(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】車両用駆動伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16H 3/083 20060101AFI20241204BHJP
F16H 3/089 20060101ALI20241204BHJP
F16D 25/08 20060101ALI20241204BHJP
F16C 19/54 20060101ALI20241204BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20241204BHJP
F16C 35/063 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
F16H3/083
F16H3/089
F16D25/08 Z
F16C19/54
F16C19/36
F16C35/063
(21)【出願番号】P 2021055752
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】土井 孝之
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/106274(WO,A1)
【文献】特表2016-516161(JP,A)
【文献】特開平05-164201(JP,A)
【文献】特開2005-147387(JP,A)
【文献】米国特許第04534236(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/083
F16H 3/089
F16D 25/08
F16C 19/54
F16C 19/36
F16C 35/063
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材に支持されたはすば歯車である第1ギヤと、
前記第1ギヤに噛み合うはすば歯車である第2ギヤと、
前記軸部材を回転可能に支持する支持軸受と、
前記軸部材に支持された摩擦係合装置と、を備えた車両用駆動伝達装置であって、
前記軸部材の回転軸心に沿う方向を軸方向とし、前記軸方向の一方側を軸方向第1側とし、前記軸方向の他方側を軸方向第2側として、
前記摩擦係合装置は、相対回転可能に支持された一対の摩擦部材と、一対の前記摩擦部材を互いに押し付けるように前記軸方向に押圧するピストン部と、を備え、
前記第1ギヤと前記第2ギヤとの噛み合い部分において前記軸方向第2側から前記軸方向第1側へ向けて作用する軸方向荷重を前記第1ギヤが受けるように、前記第1ギヤのはすばの向きと前記第2ギヤのはすばの向きとが設定され、
前記ピストン部は、一対の前記摩擦部材を前記軸方向第2側へ向けて押圧するように構成され
、
前記軸部材に支持されたはすば歯車である第3ギヤと、
前記第3ギヤに噛み合うはすば歯車である第5ギヤと、を更に備え、
前記第3ギヤと前記第5ギヤとの噛み合い部分において前記軸方向第1側から前記軸方向第2側へ向けて作用する軸方向荷重を前記第3ギヤが受けるように、前記第3ギヤのはすばの向きと前記第5ギヤのはすばの向きとが設定されている、車両用駆動伝達装置。
【請求項2】
前記支持軸受は、前記第1ギヤに対して前記軸方向第1側に配置された第1軸受と、前記第1ギヤに対して前記軸方向第2側に配置された第2軸受と、を含み、
前記第1軸受は、前記軸部材の前記軸方向第1側への移動を規制するように構成され、
前記第2軸受は、前記軸部材の前記軸方向第2側への移動を規制するように構成されている、請求項1に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項3】
前記軸部材の前記回転軸心に直交する方向を径方向として、
前記摩擦係合装置は、一対の前記摩擦部材の一方を前記径方向の内側から支持する内側支持部材と、一対の前記摩擦部材の他方を前記径方向の外側から支持する外側支持部材と、を備え、
前記内側支持部材は、一対の前記摩擦部材を挟んで前記ピストン部とは前記軸方向の反対側から一対の前記摩擦部材を支持する軸方向支持部を備えると共に、前記軸部材に対する前記軸方向第2側への移動が規制された状態で前記軸部材に支持されている、請求項1又は2に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項4】
前記軸部材に支持されたはすば歯車であ
る第4ギヤと、
前記第4ギヤに噛み合うはすば歯車である第6ギヤと、を備え、
前記第4ギヤと前記第6ギヤとの噛み合い部分において前記軸方向第1側から前記軸方向第2側へ向けて作用する軸方向荷重を前記第4ギヤが受けるように、前記第4ギヤのはすばの向きと前記第6ギヤのはすばの向きとが設定されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項5】
駆動力源に駆動連結された入力部材と、
それぞれが車輪に駆動連結された一対の出力部材と、
差動入力ギヤの回転を一対の前記出力部材に分配する差動歯車機構と、
噛合い式係合装置と、を備え、
前記第1ギヤは、前記軸部材と一体的に回転するように支持され、
前記第2ギヤは、前記差動入力ギヤであり、
前記第3ギヤ及び前記第4ギヤは、前記軸部材に対して相対回転可能に支持され、
前記第5ギヤ及び前記第6ギヤは、前記入力部材と一体的に回転するように前記入力部材に支持され、
前記噛合い式係合装置は、前記第3ギヤ及び前記第4ギヤのいずれか一方を前記軸部材に対して選択的に連結するように構成され、
前記摩擦係合装置は、前記第4ギヤを前記軸部材に対して選択的に連結するように構成されている、請求項4に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項6】
前記第3ギヤは、前記第1ギヤよりも前記軸方向第1側に配置されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の車両用駆動伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用駆動伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用駆動伝達装置の一例が、特表2016-516161号公報(特許文献1)に開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された車両駆動伝達装置では、形状接合型シフト要素〔5〕(噛合い式係合装置)が遊び歯車〔7〕及び遊び歯車〔8〕のいずれか一方を入力軸〔2〕に対して選択的に連結することで、2段変速が可能となっている。変速段の切り替えに際しては、その切り替えを円滑に行うため、摩擦接合型シフト要素〔6〕(摩擦係合装置)を係合させることによって回転の同期制御を行っている。
【0004】
ところで、上記のような車両駆動伝達装置では、異なる軸(仮想軸を含む)上に配置されて互いに噛み合うギヤは、騒音低減などの観点から、はすば歯車によって構成されることが多い。この場合、ギヤの噛み合いによって、ギヤ及び当該ギヤを支持している軸部材に軸方向荷重(スラスト荷重)が作用する。このような軸部材は、通常、支持軸受によって回転可能に支持されている。軸部材に大きな軸方向荷重が作用すると、軸部材を支持する支持軸受に掛かる負荷も大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、はすば歯車で構成されたギヤを支持する軸部材に作用する軸方向荷重を低減することが可能な技術の実現が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る車両用駆動伝達装置は、
