(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】加硫用モールドの洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/72 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
B29C33/72
(21)【出願番号】P 2020007445
(22)【出願日】2020-01-21
【審査請求日】2022-12-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】松本 芳晃
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽介
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-536066(JP,A)
【文献】特開2016-7845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム製品を製造する際に使用される加硫用モールドとレーザ光を照射するレーザヘッドとを相対移動させつつ、前記加硫用モールドの成形面の対象領域に前記レーザ光を照射することにより、前記対象領域に付着している汚れを除去する加硫用モールドの洗浄方法において、
前記成形面の仕様毎に、前記レーザヘッドと前記対象領域の前記レーザ光が照射された照射範囲との離間距離、前記加硫用モールドと前記レーザヘッドの相対移動の速度および前記レーザ光の出力の3つのパラメータを所定条件にして前記レーザヘッドを前記成形面に対して相対移動させつつ、前記レーザ光が照射された時の前記対象領域での照射範囲の温度を温度センサにより検知して、前記対象領域の前記レーザ光照射時の温度分布を予め把握する温度把握工程を洗浄工程を行う前に実施し、前記温度分布によって前記対象領域での前記レーザ光の照射による照射され易い部分と照射され難い部分との違いによる加熱温度のバラつきを把握して、前記温度把握工程により前記温度分布を把握した前記対象領域と同じ仕様の対象領域を有する加硫用モールドを洗浄する前記洗浄工程では、前記温度分布と、その対象領域に対して予め設定されている許容温度範囲とに基づいて、前記3つのパラメータうちの少なくとも1つのパラメータを調整する制御操作を行って、その対象領域の前記レーザ光が照射された時の前記照射範囲の温度を前記許容温度範囲内に維持するように洗浄を行う加硫用モールドの洗浄方法。
【請求項2】
前記温度センサとして、前記レーザヘッドとともに移動する移動式の温度センサおよび所定位置に固定された固定式の温度センサの少なくとも一方を使用する請求項1に記載の加硫用モールドの洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄工程で、前記レーザ光が照射された時の前記照射範囲の温度を温度センサにより検知して、前記対象領域の前記レーザ光照射時の温度分布を把握し、この把握した温度分布を次回の洗浄工程で使用して、順次、前記温度分布を更新する請求項1または2に記載の加硫用モールドの洗浄方法。
【請求項4】
前記加硫用モールドが未使用の新品時に前記温度把握工程を実施して、新品時の前記温度分布を予め把握しておき、新品時の前記温度分布も考慮して前記制御操作を行う請求項1~3のいずれかに記載の加硫用モールドの洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫用モールドの洗浄方法に関し、さらに詳しくは、対象領域での洗浄ムラの発生を回避しつつ、効率的に洗浄を行うことができる加硫用モールドの洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ等のゴム製品を製造する際に使用する加硫用モールドの成形面には、加硫する度に、僅かながらゴム成分や配合剤に由来する汚れが付着する。モールドの繰り返し使用によって、この汚れが徐々に累積するので、そのまま汚れを放置すれば、加硫する製品の品質に悪影響が生じる。そのため適宜、成形面を洗浄して汚れを除去する必要がある。モールドを洗浄する方法としては、ショットブラスト洗浄方法、プラズマ洗浄方法、レーザ光洗浄方法等が知られている。
