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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】重荷重用タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20241204BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20241204BHJP
   B60C 9/18 20060101ALI20241204BHJP
   B60C 15/06 20060101ALI20241204BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20241204BHJP
   C08K 5/25 20060101ALI20241204BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
B60C11/00 B
B60C1/00 A
B60C9/18 G
B60C11/00 F
B60C15/06 C
C08L7/00
C08K5/25
C08K3/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021104865
(22)【出願日】2021-06-24
(65)【公開番号】P2023003655
(43)【公開日】2023-01-17
【審査請求日】2024-03-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】広田 哲也
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-043143(JP,A)
【文献】特開平11-034608(JP,A)
【文献】国際公開第2019/017417(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/108370(WO,A1)
【文献】特開2020-117580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-99/00
C08L 7/00
C08K 5/25
C08K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、前記一対のサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された5層以上のベルト層とを有し、前記トレッド部が、前記トレッド部の踏面を構成するキャップトレッド層と、前記キャップトレッド層のタイヤ径方向内側に配置されたアンダートレッド層との2層で構成され、前記トレッド部の外表面に複数本の溝が形成された空気入りタイヤにおいて、
タイヤ子午線断面において、接地端を通り前記カーカス層のタイヤ径方向外側の表面に垂直な直線を垂線Pとしたとき、前記5層以上のベルト層のうち幅が最も大きい最幅広ベルトと前記カーカス層との間の前記垂線P上で測定される距離Aと、前記複数本の溝のうち最大深さを有する最深溝の溝底を通り前記トレッド部の外表面の輪郭線に平行な溝底ラインLとタイヤ内表面との間の前記垂線P上で測定される距離Bとが0.3≦A/B≦0.7の関係を満たし、
前記アンダートレッド層が、天然ゴムを70質量%以上含有するゴム成分100質量部に対して、下記式(1)で表されるヒドラジド化合物0.5質量部~3.0質量部と、窒素吸着比表面積N2SAが60m2/g~120m2/gであるカーボンブラック30質量部~60質量部とが配合されたゴム組成物で構成されたことを特徴とする重荷重用タイヤ。
【化1】
(前記式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1~18のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記ベルト層の層数が5層~6層であることを特徴とする請求項1に記載の重荷重用タイヤ。
【請求項3】
前記ベルト層のそれぞれがタイヤ周方向に対して傾斜する複数本のスチールワイヤを含み、各ベルト層における前記スチールワイヤのタイヤ周方向に対する傾斜角度が3°以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の重荷重用タイヤ。
【請求項4】
前記ビード部における前記カーカス層の外周側に配置されたリムクッションゴム層を構成するゴムのJIS‐A硬度が64以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の重荷重用タイヤ。
【請求項5】
前記リムクッションゴム層を構成するゴムのJIS‐A硬度が67以上であることを特徴とする請求項4に記載の重荷重用タイヤ。
【請求項6】
前記ビード部における前記カーカス層の外周側にリムクッションゴム層が配置され、前記アンダートレッド層を構成するゴム組成物のJIS-A硬度が、前記リムクッションゴム層を構成するゴムのJIS-A硬度よりも低いことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の重荷重用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部におけるカーカス層の外周側に5層以上のベルト層が埋設された重荷重用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
