(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】接着タンパク質
(51)【国際特許分類】
C07K 14/195 20060101AFI20241204BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20241204BHJP
C12N 11/02 20060101ALI20241204BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20241204BHJP
【FI】
C07K14/195 ZNA
C12N5/071
C12N11/02
C12N15/31
(21)【出願番号】P 2021533117
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2020027921
(87)【国際公開番号】W WO2021010481
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2019132488
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】堀 克敏
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-149703(JP,A)
【文献】国際公開第2015/030171(WO,A1)
【文献】YOSHIMOTO S., et al.,Scientific reports,2016年06月16日,vol. 6, article no. 28020,pp. 1-12, Suppl. pp. 1-8
【文献】KOIWAI K., et al.,The Journal of biological chemistry,2016年02月19日,vol. 291, no. 8, pp. 3705-3724,pp. 3705-3724,(Epub 2015.12.23)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)配列番号1の2~257位のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含み、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸2855~3093位に対応する配列を含まず、自己凝集性を有さず、かつ接着性を有するポリペプチド、または
(2)(1)のポリペプチドと機能性付与実体との複合体
を含む、自己凝集せずに第一の対象を第二の対象に接着および/または固定させるための組成物。
【請求項2】
前記第一の対象を前記第二の対象に単層接着させるための、請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
前記第一の対象と前記第二の対象とが同じである、請求項
1または
2に記載の組成物。
【請求項4】
前記第一の対象と前記第二の対象とが異なる、請求項
1または
2に記載の組成物。
【請求項5】
前記第一の対象または前記第二の対象の少なくとも1つが、機能性付与実体である、請求項
1~
4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記機能性付与実体が、ペプチドおよび/またはタンパク質である、請求項
5に記載の組成物。
【請求項7】
前記機能性付与実体が、ストレプトアビジン、中性アビジンまたはそれらの改変体である、請求項
6に記載の組成物。
【請求項8】
前記機能性付与実体が、細胞である、請求項
5に記載の組成物。
【請求項9】
前記第二の対象が支持体である、請求項
1~
8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記支持体がリポソームである、請求項
9に記載の組成物。
【請求項11】
(1)配列番号1の2~257位のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含み、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸2855~3093位に対応する配列を含まず、自己凝集性を有さず、かつ接着性を有するポリペプチドを含み、配列番号1とは異なるアミノ酸配列をさらに含む、ポリペプチド、または
(2)配列番号1の2~257位のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含み、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸2855~3093位に対応する配列を含まず、自己凝集性を有さず、かつ接着性を有するポリペプチドと機能性付与実体との複合体、
を含む、自己凝集せずに第一の対象を第二の対象に接着および/または固定させるための組成物であって、該第一の対象は、前記異なるアミノ酸配列を含むペプチドまたは前記機能性付与実体である、組成物。
【請求項12】
(1)配列番号1の2~257位のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含み、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸2855~3093位に対応する配列を含まず、自己凝集性を有さず、かつ接着性を有するポリペプチドを含み、配列番号1とは異なるアミノ酸配列をさらに含む、ポリペプチド、または
(2)配列番号1の2~257位のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含み、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸2855~3093位に対応する配列を含まず、自己凝集性を有さず、かつ接着性を有するポリペプチドと機能性付与実体との複合体、
を、第二の対象に作用させることを包含する、前記異なるアミノ酸配列を含むペプチドまたは前記機能性付与実体を該第二の対象に自己凝集させずに接着および/または固定するための方法。
【請求項13】
(1)配列番号1の2~257位のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含み、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸2855~3093位に対応する配列を含まず、自己凝集性を有さず、かつ接着性を有するポリペプチド、または
(2)(1)のポリペプチドと機能性付与実体との複合体
の、自己凝集せずに第一の対象を第二の対象に接着および/または固定させるための使用。
【請求項14】
前記使用が、前記第一の対象を前記第二の対象に単層接着させるための使用である、請求項
13に記載の使用。
【請求項15】
前記第一の対象と前記第二の対象とが同じである、請求項
13または
14に記載の使用。
【請求項16】
前記第一の対象と前記第二の対象とが異なる、請求項
13または
14に記載の使用。
【請求項17】
前記第一の対象または前記第二の対象の少なくとも1つが、機能性付与実体である、請求項
13~
16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
前記機能性付与実体が、ペプチドおよび/またはタンパク質である、請求項
17に記載の使用。
【請求項19】
前記機能性付与実体が、ストレプトアビジン、中性アビジンまたはそれらの改変体である、請求項
18に記載の使用。
【請求項20】
前記機能性付与実体が、細胞である、請求項
17に記載の使用。
【請求項21】
前記第二の対象が支持体である、請求項
13~
20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
前記支持体がリポソームである、請求項
21に記載の使用。
【請求項23】
(1)配列番号1の2~257位のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含み、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸2855~3093位に対応する配列を含まず、自己凝集性を有さず、かつ接着性を有するポリペプチドを含み、配列番号1とは異なるアミノ酸配列をさらに含む、ポリペプチド、または
(2)配列番号1の2~257位のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含み、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸2855~3093位に対応する配列を含まず、自己凝集性を有さず、かつ接着性を有するポリペプチドと機能性付与実体との複合体、
の、自己凝集せずに第一の対象を第二の対象に接着および/または固定させるための使用であって、該第一の対象は、前記異なるアミノ酸配列を含むペプチドまたは前記機能性付与実体である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自己凝集性を有さない接着性のポリペプチドおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者が以前にバイオフィルターから単離したAcinetobacter sp. Tol5(アシネトバクター属細菌Tol5株)は、細胞自己凝集性が高く、また、疎水性の各種プラスチック担体から親水性のガラス、金属表面まで、様々な材料表面に対して高い接着性を示す非病原性のグラム陰性細菌である。他の微生物では報告例のないこのような接着特性をもたらす因子として、細菌細胞表層に存在する新規のバクテリオナノファイバーを発見し、さらにナノファイバーを構成する新しいタンパク質を同定した。このタンパク質はグラム陰性細菌がもつ三量体オートトランスポーターアドヘシン(TAA)ファミリーに属しており、本発明者がAtaAと名付けた(非特許文献1)。TAAファミリーに属するタンパク質はホモ三量体を形成し、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、シグナルペプチド-head-neck-stalk-メンブレンアンカーという共通の基本構造をとる(非特許文献2)。メンブレンアンカードメインはトランスロケータードメインともいい、外膜にベータバレルを形成し、ペリプラズムでシグナルペプチドが切断された後のhead-neck-stalkから成るパッセンジャードメインを細胞外に輸送、ファイバーとして細胞表層に提示させる機能を有する。パッセンジャードメインのヘッド側がファイバーの先端になり、成熟タンパク質のアミノ末端側にあたる。しかしTAAには、構成単量体ポリペプチド鎖のアミノ酸残基数が300ほどの小さなものから3000を超える大きなものまで存在し、アミノ酸配列、特にパッセンジャードメインを構成するドメインやモチーフの種類と並びは多様である。本発明者が見つけたAtaAを構成する単量体ポリペプチド鎖は3630アミノ酸(シグナルペプチドを含む長さ)から成り、TAAの中でも最大級である。長いstalkに複数の長い繰返し配列がモザイク状に並ぶユニークな一次構造をしている。この繰返し配列は、何種類ものドメインが反復、混在して形成されている。headもドメインの一つであり、ファイバーの先端以外にstalkの途中、メンブレンアンカー寄りにもう一つ存在する。
【0003】
AtaAは微生物の固定化に極めて有用であり、様々なバイオプロセスへの応用が期待される(例えば特許文献1、2を参照)。また、本発明者は先の特許出願(特許文献3)において、様々な機能性ペプチドやタンパク質をAtaAに導入し、微生物表面に提示させ得ることを報告した。尚、特許文献1ではAtaA及びそれをコードする遺伝子(ataA遺伝子)をそれぞれAadA及びaadA遺伝子と呼称していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2009/104281号パンフレット
【文献】国際公開第2014/156736号パンフレット
【文献】国際公開第2015/030171号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【文献】Ishikawa,M.;Nakatani,H.;Hori,K.,AtaA, a new member of the trimeric autotransporter adhesins from Acinetobacter sp. Tol 5 mediating high ad hesiveness to various abiotic surfaces.PLoS One 2012,7,(11),e48830.
