(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】トランスアクスル油温センサの故障判定装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/12 20100101AFI20241204BHJP
F16H 59/64 20060101ALI20241204BHJP
F16H 59/78 20060101ALI20241204BHJP
F16H 59/40 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
F16H61/12
F16H59/64
F16H59/78
F16H59/40
(21)【出願番号】P 2023565364
(86)(22)【出願日】2023-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2023025880
(87)【国際公開番号】W WO2024062747
(87)【国際公開日】2024-03-28
【審査請求日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2022150277
(32)【優先日】2022-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 良
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英信
(72)【発明者】
【氏名】三浦 徹
【審査官】沖 大樹
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2004-0034268(KR,A)
【文献】特開2012-017822(JP,A)
【文献】国際公開第2014/102983(WO,A1)
【文献】特開平09-329221(JP,A)
【文献】特開2012-002320(JP,A)
【文献】特開2007-162764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/12
F16H 59/64
F16H 59/78
F16H 59/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力を出力する駆動機器とドライブシャフトとの間に動力を伝達するトランスアクスル
と、前記トランスアクスルに隣接して配置された発電機とを備えた車両に設けられ、前記トランスアクスルの油温を検出するトランスアクスル油温センサの故障判定装置であって、
前記車両の走行速度を検出する車速検出部と、
前記発電機の油温を検出する発電機油温検出部と、
前記トランスアクスル油温センサの故障を判定する故障判定部と、
を備え、
前記故障判定部は、
前記車両の始動時から走行速度が所定速度以上である累積時間が所定時間以上となるまでの所定走行期間内における前記トランスアクスルの油温の最高値と最低値との差が所定の第1閾値未満である場合に、前記トランスアクスル油温センサが故障であると判定
し、
前記故障判定部は、前記始動時において前記発電機の油温が所定の第2閾値以下の場合に、前記トランスアクスル油温センサの故障判定を実行する
ことを特徴とするトランスアクスル油温センサの故障判定装置。
【請求項2】
前記故障判定部は、前記始動時の前記発電機の油温と、前記走行期間完了時の前記発電機の油温との差の絶対値が所定の第3閾値を超えている場合には、前記トランスアクスル油温センサの故障判定を実行する
ことを特徴とする請求項1に記載のトランスアクスル油温センサの故
【請求項3】
前記車両の外気温度を検出する外気温度検出部を備え、
前記故障判定部は、外気温度に基づいて、前記第1閾値を変更する
ことを特徴とする請求項1に記載のトランスアクスル油温センサの故障判定装置。
【請求項4】
前記車両の外気温度を検出する外気温度検出部を備え、
前記故障判定部は、外気温度に基づいて前記所定時間を変更する
ことを特徴とする請求項1に記載のトランスアクスル油温センサの故障判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のトランスアクスルの油温を検出する油温センサの故障を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の駆動系に備えられたトランスアクスルには、潤滑油(作動油)が封入されている。変速機は、封入されている潤滑油の粘性によって作動特性が変化するため、潤滑油の温度を精度良く検出することが必要である。潤滑油の温度は、一般的に温度センサによって検出されている。
