(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】吊上電磁石用制御装置
(51)【国際特許分類】
B66C 1/08 20060101AFI20241204BHJP
H01F 7/20 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
B66C1/08 C
H01F7/20 H
(21)【出願番号】P 2020162478
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(72)【発明者】
【氏名】田村 佳嗣
(72)【発明者】
【氏名】今泉 岳
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-152092(JP,A)
【文献】特開平03-073791(JP,A)
【文献】特開平02-295889(JP,A)
【文献】実開昭54-032753(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2010/0201468(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/08
H01F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁力によって鋼板を吊り上げる吊上電磁石の駆動を制御する吊上電磁石用制御装置であって、
前記吊上電磁石によって生じる磁束と前記鋼板の板厚とが関係付けられた板厚磁束特性が、励磁電流毎に記憶されている板厚磁束特性記憶部と、
前記吊上電磁石に流れる励磁電流を検出する励磁電流検出部と、
前記板厚磁束特性記憶部に記憶されている前記板厚磁束特性のうち、前記励磁電流検出部によって検出された励磁電流に対応する板厚磁束特性を取得する板厚磁束特性取得部と、
前記吊上電磁石に励磁電流を流した際に前記吊上電磁石によって生じる磁束を検出する磁束検出部と、
前記板厚磁束特性取得部によって取得された板厚磁束特性を用いて、前記磁束検出部によって検出された磁束に対応する板厚を、前記鋼板の板厚として検出する板厚検出部と、
を有
し、
前記板厚磁束特性記憶部には、励磁電流毎の前記板厚磁束特性が近似式として記憶されており、
前記板厚磁束特性取得部は、前記近似式から、前記励磁電流検出部によって検出された励磁電流に対応する板厚磁束特性を取得する、
吊上電磁石用制御装置。
【請求項2】
電磁力によって鋼板を吊り上げる吊上電磁石の駆動を制御する吊上電磁石用制御装置であって、
前記吊上電磁石によって生じる磁束と前記鋼板の板厚とが関係付けられた板厚磁束特性が、励磁電流毎に記憶されている板厚磁束特性記憶部と、
前記吊上電磁石に流れる励磁電流を検出する励磁電流検出部と、
前記板厚磁束特性記憶部に記憶されている前記板厚磁束特性のうち、前記励磁電流検出部によって検出された励磁電流に対応する板厚磁束特性を取得する板厚磁束特性取得部と、
前記吊上電磁石に励磁電流を流した際に前記吊上電磁石によって生じる磁束を検出する磁束検出部と、
前記板厚磁束特性取得部によって取得された板厚磁束特性を用いて、前記磁束検出部によって検出された磁束に対応する板厚を、前記鋼板の板厚として検出する板厚検出部と、
を有し、
前記励磁電流検出部は、電源に対して電気回路を介して電気的に並列に接続された複数の吊上電磁石のうち一つの吊上電磁石に流れる励磁電流を検出し、
前記板厚磁束特性取得部は、前記板厚磁束特性記憶部に記憶された板厚磁束特性から、前記励磁電流検出部によって検出された励磁電流に対応する板厚磁束特性を取得し、
前記磁束検出部は、前記一つの吊上電磁石によって生じる磁束を検出する、
吊上電磁石用制御装置。
【請求項3】
請求項
2に記載の吊上電磁石用制御装置において、
前記板厚磁束特性記憶部には、励磁電流毎の前記板厚磁束特性がテーブルデータとして記憶されており、
前記板厚磁束特性取得部は、前記テーブルデータから、前記励磁電流検出部によって検出された励磁電流に対応する板厚磁束特性を取得する、
吊上電磁石用制御装置
。
【請求項4】
請求項
1に記載の吊上電磁石用制御装置において、
前記励磁電流検出部は、電源に対して電気回路を介して電気的に並列に接続された複数の吊上電磁石のうち一つの吊上電磁石に流れる励磁電流を検出し、
