(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】フルオレン骨格を有する化合物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 43/23 20060101AFI20241203BHJP
C07C 39/17 20060101ALI20241203BHJP
C08G 64/06 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C07C43/23 D CSP
C07C39/17
C08G64/06
(21)【出願番号】P 2023083655
(22)【出願日】2023-05-22
(62)【分割の表示】P 2019132672の分割
【原出願日】2019-07-18
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2019088841
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】友成 安彦
(72)【発明者】
【氏名】布目 和徳
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/044214(WO,A1)
【文献】特開2016-079405(JP,A)
【文献】特開2017-114947(JP,A)
【文献】特開2019-001780(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104263287(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109722198(CN,A)
【文献】特開2008-222708(JP,A)
【文献】特開2010-248095(JP,A)
【文献】特開2005-104935(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025799(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式
(1a)~(1d)で示される
うちの1つであるフルオレン骨格を有する化合物であって、前記フルオレン骨格を有する化合物中のパラジウム元素の含有量が下記式(2)を満たし、前記フルオレン骨格を有する化合物をジメチルホルムアミドに溶解させた5重量%溶液のAPHAが500以下であるフルオレン骨格を有する化合物。
0.01 ≦ Pd ≦ 50ppm (2)
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
(
式中、R
2
~R
13
はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1~12の芳香族基を含んでいてもよい炭化水素基を示す。Ar
1
およびAr
2
はそれぞれ独立に炭素数が6~12の置換基を有してもよい芳香族基、L
1
は炭素数1~12のアルキレン基、о1は0~5の整数を示す。)
【請求項2】
前記式
(1a)~(1d)で示されるフルオレン骨格を有する化合物中のパラジウム元素の含有量が下記式
(2-1)を満たす請求項1に記載のフルオレン骨格を有する化合物。
0.05 ≦ Pd ≦ 25ppm (2-1)
【請求項3】
前記式
(1a)~(1d)で示される化合物をジメチルホルムアミドに溶解させた5重量%溶液のAPHAが
200以下である請求項1または2に記載のフルオレン骨格を有する化合物。
【請求項4】
前記式
(1a)~(1d)が前記式(1b)である請求項
1に記載のフルオレン骨格を有する化合物。
【請求項5】
前記式
(1a)~(1d)中のAr
1およびAr
2がフェニル基またはナフチル基である請求項1~
4のいずれかに記載のフルオレン骨格を有する化合物。
【請求項6】
前記式
(1a)~(1d)が式(1-b)で表される化合物である請求項1~
5のいずれかに記載のフルオレン骨格を有する化合物。
【化5】
【請求項7】
式(1-b)で示される化合物中のジフェニルフルオレノンの含有量が0.2%以下である請求項
6に記載の化合物。
【請求項8】
示差走査熱量分析において、230~247℃に吸熱ピークを有する請求項
6に記載の化合
物。
【請求項9】
Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおける回折角2θが10.6±0.2°、10.8±0.2°、17.1±0.2°、17.6±0.2°および18.7±0.2°にピークを有する請求項
6に記載の化合物の結晶。
【請求項10】
熱可塑性樹脂の原料としての、請求項1記載のフルオレン骨格を有する化合物の使用方法。
【請求項11】
レンズ用の熱可塑性樹脂である請求項10記載のフルオレン骨格を有する化合物の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学レンズや光学フイルムに代表される光学部材を構成する熱可塑性樹脂を形成するモノマーとして好適であり、高屈折率、低複屈折および耐熱性と成形性のバランスに優れた熱可塑性樹脂の原料として好適なフルオレン骨格を有する化合物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BPEF)に代表されるフルオレン骨格を有するアルコールを原料としたポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネートなどの熱可塑性樹脂材料は、光学特性、耐熱性、成形性などに優れることから、光学レンズや光学シートなどの光学部材として注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、BPEF骨格を有するアルコールを原料としたポリカーボネート樹脂が開示されている。しかしながら、該アルコールを使用したポリカーボネート樹脂の屈折率は1.64との記載があるものの、近年の急速な技術革新に伴い、前記特性のさらなる向上が要求されている。そこで更なる高屈折率化を目指し、特許文献2では9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン(BOPBPEF)を原料とした熱可塑性樹脂が開発されているものの、該特許文献に記載の樹脂も屈折率に未だ改善の余地がある。また、特許文献3には9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン(BNEF)を原料とした高屈折率樹脂が記載されているものの、屈折率は高いが複屈折も高くなることから光学レンズなどの透明材料に適用するには大きな問題となってしまう。
このように、高屈折率と低複屈折とはトレードオフの関係にあり、従来のポリカーボネートやポリエステル樹脂では、両特性を両立させることは困難であった。
【0004】
ところで、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BPEF)の製造方法としては、硫酸とチオール類を触媒として用いて9-フルオレノンと2-フェノキシエタノールを脱水縮合させる方法(非特許文献1)が開示されている。また、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン(BNEF)の製造方法としては、BPEFと同様、硫酸とチオール類とを触媒として用いてフルオレノンと2-ナフトキシエタノールを脱水縮合させる方法が開示されている(特許文献4)。さらに9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン(BOPBPEF)もBPEFやBNEFと同様、硫酸とチオール類を触媒として用いてフルオレノンと2-(2-ビフェニリルオキシ)エタノールを脱水縮合させる方法(特許文献5)が開示されている。また、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン(BNEF)の製造方法としては、硫酸に代わりリンタングステン酸とn-ドデシルメルカプタンを酸触媒として用いて9-フルオレノンと2-ナフトールをトルエンおよびγ-ブチロラクトン中で減圧しながら脱水縮合させたのち精製することなくそのままエチレンカーボネートを付加させる方法(特許文献6)が開示されているが、いずれの方法も大量の硫酸や少量ではあるがn-ドデシルメルカプタンといった硫黄源を酸触媒に使用するため、反応後の中和・精製といった煩雑な精製操作が必要であり、かつ大量の中和排水が発生してしまう。また、製品中に触媒由来の硫黄成分が混入することにより、製品の着色や安定性の低下、純度の低下などの問題が発生する。さらに光学用樹脂材料など、高純度の製品を得るためには硫黄成分の除去のための精製操作を繰り返す必要があり、工業的に有利な方法とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2007/142149号パンフレット
【文献】特開2015-86265号公報
【文献】特開2017-171885号公報
【文献】特開2016-79405号公報
【文献】特開2009-256342号公報
【文献】特開2019-1780号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Chemistry Letters,1998年,1055-1056頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明において分子設計した下記式(1)の化合物の製造方法は2つの工程から成り立つが、本願発明者が工程1において、上記特許文献に記載される方法を用いても全く反応しないか、あるいは反応が進行したとしても反応速度が遅いため工業的に不利である。また、工程2で使用する触媒の量が多かったり、活性炭処理あるいはそれと酷似した金属の除去処理をしなければ、下記式(1)で表されるフルオレン骨格を有する白色化合物に工程2で使用したパラジウム系触媒に由来する黒色の粒子が混入しており該アルコール化合物の色相が悪化してしまった。
