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特許7597950ワイヤ放電加工機の制御装置、及び、ワイヤ放電加工機の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工機の制御装置、及び、ワイヤ放電加工機の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23H 1/00 20060101AFI20241203BHJP
   B23H 7/02 20060101ALI20241203BHJP
   B23H 7/20 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
B23H1/00 A
B23H7/02 R
B23H7/20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023563443
(86)(22)【出願日】2021-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2021043384
(87)【国際公開番号】W WO2023095282
(87)【国際公開日】2023-06-01
【審査請求日】2024-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】田口 春華
(72)【発明者】
【氏名】白井 健一郎
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-069302(JP,A)
【文献】特開2012-035363(JP,A)
【文献】特開2015-123544(JP,A)
【文献】特開2021-041475(JP,A)
【文献】国際公開第2021/157575(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 1/00
B23H 7/02
B23H 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プログラム経路を規定した加工プログラムにしたがってワイヤ電極(12)を加工対象物(14)に対して相対移動させつつ、前記ワイヤ電極と加工対象物との間に電圧を印加することで、加工対象物を放電加工するワイヤ放電加工機(10)の制御装置(18)であって、
連続する2つのブロックの各々によって規定される経路の長さが前記ワイヤ電極の径以下であるか否かを判定する極小ブロック判定部(30)と、
連続する2つの前記ブロックの各々によって規定される前記経路の長さが前記ワイヤ電極の径以下と判定された場合に、連続する2つの前記ブロックの始点及び終点から定まる3点の座標に基づいて、連続する2つの前記ブロックで規定される経路形状が、前記ワイヤ電極の進行方向に向かって右に曲がる右コーナ、又は、前記進行方向に向かって左に曲がる左コーナであるかを判定する経路形状判定部(32)と、
前記加工プログラムから、連続する2つの前記ブロックにおけるオフセット方向を取得するオフセット方向取得部(34)と、
前記経路形状が左コーナ又は右コーナであると判定された場合に、前記オフセット方向に基づいて、内コーナ又は外コーナであるかを判定する内外コーナ判定部(36)と、
前記内外コーナ判定部における判定結果に基づいて、放電加工を制御する放電加工制御部(38)と、
を備える、ワイヤ放電加工機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤ放電加工機の制御装置において、
前記経路形状判定部は、連続する2つの前記ブロックのうち一方の前記ブロックの始点から終点に向かうベクトルと、連続する2つの前記ブロックのうち他方の前記ブロックの始点から終点に向かうベクトルとの外積に基づいて、前記経路形状を判定する、ワイヤ放電加工機の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のワイヤ放電加工機の制御装置において、
前記経路形状判定部は、連続する2つの前記ブロックの始点及び終点から定まる3点を通る線を示す関数であって、係数が3つ以下の関数から求められた曲率に基づいて、前記経路形状を判定する、ワイヤ放電加工機の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のワイヤ放電加工機の制御装置において、
前記関数は2回微分可能な関数である、ワイヤ放電加工機の制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載のワイヤ放電加工機の制御装置において、
