(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】高周波回路
(51)【国際特許分類】
H05K 1/02 20060101AFI20241203BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20241203BHJP
H01P 5/08 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
H05K1/02 P
H05K1/02 C
H05K9/00 R
H01P5/08 A
(21)【出願番号】P 2022521913
(86)(22)【出願日】2021-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2021017769
(87)【国際公開番号】W WO2021230215
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2020084545
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500400216
【氏名又は名称】住友電工プリントサーキット株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】新田 耕司
(72)【発明者】
【氏名】上宮 崇文
(72)【発明者】
【氏名】山岸 傑
(72)【発明者】
【氏名】島田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 宏
(72)【発明者】
【氏名】木谷 聡志
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-041630(JP,A)
【文献】特開平04-267586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/02
H05K 9/00
H01P 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1誘電体層と、
前記第1誘電体層上に設けられており、高周波信号の伝送路と前記伝送路の周囲に配置されたグランドパターンとを備える回路層と、
前記第1誘電体層との間に前記回路層が位置するように設けられた第2誘電体層と、
前記回路層との間に前記第1誘電体層が位置するように設けられた第1導電体層と、
前記回路層との間に前記第2誘電体層が位置するように設けられた第2導電体層と、
前記伝送路の周囲に設けられた電磁波シールドと、
を備え、
前記電磁波シールドは、前記第1誘電体層、前記グランドパターン、前記第2誘電体層、前記第1導電体層、及び前記第2導電体層を貫通した複数の孔の内面に、グランド導電体を備えて構成されており、
前記複数の孔は、前記伝送路を囲む向きに沿って間隔をおいて設けられた複数の長孔であり、
前記複数の長孔それぞれは、前記伝送路を囲む向きに沿った長手寸法が幅寸法よりも大き
く、
前記回路層と前記第1誘電体層とは、接着剤によって接着されており、
前記接着剤の比誘電率が3よりも小さい
高周波回路。
【請求項2】
前記長手寸法は、前記幅寸法の5倍よりも大きい
請求項1に記載の高周波回路。
【請求項3】
前記長手寸法は、前記間隔よりも大きい
請求項1又は請求項2に記載の高周波回路。
【請求項4】
前記長手寸法は、前記間隔の5倍よりも大きい
請求項3に記載の高周波回路。
【請求項5】
前記複数の孔それぞれは、前記第1誘電体層、前記グランドパターン、前記第2誘電体層、前記第1導電体層、及び前記第2導電体層を連続的に貫通している
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の高周波回路。
【請求項6】
前記電磁波シールドは、前記伝送路の周囲に設けられた第1シールドと、前記第1シールドの外周側に設けられた第2シールドと、を少なくとも備え、
前記第1シールドは、前記第1誘電体層、前記グランドパターン、前記第2誘電体層、前記第1導電体層、及び前記第2導電体層を貫通した複数の第1孔の内面に、前記グランド導電体を備えて構成されており、