前記板厚磁束特性取得部は、前記板厚磁束特性記憶部に記憶された板厚磁束特性から、前記励磁電流検出部によって検出された励磁電流に対応する板厚磁束特性を取得し、
前記磁束検出部は、前記一つの吊上電磁石によって生じる磁束を検出する、
吊上電磁石用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁力によって鋼板を吊り上げる吊上電磁石を制御する吊上電磁石用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁力によって鋼板を吊り上げる吊上電磁石を制御する吊上電磁石用制御装置が知られている。このような吊上電磁石用制御装置として、例えば特許文献1には、吊上電磁石および該吊上電磁石によって吊り上げられた鋼板に形成される磁気回路中の磁束を検出する磁束検出器の検出出力を用いて、前記鋼板の吸着、離脱を検出する吊上電磁石の鋼板吸着離脱検出装置が知られている。
【0003】
前記鋼板吸着離脱検出装置は、前記磁束検出器の検出出力を微分して得られるパルス信号をその極性別に計数することにより、前記鋼板の吸着数または離脱数を判別する、吸着離脱判別回路を備えている。
【0004】
これにより、吊上電磁石によって吊り上げられた鋼板の枚数が希望枚数と異なる場合、励磁電流を制御しつつ、磁束検出器により磁束を検出することによって、鋼板の吊足しまたは吊落しを検出することができる。よって、鋼板の吸着枚数の選択制御を容易かつ正確に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、引用文献1のような鋼板の吸着枚数の選択制御を行うためには、最初に、吊上電磁石によって吊り上げられた鋼板の枚数を精度良く検出する必要がある。吊上電磁石によって吊り上げられた鋼板の枚数を精度良く検出する方法として、磁束と鋼板の板厚との関係を用いる方法が従来から提案されている。
【0007】
具体的には、吊上電磁石によって生じる磁束と鋼板の板厚との関係を予め求め、その関係から、前記磁束検出器によって検出された磁束に対応する板厚を求める。そして、求めた板厚と鋼板一枚あたりの板厚とから、吊上電磁石によって吊り上げられている鋼板の枚数を求める。
【0008】
また、引用文献1のように吊上電磁石によって鋼板を吊り上げる際には、複数の吊上電磁石が用いられる場合がある。この場合には、前記複数の吊上電磁石に対してそれぞれ電力を供給することにより、吊上電磁石毎に鋼板を吊り上げることができる。
【0009】
鋼板を吊り上げる際の吊上電磁石の温度は、使用頻度や環境などによって異なる。このように複数の吊上電磁石の温度が異なる場合、前記複数の吊上電磁石の電気抵抗も異なる。よって、電気抵抗が異なる前記複数の吊上電磁石に対して同じ電圧を印加しても、吊上電磁石毎に流れる電流が異なる。そうすると、前記複数の吊上電磁石によって発生する磁束もばらつきが生じる。
【0010】
このように、前記複数の吊上電磁石によって発生する磁束がばらついている場合、上述のように鋼板の板厚を磁束と鋼板の板厚との関係を用いて求めようとすると、吊上電磁石毎に得られる板厚が異なるため、鋼板の板厚を正確に把握することが難しい。
【0011】
本発明の目的は、吊上電磁石によって吊り上げられた鋼板の板厚を精度良く検出可能な吊上電磁石用制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態に係る吊上電磁石用制御装置は、電磁力によって鋼板を吊り上げる吊上電磁石の駆動を制御する。吊上電磁石用制御装置は、前記吊上電磁石によって生じる磁束と前記鋼板の板厚とが関係付けられた板厚磁束特性が、励磁電流毎に記憶されている板厚磁束特性記憶部と、前記吊上電磁石に流れる励磁電流を検出する励磁電流検出部と、前記板厚磁束特性記憶部に記憶されている前記板厚磁束特性のうち、前記励磁電流検出部によって検出された励磁電流に対応する板厚磁束特性を取得する板厚磁束特性取得部と、前記吊上電磁石に励磁電流を流した際に前記吊上電磁石によって生じる磁束を検出する磁束検出部と、前記板厚磁束特性取得部によって取得された板厚磁束特性を用いて、前記磁束検出部によって検出された磁束に対応する板厚を、前記鋼板の板厚として検出する板厚検出部と、を有する(第1の構成)。