油温センサ(温度センサ)の故障としては、例えば油温が変化したにも拘わらず油温センサが一定の温度を出力する固着状態が多い。
【0003】
特許文献1には、自動変速機の油温センサ(トランスアクスル油温センサ)の故障判定装置が記載されている。特許文献1には、車両が所定車速以上で所定時間走行しても自動変速機の油温が上昇しないときに油温センサが故障であると判定する判定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の判定装置では、車両が所定車速以上で所定時間走行しないと油温センサの故障判定が不能である。例えば走行開始から走行速度が上下するような場合であっても、車両の始動から迅速に油温センサの故障判定を可能にすることが要求されている。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、始動時から短時間かつより多くの機会で故障判定が可能なトランスアクスル油温センサの故障判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明のトランスアクスル油温センサの故障判定装置は、動力を出力する駆動機器とドライブシャフトとの間に動力を伝達するトランスアクスルと、前記トランスアクスルに隣接して配置された発電機とを備えた車両に設けられ、前記トランスアクスルの油温を検出するトランスアクスル油温センサの故障判定装置であって、前記車両の走行速度を検出する車速検出部と、前記発電機の油温を検出する発電機油温検出部と、前記トランスアクスル油温センサの故障を判定する故障判定部と、を備え、前記故障判定部は、前記車両の始動時から走行速度が所定速度以上である累積時間が所定時間以上となるまでの所定走行期間内における前記トランスアクスルの油温の最高値と最低値との差が所定の第1閾値未満である場合に、前記トランスアクスル油温センサが故障であると判定し、前記故障判定部は、前記始動時において前記発電機の油温が所定の第2閾値以下の場合に、前記トランスアクスル油温センサの故障判定を実行することを特徴とする。
【0007】
これにより、トランスアクスルの油温の最高値と最低値との差に基づいて、トランスアクスル油温センサが固着状態であることを判定することができる。特に、トランスアクスルの油温の最高値と最低値については、始動時から車両の走行速度が所定速度以上である累積時間が所定時間以上となるまでの所定走行期間内で判定するので、車両の走行速度が所定速度を上下した場合でも、所定走行期間を完了することができる。
【0008】
また、トランスアクスルの油温とトランスアクスルと隣接する発電機の油温は同じような油温の動きをするため、トランスアクスル油温センサの故障判定の前提条件として始動時の発電機の油温を使用し、始動時から所定走行期間を完了するまでの間で発電機の油温変化を大きく確保できるような環境でトランスアクスル油温センサの故障判定を実行することで、トランスアクスル油温センサの故障判定の信頼性を向上させることができる。
【0009】
好ましくは、前記故障判定部は、前記始動時の前記発電機の油温と、前記走行期間完了時の前記発電機の油温との差の絶対値が所定の第3閾値を超えている場合には、前記トランスアクスル油温センサの故障判定を実行するとよい。
【0010】
これにより、トランスアクスル油温センサの故障判定の前提条件として発電機の油温を使用し、始動時から走行期間完了までにトランスアクスルの油温変化が大きく得られるような場合にトランスアクスル油温センサの故障判定を実行することで、故障判定の信頼性を向上させることができる。
好ましくは、前記車両の外気温度を検出する外気温検出部を備え、前記故障判定部は、外気温度に基づいて、前記第1閾値を変更するとよい。
【0011】
これにより、第1閾値を適切に設定して、トランスアクスル油温センサの故障判定の信頼性を向上させることができる。
好ましくは、前記車両の外気温度を検出する外気温度検出部を備え、前記故障判定部は、外気温度に基づいて前記所定時間を変更するとよい。