【文献】Linke,D.;Riess,T.; Autenrieth,I. B.; Lupas, A.; Kempf, V. A., Trimeric autotransporter adhesins: variable structure, common function.Trends Microbiol.2006,14,(6),264-270.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究した結果、AtaAタンパク質はパッセンジャードメインのみを細胞表層から切り離して精製した状態でも、接着性と自己凝集性を発揮できることを発見した。さらに、接着性と自己凝集性は同じドメインが担っているということを発見した。にも拘わらず、細胞から切り離したAtaAパッセンジャードメインから、自己凝集を担うドメインとは異なるドメインを削除することにより、接着性を維持しつつ自己凝集性を欠如させたAtaA断片が得られるという予期せぬ新事実を見出した。本開示は、本開示の接着性ポリペプチドの応用、例えば機能性付与実体の固定および/または接着方法等にも関する。
【0007】
本開示における改良されたAtaAは、細胞から生えている状態ではなく、AtaAを分離精製したタンパク質の場合に、見出されたものである。一つの具体的な実施形態では、この目的のためにC末の膜結合部位がないことが一つの特徴でありうる。また、シグナルペプチドも、接着タンパク質としては存在していないことも一つの非制限的な代表的な特徴でありうる。これらの特徴は、従来知られるAtaAと異なり、微生物から切り離したタンパク質材料として利用されうる。本開示では、細胞上に存在するときは、Cheadはなくても自己凝集することが判明した。しかし、細胞から切り離されて、かつCheadが削除された時に、AtaA断片は自己凝集性を失う。これらの特徴は従来のAtaAにない特徴である。
【0008】
したがって、本開示は、以下を提供する。
(1)自己凝集性を有さず、かつ接着性を有する、配列番号1に示すアミノ酸配列またはその改変配列の断片を含むポリペプチド。
(2)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を含み、かつ配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸2847~3093位に対応する配列の範囲に1アミノ酸以上の置換、付加、欠失またはそれらの組合せを含む、上記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(3)前記配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸2847~3093位に対応する配列の範囲は、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸2855~3093位に対応する範囲である、上記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(4)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸2855~3093位に対応する配列のすべてを欠失する、上記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(5)(A)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~3518位に対応する配列またはその改変配列またはその断片において、
配列番号1のアミノ酸2855~3093位に対応する配列に少なくとも1アミノ酸以上の置換、付加、欠失またはそれらの組合せを含み、
配列番号1のアミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する配列を含む、ポリペプチド;
(B)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~3093位に対応する配列またはその改変配列またはその断片において、
アミノ酸2855~3093位に対応する配列に少なくとも1アミノ酸以上の置換、付加、欠失またはそれらの組合せを含み、
アミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する配列を含む、ポリペプチド;
(C)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~2846位に対応する配列またはその改変配列またはその断片であって、
アミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する、ポリペプチド;
(D)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~3518位の一部を含み、
配列番号1のアミノ酸2855~3093位に対応する配列に少なくとも1アミノ酸以上の置換、付加、欠失またはそれらの組合せを含み、
配列番号1のアミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する、ポリペプチド;
(E)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~2854位に対応する配列またはその改変配列またはその断片であって、
アミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する、ポリペプチド;
(F)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~268位に対応する配列またはその改変配列またはその断片であって、
アミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する、ポリペプチド
である、ポリペプチド。
(5A)(a)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~2854位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片であって、
アミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する、ポリペプチド、または
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~2846位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片であって、
アミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する、ポリペプチド;または
(c)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~268位に対応する配列またはその改変配列またはその断片であって、
アミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する、ポリペプチド;または
(d)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~257位に対応する配列またはその改変配列またはその断片であって、
アミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する、ポリペプチド
である、上記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(5B)(i)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~2854位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片を含む、ポリペプチド;
(ii)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~2846位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片を含む、ポリペプチド;
(iii)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~268位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片を含む、ポリペプチド;または
(iv)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~257位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片を含む、ポリペプチド
である、上記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(5C)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~2854位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片である、上記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(5D)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~2846位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片である、上記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(5D)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~268位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片である、上記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(5E)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~257位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片である、上記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(6)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~2854位に対応するアミノ酸配列からなる、上記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(7)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~2846位に対応するアミノ酸配列からなる、上記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(8)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~268位に対応するアミノ酸配列からなる、上記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(9)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~257位に対応するアミノ酸配列からなる、上記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(10)前記改変配列は、保存的置換による改変を含む、上記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(11)アシネトバクター菌由来である、上記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(12)前記アシネトバクター菌が、Acinetobacter sp. Tol5株である、上記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(13)配列番号1とは異なるアミノ酸配列をさらに含む、上記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(14)前記異なるアミノ酸配列は、前記断片と融合されたものである、上記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(15)上記項目のいずれかに記載のポリペプチドと、機能性付与実体との複合体。
(16)上記項目のいずれかに記載のポリペプチドまたは上記項目のいずれかに記載の複合体を含む、自己凝集せずに第一の対象を第二の対象に接着および/または固定させるための組成物。
(17)前記第一の対象を前記第二の対象に単層接着させるための、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(18)前記第一の対象と前記第二の対象とが同じである、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(19)前記第一の対象と前記第二の対象とが異なる、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(20)前記第一の対象または前記第二の対象の少なくとも1つが、機能性付与実体である、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(21)前記機能性付与実体が、ペプチドおよび/またはタンパク質である、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(22)前記機能性付与実体が、ストレプトアビジン、中性アビジンまたはそれらの改変体である、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(23)前記機能性付与実体が、細胞である、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(24)前記第二の対象が支持体である、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(25)前記支持体がリポソームである、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(26)上記項目のいずれかに記載のポリペプチドまたは上記項目のいずれかに記載の複合体を含む、自己凝集せずに第一の対象を第二の対象に接着および/または固定させるための組成物であって、該第一の対象は、前記異なるアミノ酸配列を含むペプチドまたは前記機能性付与実体である、組成物。
(27)上記項目のいずれかに記載のポリペプチドまたは上記項目のいずれかに記載の複合体を、第一および/または第二の対象に作用させることを包含する、該第一の対象を該第二の対象に接着および/または固定するための方法。
(28)前記第一の対象を前記第二の対象に単層接着させるための、上記項目のいずれかに記載の方法。
(29)前記第一の対象と前記第二の対象とが同じである、上記項目のいずれかに記載の方法。
