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特許7598090熱硬化性樹脂組成物及びその硬化膜を備えるカラーフィルター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物及びその硬化膜を備えるカラーフィルター
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/40 20060101AFI20241204BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20241204BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
C08G59/40
G02B5/20 101
G02F1/1335 505
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021008337
(22)【出願日】2021-01-21
(65)【公開番号】P2022112451
(43)【公開日】2022-08-02
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 寛之
(72)【発明者】
【氏名】権田 淳二
(72)【発明者】
【氏名】中島 喜和
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-101136(JP,A)
【文献】特開2003-066223(JP,A)
【文献】特開2015-007687(JP,A)
【文献】特開2016-012053(JP,A)
【文献】特開2006-276049(JP,A)
【文献】特開2006-276050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/40
G02B 5/20
G02F 1/1335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(D)成分を含有する熱硬化性樹脂組成物であって、
前記(A)~(D)成分の合計100質量部中に、前記(A)成分を20~80質量部、前記(B)成分を10~50質量部、前記(C)成分を1~50質量部および前記(D)成分を1~15質量部であり、前記(C)成分と(D)成分の質量比(C)/(D)が3.0~9.0であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
(A)成分:(a1)炭素-炭素不飽和結合とエポキシ基を有するモノマーと、(a2)(a1)以外の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーとからなり、前記(a1)成分及び前記(a2)成分の合計量100重量部中に、(a1)成分を10~90重量部、(a2)成分を90~10重量部含む、エポキシ基含有重合体
(B)成分:下記式(1)で表される多価カルボン酸ヘミアセタールエステル
【化1】
(式中のRは炭素数1~6のアルキル基を表す。)
(C)成分:下記式(2)で表されるエポキシ樹脂
【化2】
(式中のnは1~15を表す。)
(D)成分:2官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂
【請求項2】
請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる保護膜を有するカラーフィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物及びこれを硬化させてなる保護膜を有するカラーフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置の普及に伴い、液晶表示装置に用いられるカラーフィルターの需要が高まっている。カラーフィルターは、透明基板上に、所定パターンに形成されたブラックマトリックス層、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)が所定順序に配列された着色層、保護膜およびフォトスペーサーを積層した構造が一般的である。この保護膜は、液晶表示装置の製造時や使用時において、カラーフィルターを物理的、化学的に保護する役割を担っている。このため、保護膜は平滑性、耐薬品性といった性能に優れることが求められる。また、保護膜用塗工液に粘度変化(特に粘度上昇)が生じると、当該塗工膜を均一な膜厚で塗工することが困難となるため、保護膜用塗工液には、充分な保存安定性が求められる。そこで、この種の保護膜において、これらの性能を高めることが従来から行われてきた(特許文献1)。
【0003】
また最近では液晶表示装置において表示性能に対する要求が厳しくなってきており、カラーフィルターに対しては輝度、色純度およびコントラストといった表示性能に加え、表示素子の画像が固定化する焼き付き(残像)と呼ばれる現象や表示ムラなどの信頼性に対する要求が益々高まってきている。前記特性の中でも特に焼き付きの抑制については多くの検討がなされている。
【0004】
特許文献2によれば、焼き付きはカラーフィルターのブラックマトリックス層または赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の顔料や染料に由来するイオン性不純物による液晶へ溶出によって発生することが開示されている。前記のイオン性不純物は保護膜を通り抜けて、液晶に溶出するため、イオンバリア性に優れた保護膜が求められている。
【0005】