【0003】
レーザ光洗浄方法は、他の洗浄方法に比して洗浄する対象領域の損傷を回避しつつ、効率的に洗浄するには有益である。レーザ光洗浄方法として、レーザ光の照射面の温度を逐次検知して、その検知温度が予め設定されている許容温度を超えた場合に、レーザ光の照射を中断する方法が提案されている(特許文献1参照)。これにより、モールドの対象領域の溶融(損傷)を回避することができる。しかしながら、レーザ光の照射を中断している間は洗浄工程が停止する。
【0004】
ところで、モールドの対象領域の仕様などに起因して、レーザ光を照射した時の照射範囲の温度には差異が生じることが、本発明の発明者の種々の検討によって明らかになった。対象領域に付着した汚れは、レーザ光の照射によって加熱されて気化(昇華)することで除去される。そのため、レーザ光照射時の照射範囲の温度の差異は、洗浄具合にバラつきを生じさせる。それ故、レーザ光を照射した対象領域の洗浄ムラの発生を回避しつつ、効率的に洗浄を行うには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、対象領域での洗浄ムラの発生を回避しつつ、効率的に洗浄を行うことができる加硫用モールドの洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の加硫用モールドの洗浄方法は、ゴム製品を製造する際に使用される加硫用モールドとレーザ光を照射するレーザヘッドとを相対移動させつつ、前記加硫用モールドの成形面の対象領域に前記レーザ光を照射することにより、前記対象領域に付着している汚れを除去する加硫用モールドの洗浄方法において、前記成形面の仕様毎に、前記レーザヘッドと前記対象領域の前記レーザ光が照射された照射範囲との離間距離、前記加硫用モールドと前記レーザヘッドの相対移動の速度および前記レーザ光の出力の3つのパラメータを所定条件にして前記レーザヘッドを前記成形面に対して相対移動させつつ、前記レーザ光が照射された時の前記対象領域での照射範囲の温度を温度センサにより検知して、前記対象領域の前記レーザ光照射時の温度分布を予め把握する温度把握工程を洗浄工程を行う前に実施し、前記温度分布によって前記対象領域での前記レーザ光の照射による照射され易い部分と照射され難い部分との違いによる加熱温度のバラつきを把握して、前記温度把握工程により前記温度分布を把握した前記対象領域と同じ仕様の対象領域を有する加硫用モールドを洗浄する前記洗浄工程では、前記温度分布と、その対象領域に対して予め設定されている許容温度範囲とに基づいて、前記3つのパラメータうちの少なくとも1つのパラメータを調整する制御操作を行って、その対象範領域の前記レーザ光が照射された時の前記照射範囲の温度を前記許容温度範囲内に維持するように洗浄を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、予め把握した前記温度分布を利用して、この温度分布を把握した対象領域と同じ仕様の対象領域を有する加硫用モールドを洗浄する際に、前記レーザ光が照射された時の照射範囲の温度を前記許容温度範囲内に維持するように、前記レーザヘッドと前記対象領域の前記照射範囲との離間距離、前記加硫用モールドと前記レーザヘッドの相対移動の速度および前記レーザ光の出力の3つのパラメータのうち、いずれかのパラメータを調整する前記制御操作を行う。前記対象領域に付着した汚れの除去具合は、前記レーザ光が照射された時の照射範囲の温度に大きく依存する。それ故、前記制御操作を行うことで、前記対象領域での洗浄ムラの発生を回避しつつ、効率的に洗浄を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
本発明に用いる加硫用モールドの洗浄装置の
形態を平面視で例示する説明図である。
【
図2】スタッドレスタイヤ加硫用モールドの成形面を平面視で例示する説明図である。
【