(30)前記第一の対象と前記第二の対象とが異なる、上記項目のいずれかに記載の方法。
(31)前記第一の対象または前記第二の対象の少なくとも1つが、機能性付与実体である、上記項目のいずれかに記載の方法。
(32)前記機能性付与実体が、ペプチドおよび/またはタンパク質である、上記項目のいずれかに記載の方法。
(33)前記機能性付与実体が、ストレプトアビジン、中性アビジンまたはそれらの改変体である、上記項目のいずれかに記載の方法。
(34)前記機能性付与実体が、細胞である、上記項目のいずれかに記載の方法。
(35)前記第二の対象が支持体である、上記項目のいずれかに記載の方法。
(36)前記支持体がリポソームである、上記項目のいずれかに記載の方法。
(37)上記項目のいずれかに記載のポリペプチドまたは上記項目のいずれかに記載の複合体を、第二の対象に作用させることを包含する、前記異なるアミノ酸配列を含むペプチドまたは前記機能性付与実体を該第二の対象に自己凝集させずに接着および/または固定するための方法。
(38)上記項目のいずれかに記載のポリペプチドまたは上記項目のいずれかに記載の複合体が固定された支持体。
(39)前記支持体は、脂質二重構造体、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属、チタン、アクリル、天然および合成のポリマーからなる群より選択される、上記項目のいずれかに記載の支持体。
(40)上記項目のいずれかに記載のポリペプチドまたは上記項目のいずれかに記載の複合体の、自己凝集せずに第一の対象を第二の対象に接着および/または固定させるための使用。
(41)前記使用が、前記第一の対象を前記第二の対象に単層接着させるための使用である、上記項目のいずれかに記載の使用。
(42)前記第一の対象と前記第二の対象とが同じである、上記項目のいずれかに記載の使用。
(43)前記第一の対象と前記第二の対象とが異なる、上記項目のいずれかに記載の使用。
(44)前記第一の対象または前記第二の対象の少なくとも1つが、機能性付与実体である、上記項目のいずれかに記載の使用。
(45)前記機能性付与実体が、ペプチドおよび/またはタンパク質である、上記項目のいずれかに記載の使用。
(46)前記機能性付与実体が、ストレプトアビジン、中性アビジンまたはそれらの改変体である、上記項目のいずれかに記載の使用。
(47)前記機能性付与実体が、細胞である、上記項目のいずれかに記載の使用。
(48)前記第二の対象が支持体である、上記項目のいずれかに記載の使用。
(49)前記支持体がリポソームである、上記項目のいずれかに記載の使用。
(50)上記項目のいずれかに記載のポリペプチドまたは上記項目のいずれかに記載の複合体の、自己凝集せずに第一の対象を第二の対象に接着および/または固定させるための使用であって、該第一の対象は、前記異なるアミノ酸配列を含むペプチドまたは前記機能性付与実体である、使用。
【0009】
本開示において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0010】
本開示を使用して、接着性ポリペプチド(融合ポリペプチドを含む)および/または本開示の接着性ポリペプチドと機能性付与実体との複合体を自己凝集させずに、固定および/または接着させることが可能になった。一局面では、本開示によれば、接着性ポリペプチド(融合ポリペプチドを含む)および機能性付与実体をリポソームの膜上に固定および/または接着させることが可能になった。したがって、本開示の接着性ポリペプチドは、医薬品・化成品工業の分離プロセス、再生医療、細胞工学、医用工学、バイオセンサー、表面改質や機能性材料の設計などの材料工学に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、顕微鏡観察による細胞の凝集解析を示す。
図1Aは、凝集解析のモデル系を示す。
図1Aにおいて、楕円は細胞を示し、濃い楕円はmRFP(赤色蛍光タンパク質)を発現する細胞を示し、薄い楕円はEGFP(緑色蛍光タンパク質)を発現する細胞を示す。
図1Aの中央上側は、両細胞が凝集作用を有する場合の細胞の凝集パターンを示し、中央下段は、mRFP発現細胞だけが凝集作用を有しEGFP発現細胞は凝集作用を有しない場合の細胞の凝集パターンを示す。
図1Aの左から3番目に、それぞれの細胞の凝集を2μm区画に分断した場合の細胞の存在パターン示す。
図1Aの最も右側に、それぞれの細胞の存在パターンを、GFPの蛍光を発する細胞の比率に基づき計数したグラフを示す。グラフにおいて横軸はGFPの蛍光を発する細胞の比率を表し、左から順に、0~20%、20~40%、40~60%、60~80%、80~100%の細胞でGFPの蛍光が認められることを表しており、縦軸にそれぞれのGFPの蛍光を発する細胞の比率が認められた区画の数の比率を示す。
図1Bは、mRFPおよび正常なAtaAタンパク質を発現するAcinetobacter sp. Tol5株と、EGFPおよび正常なAtaAタンパク質を発現するAcinetobacter sp. Tol5株とを混合して形成された細胞凝集塊の画像および微小区画中のEGFPを発現する細胞の割合のヒストグラムを示す。
図1Cは、mRFPおよび正常なAtaAタンパク質を発現するAcinetobacter sp. Tol5株と、EGFPを発現するΔAtaA Acinetobacter sp. Tol5株とを混合して形成された細胞凝集塊の画像および微小区画中のEGFPを発現する細胞の割合のヒストグラムを示す。
【
図2】
図2は、全長AtaAタンパク質または部分欠損株を使用した凝集実験を示す。
図2Aは、上から順に、全長AtaAタンパク質、(1)Nheadが欠損した構造のAtaA、(2)Nstalk内の一部が欠損した構造のAtaA、(3)Nstalk内の一部が欠損した構造のAtaA、(4)Nstalk内の一部が欠損した構造のAtaA、(5)Nstalk内の一部に加え、Cheadを欠損させた構造のAtaA、(6)Cstalkの大部分が欠損(FGGドメインは保存)した構造のAtaAのドメイン構造を示す。
図2Bは、mRFPおよび正常なAtaAタンパク質を発現するAcinetobacter sp. Tol5株と、EGFPおよび正常なAtaAタンパク質または
図2Aの6種類の部分欠損体を発現するAcinetobacter sp. Tol5株とを混合して形成された細胞凝集塊の画像および微小区画中のEGFPを発現する細胞の割合のヒストグラムを示す。
【
図3】
図3は、Nhead組換えタンパク質が二次構造をとることを示す。
図3Aは、上から順に、Nhead組換えタンパク質のコンストラクト設計、およびNhead組換えタンパク質のAtaA断片部分のドメイン構造を明示した図である。
図3Bは、Nhead組換えタンパク質のCDスペクトル測定の結果を示す。
図3Bにおいて、グラフの横軸は波長(nm)を示し、縦軸はCD(mdeg)を示す。
図3Cは、Nhead組換えタンパク質(AtaA
59-325-GCN4pII-His)のアミノ酸配列とその詳細説明を示す。
【
図4】
図4は、Nheadドメイン内のループ構造を欠損させた変異体を使用した、微生物の接着性の測定結果を示す。グラフの軸は、左から順に、AtaA欠損株(ΔataA)、野生型(AtaA)、ΔNhead欠損株、Δ1st loop欠損株、およびΔ2nd loop欠損株を使用した場合の結果を示し、黒色の棒グラフはポリスチレンプレートへの接着性に対応し、灰色の棒グラフはガラスプレートへの接着性に対応する。グラフの縦軸は、A
590により測定された微生物の接着性を示す。
【
図5】
図5は、大腸菌組換えNheadの分散性と自己凝集性を示す。グラフの横軸はNhead精製物のサイズ(d.nm)を示し、縦軸はNhead精製物の体積(比率)を示す。
【
図6】
図6は、Acinetobacter sp. Tol5株の凝集塊の顕微鏡写真を示す。左側に、Acinetobacter sp. Tol5株の凝集塊の顕微鏡写真を示し、右側に、Acinetobacter sp. Tol5株にAVLペプチドを添加した場合の顕微鏡写真を示す。
【
図7】
図7は、QCM-Dにより測定した大腸菌組換えNheadの接着性を示す。
図7Aはポリスチレンセンサーへの接着を示し、
図7Bはシリカセンサーへの接着を示す。各グラフは、縦軸がΔf7/7(Hz)値による接着量を示し、横軸に時間を示す。グラフの各矢印は、左から順に、50μg/mlのNheadを添加した時間、Nheadを再度添加した時間、リンスを行った時間、0.1mMのAVLペプチドを添加した時間、再びリンスを行った時間を示す。
【
図8】
図8は、全長AtaAのNheadをCheadに置換したWCheadのAtaA改変体を発現する菌株の自己凝集性および微生物固定化率を示す。
図8Aは、AtaAを発現しない株(ΔAtaA)、野生株(AtaA)、Nheadを欠損したAtaAを発現する株(ΔNhead)およびWCheadのAtaA改変体を発現する株(WChead)の自己凝集性を示す。
図8Bは、野生株(AtaA)、Nheadを欠損したAtaAを発現する株(ΔNhead)およびWCheadのAtaA改変体を発現する株(WChead)の、ポリスチレン表面、ガラス表面への固定化率を示す。
【
図9】
図9は、Nhead-SNAP融合ぺプチドが二次構造をとることを示す。
図9Aは、上から順に、Nhead-SNAP融合ペプチドのコンストラクト設計、およびNhead-SNAP融合ペプチドのAtaA断片部分のドメイン構造を明示した図である。
図9Bは、Nhead-SNAP融合ペプチドのCDスペクトル測定の結果を示す。
図9Bにおいて、グラフの横軸は波長(nm)を示し、縦軸はCD(mdeg)を示す。
図9Cは、Nhead-SNAP融合ペプチド(AtaA
59-325-GCN4pII-SNAP-His)のアミノ酸配列とその詳細説明を示す。
【
図10】
図10は、Nhead-SNAP融合ペプチドの様々な材料表面への固定化を示す。
図10Aは、Nhead-SNAP融合ペプチドの各種材料表面への固定化を、Nheadに融合したSNAPタンパク質の蛍光分子基質によって調べるためのモデルを示し、左から順に、材料表面へのNhead-SNAP融合ペプチドの滴下、蛍光分子基質の滴下、洗浄、および蛍光測定のステップに対応する。
図10Bは、Nhead-SNAP融合ペプチドまたはSNAPタンパク質のみを各種材料と接着させた場合の蛍光を示し、写真の列は左から順に、ガラス、ポリスチレン、チタンおよびポリテトラフルオロエチレン樹脂材料を示し、写真の行は上から順に、タンパク質を何も接着させていない場合、Nhead-SNAP融合ペプチドを接着させた場合、およびSNAPタンパク質を接着させた場合の蛍光を示す。
【
図11】
図11は、ベンジルグアニル(BG)基を付加した抗菌ペプチドCAP18を、Nhead-SNAP融合ペプチドを介してポリスチレン表面に固定化したときの表面の抗菌性を示す。写真の列は左から順に、何も接着させていない表面、Nhead-SNAP融合ペプチドを接着させた表面、およびSNAPタンパク質を接着させた表面を示し、この表面に対し、写真の行は上から順に、抗菌ペプチドを作用させない(抗菌ペプチドで被覆されない)場合、抗菌ペプチドを作用させた(抗菌ペプチドで被覆した)場合を示す。各写真で白く見える部分は、材料表面に付着した緑膿菌(蛍光染色されている)からの蛍光を示す。白い部分が少ないほど、微生物が殺菌されて付着せず、したがってより高い抗菌性を示している。下の行の真ん中の写真には、他の写真と比べて白い部分がほとんどなく、緑膿菌に対する高い抗菌効果が見られる。
【
図12】
図12は、SNAPタンパク質をN末端に有するSNAP-Nhead融合ペプチドが二次構造をとることを示す。
図12Aは、上から順に、SNAP-Nhead融合ペプチドのコンストラクト設計、およびSNAP-Nhead融合ペプチドのAtaA断片部分のドメイン構造を明示した図を示す。
図12Bは、SNAP-Nhead融合ペプチドのCDスペクトル測定の結果を示す。
図12Bにおいて、グラフの横軸は波長(nm)を示し、縦軸はCD(mdeg)を示す。
図12Cは、SNAP-Nhead融合ペプチド(SNAP-AtaA
60-325-GCN4pII-His)のアミノ酸配列とその詳細説明を示す。
【
図13】
図13は、SNAPタンパク質をNheadのN末端側に融合した場合(SNAP-Nhead)とC末端側に融合した場合(Nhead-SNAP)との比較を示す。グラフは、Nhead-SNAP融合ペプチドとSNAP-Nhead融合ペプチドとの接着性の比較を示す。グラフの縦軸は535nmでの蛍光強度を示し、横軸は、左から順に何も接着させていない場合、Nhead-SNAP融合ペプチドを接着させた場合、SNAP-Nhead融合ペプチドを接着させた場合、SNAPタンパク質を接着させた場合を示す。グラフのうち黒軸はBG化CAP18(BG)を添加していない場合を示し、白軸はBG化CAP18(BG)を添加した場合の蛍光強度を示す。黒軸と白軸の差が、BG化CAP18が接着したことにより蛍光基質が接着できなくなった分、すなわちBG化CAP18の接着量に相当する分を示す。
【
図14】
図14は、GCN4pIIタグを使用しないNhead-SNAP融合ペプチドが二次構造をとることを示す。
図14Aは、上から順に、Nhead-SNAP_ΔGCN4pII融合ペプチドのコンストラクト設計、およびNhead-SNAP_ΔGCN4pII融合ペプチドのAtaA断片部分のドメイン構造を明示した図を示す。
図14Bは、Nhead-SNAP_ΔGCN4pII融合ペプチドのCDスペクトル測定の結果を示す。
図14Bにおいて、グラフの横軸は波長(nm)を示し、縦軸はCD(mdeg)を示す。
図14Cは、Nhead-SNAP_ΔGCN4pII融合ペプチド(AtaA
59-325-SNAP-His)のアミノ酸配列とその詳細説明を示す。
【
図15】
図15は、NstalkのN末端の先端コイルドコイル領域を削除した(ΔCC)Nhead-SNAP融合ペプチドが二次構造をとることを示す。
図15Aは、上から順に、NstalkのN末端の先端にあるFGGドメインの一部であるコイルドコイルを削除したNhead-SNAP_ΔCC融合ペプチドのコンストラクト設計、およびNheadドメイン-SNAP_ΔCC融合ペプチドのAtaA断片部分のドメイン構造を明示した図を示す。
図15BはNhead-SNAP_ΔCC融合ペプチドのCDスペクトル測定の結果を示す。
図15Bにおいて、グラフの横軸は波長(nm)を示し、縦軸はCD(mdeg)を示す。
図15CはNhead-SNAP_ΔCC融合ペプチド(AtaA
59-314-GCN4pII-SNAP-His)のアミノ酸配列とその詳細説明を示す。
【
図16】
図16は、
図9、
図14、および
図15に示した各種Nhead-SNAP融合ペプチドの固定化試験の結果を示す。SNAPタンパク質の基質であり、SNAPタンパク質と共有結合を形成する蛍光分子の蛍光強度により、蛍光分子基質の固定化量を計測した結果を示す。グラフは、左から順に、Non(タンパク質でのコーティング無しで蛍光分子基質のみ添加)、Nhead-SNAP融合ペプチド、Nhead-SNAP_ΔGCN4pII融合ペプチド、およびNhead-SNAP_ΔCC融合ペプチドでポリスチレン(PS)プレートをコーティングした場合の、蛍光分子の固定化試験の結果を示し、グラフの縦軸は、蛍光値(535nm)を示す。
【
図17】
