(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】金属多孔体
(51)【国際特許分類】
C22C 1/08 20060101AFI20241203BHJP
【FI】
C22C1/08 Z
(21)【出願番号】P 2024527205
(86)(22)【出願日】2024-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2024000813
【審査請求日】2024-06-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591174368
【氏名又は名称】富山住友電工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東野 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】奥野 一樹
(72)【発明者】
【氏名】真嶋 正利
(72)【発明者】
【氏名】塚本 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 惇志
(72)【発明者】
【氏名】土田 斉
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2024-002592(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167433(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/145375(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/181613(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109280811(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/11
C22C 1/08,1/10
C25B 1/04,11/00-11/097
H01M 4/66,8/0232
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体であって、
前記骨格の組成は、ニッケル、ニッケル-クロム、ニッケル-コバルト、ニッケル-スズ、銅、または、アルミニウムであり、
前記金属多孔体は、第一主面と、前記第一主面と反対側の第二主面と、を含むシート状であり、
前記金属多孔体は、前記第一主面を含む
一層からなる第一金属多孔体層を備え、
前記第一金属多孔体層は、前記第一主面から前記第一金属多孔体層側の距離が0.01mmである仮想面S11と、前記第一主面から前記第一金属多孔体層側への距離が0.10mmである仮想面S12とに挟まれる第一領域を含み、
前記第一領域の開口率A1は40%以下であり、
前記開口率は、前記金属多孔体の前記第一主面の法線に沿う断面を、走査型電子顕微鏡で観察することにより測定され、
前記第一主面の透過光面積率は、2%以下であり、
前記透過光面積率は、前記第二主面側から前記金属多孔体に光を照射した状態で、前記第一主面をマイクロスコープで観察することにより測定される、金属多孔体。
【請求項2】
前記金属多孔体は、前記第一金属多孔体層の前記第一主面と反対側の主面に接して設けられる第二金属多孔体層を含み、
前記第二金属多孔体層は、前記第一金属多孔体層と前記第二金属多孔体層との第一界面と、前記第一界面から前記第二金属多孔体層側への距離が0.01mmである仮想面S13とに挟まれる第二領域を含み、
前記第二領域の開口率A2は、前記開口率A1と同一、または、前記開口率A1よりも大きい、請求項1に記載の金属多孔体。
【請求項3】
前記開口率A1に対する、前記開口率A2の比A2/A1は、1.0以上4.0以下である、請求項2に記載の金属多孔体。
【請求項4】
前記金属多孔体は、前記第二金属多孔体層の前記第一金属多孔体層と接する第三主面と反対側の第四主面に接して設けられる第三金属多孔体層を含み、
前記第三金属多孔体層は、前記第二金属多孔体層と前記第三金属多孔体層との第二界面と、前記第二界面から前記第三金属多孔体層側への距離が0.01mmである仮想面S14とに挟まれる第三領域を含み、
前記第三領域の開口率A3は、前記開口率A1と同一、または、前記開口率A1よりも大きい、請求項2または請求項3に記載の金属多孔体。
【請求項5】
前記開口率A1に対する、前記開口率A3の比A3/A1は、1.0以上4.0以下である、請求項4に記載の金属多孔体。
【請求項6】
前記第一主面は、前記骨格により規定される第一開口を含み、
前記第一開口は、前記第二主面側から前記金属多孔体に光を照射した状態で、前記光が通過する開口であり、
前記第一開口は、第二開口を含み、
前記第二開口の円相当径は、35μm以下であり、
前記第一開口の数N1に対する、前記第二開口の数N2の百分率(N2/N1)×100は、50%以上である、請求項1または請求項2に記載の金属多孔体。
【請求項7】
前記第一主面は、前記骨格により規定される第一開口を含み、
前記第一開口は、前記第二主面側から前記金属多孔体に光を照射した状態で、前記光が通過する開口であり、
