(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】cBN焼結体および切削工具
(51)【国際特許分類】
C04B 35/5835 20060101AFI20241204BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20241204BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
C04B35/5835
B23B27/14 B
B23B27/20
(21)【出願番号】P 2020516494
(86)(22)【出願日】2020-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2020009051
(87)【国際公開番号】W WO2020179809
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2019039559
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【氏名又は名称】木村 孔一
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【氏名又は名称】影山 秀一
(72)【発明者】
【氏名】武井 亮太
(72)【発明者】
【氏名】小口 史朗
(72)【発明者】
【氏名】門馬 征史
(72)【発明者】
【氏名】油本 憲志
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-143607(JP,A)
【文献】特開昭56-127746(JP,A)
【文献】米国特許第04186022(US,A)
【文献】米国特許第04343651(US,A)
【文献】欧州特許出願公開第02792658(EP,A1)
【文献】中国特許出願公開第101031525(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102992679(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103011820(CN,A)
【文献】特開2003-236707(JP,A)
【文献】特開2014-214065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
B23B 27/14
B23B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化ほう素とセラミックス結合相を有するcBN焼結体であって
、
前記立方晶窒化ほう素の平均粒径は0.2~8.0μmであり、
Cを含む立方晶Ta化合物が
TaとC以外の元素を固溶せず、前記セラミックス結合相中に1.0~15.0体積%の割合で分散しており、前記Cを含む立方晶Ta化合物の平均粒径は50~
450nmであることを特徴とするcBN焼結体。
【請求項2】
立方晶窒化ほう素とセラミックス結合相を有するcBN焼結体であって、
前記立方晶窒化ほう素の平均粒径は0.2~8.0μmであり、
Cを含む立方晶Ta化合物がTaとC以外の元素を固溶し、前記セラミックス結合相中に1.0~15.0体積%の割合で分散しており、前記Cを含む立方晶Ta化合物の平均粒径は50~450nmであり、
前記Cを含む立方晶Ta化合物の{111}面のX線回折ピーク位置がブラッグ角2θにおいて34.66°≦2θ≦35.06°の範囲にあることを特徴とするcBN焼結体。
【請求項3】
前記Cを含む立方晶Ta化合物を除いた前記セラミックス結合相を構成する成分の最大のX線回折ピーク強度(I1)と、前記Cを含む立方晶Ta化合物の{111}面のX線回折ピーク強度(I2)との比(I2/I1)が0.10~0.60であることを特徴とする請求項1または2に記載のcBN焼結体。
【請求項4】
立方晶窒化ほう素とセラミックス結合相を有するcBN焼結体であって、
前記立方晶窒化ほう素の平均粒径は0.2~8.0μmであり、
Cを含む立方晶Nb化合物がNbとC以外の元素を固溶しない立方晶化合物であり、前記セラミックス結合相中に1.0~15.0体積%の割合で分散しており、前記立方晶化合物の平均粒径は50~450nmであることを特徴とするcBN焼結体。
【請求項5】
立方晶窒化ほう素とセラミックス結合相を有するcBN焼結体であって、
前記立方晶窒化ほう素の平均粒径は0.2~8.0μmであり、
Cを含む立方晶Nb化合物がNbとC以外の元素を固溶する立方晶化合物であり、前記セラミックス結合相中に1.0~15.0体積%の割合で分散しており、前記立方晶化合物の平均粒径は50~450nmであり、
前記立方晶化合物の{111}面のX線回折ピーク位置がブラッグ角2θにおいて34.53°≦2θ≦35.06°の範囲にあることを特徴とするcBN焼結体。
【請求項6】
立方晶窒化ほう素とセラミックス結合相を有するcBN焼結体であって、
前記立方晶窒化ほう素の平均粒径は0.2~8.0μmであり、
1)Cを含む立方晶Ta化合物およびCを含む立方晶Nb化合物、
2)Cを含む立方晶Ta化合物およびCを含む立方晶(Ta、Nb)複合化合物、
3)Cを含む立方晶Nb化合物およびCを含む立方晶(Ta、Nb)複合化合物、
4)Cを含む立方晶Ta化合物、Cを含む立方晶Nb化合物およびCを含む立方晶(Ta、Nb)複合化合物、
5)Cを含む立方晶(Ta、Nb)複合化合物、
の1)~5)のいずれかが立方晶化合物として含まれ、
前記立方晶化合物は前記セラミックス結合相中に1.0~15.0体積%の割合で分散しており、前記
立方晶化合物の平均粒径は50~450nmであり、
前記立方晶化合物の{111}面のX線回折ピーク位置がブラッグ角2θにおいて34.53°≦2θ≦35.06°の範囲にあることを特徴とするcBN焼結体。
【請求項7】
