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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】水路に設置された水車システム
(51)【国際特許分類】
   F03B 7/00 20060101AFI20241204BHJP
   F03B 11/00 20060101ALI20241204BHJP
   F03B 15/14 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
F03B7/00
F03B11/00 A
F03B15/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018096273
(22)【出願日】2018-05-18
(65)【公開番号】P2018194002
(43)【公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-04-22
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2017099506
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517177143
【氏名又は名称】株式会社シグナス
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100107489
【弁理士】
【氏名又は名称】大塩 竹志
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】緒方 博幸
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】尾崎 和寛
【審判官】横山 幸弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-32731(JP,A)
【文献】米国特許第5430332(US,A)
【文献】米国特許第5882143(US,A)
【文献】特開2015-224559(JP,A)
【文献】特開平8-165631(JP,A)
【文献】特開2014-173527(JP,A)
【文献】特開2014-134199(JP,A)
【文献】特開2003-269315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 7/00
F03B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水路に設置された水車システムであって、
前記水路に設置され、位置が固定された水車と、
前記水車の上流側で前記水路に設置された堰き止め部材であって、前記堰き止め部材は、前記水路を流れる水の少なくとも一部を堰き止め、前記水路を流れる水の少なくとも一部を押しやって通過させるように構成されており、前記堰き止め部材は、前記水路を流れる水の少なくとも一部を押しやって通過させるための開口部を備え、前記堰き止め部材は、前記開口部を通過した水が前記水車を回転させるように配置されており、前記堰き止め部材は、前記水路を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積が調整されることが可能なように構成されている、堰き止め部材と、
前記水路を流れる水の量を検出する検出手段と、
前記検出手段によって検出された水の量に応じて、前記水路を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積を調整する調整手段と
を備え、前記調整手段は、前記堰き止め部材を通過する水の水位をほぼ一定に保つために、前記水路を流れる水の量が少なくなるにつれて前記水路を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積が大きくなり、かつ、前記開口部の面積が小さくなるように、前記水路を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積を調整する、水車システム。
【請求項2】
前記調整手段は、前記水路を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積を段階的に調整する、請求項に記載の水車システム。
【請求項3】
前記調整手段は、前記水路を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積を無段階的に調整する、請求項に記載の水車システム。
【請求項4】
前記堰き止め部材は、前記堰き止め部材に対してスライド可能な少なくとも1つのスライド部材を含み、
前記調整手段は、前記スライド部材をスライドさせる量を調整することにより、前記水路を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積を調整する、請求項1~のいずれか一項に記載の水車システム。
【請求項5】
前記検出手段は、前記水路を流れる水の水位を検出するように構成された水位計である、請求項1~のいずれか一項に記載の水車システム。
【請求項6】
前記水車の下流側で前記水路に設置された後部堰き止め部材をさらに備え、前記後部堰き止め部材は、前記後部堰き止め部材の下流側から逆流しようとする水の少なくとも一部を堰き止めるように構成されている、請求項1~のいずれか一項に記載の水車システム。
【請求項7】
前記後部堰き止め部材は、高さを調整することが可能なように構成されている、請求項に記載の水車システム。
【請求項8】
前記堰き止め部材と前記後部堰き止め部材との間に設置された側面部材をさらに備え、前記水車は、前記堰き止め部材と、前記側面部材と、前記後部堰き止め部材とによって包囲されている、請求項または請求項に記載の水車システム。
【請求項9】
前記水車は、前記水路の落差工に設置されている、請求項1~のいずれか一項に記載の水車システム。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の水車システムを用いて発電機を作動させることにより電力を発生させることと、