前記第一開口の円相当径の上限は、60μm以下である、請求項1または請求項2に記載の金属多孔体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属多孔体に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、貯蔵、輸送に適し、環境負荷も小さいため、高効率なクリーンエネルギーとして関心を集めている。水素の大半は、化石燃料の水蒸気改質により製造されているが、環境への負荷を低減する観点から、水電解による水素製造の重要性が高まってきている。水電解には電力の消費を伴うため、高効率な水素製造システムを実現するために、水電解方式も様々な改良が試みられている。
【0003】
近年、アニオン交換膜を用いたAEM(Anion Exchange Membrane)型水電解が注目されている(たとえば、特許文献1)。現在主流となっているアルカリ水電解やPEM(Polymer Electrolyte Membrane)型水電解と比較すると、AEM型水電解のメリットは、アルカリ水電解に比べ電流密度を増加でき、装置をコンパクト化できること、および、PEM型水電解で必須とされている貴金属触媒が不要になることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本開示の金属多孔体は、
三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体であって、
前記金属多孔体は、第一主面と、前記第一主面と反対側の第二主面と、を含むシート状であり、
前記金属多孔体は、前記第一主面を含む第一金属多孔体層を備え、
前記第一金属多孔体層は、前記第一主面から前記第一金属多孔体層側の距離が0.01mmである仮想面S11と、前記第一主面から前記第一金属多孔体層側への距離が0.10mmである仮想面S12とに挟まれる第一領域を含み、
前記第一領域の開口率A1は40%以下であり、
前記開口率は、前記金属多孔体の前記第一主面の法線に沿う断面を、走査型電子顕微鏡で観察することにより測定され、
前記第一主面の透過光面積率は、2%以下であり、
前記透過光面積率は、前記第二主面側から前記金属多孔体に光を照射した状態で、前記第一主面をマイクロスコープで観察することにより測定される、金属多孔体である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る金属多孔体の代表的な構成例を説明する図である。
【
図2】
図2は、
図1に示される金属多孔体10の骨格11の断面を拡大視した拡大模式図である。
【
図3】
図3は、
図2に示される骨格11のIII-III線断面の概略図である。
【
図4】
図4は、実施形態1に係る金属多孔体の一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
AEM型水電解では、電解質膜の損傷を抑えるため、電解質膜に接する電極には平滑性が求められる。また、触媒をAEM膜に塗布するCCM方式と、触媒を金属多孔体などの導電性の多孔体からなる電極に塗布するCCS方式がある。CCS方式では、触媒と、電解反応に寄与する電解質膜との接触面積を増加させることが、電界性能の向上に寄与する。このため、表面により多くの触媒を塗布することのできる金属多孔体が求められている。
【0008】
そこで、本開示は、表面の平滑性を高めて電解質膜の損傷を抑え、なおかつ表面により多くの触媒を塗布することのできる金属多孔体を提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示によれば、表面の平滑性を高めて電解質膜の損傷を抑え、なおかつ表面により多くの触媒を塗布することのできる金属多孔体を提供することが可能となる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の金属多孔体は、
三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体であって、
前記金属多孔体は、第一主面と、前記第一主面と反対側の第二主面と、を含むシート状であり、
前記金属多孔体は、前記第一主面を含む第一金属多孔体層を備え、
前記第一金属多孔体層は、前記第一主面から前記第一金属多孔体層側の距離が0.01mmである仮想面S11と、前記第一主面から前記第一金属多孔体層側への距離が0.10mmである仮想面S12とに挟まれる第一領域を含み、
前記第一領域の開口率A1は40%以下であり、
前記開口率は、前記金属多孔体の前記第一主面の法線に沿う断面を、走査型電子顕微鏡で観察することにより測定され、
前記第一主面の透過光面積率は、2%以下であり、
前記透過光面積率は、前記第二主面側から前記金属多孔体に光を照射した状態で、前記第一主面をマイクロスコープで観察することにより測定される、金属多孔体である。
【0011】
本開示によれば、表面の平滑性を高めて電解質膜の損傷を抑え、なおかつ表面により多くの触媒を塗布することのできる金属多孔体を提供することが可能となる。
【0012】
(2)上記(1)において、前記金属多孔体は、前記第一金属多孔体層の前記第一主面と反対側の主面に接して設けられる第二金属多孔体層を含み、
前記第二金属多孔体層は、前記第一金属多孔体層と前記第二金属多孔体層との第一界面と、前記第一界面から前記第二金属多孔体層側への距離が0.01mmである仮想面S13とに挟まれる第二領域を含み、
