(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ハイブリッド全輪駆動車の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/02 20060101AFI20241203BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20241203BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20241203BHJP
B60W 10/26 20060101ALI20241203BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20241203BHJP
B60W 10/14 20120101ALI20241203BHJP
【FI】
B60W10/02 900
B60W10/02 ZYW
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W10/26 900
B60K6/48 ZHV
B60W10/14
(21)【出願番号】P 2023542152
(86)(22)【出願日】2021-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2021030552
(87)【国際公開番号】W WO2023021686
(87)【国際公開日】2023-02-23
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122770
【氏名又は名称】上田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】建川 博
(72)【発明者】
【氏名】田中 悠一
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 一貴
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-032059(JP,A)
【文献】特開2009-143292(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0162349(US,A1)
【文献】特開2009-113570(JP,A)
【文献】特開2013-052693(JP,A)
【文献】特開2011-213275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
締結力に応じて前後車輪の差動を制限自在な差動制限クラッチを有し、前記エンジンから入力される駆動力を前輪側と後輪側とに分配して出力するセンタデファレンシャルユニットと、
前記センタデファレンシャルユニットと後輪との間に設けられ、該後輪との間でトルク伝達可能に接続されたモータジェネレータと、
車両の走行状態を検知する走行状態検知手段と、
前記エンジン並びに前記モータジェネレータの駆動、及び、前記差動制限クラッチの締結力を制御するコントロールユニットと、を備え、
前記コントロールユニットは、前記走行状態検知手段により検知された前記車両の走行状態に基づいて、前後駆動力制御を優先する必要がある走行状態か否かを判定し、
前後駆動力制御を優先する必要がある走行状態であると判定した場合には、前後車輪の路面との摩擦力に応じて、前記エンジン並びに前記モータジェネレータの駆動、及び、前記差動制限クラッチの締結力を制御する前後駆動力制御を優先的に実行し、
前後駆動力制御を優先する必要がない走行状態であると判定した場合には、
前後車輪の駆動力分配比が前後駆動力制御を優先的に実行する場合よりも狭い所定の範囲内に納まるように前記差動制限クラッチの締結力を制御し、かつ、前記モータジェネレータに電力を供給する高電圧バッテリの充電状態が所定の範囲内に納まるように前記モータジェネレータの駆動を制御するエネルギーマネージメント制御を優先的に実行する
ことを特徴とするハイブリッド全輪駆動車の制御装置。
【請求項2】
前記コントロールユニットは、車両がコーナーを曲がっている場合には前記前後駆動力制御を優先する必要がある走行状態であると判定し、車両が直進路を走行している場合には前記前後駆動力制御を優先する必要がない走行状態であると判定することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド全輪駆動車の制御装置。
【請求項3】
前記走行状態検知手段は、ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサ、前記車両の横加速度を検出する横加速度センサ、及び/又は、前記車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサを有し、
前記コントロールユニットは、前記操舵角、前記横加速度、及び/又は、前記ヨーレートに基づいて、前記車両がコーナーを曲がっているか否かを判定することを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド全輪駆動車の制御装置。
【請求項4】
前記コントロールユニットは、前記車両がコーナーを曲がり始めた後、所定時間が経過したときに、前記前後駆動力制御を優先して実行することを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド全輪駆動車の制御装置。
【請求項5】
前記コントロールユニットは、前記操舵角の変化速度が所定速度以上の場合、前記コーナーの半径が所定値以下の場合、又は、走行路面の摩擦抵抗が所定値以下の場合には、前記所定時間が経過することを待つことなく、前記前後駆動力制御を開始することを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド全輪駆動車の制御装置。
【請求項6】
前記車両の外部環境を検知する外部環境検知手段をさらに備え、
前記外部環境検知手段は、車両前方のコーナーの有無、コーナーまでの距離、コーナーの半径を検知し、
