(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】アクリル系接着剤のためのレドックス開始系
(51)【国際特許分類】
C09J 4/02 20060101AFI20241203BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20241203BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20241203BHJP
C08F 4/34 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C09J4/02
C09J11/04
C09J11/06
C08F4/34
(21)【出願番号】P 2022543682
(86)(22)【出願日】2021-01-22
(86)【国際出願番号】 US2021014511
(87)【国際公開番号】W WO2021150819
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-07-19
(32)【優先日】2020-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507381329
【氏名又は名称】ロード コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ファン,チェンピン
(72)【発明者】
【氏名】ペリー,ティモシー
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-216884(JP,A)
【文献】国際公開第1998/023658(WO,A1)
【文献】英国特許出願公告第00924947(GB,A)
【文献】中国特許出願公開第107603497(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105713543(CN,A)
【文献】特開昭48-42467(JP,A)
【文献】特開昭53-85833(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1667072(CN,A)
【文献】米国特許第4158647(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00- 5/10
C09J 7/00- 7/50
C09J 9/00-201/10
C08F 4/00- 4/58
C08F 4/72- 4/82
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化可能な
接着剤組成物であって、
アクリレート官能基を有する反応性モノマーまたはオリゴマー;
アミン;
アルキル過酸化物;
3,5-ジエチル-1,2-ジヒルドロ-1-フェニル-2-プロピルピリジン(PD HP);
ジイソプロパノールトルイジン;および
ジメチルピペラジンを含む、組成物。
【請求項2】
前記アルキル過酸化物は、アルキルジアシル過酸化物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アルキル過酸化物は、ジラウロイル過酸化物(DLP)を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
硬化されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
ベンゼ
ンを実質的に不含である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
ベンゼ
ンを完全に不含である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
残留アルデヒド含量または残留物の少ない、または実質的に存在しない、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
100ppm未満のアルデヒド含量または残留物を有する、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記DLPは、前記組成物の総重量を基準にして、0.5重量%~5.0重量%で存在する、請求項3に記載の組成物。
【請求項10】