前記経路形状判定部は、連続する2つの前記ブロックのうち一方の前記ブロックの始点と終点とを結ぶ線分の垂直二等分線を示す式の係数と、連続する2つの前記ブロックのうち他方の前記ブロックの始点と終点とを結ぶ線分の垂直二等分線を示す式の係数とに基づいて前記経路形状を判定する、ワイヤ放電加工機の制御装置。
【請求項6】
プログラム経路を規定した加工プログラムにしたがってワイヤ電極を加工対象物に対して相対移動させつつ、前記ワイヤ電極と加工対象物との間に電圧を印加することで、加工対象物を放電加工するワイヤ放電加工機の制御方法であって、
連続する2つのブロックの各々によって規定される経路の長さが前記ワイヤ電極の径以下であるか否かを判定する極小ブロック判定ステップと、
連続する2つの前記ブロックの各々によって規定される前記経路の長さが前記ワイヤ電極の径以下と判定された場合に、連続する2つの前記ブロックの始点及び終点から定まる3点の座標に基づいて、連続する2つの前記ブロックで規定される経路形状が、前記ワイヤ電極の進行方向に向かって右に曲がる右コーナ、又は、前記進行方向に向かって左に曲がる左コーナであるかを判定する経路形状判定ステップと、
前記加工プログラムから、連続する2つの前記ブロックにおけるオフセット方向を取得するオフセット方向取得ステップと、
前記経路形状が左コーナ又は右コーナであると判定された場合に、前記オフセット方向に基づいて、内コーナ又は外コーナであるかを判定する内外コーナ判定ステップと、
前記内外コーナ判定ステップにおける判定結果に基づいて、放電加工を制御する放電加工制御ステップと、
を備える、ワイヤ放電加工機の制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載のワイヤ放電加工機の制御方法において、
前記経路形状判定ステップは、連続する2つの前記ブロックのうち一方の前記ブロックの始点から終点に向かうベクトルと、連続する2つの前記ブロックのうち他方の前記ブロックの始点から終点に向かうベクトルとの外積に基づいて、前記経路形状を判定する、ワイヤ放電加工機の制御方法。
【請求項8】
請求項6に記載のワイヤ放電加工機の制御方法において、
前記経路形状判定ステップは、連続する2つの前記ブロックの始点及び終点から定まる3点を通る線を示す関数であって、係数が3つ以下の関数から求められた曲率に基づいて、前記経路形状を判定する、ワイヤ放電加工機の制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載のワイヤ放電加工機の制御方法において、
前記関数は2回微分可能な関数である、ワイヤ放電加工機の制御方法。
【請求項10】
請求項6に記載のワイヤ放電加工機の制御方法において、
前記経路形状判定ステップは、連続する2つの前記ブロックのうち一方の前記ブロックの始点と終点とを結ぶ線分の垂直二等分線を示す式の係数と、連続する2つの前記ブロックのうち他方の前記ブロックの始点と終点とを結ぶ線分の垂直二等分線を示す式の係数とに基づいて前記経路形状を判定する、ワイヤ放電加工機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ放電加工機の制御装置、及び、ワイヤ放電加工機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2021-041475号公報には、ワイヤ放電加工機が開示されている。当該ワイヤ放電加工機は、加工プログラムにより規定される経路形状に応じて加工条件を変えて加工する。これにより、加工対象物の加工精度を高める。
【発明の概要】
【0003】
極短い経路を規定する複数のブロックを組み合わせることにより、曲線の経路形状を規定することがある。この場合、各ブロックの移動指令からは、加工形状を判定できない。そのため、特開2021-041475号公報に開示されたワイヤ放電加工機では、加工対象物の加工精度が低くなる課題がある。
【0004】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【0005】