また、特許文献3においても、染料由来のイオン性不純物の溶出防止を目的にイオン捕捉剤を含有する保護膜形成用樹脂組成物が開示されており、優れた液晶の抵抗特性(電圧保持率)を有することが報告されている。
【0006】
さらに、特許文献4では、アクリル系共重合体とエポキシ化合物との反応物からなる比誘電率の低い材料によって保護膜における電荷の帯電を軽減し、保護膜近傍での液晶の配列乱れを防止することが開示されている。
前記のとおり、焼き付きについて種々の検討がなされているが、発明者らの検討によれば保護膜に十分なイオンバリア性、電圧保持率および比誘電率を有していても液晶パネルの焼き付きが改善できない課題があった。
そこで本発明の目的とするところは、液晶パネルにおける焼き付き抑制能を有するカラーフィルター保護膜を形成可能な熱硬化性樹脂組成物と、その硬化物からなる保護膜を用いたカラーフィルターを提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-350010号公報
【文献】特開2015-106032号公報
【文献】特開2017-120387号公報
【文献】特開平10-332921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような背景のなか鋭意検討を重ねた結果、筆者らは液晶パネルにおける焼き付きはカラーフィルター製造時のフォトスペーサー形成工程によって保護膜に残存した金属イオンであることを突き止め、本発明の開発に至った。
【0009】
カラーフィルターにおける保護膜上には、フォトスペーサーがフォトリソグラフィー工程により形成される。当該フォトスペーサーは、塗工液の状態で保護膜上に塗布されるが、その際、塗布性(リコート性)向上のため、保護膜表面に対し塗布前洗浄が行われる。この塗布前洗浄にはUVオゾン洗浄が広く使用されており、保護膜はフォトスペーサーの塗布前洗浄時に光源である低圧水銀灯から発せられる、主に185nmと254nmのUV光に曝される。上述したように保護膜が高いエネルギーのUV光に曝されると、膜中のエステル結合などが分解し、保護膜表面にカルボキシル基や水酸基などの極性官能基が生成される。この生成したカルボキシル基がフォトスペーサーの形成工程で使用される水酸化カリウムや炭酸ナトリウムなどのアルカリ現像液と接触すると、現像液中のNaイオンやKイオンのようなアルカリ金属イオンが保護膜表面のカルボキシル基とイオン結合を形成してしまう。この結合した金属イオンが液晶パネルの焼き付きに影響を与えていることを解明し、この金属イオンの低減が焼き付き抑制に繋がることを見出した。
【0010】
本発明は上記実情を鑑みてなされたものであり、カラーフィルター保護膜に一般的に求められる塗工外観、平滑性、耐薬品性といった性能を維持した上で、前記のUVオゾン洗浄後の硬化膜において、フォトスペーサー形成時のアルカリ現像液に接触しても残存する金属イオンが少なく、液晶パネルにおいて良好な焼き付き抑止能を有する熱硬化性樹脂組成物と、その硬化物からなる保護膜を用いたカラーフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく種々の検討を行った結果、特定の重合体、特定のカルボン酸誘導体化合物、特定のエポキシ化合物および2官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂を特定の比率範囲で組み合わせることにより、前記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は次の〔1〕および〔2〕である。
【0012】
〔1〕
下記(A)~(D)成分を含有する熱硬化性樹脂組成物であって、
前記(A)~(D)成分の合計100質量部中に、前記(A)成分を20~80質量部、前記(B)成分を10~50質量部、前記(C)成分を1~50質量部および前記(D)成分を1~15質量部であり、前記(C)成分と(D)成分の質量比(C)/(D)が3.0~9.0であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
(A)成分:(a1)炭素-炭素不飽和結合とエポキシ基を有するモノマーと、(a2)(a1)以外の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーとからなり、前記(a1)成分及び前記(a2)成分の合計量100重量部中に、(a1)成分を10~90重量部、(a2)成分を90~10重量部含む、エポキシ基含有重合体
(B)成分:下記式(1)で表される多価カルボン酸ヘミアセタールエステル
【化1】
(式中のRは炭素数1~6のアルキル基を表す。)
(C)成分:下記式(2)で表されるエポキシ樹脂
【化2】
(式中のnは1~15を表す。)
(D)成分:2官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂
〔2〕
〔1〕に記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる保護膜を有するカラーフィルター。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱硬化性樹脂組成物によれば、塗工外観、平滑性、耐薬品性といった性能を維持した上で、UVオゾン洗浄後の硬化膜において、フォトスペーサー形成時のアルカリ現像液に接触しても残存する金属イオンが少ないカラーフィルター保護膜を形成できる。また、本発明の熱硬化性樹脂組成物を形成したカラーフィルターは、液晶パネルにおいて焼き付き抑止能に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
≪熱硬化性樹脂組成物≫