請求項4~6のいずれかのcBN焼結体であって、前記立方晶化合物を除いた前記セラミックス結合相を構成する成分の最大のX線回折ピーク強度(I1’)と、前記立方晶化合物の{111}面のX線回折ピーク強度(I3)との比(I3/I1’)が0.05~0.40であることを特徴とするcBN焼結体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかのcBN焼結体を工具基体とすることを特徴する切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立方晶窒化ほう素(以下、「cBN」と云うことがある)基超高圧焼結体(以下、「cBN焼結体」と云うことがある)、および、これを工具基体とする切削工具(以下、「CBN工具」と云うことがある)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、cBN焼結体は、靭性に優れ、さらに、鉄系材料との親和性が低いことから、これらの特性を活かし、鋼、鋳鉄等の鉄系被削材の切削工具材料として広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、(Ti、Ta/Nb)CN相からなる連続結合相と硬質分散相を構成するcBNとの間に介在するTi-Al化合物およびWCの中間密着相を有するcBN焼結体が記載されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、30~80体積%のcBN、結合相および不可避不純物からなるcBN焼結体であって、
結合相は、
V、Nb、Taの中から少なくとも1種とTiとからなる、例えば、(Ti、Ta)N、(Ti、Nb)(C、N)、(Ti、V、Ta)(C、N)等の複合窒化物または複合炭窒化物:結合相全体の30~80体積%、
V、Nb、Taの中の少なくとも1種の斜方晶ホウ化物:結合相全体に対して5~40体積%、
AlN:結合相全体に対して5~30体積%、
Al2O3:結合相全体に対して2~20体積%、
を含有するcBN焼結体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-236707号公報
【文献】特許第4830571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、特許文献2に記載されたcBN焼結体では、Ta、NbをTiに固溶させ、あるいは、Ti、Ta、Nb等の複合窒化物、複合炭化物を形成させることによって、高温強度、耐摩耗性、耐チッピング性の向上を図っている。しかし、本発明者の検討によれば、これら焼結体は、例えば、刃先が高温となる焼入鋼の高速断続切削加工において、結合相中に生じたクラックの伝播を抑制できず十分な耐クラック伝播性を有しているとはいえないことが確認された。
【0007】
したがって、本発明は、焼入鋼等の難削材の高速断続切削加工において、十分な耐クラック伝播性を有し、靭性の高いcBN焼結体、および、耐欠損性や耐チッピング性を有する切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、次の(1)~(7)である。
【0009】
(1)立方晶窒化ほう素とセラミックス結合相を有するcBN焼結体は、
前記立方晶窒化ほう素の平均粒径は0.2~8.0μmであり、
Cを含む立方晶Ta化合物がTaとC以外の元素を固溶せず、前記セラミックス結合相中に1.0~15.0体積%の割合で分散しており、前記Cを含む立方晶Ta化合物の平均粒径は50~450nmである。
【0010】
(2) 立方晶窒化ほう素とセラミックス結合相を有するcBN焼結体は、
前記立方晶窒化ほう素の平均粒径は0.2~8.0μmであり、
Cを含む立方晶Ta化合物がTaとC以外の元素を固溶し、前記セラミックス結合相中に1.0~15.0体積%の割合で分散しており、前記Cを含む立方晶Ta化合物の平均粒径は50~450nmであり、
前記Cを含む立方晶Ta化合物の{111}面のX線回折ピーク位置がブラッグ角2θにおいて34.66°≦2θ≦35.06°の範囲にある。
【0011】
(3)前記(1)または(2)のcBN焼結体は、前記Cを含む立方晶Ta化合物を除いた前記セラミックス結合相を構成する成分の最大のX線回折ピーク強度(I1)と、前記Cを含む立方晶Ta化合物の{111}面のX線回折ピーク強度(I2)との比(I2/I1)が0.10~0.60である。
【0012】
(4) 立方晶窒化ほう素とセラミックス結合相を有するcBN焼結体は、
前記立方晶窒化ほう素の平均粒径は0.2~8.0μmであり、
Cを含む立方晶Nb化合物がNbとC以外の元素を固溶しない立方晶化合物であり、前記セラミックス結合相中に1.0~15.0体積%の割合で分散しており、前記Cを含む立方晶Nb化合物の平均粒径は50~450nmである。
【0013】
(5) 立方晶窒化ほう素とセラミックス結合相を有するcBN焼結体は、
前記立方晶窒化ほう素の平均粒径は0.2~8.0μmであり、
Cを含む立方晶Nb化合物がNbとC以外の元素を固溶する立方晶化合物であり、前記セラミックス結合相中に1.0~15.0体積%の割合で分散しており、前記立方晶化合物の平均粒径は50~450nmであり、
前記立方晶化合物の{111}面のX線回折ピーク位置がブラッグ角2θにおいて34.53°≦2θ≦35.06°の範囲にある。
【0014】
(6) 立方晶窒化ほう素とセラミックス結合相を有するcBN焼結体は、
前記立方晶窒化ほう素の平均粒径は0.2~8.0μmであり、
1)Cを含む立方晶Ta化合物およびCを含む立方晶Nb化合物、
2)Cを含む立方晶Ta化合物およびCを含む立方晶(Ta、Nb)複合化合物、
3)Cを含む立方晶Nb化合物およびCを含む立方晶(Ta、Nb)複合化合物、
4)Cを含む立方晶Ta化合物、Cを含む立方晶Nb化合物およびCを含む立方晶(Ta、Nb)複合化合物、
5)Cを含む立方晶(Ta、Nb)複合化合物、
の1)~5)のいずれかが立方晶化合物として含まれ、
前記立方晶化合物は前記セラミックス結合相中に1.0~15.0体積%の割合で分散しており、前記立方晶化合物の平均粒径は50~450nmであり、
前記立方晶化合物の{111}面のX線回折ピーク位置がブラッグ角2θにおいて34.53°≦2θ≦35.06°の範囲にある。
【0015】
(7)前記(4)~(6)のいずれかのcBN焼結体は、前記立方晶化合物を除いた前記セラミックス結合相を構成する成分の最大のX線回折ピーク強度(I1’)と、前記立方晶化合物の{111}面のX線回折ピーク強度(I3)との比(I3/I1’)が0.05~0.40である。