前記第二領域の開口率A2は、前記開口率A1と同一、または、前記開口率A1よりも大きくてもよい。
【0013】
これによると、金属多孔体の圧損を低減することができる。該金属多孔体をAEM型水電解装置に用いた場合に、生成したガスを液流により容易に離脱させることができる。
【0014】
(3)上記(2)において、前記開口率A1に対する、前記開口率A2の比A2/A1は、1.0以上4.0以下であってもよい。これによると、金属多孔体の圧損を低減することができる。
【0015】
(4)上記(2)または(3)において、前記金属多孔体は、前記第二金属多孔体層の前記第一金属多孔体層と接する第三主面と反対側の第四主面に接して設けられる第三金属多孔体層を含み、
前記第三金属多孔体層は、前記第二金属多孔体層と前記第三金属多孔体層との第二界面と、前記第二界面から前記第三金属多孔体層側への距離が0.01mmである仮想面S14とに挟まれる第三領域を含み、
前記第三領域の開口率A3は、前記開口率A1と同一、または、前記開口率A1よりも大きくてもよい。
【0016】
これによると、金属多孔体の圧損を低減することができる。該金属多孔体をAEM型水電解装置に用いた場合に、生成したガスを液流により容易に離脱させることができる。
【0017】
(5)上記(4)において、前記開口率A1に対する、前記開口率A3の比A3/A1は、1.0以上4.0以下であってもよい。これによると、金属多孔体の圧損を低減することができる。
【0018】
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、
前記第一主面は、前記骨格により規定される第一開口を含み、
前記第一開口は、前記第二主面側から前記金属多孔体に光を照射した状態で、前記光が通過する開口であり、
前記第一開口は、第二開口を含み、
前記第二開口の円相当径は、35μm以下であり、
前記第一開口の数N1に対する、前記第二開口の数N2の百分率(N2/N1)×100は、50%以上であってもよい。
【0019】
これによると、金属多孔体の表面に塗布することのできる触媒量がさらに増加する。
【0020】
(7)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、
前記第一主面は、前記骨格により規定される第一開口を含み、
前記第一開口は、前記第二主面側から前記金属多孔体に光を照射した状態で、前記光が通過する開口であり、
前記第一開口の円相当径の上限は、60μm以下であってもよい。
【0021】
これによると、金属多孔体の表面に塗布することのできる触媒量がさらに増加する。
【0022】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の金属多孔体の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0023】
本開示において「A~B」という形式の表記は、A以上B以下を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0024】
本開示において、数値範囲下限及び上限として、それぞれ1つ以上の数値が記載されている場合は、下限に記載されている任意の1つの数値と、上限に記載されている任意の1つの数値との組み合わせも開示されているものとする。
【0025】
[実施形態1:金属多孔体]
本開示の一実施形態に係る金属多孔体は、
三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体であって、
該金属多孔体は、第一主面と、該第一主面と反対側の第二主面と、を含むシート状であり、
該金属多孔体は、該第一主面を含む第一金属多孔体層を備え、
該第一金属多孔体層は、該第一主面から該第一金属多孔体層側の距離が0.01mmである仮想面S11と、該第一主面から該第一金属多孔体層側への距離が0.10mmである仮想面S12とに挟まれる第一領域を含み、
該第一領域の開口率A1は40%以下であり、
該開口率は、該金属多孔体の該第一主面の法線に沿う断面を、走査型電子顕微鏡で観察することにより測定され、
該第一主面の透過光面積率は、2%以下であり、
該透過光面積率は、該第二主面側から該金属多孔体に光を照射した状態で、該第一主面をマイクロスコープで観察することにより測定される、金属多孔体である。
【0026】
<金属多孔体の構造>
図1は、実施形態1に係る金属多孔体の代表的な構成例を説明する図である。
図2は、
図1に示される金属多孔体10の骨格11の断面を拡大視した拡大模式図である。
図3は、
図2に示される骨格11のIII-III線断面の概略図である。
図4は、実施形態1に係る金属多孔体の一例の断面図である。
【0027】
金属多孔体10は、三次元網目状構造の骨格11を有している。金属多孔体10は、全体として、第一主面1と、第一主面1と反対側の第二主面2と、を含むシート状の外観を有している。三次元網目状構造の骨格11によって、金属多孔体10の内部に気孔部14が形成されている。
【0028】
金属多孔体10の骨格11は、金属から構成される骨格本体部12によって構成されており、骨格の内部13は中空になっている。また、骨格11によって形成されている気孔部14の少なくとも一部は、隣接する気孔部14と連通する連通気孔となっている。
【0029】