【0008】
したがって、本発明では、上記従来技術の問題点を解決するために検討した結果達成されたものであって、原料として使用して得られた樹脂の種々特性(光学特性、耐熱性、成形性など)に優れた新規なフルオレン骨格を有する化合物およびその製造方法を提供することを目的とする。また、好ましくはパラジウム含有量等の特定の金属含有量が少なく、その原料や原料を使った樹脂の色相に優れた新規なフルオレン骨格を有する化合物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するために検討した結果達成されたものであって、一定の品質を有し、ポリマー原料として優れたフルオレン骨格を有する化合物とその製造方法を提供することである。具体的には、本発明は、以下に示すフルオレン骨格を有する化合物およびその製造方法に関する。
【0010】
[1]下記式(1)で示されるフルオレン骨格を有する化合物。
【化1】
【0011】
(式中、R1は水素原子、ハロゲン原子または炭素数1~12の芳香族基を含んでいてもよい炭化水素基、Ar1およびAr2はそれぞれ独立に炭素数が6~12の置換基を有してもよい芳香族基、L1は炭素数1~12のアルキレン基、m1およびn1は同一または異なって0~4の整数を示し、m2およびn2は同一または異なって0~3の整数を示し、m1+m2≧1である。ただし、m1+n1は4以下の整数であり、m2+n2は3以下の整数である。о1およびо2はそれぞれ独立に0~5の整数を示す。)
【0012】
[2]前記式(1)で示されるフルオレン骨格を有する化合物中のパラジウム元素の含有量が下記式(2)を満たす前項1に記載のフルオレン骨格を有する化合物。
0 ≦ Pd ≦ 50ppm (2)
[3]前記式(1)で示される化合物をジメチルホルムアミドに溶解させた5重量%溶液のAPHAが500以下である前項1または2に記載のフルオレン骨格を有する化合物。
【0013】
[4]前記式(1)が下記式(1a)~(1d)で示されるうちの1つである前項1~3のいずれかに記載のフルオレン骨格を有する化合物。
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
(式中、R2~R13はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1~12の芳香族基を含んでいてもよい炭化水素基を示す。Ar1、Ar2、L1およびо1は前記式(1)と同じである。)
【0019】
[5]前記式(1)が前記式(1b)である前項4に記載のフルオレン骨格を有する化合物。
[6]前記式(1)中のAr1およびAr2がフェニル基またはナフチル基である前項1~5のいずれかに記載のフルオレン骨格を有する化合物。
【0020】
[7]前記式(1)が式(1-b)で表される化合物である前項1~6のいずれかに記載のフルオレン骨格を有する化合物。
【化6】
【0021】
[8]式(1-b)で示される化合物中のジフェニルフルオレノンの含有量が0.2%以下である前項7に記載の化合物。
[9]示差走査熱量分析において、230~247℃に吸熱ピークを有する前項7に記載の化合物の結晶。
[10]Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおける回折角2θが10.6±0.2°、10.8±0.2°、17.1±0.2°、17.6±0.2°および18.7±0.2°にピークを有する前項7に記載の化合物の結晶。
【0022】
[11]上記式(1)で示されるフルオレン骨格を有する化合物の製造方法において、少なくとも下記の工程1および工程2を含んでなることを特徴とするフルオレン骨格を有する化合物の製造方法。
工程1:下記式(3)で示されるフルオレノン類と下記式(4)または(5)で示されるボロン酸類とを反応溶媒中、塩基およびパラジウム系触媒の存在下で反応させる工程
工程2:工程1で製造した反応物(6)と下記式(7)で示されるアルコール類とを反応溶媒中、酸触媒の存在下、減圧下で反応させ、反応後、中和したのち得られた下記式(8)で示される反応物を取り出すことなくそのまま塩基の存在下でエチレンカーボネートと反応させ目的物を製造する工程
【0023】
【化7】
(式中、X
1は1位、2位、3位または4位の置換基であり、X
2は5位、6位、7位または8位の置換基であり、ハロゲン原子を示す。)
【0024】
【0025】
【化9】
(式中、Yは芳香族基、R
14は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を示す。lは0、1または2であり、l=2の場合、R
14は同一でもあるいは異なっていてもよい。)
【0026】
【化10】
(式中、Ar
1およびAr
2は式(1)と同じである。)
【0027】
【化11】
(式中、p1およびp2は同一または異なって0~4の整数であり、R
1、n1およびn2は前記式(1)と同じである。)
【0028】
【化12】
(式中、R
1、Ar
1およびAr
2は式(1)と同じである。p1およびp2は式(7)と同じである。n1およびn2は0~3の整数である。)
【0029】
[12]式(3)で表される化合物が2,7-ジブロモフルオレノンである前項11に記載のフルオレン骨格を有する化合物の製造方法。
[13]式(4)で表される化合物がフェニルボロン酸である前項11に記載のフルオレン骨格を有する化合物の製造方法。
[14]式(5)で表される化合物がフェニルボロン酸の無水物である前項11に記載のフルオレン骨格を有する化合物の製造方法。
[15]式(6)で表される化合物が2,7-ジフェニルフルオレノンである前項11に記載のフルオレン骨格を有する化合物の製造方法。
[16]式(7)で表される化合物が2-ナフトールである前項11に記載のフルオレン骨格を有する化合物の製造方法。
[17]式(8)で表される化合物が9,9’-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-2,7-ジフェニルフルオレンである前項11に記載のフルオレン骨格を有する化合物の製造方法。
[18]工程1で使用されるパラジウム系触媒がテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムおよび/またはPd/SiO2で表されるパラジウム系触媒である前項11に記載のフルオレン骨格を有する化合物の製造方法。
[19]工程1で使用される塩基が炭酸カリウムおよび/または炭酸ナトリウムである前項11に記載のフルオレン骨格を有する化合物の製造方法。
[20]工程1で使用される反応溶媒として、トルエンとエタノールの混合溶媒を用いる前項11に記載のフルオレン骨格を有する化合物の製造方法。
[21]工程2で使用される酸触媒がリン酸またはケイ酸と、バナジウム、モリブデンおよびタングステンから選ばれる少なくとも一つの元素の酸素酸イオンとから構成されるヘテロポリ酸である前項11に記載のフルオレン骨格を有する化合物の製造方法。
[22]工程2で、酸触媒とともにチオール基を有する化合物を併用する前項11に記載のフルオレン骨格を有する化合物の製造方法。
[23]工程2で使用される反応溶媒として、トルエンとγ-ブチロラクトンの混合溶媒を用いる前項11に記載のフルオレン骨格を有する化合物の製造方法。
[24]工程2で使用される反応溶媒として、トルエンとエチレンカーボネートの混合溶媒を用いる前項11に記載のフルオレン骨格を有する化合物の製造方法。
[25]熱可塑性樹脂の原料としての、前項1記載のフルオレン骨格を有する化合物の使用方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明のフルオレン化合物は、フルオレン環の9位に環集合アレーン環が置換されているだけでなく、(好ましくは2,7位の位置にも)ジアリール基を有しており、該フルオレン化合物を原料とする熱可塑性樹脂は光学特性に加え、種々の特性(耐熱性、透明性、成形性など)に優れている。また、本発明のフルオレン化合物は、好ましくはパラジウム含有量等の特定の金属含有量が少なく、色相にも優れているため、該フルオレン化合物や該フルオレン化合物を使った樹脂の色相に優れている。さらに、本発明では、このような特性に優れたフルオレン骨格を有する化合物を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施例6で得られた9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-2,7-ジフェニルフルオレンの示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図である。
【
図2】実施例6で得られた9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-2,7-ジフェニルフルオレンの粉末X線測定チャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に限定されるものではない。
【0033】
[フルオレン骨格を有する化合物]
本発明の化合物は、下記式(1)で表されるフルオレン骨格を有する化合物、すなわち、フルオレン類の9位に少なくとも1つのヒドロキシ基を有する芳香族炭化水素が2つ置換または付加した化合物である。
【0034】
【0035】
(式中、R1は水素原子、ハロゲン原子または炭素数1~12の芳香族基を含んでいてもよい炭化水素基、Ar1およびAr2はそれぞれ独立に炭素数が6~12の置換基を有してもよい芳香族基、L1は炭素数1~12のアルキレン基、m1およびn1は同一または異なって0~4の整数を示し、m2およびn2は同一または異なって0~3の整数を示し、m1+m2≧1である。ただし、m1+n1は4以下の整数であり、m2+n2は3以下の整数である。о1およびо2はそれぞれ独立に0~5の整数を示す。)
【0036】
上記式(1)において、ナフタレン環の具体例としては、1,4-ナフタレンジイル基または2,6-ナフタレンジイル基が好ましく、2,6-ナフタレンジイル基がより好ましい。
【0037】