前記DLPは、前記組成物の総重量を基準にして、1.0重量%~2.5重量%で存在する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記PDHPは、前記組成物の総重量を基準にして、0.01重量%~1.0重量%で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記PDHPは、前記組成物の総重量を基準にして、0.1重量%で存在する、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
二液性接着剤を含み、前記二液性接着剤は、AサイドにDLPおよび前記アクリル系モノマー、ならびにBサイドに前記PDHPを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
安定化剤をさらに含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記安定化剤
が次式:
【化1】
で表される、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
二液性接着剤組成物であって、
ジラウロイル過酸化物(DLP)およびアクリル系モノマーを含むAサイド、および
3,5-ジエチル-1,2-ジヒルドロ-1-フェニル-2-プロピルピリジン(PDHP)を含むBサイド、を含む二液性接着剤組成物。
【請求項17】
安定化剤をさらに含む、請求項16に記載の二液性接着剤組成物。
【請求項18】
前記安定化剤
が次式:
【化2】
で表される、請求項17に記載の二液性接着剤組成物。
【請求項19】
前記DLPは、前記組成物の総重量を基準にして、0.5重量%~5.0重量%で存在する、請求項16~18のいずれか1項に記載の二液性接着剤組成物。
【請求項20】
前記DLPは、前記組成物の総重量を基準にして、1.0重量%~2.5重量%で存在する、請求項16~19のいずれか1項に記載の二液性接着剤組成物。
【請求項21】
前記PDHPは、前記組成物の総重量を基準にして、0.01重量%~1.0重量%で存在する、請求項16~20のいずれか1項に記載の二液性接着剤組成物。
【請求項22】
前記PDHPは、前記組成物の総重量を基準にして、0.1重量%で存在する、請求項16~21のいずれか1項に記載の二液性接着剤組成物。
【請求項23】
ベンゼ
ンを実質的に不含である、請求項16~22のいずれか1項に記載の二液性接着剤組成物。
【請求項24】
残留アルデヒド含量または残留物は少ないか、または実質的に不含であり、任意選択で、100ppm未満のアルデヒド含量または残留物を有する、請求項16~23のいずれか1項に記載の二液性接着剤組成物。
【請求項25】
ジイソプロパノールトルイジンおよびジメチルピペラジンをさらに含む、請求項16~24のいずれか1項に記載の二液性接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年1月23日に出願された米国特許仮出願第62/964,754号の優先権を主張する。この仮出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本明細書の本開示は、ベンゼンおよびベンゼン誘導体残留物不含または本質的に不含であるアクリル系接着剤のための開始系に関する。
【背景技術】
【0003】
従来のアクリル系構造用接着剤は通常、1種または複数のメチルメタクリレートおよびメタクリル酸などのオレフィン反応性モノマーならびに反応性モノマーを硬化させるレドックス開始系の混合物を含む。それらは通常、Aサイドの一次反応性モノマーおよびBサイドの硬化剤と共に二液系で送り届けられる。開始剤系は通常、少なくとも1種の酸化剤をBサイドに、および少なくとも1種の還元剤をAサイドに含む。この系は、パートAとBの混合時に、周囲条件で共反応性であり、連鎖重合反応を開始し、アクリル接着剤を硬化させる。
【0004】
加えて、完全に配合されたアクリル系構造用接着剤は通常、基材物質への接着、環境抵抗、柔軟性、耐熱性などを改善するために、その他の添加物を含む。エポキシ樹脂類は、改善された耐熱性を付与する。
【0005】
アクリル系接着剤における最も典型的な酸化剤は、過酸化ベンゾイル(BPO)である。BPOは、その自然崩壊、または熱分解による微量のベンゼンおよびその誘導体(トルエン、キシレン、またはエチルベンゼン)を含む。BPOがアクリル系硬化剤中に配合されると、これらの有害な化合物は、時間の経過とともに蓄積し、環境、健康、および安全(EH&S)上の危険をもたらす可能性がある。
【0006】