図3に示されるように、骨格11の断面の形状は、中央部(骨格の内部13)が中空の三角形にモデル化することができる。
【0030】
金属多孔体の第一主面は、三次元網目状構造の骨格11のみからなる、または、三次元網目状構造の骨格11と気孔部14とからなることができる。金属多孔体の第一主面には、気孔部14に充填される充填材や、骨格11および気孔部14を覆う被覆材は存在しない。
【0031】
実施形態1の金属多孔体10において、骨格の組成は特に制限されず、用途によって適宜選択される。骨格の組成としては、例えば、ニッケル、ニッケル-クロム、ニッケル-コバルト、ニッケル-スズ、銅、アルミニウムが挙げられる。
【0032】
実施形態1の金属多孔体10の厚みは、特に制限されず、用途によって適宜選択される。金属多孔体10の厚みは、例えば、0.1mm以上10mm以下でもよく、0.1mm以上5mm以下でもよい。金属多孔体10の厚みは、例えば、デジタルシックネスゲージによって測定することが可能である。
【0033】
<第一金属多孔体層>
図4に示されるように、実施形態1の金属多孔体10は、第一主面1を含む第一金属多孔体層5を備える。第一金属多孔体層5は、第一主面1から第一金属多孔体層5側の距離が0.01mmである仮想面S11と、第一主面1から第一金属多孔体層5側への距離が0.10mmである仮想面S12とに挟まれる第一領域15を含む。第一領域15は、仮想面S11および仮想面S12を含む。
【0034】
≪第一領域の開口率A1≫
実施形態1の金属多孔体10の第一領域の開口率A1は40%以下である。これによると、金属多孔体の第一主面の平滑性が高まり、AEM型水電解装置において、該金属多孔体を電極として、電解質膜に第一主面が接するように配置した場合、電解質膜の損傷を抑制することができる。また、第一主面に向けて触媒をスプレーで塗布した場合に、触媒が第一主面に保持されやすく、第一主面により多くの触媒を塗布することができる。第一領域の開口率A1の上限は、第一主面への触媒塗布量を増加させる観点から、38%以下でもよく、36%以下でもよく、または、30%以下でもよい。第一領域の開口率A1の下限は、特に制限されないが、例えば、20%以上でもよく、25%以上でもよく、または、27%以上でもよい。第一領域の開口率A1は、20%以上40%以下でもよく、20%以上38%以下でもよく、25%以上36%以下でもよく、または、27%以上30%以下でもよい。
【0035】
本開示において、第一領域の開口率A1は、金属多孔体の第一主面の法線に沿う断面を、走査型電子顕微鏡で観察することにより測定される。具体的には以下の手順で測定される。
【0036】
手順A1:金属多孔体を第一主面の法線と平行な仮想平面に沿って切断し、第一主面の法線に沿う断面を露出させる。
【0037】
手順A2:金属多孔体の断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察して、観察像を得る。観察倍率は、走査型電子顕微鏡の測定視野の大きさや、気孔部14の大きさにより、適宜設定される。例えば、観察倍率は100倍とすることができる。
【0038】
手順A3:観察像中の金属多孔体の断面に、第一主面からの距離が0.01mmである仮想直線L0、第一主面からの距離が0.05mmである仮想直線L1、第一主面からの距離が0.10mmである仮想直線L2を引く。仮想直線L0、仮想直線L1および仮想直線L2のそれぞれの長さは、気孔部14を少なくとも10個横切る長さとする。例えば、観察倍率が100倍の時、仮想直線L0、仮想直線L1および仮想直線L2のそれぞれの長さは、1mm以上とすることができる。
【0039】
手順A4:仮想直線L0、仮想直線L1および仮想直線L2のそれぞれにおいて、仮想直線の長さLTに対する仮想直線が横切る気孔部14の長さの合計LPの百分率P1(P1=(LP/LT)×100)を算出する。仮想直線L0、仮想直線L1および仮想直線L2のそれぞれにおいて、百分率P1を算出する。算出された3つの百分率P1の平均P11を算出する。本開示において、平均P11が第一領域の開口率A1に該当する。
【0040】
<第一主面の透過光面積率>
実施形態1の金属多孔体10の第一主面の透過光面積率は、2%以下である。これによると、第一主面に向けて触媒をスプレーで塗布した場合に、触媒が第一主面に保持されやすく、第一主面により多くの触媒を塗布することができる。第一主面の透過光面積率の上限は、第一主面への触媒塗布量を増加させる観点から、1.9%以下でもよく、1.8%以下でもよく、1.7%以下でもよく、1.5%以下でもよく、1.0%以下でもよく、または、0.8%以下でもよい。第一主面の透過光面積率の下限は、0%以上でもよい。第一主面の透過光面積率は、0%以上2%以下でもよく、0%以上1.9%以下でもよく、0%以上1.8%以下でもよく、0%以上1.7%以下でもよく、0%以上1.5%以下でもよく、0%以上1.0%以下でもよく、または、0%以上0.8%以下でもよい。
【0041】
本開示において、第一主面の透過光面積率は、第二主面側から金属多孔体に光を照射した状態で、第一主面をマイクロスコープで観察することにより測定される。具体的には以下の手順で測定される。
【0042】