トラック、バス、建設用車両等に使用される重荷重用タイヤは、耐久性を確保するために、トレッド部におけるカーカス層の外周側に、主としてスチールワイヤで構成された複数のベルト層が配置されている。特に、採石場や大規模な建設作業場等で稼働する大型ダンプ等の大型建設用車両に装着される重荷重用タイヤは、重荷重が載積された状態で長時間使用されることが多く、優れた耐久性を有することが求められる。例えば、特許文献1に記載される重荷重用タイヤは、5層以上のスチールベルト層を備えることで、重荷重載積に対する耐久性を確保している。
【0003】
一方で、大型建設用車両向けの重荷重用タイヤは、前述のように重荷重が載積された状態で長時間使用されるため、タイヤが発熱して過熱状態になりやすい傾向があり、発熱を抑制する対策が求められる。また、重荷重用タイヤにおける発熱の抑制は、発熱に起因するバーストの防止効果が見込めるため、耐久性の観点からも低発熱化は重要である。更に、近年、輸送効率の向上のためにタイヤの大型化が進んでいるため、重荷重用タイヤにおける低発熱化は非常に重要な課題となっている。ところが、前述の5層以上のスチールベルト層を備えたタイヤでは、ベルト層の数が多いため、発熱を抑制することが難しく、耐久性と低発熱性の両立が難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7‐117408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、低発熱性を悪化させることなく、耐久性を向上することを可能にした重荷重用タイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の重荷重用タイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、前記一対のサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された5層以上のベルト層とを有し、前記トレッド部が、前記トレッド部の踏面を構成するキャップトレッド層と、前記キャップトレッド層のタイヤ径方向内側に配置されたアンダートレッド層との2層で構成され、前記トレッド部の外表面に複数本の溝が形成された空気入りタイヤにおいて、タイヤ子午線断面において、接地端を通り前記カーカス層のタイヤ径方向外側の表面に垂直な直線を垂線Pとしたとき、前記5層以上のベルト層のうち幅が最も大きい最幅広ベルトと前記カーカス層との間の前記垂線P上で測定される距離Aと、前記複数本の溝のうち最大深さを有する最深溝の溝底を通り前記トレッド部の外表面の輪郭線に平行な溝底ラインLとタイヤ内表面との間の前記垂線P上で測定される距離Bとが0.3≦A/B≦0.7の関係を満たし、前記アンダートレッド層が、天然ゴムを70質量%以上含有するゴム成分100質量部に対して、下記式(1)で表されるヒドラジド化合物0.5質量部~3.0質量部と、窒素吸着比表面積N2SAが60m2/g~120m2/gであるカーボンブラック30質量部~60質量部とが配合されたゴム組成物で構成されたことを特徴とする(尚、下記式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1~18のアルキル基を表す)。
【0007】
【化1】
【発明の効果】
【0008】
本発明の空気入りタイヤは、5層以上のベルト層を設けて耐久性を向上するにあたって、比A/Bの範囲を上述のように設定しているので、ベルト層(特に、最幅広ベルト)の端部を、溝底ラインとタイヤ内表面との間の適切な位置に配置することができ、ベルトエッジの歪を適切に分散し、耐久性を効果的に高めることができる。一方で、ベルト層の数が多いことで発熱性が悪化することが懸念されるが、アンダートレッド層が上述のゴム組成物で構成されているので、発熱を効果的に抑制することができる。特に、上述のヒドラジド化合物とカーボンブラックを用いているので、カーボンブラックを効果的に分散して、低発熱化を図ることができる。これらの協働により、優れた耐久性と低発熱性をバランスよく高度に両立することができる。
【0009】
本発明において、ベルト層の層数が5層~6層であることが好ましい。このようにベルト層の数を最適化することで、ベルト層の数が過剰になって低発熱性が悪化することを防止しながら、耐久性を向上することができる。
【0010】
本発明において、ベルト層のそれぞれがタイヤ周方向に対して傾斜する複数本のスチールワイヤを含み、各ベルト層におけるスチールワイヤのタイヤ周方向に対する傾斜角度が3°以上であることが好ましい。これにより、耐久性を向上するには有利になる。
【0011】
本発明において、ビード部におけるカーカス層の外周側に配置されたリムクッションゴム層を構成するゴムのJIS‐A硬度が64以上であることが好ましい。特に、リムクッションゴム層を構成するゴムのJIS‐A硬度は67以上であることが好ましい。このようにリムクッションゴム層の硬度を十分に確保することで、タイヤの耐久性を向上するには有利になる。
【0012】
尚、本発明において、カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2SAは、JIS K6217‐2に準拠して測定するものとする。硬度は、各ゴム層を構成するゴムのJIS‐A硬度であり、JIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより温度20℃で測定されたゴムの硬さである。