軸部材に支持されたはすば歯車である第1ギヤと、
前記第1ギヤに噛み合うはすば歯車である第2ギヤと、
前記軸部材を回転可能に支持する支持軸受と、
前記軸部材に支持された摩擦係合装置と、を備えた車両用駆動伝達装置であって、
前記軸部材の回転軸心に沿う方向を軸方向とし、前記軸方向の一方側を軸方向第1側とし、前記軸方向の他方側を軸方向第2側として、
前記摩擦係合装置は、相対回転可能に支持された一対の摩擦部材と、一対の前記摩擦部材を互いに押し付けるように前記軸方向に押圧するピストン部と、を備え、
前記第1ギヤと前記第2ギヤとの噛み合い部分において前記軸方向第2側から前記軸方向第1側へ向けて作用する軸方向荷重を前記第1ギヤが受けるように、前記第1ギヤのはすばの向きと前記第2ギヤのはすばの向きとが設定され、
前記ピストン部は、一対の前記摩擦部材を前記軸方向第2側へ向けて押圧するように構成されている。
【0008】
第1ギヤと第2ギヤとの噛み合いにより、軸部材に対して、軸方向第2側から軸方向第1側へ向けて軸方向荷重が作用する。しかし、本構成によれば、摩擦係合装置のピストン部が、一対の摩擦部材を軸方向第2側へ向けて押圧することで、第1ギヤと第2ギヤとの噛み合いにより生じる上記の軸方向荷重とは反対側に向かう軸方向荷重を、軸部材に対して作用させることができる。従って、本構成によれば、ピストン部が一対の摩擦部材を押圧している状態において、軸部材に作用する軸方向荷重を低減することができる。その結果、軸部材を支持する支持軸受に作用する負荷を低減することができる。
【0009】
本開示に係る技術のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】ピストン部の押圧状態を示す、車両用駆動伝達装置の拡大断面図
【
図4】ピストン部の非押圧状態を示す、車両用駆動伝達装置の拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
車両用駆動伝達装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態の車両用駆動伝達装置100は、概略的には、変速機1と、回転電機2と、差動歯車機構3と、それぞれが車輪Wに駆動連結される一対の出力部材4とを備えている。また、変速機1は、第5ギヤ12及び第6ギヤ14を備えた入力部材10と、第3ギヤ22及び第4ギヤ24を支持するとともに第1ギヤ25を備えた軸部材20と、噛合い式係合装置30と、摩擦係合装置40とを備えている。これらは、ケース(駆動装置ケース)6内に収容されている。出力部材4の一部は、ケース6の外部に露出している。なお、本実施形態では、回転電機2が「駆動力源」に相当する。
【0012】
このように、車両用駆動伝達装置100は、軸部材20に支持された第1ギヤ25と、第1ギヤ25に噛み合う第2ギヤ3Aと、軸部材20に支持された摩擦係合装置40と、を備えている。また本実施形態では、車両用駆動伝達装置100は、軸部材20に支持された第3ギヤ22及び第4ギヤ24と、第3ギヤ22に噛み合う第5ギヤ12と、第4ギヤ24に噛み合う第6ギヤ14と、を備えている。
【0013】
ここで、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0014】
また、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を意味する。この概念には、2つの回転要素が一体回転するように連結された状態や、2つの回転要素が1つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態が含まれる。このような伝動部材には、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材(軸、歯車機構、ベルト、チェーン等)が含まれ、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置(摩擦係合装置や噛合い式係合装置等)が含まれても良い。
【0015】
回転電機2及び入力部材10は、第1軸X1上に配置されている。軸部材20、噛合い式係合装置30、及び摩擦係合装置40は、第2軸X2上に配置されている。差動歯車機構3及び出力部材4は、第3軸X3上に配置されている。第1軸X1、第2軸X2、及び第3軸X3は、互いに異なる平行な軸であり、軸部材20の回転軸心に対して平行に配置されている。以下では、軸部材20の回転軸心に沿う方向を「軸方向L」とし、軸方向Lの一方側を「軸方向第1側L1」とし、軸方向Lの他方側を「軸方向第2側L2」とする。ここでは、
図1の左側が軸方向第1側L1に相当し、
図1の右側が軸方向第2側L2に相当する。以下では、軸方向Lに沿って見た状態を「軸方向視」と言う。また、以下では、軸部材20の回転軸心に直交する方向を径方向Rとする。
【0016】
回転電機2は、ケース6に固定されたステータ2Aと、このステータ2Aの径方向内側に回転自在に支持されたロータ2Bとを備えている。回転電機2は、蓄電装置(図示せず)から電力の供給を受けて力行し、或いは、車両の慣性力等によって発電した電力を蓄電装置に供給して蓄電させる。ロータ2Bは、ロータ軸2Cと一体的に回転するように連結されている。ロータ軸2Cは、軸方向Lの2箇所で、ロータ軸受91(
図2を参照)によってケース6に対して回転自在に支持されている。ロータ軸2Cは、軸方向第1側L1の端部で、変速機1の入力部材10と一体的に回転するように連結されている。
【0017】
変速機1は、回転電機2側からの回転を変速して車輪W側に伝達する。本実施形態の変速機1は、第5ギヤ12及び第6ギヤ14を備えた入力部材10と、第3ギヤ22及び第4ギヤ24を支持するとともに第1ギヤ25を備えた軸部材20と、噛合い式係合装置30と、摩擦係合装置40とを備えている。噛合い式係合装置30が、第3ギヤ22及び第4ギヤ24のいずれか一方を軸部材20に対して選択的に連結することで、変速機1は、回転電機2側からの回転を2段階に変速して車輪W側に伝達することができる。摩擦係合装置40は、噛合い式係合装置30が第4ギヤ24を軸部材20に対して連結する際に、係合状態となることで、第4ギヤ24と軸部材20との回転速度を同期させる。
【0018】
本実施形態では、噛合い式係合装置30は、軸方向Lにおいて、第3ギヤ22と第4ギヤ24との間に配置されている。また、摩擦係合装置40は、第3ギヤ22及び第4ギヤ24に対して軸方向第1側L1に配置されている。また、第1ギヤ25は、第3ギヤ22及び第4ギヤ24に対して軸方向第2側L2に配置されている。すなわち、第1ギヤ25は、摩擦係合装置40に対して軸方向第2側L2に配置されており、摩擦係合装置40は、第1ギヤ25に対して軸方向第1側L1に配置されている。
【0019】
第1ギヤ25は、少なくとも軸方向Lの相対移動が規制された状態で、軸部材20に支持されている。本実施形態では、第1ギヤ25は、軸部材20と一体的に形成されている。
【0020】
