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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】液体吸引排出装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20241204BHJP
   G01N 35/10 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
C12M1/00 C
G01N35/10 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020112137
(22)【出願日】2020-06-29
(65)【公開番号】P2022011167
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】西村 典朗
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/007556(WO,A1)
【文献】特開2003-302411(JP,A)
【文献】特開昭62-001459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
G01N
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容する複数の収容部が整列して形成された容器を支持する容器支持手段と、上記複数の収容部に対応して整列された複数のノズルを先端を下方に向けた状態で支持するノズル支持手段とを備えた液体吸引排出装置において、
上記ノズル支持手段は、上記複数のノズルを各ノズルの所要の部分を支点として同一平面で揺動可能に支持するノズル支持部材を備え、さらに、上記各ノズルを上記ノズル支持部材に対して傾斜させるノズル傾斜手段を備え
上記ノズル傾斜手段は、上記各ノズルにおける上記支点から所定距離離隔した所要の部分を同一平面で摺動可能に支持するノズル傾斜部材と、当該ノズル傾斜部材を上記各ノズルが支持される平面に対して平行移動させる平行移動手段とを備え、
上記ノズル傾斜手段によって上記ノズル支持部材に支持される各ノズルを垂直に維持するとともに、上記平行移動手段が上記ノズル傾斜部材を移動させることで、各ノズルを一斉に同じ方向に先端の高さを揃えて傾斜させることを特徴とする液体吸引排出装置。
【請求項2】
上記ノズル支持部材は、上記各ノズルを支持する複数の支点用球面軸受を同一平面に整列させて備えたことを特徴とする請求項1に記載の液体吸引排出装置。
【請求項3】
上記ノズル傾斜部材は、上記各ノズルを支持する滑り軸受を備えるとともに、当該滑り軸受を揺動可能に支持する複数の傾斜用球面軸受を同一平面に整列させて備えたことを特徴とする請求項2に記載の液体吸引排出装置。
【請求項4】
上記ノズル支持手段を傾斜させる全体傾斜手段と、上記容器支持手段に支持された容器を傾斜させる容器傾斜手段とを備え、
上記全体傾斜手段は、上記ノズル支持手段を上記容器と同じ方向に傾斜させることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の液体吸引排出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吸引排出装置に関し、詳しくは液体を収容する複数の収容部が整列して形成された容器に対して、複数のノズルによって液体の吸引や排出を行う液体吸引排出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞の培養を行う際には、液体を収容する複数の収容部が整列して形成された容器が使用されており、例えば細胞と培養液が収容された収容部から培養液を吸引し、また吸引した培養液を再び収容部に排出する作業が行われている。
このような培養の際の容器に対する液体の吸引や排出の作業は、作業者がピペット等の器具を用いて手作業によって行っているが、昨今の再生医療において培養した細胞等を治療のために用いる場合には、より大量の細胞を培養することが必要であり、これらの培養作業を自動的に行う自動培養装置においては効率的な液体吸引排出装置が求められている。
上記液体を吸引または排出する装置として、複数のウェル(収容部)が形成されたウェルプレートなどの容器に対し、複数のノズルを用いて複数のウェルから同時に液体の吸引または排出を行うように構成されたものが知られている(特許文献1~3)。