これにより、所定走行期間を適切に設定して、トランスアクスル油温センサの故障判定の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のトランスアクスル油温センサの故障判定装置によれば、始動時から車両の走行速度が所定速度以上である累積時間が所定時間以上となるまでの所定走行期間内で、トランスアクスルの油温の最高値と最低値との差に基づいてトランスアクスル油温センサの故障判定をするので、始動から短時間で故障判定を実行可能にするとともに、故障判定の実行機会を増加させることができる。更に、トランスアクスル油温センサの故障判定の前提条件として始動時の発電機の油温を使用することで、故障判定の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態のトランスアクスルの油温センサ故障判定装置が採用された車両の走行駆動系の全体構成図である。
【
図2】油温センサ故障判定装置において実行される故障判定制御の手順を示すフローチャートである。
【
図3】油温センサ固着異常判定時における各種データの推移例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をハイブリッド車両(以下、車両1という)に適用した実施形態を説明する。
図1は本実施形態の油温センサ故障判定装置が採用された車両1の走行駆動系の全体構成図である。
本実施形態の車両1は、走行駆動源としてフロントモータ2(駆動機器)、リヤモータ5及びエンジン3(駆動機器)を備えたハイブリッド車である。
【0015】
車両1は、フロントモータ2の出力またはフロントモータ2及びエンジン3の出力により前輪4を駆動し、リヤモータ5の出力により後輪6を駆動するように構成された4輪駆動車である。
エンジン3の出力軸はトランスアクスル7を介して前輪4の駆動軸であるドライブシャフト8と連結されている。トランスアクスル7は、ケース7a内にデフ7bと動力伝達経路を断接可能なクラッチ9とが内蔵されるとともに、潤滑油が封入されている。クラッチ9の接続時にはエンジン3の駆動力がトランスアクスル7及びドライブシャフト8を経て前輪4に伝達され、クラッチ9の切断時にはエンジン3と前輪4との連結が切り離される。
【0016】
フロントモータ2の駆動軸はトランスアクスル7を介してドライブシャフト8と連結されて、フロントモータ2の駆動力がトランスアクスル7からドライブシャフト8を経て前輪4に伝達されるように構成されている。また、トランスアクスル7のクラッチ9より動力伝達方向の上流側(エンジン3側)にはモータジェネレータ10(発電機)が連結され、エンジン3の駆動により発電する。また、モータジェネレータ10は、クラッチ9の切断時において、エンジン3を始動するスタータモータとしても機能する。リヤモータ5は減速機11を介して後輪6のドライブシャフト12と連結され、その駆動力が減速機11からドライブシャフト12を経て後輪6に伝達されるようになっている。
【0017】
また、本実施形態のトランスアクスル7のケース7aとモータジェネレータ10のケースとは一体化するように接続されており、トランスアクスル7とモータジェネレータ10とが相互に熱伝導がし易い構造になっている。
エンジン3には、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等から構成されたエンジンコントロールユニット14が接続され、このエンジンコントロールユニット14によりエンジン3のスロットル開度、燃料噴射量、点火時期等が制御される。
【0018】
フロントモータ2、リヤモータ5及びモータジェネレータ10は例えば三相交流電動機であり、それらの電源として走行駆動用の蓄電池15が備えられている。蓄電池15は、例えばリチウムイオン電池等の二次電池から構成され、その充電率の算出や温度の検出を行うバッテリモニタリングユニット15aを内蔵している。
フロントモータ2及びモータジェネレータ10はフロントモータコントロールユニット16を介して蓄電池15に接続されている。フロントモータコントロールユニット16には、フロントモータ用インバータ16a及びモータジェネレータ用インバータ16bが備えられている。蓄電池15の直流電力は、フロントモータ用インバータ16a及びモータジェネレータ用インバータ16bにより三相交流電力に変換されてフロントモータ2やモータジェネレータ10に供給される。また、フロントモータ2による回生電力やモータジェネレータ10による発電電力は、フロントモータ用インバータ16a及びモータジェネレータ用インバータ16bにより直流電力に変換されて蓄電池15に充電される。
【0019】
リヤモータ5はリヤモータコントロールユニット17を介して蓄電池15に接続されている。リヤモータコントロールユニット17には、リヤモータ用インバータ17aが備えられている。蓄電池15の直流電力は、リヤモータ用インバータ17aにより三相交流電力に変換されてリヤモータ5に供給され、リヤモータ5による回生電力は、リヤモータ用インバータ17aにより直流電力に変換されて蓄電池15に充電される。
