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特許7597924有機物及び無機粒子を負荷された冷却回路水を処理するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】有機物及び無機粒子を負荷された冷却回路水を処理するための方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 9/00 20230101AFI20241203BHJP
【FI】
C02F9/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023522969
(86)(22)【出願日】2021-09-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-02
(86)【国際出願番号】 EP2021074450
(87)【国際公開番号】W WO2022078672
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】102020213077.9
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390035426
【氏名又は名称】エス・エム・エス・グループ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】アンテ・アンゲラ
(72)【発明者】
【氏名】ブロイアー・ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ブリュヒャー・ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ブレガンテ・アルベルト
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-071057(JP,A)
【文献】国際公開第2019/098255(WO,A1)
【文献】特開2010-279862(JP,A)
【文献】特開平07-095879(JP,A)
【文献】特開2002-052374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00- 1/78
3/00- 3/34
9/00- 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業設備(2)、特に熱間圧延機(2)の冷却回路内の、油脂を含む有機物及び主に酸化鉄(II,III)から成るスケールを含む無機粒子を負荷された冷却回路水を処理するための方法であって、
a)冷却回路水から有機物及び無機粒子を分離し、これにより、予備浄化された冷却回路水を得るステップと、
b)予備浄化された冷却回路水を開放した冷却塔(11)を介して冷却し、これにより、冷却された予備浄化された冷却回路水を得るステップと、
c)冷却された予備浄化された冷却回路水の少なくとも1つの部分容積流を少なくとも一段の脱塩設備(14)でメンブレンを使用して脱塩し、これにより、浄化された冷却回路水を得るステップと、
d)冷却回路水内に存在する有機物に含まれる油脂を分解すために適したバクテリアを冷却回路に添加するステップであって、ステップa)による分離の前、ステップb)による冷却の前及び/又はステップc)による脱塩の前に、冷却回路水にバクテリアを添加し、これにより、バイオセノーシスからなる生物学的な浄化段を冷却回路の1つ又は複数の領域内に形成するステップと、
を有すること、を特徴とする方法。
【請求項2】
ステップc)の前に、冷却された予備浄化された冷却回路水の部分容積流内に含まれる有機物及び/又は無機粒子の残量が分離される(ステップb1)こと、を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップb1)による分離が、重量析的に行なわれること、を特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
無機粒子が強磁性であること、及び、ステップb1)による分離が、磁気的な分離によって行なわれること、を特徴とする請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
ステップa)による分離の前、ステップb)による冷却の前及び/又はステップc)による脱塩の前に、冷却回路水に、添加されたバクテリアの増殖を促進する栄養素が添加され、好ましくは、添加された栄養素に対する添加されたバクテリアの比が、時間と共に低減されること、を特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