このうち特許文献1の装置は、先端が下方を向いた複数のノズルを1列備え、当該整列したノズルの下方には容器を傾斜させる容器傾斜手段が設けられており、容器を傾斜させた状態で1列分の収容部から液体を吸引している。
また特許文献2の装置は、先端が下方を向いた複数のノズルを1列備えるとともに、当該1列のノズルを整列方向と直交する方向に一体的に傾斜させるノズル傾斜手段を備えており、上記1列分のノズルを傾斜させた状態で上記容器における1列分の収容部に対して液体を排出している。
そして特許文献3の装置は、先端が下方を向いた複数のノズルを複数列備えるとともに、傾斜させて支持した容器の列方向の収容部の高低差に合わせて、列方向におけるノズルの長さを異ならせることで、容器を傾斜させた状態で複数列分の収容部から液体を吸引している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3413418号公報
【文献】特許第4962213号公報
【文献】特開2003-302411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで特許文献1、3の装置は、いずれも複数の収容部が整列して形成された容器に対して、複数のノズルによって複数の収容部から液体を吸引するよう構成され、容器を傾けることにより液体を余すことなく吸引することを目的としたものとなっている。
しかしながら、特許文献1の装置はノズルを1列分しか備えておらず、収容部が複数列形成された容器に対しては、列数に応じて複数回に分けて吸引動作を行わなければならず、効率的ではない。
また特許文献3の装置は複数列で整列した収容部から一度に液体を吸引することができるが、吸引の開始時から容器を傾斜させて支持しており、液体の収容量によってはノズルを挿入させた際に液体がこぼれることがある。さらには、容器の傾斜角度は固定されており、列方向で異なるノズルの長さは容器の傾斜角度に合わせて固定されていることから、収容部内におけるノズル移動の自由度は低く、汎用性に欠けるものである。
一方、特許文献2の装置は、複数の収容部が整列して形成された容器に対して、複数のノズルによって複数の収容部に液体を排出するよう構成されたものであるが、特許文献1と同様、ノズルを1列分しか備えておらず効率的ではない。
このような問題に鑑み、本発明は液体を収容する複数の収容部が整列して形成された容器に対して、複数のノズルによって液体の吸引や排出を効率的に行うことを可能とした液体吸引排出装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、請求項1の発明にかかる液体吸引排出装置は、液体を収容する複数の収容部が整列して形成された容器を支持する容器支持手段と、上記複数の収容部に対応して整列された複数のノズルを先端を下方に向けた状態で支持するノズル支持手段とを備えた液体吸引排出装置において、
上記ノズル支持手段は、上記複数のノズルを各ノズルの所要の部分を支点として同一平面で揺動可能に支持するノズル支持部材を備え、さらに、上記各ノズルを上記ノズル支持部材に対して傾斜させるノズル傾斜手段を備え
上記ノズル傾斜手段は、上記各ノズルにおける上記支点から所定距離離隔した所要の部分を同一平面で摺動可能に支持するノズル傾斜部材と、当該ノズル傾斜部材を上記各ノズルが支持される平面に対して平行移動させる平行移動手段とを備え、
上記ノズル傾斜手段によって上記ノズル支持部材に支持される各ノズルを垂直に維持するとともに、上記平行移動手段が上記ノズル傾斜部材を移動させることで、各ノズルを一斉に同じ方向に先端の高さを揃えて傾斜させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によれば液体の吸引または排出の際に各ノズルを一斉に同じ方向に先端の高さを揃えて傾斜させることが可能であり、またノズルを複数列設けて各々に傾斜させるよう構成することも容易であるため、複数列分の収容部に対して効率的に液体の吸引または排出を行うことも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施例にかかる液体吸引排出装置の側面図
図2】液体吸引排出装置の要部の正面図
図3】ノズル傾斜手段を説明するための拡大図
図4】ノズルを傾斜させた状態の側面図