発生した電力のうちの少なくとも一部を販売することと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水路に設置された水車システムに関し、具体的には、水路を流れる水の量に依存せずに水車を効率的に回転させるための水車システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電装置は、水車に水流を衝突させて得られた回転力により発電機を作動させて発電する。特許文献1は、流量や流速が小さい河川、既設水路でも効率よく発電する水力発電装置を開示している。特許文献1は、流量や流速が小さい河川でも効率よく発電するために、水路フリュームに速度水頭を高めるための絞り部および必要最小限の落差円周隙間を設けることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-134199号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、水路を流れる水の量に依存せずに水車を効率的に回転させるための水車システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の水車システムは、水路に設置され、前記水車システムは、前記水路に設置された水車と、前記水車の上流側で前記水路に設置された堰き止め部材であって、前記堰き止め部材は、前記水路を流れる水の少なくとも一部を堰き止め、前記水路を流れる水の少なくとも一部を通過させるように構成されており、前記堰き止め部材は、前記堰き止め部材を通過した水が前記水車を回転させるように配置されており、前記堰き止め部材は、前記水路を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積が調整されることが可能なように構成されている、堰き止め部材とを備える
【0006】
本発明の一実施形態において、前記調整手段は、前記水路を流れる水の量が少なくなるにつれて前記水路を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積が大きくなるように、前記水路を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積を調整する。
【0007】
本発明の一実施形態において、前記調整手段は、前記堰き止め部材を通過する水の水位をほぼ一定に保つように、前記水路を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積を調整する。
【0008】
本発明の一実施形態において、前記調整手段は、前記水路を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積を段階的に調整する。
【0009】
本発明の一実施形態において、前記調整手段は、前記水路を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積を無段階的に調整する。
【0010】
本発明の一実施形態において、前記堰き止め部材は、前記堰き止め部材に対してスライド可能な少なくとも1つのスライド部材を含み、前記調整手段は、前記スライド部材をスライドさせる量を調整することにより、前記水路を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積を調整する。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記検出手段は、前記水路を流れる水の水位を検出するように構成された水位計である。
【0012】
本発明の一実施形態において、前記堰き止め部材は、前記堰き止め部材に対して取り外し可能な少なくとも1つの追加堰き止め部材を含む。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記堰き止め部材は、前記堰き止め部材に対してスライド可能な少なくとも1つのスライド部材を含む。
【0014】
本発明の一実施形態において、前記堰き止め部材は、凹形の形状を有する。
【0015】
本発明の一実施形態において、前記水車システムは、前記水車の下流側で前記水路に設置された後部堰き止め部材をさらに備え、前記後部堰き止め部材は、前記後部堰き止め部材の下流側から逆流しようとする水の少なくとも一部を堰き止めるように構成されている。
【0016】
本発明の一実施形態において、前記後部堰き止め部材は、高さを調整することが可能なように構成されている。
【0017】
本発明の一実施形態において、前記水車は、前記水路の落差工に設置されている。
【0018】
本発明の一実施形態において、前記堰き止め部材と前記後部堰き止め部材との間に設置された側面部材をさらに備え、前記水車は、前記堰き止め部材と、前記側面部材と、前記後部堰き止め部材とによって包囲されている。
【0019】
本発明は、本発明の水車システムを用いて発電機を作動させることにより電力を発生させることと、発生した電力のうちの少なくとも一部を販売することとを含む、方法も提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、水路を流れる水の量に依存せずに水車を効率的に回転させるための水車システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A】水路10に設置された水車20の概略図である。
図1B】堰き止め部材30の上流位置での水路10の断面図である。
図1C図1Aの水路10の横断方向中心線から得られた端面図である。
図2A】水路10に設置された本発明の水車システム100の概略図である。
図2B】堰き止め部材30の上流位置での水路10の断面図である。
図2C図2BのA-A’線から得られたA-A’端面図である。
図3A】水路10に設置された本発明の水車システム200の概略図である。
図3B】堰き止め部材30の上流位置での水路10の断面図である。
図3C図3BのA-A’線から得られたA-A’端面図である。
図4】本発明の水車システム200の構成の一例を示す図である。
図5】本発明の水車システム200による、水路10を流れる水の量に依存せずに水車を効率的に回転させるための手順の一例を示すフローチャートである。
図6】検出手段70が堰き止め部材30を通過する水の水位を検出することが可能である場合の、本発明の水車システム200による、水路10を流れる水の量に依存せずに水車を効率的に回転させるための手順の一例を示すフローチャートである。
図7】水車システム100において、水車20の下流側に後部堰き止め部材90を設置した場合の、横断方向中心線から得られた端面図である。
図8】落差工を有する水路10’の端面図である。
図9】落差工を有する水路10’の落差工に水車20を設置し、水車20の下流側に後部堰き止め部材90を設置した場合の、横断方向中心線から得られた端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0023】
1.水車を効率的に回転させるための水車システムの構成
図1Aは、水車を効率的に回転させるための水車システム100の構成を概略的に示す。
【0024】
水車システム100は、水路10に設置される。水車システム100は、水路10に設置された水車20と、水車10の上流側に設置された堰き止め部材30とを備える。