本発明の第1態様は、プログラム経路を規定した加工プログラムにしたがってワイヤ電極を加工対象物に対して相対移動させつつ、前記ワイヤ電極と加工対象物との間に電圧を印加することで、加工対象物を放電加工するワイヤ放電加工機の制御装置であって、連続する2つのブロックの各々によって規定される経路の長さが前記ワイヤ電極の径以下であるか否かを判定する極小ブロック判定部と、連続する2つの前記ブロックの各々によって規定される前記経路の長さが前記ワイヤ電極の径以下と判定された場合に、連続する2つの前記ブロックの始点及び終点から定まる3点の座標に基づいて、連続する2つの前記ブロックで規定される経路形状が、前記ワイヤ電極の進行方向に向かって右に曲がる右コーナ、又は、前記進行方向に向かって左に曲がる左コーナであるかを判定する経路形状判定部と、前記加工プログラムから、連続する2つの前記ブロックにおけるオフセット方向を取得するオフセット方向取得部と、前記経路形状が左コーナ又は右コーナであると判定された場合に、前記オフセット方向に基づいて、内コーナ又は外コーナであるかを判定する内外コーナ判定部と、前記内外コーナ判定部における判定結果に基づいて、放電加工を制御する放電加工制御部と、を備える。
【0006】
本発明の第2態様は、プログラム経路を規定した加工プログラムにしたがってワイヤ電極を加工対象物に対して相対移動させつつ、前記ワイヤ電極と加工対象物との間に電圧を印加することで、加工対象物を放電加工するワイヤ放電加工機の制御方法であって、連続する2つのブロックの各々によって規定される経路の長さが前記ワイヤ電極の径以下であるか否かを判定する極小ブロック判定ステップと、連続する2つの前記ブロックの各々によって規定される前記経路の長さが前記ワイヤ電極の径以下と判定された場合に、連続する2つの前記ブロックの始点及び終点から定まる3点の座標に基づいて、連続する2つの前記ブロックで規定される経路形状が、前記ワイヤ電極の進行方向に向かって右に曲がる右コーナ、又は、前記進行方向に向かって左に曲がる左コーナであるかを判定する経路形状判定ステップと、前記加工プログラムから、連続する2つの前記ブロックにおけるオフセット方向を取得するオフセット方向取得ステップと、前記経路形状が左コーナ又は右コーナであると判定された場合に、前記オフセット方向に基づいて、内コーナ又は外コーナであるかを判定する内外コーナ判定ステップと、前記内外コーナ判定ステップにおける判定結果に基づいて、放電加工を制御する放電加工制御ステップと、を備える。
【0007】
本発明により、加工対象物の加工精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、ワイヤ放電加工機を示す模式図である。
図2図2は、円弧補間を示すGコードとオフセット方向を示すGコードとの組み合わせと、内コーナと外コーナとの対応を示す表である。
図3図3は、形状が外コーナである経路の例を示す模式図である。
図4図4は、経路形状の判定方法を説明する図である。
図5図5は、経路形状の判定方法を説明する図である。
図6図6は、経路形状の判定方法を説明する図である。
図7図7は、制御装置において行われる経路形状判定の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔第1実施形態〕
[ワイヤ放電加工機の構成]
図1は、ワイヤ放電加工機10を示す模式図である。ワイヤ放電加工機10は、ワイヤ電極12と加工対象物14との間(以下、極間と記載することがある)に電圧を印加して放電を発生させる。これにより、加工対象物14は放電加工される。ワイヤ放電加工機10は、加工機本体16及び制御装置18を有する。
【0010】
加工機本体16は、加工電源20、X軸モータ22及びY軸モータ24を有する。加工電源20は、極間に電圧を印加する。X軸モータ22及びY軸モータ24は、不図示のワークテーブルを移動させる。ワークテーブルに固定された加工対象物14がワークテーブルとともに移動することにより、加工対象物14に対してワイヤ電極12が相対移動する。
【0011】
制御装置18は、演算部26及び記憶部28を有する。演算部26は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサである。演算部26は、極小ブロック判定部30、経路形状判定部32、オフセット方向取得部34、内外コーナ判定部36及び放電加工制御部38を有する。極小ブロック判定部30、経路形状判定部32、オフセット方向取得部34、内外コーナ判定部36及び放電加工制御部38は、記憶部28に記憶されているプログラムが演算部26によって実行されることによって実現される。極小ブロック判定部30、経路形状判定部32、オフセット方向取得部34、内外コーナ判定部36及び放電加工制御部38の少なくとも一部が、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の集積回路によって実現されてもよい。極小ブロック判定部30、経路形状判定部32、オフセット方向取得部34、内外コーナ判定部36及び放電加工制御部38の少なくとも一部が、ディスクリートデバイスを含む電子回路によって実現されてもよい。
【0012】