手順B1:金属多孔体の第二主面側から金属多孔体に光を照射した状態で、第一主面をマイクロスコープで観察して観察像を得る。観察倍率は、マイクロスコープの測定視野の大きさにより、適宜設定される。例えば、観察倍率は10~1000倍とすることができる。観察像の大きさは、例えば、矩形であり、その縦横のそれぞれの長さは、第一主面に気孔部が存在する場合、気孔部の最大開口径よりも10倍以上長いものでもよい。マイクロスコープは、KEYENCE社製の「VHX-7000」(商標)を用いる。
【0043】
手順B2:観察像に対して、マイクロスコープに付属の画像処理ソフトウエアを用いて二値化を行い、二値化処理像を得る。二値化の際の輝度の閾値は、使用する画像の状態によって適宜決定すればよい。例えば256階調の時は中央の128を用いればよい。
【0044】
二値化処理像において、光が透過している領域は白で表示される。二値化処理像全体の面積Sに対する、光が透過している領域の面積S1の百分率(S1/S)×100を算出する。
【0045】
手順B3:手順B1の観察像を互いに重複しない3箇所で取得し、それぞれの観察像に基づき、手順B2を行い、百分率(S1/S)×100を得る。3つの観察像の百分率(S1/S)×100の平均を算出する。本開示において、3つの観察像の百分率(S1/S)×100の平均が、第一主面の透過光面積率に該当する。
【0046】
<第一開口の円相当径>
実施形態1の金属多孔体10の第一主面は、骨格により規定される第一開口を含んでもよい。第一開口は、第二主面側から金属多孔体に光を照射した状態で、光が通過する開口である。
【0047】
第一開口の円相当径の上限は、第一主面の平滑性を向上させる観点、および、第一主面への触媒塗布量を増加させる観点から、60μm以下でもよく、55μm以下でもよく、または、50μm以下でもよい。第一開口の円相当径の下限は、特に制限されないが、例えば、1μm以上でもよい。第一開口の円相当径は、1μm以上60μm以下でもよく、3μm以上55μm以下でもよく、または、5μm以上50μm以下でもよい。これによると、第一主面に向けて触媒をスプレーで塗布した場合に、触媒が第一主面上で触媒層を形成して第一主面に保持されやすく、第一主面により多くの触媒を塗布することができる。
【0048】
本開示において第一開口の円相当径の上限は、以下の手順で測定される。
【0049】
手順C1:第一主面の透過光面積率の測定方法の手順B1および手順B2と同一の方法で、第一主面において光が透過している領域を特定する。光が透過している領域のそれぞれが、第一開口に該当する。
【0050】
手順C2:手順C1で特定された第一開口のそれぞれについて、画像処理を用いて円相当径を求める。具体的には、第一開口のそれぞれの輪郭長CLと面積Sを求め、円相当径rを、r=2×S/CLから計算する。観察像中、最大の第一開口の円相当径を特定する。
【0051】
手順C3:手順B1の観察像を互いに重複しない3箇所で取得し、それぞれの観察像に基づき、手順C1および手順C2を行い、最大の第一開口の円相当径を特定する。本開示において、3つの観察像のうち、最大の第一開口の円相当径rが、第一開口の円相当径の上限に該当する。
【0052】
<第一開口の数N1に対する、第二開口の数N2の百分率(N2/N1)×100>
実施形態1の金属多孔体10の第一主面は、第一開口を含み、第一開口は第二開口を含み、第二開口の円相当径は、35μm以下であり、第一開口の数N1に対する、第二開口の数N2の百分率(N2/N1)×100は、50%以上であってもよい。
【0053】
百分率(N2/N1)×100の下限は、金属多孔体の圧損を低減し、第一主面上の触媒塗布層への電解液の輸送や、触媒塗布層で生成するガスの排出を円滑にさせる観点から、50%以上でもよく、51%以上でもよく、53%以上でもよく、55%以上でもよく、または、60%以上でもよい。百分率(N2/N1)×100の上限は、特に制限されないが、例えば、100%以下でもよく、90%以下でもよく、80%以下でもよく、または、75%以下でもよい。百分率(N2/N1)×100は、50%以上100%以下でもよく、51%以上90%以下でもよく、53%以上80%以下でもよく、55%以上75%以下でもよく、または、60%以上75%以下でもよい。
【0054】
本開示において、百分率(N2/N1)×100は、以下の手順で測定される。
【0055】
手順D1:第一開口の円相当径の上限の測定方法の手順C1および手順C2と同一の方法で、第一開口のそれぞれについて、円相当径を求める。円相当径が35μm以下の開口は、第2開口に該当する。
【0056】
手順D2:観察像全体において、第一開口(円相当径は問わない)の数n1、および、円相当径が35μm以下の第二開口の数n2を数え、百分率(n2/n1)×100を算出する。
【0057】
手順D3:手順B1の観察像を互いに重複しない3箇所で取得し、それぞれの観察像に基づき、手順D1および手順D2を行い、百分率(n2/n1)×100を算出する。本開示において、3つの観察像の百分率(n2/n1)×100の平均が、第一開口の数N1に対する、第二開口の数N2の百分率(N2/N1)×100に該当する。
【0058】
<第二金属多孔体層>
図4に示されるように、実施形態1の金属多孔体10は、第一金属多孔体層5の第一主面1と反対側の主面に接して設けられる第二金属多孔体層6を含み、第二金属多孔体層6は、第一金属多孔体層5と第二金属多孔体層6との第一界面8と、第一界面8から第二金属多孔体層6側への距離が0.01mmである仮想面S13とに挟まれる第二領域16を含んでもよい。第二領域16は、第二金属多孔体層6の第一金属多孔体層5側の第三主面3を含まず、仮想面S13を含む。