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(A)エポキシ基含有重合体、(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステル、(C)多官能エポキシ樹脂、および(D)2官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む。
【0015】
<(A)エポキシ基含有重合体>
(A)エポキシ基含有重合体は、重合体主鎖を構成する炭化水素鎖に対し、エポキシ基が直接または他の基を介して間接的に結合した構造を有する重合体である。
エポキシ基含有重合体は、(a1)炭素-炭素不飽和結合とエポキシ基を有するモノマーと、(a2)(a1)以外の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーとの両成分から誘導された構造からなる共重合体であることが好ましい。
【0016】
(a1)炭素-炭素不飽和結合とエポキシ基を有するモノマーは、炭素-炭素不飽和結合と、エポキシ基とを有していればよく、公知のいかなるモノマーも利用することができる。
【0017】
(a1)炭素-炭素不飽和結合とエポキシ基を有するモノマーとして、例えば下記式(3)~(5)で表されるモノマーがより好ましい例として挙げられる。
【化3】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、kは1~3の整数を示す。)
【0018】
【化4】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは-CHO-基又は-CH-基、Rは水素原子又は炭素数1~2のアルキル基、mは1~3の整数を示す。)
【0019】
【化5】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、nは1~3の整数を示す。)
【0020】
前記式(3)~(5)の中でも特に好ましくは、式(3)としてはRがメチル基、kが1のモノマーであり、式(4)としてはRが水素原子、Rが-CHO-基、Rが水素原子、mが1のモノマーであり、式(5)としてはRがメチル基、nが1のモノマーである。
【0021】
(a2)(a1)以外の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーは、炭素-炭素不飽和結合を有し、(a1)に該当しない化合物であればよく、公知のいかなるモノマーも利用することができる。(a2)成分のモノマーとして、好ましくは、下記式(6)~(9)で表されるモノマーが挙げられる。
【0022】
【化6】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数1~8のアルキル基、アリール基又は主環構成炭素数3~12の脂環式炭化水素基を示す。)
【0023】
【化7】
(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基、R10は炭素数1~12のアルキル基、アルコキシ基、シロキシアルキル基又は芳香族炭化水素基を示す。)
【0024】
【化8】
(式中、R11は水素原子又は炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~12の脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基を示す。)
【0025】
【化9】
(式中、R12は水素原子又はメチル基、R13はメチル基又はエチル基、pは1~5の整数を示す。)
【0026】
前記式(6)~(9)の中でも特に好ましくは、式(6)としてはRが水素原子もしくはメチル基、Rが炭素数4のアルキル基もしくは主環構成炭素数6の脂環式炭化水素基のモノマーであり、式(7)としてはRが水素原子、R10が6員環の芳香族炭化水素基のモノマーであり、式(8)としてはR11が6員環の脂環式炭化水素基のモノマーであり、式(9)としてはR12及びR13がメチル基、pが3のモノマーである。
【0027】
(A)エポキシ基含有重合体は、(a1)成分と(a2)成分とを共重合することによって得ることができる。その重合態様としては直鎖状であっても分岐していてもよく、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれであってもよい。なお、(a1)成分又は(a2)成分の各成分として、モノマーを1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
(a1)成分と(a2)成分との重合方法は特に限定されず、ラジカル重合及びアニオン重合などのイオン重合等の種々の重合法を用いることができる。また、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法及び乳化重合法等の重合法を用いることができる。さらに、必要に応じて触媒や溶媒などの添加物を重合反応系に添加してもよい。
【0029】
(A)エポキシ基含有重合体の重量平均分子量(Mw)は3,000~100,000であり、好ましくは4,000~80,000であり、より好ましくは5,000~50,000であり、更に好ましくは8,000~30,000である。重量平均分子量が3,000未満であると耐薬品性が悪化するおそれがあり、100,000を超えると、平滑性が悪化するおそれがある。また、エポキシ基含有重合体は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
(A)エポキシ基含有重合体は、(a1)及び(a2)成分の合計100質量部中に、(a1)成分を10~90質量部、好ましくは20~80質量部含有し、(a2)成分を10~90質量部、好ましくは20~80質量部含有する。