政府のEH&S規制は、さらに厳格になる方向に進化しつつある。1つのEH&Sに共通する取り組みは、化学製品の揮発性有機化合物(VOC)を減らすことである。特に望ましくないVOCは、ベンゼンおよびトルエン、キシレン、エチルベンゼンおよびスチレンなどのその誘導体である。一部の領域では、接着剤およびシーラントなどの全ての化学製品は、ベンゼンおよびベンゼン誘導体残留物の低減またな除去を含む厳格な工業基準に合格する必要がある。
【0007】
市販の構造用接着剤は、多くの場合、「湿潤(wet)」接着剤および硬化後の両方でベンゼンおよびその誘導体を含むことが認められる。従って、ベンゼンおよびその誘導体を本質的にまたは完全に含まない強靱な構造用接着剤を提供する必要がある。この必要性が本明細書で開示の実施形態が目標とするものである。
【発明の概要】
【0008】
この発明の概要は、本開示の主題のいくつかの実施形態を収載し、また、多くの事例では、これらの実施形態の変形および並べ替えたものを収載している。この発明の概要は、多くの様々な実施形態の例示にすぎない。所与の実施形態の1つまたは複数の代表的特徴への言及は、同様に例示的なものである。このような実施形態は通常、特徴への言及を含む場合と含まない場合があり;この発明の概要に記載があるなしにかかわらず、これらの特徴は、本開示の主題の他の実施形態にも同様に適用できる。過剰な繰り返しを避けるために、この発明の概要は、このような特徴の全ての可能な組み合わせを記載または示唆していない。
【0009】
従って、いくつかの実施形態では、本明細書で提供されるのは硬化性組成物であり、該組成物は、反応性モノマーまたはオリゴマー、アクリレート官能基を有する反応性モノマーまたはオリゴマー、アミン、およびアルキル過酸化物を含み、該アルキル過酸化物はフェニル環不含または実質的に不含である。アルキル過酸化物は、いくつかの態様では、アルキルジアシル過酸化物、任意選択で、ジラウロイル過酸化物(DLP)を含む。いくつかの実施形態では、このような硬化性組成物は、3,5-ジエチル-1,2-ジヒルドロ-1-フェニル-2-プロピルピリジン(PDHP)をさらに含み得る。
【0010】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供されるのは、二液性接着剤組成物であり、該二液性接着剤組成物は、ジラウロイル過酸化物(DLP)およびアクリル系モノマーを含むAサイド、および3,5-ジエチル-1,2-ジヒルドロ-1-フェニル-2-プロピルピリジン(PDHP)を含むBサイドを含む。いくつかの態様では、二液性接着剤組成物は、安定化剤をさらに含む場合があり、任意選択で、安定化剤はエタノックス330を含む。いくつかの態様では、DLPは、組成物の総重量を基準にして、約0.5重量%~約5.0重量%で存在し、任意選択で、DLPは、組成物の総重量を基準にして、約1.0重量%~約2.5重量%で存在する。いくつかの実施形態では、PDHPは、組成物の総重量を基準にして、約0.01重量%~約1.0重量%で存在し、任意選択で、PDHPは、組成物の総重量を基準にして、約0.1重量%で存在する。
【0011】
これらおよび他の目的は、全体または一部において、本開示の主題により達成される。さらに、本開示の主題の目的は上記で述べられてきたが、本開示の主題の他の目的および利点は、次の記述および実施例を考察した後では、当業者に明らかであろう。
【発明を実施するための形態】
【0012】
これから、本開示の主題が以降でより完全に記載され、そこでは、本開示の主題の実施形態の全部ではなく、一部が記載される。実際、本開示の主題は、多くの異なる形態で実施することができ、本明細書に記載の実施形態に限定されるものと解釈すべきでなく、むしろ、これらの実施形態は、本開示が適用可能な法的要件を満たすように提供されている。
【0013】
I.定義
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明する目的のためであり、本開示の主題を制限することを意図していない。
【0014】
次の用語は、当業者により十分に理解されると考えられるが、次の定義は、本開示の主題の説明を容易にするために記載される。
【0015】
別に定めのない限り、本明細書で使われる全ての技術および科学用語は、当業者により一般に理解されているものと同じ意味を有することを目的としている。本明細書で用いられる技術への言及は、当業者には明らかなはずのこれらの技術または等価な技術の代替に対する変形を含む、当該技術分野において一般的に理解されている技術を意味する。次の用語は、当業者により十分に理解されると考えられるが、次の定義は、本開示の主題の説明を容易にするために記載される。
