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  • 特許-位相の特定によるインピーダンスの特定 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】位相の特定によるインピーダンスの特定
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/02 20060101AFI20241203BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20241203BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
G01R27/02 A
G01R31/389
H01M10/48 P
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022523052
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-28
(86)【国際出願番号】 EP2020079947
(87)【国際公開番号】W WO2021083813
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】102019129449.5
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】398037767
【氏名又は名称】バイエリシエ・モトーレンウエルケ・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】シュミット・ヤン・フィリップ
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-044106(JP,A)
【文献】特表2002-525586(JP,A)
【文献】特開2013-047613(JP,A)
【文献】特開2011-196932(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0219660(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/02
G01R 31/389
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的または電気化学的な構成要素のインピーダンス、特にリチウムイオン電池のインピーダンスを、同期誤差Δtを補正して特定する方法であって、
-少なくとも一つの抵抗Rと一つのインダクタンスLを備えた、前記構成要素のインピーダンスモデルを選択し、
-少なくとも二つの周波数f若しくはfを有する一または複数の励起信号I(t)またはU(t)を印加し;
-励起信号に対して同期誤差Δtを伴っている可能性のある応答信号U(t+Δt)若しくはI(t+Δt)を測定し;
-f若しくはfにおけるインピーダンスZおよびZを励起信号および応答信号から特定し;
-測定値の差Zdiff=Z-Zと、等価回路について計算されるZdiffの対応する値との間の差違が、少なくとも一つのインピーダンス成分に関して、予め設定された閾値を下回る値としてΔtを特定し、
-決定された同期誤差Δtを用いてインピーダンス値を補正する
ことを含む方法。
【請求項2】
Δtの特定が繰返し行なわれ、繰返しの度に前記差Zdiff=Z-Zが計算され、Zdiffの位相から差分のΔtkorrが計算されて累積され、累積された値からZおよびZの位相が補正される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
およびfは、1kHz乃至20kHzである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の方法であって、fおよびfよりも低い一または複数のさらに他の周波数fにおいてインピーダンスを特定することをさらに含む方法。
【請求項5】
は、10乃至300Hzである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
励起信号は、周波数f,f並びに場合によりfと、さらに他の周波数との重ね合わせを含む請求項1から5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一つに記載の方法を実行するように構成されている電池システムであって、
-並列に接続された複数のセルからなる複数ブロックまたは複数セルの一つ一つが直列に接続されている複数のリチウムイオン電池と;
-励起信号を印加するための一または複数の信号発生器と;