図17は、大腸菌組換えNheadとストレプトアビジンとが、複合体を形成することを示す。グラフは、Nheadまたはストレプトアビジン(SA)単独または、両者を混合したものの粒子径を動的光散乱(DLS)により計測した結果を示す。グラフの横軸は粒子径を、縦軸は粒子の存在比を体積比で示す。グラフにおいて、粒子径10nm付近にピークが認められる折れ線は、Nhead単独およびSA単独での測定結果に対応し、1000nmを超える粒子径にピークが認められる折れ線は、NheadとSAの複合体の測定結果に対応する。
【
図18】
図18は、大腸菌組換えNheadと中性アビジンとが結合することを示す。グラフは、Nhead単独、中性アビジン単独、および両者を混合したものの粒子径を動的光散乱(DLS)によって測定した結果を示す。グラフの横軸は粒子径(nm)を示し、縦軸は各粒子の存在比(体積%)を示す。グラフの横軸は粒子径を、縦軸は粒子の存在比を体積比で示す。グラフにおいて、粒子径10nm付近にピークが認められる折れ線は、Nhead単独および中性アビジン単独での測定結果に対応し、1000nmを超える粒子径にピークが認められる折れ線は、Nheadと中性アビジンの複合体の測定結果に対応する。
【
図19】
図19は、大腸菌組換えNheadとアビジンとは結合せず、複合体を形成しないことを示す比較例の結果である。グラフは、Nhead、アビジン単独および両者を混合したものの粒子径を、動的光散乱(DLS)により計測した結果を示す。グラフの横軸は粒子径を、縦軸は粒子の存在比を体積比で示す。
【
図20】
図20は、表面に大腸菌組換えNheadをコーティングしたプレートへの細菌の固定化を示す。
図20Aは、細菌の固定化を検出するための実験系を示す。
図20Bは、左側は枯草菌を固定化させた場合の写真を示し、右側は大腸菌を固定化させた場合の写真を示す。各細菌について、写真は、左から順に、何もコーティングを行っていない場合、BSAをコーティングした場合、Nheadをコーティングした場合の写真を示す。各写真において、蛍光染色された細菌細胞は白く見える。
【
図21】
図21は、Nhead-SNAP融合ペプチドを表層に固定化したリポソーム(Nhead表層修飾リポソーム)の粒子解析を示す。
図21において、グラフの縦軸はリポソームの直径ごとの数基準の比率(%)を示し、横軸はリポソームの直径を示す。
【
図22】
図22は、Nhead-SNAP融合ペプチドを表層に固定化したリポソーム(Nhead表層修飾リポソーム)の表面への固定化を示す。
図22において、グラフの縦軸はAlexa Fluor647の蛍光強度を示し、横軸は、Nhead-SNAP融合ペプチドをそれぞれ0μM、1μM、10μM添加した場合のベンジルグアニル(BG)基を介したNhead表層修飾リポソーム、および被修飾の通常のリポソームでの結果を示す。
【
図23】
図23は、大腸菌組換えNheadNstalk(NhNs)-SNAP融合ペプチドのコンストラクト設計を示す。上段はAtaAタンパク質の全長を、下段にNhNs-SNAP融合ペプチドを示す。上段の全長配列は、AtaAタンパク質のドメイン群構造を示し、左から順に、SP(シグナルペプチド)、Nhead、Nstalk、Chead、CstalkおよびTM(メンブレンアンカー)ドメインに対応する。下段は、融合ペプチドの構成を示し、左から順に、Nhead、Nstalk、GCN4アダプター、SNAPタンパク質およびStrepタグに対応する。
【
図24】
図24は、NhNsファイバー表層修飾リポソームとコントロールの通常のリポソームの顕微鏡写真を示す。左側はNhNsファイバー表層修飾リポソームの写真であり、右側は非修飾の通常のリポソーム(コントロール)の写真を示す。
【
図25】
図25は、NhNsファイバー表層修飾リポソームの粒形を、DLSにより解析した結果を示す。
図25Aは、比較のため、純水中に懸濁させたAcinetobacter sp. Tol5株およびΔataA変異株をDLSによって解析した結果を示し、白抜きの点は、Acinetobacter sp. Tol5株での結果を示し、灰色の点は、ΔataA変異株での結果を示す。
図25Bは、Tol5株細胞が純水中では自己凝集しないことを示す図である。
図25Cは、NhNsファイバー表層修飾リポソームおよび非修飾リポソームを、DLSにより解析した結果を示し、白抜きの点はNhNsファイバー表層修飾リポソームでの結果を示し、灰色の点は、非修飾リポソームでの結果を示す。
【
図26】
図26は、NhNsファイバー表層修飾リポソームによる接着アッセイを示す。
図26Aは、ポリスチレンプレートに、リポソームを接着させた実験の結果を示し、左側はベンジルグアニル基(BG)リポソームを使用してNhNsファイバーで修飾されたリポソームの接着結果を示し、右側はEgg phosphatidylcholine(PC)リポソームを使用したコントロールの非修飾リポソームの接着結果を示す。
図26Bは、ガラスプレートに、リポソームを接着させた実験の結果を示し、左側はNhNsファイバー表層修飾リポソームの接着結果を示し、右側はコントロールの非修飾リポソームの接着結果を示す。
図26Cは、βグルクロニダーゼ(GUS)を封入し、ポリスチレンプレートに固定したNhNsファイバー修飾リポソームによる酵素反応試験の結果を示す。グラフにおいて、丸印でデータを示す軸はGUSを封入したNhNsファイバー表層修飾リポソームのデータに対応し、三角印でデータを示す軸はGUSを封入した非修飾リポソームのデータに対応し、四角印でデータを示す軸はGUSを含まないNhNsファイバー表層修飾リポソームのデータに対応する。
【
図27】
図27は、SpyCatcherと融合した、SpyCatcher-Nhead融合ペプチドが二次構造をとることを示す。
図27Aは、上から順に、SpyCatcher-Nhead融合ペプチドのコンストラクト設計、およびSpyCatcher-Nhead融合ペプチドのAtaA断片部分のドメイン構造を明示した図を示す。
図27Bは、SpyCatcher-Nhead融合ペプチド(SpyCatcher-AtaA
59-325-GCN4pII-His)のアミノ酸配列とその詳細説明を示す。
図27Cは、SpyCatcher-Nhead融合ペプチドのCBB染色の結果を示す。
図27Cにおいて、左側に分子量を示し、右側の矢印はSpyCatcher-Nhead融合ペプチドの分子量を示す。
図27Dは、SpyCatcher-Nhead融合ペプチドのCDスペクトル測定の結果を示す。
図27Dにおいて、グラフの横軸は波長(nm)を示し、縦軸はCD(mdeg)を示す。
【
図28】
図28は、SpyTagと融合した、SpyTag-GFP融合ペプチドが二次構造をとることを示す。
図28Aは、SpyTag-GFPのコンストラクト設計を示す。
図28Bは、SpyTag-GFP融合ペプチド(SpyTag-GFP-His)のアミノ酸配列とその詳細説明を示す。
図28Cは、SpyTag-GFP融合ペプチドのCBB染色の結果を示す。
図28Cにおいて、左側に分子量を示し、右側の矢印はSpyTag-GFP融合ペプチドの分子量を示す。
図28Dは、SpyTag-GFP融合ペプチドのCDスペクトル測定の結果を示す。
図28Dにおいて、グラフの横軸は波長(nm)を示し、縦軸はCD(mdeg)を示す。
【
図29】
図29は、SpyCatcher-Nheadが、SpyTag-GFPと結合することを示す。
図29Aは、SpyCatcher-NheadとSpyTag-GFPとの結合を検出するための実験系を示す。
図29Bは、SpyCatcher-NheadとSpyTag-GFPとの結合を、CBB染色により検出した結果を示す。
図29Bにおいて、CBB染色のデータは、左から順に、分子量マーカー、SpyTag-GFP単独、SpyCatcher-Nhead単独、およびSpyCatcher-NheadとSpyTag-GFPとの混合物に対応する。左側に分子量を示し、右側の矢印は、GFP-Nhead結合産物、SpyCatcher-Nhead融合ペプチド、およびSpyTag-GFP融合ペプチドの分子量を示す。
【
図30】
図30は、SpyCatcher-Nheadを介して、SpyTag-GFPをポリスチレンプレートに固定化することができることを示す。
図30Aは、SpyCatcher-Nheadをポリスチレン(PS)プレート上に固定して、そこにSpyTag-GFPを結合させることによって、SpyTag-GFPを固定するモデル図を示す。
図30Bは、GFPの蛍光強度により、GFPの固定化量を計測した結果を示す。グラフは、左から順に、SpyTag-GFP単独、SpyTag-GFPとNheadとを使用したもの、SpyTag-GFPとSpyCatcher-Nheadとを使用したもので、ポリスチレンプレートをコーティングした場合の、GFP分子の固定化試験の結果を示し、グラフの縦軸は、相対蛍光強度(励起波長485nm/蛍光波長535nm)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0013】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0014】
(用語の定義)
本明細書において、「接着(adhere,adhesion)」または「固定(immobilize,immobilization)」とは、互換可能に使用され、本技術分野において通常使用される意味で使用され、「接着」または「固定」の対象の少なくとも一部を、接着または固定される目的物における一定の位置から少なくとも相対的に動かなくさせることを意味する。
【0015】
本明細書において、「凝集(aggregate,aggregation)」とは、本技術分野において通常使用される意味で使用され、分散した状態のポリペプチド等が、そのポリペプチド自体または他のポリペプチド等同士で、塊状に集まることを意味する。特に同じ種類のポリペプチド鎖同士が凝集する場合、自己凝集する(self-aggregate,self-aggregation)という。例えば、AtaAについていうと、複数のAtaA同士が凝集することで、塊を形成する現象が生じるので、自己凝集能があると言える。本開示の接着性ポリペプチドは、自己凝集性を有さないため、一例では、積層接着しないことになるため積層接着が好ましくない局面で有利である。
【0016】
また、自己凝集性を有しないことにより、接着用組成物中でポリペプチドが均質に分散し、均質な応力状態を生成することを可能にするため、より強固に接着または固定することができる。
【0017】
このほか、接着を維持しつつ自己凝集しない特性は以下の用途で有用である。すなわち、本開示の接着性ポリペプチドは、単層で融合物や機能性付与実体を接着または固定化させることによって、医薬品・化成品工業の分離プロセス、再生医療、細胞工学、医用工学、バイオセンサー、表面改質や機能性材料の設計などの材料工学等における、融合物および機能性付与実体の機能の制御に有用である。
【0018】
本明細書において、「結合(bind,bound)」とは、本技術分野において通常使用される意味で使用され、2つの物質の間、あるいはそれらの組み合わせの間で、物理的または化学的に会合することを意味する。特に、本開示においては、接着性ポリペプチドとストレプトアビジン、中性アビジンまたはそれらの改変体等との間の相互作用は、本明細書における「結合」に該当する。本明細書では、「結合」は、特異的な相互作用に該当するため「特異的結合」ともいう。他方、接着または固定は非特異的な相互作用によるものである。
【0019】
本明細書において、「分離(separation,separate)」とは、本技術分野において通常使用される意味で使用され、「結合」した状態にある2つ以上の物質において、物質間の少なくとも一部の「結合」状態が解除されることを意味する。
【0020】
本明細書において、「崩壊(disintegration,disintegrate)」とは、本技術分野において通常使用される意味で使用され、「凝集」した状態にある2つ以上の物質において、物質間の少なくとも一部の「凝集」状態が解除されることを意味する。
【0021】
本明細書において、「AtaA」とは、グラム陰性細菌がもつ三量体オートトランスポーターアドヘシン(TAA)ファミリーに属するタンパク質である。AtaAは、ホモ三量体を形成し、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、シグナルペプチド-Nhead-Nstalk-Chead-Cstalk-メンブレンアンカーの順に並んだドメイン群構造を有する。さらにNhead、Nstalk、Chead、Cstalkは、YlheadやTrp-ring、GIN、FGGなど様々なドメインを、またドメインによっては反復して含む。各ドメインは、neckやコイルドコイルなどの構造によって連結されている。N末端にシグナルペプチドを含まずに、先頭にメチオニンを付加し、かつ微生物細胞の外膜との結合部位を削除して、いわば細胞から分離状態にあるAtaAの断片配列のアミノ酸配列および核酸配列を、それぞれ配列番号1および2に示す。配列番号1および2において、Nhead(neckを含む)は、アミノ酸2~258位、核酸4~774位に対応し、Nstalkは、アミノ酸259~2846位、核酸775~8538位、Chead(neckを含まない)は、アミノ酸2855~3093位、核酸8563~9279位に対応し、Cstalk(βバレル内包部分を含む)は、アミノ酸3094~3518位、核酸9280~10554位に対応する。さらに、Nheadドメイン中には、接着性に関係するループ構造が2箇所存在し、これらのループ構造は、アミノ酸22~50位および161~175位、核酸64~150位および481~525位にそれぞれ対応する。Cheadは自己凝集に関与し得る。
【0022】
本明細書において、「アシネトバクター(Acinetobacter)」とは、生物分類上のアシネトバクター属を意味する。アシネトバクター属には、代表的にAcinetobacter sp. Tol5株が包含される。Acinetobacter sp. Tol5株は、排ガス処理リアクターから分離されたトルエン分解能を有する株であり、名古屋大学堀克敏研究室から入手可能である。本開示の接着性ポリペプチドは、アシネトバクター属に属するAcinetobacter sp. Tol5株によって生産されるものを包含するが、これに限定されない。
【0023】
本明細書において、「機能性付与実体」とは、本技術分野において通常使用される意味で使用され、任意の機能や作用を有するものを意味する。機能性付与実体は、本開示における接着性ポリペプチドまたはその断片によって結合され、その機能または作用としては、代表的に、医薬品・化成品工業の分離プロセス、再生医療、細胞工学、医用工学、バイオセンサー、表面改質や機能性材料の設計などの材料工学等において有用な各種機能または作用があり、標識などの機能が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、機能性付与実体は、タンパク質および/またはペプチドである。特定の実施形態では、機能性付与実体は、ストレプトアビジン、中性アビジンまたはそれらの改変体である。別の実施形態では、機能性付与実体は、細胞である。
【0024】