【0025】
水路10には、図1の矢印の方向に水が流れる。記載を簡単にするために、水路10は、その一部のみが示され、水車20は、単なる円柱として示されている。水路10は、水が流れる方向に連続し得、水車20は、複数の羽根を備え得る。
【0026】
水路10は、例えば、農業用水路であるが、水路10の用途はこれに限定されない。水路10は、水を流すことができる水路であれば足り、例えば工業用水路等の任意の用途に利用されることができる。
【0027】
水車20は、例えば、水力発電装置用水車であるが、水車20の用途はこれに限定されない。水車20は、水の流れのエネルギーを回転エネルギーに変換することができる水車であれば足り、例えば製粉等の任意の用途に利用されることができる。
【0028】
水車20は、どの位置に水を当てるかに依存して、水の流れのエネルギーを回転エネルギーに変換する効率が変化し得る。水車20には、より良い効率で水の流れのエネルギーを回転エネルギーに変換するために水を当てるべき好適位置が存在する。例えば、水車の中心を通る水平面よりも高い位置から落下した水が水車に当たる場合、好適位置は、水車の中心を原点として水平面から上側に30度~60度の位置であり、好ましくは、45度の位置である。例えば、水平方向に流れる水が水車に当たる場合、好適位置は、水車の中心を原点として水平面から下側に30度~60度の位置であり、好ましくは、45度の位置である。なお、上記角度は好適位置の例示であり、条件に応じて、他の任意の角度の位置が好適位置となり得る。
【0029】
水路10に設置された水車20の上流側には、堰き止め部材30が設置されている。堰き止め部材30は、水路10を流れる水の少なくとも一部を堰き止め、水路10を流れる水の少なくとも一部を通過させるように構成されている。堰き止め部材30は、例えば、図1Aに示されるような板状の部材であり得る。
【0030】
図1Bは、堰き止め部材30の上流位置での水路10の断面図であり、図1Cは、図1Aの水路10の横断方向中心線から得られた端面図である。図1Bでは、水車20は省略されている。
【0031】
図1Bに示されるように、堰き止め部材30は、凹形の形状を有し、水路10を流れる水の少なくとも一部を通過させるための開口部34が形成されている。堰き止め部材30が凹形の形状を有することにより、例えば、堰き止め部材30を通過する水の流速を速くすることができ、その結果、水車20の回転が速くなる。これにより、水車20が水力発電装置用水車である場合には、効率的な発電が可能になる。なお、堰き止め部材30は、水路10を流れる水の少なくとも一部を堰き止め、水路10を流れる水の少なくとも一部を通過させるように構成されている限り、凹形以外の任意の形状(例えば、円形、楕円形、矩形、コ字形、Π字形等)を有し得る。
【0032】
堰き止め部材30の開口部34の左右方向の幅は、任意の幅に形成され得るが、好ましくは、水車20の幅と同幅に形成される。堰き止め部材30の開口部34の幅を水車20の幅と同幅とすることにより、開口部34を通過する水を無駄なく水車20に当てることができ、効率的に水車20を回転させることができる。水車20が水力発電装置用水車である場合には、効率的な発電が可能になる。
【0033】
堰き止め部材30と水路10との接合部は、例えば、ゴム等の封止材料によって封止される。これにより、堰き止め部材30と水路10との間から水が漏れることを防止する。
【0034】
図1Cに示されるように、堰き止め部材の下流側には、例えば、鉄骨柱36が固定され、水路10にはスロープ38が設置される。このとき、鉄骨柱36とスロープ38とは、鉄骨柱36の側面とL型鉄板37とを溶接し、L型鉄板37とスロープ38とを溶接することによって接続される。あるいは、鉄骨柱36とスロープ38とは、鉄骨柱36の上面と平板鉄板とを溶接し、L型鉄板37とスロープ38とを溶接することによって接続されるようにしてもよい。なお、スロープ38は、その断面が任意の形状(例えば、直線状、曲線状、階段状等)であり得るが、好ましくは、曲線状であり得る。スロープ38は、断面形状が3次元的に変化する形状(例えば、曲面状)であってもよい。曲線状の断面形状は、例えば、円弧形状、楕円弧形状、放物線形状等であり得る。スロープ38は、断面形状が円弧形状であることが好ましく、水車に沿った円弧形状であることがさらに好ましい。
【0035】
堰き止め部材30を通過しようとする水は、堰き止め部材30によって堰き止められる水の分だけ、開口部34の方へ押しやられる。従って、堰き止め部材30を通過する水の水位は、堰き止め部材のない場所の水の水位よりも高くなる。
【0036】
堰き止め部材30に形成された開口部34は、豊水期に水路10を水が流れるとき、堰き止め部材30を通過する水が、水路10が溢れる前の水位(基準水位H)で堰き止め部材30を通過するように、大きさを定められている。例えば、堰き止め部材30を通過する水が、水路10が溢れる前の水位(基準水位H)で堰き止め部材30を通過するように、堰き止め部材30の左右端部分31、32の水平方向の幅が適切な幅に定められてもよい。例えば、堰き止め部材30を通過する水が、水路10が溢れる前の水位(基準水位H)を保って堰き止め部材30を通過するように、堰き止め部材30の中央部分33の高さが適切な高さに定められてもよい。ここで、基準水位Hは、例えば、水路10が溢れる場合の水位をHとしたときの、80%H≦H<100%H、好ましくは、95%Hであり得る。
【0037】
堰き止め部材30は、堰き止め部材30を通過した水が水車20を回転させるように、水車20の上流側に設置される。好ましくは、堰き止め部材30は、基準水位Hで堰き止め部材30を通過した水が水車20の好適位置に当たることにより水車20を回転させるように、水車20の上流側に設置される。これにより、水車20を効率的に回転させ、水の流れのエネルギーを回転エネルギーに効率的に変換することができる。
【0038】
渇水期になると、水路10を流れる水の量が減少する。これに伴い、水路10を流れる水の水位が下がり、堰き止め部材30を通過する水の水位も下がる。上述したように、堰き止め部材30は、堰き止め部材30を通過した水が水車20を回転させるように、水車20の上流側に設置されているため、堰き止め部材30を通過する水の水位が下がると、堰き止め部材30を通過した水がもたらす水車20の回転にも変化が生じる。特に、基準水位Hで堰き止め部材30を通過した水が水車20の好適位置に当たることにより水車20を回転させるように、堰き止め部材30が水車20の上流側に設置されている場合には、堰き止め部材30を通過する水の水位が下がると、堰き止め部材30を通過した水が好適位置で水車20に当たらなくなり、水のエネルギーの変換効率が低下してしまう。
【0039】
