(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】プロセスモニタ及びプロセスモニタ方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/268 20060101AFI20241203BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20241203BHJP
G01J 5/00 20220101ALI20241203BHJP
G01J 5/60 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
H01L21/268 T
H01L21/265 602C
G01J5/00 101C
G01J5/60 E
(21)【出願番号】P 2022509437
(86)(22)【出願日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2021007107
(87)【国際公開番号】W WO2021192801
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2020052662
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 哲平
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-131430(JP,A)
【文献】特開2007-263583(JP,A)
【文献】特開2010-225613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/268
H01L 21/265
G01J 5/00
G01J 5/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニール中の半導体部材からの輻射光の、相互に異なる複数の波長域の強度を別々に検出する光検出器と、
前記光検出器で検出された複数の波長域の強度に基づいて、アニールによって変化する前記半導体部材に関わる物理量を求める処理装置と
を有
し、
前記半導体部材からのアニール用の光の波長域の光が前記光検出器に入射しない構成とされているプロセスモニタ。
【請求項2】
前記光検出器は、レーザビームの入射によって表層部が加熱されている前記半導体部材からの輻射光を検出し、
前記処理装置は、アニールによって変化する前記半導体部材に関わる物理量として、前記半導体部材の最表面の到達温度を求める請求項1に記載のプロセスモニタ。
【請求項3】
アニール中の半導体部材からの輻射光の、相互に異なる複数の波長域の強度を別々に検出する光検出器と、
前記光検出器で検出された複数の波長域の強度に基づいて、アニールによって変化する前記半導体部材に関わる物理量を求める処理装置と
を有し、
前記光検出器は、レーザビームの入射によって表層部が加熱されている前記半導体部材からの輻射光を検出し、
前記処理装置は、アニールによって変化する前記半導体部材に関わる物理量として、前記半導体部材の最表面の到達温度を求め、
前記半導体部材の表面におけるレーザビームのビームスポットは一方向に長い長尺形状を有し、
前記光検出器は、複数の波長域の輻射光の強度を別々に検出する複数の受光部を含み、
さらに、前記半導体部材の表面を結像させる結像光学系を有し、
前記複数の受光部は、前記半導体部材の表面上のビームスポットの、前記結像光学系による像の長手方向に関して異なる位置に配置されてい
るプロセスモニタ。
【請求項4】
前記複数の受光部は、それぞれピーク感度波長が異なる光センサを含む請求項
3に記載のプロセスモニタ。
【請求項5】
前記複数の受光部は、それぞれ分光感度特性が同一の光センサと、通過波長域の異なるバンドパスフィルタとを含み、前記バンドパスフィルタを透過した輻射光が前記光センサに入射する請求項
3に記載のプロセスモニタ。
【請求項6】
半導体部材をアニールし、
アニール中の前記半導体部材からの輻射光の、相互に異なる複数の波長域の強度を、
前記半導体部材からのアニール用の光の波長域の光が入射しない構成とされた光検出器で別々に測定し、