本明細書において、「ストレプトアビジン」とは、本技術分野において通常使用される意味で使用され、ストレプトマイセス属によって産生されるストレプトアビジン、またはその変異体、誘導体もしくはその等価物を意味する。そのアミノ酸配列の例としては、P22629-1、核酸配列はX03591により特定されているものなどを挙げることができるがこれに限定されない。本明細書における「ストレプトアビジン」は、代表的にはビオチンに高親和性で結合する。本明細書における「中性アビジン」は、「ニュートラ(ア)ビジン」等と同じ意味で使用され、中性付近にpI値有し、非特異的結合が抑制されたアビジンの改変体(特に、糖鎖除去体)を意味する。「中性アビジン」もまた、代表的にはビオチンに高親和性で結合する。「ストレプトアビジン」および「中性アビジン」は、本開示の接着性ポリペプチドと特異的に結合する特性を有する。
【0025】
本明細書において、「リポソーム」とは、本技術分野において通常使用される意味で使用され、極性の親水性基と脂質性の親油基を含む両親媒性分子が形成する球状の自己集合体であり、脂質二重層構造を有し、水性媒体中で実質的に閉じた構造を形成する小胞を意味する。リポソームは、内部にDNA、タンパク質、ペプチド等を包含させることが可能である。特定の実施形態において、リポソームは、輸送小胞として使用される。別の実施形態において、リポソームは、人工細胞として有用である。
【0026】
本明細書において「対応する」アミノ酸または核酸あるいは部分とは、あるポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子(例えば、AtaA等)において、比較の基準となるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおける所定のアミノ酸またはヌクレオチドあるいは部分と同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸またはヌクレオチドをいい、特に接着性ポリペプチドにあっては、接着に必須の部位中の同様の位置に存在し接着性に同様の寄与をするアミノ酸をいう。例えば、アンチセンス分子であれば、そのアンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログにおける同様の部分であり得る。対応するアミノ酸は、例えば、システイン化、グルタチオン化、S-S結合形成、酸化(例えば、メチオニン側鎖の酸化)、ホルミル化、アセチル化、リン酸化、糖鎖付加、ミリスチル化などがされる特定のアミノ酸であり得る。あるいは、対応するアミノ酸は、三量体化を担うアミノ酸であり得る。このような「対応する」アミノ酸または核酸は、一定範囲にわたる領域またはドメインであってもよい。従って、そのような場合、本明細書において「対応する」領域またはドメインと称される。
【0027】
本明細書において、「融合」とは、2つ以上の分子(例えば、ポリペプチドまたは核酸)またはその一部が共有結合により連結されることを意味する。2以上の部分がポリペプチドであり、それらが共有結合した複合体の場合は、「融合」によって生じた融合体または融合物、あるいは融合タンパク質または融合ペプチドであり、キメラペプチドとも称しうる。通常、ポリペプチド融合体の場合、二種類のポリペプチドをコードする核酸の塩基配列どうしを連結することにより核酸の融合体を作製し、それを設計図として融合ペプチドを組換えタンパク質として生産する。
【0028】
本明細書において、「複合体」とは、本技術分野において通常使用される意味で使用され、2以上の部分を含む任意の構成体を意味する。例えば、一方の部分がポリペプチドである場合は、他方の部分は、ポリペプチドであってもよく、それ以外の物質(例えば、糖、脂質、核酸、他の炭化水素、さらには細胞等)であってもよい。本明細書において複合体を構成する2以上の部分は、非共有結合性の様式(例えば、水素結合、イオン結合、疎水性相互作用、ファンデルワールス力等)で結合され得る。従って、本明細書において「複合体」は、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、脂質、糖、低分子などの分子が複数種連結してできた分子を含む。また、共有結合以外の結合による複合体は、2以上の部分を簡単な方法により分離しえる。簡単な方法とは、例えば、攪拌などの物理的手段によってせん断応力を与える、化合物を添加する、pHや塩濃度などの溶液条件を変える、温度変化を与える、といった操作が挙げられる。
【0029】
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、接着性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。親水性指標もまた、改変体作製において考慮される。米国特許第4、554、101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(-0.4);プロリン(-0.5±1);アラニン(-0.5);ヒスチジン(-0.5);システイン(-1.0);メチオニン(-1.3);バリン(-1.5);ロイシン(-1.8);イソロイシン(-1.8);チロシン(-2.3);フェニルアラニン(-2.5);およびトリプトファン(-3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
【0030】
本開示において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0031】
本明細書で使用される(接着性ポリペプチド等の)「改変体」、「誘導体」、「類似体」または「変異体」は、交換可能に使用され、好ましくは、限定を意図するものではないが、対象となるタンパク質(例えば、接着性ポリペプチド)に実質的に相同な領域を含む分子を含み、アミノ酸配列、核酸配列(ヌクレオチド配列、塩基配列)の場合、このような配列は「改変配列」、「誘導配列」、「類似配列」、「変異配列」という。このような分子は、種々の実施形態において、同一サイズのアミノ酸配列にわたり、または当該分野で公知のコンピュータ相同性プログラムによってアラインメントを行ってアラインされる配列と比較した際、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%同一であるか、あるいはこのような分子をコードする核酸は、(高度に)ストリンジェントな条件、中程度にストリンジェントな条件、またはストリンジェントでない条件下で、構成要素タンパク質をコードする配列にハイブリダイズ可能である。これは、それぞれ、アミノ酸置換、欠失および付加によって、タンパク質を改変した産物であり、その改変体または誘導体がなお元のタンパク質の生物学的機能を、必ずしも同じ度合いでなくてもよいが示すタンパク質を意味する。改変体は、もとの配列に対して好ましくは70%以上同一、より好ましくは80%以上同一、さらに好ましくは90%以上同一、さらにより好ましくは、95%以上同一、98%以上同一、99%以上同一の配列を有し得る。例えば、本明細書において記載されあるいは当該分野で公知の適切で利用可能なin vitroアッセイによって、このようなタンパク質の生物学的機能を調べることも可能である。本明細書で使用される「機能的に活性な」は、本明細書において、本開示のポリペプチド、すなわちフラグメントまたは誘導体が関連する態様に従って、生物学的活性などの、タンパク質の構造的機能、制御機能、または生化学的機能を有する、ポリペプチド、すなわちフラグメントまたは誘導体を指す。したがって、一つの実施形態では、本開示の改変体は機能的等価物を指す。
【0032】
本開示において、接着性ポリペプチドのフラグメントとは、接着性ポリペプチドの任意の領域を含むポリペプチドであり、本開示の目的(例えば、自己凝集せずに固定および/または接着させること)として機能する限り、必ずしも天然の接着性ポリペプチドの生物学的機能のすべてを有していなくてもよい。
【0033】
本明細書において「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。本開示のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの長さとしては好ましくは最小で237アミノ酸残基、最大で3364アミノ酸残基、より好ましくは、最小で256アミノ酸残基、最大で2846アミノ酸残基が挙げられうる。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、メチル化、トリメチル化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)が包含される。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然アミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。本明細書において、「アミノ酸」は、アミノ基とカルボキシル基を持つ有機化合物の総称である。本開示の実施形態に係るポリペプチドが「特定のアミノ酸配列」を含むとき、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸が化学修飾を受けていてもよい。また、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸が塩、または溶媒和物を形成していてもよい。また、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸がL型、またはD型であってもよい。それらのような場合でも、本開示の実施形態に係るタンパク質は、上記「特定のアミノ酸配列」を含むといえる。タンパク質に含まれるアミノ酸が生体内で受ける化学修飾としては、例えば、N末端修飾(例えば、アセチル化、ミリストイル化等)、C末端修飾(例えば、アミド化、グリコシルホスファチジルイノシトール付加等)、または側鎖修飾(例えば、リン酸化、糖鎖付加等)等が知られている。アミノ酸は、本開示の目的を満たす限り、天然のものでも非天然のものでもよい。
【0034】
本明細書において「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」を含む。「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’-O-メチル-リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’-P5’ホスホロアミデート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC-5プロピニルウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC-5チアゾールウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC-5プロピニルシトシンで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine-modified cytosine)で置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、DNA中のリボースが2’-O-プロピルリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体およびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’-メトキシエトキシリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体などが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作製することにより達成され得る(Batzer et al.,Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsuka et al.,J.Biol.Chem.260:2605-2608(1985);Rossolini et al.,Mol.Cell.Probes 8:91-98(1994))。本明細書において「核酸」はまた、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。
【0035】
本明細書において「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいい、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」をさすことがある。
【0036】
本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいい、一般に「相同性」を有するとは、同一性または類似性の程度が高いことをいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。また、「相同性」の概念は同様に、アミノ酸配列についても該当し、その場合同一性の数値などはアミノ酸配列に置き換えて解釈し得る。従って本明細書において「相同体」または「相同遺伝子産物」は、本明細書にさらに記載する融合体等のタンパク質構成要素と同じ生物学的機能を発揮する、別の種、好ましくは微生物、より好ましくは細菌におけるタンパク質を意味する。こうような相同体はまた、「オルソログ遺伝子産物」とも称されることもある。本開示の目的に合致する限り、このような相同体、相同遺伝子産物、オルソログ遺伝子産物等も用いることができることが理解される。
【0037】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST2.7.1(2017.10.19発行)を用いて行うことができる。本明細書における「同一性」の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメータの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。「類似性」は、同一性に加え、類似のアミノ酸についても計算に入れた数値である。
【0038】
本開示の一実施形態において「数個」は、例えば、10、8、6、5、4、3、または2個であってもよく、それらいずれかの値以下であってもよい。1または数個のアミノ酸残基の欠失、付加、挿入、または他のアミノ酸による置換を受けたポリペプチドが、その生物学的活性を維持することは知られている(Mark et al.,Proc Natl Acad Sci USA.1984 Sep;81(18):5662-5666.、Zoller et al.,Nucleic Acids Res. 1982 Oct 25;10(20):6487-6500.、Wang et al.,Science.1984 Jun 29;224(4656):1431-1433.)。欠失等がなされたポリペプチドは、例えば、部位特異的変異導入法、またはランダム変異導入法等によって作製できる。部位特異的変異導入法としては、例えばKOD-Plus- Mutagenesis Kit(TOYOBO CO.,LTD.)を使用できる。欠失等を導入した変異型ポリペプチドから、野生型と同様の活性のあるポリペプチドを選択することは、FACS解析やELISA等の各種キャラクタリゼーションを行うことで可能である。
【0039】