図5】ノズルを傾斜させた状態の正面図
図6】ノズル支持部材および培養容器を傾斜させた状態の正面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について説明すると、図1は容器としての培養容器1に対して液体の吸引や排出を行うための液体吸引排出装置2を示している。
今日、細胞を培養するためには様々な作業が必要とされており、例えば培養液を交換する培養液交換作業、培養中の細胞を他の多数の培養容器1に移し替える継代作業、培養後の細胞を回収する回収作業といった作業では、培養容器1から液体を吸引し、また吸引した液体を排出する操作を伴うものとなっている。
従来、このような液体の吸引や排出を伴う作業は作業者による手作業によって行われており、作業者がピペットやシャーレを保持しながら、ピペットの先端をシャーレの所要の位置に位置させて、液体の吸引や排出を行っていた。
一方、近年では治療等を目的として大量の細胞を培養する必要が生じており、効率的な培養を行うために本実施例のような液体吸引排出装置2を用いることで、培養容器1に対して液体の吸引や排出を自動的に行うことが求められている。
本実施例の液体吸引排出装置2は、無菌環境下において培養容器1への液体の吸引や排出を行うことが可能となっており、さらに無菌環境においては、液体吸引排出装置2に隣接した部分においてその他の培養作業を行うことが可能となっている。
【0009】
上記液体吸引排出装置2は、上記培養容器1を支持する容器支持手段3と、複数のノズル4を先端を下方に向けた状態で支持するノズル支持手段5と、上記ノズル支持手段5のノズル4を傾斜させるノズル傾斜手段6と、上記ノズル支持手段5を傾斜させる全体傾斜手段7と、上記ノズル支持手段5を昇降させる全体昇降手段8とを備え、これらは図示しない制御手段によって制御されるようになっている。ここで、図1図2は上記ノズル4が鉛直下方を向いた状態の側面図および正面図を示し、図3は上記ノズル支持手段5および上記ノズル傾斜手段6を説明するための拡大図を示し、図4図5は上記ノズル傾斜手段6によってノズル4が傾斜した状態の側面図および正面図を示し、図6は上記全体傾斜手段7によってノズル4を支持するノズル支持部材21および培養容器1が傾斜した状態の正面図を示している。
【0010】
また本実施例で使用する培養容器1は従来公知のウェルプレートであって、一つの培養容器1には複数の収容部1aが複数列に整列して形成されている。本実施例の培養容器1は1列に3個の収容部1aが形成されて2列で計6個、もしくは1列に2個の収容部1aが形成されて3列で計6個の収容部1aを備えたものとなっている。
上記培養容器1に形成された収容部1aの底面は平坦となっており、当該平坦な底面を囲繞するように垂直な内壁面が形成されたものとなっている。このような形状を有する収容部1aは、平坦面に密着した状態で増殖する性質を有した細胞の培養に好適なものとなっている。
なお上記培養容器1としては、その他の構成を有したものを使用することができ、より多くの収容部1aが形成された培養容器1や、収容部1aの底面が球面状に形成された培養容器1であってもよい。
【0011】
上記容器支持手段3は、上記培養容器1を支持する板状の容器支持部材11と、所要の設置面に固定されたベース部12と、上記容器支持部材11を移動させる容器移動手段13と、上記容器支持部材11を傾斜させる容器傾斜手段14とを備えている。
上記容器支持部材11には培養容器1を所定の位置に位置決めする位置決め部材15が設けられており、図示しないロボットや、作業者によって培養容器1が設置されるようになっている。
上記容器移動手段13は従来公知のX-Yテーブルによって構成されており、上記容器支持部材11に支持された培養容器1を水平方向に移動させることが可能となっている。なお、容器移動手段13としてはX-Yテーブルに限らず、傾斜機能を備えた搬送装置であってもよい。
【0012】
上記容器傾斜手段14は、図2に示すように上記容器移動手段13に固定される固定板11Aと容器支持部材11との端部同士を回転可能に連結するヒンジ16と、進退するロッドの先端にカムフォロア17aを備えたエアシリンダ17と、上記エアシリンダ17のカムフォロア17aと係合するカム溝が形成されたカム18とから構成されている。
図2において、上記ヒンジ16は上記固定板11Aおよび容器支持部材11の一端側である図示左端部に設けられており、これにより容器支持部材11が他端側である図示右端部を揺動端として、ヒンジ16を中心に固定板11Aに対して上下に回動可能となっている。