測定結果に基づいて、アニールによって変化する前記半導体部材に関わる物理量を求めるプロセスモニタ方法。
【請求項7】
前記半導体部材のアニールは、前記半導体部材にレーザビームを入射させることにより行い、
前記半導体部材に関わる物理量として、前記半導体部材の最表面の到達温度を求める請求項6に記載のプロセスモニタ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体部材のアニールによって変化する物理量を求めるプロセスモニタ及びプロセスモニタ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドーパントが注入され、活性化アニールされた半導体ウエハの活性化状態の面内分布を把握する方法の一例として、シート抵抗の測定が行われている。シート抵抗の面内分布からドーパントの活性化状態を評価することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シート抵抗の測定には、一般に四探針法が用いられる。四探針法によるシート抵抗の測定は、アニール後に、活性化アニール装置とは別の装置で行われる。このため、シート抵抗の測定はオフライン作業となり、手間が掛かる。また、半導体ウエハに探針を接触させなければならないため、半導体ウエハがダメージを受ける。また、アニール結果の良否を判定するために、アニール中における半導体ウエハの温度を測定したいという要請がある。
【0005】
本発明の目的は、アニールによって変化する半導体部材に関わる物理量を、半導体部材にダメージを与えることなく計測することが可能なプロセスモニタ及びプロセスモニタ方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、
アニール中の半導体部材からの輻射光の、相互に異なる複数の波長域の強度を別々に検出する光検出器と、
前記光検出器で検出された複数の波長域の強度に基づいて、アニールによって変化する前記半導体部材に関わる物理量を求める処理装置と
を有し、
前記半導体部材からのアニール用の光の波長域の光が前記光検出器に入射しない構成とされているプロセスモニタが提供される。
【0007】
本発明の他の観点によると、
半導体部材をアニールし、
アニール中の前記半導体部材からの輻射光の、相互に異なる複数の波長域の強度を、前記半導体部材からのアニール用の光の波長域の光が入射しない構成とされた光検出器で別々に測定し、
測定結果に基づいて、アニールによって変化する前記半導体部材に関わる物理量を求めるプロセスモニタ方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
半導体部材からの輻射光を検出して、アニールによって変化する半導体部材の物理量を求めるため、半導体部材にダメージを与えることがない。さらに、複数の波長域の輻射光の強度を別々に測定することにより、物理量の計測精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例によるプロセスモニタを搭載したレーザアニール装置の概略図である。
【
図2】
図2Aは、光検出器、及び輻射光の経路に配置されている光学部品の一構成例を示す概略図であり、
図2Bは、光検出器、及び輻射光の経路に配置されている光学部品の他の構成例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、レーザ光源から出力されるパルスレーザビームのパルス、及び光検出器の2つの受光部の出力信号波形の一例を示すグラフである。
【
図4】
図4A及び
図4Bは、半導体ウエハにパルスレーザビームを入射させたときの、深さ方向の温度分布の一例を示すグラフである。
【
図5】
図5A~
図5Dは、パルスレーザビームのパルス幅を一定にし、パルスエネルギを異ならせた場合の深さ方向の温度分布を示すグラフである。
【
図6】
図6は、パルスエネルギに対して2つの受光部の出力値の一例をプロットした散布図を曲線近似したグラフである。
【
図7】