バクテリア及び/又は栄養素が、顆粒の形態で提供され、水溶液の形態で冷却回路水に添加され、顆粒内のバクテリアが、好ましくは凍結乾燥されたバクテリアとして形成されていること、を特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
有機物及び無機粒子を負荷された冷却回路水が、ステップa)により、沈殿槽(6)、浄化槽(7)及び/又は濾過装置(8)を経て導かれること、を特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ステップc)により浄化された冷却回路水が、場合によってはコンディショニング後に、産業設備(2)に供給されること、を特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ステップc)による脱塩が、逆浸透、容量性脱イオン又は薄膜蒸発によって行なわれること、を特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
バクテリアが、冷却された予備浄化された冷却回路水の部分容積流だけに添加されること、を特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
部分容積流が、ステップc)による脱塩の前に、生物学的な浄化段を形成するために使用される反応器(21)を介して導かれること、を特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
産業設備(2)、特に熱間圧延機(2)の冷却回路内の、油脂を含む有機物及び主に酸化鉄(II,III)から成るスケールを含む無機粒子を負荷された冷却回路水を処理するための設備(1)であって、
a)予備浄化された冷却回路水を得るために、冷却回路水から有機物及び無機粒子を分離するための分離装置(5)と、
b)予備浄化された冷却回路水を冷却可能な開放した冷却塔(11)と、
c)浄化された冷却回路水を得るために、冷却された予備浄化された冷却回路水の少なくとも1つの部分容積流をメンブレンを使用して脱塩可能な少なくとも一段の脱塩設備(14)と、
d)冷却回路水内に存在する有機物に含まれる油脂を分解すために適したバクテリアを冷却回路に添加するための配量装置(16,17,18,20)であって、バイオセノーシスからなる生物学的な浄化段が冷却回路の1つ又は複数の領域内に形成可能であるように、分離装置(5)の前、冷却塔(11)の前及び/又は脱塩装置(14)の前に配置された配量装置(16,17,18,20)と、
を有すること、を特徴とする設備(1)。
【請求項13】
配量装置(16,20)が、冷却塔(11)を少なくとも一段の脱塩設備(14)と接続するバイパスライン(13)内に配置されていること、を特徴とする請求項12に記載の設備(1)。
【請求項14】
更に、バイパスライン(13)内で少なくとも一段の脱塩設備(14)の上流に配置された、生物学的な浄化段を形成するために設けられた反応器(21)を備えること、を特徴とする請求項13に記載の設備(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
産業設備、特に熱間圧延機の有機物及び無機粒子を負荷された冷却回路水を処理するための方法及び設備に関する。
【背景技術】
【0002】
産業設備内、特に熱間圧延機内では、プロセスラインを冷却するために、その塩分が冷却プロセスの過程で濃縮される大量の水が必要とされる。従って、部分流、いわゆるブローダウン水が排出され、大抵の場合は直接的に排出されるか、公共の下水道に供給される。
【0003】
水不足の増加と、水処理部の領域でのコストの上昇に基づいて、できるだけ高度の清水の節約を達成するため、ブローダウン水の量を低減する努力がなされる。このため、内部でブローダウン水を逆浸透によって浄化する脱塩設備が使用される。この場合、確かに高い品質の水を高い収率で回収することができるが、使用されるメンブレンは、著しく短い耐用年数を備えるので、脱塩設備の運転の安定性が、危険にさらされていることがわかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の根底にある課題は、従来技術の欠点を克服する方法並びに設備を提供することである。特に、本発明の根底にある課題は、脱塩設備で使用されるメンブレンの耐用年数を改善する方法並びに設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、課題は、請求項1の特徴を有する第1の態様並びに請求項12の特徴を有する第2の態様によって解決される。