前記コントロールユニットは、前記コーナーまでの距離に基づいて該コーナーへの進入を予測するとともに、前記コーナーの半径に基づいて前記車両が当該コーナーを曲がっている間、前記前後駆動力制御を優先して実行することができるか否かを判定することを特徴とする請求項2~5のいずれか1項に記載のハイブリッド全輪駆動車の制御装置。
【請求項7】
前記コントロールユニットは、前記エネルギーマネージメント制御を実行する際に、前後車輪の駆動力分配比が所定範囲内に納まるように前記差動制限クラッチの締結力を制御することを特徴とする請求項2~6のいずれか1項に記載のハイブリッド全輪駆動車の制御装置。
【請求項8】
前記コントロールユニットは、前記エネルギーマネージメント制御を実行する際に、燃焼効率が所定値よりも高い運転領域で前記エンジンを運転できるように前記モータジェネレータの駆動を制御することを特徴とする請求項2~7のいずれか1項に記載のハイブリッド全輪駆動車の制御装置。
【請求項9】
目的地までの経路情報を取得するカーナビゲーションシステムをさらに備え、
前記カーナビゲーションシステムは、前記目的地までの経路上にあるコーナーと直線路との出現割合情報を取得し、
前記コントロールユニットは、コーナーと直線路との前記出現割合情報、及び、前記高電圧バッテリの充電状態に基づいて、前記高電圧バッテリの充電状態が所定範囲内に納まるように、前記直線路におけるエネルギーマネージメント制御を実行することを特徴とする請求項2~8のいずれか1項に記載のハイブリッド全輪駆動車の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド全輪駆動車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、後軸駆動モータを搭載し、エンジン出力とモータ出力(力行/回生)のバランスを統合制御することで、前後輪への駆動力分配を前後のタイヤ摩擦力に応じて連続的に可変(前後駆動力制御)し、高い操縦安定性能を実現するハイブリッド全輪駆動車(AWD HEV)が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、後輪側偏重の不等トルク配分AWD(全輪駆動)システムのプロペラシャフトにモータジェネレータを設けて、加速時にスリップ又はその兆候が後輪側で生じた場合には回生し、加速時の荷重移動等によって後輪の接地荷重が大きくなり駆動力伝達容量に余裕がある場合には駆動アシストすることにより、トラクション性能及び旋回加速時の操縦安定性に優れる車両用駆動システム(ハイブリッド全輪駆動車)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の車両用駆動システム(ハイブリッド全輪駆動車)では、例えば、エンジンを燃焼効率(燃料消費率)のよい運転領域で運転するためのモータジェネレータへの駆動(力行/回生)要求や、モータジェネレータに電力を供給する高電圧バッテリの充電状態(SOC:State Of Charge)を適切にコントロールするためのモータジェネレータへの駆動(力行/回生)要求、すなわち、エネルギーマネージメントの観点からのモータジェネレータに対する駆動(力行/回生)要求により、駆動アシスト(前後駆動力制御)を行いたいときに、駆動アシストを行うことができない場合が生じ得る。すなわち、前後駆動力制御がエネルギーマネージメント(制御)により制約を受ける場面が生じ得る。
【0006】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、前後駆動力制御を優先したい場面では、エネルギーマネージメント制御の制約を受けることなく、前後駆動力制御を優先的に実行すること(ずなわち、前後駆動力制御とエネルギーマネージメント制御との両立を図ること)が可能なハイブリッド全輪駆動車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るハイブリッド全輪駆動車の制御装置は、エンジンと、締結力に応じて前後車輪の差動を制限自在な差動制限クラッチを有し、エンジンから入力される駆動力を前輪側と後輪側とに分配して出力するセンタデファレンシャルユニットと、センタデファレンシャルユニットと後輪との間に設けられ、該後輪との間でトルク伝達可能に接続されたモータジェネレータと、車両の走行状態を検知する走行状態検知手段と、エンジン並びにモータジェネレータの駆動、及び、差動制限クラッチの締結力を制御するコントロールユニットとを備え、該コントロールユニットが、走行状態検知手段により検知された車両の走行状態に基づいて、前後駆動力制御を優先する必要がある走行状態か否かを判定し、前後駆動力制御を優先する必要がある走行状態であると判定した場合には、前後車輪の路面との摩擦力に応じて、エンジン並びにモータジェネレータの駆動、及び、差動制限クラッチの締結力を制御する前後駆動力制御を優先的に実行し、前後駆動力制御を優先する必要がない走行状態であると判定した場合には、モータジェネレータに電力を供給する高電圧バッテリの充電状態が所定の範囲内に納まるようにモータジェネレータの駆動を制御するエネルギーマネージメント制御を優先的に実行することを特徴とする。
【0008】
本発明に係るハイブリッド全輪駆動車の制御装置によれば、車両の走行状態に基づいて、前後駆動力制御を優先する必要がある走行状態であるか否かが判定され、前後駆動力制御を優先する必要がある走行状態(例えばコーナーリング中)であると判定された場合には、前後車輪の路面との摩擦力に応じて、エンジン並びにモータジェネレータの駆動、及び、差動制限クラッチの締結力を制御する前後駆動力制御が優先的に実行され、前後駆動力制御を優先する必要がない走行状態(例えば直進中)であると判定された場合には、モータジェネレータに電力を供給する高電圧バッテリの充電状態(SOC)が所定の範囲内に納まるようにモータジェネレータの駆動を制御するエネルギーマネージメント制御が優先的に実行される。そのため、前後駆動力制御を優先的に実行する必要がないときにエネルギーマネージメント制御を優先的に実行することにより、高電圧バッテリの充電状態(SOC)を適切な範囲に収め、その電力を、前後駆動力制御を優先的に実行する必要がある場面において使用することができる。よって、前後駆動力制御とエネルギーマネージメント制御とを両立(適切に調停)することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