【0013】
本発明において、「接地端」とは、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で平面上に垂直に置いて正規荷重を加えたときに形成される接地領域のタイヤ軸方向の両端部である。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”である。「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の空気入りタイヤの一例を示す子午線半断面図である。
図2図1のトレッド部の一部を拡大して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。尚、図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0017】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより挟み込まれている。
【0018】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には5層以上(図示の例では6層)のベルト層7が埋設されている。このようにベルト層7の数を多くすることで、耐久性を確保することができる。ベルト層7の数が5層未満であると、十分な耐久性を確保することができない。ベルト層7の数が過剰になって低発熱性が悪化することを防止する観点から、ベルト層7の数は好ましくは5層~6層に設定するとよい。
【0019】
各ベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜して延在する複数本の補強コード(スチールワイヤ)を含む。各ベルト層におけるスチールワイヤのタイヤ周方向に対する傾斜角度は、耐久性の観点から好ましくは3°以上、より好ましくは3°~35°であるとよい。尚、ベルト層7の外周側(タイヤ径方向最外側のベルト層の外周側)には、最外層のベルト層のエッジセパレーションを防止するために、ワイヤー等の補強材を含まずにゴムのみで構成されて、最外層のベルト層のエッジを覆うように配置されたベルトカバーシート(不図示)を設けてもよい。
【0020】
タイヤ内面にはカーカス層4に沿ってインナーライナー層8が設けられている。このインナーライナー層8は、タイヤ内に充填された空気がタイヤ外に透過することを防ぐための層である。インナーライナー層9は、例えば、空気透過防止性能を有するブチルゴムを主体とするゴム組成物で構成される。或いは、熱可塑性樹脂をマトリクスとする樹脂層で構成することもできる。樹脂層の場合、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマー成分を分散させたものであってもよい。
【0021】
トレッド部1において、上述のカーカス層4およびベルト層7の外周側にはトレッドゴム層10が配置される。本発明では、トレッドゴム層10は、物性の異なる2種類のゴム層(キャップトレッド層11およびアンダートレッド層12)がタイヤ径方向に積層した構造を有する。キャップトレッド層11は、アンダートレッド層12の外周側に配置されてトレッド部1の踏面を構成する。アンダートレッド層12は、キャップトレッド層11とベルト層7(タイヤ径方向最外側のベルト層)との間に挟まれる位置に配置される。但し、前述のベルトカバーシートを備える場合は、キャップトレッド層11とベルトカバーシートとの間に挟まれる位置に配置される。尚、サイドウォール部2におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはサイドゴム層20が配置され、ビード部3におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはリムクッションゴム層30が配置されている。
【0022】
トレッド部1の外表面には複数本の溝40が形成される。溝40としては、タイヤにおいて一般的に形成される溝、即ち、タイヤ周方向に沿って延在する主溝、タイヤ幅方向に沿って延在するラグ溝などを設けることができる。以降の説明では、これら溝の延長方向に拘らず、最大深さを有する溝を最深溝41という場合がある。
【0023】
本発明では、図2に示すように、タイヤ子午線断面において、接地端Eを通りカーカス層4のタイヤ径方向外側の表面に垂直な直線を垂線Pとする。また、前述の5層以上のベルト層7のうち幅が最も大きい層を最幅広ベルト7Aとし(図示の例では、6層のベルト層7のうち最外層から2番目の層)、この最幅広ベルト7Aのタイヤ径方向内側の表面とカーカス層4のタイヤ径方向外側の表面との間の垂線P上で測定される距離をAとする。更に、前述の最深溝41の溝底を通りトレッド部1の外表面の輪郭線に平行な曲線を溝底ラインLとし、この溝底ラインLとタイヤ内表面(インナーライナー層8のタイヤ内腔が側の表面)との間の垂線P上で測定される距離をBとする。尚、溝底ラインLに関して、「外表面の輪郭線に平行」とは、溝底ラインL上のすべての点で外表面の輪郭線と法線を共有することを意味する。上記のように、距離A,Bを定義したとき、これら距離A,Bの比A/Bは0.3≦A/B≦0.7の関係を満たす。比A/Bの範囲を上述のように設定しているので、ベルト層7(特に、最幅広ベルト7A)の端部を、溝底ラインLとタイヤ内表面との間の適切な位置に配置することができ、ベルトエッジの歪を適切に分散し、耐久性を効果的に高めることができる。比A/Bが0.3未満であると、最幅広ベルト7Aの端部がタイヤ内腔側に寄りすぎて、ベルトエッジの歪を十分に分散できないため、耐久性を向上する効果が見込めなくなる。比A/Bが0.7を超えると、最幅広ベルト7Aの端部がタイヤ外周側に寄りすぎて、ベルトエッジの歪を十分に分散できないため、耐久性を向上する効果が見込めなくなる。
