(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】結晶膜の成長方法および結晶性酸化物膜
(51)【国際特許分類】
C30B 29/16 20060101AFI20241204BHJP
C23C 16/04 20060101ALI20241204BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20241204BHJP
C30B 25/04 20060101ALI20241204BHJP
H01L 21/365 20060101ALI20241204BHJP
H01L 21/368 20060101ALI20241204BHJP
H01L 29/24 20060101ALI20241204BHJP
H01L 21/338 20060101ALI20241204BHJP
H01L 29/778 20060101ALI20241204BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20241204BHJP
H01L 29/872 20060101ALI20241204BHJP
H01L 21/329 20060101ALI20241204BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20241204BHJP
H01L 29/868 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
C30B29/16
C23C16/04
C23C16/40
C30B25/04
H01L21/365
H01L21/368 Z
H01L29/24
H01L29/80 H
H01L29/86 301D
H01L29/86 301F
H01L29/86 301M
H01L29/86 301P
H01L29/91 H
(21)【出願番号】P 2020153648
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2023-09-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】511187214
【氏名又は名称】株式会社FLOSFIA
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】大島 祐一
(72)【発明者】
【氏名】河原 克明
(72)【発明者】
【氏名】沖川 満
(72)【発明者】
【氏名】四戸 孝
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-100593(JP,A)
【文献】特開平10-326912(JP,A)
【文献】特開平10-326751(JP,A)
【文献】特開2015-063458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00 -16/56
C30B 25/04 ;29/16
H01L 21/205;21/329;21/338;21/365;
21/368;29/24 ;29/861;29/872
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の窓を有するマスクを備えた基板に原料を供給し、結晶膜を成長させる方法であって、前記結晶膜は、
κ-(Al
x
In
y
Ga
1-x-y
)
2
O
3
(ここで、x、yおよびzは、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1を満たす)であって、複数の面内回転ドメイン群を有しており、
前記基板は、サファイア基板、GaN基板、AlN基板、6H-SiC基板および4H-SiC基板からなる群から選択される基板であり、前記複数の窓は、線状に配置されており且つストライプ状の形状を有しており、前記複数の面内回転ドメイン群のうちの1つの面内回転ドメイン群の前記窓の前記線状方向に沿った成長速度が、他の面内回転ドメイン群の前記線状方向に沿った成長速度と比べて大きくなるよう、
且つ、前記窓の前記線状方向と前記基板の[11-20]方向とのなす角が-5°以上5°以下となるように、前記基板上に前記マスクを形成し、前記結晶膜を成長することを包含する、方法。
【請求項2】
前記結晶膜の成長に、HVPE法、ミストCVD法およびMOCVD法からなる群から選択される方法を用いる、請求項1
に記載の方法。
【請求項3】
前記窓の幅は、0.1μm以上20μm以下の範囲内である、請求項1
または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記マスクの幅は、5μm以上500μm以下の範囲内である、請求項1~
3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記窓の幅は、前記マスクの幅よりも小さい、請求項1~
4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
複数の窓を有するマスクを備えた基板に原料を供給し、結晶膜を成長させる方法であって、前記結晶膜は、
κ-(Al
x
In
y
Ga
1-x-y
)
2
O
3
(ここで、x、yおよびzは、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1を満たす)であって、複数の面内回転ドメイン群を有しており、
前記基板は、サファイア基板、GaN基板、AlN基板、6H-SiC基板および4H-SiC基板からなる群から選択される基板であり、前記複数の窓は、線状に配置されており且つドット状の形状を有しており、前記複数の面内回転ドメイン群のうちの1つの面内回転ドメイン群の前記窓の前記線状方向に沿った成長速度が、他の面内回転ドメイン群の前記線状方向に沿った成長速度と比べて大きくなるよう、
且つ、前記窓の前記線状方向と前記基板の[11-20]方向とのなす角が-5°以上5°以下となるように、前記基板上に前記マスクを形成し、前記結晶膜を成長することを包含し、さらに、前記窓の前記線状方向における隣接する2つのドットの中心間距離をpとすると、前記窓の前記線状方向に対して垂直な方向における隣接する2つのドットの中心間距離qは、p×2/√3以上500μm以下を満たす、方法。
【請求項7】
前記複数の窓のそれぞれの形状は、円形および/または多角形である、請求項
6記載の方法。
【請求項8】
前記円形および/または前記多角形は、略真円および/または略正多角形であり、前記窓の前記線状方向に対して平行な方向における前記略真円および/または前記略正多角形の中心間距離をpとすると、前記窓の前記線状方向に対して垂直な方向における前記略真円および/または前記略正多角形の中心間距離qは、p×2/√3以上500μm以下を満たす、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記略真円および/または前記略正多角形の直径は、0.1μm以上10μm以下の範囲内であり、前記窓の前記線状方向と平行な方向における前記略真円および/または前記略正多角形の中心間距離は、0.3μm以上25μm以下の範囲内である、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記マスクは、酸化物、窒化物、酸窒化物、および金属からなる群から選択される材料を含む、請求項1~
9のいずれに記載の方法。
【請求項11】
前記マスクは、アモルファス材料からなる、請求項1~
10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記基板は、前記マスクと前記基板との間にバッファ層をさらに備える、請求項1~
11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記バッファ層上に前記結晶膜を成長させることをさらに包含する、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記基板上に第1のマスクとしての前記マスクを形成し、第1の結晶膜としての前記結晶膜を成長することに続いて、前記第1の結晶膜上に第2のマスクを形成し、第2の結晶膜をさらに成長することを包含し、前記第2のマスクは、線状に配置されている複数の窓を有し、前記第2のマスクは、前記第2のマスクの複数の窓と、前記第1のマスクの複数の窓とが重ならないように前記第1の結晶膜上に形成される、請求項1~
13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記基板の面指数は、(0001)面である、請求項
1~14のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面内回転ドメインが低減された高品質な結晶膜の成長方法、結晶性酸化物膜および、それを用いた用途に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ガリウムは、α、β、δ、εおよびγの5つの結晶構造に加えて、最近ではκの結晶構造を有するものがあることが報告されている。κ-Ga2O3は、β-Ga2O3やα-Ga2O3と同様に、4.9eVと大きなバンドギャップを有し、高耐圧・低消費電力の次世代パワー半導体材料として有望な材料とされている(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1によれば、κ-Ga2O3は自発分極を有するため、κ-Ga2O3/(AlxGa1-x)2O3等のヘテロ界面に高濃度の2次元電子ガスが形成できる可能性が指摘されており、それを利用した高性能なパワーデバイスの実現が期待されている。
【0003】