【0059】
≪第二領域の開口率A2≫
実施形態1の金属多孔体10の第二領域の開口率A2は、第一領域の開口率A1と同一、または、開口率A1よりも大きくてもよい。
【0060】
開口率A1に対する、開口率A2の比A2/A1の下限は、金属多孔体の圧損を低減し、第一主面上の触媒塗布層への電解液の輸送や、触媒塗布層で生成するガスの排出を円滑にさせる観点から、1.0以上でもよく、1.2以上でもよく、1.5以上でもよい。比A2/A1の上限は、第一主面の触媒塗布量と第二主面の電解液輸送およびガス排出とを両立させる観点から、4.0以下でもよく、3.0以下でもよく、2.7以下でもよい。比A2/A1は、1.0以上4.0以下でもよく、1.2以上3.0以下でもよく、1.5以上2.7以下でもよい。
【0061】
開口率A2は、例えば、25%以上80%以下でもよく、35%以上75%以下でもよく、または、40%以上70%以下でもよい。
【0062】
本開示において、第二領域の開口率A2は、金属多孔体の第一主面の法線に沿う断面を、走査型電子顕微鏡で観察することにより測定される。具体的には以下の手順で測定される。
【0063】
手順E1:第一領域の開口率A1の測定方法の手順A1および手順A2と同一の方法で、金属多孔体の断面の観察像を得る。
【0064】
手順E2:観察像中の第二金属多孔体層の断面に、第一界面からの距離が0.003mmである仮想直線L3、第一界面からの距離が0.006mmである仮想直線L4、第一界面からの距離が0.01mmである仮想直線L5を引く。仮想直線L3、仮想直線L4および仮想直線L5のそれぞれの長さは、気孔部14を少なくとも10個横切る長さとする。
【0065】
手順E3:仮想直線L3、仮想直線L4および仮想直線L5のそれぞれにおいて、仮想直線の長さLTに対する仮想直線が横切る気孔部14の長さの合計LPの百分率P2(P2=(LP/LT)×100)を算出する。仮想直線L3、仮想直線L4および仮想直線L5のそれぞれにおいて、百分率P2を算出する。算出された3つの百分率P2の平均P22を算出する。本開示において、平均P22が第二領域の開口率A2に該当する。
【0066】
<第三金属多孔体層>
図4に示されるように、実施形態1の金属多孔体10は、第二金属多孔体層6の第一金属多孔体層5と接する第三主面3と反対側の第四主面4に接して設けられる第三金属多孔体層7を含み、第三金属多孔体層7は、第二金属多孔体層6と第三金属多孔体層7との第二界面9と、第二界面9から第三金属多孔体層7側への距離が0.01mmである仮想面S14とに挟まれる第三領域17を含んでもよい。第三領域は、第三金属多孔体層7の第二金属多孔体層6側の主面を含まず、仮想面S14を含む。
【0067】
実施形態1の金属多孔体10の第三領域の開口率A3は、開口率A1と同一、または、開口率A1よりも大きくてもよい。
【0068】
開口率A1に対する、開口率A3の比A3/A1の下限は、金属多孔体の圧損を低減する観点から、1.0以上でもよく、1.2以上でもよく、1.5以上でもよい。比A3/A1の上限は、第一主面の触媒塗布量と第二主面の電解液輸送およびガス排出とを両立させる観点から、4.0以下でもよく、3.3以下でもよく、3.0以下でもよい。比A3/A1は、1.0以上4.0以下でもよく、1.0以上3.3以下でもよく、1.0以上3.0以下でもよい。
【0069】
実施形態1の金属多孔体10の第三領域の開口率A3は、開口率A2と同一、または、開口率A2よりも大きくてもよい。
【0070】
開口率A2に対する、開口率A3の比A3/A2の下限は、金属多孔体の圧損を低減する観点から、1.0以上でもよく、1.2以上でもよく、1.5以上でもよい。比A3/A2の上限は、第一主面の触媒塗布量と第二主面の電解液輸送およびガス排出とを両立させる観点から、4.0以下でもよく、3.3以下でもよく、3.0以下でもよい。比A3/A2は、1.0以上4.0以下でもよく、1.0以上3.3以下でもよく、1.0以上3.0以下でもよい。
【0071】
開口率A3は、例えば、30%以上95%以下でもよく、35%以上90%以下でもよく、または、45%以上90%以下でもよい。
【0072】
本開示において、第三領域の開口率A3は、金属多孔体の第一主面の法線に沿う断面を、走査型電子顕微鏡で観察することにより測定される。具体的には以下の手順で測定される。
【0073】
手順F1:第一領域の開口率A1の測定方法の手順A1および手順A2と同一の方法で、金属多孔体の断面の観察像を得る。
【0074】
手順F2:観察像中の第三金属多孔体層の断面に、第二界面からの距離が0.003mmである仮想直線L6、第二界面からの距離が0.006mmである仮想直線L7、第二界面からの距離が0.01mmである仮想直線L8を引く。仮想直線L6、仮想直線L7および仮想直線L8のそれぞれの長さは、気孔部14を少なくとも10個横切る長さとする。
【0075】
手順F3:仮想直線L6、仮想直線L7および仮想直線L8のそれぞれにおいて、仮想直線の長さLTに対する仮想直線が横切る気孔部14の長さの合計LPの百分率P3(P3=(LP/LT)×100)を算出する。仮想直線L6、仮想直線L7および仮想直線L8のそれぞれにおいて、百分率P3を算出する。算出された3つの百分率P3の平均P33を算出する。本開示において、平均P33が第三領域の開口率A3に該当する。