-応答信号を記録するように構成された、リチウムイオン電池のセル電圧を監視するための一または複数のセル監視ユニット(CSC)と;
-請求項1から6の少なくともいずれか一つに記載の方法を実行するように構成された一または複数の計算ユニットと
を有する電池システム。
【請求項8】
励起信号を全体的に全電流に加える単一の信号発生器を有している請求項7に記載の電池システム。
【請求項9】
計算ユニットは、セル監視ユニットに組み込まれている請求項7または8に記載の電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にリチウムイオン電池のインピーダンスの測定時にインピーダンスを計算する際の位相の特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学インピーダンス分光法(EIS)は、特にガルバニ電池などの電気化学的な系の特性を評価する確立された方法であり、一般に、励起信号の周波数に依存するインピーダンスの測定、つまり複素交流抵抗の測定を含む。
【0003】
従来技術において、リチウムイオン電池の状態を診断するためにインピーダンス測定またはインピーダンス分光法を用いること、特に、インピーダンスによりリチウムイオン電池の温度を特定することが知られている。
【0004】
特許文献1は、インバータにより設定される交流電圧信号に基づいたセルインピーダンスの特定による電動車両のリチウムイオン電池システムのセル温度測定と劣化測定に関する。この方法は、信号周波数に対するインピーダンスのプロットの推移が温度に依存するという観察結果に基づいている。
【0005】
特許文献2は、インピーダンスの虚部をいくつかの周波数において測定し、虚部がゼロ交差する周波数を割り出すことによって温度を特定する方法に関する。この方法は、セルの所定の充電状態と経年劣化状態において、ゼロ交差する周波数が概ね温度に依存するという観察結果に基づいている。
【0006】
特許文献3は、セルのインピーダンスを測定し、インピーダンスの位相から温度を決定するために、充電される個々のセルに時分割多重法で交互に接続される温度センサを有するバッテリー充電システムに関する。経時的な温度変化率はこのとき、セルが完全に充電されたかどうかの指標として機能する。
【0007】
これらすべての方法に共通しているのは、温度を特定するには、インピーダンスの大きさだけでなく、複素変数としてのインピーダンス(つまり、大きさと位相若しくは実部と虚部)も特定しなければならないということである。
【0008】
通常、定電流式に(つまり、振幅が一定とされた電流信号として)励起が行なわれ、これにより生じた電圧信号を測定し、二つの信号の振幅と位相からインピーダンスが計算される。この場合、励起を行なうには基本的に二つの方法が考えられる。
【0009】
一つには、各セルを個別にバランシング電流を用いて励起することができる。この場合、セル間の電荷均等化(バランシング)も行なうセル監視ユニット(Cell Supervision Circuit,CSC(電池監視基板))が、バランシング電流に励起信号を加え、同時に、下降電圧の高周波成分を測定して、そこからインピーダンスを計算する。これには、励起信号の生成、測定信号の収集及びインピーダンスの計算が同じ制御装置により実行されるため、非常に正確な位相情報が得られるという利点がある。欠点は、消費電力が大きく、電圧測定の精度に対する要件が厳しいことである。
【0010】
これとは別に、例えばインバータまたはDC-DCコンバータを介して外部から励起を加えることができる。これにより、より高い励起信号レベルが可能になるので、信号雑音比(Signal/Noise Ratio)(S/N比)が改善し、電圧測定精度の要件が緩和されることになる。しかも、個々のセル監視ユニットに励起回路が設けられなくてもよくなり、測定された電圧信号からのインピーダンス計算を、外部において別の制御装置で行なうこともできるため、消費電力と機器のコストが下がる。
【0011】
異なる制御装置によって信号が処理される外部励起による方法ではとりわけ、励起信号と応答信号の間の同期誤差が発生し、その結果、温度特定の精度が低下するというリスクを伴う。この結果、10μsの非同期性(Asynchronitaet)が3.6°の位相誤差をもたらす。すると、インピーダンスの位相から例えばセルの温度が特定されなければならない場合、例えば60Ahのセルについて、300Hzでは位相精度3.6°が温度精度7.2Kをもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】独国特許出願公開第102013103921号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2667166号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0264999号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の問題を考慮して、信号が同期誤差Δtを伴っている場合に対しても正確な温度特定を可能にするために、高い位相精度でのインピーダンスの特定を行なえるように励起信号と応答信号の位相を校正する方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題を解決するために、本発明は、位相校正方法並びにこの校正方法を使用するインピーダンス測定方法を提供する。