前記複数の第1孔は、前記伝送路を囲む向きに沿って間隔をおいて設けられた複数の第1長孔であり、
前記複数の第1長孔それぞれは、前記伝送路を囲む向きに沿った長手寸法が幅寸法よりも大きく、
前記第2シールドは、前記複数の第1孔の外周側において、前記第1誘電体層、前記グランドパターン、前記第2誘電体層、前記第1導電体層、及び前記第2導電体層を貫通した複数の第2孔の内面に、前記グランド導電体を備えて構成されており、
前記複数の第2孔は、前記伝送路を囲む向きに沿って間隔をおいて設けられた複数の第2長孔であり、
前記複数の第2長孔それぞれは、前記伝送路を囲む向きに沿った長手寸法が幅寸法よりも大きく、
前記第2シールドは、前記複数の第1長孔の間からの漏洩電磁波を遮蔽するよう配置されている
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の高周波回路。
【請求項7】
前記第1導電体層及び前記第2導電体層の少なくとも一方の表面に貼付されたカバーフィルムを更に備える
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の高周波回路。
【請求項8】
第1誘電体層と、
前記第1誘電体層上に設けられており、高周波信号の伝送路と前記伝送路の周囲に配置されたグランドパターンとを備える回路層と、
前記第1誘電体層との間に前記回路層が位置するように設けられた第2誘電体層と、
前記回路層との間に前記第1誘電体層が位置するように設けられた第1導電体層と、
前記回路層との間に前記第2誘電体層が位置するように設けられた第2導電体層と、
前記伝送路の周囲に設けられた電磁波シールドと、
を備え、
前記電磁波シールドは、前記伝送路の周囲に設けられた第1シールドと、前記第1シールドの外周側に設けられた第2シールドと、を少なくとも備え、
前記第1シールドは、前記第1誘電体層、前記グランドパターン、前記第2誘電体層、前記第1導電体層、及び前記第2導電体層を貫通した複数の第1孔の内面に、グランド導電体を備えて構成されており、
前記複数の第1孔は、前記伝送路を囲む向きに沿って間隔をおいて設けられた複数の第1長孔であり、
前記複数の第1長孔それぞれは、前記伝送路を囲む向きに沿った長手寸法が幅寸法よりも大きく、
前記第2シールドは、前記複数の第1孔の外周側において、前記第1誘電体層、前記グランドパターン、前記第2誘電体層、前記第1導電体層、及び前記第2導電体層を貫通した複数の第2孔の内面に、グランド導電体を備えて構成されており、
前記複数の第2孔は、前記伝送路を囲む向きに沿って間隔をおいて設けられた複数の第2長孔であり、
前記複数の第2長孔それぞれは、前記伝送路を囲む向きに沿った長手寸法が幅寸法よりも大きく、
前記第2シールドは、前記複数の第1長孔の間からの漏洩電磁波を遮蔽するよう配置されている
高周波回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高周波回路に関する。
本出願は、2020年05月13日付の日本国出願の特願2020-084545に基づく優先権を主張し、前記日本国出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、誘電体基板の表面グランド及び裏面グランドに電気的に接続された多数のシールドビアを備えた構造を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示のある側面は、高周波回路である。本開示の高周波回路は、第1誘電体層と、前記第1誘電体層上に設けられており、高周波信号の伝送路と前記伝送路の周囲に配置されたグランドパターンとを備える回路層と、前記第1誘電体層との間に前記回路層が位置するように設けられた第2誘電体層と、前記回路層との間に前記第1誘電体層が位置するように設けられた第1導電体層と、前記回路層との間に前記第2誘電体層が位置するように設けられた第2導電体層と、前記伝送路の周囲に設けられた電磁波シールドと、を備え、前記電磁波シールドは、前記第1誘電体層、前記グランドパターン、前記第2誘電体層、前記第1導電体層、及び前記第2導電体層を貫通した複数の孔の内面に、グランド導電体を備えて構成されており、前記複数の孔は、前記伝送路を囲む向きに沿って間隔をおいて設けられた複数の長孔であり、前記複数の長孔それぞれは、前記伝送路を囲む向きに沿った長手寸法が幅寸法よりも大きい。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、実施形態に係る高周波回路の平面図である。