図7は、実施例によるプロセスモニタを搭載したレーザアニール装置を用いて半導体ウエハのレーザアニールを行う手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1~
図7を参照して、実施例によるプロセスモニタ及びプロセスモニタ方法について説明する。
【0011】
図1は、実施例によるプロセスモニタを搭載したレーザアニール装置の概略図である。このレーザアニール装置は、レーザ光学系10、チャンバ30、光検出器20、処理装置40、記憶装置41、出力装置42、及び入力装置43を含む。プロセスモニタの機能は、光検出器20及び処理装置40等によって実現される。
【0012】
レーザ光学系10は、レーザ光源11、均一化光学系12、及び折り返しミラー13を含む。レーザ光源11は、赤外域のレーザビームを出力する。レーザ光源11として、例えば発振波長808nmのレーザダイオードを用いることができる。均一化光学系12は、レーザ光源11から出力されたレーザビームのビームプロファイルを均一化する。折り返しミラー13は、均一化光学系12を通過したレーザビームを下方に向けて反射する。
【0013】
チャンバ30の天板にレーザビームを透過させるウィンドウ32が設けられており、チャンバ30内にステージ31が配置されている。ステージ31の上に、アニール対象物である半導体ウエハ35が保持される。半導体ウエハ35の表層部にドーパントが注入されている。ドーパントの注入には、例えばイオン注入法が用いられる。アニール前においては、このドーパントは活性化されていない。半導体ウエハ35として、例えばシリコンウエハを用いることができる。ドーパントとして、例えばリン(P)、ヒ素(As)、ボロン(B)等を用いることができる。
【0014】
レーザ光学系10から出力されたレーザビームが、ダイクロイックミラー25及びウィンドウ32を透過して、ステージ31に保持された半導体ウエハ35に入射する。レーザビームの経路に、必要に応じてミラー、レンズ等を配置してもよい。半導体ウエハ35の表面におけるレーザビームのビームスポットは一方向に長い長尺形状を有し、例えば長さが約3mm~5mm、幅が約0.1mm~0.3mmである。半導体ウエハ35にレーザビームが入射することにより、ビームスポットの位置において、半導体ウエハ35の表層部が加熱される。ステージ31は、処理装置40によって制御されて、半導体ウエハ35を、その表面に平行な二方向に移動させる。半導体ウエハ35の表面上で、ビームスポットを、その幅方向に走査し長さ方向に副走査することにより、半導体ウエハ35の上面のほぼ全域をレーザアニールすることができる。
【0015】
レーザビームが半導体ウエハ35に入射すると、入射位置の表層部が加熱されることにより、ドーパントが活性化される。加熱された部分から輻射光が放射される。半導体ウエハ35から放射された輻射光の一部は、ダイクロイックミラー25で反射されて光検出器20に入射する。ダイクロイックミラー25は、例えば1μmより短い波長域の光を透過させ、1μmより長い波長域の光を反射する。半導体ウエハ35から光検出器20までの輻射光の経路に、必要に応じてレンズ、光学フィルタ等を配置してもよい。光検出器20及び輻射光の経路上の光学部品については、後に
図2A、
図2Bを参照して説明する。
【0016】
処理装置40は、パルスレーザビームの各ショットに同期して、光検出器20から出力された検出信号を取得する。さらに、取得された検出信号の大きさ(出力値)を、半導体ウエハ35の面内の位置と関連付けて記憶装置41に記憶させる。一例として、パルスレーザビームの1ショットごとに、輻射光の強度の時間変化に対応して出力値の時間波形が得られる。記憶装置41に蓄積される出力値は、例えば、パルスレーザビームの1ショットごとの時間波形のピーク値である。
【0017】
プロセスモニタ及びレーザアニール装置の動作を指令するための種々のコマンドやデータが、入力装置43を通して処理装置40に入力される。処理装置40は、プロセスモニタによるモニタ結果を出力装置42に出力する。
【0018】
図2Aは、光検出器20、及び輻射光の経路に配置されている光学部品の一構成例を示す概略図である。半導体ウエハ35の表面に入射したパルスレーザビームのビームスポット37に対応する領域から輻射光が放射される。放射された輻射光は、2枚のレンズ26を通して光検出器20に入射する。例えば、2枚のレンズ26のうち一方は、ダイクロイックミラー25(