【0024】
本発明では、ベルト層7の数が多いことに起因する発熱への影響を抑制するために、上述のベルト層7の構造だけでなく、アンダートレッド層12に後述のゴム組成物を使用している。
【0025】
アンダートレッド層12を構成するゴム組成物(以下、本発明のタイヤ用ゴム組成物という)において、ゴム成分は、ジエン系ゴムであり、天然ゴムを必ず使用する。天然ゴムを含むことにより、耐久性をより優れたものにすることができる。天然ゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられるものを使用することができる。天然ゴムの含有量は、ゴム成分100質量%中、70質量%以上、好ましくは80質量%~100質量%、より好ましくは100質量%である。天然ゴムの含有量が70質量%未満であると、耐久性を十分に改良することができない。
【0026】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述の天然ゴム以外に、他のジエン系ゴムを含有することができる。他のジエン系ゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に一般的に使用可能なゴムを用いることができる。例えば、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム等を挙げることができる。他のジエン系ゴムは、単独または任意のブレンドとして使用することができる。尚、ジエン系ゴムの分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
【0027】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、下記式(1)で表されるヒドラジド化合物が必ず配合される(尚、下記式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1~18のアルキル基を表す)。
【0028】
【化2】
【0029】
具体的には、1-ヒドロキシ-N’-(1-メチルエチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、1-ヒドロシキ-N’-(1-メチルプロピリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、1-ヒドロキシ-N’-(1-メチルブチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、1-ヒドロキシ-N’-(1,3-ジメチルブチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、3-ヒドロキシ-N’-(1-メチルエチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、3-ヒドロキシ-N’-(1-メチルプロピリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、3-ヒドロキシ-N’-(1-メチルブチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、3-ヒドロキシ-N′-(1,3-ジメチルブチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド等が挙げられる。中でも、本発明の効果の観点から、下記式(2)で表されるヒドラジド化合物を好適に用いることができる。
【0030】
【化3】
【0031】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、カーボンブラックが必ず配合される。本発明で使用するカーボンブラックは、窒素吸着比表面積N2SAが60m2/g~120m2/g、好ましくは70m2/g~120m2/gである。このような粒径のカーボンブラックを使用することで、ゴム組成物の発熱性を低く抑えしながら、ゴム硬度、引張り破断強度、引張り破断伸び等の機械的物性を改良し、タイヤ耐久性を向上することができる。カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2SAが60m2/g未満であると、耐久性が低下する。カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2SAが120m2/gを超えると、発熱性が悪化する。
【0032】
カーボンブラックの配合量は、前述のゴム成分100質量部に対して、30質量部~60質量部、好ましくは35質量部~50質量部である。カーボンブラックの配合量が30質量部未満であると、ゴム組成物に対する補強性能を十分に得ることができず、耐久性が低下する。カーボンブラックの配合量が60質量部を超えるとゴム組成物の発熱性が大きくなると共に、引張り破断伸びが低下して耐久性が低下する。