本発明の発明者は、水車システム100の代替構成として、渇水期に水路10を流れる水の量が減少した場合であっても、堰き止め部材30を通過した水による水車20の回転に影響を及ぼさず、水のエネルギーの変換効率を低下させない水車システム200を発明した。
【0040】
2.水車を効率的に回転させるための水車システムの代替構成
図2Aは、水車システム100の代替構成である水車システム200の構成を概略的に示し、図2Bは、堰き止め部材30の上流位置での水路10の断面図であり、図2Cは、図2BのA-A’線から得られたA-A’端面図である。図2A図2Cでは、図1に示される要素と同一の要素に同じ参照番号を付し、ここでは説明を省略する。
【0041】
水車システム200は、水路10に設置される。水車システム200は、水路10に設置された水車20と、水車10の上流側に設置された堰き止め部材30と、渇水期用堰き止め部材40、50とを備える。
【0042】
渇水期用堰き止め部材40、50は、堰き止め部材30の中央部分33の上方に設置者によって設置される。渇水期用堰き止め部材40、50は、水路10を流れる水の少なくとも一部を堰き止めるように構成されている。渇水期用堰き止め部材40、50は、例えば、図2Aに示されるような板状の部材であり得る。
【0043】
渇水期用堰き止め部材40は、例えば、渇水期用堰き止め部材40に取り付けられたL型金具(図示せず)を介して、堰き止め部材30に固定された鉄骨柱(図2Cには図示せず)にボルト等によって固定される。渇水期用堰き止め部材50は、渇水期用堰き止め部材50に取り付けられたL型金具(図示せず)を介して、渇水期用堰き止め部材40に取り付けられたL型金具(図示せず)にボルト等によって固定される。渇水期用堰き止め部材40、50に取り付けられたL型金具は、渇水期用堰き止め部材40、50の補強材としても役に立つ。
【0044】
堰き止め部材30と渇水期用堰き止め部材40との接合部、渇水期用堰き止め部材40と渇水期用堰き止め部材50との接合部は、図2Bおよび図2Cに示されるように、重なり合うことにより封止される。代替として、または、これに加えて、堰き止め部材30と渇水期用堰き止め部材40との接合部、渇水期用堰き止め部材40と渇水期用堰き止め部材50との接合部は、例えばゴム等の封止材料によって封止される。これにより、堰き止め部材30と渇水期用堰き止め部材40との間、および、渇水期用堰き止め部材40と渇水期用堰き止め部材50との間から水が漏れることを防止する。
【0045】
渇水期用堰き止め部材40、50は、水路10を流れる水が堰き止められる部分の面積を、堰き止め部材30単独の場合よりも大きくし、より多くの量の水を堰き止めることを可能にする。堰き止め部材30を通過しようとする水は、堰き止め部材30および渇水期用堰き止め部材40、50によって堰き止められる水の分だけ、開口部34の方へ押しやられる。従って、堰き止め部材30を通過する水の水位は、堰き止め部材のない場所の水の水位よりも高くなる。
【0046】
渇水期用堰き止め部材40、50は、堰き止め部材30を通過する水が基準水位Hで堰き止め部材30を通過するように、設置される。設置者は、水路10を流れる水の量に基づいて、設置すべき渇水期用堰き止め部材40、50の大きさまたは個数を決定する。例えば、水路10を流れる水の量が豊水期よりもわずかに減少した場合、設置者は、堰き止め部材30単独の場合よりもわずかに多くの量の水を堰き止めることができるように、渇水期用堰き止め部材40を1枚設置する。例えば、水路10を流れる水の量が豊水期よりも大幅に減少した場合、設置者は、堰き止め部材30単独の場合よりも大幅に多くの量の水を堰き止めることができるように、より大きな渇水期用堰き止め部材40を設置するかまたは、複数の渇水期用堰き止め部材40、50を設置する。
【0047】
水路10を流れる水の量に応じた大きさまたは個数の渇水期用堰き止め部材を設置することで、渇水期に水路10を流れる水の量が減少した場合であっても、堰き止め部材30を通過する水の水位は基準水位Hにほぼ一定に保たれる。これにより、渇水期に水路10を流れる水の量が減少した場合であっても、水車20の回転に影響を及ぼさず、水のエネルギーの変換効率の低下を回避することができる。なお、本明細書では、「ほぼ一定」は、±10%の範囲を含む。
【0048】
図2A図2Cに示される水車システム200では、設置者が適切な渇水期用堰き止め部材40、50を設置することによって、渇水期に水路10を流れる水の量が減少した場合であっても、堰き止め部材30を通過する水の水位が基準水位Hにほぼ一定に保たれることを説明したが、設置者の代わりに、装置が渇水期用堰き止め部材を適切に移動させることによって、渇水期に水路10を流れる水の量が減少した場合であっても、堰き止め部材30を通過する水の水位が基準水位Hにほぼ一定に保たれるようにする代替構成も本発明の範囲内である。
【0049】
図3Aは、水車システム100、200の代替構成である水車システム300を概略的に示し、図3Bは、堰き止め部材30の上流位置での水路10の断面図であり、図3Cは、図3BのA-A’線から得られたA-A’端面図である。図3A図3Cでは、図1図2に示される要素と同一の要素に同じ参照番号を付し、ここでは説明を省略する。
【0050】
水車システム300は、水路10に設置される。水車システム300は、水路10に設置された水車20と、水車10の上流側に設置された堰き止め部材30と、スライド部材60と、水路10を流れる水の量を検出することが可能な検出手段70と、スライド部材60をスライドさせる量を調整する調整手段80とを備える。
【0051】
スライド部材60は、堰き止め部材30の中央部分33の上部に上下方向にスライド可能に取り付けられている。スライド部材60によるスライドは、段階的であってもよいし、無段階的であってもよい。スライド部材60は、水路10を流れる水の少なくとも一部を堰き止めるように構成されている。スライド部材60は、例えば、図3Aに示されるような板状の部材であり得る。
【0052】
スライド部材60は、第1のスライド部材61と、第2のスライド部材62とを備え、第1のスライド部材61は、堰き止め部材30に上下方向にスライド可能に取り付けられ、第2のスライド部材62は、第1のスライド部材61に上下方向にスライド可能に取り付けられている。なお、図3に示される例では、スライド部材60が2枚のスライド部材61、62を備えるように描写されるが、スライド部材60の数はこれに限定されない。スライド部材60の数は、1以上の任意の数であり得る。
【0053】