【0020】
また、車両1には、蓄電池15を外部電源によって充電する充電機13が備えられている。
車両1には、車両1の総合的な制御を行うための制御装置であるハイブリッドコントロールユニット18が備えられている。ハイブリッドコントロールユニット18は、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等から構成されている。このハイブリッドコントロールユニット18により、エンジン3、フロントモータ2、モータジェネレータ10、リヤモータ5の各運転状態、及びトランスアクスル7のクラッチ9の断接状態等が制御される。ハイブリッドコントロールユニット18の入力側には、バッテリモニタリングユニット15a、フロントモータコントロールユニット16、リヤモータコントロールユニット17、エンジンコントロールユニット14、車両1の走行速度(車速V)を検出する車速センサ20(車速検出部)、及び図示しないアクセル開度を検出するアクセル開度センサが接続されており、これらの機器からの検出及び作動情報が入力される。
【0021】
また、ハイブリッドコントロールユニット18の出力側には、フロントモータコントロールユニット16、リヤモータコントロールユニット17、トランスアクスル7のクラッチ9、及びエンジンコントロールユニット14が接続されている。
そして、ハイブリッドコントロールユニット18は、アクセル開度センサや車速センサ20等の各種検出量等に基づき、車両1の走行モードをEVモード、シリーズモード、パラレルモードの間で切り換える。例えば、高速領域のようにエンジン3の効率が高い領域では、走行モードをパラレルモードとする。また、中低速領域では、蓄電池15の充電率SOCや車両走行駆動用の要求トルク等に基づきEVモードとシリーズモードとの間で切り換える。
【0022】
EVモードでは、トランスアクスル7のクラッチ9を切断すると共にエンジン3を停止し、蓄電池15からの電力によりフロントモータ2やリヤモータ5を駆動して車両1を走行させる。
シリーズモードでは、トランスアクスル7のクラッチ9を切断した上で、エンジン3を運転してモータジェネレータ10を駆動し、その発電電力及び蓄電池15からの電力によりフロントモータ2やリヤモータ5を駆動して車両1を走行させる。なお、モータジェネレータ10による発電電力のうち余剰電力は、蓄電池15に充電される。
【0023】
パラレルモードでは、トランスアクスル7のクラッチ9を接続した上で、エンジン3を運転して駆動力をトランスアクスル7から前輪4に伝達すると共に、エンジン駆動力に余剰があるときには、フロントモータ2で回生し、エンジン駆動力が足りないときには、蓄電池15の電力を使ってフロントモータ2でアシストする。
また、ハイブリッドコントロールユニット18は、上記各種検出量及び作動情報に基づき車両1の走行に必要な総要求出力を算出し、その総要求出力を、EVモード及びシリーズモードではフロントモータ2側とリヤモータ5側とに配分し、パラレルモードではフロントモータ2側とエンジン3側とリヤモータ5側とに配分する。そして、それぞれに配分した要求出力、及びフロントモータ2から前輪4までのトランスアクスル7のギヤ比、エンジン3から前輪4までのトランスアクスル7のギヤ比、リヤモータ5から後輪6までの減速機11のギヤ比に基づき、フロントモータ2、エンジン3、リヤモータ5のそれぞれの要求トルクを設定し、各要求トルクを達成するようにフロントモータコントロールユニット16、リヤモータコントロールユニット17及びエンジンコントロールユニット14に指令信号を出力する。
【0024】
フロントモータコントロールユニット16及びリヤモータコントロールユニット17ではハイブリッドコントロールユニット18からの指令信号に基づき、要求トルクを達成するためにフロントモータ2及びリヤモータ5の各相のコイルに流すべき目標電流値を算出する。そして、目標電流値に基づきフロントモータ用インバータ16a及びリヤモータ用インバータ17aをスイッチング制御して各コイルの電流値を目標電流値に制御し、それぞれの要求トルクを達成する。尚、モータジェネレータ10の発電時も同様であり、負側の要求トルクから求めた目標電流値に基づきモータジェネレータ用インバータ16bをスイッチング制御し、これにより目標電流値を達成する。
【0025】
エンジンコントロールユニット14ではハイブリッドコントロールユニット18からの指令信号に基づき、要求トルクの達成のためのスロットル開度、燃料噴射量、点火時期等の目標値を算出し、それらの目標値に基づく制御により要求トルクを達成する。