図3】鋳継ぎモールドの成形面を拡大して断面視で例示する説明図である。
【
図4】モールドを洗浄している状態を側面視で例示する説明図である。
【
図5】モールドを洗浄している状態を正面視で例示する説明図である。
【
図6】温度分布を示すために多数区画に区分されたモールドの成形面(対象領域)を平面視で例示する説明図である。
【
図7】レーザ光を照射しているレーザヘッドの先端部を拡大して例示する説明図である。
【
図8】カバーの内部に配置されたモールドを洗浄している状態を正面視で例示する説明図である。
【
図9】洗浄装置の別の
形態によってモールドを洗浄している状態を断面視で例示する説明図である。
【
図10】
図9のケースの内部を平面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の加硫用モールドの洗浄方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。尚、以下の説明では、タイヤ加硫用モールドを洗浄対象としているが、本発明はタイヤに限らずゴム製品を加硫するための加硫用モールドの洗浄に用いることができる。
【0012】
図1に例示する本発明
に用いる加硫用モールドの洗浄装置1は、タイヤ加硫用モールド11(以下、モールド11という)の洗浄が行われる対象領域に付着した汚れXを、レーザ光Lを用いて除去する。セクショナルタイプのモールド11は、後述するように円筒状に組み付けられる複数のセクターモールド11Aと、2つの円環状のサイドモールドとで構成される。
【0013】
この洗浄装置1は、レーザ発振器2と、レーザヘッド3と、モールド11とレーザヘッド3とを相対移動させる移動手段とを備えている。レーザ発振器2とレーザヘッド3とは光ファイバーケーブル2aによって接続されている。この洗浄装置1はさらに、温度センサ7と、温度センサ7による検知データが入力される制御部6とを有している。制御部6は、演算部や記憶部を備えたコンピュータである。制御部6にはモニタ10が接続されている。モニタ10には制御部6に記憶されている各種のデータや制御部6によって演算処理された結果が表示される。
【0014】
温度センサ7は、レーザ光Lが照射された時の対象領域での照射範囲の温度tを検知する。この実施形態では、レーザヘッド3に取り付けられた温度センサ7a(移動式温度センサ7a)と、モールド11の成形面12の上方の所定位置に固定された温度センサ7b(固定式温度センサ7b)とを備えている。2つの温度センサ7a、7bのうち、少なくとも一方が備わっていればよい。温度センサ7は検知対象物に対して非接触で温度を検知する非接触タイプが好ましく、例えばサーモグラフィ装置を用いることができる。
【0015】
レーザヘッド3はアーム5の先端部に着脱自在に取り付けられていて、このアーム5は複数のアーム部5a、5bを回転自在に接続して構成されている。アーム5はアームベース4に回転自在に取り付けられていて、温度センサ7aはレーザヘッド3に取り付けられている。アーム5やレーザヘッド3の動きは、制御部6により制御される。レーザヘッド3の位置は逐次、制御部6に入力、記憶され、成形面12の形状データやモールド11(成形面12)の配置位置データも制御部6に記憶されている。
【0016】
アーム5の動きを制御することにより、レーザヘッド3を三次元の所望の位置に移動させることができ、温度センサ7aを常にレーザ光Lの照射範囲に向けることができる。したがって、このアーム5は、モールド11とレーザヘッド3とを相対移動させる移動手段として機能する。
【0017】
レーザ発振器2により供給されたレーザ光Lは、光ファイバーケーブル2aを通じてレーザヘッド3に送られる。レーザ光Lはレーザヘッド3からモールド11の対象領域である成形面12に照射される。
【0018】
レーザ光Lには、モールド11の洗浄に従来使用されているレーザ光Lを用いることができる。照射するレーザ光Lの具体的な仕様は、例えば以下のとおりである。レーザ光Lの種類は、特に指定はないが、Yb-YAGレーザ光(波長1030nm)、Nd-YAGレーザ光(波長1064nm)が望ましい。レーザ光Lの光源出力は1W~5kW、パルス幅は1ns~500ns、パルスエネルギーは1mJ~0.1J、パルス周波数は1kHz~100kHz、フルエンスは0.5J/m2~4.0J/m2、ビーム径(直径)は0.1mm~3mm、パルスオーバラップは0~100%、ラインオーバーラップは0~100%である。