なお、フルオレン環の9位に置換する2つのナフタレン環は、互いに同一又は異なっていてもよく、同一の環である場合がより好ましい。なお、フルオレン骨格の9位に置換するナフタレン環の置換基は、特に限定されない。例えば、ナフタレン環の場合、フルオレン環の9位に置換するナフタレン環に対応する基は1-ナフチル基、2-ナフチル基などであってもよい。
【0038】
上記式(1)において、R1は、水素原子、ハロゲン原子または炭素原子数1~12の芳香族基を含んでいても良い炭化水素基を示し、水素原子、メチル基またはフェニル基が好ましい。
【0039】
上記式(1)において、R1で表される炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ナフチル基、アラルキル基などが例示できる。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などのC1-6アルキル基、C1-4アルキル基、C1-3アルキル基が好ましく、C1-3アルキル基がさらに好ましく、その中でメチル基またはエチル基がよりさらに好ましい。
【0040】
また、シクロアルキル基の具体例としては、シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5-8シクロアルキル基、C5-6シクロアルキル基などが好ましく、C5-6シクロアルキル基がより好ましい。
【0041】
また、アリール基の具体例としては、フェニル基、アルキルフェニル基(モノまたはジメチルフェニル基、トリル基、2-メチルフェニル基、キシリル基など)などが好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0042】
また、アラルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基などが好ましく例示できる。
また、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが好ましい。
【0043】
上記式(1)において、置換基R1の置換数n1およびn2は、縮合炭化水素の縮合環数などに応じて適宜選択でき、特に限定されず、好ましくはそれぞれ独立に0以上、より好ましくは1以上の整数である。なお、置換数n1およびn2はナフタレン環において、同一または異なっていてもよく、通常、同一である場合が多い。
【0044】
上記式(1)において、L1は2価の連結基を示し、炭素数1~12のアルキレン基であると好ましく、エチレン基であるとより好ましい。通常、L1は同一のナフタレン環において、同一のアルキレン基であってもよい。また、L1は、異なるナフタレン環において、互いに同一又は異なってもいてもよく、通常、同一であってもよい。
【0045】
オキシアルキレン基(OL1)の数(付加モル数)о1およびо2は、それぞれ0~5の範囲から選択でき、下限は好ましくは0以上であり、上限は好ましくは4以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下である。特に好ましくは0または1であり、もっとも好ましくは1である。なお、о1およびо2は、整数でも平均値であってもよく、異なるナフタレン環において、同一であっても、異なっていてもよい。また、m1は1、m2は0が好ましい。
【0046】
上記式(1)において、Ar1およびAr2は、それぞれ独立に炭素原子数6~10の芳香族基を示し、フェニル基またはナフチル基が好ましい。基Ar1およびAr2はたがいに異なっていてもよく同一であってもよいが、通常、同一である。また、Ar1およびAr2のそれぞれの結合位置はフルオレン骨格の1位と8位、2位と7位、3位と6位、または4位と5位であると好ましく、2位と7位、3位と6位または4位と5位であるとより好ましく、2位と7位であるとさらに好ましい。
【0047】
以下に前記式(1)で表されるジオール成分の代表例を示すが、本発明の前記式(1)に用いられる原料としては、それらによって限定されるものではない。
【0048】
ジフェニルフルオレンタイプとしては、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-1,8-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-2,7-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-3,6-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-4,5-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-1,8-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-2,7-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-3,6-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-4,5-ジフェニルフルオレン等が好ましく挙げられる。なかでも下記式(1-a)~(1-b)に示す、下記式(1-a):9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-2,7-ジフェニルフルオレン、下記式(1-b):9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-2,7-ジフェニルフルオレン、がより好ましく、特に、下記式(1-b):9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2,7-ジフェニルフルオレンが好ましい。
【0049】
【0050】
【0051】
ジナフチルフルオレンタイプとしては、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-1,8-ジ(1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-3,6-ジ(1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-4,5-ジ(1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-1,8-ジ(1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-3,6-ジ(1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-4,5-ジ(1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-1,8-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-3,6-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-4,5-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-1,8-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-3,6-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-4,5-ジ(2-ナフチル)フルオレン、等が好ましく挙げられる。なかでも下記式(2-a)~(2-b)に示す、下記式(2-a):9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン、下記式(2-b):9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン、がより好ましく、特に、下記式(2-b):9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレンが好ましい。
【0052】
【0053】
【0054】
本発明のフルオレン骨格を有する化合物は、パラジウム元素の含有量が好ましくは下記式(2)を満足する。
0 ≦ Pd ≦ 50ppm (2)
より好ましくは、下記式(2-1)を満足する。
0 ≦ Pd ≦ 25ppm (2-1)
さらに好ましくは、下記式(2-2)を満足する。
0 ≦ Pd ≦ 10ppm (2-2)
よりさらに好ましくは、下記式(2-3)を満足する。
0 ≦ Pd ≦ 5ppm (2-3)
特に好ましくは、下記式(2-4)を満足する。
0 ≦ Pd ≦ 3ppm (2-4)
もっとも好ましくは、下記式(2-5)を満足する。
0 ≦ Pd ≦ 1ppm (2-5)
【0055】
上記範囲の上限を超えると、前記式(1)で表される原料アルコールを使った樹脂の色相やそれを使った光学部材に悪影響を及ぼすことがある。パラジウム元素の含有量の下限は、0.01ppm以上、0.05ppm以上、または0.10ppm以上であってもよい。
【0056】
本発明のフルオレン骨格を有する化合物は、ジメチルホルムアミドに溶解させた5重量%溶液のAPHAが500以下であると好ましく、200以下であるとより好ましく、100以下であるとさらに好ましい。APHAが500より大きいと前記式(1)で表される原料アルコールを使った樹脂の色相やそれを使った光学部材に悪影響を及ぼすことがある。
【0057】
本発明のフルオレン骨格を有する化合物は、前記式(1-b)で表される化合物中が特に好ましく、前記式(1-b)で表される化合物中のジフェニルフルオレノンの含有量が0.2%以下であると好ましく、0.1%以下であるとより好ましく、0.05%以下であるとさらに好ましい。ジフェニルフルオレノンの含有量が0.2%より大きいと前記式(1)で表される原料アルコールを使った樹脂の色相やそれを使った光学部材に悪影響を及ぼすことがある。
【0058】
[ビナフタレン化合物の結晶多形体]