【0031】
(A)エポキシ基含有重合体の含有量は、(A)~(D)成分の合計100質量部中に、20~80質量部、好ましくは20~75質量部、より好ましくは25~70質量部含有する。(A)成分が20質量部を下回ると平滑性が悪化し、80質量部を超えると、硬化膜中のカルボキシル基が増え、アルカリ現像液に接触した際に残存する金属イオンが少ないという効果が発揮されないおそれがある。
【0032】
<(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステル>
(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステルは、下記式(1)で表されるトリメリット酸のカルボキシル基がビニルエーテル化合物によりヘミアセタールエステルとして潜在化、すなわちブロック化されたビニルエーテルブロック多価カルボン酸であり、以下の一般式(10)で表される反応によって得ることができる。
【化10】
(式中のRは炭素数1~6のアルキル基を表す。)
【0033】
【化11】
(式中のRは、炭素数1~6のアルキル基を表す。)
【0034】
(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステルの多価カルボン酸は、入手性の観点からトリメリット酸である。また、式(1)および式(10)におけるRの炭素数は、1~6であり、好ましくは2~6である。前記式(10)におけるビニルエーテル化合物の具体例としては、例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、及びシクロヘキシルビニルエーテル等の脂肪族ビニルエーテル化合物が挙げられる。それらの中でも、入手が容易であり、硬化温度が保護膜のプロセスに適合する点から、n-プロピルビニルエーテル及びi-プロピルビニルエーテルが好ましい。なお、ビニルエーテル化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステルは、トリメリット酸とビニルエーテル化合物とを室温ないし150℃の範囲の温度で反応させることによって得ることができる。ブロック化反応は平衡反応であるため、トリメリット酸に対してビニルエーテル化合物を一定過剰量加えると反応が促進され、収率を向上させることができる。また、トリメリット酸とビニルエーテル化合物との反応には、目的に応じて触媒や溶媒を添加することもできる。ブロック化反応の進行により反応溶液の酸価が2.0mgKOH/g以下まで低下したら、充分に反応が進行したと判断し、反応を終了する。
【0036】
触媒としては、3級アミン類、イミダゾール類、有機リン系化合物、4級ホスホニウム塩類、ジアザビシクロアルケン類、有機金属化合物類、4級アンモニウム塩類、ホウ素化合物及び金属ハロゲン化物等が挙げられる。触媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
溶媒としては、芳香族炭化水素、エーテル類、エステル類、エーテルエステル類、ケトン類、リン酸エステル類、ニトリル類、非プロトン性極性溶媒及びプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類等が挙げられる。溶媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステルは、(A)~(D)成分の合計100質量部中に、10~50質量部、好ましくは15~45質量部、より好ましくは20~40質量部含有する。(B)成分が10質量部を下回ると耐薬品性が悪化するおそれがあり、50質量部を超えるとアルカリ現像液に接触した際に残存する金属イオンが少ないという効果が発揮されないおそれがある。
【0039】
<(C)多官能エポキシ樹脂>
(C)多官能エポキシ樹脂は、下記式(2)で表される構造を有するものである。(C)多官能エポキシ樹脂は、繰り返し単位として多数の芳香環を有しているため、UV光への耐性を示し、アルカリ現像液に接触した際の金属イオンの残存量を低下するという性能が発現する。また、多官能のエポキシ基を有しているため、(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステルとの熱硬化反応によって耐薬品性に優れる硬化膜を得ることができる。
【化12】
(式中のnは1~15を表す。)
【0040】
前記式(2)におけるnは平均の繰り返し数を表しており、好ましくはnが1~10の繰り返し数を有する構造である。
【0041】
(C)多官能エポキシ樹脂は、(A)~(D)成分の合計100質量部中に、1~50質量部、好ましくは5~45質量部、より好ましくは7~40質量部含有する。(C)成分が1質量部を下回るとアルカリ現像液に接触した際に残存する金属イオンが少ないという効果や耐薬品性を損なうおそれがあり、50質量部を超えると相溶性が損なわれ、外観や平滑性が悪化するおそれがある。
【0042】
<(D)2官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂>
(D)2官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、下記式(11)で表される構造である。(D)2官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、硬化時の相溶性の向上が可能であり、硬化膜の白濁等の外観を防止でき且つ、良好な平滑性を得ることができる。
【化13】
(式中のnは0~8を表す。)
【0043】