【0016】
本開示の主題の記載では、多数の技術およびステップが開示されることを理解されたい。これらのそれぞれは、個別の利益があり、各々はまた、1種または複数の、またはいくつかの事例では、全ての他の開示技術と共に、使用できる。
【0017】
従って、この説明では、わかりやすくするために、個々のステップの可能な全ての組み合わせを不必要に繰り返すことは控える。とはいえ、このような組み合わせは、本明細書および特許請求の範囲の開示の範囲に完全に含まれることを理解した上で、本明細書および特許請求の範囲を読むべきである。
【0018】
長年の特許法の慣例に従い、特許請求の範囲を含む本願で使用される場合、用語「a」、「an」、「the」は、「1つまたは複数」を意味する。従って、例えば、「ある成分」への言及には、例えば、複数のこのような成分が含まれる。
【0019】
特に指示がない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用される成分の量、反応条件などを表す数値はすべて、あらゆる場合において、「約(about)」という用語により修飾されるものとして理解されるべきである。従って、特に指示がない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本開示の主題によって得ようとする所望の特性により変化し得る近似値である。
【0020】
本明細書で使用される場合、組成物、用量、配列同一性(例えば、2つ以上のヌクレオチドまたはアミノ酸配列を比較する場合)、質量、重量、温度、時間、容量、濃度、割合などの値または量に言及する場合、用語「約(about)」は、開示された方法を実行するため、または開示された組成物を採用するために適切であるような、指定量からの、いくつかの実施形態では±20%、いくつかの実施形態では±10%、いくつかの実施形態では±5%、いくつかの実施形態では±1%、いくつかの実施形態では±0.5%、いくつかの実施形態では±0.1%の変動を包含することを意味する。
【0021】
「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」「含む(containing)」または「を特徴とする(characterized by)」と同義であり、包括的またはオープンエンドであって、追加の、記載されていない要素または方法のステップを排除するものではない。「含む(comprising)」は、特許請求の範囲の文言に用いられる技術用語で、指定された要素は必須であるが、他の要素を加えても特許請求の範囲の範囲内の構成物を形成できることを意味する。
【0022】
本明細書で使用される場合、「からなる(consisting of)」という文言は、特許請求の範囲に規定されていない要素、ステップ、または成分を除外する。文言「からなる(consist of)」が前文の直後ではなく、特許請求の範囲本体のある節に現れる場合、その節に記載された要素のみを限定し、他の要素は特許請求の範囲全体から除外されない。
【0023】
本明細書で使用される場合、「から本質的になる(consisting essentially of)」という表現は、特許請求の範囲を、指定された材料またはステップに加えて、請求された主題の基本的かつ新規な特性に重大な影響を与えないものに限定する。
【0024】
用語「からなる(comprising)」、「からなる(consisting of)」、および「から本質的になる(consisting essentially of)」に関して、これら3つの用語のうちの1つが本明細書で使用される場合、現在開示および請求される主題は、他の2つの用語のうちのいずれかの使用を含むことが可能である。
【0025】
本明細書で使用される用語「および/または」は、実体のリストという文脈で使用される場合、実体が単独で、または組み合わせて存在することを意味する。従って、例えば、「A、B、C、および/またはD」という表現は、A、B、C、およびDを個別に含むだけでなく、A、B、C、およびDの任意のおよびすべての組み合わせおよび下位組み合わせも含む。
【0026】
II.アクリル系接着剤のためのレドックス開始系
構造用接着剤中のベンゼンおよびその誘導体の発生源は、主に酸化剤、BPO由来であると特定された。さらに、BPOは衝撃敏感性であり、市販の業者はBPOに安定化剤を添加する場合が多く、これらの安定化剤は多くの場合ベンゼンまたはベンゼン誘導体を含む。
【0027】