【0076】
<金属多孔体の製造方法>
実施形態1の金属多孔体の製造方法は、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体材料を準備する第一工程と、金属多孔体材料に対して、二段階プレスを行うことにより、金属多孔体を得る第二工程と、を備えることができる。
【0077】
≪第一工程≫
三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体材料を準備する。金属多孔体材料は、全体としてシート状の形状のものを用いる。金属多孔体材料の平均孔径は、金属多孔体10の用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、金属多孔体材料の平均気孔径は50μm以上5000μm以下でもよく、100μm以上1000μm以下でもよく、200μm以上700μm以下でもよい。
【0078】
金属多孔体材料の平均気孔径は、下記の式[1]で定義される。式[1]中、ncは、金属多孔体材料の主面を顕微鏡等で少なくとも10視野観察し、1インチ(25.4mm=25400μm)あたりの気孔部14の平均した数である。
平均気孔径=25400μm/nc 式[1]
なお、気孔部14の数の測定は、JIS K6400-1:2004 附属書1(参考)による軟質発泡材料の気孔の数(セル数)の求め方に準じて行う。
【0079】
金属多孔体材料は、平均気孔径が異なる2枚以上の金属多孔体材料を準備してもよい。
【0080】
金属多孔体材料としては、住友電気工業株式会社製の「アルミセルメット」(商標)や、銅またはニッケルの「セルメット」(商標)を用いることができる。
【0081】
≪第二工程≫
次に、金属多孔体材料に対して、二段階プレスを行うことにより、金属多孔体を得る。具体的には、ロールプレスを用いて、金属多孔体材料を厚み方向にプレスする。第一段階のプレスで、最終的な所望の金属多孔体層の厚さの1.5~2.0倍までプレスし、第二段階のプレスで所望の厚さまでプレスする。この時プレス圧やプレス速度、プレス回数は、金属多孔体材料のサイズや性質に応じて選択すればよい。例えば10cm幅のサンプルの時、10kNの線圧で10cm/分の速度でプレスすることができる。
【0082】
第一工程で、2枚以上の金属多孔体材料を準備する場合は、第一段階のプレスは、金属多孔体材料ごとに別々に行ってもよい。また、第一段階のプレスは、2枚以上の金属多孔体材料を、主面同士が対向するように積層し、積層した状態で同時に行ってもよい。また、例えば第一段階のプレスを行った金属多孔体材料と、未プレスの金属多孔体材料を積層し、積層した状態で第二段階のプレスを行ってもよい。最終的な所望の構造に応じてプレスの順序、タイミング、回数を調整すればよいが、最終的にはすべて積層した状態で1回以上のプレスを行うことが好ましい。二段階プレスにより、2枚以上の金属多孔体材料の対向する主面同士が直接接合し、2枚以上の金属多孔体材料が一体化した金属多孔体を得ることができる。互いに対向する2枚の金属多孔体材料の界面において、双方の金属多孔体材料の骨格の少なくとも一部が絡み合うことにより、2枚の金属多孔体材料が接合すると推察される。得られた金属多孔体では、互いに対向する2枚の金属多孔体材料の界面には、接着剤などは存在しない。
【0083】
二段階プレスを行うことにより、第一領域の開口率A1が40%以下であり、かつ、第一主面の透過光面積率が2%以下である実施形態1の金属多孔体を得られることは、本発明者らが見出したものである。
【実施例】
【0084】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0085】
[金属多孔体の作製]
三次元網目状構造の骨格を有するシート状のニッケル製の金属多孔体材料を準備した。各試料において、1枚、2枚または3枚の金属多孔体材料(第1金属多孔体材料、第2金属多孔体材料、第3金属多孔体材料)を準備した。各試料で準備した金属多孔体材料の平均孔径および厚みは、表1に記載の通りである。
【0086】
次に、金属多孔体材料に対してプレスを行い、金属多孔体を得た。2枚または3枚の金属多孔体材料を準備した試料については、金属多孔体材料の主面同士が対向するように積層して積層体を得た後に、プレスを行った。3枚の金属多孔体材料を用いる場合は、第1金属多孔体材料、第2金属多孔体材料および第3金属多孔体材料を前記の順で積層し、プレスを行った。
【0087】
プレスは、ロールプレスを用いて、金属多孔体材料の厚み方向に行った。第一段階のプレス後の金属多孔体材料全体の厚み、および、第二段階のプレス後の金属多孔体材料の全体の厚みは、それぞれ、表1の「プレス」の「第一段階」および「第二段階」欄に記載の通りである。表1の「第二段階」欄に「-」と記載されている試料は、第二段階のプレスを行わなかった。
【0088】
【0089】
[金属多孔体の測定]
各試料の金属多孔体において、第1金属多孔体材料に相当する第1金属多孔体層、第2金属多孔体材料に相当する第2金属多孔体層および第3金属多孔体材料に相当する第3金属多孔体層のそれぞれの厚みを測定した。測定は、金属多孔体の断面をマイクロスコープで倍率100倍で観察して行った。第1金属多孔体層、第2金属多孔体層および第3金属多孔体層のそれぞれにおいて、3箇所の厚みを測定し、その平均を算出し、第1金属多孔体層、第2金属多孔体層および第3金属多孔体層のそれぞれの厚みとした。結果を表2の「第1金属多孔体層」、「第2金属多孔体層」および「第3金属多孔体層」の欄に示す。更に、表2の「積層体」欄に、積層体全体の厚みも示す。