【0006】
本発明の別の有利な形態は、従属的に表現された請求項に記載されている。従属的に表現された請求項に個々に述べられた特徴は、技術的に有効な方法で互いに組合せ可能であり、本発明の別の形態を規定し得る。更に、請求項に記載された特徴は、明細書に詳細に特定及び説明され、本発明の別の好ましい形態が示される。
【0007】
第1の態様によれば、本発明は、産業設備、特に熱間圧延機の有機物及び無機粒子を負荷された冷却回路水を処理するための方法に関する。ここで、方法は、
a)冷却回路水から有機物及び無機粒子を分離し、これにより、予備浄化された冷却回路水を得るステップと、
b)予備浄化された冷却回路水を開放した冷却塔を介して冷却し、これにより、冷却された予備浄化された冷却回路水を得るステップと、
c)冷却された予備浄化された冷却回路水の少なくとも1つの部分容積流を少なくとも一段の脱塩設備によって脱塩し、これにより、浄化された冷却回路水を得るステップと、
d)冷却回路水内に存在する有機物を分解すために適したバクテリアを添加するステップであって、ステップa)による分離の前、ステップb)による冷却の前及び/又はステップc)による脱塩の前に、冷却回路水にバクテリアを添加し、これにより、生物学的な浄化段を形成するステップと、
を有する。
【0008】
驚くべきことに、冷却回路水にバクテリアを添加することにより、脱塩設備内で使用されるメンブレンの耐用年数が、著しく増加され得ることがわかった。バクテリアの使用により、メンブレンの耐用年数は、有利には、ブローダウン水の従来の前処理に比して少なくとも600%、特に好ましくは少なくとも900%、全く特に好ましくは少なくとも1200%増加されることができた。
【0009】
バクテリアの培養物として、例えば、商品名「Oilco-Bacteria」として出願人から入手可能な顆粒を使用することができる。
【0010】
本発明の根底にある重要な知見は、冷却回路水内に含まれる有機物及び無機粒子が、ステップa)による従来の分離によって完全には除去されず、冷却された予備浄化された冷却回路水(ブローダウン水)-これは、少なくとも部分容積流として少なくとも一段の脱塩設備に供給される-内に残留するフラクションが、観察される著しく短い耐用年数を生じさせるように、メンブレンを著しく閉塞させることである。
【0011】
有機物、特に油脂は、冷却回路水内の固体の無機物含有粒子、特に、主に酸化鉄(II,III)から成るスケールと結合して、メンブレンを不可逆的に閉塞させる高粘着性の微細凝集体を形成する。ここで、ブローダウン水内で500nm~3000nmの粒径を備えるスケールは、油脂によって被覆される。冷却回路に添加されるバクテリアにより、冷却回路の1つ又は複数の領域内にバイオセノーシスが形成され、そこに、バクテリアが入植し、微細凝集体の粘着特性に関与する有機物、特に油脂を分解もしくは代謝する。こうして、冷却回路水内には、裸のスケール粒子だけが残り、これらスケール粒子は、粘着特性の欠如に基づいてメンブレンをもはや閉塞させることができない。
【0012】
本発明の意味のバイオセノーシスは、限られた生活圏(ビオトープ)内の生命体の共同体であり、バイオセノーシスとビオトープは、共に生態系を構成する。
【0013】
本発明によれば、ステップa)による分離の前、ステップb)による冷却の前及び/又はステップc)による脱塩の前に、冷却回路水にバクテリアを添加する。従って、バクテリアは、生物学的な浄化段を形成するために、局所的に又は冷却回路全体にわたって分配されて、冷却回路水に添加することができる。冷却回路全体にわたってバクテリアを添加する場合には、冷却回路のどのユニットも、通常は一定の間隔で冷却回路全体から除去しかつ別々に廃棄しなければならない粘着性の堆積物をほとんど有しないでいるとの利点が生じる。従って、有機物並びに無機粒子を含むこれら堆積物の除去を削減することができ、これは、設備の継続的な運転コストに有利に作用する。この実施バリエーションでは、冷却回路水への殺生物剤の添加が除外されているが、それは、その後、殺生物剤が、バクテリアによって形成されたバイオセノーシスを破壊するからである。バクテリアを、特に冷却された予備浄化された冷却回路水の脱塩すべき部分容積流に、局所的に添加する場合、残りの主容積量への殺生物剤の添加は有利であり得る。このため、好ましくは、残留効果を僅かにしか備えない又は特に好ましくは全く備えない殺生物剤が使用される。
【0014】
