(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】光学ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 3/068 20060101AFI20241204BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
C03C3/068
G02B1/00
(21)【出願番号】P 2021530602
(86)(22)【出願日】2020-06-26
(86)【国際出願番号】 JP2020025264
(87)【国際公開番号】W WO2021006072
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2019125826
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】此下 聡子
(72)【発明者】
【氏名】俣野 高宏
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/146378(WO,A1)
【文献】特開2015-040171(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0203395(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/068
G02B 1/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、SiO
2 3~18%、B
2O
3 5~11.5%、Al
2O
3 0~7%、CaO 0~11%、ZnO 1%以下、TiO
2 10~20%、Nb
2O
5 3~38%、La
2O
3 27~49.8%、Gd
2O
3 6~14%、Y
2O
3 0~5%、Ta
2O
5 6%未満、WO
3 0.6%以下
、BaO 0~0.2%未満を含有し、B
2O
3/SiO
2 1~2であ
り、液相温度が1150℃以下であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
質量%で、Ln
2O
3 36%以上(ただし、LnはLa、Gd、Y及びYbから選択される少なくとも1種)を含有することを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
屈折率(nd)が1.84~2.04であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
波長500nmにおける5mm厚での直線透過率が72%以上であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の光学ガラスからなることを特徴とする光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ等の光学素子に使用される光学ガラスに関する。
【0002】
例えばプロジェクター付きメガネ、眼鏡型やゴーグル型ディスプレイ、仮想現実または拡張現実表示装置、虚像表示装置等のウェアラブル機器には、レンズ等の光学素子としてガラス材料が使用される。当該ガラス材料には、画像の広角化、高輝度・高コントラスト化、導光特性向上性等の面から、高屈折率特性が求められる。また、車載用カメラ、ロボット用視覚センサー等の用途に、小型で撮像画角の広い撮像ガラスレンズが用いられている(例えば、特許文献1参照)。このような撮像ガラスレンズに対しても高屈折率特性が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来、高屈折率のガラス組成にする場合、屈折率を高める成分として可視域に吸収を持つ元素が使用される使用されることが多い。そのため、一般に、高屈折率ガラスは可視域の光透過率が低いという問題がある。また、高屈折率のガラス組成にする場合、ガラス骨格を構成する成分が少なくなる傾向にある。そのため、一般に、高屈折率ガラスは失透しやすく、量産性に劣るという問題がある。
【0005】
以上に鑑み、本発明は、可視域の光透過率特性及び耐失透性に優れ、高屈折率特性を有する光学ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等が鋭意検討した結果、TiO2、Nb2O5、La2O3、Gd2O3といった高屈折率成分を含有するとともに、ガラス化安定性に寄与するSiO2及びB2O3の含有量を厳密に規制することにより、前記課題を解決できることを見出した。
【0007】
即ち、本発明の光学ガラスは、質量%で、SiO2 3~18%、B2O3 5~11.5%、Al2O3 0~7%、CaO 0~11%、ZnO 1%以下、TiO2 7~20%、Nb2O5 3~38%、La2O3 27~49.8%、Gd2O3 6~14%、Y2O3 0~5%、Ta2O5 6%未満、WO3 0.6%以下を含有し、B2O3/SiO2 1~2であることを特徴とする。