【0019】
この実施形態では、ピンポイントでレーザ光Lを照射するレーザヘッド3を備えているが、レーザヘッド3はこのタイプに限らない。例えば、ガルバノミラーを内蔵していてレーザ光Lを幅方向にスキャンして幅広に照射できるタイプのレーザヘッド3を採用することもできる。レーザヘッド3は1本に限らず、複数本を有する仕様にすることもできる。同じタイプのレーザヘッド3を複数本有することも、異なるタイプのレーザヘッド3を組み合わせて有する仕様にすることもできる。
【0020】
洗浄するモールド11はセクショナルタイプに限らず、二分割タイプの場合もある。また、一般的なタイヤ用に限らず、
図2に示すスタッドレスタイヤ加硫用モールドの場合もある。
図2のモールド11の成形面12は、突設された溝成形突起13およびサイプ成形突起14を有している。溝成形突起13はモールド11の母材と一体的に鋳造されたものであり、サイプ成形突起14はモールド11の母材とは別体として成形面12に取付けられたものである。モールド11の母材の材質は主にアルミニウム、サイプ成形突起14の材質は鋼等である。したがって、この成形面12は、融点が異なる複数の材質で形成されている。
【0021】
サイプ成形突起14の厚さは、0.4mm~1.2mm程度である。このようにサイプ成形突起14は他の部分に比して薄肉なので加熱され易く、レーザ光Lの照射によって溶融するリスクが相対的に高い部分である。また、サイプ成形突起14や薄肉の溝成形突起13の表面および根元部分は、モールド11の洗浄の際には汚れXを除去し難い部分となる。尚、図中に記載されているC矢印、R矢印、W矢印は、それぞれ、モールド11に挿入して加硫するタイヤの周方向、半径方向、幅方向を示す。
【0022】
その他、洗浄する別の種類のモールド11としては、
図3に示す空気入りタイヤ加硫用鋳継ぎモールドを例示できる。このモールド11は、第1鋳造部15を鋳造した後に第2鋳造部16を鋳造するいわゆる鋳継ぎによって製造されたものである。鋳込まれた溶融金属の凝固収縮によって第1鋳造部15と第2鋳造部16との鋳継ぎ部18には微小すき間gが形成されている。この微小すき間gの大きさは例えば5μm~80μmである。微小すき間gに連通させて排気穴17が形成されている。このモールド11では、タイヤ加硫時の不要なエアやガスは、成形面12から微小すき間gを通じて排気穴17に排出され、排気穴17を通じてモールド11の外部に排出される。この微小すき間gはモールド11を洗浄の際には汚れXを除去し難い部分となる。
【0023】
図4、
図5に例示するように、汚れXを除去する際にはレーザヘッド3を成形面12に対して相対移動させつつレーザ光Lを成形面12に照射する。レーザ光Lの照射方向は、成形面12に対して法線方向ではなく、法線方向に対して若干傾いた(20°~30°程度)方向にすると、精度よく所定位置にレーザ光Lを照射し易くなる。
【0024】
次に、モールド11の洗浄方法を、セクターモールド11Aを洗浄する場合を例にして説明する。モールド11を洗浄するには、まず、温度把握工程を実施する。その後、温度把握工程で把握した温度分布TDを利用して洗浄工程を行う。
【0025】
温度把握工程では、レーザ光Lが照射された時の成形面12での照射範囲の温度tを温度センサ7により検知する。これにより、対象領域である成形面12のレーザ光照射時の温度分布TDを予め把握する。
【0026】
そこで、レーザヘッド3と成形面12の照射範囲との離間距離d、モールド11とレーザヘッド3の相対移動の速度、レーザ光Lの出力の3つのパラメータを所定条件にして、レーザヘッド3を成形面12に対して相対移動させつつレーザ光Lを成形面12に照射した時の照射範囲の温度tを温度センサ7によって予め検知する。温度センサ7の検知データは制御部6に入力、記憶される。入力、記憶された温度センサ7による検知データに基づいて、制御部6によって温度分布TDデータが作成される。