本発明の前記式(1-b)で表される化合物の結晶は、示差走査熱量分析による吸熱ピークを230~247℃の範囲に有することが好ましい。また、Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおける回折角2θが10.6±0.2°、10.8±0.2°、17.1±0.2°、17.6±0.2°および18.7±0.2°に特徴的なピークを有する。また、回折角2θが10.8±0.2°に最大ピークを有することが好ましい。本発明の前記式(1-b)で表される化合物の結晶は、取扱性に優れ、かつ、色相、純度とも良好な結晶である。
【0059】
[フルオレン骨格を有する化合物の製造方法]
本発明のフルオレン骨格を有する化合物の製造方法は、大きく分けて2つの工程からなり、下記式(3)で表されるフルオレノン類と下記式(4)または(5)で表されるボロン酸類とパラジウム系触媒ならびに塩基存在下で反応させる第1の工程1と、工程1で製造した反応物(6)と下記式(7)で示されるアルコール類の化合物とを酸触媒の存在下(好ましくは酸触媒ならびにチオール系化合物の存在下)、反応系内を減圧下で副生する水を系外へ排出しながら反応させたのち、反応終了後はそのまま中和し生成物(8)を取り出すことなく塩基性触媒を加えてエチレンカーボネートと反応させる第2の工程2により製造できる。
【0060】
上記製造方法においては、工程1では下記式(4)はたは(5)で示すボロン酸類の反応性が高く副反応が起きないこと、工程2ではチオール系化合物を併用することによりそれを併用しない場合に比べて反応速度が速く、かつ系内を減圧下にすることで効率よく副生する水を追い出すことができるため、反応が速く副生成物の生成が抑制されかつ反応物(8)を取り出すことなく同じ反応釜で製造できるため、使用する溶媒量も少なくなり低コストで効率よく本発明のフルオレン骨格を有する化合物を製造することができる。
【0061】
工程1:
【化18】
(式中、X
1は1位、2位、3位または4位の置換基であり、X
2は5位、6位、7位または8位の置換基であり、ハロゲン原子を示す。)
【0062】
【0063】
【化20】
(式中、Yは芳香族基、R
14は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、ハロゲン原子を示す。lは0、1または2であり、l=2の場合、R
14は同一でもあるいは異なっていてもよい。)
【0064】
工程2:
【化21】
(式中、Ar
1およびAr
2は式(1)と同じである。)
【0065】
【化22】
(式中、p1およびp2は同一または異なって0~4の整数であり、R
1、n1およびn2は前記式(1)と同じである。)
【0066】
【化23】
(式中、R
1、Ar
1およびAr
2は式(1)と同じである。p1およびp2は式(7)と同じである。n1およびn2は0~3の整数である。)
【0067】
上記式(3)で表される化合物は、前記式(1)においてフルオレン骨格に対応するフルオレノン化合物であり、X1は1位、2位、3位または4位の置換基であり、X2は5位、6位、7位または8位の置換基であり、X1及びX2は共に、ハロゲン原子を示す。
以下に上記式(3)で表されるフルオレノン化合物の代表例を示すが、本発明の前記式(1)に用いられる原料としては、それらによって限定されるものではない。
【0068】
具体例として、1,8-ジフルオロフルオレノン、2,7-ジフルオロフルオレノン、3,6-ジフルオロフルオレノン、4,5-ジフルオロフルオレノン、1,8-ジクロロフルオレノン、2,7-ジクロロフルオレノン、3,6-ジクロロフルオレノン、4,5-ジクロロフルオレノン、1,8-ジヨードフルオレノン、2,7-ジヨードフルオレノン、3,6-ジヨードフルオレノン、4,5-ジヨードフルオレノン、1,8-ジブロモフルオレノン、2,7-ジブロモフルオレノン、3,6-ジブロモフルオレノン、4,5-ジブロモフルオレノン等が好ましく挙げられる。なかでも1,8-ジブロモフルオレノン、2,7-ジブロモフルオレノン、3,6-ジブロモフルオレノン、4,5-ジブロモフルオレノンが好ましく、特に、2,7-ジブロモフルオレノンが好ましい。
これらは単独で使用してもよく、または2種以上を混合してもよく、目的により任意に選ぶことができる。本発明では好ましくは2,7-ジブロモフルオレノンである。
【0069】
使用する前記式(3)で表されるフルオレノン類の純度は、特に限定されないが、通常、95%以上が好ましく、より好ましくは99%以上である。なお、フルオレノン類は、市販品を用いてもよく、合成したものを使用してもよい。例えば、ジブロモフルオレノン類を製造する方法としては、非特許文献(Journal of American Chemical Society,2017,Vol.139,11073-11080)に記載の方法、すなわち9-フルオレノンと臭素とを水中下で反応させる方法などが挙げられる。
【0070】
上記式(4)または(5)で表される化合物の環Yは、前記式(1)において基Ar1およびAr2に対応している。また、前記式(4)および(5)において、基R14の好ましい態様は前記R1の好ましい態様と同様であり、lの好ましい態様は前記n1およびn2の好ましい態様と同様である。
【0071】
使用するボロン酸類の純度は、特に限定されないが、通常、95%以上が好ましく、より好ましくは99%以上である。なお、ボロン酸類は、市販品を用いてもよく、合成したものを使用してもよい。ボロン酸類を製造する方法としては、例えば特許文献(特開2002-47292号公報)に記載の方法、すなわち、フェニルグリニヤール試薬と非エーテル系芳香族溶剤に溶解されたホウ酸エステル類とを反応させる方法などが挙げられる。
【0072】
本発明に用いられるボロン酸は前記式(4)および(5)で表されるアルキルボロン酸、アルケニルボロン酸、アリールボロン酸、ヘテロアリールボロン酸およびその無水物などが含まれ、アルキルボロン酸としては、ブチルボロン酸、シクロへキシルボロン酸、シクロペンチルボロン酸、2-エチルボロン酸、4-エチルボロン酸、へキシルボロン酸、イソブチルボロン酸、イソプロピルボロン酸、メチルボロン酸、n-オクチルボロン酸、プロピルボロン酸、ペンチルボロン酸、2-フェニルエチルボロン酸やこれらの無水物が含まれ、アルケニルボロン酸としては、1-シクロペンテニルボロン酸、フェロセンボロン酸、1,1’-フェロセンジボロン酸やこれらの無水物が含まれ、アリールボロン酸としては、2-アントラセンボロン酸、9-アントラセンボロン酸、ベンジルボロン酸、2-ビフェニルボロン酸、3-ビフェニルボロン酸、4-ビフェニルボロン酸、2,3-ジメチルフェニルボロン酸、2,4-ジメチルフェニルボロン酸、2,5-ジメチルフェニルボロン酸、2,6-ジメチルフェニルボロン酸、3,4-ジメチルフェニルボロン酸、3,5-ジメチルフェニルボロン酸、2-エトキシフェニルボロン酸、3-エトキシフェニルボロン酸、4-エトキシフェニルボロン酸、6-メトキシ-2-ナフタレンボロン酸、2-メチルフェニルボロン酸、3-メチルフェニルボロン酸、4-メチルフェニルボロン酸、1-ナフタレンボロン酸、2-ナフタレンボロン酸、9-フェナントレンボロン酸、10-フェニル-9-アントラセンボロン酸、フェニルボロン酸、フェニルエタンボロン酸、4-フェニル(ナフタレン-1-イル)ボロン酸、3-プロポキシフェニルボロン酸、3-イソ-プロポキシフェニルボロン酸、4-イソ-プロポキシフェニルボロン酸、4-プロピルフェニルボロン酸、4-イソ-プロピルフェニルボロン酸、10-(ナフタレン-1-イル)-9-アントラセンボロン酸、10-(ナフタレン-2-イル)-9-アントラセンボロン酸やこれらの無水物が含まれ、ヘテロアリールボロン酸としては、ベンゾフラン-2-ボロン酸、ジベンゾフラン-4-ボロン酸、5-フォルミル-2-フランボロン酸、5-フォルミルチオフェン-2-ボロン酸、フラン-2-ボロン酸、フラン-3-ボロン酸、ピリジン-3-ボロン酸、ピリジン-4-ボロン酸、キノリン-2-ボロン酸、キノリン-3-ボロン酸、キノリン-4-ボロン酸、キノリン-5-ボロン酸、キノリン-6-ボロン酸、キノリン-8-ボロン酸、イソ-キノリン-4-ボロン酸、2-チオフェンボロン酸、3-チオフェンボロン酸、5-ピリミジンボロン酸やこれらの無水物が含まれる。
【0073】
これらは単独で使用してもよく、または2種以上を混合してもよく、目的により任意に選ぶことができる。本発明では好ましくはフェニルボロン酸、2-ナフタレンボロン酸またはその無水物であり、特に好ましくはフェニルボロン酸またはその無水物である。
【0074】
原料として用いる前記式(4)で表される化合物の使用比率は、前記式(3)で表される化合物(ハロゲン化フルオレノン化合物)1モルに対して好ましくは2~5モル、より好ましくは、2.05~3.0モル、さらに好ましくは2.1~2.5モル程度であってもよい。該ボロン酸類が2モル未満であると前記式(6)で表される生成物の収率が低くなることがある。また、5モルを超えると、反応速度は速く収率が高くなるものの該フルオレン骨格を有する化合物の製造コストが上がることがある。
【0075】
また、前記式(5)で表される化合物の使用比率は、前記式(3)で表される化合物(ハロゲン化フルオレノン化合物)1モルに対して好ましくは0.7~5モル、より好ましくは0.8~3モル、さらに好ましくは1~2モル程度であってもよい。該ボロン酸類が0.7モル未満であると前記式(6)で表される生成物の収率が低くなることがある。また、5モルを超えると、反応速度は速く収率は高くなるものの該フルオレン骨格を有する化合物の製造コストが上がることがある。
工程1の前記式(3)と前記式(4)および/または(5)で表される化合物との反応(脱ハロゲン化反応)は、反応溶媒中、塩基および触媒の存在下で行うことができる。
【0076】