それぞれの実施バリエーションに依存せず、冷却回路部分内で開放した冷却塔から主ラインを介して産業設備に移送される冷却された予備浄化された冷却回路水の主容積流は、好ましくは1000~30000m/hである。バイパスラインを介して主容積流から少なくとも一段の脱塩設備に供給される冷却された予備浄化された冷却回路水の部分容積流は、好ましくは25~500m/hであり、より好ましくは50~200m/hである。
【0015】
同様に、本発明は、産業設備、特に熱間圧延機の有機物及び無機粒子を負荷された冷却回路水を処理するための設備を企図する。本発明による設備は、
a)予備浄化された冷却回路水を得るために、冷却回路水から有機物及び無機粒子を分離するための分離装置と、
b)予備浄化された冷却回路水を冷却可能な開放した冷却塔と、
c)浄化された冷却回路水を得るために、冷却された予備浄化された冷却回路水の少なくとも1つの部分容積流を脱塩可能な少なくとも一段の脱塩設備と、
d)冷却回路水内に存在する有機物を分解すために適したバクテリアを添加するための配量装置であって、生物学的な浄化段が形成可能であるように、分離装置の前、冷却塔の前及び/又は脱塩装置の前に配置された配量装置と、
を有する。
【0016】
有利な実施バリエーションでは、ステップc)の前に、冷却された予備浄化された冷却回路水の部分容積流(ブローダウン水)内に含まれる有機物及び/又は無機粒子の残量が分離される。解放された固体の無機粒子の濃度が、後続の脱塩のために非常に高い値を備える場合、無機粒子は、有利には最初に分離することができる。好ましくは、解放された固体の無機粒子のステップb1)による分離は、重量分析的に行なわれる。特に好ましくは、無機粒子の強磁性の特性に基づいて、ステップb1)による分離が、磁気的な分離によって行なわれること、が企図されている。無機粒子を予め分離することにより、脱塩メンブレンは保護され、より長く使用することができ、これは、運転コストに有利に作用する。
【0017】
別の好ましい実施バリエーションでは、
ステップa)の前、ステップb)による冷却の前及び/又はステップc)による脱塩の前に、冷却回路水に、添加されたバクテリアの増殖を促進する栄養素が添加されること、が企図されている。添加された栄養素は、バクテリアによるバイオセノーシスの構成を促進し、更に、その長期的な存在を助長する。ここで、好ましくは、添加された栄養素に対する添加されたバクテリアの比が、時間と共に低減されること、が企図されている。特に好ましくは、これに関連して、バクテリアの添加が、バイオセノーシスの構成に依存して行なわれること、が企図されている。冷却回路内にバイオセノーシスを初めて形成するため、より高いバクテリア濃度が有利である。従って、添加されたバクテリアと添加された栄養素から成る特に好ましい混合物は、1wt%のバクテリアと99wt%の栄養素を含有する。これに対して、既に形成されたバイオセノーシスを維持するため、高めた栄養素濃度が有利である。従って、添加されたバクテリアの濃度は、適用時間の増加と共に1wt%未満に低下し、同時に、99wt%超の栄養素が供給される。
【0018】
バクテリアは、油脂を分解する特異種の純粋培養物である。ある種は、沈殿槽内及び浄化槽のより深い層内に存在し得るために、嫌気性の環境条件下で増殖することができるべきであり、他の種は、冷却塔内及び浄化槽の表面でも油脂を除去し得るために、好気的に生息することができなければならない。
【0019】
栄養素は、主に窒素及び燐であり、硫黄、カリウム、マグネシウム及び/又はナトリウムも使用される。微量栄養素混合物も、濃縮物の一部であり得る。これは、銅、ニッケル、コバルト、マンガン、モリブデン、タングステン、亜鉛及び/又はタングステンのような金属の混合物であり、場合によっては補足的に、ホウ素、ケイ素及び/又はセレン並びに場合によっては別の元素及び/又はアミノ酸である。通常はバクテリア培地内に含まれる鉄は、カルシウムのように冷却回路内に十分な濃度で含まれているので、必要でない。
【0020】
別の有利な実施バリエーションでは、バクテリア及び/又は栄養素が、顆粒の形態で提供され、水溶液の形態で冷却回路内の冷却回路水に添加される。顆粒は、濃縮された形態のバクテリア及び/又は栄養素を含有するので、これにより、保管の必要が低減される。合目的に、顆粒は、水に溶解される。このため、水は、有利にはまず、冷却回路水と同等の温度に加熱される。次に、顆粒が配量され、溶液が生成される。3~6hの熟成時間の後、溶液は、冷却回路水に添加される。ここで、冷却回路内でのバクテリア及び/又は栄養素の拡散が著しく改善されることがわかった。更に、これに関連して、好ましくは、顆粒内のバクテリアが、凍結乾燥されたバクテリアとして形成されていること、が企図されている。凍結乾燥されたバクテリア(フリーズドライされたバクテリア)は、著しく長い寿命を備えるので、顆粒は、より長い期間にわたって保管することもできる。