差動歯車機構3は、第2ギヤ3Aを備えており、この第2ギヤ3Aに入力される変速機1側からの回転及びトルクを、一対の出力部材4に分配して伝達する。第2ギヤ3Aは、いわゆる差動入力ギヤとして構成されている。一対の出力部材4は、それぞれが車輪Wに駆動連結されている。このように、回転電機2の側から伝達される回転が、変速機1を介して差動歯車機構3に伝達され、さらに差動歯車機構3により一対の出力部材4に分配され、さらに一対の車輪Wに伝達される。これにより、車両用駆動伝達装置100は、回転電機2のトルクを車輪Wに伝達させて車両を走行させることができる。
【0021】
図2に示すように、ケース6は、第1ケース部6Aと第2ケース部6Bと第3ケース部6Cとを備えている。第1ケース部6Aは、第2ケース部6Bに対して軸方向第1側L1から接合されている。第1ケース部6Aは、変速機1及び差動歯車機構3を収容している。第1ケース部6Aは、変速機1及び差動歯車機構3の径方向外側を覆う第1周壁部6Aaと、変速機1及び差動歯車機構3の軸方向第1側L1を覆う第1支持壁部6Abとを備えている。第2ケース部6Bは回転電機2を収容している。第2ケース部6Bは、回転電機2の径方向外側を覆う第2周壁部6Baと、回転電機2の軸方向第2側L2を覆う第2支持壁部6Bbとを備えている。図示の例では、変速機1及び差動歯車機構3の一部も、第2ケース部6Bに収容されている。第3ケース部6Cは、第1ケース部6A及び第2ケース部6Bの内部で、変速機1及び差動歯車機構3の収容空間と回転電機2の収容空間とを区画している。
【0022】
入力部材10は、駆動力源(ここでは回転電機2)からの駆動力が入力される部材(変速機1における変速入力部材)として機能する。入力部材10は、ロータ軸2Cに対して軸方向第1側L1に配置されている。入力部材10は、その軸方向第2側L2の端部がロータ軸2Cに挿入された状態で、当該ロータ軸2Cと一体的に回転するように連結されている。また、入力部材10は、軸方向Lの2箇所で、入力軸受92によってケース6に対して回転自在に支持されている。入力部材10は、軸方向第1側L1において、第1ケース部6Aに対して回転自在に支持され、軸方向第2側L2において、第3ケース部6Cに対して回転自在に支持されている。
【0023】
本実施形態では、第1ケース部6Aの第1支持壁部6Abには、軸方向第2側L2に突出する筒状の第1筒状支持部61が形成されている(
図3を参照)。この第1筒状支持部61に、一対の入力軸受92のうちの1つが内嵌されている。
【0024】
第5ギヤ12及び第6ギヤ14は、入力部材10と一体的に回転するように当該入力部材10に連結されている。本実施形態では、第5ギヤ12は、入力部材10の外周面に形成されている。第5ギヤ12は、第3ギヤ22に噛み合っている。また、第6ギヤ14は、入力部材10と一体的に回転するように当該入力部材10に連結された第2ギヤ形成部材13の外周面に形成されている。第6ギヤ14は、第4ギヤ24に噛み合っている。第6ギヤ14は、第5ギヤ12に対して、軸方向第1側L1に間隔を空けて配置されている。
【0025】
軸部材20は、入力部材10と平行に配置されている。軸部材20の軸方向Lの配置領域は、入力部材10の軸方向Lの配置領域に重複している。本実施形態では、軸部材20の軸方向Lの配置領域は、入力部材10の軸方向Lの配置領域に包含されている。また、軸部材20は、軸方向Lの2箇所で、支持軸受93によってケース6に対して回転自在に支持されている。軸部材20は、軸方向第1側L1において、第1ケース部6Aに対して回転自在に支持され、軸方向第2側L2において、第3ケース部6Cに対して回転自在に支持されている。このように、車両用駆動伝達装置100は、軸部材20を回転可能に支持する支持軸受93を備えている。
【0026】
本実施形態では、支持軸受93は、第1ギヤ25に対して軸方向第1側L1に配置された第1軸受931と、第1ギヤ25に対して軸方向第2側L2に配置された第2軸受932と、を含んでいる。
【0027】
第1軸受931は、軸部材20の軸方向第1側L1への移動を規制するように構成されている。本実施形態では、軸部材20には、軸方向第1側L1を向く面を備えた第1段差部26が形成されている。第1段差部26よりも軸方向第1側L1における軸部材20の外周面の径が、第1段差部26よりも軸方向第2側L2における軸部材20の外周面の径よりも小さく形成されている。これにより、第1段差部26に、軸方向第1側L1を向く面が形成される。第1軸受931は、第1段差部26における軸方向第1側L1を向く面に対して軸方向第1側L1から当接している。
【0028】
また本実施形態では、第1軸受931は、ケース6(本例では第1支持壁部6Ab)によって、径方向Rに支持されていると共に、軸方向第1側L1から支持されている。これにより、軸部材20は、第1軸受931を介して、ケース6に対して径方向Rに支持されると共に、軸方向第1側L1から支持される。このように、第1軸受931は、軸部材20の軸方向第1側L1への移動を規制するように構成されている。図示の例では、第1軸受931は、スペーサを介して、第1支持壁部6Abによって軸方向第1側L1から支持されているが、スペーサ等の他の部材を介することなく直接的に支持されていても良い。
【0029】
第2軸受932は、軸部材20の軸方向第2側L2への移動を規制するように構成されている。
図2に示すように、本実施形態では、軸部材20には、軸方向第2側L2を向く面を備えた第2段差部27が形成されている。第2段差部27よりも軸方向第2側L2における軸部材20の外周面の径が、第2段差部27よりも軸方向第1側L1における軸部材20の外周面の径よりも小さく形成されている。これにより、第2段差部27に、軸方向第2側L2を向く面が形成される。第2軸受932は、第2段差部27における軸方向第2側L2を向く面に対して軸方向第2側L2から当接している。
【0030】
本実施形態では、第2軸受932は、ケース6(本例では第3ケース部6C)によって、径方向Rに支持されていると共に、軸方向第2側L2から支持されている。これにより、軸部材20は、第2軸受932を介して、ケース6に対して径方向Rに支持されると共に、軸方向第2側L2から支持される。このように、第2軸受932は、軸部材20の軸方向第2側L2への移動を規制するように構成されている。図示の例では、第2軸受932は、第3ケース部6Cによって軸方向第2側L2から支持されているが、ケース6の他の部分によって支持され、或いはケース6に支持された他の部材を介して間接的に支持されていても良い。
【0031】
本実施形態では、第1ケース部6Aの第1支持壁部6Abには、軸方向第2側L2に突出する筒状の第2筒状支持部62が形成されている(
図3を参照)。この第2筒状支持部62に、一対の支持軸受93のうちの1つが内嵌されている。本例では、第1軸受931が、第2筒状支持部62に内嵌されている。
【0032】
第3ギヤ22及び第4ギヤ24は、軸部材20と相対回転可能な状態で当該軸部材20に支持されている。本実施形態では、第3ギヤ22は、軸部材20に対して軸受を介して回転可能に支持された第3ギヤ形成部材21の外周面に形成されている。第3ギヤ22は、第5ギヤ12に噛み合っている。また、第4ギヤ24は、軸部材20に対して軸受を介して回転可能に支持された第4ギヤ形成部材23の外周面に形成されている。第4ギヤ24は、第6ギヤ14に噛み合っている。第4ギヤ24は、第3ギヤ22に対して、軸方向第1側L1に間隔を空けて配置されている。図示の例では、第3ギヤ形成部材21及び第4ギヤ形成部材23を支持する軸受には、針状ころ軸受が用いられている。
【0033】
なお、本実施形態では、第5ギヤ12は第6ギヤ14よりも小径であり、それに対応して、第3ギヤ22は第4ギヤ24よりも大径となっている。