【0016】
さらに、本発明の別の一実施形態は、
前記(1)~(7)のいずれかのcBN焼結体を工具基体とする切削工具である。
【発明の効果】
【0017】
焼入鋼等の難削材の高速断続切削加工において、前記cBN焼結体は、十分な耐クラック伝播性を有し靭性が高く、また、前記切削工具は耐欠損性や耐チッピング性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態におけるcBN焼結体の焼結組織に含まれるCを含む立方晶Ta化合物の分散を示す模式図である。各組織の形状、寸法は実際の組織に則したものではない。
【
図2】本発明の一実施形態におけるcBN焼結体の焼結組織に含まれるCを含む立方晶Ta化合物の一部を、Cを含む立方晶Nb化合物としたときの分散を示す模式図である。各組織の形状、寸法は実際の組織に則したものではない。
【
図3】実施例焼結体1のXRD(X-ray Diffraction)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の一実施形態および他の実施形態を詳細に説明する。なお、本明細書において、数値範囲を「A~B」(A、Bは共に数値)を用いて表現する場合、その範囲は上限(B)および下限(A)の数値を含むものである。また、上限(B)および下限(A)の単位は同じである。また、数値は測定上の公差を含んでいる。
【0020】
本明細書で云う高速断続切削加工とは、切削速度が150m/min以上であり、かつ、切削加工中に切削工具の刃先が被削材と接触しない空転部分を含み、空転部分から再度被削材と接触する際に切削工具の刃先と被削材が衝突するような加工である。
【0021】
本発明の一実施形態に係るcBN焼結体は、
図1に模式的に示すようにCを含む立方晶Ta化合物が分散し、また、Cを含む立方晶Ta化合物の一部を、Cを含む立方晶Nb化合物としたときの分散は、
図2に模式的に示される。そして、別の実施形態は、このcBN焼結体を工具基体とする切削工具である。以下、これらについて順に説明する。
【0022】
立方晶窒化ほう素(cBN)粒子の平均粒径:
本実施形態で用いるcBN粒子の平均粒径は、特に限定されるものではないが、0.2~8.0μmの範囲であることが好ましい。
焼結体内の硬質なcBN粒子により耐欠損性を高めることができる。このとき、cBN粒子の平均粒径が0.2~8.0μmであれば、切削工具としての使用中に工具表面のcBN粒子が脱落して生じる刃先の凹凸形状を起点とする欠損、チッピングを抑制し、さらに、切削工具としての使用中に刃先に加わる応力により生じるcBN粒子とセラミックス結合相との界面から進展するクラックの伝播、あるいはcBN粒子が割れて進展するクラックの伝播を抑制し、より優れた耐欠損性を有することができる。
【0023】
ここで、cBN粒子の平均粒径は、以下のとおりにして求めることができる。
cBN焼結体の断面を鏡面加工し、前記鏡面加工面に対して走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:以下、「SEM」と云う)による組織観察を実施し、二次電子画像を得る。次に、得られた画像内のcBN粒子の部分を画像処理にて抜き出し、画像解析より求めた各粒子の最大長を基に平均粒径を算出する。
【0024】
画像内のcBN粒子の部分を画像処理にて抜き出すに当たり、cBN粒子と結合相とを明確に判断するため、画像は0を黒、255を白の256階調のモノクロで表示し、cBN粒子部分の画素値と結合相部分の画素値の比が2以上となる画素値の像を用いてcBN粒子が黒となるように2値化処理を行う。
【0025】
ここで、cBN粒子部分や結合相部分の画素値を求めるための領域として、0.5μm×0.5μm程度の領域を選択し、少なくとも同一画像領域内から異なる3箇所より求めた平均の値をそれぞれのコントラストとすることが望ましい。
【0026】
なお、2値化処理後はcBN粒同士が接触していると考えられる部分を切り離すような処理、例えば、ウォーターシェッドを用いて接触していると思われるcBN粒同士を分離する。続いて、画像解析を行う。
【0027】
2値化処理後に得られた画像内のcBN粒子にあたる部分(黒の部分)を粒子解析し、求めた最大長を各粒子の最大長とし、それを各粒子の直径とする。最大長を求める粒子解析としては、1つのcBN粒子に対してフェレ径を算出することより得られる2つの長さから大きい長さの値を最大長とし、その値を各粒子の直径とする。各粒子をこの直径を有する理想球体と仮定して、計算より求めた体積を各粒子の体積として累積体積を求める。
【0028】
この累積体積を基に縦軸を体積百分率[%]、横軸を直径[μm]としてグラフを描画させ、体積百分率が50%のときの直径を当該領域のcBN粒子の平均粒径とした。これを3観察領域(3画像)に対して行い、その平均値をcBNの平均粒径[μm]とする。
【0029】
この粒子解析を行う際には、あらかじめSEMにより分かっているスケールの値を用いて、1ピクセル当たりの長さ(μm)を設定しておく。画像処理に用いる観察領域として、cBN粒子の平均粒径が3μm程度の場合、15.0μm×15.0μm程度の視野領域が望ましい。
【0030】
セラミックス結合相:
本実施形態のセラミックス結合相の主要部は、セラミックス結合相として公知の原料粉末、例えば、TiN粉末、TiC粉末、TiCN粉末、Al2O3粉末、TiAl3粉末を用いて作製することができる。
【0031】
(1)セラミックス結合相中に分散するCを含む立方晶化合物粒子:
所定粒径のCを含む立方晶化合物がセラミックス結合相中に所定量分散して存在するとき、セラミックス結合相中に生じたクラックの伝播が抑制できると推察している。
【0032】
(a)Cを含む立方晶Ta化合物
本実施形態でいうCを含む立方晶Ta化合物とは、結晶構造として立方晶系のNaCl型構造(以下、立方晶と云うことがある)をとり、TaとCが結合しているものであって、その原子比は、従来公知のあらゆるものを含み、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるものではない。さらに、TaとCが原子比1:1で結合し、他の元素が固溶していないことが好ましいが、TaとC以外の他の元素がある程度固溶していてもよい。他の元素が固溶している例として、Ta(C、N)で表されるTaの炭窒化物を挙げることができる。なお、ここで云う、「ある程度」とは、X線回折におけるCを含む立方晶Ta化合物の{111}面の回折ピーク位置が、次に述べるブラッグ角2θの範囲を満足することを云う。