その周辺からの水素原子の抽出後、BPOの分解により、安息香酸および最終的にベンゼンを生ずる。この過程は、貯蔵中または貯蔵寿命を通して熱分解により天然で起こる。
【0028】
【0029】
本開示の主題の第1の実施形態では、レドックス開始アクリル樹脂のための酸化剤が提供され、該酸化剤はフェニル環不含である。特定の理論または作用機序に束縛されるものではないが、酸化剤中のフェニル環の欠如は、いくつかの態様では、硬化済み接着剤中のベンゼンまたはベンゼン誘導体の非存在をもたらす。さらに、BPOより低衝撃感受性である酸化剤は安定化剤を必要とせず、それにより、別の共通のベンゼン発生源を取り除く。これは、より高いEH&S準拠接着剤製品を提供する。
【0030】
本開示の主題の一実施形態では、好ましい酸化剤は、アルキルジアシル過酸化物を含み、いくつかの態様では、好ましくはジラウロイル過酸化物(DLP)を含む。DLPは、一級・三級アミンおよび二級・三級アミンの存在下で室温レドックス分解を受け、アクリル樹脂系(Aサイド)の重合を開始させることが明らかになった。二液性接着剤配合物を含む本開示の主題の一実施形態では、DLPは、接着剤配合物のBサイド中に、Bサイドの重量を基準にして、約5~約10重量%、好ましくは、約8重量%存在し得る。
【0031】
本開示の主題の別の実施形態では、極めて低含量の残留ベンゼンおよびベンゼン誘導体を含むアクリル接着剤が提供される。通常、これは、約300mg/kg未満、より好ましくは約30mg/kg未満、最も好ましくは約3mg/kg未満であると理解される。本開示の主題の好ましい実施形態では、接着剤は、ベンゼンおよびベンゼン誘導体を実質的に不含、例えば、約10%未満、約5%未満、約1%未満、約0.5%未満、または約0.1%未満、およびより好ましくは完全に不含であり得る。本開示の主題のさらなる実施形態では、残留アルデヒド含量/残留物の極めて少ないまたはそれらの全くないアクリル接着剤も同様に好ましい。最も好ましいのは、約100ppm未満のアルデヒド含量/残留物を含む系である。
【0032】
しかし、アクリル系接着剤で使用される従来のアミン促進剤と配合される場合、開示接着剤組成物は、硬化が遅い可能性がある。従って、DLPと一緒の使用に特有に好適する促進剤を導入した。
【0033】
本開示の主題のさらなる実施形態では、硬化は、3,5-ジエチル-1,2-ジヒルドロ-1-フェニル-2-プロピルピリジン(PDHP)の導入により促進される。少量のPDHPが導入されると、DLPの分解が驚くほど、かつ、効果的に迅速になった。PDHPは、室温でDLPの分解に関与する。硬化時間は、この系の組成物に応じて、約3分~約30分の間で調製できる。本開示の主題の一実施形態では、PDHPは、組成物の総重量を基準にして、約0.01重量%~約1.0重量%存在し得、通常、それをDLPから離しておくために、二液性接着剤配合物の「Aサイド」中に存在し得る。
【0034】
III.アクリル系接着剤組成物
本開示の主題の追加の実施形態では、上記酸化剤および促進剤は、アクリル系接着組成物中に採用でき、このことは通常、当該技術分野で既知で、また文献で報告されており、通常、1種または複数のフリーラジカル重合性モノマー、少なくとも1種のゴム強靭化剤、任意選択の充填剤、着色料、および1種または複数のオープンタイム(混合接着剤の塗布と、硬化進行により接着性能が損なわれる時間との間の時間)を調節するための速度調節剤、および酸素バリアー、例えば、ワックスを含む。
【0035】
本開示の主題の別の実施形態では、DLPおよびPDHPは、主成分として:(a)約10重量%~約90重量%の少なくとも1種のフリーラジカル重合性モノマー、(b)約0重量%~約20重量%の接着促進剤、(c)約10重量%~約80重量%の、約18,000未満重量平均分子量(Mw)または約10,000未満の数平均分子量(Mn)を有する主要低分子量強靱化剤(または強化剤(toughening agent))および;(d)約1重量%~約15重量%の、18,000より大きい、好ましくは100,000~120,000ほどにもなるMwまたは約10,000より大きいMnを有する補助高分子量強靭化剤(または強化剤)を成分(a)~(d)の総重量を基準にして含む接着剤組成物中に存在する。
【0036】