【0033】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述の配合剤の他に、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム等の各種充填剤、加硫または架橋剤、加硫促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤、亜鉛華などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲内で配合することができる。
【0034】
前述の各種添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫または架橋するのに使用することができる。これら添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。タイヤ用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0035】
本発明は、上述のように、基本的にトレッド部1に関するものであるので、他の部位や構成部材については特に限定されない。但し、上述の構造やゴム組成物を採用した場合に、タイヤ全体のバランスを考慮して、リムクッションゴム層30を構成するゴムのJIS‐A硬度を好ましくは64以上、より好ましくは67以上、更に好ましくは67以上73以下に設定するとよい。これにより、トレッド部1およびビード部3の協働により、タイヤの耐久性を効果的に高めることができる。リムクッションゴム層30の硬度が上述の範囲を下回ると、リムクッションゴム層30によって耐久性を向上する効果が十分に見込めなくなる。尚、リムクッションゴム層30を構成するゴムのJIS‐A硬度は、例えば、リムクッションゴム層30を構成するゴムに配合されるカーボンブラックやシリカなどの充填剤や樹脂、硫黄の配合量を調節することで設定することができる。
【0036】
尚、上述のリムクッションゴム層30を構成するゴムと対比したとき、アンダートレッド層12を構成するゴム(上述の本発明のタイヤ用ゴム組成物)は、リムクッションゴム層30を構成するゴムよりも低硬度であるとよい。アンダートレッド層12を構成するゴム(上述の本発明のタイヤ用ゴム組成物)の具体的な硬度は特に限定されない。
【0037】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0038】
表1~3に示す配合からなる29種類のタイヤ用ゴム組成物(標準例1、比較例1~14、実施例1~14)をそれぞれアンダートレッド層(アンダートレッドゴム)に使用し、図1に示す基本構造を有し、構造(ベルト層の数、タイヤ周方向に対するベルトコードの傾斜角度の最小値、比A/B)および硬度(アンダートレッド層、リムクッションゴム層)を表1~3のように設定し、タイヤサイズが46/90R57である空気入りタイヤ(試験タイヤ)を製造した。尚、これら29種類のタイヤ用ゴム組成物を調製する際には、それぞれ加硫促進剤および硫黄を除く配合成分を秤量し、1.7Lの密閉式バンバリーミキサーで4分間混練し、マスターバッチを放出し室温冷却した。その後、このマスターバッチを1.7Lの密閉式バンバリーミキサーに供し、加硫促進剤および硫黄を加え3分間混合して、29種類のタイヤ用ゴム組成物を得た。
【0039】
尚、表1~3の「ベルトコードの角度(最小値)」の欄は、複数層のベルト層のそれぞれにおけるタイヤ周方向に対するベルトコードの傾斜角度のうちの最小値である。「距離A」は、複数層のベルト層のうち幅が最も大きい最幅広ベルトとカーカス層との間の垂線P上で測定される距離である。「距離B」は、溝底ラインLとタイヤ内表面との間の垂線P上で測定される距離である。各例のアンダートレッド層およびリムクッションゴム層の硬度は、それぞれの層を構成するゴム組成物を用いて、所定形状の金型を用いて145℃、35分間加硫し、各タイヤ用ゴム組成物からなる加硫ゴム試験片を作成して測定したものである。具体的には、JIS K6253に準拠し、デュロメータのタイプAにより温度20℃の条件で測定したデュロメータ硬さである。
【0040】
各試験タイヤについて、下記に示す方法により、低発熱性、耐久性の評価を行った。
【0041】
アンダートレッド層の低発熱性
各例のアンダートレッド層に使用したタイヤ用ゴム組成物(標準例1、比較例1~14、実施例1~14)を用いて、所定形状の金型を用いて145℃、35分間加硫し、各タイヤ用ゴム組成物からなる加硫ゴム試験片を作成した。この加硫ゴム試験片を用いて、JIS K6394:2007に準拠して、粘弾性スペクトロメータ(東洋精機製作所製)を使用し、伸張変形歪率10±2%、振動数20Hz、温度60℃の条件で、tanδ(60℃)を測定した。結果は、測定値の逆数を用いて、標準例1の値を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど、アンダートレッド層が低発熱性であることを意味する。
【0042】
タイヤ全体の低発熱性
各試験タイヤをTRA規格の規定リムに組み付けて、TRA規格の基準空気圧を充填し、試験車両(建設車両)の総輪に装着し、TRA規格の荷重を負荷し、走行速度10km/hにて60分間走行した前後のトレッド部のタイヤ内面温度を測定し、タイヤ内面温度の上昇量を算出した。評価結果は、測定値の逆数を用いて、標準例1の値を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど、温度上昇量が小さく、タイヤ全体として低発熱性であることを意味する。
