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特許7598143製紙工程における紙力増強剤の効果向上方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】製紙工程における紙力増強剤の効果向上方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/18 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
D21H21/18
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021073398
(22)【出願日】2021-04-23
(65)【公開番号】P2022167545
(43)【公開日】2022-11-04
【審査請求日】2024-03-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】藤槻 薫麗
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特許第5621082(JP,B2)
【文献】特開2005-068587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニウム塩及びアルカリ剤を含む第一組成物とハロゲン系酸化剤とを混合する、又は、
ハロゲン系酸化剤及びアルカリ剤を含む第二組成物とアンモニウム塩とを混合する、
ことを特徴とする紙力増強剤の効果向上用組成物の製造方法。
【請求項2】
アンモニウム塩は、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、臭化アンモニウム及びスルファミン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ハロゲン系酸化剤は、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩及び二酸化塩素からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
ハロゲン系酸化剤とアンモニウム塩とのモル比(ハロゲン系酸化剤:アンモニウム塩)は、残留塩素量と窒素とのモル比として1:1~1:2である請求項1、2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
第一組成物のpHが、4.5~8.5である請求項1、2、3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
アンモニウム塩及びアルカリ剤を含む第一組成物とハロゲン系酸化剤とを混合する、又は、
ハロゲン系酸化剤及びアルカリ剤を含む第二組成物とアンモニウム塩とを混合する、
ことにより生成される紙力増強剤の効果向上用組成物。
【請求項7】
ハロゲン系酸化剤とアンモニウム塩とのモル比(ハロゲン系酸化剤:アンモニウム塩)は、残留塩素量と窒素とのモル比として1:1~1:2である請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
製紙工程における紙力増強剤の効果向上方法であって、
製紙工程水に、請求項6又は7に記載の紙力増強剤の効果向上用組成物を添加する組成物添加工程と、紙力増強剤を添加する紙力増強剤添加工程とを有し、
前記組成物と前記紙力増強剤とは接触するものである
ことを特徴とする紙力増強剤の効果向上方法。
【請求項9】
紙力増強剤の効果向上用組成物と、紙力増強剤とが接触する際の前記組成物の接触濃度が、0.1~35mg/Lである請求項に記載の紙力増強剤の効果向上方法。
【請求項10】
組成物添加工程後の製紙工程水中の残留塩素濃度が、0.1~35mg/Lである請求項又はに記載の紙力増強剤の効果向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製紙工程における紙力増強剤の効果向上方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、製紙工場では紙に強度を付与する紙力増強剤が使用されている。
近年、製紙工場では古紙の使用比率の増加により古紙由来の短繊維が含まれた紙力強度の弱い原料パルプが使用されている。また、古紙の使用により、抄紙白水中に含まれる金属イオンが抄紙系内の電気伝導度を上昇させ、原料パルプへ添加される紙力増強剤の効果を発揮しにくくしている。このような環境下で、紙力増強剤の効果を向上させる必要が生じているが、紙力増強剤の添加量を多くすることは水質の悪化を招き、環境上好ましくない。
【0003】
また、ティッシュペーパー、洋紙、包装紙等の原料としては、主に針葉樹パルプや広葉樹パルプ等のバージンパルプが用いられるが、最終シートの紙力を保つためには、紙力増強の対策が必要となる。そのため、原料として古紙を用いない場合においても紙力増強剤は用いられており、環境面から、紙力増強剤の添加量を増やすことなく、その効果を向上させる必要が生じている。
【0004】