【
図3】
図3は、第1導電体層、回路層、及び第2導電体層の分解斜視図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る高周波回路の製造工程の前半を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る高周波回路の製造工程の後半を示す図である。
【
図6】
図6は、高周波回路の変形例を示す平面図である。
【
図7】
図7は、比較例に係る高周波回路の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
シールドビアは、誘電体基板の厚さ方向に貫通する平面視円形のスルーホールを誘電体基板に多数形成し、スルーホール内に銅などの導電体を設けることによって形成される。シールドビアは、誘電体基板における電磁波の漏洩を防止する電磁波シールドとして用いられる。
【0007】
図7は、信号伝送路101を有する高周波回路100において、信号伝送路101を囲むように多数のシールドビア102が形成された構造の例を示している。高周波の信号伝送路101からは、不要な電磁波が放射される。電磁波は、周辺の回路にとってノイズとなり、周辺の回路の特性を劣化させる。
【0008】
信号伝送路101の周辺に多数のシールドビア102が設けられていると、多数のシールドビア102が、電磁波シールドとして機能する。この電磁波シールドによって信号伝送路101から漏洩する電磁波を遮蔽することができる。
【0009】
ただし、シールドビア102同士の間からは、電磁波の漏洩が生じるおそれがある。電磁波の漏洩をより確実に防止するため、
図7に示すように、信号伝送路101の周囲において複数列のシールドビア102を並列に配置することが考えられる。この場合、シールドビア102の数が非常に多くなるという問題が生じる。シールドビア102の数が多くなると、シールドビア102のための孔を大量に形成する必要があり、回路の製造効率を低下させる。
【0010】
一方、回路の製造効率の観点から、シールドビア102の数を少なくすると、シールドビア102同士の間から、電磁波が漏洩し易くなり、電磁波の遮蔽性が損なわれる。
【0011】
したがって、電磁波の漏洩を効率的に防止することが望まれる。
【0012】
[本開示の効果]
本開示によれば、電磁波の漏洩を効率的に防止できる。
【0013】
[1.本開示の実施形態の説明]
【0014】
(1)実施形態に係る高周波回路は、第1誘電体層と、前記第1誘電体層上に設けられており、高周波信号の伝送路と前記伝送路の周囲に配置されたグランドパターンとを備える回路層と、前記第1誘電体層との間に前記回路層が位置するように設けられた第2誘電体層と、前記回路層との間に前記第1誘電体層が位置するように設けられた第1導電体層と、前記回路層との間に前記第2誘電体層が位置するように設けられた第2導電体層と、前記伝送路の周囲に設けられた電磁波シールドと、を備える。回路層は、第1導電体層及び第2導電体層によって挟まれているため、伝送路から高周波回路の厚さ方向への電磁波の漏洩が防止される。前記電磁波シールドは、前記第1誘電体層、前記グランドパターン、前記第2誘電体層、前記第1導電体層、及び前記第2導電体層を貫通した複数の孔の内面に、グランド導電体を備えて構成されている。前記複数の孔は、前記伝送路を囲む向きに沿って間隔をおいて設けられた複数の長孔であり、前記複数の長孔それぞれは、前記伝送路を囲む向きに沿った長手寸法が幅寸法よりも大きい。電磁波シールドが形成される孔が伝送路を囲む向きに沿って長く形成されていることで、円形のシールドビアを設ける場合に比べて、孔の数を少なくしても、電磁波の漏洩を効率的に防止できる。