容器支持部材11は平面視で矩形に形成されており、上記一端側となる矩形の一辺にヒンジ16が設けられて回転中心となり、この辺と平行に3個の収容部1aからなる列が配置されるよう、培養容器1が支持されている。
上記エアシリンダ17は、容器支持部材11のヒンジ16を設けた一端側の辺と直交する方向を向くように上記固定板11Aに固定され、当該一端側から離れる方向にロッドを伸長させることで、上記カムフォロア17aを水平方向に往復動させるようになっている。
上記カム18は板状に形成されて、上記容器支持部材11の下面にエアシリンダ17のロッドの進退方向と平行に垂下して固定されており、エアシリンダ17のロッドの進退方向に沿って上記カムフォロア17aが係合するカム溝が形成されている。当該カム溝は、エアシリンダ17のロッドの伸長する方向へと下降する傾斜を有している。
このような構成により、上記エアシリンダ17がロッドを後退させて、上記カムフォロア17aを図2図5に示すように容器支持部材11のヒンジ16を設けた一端側に引き寄せた状態では、上記容器支持部材11が水平となって培養容器1が水平に維持されるようになっている。
この水平状態から、図6に示すように上記エアシリンダ17のロッドを伸長させて、上記カムフォロア17aを容器支持部材11のヒンジ16を設けた一端側から離れるように位置させると、カムフォロア17aの移動に伴ってカム18を介して上記容器支持部材11が押し上げられて上記ヒンジ16を中心に上方に回動し、培養容器1の容器支持部材11のヒンジ16を設けた一端側が低く他端側が高くなるよう傾斜するようになっている。
【0013】
上記ノズル4は、上記ノズル支持手段5によって支持される筒状部材4aと、当該筒状部材4aの下端部に設けられた先端が円錐状のチップ4bとから構成されており、使用後には上記チップ4bを交換することが可能となっている。
また本実施例において、上記ノズル4は上記培養容器1に形成された複数の収容部1aの配列に対応させて、1列に3本で2列分もしくは1列に2本で3列分の計6本設けられている。なお、上記ノズル4の本数や整列態様は培養容器1の収容部1aの個数や整列状態に応じて適宜変更可能であり、複数列とせずにノズル4を1列に整列させることも可能である。
ここで上記説明では、直線上に複数の収容部1aやノズル4が並んだ状態を列とし、当該直線の前後方向を列方向としているが、必要に応じて、図1の側面図において断面で示した3個の収容部1aが整列した方向(図1の左右方向)を「列方向」とし、図2の正面図において断面で示した2個の収容部1aが整列した方向(図2の左右方向)を「列方向に直交する方向」として説明する場合があり、また各収容部1aに対応するノズル4の整列方向についても同様に説明する場合がある。
上記ノズル4はそれぞれポンプ等によって構成された吸引手段19に接続されており、当該吸引手段19が作動することで、各ノズル4にそれぞれ同量の液体を吸引し、吸引を解除することでノズル4内の液体を排出することが可能となっている。
【0014】
上記ノズル支持手段5は、複数のノズル4を先端を下方に向けた状態で所要の部分を支点として揺動可能に支持することにより、当該ノズル4の先端が凹面状の範囲内で移動可能となるように構成されたものとなっている。
図1図2および図3に示すように、上記ノズル支持手段5は、整列されたノズル4の位置に合わせて複数の貫通孔が穿設された板状のノズル支持部材21と、当該ノズル支持部材21の貫通孔に設けられて各ノズル4の所要の部分を支点として揺動可能に軸支する支点用球面軸受22とを備えている。
本実施例のノズル支持部材21は2枚の板状部材によって構成され、このうち下方の板状部材21aと連結することでノズル支持部材21が上記全体傾斜手段7に支持されており、図2図5に示すように、通常状態ではノズル支持部材21は上記全体傾斜手段7によって水平に保持されるとともに、必要に応じて図6に示すように、全体的に揺動されて傾斜されるようになっている。
上記ノズル支持部材21に穿設された6つの貫通孔の中心は、上記容器支持部材11に支持された培養容器1の収容部1aの中心と一致するように設けられ、ノズル支持部材21によって垂直に支持された各ノズル4の中心軸が培養容器1の各収容部1aの中心と一致するようになっている。
【0015】