ここで、紙力増強剤の添加量を低減させる方法としては、例えば、特許文献1に、古紙を主原料とする板紙の製造におけるパルプ化工程水に、次亜塩素酸ナトリウム水溶液のような次亜塩素酸塩の水溶液と硫酸アンモニウム水溶液のような水溶性の無機アンモニウム塩の水溶液またはアンモニア水とを添加することにより、調成工程における紙力増強剤の添加量を効果的に低減できる方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、紙の製造工程における澱粉の分解を抑制し、紙製品の強度劣化の生じない紙の製造方法を提供することが開示されている。具体的に、古紙が配合されている紙の製造方法において、(1)連続的又は間欠的に水質測定を行う工程、(2)前記(1)工程で得られた水質測定結果に基づいて澱粉分解能を有する微生物を不活化させる工程を含むことが開示されている。さらに、微生物を不活化させうる薬剤として、各種抗菌剤が開示されている。特許文献3にも、古紙やブロークパルプや内添の澱粉等を栄養源として微生物汚染が進行し、澱粉分解は紙製品の強度劣化を招くため、原料に対し酸化作用を有する殺菌剤を添加することで、微生物汚染による障害を制御することが開示されている。
【0006】
なお、製紙工程の原料を殺菌する方法としては、例えば、特許文献4には、製紙工程の白水ラインに流入するように(a)次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加ポイントおよび(b)硫酸アンモニウム水溶液の添加ポイントの順に有効成分の添加ポイントが設けられた希釈水ラインの希釈水に、(a)成分と(b)成分とを添加して、前記希釈水ライン中で(a)成分と(b)成分との混合水溶液を調製すること、及び、上記混合水溶液のpHが8以上であることが開示されている。しかし、本文献には、紙力増強剤の効果を向上させる方法については開示されていない。
【0007】
また、特許文献5には、紙力増強剤の効果向上方法が開示されており、製紙工程水に酸化剤(ハロゲンを含有する酸化剤及び/又は過酸化水素)を添加する工程と紙力増強剤を添加する工程とを有し、上記酸化剤と上記紙力増強剤が特定の濃度で接触することで、上記紙力増強剤の効果を向上する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5621082号公報
【文献】特開2010-100945号公報
【文献】特開2011-226043号公報
【文献】特許第4914146号公報
【文献】特許第6664627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1では、調成工程で添加される紙力増強剤の添加量を低減させるためにパルプ化工程のパルプ化工程水に薬剤を添加することが開示されている。また、上記特許文献2及び3には、紙の製造工程で微生物による澱粉分解を抑制するために酸化剤等の抗菌剤を添加することで、微生物障害の一種である紙力低下を防止できることが開示されている。これらはいずれも、紙力増強剤を添加する前の製紙工程水に対し薬剤を添加するものであり、紙力増強剤の効果自体を向上させるものではなかった。
また、製紙工程の原料を殺菌する方法が開示されている上記特許文献4にも紙力増強剤自体の効果を向上させる方法は開示されていなかった。
【0010】
また、特許文献5は、紙力増強剤の効果向上方法に関する発明が開示されているが、紙力増強剤自体の効果を向上させる方法やそのような組成物についてはさらに検討の余地があった。
【0011】
本発明は、製紙工程で使用される紙力増強剤の効果向上用組成物の製造方法、紙力増強剤の効果向上用組成物、及び、紙力増強剤の効果向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、製紙工程で添加される紙力増強剤に、特定の製造方法により製造されたモノクロラミン及び/又はモノブロラミンを接触させることで、紙力増強剤の効果が大きく向上するという事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、アンモニウム塩及びアルカリ剤を含む第一組成物とハロゲン系酸化剤とを混合する、又は、ハロゲン系酸化剤及びアルカリ剤を含む第二組成物とアンモニウム塩とを混合することを特徴とする紙力増強剤の効果向上用組成物の製造方法である。
アンモニウム塩は、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、臭化アンモニウム及びスルファミン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
ハロゲン系酸化剤は、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩及び二酸化塩素からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
ハロゲン系酸化剤とアンモニウム塩とのモル比は、残留塩素量と窒素とのモル比として1:1~1:2であることが好ましい。
第一組成物のpHが、4.5~8.5であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、アンモニウム塩及びアルカリ剤を含む第一組成物とハロゲン系酸化剤とを混合する、又は、ハロゲン系酸化剤及びアルカリ剤を含む第二組成物とアンモニウム塩とを混合する、ことにより生成される紙力増強剤の効果向上用組成物である。
ハロゲン系酸化剤とアンモニウム塩とのモル比(ハロゲン系酸化剤:アンモニウム塩)は、残留塩素量と窒素とのモル比として1:1~1:2であるであることが好ましい。
第一組成物のpHが、4.5~8.5であることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、製紙工程における紙力増強剤の効果向上方法であって、製紙工程水に、本発明の紙力増強剤の効果向上用組成物を添加する組成物添加工程と、紙力増強剤を添加する紙力増強剤添加工程とを有し、前記組成物と前記紙力増強剤とは接触するものであることを特徴とする紙力増強剤の効果向上方法である。
本発明の紙力増強剤の効果向上用組成物と、紙力増強剤とが接触する際の前記組成物の接触濃度が、0.1~35mg/Lであることが好ましい。