(メタ)アクリルベースモノマーおよび/または(メタ)アクリルベースモノマー由来の高分子は、重合性成分の少なくとも一部として特に有用である。本明細書で使用される場合、(メタ)アクリルベースモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸またはそれらのアミド、エステル、塩またはニトリルを意味する。代表的(メタ)アクリルベースモノマーとしては、限定されないが、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、エチルアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジシクロペンタジエニルオキシエチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、テトラヒドロフリルメタクリレート、メタクリル酸、アクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、グリシジルメタクリレート、シアノアクリレート、アクリルアミドおよびメタクリルアミドが挙げられる。
【0037】
代表的実施形態としては、第1の容器中に約10重量%~約90重量%の、C3-C10アルキル一置換、C1-C6アルキル二置換、C1-C4アルキル三置換、およびC1-C4アルキル四置換シクロヘキシルメタクリレートから選択される少なくとも1種のメタクリレートを含む二液性アクリル系構造用接着剤が挙げられる。環置換基は、好ましくは、3、4、および/または5環位置にあり、直鎖または分岐鎖C4~C14分岐アルキルメタクリレート;約10重量%~約80重量%の強靭化剤、および接着促進剤;ならびに第2の容器中には、結合活性化剤、および任意選択のエポキシ樹脂。
【0038】
本明細書で開示の二液性接着剤配合物の追加の実施形態では、いくつかの態様において、酸化剤を二液性接着剤の従来のBサイド成分から、Aサイドに「切り替える」のが好都合な場合がある。本開示の主題の特定の実施形態では、DLPは、接着剤の「Aサイド」に、およびPDHPを「Bサイド」に収容できる。
【0039】
本開示の主題のさらなる実施形態では、安定化剤または抗酸化剤は、DLPと共に収容して、Aサイド中に存在するモノマーとの反応によるDLPの何らかの望ましくない分解を防ぐことができる。任意の好適な安定化剤または抗酸化剤を使用できると同時に、好ましい実施形態では、安定化剤は、下記構造を有する、SI Group,Incから入手可能なエタノックス330を含めることができる。
【0040】
【0041】
本開示の主題の実施形態で使用するために好適な他の安定化剤には、限定されないが、一例として、p-ベンゾキノン、Ethaphos 368、およびトルヒドロキノンが挙げられる。
【0042】
安定化剤は、好ましくは、接着剤中に、約0ppm(百万分の一)~約500ppmの量で、および最も好ましくは、約125ppm~約250ppmの量で存在する。
【0043】
従って、いくつかの実施形態では、本明細書で提供されるのは硬化性組成物であり、該組成物は、反応性モノマーまたはオリゴマー、アクリレート官能基を有する反応性モノマーまたはオリゴマー、アミン、およびアルキル過酸化物を含み、該アルキル過酸化物はフェニル環不含または実質的に不含である。アルキル過酸化物は、いくつかの態様では、アルキルジアシル過酸化物、任意選択で、ジラウロイル過酸化物(DLP)を含む。いくつかの実施形態では、このような硬化性組成物は、3,5-ジエチル-1,2-ジヒルドロ-1-フェニル-2-プロピルピリジン(PDHP)をさらに含み得る。
【0044】
DLPは、組成物の総重量を基準にして、約0.5重量%~約5.0重量%で存在し、または、組成物の総重量を基準にして、約1.0重量%~約2.5重量%で存在し得る。PDHPは、組成物の総重量を基準にして、約0.01重量%~約1.0重量%で存在し、または、組成物の総重量を基準にして、約0.1重量%で存在し得る。
【0045】
いくつかの実施形態では、組成物は、いずれのフェニル含有成分も実質的に不含であり得る。いくつかの実施形態では、組成物は、硬化物または硬化可能なものであり得る。いくつかの実施形態では、組成物はベンゼンまたはベンゼン誘導体を実質的に不含であり、例えば、約5%未満、約1%未満または約0.5%未満であり得る。いくつかの実施形態では、組成物は、ベンゼンまたはベンゼン誘導体を完全に不含であり得る。いくつかの実施形態では、組成物は、残留アルデヒド含量または残留物が少ない、または実質的にこれら不含あり得、任意選択で、組成物は、約100ppm未満のアルデヒド含量または残留物を有する。
【0046】