本実施形態の車両1には、トランスアクスル7の潤滑油温度(油温)を検出するT/A油温センサ30(トランスアクスル油温センサ)が備えられている。また、モータジェネレータ10の冷却用の油温を検出するジェネレータ油温センサ(以下、GEN油温センサ32という(発電機油温検出部))が備えられている。
【0026】
ハイブリッドコントロールユニット18には、T/A油温センサ30の故障を判定する故障判定部31が備えられている。
以下、
図2、3を用いて、故障判定部31における油温センサ故障判定制御について説明する。本実施形態では、トランスアクスル7の油温が実際に変化したにも拘わらずT/A油温センサ30の検出値(検出温度T)が一定の値のまま変化しない状態である固着をT/A油温センサ30の故障であると判定する。
【0027】
なお、故障判定部31は、車両1の電源ON(始動)時に、T/A油温センサ30からトランスアクスル7の油温Tt/aを、またGEN油温センサ32からモータジェネレータ10の油温Tgeを入力して記憶するとともに、始動から後述する走行条件成立までの油温Tt/aを単位時間(例えば数msec)毎に入力し、油温Tt/aの最高値Tt/amaxと最低値Tt/aminを記憶する。
【0028】
図2は、故障判定部31において実行される油温センサ故障判定制御の手順を示すフローチャートである。
本実施形態の油温センサ故障判定制御は、車両の電源ON時に実行される。
始めに、車両1の電源スイッチであるイグニッションスイッチ(IGスイッチ)がONであるか否かを判別する。IGスイッチがONである場合には、ステップS20に進む。IGスイッチがOFFである場合には、ステップS110に進む。
【0029】
ステップS20では、ハイブリッドコントロールユニット18の電源電圧が10V以上であるか否かを判別する。この閾値である10Vは、ハイブリッドコントロールユニット18が正常に作動する範囲での電源電圧の下限値付近の値である。電源電圧が10V以上である場合には、ステップS30に進む。電源電圧が10V未満である場合には、ステップS110に進む。
【0030】
ステップS30では、T/A油温センサ30の検出情報が使用可能であるか否かを判別する。T/A油温センサ30の検出情報が使用可能であるか否かについては、例えば、ハイブリッドコントロールユニット18において起動時(電源ON時)に、T/A油温センサ30の検出値をA/D変換している回路にて故障していないことを判定した場合にT/A油温センサ30の検出情報が使用可能であると判定したり、T/A油温センサ30の出力値に基づいて判定したりする。T/A油温センサ30の出力値に基づいて判定する場合には、例えばT/A油温センサ30の出力値である油温Tt/aが、地絡時の出力値T1より大きくかつ断線または天絡時の出力値T2未満である場合に使用可能であり、地絡時の出力値T1以下あるいは断線または天絡時の出力値T2以上である場合には使用不能であるとする。T/A油温センサ30の検出情報が使用可能である場合には、ステップS40に進む。T/A油温センサ30の検出情報が使用不能である場合には、ステップS110に進む。
【0031】
ステップS40では、T/A油温センサ30の回路が故障中でないか否かを判別する。本ステップでは、例えば、ステップS30において行ったT/A油温センサ30の出力値による判定を一定時間(数100msec)継続している場合にT/A油温センサ30の回路が故障中でないと判定すればよい。T/A油温センサ30の回路が故障中でない場合には、ステップS50に進む。T/A油温センサ30の回路が故障中である場合には、ステップS110に進む。
【0032】
ステップS50では、GEN油温センサ32から車両始動時のモータジェネレ-タ10の油温Tgeを入力し、当該始動時の油温Tgeaが第2閾値(45℃)以下であるか否かを判別する。この第2閾値45℃は、ソーク後のモータジェネレ-タ10の油温Tgeの最高値に近い値である。始動時の油温Tgeaが45℃以下である場合には、ステップS60に進む。油温Tgeaが45℃を超えている場合には、ステップS110に進む。
【0033】
ステップS60では、走行条件成立したか否かを判別する。走行条件は、始動時から車速が所定速度(40km/h)以上となった累積時間Σtvが所定時間(300秒)以上になったことである。走行条件が成立した場合には、ステップS70に進む。走行条件が成立していない場合には、ステップS60を繰り返す。