組成物添加工程後の製紙工程水中の残留塩素濃度が、0.1~35mg/Lであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、製紙工程で使用される紙力増強剤の効果向上用組成物の製造方法、紙力増強剤の効果向上用組成物、及び、紙力増強剤の効果向上方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を説明するが、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示すものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることは無い。
【0018】
本明細書中、「X~Y」は、「X以上、Y以下」を意味する。
【0019】
上述の特許文献5に開示されているように、本発明の出願人は、製紙工程水に、酸化剤を添加する工程と、紙力増強剤を添加する工程とを有し、酸化剤(ハロゲンを有する酸化剤及び/又は過酸化水素)と上記紙力増強剤とは接触するものであり、上記紙力増強剤と上記酸化剤とが接触する際の上記酸化剤の接触濃度が、0.1~35mg/Lであることを特徴とする紙力増強剤の効果向上方法の発明を開示している。本発明者らは紙力増強剤の更なる効果向上方法を鋭意検討した結果、製紙工程で添加される紙力増強剤に、特定の製造方法により製造されたモノクロラミン及び/又はモノブロラミン(すなわち、本発明の紙力増強剤の効果向上用組成物)を接触させることで、紙力増強剤の効果が大きく向上するという事実を見出し、本発明の紙力増強剤の効果向上用組成物の製造方法を完成させた。
【0020】
以下、一般的なモノクロラミン及びモノブロラミンの製造方法を説明し、次に本発明の紙力増強剤の効果向上用組成物の製造方法を具体的に説明する。
【0021】
一般的に酸化剤として使用されているモノクロラミン及びモノブロラミンは、OCl(Br)+NH →NHCl(Br)+HOのような反応で生成される穏やかな酸化剤である。例えば、次亜塩素酸ナトリウムとアンモニウム塩とを混合することによりモノクロラミンを生成でき、アンモニウム塩としては、具体的に、硫酸アンモニウム、臭化アンモニウム、塩化アンモニウム、スルファミン酸アンモニウムが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができると知られている。また、通常の手法により製造されたモノクロラミン及びモノブロラミンの安定化を図る目的で、モノクロラミン又はモノブロラミンとアルカリ剤とを混合することが知られている。また、モノクロラミン又はモノブロラミンが添加される対象のpHを調製する目的で、モノクロラミン、モノブロラミンとアルカリ剤とを対象に別々に添加することも知られている(上記特許文献4)。
【0022】
本発明者らは、モノクロラミン及び/又はモノブロラミンの作成時に、アンモニウム塩にアルカリ剤を含有させ、アンモニウム塩のpHをアルカリ側へコントロールしたものをハロゲン系酸化剤と反応させて生成されるモノクロラミン及び/又はモノブロラミンは、アルカリ剤を含有しないアンモニウム塩とハロゲン系酸化剤とを反応させて生成される従来のモノクロラミン及び/又はモノブロラミン、並びに、従来のモノクロラミン及び/又はモノブロラミンにアルカリ剤を含有させたものと比較して、優れた紙力増強剤の効果向上作用を有することを見出した。
また、本発明者らは、モノクロラミン及び/又はモノブロラミンの作成時に、ハロゲン系酸化剤にアルカリ剤を含有させたものをアンモニウム塩と反応させて生成されるモノクロラミン及び/又はモノブロラミンは、アルカリ剤を含有しないハロゲン系酸化剤とアンモニウム塩とを反応させて生成される従来のモノクロラミン及び/又はモノブロラミン、並びに、従来のモノクロラミン及び/又はモノブロラミンにアルカリ剤を含有させたものと比較して、優れた紙力増強剤の効果向上作用を有することを見出した。
すなわち、アンモニウム塩にアルカリ剤を含有させ、アンモニウム塩のpHをアルカリ側へコントロールしたものをハロゲン系酸化剤と反応させて生成される組成物、及び、ハロゲン系酸化剤にアルカリ剤を含有させたものをアンモニウム塩と反応させて生成される組成物は、従来のモノクロラミン及び/又はモノブロラミン、並びに、従来のモノクロラミン及び/又はモノブロラミンにアルカリ剤を含有させたものと比較して、優れた紙力増強剤の効果向上作用を有することを見出した。以下、アンモニウム塩にアルカリ剤を含有させ、アンモニウム塩のpHをアルカリ側へコントロールしたものをハロゲン系酸化剤と反応させて生成される組成物、及び、ハロゲン系酸化剤にアルカリ剤を含有させたものをアンモニウム塩と反応させて生成される組成物を「紙力増強剤の効果向上用組成物」、又は、単に「効果向上用組成物」と記載する。
【0023】
本発明は、アンモニウム塩及びアルカリ剤を含む第一組成物とハロゲン系酸化剤とを混合する、又は、ハロゲン系酸化剤及びアルカリ剤を含む第二組成物とアンモニウム塩とを混合することを特徴とする紙力増強剤の効果向上用組成物の製造方法である。
【0024】
また本発明は、アンモニウム塩及びアルカリ剤を含む第一組成物とハロゲン系酸化剤とを混合する、又は、ハロゲン系酸化剤及びアルカリ剤を含む第二組成物とアンモニウム塩とを混合する、ことにより生成される紙力増強剤の効果向上用組成物でもある。
【0025】