【0013】
複数の吊上電磁石に流れる励磁電流にばらつきが生じた場合、前記複数の吊上電磁石によって生じる磁束も吊上電磁石毎に異なる。これにより、前記複数の吊上電磁石による鋼板の吸着力もばらつきが生じるため、前記複数の吊上電磁石によって生じる磁束を用いて前記鋼板の板厚を検出する際に、吊上電磁石毎に検出される板厚が異なるという問題が生じる。
【0014】
これに対し、上述の構成を有する吊上電磁石用制御装置は、吊上電磁石に流れる励磁電流に対応する板厚磁束特性を取得し、該取得した板厚磁束特性を用いて、前記吊上電磁石によって生じる磁束に対応する鋼板の板厚を求める。これにより、前記複数の吊上電磁石に流れる励磁電流にばらつきが生じた場合でも、吊上電磁石によって吊り上げられた鋼板の板厚を精度良く検出することができる。
【0015】
前記第1の構成において、前記板厚磁束特性記憶部には、励磁電流毎の前記板厚磁束特性がテーブルデータとして記憶されている。前記板厚磁束特性取得部は、前記テーブルデータから、前記励磁電流検出部によって検出された励磁電流に対応する板厚磁束特性を取得する(第2の構成)。
【0016】
これにより、板厚磁束特性記憶部に予め記憶されたテーブルデータから、吊上電磁石に流れる励磁電流に対応する板厚磁束特性を選択することができる。よって、前記吊上電磁石に流れる励磁電流に基づいて、前記吊上電磁石によって吊り上げられた鋼板の板厚を精度良く検出することができる。
【0017】
前記第1の構成において、前記板厚磁束特性記憶部には、励磁電流毎の前記板厚磁束特性が近似式として記憶されている。前記板厚磁束特性取得部は、前記近似式から、前記励磁電流検出部によって検出された励磁電流に対応する板厚磁束特性を取得する(第3の構成)。
【0018】
これにより、板厚磁束特性記憶部に予め記憶された近似式から、吊上電磁石に流れる励磁電流に対応する板厚磁束特性を求めることができる。よって、前記吊上電磁石に流れる励磁電流に基づいて、前記吊上電磁石によって吊り上げられた鋼板の板厚を精度良く検出することができる。
【0019】
前記第1から第3の構成のうちいずれか一つの構成において、前記励磁電流検出部は、電源に対して電気回路を介して電気的に並列に接続された複数の吊上電磁石のうち一つの吊上電磁石に流れる励磁電流を検出する。前記板厚磁束特性取得部は、前記一つの吊上電磁石に流れる励磁電流に基づいて、前記板厚磁束特性記憶部に記憶された板厚磁束特性を取得する。前記磁束検出部は、前記一つの吊上電磁石によって生じる磁束を検出する(第4の構成)。
【0020】
このように電源に対して複数の吊上電磁石が電気的に並列に接続されている場合、前記複数の吊上電磁石における温度のばらつきなどにより、前記複数の吊上電磁石の電気抵抗にばらつきが生じて、前記複数の吊上電磁石に流れる励磁電流にばらつきが生じる。そうすると、前記複数の吊上電磁石によって生じる磁束も吊上電磁石毎に変わるため、前記複数の吊上電磁石による鋼板の吸着力にもばらつきが生じる。
【0021】
このような場合において、上述の構成では、前記複数の吊上電磁石のうち一つの吊上電磁石に流れる励磁電流を検出し、該検出した励磁電流に基づいて、前記複数の吊上電磁石によって吊り上げられた鋼板の板厚を検出する。これにより、各吊上電磁石を流れる励磁電流のばらつきに応じて、前記複数の吊上電磁石によって吊り上げられた鋼板の板厚を精度良く検出することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一実施形態に係る吊上電磁石用制御装置は、吊上電磁石によって生じる磁束と鋼板の板厚とが関係付けられた板厚磁束特性を、前記吊上電磁石に流れる励磁電流に応じて取得する。また、吊上電磁石用制御装置は、前記取得した板厚磁束特性を用いて、前記吊上電磁石に励磁電流を流した際に前記吊上電磁石によって生じる磁束に対応する前記鋼板の板厚を求める。
【0023】
これにより、複数の吊上電磁石によって鋼板を吊り上げる際に、前記複数の吊上電磁石に流れる励磁電流にばらつきが生じた場合でも、前記吊上電磁石によって吊り上げられた前記鋼板の板厚を精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る吊上電磁石用制御装置を備えた吊上電磁石装置の概略構成を示す制御回路図である。