κ-Ga2O3のデバイス応用のためにはエピ成長技術を確立しなければならない。しかしながら、κ-Ga2O3は準安定相であるため、単結晶κ-Ga2O3基板が存在しない。そのため、もっぱら異種基板上でのヘテロエピ成長が試みられている(例えば、非特許文献2~4を参照)。しかしながら、非特許文献2~4によれば、MOCVD法、ミストCVD法、HVPE法のいずれの手法によっても、κ-Ga2O3のエピ成長膜は(001)面内で120°ずつ回転した3種類のドメインからなり、それらのドメインがナノスケール(5-10nm)で入り混じっていることが報告されている。
【0004】
このようなドメイン混在があると、ドメイン境界が電子を散乱して、移動度を低下させたり、電流リークの原因となってパワーデバイスの耐圧を低下させたりする虞がある。したがって、このような回転ドメインのが低減され、好ましくは単一の面内配向を有する単結晶膜を実現することが望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Sung Beom Choら,Appl. Phys. Lett.,112,162101,2018
【文献】Ildiko Coraら,CrystEngComm,2017,19,1509
【文献】Hiroyuki Nishinakaら,Jpn.J.Appl.Phys.,57,115601,2018
【文献】MasakaHigashiwakiら編集,Springer Series in Matials Science 293,Gallium Oxide,第223頁,11.3.1節
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上から、本発明の課題は、面内回転ドメインが低減された高品質な結晶膜の成長方法、結晶性酸化物膜および、その用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定のマスクパターンを有するELOを用いた結晶膜の成長方法を用いることによって、直方晶の結晶構造を有し、従来よりも面内回転ドメインが低減された結晶膜および/または結晶性酸化物膜の創製に成功し、得られた結晶膜および/または結晶性酸化物膜の結晶性等の品質が優れたものとなることを知見し、このような結晶膜の成長方法によれば、上記した従来の問題を一挙に解決できることを見出した。
【0008】
また、本発明者らは、上記知見を得た後、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0009】
[1] 複数の窓を有するマスクを備えた基板に原料を供給し、結晶膜を成長させる方法であって、前記結晶膜は、複数の面内回転ドメイン群を有しており、前記複数の窓は、線状に配置されており且つストライプ状の形状を有しており、前記複数の面内回転ドメイン群のうちの1つの面内回転ドメイン群の前記窓の前記線状方向に沿った成長速度が、他の面内回転ドメイン群の前記線状方向に沿った成長速度と比べて大きくなるよう、前記基板上に前記マスクを形成し、前記結晶膜を成長することを包含する、方法。
[2] 前記結晶膜は、酸化物、窒化物および酸窒化物からなる群から選択される材料を含む、前記[1]記載の方法。
[3] 前記酸化物は、κ-(AlxInyGa1-x-y)2O3、β-(AlxInyGa1-x-y)2O3、および、γ-(AlxInyGa1-x-y)2O3(ここで、x、yおよびzは、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1を満たす)からなる群から選択される、前記[2]記載の方法。
[4] 前記結晶膜の成長に、HVPE法、ミストCVD法およびMOCVD法からなる群から選択される方法を用いる、前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記窓の幅は、0.1μm以上20μm以下の範囲内である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 前記マスクの幅は、5μm以上500μm以下の範囲内である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 前記窓の幅は、前記マスクの幅よりも小さい、前記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 複数の窓を有するマスクを備えた基板に原料を供給し、結晶膜を成長させる方法であって、前記結晶膜は、複数の面内回転ドメイン群を有しており、前記複数の窓は、線状に配置されており且つドット状の形状を有しており、前記複数の面内回転ドメイン群のうちの1つの面内回転ドメイン群の前記窓の前記線状方向に沿った成長速度が、他の面内回転ドメイン群の前記線状方向に沿った成長速度と比べて大きくなるよう、前記基板上に前記マスクを形成し、前記結晶膜を成長することを包含し、さらに、前記窓の前記線状方向における隣接する2つのドットの中心間距離をpとすると、前記窓の前記線状方向に対して垂直な方向における隣接する2つのドットの中心間距離qは、p×2/√3以上500μm以下を満たす、方法。
[9] 前記複数の窓のそれぞれの形状は、円形および/または多角形である、前記[8]記載の方法。
[10] 前記円形および/または前記多角形は、略真円および/または略正多角形であり、前記窓の前記線状方向に対して平行な方向における前記略真円および/または前記略正多角形の中心間距離をpとすると、前記窓の前記線状方向に対して垂直な方向における前記略真円および/または前記略正多角形の中心間距離qは、p×2/√3以上500μm以下を満たす、前記[9]に記載の方法。
[11] 前記略真円および/または前記略正多角形の直径は、0.1μm以上10μm以下の範囲内であり、前記窓の前記線状方向と平行な方向における前記略真円および/または前記略正多角形の中心間距離は、0.3μm以上25μm以下の範囲内である、前記[10]に記載の方法。
[12] 前記マスクは、酸化物、窒化物、酸窒化物、および金属からなる群から選択される材料を含む、前記[1]~[11]のいずれに記載の方法。
[13] 前記マスクは、アモルファス材料からなる、前記[1]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14] 前記基板は、前記マスクと前記基板との間にバッファ層をさらに備える、前記[1]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15] 前記バッファ層上に前記結晶膜を成長させることをさらに包含する、前記[14]に記載の方法。
[16] 前記基板上に第1のマスクとしての前記マスクを形成し、第1の結晶膜としての前記結晶膜を成長することに続いて、前記第1の結晶膜上に第2のマスクを形成し、第2の結晶膜をさらに成長することを包含し、前記第2のマスクは、線状に配置されている複数の窓を有し、前記第2のマスクは、前記第2のマスクの複数の窓と、前記第1のマスクの複数の窓とが重ならないように前記第1の結晶膜上に形成される、前記[1]~[15]のいずれかに記載の方法。
[17] 前記結晶膜は、κ-(AlxInyGa1-x-y)2O3(ここで、x、yおよびzは、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1を満たす)であり、
前記基板は、サファイア基板、GaN基板、AlN基板、6H-SiC基板および4H-SiC基板からなる群から選択される基板であり、
前記窓の前記線状方向と前記基板の[11-20]方向とのなす角は、-5°以上5°以下となるように、前記マスクを形成する、前記[1]~[16]のいずれかに記載の方法。
[18] 前記基板の面指数は、(0001)面である、前記[17]に記載の方法。
[19] 直方晶の結晶構造を有し、アルミニウム、ガリウムおよびインジウムから選ばれる1種または2種以上の金属を少なくとも含有する結晶性酸化物膜であって、前記結晶性酸化物膜中の回転ドメインの含有率が30%以下であることを特徴とする結晶性酸化物膜。
[20] 前記結晶性酸化物膜の主成分は、(001)面配向したκ-(AlxInyGa1-x-y)2O3(ここで、x、yおよびzは、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1を満たす)である、前記[19]に記載の結晶性酸化物膜。
[21] 請求項19または20に記載の結晶性酸化物膜を備えた半導体素子。
[22] [11-20]軸または[10-10]軸を含む結晶構造を有する結晶基板上に設けられている半導体層と、前記半導体層の第1面側にそれぞれ配置されている第1の電極と第2の電極とを少なくとも有しており、前記半導体層において、前記第1の電極から前記第2の電極へと向かう第1の方向に電流が流れるように構成されている半導体素子であって、前記半導体層が前記結晶基板とは異なる結晶構造を有し、前記第1の方向が、前記結晶基板の[11-20]軸または[10-10]軸と平行である半導体素子。
[23] 前記結晶基板がコランダム構造を有する前記[22]記載の半導体素子。
[24] 前記半導体素子は、ダイオード、紫外線検出素子、および、トランジスタからなる群から選択される、前記[21]~[23]のいずれかに記載の半導体素子。
[25] 高電子移動度トランジスタ(HEMT)である前記[23]または[24]に記載の半導体素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明の結晶膜の成長方法によれば、単一の面内回転ドメイン群のみを優先的に成長させることができる。この結果、面内回転ドメインが低減された高品質な結晶膜および/または結晶性酸化物膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施態様において結晶膜を成長するフローチャートを示す図である。