【0015】
本発明による方法は、外部励起と併せることで有利に使用することができる。本発明による方法により、インピーダンス測定の際に必要なエネルギーを減らすことができ、インピーダンス測定の品質を向上させることができる。同時に、この方法は、励起信号の生成と電圧測定が、両方のシステムの同期性に高い要件を課すことなく、インピーダンス計算により互いに別々に存在できる分散型アーキテクチャを可能にする。
【0016】
[発明のまとめ]
【0017】
本発明は、電気的または電気化学的な構成要素、特にリチウムイオン電池のインピーダンスの測定時における同期誤差Δtを補正する方法であって、
-少なくとも一つの抵抗Rと一つのインダクタンスLを備えた、前記構成要素のインピーダンスモデルを選択し、
-少なくとも二つの周波数f若しくはfを有する一または複数の励起信号I(t)またはU(t)を印加し;
-励起信号に対して同期誤差Δtを伴っている可能性のある応答信号U(t+Δt)若しくはI(t+Δt)を測定し;
-f若しくはfにおけるインピーダンスZおよびZを励起信号および応答信号から特定し;
-測定値の差Zdiff=Z-Zと、等価回路について計算されるZdiffの対応する値との間の差違が、少なくとも一つのインピーダンス成分に関して、予め設定された閾値を下回る値としてΔtを特定し、
-決定された同期誤差Δtを用いてインピーダンス値を補正する
ことを含む方法に関する。
【0018】
本発明による方法では、周波数が異なる複数の励起信号を交互に印加することができるか或いは複数の周波数の重ね合わせを含む励起信号を用いることができる。
【0019】
同期誤差Δtを決定するために用いられる少なくとも二つの周波数f若しくはfは、好ましくは1kHz以上であるため、インピーダンスへの容量性の寄与は無視でき、インピーダンスモデルは、抵抗とインダクタンスのみを有する。
【0020】
本発明による方法によって特定された同期誤差Δtは、好ましくも、f若しくはfよりも低い一または複数の周波数fにおけるインピーダンス測定を補正するためにも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】三つの周波数f,fおよびfにおいてインピーダンスが測定され、fおよびfにおける測定値が、LRモデルを想定してΔtの特定のために用いられる場合の本発明による方法の一般的な流れを示す図である。
図2】Δtが反復制御アルゴリズムにより特定される本発明による方法の一実施形態のフローチャートを示す図である。
図3図2に概略的に示されたアルゴリズムの収束挙動を示す図であって、左上には、五つの異なる周波数におけるインピーダンスの実部と虚部がナイキスト線図において(反時計回りに)次第に収束するΔtについてプロットされ、右上には、位相差の推移が反復回数に対してプロットされ、下の二つの線図には、Δtの差分変化(左側)並びにΔtの累積値(右側)が反復回数に対してプロットされている図である。
図4】本発明による方法を実施するために設けられている電池システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[基礎]
【0023】
用語の導入にあたり、インピーダンス測定の基礎を以下に簡単にまとめる。これらの説明は、既知の振幅Iおよび既知の周波数fを有する交流信号I(t)が供給されて降下電圧U(t)が測定される実際によくある定電流式の場合についてのものである。しかしながら、それらは、逆の場合、すなわち、設定された電圧信号を供給して電流を測定する同じように可能な場合に対しても相応の態様で有効である。
【0024】
信号I(t)およびU(t)は、複素数平面において、
【数1】
として表すことができる。
【0025】
以下では、周波数fと角周波数ω=2πfの両方を、どちらの周波数を意味するのか文脈から明白である場合或いは用いられている記号ω/fから明白である場合に限り、まとめて“周波数”と呼ぶ場合がある。
【0026】
信号I(t)およびU(t)は、一般に、電圧と電流のゼロ点角度として定義される位相角φにより互いに位相がずれている。インピーダンスZは、U(t)/I(t)として計算され、φがゼロに等しくない場合には複素数である:
【数2】
【0027】
実部Re(Z)=Rは、オーム抵抗に対応し、実効抵抗とも呼ばれる。虚部Im(Z)=Xは、位相のずれにより出現し、リアクタンスとも呼ばれる。
【0028】
インピーダンスの大きさ|Z|は、実効電流と実効電圧の振幅の比であり、インピーダンスと呼ばれる。これには、実効抵抗とリアクタンスの両方が含まれ、通常は、周波数に依存する。ただし、電力は、実効抵抗にのみ起因して消費される。
【0029】
理想的なオーム抵抗の場合、位相のずれはゼロであり、インピーダンスは実効抵抗Rに相当する。理想的なコンデンサ(容量性抵抗)の場合、位相のずれは-90°であり、インピーダンスは、純粋に虚数であり、周波数の増加とともに減少する(Z=-i*(1/ωC);C:容量)。理想的な誘導性の構成要素(誘導性抵抗)の場合、位相のずれは+90°である。インピーダンスは、同じく純粋に虚数であり、Z=+iωL(L:インダクタンス)となる。つまり、リアクタンスは周波数の増加とともに増加する。
【0030】
本発明によれば、インピーダンス測定は、特に、(温度、充電状態など)リチウムイオン電池の状態を検出するために使用される。電荷輸送に基づくセル内のほとんどのプロセスはこのとき、電解質中のイオン伝導および電極におけるインターカレーションとデインターカレーションの運動学を含めて、オーム抵抗により記述できる。容量性抵抗は、例えば、電極における電気二重層に現れる。従って、セルは、電極プロセスを表す少なくとも一つのRC構成要素と、それに直列に接続されている電解質抵抗を表す直列抵抗Rとを備えた等価回路(“R-RCモデル”)により近似的にモデル化することができる。
【0031】
インダクタンスは、電気化学的プロセス自体にはあまり関係がなく、基本的には関与する導電体(集電体、供給線、配線)における磁界により生じてくる。総じて、装置構成のインダクタンスは、比較的高い周波数では、大きさ的に見れば位相のずれのかなりの部分をもたらす可能性がある。しかしながら、この部分は、装置構成が固定的で且つセル内の電気化学的プロセスによって影響を受けないので、(周波数依存の)デバイス定数として扱うことができ、その結果、診断対象のセル状態の計算からは除外することができる。とはいえ、高い周波数では、Lの寄与がインピーダンスにおいて支配的となる。そのため、高い周波数では特に、インピーダンスを表す等価回路はさらに、直列インダクタンスLが追加されなければならない(“L-R-RCモデル”)。
【0032】
[同期方法]
【0033】
信号I(t)とU(t)は、一般に、同期誤差を伴っている可能性がある。つまり、信号I(t)とU(t)が同期して記録されず、時間ゼロ点が不特定の時差Δt、例えば数μsほど互いにずれている。従って、実際には、インピーダンス計算にI(t)とU(t)は用いられず、I(t)とU(t+Δt)が用いられる。それ故、こうして測定された位相角φmessは、正しい位相のずれφに対して位相誤差Δφほど偽装されたものである:
【数3】
【0034】
実際に測定された(つまり、同期誤差を伴った信号I(t)とU(t)から計算された)インピーダンス値は、その結果:
【数4】
となる。
【0035】
本発明による方法は、簡単に見て、実質的には、信号U(t)とI(t)を同期させるために装置構成のインダクタンスおよびそれによりもたらされる誘導性抵抗の周波数依存性を上手く利用する。この場合、周波数は、容量性の寄与が無視できてインピーダンスが誘導性の寄与とオーム性の寄与により特定される程度に十分に高く選択されることが好ましい。
【0036】
そこで、高周波数におけるセルの挙動を近似的に表す純粋なLRモデルの場合について本発明による方法を具体的に示す。
【0037】
上で説明したように、セルは、一般にL-R-RCモデルとして近似的に表すことができる。RC構成要素のインピーダンスZRC(ω)は、周波数に依存し:
【数5】
となる。
【0038】
そのため、高い周波数では、ZRC(ω)が消失し、直列抵抗RとインダクタンスLが残るので、セルの挙動はLRモデルに従う。
【数6】
【0039】
本発明によれば、インピーダンスは、少なくとも二つの周波数fおよびf(若しくはωおよびω)において測定され、その差Zdiff=Z-Zが形成される。次に、測定値の差Zdiff=Z-Zと、等価回路について計算されるZdiffの対応する値との間の差違が、少なくとも一つのインピーダンス成分に関して、予め設定された閾値を下回る値としてΔtが特定される。
【0040】
は、周波数に依存しないため、純粋なLRモデルで差を取る(差を形成する)と実部が消え、純粋に虚数成分が残る。
【数7】
【0041】
Zの表現において実部は正弦項に対応する。すなわち、同期誤差は、正弦項の差が消失する点として特定することができる:
【数8】
【0042】
従って、この場合、非同期性Δtは、実部の差が消失する値として計算されるが、これは、解析的または数値的に行なうことができる。これには、モデルパラメータRとLが分からなくてもよいという利点がある。それは、純粋なLRモデルにおける上記の考え方が、LとRをどのように選択する場合にも成り立つからである。
【0043】
およびZの位相をΔφ=2πf*Δt若しくはΔφ=2πf*Δtだけ回転させることで補正されたインピーダンス値を計算することができる。
【0044】
この考え方では、純粋なLRモデルに基づいていたが、これは、周波数fおよびfのいずれもが十分に高く、容量性の寄与が無視できるようになる場合に、例えば約1kHz以上の場合に、妥当なものになり得る。
【0045】
セルの状態、特に電極プロセスを診断するには、例えば、容量性の寄与が無視できない10~300Hz、好ましくは約30~200Hzの領域にある一または複数の比較的低い周波数fにおいてインピーダンス測定を実行する必要がある。この場合、本発明による方法は、LRモデルが適用可能な1kHzを超える周波数fおよびfにおいて依然として実行することができ、そうして得られたΔtの値が、次にfにおけるインピーダンスの補正に用いられる。図1は、三つの周波数f,fおよびfが使用され、ただしfおよびfだけがΔtの特定に使われるそのような方法を概略的に示している。
【0046】
さらに、より複雑な(例えば付加的な抵抗を用いて拡張すること(R-LRモデル)による)インピーダンスモデルが必要となることも場合によってはあり得る。最終的には、装置側のコストの観点から使用可能な周波数に関して上限がある場合など、容量性の寄与を明らかに考慮することが必要になることもある。
【0047】
これらの場合には、より複雑なインピーダンスモデルを用意しなければならないが、それらは、オーム抵抗R、静電容量CまたはLR構成要素或いは場合によってはワールブルグ要素などのさらに他の要素を含み得る。等価回路との差違を最小化してΔtを決定するためには、通常、モデルパラメータ(R,Lなど)の値が分かっている必要がある。この目的のために、モデルパラメータは、例えば別の測定において高精度で決定および保存することができ、そのようにして予め特定されたモデルパラメータを使用して本発明による方法が実行される。
【0048】
代替的に、モデルパラメータの一部または全てが、本発明による方法の一環としてΔtと同時に特定されてもよい。これは、システムが、自由度として同期誤差Δt並びに特定されるべきモデルパラメータを有する数値最適化問題である。従って、この場合、システムが特定され或いは過剰に特定されるように、周波数点f,fなどの数若しくは測定されたインピーダンス値Z,Zの数は、好ましくは自由度の数と同じかそれより大きくなければならない。最適化問題は、様々な周波数におけるインピーダンスに対して得られる連立方程式に基づいて解かれ、それ自身よく知られた方法に従って解かれる。
【0049】
一つの可能な実施形態では、最適化は、測定されたインピーダンスZとZとの間の差Zdiffに基づいて反復制御アルゴリズムにより行なわれるが、そこでは、Zdiffの位相(比例係数aにより重み付けされている)が、図2に示されているように、反復の刻み幅を与える。このとき、反復の度に差Zdiff=Z-Zが計算され、Zdiffの位相から差分のΔtkorrが計算されて累積され、この累積された値によりまたZおよびZの位相が補正される。
【0050】
個々のステップは、以下のようになる:
1.Δt=0による初期化;最終的にΔtの推定値を取得するために、実行する度に差分のΔtkorrが計算されて加算される。
2.Δtの現在の値からΔφ1,2=2πf1,2*ΔtとしてΔφ若しくはΔφを計算;
3.位相補正された測定値Zmess,korr(f)若しくはZmess,korr(f)を得るために、生の(つまり、同期誤差Δtを伴った)測定値Zmess(f)およびZmess(f)をΔφ若しくはΔφだけ回転;
4.差Zdiff=Zmess,korr(f)-Zmess,korr(f)の形成;
5.Zdiffの位相Δφdiffの特定;
6.補正項Δtkorr=Δφdiff/2πfの特定;
7.係数aで重み付けしたΔtkorrでのΔtの値のインクリメント;
8.Δφdiffが所定の閾値を下回るまでΔtの値を増分してステップ2から7の繰返し;
9.計算されたΔtから補正されたインピーダンス値を取得。
【0051】
重み係数aは、反復の刻み幅を制御し、一方では速い収束を可能にするように、また他方では実際の値の周りでのΔtの累積値の振動を回避するように、例えば0.1~1.0の間隔で適切に選択することができる。aは、それぞれの差分値Δtkorrに合わせて反復の度に調整することもできる。周波数fおよびfは、容量項が無視可能でLRモデルが適用できる程度に十分に高く、例えば1kHz以上であることが好ましい。fおよびfから計算されるΔtはそれでも、純粋なLR特性がもはや成り立たないもっと低い周波数fの同期の補正に使用することができる。