【
図2】
図2は、吊上電磁石によって生じる磁束と、吊上電磁石によって吊り上げられた鋼板の板厚との関係を示す図である。
【
図3】
図3は、吊上電磁石用制御装置によって鋼板の板厚を検出する際の検出動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係る吊上電磁石用制御装置1を備えた吊上電磁石装置Xの概略構成を示す制御回路図である。この吊上電磁石装置Xは、複数の吊上電磁石2a,2b,2cによって生じる磁束により、複数の吊上電磁石2a,2b,2cに鋼板Mなどを吸引するための装置である。
【0027】
図1に示すように、吊上電磁石装置Xでは、吊上電磁石用制御装置1によって複数の電気回路3a,3b,3cの駆動を制御することにより、電源4から複数の吊上電磁石2a,2b,2cに電力が供給される。吊上電磁石装置Xでは、複数の吊上電磁石2a,2b,2cに供給する電力を制御することにより、複数の吊上電磁石2a,2b,2cに生じる磁束が制御される。よって、吊上電磁石用制御装置1によって複数の電気回路3a,3b,3cの駆動を制御することにより、複数の吊上電磁石2a,2b,2cの磁気吸引力が制御される。
【0028】
なお、本実施形態では、後述するように、吊上電磁石用制御装置1は、複数の電気回路3a,3b,3cのうち少なくとも一つの電気回路に対して選択的に駆動制御を行うことができるように構成されている。
【0029】
本実施形態の吊上電磁石装置Xは、複数の吊上電磁石2a,2b,2cと、複数の電気回路3a,3b,3cと、吊上電磁石用制御装置1とを有する。
【0030】
複数の吊上電磁石2a,2b,2cには、電気的に並列に接続された複数の電気回路3a,3b,3cによって電源4から電力が供給される。具体的には、吊上電磁石2aには、電気回路3aによって電源4から電力が供給される。吊上電磁石2bには、電気回路3bによって電源4から電力が供給される。吊上電磁石2cには、電気回路3cによって電源4から電力が供給される。すなわち、複数の吊上電磁石2a,2b,2cには、共通の電源4から電力が供給される。なお、本実施形態では、複数の吊上電磁石2a,2b,2cは、同様の構成を有する。
【0031】
複数の吊上電磁石2a,2b,2cは、サーチコイル5a,5b,5cを有する。サーチコイル5aは、吊上電磁石2aによって生じる磁束を検出する。サーチコイル5bは、吊上電磁石2bによって生じる磁束を検出する。サーチコイル5cは、吊上電磁石2cによって生じる磁束を検出する。
【0032】
複数の電気回路3a,3b,3cは、複数の吊上電磁石2a,2b,2cと電源4とを電気的に接続する。具体的には、電気回路3aは、吊上電磁石2aと電源4とを電気的に接続する。電気回路3bは、吊上電磁石2bと電源4とを電気的に接続する。電気回路3cは、吊上電磁石2cと電源4とを電気的に接続する。なお、本実施形態では、複数の電気回路3a,3b,3cは、同様の構成を有する。そのため、以下では、電気回路3aについてのみ説明する。
【0033】
電気回路3aは、一対の開閉器31,32と、放電回路33と、電流検出器34とを有する。電源4は、所定の電圧の直流電力を出力する。
【0034】
一対の開閉器31,32は、それぞれ、例えば電磁開閉器または電磁接触器である。一対の開閉器31,32のうち一方の開閉器31は、電源4の正極側の電源ラインPと吊上電磁石2aとを電気的に接続または切断し、他方の開閉器32は、電源4の負極側の電源ラインNと吊上電磁石2aとを電気的に接続または切断する。一対の開閉器31,32は、吊上電磁石用制御装置1から出力される駆動信号に応じて同時に開閉動作を行う。
【0035】
一対の開閉器31,32が閉じた状態では、電源4から電気回路3aを介して吊上電磁石2aに直流電力が供給される。一対の開閉器31,32が開いた状態では、電源4から吊上電磁石2aに直流電力は供給されない。よって、一対の開閉器31,32は、電源4から吊上電磁石2aへの直流電力の供給を制御する。
【0036】
放電回路33は、一対の開閉器31,32と吊上電磁石2aとの間で電源ラインP,Nを電気的に接続するように設けられている。放電回路33は、電源4および吊上電磁石2aに対して電気的に並列に接続されている。