【
図2】本発明の実施態様において結晶膜を成長するフローチャートを示す図である。
【
図3】本発明の実施態様に係る、基板上にバッファ層およびマスクを形成する工程を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の実施態様に係る結晶膜の成長方法が適用される、複数の面内回転ドメインを有する結晶膜を示す模式図である。
【
図5】本発明の実施態様における、複数の面内回転ドメイン群の成長速度の違いによって得られる結晶膜の違いを説明するための模式図である。
【
図6】本発明の実施態様に係る成長方法における例示的なマスクを示す模式図である。
【
図7】本発明の実施態様に係る結晶膜を備えたトランジスタを示す模式図である。
【
図8】本発明の実施態様に係る結晶膜を備えた紫外線検出素子を示す模式図である。
【
図9】本発明の実施態様に係る結晶膜を備えた高電子移動度トランジスタ(HEMT)示す模式図である。
【
図10】本発明の実施態様にかかるハライド気相成長(HVPE)装置を説明する図である。
【
図11】本発明の実施態様における、バッファ層を介してマスクが形成されている基板を模式的に示す図である。
【
図12】本発明の実施態様における、バッファ層を介してマスクが形成されている基板を模式的に示す図である。
【
図13】比較例2における、バッファ層を介してマスクが形成されている基板を模式的に示す図である。
【
図14】実施例1における成膜後のSEM観察結果を示す図である。
【
図15】実施例1における成膜後の観察結果を示す図である。
図15(A)がTEM像、
図15(B)および
図15(C)がSAED(Selected Area Electron Diffraction)パターンを示す図である。
【
図16】実施例1におけるXRD122回折φスキャンの結果を示す図である。
【
図17】実施例1におけるEBSD(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)分析の結果を示す図である。
【
図18】比較例1における成膜後のSEM観察結果を示す図である。
【
図19】比較例1におけるXRD122回折φスキャンの結果を示す図である。
【
図20】比較例1におけるEBSD(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)分析の結果を示す図である。
【
図21】実施例2におけるSEM観察結果を示す図である。(a)が5分後、(b)が15分後、(c)が2時間後の鳥観図を示す。
【
図22】実施例2におけるXRD122回折φスキャンの結果を示す図である。
【
図23】実施例2におけるEBSD(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)分析の結果を示す図である。
【
図24】比較例2における成膜後のSEM観察結果を示す図である。
【
図25】比較例2におけるEBSD(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)分析の結果を示す図である。
【
図26】比較例3におけるXRD122回折φスキャンの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施態様における結晶膜の成長方法は、複数の窓を有するマスクを備えた基板上に原料を供給し、結晶膜を成長させる方法であって、前記結晶膜は、複数の面内回転ドメイン群を有しており、前記複数の窓は、線状に配置されており且つストライプ形状を有しており、前記複数の窓はの面内回転ドメイン群のうちの1つの面内回転ドメイン群の前記窓の前記線状方向に沿った成長速度が、他の面内回転ドメイン群の前記線状方向に沿った成長速度と比べて大きくなるよう、前記基板上に前記マスクを形成し、前記結晶膜を成長することを包含することを特長とする。また、本発明の実施態様における結晶膜の成長方法は、複数の窓を有するマスクを備えた基板に原料を供給し、結晶膜を成長させる方法であって、前記結晶膜は、複数の面内回転ドメイン群を有しており、前記複数の窓は、線状に配置されており且つドット状の形状を有しており、前記複数の面内回転ドメイン群のうちの1つの面内回転ドメイン群の前記窓の前記線状方向に沿った成長速度が、他の面内回転ドメイン群の前記線状方向に沿った成長速度と比べて大きくなるよう、前記基板上に前記マスクを形成し、前記結晶膜を成長することを包含し、さらに、前記複数の窓の前記線状方向における隣接する2つのドットの中心間距離をpとすると、前記複数の窓の前記線状方向に対して垂直な方向における隣接する2つのドットの中心間距離qは、p×2/√3以上500μm以下を満たすことを特長とする。
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明に係る複数の実施形態を組合せたり、一部の構成要素を他の実施形態に適用することももちろん可能であり、そのようなものも本発明の実施形態に属する。
【0014】
図1は、本発明の実施態様において結晶膜を成長するフローチャートの一例を示す図である。ステップS110においては、基板上にバッファ層を形成する。本発明の実施態様においては、基板上に直接(バッファ層を介することなく)マスクを形成し、ついで前記結晶膜を成長してもよし、基板上にバッファ層を介してマスクを形成し、ついで前記結晶膜を成長してもよい。本発明の実施態様においては、
図1のステップS110に示すように、前記基板上にバッファ層を介して前記マスクを形成し、ついで、前記バッファ層上に前記結晶膜を成長するのが好ましい。
【0015】
(バッファ層)
前記バッファ層の構成材料は、特に限定されず、公知の材料であってよい。前記バッファ層の構成材料としては、例えば、酸化物、窒化物または酸窒化物等が挙げられる。前記酸化物としては、例えば、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、ジルコニウム(Zr)、ケイ素(Si)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)から選ばれる1種または2種以上の金属を含む金属酸化物等が挙げられる。前記窒化物としては、例えば、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)およびインジウム(In)から選ばれる1種または2種以上の金属を含む窒化物等が挙げられる。前記窒化物としては、より具体的には、例えば、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、窒化アルミニウム(AlN)またはこれらの混晶等が挙げられる。前記酸窒化物としては、例えば、SiON、AlONまたはTiON等が挙げられる。本発明の実施態様においては、前記バッファ層が、酸化物を含むのが好ましく、酸化チタンを含むのがより好ましい。このような好ましいバッファ層を用いることにより、結晶品質に優れた直方晶の結晶構造(例えば、κ型結晶構造)を有する前記結晶膜をより良好に成長させることができる。前記バッファ層の形成方法は、特に限定されず、公知の方法であってよい。前記バッファ層の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、CVD法またはスパッタリング法等が挙げられる。
【0016】
ついで、ステップS120においては、ステップS110において得られた表面にバッファ層が形成されている基板上に、線状に配置されている複数の窓を有するマスクを形成し、得られた基板上に、結晶膜を形成する。
【0017】
(基板)
前記基板は、複数の窓を有するマスクを備えているものであり、前記結晶膜の支持体となるものであれば、特に限定されない。前記基板としては、例えば、サファイア基板、GaN基板、AlN基板、6H-SiC基板および4H-SiC基板からなる群から選択される基板等が挙げられる。本発明の実施態様においては、前記基板が結晶基板であるのが好ましい。前記結晶基板は、結晶物を主成分として含む基板であれば、特に限定されず、公知の基板であってよい。絶縁体基板であってもよいし、導電性基板であってもよいし、半導体基板であってもよい。単結晶基板であってもよいし、多結晶基板であってもよい。前記結晶基板としては、例えば、コランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基板、またはβ-ガリア構造を有する結晶物を主成分として含む基板、六方晶構造を有する結晶物を主成分として含む基板などが挙げられる。本発明の実施態様においては、前記結晶基板が、[11-20]軸(a軸)または[10-10]軸(m軸)を含む結晶構造を有するのが好ましい。[11-20]軸(a軸)または[10-10]軸(m軸)を含む結晶構造としては、例えば、コランダム構造、六方晶構造(例えば、ε型構造、ウルツ鉱型構造等)等が挙げられる。なお、前記「主成分」とは、基板中の組成比で、前記結晶物を50%以上含むものをいい、好ましくは70%以上含むものであり、より好ましくは90%以上含むものである。 なお、前記基板の主面の面指数は、特に限定されないが、本発明の実施態様においては、(0001)面(c面)であるのが好ましい。
【0018】
コランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基板としては、例えば、サファイア基板、α型酸化ガリウム基板などが挙げられる。前記β-ガリア構造を有する結晶物を主成分として含む基板としては、例えば、β-Ga2O3基板、またはβ-Ga2O3とAl2O3とを含む混晶体基板などが挙げられる。なお、β-Ga2O3とAl2O3とを含む混晶体基板としては、例えば、Al2O3が原子比で0%より多くかつ60%以下含まれる混晶体基板などが好適な例として挙げられる。また、前記六方晶構造を有する基板としては、例えば、SiC基板、ZnO基板、GaN基板またはAlN基板などが挙げられる。その他の結晶基板の例示としては、例えば、Si基板などが挙げられる。