工程1の反応で使用する塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化物、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸セシウム(Cs2CO3)などの炭酸塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどの酢酸塩、リン酸ナトリウム(Na3PO4)、リン酸カリウム(K3PO4)などのリン酸塩などの無機塩、トリエチルアミン類、ピリジン、モルホリン、キノリン、ピペリジン、アニリン類、テトラnブチルアンモニウムアセテートなどのアンモニウム塩などの有機塩などが挙げられる。なかでも、炭酸塩が好ましく用いられ、炭酸カリウムおよび/または炭酸ナトリウムが好ましい。このような塩基は、単独で用いてもよく、また、2種類以上併用して用いることもできる。
また、工程1の反応において、上述した塩基の使用量は特に限定されないが、ボロン酸類1モルに対して好ましくは1~30当量、より好ましくは1~10当量添加される。
【0077】
工程1の反応で使用するパラジウム系触媒としては、鈴木カップリングで使用されるパラジウム化合物が好ましく、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド、酢酸パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、ビス[4-(N, N-ジメチルアミノ)フェニル]ジ-tert-ブチルホスフィンパラジウムジクロリド、ビス(ジ-tert-ブチルプレニルホスフィン)パラジウムジクロリド、ビス(ジ-tert-クロチルホスフィン)パラジウムジクロリド、Pd/SiO2で表されるパラジウム系触媒などが挙げられる。なかでも、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムおよび/またはPd/SiO2で表されるパラジウム系触媒が好ましい。このようなパラジウム系触媒は、単独で用いてもよく、また、2種以上併用して用いることもできる。
【0078】
工程1の反応において、上述した触媒の使用量は特に限定されないが、前記式(3)で示されるフルオレノン化合物1モルに対して、パラジウム金属原子換算で好ましくは0.1~10ミリモルであり、より好ましくは0.5~5ミリモルである。パラジウム触媒の使用量がパラジウム金属原子換算で0.1ミリモル未満の場合、反応が完結しにくくなることがある。また、パラジウム触媒の使用量がパラジウム金属原子換算で10ミリモルを超えると、反応は完結するものの、該フルオレン骨格を有する化合物中のパラジウム元素含有量を式(2)の範囲内にすることが困難になり該アルコール原料を用いて製造した熱可塑性樹脂の色相を悪化させる可能性があるばかりか、該フルオレン骨格を有する化合物の製造コストがあがることがある。
【0079】
工程1で用いる反応溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒とメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール等のアルコール類を単独または併用して用いることができる。芳香族炭化水素系溶媒は高沸点溶媒であるため反応温度を高く設定できるし、アルコールを用いることで水との親和性がよく反応性が良好になるため好適に用いられる。このような溶媒は単独で用いてもよく、または2種以上を併用して用いることもできる。さらには、N,N-ジメチルホルムアミドまたはN,N-ジメチルアセトアミド等の非プロトン性溶媒、o-ジクロロベンゼン等のハロベンゼン類も使用できる。このような溶媒も単独で用いても良く、また、2種以上併用して用いることもできる。本発明においては、トルエンとエタノールの混合溶媒がより好ましい。
【0080】
前記反応溶媒(本発明の場合、トルエンとエタノールの混合溶媒)の使用量は、特に限定されないが、前記式(3)で示されるフルオレノン類に対してトルエンは好ましくは0.1重量倍以上、より好ましくは0.5~100重量倍であり、さらに好ましくは1~50重量倍である。トルエンの使用量が0.1重量倍未満の場合、生成物が析出して撹拌が困難になる可能性がある。また、トルエンの使用量が100重量倍を超える場合、使用量に見合う効果がなく容積効率も悪化し該フルオレン骨格を有する化合物の製造コストが上がることがある。また、エタノールの使用量も特に限定されないが、前記式(3)で示されるフルオレノン類に対して好ましくは0.1~50重量倍であり、より好ましくは1~20重量倍である。エタノールの使用量が0.1重量倍未満の場合、反応速度が遅く収率が下がる可能性がある。また、エタノールの使用量が50重量倍を超える場合、トルエンと同様に使用量に見合う効果がなく容積効率も悪化し該フルオレン骨格を有する化合物の製造コストが上がることがある。
【0081】
反応温度は使用する原料、溶媒の種類により異なるが、好ましくは50~150℃、より好ましくは60~130℃、さらに好ましくは70~120℃である。反応は液体クロマトグラフィーなどの分析手段で追跡することができる。
【0082】
反応終了後の反応混合物には、通常、生成した前記式(6)で表される化合物以外に、未反応のフルオレノン類、未反応のボロン酸類、塩基、触媒、副反応生成物などが含まれている。そのため、慣用の方法、例えば、ろ過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、再沈殿、活性炭処理あるいはそれと酷似した金属の除去処理、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。例えば、慣用の方法(アルカリ水溶液を加えて水溶性の複合体を形成させる方法など)によりボロン酸類を除去し、活性炭処理あるいはそれと酷似した金属の除去処理をしてパラジウム化合物を除去したのち、再結晶溶媒を添加して冷却して再結晶化させ、次いでろ過分離することにより精製してもよい。
【0083】
前記式(7)で表されるアルコール類は、前記式(6)で表されるジアリールフルオレン誘導体において、9位に置換した(ポリ)ヒドロキシル基含有アレーン環に対応している。すなわち、前記式(7)においてナフタレン環は前記式(1)のナフタレン環に、R1、n1およびn2は前記式(1)のR1、n1およびn2に対応している。
【0084】
前記式(7)で表される化合物の具体例としては、ナフトール類(例えば、ナフトール(1-ナフトール、2-ナフトール)、炭化水素基を有するナフトール(メチルナフトール、エチルナフトール、ジメチルナフトール、プロピルナフトール、ブチルナフトール(C1-4アルキルナフトール)などのアルキルナフトール)、アルコキシナフトール(エトキシナフトールなどのC1-4アルコキシナフトール)、ハロナフトール(クロロナフトール、ブロモナフトール))、これらのナフトール類(またはモノヒドロキシナフタレン類)に対応するポリヒドロキシナフタレン(例えば、1,3-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、1,8-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,2,4-トリヒドロキシナフタレン、1,3,8-トリヒドロキシナフタレンなどのジまたはトリヒドロキシナフタレン類)などが挙げられる。なかでも1-ナフトール、2-ナフトールが好ましく、特に、2-ナフトールが好ましい。
【0085】
これらのアルコール類は単独で使用してもよく、または2種以上を混合してフルオレノン類と反応してもよく目的により任意に選ぶことができる。本発明では好ましくは2-ナフトールである。
【0086】
工程2の反応において、上記式(7)で表されるアルコール類の使用量は、特に限定されるものではないが、副反応抑制及び経済性の点から、フルオレノン類1モルに対して、好ましくは2~20モル、より好ましくは2.1~10モル、さらに好ましくは2.3~5モルである。
【0087】
これらの上記式(7)で表されるアルコール類は、市販品を用いてもよく、合成したものを使用してもよい。例えば、ナフトール類を製造する方法としては、特許文献(特開昭61-115039号公報)に記載の方法、すなわちナフタレンをスルホン化した2-ナフタレンスルホン酸をアルカリで中和して2-ナフタレンスルホン酸ナトリウムを得たのち、生成物をアルカリ融解してアルカリ塩としたのち、加水分解して2-ナフトールを製造する方法などが挙げられる。
【0088】
原料として使用する上記式(7)で表されるアルコール類(例えば、ナフトール類など)の純度は、特に限定されないが、通常、95%以上が好ましく、より好ましくは99%以上である。
【0089】
工程2の反応は、通常、酸触媒の存在下で行うことができる。酸触媒としては、例えば、硫酸、チオール酸、モンモリロナイト、ヘテロポリ酸等が挙げられ、これらの中でも特に酸触媒由来の不純物の生成が少なく、本発明のフルオレン骨格を有する化合物を得やすいことからヘテロポリ酸が特に好ましい。
【0090】
本発明において好ましく用いられるヘテロポリ酸とは、一般的には異なる2種以上の無機酸素酸が縮合して生成した化合物の総称であり、中心の酸素酸とその周りで縮合する別種の酸素酸の組み合わせにより種々のヘテロポリ酸が可能である。中心の酸素酸を形成する数の少ない元素をヘテロ元素といい、その周りで縮合する酸素酸を形成する元素をポリ元素という。ポリ元素は単一種類の元素であってもよいし、複数種類の元素であってもよい。
【0091】
ヘテロポリ酸を構成する酸素酸のヘテロ元素は特に限定されるものではないが、例えば、銅、ベリリウム、ホウ素、アルミニウム、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、チタン、ジルコニウム、セリウム、トリウム、窒素、リン、ヒ素、アンチモン、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、ウラン、セレン、テルル、マンガン、ヨウ素、鉄、コバルト、ニッケル、ロジウム、オスミウム、イルジウム、白金が挙げられる。好ましくはリン(リン酸)またはケイ素(ケイ酸)である。また、ヘテロポリ酸を構成する酸素酸のポリ元素は特に限定されるものではないが、例えば、バナジウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタルが挙げられる。好ましくはバナジウム、モリブデンおよびタングステンから選ばれる少なくとも1つの元素である。