【0037】
放電回路33は、放電回路用開閉器35と、所定の抵抗値を有する抵抗器36とを有する。放電回路33は、一対の開閉器31,32が開状態で且つ放電回路用開閉器35が閉状態のときに、吊上電磁石2aと閉回路を構成し、抵抗器36によって、吊上電磁石2aに貯えられた電力を消費する。すなわち、放電回路33は、吊上電磁石2aの放電を行う。
【0038】
放電回路用開閉器35は、例えば電磁開閉器または電磁接触器である。放電回路用開閉器35は、吊上電磁石用制御装置1によって、開閉状態を制御される。放電回路用開閉器35は、一対の開閉器31,32が開状態で且つ吊上電磁石2aの放電を行うときに、閉状態である。
【0039】
電流検出器34は、吊上電磁石2aに流れる電流を検出する。電流検出器34の出力は、吊上電磁石用制御装置1に入力される。なお、電流検出器34の出力は、吊上電磁石2aに対する電源4からの電力供給を制御する際に用いられてもよい。
【0040】
次に、吊上電磁石用制御装置1について説明する。前述したように、複数の電気回路3a,3b,3cおよび複数の吊上電磁石2a,2b,2cは、同様の構成である。したがって、以下では、吊上電磁石用制御装置1によって電気回路3aの駆動を制御することにより、吊上電磁石2aの駆動を制御する場合について説明する。吊上電磁石用制御装置1は、電気回路3aにおける一対の開閉器31,32および放電回路用開閉器35の駆動をそれぞれ制御する。
【0041】
具体的には、吊上電磁石用制御装置1は、一対の開閉器31,32の駆動を制御することにより、電源4から吊上電磁石2aへの電力供給を制御する。また、吊上電磁石用制御装置1は、吊上電磁石2aに流れる励磁電流および吊上電磁石2aによって生じる磁束に基づいて、吊上電磁石装置Xによって吊り上げられる鋼板Mの板厚Tを検出する。なお、吊上電磁石用制御装置1は、放電回路用開閉器35の駆動を制御することにより、吊上電磁石2aの放電を制御してもよい。
【0042】
詳しくは、吊上電磁石用制御装置1は、電流制御部10と、励磁電流検出部20と、板厚磁束特性記憶部30と、板厚磁束特性取得部40と、磁束検出部50と、板厚検出部60とを有する。
【0043】
電流制御部10は、一対の開閉器31,32および放電回路用開閉器35の駆動を制御する。電流制御部10は、一対の開閉器31,32および放電回路用開閉器35に対して、駆動信号を生成して出力する。電流制御部10は、一対の開閉器31,32の開閉を制御することにより、電源4から吊上電磁石2aへの電力供給を制御する。なお、電流制御部10は、一対の開閉器31,32が開状態のときに、放電回路用開閉器35を閉状態にすることにより、放電回路33によって吊上電磁石2aの放電を行ってもよい。
【0044】
励磁電流検出部20は、一対の開閉器31,32が閉じた状態で吊上電磁石2aに励磁電流が流れている際に、電流検出器34によって検出された励磁電流の値を取得する。すなわち、励磁電流検出部20は、電源4から吊上電磁石2aに電力が供給されて、吊上電磁石装置Xによって鋼板Mが吊り上げられている状態において、吊上電磁石2aに流れる励磁電流を検出する。
【0045】
板厚磁束特性記憶部30は、吊上電磁石2aによって生じる磁束と、吊り上げられた鋼板Mの合計の板厚Tとが関係付けられた板厚磁束特性を記憶している。前記板厚磁束特性は、吊上電磁石2aに流れる励磁電流によって異なる。板厚磁束特性記憶部30には、複数の励磁電流に対応する板厚磁束特性が記憶されている。なお、鋼板Mの合計の板厚Tを、以下では、単に鋼板Mの板厚ともいう。
【0046】
本実施形態では、板厚磁束特性記憶部30には、例えば、励磁電流毎の前記板厚磁束特性がテーブルデータとして記憶されている。具体的には、板厚磁束特性記憶部30には、
図2に示すようなグラフのデータが予めテーブルデータとして記憶されている。ここで、
図2は、吊上電磁石装置Xによって吊り上げられた鋼板Mの合計の板厚Tと、吊上電磁石2aによって生じる磁束(磁束検出器出力)との関係を示すグラフである。
図2における複数の曲線は、それぞれ、各励磁電流における板厚Tと磁束との関係を示す曲線である。すなわち、
図2における複数の曲線が、それぞれ、前記板厚磁束特性である。
図2に示す例では、吊上電磁石2aおよび鋼板によって形成される磁気回路に生じる磁束が同じ場合、励磁電流が小さいほど、板厚Tが大きくなる。