上記支点用球面軸受22は上記ノズル支持部材21の上方の板状部材21bに形成された貫通孔のそれぞれに設けられており、ノズル支持部材21において同一平面に備えられている。
各支点用球面軸受22は、上記ノズル4の筒状部材4aの外周に固定用の筒体を介して装着された内輪22aと、上記上方の板状部材21bの貫通孔に嵌着された外輪22bとから構成され、上記内輪22aは上記外輪22bの内側であらゆる方向に回動自在となっている。
このような構成により、上記ノズル4は内輪22aの中心の位置を支点として揺動可能となっており、これによりノズル4が傾斜して当該支点より離隔したノズル4の先端部は凹面状の範囲内を移動するようになっている。
【0016】
上記ノズル傾斜手段6は、上記ノズル支持部材21の下方の板状部材21aの上面に移動可能に設けられた移動フレーム23と、当該移動フレーム23の上面に移動可能に設けられた板状のノズル傾斜部材24と、各ノズル4を摺動可能に支持する滑り軸受25と、上記滑り軸受25を揺動可能に軸支する傾斜用球面軸受26と、上記ノズル傾斜部材24を移動させる平行移動手段27とから構成されている。
上記移動フレーム23は、図3に示すように上下に設けられた下枠23aおよび上枠23bと、これら下枠23aと上枠23bとの間に設けられた脚部23cとによって構成され、上記下枠23aと上枠23bとは平行に設けられている。
また上記下枠23aは上記上方の板状部材21bを取り囲んで配置され、上枠23bは上記ノズル支持部材21に支持された全てのノズル4を取り囲んで、干渉しないように配置されている。
【0017】
そして上記ノズル支持部材21の下方の板状部材21aの上面には、3本のノズル4からなる列方向に第1レール28が設けられ、上記上枠23bの上面には第1レール28と直交する方向に第2レール29が設けられている。
上記第1レール28は上記上方の板状部材21bの周囲4か所に配置されて、上記移動フレーム23をノズル支持部材21に対して移動可能に支持し、上記第2レール29はノズル4の列方向前後に配置されて、上記ノズル傾斜部材24をノズル支持部材21および移動フレーム23に対して移動可能に支持している。
このような構成により、上記移動フレーム23および当該移動フレーム23に支持された上記ノズル傾斜部材24は上記第1レール28に沿ってノズル4の列方向に移動可能となっており、またノズル傾斜部材24は上記第2レール29に沿ってノズル4の列方向と直交する方向に移動可能となっている。
また上記構成により、上記ノズル支持部材21の上方の板状部材21bに支持される複数の支点用球面軸受22の配置平面と平行に、上記ノズル傾斜部材24を移動させることが可能となっている。
【0018】
上記ノズル傾斜部材24には、上記ノズル支持部材21に支持されるノズル4の配置に合わせて、1列に3個の貫通孔を2列分の計6個の貫通孔が形成されている。
これにより、上記移動フレーム23が上記第1レール28による移動範囲の中間に位置し、かつノズル傾斜部材24が上記第2レール29による移動範囲の中間に位置している状態では、上記ノズル支持部材21に支持される各ノズル4が、それぞれ上記ノズル傾斜部材24の対応する貫通孔の中心に位置して垂直に維持されるようになっている。
上記ノズル傾斜部材24の各貫通孔には、上記傾斜用球面軸受26を介して滑り軸受25が設けられており、各貫通孔の位置に対応する上記ノズル支持部材21に支持された各ノズル4の筒状部材4aが、対応する滑り軸受25に摺動自在に支持されている。
上記傾斜用球面軸受26は、上記滑り軸受25の外周に装着された内輪26aと、上記ノズル傾斜部材24の貫通孔の内側に嵌着された外輪26bとから構成され、上記内輪26aは上記外輪26bの内側であらゆる方向に回動自在となっている。
【0019】
このような構成により、上記各傾斜用球面軸受26および各滑り軸受25は上記ノズル傾斜部材24に支持されることで同一平面に配置され、上記ノズル傾斜部材24を上記ノズル支持部材21に対して平行移動させることで、図3(b)に示すように、上記各ノズル4を上記滑り軸受25を介して水平方向に押圧する。
ノズル4がノズル支持部材21と平行に押圧されると、当該押圧された部分が作用点となり、上記ノズル4における上記ノズル支持部材21によって支持されている支点用球面軸受22の回動中心部分が支点となって、ノズル4の先端が上記ノズル傾斜部材24の移動方向とは逆方向に揺動し、各ノズル4は同じ方向に傾斜した状態となる。