図1)と半導体ウエハ35との間に配置され、他方は、ダイクロイックミラー25と光検出器20との間に配置される。2枚のレンズ26は、半導体ウエハ35の表面上のビームスポット37を、光検出器20が配置された位置に結像させる結像光学系を構成する。すなわち、半導体ウエハ35の表面と光検出器20の受光面とは、物面と像面の関係を有する。
【0019】
光検出器20は、輻射光の強度を別々に検出する2つの受光部21を含む。2つの受光部21は、ビームスポット37の像38の長手方向に関して異なる位置に配置されている。2つの受光部21は、それぞれピーク感度波長が相互に異なる光センサ22を含む。光センサ22の各々は、赤外の波長域に感度を持ち、入射する輻射光の強度に応じた大きさの信号(電圧)を出力する。2つの光センサ22から出力された信号が処理装置40に入力される。
【0020】
図2Bは、光検出器20、及び輻射光の経路に配置されている光学部品の他の構成例を示す概略図である。
図2Aに示した構成例では、2つの受光部21が、それぞれピーク感度波長の異なる光センサ22を含む。これに対して
図2Bに示した構成例では、2つの受光部21が、それぞれ分光感度特性が同一の光センサ22と、通過波長域の異なるバンドパスフィルタ23とを含む。バンドパスフィルタ23を透過した輻射光が光センサ22に入射する。このため、2つの受光部21のピーク感度波長が異なることになる。
【0021】
図3は、レーザ光源11から出力されるパルスレーザビームのパルス、及び光検出器20の2つの受光部21の出力信号波形の一例を示すグラフである。時刻t1においてレーザパルスが立ち上がると、半導体ウエハ35の表層部の温度上昇に対応して受光部21の出力値が徐々に上昇する。時刻t2においてレーザパルスが立ち下がると、半導体ウエハ35の表層部の温度低下に対応して受光部21の出力値が徐々に低下する。時刻t1からt2までのレーザパルスによる受光部21の出力のピーク強度Vpが、受光部21ごとに記憶装置41に蓄積される。通常、このピーク強度Vpは、2つの受光部21の間で異なっている。
【0022】
次に、
図4A~
図5Dを参照して本実施例の優れた効果について説明する。
図4A及び
図4Bは、半導体ウエハ35にパルスレーザビームを入射させたときの、レーザパルス立下り時点における深さ方向の温度分布の一例を示すグラフである。
図4A及び
図4Bのグラフの横軸は、半導体ウエハ35の表面からの深さを表し、縦軸は、温度を表す。
図4A及び
図4Bの実線及び破線は、それぞれパルスエネルギが同一でパルス幅が相対的に長いレーザパルス、及び相対的に短いレーザパルスを入射させたときの温度分布を示す。
【0023】
パルスエネルギが同一である場合、パルス幅が短くなる程ピークパワーが大きくなる。このため、パルス幅が短いときの最表面(深さゼロの位置)の温度TSは、パルス幅が長いときの最表面の温度TLより高くなる。パルス幅が長くなると、レーザパルスが入射している期間中に深さ方向に伝導される熱量が大きくなる。逆に、パルス幅が短くなると、レーザパルスが入射している期間中に深さ方向に伝導される熱量が小さくなる。パルス幅に関係なく表面からの深さが深くなるほど温度は低下するが、パルス幅が短いほど深さ方向に伝導される熱量が小さくなるため、温度の低下の度合いは、パルス幅が短いときの方が大きい。このため、ある深さDaより深い領域では、パルス幅が長いときの温度が短いときの温度より高くなる。
【0024】
最表面から放射された輻射光は、半導体ウエハ35で吸収されることなく、光検出器20まで到達する。これに対して、深い領域から放射された輻射光の一部は、光検出器20に到達するまでに、半導体ウエハ35自体によって吸収される。吸収される量は、半導体ウエハ35の吸収係数に依存する。この吸収係数は波長に依存する。吸収係数が大きい波長域の輻射光は、半導体ウエハ35の深い領域から外部まで放射されにくい。
【0025】
以下の説明では、輻射光の吸収現象を単純化して、一方の受光部21は、深さD1より浅い領域から放射された輻射光を検出し、他方の受光部21は、深さD2(D2<D1)より浅い領域から放射された輻射光を検出すると仮定する。