【0033】
X線回折におけるCを含む立方晶Ta化合物の{111}面の回折ピーク位置は、ブラッグ角2θにおいて34.66°≦2θ≦35.06°の範囲にあることがより好ましい。この範囲がより好ましいとした理由は、Cを含む立方晶Ta化合物の{111}面の回折ピーク位置がブラッグ角2θにおいて2θ<34.66°、または35.06°<2θの範囲にあると、Cを含む立方晶Ta化合物に固溶するCとTa以外の元素が多くなり、その結果、Cを含む立方晶Ta化合物の高温靭性が低下して、切削工具基体として用いたときのcBN焼結体の耐クラック伝播性が低下することがあるためである。
【0034】
同{111}面の回折ピーク位置は、ブラッグ角2θにおいて34.76°≦2θ≦34.96°の範囲にあることがより一層好ましい。
【0035】
また、Cを含む立方晶Ta化合物を除いたセラミックス結合相を構成する成分の最大のX線回折ピーク強度(I1)と、Cを含む立方晶Ta化合物の{111}面のX線回折ピーク強度(I2)との比(I2/I1)が0.10~0.60を満足することがより好ましい。前記比をこの範囲とした理由は、0.10未満であると、Cを含む立方晶Ta化合物によるクラック伝播抑制効果が十分に得られないことがあり、一方、0.60を超える場合には結合相中にCを含む立方晶Ta化合物が過剰に存在し、cBN焼結体としての十分な硬さが得られず、切削工具基体として用いたときのcBN焼結体の耐欠損性を損なうことがあるためである。
【0036】
ここで、例えば、前記公知の原料粉末を用いてcBN焼結体を作製した場合、Cを含む立方晶Ta化合物を除いたセラミックス結合相を構成する成分の最大のX線回折ピークは、TiNの{200}面、TiCの{200}面、TiCNの{200}面、Al2O3の{104}面等に由来する。
【0037】
なお、Cを含む立方晶Ta化合物の{111}面のX線回折ピーク位置と回折ピーク強度、また、Cを含む立方晶Ta化合物を除いたセラミックス結合相を構成する成分の最大のX線回折ピーク強度は、Cu-Kα線を用いた2θ/θ法のX線回折測定において、ブラッグ角2θの測定範囲を20~80°とすることで測定することができる。
【0038】
(b)Cを含む立方晶Ta化合物の全部がCを含む立方晶Nb化合物
Cを含む立方晶Ta化合物の全部を、Cを含む立方晶Nb化合物としてもよい。
ここで、Cを含む立方晶Nb化合物とは、立方晶系のNaCl型構造(以下、立方晶と云うことがある)をとり、NbとCが結合しているものであって、その原子比は、従来公知のあらゆるものを含み、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるものではない。さらに、NbとCが原子比1:1で結合し、他の元素が固溶していないことが好ましいが、NbとC以外の他の元素がある程度固溶していてもよい。他の元素が固溶している例として、Nb(C、N)で表されるNbの炭窒化物を挙げることができる。なお、ここで云う、「ある程度」とは、X線回折におけるCを含む立方晶Nb化合物の{111}面の回折ピーク位置が、後述するブラッグ角2θの範囲を満足することを云う。
【0039】
(c)Cを含む立方晶Ta化合物の一部がCを含む立方晶Nb化合物
Cを含む立方晶Ta化合物の一部を、Cを含む立方晶Nb化合物としてもよい。Cを含む立方晶Ta化合物の一部を、Cを含む立方晶Nb化合物とした場合、セラミックス結合相中には、
・Cを含む立方晶Ta化合物、および、Cを含む立方晶Nb化合物、
・Cを含む立方晶Ta化合物、および、Cを含む立方晶(Ta、Nb)複合化合物、
・Cを含む立方晶Nb化合物、および、Cを含む立方晶(Ta、Nb)複合化合物、
・Cを含む立方晶Ta化合物、Cを含む立方晶Nb化合物、および、Cを含む立方晶(Ta、Nb)複合化合物、
・Cを含む立方晶(Ta、Nb)複合化合物、
のいずれかが必ず含まれる。
【0040】
Cを含む立方晶Ta化合物、Cを含む立方晶Nb化合物、および、Cを含む立方晶(Ta、Nb)複合化合物を総称して、本実施形態の(6)~(7)では、立方晶化合物とよんでいる。
ここで、Cを含む立方晶Ta化合物およびCを含む立方晶Nb化合物は、それぞれ、前述のとおりのものである。
【0041】
さらに、Cを含む立方晶(Ta、Nb)複合化合物とは、立方晶系のNaCl型構造(以下、立方晶と云うことがある)をとり、(Ta、Nb)とCが結合しているものであって、その原子比は、従来公知のあらゆるものを含み、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるものではない。さらに、TaとNbとCが、それぞれ、原子比m:n:1(ただし、m>0、n>0、m+n=1)で結合し、他の元素が固溶していないことが好ましいが、Ta、Nb、C以外の他の元素がある程度固溶していてもよい。他の元素が固溶している例として、Cの占める位置にC以外のNが存在する、すなわち、(C、N)で表される炭窒化物を挙げることができる。
【0042】
以下、前記(b)のCを含む立方晶Ta化合物の全部がCを含む立方晶Nb化合物である場合、および、前記(c)のCを含む立方晶Ta化合物の一部がCを含む立方晶Nb化合物である場合を、総称して(Ta、Nb)Cと表記することがある。なお、この表記では、前述のとおり、表記中のCの位置にある元素が、例えば、(C、N)である場合を含むし、また、前述のように、Ta、Nb以外の金属元素をある程度固溶している場合を含む。なお、ここで云う、「ある程度」とは、X線回折における(Ta、Nb)Cの{111}面の回折ピーク位置が、次に述べるブラッグ角2θの範囲を満足することを云う。
【0043】