前記式(11)におけるnは平均の繰り返し数を表しており、好ましくはnが0~6の繰り返し数を有する構造である。(D)2官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、例えばjER825(三菱ケミカル(株))、jER827(同)、jER828(同)、jER834(同)等の液状または半固形性状のエポキシ樹脂を使用することができる。
【0044】
(D)2官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、(A)~(D)成分の合計100質量部中に、1~15質量部、好ましくは1.5~8.0質量部、より好ましくは2.0~5.0質量部含有する。(C)成分が1質量部を下回ると平滑性を損なうおそれがあり、15質量部を超えると耐薬品性が悪化するおそれがある。
【0045】
(C)多官能エポキシ樹脂と(D)2官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂の質量比(C)/(D)は硬化膜の外観や平滑性に寄与しており、特定の比率において両特性を満足することができる。前記質量比(C)/(D)は3.0~9.0であり、好ましくは4.0~6.0である。質量比(C)/(D)が3.0を下回ると耐薬品性を損なうおそれがあり、9.0を超えると硬化膜の白濁発生や平滑性が悪化するおそれがある。
【0046】
<その他の添加剤>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、発明の効果を阻害しない範囲で、シランカップリング剤、レベリング剤、酸化防止剤、安定剤及び有機溶剤等の添加剤を加えることができる。
【0047】
<(C)、(D)成分以外のエポキシ樹脂>
(C)、(D)成分以外のエポキシ樹脂は、相溶性や耐薬品性を向上させる目的で必要に応じて含有してもよい。例えば、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、3官能型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールA含核ポリオール型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリオキザール型エポキシ樹脂、脂環式型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂などが挙げられる。それらの中でも、脂環式型エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0048】
<シランカップリング剤>
シランカップリング剤は、一分子中にアルコキシシリル基(Si-O-R)とビニル基、エポキシ基、アミノ基およびメルカプト基等の反応性基を有する化合物である。反応性基としては、エポキシ基を有するものが好ましい。具体的には3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、及び2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらシランカップリング剤は、1種単独で又は2種以上を併用することができる。
【0049】
<レベリング剤>
レベリング剤は、得られる塗膜の外観を向上させる目的で配合されるものであって、この種のカラーフィルター用保護膜において従来から一般的に使用されている、シリコーン系、フッ素系、アクリル系等を特に制限無く使用することができる。レベリング剤の市販品としては、例えばメガファックF-410(DIC(株))、同F-477(同)、同F-552(同)、同F-553(同)、同F-554(同)、同F-555(同)、同F-556(同)、同F-558(同)、同F-559(同)、同F-561(同)、ノベックFC-4430(住友スリーエム(株))、FC-4432(同)、サーフロンS-611(AGCセイミケミカル(株))、同S-651(同)、S-386(同)、フタージェント208G(ネオス(株))、同602A(同)、同650A(同)、同610FM(同)、同710FM(同)、FTX-218(同)、BYK―302(ビックケミー・ジャパン(株))、BYK-307(同)、BYK-337(同)、ポリフローKL-400HF(共栄社化学(株))、KL-700(同)、LE-604(同)等を使用できる。
【0050】
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、IRGANOX1010(BASF)、IRGANOX1035(同)、IRGANOX1076(同)、IRGANOX1135(同)、IRGANOX1726(同)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤等を使用できる。
【0051】
<安定剤>
安定剤は、前記「<(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステル>」に記載の過剰のビニルエーテルのことを指し、多価カルボン酸ヘミアセタールエステルの収率向上の目的で添加される。具体的には、前記「<(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステル>」に記載のビニルエーテルが挙げられる。
【0052】
<有機溶剤>
有機溶剤は、熱硬化性樹脂組成物の粘度等を調整する目的で添加される。具体的には、酢酸アミル等のエステル類、エチルエトキシプロピオネート及び3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート等のエーテルエステル類;メチルエチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及びプロピレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル等のグリコール誘導体が挙げられる。