【0021】
別の好ましい実施バリエーションでは、有機物及び無機粒子を負荷された冷却回路水が、ステップa)により、沈殿槽、浄化槽及び/又は濾過装置を経て導かれる。これに関連して、特に好ましくは、ステップa)による分離の前及び/又はステップb)による冷却の前だけで、冷却回路水にバクテリアが添加される実施バリエーションの場合、異なる環境要件、特に嫌気性、無酸素性及び/又は好気性を有する冷却回路水にバクテリアが添加されること、が企図されている。バクテリアは、それぞれの環境に応じて拡散し、それぞれの設備部分内にバイオセノーシスを形成する。
【0022】
特に好ましい実施バリエーションでは、ステップc)により浄化された冷却回路水が、即ち脱塩されたブローダウン水が、場合によってはコンディショニング後に、産業設備に供給される。これにより、高度の節水が達成される。別の利点は、産業設備が、直近に排水路を有しない地域でも運転可能であることにある。
【0023】
脱塩されたブローダウン水のコンディショニングとの用語は、本発明の意味では、腐食防止剤の添加を指し、場合によってはpH値をコントロールするためのアルカリ液の添加を指す。
【0024】
好ましくは、ステップc)による脱塩が、逆浸透、容量性脱イオン又は薄膜蒸発によって行なわれる。脱塩設備は、本発明によれば、少なくとも一段に設計されている。しかしながら、好ましくは、脱塩設備は、一段から二段又は四段に設計されていること、が企図されている。
【0025】
特に好ましい実施バリエーションによれば、バクテリアが、冷却された予備浄化された冷却回路水の部分容積流だけに添加される。このため、設備は、冷却塔を少なくとも一段の脱塩設備と流体的に接続するバイパスライン内に配置された配量装置を備える。これに関連して、全く特にこのましくは、部分容積流が、ステップc)による脱塩前に、生物学的な浄化段を形成するために使用される反応器を介して導かれること、が企図されている。
【0026】
反応器は、好ましくは、生物学的な固定床反応器、散水フィルタ又はトリクルベッド反応器として形成されている。それぞれの反応器の反応室は、適当な担持材料で充填され、貫流可能である。固定床反応器は、非常に高い転化率を備え、更に、生物学的な代謝活性を、デプスフィルタとしての担持材料の濾過作用と組み合わせ、これにより、ここで、油脂は、まず床内に保持され、次いでバクテリアによって代謝される。換言すれば、バクテリアは、担持材料の表面にバイオフィルムを形成し、これにより、バクテリアは、殺生物剤及び他のバクテリアを損傷させる影響から少なくとも部分的に保護されている。
【0027】
本発明は、ここで詳細に示した熱間圧延機の設備に限定されているのではなく、原理的に、食品産業、製油所、化学及び製薬の設備のような他の産業部門にも適用することができる。
【0028】
本発明及び技術的環境を、以下で図によって詳細に説明する。本発明が、示した実施例によって限定されず、従って本発明の理解のためだけに使用されるべきであることを指摘する。特に、別段の明示的な記載がない限り、図に説明された事項の部分的態様を抽出し、本明細書及び/又は図からの他の構成要素及び知見と組み合わせることも可能である。特に、図及び特に図示した大きさの関係が、概略的であるにすぎないことを指摘する。同じ符号は、同じ対象を示すので、場合によっては、他の図からの説明を補足的に引き合いに出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】有機物及び無機粒子を負荷された冷却回路水を処理するための設備の第1の実施バリエーションの概略図
図2】有機物及び無機粒子を負荷された冷却回路水を処理するための設備の第2の実施バリエーションの概略図
図3】有機物及び無機粒子を負荷された冷却回路水を処理するための設備の第3の実施バリエーションの概略図
図4】有機物及び無機粒子を負荷された冷却回路水を処理するための設備の第4の実施バリエーションの概略図
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1に示した設備1は、ここに図示した実施バリエーションでは、熱間圧延機2を有し、この熱間圧延機に、冷却回路3が接続する。冷却回路3は、それぞれ互いに流体的に接続されかつ以下で詳細に説明される複数のユニットを有する。
【0031】