その結果、本発明によれば、前後駆動力制御を優先したい場面では、エネルギーマネージメント制御の制約を受けることなく、前後駆動力制御を優先的に実行すること(ずなわち、前後駆動力制御とエネルギーマネージメント制御との両立を図ること)が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係るハイブリッド全輪駆動車の制御装置、及び、該制御装置が搭載されたハイブリッド全輪駆動車(AWD HEV)の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係るハイブリッド全輪駆動車の制御装置が搭載されたハイブリッド全輪駆動車(AWD HEV)におけるトルクフローを示す図である。
【
図3】実施形態に係るハイブリッド全輪駆動車の制御装置による前後駆動力制御とエネルギーマネージメント制御との切替処理(調停処理)の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0012】
まず、
図1を用いて、実施形態に係るハイブリッド全輪駆動車の制御装置1の構成について説明する。
図1は、ハイブリッド全輪駆動車の制御装置1、及び、該制御装置1が搭載されたハイブリッド全輪駆動車(AWD HEV)4の全体構成を示すブロック図である。
【0013】
エンジン20は、どのような形式のものでもよいが、例えば水平対向型の筒内噴射式4気筒ガソリンエンジンである。エンジン20では、エアクリーナ(図示省略)から吸入された空気が、吸気管に設けられた電子制御式スロットルバルブ(以下、単に「スロットルバルブ」ともいう)により絞られ、インテークマニホールドを通り、エンジン20に形成された各気筒に吸入される。ここで、エアクリーナから吸入された空気の量はエアフローメータ81により検出される。さらに、スロットルバルブには、該スロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサ82が配設されている。各気筒には、燃料を噴射するインジェクタが取り付けられている。また、各気筒には混合気に点火する点火プラグ、及び該点火プラグに高電圧を印加するイグナイタ内蔵型コイルが取り付けられている。エンジン20の各気筒では、吸入された空気とインジェクタによって噴射された燃料との混合気が点火プラグにより点火されて燃焼する。燃焼後の排気ガスは排気管を通して排出される。
【0014】
上述したエアフローメータ81、スロットル開度センサ82に加え、エンジン20のカムシャフト近傍には、エンジン20の気筒判別を行うためのカム角センサが取り付けられている。また、エンジン20のクランクシャフト近傍には、クランクシャフトの位置を検出するクランク角センサが取り付けられている。これらのセンサは、後述するエンジン・コントロールユニット(以下「ECU」という)80に接続されている。また、ECU80には、エンジン20の冷却水の温度を検出する水温センサ83等の各種センサも接続されている。
【0015】
エンジン20の出力軸(クランク軸)21には、例えば、乾式クラッチ22を介して、エンジン20からの駆動力を変換して出力する手動変速機(MT)30が接続されている。手動変速機30は、変速操作を手動で行う変速機であり、例えば、入出力軸同心型のものが用いられる。手動変速機30としては、公知なもの、すなわち、各変速段の駆動ギヤと従動ギヤを2軸に配置するとともに、ギヤの隣に同期機構とそれを作動させるカップリングスリーブ、シフトフォーク、ストライキングロッドなどを配置し、シフトレバーと連結したものを用いることができる。なお、手動変速機(MT)に代えて、例えば、有段自動変速機(AT)や、無段変速機(CVT)、DCT(Dual Clutch Transmission)など、他の形式の変速機を用いてもよい。
【0016】
手動変速機30の出力軸30aには、センタデファレンシャルユニット40が接続されている。手動変速機30で変換された駆動力は、センタデファレンシャルユニット40によって分配され、フロントドライブシャフト43、及び、プロペラシャフト46それぞれに出力(伝達)される。本実施形態では、センタデファレンシャルユニット40として、前後不等トルク配分となるプラネタリギヤユニット41からなるセンタデファレンシャル(41)に多板クラッチ(請求の範囲に記載の差動制限クラッチに相当、以下「LSDクラッチ」ともいう)42からなる差動制限機構を組み合わせ、そのLSDクラッチ42の締結力(すなわち差動制限の強さ)を電気的に調節可能なシステムを採用した。なお、センタデファレンシャルユニット40には、上述した構成に加えて、路面反力に差が出た瞬間に差動制限力を発生させるため、トルク差でクラッチ圧着力を立ち上げるカム機構も組み込まれている。センタデファレンシャルユニット40では、例えば、前輪41:後輪59のトルク配分を基本とし、LSDクラッチ42による、走行状況に応じた前後トルク配分により、大きな駆動力を発揮しながら安定性を確保している。
【0017】
より具体的には、プラネタリギヤユニット(センタデフ)41は、サンギヤ41a、プラネタリピニオン(プラネタリキャリア)41b、及び、リングギヤ(インターナルギヤ)41cを有して構成されている。プラネタリピニオン(プラネタリキャリア)41bには手動変速機30の出力軸30aが接続されており、エンジン20から伝達された駆動力が入力される。サンギヤ41aにはフロントドライブシャフト43が接続されており、前輪側に駆動力が伝達(出力)される。リングギヤ(インターナルギヤ)41cにはプロペラシャフト46が接続されており、後輪側に駆動力が伝達(出力)される。なお、プラネタリギヤユニット41の各要素と、出力軸30a、フロントドライブシャフト43、及び、プロペラシャフト46との接続関係は、本実施形態に限られることなく、任意に対応付けることができる。
【0018】
また、センタデフレンシャルユニット40では、後輪出力を担うリングギヤ41cと、前輪出力を担うサンギヤ41aとの間に差動制限を行うLSDクラッチ(差動制限クラッチ)42が組み込まれており、該LSDクラッチ42を挟んで対向するように配設された、電磁ソレノイド(電磁石)及びトルクカム(図示省略)それぞれから圧着力(締結力)が加えられる構成とされている。