【0034】
第1ギヤ25は、軸部材20と一体的に回転するように当該軸部材20に連結されている。本実施形態では、第1ギヤ25は、軸部材20の外周面に形成されている。第1ギヤ25は、第3ギヤ22が形成された第3ギヤ形成部材21に対して軸方向第2側L2に隣接する位置に形成されている。第1ギヤ25は、変速機1の外部へ駆動力を出力するための部材(変速出力部材)として機能する。第1ギヤ25は、差動歯車機構3の第2ギヤ3Aに噛み合っている。
【0035】
図3に示すように、噛合い式係合装置30は、第1係合部31と、第2係合部32と、第3係合部33と、切替部材35とを備えている。
【0036】
第1係合部31は、軸部材20と一体的に回転するように当該軸部材20に連結されている。本実施形態では、第1係合部31は、軸部材20と一体的に回転するように当該軸部材20に連結された連結部材31Aの外周面に形成されている。第1係合部31は、外歯の係合部となっている。
【0037】
第2係合部32は、第3ギヤ22と一体的に回転するように当該第3ギヤ22に連結されている。本実施形態では、第2係合部32は、外周面に第3ギヤ22が形成された第3ギヤ形成部材21に形成されている。第2係合部32は、第1係合部31に対して軸方向第2側L2に隣接して配置されている。第2係合部32は、第1係合部31と同径同ピッチの外歯の係合部となっている。
【0038】
第3係合部33は、第4ギヤ24と一体的に回転するように当該第4ギヤ24に連結されている。本実施形態では、第3係合部33は、外周面に第4ギヤ24が形成された第4ギヤ形成部材23に形成されている。第3係合部33は、第1係合部31に対して軸方向第1側L1に隣接して配置されている。第3係合部33は、第1係合部31及び第2係合部32と同径同ピッチの外歯の係合部となっている。
【0039】
切替部材35は、連結部材31Aの径方向Rの外側を覆う筒状に形成されている。そして、切替部材35の内周面には、それぞれが外歯の第1係合部31、第2係合部32、及び第3係合部33に噛み合う内歯の係合部が形成されている。切替部材35の内歯と第1係合部31、第2係合部32、及び第3係合部33の外歯とは、軸方向Lに相対移動可能、かつ、周方向に相対回転不能に係合する。
【0040】
噛合い式係合装置30は、切替部材35が第1係合部31及び第2係合部32の両方に係合した状態で、第3ギヤ22と軸部材20とを一体的に回転するように連結する。また、噛合い式係合装置30は、切替部材35が第1係合部31及び第3係合部33の両方に係合した状態で、第4ギヤ24と軸部材20とを一体的に回転するように連結する。このようにして、噛合い式係合装置30は、第3ギヤ22及び第4ギヤ24のいずれか一方を軸部材20に対して選択的に連結する。第3ギヤ22と軸部材20とが一体的に回転するように連結された状態で、回転電機2の駆動力は、互いに噛み合う第5ギヤ12と第3ギヤ22とを介して車輪W側に伝達される。一方、第4ギヤ24と軸部材20とが一体的に回転するように連結された状態で、回転電機2の駆動力は、互いに噛み合う第6ギヤ14と第4ギヤ24とを介して車輪W側に伝達される。
【0041】
なお、切替部材35が第1係合部31に係合しているが、第2係合部32及び第3係合部33の両方に係合していない状態では、噛合い式係合装置30は非係合状態(解放状態)となる。そして、噛合い式係合装置30が非係合状態で、かつ、摩擦係合装置40も非係合状態では、変速機1は駆動力を伝達しないニュートラル状態となる。
【0042】
図3及び
図4に示すように、摩擦係合装置40は、第1支持部材41と、第2支持部材42と、第1摩擦材43と、第2摩擦材44と、ピストン部Pとを備えている。
【0043】
第1支持部材41は、第1摩擦材43を支持するための部材であり、回転可能に支持されている。第1支持部材41は、第1摩擦材支持部41Aと第1径方向延在部41Bと軸連結部41Cと軸方向支持部41Dとを備えている。これらは、一体的に形成されている。第1摩擦材支持部41Aは、軸方向Lに沿う筒状に形成されており、第1摩擦材43を径方向Rの内側から支持している。第1摩擦材支持部41Aの外周面には、外歯が形成されている。これらの構成により、第1支持部材41は、第1摩擦材43を径方向R及び周方向に支持している。第1径方向延在部41Bは、第1摩擦材支持部41Aから径方向Rの内側へ向けて延在している。本実施形態では、第1径方向延在部41Bは、第1摩擦材支持部41Aの軸方向第2側L2の端部から径方向Rの内側へ向けて延在している。
【0044】
軸連結部41Cは、第1径方向延在部41Bの下端部から軸方向Lに延在している。軸連結部41Cは、軸方向Lに沿う筒状に形成されており、軸部材20に外挿されている。軸連結部41Cは、軸部材20と一体的に回転するように連結されている。これにより、第1支持部材41の全体が、軸部材20と一体的に回転するように連結されている。第1支持部材41を構成する各部のうち、第1径方向延在部41Bは、ピストン部Pに対して軸方向第2側L2に配置されている。
【0045】
軸方向支持部41Dは、第1摩擦材43及び第2摩擦材44を挟んでピストン部Pとは軸方向Lの反対側(本例では軸方向第2側L2)から第1摩擦材43及び第2摩擦材44を支持している。ここで、第2摩擦材44は、後述するように、第2支持部材42によって径方向R及び周方向に支持される。軸方向支持部41Dは、第1支持部材41によって支持される第1摩擦材43と共に、第2支持部材42によって支持される第2摩擦材44も、軸方向第2側L2から支持するように構成されている。すなわち、第1支持部材41は、第1摩擦材43及び第2摩擦材44の双方を軸方向第2側L2から支持している。本例では、軸方向支持部41Dは、第1摩擦材支持部41Aに対して軸方向第2側L2に連続して形成されていると共に、第1径方向延在部41Bに対して径方向Rの外側に連続して形成されている。本実施形態では、第1支持部材41が「内側支持部材」に相当する。
【0046】
本実施形態では、軸部材20における第1支持部材41が支持されている部分には、軸方向第1側L1を向く面を備えた中間段差部28が形成されている。中間段差部28は、軸方向Lにおける第1段差部26と第2段差部27との中間に配置されている。中間段差部28よりも軸方向第1側L1における軸部材20の外周面の径が、中間段差部28よりも軸方向第2側L2における軸部材20の外周面の径よりも小さく形成されている。これにより、中間段差部28に、軸方向第1側L1を向く面が形成される。第1支持部材41は、中間段差部28における軸方向第1側L1を向く面に対して軸方向第1側L1から当接している。これにより本例では、第1支持部材41は、軸部材20に対する軸方向第2側L2への移動が規制された状態で軸部材20に支持されている。
【0047】
第2支持部材42は、第2摩擦材44を支持するための部材であり、第1支持部材41とは独立して回転可能に支持されている。第2支持部材42は、第2摩擦材支持部42Aと第2径方向延在部42Bとを備えている。これらは、一体的に形成されている。第2摩擦材支持部42Aは、軸方向Lに沿う筒状に形成されており、第2摩擦材44を径方向Rの外側から支持している。第2摩擦材支持部42Aの内周面には、内歯が形成されている。これらの構成により、第2支持部材42は、第2摩擦材44を径方向R及び周方向に支持している。第2摩擦材支持部42Aは、第1摩擦材支持部41Aよりも径方向Rの外側に、第1摩擦材支持部41Aと同軸に配置されている。
