により調製した。galenIQ 721を20#篩に通し、ベナゼプリルHClを60#篩に通し、ω-3リジン塩を80#篩に通した。ベナゼプリルとgalenIQ 721を混合した後、ω-3リジン塩を添加して1分間混合した(*一部のバッチでは、混合時間は、潤滑剤を添加した後5分間または10分間であった)。調製した混合物の圧縮を、8mm円形両凸パンチを使用して、平均錠剤重量200mgで実施した(錠剤配合物を表4に示す)。
表4:ベナゼプリル錠の配合(成分量は重量%で示す。)
【0065】
【0066】
【0067】
表5に示すように、ω-3リジン塩の濃度と混合時間は、錠剤の崩壊時間に何ら悪影響を与えなかった。崩壊時間は、混合時間の増加、および錠剤中のω-リジン塩の増加に伴って増加しなかった。5分ではなく、10分の混合時間では、水中での崩壊時間について同じ値(8分)が得られた。
【0068】
実験例7~13(実施例):ジルチアゼム錠の崩壊に対するω-3アミノ酸塩の効果
すべての錠剤を直接圧縮により調製した。すべての賦形剤を20#篩に通し、ジルチアゼムHClを60#篩に通し、当該成分を5分間混合した(表6)。次に、調製した混合物の圧縮を、シングルロータリー式錠剤圧縮機を使用して実施した。
表6:ジルチアゼム錠の配合(成分量は重量%で示す。)
【0069】
【0070】
潤滑剤濃度を上げ、表5の組成物を使用して打錠試験を実施した。すべての試験において、パンチサイズは11mm、平均重量は550mg、圧縮力は5.0~7.0kNであった。
表7:打錠試験の結果
【0071】
【0072】
比較例では、錠剤は形成されなかった。ダイ壁への付着が観察され、圧縮後に錠剤が2つに割れた。さらに、1分間の圧縮後に放出力が大幅に増加し(開始時から111N増加)、それ以上の打錠は不可能であった。潤滑剤としてω-3リジン塩を使用している間、放出力の増加は5N未満のままであり、最大放出力はわずか103Nであり、崩壊時間は許容範囲内であった。結果を表7にまとめている。
【0073】
錠剤中のω-3脂肪酸塩濃度が0.5重量%と低くても最適な放出力が得られるが、30分未満の崩壊時間では濃度は最大約50重量%になる。
【0074】
実験例14~18(実施例):様々な種類の賦形剤とAPIを含む潤滑剤としてのω-3脂肪酸の塩
すべての錠剤を直接圧縮により調製した。賦形剤を20#篩に通し、APIを60#篩に通し、ω-3脂肪酸塩を100#篩に通した。ω-3リジンまたはアルギニン塩を除くすべての成分を10分間混合し、続いてω-3塩を添加し、1分間混合した。次に、表8に示すようにして調製した混合物の圧縮を、シングルロータリー式錠剤圧縮機を使用して実施した。
表8:錠剤の配合(成分量は重量%で示す。)
【0075】
【0076】
【0077】
配合中に潤滑剤がない場合、放出力が増加した(比較例)。実行時間の5分以内に開始時から放出力が90N増加し、それ以上の処理はできなかった。比較例では錠剤が形成されたが、放出力の増加により、打錠機は数錠を打錠した後に停止するだろう。
【0078】
すべての錠剤配合物において、ω-3リジンまたはアルギニン塩を潤滑剤として使用した場合、錠剤圧縮時に放出力は増加しなかった。さらに、水中での崩壊時間は、様々な溶解度を有する様々な種類の賦形剤とAPIを使用した場合、10分未満であった。結果を表9にまとめている。
【0079】
実験例19~24(実施例):ジルチアゼム錠の潤滑剤としてのω-3脂肪酸の様々な塩
EPAとDHAのマグネシウム塩(Mg塩)、EPAとDHAのカリウム塩(K塩)、EPAとDHAのオルニチン塩、ならびにEPAとDHAのマグネシウム塩とリジン塩の混合物(50%マグネシウム塩および50%リジン塩)、EPAとDHAのカリウム塩とリジン塩の混合物(50%カリウム塩および50%リジン塩)、およびEPAとDHAのオルニチン塩とリジン塩の混合物(50%オルニチン塩および50%リジン塩)など、様々なω-3脂肪酸塩を潤滑剤として使用した。
【0080】