【0026】
一方の受光部21の検出値は、
図4Aに示すように、深さD1より浅い領域のハッチングを付した部分の面積に対応して変化する。他方の受光部21の検出値は、
図4Bに示すように、深さD2より浅い領域のハッチングを付した部分の面積に対応して変化する。
【0027】
図4Aに示した例では、深さがDaより浅い領域において、パルス幅が短いときの温度分布の面積が、パルス幅が長いときの温度分布の面積より大きく、その差はAである。深さがDaからD1までの領域においては、その逆に、パルス幅が長いときの温度分布の面積が、パルス幅が短いときの温度分布の面積より大きく、その差はBである。面積Aと面積Bとが等しい場合、パルス幅が長いときの温度分布のグラフの面積S11と、パルス幅が短いときの温度分布のグラフの面積S12とがほぼ等しい。このため、深さがD1より浅い領域からの輻射光を検出する受光部21の検出値のみでは、
図4Aの実線の温度分布と破線の温度分布とを区別することができない。このため、半導体ウエハ35の最表面の最高到達温度を精度よく求めることが困難である。
【0028】
これに対して、
図4Bに示した例では、深さがDaからD2までの領域において、パルス幅が長いときの温度分布の面積が、パルス幅が短いときの温度分布の面積より大きく、その差はCである。面積Cは面積Aより小さい。このため、パルス幅が長いときの温度分布のグラフの面積S21が、パルス幅が短いときの温度分布のグラフの面積S22より小さい。面積S21と面積S22とが異なるため、深さがD2より浅い領域からの輻射光を検出する受光部21の検出値に基づいて、
図4Bの実線の温度分布と破線の温度分布とを区別することが可能である。
【0029】
本実施例のように、2つの受光部21で、異なる波長域の輻射光の強度を別々に測定することにより、深さ方向の温度分布が異なる場合の半導体ウエハ35の最表面の温度を、より正確に計測することが可能になる。
【0030】
図5A~
図5Dは、パルスレーザビームのパルス幅を一定にし、パルスエネルギを異ならせた場合の深さ方向の温度分布を示すグラフである。
図5A~
図5Dのグラフの横軸は半導体ウエハ35の表面からの深さを表し、縦軸は温度を表す。
【0031】
図5A及び
図5Bは、半導体ウエハ35の最表面の温度が融点を超えないパルスエネルギE1、E2(E1<E2)の条件でパルスレーザビームを1ショット入射させたときの温度分布を示す。最表面における温度が最も高く、深くなるに従って温度が低くなる。パルスエネルギがE1からE2に大きくなると、半導体ウエハ35の各深さにおける温度は上昇するが、温度分布の形状はほぼ保たれている。
【0032】
深さがD1より浅い領域からの輻射光を検出する受光部21から出力される信号のピーク強度Vp(
図3)は、パルスエネルギE1のときに面積S11(
図5A)に相当する大きさになり、パルスエネルギE2のときに面積S11(
図5A)と増分ΔS11(
図5A)との和に相当する大きさになる。深さがD2より浅い領域からの輻射光を検出する受光部21から出力される信号のピーク強度Vp(
図3)は、パルスエネルギE1のときに面積S21(
図5B)に相当する大きさになり、パルスエネルギE2のときに面積S21(
図5B)と増分ΔS21(
図5B)との和に相当する大きさになる。
【0033】
図5C及び
図5Dは、半導体ウエハ35の最表面の温度が融点以上になるパルスエネルギE3、E4(E3<E4)の条件でパルスレーザビームを1ショット入射させたときの温度分布を示す。パルスエネルギがE3の条件で、半導体ウエハ35の最表面の温度が融点に達する。パルスエネルギがE4の条件では、半導体ウエハ35の表層部が溶融する。半導体ウエハ35の表層部の溶融が始まると、最表面の温度はほぼ融点に固定される。このため、パルスエネルギがE3のときとE4のときとで、最表面の温度はほぼ同一である。溶融していない深い領域の温度は、パルスエネルギの増大とともに上昇するため、パルスエネルギがE4のときの温度が、パルスエネルギがE3のときの温度より高い。
【0034】
深さがD1より浅い領域からの輻射光を検出する受光部21から出力される信号のピーク強度Vp(