【0015】
(2)前記長手寸法は、前記幅寸法の5倍よりも大きいのが好ましい。孔の長手寸法を孔の幅寸法の5倍よりも大きくすることで、孔が十分に長くなり、電磁波の漏洩を効率的に防止できる。
【0016】
(3)前記長手寸法は、前記間隔よりも大きいのが好ましい。孔の長手寸法を孔の間隔よりも大きくすることで、電磁波の漏洩を効率的に防止できる。
【0017】
(4)前記長手寸法は、前記間隔の5倍よりも大きいのが好ましい。孔の長手寸法を孔の間隔の5倍よりも大きくすることで、電磁波の漏洩を効率的に防止できる。
【0018】
(5)前記複数の孔それぞれは、前記第1誘電体層、前記グランドパターン、前記第2誘電体層、前記第1導電体層、及び前記第2導電体層を連続的に貫通しているのが好ましい。連続的に貫通した孔によって、電磁波の漏洩をより確実に防止できる。
【0019】
(6)前記電磁波シールドは、前記伝送路の周囲に設けられた第1シールドと、前記第1シールドの外周側に設けられた第2シールドと、を少なくとも備え、前記第1シールドは、前記第1誘電体層、前記グランドパターン、前記第2誘電体層、前記第1導電体層、及び前記第2導電体層を貫通した複数の第1孔の内面に、前記グランド導電体を備えて構成されており、前記複数の第1孔は、前記伝送路を囲む向きに沿って間隔をおいて設けられた複数の第1長孔であり、前記複数の第1長孔それぞれは、前記伝送路を囲む向きに沿った長手寸法が幅寸法よりも大きく、前記第2シールドは、前記複数の第1孔の外周側において、前記第1誘電体層、前記グランドパターン、前記第2誘電体層、前記第1導電体層、及び前記第2導電体層を貫通した複数の第2孔の内面に、前記グランド導電体を備えて構成されており、前記複数の第2孔は、前記伝送路を囲む向きに沿って間隔をおいて設けられた複数の第2長孔であり、前記複数の第2長孔それぞれは、前記伝送路を囲む向きに沿った長手寸法が幅寸法よりも大きく、前記第2シールドは、前記複数の第1長孔の間からの漏洩電磁波を遮蔽するよう配置されているのが好ましい。この場合、電磁波の漏洩をより効率的に防止できる。
【0020】
(7)高周波回路は、前記第1導電体層及び前記第2導電体層の少なくとも一方の表面に貼付されたカバーフィルムを更に備えるのが好ましい。この場合、長孔が形成された高周波回路の強度をカバーフィルムによって確保できる。
【0021】
[2.本開示の実施形態の詳細]
【0022】
以下、図面において同一符号は同一名称物を意味する。
図1から
図6は、実施形態に係る高周波回路10を示している。実施形態に係る高周波回路10は、高周波信号伝送に用いられるフレキシブルプリントサーキット(FPC)として構成されている。FPCは、薄く柔らかい絶縁体ベースフィルムに銅箔などの導体が貼り付けられた構造を持つ。なお、高周波回路10は、FPCに限られず、リジット基板に形成された回路であってもよい。
【0023】
図2に示すように、実施形態に係る高周波回路10は、第1誘電体層11と回路層21と第2誘電体層12と第1導電体層31と第2導電体層32と電磁波シールド150とを備える。実施形態に係る高周波回路10は、3層の導電体層を有する多層構造を持つ。なお、導電体層の数は、特に限定されず、2層、4層、5層、又はそれ以上であってもよい。
図2において、3層の導電体層のうち中間に配置されている導電体層は、高周波の伝送路21Aを有する回路層21である。回路層21の厚さ方向の一方側である
図2の下側には3層の導電体層のうちの一つである第1導電体層31が配置されている。回路層21の厚さ方向の他方側である
図2の上側には3層の導電体層のうちの残り一つである第2導電体層32が配置されている。
【0024】
図3に示すように、回路層21は、伝送路21Aと、伝送路21Aの周囲に位置するグランドパターン21Bと、を有する。伝送路21Aとグランドパターン21Bとの間は、エッチングにより除去されており、伝送路21Aとグランドパターン21Bとは絶縁されている。なお、