【0019】
LSDクラッチ42は、その締結力に応じて、前後輪へのトルク配分を可変するとともに、差動制限機能を発揮する。LSDクラッチ42としては、例えば、電気的に締結力(締結・解放)を調節することができる電磁クラッチ等が好適に用いられる。なお、LSDクラッチ42の締結力(差動制限)は、ハイブリッド・コントロールユニット(以下「HEV-CU」という)60によって制御される。
【0020】
上述したように、手動変速機30からの入力(駆動力)は、プラネタリギヤユニット41に伝えられ、サンギヤ41aから前輪10FL,10FRへ出力されるとともに、外周のリングギヤ41cから後輪10RL,10RRへ出力される。より詳細には、手動変速機30からの入力(駆動力)は、プラネタリピニオン(プラネタリキャリア)41bに伝えられ、サンギヤ41aからフロントドライブシャフト43を介してフロントデファレンシャル(以下「フロントデフ」ともいう)44に伝達される。フロントデフ44は、例えば、ベベルギヤ式の差動装置である。フロントデフ44からの駆動力は、左前輪ドライブシャフト45Lを介して左前輪10FLに伝達されるとともに、右前輪ドライブシャフト45Rを介して右前輪10FRに伝達される。
【0021】
一方、プラネタリギヤユニット41に伝えられた入力(駆動力)は、外周のリングギヤ41cからプロペラシャフト46を介してリヤディファレンシャル(以下「リヤデフ」ともいう)47に伝達される。リヤデフ47には左後輪ドライブシャフト48L及び右後輪ドライブシャフト48Rが接続されている。リヤデフ47からの駆動力は、左後輪ドライブシャフト48Lを介して左後輪10RLに伝達されるとともに、右後輪ドライブシャフト48Rを介して右後輪10RRに伝達される。
【0022】
また、プロペラシャフト46には、モータジェネレータ(MG)72がトルク伝達可能に接続されている。より具体的には、モータジェネレータ72は、例えば、モータリダクションギヤを介してプロペラシャフト46に接続されている。
【0023】
モータジェネレータ72は、供給された電力を機械的動力に変換するモータとしての機能と、入力された機械的動力を電力に変換するジェネレータとしての機能とを兼ね備えた同期発電電動機として構成されている。すなわち、モータジェネレータ72は、車両駆動時には駆動トルクを発生するモータとして動作し、回生時にはジェネレータとして動作する。
【0024】
各車輪10FR~10RR(以下、すべての車輪10FR~10RRを総称して車輪10ということもある)それぞれには、車輪10FR~10RRを制動するブレーキ11FR~11RR(以下、すべてのブレーキ11FR~11RRを総称してブレーキ11ということもある)が取り付けられている。また、各車輪10FR~10RRそれぞれには、車輪回転速度を検出する車輪速センサ12FR~12RR(以下、すべての車輪速センサ12FR~12RRを総称して車輪速センサ12ということもある)が取り付けられている。
【0025】
本実施形態では、ブレーキ11として、ディスクブレーキを採用した。ブレーキ11は、AWD HEV4の車輪10に取り付けられたブレーキディスクと、ブレーキパッド及びホイールシリンダを内蔵したブレーキキャリパを有して構成されている。ブレーキ時(制動時)には、油圧によりブレーキパッドがブレーキディスクに押圧され、摩擦力によってブレーキディスクと連結されている車輪10が制動される。なお、本実施形態で用いられているブレーキ10は、ディスクブレーキであるが、摩擦材をドラムの内周面に押し付けて制動するドラムブレーキ等を用いてもよい。
【0026】
車輪速度センサ12は、車輪10とともに回転するロータ(ギヤロータ、又は磁気ロータ)による磁界の変化を検出する非接触型センサであり、例えば、ロータ回転をホール素子やMR素子で検出する半導体方式が好適に用いられる。
【0027】
このように構成されているため、本実施形態に係るハイブリッド全輪駆動車(AWD HEV)4では、
図2に示されるように、エンジン20の出力は、LSDクラッチ42付のセンタデファレンシャルユニット40を介してフロントドライブシャフト43及びプロペラシャフト46(前後輪軸)へ伝達される。一方、モータジェネレータ72の出力(力行/回生)は、プロペラシャフト46(後輪軸)へ伝達される。そして、エンジン出力とモータジェネレータ出力のバランスが統合制御されて、前後輪10への駆動力が任意に可変分配されるとともに、燃費向上のためモータジェネレータ72によるアシスト/回生が行われる。なお、
図2は、ハイブリッド全輪駆動車(AWD HEV)4におけるトルクフローを示す図である。
【0028】
エンジン20、及び、モータジェネレータ72の駆動は、HEV-CU60によって総合的に制御される。また、LSDクラッチ42の締結力(差動制限)もHEV-CU60によって制御される。すなわち、HEV-CU60は、請求の範囲に記載のコントロールユニットとして機能する。
【0029】
ここで、HEV-CU60には、CAN(Controller Area Network)100を介して、エンジン20を総合的に制御するECU80、PCU70、車両の横滑りなどを抑制して走行安定性を向上させるビークルダイナミクス・コントロールユニット(以下「VDCU」という)50、運転支援装置90、カーナビゲーションシステム91等と相互に通信可能に接続されている。
【0030】
HEV-CU60、ECU80、VDCU50、運転支援装置90、カーナビゲーションシステム91それぞれは、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するEEPROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、バッテリ等によってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び、入出力I/F等を有して構成されている。
【0031】