図示したように、熱間圧延機2は、まず冷却回路3に連結されているので、熱間圧延機2内で使用される、油脂のような有機物並びに特にスケールのような無機粒子を負荷された冷却回路水は、冷却回路3内に配置されたユニットを介して、直接的に熱間圧延機2に再び供給され得る程度まで処理される。冷却回路水量が、特定の容積を下回る場合、冷却回路3には、付加的な清水が、清水供給4を介して添加される。清水には、場合によっては、殺生物剤、硬度安定剤、凝集及び沈殿剤並びに他の添加剤を添加することができる。
【0032】
図1に示した設備1は、まず、熱間圧延機2の冷却回路水から有機物及び無機粒子を分離するための分離装置5を有するので、予備浄化された冷却回路水が得られる。図1からわかるように、分離装置5は、直列に接続された複数の構成要素を有する。ここに示した実施バリエーションでは、分離装置5は、有機物及び無機粒子から成る混合物の粗いフラクションを分離するための沈殿槽6と、有機物及び無機粒子から成る混合物の平均サイズを分離するための浄化槽7と、通常は複数の濾過ユニットを有する濾過装置8とを有する。この図では、濾過装置8の複数の濾過ユニットの並列に接続された2つの濾過ユニット9,10だけが示されていることを指摘する。両濾過ユニット9,10内で、有機物及び無機粒子から成る混合物の微細なフラクションが分離される。濾過装置8の両濾過ユニット9,10のそれぞれは、この実施バリエーションでは、砂利フィルタの形態で形成されている。
【0033】
更に、図1に示した設備1は、開放した冷却塔11を有し、この冷却塔を介して、予備浄化された冷却回路水が冷却可能である。冷却塔11内で、予備浄化された冷却回路水は、噴霧され、これにより、エアロゾルが形成され、このエアロゾルは、その後凝縮し、これにより冷却される。こうして得られた冷却された予備浄化された冷却回路水(いわゆるブローダウン水)は、主容積流と部分容積流に分割される。この場合、主容積流は、主ライン12を介して熱間圧延機2に供給される。部分容積流は、バイパスライン13を介して少なくとも一段の脱塩設備14に供給され、浄化された冷却回路水を得るために脱塩され、浄化された冷却回路水は、その後戻りライン15を介して熱間圧延機2に供給される。これにより、高度の節水が達成される。別の利点は、設備1が、直近に地下水又は河川水をほとんど有しない地域でも運転可能であることにある。
【0034】
脱塩は、好ましくは、逆浸透、容量性脱イオン又は薄膜蒸発の原理により行なわれる。
【0035】
冷却回路3内に、設備1は、更に、冷却回路水内に存在する有機物を分解するために適したバクテリアを添加するための配量装置16を有する。バクテリアは、ここでは凍結乾燥されたバクテリアとして形成されている。配量装置16は、分離装置5の前、冷却塔11の前及び/又は脱塩設備14の前に配置することができる。
【0036】
選択的に、配量装置16は、分離装置5内で、沈殿槽6の前、浄化槽7の前及び/又は濾過装置8の前に配置することもできる(図示せず)。
【0037】
ここに図示した実施バリエーション(図1)では、設備1は、分離装置5の前に配置された第1の配量装置17と、冷却塔11の前に配置された第2の配量装置18を有し、これら配量装置を介して、バクテリアが冷却回路3に添加される。
【0038】
冷却回路水にバクテリアを添加することにより、脱塩設備14内で使用されるメンブレン(図示せず)の耐用年数は、著しく増加される。これは、冷却回路水内に含まれる有機物、特に油脂と無機粒子、特に、主に酸化鉄(II,III)から成るスケールが、分離装置5によって完全には除去することができない高粘着性の微細凝集体を形成することに原因がある。冷却回路3に添加されるバクテリアにより、微細凝集体の粘着特性に関与する有機物、特に油脂は、分解もしくは代謝されるので、冷却回路水内で裸のスケール粒子は、粘着特性の欠如に基づいてメンブレンをもはや閉塞させることができない。加えて、ここに図示したように、冷却回路3全体にわたってバクテリアを添加する場合には、冷却回路のどのユニットも、通常は一定の間隔で冷却回路3全体から除去しかつ別々に廃棄しなければならない粘着性の堆積物をほとんど有しないでいるとの利点が生じる。従って、有機物並びに無機粒子を含むこれら堆積物の除去を削減することができ、これは、設備1の継続的な運転コストに有利に作用する。この実施バリエーションでは、冷却回路水への殺生物剤の添加が除外されているが、それは、その後、殺生物剤が、バクテリアによって沈殿槽6内、浄化槽7内、濾過装置8内、冷却塔11内及びそれぞれのライン内に形成されたバイオセノーシスを破壊するからである。
【0039】