【0047】
板厚磁束特性取得部40は、板厚磁束特性記憶部30に記憶されている板厚磁束特性の中から、励磁電流検出部20によって取得された励磁電流の値に対応する板厚磁束特性を取得する。本実施形態では、板厚磁束特性記憶部30に前記テーブルデータが記憶されているため、板厚磁束特性取得部40は、励磁電流検出部20によって取得された励磁電流の値に基づいて、前記テーブルデータから前記板厚磁束特性を取得する。具体的には、板厚磁束特性取得部40は、
図2のグラフから、励磁電流検出部20によって取得された励磁電流に対応する曲線を選択する。
【0048】
磁束検出部50は、吊上電磁石2aおよび鋼板Mによって形成される磁気回路に生じる磁束を検出する磁束検出器である。磁束検出部50は、一対の開閉器31,32が閉じた状態で吊上電磁石装置Xによって鋼板Mが吊り上げられている際に、サーチコイル5aによって検出された誘導電圧の値を取得する。そして、磁束検出部50は、サーチコイル5aから取得した誘導電圧の値を積分することにより、磁束を求める。このように、磁束検出部50は、サーチコイル5aを用いて、吊上電磁石2aによって生じる磁束を検出する。
【0049】
板厚検出部60は、板厚磁束特性取得部40によって板厚磁束特性記憶部30から取得された板厚磁束特性を用いて、磁束検出部50によって検出された磁束に対応する板厚Tを検出する。本実施形態では、前述したように、板厚磁束特性記憶部30に記憶された
図2のグラフから、励磁電流検出部20によって検出された励磁電流に対応する曲線(
図2参照)が板厚磁束特性取得部40によって選択される。したがって、板厚検出部60は、板厚磁束特性取得部40によって選択された曲線から板厚Tを取得する。
【0050】
本実施形態では、吊上電磁石用制御装置1は、吊上電磁石選択部70を有する。吊上電磁石選択部70は、吊上電磁石用制御装置1に入力される信号に応じて、複数の吊上電磁石2a,2b,2cのうち一つの吊上電磁石を選択する。また、吊上電磁石選択部70は、選択された吊上電磁石に対応する電気回路の電流検出器を選択する。そして、吊上電磁石用制御装置1は、選択された吊上電磁石と該選択された吊上電磁石に流れる電流を検出する電流検出器とを用いて、吊り上げられた鋼板Mの板厚Tを検出する。
【0051】
本実施形態の構成により、複数の吊上電磁石のうち、いずれの吊上電磁石を用いても、吊上電磁石によって吊り上げられる鋼板Mの板厚Tを精度良く検出することができる。また、本実施形態の構成では、複数の電気回路3a,3b,3cおよび複数の吊上電磁石2a,2b,2cは、一つの電源4に対して電気的に並列に接続されている。これにより、複数の吊上電磁石2a,2b,2cに対してそれぞれ電源を接続する必要がないため、コンパクトで且つ低コストである吊上電磁石装置Xを得ることができる。
【0052】
図3は、吊上電磁石2aによって吊り上げられている鋼板Mの板厚Tを検出する際の吊上電磁石用制御装置1の検出動作を示すフローチャートである。なお、鋼板Mの板厚Tを検出する際には、電流制御部10が、一対の開閉器31,32を閉状態にするとともに、放電回路用開閉器35を開状態にする。この状態において、吊上電磁石装置Xによって、鋼板Mが吊り上げられている。
【0053】
図3に示すフローがスタートする(START)と、まずステップS1で、吊上電磁石用制御装置1は、板厚検出指令が入力されたかどうかを判定する。ステップS1において、板厚検出指令が入力されたと判定された場合(YESの場合)には、ステップS2に進む。ステップS2では、吊上電磁石選択部70が、複数の吊上電磁石2a,2b,2cから、鋼板Mの板厚を検出するために用いる一つの吊上電磁石を選択するとともに、選択された吊上電磁石に対応する電流検出器を選択する。
【0054】
一方、ステップS1において、板厚検出指令が入力されていないと判定された場合(NOの場合)には、吊上電磁石用制御装置1に板厚検出指令が入力されるまで、ステップS1の判定を繰り返す。
【0055】
続くステップS3では、励磁電流検出部20が、ステップS2において選択された電流検出器によって検出された励磁電流の値を取得する。次のステップS4では、板厚磁束特性取得部40が、板厚磁束特性記憶部30に予め記憶された複数の板厚磁束特性の情報を参照して、励磁電流検出部20によって取得された励磁電流の値に対応する板厚磁束特性を取得する。