【0027】
この温度分布TDは、
図6に例示するように、成形面12が多数区画(A1~A8、B1~B8、C1~C8、D1~D8、E1~E8、F1~F8、G1~G8、H1~H8)に区分されていて、それぞれの区画において温度センサ7により検知された最高温度が記憶されている。それぞれの区画はその最高温度の温度に応じて色彩が付されていて、カラーマップ化された温度分布TDになっている。この温度分布TDによって、レーザ光Lが十分に照射されている部分(照射され易い部分)、レーザ光Lが十分に照射されていない部分(照射され難い部分)が判明する。
【0028】
この実施形態では1つのセクターモールド11Aの成形面12が幅方向および周方向にそれぞれ8つに区分されているが、区画数は成形面12の形状や材質などに応じて適宜設定できる。異なる仕様(形状や材質など)の成形面12を有するモールド11が多数存在するので、温度分布TDのデータは成形面12の仕様毎に把握、記憶される。
【0029】
また、成形面12の仕様毎に、洗浄時の許容温度範囲ATが予め設定されていて、制御部6に記憶されている。この許容温度範囲ATは、レーザ光Lの照射によって加熱されても成形面12が溶融することなく、汚れXを除去できる温度範囲に設定されている。1つの成形面12に対して1つの許容温度範囲ATが設定されることも、1つの成形面12が複数に区画に区分されてそれぞれの区画に対して別々の許容温度範囲ATが設定されることもある。例えば、
図6に示した区画毎に許容温度範囲ATが設定されることもある。
【0030】
この温度把握工程は、例えば、成形面12に汚れXが付着した任意のモールド11の成形面12を洗浄する際に行うことができる。具体的には、モールド11とレーザヘッド3の相対移動の速度を所定の一定値、レーザ光Lの出力を所定の一定値に設定して、レーザヘッド3と成形面12の照射範囲との離間距離dを所定の一定値に維持するように、レーザヘッド3を成形面12に沿うように移動させつつレーザ光Lを成形面12に照射して洗浄を行う。この洗浄を行いつつ、レーザ光Lが照射された時の成形面12での照射範囲の温度tを温度センサ7によって検知する。この検知データに基づいて作成された温度分布TDを最初に用いる温度分布TDに設定する。
【0031】
或いは、成形面12に汚れXが付着していない未使用の新品のモールド11に対して温度把握工程を実施することもできる。そして、新品の成形面12に対する温度分布TDのデータを把握、記憶することもできる。この温度分布TDを最初に用いる温度分布TDに設定することもできる。
【0032】
成形面12の形状によっては、一方の温度センサ7のみでは温度tを検知し難い箇所が存在する場合がある。この場合は、2つのタイプの温度センサ7a、7bを用いることで、一方が他方を補完できるので対象領域の全体を網羅するように温度tを検知し易くなる。
【0033】
対象領域に付着した汚れXは、レーザ光Lの照射によって加熱されて気化(昇華)することで除去されるので、汚れXの洗浄具合は、照射されたレーザ光Lによって加熱された成形面12の温度に大きく依存する。そのため、レーザ光Lが照射された時のその照射範囲の成形面12の温度を適切に設定することで、汚れXをより確実に除去することが可能になる。一方、照射範囲の成形面12が過剰に加熱されると、成形面12が溶融して損傷するリスクが生じる。
【0034】
レーザヘッド3と照射範囲との離間距離dが異なると、他の条件が同じであっても、レーザ光Lが照射された時の成形面12の照射範囲の温度tも異なる。
図7に例示するように、ヘッド3から照射されるレーザ光Lが照射範囲を最も効果的に加熱する焦点距離D(例えば100mm程度)に対して、実用上有効な焦点距離の範囲Rは非常に狭い(例えば焦点距離Dに対して±10mm程度の範囲)。そして、離間距離dが焦点距離Dに近づくに連れてレーザ光Lが照射された時の成形面12の照射範囲の温度tが高くなる。
【0035】