【0048】
第2径方向延在部42Bは、第2摩擦材支持部42Aから径方向Rの内側へ向けて延在している。本実施形態では、第2径方向延在部42Bは、第2摩擦材支持部42Aの軸方向第2側L2の端部から径方向Rの内側へ向けて延在している。第2径方向延在部42Bは、第1径方向延在部41Bに対して軸方向第2側L2に隣接して配置されている。また、第2径方向延在部42Bは、第4ギヤ形成部材23に対して軸方向第1側L1に隣接して配置されている。第2径方向延在部42Bは、第4ギヤ24が形成された第4ギヤ形成部材23と一体的に回転するように連結されている。これにより、第2支持部材42の全体が、第4ギヤ24と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第2支持部材42が「外側支持部材」に相当する。
【0049】
第1摩擦材43は、軸方向Lに複数枚並んで配置されている。それぞれの第1摩擦材43の内周面には、第1摩擦材支持部41Aの外歯に噛み合う内歯が形成されている。第1摩擦材43は、第1摩擦材支持部41Aの外周面に、当該第1摩擦材支持部41Aに対して軸方向Lに相対移動可能、かつ、周方向に相対回転不能に支持されている。
【0050】
第2摩擦材44は、軸方向Lに複数枚並んで配置されている。第1摩擦材43と第2摩擦材44とは、軸方向Lに交互に配置されており、互いに軸方向Lに対向するように配置されている。それぞれの第2摩擦材44の外周面には、第2摩擦材支持部42Aの内歯に噛み合う外歯が形成されている。第2摩擦材44は、第2摩擦材支持部42Aの内周面に、当該第2摩擦材支持部42Aに対して軸方向Lに相対移動可能、かつ、周方向に相対回転不能に支持されている。本実施形態では、第1摩擦材43と第2摩擦材44とが、「一対の摩擦部材」に相当する。そして、第1摩擦材43が「一対の摩擦部材のうち一方」に相当し、第2摩擦材44が「一対の摩擦部材のうち他方」に相当する。
【0051】
このように、摩擦係合装置40は、相対回転可能に支持された一対の摩擦部材と、一対の摩擦部材の一方を径方向Rの内側から支持する内側支持部材と、一対の摩擦部材の他方を径方向Rの外側から支持する外側支持部材と、を備えている。
【0052】
ピストン部Pは、第1摩擦材43及び第2摩擦材44を互いに押し付けるように軸方向Lに押圧するように構成されている。すなわち、摩擦係合装置40は、第1摩擦材43及び第2摩擦材44を互いに押し付けるように軸方向Lに押圧するピストン部Pを備えている。本実施形態では、ピストン部Pは、第1押圧部材45と、第2押圧部材46と、押圧駆動部49とを備えている。なお、
図2及び
図3は、ピストン部Pが第1摩擦材43及び第2摩擦材44を押圧している押圧状態を示している。
図4は、ピストン部Pが第1摩擦材43及び第2摩擦材44を押圧していない非押圧状態を示している。
【0053】
第1押圧部材45は、第2押圧部材46と協働して、第1摩擦材43と第2摩擦材44とを互いに押し付けるように押圧する。第1押圧部材45は、第1摩擦材43及び第2摩擦材44に対して軸方向第1側L1に配置されている。第1押圧部材45は、第1摩擦材支持部41Aの外歯に噛み合う内歯を備えており、第1摩擦材支持部41Aに対して軸方向Lに相対移動可能、かつ、周方向に相対回転不能に支持されている。こうして、第1押圧部材45は、第1支持部材41と一体的に回転するとともに当該第1支持部材41に対して軸方向Lに移動自在に支持されている。第1押圧部材45は、第2押圧部材46を介して押圧駆動部49により軸方向Lに駆動された場合に、第1摩擦材43及び第2摩擦材44を軸方向第1側L1から押圧して第1摩擦材43と第2摩擦材44とを互いに圧接する。
【0054】
第1押圧部材45は、摺動部45Aと押圧部45Bとを備えている。摺動部45Aは、第1摩擦材支持部41Aよりも径方向Rの内側に配置されており、当該第1摩擦材支持部41Aの内周面に沿って摺動する。本実施形態では、摺動部45Aにおける第1摩擦材支持部41Aの内周面に対向する面(摺動対向面)と第1摩擦材支持部41Aの内周面との間に、シール部材51が配置されている。摺動部45Aは、径方向Rに沿って延在するように形成されている。本例では、摺動部45Aは、第1摩擦材支持部41Aと第1支持部材41の軸連結部41Cとに亘るように径方向Rに沿って形成されている。また、摺動部45Aは、保持部材47によって保持された付勢部材48によって、軸方向第1側L1に向けて付勢されている。付勢部材48は、軸方向Lにおける、第1摩擦材43と第2摩擦材44とを互いに押し付ける側とは反対側へ向けて第1押圧部材45を付勢する。このような付勢部材48として、本実施形態ではリターンスプリング(コイルバネ)が用いられている。
【0055】
押圧部45Bは、摺動部45Aから径方向Rの外側に延びている。押圧部45Bは、第1摩擦材支持部41Aよりも径方向Rの外側に配置されている。押圧部45Bは、第1摩擦材支持部41Aと第2摩擦材支持部42Aとの径方向Rの間に配置される部分を有するように形成されている。押圧部45Bは、摺動部45Aと一体的に軸方向Lに沿って移動して、第1摩擦材43及び第2摩擦材44を押圧する。
【0056】
第2押圧部材46は、第1押圧部材45と協働して、第1摩擦材43と第2摩擦材44とを互いに押し付けるように押圧する。第2押圧部材46は、第1押圧部材45に対してさらに軸方向第1側L1に配置されている。本実施形態では、第2押圧部材46は、間にスラスト軸受95を介して、第1押圧部材45に隣接して配置されている。第2押圧部材46は、ケース6に対して軸方向Lに移動自在に支持されている。第1ケース部6Aの第1支持壁部6Abには、軸方向第2側L2に突出する筒状の第3筒状支持部63が形成されている。第3筒状支持部63は、第2筒状支持部62と同心に、当該第2筒状支持部62よりも大径に形成されている。第2押圧部材46は、径方向Rにおける第2筒状支持部62と第3筒状支持部63との間の環状空間に配置されている。
【0057】
第2押圧部材46は、第3筒状支持部63の内周面及び第2筒状支持部62の外周面に沿って摺動する。本実施形態では、第2押圧部材46における第3筒状支持部63の内周面に対向する面と第3筒状支持部63の内周面との間に、シール部材52が配置されている。また、第2押圧部材46における第2筒状支持部62の外周面に対向する面と第2筒状支持部62の外周面との間に、シール部材53が配置されている。第2押圧部材46は、非回転状態で軸方向Lに移動自在に支持されている。
【0058】
押圧駆動部49は、第2押圧部材46を軸方向Lに駆動する。本実施形態の押圧駆動部49は、油圧室49Aと作動油供給部49Bとを備えている。油圧室49Aは、第2押圧部材46に油圧を作用させるための空間である。本実施形態では、第2筒状支持部62と第3筒状支持部63と第1支持壁部6Abと第2押圧部材46とで囲まれた空間に、油圧室49Aが形成されている。作動油供給部49Bは、油圧室49Aに連通するように設けられており、当該油圧室49Aに油(作動油)を供給する。油圧室49A及び作動油供給部49Bは、ケース6(本例では第1ケース部6A)に形成されている。
【0059】
作動油供給部49Bから所定油圧の油が油圧室49Aに供給されると、その油圧によって、第2押圧部材46が軸方向第2側L2に移動する。すると、第2押圧部材46は、スラスト軸受95を介して第1押圧部材45と相対回転自在な状態で、当該第1押圧部材45を軸方向第1側L1から押圧する。これにより、第2押圧部材46及び第1押圧部材45は、連動して第1摩擦材43及び第2摩擦材44を軸方向第2側L2に押圧し、第1摩擦材43と第2摩擦材44とを互いに圧接する。