ECU80では、カム角センサの出力から気筒が判別され、クランク角センサの出力によって検出されたクランクシャフトの回転位置の変化からエンジン回転数が求められる。また、ECU80では、上述した各種センサから入力される検出信号に基づいて、吸入空気量、スロットル開度、混合気の空燃比、及び、水温等の各種情報が取得される。
【0032】
また、ECU80は、CAN100を介して、HEV-CU60から、要求出力、モータジェネレータ72の回転数(回転速度)、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)等の情報を受信する。そして、ECU80は、HEV-CU60からの要求出力、及び、取得したこれらの各種情報に基づいて、燃料噴射量や点火時期、及び、スロットルバルブ等の各種デバイスを制御することによりエンジン20を制御する。
【0033】
なお、ECU80は、CAN100を介して、エンジン回転数、スロットル開度、エンジン軸トルク、及び、エンジン水温(冷却水温度)等の各種情報をHEV-CU60等に送信する。
【0034】
PCU70は、高圧バッテリ71の直流電力を三相交流の電力に変換してモータジェネレータ72に供給するインバータ70aを有している。PCU70は、HEV-CU60から受信したトルク指令値に基づいて、インバータ70aを介して、モータジェネレータ72を駆動する。一方、インバータ70aは、回生時に、モータジェネレータ72で発電した交流電圧を直流電圧に変換して高圧バッテリ71を充電する。
【0035】
VDCU50には、4つの車輪速センサ12FL~12RR、操舵角センサ16、前後加速度(前後G)センサ55、横加速度(横G)センサ56、ヨーレートセンサ57、及び、ブレーキスイッチ58などが接続されている。車輪速センサ12FL~12RRは、上述したように、車輪10FL~10RRの中心に取り付けられた歯車の回転を磁気ピックアップ等によって検出することにより、車輪10FL~10RRの回転状態を検出する。前後加速度センサ55は、AWD HEV4に作用する前後方向の加速度(以下、単に「加速度」ともいう)を検出し、横加速度センサ56は、AWD HEV4に作用する横方向の加速度を検出する。また、操舵角センサ16は、ピニオンシャフトの回転角を検出することにより、操舵輪である前輪10FL,10FRの転舵角(すなわちステアリングホイール15の操舵角)を検出する。ヨーレートセンサ57はAWD HEV4のヨーレートを検出する。
【0036】
VDCU50は、ブレーキペダルの操作量(踏み込み量)に応じてブレーキアクチュエータを駆動して車両を制動するとともに、車両挙動を各種センサ(例えば車輪速センサ12、操舵角センサ16、前後加速度センサ55、横加速度センサ56、ヨーレートセンサ57等)により検知し、自動加圧によるブレーキ制御とエンジン20のトルク制御により、横滑りを抑制し、旋回時の車両安定性を確保する。すなわち、VDCU50は、例えば、オーバースピードでコーナーに侵入した際や、急激なハンドル操作などによって車両姿勢(挙動)が乱れた際に、横滑りを防ぎ、優れた走行安定性を確保する。より具体的には、VDCU50は、車両姿勢(挙動)等を上記センサ等によって検知し、オーバーステアと判断するとコーナー外側の前輪10FL,10FRにブレーキをかけ、逆にアンダーステアと判断した場合は、エンジンパワーを落とすとともにコーナー内側の後輪10RL,10RRにブレーキをかける等のコントロールを、運転状況に応じて自動的に制御する。なお、VDCU50は、上記VDC(横滑り防止)機能に加えて、ABS(アンチロックブレーキ)機能や、TCS(トラクションコントロール)機能も有している。
【0037】
VDCU50は、検出した各車輪10の車輪速、操舵角、前後加速度、横加速度、ヨーレート、及び、制動情報(ブレーキング情報)等を、CAN100を介してHEV-CU60に送信する。
【0038】
運転支援装置90は、車両の外部環境(例えば車両前方の走行環境)を検知して前方障害物に対する警報や自動制動(自動ブレーキ)を行う機能(自動制動機能/プリクラッシュブレーキ機能)を有している。また、運転支援装置90は、検知した先行車両に対して追従制御や警報制御を行うことにより運転者の運転操作を支援する機能なども有している。
【0039】
運転支援装置90は、車両前方の画像を取得する例えば一対のカメラからなるステレオカメラ90aで撮像した画像データを処理して、例えば、走行路の状況や、先行車両、障害物等の車両外部の走行環境(外部環境)を検知する。すなわち、運転支援装置90は、請求の範囲に記載の外部環境検知手段として機能する。
【0040】
運転支援装置90は、画像データを画像処理し、車両が走行する道路上に描かれた道路区画線(白線)などを基に車線(走行レーン)を検出する。そして、運転支援装置90は、検出した車線に基づいて、例えば、コーナー(カーブ)の有無、コーナーまでの距離、コーナーの半径(旋回半径)、及び、道路の幅員等を検知する。また、運転支援装置90は、撮像した画像内からエッジ抽出やパターン認識処理などによって先行車を抽出し、左右の取得画像中における先行車位置の違いを基にして三角測量方式により先行車との車間距離を求めるとともに、前のフレーム時に求めた距離に対する変化量から相対速度(先行車両が減速したか否か)を求める。
【0041】
さらに、運転支援装置90は、走行路の路面勾配を検知する。また、運転支援装置90は、例えば路面の反射率情報などに基づいて、例えば、路面が濡れているか、積雪しているか、又は、凍結しているかなどを認識する(すなわち、走行路の路面摩擦係数を検知する)。そして、運転支援装置90は、検知したこれらのコーナー情報を含む外部環境情報をCAN100を介してHEV-CU60に送信する。
【0042】
カーナビゲーションシステム91は、GPS(Global Positioning System)によって受信されたGPS衛星信号に基づき自車位置を検出する。また、車速情報に基づいて走行距離を算出すると共に、ジャイロセンサからの信号に応じて車両進行方向を検出する。また、カーナビゲーションシステム91は、内蔵しているハードディスクやDVDディスクなどの地図情報記憶装置から、自車両が走行している道路(走行路)の道路情報(すなわち、例えば、コーナー(カーブ)の有無、コーナーまでの距離、コーナー半径、道路の幅員、踏み切り、横断歩道、一時停止標識、及び、路面勾配などの外部環境情報)を取得する。さらに、カーナビゲーションシステム91は、目的地までの経路情報を取得するとともに、目的地までの経路上にあるコーナーと直線路との出現割合情報を取得する。そして、カーナビゲーションシステム91は、CAN100を介して、取得した自車位置情報や道路情報(例えば、カーブの有無、カーブまでの距離、カーブ半径、路面勾配などの外部環境情報)、及び、目的地までの経路上にあるコーナーと直線路との出現割合情報等をHEV-CU60に送信する。