図3において、伝送路21Aは、直線状に形成されているが、屈曲形成されていてもよい。伝送路21Aの周囲には、後述の電磁波シールド150のための孔151の一部となる孔21Cが形成されている。
【0025】
図2に示すように回路層21と第1導電体層31との間には第1誘電体層11が設けられている。すなわち、回路層21は、第1誘電体層11上に設けられている。換言すると、回路層21は、第1誘電体層11を介して、第1導電体層31よりも上に設けられている。なお、回路層21と第1誘電体層11とは接着剤60を介して接着されている。
図3に示すように第1導電体層31は、後述の電磁波シールド150のための孔151の一部となる孔31Cを除き、ほぼ全面がグランドパターン31Bによって構成されている。つまり、第1導電体層31は、グランド層である。
【0026】
接着剤60は、柔軟性や耐熱性に優れたものが好ましい。接着剤60は、例えば、変性ポリフェニレンエーテル系、スチレン樹脂系、エポキシ樹脂系、ブチラール樹脂系、アクリル樹脂系等、各種樹脂系の接着剤である。
【0027】
接着剤60の主成分は、熱硬化性樹脂が好ましい。接着剤60の主成分とされる熱硬化性樹脂の硬化温度の下限は、120℃が好ましく、150℃がより好ましい。接着剤60の主成分とされる熱硬化性樹脂の硬化温度の上限は、250℃が好ましく、230℃がより好ましく、200℃がさらに好ましい。接着剤60の主成分とされる熱硬化性樹脂の硬化温度が上記下限よりも大きいと、接着剤60の取り扱いが容易である。接着剤60の主成分とされる熱硬化性樹脂の硬化温度が上記上限よりも小さいと、接着剤60を硬化させる際に、接着剤60により接着される層の熱変形を抑制することができる。上記熱変形の抑制によって高周波回路10の寸法精度の低下を抑制することができる。
【0028】
接着剤60の比誘電率の下限は、小さいほど好ましいが、絶縁性、機械的強度等の他の条件を満たすために、現実的には1.5が限界と考えられる。接着剤60の比誘電率の上限は例えば3であり、2.8が好ましく、2.6がより好ましい。また、接着剤60の比誘電率が上記上限よりも小さいと、高周波回路10で高周波信号を伝送する場合に誘電損失を抑制することができる。
【0029】
図2に示すように回路層21と第2導電体層32との間には、第2誘電体層12が設けられている。すなわち、第2誘電体層12は、第1誘電体層11との間に回路層21が位置するように設けられている。
図3に示すように第2導電体層32は、高周波信号の伝送路32Aと、電磁波シールド150のための孔151の一部となる孔32Cと、を除き、ほぼ全面がグランドパターン32Bによって構成されている。つまり、第2導電体層32は、グランド層である。
【0030】
図2に示すように、回路層21の上下両側、即ち
図2のZ方向両側には、グランド層として機能する第1導電体層31及び第2導電体層32が設けられている。したがって、伝送路21Aから放射される電磁波のうち、高周波回路10の厚さ方向両側、即ち
図2のZ方向両側に放射される電磁波は、第1導電体層31及び第2導電体層32によって遮蔽される。
【0031】
伝送路21Aから放射される電磁波には、
図2のXY平面に平行な方向に放射されるものものある。XY平面に平行な方向に放射される電磁波は、第1導電体層31及び第2導電体層32では遮蔽できず、第1誘電体層11及び第2誘電体層12を通って、高周波回路10外へ漏洩するおそれがある。そこで、実施形態の高周波回路10は、XY平面に平行な方向に放射される電磁波を遮蔽するための電磁波シールド150を備える。なお、XY平面は、高周波回路10の厚さ方向に垂直な平面である。Z方向は、高周波回路10の厚さ方向であり、上述の導電体層の多層構造における積層方向に相当する。
【0032】
実施形態に係る高周波回路10では、Z方向に放射される電磁波は第1導電体層31及び第2導電体層32によって遮蔽される。XY平面に平行な方向に放射される電磁波は電磁波シールド150によって遮蔽される。したがって、伝送路21Aから放射される電磁波が、高周波回路10外へ漏洩するのを効果的に防止できる。この結果、漏洩電磁波による、周辺の他の回路への影響を抑えることができる。
【0033】