図3)は、パルスエネルギE3のときに面積S11(
図5C)に相当する大きさになり、パルスエネルギE4のときに面積S11(
図5C)と増分ΔS11(
図5C)との和に相当する大きさになる。深さがD2より浅い領域からの輻射光を検出する受光部21から出力される信号のピーク強度Vp(
図3)は、パルスエネルギE3のときに面積S21(
図5D)に相当する大きさになり、パルスエネルギE4のときに面積S21(
図5D)と増分ΔS21(
図5D)との和に相当する大きさになる。なお、ここでは、単純化のために、溶融状態の半導体からの輻射率と固体状態の半導体からの輻射率との違いを考慮していない。
【0035】
半導体ウエハ35の最表面の溶融が始まると、パルスエネルギを増加させても最表面の温度はほとんど上昇しないため、面積S11に対する増分ΔS11の割合(
図5C)、及び面積S21に対する増分ΔS21の割合(
図5D)は、溶融しない場合の割合(
図5A、
図5B)より小さくなる。すなわち、パルスエネルギの増加分に対する受光部21の出力値の変化の傾きが緩やかになる。この傾きが緩やかになり始めるときのパルスエネルギが、溶融開始のエネルギ条件と考えることができる。半導体ウエハ35を溶融させない条件で、なるべく高い温度でアニールするために、この溶融開始のエネルギ条件を精度よく見つけ出すことが望まれる。
【0036】
図6は、パルスエネルギに対して2つの受光部21の出力値をプロットした散布図を曲線近似したグラフである。深さがD1、D2より浅い領域からの輻射光を検出する受光部21の検出値を、それぞれ太い曲線D1及び細い曲線D2で示す。
【0037】
図6に示した散布図において、パルスエネルギがE1の条件で溶融が始まるとする。溶融が始まった条件の近傍でグラフの傾きが変化するが、明確な折れ曲がり点は現れない。このため、1つの受光部21の測定結果から、溶融が開始する条件を精度よく見つけ出すことは困難である。
【0038】
溶融開始後において、面積S11(
図5C)、S21(
図5D)に対する増分ΔS11(
図5C)、ΔS21(
図5D)の比は、それぞれ溶融開始前における面積S11(
図5A)、S21(
図5B)に対する増分ΔS11(
図5A)、ΔS21(
図5B)の比より小さくなっている。このため、パルスエネルギがE1を超えるとグラフの傾きが緩やかになる。ただし、面積S21に対する増分ΔS21の比が小さくなる度合いの方が、面積S11に対する増分ΔS11の比が小さくなる度合いより大きい。これは、深さD2より浅い領域において、温度上昇が抑制されているためである。このため、
図6に示したグラフにおいて、パルスエネルギがE1を超えた時点でグラフの傾きが緩やかになる度合いは、曲線D2の方が曲線D1より大きい。
【0039】
曲線D1と曲線D2とで傾きが緩やかになる度合いが異なるため、パルスエネルギを変化させたときの2つの受光部21の出力値の変化を対比させることにより、溶融開始の条件を満たすパルスエネルギ、及びそのときの受光部21の出力値を、より精度よく特定することができる。例えば、パルスエネルギに対して曲線D1で示される値と曲線D2で示される値との差と、パルスエネルギとの関係から、溶融開始時点のパルスエネルギE1を、より精度よく特定することができる。
【0040】
溶融開始の条件を満たすパルスエネルギ、及びそのときの受光部21の出力値の特定精度を高めるために、2つの受光部21のピーク感度波長における半導体ウエハ35の吸収係数の差を大きくすることが好ましい。例えば、大きい方の吸収係数が小さい方の吸収係数の2倍以上になる条件を満たすように、2つの受光部21のピーク感度波長を設定するとよい。
【0041】
半導体ウエハ35がシリコンである場合、最表面の温度情報を読み取るために、一方の受光部21のピーク感度波長を、シリコンにとって透明でない波長、例えば1μm以下とすることが好ましい。例えば、波長400nm以上800nm以下の可視光の波長域、または波長900nm程度の近赤外線の波長域とすることが好ましい。
【0042】
図7は、実施例によるプロセスモニタを搭載したレーザアニール装置を用いて半導体ウエハ35のレーザアニールを行う手順を示すフローチャートである。