【0060】
第2押圧部材46は、軸部材20の軸方向第1側L1の端部を支持する支持軸受93(本例では第1軸受931)と同心に、当該支持軸受93の径方向Rの外側に配置されている。また、第2押圧部材46は、入力部材10の軸方向第1側L1の端部を支持する入力軸受92と、外周部どうしを互いに対向させた状態で配置されている。こうして、第2押圧部材46は、支持軸受93に対して径方向Rの外側であって、周方向における一部が入力軸受92と支持軸受93との間に配置されている。そして、本実施形態では、第2押圧部材46の軸方向Lにおける配置領域D3が、入力軸受92の軸方向Lにおける配置領域D1及び支持軸受93の軸方向Lにおける配置領域D2の双方に重複している。なお、「重複」は、全体が重複する場合だけでなく、一部どうしが重複する場合も含む概念である。
【0061】
このように、第2押圧部材46は、支持軸受93に対して径方向Rの外側であって、周方向における一部が入力軸受92と支持軸受93との間に配置され、第2押圧部材46の軸方向Lにおける配置領域D3が、入力軸受92の軸方向Lにおける配置領域D1及び支持軸受93の軸方向Lにおける配置領域D2の双方に重複している。
【0062】
この構成によれば、第2押圧部材46の軸方向Lの配置領域D3を入力軸受92の軸方向Lの配置領域D1及び支持軸受93の軸方向Lの配置領域D2の双方と重複させることで、変速機1の軸方向寸法を小さく抑えやすい。制御性向上のために摩擦係合装置40が第1押圧部材45と第2押圧部材46とを備えるように構成しながら、入力軸受92と支持軸受93との間のスペースを利用して第2押圧部材46を配置して、装置全体の大型化を抑制することができる。
【0063】
なお、入力軸受92及び支持軸受93はケース6に固定されているのに対して、第2押圧部材46は軸方向Lに移動可能である。このため、第2押圧部材46の軸方向Lにおける配置領域D3は、軸方向Lにおける第2押圧部材46の最大可動範囲を表すものとする。本実施形態では、第2押圧部材46の軸方向Lにおける配置領域D3は、その全体が入力軸受92の軸方向Lにおける配置領域D1と重複している。また、第2押圧部材46の軸方向Lにおける配置領域D3は、軸方向第1側L1の一部を除く部分が支持軸受93の軸方向Lにおける配置領域D2と重複している。
【0064】
入力軸受92は、その周方向の一部が第2摩擦材支持部42Aよりも径方向Rの内側に位置するように配置されている。そして、
図5に示すように、軸方向視で、入力軸受92と第1摩擦材43及び第2摩擦材44とが重複するように配置されている。本実施形態ででは、入力軸受92と第1摩擦材43及び第2摩擦材44とは、それぞれの外周部どうしが部分的に重複するように配置されている。
【0065】
上述のように、車両用駆動伝達装置100は、第1ギヤ25と、第2ギヤ3Aと、第3ギヤ22と、第4ギヤ24と、第5ギヤ12と、第6ギヤ14と、を備えている。そして、互いに噛み合う第1ギヤ25と第2ギヤ3Aとは、はすば歯車により構成されている。互いに噛み合う第3ギヤ22と第5ギヤ12とは、はすば歯車により構成されている。互いに噛み合う第4ギヤ24と第6ギヤ14とは、はすば歯車により構成されている。
【0066】
このように、各ギヤは、はすば歯車により構成されている。そのため、互いに噛み合う一対のギヤが駆動力を伝達する場合には、当該一対のギヤの噛み合い部分において、一対のギヤを互いに軸方向Lの反対側に向けて押し合う軸方向荷重が作用する。
【0067】
第1ギヤ25と第2ギヤ3Aとに関しては、
図2に示すように、第1ギヤ25と第2ギヤ3Aとの噛み合い部分において軸方向第2側L2から軸方向第1側L1へ向けて作用する軸方向荷重(以下、「第1ギヤ荷重f1」と称する。)を第1ギヤ25が受けるように、第1ギヤ25のはすばの向きと第2ギヤ3Aのはすばの向きとが設定されている。詳細には、車両の前進方向の駆動力を回転電機2が発生させている状態で第1ギヤ25が第1ギヤ荷重f1を受けるように、第1ギヤ25のはすばの向きと第2ギヤ3Aのはすばの向きとが設定されている。第1ギヤ25が第1ギヤ荷重f1を受けることで、それと同じ向き、すなわち軸方向第2側L2から軸方向第1側L1へ向かう軸方向荷重(以下、「軸方向第2荷重F2」と称する。)が、軸部材20に作用する。なお、車輪Wが車両を前進させる向きに回転している状態での各部材の回転方向を正転方向として、当該正転方向と同じ向きの駆動力が「車両の前進方向の駆動力」である。
【0068】
このように、第1ギヤ25及び第2ギヤ3Aをはすば歯車としたことにより、第1ギヤ25と第2ギヤ3Aとの噛み合い時に生じる歯当たり音等によるノイズを低減することができる。一方で、車両の前進方向の駆動力を回転電機2が発生させている状態では、常に、軸部材20に軸方向第2荷重F2が作用することになり、軸方向第1側L1への移動を規制するように構成された第1軸受931(支持軸受93)が、当該軸方向第2荷重F2を支持することになる。当然ながら、車両の後進方向の駆動力を回転電機2が発生させている状態では、軸方向第2荷重F2は軸方向第2側L2へ向かう荷重となり、当該荷重は第2軸受932(支持軸受93)により支持されることになるが、一般的に、車両は前進する期間が後進する期間よりも長い。そのため、回転電機2も車両の前進方向の駆動力を発生させる割合が後進方向の駆動力を発生させる割合よりも高くなる。従って、軸方向第2荷重F2を支持することによる負荷が、第2軸受932に比べて第1軸受931の方が大きくなり、第2軸受932に比べて第1軸受931の摩耗等が促進される原因となる。
【0069】
上述のように、本開示に係る車両用駆動伝達装置100では、摩擦係合装置40のピストン部Pは、第1摩擦材43及び第2摩擦材44を軸方向第2側L2へ向けて押圧するように構成されている。
図3及び
図4に示すように、ピストン部Pが第1摩擦材43及び第2摩擦材44を押圧することで、軸方向支持部41Dを備えた第1支持部材41に対して、軸方向第1側L1から軸方向第2側L2へ向かう軸方向荷重(以下、「押圧荷重fp」と称する。)が作用する。そして、上述のように、第1支持部材41は、中間段差部28における軸方向第1側L1を向く面に対して軸方向第1側L1から当接している。従って、第1支持部材41が、軸方向第2側L2に向けて作用する押圧荷重fpを受けることで、軸部材20には、軸方向第1側L1から軸方向第2側L2へ向かう軸方向荷重(以下、「軸方向第1荷重F1」と称する。)が作用する。すなわち上記構成によれば、ピストン部Pの押圧により、第1ギヤ25と第2ギヤ3Aとの噛み合いによって軸部材20に生じる軸方向第2荷重F2とは反対側に向かう軸方向第1荷重F1を、軸部材20に対して作用させることができる。従って、本構成によれば、ピストン部Pが一対の摩擦部材(第1摩擦材43及び第2摩擦材44)を押圧している状態において、軸部材20に作用する軸方向第2荷重F2を低減することができる。その結果、軸部材20を支持する第1軸受931(支持軸受93)の負荷を低減することができる。
【0070】
本実施形態では、第1ギヤ25と第2ギヤ3Aとの間において回転が減速される。そのため、第2ギヤ3Aを伝わるトルクは比較的大きくなり易く、それに伴って、第1ギヤ25及び軸部材20が受ける軸方向第2荷重F2も大きくなり易い。そのため、軸方向第2荷重F2は、ピストン部Pによる押圧荷重fpよりも大きくなり易い。また、ピストン部Pによる押圧荷重fpは、ピストン部Pが一対の摩擦部材を押圧していない状態では作用しない。