X線回折における(Ta、Nb)Cの{111}面の回折ピーク位置は、ブラッグ角2θにおいて34.53°≦2θ≦35.06°の範囲にあることがより好ましい。この範囲がより好ましいとした理由は、(Ta、Nb)Cの{111}面の回折ピーク位置がブラッグ角2θにおいて2θ<34.53°、または35.06°<2θの範囲にあると、(Ta、Nb)Cに固溶するC、TaとNb以外の元素が多くなり、その結果(Ta、Nb)Cの高温靭性が低下して、切削工具基体として用いたときのcBN焼結体の耐クラック伝播性が低下することがあるためである。
【0044】
同{111}面の回折ピーク位置は、ブラッグ角2θにおいて34.66°≦2θ≦34.93°の範囲にあることがより一層好ましい。ただし、(Ta、Nb)Cに由来する{111}面の回折ピークが複数確認できる場合は、すべてのピークがブラッグ角2θにおける所定の範囲(34.53°≦2θ≦35.06°、34.66°≦2θ≦34.93°)にあることがさらに好ましい。
【0045】
また、(Ta、Nb)Cを除いたセラミックス結合相を構成する成分の最大のX線回折ピーク強度(I1’)と、(Ta、Nb)Cの{111}面のX線回折ピーク強度(I3)との比(I3/I1’)が0.05~0.40を満足することがより好ましい。この範囲が好ましいとした理由は、0.05未満であると、(Ta、Nb)Cよるクラック伝播抑制効果が十分に得られないことがあり、一方、0.40を超える場合には結合相中に(Ta、Nb)Cが過剰に存在し、cBN焼結体としての十分な硬さが得られず、切削工具基体として用いたときのcBN焼結体の耐欠損性を損なうことがあるためである。
【0046】
ただし、(Ta、Nb)Cに由来する{111}面の回折ピークが複数確認できる場合は、(Ta、Nb)Cの{111}面のX線回折ピークすべての強度の合計値がI3となる。
【0047】
ここで、例えば、前記公知の原料を用いてcBN焼結体を作製した場合、(Ta、Nb)Cを除いたセラミックス結合相を構成する成分の最大のX線回折ピークは、TiNの{200}面、TiCの{200}面、TiCNの{200}面、Al2O3の{104}面等に由来する。
【0048】
なお、(Ta、Nb)Cの{111}面のX線回折ピーク位置と回折ピーク強度、また、C(Ta、Nb)Cを除いたセラミックス結合相を構成する成分の最大のX線回折ピーク強度は、Cu-Kα線を用いた2θ/θ法のX線回折測定において、ブラッグ角2θの測定範囲を20~80°とすることで測定することができる。
【0049】
(2)平均粒径
Cを含む立方晶Ta化合物および(Ta、Nb)Cの平均粒径は、50~500nmが好ましい。この範囲が好ましい理由は、平均粒径50nm未満であると、クラックがCを含む立方晶Ta化合物および(Ta、Nb)Cを迂回し易くなり、その伝播を抑制することが十分にできず、一方、平均粒径が500nmを超えると、耐摩耗性が低下し、切削工具基体として用いたときのcBN焼結体の寿命が低下するためである。Cを含む立方晶Ta化合物および(Ta、Nb)Cの平均粒径は、200~450nmがより好ましい。
【0050】
(3)含有割合
Cを含む立方晶Ta化合物および(Ta、Nb)Cは、セラミックス結合相中に1.0~15.0体積%の含有割合で分散して存在することが好ましい。含有範囲をこの範囲とした理由は、1.0体積%未満であるとクラックがCを含む立方晶Ta化合物および(Ta、Nb)Cに到達する頻度が減り、その伝播を抑制することが十分にできずcBN焼結体の靭性を向上させるには十分な量ではなく、一方、15.0体積%を超えるとセラミックス結合相の硬さが低下し、セラミックス結合相の摩耗が進行し易くなることでcBN粒子が脱落し易くなり、その結果、切削工具基体として用いたときのcBN焼結体の耐摩耗性、耐欠損性が低下してしまうためである。Cを含む立方晶Ta化合物および(Ta、Nb)Cのセラミックス結合相中含有割合は2.0~10.0体積%がより好ましい。
【0051】
(5)平均粒径と含有割合の測定方法
Cを含む立方晶Ta化合物および(Ta、Nb)Cの平均粒径は、例えば、以下のように行う。cBN焼結体の断面組織をオージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:以下、「AES」と云う)を用いて、1観察領域(1画像)において、Ta元素、Nb原子、C元素のマッピング像を基にTa元素とC元素、Nb元素とC元素、Ta元素とNb元素とC元素が重なる部分に対し、それぞれ、Cを含む立方晶Ta化合物粒子、Cを含む立方晶Nb化合物粒子、Cを含む立方晶(Ta、Nb)複合化合物粒子と認識して各粒子のフェレ径を求め、各粒子の直径とする。
【0052】
各粒子をこの直径(フェレ径)を有する理想球体と仮定して、計算し求めた各粒子の体積を基に累積体積を前記cBN粒子の場合と同様に求め、この累積体積より縦軸を体積百分率[%]、横軸を直径[μm]としてグラフを描画させ、体積百分率が50%のときの直径を測定に用いた1画像内のCを含む立方晶Ta化合物および(Ta、Nb)Cの平均粒径とする。
【0053】
これを少なくとも3観察領域(3画像)に対して行い、その平均値を、Cを含む立方晶Ta化合物および(Ta、Nb)Cの平均粒径[μm]とする。粒子解析を行う際には、あらかじめAESにより分かっているスケールの値を用いて、1ピクセル当たりの長さ(μm)を設定しておく。画像解析に用いる観察領域としては、5.0μm×3.0μm程度の視野領域が好ましい。
【0054】
セラミックス結合相に占めるCを含む立方晶Ta化合物および(Ta、Nb)Cの含有割合は、例えば、以下のように行う。前記と同様にAESを用いて、1観察領域(1画像)において、Ta元素とC元素、Nb元素とC元素、Ta元素とNb元素とC元素がそれぞれ重なる部分を、Cを含む立方晶Ta化合物粒子、C含む立方晶Nb化合物粒子、Cを含む立方晶(Ta、Nb)複合化合物粒子として、各粒子が占める面積を算出する。
【0055】
また、1観察領域(1画像)において、B元素とN元素が重なり、かつ、セラミックス結合相に由来する金属元素、例えば、Ti元素、および/または、Al元素が重ならない部分をcBN粒子として、cBN粒子が占める面積を算出し、残りの部分を結合相の面積とする。こうして算出したCを含む立方晶Ta化合物粒子、C含む立方晶Nb化合物粒子、Cを含む立方晶(Ta、Nb)複合化合物粒子の面積の合計値と、結合相の面積から、1観察領域におけるセラミックス結合相に占めるCを含む立方晶Ta化合物および(Ta、Nb)Cの含有割合を算出する。