いくつかの実施形態では、組成物は、ジイソプロパノールトルイジンおよびジメチルピペラジンをさらに含み得る。いくつかの実施形態では、組成物は、二液性接着剤を含み得、二液性接着剤は、AサイドにDLPおよびアクリル系モノマー、ならびにBサイドにPDHPを含む。いくつかの実施形態では、組成物は、安定化剤をさらに含む場合があり、任意選択で、安定化剤はエタノックス330を含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供されるのは、二液性接着剤組成物であり、該二液性接着剤組成物は、ジラウロイル過酸化物(DLP)およびアクリル系モノマーを含むAサイド、ならびに3,5-ジエチル-1,2-ジヒルドロ-1-フェニル-2-プロピルピリジン(PDHP)を含むBサイドを含む。いくつかの態様では、二液性接着剤組成物は、安定化剤をさらに含む場合があり、任意選択で、安定化剤はエタノックス330を含む。いくつかの態様では、DLPは、組成物の総重量を基準にして、約0.5重量%~約5.0重量%で存在し、任意選択で、DLPは、組成物の総重量を基準にして、約1.0重量%~約2.5重量%で存在する。いくつかの実施形態では、PDHPは、組成物の総重量を基準にして、約0.01重量%~約1.0重量%で存在し、任意選択で、PDHPは、組成物の総重量を基準にして、約0.1重量%で存在する。
【0048】
いくつかの実施形態では、二液性接着剤組成物は、いずれのフェニル含有成分も実質的に不含であり得る。いくつかの実施形態では、二液性接着剤組成物は、ベンゼンまたはベンゼン誘導体を実質的に不含であり得る。いくつかの実施形態では、二液性接着剤組成物は、残留アルデヒド含量または残留物が少ない、または実質的に不含あり得、任意選択で、組成物は、約100ppm未満のアルデヒド含量または残留物を有する。いくつかの実施形態では、二液性接着剤組成物は、ジイソプロパノールトルイジンおよびジメチルピペラジンをさらに含む。
【0049】
実施例
以下の実施例は、本開示の主題の種々の実施形態をさらに例示するために収載される。しかし、当業者は、本開示を踏まえて、開示される具体的な実施形態に多数の変更を行うことが可能であり、それでもなお本開示の主題の趣旨および範囲を逸脱することなく同様のまたはほぼ同じ結果を得ることが可能であることを理解するべきである。
【0050】
実施例1
二液性アクリル接着剤の評価
この実施例では、二液性アクリル接着剤が作製され、この場合、E029-8と命名されたBサイド硬化剤をジラウロイル過酸化物(DLP)、例えば、このような接着剤で典型的な過酸化ベンゾイルではなく、ルペロックスLP(Arkema Inc)を用いて配合した。表1を参照。
【0051】
【0052】
8006-2と命名されたAサイドは、アクリレートモノマー、HEMAホスフェート、DIIPT(ジイソプロパノールトルイジン)およびDMP(ジメチルピペラジン)、ならびに強靱化剤、阻害剤、ワックス、ヒュームドシリカなどの充填剤、などの添加物を含む典型的なAサイドアクリル系構造用接着剤を含む。表1を参照。
【0053】
AサイドおよびBサイドを、4:1(A:B)の体積混合比で配合した。この混合物は硬化したが、硬化速度は非常に緩慢であった。さらに、スクイズアウト時に空気妨害(air inhibition)が激しい(下表2参照)。
【0054】
実施例2
PDHP添加の驚くべき効果
DLP/アクリル系硬化をより迅速に進行させるために、潜在的促進剤を特定する試みを実施した。ナフテン酸コバルト溶液(6%Cu、Alfa Aesar)およびナフテン酸銅(8%Co、The Shepherd Chemical Company)を上記混合物中に添加後、何ら効果は観察されなかった。
【0055】
次に、3,5-ジエチル-1,2-ジヒルドロ-1-フェニル-2-プロピルピリジン(PDHP)をA/B混合物中に添加し、例えば、約0.50重量%、または約0.01重量%~約0.70重量%の範囲で、含めた。
【0056】
【0057】
接着剤混合物中への少量のPDHPの添加は、驚くべきことに、硬化を加速し、均質な硬化が達成された。さらに、硬化時間は、混合物に添加または組み込まれるPDHPの量を変えることにより調節し得ることが明らかになった。さらに、種々の量のPDHPの含有により空気妨害は顕著に低減された。表2を参照されたい。
【0058】
【0059】
実施例3
接着性の評価
この実験では、アルミニウムに対するラップシアー試験およびT字剥離試験などの接着性を観察した。本明細書で提供される接着剤配合物により、適度に受け入れ可能なラップシアー強度およびT字剥離強度が得られた。この特定用途のために、好ましいラップシアー強度は、約1700~2200psiの非接着破壊であり、T字剥離強度は、20~38pliの範囲の非接着破壊であり得る。表3を参照されたい。