本開示の一実施形態において同一性等の数値である「70%以上」は、例えば、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%以上であってもよく、それら起点となる数値のいずれか2つの値の範囲内であってもよい。上記「同一性」は、2つもしくは複数間のアミノ酸配列において相同なアミノ酸数の割合を、上述したような公知の方法に従って算定される。具体的に説明すると、割合を算定する前には、比較するアミノ酸配列群のアミノ酸配列を整列させ、同一アミノ酸の割合を最大にするために必要である場合はアミノ酸配列の一部に間隙を導入する。整列のための方法、割合の算定方法、比較方法、およびそれらに関連するコンピュータプログラムは、当該分野で従来からよく知られている(例えば、上述したBLAST等)。本明細書において「同一性」および「類似性」は、特に断りのない限りNCBIのBLASTによって測定された値で表すことができる。BLASTでアミノ酸配列を比較するときのアルゴリズムには、Blastpをデフォルト設定で使用できる。測定結果はPositivesまたはIdentitiesとして数値化される。
【0040】
本明細書において「ストリンジェント(な)条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本開示のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法などを用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7~1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1~2倍濃度のSSC(saline-sodiumcitrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。「ストリンジェントな条件」は、例えば、以下の条件を採用することができる。(1)洗浄のために低イオン強度および高温度を用いる(例えば、50℃で、0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウム)、(2)ハイブリダイゼーション中にホルムアミド等の変性剤を用いる(例えば、42℃で、50%(v/v)ホルムアミドと0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%のポリビニルピロリドン/50mMのpH6.5のリン酸ナトリウムバッファー、および750mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウム)、または(3)20%ホルムアミド、5×SSC、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハード液、10%硫酸デキストラン、および20mg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中で、37℃で一晩インキュベーションし、次に約37-50℃で1×SSCでフィルターを洗浄する。なお、ホルムアミド濃度は50%またはそれ以上であってもよい。洗浄時間は、5、15、30、60、もしくは120分、またはそれら以上であってもよい。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーに影響する要素としては温度、塩濃度など複数の要素が考えられ、詳細はAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Wiley Interscience Publishers,(1995)を参照することができる。「高度にストリンジェントな条件」の例は、0.0015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、65~68℃、または0.015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、および50%ホルムアミド、42℃である。ハイブリダイゼーション、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1-38,DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)などの実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。中程度のストリンジェントな条件は、例えば、DNAの長さに基づき、当業者によって、容易に決定することができ、Sambrook et al.、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3番、Vol.1、7.42-7.45 Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001に示され、そしてニトロセルロースフィルターに関し、5×SSC、0.5% SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の前洗浄溶液、約40-50℃での、約50%ホルムアミド、2×SSC-6×SSC(または約42℃での約50%ホルムアミド中の、スターク溶液(Stark’s solution)などの他の同様のハイブリダイゼーション溶液)のハイブリダイゼーション条件、および約60℃、0.5×SSC、0.1% SDSの洗浄条件の使用が含まれる。従って、本開示において使用されるポリペプチドには、本開示で特に記載されたポリペプチドをコードする核酸分子に対して、高度または中程度でストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされるポリペプチドも包含される。
【0041】
本開示の接着性ポリペプチドは、好ましくは「精製された」または「単離された」ものであり得る。本明細書において「精製された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その物質または生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。従って、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。本明細書中で使用される用語「精製された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本開示で用いられる物質または生物学的因子は、好ましくは「精製された」物質である。本明細書で使用される「単離された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その物質または生物学的因子に天然に随伴する因子が実質的に除去されたものをいう。本明細書中で使用される用語「単離された」は、その目的に応じて変動するため、必ずしも純度で表示される必要はないが、必要な場合、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本開示で用いられる物質は、好ましくは「単離された」物質または生物学的因子である。
【0042】
本明細書において「断片」または「フラグメント」とは、本明細書において同じ意味で使用され、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1~n-1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。断片の長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本開示のポリペプチドの断片としては、237以上、3364以下が好ましく、より好ましくは256以上、2846以下が挙げられ、例えば下限は、237アミノ酸、256アミノ酸、300アミノ酸、400アミノ酸、500アミノ酸、600アミノ酸、700アミノ酸、800アミノ酸、900アミノ酸、1000アミノ酸などであり得、上限は、1000アミノ酸、1100アミノ酸、1200アミノ酸、1300アミノ酸、1400アミノ酸、1500アミノ酸、1600アミノ酸、1700アミノ酸、1800アミノ酸、1900アミノ酸、2000アミノ酸、2100アミノ酸、2200アミノ酸、2300アミノ酸、2400アミノ酸、2500アミノ酸、2600アミノ酸、2700アミノ酸、2800アミノ酸、2846アミノ酸、2900アミノ酸、3000アミノ酸、3100アミノ酸、3200アミノ酸、3300アミノ酸、3364アミノ酸であり得るがこれに限定されるものではなく、所望の特性(例えば、自己凝集性の欠如、接着性の維持)が維持される限り、これら以外の長さでもよい。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、このような断片は、例えば、全長のものが接着性分子として機能する場合、その断片自体もまた接着性ポリペプチドとしての機能を有する限り、本開示の範囲内に入ることが理解される。
【0043】
本明細書において「生物学的機能」とは、ある遺伝子またはそれに関する核酸分子もしくはポリペプチドについて言及するとき、その遺伝子、核酸分子またはポリペプチドが生体内または生体外において有し得る特定の機能をいい、これには、例えば、接着性等を挙げることができるがそれらに限定されない。本明細書において、生物学的機能は、対応する「生物学的活性」によって発揮され得る。本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質など)が、有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、接着性)を発揮する活性が包含される。「生物学的活性」は、生体内で発揮される活性であっても、分泌などによって生体外で発揮される活性であってもよい。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。従って、「活性」は、結合(直接的または間接的のいずれか)を示すかまたは明らかにするか;応答に影響する(すなわち、いくらかの曝露または刺激に応答する測定可能な影響を有する)、種々の測定可能な指標をいい、例えば、本開示のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに直接結合する化合物の親和性、または例えば、いくつかの刺激後または事象後の上流または下流のタンパク質の量あるいは他の類似の機能の尺度も含まれ得る。
【0044】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様である。したがって、本明細書において「発現産物」とは、このようなポリペプチドもしくはタンパク質、またはmRNAを含む。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。例えば、接着性ポリペプチドの発現レベルは、任意の方法によって決定することができる。具体的には、接着性ポリペプチドのmRNAの量、接着性ポリペプチドの量、そして接着性ポリペプチドの生物学的な活性を評価することによって、接着性ポリペプチドの発現レベルを知ることができる。接着性ポリペプチドのmRNAやポリペプチドまたはタンパク質の量は、本明細書の他の箇所に詳述したような方法あるいは他の当該分野において公知の方法によって決定することができる。
【0045】
本明細書において「機能的等価物」とは、対象となるもとの実体に対して、目的となる機能が同じであるが構造が異なる任意のものをいう。従って、本開示の「接着性ポリペプチド」の機能的等価物は、本開示の接着性ポリペプチド自体ではないが、その変異体または改変体(例えば、アミノ酸配列改変体等)であって、その接着性ポリペプチドの持つ生物学的作用を有するもの、ならびに、作用する時点において、その接着性ポリペプチドの持つ生物学的作用を持つ変異体もしくは改変体に変化することができるもの(例えば、その変異体もしくは改変体をコードする核酸、およびその核酸を含むベクター、細胞等を含む)が包含されることが理解される。本開示において、接着性ポリペプチドの機能的等価物は、格別に言及していなくても、接着性ポリペプチドと同様に用いられうることが理解される。機能的等価物は、データベース等を検索することによって、見出すことができる。本明細書において「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403-410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman, Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444-2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman,J.Mol.Biol.147:195-197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443-453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよびin situハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、本開示において使用される遺伝子には、このような電子的検索、生物学的検索によって同定された対応遺伝子も含まれるべきであることが意図される。
【0046】
本開示(ポリペプチドなど)の機能的等価物としては、アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加されたものを用いることができる。本明細書において、「アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加」とは、部位特異的突然変異誘発法等の周知の技術的方法により、あるいは天然の変異により、天然に生じ得る程度の複数個の数のアミノ酸の置換等により改変がなされていることを意味する。改変アミノ酸配列は、例えば1~30個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~9個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~2個のアミノ酸の挿入、置換、もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加がなされたものであることができる。改変アミノ酸配列は、好ましくは、そのアミノ酸配列が、配列番号1または4のアミノ酸配列において1または複数個(好ましくは1もしくは数個または1、2、3、もしくは4個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であってもよい。ここで「保存的置換」とは、タンパク質の機能を実質的に改変しないように、1または複数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該分野において公知である。具体例を挙げると、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0047】