【0056】
これを少なくとも3観察領域(3画像)に対して行い、画像毎に算出したCを含む立方晶Ta化合物および(Ta、Nb)Cの各粒子の総含有割合の平均値をセラミックス結合相に占めるCを含む立方晶Ta化合物および(Ta、Nb)Cの含有割合(体積%)として求める。画像解析に用いる観察領域として、5.0μm×3.0μm程度の視野領域が好ましい。
【0057】
製造方法:
本発明の靭性に優れたcBN焼結体を作製するための手順の一例を次の(1)~(3)に示す。
【0058】
(1)結合相を構成する成分の原料粉末の準備
結合相を構成する原料粉末として、Cを含む立方晶Ta化合物および必要により(Ta、Nb)Cの原料、さらに、結合相の主要部となる原料(例えば、後述するように表1に示すもので、TiN粉末、TiC粉末、TiCN粉末、TiAl3粉末)とを用意する。ここで、Cを含む立方晶Ta化合物および(Ta、Nb)Cの原料は、例えば、次の(a)、(b)の方法で用意することが好ましい。
【0059】
(a)TaC粉末、NbC粉末のみを用意する方法
所定平均粒径のTaC粉末、NbC粉末を準備する。このTaC粉末、NbC粉末は、所望の粒径に粉砕したCを含む立方晶Ta化合物および(Ta、Nb)Cの原料粉末とするため、例えば、超硬合金で内張りされたボールミル容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填し、蓋をし、ボールミルによる粉砕を行った後、混合したスラリーを乾燥させて超硬合金製ボールと粉砕後の粉末を分離し、遠心分離装置を用いて粉砕後の粉末を分級する。このボールミルによる粉砕後の分級により、平均粒径(メディアン径D50)が50~500nmであるCを含む立方晶Ta化合物および(Ta、Nb)Cの原料粉末を得る。
【0060】
(b)TaCおよびNbC以外の粉末をも用意する方法
それぞれ所定平均粒径のTaN粉末、TaB2粉末、TaSi2粉末、Ta2O5粉末等のTaC以外のTa化合物粉末、また、NbN粉末、NbB2粉末、NbSi2粉末、Nb2O5粉末等のNbC以外のNb化合物粉末を1種以上準備し、これらを所定平均粒径のTaC粉末、NbC粉末(前記(a)で準備したものと同じもの)と混合し、所定圧力で成形して成形体を作製し、この成形体を、真空雰囲気中、1100~1300℃の範囲内の所定の温度で熱処理した後、摩砕と圧縮による粉砕を行い、目開き45μmの篩で篩分し、篩を通過したもの(以下「混合熱処理済化合物粉末」と云う)を作製する。
【0061】
この混合熱処理済化合物粉末は、所望の粒径に粉砕したCを含む立方晶Ta化合物および(Ta、Nb)Cの原料粉末とするため、例えば、前記ボールミルによる粉砕を行った後、遠心分離装置を用いて粉砕後の粉末を分級する。このボールミルによる粉砕後の分級により、平均粒径(メディアン径D50)が50~500nmであるCを含む立方晶Ta化合物および(Ta、Nb)Cの原料粉末を得る。
【0062】
(2)粉砕・混合
前記(1)で用意した前記(a)および(b)の原料粉末を、それぞれ、前記結合相の主要部となる原料と共に、例えば、超硬合金で内張りされたボールミル容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填し、蓋をし、ボールミルによる粉砕および混合を行う。その後、硬質相として機能させる、平均粒径が、例えば、0.2~8.0μmのcBN粉末を添加して、ボールミル混合を行い、混合したスラリーを乾燥させて超硬合金製ボールと混合後の粉末を分離することで、前記(a)および(b)それぞれに由来する焼結体原料粉末を得る。
【0063】
(3)成形、焼結
次いで、前記(2)で得られた前記(a)および(b)それぞれに由来する焼結体原料粉末を、所定圧力で成形して成形体を作製し、この成形体を、真空雰囲気中、900~1000℃の範囲内の温度で仮焼結し、その後、例えば、圧力:5.5GPa、温度:1200~1600℃の範囲内の温度で焼結することにより、本発明の一実施形態の前記(a)および(b)それぞれに由来するcBN焼結体を作製する。
【0064】
なお、前記焼結に至るまでの各工程では、原料粉末の酸化を防止することが好ましく、具体的には非酸化性の保護雰囲気中での取り扱いを実施することが好ましい。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例について説明する。
【0066】
<実施例A>
実施例AのcBN焼結体の製造のために、前述の(a)TaC粉末、NbC粉末のみを用意する方法と、前述の(b)TaCおよびNbC以外の粉末をも用意する方法を用いた。
具体的には次のとおりである。
【0067】
前記(a)のTaC粉末、NbC粉末のみを用意する方法によるもの
後述する実施例焼結体3、8、9、10および15がこの方法によるものであり、その原料粉末として、平均粒径が1.5μmのTaC粉末を準備し、前述のようにボールミルによる粉砕を行った後、遠心分離装置を用いて粉末の分級をすることにより、表2に示した平均粒径(メディアン径D50)であるCを含む立方晶Ta化合物原料粉末を得た。
【0068】
前記(b)のTaCおよびNbC以外の粉末をも用意する方法によるもの
後述する実施例焼結体1、2、4~7、11~14および16~19がこの方法によるものであり、その原料粉末として、平均粒径が1.5μmのTaC粉末と、それぞれ平均粒径が0.5~5.5μmのTaN粉末、TaB2粉末、TaSi2粉末、Ta2O5粉末を準備し、表2に示めした所定の割合で混合し、成形圧:1MPaで直径:50mm×厚さ:3.0mmの寸法にプレス成形し、圧力:1Pa以下の真空雰囲気中、1200℃に保持して熱処理し、摩砕と圧縮による粉砕を行い、目開き45μmの篩で篩分し、篩を通過した混合熱処理済化合物粉末を得た。
【0069】
この混合熱処理済化合物粉末を、前述のようにボールミルによる粉砕を行った後、遠心分離装置を用いて粉末の分級をすることにより、表2に示した平均粒径(メディアン径D50)であるCを含む立方晶Ta化合物原料粉末を得た。
【0070】