ステップS70では、走行条件成立時のモータジェネレータ10の油温Tgebと、記憶装置に記憶しておいた始動時のモータジェネレータ10の油温Tgeaとの差分の絶対値が第3閾値(10℃)より大きいか否かを判別する。この第3閾値10℃は、トランスアクスル7の油温が確実に下記のステップS80における第1閾値の1℃より大きく変化するようなモータジェネレータ10の温度差に設定すればよい。モータジェネレータ10の油温の差分の絶対値(|Tgeb-Tgea|)が10℃より大きい場合には、ステップS80に進む。モータジェネレータ10の油温の差分の絶対値(|Tgeb-Tgea|)が10℃以下の場合には、ステップS110に進む。
【0034】
ステップS80では、始動から走行条件成立までの間のトランスアクスル7の油温Tt/aの最高値Tt/amaxと最低値Tt/aminとの差を読み出し、その絶対値(|Tt/amax-Tt/amin|)が第1閾値(1℃)未満であるか否かを判別する。油温Tt/aの最高値Tt/amaxと最低値Tt/aminとの差については、例えば単位時間毎にT/A油温センサ30から油温Tt/aを入力して、始動からの油温Tt/aの最高値及び最低値を更新しつつ記憶するとともに、単位時間毎にその時点までの油温Tt/aの最高値Tt/amaxと最低値Tt/aminとの差を演算する。そして、油温Tt/aの最高値Tt/amaxと最低値Tt/aminとの差の最大値を更新しつつ記憶しておく。本ステップにおいて、記憶されている油温Tt/aの最高値Tt/amaxと最低値Tt/aminとの差を読み出すことで、始動から走行条件成立までの間のトランスアクスル7の油温Tt/aの最高値Tt/amaxと最低値Tt/aminとの差が得られる。油温Tt/aの最高値Tt/amaxと最低値Tt/aminとの差の絶対値(|Tt/amax-Tt/amin|)が1℃未満である場合には、ステップS90に進む。油温Tt/aの最高値Tt/amaxと最低値Tt/aminとの差の絶対値(|Tt/amax-Tt/amin|)が1℃以上である場合には、ステップS100に進む。
【0035】
ステップS90では、T/A油温センサ30が固着状態である故障判定をする。そして、本ルーチンを終了する。
ステップS100では、T/A油温センサ30が正常である正常判定をする。そして、本ルーチンを終了する。
ステップS110では、今回の始動時における油温センサ故障判定制御において、T/A油温センサ30が正常であるか否かを判定できなかった判定未完了とする。そして、そして、本ルーチンを終了する。
【0036】
そして、ハイブリッドコントロールユニット18は、故障判定部31における故障判定制御の判定結果に基づいて、警告表示やエンジン3、各モータ2、5の出力を制御する。
例えば、T/A油温センサ30が故障判定された場合には、高油温と誤判定してフロント側(エンジン3やフロントモータ2)の出力を抑制する制御を行う可能性があるため、トランスアクスル7の油温を80℃として設定する。
【0037】
本実施形態の故障判定部31を備えた車両では、例えば
図3に示すように、車両の電源をON(IGスイッチON)にして走行を開始して、車速Vが40km/h以上となった時間(
図3中においてカウントと記載)の累積時間Σtvが所定時間300秒以上となった時点で走行条件が成立する。そして、始動から走行条件成立までの間のトランスアクスル7の油温Tt/aの最高値Tt/amaxと最低値Tt/aminとの差を演算する。この油温Tt/aの最高値Tt/amaxと最低値Tt/aminとの差が1℃未満である場合には、T/A油温センサ30の故障判定(固着異常判定)をする。
【0038】
以上のように、本実施形態の車両1のハイブリッドコントロールユニット18は、トランスアクスル7の油温を検出するT/A油温センサ30の故障を判定する故障判定部31を備えている。
故障判定部31は、車両1の始動時から車速Vが所定速度(40km/h)以上である累積時間が所定時間(300秒)以上となるまでの走行期間(所定走行期間)内において検出したトランスアクスル7の油温の最高値Tt/amaxと最低値Tt/aminとの差が第1閾値(1℃)未満である場合に、T/A油温センサ30が故障であると判定する。
【0039】
これにより、トランスアクスル7の油温の最高値Tt/amaxと最低値Tt/aminとの差に基づいて、T/A油温センサ30が固着状態であることを判定することができる。特に、トランスアクスル7の油温の最高値Tt/amaxと最低値Tt/aminについては、上記のように始動時から車速Vが所定速度(40km/h)以上である累積時間Σtvが所定時間(300秒)以上となるまでの所定走行期間内で判定するので、車速Vが所定速度を上下した場合でも、所定走行期間を完了することができる。これにより、始動から短時間で故障判定を実行可能にするとともに、故障判定の実行機会を増加させることができる。