【0019】
本発明の実施態様においては、前記結晶基板が、サファイア基板であるのが好ましい。前記サファイア基板としては、例えば、c面サファイア基板、m面サファイア基板、a面サファイア基板などが挙げられる。また、前記サファイア基板はオフ角を有していてもよい。前記オフ角は、特に限定されないが、好ましくは0°~15°である。なお、前記結晶基板の厚さは、特に限定されないが、好ましくは、50~2000μmであり、より好ましくは200~800μmである。
【0020】
前記マスクは、複数の窓を有しており、前記複数の窓が線状に配置されているものであれば、特に限定されない。前記マスクの構成材料も、特に限定されず、公知のものであってよい。絶縁体材料であってもよいし、導電体材料であってもよいし、半導体材料であってもよい。また、前記構成材料は、非晶であってもよいし、単結晶であってもよいし、多結晶であってもよい。前記凸部の構成材料としては、例えば、Si、Ge、Ti、Zr、Hf、Ta、Sn、Al等の酸化物、窒化物または炭化物、カーボン、ダイヤモンド、金属、これらの混合物などが挙げられる。より具体的には、SiO2、SiNまたは多結晶シリコンを主成分として含むSi含有化合物、前記結晶性酸化物半導体の結晶成長温度よりも高い融点を有する金属(例えば、白金、金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムなどの貴金属等)などが挙げられる。本発明の実施態様においては、前記マスクの構成材料が、酸化物、窒化物または酸窒化物および金属から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。また、本発明の実施態様においては、前記マスクの構成材料が、アモルファス材料であってもよい。前記酸化物、窒化物または酸窒化物としては、例えば、Si、Ge、Ti、Zr、Hf、Ta、Sn等の酸化物、窒化物または酸窒化物等が挙げられる。また、前記金属としては、例えば、白金、金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムなどの貴金属等が挙げられる。
【0021】
また、線状に配置されている前記複数の窓の形状も、特に限定されず、ストライプ状であってもよいし、ドット状であってもよい。本発明の実施態様においては、前記複数の窓の形状がドット状である場合、通常、前記複数の窓の線状方向における隣接する2つのドットの中心間距離をpとすると、前記複数の窓の線状方向に対して垂直な方向における隣接する2つのドットの中心間距離はqは、p×2/√3以上500μm以下の条件を満たす。前記複数の窓の形状がドット状である場合には、このような寸法の配置とすることにより、単一の面内配向のドメインを優先的に成長させることができる。前記ドットの表面形状も、特に限定されず、円状であってもよいし、多角形状(例えば、三角形、四角形、五角形、六角形等)であってもよい。本発明の実施態様においては、前記複数の窓の形状が、ストライプ状であるのが、単一の面内配向を有する結晶膜をより良好且つより簡便に得ることができるので、好ましい。また、本発明の実施態様においては、前記複数の窓の形状が、ドット状である場合、前記複数の窓の形状が、略真円および/または略正多角形であるのが好ましい。この場合、前記窓の線状方向に対して平行な方向における、隣接する前記略真円どうしおよび/または隣接する前記略正多角形どうしの中心間距離をpとすると、前記窓の線状方向に対して垂直な方向における、隣接する前記略真円どうしおよび/または隣接する前記略正多角形どうしの中心間距離qは、p×2/√3以上500μm以下を満たす。またさらに、本発明の実施態様においては、前記略真円および/または前記略正多角形の直径は、0.1μm以上10μm以下の範囲内であり、前記間窓の線状方向と平行な方向における前記略真円および/または前記略正多角形の中心間距離は、0.3μm以上25μm以下の範囲内であるが好ましい。
図6に、複数の窓が線状に配置されているマスクの例として、マスクおよび窓の上面図を示す。
図6(A)がストライプ状、
図6(B)がドット状(円状)、
図6(C)がドット状(三角形状)、
図6(D)がドット状(四角形状)の場合を示している。
【0022】
前記マスクの形成手段としては、公知の手段であってよく、例えば、フォトリソグラフィー、電子ビームリソグラフィー、レーザーパターニング、その後のエッチング(例えばドライエッチングまたはウェットエッチング等)などの公知のパターニング加工手段などが挙げられる。また、前記パターン形状のピッチ間隔も、特に限定されないが、本発明の実施態様においては、100μm以下であるのが好ましく、0.5μm~50μmであるのがより好ましく、0.5μm~10μm」であるのが最も好ましい。
【0023】
図3は、本発明の実施態様において基板上にバッファ層を介してマスクを形成する製造工程を模式的に示す図である。
図3(a)は、基板1を示す。
図3(a)の基板1上に、公知の方法を用いてバッファ層2を形成し、
図3(b)の積層体を得る。ついで、得られた積層体(b)上に、公知の成膜方法(例えば、真空蒸着法、CVD法またはスパッタリング法)を用いてマスク層を形成した後、公知のパターニング加工方法によって加工することにより、線状に配置されているマスク3を形成して、
図3(c)の積層体を得る。前記パターニング加工方法としては、例えば、フォトリソグラフィー、電子ビームリソグラフィー、レーザーパターニング、その後のエッチング(例えばドライエッチングまたはウェットエッチング等)などの公知のパターニング加工方法などが挙げられる。
【0024】
図11は、表面にバッファ層を介してマスクが形成されている基板を模式的に示す斜視図である。
図11の基板1は、表面にバッファ層2を介してストライプ状の複数の窓を有するマスク3が形成されており、前記マスクの複数の窓4は、線状に配置されている。本発明の実施態様においては、前記結晶膜として、例えば直方晶構造(例えば、κ型の結晶構造)を有する結晶膜を形成する場合、例えば前記基板としてc面サファイア基板を用いて、前記複数の窓4の線状方向d1が前記サファイア基板の[11―20]軸(a軸)方向と平行になるように前記マスクを形成することにより、前記結晶膜が有する複数の面内回転ドメイン群のうち1つの面内回転ドメイン群の前記窓の線状方向に沿った成長速度が、他の面内回転ドメイン群の前記線状方向に沿った成長速度と比べて大きくなるようにすることができる。なお、本発明の実施態様においては、前記基板が、サファイア基板、GaN基板、AlN基板、6H-SiC基板および4H-SiC基板からなる群から選択される基板である場合、前記窓4の線状方向d1と前記基板の[11-20]方向とのなす角は、-5°以上5°以下の範囲内であるのが好ましい。
【0025】
前記窓の幅DWは、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されない。本発明の実施態様においては、前記窓の幅が、0.1μm以上20μm以下の範囲内であるのが好ましく、1μm以上15μm以下の範囲内であるのがより好ましく、3μm以上7μm以下の範囲内であるのが最も好ましい。また、前記マスクの幅DMは、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されない。本発明の実施態様においては、前記マスクの幅DMが、5μm以上500μm以下の範囲内であるのが好ましく、5μm以上200μm以下の範囲内であるのがより好ましく、10μm以上50μm以下の範囲内であるのが最も好ましい。なお、前記窓の幅DWは、前記マスクの幅DMよりも小さいのが好ましい。前記窓の幅および前記マスクの幅をこのような好ましい範囲内の値に設定することにより、前記結晶膜の品質をより優れたものとすることができる。
【0026】
図12は、本発明の他の実施態様における、表面にバッファ層を介してマスクが形成されている基板の模式的に示す斜視図である。
図12の基板1は、表面にバッファ層2を介してドット状(円状)の複数の窓を有するマスク3が形成されており、前記マスクの複数の窓4は、線状に配置されている。本発明の実施態様においては、前記結晶膜として、例えば直方晶構造(例えば、κ型の結晶構造)を有する結晶膜を形成する場合、例えば前記基板としてc面サファイア基板を用いて、前記複数の窓4の線状方向が前記サファイア基板の[11―20]軸(a軸)方向と平行になるように前記マスクを形成することにより、前記結晶膜が有する複数の面内回転ドメイン群のうち1つの面内回転ドメイン群の前記窓の線状方向に沿った成長速度が、他の面内回転ドメイン群の前記線状方向に沿った成長速度と比べて大きくなるようにすることができる。本発明の実施態様においては、前記窓4の線状方向に対して平行な方向における中心間距離をpとすると、前記窓4の線状方向に対して垂直な方向における中心間距離qは、「p×2/√3≦q≦500μm」を満たす。また、本発明の実施態様においては、前記窓4の直径Rが0.1μm以上10μm以下の範囲内であり、前記窓4の線状方向と平行な方向における中心間距離pが、0.3μm以上25μm以下の範囲内であるのが好ましい。前記窓の幅および前記マスクの幅をこのような好ましい範囲内とすることにより、前記結晶膜の品質をより優れたものとすることができる。
【0027】
(結晶膜)