【0008】
本発明の光学ガラスは、質量%で、Ln2O3 36%以上(ただし、LnはLa、Gd、Y及びYbから選択される少なくとも1種)を含有することが好ましい。
【0009】
本発明の光学ガラスは、質量%で、BaO 0~0.2%未満を含有することが好ましい。
【0010】
本発明の光学ガラスは、屈折率(nd)が1.84~2.04であることが好ましい。
【0011】
本発明の光学ガラスは、液相温度が1150℃以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の光学ガラスは、波長500nmにおける5mm厚での直線透過率が72%以上であることが好ましい。
【0013】
本発明の光学素子は、上記の光学ガラスからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、可視域の光透過率特性及び耐失透性に優れ、高屈折率特性を有する光学ガラスを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の光学ガラスは、質量%で、SiO2 3~18%、B2O3 5~11.5%、Al2O3 0~7%、CaO 0~11%、ZnO 1%以下、TiO2 7~20%、Nb2O5 3~38%、La2O3 27~49.8%、Gd2O3 6~14%、Y2O3 0~5%、Ta2O5 6%未満、WO3 0.6%以下を含有し、B2O3/SiO2 1~2であることを特徴とする。ガラス組成をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0016】
SiO2はガラス骨格成分であり、ガラス化の安定性及び化学耐久性を向上させる成分である。SiO2の含有量は3~18%であり、3.5~15%、4~12%、特に5~10%であることが好ましい。SiO2の含有量が少なすぎると、上記効果が得にくくなる。一方、SiO2の含有量が多すぎると、屈折率が低下する傾向にある。
【0017】
B2O3はガラス化の安定性に寄与する成分である。B2O3の含有量は5~11.5%であり、6.5~11.5%、7~11%、8~10.5%、特に9~10.5%未満であることが好ましい。B2O3の含有量が少なすぎると、上記効果が得にくくなる。一方、B2O3の含有量が多すぎると、屈折率が低下するとともに、化学的耐久性が低下する傾向がある。
【0018】
なお、ガラス化の安定性を高め量産性を向上させるためには、SiO2とB2O3の割合を適切に調節することが好ましい。具体的には、質量比でB2O3/SiO2は1~2であり、1.3~1.99、特に1.5~1.98であることが好ましい。なお本明細書において、「X/Y」はXの含有量をYの含有量で除した値を意味する。
【0019】
Al2O3は耐水性を向上させる成分である。ただし、その含有量が多すぎるとガラスが失透しやすくなる。従って、Al2O3は0~7%であり、0~5%、0~2%、特に0~1%であることが好ましい。
【0020】
CaOはアルカリ土類金属酸化物の中でも特にガラス安定化に寄与しやすい成分である。ただし、その含有量が多すぎると屈折率が低下する傾向にある。従って、CaOの含有量は0~11%であり、0.1~9%、1~8%、2~7%、特に3~6%であることが好ましい。
【0021】
ZnOは本発明の組成系においては失透を促進する成分であり、その含有量は少ないほうが好ましい。具体的には、ZnOの含有量は1%以下であり、0.5%以下、さらには0.1%以下が好ましく、含有しないことが特に好ましい。
【0022】
TiO2はガラスの屈折率を高める成分である。また化学耐久性も向上させる効果がある。TiO2の含有量は7~20%であり、8~18%、9~17%、特に10~16%であることが好ましい。TiO2の含有量が少なすぎると、上記効果が得にくくなる。一方、TiO2の含有量が多すぎると、ガラスの可視域の透過率が低下し、ガラス化の安定性も低下する傾向がある。
【0023】
Nb2O5はガラスの屈折率を高める成分である。Nb2O5の含有量は3~38%であり、4~30%、5~19%、6~14%、特に7~10%であることが好ましい。Nb2O5の含有量が少なすぎると、上記効果が得にくくなる。一方、Nb2O5の含有量が多すぎると、耐失透性が低下して量産性が低下しやすくなる。また可視域の光透過率が低下する傾向にある。
【0024】
La2O3は屈折率を高め、またガラス化の安定性も向上させる成分である。La2O3の含有量は27~49.8%であり、30~49.5%、35~49%、特に38~48.5%であることが好ましい。La2O3の含有量が少なすぎると、上記効果が得にくくなる。一方、La2O3の含有量が多すぎると、失透しやすくなる。耐失透性が低下して量産性に劣る傾向がある。