【0040】
また、故障判定部31は、GEN油温センサ32からモータジェネレ-タ10の油温Tgeを入力しており、始動時にモータジェネレ-タ10の油温Tgeが第2閾値(45℃)以下の場合に、T/A油温センサ30の故障判定を実行する。
これにより、トランスアクスル7と一体化して構成され(隣接して配置され)略同一温度となるモータジェネレータ10の温度検出をするGEN油温センサ32を利用して、始動時のトランスアクスル7の油温が低い状態であって、所定走行期間内(始動時から走行条件成立までの期間内)にトランスアクスル7の油温変化が大きく得られるような環境でT/A油温センサ30の故障判定を実行することで、T/A油温センサ30の故障判定の信頼性を向上させることができる。
【0041】
また, 始動時にモータジェネレータ10の油温Tgeaが第2閾値を超えている場合にT/A油温センサ30の故障判定を実行しないことで、T/A油温センサ30が正常であるにも拘わらず、トランスアクスル7の油温変化が大きく得られずに故障であると誤判定することを回避し、T/A油温センサ30の故障判定の信頼性を向上させることができる。
また、始動時のモータジェネレータ10の油温Tgeaと、所定走行期間完了時のモータジェネレータ10の油温Tgeaとの絶対値の差が第3閾値(10℃)を超えている場合には、T/A油温センサ30の故障判定を実行する。
【0042】
これにより、T/A油温センサ30の故障判定の前提条件として、始動時におけるモータジェネレータ10の油温Tgeaと走行条件成立時のモータジェネレータ10の油温Tgebとを使用し、始動から所定走行条件が成立するまで(所定走行期間の完了時まで)にトランスアクスル7の油温変化が大きく得られるような場合にT/A油温センサ30の故障判定を実行することで、故障判定の信頼性を向上させることができる。
【0043】
また、所定走行期間内でモータジェネレ-タ10の油温変化が少ない場合、即ちトランスアクスル7の油温変化が少ない場合でT/A油温センサ30の故障判定を実行しないことで、T/A油温センサ30の故障判定の信頼性を向上させることができる。
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。
【0044】
例えば、車両1に外気温度を検出する外気温度センサ40(外気温度検出部)を備え、故障判定部31は、外気温度に基づいて、第1閾値を変更するとよい。例えば、始動時の外気温度が高くなるに伴って、始動時のT/A温度が高く、走行によってT/A温度が上昇し難いので、第1閾値を小さく設定するとよい。これにより、T/A油温センサ30の故障判定精度を向上させることができる。
【0045】
また、外気温度が高くなるに伴って第1閾値を変化させるようにし、始動時からそれまでのトランスアクスル7の油温の最高値Tt/amaxと最低値Tt/aminとの差が第1閾値を超えたか否かを逐次判定してもよい。
また、外気温度に基づいて走行条件を変更してもよい。例えば始動時の外気温度が高くなるに伴って所定時間を長く設定するとよい。これにより、走行によってトランスアクスル7が温度上昇し難い状況に応じて、T/A油温センサ30の固着異常時に確実に所定走行期間内でトランスアクスル7の油温の最高値Tt/amaxと最低値Tt/aminとの差を第1閾値未満として、T/A油温センサ30の故障判定精度を向上させることができる。
【0046】
また、油温センサ故障判定制御における判定用の各種閾値等の詳細については適宜変更してもよい。本発明は、油温センサ故障判定制御において、少なくともステップS50、、ステップS60及びS80の判定を行えばよい。
また、上記実施形態は、EVモード、シリーズモード、パラレルモードを切り替え可能なハイブリッド車に本発明を適用しているが、トランスアクスルの油温センサを有する車両に本発明を広く適用できる。
【0047】
また、外部充電又は外部給電が可能なプラグインハイブリッド車両(PHEV)に適用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 車両
2 フロントモータ(駆動機器)
3 エンジン(駆動機器)
7 トランスアクスル
8 ドライブシャフト
10 モータジェネレータ(発電機)
18 ハイブリッドコントロールユニット
20 車速センサ(車速検出部)
30 T/A油温センサ(トランスアクスル油温センサ)
31 故障判定部
32 GEN油温センサ(発電機油温検出部)
40 外気温度センサ(外気温度検出部)