本発明に用いられるアンモニウム塩は、無機酸とアンモニアの反応物である無機アンモニウム塩、または有機酸とアンモニアの反応物である有機アンモニウム塩であれば特に限定されない。無機アンモニウム塩としては、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、臭化アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫酸鉄(III)アンモニウム、過硫酸アンモニウム、タングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、チオシアン酸アンモニウム、及びポリリン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。有機アンモニウム塩としては、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、プロピオン酸アンモニウム、酪酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、リンゴ酸アンモニウム、コハク酸アンモニウム、フマル酸アンモニウム、乳酸アンモニウム、及び酒石酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、上記アンモニウム塩は、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、臭化アンモニウム及びスルファミン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、硫酸アンモニウム、臭化アンモニウム及びスルファミン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明に用いられるハロゲン系酸化剤は、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩及び二酸化塩素からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
上記次亜塩素酸塩は、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸カリウム及び次亜塩素酸マグネシウム等が挙げられる。上記次亜塩素酸塩は、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸カリウム及び次亜塩素酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム及び次亜塩素酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0028】
上記亜塩素酸塩としては、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸マグネシウム等が挙げられる。上記亜塩素酸塩は、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸カルシウム、及び亜塩素酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0029】
上記塩素酸塩としては、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウム、及び、塩素酸マグネシウム等が挙げられる。上記塩素酸塩は、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウム及び塩素酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0030】
上記過塩素酸塩としては、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸カルシウム及び過塩素酸マグネシウム等が挙げられる。上記過塩素酸塩は、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸カルシウム及び過塩素酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0031】
上記二酸化塩素は、極めて不安定な化学物質であるため、その貯蔵や輸送は非常に困難である。したがって、その場で公知の方法により二酸化塩素を製造(生成)し、添加濃度に調整して用いるのが好ましい。
例えば、次のような反応により二酸化塩素を製造することができ、市販の二酸化塩素発生器(装置)を用いることもできる。
(1)次亜塩素酸ナトリウムと塩酸と亜塩素酸ナトリウムとの反応
NaOCl+2HCl+2NaClO → 2ClO+3NaCl+H
(2)亜塩素酸ナトリウムと塩酸との反応
5NaClO+4HCl → 4ClO+5NaCl+2H
(3)塩素酸ナトリウム、過酸化水素および硫酸との反応
2NaClO+H2O+HSO → 2ClO+NaSO+O+2H
【0032】
本発明に用いられるハロゲン系酸化剤は、次亜塩素酸塩であることがより好ましい。
【0033】
本発明に用いられるアルカリ剤は、水に溶解した際にpHがアルカリ性を示す、アルカリ金属塩、及びアルカリ土類金属塩であれば特に限定されない。アルカリ剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、クエン酸三ナトリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、リンゴ酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム、リンゴ酸カルシウム、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、フマル酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、及び酒石酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、本発明に用いられるアルカリ剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム及びクエン酸三ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及びクエン酸三ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明の製造方法では、上記アンモニウム塩と上記ハロゲン系酸化剤とを混合する前に、上記アンモニウム塩と上記アルカリ剤とを含む第一組成物、又は、上記ハロゲン系酸化剤と上記アルカリ剤とを含む第二組成物が調製されている。第一組成物及び第二組成物の調製方法は特に限定されず、一般的な混合方法を用いることができる。