スライド部材60は、堰き止め部材30に対して上方向にスライドすることにより、水路10を流れる水が堰き止められる部分の面積を、堰き止め部材30単独の場合よりも大きくし、より多くの量の水を堰き止めることを可能にする。堰き止め部材30を通過しようとする水は、堰き止め部材30およびスライド部材60よって堰き止められる水の分だけ、開口部34の方へ押しやられる。従って、堰き止め部材30を通過する水の水位は、堰き止め部材のない場所の水の水位よりも高くなる。
【0054】
水車システム300は、堰き止め部材30を通過する水が基準水位Hで堰き止め部材30を通過するように、水路10を流れる水を堰き止める面積を調整することができる。水車システム300は、検出手段70によって検出された水路10を流れる水の量に基づいて、調整手段80を用いて、水路10を流れる水を堰き止める面積を調整する。例えば、検出手段70によって検出された水の量が豊水期の水の量よりも減少したことを検出したとき、調整手段80は、スライド部材60を上方向にスライドさせて、水路10を流れる水を堰き止める面積を増加させることにより、より多くの量の水を堰き止めることができるようにする。例えば、水路10を流れる水の量が渇水期よりも増加したことを検出したとき、調整手段80は、スライド部材60を下方向にスライドさせて、水路10を流れる水を堰き止める面積を減少させることにより、より少ない量の水を堰き止めるように、あるいは、水をもはや堰き止めないようにする。これにより、水の水位が、水路10が溢れる場合の水位Hを越えることを防ぐことができる。
【0055】
本発明のシステム300において、検出手段70による水路10を流れる水の量の検出、および、調整手段80によるスライド部材60をスライドさせる量の調整が行われるタイミングは問わない。検出手段70による検出および調整手段80による調整は、任意のタイミングで行われ得る。例えば、検出手段70が常に水路10を流れる水の量の検出し、調整手段80が常にスライド部材60をスライドさせる量を調整するようにしてもよい。例えば、周期的(例えば、1分おき、10分おき、1時間おき、12時間おき、24時間おき、1週間おき等)に検出手段70による検出および調整手段80による調整を行ってもよい。
【0056】
水路10を流れる水の量に応じてスライド部材60を上下方向にスライドさせて、水路10を流れる水を堰き止める面積を調整することで、渇水期に水路10を流れる水の量が減少した場合であっても、あるいは、豊水期に水路を流れる水の量が増加した場合であっても、堰き止め部材30を通過する水の水位はほぼ一定に基準水位Hに保たれる。これにより、渇水期に水路10を流れる水の量が減少した場合であっても、あるいは、豊水期に水路を流れる水の量が増加した場合であっても、水車20の回転に影響を及ぼさず、水のエネルギーの変換効率の低下を自動的に回避することができる。
【0057】
図4は、本発明の水車システム300の詳細な構成の一例を示す。
【0058】
上述したとおり、本発明の水車システム300は、水路に設置された水車20と、水車20の上流側に設置された堰き止め部材30と、少なくとも1つのスライド部材60と、検出手段70と、調整手段80とを備える。
【0059】
検出手段70は、水路10を流れる水の量を検出することが可能な任意の手段である。検出手段70は、検出した水の量を表す信号を出力することが可能である。検出手段70による出力は、調整手段80に供給される。検出手段70は、例えば、水位計である。水位計は、水路10を流れる水の量の指標として、水路10を流れる水の水位を検出する。
【0060】
検出手段70は、検出手段70によって検出された水路10を流れる水の量に基づいて調整手段80が水路10を流れる水を堰き止める面積を調整することが可能である限り、水路10の任意の位置に配置されることができる。検出手段70は、好ましくは、堰き止め部材30の近傍に配置される。検出手段70は、例えば、堰き止め部材30上に配置されるようにしてもよい。
【0061】
調整手段80は、水路10を流れる水を堰き止める面積を調整することが可能な任意の手段である。例えば、調整手段80は、スライド部材60をスライドさせる量を調整することが可能な手段である。調整手段80は、例えば、受信部81と、メモリ部82と、プロセッサ部83と、駆動部84とを備える。
【0062】
受信部81は、検出した水の量を表す信号を検出手段70から受信する。受信部81は、検出手段70からの信号を有線で受信してもよいし、無線で受信してもよい。
【0063】
メモリ部82には、調整手段80による処理の実行に必要とされるプログラムやそのプログラムの実行に必要とされるデータ等が格納されている。メモリ部82には、例えば、水路10の特定の水の量に対応する最適な水の堰き止め面積を記憶したルックアップテーブルが格納されるようにしてもよい。最適な水の堰き止め面積は、例えば、スライド部材60の最適なスライド量であってもよい。メモリ部82は、任意の記憶手段によって実装され得る。
【0064】
プロセッサ部83は、調整手段80全体の動作を制御する。プロセッサ部83は、メモリ部82に格納されているプログラムを読み出し、そのプログラムを実行し、調整手段80を所望のステップを実行する装置として機能させることも可能である。
【0065】
駆動部84は、スライド部材60が段階的または無段階的にスライドするようにスライド部材60を駆動する。駆動部84は、任意の手段でスライド部材60を駆動することができる。駆動部84は、例えばモータの回転力等で機械的にスライド部材60を駆動するようにしてもよい。駆動部84は、例えば、電力、磁力、気圧、液圧等でスライド部材60を駆動するようにしてもよい。
【0066】
3.水車システム300における処理
図5は、本発明の水車システム300における、水路10を流れる水の量に依存せずに水車を効率的に回転させるための処理の手順の一例を示す。
【0067】
ステップS501では、検出手段70が、水路10を流れる水の量を検出する。検出手段70は、検出された水の量を表す信号を調整手段80に出力する。調整手段80の受信部81は、検出手段70から信号を受信する。
【0068】
ステップS502では、調整手段80のプロセッサ部83が、検出された水の量に基づいて、水路10を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積を決定する。例えば、プロセッサ部83は、メモリ部82に格納されたルックアップテーブルを参照することによって、検出された水の量に対応するスライド部材60の最適なスライド量を決定し、これにより、水路10を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積を決定してもよい。
【0069】