【0092】
ヘテロポリ酸骨格を構成するヘテロポリ酸アニオンとしては種々の組成のものを使用できる。例えば、XM12O40、XM12O42、XM18O62、XM6O24などが挙げられる。好ましいヘテロポリ酸アニオンの組成は、XM12O40である。各式中、Xはヘテロ元素であり、Mはポリ元素である。これらの組成を有するヘテロポリ酸として、具体的には、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイタングステン酸、リンバナドモリブデン酸などが例示される。
【0093】
ヘテロポリ酸は、遊離のヘテロポリ酸であってもよく、プロトンの一部もしくはすべてを他のカチオンで置き換えて、ヘテロポリ酸の塩として使用することもできる。従って、本発明で言うヘテロポリ酸とはこれらのヘテロポリ酸の塩も含まれる。プロトンと置換可能なカチオンとしては、例えば、アンモニウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属などが挙げられる。
【0094】
ヘテロポリ酸は無水物であってもよく、結晶水含有物であってもよいが、無水物の方がより反応が早く、また副生成物の生成が抑制され好ましい。結晶水含有物の場合、予め減圧乾燥や溶媒との共沸脱水等の脱水処理を行うことにより無水物と同様の効果を得ることができる。ヘテロポリ酸は活性炭、アルミナ、シリカ-アルミナ、ケイソウ土などの担体に担持した形態で用いてもよい。
【0095】
これらのヘテロポリ酸は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲でヘテロポリ酸以外の他の触媒を併用してもよい。
【0096】
ヘテロポリ酸の使用量は特に限定されるものではないが、充分な反応速度を得るには、フルオレノンに対して、好ましくは0.0001重量倍以上、より好ましくは0.001~30重量倍、さらに好ましくは0.01~5重量倍である。
【0097】
本発明を実施する際、工程2の反応では上述したヘテロポリ酸とともにチオール基(以下SH基と略記することがある)を有する化合物を併用することで反応速度を向上させかつ不純物の生成を抑制させることができる。本発明において併用できるチオール化合物としては、例えば、メルカプトカルボン酸、アルカンチオールおよびこれらの塩が挙げられる。
【0098】
メルカプトカルボン酸としては、α-メルカプトプロピオン酸、β-メルカプトプロピオン酸、チオ酢酸、チオグリコール酸、チオシュウ酸、メルカプトコハク酸、メルカプト安息香酸などが挙げられる。また、アルカンチオールとしては、メタンチオール、エタンチオール、1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、1-ブタンチオール、2-ブタンチオール、1-ペンタンチオール、2-ペンタンチオール、1-ヘキサンチオール、1-ヘプタンチオール、2-ヘプタンチオール、1-オクタンチオール、2-オクタンチオール、1-ノナンチオール、1-デカンチオール、1-ウンデカンチオール、1-ドデカンチオールなどのC1-16アルキルメルカプタンなどが挙げられる。このようなSH基を有する化合物の中でも安価に入手可能なことから、β-メルカプトプロピオン酸および1-ドデカンチオールが好ましく、1-ドデカンチオールが特に好ましい。
このようなSH基を有する化合物は、単独で用いてもよく、また、2種以上併用して用いることもできる。
【0099】
工程2の反応を実施する方法は、特に限定されるものではないが、通常、前記式(6)と前記式(7)で表される化合物とヘテロポリ酸および/またはチオール化合物とを反応装置に仕込み、空気中又は窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素類および酢酸エチルやγ-ブチロラクトンなどのエステル類の不活性溶媒存在下で加熱攪拌することにより行うことができる。この際、触媒含有水や反応生成水など、反応系内の水分を除去する、脱水条件下で反応を行うことにより、脱水しない場合より反応が早く進行し、副生成物の生成が抑制され、より高収率で目的物を得ることができる。脱水の方法としては特に限定されるものではないが、例えば、脱水剤の添加による脱水、減圧による脱水、常圧又は減圧下溶媒との共沸による脱水などが挙げられる。
【0100】
工程2で用いる反応溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えばトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、ジ-iso-プロピルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの脂肪族および環状エーテル溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネートなどのエステル溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、1-メチル-2-ピロリジノンなどのアミド溶媒、などが挙げられる。好ましくは芳香族炭化水素溶媒およびエステル溶媒であり、より好ましくはトルエン、キシレン、クロロベンゼンまたはジクロロベンゼンと、酢酸エチル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトンまたはエチレンカーボネートとの混合溶媒であり、さらに好ましくはトルエンとγ-ブチロラクトンまたはエチレンカーボネートとの混合溶媒である。これら反応溶媒は単独で用いてもよく、また、2種以上併用して用いることもできる。
【0101】
また、その使用量は特に限定されるものではないが経済性の点から、上記式(6)で表されるジフェニルフルオレノンに対して、好ましくは0.1重量倍以上、より好ましくは0.5~100重量倍、さらに好ましくは1~20重量倍である。
【0102】
工程2の反応温度は使用する原料、溶媒の種類により異なるが、好ましくは50~300℃、より好ましくは80~250℃、さらに好ましくは100~180℃である。反応は液体クロマトグラフィーなどの分析手段で追跡することができる。
【0103】
工程2の反応時の内圧は、101.3kPa以下の圧力が好ましく、より好ましくは60.0kPa以下である。副生する水はこの内圧で系内から排出しながら反応させる方がより効率よく反応が進行し、かつ生成する副生成物も少なくなることから好ましい。
【0104】
工程2の反応後、必要に応じて使用した固体酸を濾過により除去するかもしくは中和してもよい。中和する際に使用する塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩(炭酸水素)塩、アミン類等が挙げられる。
【0105】
工程2の反応において、中和後の反応液は中和により生じた塩を除去することなくエチレンカーボネートとの反応に用いることができる。必要に応じて中和によって生じた塩を濾過により分離したり、水を加えて撹拌し静置後に分液して水層を除去する操作(水洗工程ということもある)をおこなうことによって、中和により生じた塩を反応系内から分離してもよい。この水洗工程は必要に応じて繰り返し実施してもよい。
【0106】
工程2において、工程1で製造した反応物(6)と上記式(7)で表されるアルコール類との反応後、上記式(8)で表されるフルオレン化合物を取り出すことなくエチレンカーボネートと反応させることができる。濃縮や晶析などの方法により上記式(8)で表されるフルオレン化合物を取り出すと収率が低下しコストアップになる可能性がある。
【0107】
工程2において、エチレンカーボネートは工程1で使用した上記式(6)で表されるジフェニルフルオレノン1モルに対し、通常は2~10モル、より好ましくは2~5モル使用する。
【0108】
工程2において、上記式(8)で表されるフルオレン化合物とエチレンカーボネートとの反応を実施するに際し、必要に応じ塩基性化合物存在下にて反応を行ってもよい。塩基性化合物存在下で反応を行う場合、工程1で使用した固体酸は工程2を実施する前に濾過によって分離するかもしくは中和しておくことが好ましい。
【0109】
工程2において使用可能な塩基性化合物としては、炭酸塩類、炭酸水素塩類、水酸化物類、有機塩基類等が例示される。炭酸塩類としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。炭酸水素塩類としては、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム等が挙げられる。水酸化物類としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。有機塩基類としては、トリエチルアミン、ジメチルアミノピリジン、トリフェニルホスフィン、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0110】
上記の塩基性化合物の中でも、取扱性や安全性の観点から、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムが好ましく用いられる。これら塩基性化合物は単独で用いてもよく、また、2種以上併用して用いることもできる。
【0111】
工程2において塩基性化合物を使用する場合、その使用量は、工程1で使用した上記式(6)で表されるジフェニルフルオレノン1モルに対し、通常0.01~1.0モル、好ましくは0.03~0.5モルである。
【0112】