ここで、支点用球面軸受22を中心に揺動するノズル4に対して、上記ノズル傾斜部材24は当該ノズル4の上記作用点となる部分を接線方向に押圧するが、各ノズル4を滑り軸受25を介して支持したことにより、ノズル4を滑り軸受25との間で摺動させつつスムーズに傾斜させることができる。
また、ノズル傾斜部材24の複数の各貫通孔の位置関係、およびノズル支持部材21の複数の各貫通孔の位置関係は変化しないため、ノズル支持手段5に支持された全てのノズル4をノズル傾斜手段6によって、一斉に同じ方向に傾斜させることが可能となっている。
【0020】
上記平行移動手段27は、上記ノズル支持部材21の下方の板状部材21aに設けられて、上記移動フレーム23の移動を案内する上記第1レール28と、当該第1レール28に沿って上記移動フレーム23を移動させる第1モータ30と、上記移動フレーム23の上枠23bに設けられて、上記ノズル傾斜部材24の移動を案内する上記第2レール29と、当該第2レールに沿って上記ノズル傾斜部材24を移動させる第2モータ31とから構成されている。
上記第1モータ30は上記ノズル支持部材21の下方の板状部材21aの上面に固定され、上記第1レール28と平行に配置されたねじ軸30aを回転駆動し、上記移動フレーム23の下枠23aには上記ねじ軸30aと螺合するナット部材30bが設けられている。
一方、上記第2モータ31は上記移動フレーム23の上枠23bの上面に固定され、上記第2レール29と平行に配置されたねじ軸31aを回転駆動し、上記ノズル傾斜部材24には上記ねじ軸31aと螺合するナット部材31bが設けられている。
このような構成により、上記第1モータ30により上記移動フレーム23を進退動させることにより、上記ノズル傾斜部材24をノズル4の列方向前後に移動させることができ、第2モータ31によって上記ノズル傾斜部材24を進退動させることにより、上記ノズル傾斜部材24を上記ノズル4の列方向に対する直交方向前後に移動させることができる。これにより、各ノズル4をそれぞれ整列した列方向や列方向に直交する方向に向けて一斉に傾斜させることができる。
また第1モータ30および第2モータ31を連動させることで、上記ノズル傾斜部材24を二次元的な複合方向に移動させることが可能であり、これにより各ノズル4の先端を直線的な移動に限らず、円形や曲線の軌跡で移動させることができる。
【0021】
上記全体傾斜手段7は、図示しないサーボモータで回転駆動される水平に配置された駆動軸7aと、当該駆動軸7aに取り付けられた揺動部材7bとを備え、当該揺動部材7bに上記ノズル支持部材21の下方の板状部材21aを水平に連結させて支持している。
これにより、上記駆動軸7aを正逆に回動させることで、ノズル支持部材21およびノズル傾斜部材24を、上記駆動軸7aを中心とするノズル4の列方向と直交する円弧軌道で往復移動させて、ノズル支持部材21とともに複数のノズル4を一体的に傾斜させることが可能となっている。
上記全体昇降手段8は、モータや駆動シリンダ等の図示しないアクチュエータにより駆動されて、上記全体傾斜手段7を昇降させるようになっており、これによりノズル支持部材21およびノズル傾斜部材24を上下に移動させることができ、ノズル支持部材21とともに複数のノズル4を一体的に昇降させるようになっている。
【0022】
以下、上記構成を有する液体吸引排出装置2の動作について説明する。一例として培養容器1で培養した細胞を回収する際の動作を説明する。
上記細胞は上記収容部1aの底に接着した状態で増殖しており、当該細胞を回収するためには、最初に接着した細胞の周囲に液体を排出して剥離させる作業と、剥離した細胞が浮遊している培養液を吸引して回収する作業とが必要となる。
まず、培養容器1の各収容部1aの底に接着している細胞を剥離する際の動作を説明する。なお、以下の動作は制御手段に予め登録されており、自動的に行われるようになっている。
液体吸引排出装置2に細胞を収容した培養容器1をセットする際、上記ノズル支持部材21は上記全体昇降手段8によって上方に退避しており、培養容器1が上記位置決め部材15によって容器支持部材11の所要の位置にセットされると、図1図2に示すように全体昇降手段8が全体傾斜手段7を介してノズル支持部材21を下降させて、各ノズル4の先端が培養容器1の各収容部1aに挿入される。
このとき、収容部1aに収容された細胞の損傷を防止するため、ノズル4の先端を収容部1aの底面よりも上方に離隔し、かつ培養液に浸かる位置で停止させるよう、全体昇降手段8による下降量が調整される。