また、モールド11とレーザヘッド3の相対移動の速度が遅くなるに連れて、他の条件が同じであれば、レーザ光Lが照射された時の成形面12の照射範囲の温度tが高くなる。また、レーザ光Lの出力が大きくなる(強くなる)に連れて、他の条件が同じであれば、レーザ光Lが照射された時の成形面12の照射範囲の温度tが高くなる。
【0036】
そこで、洗浄工程では、予め把握しているデータに基づいて、レーザ光Lが照射された時の照射範囲の成形面12の温度tを許容温度範囲AT内に維持するように成形面12の洗浄が行われる。具体的には、上述した温度分布TDが把握されている成形面12と同じ仕様の成形面12を洗浄する際には、把握されている温度分布TDと、その対象領域(成形面12)に対する許容温度範囲ATとに基づいて、レーザヘッド3と照射範囲との離間距離d、モールド11とレーザヘッド3の相対移動の速度およびレーザ光Lの出力の3つのパラメータうちの少なくとも1つのパラメータが制御部6により調整する制御操作が行われる。尚、それぞれのパラメータと、レーザ光Lが照射された時の照射範囲の成形面12の温度tとの相関関係は、事前テストなどによって把握しておく。この制御操作をしながら、レーザ光Lが照射された時の照射範囲の温度tを許容温度範囲AT内に維持するように成形面12の洗浄が行われる。
【0037】
セクターモールド11Aの洗浄は洗浄ブースで行われる。この実施形態では、セクターモールド11Aを1個ずつ洗浄するので、
図1に例示するように1つのセクターモールド11Aを所定位置に設置する。その後、
図4、
図5に例示するようにレーザヘッド3を対象領域の全体を網羅するように移動させて、上述した制御操作を行いつつ、レーザ光Lが照射された時の照射範囲の温度tを許容温度範囲AT内に維持するように洗浄が行われる。
【0038】
上述した制御操作として具体的には、モールド11とレーザヘッド3の相対移動の速度、レーザ光Lの出力を、温度把握工程と同じに設定して、レーザヘッド3と成形面12の照射範囲との離間距離dだけを温度把握工程に対して変化させると制御が簡潔になる。照射範囲の温度上昇を抑制した時に、離間距離dを焦点距離Dに対して大きくするか小さくするかは、成形面12の形状やレーザヘッド3を移動させることができるスペースなどを考慮して決定される。
【0039】
上述したように温度把握工程によって予め把握した温度分布TDを利用して洗浄工程を行うので、レーザ光Lが照射された時の照射範囲の温度tを、汚れXを除去することができ、かつ、成形面12を損傷させない許容温度範囲AT内に維持することができる。成形面12に付着した汚れXの除去具合は、レーザ光Lが照射された時の照射範囲の温度tに大きく依存するので、上述の制御操作を行うことで、対象領域での洗浄ムラの発生を回避しつつ、効率的に洗浄を行うことができる。
【0040】
モールド11がスタッドレスタイヤ加硫用モールドまたは空気入りタイヤ加硫用鋳継ぎモールドのような複雑な形状の成形面12を有する場合であっても、この洗浄方法によれば、汚れXを効率的に除去することができる。成形面12の温度tを許容温度範囲AT内に維持する補助手段として、成形面12(モールド11)を加熱する加熱手段や冷却する冷却手段を設けることもできる。
【0041】
最初に設定した温度分布TDは、所定期間、或いは、所定数のモールド11を洗浄するまで利用することもできる。或いは、使用する温度分布TDは順次更新することもできる。例えば、洗浄工程の都度、レーザ光Lが照射された時の成形面12の照射範囲の温度tを温度センサ7により検知して、その対象領域のレーザ光照射時の温度分布TDを把握し、この把握した温度分布TDを次回の洗浄工程で使用する。即ち、洗浄工程とともに温度把握工程を実施することもできる。
【0042】
また、モールド11が未使用の新品時に温度把握工程を実施して、新品時の温度分布TDを予め把握しておき、新品時の温度分布TDも考慮して上述した制御操作を行うこともできる。例えば、汚れXが付着していた成形面12を洗浄することで温度把握工程を行って把握した温度分布TDであると、付着していた汚れXに起因して温度分布TDに極端な局部的なバラつきが生じる可能性がある。そこで、このような温度分布TDを利用する場合は、新品時の温度分布TDと比較して両者の間に許容値を超える温度差がある場合は、新品時の温度分布TDを参照して是正された温度分布TDをすることもできる。例えば、両者の間で許容値を超える温度差がある部分については、新品時の温度分布TDを利用して洗浄工程を行う。