工程2の反応終了後、得られた反応混合物は、希釈溶媒を添加して前記式(1)で表される化合物をそのまま析出させてもよいし、洗浄、濃縮、希釈、活性炭処理等の後処理を施した後に、50℃未満で前記式(1)で表される化合物を析出させてもよい。必要により上記の後処理を施された反応混合物から前記式(1)で表される化合物を析出させる操作は、必要により溶媒と混合された反応混合物を50℃以上、溶媒の沸点以下(好ましくは70~110℃)とし、これを50℃未満に冷却することにより実施される。50℃以上で反応混合物から前記式(1)で表される化合物の結晶が析出する場合は、50℃以上では結晶が析出しなくなる量の希釈溶媒と反応混合物とを混合した後に、得られた混合物を50℃以上、溶媒の沸点以下(好ましくは70~110℃)とし、これを50℃未満に冷却することにより実施すればよい。希釈溶媒としては、上記の反応に用いる溶媒として例示したものや、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプルパノール、ブタノール、tert-ブタノール、イソブタノールおよびペンタノール等のアルコール溶媒、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル等の炭酸溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトン、安息香酸ブチル、安息香酸メチル、酢酸フェニル等のエステル溶媒、ジエチルエーテル、ジ-isо-プロピルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ペンタン等の脂肪族炭化水素溶媒等が挙げられるが、メタノール、エタノールまたは炭酸ジメチルが好ましく、メタノールおよびエタノールがより好ましい。
【0113】
このような晶析操作は一回で行ってもよく、複数回繰り返して行ってもよい。特に、前記工程2の反応において、メタノールやエタノールなどのアルコールを用いれば、未反応の2-ナフトールや副生するエチレングリコールモノ(2-ナフチル)エーテルなどの不純物を簡便にかつ効率よく除去できるため、一回の晶析操作であっても、式(2)を満たす前記式(1)で表される化合物を得ることができる。
【0114】
析出した結晶は濾過等により回収される。得られた結晶は、上記の反応に用いた溶媒等を用いて洗浄されてもよいし、乾燥されてもよい。このようにして得られる前記式(1)で表される化合物の精製物の純度は、好ましくは95%以上である。
【0115】
本発明の製造方法により得られるフルオレン骨格を有する化合物の純度は、60~100%の広い範囲から選択でき、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0116】
[フルオレン骨格を有する化合物の特徴および用途]
本発明のフルオレン骨格を有する化合物は、好ましくはジフェニルフルオレン骨格およびジナフチルフルオレン骨格とアレーン環を組み合わせているため、屈折率、耐熱性が高いだけでなくポリマーにした際に複屈折を軽減させることができる。これまで屈折率を向上させるために、フルオレン骨格の9位に環集合アレーン環が置換されたフルオレン化合物が用いられているが、これでは屈折率、耐熱性は高いものの複屈折が低下してしまう。これに対し、本発明のフルオレン骨格を有する化合物は、ジフェニルフルオレン骨格およびジナフチルフルオレン骨格を有しているためか、屈折率が高いにも関わらず、複屈折も小さくなる。さらに、アレーン環には、1つ以上のヒドロキシル基を有し、フルオレン化合物全体で複数のヒドロキシル基を有しているため、反応性が高い。そのため、本発明のフルオレン骨格を有する化合物は、種々の樹脂の原料(モノマー)として利用できる。例えば、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂など)や熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、(メタ)アクリレート((メタ)アクリル酸エステル)など)のポリオール成分として用いることができる。本発明のフルオレン骨格を有する化合物をポリオール成分として用いると、フルオレン骨格の9位にナフタレン環が置換され、かつフルオレン骨格にジアリール基を有しているためか、得られる樹脂は高い屈折率と低複屈折性とを高レベルで両立できるという利点を備える。
【0117】
また、本発明のフルオレン骨格を有する化合物は、汎用な溶媒中で効率よく誘導体を調製できる。
本発明のフルオレン骨格を有する化合物の融点は、100~300℃の広い範囲から選択でき、好ましくは120~280℃、より好ましくは130~260℃、さらに好ましくは140~240℃、特に好ましくは150~230℃である。
【実施例】
【0118】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例において、各種測定は以下のように行った。
【0119】
(1)高速液体クロマトグラフ(HPLC)測定
実施例で得られた化合物を、日立製高速液体クロマトグラフL-2350を用い、下表1の測定条件で測定した。実施例中、特に断らない限り%はHPLCにおける溶媒を除いて補正した面積百分率値である。
【0120】
【0121】
(2)NMR測定
実施例で得られた化合物、樹脂を下記の装置、溶媒にて測定した。
装置:日本電子社製 JNM-AL400(400MHz)
溶媒:CDCl3
【0122】
(3)ICP測定
実施例で得られた化合物を下記の装置にて測定した。
使用機器:Agilent Technologies
装置:Agilent5100 ICP-OES
【0123】
(4)ガラス転移温度(Tg)測定、示差走査熱量測定(DSC)
実施例で得られた化合物、樹脂を下記の装置、条件にて測定した。
装置:TA Instruments製Discovery DSC25
条件:昇温速度20℃/min
【0124】
(5)ペレットb*値測定
実施例で得られた樹脂を下記の装置にて測定した。
装置: X-Rite社製 積分球分光光度計CE-7000A
【0125】
(6)屈折率(nD)、アッベ数測定
実施例で得られた樹脂を下記の装置、手法にて測定した。
装置:ATAGO社製 DR-M2アッベ屈折計
手法:重合終了後に得られた樹脂ペレットを塩化メチレンに溶解させ、ガラスシャーレ上にキャスト、乾燥し、作成したフイルムの25℃における屈折率(波長:589nm)およびアッベ数(波長:486nm、589nm、656nmにおける屈折率から下記式を用いて算出)を測定した。
ν=(nD-1)/(nF-nC)
なお、本発明においては、
nD:波長589nmでの屈折率、
nC:波長656nmでの屈折率、
nF:波長486nmでの屈折率を意味する。
【0126】
(7)粉末X線回折測定
RIGAKU RINT TTR IIIを用い、下記測定条件で測定した。
X線源:Cu-Kα、出力:50kV-300mA(15kW)
DS:1/2°、HS:10mm、SS:1/2°、RS:0.15°、
Step:0.01°、スキャン速度:1.0°/min
【0127】
[実施例1]
<工程1>
撹拌機、冷却器、さらには温度計を備え付けたフラスコに2,7-ジブロモフルオレノン(以下、DBFNと略記することがある)101.4g(0.30モル)、フェニルボロン酸76.8g(0.63ミリモル)をトルエン1Lおよびエタノール200mLの混合溶媒へ溶解させ、さらにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム1.7g(1.45ミリモル)、2M炭酸カリウム水溶液347mLを添加したのち80℃で6時間撹拌することにより反応をおこなった。反応の進行具合はHPLCにて確認し、DBFNの残存量が0.1%以下であることを確認し反応を終了させた。得られた反応液を減圧濃縮してトルエンおよびエタノールを留去したのち、残渣に1M水酸化ナトリウム水溶液を加えクロロホルムで抽出した。クロロホルム層を活性炭で脱パラジウム触媒処理し系内に残存しているパラジウム触媒を除去した後、クロロホルムを濃縮し、黄色結晶が析出してきた時点で濃縮を止めそのまま再結晶した。析出した黄色固結晶を濾取し、85℃で24時間乾燥することにより、目的物である2,7-ジフェニルフルオレノン(以下、DPFNと略記することがある)の黄色結晶を80.5g、収率81%で得た。HPLCで得られた黄色結晶の純度を測定したところ99.8%であった。
【0128】
<工程2>
撹拌機、冷却器、水分離器、さらには温度計を備え付けたフラスコに、工程1で製造したDPFN56.5g(0.17モル)、2-ナフトール58.8g(0.41モル)、12タングスト(VI)リン酸n水和物(H3[PW12O40]・nH2O)0.8g(0.24ミリモル)、n-ドデカンチオール1.8g(0.01モル)、トルエン53mL、γ-ブチロラクトン13mLを加えたのち、55kPaに減圧後、100℃まで昇温し、同温度で10時間撹拌をおこなった。反応の進行具合はHPLCにて確認し、DPFNの残存量が0.3%以下であることを確認し反応を終了させた。
【0129】
反応後、25重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて12タングスト(VI)リン酸n水和物(H3[PW12O40]・nH2O)を中和したのち、120℃で系内の水を留去した(水洗工程と称す)。水洗工程完了後、炭酸カリウム1.2g(8.87ミリモル)、エチレンカーボネート37.4g(0.42モル)を加えて、110℃で15時間撹拌し反応をおこなった。反応の進行具合をHPLCで確認し、下記(8-1)に示す9,9’-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-2,7-ジフェニルフルオレンの残存量が0.2%以下であることを確認して反応を終了させた。
【0130】
反応終了後、得られた反応液に水および25重量%水酸化ナトリウム水溶液を加え85℃で5時間撹拌したのち、水層を分離した。得られた反応液を20℃まで冷却しそのまま晶析させることで目的の9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-2,7-ジフェニルフルオレン(以下、BNDPと略記することがある)の薄黄色固体を得た。得られたBNDPは活性炭処理および水洗後、一晩減圧加熱乾燥し薄黄色固体を収率78%、純度98.8%で得た。ICPにより残存金属量を測定したところ、Pdは1ppm以下であった。DPFNは0.2%、APHAは500だった。
【0131】