【0023】
続いて、吸引手段19を作動させて各ノズル4に所定量の培養液を吸引することで、各収容部1aに収容されていた培養液のほぼ全量が各ノズル4に収容される。
その後、上記ノズル傾斜手段6の平行移動手段27が作動し、第1モータ30の駆動により上記移動フレーム23およびノズル傾斜部材24をノズル4の列方向に移動させて、図4に示すように、各ノズル4の先端が底面の周縁を向くよう、ノズル4を列方向に傾斜させる。
なお、図4の例においては、上記移動フレーム23およびノズル傾斜部材24を第1モータ30に引き寄せるように所定量だけ移動させ、これにより各ノズル4の支点より上部を第1モータ30側に傾斜させて、ノズル4の先端を上部とは逆方向に向けるようにしている。
さらにこの状態から、第1、第2モータ30、31を連動させて、第1モータ30の駆動により上記移動フレーム23をノズル4の列方向に所定距離だけ往復動させるとともに、第2モータ31の駆動により上記ノズル傾斜部材24をノズル4の列方向と直交する方向に所定距離だけ往復動させる。
このような複合動作によって、上記ノズル傾斜部材24を円形の軌跡で移動させることができ、これに加えて容器移動手段13が培養容器1を旋回させるように移動させることで、各ノズル4がノズル支持部材21に支持された部分を支点として傾斜し、各ノズル4の先端が各収容部1aの内周に沿った円形の軌跡で移動するようになる。
上記制御手段には、ノズル4の先端の円形の軌跡が上記培養容器1の収容部1aの底面の外周縁に沿って円形に移動するよう、上記ノズル傾斜部材24や容器支持部材11の移動軌跡が登録されている。
このようにして各ノズル4の先端を収容部1aの底面の外周縁に沿って移動させながら、上記吸引手段19による吸引を解除することによってノズル4に吸引されていた培養液を排出させて、収容部1aの底面に接着している細胞を剥離させる。
このようなノズル4を傾斜させながらノズル4の先端部を収容部1aの底面の周縁に沿って移動させる操作は、作業者による実際の操作を再現したものとなっているが、作業者が行う場合は、収容部1aを1個ずつ処理するところ、本発明の液体吸引排出装置2によれば複数列に整列された全ての収容部1aに対して同時に処理することができる。
【0024】
次に、液体吸引排出装置2を用いて培養容器1から培養後の細胞を吸引する際の動作を説明する。このとき、培養容器1内で培養された細胞は、各収容部1aの底面から剥離されて培養液中に浮遊している。
始めに、図2に示すように各ノズル4を垂直に維持した状態で、先端が収容部1aの底面よりも上方でかつ培養液に浸かるようにし、その状態で吸引手段19を作動させ、各ノズル4に所定量の細胞を含んだ培養液を吸引することで、ほぼ全量の細胞を含む培養液が各ノズル4に収容される。
しかしながら、各収容部1aには依然として細胞を含む培養液が残存するため、この残存した培養液についても各ノズル4に吸引させる必要がある。
そこで、上記状態から図5に示すように、全体昇降手段8によりノズル支持部材21を上昇させて、一旦各ノズル4を各収容部1aの上方に位置させてから、上記ノズル傾斜手段6を構成する平行移動手段27の第2モータ31を作動させて、ノズル傾斜部材24を第2モータ31から離れる方向に所定量だけ移動させる。
これによって各ノズル4の支点より上部をノズル4の列方向と直交する方向であって第2モータ31から離れる方向に傾斜させて、各ノズル4の先端を上部とは逆方向に向ける。
その後、図6に示すように、全体傾斜手段7によりノズル支持部材21を先に各ノズル4を傾斜させた方向とは逆のノズル4の列方向と直交する方向に傾斜させて、支持している各ノズル4の姿勢を略垂直にする。
【0025】
一方で培養容器1を支持している容器支持部材11において、上記容器傾斜手段14のエアシリンダ17を作動させ、ピストンロッドを伸長させてカムフォロア17aをエアシリンダ17から離れる方向に移動させて、容器支持部材11とともに培養容器1を傾斜させる。
換言すると、この場合の容器支持部材11の傾斜方向は、各ノズル4を垂直にするためにノズル支持部材21を傾斜させた方向と同じ方向となる。
これにより、図6に示すように、培養容器1はヒンジ16の方向に向けて下るように傾斜し、この状態では各収容部1aは列方向と直交する方向に傾斜して、ヒンジ16に近い側の列が低く、遠い側の列はそれよりも高く位置した状態となる。