本明細書において「支持体」とは、ペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド、細胞、細菌、またはウイルスさらには糖、脂質、その他の低分子を担持することができる物質をいう。支持体として使用するための材料には、固体表面を形成し得る任意の物質が使用され得るが、例えば、脂質二重構造体(例えば、リポソーム)、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属(合金も含まれる)、チタン、アクリル、天然および合成のポリマー(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、セルロース、キトサン、デキストラン、ナイロン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ乳酸、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE))が挙げられるがそれらに限定されない。
【0048】
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、酵素や緩衝液、説明書など)が提供されるユニットをいう。安定性等のため、混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分(例えば、酵素)をどのように使用するか、あるいは、試薬あるいは使用後の廃液をどのように処理すべきかを記載する指示書または説明書を備えていることが有利である。本明細書においてキットが試薬キットとして使用される場合、キットには、通常、酵素等の使い方などを記載した指示書などが含まれる。
【0049】
本明細書において「指示書」は、本開示を使用する方法を使用者に対する説明を記載したものである。この指示書は、本開示の使用方法を指示する文言が記載されている。この指示書は、必要な場合は、本開示が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省または農林水産省等、米国であれば食品医薬品局(FDA)、農務省(USDA)など)が規定した様式に従って作製され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、紙媒体で提供され得るが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0050】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0051】
(自己凝集性を有しない接着性ポリペプチド)
1つの局面において、本開示は、自己凝集性を有さず、かつ接着性を有する、接着性ポリペプチドの新規の断片またはその改変体、およびそれをコードする核酸を提供する。
【0052】
代表的局面において、本開示は、AtaAの断片またはその改変体であって、自己凝集性を有さず接着性を有するものを提供する。
【0053】
ある実施形態において、本開示は、代表的に、Acinetobacter sp. Tol5株から得られる、接着性ポリペプチドの代表的配列およびその改変体を提供する。
【0054】
1つの実施形態において、本開示は、自己凝集性を有さず、かつ接着性を有する、配列番号1に示すアミノ酸配列の断片またはその改変体を含むポリペプチドを提供する。
【0055】
特定の実施形態では、本開示の接着性ポリペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を含み、かつ配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸2847~3093位に対応する配列の範囲に1アミノ酸以上の置換、付加、欠失またはそれらの組合せを含む。好ましくは、上記配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸2847~3093位に対応する配列の範囲は、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸2855~3093位に対応する範囲である。より好ましくは、本開示の接着性ポリペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸2855~3093位に対応する配列のすべてを欠失する。特定の実施形態では、上記改変配列は、保存的置換による改変を含む。
【0056】
特定の実施形態において、本開示は、
(1)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~3518位に対応する配列またはその改変配列またはその断片において、
配列番号1のアミノ酸2855~3093位に対応する配列に少なくとも1アミノ酸以上の置換、付加、欠失またはそれらの組合せを含み、
配列番号1のアミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する配列を含む、ポリペプチド;
(2)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~3093位に対応する配列またはその改変配列またはその断片において、
アミノ酸2855~3093位に対応する配列に少なくとも1アミノ酸以上の置換、付加、欠失またはそれらの組合せを含み、
アミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する配列を含む、ポリペプチド;
(3)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~2846位に対応する配列またはその改変配列またはその断片であって、
アミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する、ポリペプチド;
(4)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~3518位の一部(ここで、「一部」とは、全長配列に対して、欠損している部分があるものを指し、断片の他、中間部分が欠落している配列も包含する。)を含み、
配列番号1のアミノ酸2855~3093位に対応する配列に少なくとも1アミノ酸以上の置換、付加、欠失またはそれらの組合せを含み、
配列番号1のアミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する、ポリペプチド;
(5)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~2854位に対応する配列またはその改変配列またはその断片であって、
アミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する、ポリペプチド;
(6)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~268位に対応する配列またはその改変配列またはその断片であって、
アミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する、ポリペプチド;または
(7)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~257位に対応する配列またはその改変配列またはその断片であって、
アミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する、ポリペプチド
である、ポリペプチドを提供する。
【0057】
特定の実施形態では、本開示は、
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~2854位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片であって、
アミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する、ポリペプチド、
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~2846位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片であって、
アミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~268位に対応する配列またはその改変配列またはその断片であって、
アミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する、ポリペプチド;または
(d)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~257位に対応する配列またはその改変配列またはその断片であって、
アミノ酸22~50位および161~175位に対応する配列またはその改変配列を有する、ポリペプチド
であるポリペプチドを提供する。
【0058】
特定の実施形態では、本開示は、
(1)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~2854位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片である、ポリペプチド;
(2)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~2846位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片である、ポリペプチド;
(3)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~268位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片である、ポリペプチド;または
(4)配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~257位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片である、ポリペプチド;
である、ポリペプチドを提供する。
【0059】
特定の実施形態では、本開示の接着性ポリペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~2854位または2位~2854位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片である。好ましくは、本開示の接着性ポリペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~2854位または2位~2854位に対応するアミノ酸配列からなる。
【0060】
特定の実施形態では、本開示の接着性ポリペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1位~2846位または2位~2846位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片である。好ましくは、本開示の接着性ポリペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1位~2846位または2位~2846位に対応するアミノ酸配列からなる。
【0061】
特定の実施形態では、本開示の接着性ポリペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~268位または2~268位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片である。好ましくは、本開示の接着性ポリペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~268位または2~268位に対応するアミノ酸配列からなる。
【0062】
特定の実施形態では、本開示の接着性ポリペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~257位または2~257位に対応するアミノ酸配列またはその改変配列またはその断片である。好ましくは、本開示の接着性ポリペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列のアミノ酸1~257位または2~257位に対応するアミノ酸配列からなる。
【0063】
一部の実施形態では、本発明の接着性ポリペプチドは、アシネトバクター菌由来である。特定の実施形態では、上記アシネトバクター菌が、Acinetobacter sp. Tol5株である。
【0064】
一部の実施形態では、本開示の接着性ポリペプチドは、配列番号1とは異なるアミノ酸配列をさらに含む。特定の実施形態では、上記異なるアミノ酸配列は、本開示の接着性ポリペプチドと融合されている。一実施形態では、上記異なるアミノ酸配列は、SNAPタンパク質をコードするアミノ酸配列である。
【0065】
特定の実施形態では、本開示は、本開示の接着性ポリペプチドと、機能性付与実体との複合体を提供する。
【0066】
1つの実施形態では、本開示のポリペプチドまたはその機能性付与実体との複合体は、第一の対象を第二の対象に接着および/または固定化する能力、または自己凝集しない能力またはその両方を有し得る。
【0067】
1つの実施形態では、本開示のポリペプチドまたはその機能性付与実体との複合体は、上記第一の対象を単層で接着させる能力を有する。
【0068】
特定の実施形態において、上記第一の対象と上記第二の対象とは同じである。別の実施形態では、上記第一の対象と上記第二の対象とは異なる。
【0069】
1つの実施形態では、上記第一の対象または上記第二の対象の少なくとも1つは、機能性付与実体である。機能性付与実体としては、バイオセンサー、生体分子の分離・標識、再生医療、バイオ・有機・無機ハイブリッド材料の生産、表面改質・機能化、発酵工業、医薬品工業、化成品工業、バイオ燃料の製造、排水処理、バイオレメディエーション等に有用な機能を有するものが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、機能性付与実体は、タンパク質および/またはペプチドである。さらに具体的な実施形態では、機能性付与実体は、ストレプトアビジン、中性アビジン、それらの誘導体、酵素、抗体、蛍光分子、受容体、機能性ペプチド(抗菌・蛍光・シグナル因子・誘導因子等)、核酸アプタマー、血清成分等である。
【0070】
1つの実施形態では、本開示のポリペプチド、融合ポリペプチド、またはその機能性付与実体との複合体は、細胞を接着および/または固定化するために使用される。接着および/または固定化される細胞は、任意の細胞であり、例えば、動物細胞、植物細胞および微生物細胞等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
1つの実施形態では、上記第二の対象は、支持体である。特定の実施形態では、上記支持体は、リポソームである。
【0072】
1つの実施形態では、本開示のポリペプチド、融合ポリペプチド、またはその機能性付与実体との複合体は、上記ポリペプチドが含む、AtaAとは異なるアミノ酸配列のポリペプチド、または上記複合体が含む機能性付与実体を、第二の対象に接着させる能力を有する。
【0073】
(接着性ポリペプチドの生産)
1つの実施形態では、本開示の接着性ポリペプチドおよび融合ポリペプチドは、微生物を使用する発現系によって生産される。
【0074】