【0043】
また、洗浄工程とともに温度把握工程を行って把握した温度分布TDをその都度、新品時の温度分布TDと比較する比較工程を行うと、その対象領域での汚れXの付着し易さの分布を把握することも可能になる。また、その対象領域の汚れXの付着のし易さの経時変化を把握することも可能になる。
【0044】
上述した洗浄工程を行う際には、
図8に例示するように、レーザ光Lが照射されている成形面12の照射範囲は常に不活性ガスGの雰囲気下にするとよい。即ち、照射範囲に存在していた酸素を不活性ガスGに置換して、常時、大気に比して極度の低酸素状態にするとよい。これにより、レーザ光Lの照射に起因して成形面12にナノレベルの超微細な突起が形成されることを抑制できる。この超微細な突起は、レーザ光Lの照射後のモールド11を使用して加硫したゴムを離型する際に、その加硫ゴムを残存付着させて加硫ゴム品にゴム欠損を生じさせる。それ故、
図8に例示した実施形態によれば、加硫ゴム品にゴム欠損が発生する不具合を回避するには有効である。不活性ガスGとしては、窒素ガス、アルゴンガス等を用いることができる。
【0045】
この実施形態では、照射範囲を安定的に不活性ガスGの雰囲気下に維持するために、洗浄対象の成形面12をカバー8によって覆われた空間に配置して、このカバー8の内部空間を不活性ガスGが充填された状態にしている。レーザヘッド3はカバー8の上面に形成された開口部9aを通じてカバー8の内部空間に移動可能に配置される。この実施形態は温度把握工程でも用いることがきる。
【0046】
図9、
図10に例示する洗浄装置1の
別の形態では、上述した洗浄工程において、複数のセクターモールド11Aを一度に洗浄する。即ち、1本のグリーンタイヤを加硫するために必要な数のセクターモールド11Aが成形面12を内側にして環状に配置されている。それぞれのモールド11は受け台9bに載置されている。それぞれのセクターモールド11Aは上面に開口部9aを有するカバー8によって覆われて、成形面12はカバー8の内部空間に配置されている。
【0047】
上下移動可能なアーム5は開口部9aを挿通して、環状に配置されたセクターモールド11Aの環状中心部で上下に延在している。アーム5の先端部にはレーザヘッド3が取り付けられている。アーム5はその上下軸心を中心にして回転可能になっていて、レーザヘッド3もアーム5とともに回転する。このレーザヘッド3は上下に首振り可能になっている。アーム5をその上下軸心を中心に回転させる構造ではなく、受け台9bをアーム5の上下軸心を中心に回転させる構造にすることもできる。このように受け台9bを、モールド11とレーザヘッド3とを相対移動させる移動手段の一部として機能させることもできる。
【0048】
それぞれのセクターモールド11Aの成形面12を洗浄する際には、アーム5を回転させつつ、カバー8の内部に配置したレーザヘッド3からレーザ光Lを照射する。また、適宜、アーム5の上下移動とレーザヘッド3の上下の首振りを行って、レーザヘッド3を成形面12の必要範囲に移動させてレーザ光Lによる洗浄を行う。カバー8の内部空間には不活性ガスGを供給してレーザ光Lの照射範囲を常に低酸素状態にして成形面12の洗浄を行うとよい。この実施形態では、一度に多数のセクターモールド11Aを洗浄できるメリットがある。この実施形態は、温度把握工程で用いることもできる。
【符号の説明】
【0049】
1 洗浄装置
2 レーザ発振器
2a 光ファイバーケーブル
3 レーザヘッド
4 アームベース
5 アーム
5a、5b アーム部
6 制御部
7(7a、7b) 温度センサ
8 カバー
9a 開口部
9b 受け台
10 モニタ
11 加硫用モールド
11A セクターモールド
12 成形面
13 溝成形突起
14 サイプ成形突起
15 第1鋳造部
16 第2鋳造部
17 排気穴
18 鋳継ぎ部
L レーザ光
X 汚れ