【0025】
Gd2O3も屈折率を高め、またガラス化の安定性も向上させる成分である。Gd2O3の含有量は6~14%であり、6~10%、特に6~9%であることが好ましい。
【0026】
Y2O3は屈折率を低下させることなく、ガラス化の安定性を向上させる成分である。ただし、その含有量が多すぎると、失透や脈理が発生しやすくなる。よって、Y2O3の含有量は0~5%であり、0.1~4%、0.3~2%、0.4~1%特に、0.5~0.8%であることが好ましい。
【0027】
Ta2O5は屈折率を高める成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると、分相や失透が生じやすくなる。また、Ta2O5は希少であり高価な成分であるため、その含有量が多くなると、原料バッチコストが高くなる。以上に鑑み、Ta2O5の含有量は6%未満であり、3%以下、1%以下が好ましく、含有しないことが特に好ましい。
【0028】
WO3は屈折率を高める成分であるが、可視領域の光透過率を低下させる傾向がある。従って、その含有量は0.6%以下であり、0.5%以下、0.3%以下が好ましく、含有しないことが特に好ましい。
【0029】
本発明の光学ガラスには、上記成分以外にも以下の成分を含有させることができる。
【0030】
Yb2O3は屈折率を高める成分である。ただし、その含有量が多すぎると、失透や脈理が発生しやすくなる。よって、Yb2O3の含有量は0~10%、0~8%であることが好ましい。
【0031】
ZrO2は屈折率や化学的耐久性を高める成分である。ZrO2の含有量は0~10%、1~9%、3~8%、4~7.5%、特に5~7%であることが好ましい。ZrO2の含有量が多すぎると失透しやすくなる。
【0032】
SrOはガラス化の安定性に寄与する成分である。ただし、その含有量が多すぎると屈折率が低下する傾向にある。従って、SrOの含有量は0~11%、0.1~9%、特に1~8%であることが好ましい。
【0033】
BaOはガラス化の安定性に寄与するとともに、屈折率を高める成分である。ただし、BaOを含有させるとガラスの密度が大きくなり、本発明の光学ガラスからなる光学素子の重量が大きくなる傾向がある。そのため、特にウェアラブル機器等の用途には好ましくない。従って、BaOの含有量は1%以下、0.5%以下、0.2%以下であることが好ましく、含有しないことが特に好ましい。
【0034】
Li2O、Na2O、K2Oは、軟化点を低下させる成分であるが、その含有量が多すぎると失透しやすくなる。よって、これらの成分の含有量は各々0~3%、各々0~1%が好ましく、含有しないことが特に好ましい。
【0035】
Ln2O3は36%以上、40%以上、45%以上、特に48%以上であることが好ましい。このようにすれば、屈折率及び可視域の光透過率を高めることが可能となる。Ln2O3の含有量の上限は特に限定されないが、多すぎると失透しやすくなるため、70%以下、65%以下、特に60%以下であることが好ましい。なおLn2O3における、LnはLa、Gd、Y及びYbから選択される少なくとも1種である。即ち、Ln2O3はLa2O3、Gd2O3、Y2O3及びYb2O3の合量を意味する。
【0036】
本発明において高屈折率かつガラス化の安定性に優れたガラスを得るためには、SiO2とB2O3の合量とLn2O3の割合を適切に調節することが好ましい。具体的には、(SiO2+B2O3)/Ln2O3は0.15~0.9、0.2~0.6、特に0.25~0.5であることが好ましい。なお、本明細書において「X+Y+・・・」は、各成分の合量を意味する。
【0037】
本発明において、高屈折率で可視域の透過率に優れたガラスを得るためには、Nb2O5、TiO2、WO3の割合を適切に調整することが好ましい。具体的には、質量比でNb2O5/(Nb2O5+TiO2+WO3)が0.15~0.8、0.2~0.6、特に0.3~0.5であることが好ましい。
【0038】
高屈折率で可視域の透過率に優れたガラスを得るためには、TiO2とNb2O5の割合を適切に調整することが好ましい。具体的には、質量比でTiO2/Nb2O5が0.3以上、0.5以上、0.8以上、特に1以上であることが好ましい。当該比率が小さすぎると、上記効果が得にくくなる。また、ガラス化が不安定になる傾向がある。
【0039】
本発明において、可視域の透過率に優れたガラスを得るためには、TiO2、WO3及びNb2O5の合量を適切に調整することが好ましい。具体的には、TiO2+WO3+Nb2O5が45%以下、30%以下、27%以下、特に25%以下であることが好ましい。
【0040】
本発明において、屈折率及び可視域の光透過率を高めるとともに、ガラス化の安定性を向上させるためには、Y2O3とLn2O3の割合を適切に調整することが好ましい。具体的には、Y2O3/Ln2O3が0~0.1、0.005~0.05、特に0.01~0.3であることが好ましい。