記憶部28は、不図示の揮発性メモリ及び不図示の不揮発性メモリにより構成される。揮発性メモリは、例えば、RAM(Random Access Memory)等である。不揮発性メモリは、例えば、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等である。データ等が、例えば、揮発性メモリに記憶される。プログラム、テーブル、マップ等が、例えば、不揮発性メモリに記憶される。記憶部28の少なくとも一部が、上述したプロセッサ、集積回路等に備えられていてもよい。記憶部28の少なくとも一部が、ワイヤ放電加工機10とネットワークによって接続された機器に搭載されていてもよい。
【0013】
[形状がコーナである経路について]
形状がコーナである経路は、通常、円弧補間を示すGコード「G02」又は「G03」を有するブロックにより規定される。Gコード「G02」を有するブロックにより規定される経路形状は右コーナである。Gコード「G03」を有するブロックにより規定される経路形状は左コーナである。右コーナとは、ワイヤ電極12の進行方向に向かって右に曲がる経路形状である。左コーナとは、ワイヤ電極12の進行方向に向かって左に曲がる経路形状である。
【0014】
この場合、円弧補間を示すGコードと、オフセット方向を示すGコードとの組み合わせにより、経路形状が内コーナであるか外コーナであるかを判定できる。図2は、円弧補間を示すGコードとオフセット方向を示すGコードとの組み合わせと、内コーナと外コーナとの対応を示す表である。内コーナとは、加工後の加工対象物14の表面が、加工対象物14の内側に向かって凸となる経路形状である。外コーナとは、加工後の加工対象物14の表面が、加工対象物14の外側に向かって凸となる経路形状である。
【0015】
図2に示すように、左コーナを示すGコード「G03」と左オフセットを示すGコード「G41」との組み合わせにより、経路形状は内コーナであると判定される。図2に示すように、左コーナを示すGコード「G03」と右オフセットを示すGコード「G42」との組み合わせにより、経路形状は外コーナであると判定される。図2に示すように、右コーナを示すGコード「G02」と左オフセットを示すGコード「G41」との組み合わせにより、経路形状は外コーナであると判定される。図2に示すように、右コーナを示すGコード「G02」と右オフセットを示すGコード「G42」との組み合わせにより、経路形状は内コーナであると判定される。
【0016】
放電加工制御部38は、経路形状に応じて加工条件を調整する。放電加工制御部38は、調整後の加工条件に基づいて、加工電源20、X軸モータ22、Y軸モータ24等に指令値を出力する。これにより、加工対象物14の放電加工が制御される。具体的には、放電加工制御部38は、経路形状に応じて、加工速度、印加回数等を制御する。加工速度とは、加工対象物14に対するワイヤ電極12の相対移動速度である。印加回数とは、単位時間に極間に電圧を印加する回数である。
【0017】
例えば、経路形状が内コーナである場合には、経路形状が直線である場合に比べて、放電加工制御部38は、加工速度を遅くする。また、経路形状が内コーナである場合には、放電加工制御部38は、経路形状の曲率が大きいほど加工速度を遅くする。経路形状が内コーナである場合には、経路形状が直線である場合に比べて、放電加工制御部38は印加回数を多くする。また、経路形状が内コーナである場合には、放電加工制御部38は、経路形状の曲率が大きいほど印加回数を多くする。
【0018】
例えば、経路形状が外コーナである場合には、経路形状が直線である場合に比べて、放電加工制御部38は、加工速度を速くする。また、経路形状が外コーナである場合には、放電加工制御部38は、経路形状の曲率が小さいほど加工速度を速くする。経路形状が外コーナである場合には、経路形状が直線である場合に比べて、放電加工制御部38は印加回数を少なくする。また、経路形状が外コーナである場合には、放電加工制御部38は、経路形状の曲率が小さいほど印加回数を少なくする。
【0019】
図3は、形状が外コーナである経路の例を示す模式図である。図3に示す経路は、直線補間を示すGコード「G01」を有する複数のブロックにより規定される。各ブロックにより規定される経路の長さは、ワイヤ電極12の径以下である。以下、規定される経路の長さが、ワイヤ電極12の径以下であるブロックを、極小ブロックと記載することがある。また、図3に示す経路を規定する各ブロックには、右オフセットを示すGコード「G42」が設定される。
【0020】
図3に示す経路形状は外コーナである。しかし、各ブロックのGコードは直線補間を示す「G01」であるため、放電加工制御部38は、経路形状を直線であると判定する。放電加工制御部38は、経路形状が直線である場合の加工条件に調整して、放電加工を行う。そのため、加工後の加工対象物14の加工表面の精度が悪化するおそれがある。