前記結晶膜は、複数の面内回転ドメイン群を有しているものであれば、特に限定されない。ここで、面内回転ドメイン群とは、例えば、前記結晶膜が(001)面κ-Ga2O3である場合、(001)面内で120°ずつ回転した3種類のドメインのことをいう。本発明の実施態様においては、前記結晶膜が、酸化物、窒化物および酸窒化物からなる群から選択される少なくとも1種を主成分として含むのが好ましい。前記酸化物としては、例えば、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、ジルコニウム(Zr)、ケイ素(Si)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)から選ばれる1種または2種以上の金属を含む金属酸化物等が挙げられる。前記窒化物としては、例えば、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)およびインジウム(In)から選ばれる1種または2種以上の金属を含む窒化物等が挙げられる。前記窒化物としては、より具体的には、例えば、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、窒化アルミニウム(AlN)またはこれらの混晶等が挙げられる。前記酸窒化物としては、例えば、SiON、AlONまたはTiON等が挙げられる。
【0028】
本発明の実施態様においては、前記結晶膜が、酸化物を含むのが好ましい。また、本発明の実施態様においては、前記酸化物が、κ-(AlxInyGa1-x-y)2O3、β-(AlxInyGa1-x-y)2O3、および、γ-(AlxInyGa1-x-y)2O3(ここで、x、yおよびzは、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1を満たす)からなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。前記酸化物の結晶構造は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されない。前記酸化物の結晶構造としては、例えば、コランダム構造、β―ガリア構造、六方晶構造(例えば、ε型構造等)、直方晶構造(例えばκ型構造等)、立方晶構造、または正方晶構造等が挙げられる。本発明の実施態様においては、前記酸化物の結晶構造がコランダム構造、六方晶構造または直方晶構造であるのが好ましく、直方晶構造であるのが好ましく、κ型構造であるのが最も好ましい。
【0029】
前記結晶膜には、ドーパントが含まれていてもよい。前記ドーパントは、特に限定されず、公知のものであってよく、n型ドーパントであってもよいし、p型ドーパントであってもよい。前記n型ドーパントとしては、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブまたはこれらの2種以上の元素等が挙げられる。前記p型ドーパントとしては、例えば、Mg、H、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Ca、Sr、Ba、Ra、Mn、Fe、Co、Ni、Pd、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Ti、Pb、N、Pまたはこれらの2種以上の元素等が挙げられる。前記ドーパントの含有量も、特に限定されないが、第2の結晶層中、0.00001原子%以上であるのが好ましく、0.00001原子%~20原子%であるのがより好ましく、0.00001原子%~10原子%であるのが最も好ましい。
【0030】
(原料)
前記原料は、結晶膜の材料となる物質を含むものであれば、特に限定されず、無機材料を含んでいてもよいし、有機材料を含んでいてもよい。本発明の実施態様においては、前記原料が、金属を含むのが好ましい。前記金属としては、例えば、ガリウム(Ga)、イリジウム(Ir)、インジウム(In)、ロジウム(Rh)、アルミニウム(Al)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、レニウム(Re)、チタン(Ti)、スズ(Sn)、ガリウム(Ga)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)およびジルコニウム(Zr)から選ばれる1種または2種以上の金属などが挙げられる。
【0031】
前記結晶膜を成長させる方法は、特に限定されず、公知の方法であってよい。前記結晶膜を成長させる方法としては、例えば、HVPE法、ミストCVD法またはMOCVD法等が挙げられる。本発明の実施態様においては、前記結晶膜をHVPE法を用いて成長させるのが好ましい。
【0032】
以下、前記結晶膜を成長させる方法としてHVPE法を用いて、前記結晶膜としてκ-Ga2O3を成長させる場合を例として、本発明の実施態様をより詳細に説明する。前記HVPE法は、具体的には、例えば、金属を含む金属源をガス化して金属ハロゲン化物ガスとし、ついで、前記金属ハロゲン化物ガスと、酸素含有原料ガスとを反応室内の前記結晶基板に供給して成膜するのが好ましい。また、本発明の実施態様においては、反応性ガスを前記結晶基板上に供給し、前記成膜を前記反応性ガスの流通下で行うのも好ましい。
【0033】
(金属源)
前記金属源は、金属を含んでおり、ガス化が可能なものであれば、特に限定されず、金属単体であってもよいし、金属化合物であってもよい。前記金属としては、例えば、ガリウム、アルミニウム、インジウム、鉄、クロム、バナジウム、チタン、ロジウム、ニッケル、コバルトおよびイリジウム等から選ばれる1種または2種以上の金属等が挙げられる。本発明の実施態様においては、前記金属が、ガリウム、アルミニウムおよびインジウムから選らばれる1種または2種以上の金属であるのが好ましく、ガリウムであるのがより好ましく、前記金属源が、ガリウム単体であるのが最も好ましい。また、前記金属源は、気体であってもよいし、液体であってもよいし、固体であってもよいが、本発明の実施態様においては、例えば、前記金属としてガリウムを用いる場合には、前記金属源が液体であるのが好ましい。
【0034】
前記ガス化の手段は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知の手段であってよい。本発明の実施態様においては、前記ガス化の手段が、前記金属源をハロゲン化することにより行われるのが好ましい。前記ハロゲン化に用いるハロゲン化剤は、前記金属源をハロゲン化できさえすれば、特に限定されず、公知のハロゲン化剤であってよい。前記ハロゲン化剤としては、例えば、ハロゲンまたはハロゲン化水素等が挙げられる。前記ハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素等が挙げられる。また、ハロゲン化水素としては、例えば、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素等が挙げられる。本発明の実施態様においては、前記ハロゲン化に、ハロゲン化水素を用いるのが好ましく、塩化水素を用いるのがより好ましい。本発明の実施態様においては、前記ガス化を、前記金属源に、ハロゲン化剤として、ハロゲンまたはハロゲン化水素を供給して、前記金属源とハロゲンまたはハロゲン化水素とをハロゲン化金属の気化温度以上で反応させてハロゲン化金属とすることにより行うのが好ましい。前記ハロゲン化反応温度は、特に限定されないが、本発明の実施態様においては、例えば、前記金属源がガリウムであり、前記ハロゲン化剤が、HClである場合には、900℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましく、400℃~700℃であるのが最も好ましい。前記金属ハロゲン化物ガスは、前記金属源の金属のハロゲン化物を含むガスであれば、特に限定されない。前記金属ハロゲン化物ガスとしては、例えば、前記金属のハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物など)等が挙げられる。
【0035】
本発明の実施態様においては、金属を含む金属源をガス化して金属ハロゲン化物ガスとした後、前記金属ハロゲン化物ガスと、前記酸素含有原料ガスとを、前記反応室内の基板上に供給する。また、本発明の実施態様においては、反応性ガスを前記基板上に供給する。前記結晶層の形成温度は、特に限定されないが、本発明の実施態様においては、例えば、前記金属源がガリウムであり、前記ハロゲン化剤が、HClである場合には、900℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましく、400℃~700℃であるのが最も好ましい。前記酸素含有原料ガスとしては、例えば、O2ガス、CO2ガス、NOガス、NO2ガス、N2Oガス、H2OガスまたはO3ガスから選ばれる1種または2種以上のガスである。本発明の実施態様においては、前記酸素含有原料ガスが、O2、H2OおよびN2Oからなる群から選ばれる1種または2種以上のガスであるのが好ましく、O2を含むのがより好ましい。前記反応性ガスは、通常、金属ハロゲン化物ガスおよび酸素含有原料ガスとは異なる反応性のガスであり、不活性ガスは含まれない。前記反応性ガスとしては、特に限定されないが、例えば、エッチングガス等が挙げられる。前記エッチングガスは、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知のエッチングガスであってよい。本発明の実施態様においては、前記反応性ガスが、ハロゲンガス(例えば、フッ素ガス、塩素ガス、臭素ガスまたはヨウ素ガス等)、ハロゲン化水素ガス(例えば、フッ酸ガス、塩酸ガス、臭化水素ガスまたはヨウ化水素ガス等)、水素ガスまたはこれら2種以上の混合ガス等であるのが好ましく、ハロゲン化水素ガスを含むのが好ましく、塩化水素を含むのが最も好ましい。なお、前記金属ハロゲン化物ガス、前記酸素含有原料ガス、前記反応性ガスは、キャリアガスを含んでいてもよい。前記キャリアガスとしては、例えば、窒素やアルゴン等の不活性ガス等が挙げられる。また、前記金属ハロゲン化物ガスの分圧は特に限定されないが、本発明の実施態様においては、0.5Pa~1kPaであるのが好ましく、5Pa~0.5kPaであるのがより好ましい。前記酸素含有原料ガスの分圧は、特に限定されないが、本発明の実施態様においては、前記金属ハロゲン化物ガスの分圧の0.5倍~100倍であるのが好ましく、1倍~20倍であるのがより好ましい。前記反応性ガスの分圧も、特に限定されないが、本発明の実施態様においては、前記金属ハロゲン化物ガスの分圧の0.1倍~5倍であるのが好ましく、0.2倍~3倍であるのがより好ましい。