【0035】
本発明における第一組成物は、アンモニウム塩自体のpHに対し、第一組成物のpHが1.08倍以上となるようにアルカリ剤を含ませることが好ましい。アンモニウム塩のpHを上記程度にアルカリ側へコントロールしたものをハロゲン系酸化剤と反応させて生成される組成物は充分な紙力増強剤の効果向上作用を有するためである。
【0036】
本発明における第二組成物は、ハロゲン系酸化剤自体のpHに対し、第二組成物のpHが1.05倍以上となるようにアルカリ剤を含ませることが好ましく、1.2倍以上となるようにアルカリ剤を含ませることがより好ましい。ハロゲン系酸化剤のpHを上記程度にアルカリ側へコントロールしたものをアンモニウム塩と反応させて生成される組成物は充分な紙力増強剤の効果向上作用を有するためである。
【0037】
また、本発明において、第一組成物のpHが、4.5~8.5であることが好ましい。
具体的に、アンモニウム塩が硫酸アンモニウムである場合の第一組成物のpHが、4.5~8.5であることが好ましく、臭化アンモニウムである場合の第一組成物のpHが、7.0~8.5であることが好ましい。また、アンモニウム塩がスルファミン酸アンモニウムである場合の第一組成物のpHが、5.5~8.5であることが好ましい。
なお、本発明において、pHは、一般的に使用されている測定器を用いて測定することができ、例えば、堀場製作所製のpH計を用いて測定することができる。
【0038】
本発明において、第二組成物のpHが、10.5~12.5であることが好ましい。
【0039】
本発明において、ハロゲン系酸化剤とアンモニウム塩とのモル比(ハロゲン系酸化剤:アンモニウム塩)は、残留塩素量と窒素とのモル比として1:1~1:2であることが好ましく、1:1.1~1:2であることがより好ましく、1:1.2~1:2であることがさらに好ましく、1:1.2~1:1.6であることが特に好ましい。
【0040】
本発明において、第一組成物とハロゲン系酸化剤との重量比、及び、第二組成物とアンモニウム塩との重量比は、ハロゲン系酸化剤とアンモニウム塩とのモル比(ハロゲン系酸化剤:アンモニウム塩)が、上記範囲となるように決定されることが好ましい。
【0041】
本発明における紙力増強剤としては、製紙工程で通常用いられているものを特に制限なく用いることができ、カチオン性、アニオン性、両性、非イオン性いずれのイオン性を持つものでもよい。例えば、カチオン性基が導入されたポリアクリルアミド、ポリアミドアミン・エピクロロヒドリン、ポリアミドアミン、グリオキサール変性ポリアミドアミン・エピクロロヒドリン、アミンポリエステルポリエーテル及びこれらの塩等のカチオン性の構造が導入された紙力増強剤;アニオン性基が導入されたポリアクリルアミド、ポリアクリルアミド-アクリル酸共重合体、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド部分加水物、ポリアクリルアミド-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合物、カルボキシメチルセルロース及びこれらの塩等のアニオン性の構造が導入された紙力増強剤;ポリアクリルアミドやデンプンにカチオン性基とアニオン性基の両方が導入された化合物及びこれらの塩等の両性の構造が導入された紙力増強剤;ポリアクリルアミド、澱粉、ポリビニルアルコール及びこれらの塩等の非イオン性の構造をもつ紙力増強剤等が挙げられる。本発明における紙力増強剤としては、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これら紙力増強剤は溶液(液体)および粉体(固体)などどのような形態であっても良い。特に紙力増強効果を促進させる観点から、紙力増強剤としては、カチオン性紙力増強剤を用いることが好ましい。
【0042】
上記カチオン性紙力増強剤として、市販の紙力増強剤を用いることができる。
カチオン性紙力増強剤として、例えば、内添紙力増強剤及び表面紙力増強剤が挙げられ、内添紙力増強剤はさらに乾燥紙力増強剤と湿潤紙力増強剤に分類される。内添紙力増強剤としてはポリアクリルアミド、ポリアクリルアミドにカチオン性基、アニオン性基またはその両方を導入したもの及びポリアミドアミン・エピクロロヒドリン等が挙げられる。表面紙力増強剤としてはポリアクリルアミド及びポリビニルアルコール等が挙げられる。好ましくは、乾燥紙力増強剤としてポリアクリルアミド、ポリアクリルアミドにカチオン性基、アニオン性基またはその両方を導入したもの、湿潤紙力増強剤としてポリアミドアミン・エピクロロヒドリンが好ましい。
【0043】
ここで、従来から紙の製造工程である製紙工程には、殺菌を目的としてモノクロラミンやモノブロラミン等の酸化剤が添加されており、また、紙力向上を目的として紙力増強剤が添加されている。そして、製紙工程の原料ラインに殺菌剤を添加することにより、微生物により澱粉等の原料由来の紙力剤が消費されることを防止し、調整工程等で添加される紙力増強剤の添加量を低減できることが知られている(上記特許文献1~3)。また、製紙工程では様々な薬剤がその目的に応じて添加されており、例えば、pH調整剤(アルカリ剤)、サイズ剤、濾水性向上剤等も添加されている。これらの薬剤は、各薬剤の効果が発揮されるように添加されており、一つの薬剤の効果が他の薬剤により阻害されないように添加されている。