その結果、傾斜した培養容器1の各収容部1aでは、細胞を含んだ培養液が収容部1aの最も低い部分に集まる。
【0026】
また、容器支持部材11を傾斜させるのと同時に容器移動手段13を作動させて、全体傾斜手段7によりノズル支持部材21を傾斜させて各ノズル4を垂直にした際の、各ノズル4の先端の移動方向と同じ方向に容器支持部材11を移動させる。これにより培養容器1の上方で垂直姿勢となった各ノズル4の先端の直下に各収容部1aの最も低い部分が位置し、各ノズル4の先端と対応する各収容部1aの相対的な位置合わせが行われる。
このように位置合わせを行った状態で、全体昇降手段8を作動させて傾斜した状態のノズル支持部材21とともに各ノズル4を下降させて、傾斜された培養容器1の各収容部1aの最も低い部分に対応するノズル4の先端を接近させ、この状態で吸引手段19を作動させて残りの細胞を含んだ培養液を吸引して各収容部1aの液体を全て吸引する。
このように培養容器1を傾斜させるとともに、ノズル4の先端を収容部1aの最も低い部分に位置させた状態で液体を吸引する操作も、作業者による実際の操作を再現したものとなっているが、作業者が行う場合は収容部1aを1個ずつ処理するところ、本発明の液体吸引排出装置によれば複数列に整列された全ての収容部1aを対象に処理することができる。
【0027】
特に本発明においては、複数の各ノズル4をノズル支持部材21に対して、揺動可能に支持させて傾斜可能としたので、例えば図4に示すように、水平な容器支持部材11に支持された培養容器1の列方向に並んだ複数の収容部1aに対して、各ノズル4を同じ方向に先端の高さを揃えた状態で傾斜させることができる。
これにより、複数列に整列された全てのノズル4において同様に先端の高さを揃えて傾斜させることが可能となり、全ての収容部1aに対して同時に液体の排出を行うことができる。
さらには、図6に示すように、傾斜した容器支持部材11に支持された培養容器1の傾斜した方向に並ぶ複数の収容部1aに対して、列方向(本実施例では、列方向に直交する方向の列の方向)に並ぶ複数のノズル4を、先端が傾斜した容器支持部材11の下る方向に向くようノズル支持部材21に対して傾斜させ、さらに上記全体傾斜手段7によってノズル支持部材21を容器支持部材11と同じ方向に傾斜させることができる。
これにより、傾斜して列方向で高さの異なる各収容部1aの底面の最も低い部分に、列方向に並んだ各対応するノズル4の先端を向けることができ、全ての収容部1aより同時に液体の吸引を行うことができる。
【0028】
以上のように、本実施例の液体吸引排出装置2によれば、ノズル支持手段5によって複数の各ノズル4を揺動可能に軸支しているため、各ノズル4の先端を凹面状の範囲で移動させることが可能となっており、作業者による複雑な作業を再現することが可能となっている。
ここで、上述した動作は一例であり、本実施例の液体吸引排出装置2によれば、予め制御手段に登録することで、様々な機関によって行われている様々な操作を再現することが可能である。
またノズル支持手段5には複数のノズル4が支持されていることから、上述した複雑な作業を培養容器1の複数の収容部1aに対して同時に行うことが可能となっている。
【0029】
なお、上記実施例では上記ノズル支持手段5によってノズル4の所要の部分を支点として揺動可能に支持し、上記ノズル傾斜手段6が当該支点より上方の部分を作用点として押圧することで、各ノズル4を傾斜させている。
これに対し、作用点として押圧するのは、上記支点よりも下方の部分であってもよく、さらには作用点を押圧せずに、例えば上記ノズル支持手段5における支点用球面軸受22を、モータやエアシリンダ等のアクチュエータや磁力等の非接触的な動力による所要の駆動手段によって回転駆動させるようにしてもよい。
これにより、当該駆動手段を直接支点部分を回動させてノズル4を揺動させる上記ノズル傾斜手段6として構成することが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 培養容器 1a 収容部
2 液体吸引排出装置 3 容器支持手段
4 ノズル 5 ノズル支持手段
6 ノズル傾斜手段 7 全体傾斜手段
8 全体昇降手段 14 容器傾斜手段
21 ノズル支持部材 22 支点用球面軸受
24 ノズル傾斜部材 25 滑り軸受
26 傾斜用球面軸受 27 平行移動手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6