【0043】
HEV-CU60には、例えば、アクセルペダルの踏み込み量(アクセルの操作量)を検出するアクセル開度センサ61、モータジェネレータ72の回転数(回転速度)を検出するレゾルバ62、降雨や降雪等を検知する雨滴センサ(レインセンサ)63(又はワイパーの差動を検知するセンサ)などを含む各種センサが接続されている。
【0044】
HEV-CU60は、CAN100を介して、ECU80から、エンジン回転数、スロットル開度、エンジン軸トルク(出力トルク)、エンジン水温(冷却水温度)等の情報を受信する。また、HEV-CU60は、CAN100を介して、VDCU50から、各車輪10の車輪速、操舵角、前後加速度、横加速度、ヨーレート、制動情報(ブレーキング情報)等を受信する。さらに、HEV-CU60は、CAN100を介して、運転支援装置90から、コーナー情報を含むさまざまな外部環境情報を受信するとともに、カーナビゲーションシステム91から、目的地までの経路情報、経路上のコーナーと直線との出現割合情報などを受信する。
【0045】
HEV-CU60は、上述した各種センサ等から取得した情報、及び、CAN100を介して取得した各種情報に基づいて、エンジン20並びにモータジェネレータ72の駆動、及び、センタデファレンシャルユニット40のLSDクラッチ42の締結力を制御する。
【0046】
特に、HEV-CU60は、前後駆動力制御を優先したい場面では、エネルギーマネージメント制御の制約を受けることなく、前後駆動力制御を優先的に実行する(ずなわち、前後駆動力制御とエネルギーマネージメント制御との両立を図る)機能を有している。HEV-CU60では、EEPROM等に記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより上記機能が実現される。
【0047】
なお、ここで、前後駆動力制御(AWD制御)では、例えば、前後車輪10の路面との摩擦力(スリップ)等に応じて、エンジン20並びにモータジェネレータ72の駆動、及び、LSDクラッチ42の締結力(前後分配比)が制御される。このような前後駆動力制御の例としては、例えば、緩加速時(低μ路加速時等)に、モータジェネレータ72を回生して、前後荷重配分に応じた前輪偏重の駆動力配分(例えば、前輪:後輪=60:40の駆動力配分)とすることや、急加速時(高μ路加速時等)に、モータジェネレータ72を駆動(力行)して、前後荷重配分に応じた後輪偏重の駆動力配分(例えば、前輪:後輪=40:60の駆動力配分)とすること、及び、(高G)コーナーリング中に、後輪偏重の駆動力配分(例えば、前輪:後輪=40:60の駆動力配分)とし、前輪10FL、10FRの負担を軽減(旋回性能向上)することなどが挙げられる。
【0048】
一方、エネルギーマネージメント制御では、例えば、モータジェネレータ72に電力を供給する高電圧バッテリ71の充電状態(SOC)が所定の範囲内に納まるようにモータジェネレータ72の駆動が制御される。このようなエネルギーマネージメント制御の例としては、例えば、高電圧バッテリ71のSOC低下時(連続登坂時、連続高負荷運転時等)に、モータジェネレータ72で発電(回生)して高電圧バッテリ71を充電することや、エンジン20の燃焼効率(燃費率)が悪い低負荷運転領域を避けるために、モータジェネレータ72で発電(回生)してエンジン20の燃焼効率(燃費率)の良い運転領域を使うこと、高電圧バッテリ71のSOCが高い時(連続降坂時等)に、モータジェネレータ72で駆動アシストして高電圧バッテリ71の電力を消費すること、及び、エンジン20の燃焼効率(燃費率)が悪い高負荷運転領域を避けるために、モータジェネレータ72で駆動アシストしてエンジン20の燃焼効率(燃費率)の良い運転領域を使うことなどが挙げられる。
【0049】
HEV-CU60は、AWD HEV4の走行状態に基づいて、前後駆動力制御を優先する必要がある走行状態か否かを判定する。そして、前後駆動力制御を優先する必要がある走行状態であると判定した場合に、HEV-CU60は、前後車輪10の路面との摩擦力(スリップ)等に応じて、エンジン20並びにモータジェネレータ72の駆動、及び、LSDクラッチ42の締結力(前後分配比)を制御する前後駆動力制御を優先的に実行する。一方、前後駆動力制御を優先する必要がない走行状態であると判定した場合に、HEV-CU60は、モータジェネレータ72に電力を供給する高電圧バッテリ71の充電状態(SOC)が所定の範囲内に納まるようにモータジェネレータ72の駆動を制御するエネルギーマネージメント制御を優先的に実行する。
【0050】
その際に、HEV-CU60は、AWD HEV4がコーナーを曲がっている場合(コーナーリング中)には前後駆動力制御を優先する必要がある走行状態であると判定し、AWD HEV4が直進路を走行(直進)している場合(コーナーリング中以外)には前後駆動力制御を優先する必要がない(すなわち、エネルギーマネージメント制御を優先してもよい)走行状態であると判定する。
【0051】
より具体的には、HEV-CU60は、例えば、操舵角、横加速度、及び/又は、ヨーレートに基づいて、AWD HEV4がコーナーを曲がっているか否か(旋回中であるか否か)を判定する。
【0052】
また、HEV-CU60は、AWD HEV4がコーナーを曲がり始めた後(コーナー進入後)、所定時間(例えば1秒程度)が経過したときに、前後駆動力制御を優先して実行することが好ましい。なお、ここで、所定時間後に前後駆動力制御を開始する理由は、コーナーに進入した後、特に、コーナーの出口で加速するときに(アクセルペダルが踏まれるタイミングで)確実に前後駆動力制御を実行することが好ましいためである。
【0053】