【0021】
右コーナの円弧補間を示すGコード「G02」を有する複数の極小ブロックから、図3と同等の経路形状を規定することもできる。各ブロックには、右オフセットを示すGコード「G42」が設定される。
【0022】
図3に示す経路形状は外コーナである。しかし、各ブロックのGコードは右コーナの円弧補間を示す「G02」であり、右オフセットを示す「G42」が設定されているため、放電加工制御部38は、経路形状を内コーナであると判定する。放電加工制御部38は、経路形状が内コーナである場合の加工条件に調整して、放電加工を行う。そのため、加工後の加工対象物14の加工表面の精度が悪化するおそれがある。
【0023】
左コーナの円弧補間を示すGコード「G03」を有する複数の極小ブロックから、図3と同等の経路形状を規定することもできる。各ブロックには、右オフセットを示すGコード「G42」が設定される。
【0024】
図3に示す経路形状は外コーナである。各ブロックのGコードは左コーナの円弧補間を示す「G03」であり、右オフセットを示す「G42」が設定されているため、放電加工制御部38は、経路形状が外コーナであると判定する。放電加工制御部38は、経路形状が外コーナである場合の加工条件に調整して、放電加工を行う。しかし、各ブロックのGコードからは、図3に示す外コーナの経路形状の曲率を求めることができない。そのため、加工後の加工対象物14の加工表面の精度が悪化するおそれがある。
【0025】
そこで、本実施形態の経路形状判定部32は、連続する2つのブロックの始点及び終点から定まる3点の座標に基づいて、経路形状を判定する。具体的には、経路形状判定部32は、次に説明する方法により、経路形状を判定する。
【0026】
[判定方法(1)]
図4は、経路形状の判定方法を説明する図である。判定方法(1)では、経路形状判定部32は、連続する第1ブロック及び第2ブロックのうち、第1ブロックの始点から終点に向かうベクトルと、第2ブロックの始点から終点に向かうベクトルとの外積に基づいて、経路形状を判定する。
【0027】
第1ブロックの始点をP0、第1ブロックの終点をP1、始点P0から終点P1に向かうベクトルをaとする。始点P0の座標を(x0、y0)、終点P1の座標を(x1、y1)とする。第1ブロックの次のブロックである第2ブロックの始点は、第1ブロックの終点P1と一致する。第2ブロックの終点をP2、始点P1から終点P2に向かうベクトルをbとする。終点P2の座標を(x2、y2)とする。ベクトルaとベクトルbとの外積a×bは、以下の式で求められる。
【0028】
【数1】
【0029】
ベクトルaとベクトルbとの外積の値が0である場合には、経路形状判定部32は、第1ブロックと第2ブロックとにより規定される経路形状は直線であると判定する。ベクトルaとベクトルbとの外積の値が正である場合には、経路形状判定部32は、第1ブロックと第2ブロックとにより規定される経路形状は左コーナであると判定する。ベクトルaとベクトルbとの外積の値が負である場合には、経路形状判定部32は、第1ブロックと第2ブロックとにより規定される経路形状は右コーナであると判定する。また、経路形状判定部32は、ベクトルaとベクトルbとの外積の絶対値が大きいほど、曲率は大きいと判定する。
【0030】
[判定方法(2)]
図5は、経路形状の判定方法を説明する図である。判定方法(2)では、経路形状判定部32は、連続する第1ブロック及び第2ブロックの始点及び終点を通る線の曲率に基づいて、経路形状を判定する。
【0031】
第1ブロックの始点をP0、第1ブロックの終点をP1とする。始点P0の座標を(x0、y0)、終点P1の座標を(x1、y1)とする。第1ブロックの次のブロックである第2ブロックの始点は、第1ブロックの終点P1と一致する。第2ブロックの終点をP2とする。終点P2の座標を(x2、y2)とする。
【0032】
経路形状判定部32は、第1ブロック及び第2ブロックの始点及び終点を通る線を示す関数f(x)を設定する。関数f(x)は、二回微分可能な関数である。すなわち、関数f(x)は、二次以上の関数、又は、三角関数である。また、関数f(x)の係数の個数は、3つ以下である。第1ブロック及び第2ブロックの始点及び終点を通る線の曲率κは、以下の式で求められる。
【0033】
【数2】
【0034】
曲率κの値が0である場合には、経路形状判定部32は、第1ブロックと第2ブロックとにより規定される経路形状は直線であると判定する。曲率κの値が正である場合には、経路形状判定部32は、第1ブロックと第2ブロックとにより規定される経路形状は左コーナであると判定する。曲率κの値が負である場合には、経路形状判定部32は、第1ブロックと第2ブロックとにより規定される経路形状は右コーナであると判定する。