電磁波シールド150は、伝送路21Aの周囲において、第1誘電体層11及び第2誘電体層12を通る電磁波を遮蔽するシールド壁として機能するよう構成されている。
図1に示すように、電磁波シールド150は、平面視において、伝送路21Aを囲むように形成されている。実施形態においては、複数の電磁波シールド150が、伝送路21Aを囲む向きに沿って間隔Dをおいて設けられている。
【0034】
図2に示すように電磁波シールド150は、第1誘電体層11、回路層21のグランドパターン21B、第2誘電体層12、第1導電体層31、及び第2導電体層32を貫通した孔151の内面にグランド導電体152を備えて構成されている。第1導電体層31及び第2導電体層32においては、グランドパターン31B,32Bに形成された孔151の内面にグランド導電体152が設けられている。グランド導電体152は、伝送路21Aを囲むように存在するため、第1誘電体層11,第2誘電体層12を通る電磁波を遮蔽できる。なお、
図1の下側では、伝送路21Aが電磁波シールド150によって囲まれていない。これは、作図上、
図1の下側において伝送路21Aの記載を省略したことに伴って、電磁波シールド150の記載も省略されているだけである。したがって、実際には、電磁波シールド150は、伝送路21Aの下側も囲むことができる。
【0035】
図7に示すように、従来のシールドビア102は、平面視円形であることが常識であった。このため、漏洩電磁波を遮蔽するには、信号伝送路101を囲むようにシールドビア102を、密に多数並べる必要があった。これに対して、
図1に示すように実施形態においては、電磁波シールド150は、伝送路21Aを囲む向きに沿って長細い形状である。つまり、各電磁波シールド150は、伝送路21Aを囲む向きに沿った長手寸法Lが幅寸法Wよりも大きい。このため、円形のシールドビア102に比べて、少ない数の電磁波シールド150によって、漏洩電磁波を効果的に遮蔽することができる。
【0036】
図4及び
図5は、実施形態に係る高周波回路10の製造方法を示している。
図4に示すステップS11において、基板の一例として、両面銅付きのフッ素樹脂基板が準備される。両面銅付きのフッ素樹脂基板は、第2誘電体層12を構成するフッ素樹脂基板と、回路層21を構成する銅と、第2導電体層32を構成する銅と、を備える。なお、基板の材料は、フッ素樹脂に限定されない。
【0037】
ステップS12において、伝送路21A及び伝送路32Aの位置に、回路層21、第2誘電体層12、及び第2導電体層32を貫通するスルーホール41が形成される。
【0038】
ステップS13において、スルーホール41の内部が、めっき加工によって、導電体によって埋められる。これによって、伝送路21Aと伝送路32Aとを電気的に接続するビア40が形成される。伝送路32Aは、例えば、伝送路21Aのための外部接続端子として機能する。なお、スルーホール41の内部表面がめっき加工によって被覆され、残った空間が合成樹脂によって埋められてもよい。
【0039】
ステップS14において、両面銅付きのフッ素樹脂基板の回路層21及び第2導電体層32に対してエッチング加工が施され、回路層21の伝送路21Aと、第2導電体層32の伝送路32Aと、が形成される。
【0040】
ステップS15において、回路層21側に、片面フッ素樹脂基板が貼り合わされる。片面フッ素樹脂基板は、第1誘電体層11を構成するフッ素樹脂基板と、第1導電体層31を構成する銅と、を備える。ステップS15では、第1誘電体層11と回路層21とが向かい合うように、接着剤60により貼り合わされる。接着剤60は、例えば、ボンディングシートである。ボンディングシートは、基板の層間の接着に用いられる。ボンディングシートは、絶縁性と接着性とを備える。
【0041】
ステップS15に続くステップS31において、電磁波シールド150を形成するため、第1導電体層31から第2導電体層32まで連続的に貫通する複数の孔151がプレス打ち抜き加工により形成される。孔151の形成方法は、プレス打ち抜き加工に限定されないが、プレス打ち抜き加工を利用すると、複数の孔151を同時に形成でき有利である。なお、孔151は、レーザ加工によって形成されてもよい。