ただし、HEV-CU60は、例えば、操舵角の変化速度が所定速度以上の場合、コーナーの半径(旋回半径)が所定値以下の場合、及び/又は、降雨や降雪が検知された場合(すなわち、走行路面の摩擦抵抗が所定値以下であると推定される場合)には、迅速に前後駆動力制御の実行を開始することが好ましいため、上記所定時間が経過することを待つことなく前後駆動力制御を開始する。
【0054】
また、HEV-CU60は、コーナーまでの距離と車速とに基づいてコーナーへの進入を予測する。また、HEV-CU60は、コーナーリング中に前後駆動配分が急変することを回避するため、コーナーの半径(旋回半径)等に基づいて車両がコーナーを曲がっている間(旋回中している間)、前後駆動力制御を優先的に実行することができるか否かを判定する。
【0055】
一方、HEV-CU60は、エネルギーマネージメント制御を実行する際に、前後車輪10の駆動力分配比が所定範囲内に納まるように(すなわち、極端に前輪10FL、10FRもしくは後輪10RL、10RRへ偏らないように)LSDクラッチ42の締結力を制御する(すなわち、高分配駆動輪側から低分配駆動輪側へトルク伝達する)。
【0056】
その際に、HEV-CU60は、次式(1)に基づいて、LSDクラッチ42の締結力を制御(調節)する。すなわち、変速機出力PTMとモータジェネレータ出力PMGとのバランスにより設定される目標後輪出力分配比DERとするための差動制限パワーPLSD(=差動制限トルク×回転数)は、次式(1)から求めることができる。
PLSD=(2DER-DER×DDR-1)PTM-(1-DER)×PMG ・・・(1)
PLSD:差動制限パワー(前から後への伝達を正とする)
PTM:変速機出力、PMG:モータジェネレータ(MG)出力
DDR:センタデファレンシャル後輪出力分配比、DER:目標後輪出力分配比
【0057】
また、HEV-CU60は、エネルギーマネージメント制御を実行する際に、エンジン20の燃焼効率(燃料消費量)が所定値よりも高い所定の運転領域でエンジン20を運転できるようにモータジェネレータ72の駆動(力行/回生)を制御する。
【0058】
さらに、HEV-CU60は、カーナビゲーションシステム91から受信した目的地までの経路上にあるコーナーと直線路との出現割合、及び、高電圧バッテリ71の充電状態(SOC)に基づいて、高電圧バッテリ71の充電状態(SOC)が所定範囲内に納まるように(極端に放電側又は充電側に偏らないように)、直線路(直線区間)におけるエネルギーマネージメント制御(充電)を実行する。すなわち、HEV-CU60は、探索された目的地までの経路上のコーナーの出現を予測し、コーナーリング中に前後駆動力制御を優先的に実行できるよう高電圧バッテリ71の受電状態(SOC)を保持するように、高電圧バッテリ71の充放電収支をコントロールする。すなわち、HEV-CU60は、直線路において、コーナーリング中の前後駆動力制御に要する電力を充電するようにコントロータする。
【0059】
次に、
図3を参照しつつ、ハイブリッド全輪駆動車の制御装置1の動作について説明する。
図3は、ハイブリッド全輪駆動車の制御装置1による前後駆動力制御とエネルギーマネージメント制御との切替処理(調停処理)の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、HEV-CU60において、所定のタイミングで繰り返して実行される。
【0060】
ステップS100では、前後駆動力制御を実行するための前提条件が成立しているか否かについての判断が行われる。より具体的には、例えば、システムが正常動作しているか否か、高電圧バッテリ71のSOCが所定範囲内であるか否か、及び、車速が所定値以上であるか否かといった、3つの条件(前提条件)が成立しているか否かについての判断が行われる。ここで、前後駆動力制御を実行するための前提条件が成立していない場合(いずれか1つでも成立していない場合)には、ステップS112に処理が移行し、エネルギーマネージメント制御が実行され、その後、本処理から一旦抜ける。一方、全ての(3つの)前提条件が成立している場合には、ステップS102に処理が移行する。
【0061】
ステップS102では、操舵角の絶対値が所定値以上であるか否かについての判断が行われる。ここで、操舵角の絶対値が所定値以上である場合には、ステップS114に処理が移行する。一方、操舵角の絶対値が所定値未満の場合には、ステップS104に処理が移行する。なお、操舵角のしきい値(所定値)、及び、後述する横加速度、ヨーレートそれぞれのしきい値(所定値)には、ハンチングを防止するためのヒステリシスが設けられている。
【0062】
ステップS104では、横加速度の絶対値が所定値以上であるか否かについての判断が行われる。ここで、横加速度の絶対値が所定値以上である場合には、ステップS114に処理が移行する。一方、横加速度の絶対値が所定値未満の場合には、ステップS106に処理が移行する。
【0063】
ステップS106では、ヨーレートの絶対値が所定値以上であるか否かについての判断が行われる。ここで、ヨーレートの絶対値が所定値以上である場合には、ステップS114に処理が移行する。一方、ヨーレートの絶対値が所定値未満の場合には、ステップS108に処理が移行する。
【0064】
ステップS108では、コーナー(入口)までの距離が所定値未満であるか否かについての判断が行われる。ここで、コーナー(入口)までの距離が所定値未満である場合には、ステップS114に処理が移行する。一方、コーナー(入口)までの距離が所定値以上である場合には、ステップS110に処理が移行する。
【0065】
ステップS110では、AWD HEV4がコーナーを曲がり始めてからの経過時間(コーナー進入後の経過時間)を計時するディレイタイマにゼロがセットされる。その後、ステップS112に処理が移行する。
【0066】
ステップS112では、エネルギーマネージメント制御が優先的に実行される。なお、エネルギーマネージメント制御については上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。その後、本処理から一旦抜ける。
【0067】