【0035】
[判定方法(3)]
図6は、経路形状の判定方法を説明する図である。判定方法(3)では、経路形状判定部32は、連続する第1ブロック及び第2ブロックのうち、第1ブロックの始点と終点とを結ぶ線分の垂直二等分線と、第2ブロックの始点と終点とを結ぶ線分の垂直二等分線に基づいて経路形状を判定する。
【0036】
第1ブロックの始点をP0、第1ブロックの終点をP1とする。始点P0の座標を(x0、y0)、終点P1の座標を(x1、y1)とする。第1ブロックの次のブロックである第2ブロックの始点は、第1ブロックの終点P1と一致する。第2ブロックの終点をP2とする。終点P2の座標を(x2、y2)とする。
【0037】
経路形状判定部32は、第1ブロックの始点P0と終点P1とを結ぶ線分の垂直二等分線L1を求める。経路形状判定部32は、第2ブロックの始点P1と終点P2とを結ぶ線分の垂直二等分線L2を求める。垂直二等分線L1、及び、垂直二等分線L2のそれぞれは、以下の式によって表すことができる。
【0038】
【数3】
【0039】
【数4】
【0040】
垂直二等分線L1の係数a1及び係数b1と、垂直二等分線L2の係数a2及び係数b2を用いて、判定値Jを求める。判定値Jは、以下の式で求められる。
【0041】
【数5】
【0042】
判定値Jが0である場合には、経路形状判定部32は、第1ブロックと第2ブロックとにより規定される経路形状は直線であると判定する。判定値Jが正である場合には、経路形状判定部32は、第1ブロックと第2ブロックとにより規定される経路形状は左コーナであると判定する。判定値Jが負である場合には、経路形状判定部32は、第1ブロックと第2ブロックとにより規定される経路形状は右コーナであると判定する。
【0043】
第1ブロックと第2ブロックとにより規定される経路形状が左コーナ又は右コーナである場合、以下の式で曲率κが求められる。
【0044】
【数6】
【0045】
上記式において、xc及びycは、垂直二等分線L1と垂直二等分線L2との交点Oにおける座標である。
【0046】
[経路形状判定]
図7は、制御装置18において行われる経路形状判定の処理の流れを示すフローチャートである。経路形状判定の処理は、ワイヤ放電加工機10が放電加工中に、所定の周期で繰り返し実行される。以下において、第1ブロックとは、加工プログラムのブロックのうち、次に処理を行うブロックを示す。第2ブロックとは、第1ブロックの次に処理を行うブロックを示す。
【0047】
ステップS1において、極小ブロック判定部30は、第1ブロックの経路の長さがワイヤ電極12の径以下であるか否かを判定する。第1ブロックの経路の長さがワイヤ電極12の径以下である場合は、ステップS2へ移行する。第1ブロックの経路の長さがワイヤ電極12の径よりも長い場合は、経路形状判定を終了する。
【0048】
ステップS2において、極小ブロック判定部30は、第2ブロックの経路の長さがワイヤ電極12の径以下であるか否かを判定する。第2ブロックの経路の長さがワイヤ電極12の径以下である場合は、ステップS3へ移行する。第2ブロックの経路の長さがワイヤ電極12の径よりも長い場合は、経路形状判定を終了する。
【0049】
ステップS3において、経路形状判定部32は、第1ブロック及び第2ブロックにより規定される経路形状を判定する。経路形状判定部32は、経路形状が、直線、左コーナ及び右コーナのいずれであるかを判定する。その後、ステップS4へ移行する。
【0050】
ステップS4において、経路形状判定部32は、第1ブロック及び第2ブロックにより規定される経路形状が直線であるか否かを判定する。経路形状が直線である場合には、経路形状判定を終了する。経路形状が直線でない場合には、ステップS5へ移行する。
【0051】
ステップS5において、オフセット方向取得部34は、第1ブロック及び第2ブロックにおけるオフセット方向を取得する。その後、ステップS6へ移行する。
【0052】
ステップS6において、内外コーナ判定部36は、第1ブロック及び第2ブロックにより規定される経路形状が内コーナ及び外コーナのいずれであるかを判定する。その後、経路形状判定を終了する。
【0053】
放電加工制御部38は、経路形状判定の結果に応じて加工条件を調整する。また、経路形状判定の結果が内コーナ及び外コーナのいずれかである場合、放電加工制御部38は、経路形状の曲率に応じて加工条件を調整する。放電加工制御部38は、調整後の加工条件に基づいて、加工電源20、X軸モータ22、Y軸モータ24等に指令値を出力する。これにより、加工対象物14の放電加工が制御される。なお、放電加工制御部38は、経路形状判定の結果に応じて、加工条件以外の項目を調整してもよい。