【0132】
<工程3>
工程2で合成した9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-2,7-ジフェニルフルオレンを25.91質量部、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを16.44質量部、ジフェニルカーボネート16.23質量部、及び炭酸水素ナトリウム3.15×10-3質量部を撹拌機および留出装置付きの反応釜に入れ、窒素置換を3度行った後、ジャケットを200℃に加熱し、原料を溶融させた。完全溶解後、5分かけて20kPaまで減圧すると同時に、60℃/hrの速度でジャケットを260℃まで昇温し、エステル交換反応を行った。その後、ジャケットを260℃に保持したまま、50分かけて0.13kPaまで減圧し、260℃、0.13kPa以下の条件下で所定のトルクに到達するまで重合反応を行った。反応終了後、生成した樹脂をペレタイズしながら抜き出し、ポリカーボネート樹脂のペレットを得た。得られたポリカーボネート樹脂を、1H NMRにより分析し、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-2,7-ジフェニルフルオレン成分が全モノマー成分に対して、50mol%導入されていることを確認した。得られたポリカーボネート樹脂の屈折率は1.682、アッベ数は17.1、Tgは177℃、ペレットb*値は13.5あった。
【0133】
[実施例2]
工程1におけるフェニルボロン酸をフェニルボロン酸の無水物に変更した以外は実施例1と同様にして目的のフルオレン化合物を得た(収率78%、純度98.8%)。ICPにより残存金属量を測定したところ、Pdは1ppm以下であった。
【0134】
[実施例3]
工程1における塩基を炭酸ナトリウムに変更した以外は実施例1と同様にしてフルオレン化合物を得た(収率78%、純度98.8%)。ICPにより残存金属量を測定したところ、Pdは1ppm以下であった。
【0135】
[実施例4]
工程1におけるパラジウム系触媒をPd/SiO2で表されるPL触媒に変更した以外は実施例1と同様にしてフルオレン化合物を得た(収率78%、純度98.9%)。ICPにより残存金属量を測定したところ、Pdは1ppm以下であった。
【0136】
[実施例5]
工程2における酸触媒をケイタングステン酸のn水和物(H4[SiW12O40]・nH2O)に変更した以外は実施例1と同様にしてフルオレン化合物を得た(収率78%、純度98.8%)。ICPにより残存金属量を測定したところ、Pdは1ppm以下であった。
【0137】
[実施例6]
撹拌機、冷却器、水分離器、さらには温度計を備え付けたフラスコに、実施例1の工程1で製造したDPFN28.1g(0.08モル)、2-ナフトール29.3g(0.20モル)、12タングスト(VI)リン酸n水和物(H3[PW12O40]・nH2O)0.4g(0.12ミリモル)、n-ドデカンチオール1.8g(0.01モル)、トルエン30mL、エチレンカーボネート7.8g(0.09モル)を加えたのち、55kPaに減圧後、100℃まで昇温し、同温度で3時間撹拌をおこなった。反応の進行具合はHPLCにて確認し、DPFNの残存量が0.0%であることを確認し反応を終了させた。
【0138】
反応後、25重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて12タングスト(VI)リン酸n水和物(H3[PW12O40]・nH2O)を中和したのち、120℃で系内の水を留去した(水洗工程と称す)。水洗工程完了後、炭酸カリウム0.6g(4.41ミリモル)、エチレンカーボネート29.4g(0.33モル)、ジメチルホルムアミド100mLを加えて、110℃で4時間撹拌し反応をおこなった。反応の進行具合をHPLCで確認し、9,9’-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-2,7-ジフェニルフルオレンの残存量が0.0%であることを確認して反応を終了させた。
【0139】
反応終了後、得られた反応液に水および25重量%水酸化ナトリウム水溶液を加え85℃で1.5時間撹拌したのち、水層を分離した。得られた反応液を20℃まで冷却しそのまま晶析させることでBNDPを得た。得られたBNDPは活性炭処理および水洗後、一晩減圧加熱乾燥し白色結晶を収率78%、純度98.8%で得た。また、Pdは1ppm以下、DPFNは0.0%、APHAは80、DSCによる吸熱ピーク:237℃だった。DSCチャートを
図1に、粉末X線測定チャートを
図2に、粉末X線測定の主なピークを表2に示す。
【0140】
【0141】
[実施例7]
撹拌機、冷却器、水分離器、さらには温度計を備え付けたフラスコに、工程1で製造したDPFN28.1g(0.08モル)、2-ナフトール29.3g(0.20モル)、12タングスト(VI)リン酸n水和物(H3[PW12O40]・nH2O)0.8g(0.23ミリモル)、n-ドデカンチオール1.8g(0.01モル)、トルエン45mL、エチレンカーボネート37.20g(0.42モル)を加えたのち、55kPaに減圧後、100℃まで昇温し、同温度で9時間撹拌をおこなった。反応の進行具合はHPLCにて確認し、DPFNの残存量が0.0%であることを確認し反応を終了させた。
【0142】
反応後、25重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて12タングスト(VI)リン酸n水和物(H3[PW12O40]・nH2O)を中和したのち、120℃で系内の水を留去した(水洗工程と称す)。水洗工程完了後、炭酸カリウム0.6g(4.41ミリモル)、ジメチルホルムアミド100mLを加えて、110℃で4時間撹拌し反応をおこなった。反応の進行具合をHPLCで確認し、9,9’-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-2,7-ジフェニルフルオレンの残存量が0.0%以下であることを確認して反応を終了させた。
【0143】
反応終了後、得られた反応液に水および25重量%水酸化ナトリウム水溶液を加え85℃で1.5時間撹拌したのち、水層を分離した。得られた反応液を20℃まで冷却しそのまま晶析させることでBNDPを得た。得られたBNDPは活性炭処理および水洗後、一晩減圧加熱乾燥し白色結晶を収率78%、純度98.8%で得た。また、Pdは1ppm以下、DPFNは0.0%、APHAは90だった。
【0144】
[比較例1]
工程1において、反応溶媒をトルエンに変更した以外は実施例1と同様にしてフルオレノン化合物の合成を行ったが、反応が進行せず目的のフルオレノン化合物を得ることができなかった。
【0145】
[比較例2]
工程1におけるテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムの使用量を0.56g(0.48ミリモル)に変更した以外は実施例1と同様にしてフルオレン化合物の合成をおこなったが、反応は進行したもののジフェニル体とモノフェニル体が95:5(重量比)で混合してしまい目的のフルオレノン化合物を高純度で得ることはできなかった。
【0146】
[比較例3]
工程2において、酸触媒を硫酸および3-メルカプトプロピオン酸に変更した以外は実施例1と同様にしてフルオレン化合物の合成をおこなったが、反応が進行せず目的のフルオレン化合物を得ることができなかった。
【0147】
[参考例1]
工程1および工程2において、活性炭処理をおこなわなかった以外は実施例1と同様にしてフルオレン化合物(BNDP)の黄色固体を得た(収率78%、純度98.1%)。ICPにより残存金属量を測定したところ、Pdは70ppmであった。APHAは500を超えていた。
【0148】
工程3において上記方法で合成した9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-2,7-ジフェニルフルオレンを使用する以外は実施例1と同様にしてポリカーボネート樹脂のペレットを得た。得られたポリカーボネート樹脂を、1H NMRにより分析し、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]-2,7-ジフェニルフルオレン成分が全モノマー成分に対して、50モル%導入されていることを確認した。得られたポリカーボネート樹脂の屈折率は1.682、アッベ数は17.1、Tgは177℃、ペレットb*値は32.3であった。
【0149】
[参考例2]
工程2において、反応圧力を101.3kPa(常圧)にした以外は実施例1と同様にしてフルオレン化合物の合成を行ったが、反応が完結せずDPFNが5重量%残存してしまいBNDPの純度低下を引き起こした。さらに実施例1の工程3と同様に該モノマーを用いて得られたポリカーボネート樹脂のペレットb*値は105であった。
【0150】
[参考例3]
工程2において、反応溶媒をトルエンに変更した以外は実施例1と同様にしてフルオレン化合物の合成を行ったが、反応が完結せずDPFNが10重量%残存してしまい目的のBNDPの純度低下を引き起こした。得られた黄色固体は、収率50%、純度88.7%であった。実施例1の工程3と同様に該モノマーを用いて得られたポリカーボネート樹脂のペレットb*値は200であった。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明のフルオレン骨格を有する化合物およびその製造方法によれば、高い屈折率、耐熱性、低い複屈折などの優れた特性を有した樹脂の原料(モノマー)を効率よく製造することができるため、樹脂の原料(モノマー)、誘導体の反応成分などに好適に用いることができる。
【0152】
そのため、本発明のフルオレン骨格を有する化合物もしくはその誘導体、または新規フルオレン骨格を有する化合物を原料(モノマー)とする樹脂は、例えば、フイルム、レンズ、プリズム、光ディスク、透明導電性基板、光カード、シート、光ファイバー、光学膜、光学フィルター、ハードコート膜等の光学部材に用いることができ、特にレンズに極めて有用である。