ステップS503では、ステップS502で決定された水路10を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積となるように、調整手段80が、水路10を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積を調整する。これは、例えば、ステップS502で決定された水路10を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積となるように、調整手段80の駆動部84が、スライド部材60のスライド量を調整することによって、達成される。
【0070】
ステップS501~ステップS503により、堰き止め部材30を通過する水の水位はほぼ一定に基準水位Hに保たれ、水路10を流れる水の量に依存せずに水車を効率的に回転させることができる。
【0071】
図6は、検出手段70が堰き止め部材30を通過する水の水位を検出することが可能である場合の、本発明の水車システム300における、水路10を流れる水の量に依存せずに水車を効率的に回転させるための処理の手順の一例を示す。検出手段70が堰き止め部材30を通過する水の水位を検出することが可能である場合、水車システム300は、水路10を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積をフィードバック制御することが可能である。
【0072】
ステップS601では、検出手段70が、水路10を流れる水の量として、堰き止め部材30を通過する水の水位を検出する。検出手段70は、検出された堰き止め部材30を通過する水の水位を表す信号を調整手段80に出力する。調整手段80の受信部81は、検出手段70から信号を受信する。
【0073】
ステップS602では、調整手段80のプロセッサ部83が、検出された堰き止め部材30を通過する水の水位が、基準水位Hよりも大きいか否かを判定する。堰き止め部材30を通過する水の水位が基準水位Hよりも大きいと判定された場合は、ステップS603に進む。堰き止め部材30を通過する水の水位が基準水位H以下であると判定された場合は、ステップS604に進む。
【0074】
ステップS603では、基準水位Hよりも大きいと判定された堰き止め部材30を通過する水の水位を下げるために、調整手段80が、水路10を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積が小さくなるように、水路10を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積を調整する。これは、例えば、調整手段80の駆動部84が、スライド部材60を所定の量だけ下方向にスライドさせることによって、達成される。ステップS603の後、手順は、ステップS601に戻り、再び堰き止め部材30を通過する水の水位が検出される。
【0075】
ステップS604では、調整手段80のプロセッサ部83が、検出された堰き止め部材30を通過する水の水位が、基準水位Hよりも小さいか否かを判定する。堰き止め部材30を通過する水の水位が基準水位Hよりも小さいと判定された場合は、ステップS605に進む。堰き止め部材30を通過する水の水位が基準水位Hであると判定された場合は、水路10を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積を調整する必要はないため、手順は終了する。
【0076】
ステップS605では、基準水位Hよりも小さいと判定された堰き止め部材30を通過する水の水位を上げるために、調整手段80が、水路10を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積が大きくなるように、水路10を流れる水の少なくとも一部を堰き止める面積を調整する。これは、例えば、調整手段80の駆動部84が、スライド部材60を所定の量だけ上方向にスライドさせることによって、達成される。ステップS605の後、手順は、ステップS601に戻り、再び堰き止め部材30を通過する水の水位が検出される。
【0077】
ステップS601~ステップS605のフィードバック制御により、堰き止め部材30を通過する水の水位はほぼ一定に基準水位Hに保たれ、水路10を流れる水の量に依存せずに水車を効率的に回転させることができる。
【0078】
4.水車を効率的に回転させるための水車システムのさらなる代替構成
上述した例では、スライド部材60をスライドさせることにより、水路10を流れる水が堰き止められる部分の面積を調整する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明では、水路10を流れる水が堰き止められる部分の面積を調整することができる限り、スライド部材60の代わりに、任意の手段を用いることができる。
【0079】
上述した例では、水路10を流れる水の量に依存せずに堰き止め部材30を通過した水が水車20の好適位置に当たるように、水路10を流れる水が堰き止め部材30の位置で堰き止められる部分の面積を調整する例を説明した。これに代えて、水路10を流れる水の量に依存せずに堰き止め部材30を通過した水が水車20の好適位置に当たるように、水車20の位置を調整することも本発明の範囲内である。例えば、水路10に段差または傾斜が存在することにより、水路10の深さが流れ方向に一様ではなく、水車20が設置される位置での水路10の深さが堰き止め部材30が設置される位置での水路10の深さよりも大きい場合、水車20の垂直方向位置を調整することができる。例えば、水路10を流れる水の量が増加すると、堰き止め部材30を通過する水の水位が上昇するため、水位の上昇に合わせて水車20の位置も上昇させることにより、堰き止め部材30を通過した水が水車20の好適位置に当たるようにすることができる。例えば、水路10を流れる水の量が減少すると、堰き止め部材30を通過する水の水位が下降するため、水位の下降に合わせて水車20の位置も下降させることにより、堰き止め部材30を通過した水が水車20の好適位置に当たるようにすることができる。
【0080】
上述した水車システムにおいて、水車の下流側に後部堰き止め部材を設置することも本発明の範囲内である。後部堰き止め部材は、後部堰き止め部材の下流側から逆流しようとする水の少なくとも一部を堰き止めるように構成されている部材である。水車の下流側に後部堰き止め部材を設置することにより、水車をさらに効率的に回転させることができるようになる。
【0081】
図7は、上述した水車システム100において、水車20の下流側に後部堰き止め部材90を設置した場合の、横断方向中心線から得られた端面図である。図7では、図1に示される要素と同一の要素に同じ参照番号を付し、ここでは説明を省略する。なお、図7では、水車システム100において水車20の下流側に後部堰き止め部材90を設置することが説明されるが、上述した水車システム200、300でも同様の後部堰き止め部材90を水車20の下流側に設置することができる。
【0082】