【0053】
(カラーフィルター保護膜の形成)
本発明のカラーフィルターは、上記熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物の層を、保護膜として備える。当該熱硬化性樹脂組成物は、基板上に配置された着色層やブラックマトリックスを覆うように塗布される。その塗布方法は特に限定されることは無く、インクジェット法、スピンコート法及びダイコート法等の公知の塗工方法を採用することができる。
【0054】
得られた塗膜を乾燥し、さらに必要に応じて予備加熱(以下、「プリベーク」という。)を行った後、本硬化加熱(以下、「ポストベーク」という。)を経て樹脂硬化物の層を形成する。この際には、プリベーク条件として40~140℃、0~1時間、ポストベーク条件として150~280℃、0.2~2時間が好ましい条件として挙げられる。また、この際の加熱手法は特に限定されるものではなく、例えば、密閉式硬化炉や連続硬化が可能なトンネル炉等の硬化装置を採用することができる。加熱源は特に制約されることなく、熱風循環、赤外線加熱及び高周波加熱等の方法で行うことができる。
【実施例
【0055】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
<重合例1:エポキシ基含有重合体(A-1)の合成>
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を76.0質量部仕込み、攪拌しながら加熱して88℃に昇温した。次いで、88℃の温度で、(a1)成分としてグリシジルメタクリレート(GMA)64.0質量部、(a2)成分としてシクロヘキシルアクリレート(CHMA)36.0質量部、重合開始剤として日油(株)製の過酸化物系重合開始剤「パーヘキシルO(PHO)」8.0質量部、及びPGMEA16.0質量部を予め均一混合したもの(滴下成分)を、2時間かけて滴下ロートより等速滴下した。その後、88℃の温度を5時間維持し、重量平均分子量(Mw)14,000のエポキシ基含有重合体(A-1)の50%PGMEA溶液を得た。
【0056】
<重量平均分子量(Mw)>
重量平均分子量(Mw)は、東ソー(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC-8320GPCを用いて、カラムとして東ソー(株)製TSKgel HZM-Mを用い、THFを溶離液とし、RI検出器により測定してポリスチレン換算により求めた。
【0057】
<重合例2~9:エポキシ基含有重合体(A-2~A-9)の合成>
表1に示す原料を表1に示す条件で混合し、重合例1と同様の方法でA-2~A-9の重合体を得た。各原料の仕込み量、反応温度及び重量平均分子量を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1中の略号は次の通りである。
(a1)成分
GMA:グリシジルメタクリレート
(a2)成分
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
CHA:シクロヘキシルアクリレート
MPS:メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
St:スチレン
CHMI:シクロヘキシルマレイミド
(重合開始剤)
PHO:t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日油(株)製の過酸化物系重合開始剤「製品名:パーヘキシルO」)
(溶剤)
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0060】
<合成例1:(B)多価カルボン酸ヘミアセタールエステル(B-1)の合成>
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えた4つ口フラスコに、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)26.8質量部、多価カルボン酸としてトリメリット酸(TMA)26.9質量部、ビニルエーテルとしてn-プロピルビニルエーテル(NPVE)46.3質量部を仕込み、攪拌しながら加熱し80℃に昇温した。次いで、温度を保ちながら攪拌し続け、混合物の酸価が2.0mgKOH/g以下に到達したことを確認後、反応を終了し、溶液の酸価0.6mgKOH/gの多価カルボン酸ヘミアセタールエステル(B-1)の60%PGMEA溶液を得た。
【0061】
<酸価>
酸価はJIS K0070-1992「化学製品の酸価,けん化価,エステル価,よう素価,水酸基価及び不けん化物の試験方法」に準拠した方法で測定した。
【0062】
<合成例2:多価カルボン酸ヘミアセタールエステル(B-2)の合成>
表2に示す原料を表2に示す条件で混合し、合成例1と同様の方法でB-2の反応物を得た。各原料の仕込み量、反応温度及び酸価を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2中の略号は次の通りである。
(多価カルボン酸)
TMA:トリメリット酸
(ビニルエーテル)
NPVE:n-プロピルビニルエーテル
IPVE:i-プロピルビニルエーテル
(溶剤)
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0065】
<実施例1~9、比較例1~6>