【0060】
【0061】
この実施例の系は、良好な結合を示したが、貯蔵寿命は、貯蔵中のPDHPの他の成分との反応に起因して不十分であった。
【0062】
実施例4
プラスチックボンダーとしての接着剤組成物の評価
次の実施例は、開示接着剤組成物のプラスチック結合系における有効性を示す。HEMAホスフェート、無水フタル酸のモノエステル、およびHEMAなどの金属接着促進剤を除去した。予備的データは、Aサイドは流動性のままであり、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)に対する結合強度は、正常であることを示した。表4を参照されたい。
【0063】
【0064】
全ての系は、150psiを越える強度を得たが、最適ではなく、室温条件での接着剤硬化を確証している。注目すべきは、これらの系が最適化されていなかったことである。
【0065】
実施例5
Aサイド成分中のDLPの評価
この実施例では、AサイドとBサイドとの間のDLPとPDHPの切替について調査した。目標は、Aサイド中の活性水素含有成分とのPDHPの錯体形成をなくすることにより、適度な貯蔵寿命を有する実現可能な系を得ることであった。
【0066】
サイド切替手法のために、GY1556エポキシ樹脂中の5.5重量%のPDHPのモデル溶液を作製した。その流動性を経時的に監視した。この溶液を3週間にわたり監視し、流体を室温のままにすると、PDHPとエポキシ樹脂との間でわずかな有害相互作用を示した。
【0067】
t-MCHMA中4重量%のDLPのモデル溶液も同様に作製した。それを、室温(RT)および50℃のオーブン中で貯蔵した。後者は、24時間でゲル化したが、RT溶液は、3週間にわたり流体のままであったが、わずかに変色した。実験室温度は18~21℃の範囲であった。Aサイド樹脂を低温の部屋で貯蔵することは現実的ではない場合があるが、低温貯蔵は貯蔵寿命を延長できる。
【0068】
結合部分は、最初はRT条件で硬化され、その後、175℃で30分間ポストベークし、eベーク(e-bake)を模倣する。結果は、2種のゴム付加物を用いることにより、優れたT字剥離性能を示した。性能領域を理解するために、LPおよびPDHPの効果も同様に調べた。表5を参照されたい。
【0069】
【0070】
実施例6
接着剤組成物の安定性の評価
上記実施例は、従来のAサイドとBサイド中のルペロックスLPおよびPDHPの切替により、PDHPと、HEMA、HEMAホスフェート、などのH供与成分との間の急速で、強力な相互作用は実質的にまたは完全に回避できることを示している。しかし、LP過酸化物を樹脂サイド(Aサイド)中に置くことは、問題があることが知られている;過酸化物の天然の分解が、モノマーおよび中間体の重合をもたらし、ゲル化を生じ得る。
【0071】
特定の理論または作用機序に束縛されるものではないが、本開示に基づいて、このサイドには活性水素含有原材料が存在しないので、PDHPは、Bサイドで安定であると結論された。PDHPをBサイドに置くことによる有害作用は、観察されなかった。AサイドのDLPは、時間と共に過酸化物がアクリルモノマーと反応することが予測されるので、安定性の問題があるかもしれないという懸念があった。この問題を克服するために、安定化剤、例えば、エタノックス330をAサイドに加え、同等レベルのDLPおよびBPOを有する対照としての従来のBPO含有接着剤と並行して、新規接着剤配合物を試験した。カップを25℃のインキュベーター中に置き、経時的に監視した。次の観察を実施した:1)2週後、DLPおよびBPOの両方を含有する試料は、ほとんど/全く観察可能な色変化のない流体のままであった;2)3週後、両試料は、まだ流体であったが、BPO含有試料は、DLP含有試料より著しく濃色/褐色であり、モノマーの少しの反応/ゲル化を示した;3)2か月後、BPO含有試料は、より濃褐色で、明らかにゲル化を開始したが、一方、DLP含有流体は、わずかに濃色化しただけであった;および4)2.5か月後、BPO含有流体は約50%ゲル化したが、DLP含有流体は、以前の観察から変わりないように見えた。
【0072】
結論は、10ppmのエタノックス330を含むルペロックスLP含有系は25℃で数か月間安定であったが、BPO含有系は、ゲル化し、使用不能になり始めていることであった。
【0073】
本開示の主題の種々の詳細は、本開示の主題の範囲から逸脱することなく、変更が行われ得ることは理解されよう。さらに、前述の記述は、例示の目的のためのみのものであり、限定することを目的とするものではない。