【0071】
そこで、本実施形態では、第3ギヤ22と第5ギヤ12との噛み合い部分において軸方向第1側L1から軸方向第2側L2へ向けて作用する軸方向荷重を第3ギヤ22が受けるように、第3ギヤ22のはすばの向きと第5ギヤ12のはすばの向きとが設定されている。また、第4ギヤ24と第6ギヤ14との噛み合い部分において軸方向第1側L1から軸方向第2側L2へ向けて作用する軸方向荷重を第4ギヤ24が受けるように、第4ギヤ24のはすばの向きと第6ギヤ14のはすばの向きとが設定されている。以下では、第3ギヤ22が受ける軸方向荷重を「第3ギヤ荷重f3」と称し、第4ギヤ24が受ける軸方向荷重を「第4ギヤ荷重f4」と称する。上記のように、第3ギヤ荷重f3と第4ギヤ荷重f4とのそれぞれは、軸方向第1側L1から軸方向第2側L2へ向けて作用する。なお、本実施形態では、上記のとおり、第3ギヤ22と第4ギヤ24とは、噛合い式係合装置30により軸部材20に対して選択的に連結されるように構成されている。そのため、第3ギヤ22が軸部材20に対して連結されておらず空転する状態では、第3ギヤ22と第5ギヤ12との噛み合い部分における駆動力の伝達は行われず、第3ギヤ荷重f3も作用しない。同様に、第4ギヤ24が軸部材20に対して連結されておらず空転する状態では、第4ギヤ24と第6ギヤ14との噛み合い部分における駆動力の伝達は行われず、第4ギヤ荷重f4も作用しない。
【0072】
図3に示すように、第3ギヤ荷重f3は、第3ギヤ22を介して第3ギヤ形成部材21に作用する。そして、第3ギヤ形成部材21は、軸受(本例では針状ころ軸受)を介して軸部材20に対して相対回転可能に支持されていると共に、軸部材20に対して軸方向Lに相対移動不能に支持されている。そのため、噛合い式係合装置30が第3ギヤ22を軸部材20に連結し、第3ギヤ22と第5ギヤ12との噛み合い部分における駆動力の伝達が行われる状態では、第3ギヤ荷重f3は、第3ギヤ形成部材21から軸部材20に伝達される。従って、軸部材20には、上述したピストン部Pによる押圧荷重fpに加えて、第3ギヤ荷重f3によっても、軸方向第1側L1から軸方向第2側L2へ向かう軸方向第1荷重F1が作用する。
【0073】
また、第4ギヤ荷重f4は、第4ギヤ24を介して第4ギヤ形成部材23に作用する。そして、第4ギヤ形成部材23は、軸受(本例では針状ころ軸受)を介して軸部材20に対して相対回転可能に支持されていると共に、軸部材20に対して軸方向Lに相対移動不能に支持されている。そのため、噛合い式係合装置30が第4ギヤ24を軸部材20に連結し、第4ギヤ24と第6ギヤ14との噛み合い部分における駆動力の伝達が行われる状態では、第4ギヤ荷重f4は、第4ギヤ形成部材23から軸部材20に伝達される。なお、本実施形態では、第4ギヤ24は、摩擦係合装置40が係合状態となることによっても軸部材20に連結されるように構成されている。そのため、摩擦係合装置40が第4ギヤ24を軸部材20に連結している状態でも、第4ギヤ荷重f4が第4ギヤ形成部材23から軸部材20に伝達される。このように、軸部材20には、上述したピストン部Pによる押圧荷重fpに加えて、第4ギヤ荷重f4によっても、軸方向第1側L1から軸方向第2側L2へ向かう軸方向第1荷重F1が作用する。ところで、上記のとおり、噛合い式係合装置30は、第3ギヤ22及び第4ギヤ24のいずれか一方を軸部材20に対して選択的に連結する。また、摩擦係合装置40は、係合状態に応じて第4ギヤ24を軸部材20に連結する。そのため、本実施形態では、噛合い式係合装置30と摩擦係合装置40との係合状態に応じて、第3ギヤ荷重f3のみが軸部材20に作用する状態と、第4ギヤ荷重f4のみが軸部材20に作用する状態と、第3ギヤ荷重f3と第4ギヤ荷重f4との双方が軸部材20に作用する状態とが生じ得る。
【0074】
上記の構成によれば、第3ギヤ22と第5ギヤ12との噛み合い、及び、第4ギヤ24と第6ギヤ14との噛み合いにより、第1ギヤ25と第2ギヤ3Aとの噛み合いにより生じる軸方向第2荷重F2とは反対側に向かう軸方向第1荷重F1を、軸部材20に対して作用させることができる。従って、本構成によれば、軸部材20に作用する軸方向第2荷重F2を低減することができ、その結果、軸部材20を支持する第1軸受931(支持軸受93)に作用する負荷を低減することができる。
【0075】
本実施形態では、ピストン部Pにより第1支持部材41が受ける押圧荷重fp、第3ギヤ22が受ける第3ギヤ荷重f3、及び第4ギヤ24が受ける第4ギヤ荷重f4が、軸部材20に対して、軸方向第1側L1から軸方向第2側L2へ向かう軸方向第1荷重F1を作用させる。換言すれば、軸方向第1荷重F1は、押圧荷重fpと第3ギヤ荷重f3と第4ギヤ荷重f4との合力である(F1=fp+f3+f4)。但し、上記のとおり、押圧荷重fp、第3ギヤ荷重f3、及び、第4ギヤ荷重f4は、それぞれの状態に応じてゼロ又はゼロに近い値になる場合がある。そのような観点からは、軸方向第1荷重F1は、押圧荷重fpと第3ギヤ荷重f3と第4ギヤ荷重f4とのうちの少なくとも一部の荷重であるとも言える。
【0076】
本実施形態では、軸方向第1荷重F1の最大値(F1max)が、軸方向第2荷重F2の最大値(F2max)以上となるように設定されている(F1max≧F2max)。上記のとおり、軸方向第1荷重F1を構成する押圧荷重fp、第3ギヤ荷重f3、及び、第4ギヤ荷重f4は、それぞれの状態に応じて変化する。特に、押圧荷重fpは、ピストン部Pが一対の摩擦部材を押圧している状態でしか発生しない。一方、軸方向第2荷重F2を構成する第1ギヤ荷重f1は、車輪Wが駆動されている状態では常に軸部材20に作用する。また、本実施形態では、駆動力の伝達経路に沿って回転電機2から車輪Wの側へ向かうに従って、回転が減速され、駆動力が増幅されるように構成されているため、第1ギヤ荷重f1は第3ギヤ荷重f3及び第4ギヤ荷重f4よりも大きい。これらのことから、本実施形態の構成では、軸方向第2荷重F2が軸方向第1荷重F1よりも大きくなる期間の方が、その逆の状況となる期間よりも長くなり易い。そこで、軸方向第1荷重F1の最大値が軸方向第2荷重F2の最大値以上となるように設定する(F1max≧F2max)ことで、少なくとも軸方向第1荷重F1が軸方向第2荷重F2よりも大きくなった状態で、軸方向第2荷重F2が第1軸受931(支持軸受93)に作用しないようにすることができる。従って、第1軸受931(支持軸受93)に作用する負荷の更なる低減を図ることができる。
【0077】
軸方向第1荷重F1の最大値(F1max)の設定は、押圧荷重fp、第3ギヤ荷重f3、及び第4ギヤ荷重f4の少なくとも1つを調節することにより行われる。押圧荷重fpの調節は、例えば、ピストン部Pの押圧力を増減することにより行われる。第3ギヤ荷重f3の調節は、例えば、第3ギヤ22及び第5ギヤ12のはすばの傾斜角度を変更することや、これらのギヤ比を変更することにより行われる。第4ギヤ荷重f4の調節は、例えば、第4ギヤ24及び第6ギヤ14のはすばの傾斜角度を変更することや、これらのギヤ比を変更することにより行われる。
【0078】
ここで、上述のように本実施形態では、支持軸受93は、第1ギヤ25に対して軸方向第1側L1に配置された第1軸受931と、第1ギヤ25に対して軸方向第2側L2に配置された第2軸受932と、を含み、第1軸受931は、軸部材20の軸方向第1側L1への移動を規制するように構成され、第2軸受932は、軸部材20の軸方向第2側L2への移動を規制するように構成されている。