【0036】
本発明の実施態様においては、さらに、ドーパント含有原料ガスを前記基板に供給するのも好ましい。前記ドーパント含有原料ガスは、ドーパントを含んでいれば、特に限定されない。前記ドーパントも、特に限定されないが、本発明の実施態様においては、前記ドーパントが、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブおよびスズから選ばれる1種または2種以上の元素を含むのが好ましく、ゲルマニウム、ケイ素、またはスズを含むのがより好ましく、ゲルマニウムを含むのが最も好ましい。このようにドーパント含有原料ガスを用いることにより、得られる膜の導電率を容易に制御することができる。前記ドーパント含有原料ガスは、前記ドーパントを化合物(例えば、ハロゲン化物、酸化物等)の形態で有するのが好ましく、ハロゲン化物の形態で有するのがより好ましい。前記ドーパント含有原料ガスの分圧は、特に限定されないが、本発明の実施態様においては、前記金属含有原料ガスの分圧の1×10-7倍~0.1倍であるのが好ましく、2.5×10-6倍~7.5×10-2倍であるのがより好ましい。なお、本発明の実施態様においては、前記ドーパント含有原料ガスを、前記反応性ガスとともに前記基板上に供給するのが好ましい。
【0037】
本発明の実施態様においては、前記基板上に第1のマスクとしての前記マスクを形成し、第1の結晶膜としての前記結晶膜を成長することに続いて、ステップS130として、前記第1の結晶膜上に第2のマスクを形成し、第2の結晶膜をさらに成長することを包含するのも好ましい。このように第2の結晶膜をさらに成長させることにより、第1の結晶膜よりもさらに面内回転ドメインが低減された第2の結晶膜を得ることができる。なお、この場合、前記第2のマスクは、前記第1のマスクと同様に線状に配置されている複数の窓を有しており、前記第2のマスクの複数の窓と、前記第1のマスクの複数の窓とが重ならないように形成されるのが好ましい。
【0038】
図2は、本発明の実施態様において結晶膜を成長するフローチャートの他の好適な一例を示す図である。
図2に示す成長方法は、ステップS110とステップS120との間に、ステップS210として、バッファ層上に平坦膜を成長するステップを有する点で、
図1に示す成長方法と異なる。前記平坦膜の材料は、特に限定されないが、本発明の実施態様においては、前記結晶膜の材料と同様であるのが好ましい。また、前記平坦膜の形成方法も、前記結晶膜の形成方法と同様であってよい。
【0039】
本発明の実施態様においては、前記結晶膜が、複数の面内回転ドメイン群を有しており、前記複数の面内回転ドメイン群のうちの1つの面内回転ドメイン群の前記窓の前記線状方向に沿った成長速度が、他の面内回転ドメイン群の前記線状方向に沿った成長速度と比べて大きくなるように、前記基板上に前記マスクを形成する。このようにして、マスクを形成して前記結晶膜を成長する方法について、以下、図面を用いてより詳細に説明する。
【0040】
図4は、本発明の実施態様における結晶膜の成長方法が適用される、複数の面内回転ドメインを有する結晶膜を模式的に示す表面図である。
図4は、ストライプ状のマスクを有する基板上に前記結晶膜を成長させた場合の、窓310から成長した前記結晶膜がマスク上に横方向成長している様子を模式的に示している。なお、簡略化のため、窓310上に成長している前記結晶膜は図示しない。前記結晶膜は、通常、ELOを用いて成長させる場合、
図4に示すように、窓310から成長して横方向成長する際に複数の面内回転ドメイン320a、320b、および320cを含む。
図4においては、便宜上、複数の面内回転ドメイン320a、320bおよび320cが均等に特定の順番で成長している様子を示しているが、従来の結晶膜の成長方法によって得られる結晶膜は、通常これら3種類の面内回転ドメインがランダムな大きさと順番で分布している。
【0041】
図5は、本発明の実施態様における、複数の面内回転ドメイン群の成長速度の違いによって得られる結晶膜の違いを説明するための模式図である。
図5(A)は、面内回転ドメイン320bのマスクの線状方向に沿った成長速度(以下単に「成長速度」ともいう)が面内回転ドメイン320cの成長速度よりも大きく、且つ面内回転ドメイン320aの成長速度が面内回転ドメイン320bの成長速度よりも大きい場合を示す。また、
図5(B)は、面内回転ドメイン320bおよび面内回転ドメイン320cの成長速度が等しく、面内回転ドメイン320aの成長速度が面内回転ドメイン320bおよび320cの成長速度よりも大きい場合を示す。
図5(A)および
図5(B)に示すように、複数の面内回転ドメイン群のうちの1つの面内回転ドメイン群の成長速度が他の面内回転ドメイン群の成長速度よりも大きい場合には、横方向成長部において単一の面内配向を有する結晶膜を得ることができる。これは、後述する実施例において示されるように、本発明者らが実際に実験によってはじめて得た知見である。一方、
図5(C)は、面内回転ドメイン320a、320bおよび320cの成長速度が全て等しい場合を示す。
図5(D)は、面内回転ドメイン320aの成長速度よりも面内回転ドメイン320bの成長速度が大きく、且つ面内回転ドメイン320bの成長速度と面内回転ドメイン320cの成長速度とが等しい場合を示す。
図5(C)および
図5(D)の場合には、単一の面内配向を有する結晶膜を得ることが困難となる。
【0042】
上記した本発明の実施態様にかかる成長方法によれば、例えば、直方晶の結晶構造を有し、アルミニウム、ガリウムおよびインジウムから選ばれる1種または2種以上の金属を少なくとも含有する結晶膜(以下、「結晶性酸化物膜」ともいう)であって、前記結晶性酸化物膜中の回転ドメインの含有率が30%以下であることを特徴とする結晶性酸化物膜を得ることができる。また、上記した好適な成長方法によれば、前記回転ドメインの含有率が20%以下の結晶性酸化物膜を得ることができる。ここで、前記回転ドメインの含有率は、例えば、結晶膜の表面側から測定したEBSD(Electron backscattered diffraction)の結果の画像から算出することができる。本発明の実施態様においては、前記結晶性酸化物膜の主成分が、直方晶構造を有する結晶性酸化物であるのが好ましく、(001)面配向したκ-(AlxInyGa1-x-y)2O3(ここで、x、yおよびzは、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1を満たす)であるのがより好ましい。ここで、「主成分」とは、例えば、前記結晶性酸化物膜がκ-Ga2O3を主成分として含む場合、κ-Ga2O3が、原子比で、前記結晶膜の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよいことを意味する。
【0043】
また、前記結晶性酸化物膜は、特に、[11-20]軸(a軸)または[10-10]軸(m軸)を含む結晶構造を有する結晶基板上に設けられている半導体層と、前記半導体層の第1面側にそれぞれ配置されている第1の電極と第2の電極とを少なくとも有しており、前記半導体層において、前記第1の電極から前記第2の電極へと向かう第1の方向に電流が流れるように構成されている半導体素子であって、前記半導体層が前記結晶基板とは異なる結晶構造を有し、前記第1の方向が、前記結晶基板のa軸方向またはm軸方向と平行である半導体素子における前記半導体層として好適に用いることができ、このようにして得られた半導体素子もまた、本発明の実施態様の一つに包含される。本発明の実施態様においては、前記結晶基板が、コランダム構造を有するのが好ましい。なお、ここで、[11-20]軸(a軸)または[10-10]軸(m軸)に平行とは、完全に平行でなくてもよく、それから僅かにずれた態様であってもよい(例えば前記第1の方向とa軸またはm軸がなす角が0°よりも大きく且つ10°以下となる態様であってもよい)ことを意味している。
【0044】
本発明の実施態様にかかる結晶膜または結晶性酸化物膜は、特に、半導体素子に好適に用いることができ、とりわけ、パワーデバイスに有用である。前記結晶膜または前記結晶性酸化物膜を用いて形成される半導体素子としては、ダイオード、紫外線検出素子、およびトランジスタからなる群から選択される半導体素子等が挙げられ、より具体的には、例えば、MISやHEMT、MOS等のトランジスタやTFT、半導体‐金属接合を利用したショットキーバリアダイオード、他のP層と組み合わせたPN又はPINダイオード、受発光素子が挙げられる。本発明の実施態様においては、前記半導体素子が、HEMTであるのが好ましい。また、本発明の実施態様においては、前記結晶膜または結晶性酸化物膜をそのまま半導体素子等に用いてもよいし、前記基板および/または前記マスクを公知の手段を用いて剥離する等して、半導体素子等に適用してもよい。
【0045】