【0054】
[作用効果]
複数の極小ブロックにより経路形状が規定される場合、制御装置18は、複数の極小ブロックにより規定される経路形状を誤って判定するおそれがある。経路形状を誤って判定した場合、放電加工制御部38は、加工条件を適正に調整できず、加工対象物14の加工表面の精度が悪化するおそれがある。
【0055】
そこで、本実施形態の制御装置18では、極小ブロック判定部30が、連続する2つのブロックの各々によって規定される経路の長さがワイヤ電極12の径以下であるか否かを判定する。連続する2つのブロックの各々によって規定される経路の長さがワイヤ電極12の径以下と判定された場合に、経路形状判定部32は、経路形状が右コーナ又は左コーナであるかを判定する。経路形状判定部32は、連続する2つのブロックの始点及び終点から定まる3点の座標に基づいて、上記の判定を行う。オフセット方向取得部34は、加工プログラムから、連続する2つのブロックにおけるオフセット方向を取得する。その後、内外コーナ判定部36は、経路形状が左コーナ又は右コーナであると判定された場合に、オフセット方向に基づいて、内コーナ又は外コーナであるかを判定する。放電加工制御部38は、内外コーナ判定部36における判定結果に基づいて、放電加工を制御する。これにより、複数の極小ブロックにより規定された内コーナ又は外コーナの経路において、加工後の加工対象物14の加工表面の精度を向上できる。
【0056】
また、本実施形態の制御装置18では、経路形状判定部32は、連続する2つのブロックから求めた2つのベクトルの外積に基づいて、経路形状を判定する。当該2つのベクトルとは、連続する2つのブロックのうち一方のブロックの始点から終点に向かうベクトル、及び、連続する2つのブロックのうち他方のブロックの始点から終点に向かうベクトルである。これにより、複数の極小ブロックにより規定された経路形状を判定できる。
【0057】
また、本実施形態の制御装置18では、経路形状判定部32は、連続する2つのブロックの始点及び終点から定まる3点を通る線を示す関数に基づいて経路形状を判定する。当該関数は、係数が3つ以下の関数である。また、当該関数は、2回微分可能な関数である。これにより、複数の極小ブロックにより規定された経路形状を判定できる。
【0058】
また、本実施形態の制御装置18では、連続する2つのブロックのそれぞれの始点と終点とを結ぶ線分の垂直二等分線に基づいて、経路形状判定部32は経路形状を判定する。具体的には、連続する2つのブロックのうち一方のブロックの始点と終点とを結ぶ線分の垂直二等分線を示す式の係数と、連続する2つの前記ブロックのうち他方のブロックの始点と終点とを結ぶ線分の垂直二等分線を示す式の係数とに基づいて、経路形状判定部32は経路形状を判定する。これにより、複数の極小ブロックにより規定された経路形状を判定できる。
【0059】
なお、本発明は、上述した実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を取り得る。
【0060】
〔実施形態から得られる発明〕
上記実施形態から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0061】
プログラム経路を規定した加工プログラムにしたがってワイヤ電極(12)を加工対象物(14)に対して相対移動させつつ、前記ワイヤ電極と加工対象物との間に電圧を印加することで、加工対象物を放電加工するワイヤ放電加工機(10)の制御装置(18)は、連続する2つのブロックの各々によって規定される経路の長さが前記ワイヤ電極の径以下であるか否かを判定する極小ブロック判定部(30)と、連続する2つの前記ブロックの各々によって規定される前記経路の長さが前記ワイヤ電極の径以下と判定された場合に、連続する2つの前記ブロックの始点及び終点から定まる3点の座標に基づいて、連続する2つの前記ブロックで規定される経路形状が、前記ワイヤ電極の進行方向に向かって右に曲がる右コーナ、又は、前記進行方向に向かって左に曲がる左コーナであるかを判定する経路形状判定部(32)と、前記加工プログラムから、連続する2つの前記ブロックにおけるオフセット方向を取得するオフセット方向取得部(34)と、前記経路形状が左コーナ又は右コーナであると判定された場合に、前記オフセット方向に基づいて、内コーナ又は外コーナであるかを判定する内外コーナ判定部(36)と、前記内外コーナ判定部における判定結果に基づいて、放電加工を制御する放電加工制御部(38)と、を備える。これにより、複数の極小ブロックにより規定された内コーナ又は外コーナの経路において、加工後の加工対象物の加工表面の精度を向上できる。