【0042】
複数の孔151は、伝送路21Aを囲む向きに沿って間隔Dをおいて設けられている。複数の孔151それぞれは、伝送路21Aを囲む向きに沿った長手寸法Lと、長手寸法Lの方向に対して直交する幅寸法Wと、を有する。複数の孔151それぞれは、長孔である。即ち複数の孔151それぞれは、長手寸法Lが幅寸法Wよりも大きい。長手寸法Lは、幅寸法Wの5倍よりも大きいのが好ましく、幅寸法Wの10倍よりも大きいのがより好ましく、幅寸法Wの15倍よりも大きいのが更に好ましく、幅寸法Wの20倍よりも大きいのが更に好ましい。長手寸法Lを幅寸法Wよりも十分に大きくすることで、孔151の数を少なくすることができる。また、幅寸法Wを長手寸法Lよりも十分に小さくすることで、伝送路21Aの周囲において電磁波シールド150を形成するために必要とする領域の面積を小さくすることができる。
【0043】
長手寸法Lは、間隔Dよりも大きい。長手寸法Lは、間隔Dの5倍よりも大きいのが好ましく、間隔Dの10倍よりも大きいのが好ましく、間隔Dの15倍よりも大きいのが好ましく、間隔Dの20倍よりも大きいのが更に好ましい。間隔Dは、間隔Dにおける電磁波の漏洩を抑制するため、伝送路21Aによって伝送される高周波の波長λの1/4よりも小さいのが好ましく、波長λの1/8よりも小さいのがより好ましく、波長λの1/16よりも小さいのが更に好ましい。間隔Dを小さくするほど、電磁波の漏洩を抑制できる。間隔Dを波長λの1/16よりも小さくすることで、電磁波の漏洩を十分に少なくできる。
【0044】
複数の孔151間に間隔Dが設けられていることで、単一の孔151を長く連続的に形成する場合に比べて、高周波回路10の強度低下を抑えることができる。
【0045】
幅寸法Wを大きくするほど、電磁波シールド150が厚くなるため、許容可能な間隔Dは大きくなる。つまり、幅寸法Wを大きくすると、複数の孔151間にある隙間の間隔Dが同じであっても、電磁波の漏洩を小さくできる。
【0046】
ステップS32において、めっき加工により、孔151の内面に導電体152が形成される。
図2は導電体152が孔151の内面全体に接して設けられており、導電体152が孔151の内周形状に対応した外周形状を有する筒状に形成された場合を示す。導電体152は、孔151の内面の表面だけに形成されていてもよいし、孔151の内側を完全に充填するように形成されていてもよい。導電体152の内側は、合成樹脂などの誘電体によって埋められても良いし、導電ペーストなどの導電体で埋められてもよい。
【0047】
導電体152は、グランドパターン21B、グランドパターン31B、及びグランドパターン32Bを電気的に接続する。したがって、導電体152は、グランド導電体152である。グランド導電体152は、伝送路21Aの周囲を囲む複数の孔151それぞれの内部に設けられる。そのため、複数の孔151内に形成された複数のグランド導電体152は、伝送路21Aの周囲を囲む電磁波シールド150として機能する。グランド導電体152によって、第1誘電体層11及び第2誘電体層12を通って放射される電磁波を遮蔽することができる。
【0048】
つまり、導電体152は、回路層21のグランドパターン21Bと第1導電体層31のグランドパターン31Bとを電気的に接続する。したがって、導電体152は、グランドパターン21B,31Bと同電位になるため、グランド導電体152となる。グランド導電体152は、伝送路21Aの周囲を囲む孔151内に設けられるため、伝送路21Aの周囲を囲む電磁波シールド150として機能する。第1誘電体層11内に位置するグランド導電体152によって、第1誘電体層11を通って放射される電磁波を遮蔽することができる。
【0049】
また、導電体152は、回路層21のグランドパターン21Bと第2導電体層32のグランドパターン32Bとを電気的に接続する。したがって、導電体152は、グランドパターン21B,32Bと同電位になるため、グランド導電体152となる。グランド導電体152は、伝送路21Aの周囲を囲む孔151内に設けられるため、伝送路21Aの周囲を囲む電磁波シールド150として機能する。第2誘電体層12内に位置するグランド導電体152によって、第2誘電体層12を通って放射される電磁波を遮蔽することができる。