上述の通り、紙力増強剤には、カチオン性紙力増強剤とアニオン性紙力増強剤があるが、紙力増強剤の種類に応じて他の薬剤の添加位置を変更することは行われておらず、紙力増強剤は、アニオン性薬剤と接触しないように添加されている。なぜなら、カチオン性紙力増強剤とアニオン性薬剤(酸化剤等の殺菌剤)とが反応して凝集が生じると、紙力増強剤が均一に分散せずに薬剤効果が充分に発揮されない可能性が生じるためである。製紙工程における紙力増強剤の不均一分散は、製造される紙の品質悪化を招くため、従来は、紙力増強剤とアニオン系殺菌剤(酸化剤等)とは、反応する程度の濃度で接触しないように添加されていた。
一方、本発明は、紙力増強剤そのものの効果を向上させることを検討した結果、紙力増強剤に対し、特定の製造方法により製造されたモノクロラミン及び/又はモノブロラミンである効果向上用組成物(アニオン系酸化剤)を接触させることにより、紙力増強剤の効果を向上できることを初めて見出し完成されたものである。
【0044】
本発明は、製紙工程における紙力増強剤の効果向上方法であって、製紙工程水に、本発明の紙力増強剤の効果向上用組成物を添加する組成物添加工程と、紙力増強剤を添加する紙力増強剤添加工程とを有し、前記組成物と前記紙力増強剤とは接触するものであることを特徴とする紙力増強剤の効果向上方法でもある。
【0045】
本発明において上記製紙工程は、パルプに薬剤配合を行う調成工程、抄紙工程、仕上げ工程を含み、上記調成工程の前に、紙原料からパルプを得るパルプ化工程を有していてもよい。本発明の紙力増強剤の効果向上方法は、紙原料から紙を製造するまでの製紙工程、又は、パルプから紙を製造するまでの製紙工程のいずれの場合にも用いることができる。なお、上記紙原料は、古紙及び木材のいずれであってもよい。
【0046】
例えば、古紙を紙原料とする場合、製紙工程は、上記パルプ化工程として、古紙のパルプ化工程を含んでもよい。古紙のパルプ化工程は、主として離解工程、粗選・精選工程および脱水・洗浄工程を含んでなる。さらに、古紙に含まれるインクを除去する脱墨工程及びパルプを化学的に漂白する漂白工程を含む場合もある。各工程について具体的に説明すると、原料となる古紙を水と混合しながら機械力でパルプスラリーとする離解(パルパー)工程、古紙に含まれる異物を除去する粗選(除塵)工程、脱墨剤を加えてインキ成分を除去する脱墨工程、古紙に含まれる異物とパルプ分とをスクリーンで分離する精選工程、パルプスラリーを水洗する洗浄工程、及びパルプの脱水を行う脱水工程、漂白剤を加えてパルプの漂白を行う漂白工程である。上記各工程で用いられる水、及び排水される水を白水といい、上記パルパー工程において原料である古紙と白水とが混合されたものをパルプスラリーという。
【0047】
また、木材を紙原料とする場合、製紙工程は、上記パルプ化工程として、化学パルプのパルプ化工程や機械パルプのパルプ化工程を含んでもよい。化学パルプのパルプ化工程は、主として調木工程、蒸解工程、精選・洗浄工程及び脱水工程を含んでなる。さらに、パルプを化学的に漂白する漂白工程を含む場合もある。上記蒸解工程では、チップに薬品を加え、高温・高圧で煮て、樹脂(リグニン)を溶かし繊維分を取り出し、チップをパルプ化する。すなわち、パルプ原料は蒸解工程を経てパルプスラリーとなる。また、機械パルプのパルプ化工程は、主として砕木工程、除塵工程及び濃縮工程を含んでなる。さらに、パルプを化学的に漂白する漂白工程を含む場合もある。上記工程では機械的に繊維化することでパルプスラリーとなる。
【0048】
本発明において上記製紙工程水とは、紙原料であるパルプを含む水である。ここで、製紙工程では大量の水を媒体として各工程が進行するため、水の再利用が行われている。本発明において紙原料であるパルプを含む水とは、各工程の原料ラインを移動する水(以下、パルプスラリーともいう)であって、各工程の原料ラインから排出される水ではない。ただし、原料ラインから排出された水であっても、白水ピット等に貯留され、製紙工程で再利用される水(白水)は、原料ラインに戻ってくるため、これも上記製紙工程水に含まれる。すなわち、再利用される白水のうち白水ピット等のタンクから原料ラインまでの循環ラインを移動する白水も上記製紙工程水に含まれる。
【0049】
上記製紙工程水に、上述の本発明の紙力増強剤の効果向上用組成物を添加する組成物添加工程と、紙力増強剤を添加する紙力増強剤添加工程とは、各工程の前後は問わず、本発明の組成物と紙力増強剤とが接触するものであれば同時又は別々に行われてもよい。
詳細に説明すると、本発明の組成物と紙力増強剤とが直接接触する場合であっても、製紙工程水中で接触する場合であっても、本発明の組成物と紙力増強剤とが反応する濃度で接触するように添加されるものであればよい。
【0050】
本発明の紙力増強剤の効果向上方法において、本発明の紙力増強剤の効果向上用組成物と、紙力増強剤とが接触する際の上記組成物の接触濃度が、0.1~35mg/Lであることが好ましい。上記濃度範囲の本発明の組成物と、紙力増強剤とを接触させることにより、より充分な紙力増強効果が得られるためである。
【0051】