【0043】
まず、ドーパントが注入された半導体ウエハ35(
図1)をステージ31(
図1)に保持させる(ステップS1)。この手順は、例えばロボットアーム等により行われる。ステージ31は、例えば真空チャックにより半導体ウエハ35を固定する。
【0044】
半導体ウエハ35をステージ31に保持させた後、レーザ光源11からのパルスレーザビームの出力及びステージ31の移動を開始する(ステップS2)。パルスレーザビームによる半導体ウエハ35の走査中に、半導体ウエハ35からの輻射光の強度を光検出器20で測定する(ステップS3)。例えば、処理装置40が、光検出器20の出力値を取得する。
【0045】
処理装置40は、レーザビームが入射している半導体ウエハ35の面内の位置と、光検出器20の出力値とを関連付けて、記憶装置41に保存する(ステップS4)。ステップS3及びステップS4の処理を、半導体ウエハ35の表面のほぼ全域がアニールされるまで繰り返す(ステップS5)。
【0046】
半導体ウエハ35の表面のほぼ全域のアニールが終了すると、処理装置40は光検出器20の出力値に基づいて半導体ウエハ35の最表面の到達温度を算出する(ステップS6)。例えば、2つの受光部21の出力値と、半導体ウエハ35の最表面の到達温度との関係が予め求められており、記憶装置41に記憶されている。処理装置40は、半導体ウエハ35の最表面の到達温度の算出値を、半導体ウエハ35の面内の位置と関連付けて出力装置42(
図1)に出力する。例えば、半導体ウエハ35の面内における到達温度の分布を図形として表示させるとよい。
【0047】
上記実施例によるプロセスモニタを用いることにより、半導体ウエハ35の最表面の到達温度を、より高精度に求めることができる。これにより、半導体ウエハ35の最表面が溶融したか否かを高精度に判定することができる。
【0048】
次に、上記実施例の変形例について説明する。
上記実施例では、光検出器20に含まれる受光部21(
図2A、
図2B)の個数を2個としているが、光検出器20が3個以上の複数の受光部21を含むようにしてもよい。ピーク感度波長が異なる3個の以上の受光部21を配置することにより、光検出器20は、3個以上の複数の波長域の輻射光の強度を測定することができる。これにより、溶融開始の条件を満たすパルスエネルギ、及びそのときの受光部21の出力値の特定精度を高めることができる。
【0049】
上記実施例では、光検出器20の測定結果に基づいて半導体ウエハ35の最表面の到達温度を求めているが、アニールによって変化する半導体ウエハ35に関わる他の物理量を求めることも可能である。例えば、ドーパントの活性化率、シート抵抗等と、光検出器20の測定結果との関係を予め求めておくことにより、光検出器20の測定結果に基づいてこれらの物理量を求めることができる。
【0050】
上記実施例では半導体ウエハをアニール対象とているが、半導体ウエハ以外の半導体部材をアニール対象とする場合にも、実施例によるプロセスモニタを用いることができる。また、上記実施例では、半導体ウエハのアニール方法としてレーザアニールを適用しているが、その他のアニール方法を適用してもよい。例えば、ランプアニール、ファーネスアニール等を適用してもよい。なお、深さ方向に温度分布が生じるような方法でアニールを行う場合に、上記実施例によるプロセスモニタを用いることによって特に優れた効果が得られる。
【0051】
上記実施例は例示であり、実施例及び変形例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。実施例及び変形例の同様の構成による同様の作用効果については実施例及び変形例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0052】
10 レーザ光学系
11 レーザ光源
12 均一化光学系
13 折り返しミラー
20 光検出器
21 受光部
22 光センサ
23 バンドパスフィルタ
25 ダイクロイックミラー
26 レンズ
30 チャンバ
31 ステージ
32 ウィンドウ
35 半導体ウエハ
37 ビームスポット
38 ビームスポットの像
40 処理装置
41 記憶装置
42 出力装置
43 入力装置