図7は、本発明の実施態様にかかる結晶膜または結晶性酸化物膜(以下、単に「結晶膜」ともいう)を備えたトランジスタを示す模式図である。トランジスタ900は、少なくとも本発明の実施態様にかかる結晶膜910と、結晶膜910の一方の主面の一部に形成されたソース920と、ソース920と対向して形成されたドレイン930と、ソース920とドレイン930との間に形成されたチャネル940と、チャネル940上に形成された絶縁膜950と、絶縁膜950上に形成されたゲート電極960とを備える。
【0046】
結晶膜910は、好ましくは、本発明の実施態様に係るκ-Ga2O3またはその混晶を含む単結晶膜である。本発明の実施態様においては、結晶膜910がn型の導電性を示すのが好ましい。また、結晶膜の厚さは、例えば、0.1μm以上10μm以下である。
【0047】
ソース920は、結晶膜910の一部にドーパント元素を高濃度に注入されたn+型領域970aと、n+領域970a上に形成された電極980aとを備える。前記ドーパントとしては、例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブまたはこれらの2種以上の元素等のn型ドーパント等が挙げられる。また、n+型領域970aのキャリア濃度は、例えば、1×1015/cm3以上1×1020/cm3以下の範囲内である。なお、n+型領域970aは、注入だけでなく、例えば、公知のパターニング方法および公知の成膜方法を用いて形成してもよい。前記電極980aとしては、例えば、Al、Ti、Pt、Ru、Auおよびこれらの合金からなる群から選択される金属材料等が挙げられる。
【0048】
ドレイン430は、結晶膜910の一部にドーパント元素を高濃度に注入されたn+型領域970bと、n+型領域970b上に形成された電極980bとを備える。n+型領域970aと同様に、前記ドーパンとしては、例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブまたはこれらの2種以上の元素等のn型ドーパント等が挙げられる。また、n+型領域970bのキャリア濃度は、例えば、1×1015/cm3以上1×1020/cm3以下の範囲内である。なお、n+型領域970bは、注入だけでなく、例えば、公知のパターニング方法および公知の成膜方法を用いて形成してもよい。前記電極980bとしては、例えば、Al、Ti、Pt、Ru、Auおよびこれらの合金からなる群から選択される金属材料等が挙げられる。
【0049】
絶縁膜950は、Al2O3、SiO2、HfO2、SiN、および、SiONからなる群から選択される絶縁材料である。ゲート電極906としては、例えば、Al、Ti、Pt、Ru、Au、およびこれらの合金からなる群から選択される金属材料である。絶縁膜950の厚さは、例えば、1nm以上100nm以下である。
【0050】
このようなトランジスタ900の製造方法について説明する。トランジスタ900は、既存のLSI製造プロセスによって製造される。例えば、トランジスタ900は、実施の形態1で得たα-Ga2O3単結晶910上に、フォトリソグラフィ技術を用いて、イオン注入によりn+領域970aおよび970bを形成し、次いで、気相エピタキシャル成長法、液相エピタキシャル成長法、ハライド気相成長法、有機金属化学気相蒸着法(MOCVD)等の既存の成長技術を用いて、絶縁膜950を形成し、次いで、真空蒸着、スパッタリング等の既存の電極形成技術により、電極980aおよび980bならびにゲート電極460を形成することによって製造される。
【0051】
図示しないが、n型半導体として本発明の実施態様にかかる結晶膜を用いて、pn接合(ヘテロ接合であってもよい)を形成し、ダイオードを製造することができる。
【0052】
図8は、本発明の実施態様に係る結晶膜を備えた紫外線検出素子を示す模式図である。
【0053】
図8(A)および(B)に示されるように、紫外線検出素子1000a、1000bは、少なくとも、本発明の結晶膜1010と、結晶膜1010上に形成されたショットキー電極1020と、結晶膜1010に形成されたオーミック電極1030とを備える。詳細には、
図8(A)の紫外線検出素子1000aによれば、ショットキー電極1020は、α-Ga
2O
3単結晶1010の一方の主面上に形成され、オーミック電極1030は、結晶膜1010のもう一方の主面(
図8では裏面)上に形成される。一方、
図8(B)の紫外線検出素子1000bによれば、後述するように、基板(例えば、サファイア基板等)1040上に結晶膜1010が位置するので、ショットキー電極1020およびオーミック電極1030は、いずれも結晶膜1010の同一の主面上に形成される。
【0054】
結晶膜1010は、好ましくは、本発明の実施態様に係るκ-Ga2O3またはその混晶を含む単結晶膜である。本発明の実施態様においては、結晶膜910がn型の導電性を示すのが好ましい。また、結晶膜の厚さは、例えば、0.1μm以上10μm以下である。
【0055】
ショットキー電極1020は、Ni、Pt、Au、および、これらの合金からなる群から選択される金属材料であってもよい。オーミック電極1030は、Ti、In、および、これらの合金からなる群から選択される金属材料でありうる。
【0056】
このような紫外線検出素子1000の製造方法について説明する。紫外線検出素子1000は、既存の大規模集積回路(LSI)製造プロセスによって製造される。例えば、紫外線検出素子1000は、本発明の実施態様における結晶膜1010の主面および裏面にそれぞれショットキー電極1020およびオーミック電極1030を、真空蒸着、スパッタリング等の既存の金属膜製膜技術とフォトリソグラフィとにより形成することによって製造される。紫外線検出素子1000bも、同様に、基板(例えば、サファイア基板等)1040上に形成されたα-Ga2O3単結晶1010の主面に、ショットキー電極1020およびオーミック電極1030を上述の金属膜成膜技術とフォトリソグラフィとにより形成すればよい。
【0057】
図9は、本発明に係る高電子移動度トランジスタ(HEMT)の一例を示している。
図9のHEMTは、バンドギャップの広いn型半導体層121a、バンドギャップの狭いn型半導体層121b、n+型半導体層121c、半絶縁体層124、緩衝層128、ゲート電極125a、ソース電極125bおよびドレイン電極125cを備えている。
【0058】
なお、各電極の材料は、公知の電極材料であってもよく、前記電極材料としては、例えば、Al、Mo、Co、Zr、Sn、Nb、Fe、Cr、Ta、Ti、Au、Pt、V、Mn、Ni、Cu、Hf、W、Ir、Zn、In、Pd、NdもしくはAg等の金属またはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化レニウム、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の金属酸化物導電膜、ポリアニリン、ポリチオフェン又はポリピロ-ルなどの有機導電性化合物、またはこれらの混合物並びに積層体などが挙げられる。前記電極の形成は、例えば、真空蒸着法またはスパッタリング法などの公知の手段により行うことができる。
【0059】
n+型半導体層は、特に限定されないが、バンドギャップの広いn型半導体層121aまたはバンドギャップの狭いn型半導体層121bの主成分と同じかまたは類似している半導体を主成分とするのが好ましい。
【0060】
前記結晶膜は、バンドギャップの広いn型半導体層121a、バンドギャップの狭いn型半導体層121bにそれぞれ用いることができる。このようにして用いることにより、高温高周波特性により優れ、さらに、高温高耐圧等の半導体特性により優れた半導体装置を実現することができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
1.バッファ層およびマスクの形成
(0001)面サファイア基板上にRFスパッタリングでバッファ層としてTiO
x膜(厚さ2nm)を形成した。得られた酸化チタン膜上に、RFスパッタリングおよびフォトリソグラフィを用いてSiO
xマスクを形成した。マスクパターンは、
図11に示すとおりとし、サファイアの[11-20]軸方向と複数の窓4の線状方向(
図11におけるd1の方向)とが平行となるように形成した。なお、この場合
図11におけるd2の方向はサファイアの[10-10]方向となる。また、窓の幅D
Wは5μm、マスクの幅D
Mは20μmとした。
【0063】
2.結晶膜の成長
2-1.HVPE装置
図10を用いて、本実施例で用いたハライド気相成長(HVPE)装置50を説明する。HVPE装置50は、反応室51と、金属源57を加熱するヒータ52aおよび基板ホルダ56に固定されている基板を加熱するヒータ52bとを備え、さらに、反応室51内に、酸素含有原料ガス供給管55bと、反応性ガス供給管54bと、基板を設置する基板ホルダ56とを備えている。そして、反応性ガス供給管54b内には、金属含有原料ガス供給管53bが備えられており、二重管構造を形成している。なお、酸素含有原料ガス供給管55bは、酸素含有原料ガス供給源55aと接続されており、酸素含有原料ガス供源55aから酸素含有原料ガス供給管55bを介して、酸素含有原料ガスが基板ホルダ56に固定されている基板に供給可能なように、酸素含有原料ガスの流路を構成している。また、反応性ガス供給管54bは、反応性ガスが基板ホルダ56に固定されている基板に供給可能なように、反応性ガスの流路を構成している。金属含有原料ガス供給管53bは、ハロゲン含有原料ガス供給管53aと接続されており、ハロゲン含有原料ガスが金属源に供給されて金属含有原料ガスとなり金属含有原料ガス排出部59が設けられている。
【0064】
2-2.成膜準備
金属含有原料ガス供給管53b内部にガリウム(Ga)金属源57(純度99.99999%以上)を配置し、反応室51内の基板ホルダ56上に、基板として、上記1で得られたバッファ層およびマスク付きのサファイア基板を設置した。その後、ヒータ52aおよび52bを作動させて反応室51内の温度を540℃にまで昇温させた。