【0090】
【0091】
各試料の金属多孔体において、第一領域の開口率A1、第二領域の開口率A2、第三領域の開口率A3、第一主面の透過光面積率、第一開口の円相当径の上限、第一開口の数N1に対する、第二開口の数N2の百分率(N2/N1)×100を測定した。具体的な測定方法は、実施形態1に記載の通りである。さらに、測定結果に基づき、A2/A1、および、A3/A1を算出した。結果を表3に示す。
【0092】
【0093】
[金属多孔体の評価]
<AEM型水電解触媒塗布>
各試料において、表面に塗布できる触媒量を評価した。具体的な評価方法は以下の通りである。各試料の第一主面に触媒インクを塗布した。触媒インクに含まれる触媒としては、AEM型水電解の触媒である市販の白金担持カーボン粉末を使用した。触媒インクは、白金担持カーボン粉末と、10wt%ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)分散溶液(溶媒:純水)とを、塗布可能な濃度となるような割合で混合して作製した。視野全体の面積に対する触媒の領域の面積の百分率(以下「触媒領域百分率」とも記す。)をSEM-EDXで測定した。結果を表4の「AEM型水電解触媒塗布」欄に示す。触媒領域百分率の値が大きいほど、金属多孔体の表面に塗布できる触媒量が多いことを示す。
【0094】
<圧損>
各試料において、金属多孔体に空気を通過させた時の圧損を評価した。具体的な評価方法は以下の通りである。各試料について、25mmφの大きさの測定用試料を作製した。内径25mmのパイプ内に試料を隙間なく固定し、パイプに空気を流して、測定用試料の主面に対して垂直に空気が流れるときの圧損を測定した。ブランクとの差分を取り、空気の流速1m/sの時に、圧損が15kPa以下であるものの評価を「A」、圧損が15Pa超であるものの評価を「B」とした。評価を表4の「圧損」欄に示す。
【0095】
【0096】
[考察]
試料1~試料12の金属多孔体は、二段階プレスを実施することにより得られたものであり、実施例に該当する。試料101~試料106の金属多孔体は、第一段階のプレスのみを実施することにより得られたものであり、比較例に該当する。
【0097】
試料1~試料12の金属多孔体は、開口率A1が40%以下であり、試料101~試料106の金属多孔体に比べて、開口率A1が小さいことが確認された。これによると、試料1~試料12の金属多孔体は、表面が平滑であり、電解質膜の損傷を抑えることができる。
【0098】
試料1~試料12の金属多孔体は、試料101~試料106の金属多孔体に比べて、金属多孔体の表面に塗布できる触媒量が多いことが確認された。
【0099】
試料1~試料12の金属多孔体は、試料101~試料104の金属多孔体に比べて、圧損が小さいことが確認された。これによると、試料1~試料12の金属多孔体は、AEM型水電解に用いる電解液や、発生する酸素や水素などのガスをスムーズに通すことができる。
【0100】
上記より試料1~試料12の金属多孔体を、AEM型水電解装置の電極として用いた場合、電解質膜の損傷を抑えることができ、ひいては電解質膜の薄膜化につながって電解性能が向上すると推察される。また、試料1~試料12の金属多孔体を、特にCCS方式のAEM型水電解装置の電極として用いた場合、表面の触媒量を多くできるため、さらに電解性能が向上すると推察される。
【0101】
また、本開示の金属多孔体は、AEM型水電解装置の電極以外にも、表面の平滑性と多孔性、電気伝導性を同時に求められるほかの用途でも有効と考えられ、例えばアノードサポート型の固体酸化物形燃料電池の集電体としても有効と推察される。
【0102】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0103】
1 第一主面、2 第二主面、3 第三主面、4 第四主面、5 第一金属多孔体層、6 第二金属多孔体層、7 第三金属多孔体層、8 第一界面、9 第二界面、10 金属多孔体、11 骨格、12 骨格本体部、13 骨格の内部、14 気孔部、15 第一領域、16 第二領域、17 第三領域。
【要約】
三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体であって、前記金属多孔体は、第一主面と、前記第一主面と反対側の第二主面と、を含むシート状であり、前記金属多孔体は、前記第一主面を含む第一金属多孔体層を備え、前記第一金属多孔体層は、前記第一主面から前記第一金属多孔体層側の距離が0.01mmである仮想面S11と、前記第一主面から前記第一金属多孔体層側への距離が0.10mmである仮想面S12とに挟まれる第一領域を含み、前記第一領域の開口率A1は40%以下であり、前記開口率は、前記金属多孔体の前記第一主面の法線に沿う断面を、走査型電子顕微鏡で観察することにより測定され、前記第一主面の透過光面積率は、2%以下であり、前記透過光面積率は、前記第二主面側から前記金属多孔体に光を照射した状態で、前記第一主面をマイクロスコープで観察することにより測定される、金属多孔体である。