後部堰き止め部材90は、後部堰き止め部材90の下流側から逆流しようとする水の少なくとも一部を堰き止めるように構成されている。図7に示される例では、後部堰き止め部材90は、後部堰き止め部材90の下流側(図7の右側)の水の少なくとも一部が水車20まで逆流し水車20の下流側の水位が水車20まで及ぶことを妨げるように、後部堰き止め部材90の下流側の水の少なくとも一部を堰き止める。
【0083】
水路10の水は、絶えず流れている場合であっても、いくらか水位を有している。これは、水車20の下流側でも同様である。水車20の下流側で水車20が水に浸かるほどの水位の場合には、水路10の水が流れていたとしても、水路10の水が抵抗となり得、水車20の回転を阻害してしまう場合があるが、水車20の下流側に後部堰き止め部材90を設置することにより、後部堰き止め部材90の下流側の水の少なくとも一部が水車20まで逆流し水車20の下流側の水位が水車20まで及ぶことを妨げ、水車が水に浸かってしまうことを防止することができる。これにより、水車をさらに効率的に回転させることができる。
【0084】
後部堰き止め部材90は、例えば、図7に示されるように、その上流側にスロープ状の面を有する。スロープ状の面は、その断面が任意の形状(例えば、直線状、曲線状、階段状等)であり得るが、好ましくは、曲線状であり得る。スロープ状の面は、断面形状が3次元的に変化する形状(例えば、曲面状)であってもよい。曲線状の断面形状は、例えば、円弧形状、楕円弧形状、放物線形状等であり得る。スロープ状の面は、断面形状が円弧形状であることが好ましく、図7に示されるような水車に沿った円弧形状であることがさらに好ましい。
【0085】
後部堰き止め部材90の高さは、後部堰き止め部材90の下流側の水位以上であることが好ましい。後部堰き止め部材90の下流側の水が一切水車20まで逆流しなくなるからである。しかしながら、高すぎる後部堰き止め部材90は、水車20が、水路10を流れる水を下流側に押し出すことを妨げてしまうため、好ましくない。後部堰き止め部材90の好ましい高さは、例えば、後部堰き止め部材90の下流側の水位をHとすると、100%H~120%Hの範囲内であり得、例えば、110%Hであり得る。なお、後部堰き止め部材90の高さが後部堰き止め部材90の下流側の水位よりも低い場合(例えば、90%H、80%H、70%H、60%H等)であっても、多少の水が堰き止められるため、後部堰き止め部材90がない場合と比べて、水車20が水に浸かる程度を軽減することが可能である。
【0086】
後部堰き止め部材90は、例えば、単一の部材で構成されてもよいし、図7に示されるように、複数の部材で構成されてもよい。図7に示される例では、後部堰き止め部材90が、4つの部材91、92、93、94で構成される例が示されているが、後部堰き止め部材90を構成する部材の数は、これに限定されない。後部堰き止め部材90は、任意の数の部材によって構成され得る。
【0087】
後部堰き止め部材90が複数の部材で構成される場合には、設置される部材の数を調整することにより、後部堰き止め部材90の高さを調整することが可能である。例えば、渇水期に水路10を流れる水の量が減少する場合には、水位の低下に合わせて、設置される部材の数を減らすことにより、後部堰き止め部材90の高さを低くする。これにより、後部堰き止め部材90の好ましい高さを達成する。例えば、豊水期に水路10を流れる水の量が増加する場合には、水位の上昇に合わせて、設置される部材の数を増やすことにより、後部堰き止め部材90の高さを高くする。これにより、後部堰き止め部材90の好ましい高さを達成する。後部堰き止め部材90を構成する複数の部材の各々を低く構成するほど、後部堰き止め部材90の高さを細かく調整することが可能になる。一実施形態では、後部堰き止め部材90を構成する複数の部材の各々は、例えば、200mmの高さを有する箱型部材であり得る。別の実施形態では、後部堰き止め部材90を構成する複数の部材の各々は、例えば、100mmの高さを有する箱型部材であり得る。別の実施形態では、後部堰き止め部材90を構成する複数の部材の各々は、例えば、それぞれ異なる高さを有する部材であり得る。
【0088】
後部堰き止め部材90は、水路10の両壁間にわたって延在するよう設置されてもよいし、水路10の両壁間の一部に延在するように設置されてもよい。水路10の両壁間の一部に延在するように設置される場合は、側面部材を設置することが好ましい。側面部材は、堰き止め部材30と、後部堰き止め部材90との間で、水車20の側方に設置される。側面部材は、例えば、板状の部材であり得る。
【0089】
このとき、水車20は、堰き止め部材30と、側面部材と、後部堰き止め部材90とによって包囲されることになる。側面部材が水車20の両側に設置される場合には、水車20は、水車20の上流側の堰き止め部材30と、水車20の両側の側面部材と、水車20の下流側の後部堰き止め部材90とによって画定される箱によって包囲され得る。側面部材が水車20の片側に設置される場合には、水車20は、水車20の上流側の堰き止め部材30と、水車20の片側の側面部材と、側面部材とは反対側の水路壁と、水車20の下流側の後部堰き止め部材90とによって画定される箱によって包囲され得る。水車20を包囲することにより、水車20の側方および下流側から水が水車の位置に進入することを防止することがで、水車が水に浸かってしまうことを確実に防止することができる。これにより、水車をさらに効率的に回転させることができる。また、後部堰き止め部材90が水路10の両壁間の一部(例えば、両側の側面部材間、または、水路壁と片側の側面部材との間)のみに延在するように、後部堰き止め部材90の幅を短くすることができるため、本発明の水車システム全体をよりコンパクトにすることができる。
【0090】
図8に示されるような落差工を有する水路10’では、落差工下に水が溜まってしまうため、水車の下流側の水が水車の回転を阻害することが起こりやすい。落差工は、水路において水が流れ落ちるよう段になっている場所であり、流れ落ちる水の勢いで水路を破壊しないように、落差工下の水深Dは、下流の場所の水深Dに比べて深くなっている。ここで、破線Wは、仮想の水位を示している。落差工に水車を設置すると、水車の上流側の水位をより高くすることができ、より容易に高い位置から水車に水を当てることができる一方で、深くなった落差工下に水が溜まってしまう。このときも、図7を参照して上述した例と同様に、水車の下流側に後部堰き止め部材を設置することにより、後部堰き止め部材90の下流側の水が水車まで逆流することを妨げ、水車が水に浸かってしまうことを防止することができる。これにより、水車をさらに効率的に回転させることができる。
【0091】