すべての錠剤を直接圧縮により調製した。賦形剤を20#ASTM篩に通し、APIを60#ASTM篩に通し、ω-3脂肪酸塩をミキサーグラインダーでGalenIQ 721と混合した後、40#ASTM篩に通した。すべての材料を5分間混合した。次に、表10に示すようにして調製した混合物の圧縮を、シングルロータリー式錠剤圧縮機を使用して実施した。すべての試験において、パンチサイズは11mm、平均重量は550mg、圧縮力は5.0~8.0kNであった。
表10:ジルチアゼム錠の配合(成分量は重量%で示す。)
【0081】
【0082】
【0083】
比較例では、錠剤は形成されなかった。ダイ壁への付着が観察され、圧縮後に錠剤が2つに割れた。さらに、1分間の圧縮後、放出力が大幅に増加し(開始時と比較して111N増加)、それ以上の打錠は不可能であった。
【0084】
潤滑剤として様々な種類のω-3塩を使用している間、放出力の増加は12 N未満のままであり、最大放出力はわずか120Nであり、崩壊時間は許容範囲内であった。結果を表11にまとめている。
【0085】
実験例25(実施例):C18:0脂肪酸のカルシウム塩(ステアリン酸カルシウム)と比較したω-3脂肪酸リジン塩の顕微鏡分析
少量のC18:0脂肪酸のカルシウム塩またはω-3脂肪酸リジン塩をスライドガラス上に置き、スライド全体に均一に広げた。準備したスライドを、カメラ(Zeiss)を備えたデジタル顕微鏡に取り付け、次に、4X、10X、40Xなどの様々な倍率で粒子に焦点を合わせた。粒子の形状がはっきりと見える倍率で顕微鏡画像を取得した。
図1は、倍率40XでのC18:0脂肪酸カルシウム塩粒子を示し、
図2は、倍率4Xでのω-3リジン塩粒子を示している。
【0086】
C18:0脂肪酸のカルシウム塩(ステアリン酸カルシウム)の顕微鏡検査は、非常に細かい粒子の凝集と、不規則なプレート-ラメラ層のような構造と、を示している(倍率40xで見える)。
文献で報告されているように(例:T.ヤマモトら、脂肪酸のカルシウム塩の潤滑性および殺菌性:不飽和度の影響、Journal of Oleo Science 64、(10)1095~1100頁、2015年)、C18:0脂肪酸のカルシウム塩の潤滑効果は、ラメラ層の開裂と粉末凝集体の崩壊とによるものである。構造系のこの分裂により、固体表面間の摩擦力が吸収される。これに加えて、C18:0脂肪酸のカルシウム塩の疎水性により、粒子間の接着性が低下し、潤滑効果が得られる。
【0087】
対照的に、ω-3脂肪酸リジン塩の顕微鏡検査は、球状の大きな粒子を示している(倍率4Xで見える)。C18:0脂肪酸のカルシウム塩とは逆に、ω-3脂肪酸リジン塩は水溶性かつ親水性であり、粒子形態が異なる。結果は、本発明に係るω-3塩の潤滑効果が新しく、当該潤滑効果は、C18:0脂肪酸のカルシウム塩について文献に報告されているような粒径形態および疎水性とは無関係であることを示唆している。
【0088】
実験例26(実施例):C18:0脂肪酸のカルシウム塩(ステアリン酸カルシウム)と比較したω-3脂肪酸リジン塩の示差走査熱量測定(DSC)分析
ω-3脂肪酸リシン塩と、C18:0脂肪酸のカルシウム塩と、のサンプル(5~10mg)を、気密蓋を圧着したアルミニウム鍋に入れ、DSC(TA Instruments社、米国、Q20モデル)を使用して、毎分10℃の速度で0℃から180℃まで加熱した。窒素を毎分50mLの流動速度でパージガスとして使用した。標準インジウムサンプルを使用して、温度と熱流のキャリブレーションを行った。
図3は、ω-3脂肪酸リジン塩とC18:0脂肪酸のカルシウム塩とのDSCサーモグラムを示している。
【0089】
C18:0脂肪酸のカルシウム塩(ステアリン酸カルシウム)のDSC分析は、130℃で鋭い融解ピークを示している。このような鋭い融解ピークは、材料の結晶性を示している。C18:0脂肪酸のカルシウム塩の結晶構造は、文献(例:T.ヤマモトら、脂肪酸のカルシウム塩の潤滑性および殺菌性:不飽和度の影響、Journal of Oleo Science 64、(10)1095~1100頁、2015年)で報告されているように潤滑特性に関与している。一方、ω-3脂肪酸リジン塩の場合、鋭いピークは観察されなかった。これは、材料のアモルファス性を示しており、アモルファス性は、潤滑効果を提供するのに適していないと文献で強調されている。