【0043】
耐久性
各試験タイヤをTRA規格の規定リムに組み付けて、TRA規格の基準空気圧を充填し、ドラム径1707.6mmのドラム試験機に装着し、TRA基準荷重の120%を負荷した状態で、走行速度10km/hの条件で200時間ドラム走行し、解体後のタイヤ断面を目視で評価した。評価基準は下記基準による2段階で評価した。
○:ベルト端部、ベルト-アンダートレッド界面、アンダートレッド内部またはアンダートレッド周辺部材との界面に亀裂の発生なく、外観が良好である。
△:ベルト端部、ベルト-アンダートレッド界面、アンダートレッドの内部または周辺部材との界面のいずれかに亀裂が発生している。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
表1~3において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、RSS#3
・CB1:カーボンブラック、キャボットジャパン社製 ショウブラックN339(種別:HAF、窒素吸着比表面積N2SA:88m2 /g)
・CB2:カーボンブラック、キャボットジャパン社製 ショウブラックS118(種別:SAF、窒素吸着比表面積N2SA:130m2 /g)
・CB3:カーボンブラック、日鉄カーボン社製 ニテロン#GN(種別:GPF、窒素吸着比表面積N2SA:33m2 /g)
・シリカ:EVONIK社製 ULTRASIL VN3GR
・ヒドラジド化合物1:上記式(2)で表されるヒドラジド化合物、大塚化学社製 DC‐01
・ヒドラジド化合物2:下記の方法で製造されたヒドラジド化合物
・ヒドラジド化合物3:下記の方法で製造されたヒドラジド化合物
・ヒドラジド化合物4:アジピン酸ジヒドラジド、大塚化学社製 アジピン酸ジヒドラジド(ADH)
・ヒドラジド化合物5:セバシン酸ジヒドラジド、大塚化学社製 セバシン酸ジヒドラジド(SDH)
・ステアリン酸:日油社製 ビーズステアリン酸YR
・亜鉛華:正同化学工業社製 酸化亜鉛3種
・加硫促進剤:大内新興化学工業社製 ノクセラーNS
・硫黄:鶴見化学工業社製 金華印油入微粉硫黄
【0048】
ヒドラジド化合物2の製造方法:
3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドと3-メチル-2-ペンタノンを加温しながら攪拌した。反応液を濃縮し冷却した後、析出した結晶を濾過し、減圧乾燥して下記式(3)で表される構造のヒドラジド化合物2を得た。
【0049】
【化4】
【0050】
ヒドラジド化合物3の製造方法:
3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジドと3-ペンタノンを加温しながら攪拌した。反応液を濃縮し冷却した後、析出した結晶を濾過し、減圧乾燥して下記式(4)で表される構造のヒドラジド化合物3を得た。
【0051】
【化5】
【0052】
表1~3から明らかなように、実施例1~14の重荷重用タイヤは、標準例1と比較して、アンダートレッド層自体の低発熱性を改善し、更に、タイヤ全体の低発熱性を改善し、且つ、耐久性を良好に発揮した。一方、比較例1は、ベルト層の数が少なく、アンダートレッド層を構成するゴム組成物がヒドラジド化合物を含まないため、アンダートレッド層自体の低発熱性が悪化し、また、耐久性が悪化した。比較例2は、ベルト層の構造は適切であるものの、アンダートレッド層を構成するゴム組成物がヒドラジド化合物を含まないため、低発熱性を改善する効果が得られなかった。比較例3は、比A/Bが小さく、アンダートレッド層を構成するゴム組成物がヒドラジド化合物を含まないため、アンダートレッド層自体の低発熱性が悪化し、また、耐久性が悪化した。比較例4は、アンダートレッド層を構成するゴム組成物がヒドラジド化合物を含むものの、ベルト層の数が少ないため、耐久性が悪化した。比較例5は、アンダートレッド層を構成するゴム組成物がヒドラジド化合物を含むものの、比A/Bが小さいため、耐久性が悪化した。比較例6は、アンダートレッド層を構成するゴム組成物がヒドラジド化合物を含むものの、比A/Bが大きいため、耐久性が悪化した。比較例7は、カーボンブラックのN2SAが大きいため、低発熱性が悪化した。比較例8は、カーボンブラックのN2SAが小さいため、アンダートレッドゴムの補強性が低下し耐久性が悪化した。比較例9は、カーボンブラックの配合量が少ないため、耐久性が悪化した。比較例10は、カーボンブラックの配合量が多いため、発熱性が悪化した。比較例11は、ヒドラジド化合物の配合量が少ないため、タイヤ発熱性の改良効果が得られなかった。比較例12は、ヒドラジド化合物の配合量が多いため、加工性が悪化し、発熱性・耐久性が悪化した。比較例13は、本発明の条件を満たすヒドラジド化合物の代わりに、アジピン酸ジヒドラジドを含むため、発熱性が悪化した。比較例14は、本発明の条件を満たすヒドラジド化合物の代わりに、セバシン酸ジヒドラジドを含むため、発熱性が悪化した。
【符号の説明】
【0053】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
7A 最幅広ベルト
8 インナーライナー層
10 トレッドゴム層
11 キャップトレッド層
12 アンダートレッド層
20 サイドゴム層
30 リムクッションゴム層
40 溝
41 最深溝
CL タイヤ赤道
E 接地端
L 溝底ライン
図1
図2