加えて、両配量装置17,18を介して、添加されたバクテリアの増殖を促進する栄養素が冷却回路3に添加される。添加された栄養素は、バクテリアによるバイオセノーシスの構成を促進し、更に、その長期的な存在を助長する。ここで、好ましくは、添加された栄養素に対する添加されたバクテリアの比が、時間と共に低減されること、が企図されている。特に好ましくは、これに関連して、バクテリアの添加が、バイオセノーシスの構成に依存して行なわれること、が企図されている。冷却回路3内にバイオセノーシスを初めて形成するため、より高いバクテリア濃度が有利である。添加されたバクテリアと添加された栄養素から成る特に好ましい混合物は、1wt%のバクテリアと99wt%の栄養素を含有する。これに対して、既に形成されたバイオセノーシスを維持するため、高めた栄養素濃度が有利である。従って、添加されたバクテリアの濃度は、適用時間の増加と共に1wt%未満に低下し、同時に、99wt%超の栄養素が供給される。バクテリアと栄養素は、顆粒の形態で提供され、水溶液の形態で、両配量装置17,18を介して冷却回路3内の冷却回路水に添加される。
【0040】
ここで冷却回路水に添加されるバクテリアは、異なる環境要件を有する。こうして、沈殿槽6は嫌気的に運転され、浄化槽7は嫌気的又は好気的に運転され、濾過装置8は無酸素好気的に運転され、冷却塔11は好気的に運転される。
【0041】
図2は、本発明による設備1の第2の実施バリエーションを示す。図1とは違って、設備1は、冷却塔11と脱塩設備14の間でバイパスライン13内に配置された第2の分離装置19を有する。ブローダウン水内の解放された固体のスケール粒子の濃度が、後続の脱塩のために非常に高い値を備える場合、スケール粒子は、有利には、第2の分離装置19によって最初に分離するすることができる。スケール粒子が強磁性の特性を備えるので、分離は、この場合、通常の沈積に加えて磁気的な分離によって行なうこともできる。スケール粒子の予め分離することにより、脱塩メンブレンは保護され、より長く使用することができ、これは、有利には運転コストに有利に作用する。
【0042】
図3は、本発明による設備1の第3の実施バリエーションを示す。図1に示した実施バリエーションとは違って、バクテリアは、第3の配量装置20を介して局所的に冷却回路水に添加される。図示したように、バクテリアは、この実施バリエーションによれば、有機物、特に油脂と、無機粒子、特に、主に酸化鉄(II,III)から成るスケールとから構成された高粘着性の微細凝集体を、後続の脱塩のために溶解するために、ブローダウン水の部分容積流だけに添加される。このため、設備1は、第3の配量装置20の下流に配置された反応器21を有し、この反応器内に、バイオセノーシスが形成される。ここに図示した実施バリエーションの反応器21は、生物学的な固定床反応器である。
【0043】
従って、第3の配量装置20の上流に構成される冷却回路は、生物学的な浄化の支配下にないので、ここに図示した実施バリエーションでは、両配量装置17,18を介して殺生物剤並びに他の添加剤が添加される。ここで、殺生物剤は、間隔を置いて冷却回路に配量される。反応器21でのバイオセノーシスの抑制を回避するため、バイパスライン13と戻りライン15は、有利には、濃度ピークが約3時間後にシステム内に分布しかつ安定した値に達するまで、遮断弁(図示せず)を介して遮断される。
【0044】
最後に、図4には、本発明による設備1の第4の実施バリエーションが示されているが、この第4の実施バリエーションは、前の実施バリエーション(図3)とは違って、図2に示した実施バリエーションと同様に、バイパスライン13内で反応器21の下流に配置されかつ脱塩段の脱塩のために使用される無機のスケール成分を除去するための第2の分離装置19を有する。
【0045】
本発明は、従属請求項内で規定された特徴の組合せに限定されているのではなく、全体として開示された全ての個々の特徴の所定の特徴任意の他のそれぞれの組合せによっても規定され得る。これは、原則として実質的に独立請求項のそれぞれの個々の特徴が省略され得るもしくは本願の他の箇所に開示された少なくとも1つの個々の特徴によって置換され得ることを意味する。その点で、独立請求項は、本発明を表現するための最初の試みであるとだけ理解すべきである。
【符号の説明】
【0046】
1 設備
2 産業設備/熱間圧延機
3 冷却回路
4 清水供給
5 分離装置
6 沈殿槽
7 浄化槽
8 濾過装置
9 濾過ユニット
10 濾過ユニット
11 冷却塔
12 主ライン
13 バイパスライン
14 脱塩設備
15 戻りライン
16 配量装置
17 第1の配量装置
18 第2の配量装置
19 第2の分離装置
20 第3の配量装置
21 反応器
図1
図2
図3
図4