【0079】
本構成によれば、第1軸受931と第2軸受932とにより、軸部材20に作用する軸方向荷重(軸方向第1荷重F1及び軸方向第2荷重F2)を分担して支持することができる。また、この構成では、第1ギヤ25が第2ギヤ3Aから軸方向荷重(第1ギヤ荷重f1)を受けることにより軸部材20に作用する軸方向荷重(軸方向第2荷重F2)を、第1軸受931により支持することになる。しかし、上記のとおり、ピストン部Pの押圧力により軸方向第1側L1へ向かう軸方向荷重(軸方向第2荷重F2)を低減することができる。従って、第1軸受931と第2軸受932とに作用する軸方向荷重(軸方向第1荷重F1及び軸方向第2荷重F2)の差を小さく抑え易い。また、この差を小さく抑え易いことで、第1軸受931として第2軸受932よりも耐久性が高い軸受を用いる必要性を低くすることができる。従って、例えば、第1軸受931と第2軸受932とに、同じ軸受を採用することができる。これにより、車両用駆動伝達装置100の部品種類数を低減し、コスト削減に寄与できる。
【0080】
また、上述のように本実施形態では、摩擦係合装置40は、一対の摩擦部材の一方(第1摩擦材43)を径方向Rの内側から支持する第1支持部材41(内側支持部材)と、一対の摩擦部材の他方(第2摩擦材44)を径方向Rの外側から支持する第2支持部材42(外側支持部材)と、を備え、第1支持部材41は、一対の摩擦部材を挟んでピストン部Pとは軸方向Lの反対側から一対の摩擦部材を支持する軸方向支持部41Dを備えると共に、軸部材20に対する軸方向第2側L2への移動が規制された状態で軸部材20に支持されている。
【0081】
この構成によれば、ピストン部Pの押圧により一対の摩擦部材に作用する軸方向荷重(押圧荷重fp)を第1支持部材41の軸方向支持部41Dにより支持することができる。そして、第1支持部材41を備えた摩擦係合装置40は、軸部材20に支持されている。従って、本構成によれば、ピストン部Pによる押圧力を軸方向荷重(軸方向第1荷重F1)として、軸部材20に対して適切に伝達することができる。
【0082】
また、上述のように本実施形態では、回転電機2(駆動力源)に駆動連結された入力部材10と、それぞれが車輪Wに駆動連結された一対の出力部材4と、第2ギヤ3Aの回転を一対の出力部材4に分配する差動歯車機構3と、噛合い式係合装置30と、を備え、第1ギヤ25は、軸部材20と一体的に回転するように支持され、第2ギヤ3Aは、差動入力ギヤであり、第3ギヤ22及び第4ギヤ24は、軸部材20に対して相対回転可能に支持され、第5ギヤ12及び第6ギヤ14は、入力部材10と一体的に回転するように入力部材10に支持され、噛合い式係合装置30は、第3ギヤ22及び第4ギヤ24のいずれか一方を軸部材20に対して選択的に連結するように構成され、摩擦係合装置40は、第4ギヤ24を軸部材20に対して選択的に連結するように構成されている。
【0083】
本構成によれば、変速比が異なる2つの変速段を形成でき、これらの2つの変速段のいずれかで、回転電機2(駆動力源)から伝達される回転を変速して一対の車輪Wに伝達することができる。また、噛合い式係合装置30により2つの変速段を選択的に形成することができると共に、摩擦係合装置40を解放状態から係合状態に移行させることにより第3ギヤ22を用いた変速段から第4ギヤ24を用いた変速段に次第に移行させることができる。従って、本構成によれば、円滑な変速段の移行を行うことが可能である。
【0084】
〔その他の実施形態〕
次に、車両用駆動伝達装置100のその他の実施形態について説明する。
【0085】
(1)上記の実施形態では、車両用駆動伝達装置100が、軸方向第1荷重F1を生じさせる構成として、ピストン部Pと、第5ギヤ12との噛み合う第3ギヤ22と、第6ギヤ14との噛み合う第4ギヤ24と、を備える例について説明した。しかし、このような例に限定されることなく、軸方向第1荷重F1を生じさせる構成が、ピストン部Pのみであっても良い。軸方向第1荷重F1を生じさせる構成が、ピストン部Pと、第3ギヤ22及び第4ギヤ24のいずれか一方に相当するギヤと、であっても良い。
【0086】
(2)上記の実施形態では、第1ギヤ25が、軸部材20と一体的に形成されている例について説明した。しかし、このような例に限定されることなく、第1ギヤ25は、少なくとも軸方向Lの相対移動が規制された状態で軸部材20に支持されていれば、軸部材20とは別部材であっても良い。この場合、例えば、上述の第1段差部26のような段差部を軸部材20に形成し、この段差部によって第1ギヤ25の軸方向Lの移動が規制されていると良い。一方で、第1ギヤ25の軸部材20に対する周方向の移動は、スプライン係合等により規制されていても良いし、軸受等を介して相対回転可能に支持されていると共に係合装置により選択的に連結される構成とされていても良い。
【0087】
(3)上記の実施形態では、第2押圧部材46の軸方向Lの配置領域D3の全体が、入力軸受92の軸方向Lの配置領域D1に含まれているとともに、支持軸受93の軸方向Lの配置領域D2と部分的に重複している例について説明した。しかし、このような例に限定されることなく、例えば第2押圧部材46の軸方向Lの配置領域D3の全体が、入力軸受92の軸方向Lの配置領域D1及び支持軸受93の軸方向Lの配置領域D2の両方に含まれていても良い。或いは、第2押圧部材46の軸方向Lの配置領域D3が、入力軸受92の軸方向Lの配置領域D1及び支持軸受93の軸方向Lの配置領域D2のそれぞれと部分的に重複していても良い。
【0088】
(4)上記の実施形態では、付勢部材48としてコイルバネを用いて構成されたリターンスプリングを用いる例について説明した。しかし、このような例に限定されることなく、例えば付勢部材48として板バネ等を用いても良い。
【0089】
(5)上記の実施形態では、押圧駆動部49が油圧室49Aと作動油供給部49Bとを備えている例について説明した。しかし、このような例に限定されることなく、例えば押圧駆動部49が電動アクチュエータ等を備えていても良い。
【0090】
(6)上記の実施形態では、駆動力源として回転電機2を例示した。しかし、このような例に限定されることなく、駆動力源は内燃機関であっても良いし、内燃機関と回転電機2との組み合わせであっても良い。すなわち、本開示の技術は、例えば、内燃機関を車輪の駆動源とする所謂エンジン車両や、内燃機関と回転電機2とを併用するハイブリッド車両等、他のタイプの車両用駆動伝達装置にも適用することが可能である。
【0091】
(7)上述した各実施形態(上記の実施形態及びその他の実施形態を含む;以下同様)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本開示に係る技術は、車両用駆動伝達装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
100:車両用駆動伝達装置、3:差動歯車機構、3A:第2ギヤ、4:出力部材、10:入力部材、12:第5ギヤ、14:第6ギヤ、20:軸部材、22:第3ギヤ、24:第4ギヤ、25:第1ギヤ、30:噛合い式係合装置、40:摩擦係合装置、41D:軸方向支持部、93:支持軸受、931:第1軸受、932:第2軸受、P:ピストン部、L:軸方向、L1:軸方向第1側、L2:軸方向第2側、R:径方向、W:車輪