【0041】
本発明において、屈折率及び可視域の光透過率を高めるとともに、ガラス化の安定性を向上させるためには、Gd2O3とLn2O3の割合を適切に調整することが好ましい。具体的には、Gd2O3/Ln2O3が0.1~0.25、特に0.12~0.2であることが好ましい。
【0042】
本発明において、高屈折率で可視域の透過率に優れたガラスを得るためには、Nb2O5、TiO2、ZrO2、WO3、Ln2O3の割合を適切に調整することが好ましい。具体的には、質量比でNb2O5/(Nb2O5+TiO2+ZrO2)が0.1~0.46、0.15~0.4、特に0.2~0.37であることが好ましい。
【0043】
本発明において、屈折率及び可視域の光透過率を高めるとともに、ガラス化の安定性を向上させるためには、TiO2及びB2O3の合量とWO3及びNb2O5の合量の割合を適切に調整することが好ましい。具体的には、(TiO2+B2O3)/(WO3+Nb2O5)が1.6~4、特に2~3.5であることが好ましい。
【0044】
本発明において、ガラス化の安定性を高めるためには、CaO、SrO、BaO及びZnOの合量とNb2O5、La2O3、TiO2及びZrO2の合量の割合を適切に調整することが好ましい。具体的には、(CaO+SrO+BaO+ZnO)/(TiO2+Nb2O5+La2O3+ZrO2)が0~0.6、0.01~0.4、特に0.03~0.3であることが好ましい。
【0045】
なお、As成分(As2O3等)やPb成分(PbO等)は環境負荷が大きいため含有しないことが好ましい。
【0046】
本発明の光学ガラスの屈折率(nd)は1.84~2.04、1.88~2.01、特に1.89~2.00であることが好ましい。また、本発明の光学ガラスの可視域における光透過率は、5mm厚での光透過率(直線透過率)が波長500nmにおいて72%以上であることが好ましく、74%以上であることがより好ましく、75%以上がさらに好ましい。本発明の光学ガラスは、上記光学特性を満たすことにより、小型で高範囲を撮影することができる撮像ガラスレンズ等の光学素子として好適となる。
【0047】
なお、本発明の光学ガラスのアッベ数(νd)は特に限定されないが、ガラス化の安定性を考慮し、39以下、35以下、特に31以下、さらに30以下が好ましい。
【0048】
本発明の光学ガラスの部分分散比(θg、F)は0.615以下、0.61以下、特に0.6以下であることが好ましい。部分分散比が大きすぎると、色収差が生じやすくなる。
【0049】
本発明の光学ガラスの液相温度は1150℃以下、1100℃以下、特に1070℃以下であることが好ましい。このようにすれば、溶融時や成形時に失透しにくいため、量産性が向上しやすくなる。
【実施例】
【0050】
以下に、本発明を実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
表1及び2は本発明の実施例(No.1~10)を示す。
【0052】
【0053】
【0054】
まず表1及び2に示す各組成になるようにガラス原料を調合し、白金ルツボを用いて1200~1350℃で2時間溶融した。溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、さらに700~800℃で2~72時間保持することによりアニールした後、各測定に適した試料を作製した
【0055】
得られた試料について、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、光透過率、液相温度を測定した。結果を表1及び2に示す。
【0056】
屈折率はヘリウムランプのd線(587.6nm)に対する測定値で示した。
【0057】
アッベ数は、上記d線の屈折率と、水素ランプのF線(486.1nm)、同じく水素ランプのC線(656.3nm)の屈折率の値を用い、アッベ数(νd)=[(nd-1)/(nF-nC)]の式から算出した。
【0058】
液相温度は、電気炉で1200℃-0.5時間の条件でガラスを再溶融後、温度勾配を有する電気炉で18時間保持した後、電気炉から取り出して空気中で放冷し、光学顕微鏡で失透物の析出位置を求めることで測定した。
【0059】
直線透過率は以下のようにして測定した。光学研磨された厚さ5mm±0.1mmの試料について、分光光度計(株式会社島津製作所製UV-3100)を用いて、表面反射損失を含む直線透過率を0.5nm間隔で測定した。測定により得られた光透過率曲線から波長500nmにおける直線透過率を読み取った。
【0060】
表1及び2に示す通り、実施例であるNo.1~10の試料は、所望の光学特性を示すとともに、液相温度が1150℃以下と低く耐失透性に優れていた。また波長500nmにおける直線透過率が73%以上と良好であった。