【0065】
金属含有原料ガス供給管53b内部に配置したガリウム(Ga)金属57に、ハロゲン含有原料ガス供給源53aから、塩化水素(HCl)ガス(純度99.999%以上)を供給した。Ga金属と塩化水素(HCl)ガスとの化学反応によって、塩化ガリウム(GaCl/GaCl
3)を生成した。得られた塩化ガリウム(GaCl/GaCl
3)と、酸素含有原料ガス供給源55aから供給されるO
2ガス(純度99.99995%以上)とを、それぞれ金属含有原料供給管53bおよび酸素含有原料ガス供給管55bを通して前記基板上まで供給した。そして、塩化ガリウム(GaCl/GaCl
3)およびO
2ガスを基板上で大気圧下、540℃にて反応させて、基板上に成膜した。なお、成膜時間は25分であった。ここで、ハロゲン含有原料ガス供給源53aから供給されるHClガスの分圧を0.125kPa、酸素含有原料ガス供給源55から供給されるO
2ガスの分圧を1.25kPaに、それぞれ維持した。得られた膜につき、薄膜用XRD回折装置を用いて、15度から95度の角度で2θ/ωスキャンを行うことによって、膜の同定を行った。測定は、CuKα線を用いて行った。その結果、得られた膜は、κ―Ga
2O
3であった。なお、得られた結晶膜の鳥瞰SEM像を
図14に示す。
【0066】
(評価)
得られた結晶膜の断面TEM像を
図15(A)に、窓部および横方向成長部における[11-20]方向から観察したSAED(Selective area electron diffraction)パターンを
図15(B)および(C)にそれぞれ示す。
図15(A)から明らかなように、横方向成長部においては、ドメイン混在に伴う転位やドメイン境界による筋状のコントラストが見られず、きれいな結晶が得られていることが分かる。また、
図15(B)の横方向成長部のSAEDパターンから明らかなように、横方向成長部において単結晶κ-Ga
2O
3が得られた。また、
図16に、XRDによるκ-Ga
2O
3122回折のφスキャンの結果を示す。
図16から明らかなように、4本のピーク強度が他の8本のピーク強度と比較して圧倒的に大きく、回転ドメインが低減された結晶膜が得られていることが分かる。また、得られた結晶膜を表面側から測定したEBSD(Electron backscattered diffraction)の結果を
図17に示す。
図17から明らかなように、1つの回転ドメインAが他の回転ドメインBおよびCと比較して大部分の面積を占めていることが分かる。なお、回転ドメインAは、
図17に示すとおり、[010]方向がサファイア基板の[11-20]方向と垂直方向に向いているドメインである。また、横方向成長部においては、単一の面内配向を有するκ-Ga
2O
3単結晶が得られていることが分かる。
【0067】
(比較例1)
基板上へのマスクの形成を、マスクパターンを
図11に示すとおりとし、サファイアの[10-10]軸方向と複数の窓4の線状方向(
図11におけるd1の方向)とが平行となるように形成したこと以外は、実施例1と同様にして、結晶膜の成長を行った。得られた膜につき、薄膜用XRD回折装置を用いて、15度から95度の角度で2θ/ωスキャンを行うことによって、膜の同定を行った。測定は、CuKα線を用いて行った。その結果、得られた膜は、κ―Ga
2O
3であった。なお、得られた結晶膜の鳥瞰SEM像を
図18に示す。また、
図19に、XRDによるκ-Ga
2O
3122回折のφスキャンの結果を示す。
図19から明らかなように、8本の強いピークと4本の弱いピークとが観察され、複数の面内回転ドメインが存在することが分かる。また、
図20にEBSDの測定結果を示す。
図20から明らかなように、横方向成長部において2種類の面内回転ドメインが混在していることが分かる。
【0068】
(実施例2)
基板上へのマスクの形成を、マスクパターンを
図12に示すとおりとし、窓の幅(直径)D
Wを5μm、複数の窓4における線状方向と垂直な方向d2の中心間距離qを50μm、線状方向d1と平行な方向の中心間距離pを20μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、結晶膜の成長を行った。結晶膜の成長開始から5分後、15分後、および2時間後のそれぞれの結晶成長のようすをSEMにて観察した。結果を
図21に示す。
図21から明らかなように、ドットパターンのそれぞれの窓部から六角形状のκ-Ga
2O
3アイランドが形成された(
図21(a))。それらκ-Ga
2O
3アイランドがやがてマスクの短周期方向で会合し、のこぎり状の側面を有するκ-Ga
2O
3ストライプが形成された(
図21(b))。さらに成長を継続すると、κ-Ga
2O
3ストライプが会合して連続膜が形成された(c)。
図22に、得られた結晶膜のXRDによるκ-Ga
2O
3122回折のφスキャンの結果を示す。
図22から明らかなように、4本のピーク強度が他の8本のピーク強度と比較して圧倒的に大きく、回転ドメインが低減された結晶膜が得られていることが分かる。また、得られた結晶膜を表面側から測定したEBSD(Electron backscattered diffraction)の結果を
図23に示す。
図23から明らかなように、1つの回転ドメインAが他の回転ドメインBおよびCと比較して大部分の面積を占めていることが分かる。なお、回転ドメインAは、
図23に示すとおり、[010]方向がサファイア基板の[11-20]方向と垂直方向に向いているドメインである。また、横方向成長部においては、単一の面内配向を有するκ-Ga
2O
3単結晶が得られていることが分かる。
【0069】
(比較例2)
基板上へのマスクの形成を、マスクパターンを
図13に示す正三角格子状とし、サファイアの[11-20]軸方向と複数の窓4の線状方向(
図13におけるd1の方向)とが平行となるように形成したこと以外は、実施例1と同様にして、結晶膜の成長を行った。得られた膜につき、薄膜用XRD回折装置を用いて、15度から95度の角度で2θ/ωスキャンを行うことによって、膜の同定を行った。測定は、CuKα線を用いて行った。その結果、得られた膜は、κ―Ga
2O
3であった。なお、得られた結晶膜の鳥瞰SEM像を
図24に示す。また、また、
図25にEBSDの測定結果を示す。
図25から明らかなように、横方向成長部において3種類の面内回転ドメインが混在していることが分かる。これは、ストライプ平行方向への成長速度が赤色で示したドメイン群のものが最も速くなるようにストライプが配置されてはいるものの、「中心間距離qは、p×2/√3以上」の条件が満たされておらず、赤色ドメイン群が青、緑色ドメイン群を淘汰するのに十分な横方向成長距離(d2方向)が確保されていなかったためである。
【0070】
(比較例3)
サファイア基板上に実施例1と同じTiOxバッファ層を形成したのみでマスクは形成せずに結晶膜を形成したこと以外は、実施例1と同様にして結晶膜の成長を行った。得られた結晶膜につき、XRDによるκ-Ga
2O
3122回折のφスキャン測定を行った。結果を
図26示す。
図26から明らかなように、12本の同程度の強度のピークが観察され、3種類の面内回転ドメインが同じ割合で混在していることが分かる。
【0071】
(回転ドメイン含有率の評価)
実施例1、2および比較例1~3において得られた結晶膜につき、回転ドメインの含有率をEBSDの結果を用いて行った。具体的には、回転ドメインの含有率は、得られた結晶膜の表面側から測定した結果の画像から、150μm角四方の範囲における面内回転ドメインの面積の比率を算出することにより求めた。例えば、
図17の画像においては、160μm角四方の範囲における、3つの面内回転ドメインA、BおよびCの合計の面積に対する2つの面内回転ドメインBおよびCの合計の面積の比率を算出することにより、回転ドメインの含有率を求めた。結果を表1に示す。表1から明らかなように、実施例1および2において得られた結晶膜は、回転ドメインが大幅に低減されていることが分かる。
【0072】
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の製造方法を採用すれば、高品質な単一の面内配向を有する結晶膜、特に、(001)面配向したκ-Ga2O3の結晶膜が得られる。このような結晶膜は、ダイオード、トランジスタ(特に、HEMT)、紫外線検出素子等の各種半導体素子に適用され得る。また、κ-Ga2O3の結晶膜はその大きなバンドギャップ、優れた透光性から、半導体素子の中でも発光素子や電力用用途に有効である。
【符号の説明】
【0074】
1 基板(結晶基板)
2 バッファ層
3 マスク
4 窓
50 ハライド気相成長(HVPE)装置
51 反応室
52a ヒータ
52b ヒータ
53a ハロゲン含有原料ガス供給源
53b 金属含有原料ガス(金属ハロゲン化物ガス)供給管
54a 反応性ガス供給源
54b 反応性ガス供給管
55a 酸素含有原料ガス供給源
55b 酸素含有原料ガス供給管
56 基板ホルダ
57 金属源
59 ガス排出部
121a バンドギャップの広いn型半導体層
121b バンドギャップの狭いn型半導体層
121c n+型半導体層
124 半絶縁体層
125a ゲート電極
125b ソース電極
125c ドレイン電極
128 緩衝層
900 トランジスタ
920 ソース
930 ドレイン
940 チャネル
950 絶縁膜
960 ゲート電極
970a n+領域
970b n+領域
980a 電極
980b 電極
1000a 紫外線検出素子
1000b 紫外線検出素子
1010 結晶膜(結晶性酸化物膜)
1020 ショットキー電極
1030 オーミック電極
1040 基板(サファイア基板)