本明細書において、「紙力増強剤の効果向上用組成物と、紙力増強剤とが接触する際の上記組成物の接触濃度」は、本発明の組成物と紙力増強剤とが接触する際の該組成物の製紙工程水に対する濃度を意味するものである。具体的に説明すると、本発明の組成物と紙力増強剤とが直接接触するように、組成物添加工程と紙力増強剤添加工程とを有する場合は、添加される該組成物の、製紙工程水に対する添加濃度を示す。また、本発明の組成物と紙力増強剤とが製紙工程水中で接触するように、組成物添加工程の後に紙力増強剤添加工程を有する場合は、紙力増強剤と接触する製紙工程水中の該組成物の残留塩素濃度を示す。また、紙力増強剤添加工程の後に組成物添加工程を有する場合は、紙力増強剤が添加された製紙工程水に添加される該組成物の、製紙工程水に対する添加濃度を示す。なお、本発明の組成物の接触濃度は、残留塩素濃度に換算して得られる値(残留塩素濃度換算値)である。
【0052】
本発明において、組成物添加工程後の製紙工程水の残留塩素濃度(残留塩素換算濃度)が0.1~35mg/Lであることが好ましい。また、組成物添加工程後の製紙工程水の残留塩素濃度が、残留塩素量として、0.5~30mg/Lであることがより好ましく、1~30mg/Lがさらに好ましく、経済性の点から、1~25mg/Lまたは1~20mg/Lが好ましい。
【0053】
本発明において製紙工程水に本発明の組成物を添加する組成物添加工程と紙力増強剤を添加する紙力増強剤添加工程とが行われるタイミングは、上述の通り、本発明の組成物と紙力増強剤とが反応する濃度で接触するタイミングであれば特に問わないが、例えば、製紙工程水の条件によって設定することができる。
例えば、製紙工程水のORPが-400mV以下の過酷な条件である場合は、組成物添加工程と紙力増強剤添加工程とは、同時、又は、各工程が1分以内に行われることが好ましい。一方、製紙工程水において本発明の組成物の消費が少ない環境下(例えば、製紙工程水に対して清水の供給量が豊富な系)では、組成物添加工程と紙力増強剤添加工程とは、120分以内に行われてもよい。本発明において、組成物添加工程と紙力増強剤添加工程とは、同時又は各工程が60分以内に行われることが好ましく、同時又は各工程が10分以内に行われることがより好ましく、同時又は各工程が5分以内に行われることがさらに好ましく、同時又は各工程が1分以内に行われることが特に好ましい。より濃度の濃い紙力増強剤と、より濃度の濃い本発明の組成物とを、接触させることができるためである。
【0054】
本発明において、紙力増強剤添加工程は、組成物添加工程と同一箇所及び/又は組成物添加工程の上流側に、設けられることが好ましい。本発明の組成物は、製紙工程水に添加されると同時に、製紙工程水中の微生物により消費され始める可能性があるためである。なお、本明細書においては、「上流側」は、製紙工程水の流れ方向に対する上流側を意味する。具体的に、製紙工程水に、組成物工程と紙力増強剤添加工程とが、原料ラインに構成されている場合、上流側とは古紙や木材などの原料(又は原料パルプ)に近い方を意味する。一方、製紙工程水に、酸化剤添加工程と紙力増強剤添加工程とが白水を再利用するための循環ラインに構成されている場合、上流側とは、白水ピット等のタンクに近い方を意味する。また、本明細書において、同一箇所とは、同一の機器、同一のタンク、同一の配管(機器と機器との間の配管)を意味する。
【0055】
また、本発明において組成物添加工程と紙力増強剤添加工程とが、製紙工程の同一箇所で行われ、紙力増強剤添加工程が組成物添加工程よりも上流側である場合、上記2つの工程で薬剤添加が開始されるタイミングは、製紙工程水の流速によって決定されることが好ましい。製紙工程の上流側で添加された紙力増強剤が酸化剤の添加位置に到達したタイミングで、酸化剤を添加することにより、より濃度の濃い紙力増強剤と、より濃度の濃い本発明の組成物とを、より確実に接触させることができるためである。
【0056】
なお、本発明の組成物の添加量は、本発明の組成物と紙力増強剤とが接触する際の酸化剤の接触濃度が、0.1~35mg/Lとなるよう設定されればよい。例えば、紙力増強剤と本発明の組成物とが製紙工程水中で接触する場合、紙力増強剤が本発明の組成物の残留濃度(残留塩素換算濃度)が0.1~35mg/Lの製紙工程水と接触するように、本発明の組成物の添加量が設定される。なお、紙力増強剤と本発明の組成物とが反応する濃度で接触することにより、紙力増強効果を得ることができる。
【0057】
また、上記紙力増強剤は、対パルプ固形分100重量%に対して、紙力増強剤の固形分として0.01~2.0重量%添加されることが好ましく、0.05~1.0重量%添加されることが好ましい。紙力増強剤の添加量が上記0.01重量%未満であると、紙力増強効果が充分に得られない可能性があり、2.0重量%を超えると、パルプシートや最終製品として得られる紙に紙力増強剤が付着し、欠点が生じる可能性があるためである。
【0058】
なお、本発明における「残留塩素量」の記載は、ハロゲン系酸化剤が塩素系酸化剤ではない場合には、「残留塩素量換算値」を意味する。
【0059】
(殺菌剤について)
上述の本発明の紙力増強剤の効果向上用組成物は、本発明の殺菌用組成物と言い換えることができる。
すなわち、本発明は、アンモニウム塩及びアルカリ剤を含む第一組成物とハロゲン系酸化剤とを混合する、又は、ハロゲン系酸化剤及びアルカリ剤を含む第二組成物とアンモニウム塩とを混合することを特徴とする殺菌用組成物の製造方法であってもよい。
また、本発明は、アンモニウム塩及びアルカリ剤を含む第一組成物とハロゲン系酸化剤とを混合する、又は、ハロゲン系酸化剤及びアルカリ剤を含む第二組成物とアンモニウム塩とを混合する、ことにより生成される殺菌用組成物であってもよい。
本発明の殺菌用組成物は、上述の本発明の紙力増強剤の効果向上用組成物における、アンモニウム塩、アルカリ剤、ハロゲン系酸化剤及び紙力増強剤及びこれらの好適な態様と同様にすることができ、第一組成物、第二組成物の構成やpHについても同様にすることができる。
【実施例
【0060】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0061】