【0056】
その後、ステップS5では、磁束検出部50が、選択された吊上電磁石のサーチコイルによって検出された誘導電圧の値を取得するとともに、前記取得した誘導電圧の値を積分することにより、磁束を求める。次のステップS6では、板厚検出部60が、板厚磁束特性取得部40によって取得された板厚磁束特性を用いて、磁束検出部50によって検出された磁束に対応する板厚Tを求め、該求めた板厚Tを鋼板Mの板厚として検出する。そして、ステップS7で、吊上電磁石用制御装置1は、鋼板Mの板厚Tをモニタなどの表示部に出力した後、このフローを終了する(END)。
【0057】
本実施形態に係る吊上電磁石用制御装置1は、吊上電磁石2aによって生じる磁束と鋼板Mの板厚Tとが関係付けられた板厚磁束特性が、励磁電流毎に記憶されている板厚磁束特性記憶部30と、吊上電磁石2aに流れる励磁電流を検出する励磁電流検出部20と、板厚磁束特性記憶部30に記憶されている前記板厚磁束特性のうち、励磁電流検出部20によって検出された励磁電流に対応する板厚磁束特性を取得する板厚磁束特性取得部40と、吊上電磁石2aに励磁電流を流した際に吊上電磁石2aによって生じる磁束を検出する磁束検出部50と、板厚磁束特性取得部40によって取得された板厚磁束特性を用いて、磁束検出部50によって検出された磁束に対応する板厚Tを、鋼板Mの板厚として検出する板厚検出部60と、を有する。
【0058】
複数の吊上電磁石2a,2b,2cに流れる励磁電流にばらつきが生じた場合、複数の吊上電磁石2a,2b,2cによって生じる磁束も吊上電磁石毎に変わる。これにより、複数の吊上電磁石2a,2b,2cによる鋼板Mの吸着力もばらつくため、吊上電磁石2a,2b,2cによって生じる磁束に基づいて鋼板Mの板厚Tを検出する際に、吊上電磁石毎に検出される板厚Tが異なるという問題が生じる。
【0059】
これに対し、上述の構成を有する吊上電磁石用制御装置1は、吊上電磁石2aに流れる励磁電流に対応する板厚磁束特性を取得し、該取得した板厚磁束特性を用いて、吊上電磁石2aによって生じる磁束に対応する板厚Tを取得する。これにより、複数の吊上電磁石2a,2b,2cに流れる励磁電流にばらつきが生じた場合でも、吊上電磁石によって吊り上げられた鋼板Mの板厚Tを精度良く検出することができる。
【0060】
本実施形態では、板厚磁束特性記憶部30には、励磁電流毎の前記板厚磁束特性がテーブルデータとして記憶されている。板厚磁束特性取得部40は、前記テーブルデータから、励磁電流検出部20によって検出された励磁電流に対応する板厚磁束特性を取得する。
【0061】
これにより、板厚磁束特性記憶部30に予め記憶されたテーブルデータから、吊上電磁石2aに流れる励磁電流に対応する板厚磁束特性を選択することができる。よって、吊上電磁石2aに流れる励磁電流に基づいて、吊上電磁石によって吊り上げられた鋼板Mの板厚Tを精度良く検出することができる。
【0062】
また、本実施形態では、励磁電流検出部20は、電源4に対して電気回路3a,3b,3cを介して電気的に並列に接続された複数の吊上電磁石2a,2b,2cのうち一つの吊上電磁石2aに流れる励磁電流を検出する。板厚磁束特性取得部40は、吊上電磁石2aに流れる励磁電流に基づいて、板厚磁束特性記憶部30に記憶された板厚磁束特性を取得する。磁束検出部50は、吊上電磁石2aによって生じる磁束を検出する。
【0063】
このように電源4に対して複数の吊上電磁石2a,2b,2cが電気的に並列に接続されている場合、複数の吊上電磁石2a,2b,2cにおける温度のばらつきなどにより、複数の吊上電磁石2a,2b,2cの電気抵抗にばらつきが生じて、複数の吊上電磁石2a,2b,2cに流れる励磁電流にばらつきが生じる。そうすると、複数の吊上電磁石2a,2b,2cによって生じる磁束も吊上電磁石毎に変わるため、複数の吊上電磁石2a,2b,2cによる鋼板Mの吸着力にもばらつきが生じる。
【0064】
このような場合において、上述の構成では、複数の吊上電磁石2a,2b,2cのうち一つの吊上電磁石2aに流れる励磁電流を検出し、該検出した励磁電流に基づいて、吊上電磁石2aによって吊り上げられた鋼板Mの板厚Tを検出する。これにより、各吊上電磁石を流れる励磁電流のばらつきに応じて、各吊上電磁石によって吊り上げられた鋼板Mの板厚Tを精度良く検出することができる。