前述の2通りの方法で得たCを含む立方晶Ta化合物原料粉末と、それぞれの平均粒径が0.3μm~0.9μmの表1に示す結合相の主要部となる原料とを、超硬合金で内張りされたボールミル容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填し、蓋をしてボールミルによる粉砕と混合を行い、その後、焼結後のcBN粒子の含有割合が40~80体積%となるようにcBN粉末を添加し、さらにボールミルによる混合を行い、スラリーを乾燥させ、焼結体原料粉末を得た。
【0071】
次に、得られた焼結体原料粉末を、成形圧:1MPaで直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法にプレス成形し成形体を得た。この成形体を圧力:1Pa以下の真空雰囲気中、900℃に保持して仮焼結した。その後、圧力:5.5GPa、温度:1400℃で焼結することにより、表3に示す実施例のcBN焼結体1~19(実施例焼結体1~19と云う)を作製した。
なお、成形体に施す仮焼結は、湿式混合時の溶媒を除去することが主な目的である。
【0072】
実施例焼結体1のXRDを
図3に示す。
図3より、Cを含む立方晶Ta化合物の{111}面のX線回折ピークと、Cを含む立方晶Ta化合物を除いたセラミックス結合相を構成する成分の最大のX線回折ピークとして、TiCNの{200}面のX線回折ピークを得た。なお、TiCNと表記したが、ここでいうTiCNは、TiとCとNが結合しているものであって、従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるものではなく、前述のように他の元素が固溶していてもよいものである。
【0073】
比較のため、Cを含む立方晶Ta化合物を含まない場合や、Cを含む立方晶Ta化合物を含む場合において、様々な平均粒径、セラミックス結合相中の含有割合、{111}面の回折ピーク位置、および、回折ピーク強度比を検討すべく、次のようにした。
【0074】
すなわち、実施例Aと同様に、前述の(a)TaC粉末、NbC粉末のみを用意する方法により、平均粒径が1.5μmのTaC粉末を準備し、後述する比較例焼結体1、2および9のCを含む立方晶Ta化合物原料粉末を作製し、前述の(b)TaCおよびNbC以外の粉末をも用意する方法により、平均粒径が1.5μmのTaC粉末と、それぞれ平均粒径が0.5~5.5μmのTaN粉末、TaB2粉末、TaSi2粉末、Ta2O5粉末を準備し、表4に示した所定の割合で混合して、後述する比較例焼結体3~8および10のCを含む立方晶Ta化合物原料粉末を作製した。これらの平均粒径(メディアン径D50)は表4に示されたとおりであった。
【0075】
なお、後述する比較例焼結体11については、TaCの代わりに、平均粒径が3.0μmのTa2C粉末を使用し、前述の(a)と同様の方法で、Cを含む立方晶Ta化合物原料粉末の代わりとなる粉末を作製した。
【0076】
さらに、この分級した各原料粉末の所定のものと、それぞれの平均粒径が0.3μm~0.9μmの表1に示す結合相の主要部となる原料とを、実施例Aと同様に、ボールミルにより粉砕・混合し、その後、焼結後のcBN粒子の含有割合が40~80体積%となるようにcBN粉末を添加し、ボールミル混合し、スラリーを乾燥させ、焼結体原料粉末を得た。なお、後述する比較例焼結体12については、Cを含む立方晶Ta化合物原料粉末を準備せず、結合相の主要部となる原料を粉砕・混合した後にcBNを加えてさらに混合し、乾燥させ、焼結体原料粉末を得た。
【0077】
その後、実施例焼結体1~19と同様な条件により、この焼結体原料粉末から成形体を作製し、それを仮焼結し、実施例焼結体1~19と同様な条件で超高圧高温焼結することにより、表5に示す比較例のcBN焼結体(以下、比較例焼結体と云う)1~12を作製した。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
次に、前記で作製した実施例焼結体1~19、比較例焼結体1~12を、ワイヤー放電加工機で所定寸法に切断した。そして、ISO規格CNGA120408のインサート形状をもったWC基超硬合金(組成は、Co:5質量%、TaC:5質量%、WC:残り)製インサート本体のろう付け部(コーナー部)にろう材(Cu:26質量%、Ti:5質量%、Ag:残りからなる組成を有するAg合金)を用いてろう付けし、上下面および外周研磨、ホーニング処理を施すことにより、ISO規格CNGA120408のインサート形状をもつ実施例のcBN基超高圧焼結体切削工具(実施例工具と云う)1~19、および、比較例のcBN基超高圧焼結体切削工具(比較例工具と云う)1~12を製造した。
【0084】
次いで、実施例工具1~19と比較例工具1~12に対して、以下の切削条件で切削加工を実施し、工具寿命に至るまでの断続回数を測定した。
【0085】
<切削条件1>
被削材:浸炭焼入鋼(JIS・SCM415、硬さ:HRC58~62)の長さ方向等間隔8本縦溝入り丸棒
切削速度:200m/min
切り込み:0.1mm
送り:0.1mm/rev
で、高硬度鋼の乾式切削加工試験を実施した。
【0086】
各工具の刃先がチッピングあるいは欠損に至るまで、または刃先逃げ面部分の最大摩耗量が150μmに至るまでの断続回数を工具寿命とし、断続回数500回毎に刃先を観察し、刃先の欠損やチッピングの有無と摩耗量を確認した。
表6に、上記切削加工試験の結果を示す。
【0087】
【0088】
<実施例B>
実施例Bは、Cを含む立方晶Ta化合物の一部または全部を、Cを含む立方晶Nb化合物としたセラミックス結合相を有するcBN焼結体を作製した。
【0089】
実施例BのcBN焼結体の製造のために、実施例Aと同様に、前述の(a)TaC粉末、NbC粉末のみを用意する方法と、前述の(b)TaCおよびNbC以外の粉末をも用意する方法を用いた。
【0090】
前記(a)のTaC粉末、NbC粉末のみを用意する方法によるもの
後述する実施例焼結体20および28がこの方法によるものであり、その原料粉末として、平均粒径が1.5μmのNbC粉末を準備し、前述のようにボールミルによる粉砕を行った後、遠心分離装置を用いて粉末の分級をすることにより、表7に示した平均粒径(メディアン径D50)であるCを含む立方晶Nb化合物原料粉末(以下、(Ta、Nb)Cの原料粉末と云う)を得た。