(実施例1~4、比較例1~3、参考例1)(実施例5~8、比較例4~7、参考例2)
[古紙パルプを用いた紙の調製]
(1)パルプ濃度3%の原料(パルプスラリー)を、1000mLビーカーに690g量りとった。(絶乾パルプ重量として、20.7g)
(2)用意した1000mLビーカー内のパルプスラリーを攪拌機(スリーワンモーター:新東科学社製)で攪拌(350rpm)し、攪拌開始から1分後に紙力増強剤を添加し、さらに30秒後に、下記表1及び表2に記載の紙力増強剤の効果向上用組成物を下記調整例1もしくは調整例2に記載のとおり調整後、対パルプスラリー濃度として、表1にかかる試験では5ppm、表2にかかる試験では10ppmになるように添加し、2分間攪拌した。
なお、比較例1、比較例4、参考例1及び参考例2にかかる試験例では、効果向上用組成物を添加することなく紙力増強剤のみを添加した。参考例1は比較例1、参考例2は比較例4で添加された紙力増強剤の1.3倍の量の紙力増強剤が添加されており、これを、紙力向上率(%)を確認する上でのポジティブコントロールとした。
また、比較例2にかかる試験例では、パルプスラリーにアルカリ剤(水酸化ナトリウム)を添加し、パルプスラリーのpHを9.2に調整した後に、攪拌を開始し、他の試験例と同様に比較例2にかかる紙力増強剤と効果向上用組成物とを順に添加した。
(3)得られた各試験例にかかる効果向上用組成物と接触した紙力増強剤を含むパルプスラリーの残留塩素濃度及びpHを測定した。各試験例の残留塩素濃度、pHを下記表3及び表4に示す。(参考例1及び2、比較例1及び4を除く試験例)
(4)(3)のパルプスラリーを3等分し、3回手すき抄紙を行い、角形(250mm×250mm)の各試験例にかかるパルプシートを3枚得た。
【0062】
[調整例1]
残留塩素量と窒素のモル比が1:1.5となるように、イオン交換水で60倍に希釈した第二組成物と、第一組成物を混合した。調整例1は、実施例1乃至5、7及び8、比較例2、3、5及び7にかかる試験例における供試薬剤とした。
【0063】
[調整例2]
残留塩素量と窒素のモル比が1:1.3となるように、イオン交換水で60倍に希釈した第二組成物のハロゲン系酸化剤に水酸化ナトリウム水溶液を所定のpHになるように加えた後、第一組成物を混合した。調整例2は、実施例6にかかる試験例における供試薬剤とした。
【0064】
各試験例で用いた薬剤は下記のとおりである。
(紙力増強剤)
内添タイプの乾燥紙力増強剤(カチオン性ポリアクリルアミド乾燥紙力増強剤)
(アンモニウム塩)
硫酸アンモニウム:キシダ化学社製試薬
臭化アンモニウム:キシダ化学社製試薬
スルファミン酸アンモニウム:キシダ化学社製試薬
(アルカリ剤)
水酸化Na:水酸化ナトリウム、富士フィルム和光純薬社製試薬
水酸化K:水酸化カリウム、富士フィルム和光純薬社製試薬
クエン酸三Na:クエン酸三ナトリウム、富士フィルム和光純薬社製試薬
(ハロゲン系酸化剤)
次亜塩素酸Na:次亜塩素酸ナトリウム、キシダ化学社製試薬
【0065】
また、各試験例の残留塩素濃度、pH、破裂強度は下記の機器を用いて測定した。
(残留塩素濃度の測定)
残留塩素測定器:笠原工業社製
(pHの測定)
pH計:堀場製作所社製
(比破裂強度の測定)
比破裂試験機:日本T.M.C社製
【0066】
(紙力向上率)
(1)得られた各試験例にかかるパルプシートの紙重量を測定し、坪量を算出した。
(2)(1)のパルプシートを、JIS P 8223「試験用手抄き紙-物理的特性の試験方法」に規定されている、JIS P 8112「紙及び板紙のミューレン低圧破裂試験機による破裂強さ試験方法」に記載の方法に準拠して測定した。
(3)上記(1)で得られた坪量と上記(2)で得られた破裂強度から、比破裂強度を算出した。
(4)下記式に基づいて紙力向上率を算出し、下記表3及び表4に記載した。
[式](紙力向上率)=(各試験例の比破裂強さ)/(酸化剤無添加の試験例の比破裂強さ※)×100
※表3においては比較例1の比破裂強さ、表4においては比較例4の比破裂強さを(酸化剤無添加の試験例の比破裂強さ)として用いた。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
上記表3の結果から、実施例1~4は比較例1と同量の紙力増強剤が用いられているものの、特定の製造方法により製造された紙力増強剤の効果向上用組成物が添加されており、比較例1に対し紙力増強剤が1.3倍添加されている参考例1と同様に、紙力向上率が大きく向上していた。
一方、比較例2(アンモニウム塩とハロゲン系酸化剤とを混合して生じる従来のモノクロラミンを、pH調製されたパルプスラリーに添加)は、比較例1と同量の紙力増強剤が用いられているものの、比較例1に対し紙力向上率が大きく下がっていた。
また、比較例3(アンモニウム塩とハロゲン系酸化剤とを混合して生じる従来のモノクロラミンを、パルプスラリーに添加)は、比較例1に対し紙力向上率が向上しているものの、その効果は大きなものではなかった。
よって、アンモニウム塩及びアルカリ剤を含む第一組成物と、ハロゲン系酸化剤とを混合することにより得られる紙力増強剤の効果向上用組成物は、優れた紙力増強剤の効果向上作用を有することを確認した。
上記表4の結果から、実施例5、7及び8は比較例4と同量の紙力増強剤が用いられているものの、特定の製造方法により製造された紙力増強剤の効果向上用組成物が添加されており、比較例4に対し紙力増強剤が1.3倍添加されている参考例2と同様に、紙力向上率が大きく向上していた。また、実施例6(ハロゲン系酸化剤及びアルカリ剤を含む第二組成物とアンモニウム塩とを混合することにより製造される効果向上用組成物)は、実施例5と同様に優れた紙力増強剤の効果向上作用を有することを確認した。