【0050】
ステップS33において、第1導電体層31及び第2導電体層32それぞれの表面に、接着剤81,82を介して、カバーフィルム71,72が貼り付けられる。カバーフィルム71,72は、例えばポリイミド製であり、第1導電体層31及び第2導電体層32を保護する。カバーフィルム71,72の貼り付けによって、孔151が形成された高周波回路10の強度を確保することができる。
【0051】
図1に示す複数の電磁波シールド150及び孔151は、伝送路21Aの周囲において1列で囲むように形成されているが、
図6に示すように、複数列で囲むように形成されていてもよい。
図6は複数の電磁波シールド150及び孔151が内外に2列に並ぶ場合を示す。
【0052】
すなわち、
図6に示す電磁波シールド150は、伝送路21Aの周囲に設けられた第1シールド150Aと、第1シールド150Aの外周側に設けられた第2シールド150Bと、を備える。第2シールド150Bの外周側にさらに他のシールドが備わっていてもよい。
【0053】
第1シールド150Aは、孔151と同様に、第1導電体層31から第2導電体層32まで連続的に貫通した複数の第1孔151Aの内面にグランド導電体152を備えて構成されている。複数の第1孔151Aそれぞれは、孔151と同様に長孔であり、ここでは第1長孔と呼ぶことがある。複数の第1孔151Aからなる列は、伝送路21Aの周囲を囲む向きに沿って間隔をおいて設けられた第1の列を構成している。複数の第1長孔151Aそれぞれは、孔151と同様に伝送路21Aを囲む向きにそった長手寸法Lが幅寸法Wよりも大きい。
【0054】
第2シールド150Bは、孔151と同様に、第1導電体層31から第2導電体層32まで連続的に貫通した複数の第2孔151Bの内面にグランド導電体152を備えて構成されている。複数の第2孔151Bそれぞれは、孔151と同様に長孔であり、ここでは第2長孔と呼ぶことがある。複数の第2孔151Bからなる列は、複数の第1長孔151Aの外周側において、伝送路21Aの周囲を囲む向きに沿って間隔をおいて設けられた第2の列を構成している。複数の第2長孔151Bそれぞれは、孔151と同様に伝送路21Aを囲む向きにそった長手寸法Lが幅寸法Wよりも大きい。
【0055】
第2長孔151Bは、第1長孔151A同士の間に対応した位置に存在するように配置されている。即ち第2長孔151Bは第1長孔151A同士の間を第1長孔151Aの外周側から塞ぐように配置されている。したがって、第2長孔151B内のグランド導電体152によって構成される第2シールド150Bは、第1シールド150Aの間からの漏洩電磁波を遮蔽することができる。このように、
図6では、外側の電磁波シールドである第2シールド150Bの列は、内側の電磁波シールドである第1シールド150Aの列からの漏洩電磁波を遮蔽するように配置される。電磁波シールド150を複数列設けることで、漏洩電磁波を効率的に遮蔽できる。また、第1孔151A及び第2孔151Bは、長孔であるため、少ない列数でも、効率的に漏洩電磁波を遮蔽できる。
【0056】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0057】
10 :高周波回路
11 :第1誘電体層
12 :第2誘電体層
21 :回路層
21A :伝送路
21B :グランドパターン
21C :孔
31 :第1導電体層
31C :孔
31B :グランドパターン
32 :第2導電体層
32A :伝送路
32B :グランドパターン
32C :孔
40 :ビア
41 :スルーホール
60 :接着剤
71 :カバーフィルム
72 :カバーフィルム
81 :接着剤
82 :接着剤
100 :高周波回路
101 :信号伝送路
102 :シールドビア
150 :電磁波シールド
150A :第1シールド
150B :第2シールド
151 :孔
151A :第1孔、第1長孔
151B :第2孔、第2長孔
152 :導電体、グランド導電体
L :長手寸法
W :幅寸法
D :間隔