【0052】
図3は、アルゴリズムの収束挙動を示す。左上には、(反時計回りに)次第に収束していくΔtについて、五つの異なる周波数におけるインピーダンスの実部と虚部がナイキスト線図にプロットされている。右上には、位相差の推移が反復回数に対してプロットされている。下の二つの線図には、Δtの差分変化(左側)並びにΔtの累積値(右側)が反復回数に対してプロットされている。
【0053】
[実装]
【0054】
本発明による方法は、特に、電池システム内のセル、特にリチウムイオン電池の監視および状態診断の一環としてのインピーダンス測定の精度を改善させるために使用することができる。
【0055】
これは特に、電動車両またはハイブリッド電動車両用の電池システムであってもよい。この種の電池システムは、バッテリーマネジメントシステム(BMS)によりコントロールされる複数のリチウムイオン電池を有する。
【0056】
通常、複数のセルは、まとまって直列および/または並列に接続されたバッテリパックを形成し、それぞれ一つのセル監視ユニット(CSC)に接続され、このユニットが少なくともセル電圧を監視し且つ電荷の均等化(バランシング)も制御する。このとき、それぞれ個別のセルに一つのセル監視ユニットが設けられていてもよいし或いは複数のセルに一つのセル監視ユニットが接続されていてもよい。このユニットは、当該ユニットの複数の接続されたセルを同時に監視することができるように或いは分割多重法により監視を行なうことができるように、電圧測定のための複数の入力チャンネルを備えていてもよい。セルおよびセル監視ユニットの全体がまた、バッテリーマネジメントユニット(BCU,Battery Control Unit)により監視される。
【0057】
インピーダンス測定のための励起信号は、交流信号として加えられることが好ましいが、これは、セルごとに例えばバランシング電流を介して或いは外側から全体的に例えばインバータを介して行なうことができる。応答信号の記録は、CSCの電圧監視機能により行なうことができる。上で説明したように、同期誤差のリスクは、特に全体的な外部励起の場合に存在するので、本発明による方法は、好ましくはこの用途に適していることになる。
【0058】
図4は、本発明による方法を使用することができる電動車両用電池システムの一例を概略的に示す。このシステム内では、複数のセルが接続されてそれぞれモジュールを形成し、各モジュールには、モジュール内のセルの電圧を監視するCSCが設けられている。これらのモジュールが、またさらに直列に接続されている。励起信号は、逆変換回路(インバータ)を通して全体的に電流に加えられ、応答信号の記録はCSCにより行なわれる。
【0059】
Δtは、セルごとに又はモジュールごとに異なる可能性があるので、インピーダンスの計算と本発明による方法の実行は、CSCによっても同様にして行なわれてもよい。代替的に、記録された応答信号をBCUに送信してもよく、その後、BCUは本発明による方法の実行とインピーダンスの計算を引き継ぐ。通信チャネルの過負荷を回避するために、CSCでのインピーダンスの計算が望ましい。
【0060】
Δtの特定に用いられる周波数fおよびf並びにモデルの複雑さと所望の精度によって必要であればさらに他の周波数f,f,…は、十分に高く、容量性の寄与が無視できることが好ましい。例えば1kHz~20kHzの周波数を使用できる。これらの周波数には、互いに設定された間隔があり、その大きさは、例えば100Hz~5kHz、好ましくは500Hz~2kHzまたは1kHz~2kHzとすることができる。Δtの特定の他にも、周波数f,fなどにおけるインピーダンス値は、電解質抵抗の特定にも用いることができる。
【0061】
これに対して、インピーダンスへの寄与がRC構成要素により記述できる電極プロセスの特性評価には、容量性の寄与が無視できなくなる(例えば関与するRC構成要素の時定数の逆数の範囲にある)一または複数の比較的低い周波数fが好ましい。これらの周波数fは、例えば10~300Hz、好ましくは20~200Hzである。インピーダンスモデルの簡潔さに鑑み、周波数fは、本発明による方法により、Δtの特定に用いられないことが好ましい。これに対して逆に、fにおけるインピーダンスの補正にΔtの計算値が使用できる。
【0062】
同時に一つの単独の周波数しか持たず、その周波数が変更される励起信号を使用してもよい。しかしながら、複数のまたは必要な全ての周波数fおよびf並びに必要ならf若しくはf,f等々の重ね合わせが使用されることが好ましい。
図1
図2
図3
図4