【0065】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0066】
前記実施形態では、板厚磁束特性記憶部30には、吊上電磁石2aによって生じる磁束と鋼板Mの板厚Tとが関係付けられた板厚磁束特性が、励磁電流毎に、テーブルデータとして予め記憶されている。そして、板厚磁束特性取得部40は、前記テーブルデータから、吊上電磁石2aに流れる励磁電流に対応する板厚磁束特性を取得する。しかしながら、板厚磁束特性取得部は、板厚磁束特性記憶部に予め記憶された近似式を用いて、吊上電磁石に流れる励磁電流に対応する板厚磁束特性を取得してもよい。
【0067】
具体的には、板厚磁束特性記憶部には、吊上電磁石によって生じる磁束と鋼板Mの板厚Tとが関係付けられた板厚磁束特性が、励磁電流毎に、近似式として記憶されていてもよい。この場合、板厚磁束特性取得部は、励磁電流検出部によって検出された励磁電流および前記近似式を用いて板厚磁束特性を取得する。
【0068】
これにより、板厚磁束特性記憶部にテーブルデータを記憶する場合に比べて、前記板厚磁束特性記憶部に記憶するデータ量を低減することができる。
【0069】
なお、板厚磁束特性記憶部には、前記近似式として、励磁電流を変数とする、前記板厚磁束特性の一般式が記憶されていてもよい。
【0070】
前記実施形態では、吊上電磁石選択部70は、複数の吊上電磁石2a,2b,2cのうち一つを選択するとともに、選択された吊上電磁石に流れる電流を検出する電流検出器を選択する。しかしながら、吊上電磁石選択部は、複数の吊上電磁石のうち2つ以上の吊上電磁石を選択し、その選択された各吊上電磁石に対応する電流検出器を選択してもよい。
【0071】
前記実施形態では、磁束検出部50によって磁束を検出するタイミングは、板厚磁束特性取得部40によって板厚磁束特性記憶部30から板厚磁束特性を取得した後である。しかしながら、磁束検出部によって磁束を検出するタイミングは、板厚磁束特性取得部によって板厚磁束特性記憶部から板厚磁束特性を取得する前であってもよいし、励磁電流検出部によって励磁電流を検出する前であってもよい。
【0072】
前記実施形態では、吊上電磁石装置Xは、3つの吊上電磁石2a,2b,2cを有する。しかしながら、吊上電磁石装置は、2つ以下の吊上電磁石を有していてもよいし、4つ以上の吊上電磁石を有していてもよい。
【0073】
前記実施形態では、吊上電磁石装置Xの電気回路3aは、放電回路33を有する。しかしながら、吊上電磁石装置の電気回路は、放電回路を有していなくてもよい。
【0074】
前記実施形態では、吊上電磁石用制御装置1が、一対の開閉器31,32および放電回路33の放電回路用開閉器35の駆動を制御する。しかしながら、吊上電磁石装置は、吊上電磁石によって吊り上げられている鋼板の板厚を検出する吊上電磁石用制御装置とは別に、一対の開閉器および放電回路用開閉器の駆動を制御する制御装置を有していてもよい。
【0075】
前記実施形態では、複数の電気回路3a,3b,3cおよび複数の吊上電磁石2a,2b,2cは、一つの電源4に対して電気的に並列に接続されている。しかしながら、複数の電気回路および複数の吊上電磁石のうち、一部のみが、一つの電源に対して電気的に並列に接続されていてもよい。また、複数の電気回路および複数の吊上電磁石は、異なる電源に接続されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、電磁力によって鋼板を吊り上げる吊上電磁石を有する吊上電磁石装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0077】
X 吊上電磁石装置
1 吊上電磁石用制御装置
2a、2b、2c 吊上電磁石
3a、3b、3c 電気回路
4 電源
5a、5b、5c サーチコイル
31、32 開閉器
34 電流検出器
10 電流制御部
20 励磁電流検出部
30 板厚磁束特性記憶部
40 板厚磁束特性取得部
50 磁束検出部
60 板厚検出部
70 吊上電磁石選択部
M 鋼板
P 正極側の電源ライン
N 負極側の電源ライン
T 板厚