【0062】
上記のワイヤ放電加工機の制御装置において、前記経路形状判定部は、連続する2つの前記ブロックのうち一方の前記ブロックの始点から終点に向かうベクトルと、連続する2つの前記ブロックのうち他方の前記ブロックの始点から終点に向かうベクトルとの外積に基づいて、前記経路形状を判定してもよい。これにより、複数の極小ブロックにより規定される経路形状を判定できる。
【0063】
上記のワイヤ放電加工機の制御装置において、前記経路形状判定部は、連続する2つの前記ブロックの始点及び終点から定まる3点を通る線を示す関数であって、係数が3つ以下の関数から求められた曲率に基づいて、前記経路形状を判定してもよい。これにより、複数の極小ブロックにより規定される経路形状を判定できる。
【0064】
上記のワイヤ放電加工機の制御装置において、前記関数は2回微分可能な関数であってもよい。これにより、複数の極小ブロックにより規定される経路形状を判定できる。
【0065】
上記のワイヤ放電加工機の制御装置において、前記経路形状判定部は、連続する2つの前記ブロックのうち一方の前記ブロックの始点と終点とを結ぶ線分の垂直二等分線を示す式の係数と、連続する2つの前記ブロックのうち他方の前記ブロックの始点と終点とを結ぶ線分の垂直二等分線を示す式の係数とに基づいて前記経路形状を判定してもよい。これにより、複数の極小ブロックにより規定される経路形状を判定できる。
【0066】
プログラム経路を規定した加工プログラムにしたがってワイヤ電極を加工対象物に対して相対移動させつつ、前記ワイヤ電極と加工対象物との間に電圧を印加することで、加工対象物を放電加工するワイヤ放電加工機の制御方法は、連続する2つの前記ブロックの各々によって規定される経路の長さが前記ワイヤ電極の径以下であるか否かを判定する極小ブロック判定ステップと、連続する2つの前記ブロックの各々によって規定される前記経路の長さが前記ワイヤ電極の径以下と判定された場合に、連続する2つの前記ブロックの始点及び終点から定まる3点の座標に基づいて、連続する2つの前記ブロックで規定される経路形状が、前記ワイヤ電極の進行方向に向かって右に曲がる右コーナ、又は、前記進行方向に向かって左に曲がる左コーナであるかを判定する経路形状判定ステップと、前記加工プログラムから、連続する2つの前記ブロックにおけるオフセット方向を取得するオフセット方向取得ステップと、前記経路形状が左コーナ又は右コーナであると判定された場合に、前記オフセット方向に基づいて、内コーナ又は外コーナであるかを判定する内外コーナ判定ステップと、前記内外コーナ判定ステップにおける判定結果に基づいて、放電加工を制御する放電加工制御ステップと、を備える。これにより、複数の極小ブロックにより規定された内コーナ又は外コーナの経路において、加工後の加工対象物の加工表面の精度を向上できる。
【0067】
上記のワイヤ放電加工機の制御方法において、前記経路形状判定ステップは、連続する2つの前記ブロックのうち一方の前記ブロックの始点から終点に向かうベクトルと、連続する2つの前記ブロックのうち他方の前記ブロックの始点から終点に向かうベクトルとの外積に基づいて、前記経路形状を判定してもよい。これにより、複数の極小ブロックにより規定される経路形状を判定できる。
【0068】
上記のワイヤ放電加工機の制御方法において、前記経路形状判定ステップは、連続する2つの前記ブロックの始点及び終点から定まる3点を通る線を示す関数であって、係数が3つ以下の関数から求められた曲率に基づいて、前記経路形状を判定してもよい。これにより、複数の極小ブロックにより規定される経路形状を判定できる。
【0069】
上記のワイヤ放電加工機の制御方法において、前記関数は2回微分可能な関数であってもよい。これにより、複数の極小ブロックにより規定される経路形状を判定できる。
【0070】
上記のワイヤ放電加工機の制御方法において、前記経路形状判定ステップは、連続する2つの前記ブロックのうち一方の前記ブロックの始点と終点とを結ぶ線分の垂直二等分線を示す式の係数と、連続する2つの前記ブロックのうち他方の前記ブロックの始点と終点とを結ぶ線分の垂直二等分線を示す式の係数とに基づいて前記経路形状を判定してもよい。これにより、複数の極小ブロックにより規定される経路形状を判定できる。
【符号の説明】
【0071】
10…ワイヤ放電加工機 12…ワイヤ電極
14…加工対象物 18…制御装置
30…極小ブロック判定部 32…経路形状判定部
34…オフセット方向取得部 36…内外コーナ判定部
38…放電加工制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7