表3、表4に示す各成分を表3、表4に示す配合量で溶解混合し、実施例1~9及び比較例1~6のカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物の塗工液を調製した。なお、表3、表4において、各成分の含有量を示す数値は質量部である。また、表3、表4中の略号は次の通りである。
【0066】
<(C)多官能エポキシ樹脂>
C-1:前記式(2)の多官能エポキシ樹脂(平均繰り返し数n:5.5)
C-2:前記式(2)の多官能エポキシ樹脂(平均繰り返し数n:3.2)
C-3:前記式(2)の多官能エポキシ樹脂(平均繰り返し数n:1.5)
<(D)2官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂>
D-1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製、商品名「jER-828」)
<シランカップリング剤>
OFS-6040:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名:「OFS-6040」)
<レベリング剤>
F-477:フッ素系レベリング剤(DIC(株)製、商品名:「メガファック F-477」)
FTX-218:フッ素系レベリング剤((株)ネオス製、商品名:「FTX-218」)
<その他の添加剤>
CEL2021:3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート((株)ダイセル製、商品名:「セロキサイド2021P」)
<安定剤>
NPVE:n-プロピルビニルエーテル
IPVE:i-プロピルビニルエーテル
<溶剤>
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
EEP:エチルエトキシプロピオネート
【0067】
実施例1~9及び比較例1~6のカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物の塗工液は、それぞれメンブレンフィルター(材質:PE、孔径:0.2μm)で濾過した後、更に中空系フィルター(材質:PP、孔径:0.02μm)で濾過した。得られたカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物の塗工液を、スピンコーター(型式1H-DX-2、ミカサ(株)製)により無アルカリガラス基板上に回転塗布した。塗布後、基板を90℃のクリーンオーブン中で2分間プリベークし、その後、230℃のクリーンオーブン中で30分間ポストベークすることにより、所定の膜厚の硬化膜を得た。カラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物或いは得られた硬化膜について、次に示す「塗工外観」、「平滑性」、「残存金属イオン性」、「耐薬品性」の評価を行った。評価の結果を表3、表4に示す。
【0068】
<塗工外観>
2.0μm厚の硬化膜を形成した無アルカリガラス基板の外観を目視にて確認した。塗膜表面の塗工外観が良好な場合を○、塗膜の表面荒れや白化が見られた場合を×と評価した。塗工外観が○であれば、塗工外観は良好である。
【0069】
<平滑性>
2.0μm厚の硬化膜を形成した無アルカリガラス基板を、走査型プローブ顕微鏡(AFM5100N、(株)日立ハイテクサイエンス製)にて測定し、硬化膜表面の算術平均粗さを測定した。算術平均粗さ(Ra)は、0.5nm以下を◎、0.5~1.5nmを〇、1.5nmを超えた場合を×と評価した。算術平均粗さ(Ra)は1.5nm以下を合格とした。
【0070】
<残存金属イオン性>
2.0μm厚の硬化膜を形成した無アルカリガラス基板に対し、UV洗浄装置(型式アイ UV-オゾン洗浄装置、岩崎電気(株)製)を用いて照射量3,000mJ/cmとなるよう、UV-オゾン照射を行った後、0.05wt%水酸化カリウム現像液に90秒間浸漬した。その後、基板を純水にて10秒間洗浄し乾燥した基板を蛍光X線装置(型式ZSX100e、リガク(株)製)にて残存カリウム分を測定した。なお、残存カリウム分が0.6%以下を合格とした。
【0071】
<耐薬品性>
2.0μm厚の硬化膜を形成した無アルカリガラス基板を、25℃でNMPに30分間浸漬した際の試験前後の硬化膜の膜厚を測定し、膜厚変化率を算出した。試験前後の膜厚変化率について、1.5%以下を合格とした。
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
表3および表4の結果から、実施例1~9では、残存金属イオン性に優れ、且つ、硬化膜の平滑性および耐薬品性も良好であった。
一方、比較例1では、(C)成分を含有していないため、残存金属イオン性や、耐薬品性を向上する効果が得られなかった。
比較例2では、(D)成分を含有していないため、塗工外観や平滑性が悪い結果となった。
比較例3では、(A)~(D)成分の合計100質量部中に、(A)成分の含有量が20質量部未満であり、(C)成分の含有量が50質量部超であり、(C)成分と(D)成分の質量比(C)/(D)が9.0超であるため、塗工外観や平滑性が悪い結果となった。
比較例4では、(A)~(D)成分の合計100質量部中に、(D)成分の含有量が15質量部超であり、(C)成分と(D)成分の質量比(C)/(D)が3.0未満であるため、耐薬品性が悪い結果となった。
比較例5では、(A)~(D)成分の合計100質量部中に、(A)成分の含有量が80質量部超であり、(B)成分の含有量が10質量部未満であるため、残存金属イオン性や、耐薬品性を向上する効果が認められず、平滑性も悪い結果となった。
比較例6では、(A)~(D)成分の合計100質量部中に、(B)成分の含有量が50質量部超であるため、残存金属イオン性や、耐薬品性を向上する効果が認められなかった。