図9は、落差工を有する水路10’の落差工に水車20を設置し、水車20の下流側に後部堰き止め部材90を設置した場合の、横断方向中心線から得られた端面図である。水車20の上流側には、上述した水車システム100、200、300と同様の堰き止め部材30およびスロープ38が設置されている。
【0092】
後部堰き止め部材90は、後部堰き止め部材90の下流側から逆流しようとする水の少なくとも一部を堰き止めるように構成されている。図9に示される例では、後部堰き止め部材90は、後部堰き止め部材90の下流側(図9の右側)の水の少なくとも一部が水車20まで逆流することを妨げるように、後部堰き止め部材90の下流側の水の少なくとも一部を堰き止める。
【0093】
後部堰き止め部材90は、例えば、図9に示されるように、その上流側にスロープ状の面を有する。スロープ状の面は、その断面が任意の形状(例えば、直線状、曲線状、階段状等)であり得るが、好ましくは、曲線状であり得る。スロープ状の面は、断面形状が3次元的に変化する形状(例えば、曲面状)であってもよい。曲線状の断面形状は、例えば、円弧形状、楕円弧形状、放物線形状等であり得る。スロープ状の面は、断面形状が円弧形状であることが好ましく、図7に示されるような水車に沿った円弧形状であることがさらに好ましい。
【0094】
後部堰き止め部材90の高さは、後部堰き止め部材90の下流側の水位以上であることが好ましい。後部堰き止め部材90の下流側の水が一切水車まで逆流しなくなり、水車20の位置に水が溜まらなくなるからである。しかしながら、高すぎる後部堰き止め部材90は、水車20が、水路10’を流れる水を水車20下流側に押し出すことを妨げてしまうため、好ましくない。後部堰き止め部材90の好ましい高さは、例えば、水車20の下流側の水位をHとすると、100%H~120%Hの範囲内であり得、例えば、110%Hであり得る。なお、後部堰き止め部材90の高さが水車20の下流側の水位よりも低い場合(例えば、90%H、80%H、70%H、60%H等)であっても、多少の水が堰き止められるため、後部堰き止め部材90がない場合と比べて、水車20の位置に水が溜まる程度を軽減し、水車20水に浸かる程度を軽減することが可能である。
【0095】
後部堰き止め部材90は、例えば、単一の部材で構成されてもよいし、図9に示されるように、複数の部材で構成されてもよい。図9に示される例では、後部堰き止め部材90が、4つの部材91、92、93、94で構成される例が示されているが、後部堰き止め部材90を構成する部材の数は、これに限定されない。後部堰き止め部材90は、任意の数の部材によって構成され得る。
【0096】
後部堰き止め部材90が複数の部材で構成される場合には、設置される部材の数を調整することにより、後部堰き止め部材90の高さを調整することが可能である。例えば、渇水期に水路10’を流れる水の量が減少する場合には、水位の低下に合わせて、設置される部材の数を減らすことにより、後部堰き止め部材90の高さを低くする。これにより、後部堰き止め部材90の好ましい高さを達成する。例えば、豊水期に水路10’を流れる水の量が増加する場合には、水位の上昇に合わせて、設置される部材の数を増やすことにより、後部堰き止め部材90の高さを高くする。これにより、後部堰き止め部材90の好ましい高さを達成する。後部堰き止め部材90を構成する複数の部材の各々を低く構成するほど、後部堰き止め部材90の高さを細かく調整することが可能になる。一実施形態では、後部堰き止め部材90を構成する複数の部材の各々は、例えば、200mmの高さを有する箱型部材であり得る。別の実施形態では、後部堰き止め部材90を構成する複数の部材の各々は、例えば、100mmの高さを有する箱型部材であり得る。別の実施形態では、後部堰き止め部材90を構成する複数の部材の各々は、例えば、それぞれ異なる高さを有する部材であり得る。
【0097】
後部堰き止め部材90は、水路10’の両壁間にわたって延在するよう設置されてもよいし、水路10’の両壁間の一部に延在するように設置されてもよい。水路10’の両壁間の一部に延在するように設置される場合は、上述した側面部材を、堰き止め部材30と、後部堰き止め部材90との間で、水車20の側方に設置することが好ましい。
【0098】
なお、上述した例では、堰き止め部材30を備える水車システム100、200、300が後部堰き止め部材90を備え得ることを説明したが、堰き止め部材30を備えない水車システムにおいて、後部堰き止め部材90を備えることもまた、本発明の範囲内である。
【0099】
従来の水車を設置する際には、効率的に水車を回転させるための落差を有する水路を新設したり、既存の水路に落差を付けるための工事をしたりする必要がある。これに対し、本発明の水車システムは、例えば水車設置を目的としていない既存の水路であっても、水路に負担をかけることなく設置することができる。本発明の水車システムでは、水車の上流側に堰き止め部材を設置するだけで、効率的に水車を回転させることが可能であり、効率的に水車を回転させるための落差を付けるよう水路自体を工事する必要がないからである。また、水路の外側に基礎を設置し、基礎に支持された水車を水路に沈めることにより水車を設置するようにすることでも、水路自体の工事が不要となる。本発明の水車システムは、水路自体の工事が不要であり、かつ、水路の水を止めることなく設置することができるため、設置のための負担およびコストを低減することができる。
【0100】
このような本発明の水車システムは、例えば、発電および売電のビジネスに用いることができる。
【0101】
水車システムの水車に発電機を接続し、水車の回転エネルギーで発電機を作動させることにより、電力を発生させることができる。発生した電力は、消費者に販売される。販売の態様は問わない。例えば、発生した電力は、水車システムに接続された送電網を通じて、変電所に送電され、適切な電圧に変圧された後に消費者に配電されてもよい。例えば、発生した電力は、水車システムに接続された配電網を通じて直接消費者に配電されてもよい。例えば、発生した電力は、水車システムに接続された蓄電システムに蓄積され、蓄積された電力が消費者に配送されてもよい。
【0102】
代替として、発生した電力は、例えば、消費者に販売されずに、水車システムが設置されている現場で消費されるようにしてもよい。
【0103】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、水路を流れる水の量に依存せずに水車を効率的に回転させるための水車システムを提供するものとして有用である。
【符号の説明】
【0105】
10、10’ 水路
20 水車
30 堰き止め部材
40、50 渇水期用堰き止め部材
60 スライド部材
70 検出手段
80 調整手段
90 後部堰き止め部材
100、200、300 水車システム
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9