一方、ステップS102、S104、S106、S108のいずれかが肯定された場合、すなわち、コーナーリング中であると判定された場合、又は、コーナーに進入すると予想された場合に、ステップS114では、ディレイタイマの値がインクリメント(+1)されるとともに、該ディレイタイマの値が1秒以上となったか否か、すなわち、AWD HEV4がコーナーを曲がり始めてから(コーナー進入後)1秒が経過したか否かについての判断が行われる。ここで、ディレイタイマの値が1秒以上である場合には、ステップS120に処理が移行する。一方、ディレイタイマの値が1秒未満である場合には、ステップS116に処理が移行する。
【0068】
ステップ116では、ディレイカット条件が成立しているか否かについての判断が行われる。より具体的には、例えば、操舵角の変化速度が所定値以上であるか否か、コーナーの旋回半径が所定値以下であるか否か、及び、降雨又は降雪が検知されたか否か(すなわち走行路面の摩擦抵抗が所定値以下と推定されるか否か)といった、3つの条件が成立しているか否かについての判断が行われる。ここで、ディレイカット条件が全て成立していない場合には、ステップS112に処理が移行し、エネルギーマネージメント制御が優先的に実行され、その後、本処理から一旦抜ける。一方、ディレイカット条件が成立している場合(いずれか1つでも成立している場合)には、ステップS118に処理が移行する。
【0069】
ステップS118では、ディレイタイマに1秒(又はそれ以上の値)がセットされる。そして、ステップS120において、前後駆動力制御が優先的に実行される。なお、前後駆動力制御については上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。その後、本処理から一旦抜ける。
【0070】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、AWD HEV4の走行状態に基づいて、前後駆動力制御を優先する必要がある走行状態であるか否かが判定される。そして、前後駆動力制御を優先する必要がある走行状態(例えばコーナーリング中)であると判定された場合には、前後車輪10の路面との摩擦力等に応じて、エンジン20並びにモータジェネレータ72の駆動、及び、LSDクラッチ42の締結力(前後分配比)を制御する前後駆動力制御が優先的に実行される。一方、前後駆動力制御を優先する必要がない走行状態(例えば、直進中/コーナーリング中以外)であると判定された場合には、モータジェネレータ72に電力を供給する高電圧バッテリ71の充電状態(SOC)が所定の範囲内に納まるようにモータジェネレータ72の駆動を制御するエネルギーマネージメント制御が優先的に実行される。そのため、前後駆動力制御を優先的に実行する必要がないときにエネルギーマネージメント制御を優先的に実行することにより、高電圧バッテリ71の充電状態(SOC)を適切な範囲に収め、その電力を、前後駆動力制御を優先的に実行する必要がある場面において使用することができる。よって、前後駆動力制御とエネルギーマネージメント制御とを両立(適切に調停)することが可能となる。
【0071】
その結果、本実施形態によれば、前後駆動力制御を優先したい場面では、エネルギーマネージメント制御の制約を受けることなく、前後駆動力制御を優先的に実行することが可能となる。
【0072】
なお、コーナーリング中に、システム側の都合で前後駆動力制御とエネルギーマネージメント制御とを切替えると車両挙動に影響を与えるおそれ(すなわち、運転者(乗員)に違和感を与えるおそれ)がある。一方、高電圧バッテリ71のSOC(残量)は緩やかに変化するため予測可能であり、直線路等を選んでエネルギーマネージメントすることにより運転者(乗員)に違和感を与えることを防止できる。
【0073】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上述した駆動力伝達系の構成(例えばギヤや軸等の配置等)は一例であり、上記実施形態には限られない。さらに、上記実施形態では、LSDクラッチ42として電磁クラッチを用いたが、油圧式のものを用いてもよい。また、センタデファレンシャルユニット40の構成(形式)は上記実施形態に限られることなく、他の形式のものを用いてもよい。
【0074】
また、HEV-CU60やECU80等のコントローラのシステム構成、及び、各コントローラの機能分担等は上記実施形態に限られない。上記実施形態では、HEV-CU60、ECU80、PCU70、VDCU50、運転支援装置90、カーナビゲーションシステム91それぞれをCAN100で相互に通信可能に接続したが、システムの構成はこのような形態に限られることなく、例えば、機能的な要件やコスト等を考慮して、任意に変更することができる。
【0075】
また、上記実施形態では、外部環境(コーナー等)を検知するために、ステレオカメラ90aを用いたが、ステレオカメラに代えて、例えば、ミリ波レーダや、レーザレーダ、超音波センサなどを用いてもよい。また、異なる複数のセンサを組み合わせて用いてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 ハイブリッド全輪駆動車の制御装置
4 ハイブリッド全輪駆動車(AWD HEV)
10FL,10FR,10RL,10RR 車輪
11FL,11FR,11RL,11RR ブレーキ
12FL,12FR,12RL,12RR 車輪速センサ
16 操舵角センサ
20 エンジン
22 乾式クラッチ
30 手動変速機
40 センタデファレンシャルユニット
41 プラネタリギヤユニット(センタデファレンシャル)
41a サンギヤ
41b プラネタリピニオン(プラネタリキャリア)
41c リングギヤ(インターナルギヤ)
42 LSDクラッチ(差動制限クラッチ)
43 フロントドライブシャフト
46 プロペラシャフト
50 VDCU
55 前後加速度センサ
56 横加速度センサ
57 ヨーレートセンサ
58 ブレーキスイッチ
60 HEV-CU
61 アクセル開度センサ
62 レゾルバ
63 雨滴センサ(レインセンサ)
70 PCU
72 モータジェネレータ
80 ECU
81 エアフローメータ
82 スロットル開度センサ
90 運転支援装置
91 カーナビゲーションシステム
100 CAN