【0091】
前記(b)のTaCおよびNbC以外の粉末をも用意する方法によるもの
後述する実施例焼結体21~27および29~37がこの方法によるものであり、その原料粉末として、実施例Aで準備したものと同じTaC粉末、TaN粉末、TaB2粉末、TaSi2粉末、Ta2O5粉末に加え、平均粒径が1.5μmのNbC粉末と、それぞれ平均粒径が1.0~6.0μmのNbN粉末、NbB2粉末、NbSi2粉末、Nb2O5粉末を準備し、表7に示した所定の割合で混合し、成形圧:1MPaで直径:50mm×厚さ:3.0mmの寸法にプレス成形し、圧力:1Pa以下の真空雰囲気中、1200℃に保持して熱処理し、その後、摩砕と圧縮による粉砕を行い、目開き45μmの篩で篩分し、篩を通過した混合熱処理済化合物粉末を得た。
【0092】
この混合熱処理済化合物粉末を、前述のようにボールミルによる粉砕を行った後、遠心分離装置を用いて粉末の分級をすることにより、表7に示した平均粒径(メディアン径D50)である(Ta、Nb)Cの原料粉末を得た。
【0093】
前述の2通りの方法で得た(Ta、Nb)Cの原料粉末と、それぞれの平均粒径が0.3μm~0.9μmの表1に示す結合相の主要部となる原料とを、超硬合金で内張りされたボールミル容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填し、蓋をしてボールミルによる粉砕と混合を行い、その後、焼結後のcBN粒子の含有割合が40~80体積%となるようにcBN粒子を添加し、さらにボールミルによる混合を行い、スラリーを乾燥させ、焼結体原料粉末を得た。
【0094】
次に、得られた焼結体原料粉末を、成形圧:1MPaで直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法にプレス成形し成形体を得た。この成形体を圧力:1Pa以下の真空雰囲気中、900℃に保持して仮焼結した。その後、圧力:5.5GPa、温度:1400℃で焼結することにより、表8に示す実施例のcBN焼結体20~37(実施例焼結体20~37と云う)を作製した。
なお、成形体に施す仮焼結は、湿式混合時の溶媒を除去することが主な目的である。
【0095】
実施例焼結体20のXRDを
図4に示す。
図4より、Cを含む立方晶Nb化合物の{111}面のX線回折ピークと、Cを含む立方晶Nb化合物を除いたセラミックス結合相を構成する成分の最大のX線回折ピークとして、TiCの{200}面のX線回折ピークを得た。
【0096】
比較のため、(Ta、Nb)Cについて、様々な平均粒径、セラミックス結合相中の含有割合、{111}面の回折ピーク位置、および、回折ピーク強度比を検討すべく、次のようにした。
【0097】
すなわち、実施例Bと同様に、前述の(a)TaC粉末、NbC粉末のみを用意する方法により、平均粒径が1.5μmのNbC粉末を準備し、後述する比較例焼結体21、22および25の(Ta、Nb)Cの原料粉末を作製し、前述の(b)TaCおよびNbC以外の粉末をも用意する方法により、平均粒径が1.5μmのTaC粉末と、平均粒径が1.5μmのNbC粉末と、それぞれ平均粒径が0.5~6.0μmのTaN粉末、TaB2粉末、NbN粉末、NbB2粉末、NbSi2粉末、Nb2O5粉末を準備し、表9に示した所定の割合で混合して、後述する比較例焼結体20、23、24および26~29の(Ta、Nb)Cの原料粉末を作製した。これらの平均粒径(メディアン径D50)は表9に示されたとおりであった。
【0098】
さらに、この分級した各原料粉末の所定のものと、それぞれの平均粒径が0.3μm~0.9μmの表1に示す結合相の主要部となる原料とを、実施例Bと同様に、ボールミルにより粉砕・混合し、その後、焼結後のcBN粒子の含有割合が40~80体積%となるようにcBN粉末を添加し、ボールミル混合し、スラリーを乾燥させ、焼結体原料粉末を得た。なお、比較例30については(Ta、Nb)Cの原料粉末を準備せず、結合相の主要部となる原料を粉砕・混合した後にcBNを加えてさらに混合し、乾燥させ、焼結体原料粉末を得た。
【0099】
その後、実施例焼結体20~37と同様な条件により、この焼結体原料粉末から成形体を作製し、それを仮焼結し、実施例焼結体20~37と同様な条件で超高圧高温焼結することにより、表10に示す比較例のcBN焼結体(以下、比較例焼結体と云う)20~30(13~19は欠番)を作製した。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
次に、前記で作成した実施例焼結体20~37、比較例焼結体20~30を、実施例Aと同様に処理して、実施例工具20~37、および、比較例工具20~30を製造した。
【0105】
次いで、実施例工具20~37と比較例工具20~30に対して、以下の切削条件で切削加工を実施し、工具寿命に至るまでの断続回数を測定した。
【0106】
<切削条件2>
被削材:浸炭焼入鋼(JIS・SCM415、硬さ:HRC58~62)の長さ方向等間隔8本縦溝入り丸棒
切削速度:180m/min
切り込み:0.1mm
送り:0.15mm/rev
で、高硬度鋼の乾式切削加工試験を実施した。
【0107】
各工具の刃先がチッピングあるいは欠損に至るまで、または刃先逃げ面部分の最大摩耗量が150μmに至るまでの断続回数を工具寿命とし、断続回数500回毎に刃先を観察し、刃先の欠損やチッピングの有無と摩耗量を確認した。
表11に、前記切削加工試験の結果を示す。
【0108】
【0109】
表6、11に示される結果から、実施例工具は、いずれも、比較例工具に比して、耐摩耗性の低下なく、また、突発的な刃先の欠損や早期のチッピングが発生することなく、工具寿命が延命化されており、焼入鋼の断続切削加工においても、耐欠損性や耐チッピング性に優れていることがわかる。
【0110】
前記開示した実施の形態はすべての点で例示にすぎず、制限的なものではない。本発明の範囲は前記した実施の形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0111】
1:cBN
2:Cを含む立方晶Ta化合物
3:Cを含む立方晶Nb化合物
4:Cを含む立方晶(Ta、Nb)複合化合物