本開示の接着性ポリペプチド、またはその融合ポリペプチドは、大腸菌に組換えタンパク質として、通常、実験室でよく行われている通りの方法で生産させることができる。すなわち、AtaAの断片または該断片にペプチドを融合した融合ペプチドをコードする遺伝子を、pETシステムなど適切な大腸菌発現ベクターの適切な位置に挿入し、大腸菌を形質転換し、誘導物質を加えて遺伝子発現を誘導するか、恒常発現プロモーター下で恒常発現させる。該タンパク質は、細胞質内に生産させることが多いが、ペリプラズム中に分泌生産させることも可能である。後者の場合、AtaAタンパク質が本来有しているシグナルペプチドあるいは、大腸菌発現ベクターに組み込まれているシグナルペプチドをコードする遺伝子配列を、該タンパク質をコードする5’末端側につなぐことで、該タンパク質のアミノ末端側にシグナルペプチドが付加される形式で該タンパク質が生産される。なお、シグナルペプチドは、生産された該タンパク質がペリプラズムに分泌されると切断除去されるので、得られるAtaA断片またはその融合タンパク質は、シグナルペプチドを含んでいない。細胞内に生産された該タンパク質は、可溶化成分から分離精製することが通常であるが、インクルージョンボディから分離したのち、巻き戻しによって活性を有するタンパク質として得てもよい。なお、生産されたタンパク質は、あらかじめ該タンパク質に融合したHisタグやストレプトタグなどを利用して、通常用いられるアフィニティ精製法によって分離精製することができる。さらに、SNAPタンパク質などが融合されている場合は、ベンジルグアニル(BG)基を有する分子を利用して、分離精製してもよい。さらに精製度をあげる場合、イオン交換クロマトグラフィーやゲルろ過などを併用してもよい。
【0075】
この微生物を使用する接着性ポリペプチドの生産方法において、接着性ポリペプチドを発現させる方法、接着性ポリペプチドを発現させる宿主、宿主から分泌された接着性ポリペプチドの精製方法等の詳細な条件は、当業者によって適宜調整される。さらに、本開示の接着性ポリペプチドは、微生物の菌体内発現系以外にも、分泌生産系、無細胞発現系等の種々の発現系を使用して発現させることもできる。
【0076】
上述の微生物に本開示の接着性ポリペプチドを含む目的のポリペプチドを生産させるための方法は、単なる例示であり、当業者は、本技術分野で慣用される手法によって、本開示の遺伝子の核酸配列(塩基配列)またはアミノ酸配列を参考に、合成遺伝子を作製することで、発現ベクターに挿入するDNA断片の設計および構築を容易に行うことができる。
【0077】
(ポリペプチドの使用)
一つの局面において、本開示の接着性ポリペプチドは、材料工学プロセスに有用である。他の局面では、本開示の接着性ポリペプチドは、バイオプロセスを使用する工業に有用である。ある実施形態では、本開示の接着性ポリペプチドは、タンパク質、ペプチドまたは細胞を高密度に密集させて固定することによって、表面改質、材料設計等の材料工学プロセス、発酵工業、医薬品工業、化成品工業、バイオ燃料の製造、排水処理、バイオレメディエーション、再生医療、細胞工学、医用工学、バイオセンサー等の技術分野におけるバイオプロセスを効率的に実施することができる。
【0078】
別の局面では、本開示の接着性ポリペプチドは、酵素などを含有させたリポソームを固定して、バイオセンサーや環境浄化などに利用することも可能である。特に環境中で使用する場合、生きている細胞と異なり増殖はできないため、組換え遺伝子やタンパク質を使用してもバイオハザードや生態系破壊のリスクがほぼないという利点がある。
【0079】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその4th Ed.(2012)、岡田雅人、宮崎香、2011年、「タンパク質実験ノート 改訂第4版」上巻および下巻、羊土社などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0080】
(注記)
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0081】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0082】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0083】
以下に実施例を記載する。以下の実施例で用いる生物の取り扱いは、必要な場合、名古屋大学や監督官庁およびカルタヘナ法において規定される基準を遵守した。試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma-Aldrich、富士フイルム和光純薬、ナカライテスク、R&DSystems、USCN Life Science INC、Thermo Fisher Scientific、関東化学、フナコシ、東京化成、Merck等)の同等品でも代用可能である。
【0084】
(実施例1:細胞凝集においてAtaAと共に凝集塊を形成する細胞表層分子の探索)
本実施例では、
図1Aの実験モデルに示される実験手法によって得られた、顕微鏡観察による細胞の凝集解析を示す。
【0085】
(方法)
mRFP(赤色蛍光タンパク質)を発現し、正常なAtaAタンパク質を発現するAcinetobacter sp. Tol5株と、EGFP(緑色蛍光タンパク質)を発現し、正常なAtaAタンパク質を発現するAcinetobacter sp. Tol5株、またはΔAtaA株とを均一に混合した。形成された細胞凝集を顕微鏡下で観察し、取得された画像を微小領域に区切って、EGFPを発現する細胞の割合を計算した。
【0086】
(結果)
図1Bは、EGFPを発現するAcinetobacter sp. Tol5株と、mRFPを発現するAcinetobacter sp. Tol5株とを混合して形成された細胞凝集塊の画像および微小区画中のEGFPを発現する細胞の割合のヒストグラムを示す。どちらの蛍光タンパク質発現株も、正常なAtaAタンパク質を発現している。
図1Cは、正常なAtaAタンパク質とmRFPを発現するAcinetobacter sp. Tol5株と、EGFPを発現するΔAtaA株とを混合して形成された細胞凝集塊の画像および微小区画中のEGFPを発現する細胞の割合のヒストグラムを示す。
図1Bにおいて、EGFPを発現する細胞は、細胞塊中に均一に存在し、EGFPを発現する細胞の割合のヒストグラムは中央にピークを示した。これに対し、
図1Cにおいて、EGFPを発現する細胞は、細胞塊中に取り込まれず、EGFPを発現する細胞の割合のヒストグラムは端にピークを示した。
【0087】
(考察)
AtaAを発現する細胞は、他の細胞表層分子とは凝集塊を形成せず、AtaAを発現する細胞と凝集することが示された。すなわち、Tol5株の細胞自己凝集は、AtaA分子同士の相互作用によるものであることが示された。
【0088】
(実施例2:自己凝集ドメインの探索)
本実施例では、AtaAタンパク質のうちの自己凝集に関係するドメインの探索を行った。
【0089】
(方法)
(1)Nheadが欠損した構造のAtaA(配列番号7)、(2)、(3)および(4)Nstalk内の一部が欠損した構造のAtaA(それぞれ配列番号9、11および13)、(5)Nstalk内の一部に加え、Cheadを欠損させた構造のAtaA(配列番号15)、(6)Cstalkの大部分が欠損(FGGドメインは保存)した構造のAtaA(配列番号17)を設計した(
図2A)。なお、各部分欠損体の構築は、ドメインアノテーションに基づいて構造を壊さないようにドメイン間のつなぎの部分で切断、削除し再結合するか、やむを得ずドメイン内で切断する場合でも、AtaA内に存在する繰り返し配列を利用することで、欠損後もそのドメインとアミノ酸配列が保存されているようにつないだ。さらに、ドメイン内にあって繰り返し配列も利用できない場合は、コイルドコイルの周期性を利用して、切断、削除、再結合後にコイルドコイルの周期性が復活するようにした。
【0090】
各部分欠損体について、ataA遺伝子をクローニングしてあるpAtaA、pDONR221::ataA、合成遺伝子断片を利用して発現コンストラクトを構築した。発現コンストラクトを保有するドナー株E.coli S17-1(Simon,R.;Priefer,U.;Puhler,A.,Bio-Technol1983,1,(9),784-791)との接合により、Tol5のataA遺伝子欠損変異株である4140株を形質転換し、各部分欠損体を発現する形質転換株(ドメイン欠損株)を得た。全長AtaAを発現する野生株はmRFPの遺伝子で、ドメイン欠損株はEGFPの遺伝子で形質転換し、それぞれ赤色、緑色蛍光を示す株を作製した。そして、これらの形質転換株を使用して、実施例1に記載の方法と同様の手法によって、細胞凝集特性を評価した。
【0091】
(結果)
結果を
図2Bに示す。正常なAtaAタンパク質を発現するAcinetobacter sp. Tol5株と、(1)Nheadが欠損した構造のAtaAタンパク質を発現するAcinetobacter sp. Tol5株とを混合した場合には、EGFPを発現するドメイン欠損株細胞の細胞塊への取り込みが認められなかった。一方で、(1)以外の部分欠損体を発現させたドメイン欠損株細胞は、細胞塊中に均一に存在し、EGFPを発現する細胞の割合のヒストグラムは中央にピークを示した。
【0092】
(考察)
(1)全長のAtaAタンパク質を発現するTol5野生株は、Nheadが欠損した構造のAtaAタンパク質を発現するAcinetobacter sp. Tol5株のみと凝集できず、Nhead以外の部位を欠損した構造のAtaAタンパク質を発現するAcinetobacter sp. Tol5株とは凝集できたことから、AtaAのNhead同士が微生物細胞の自己凝集、つまりAtaA同士の相互作用に必須であることが示された。すなわち、Nhead同士が自己凝集することで、AtaAの分子間相互作用を引き起こすことが示唆された。
【0093】
(実施例3:Nhead組換えタンパク質の設計・作製とフォールディングの解析)
本実施例では、AtaAのNheadドメインを、正常にフォールディングされる組換えタンパク質として発現させるためのコンストラクトの設計を行った。
【0094】
(方法)
(コンストラクトの構築)
今回、初めて、AtaAの接着と自己凝集性を担う機能部位であるNheadを組換えタンパク質として大腸菌に作らせることととした。Nhead組換えタンパク質のコンストラクト設計(配列番号19)を
図3Aに示す。AtaAは同種のポリペプチド鎖が三本集まってホモ三量体を形成することで、正しくフォールディングされ、機能を発揮する。組換えタンパク質のコンストラクトの設計は非常に難しく、三量体がきちんと形成され、正しくフォールディングされるように設計することは、タンパク質工学の専門家にとっても容易ではない。Nheadの構造は主としてβストランドで構成されることが、一次構造(アミノ酸配列)から想定された。βストランドの会合による三量体の形成は困難が予想され、NheadのC末側に存在するneckもコンストラクトに含める必要があると考えた。さらに、三量体形成を促進することが知られているコイルドコイル構造であるGCN4pIIタグを、Nheadにつなげることとした。GCN4pIIとうまくつながるように、NstalkのN末側先端にあるFGGドメインの一部であるコイルドコイルを介してGCN4pIIタグにつなげることで、コイルドコイルの周期性を維持する設計とした。さらに、分離精製を容易にするため、GCN4pIIタグのC末側にHisタグも導入した。このように設計されたNhead組換えタンパク質(AtaAの配列の59~325位のアミノ酸断片:配列番号1の2~268位のアミノ酸断片に対応する)のアミノ酸配列を
図3Cに示す。これには、配列の由来も示してある。このコンストラクトを作製するため、pIBA-GCN4tri-Hisベクターの制限酵素XbaI/BsaI消化断片に、配列番号1のアミノ酸1~268位をコードする遺伝子断片を挿入し、pIBA::Nhead組換えDNA(pIBA-GCN4tri-His::ataA
59-325)を作製した。精製したNhaed組換えタンパク質がきちんとフォールディングされているかどうかを知る指標として、CDスペクトルによる二次構造の解析を行った。
【0095】
(Nhead組換えタンパク質の精製)
BL21 star(DE3;pIBA-GCN4tri-His::ataA59-325)を終夜培養した培養物を、LB培地中で1:100に希釈し、37℃で3時間インキュベートした。インキュベート後、培地中に0.2μg/mlの無水テトラサイクリン(AHTC)を添加し、さらに28℃で6時間インキュベートした。細胞を4℃、5,000×gで15分間遠心分離を行うことによって回収し、溶解バッファー(20mM Tris-HCl、150mM NaClおよび20mM イミダゾール、pH9.0)に再懸濁し、高圧ホモジナイザー(LAB 2000、株式会社エスエムテー)を使用して、1,000barで10分間溶解した。4℃において10,000×gで15分間遠心分離後、上清をNi-NTA Superflowカラム(Qiagen NV)にロードし、溶解バッファーで2回洗浄することによって、未結合のタンパク質を除去した。結合したタンパク質を溶出バッファー(20mM Tris-HCl、150mM NaClおよび400mM イミダゾール、pH9.0)により溶出した。溶出されたタンパク質を、陰イオン交換カラム(HiTrap Q HP、GE Healthcare)にロードし、組換えタンパク質を含むフロースルー画分を、50mMリン酸緩衝液(pH6.0)に対して透析した。次いで、組換えタンパク質を陽イオン交換カラム(HiTrap SP HP、GE Healthcare)を使用して、リン酸緩衝液(pH6.0)中、0~1,000mM NaClの直線的な濃度勾配により精製した。組換えタンパク質を含むピーク画分を、遠心式フィルターデバイス(Amicon ultra、EMD Millipore)を使用した限外ろ過によって濃縮し、25mM Tris-HCl (pH9.0)で平衡化したゲルろ過カラム(HiLoad 26/60 Superdex 200pg、GE Healthcare)上にロードして、ゲルろ過精製した。
【0096】
(精製されたNhead組換えタンパク質のフォールディングの解析)
精製されたNhead組換えタンパク質のCDスペクトルを、J-725 spectropolarimeter(日本分光株式会社)を使用して測定した。パラメータは、波長190~250nm、スキャン速度100nm/分、スキャン間隔0.1nm、レスポンス0.25秒およびバンド幅1.0nmに設定した。
【0097】
(結果)
CDスペクトルの解析の結果、大腸菌に作らせ精製したNhead組換えタンパク質は、ランダムコイル状態ではなく二次構造を形成していることが示され、フォールディングされていると推定された(
図3B)。そこで、結晶化を行い、Nheadの結晶構造を決定した。その結果、Nheadには、他のTAAのheadドメインには見られない特徴的な2つのループ(第1ループと第2ループ)が存在することがわかった。
【0098】
(実施例4:Nhead上のループの機能評価)
Nheadに特徴的な第1および第2のループが、AtaAの非特異的な接着性に関与しているかどうかを調べた。
【0099】
(方法)
(AtaA変異株の作製)
クローニング済みのataA遺伝子断片を利用して、インバースPCRにより、各ループを一つずつ欠損させた変異体(配列番号21および23)を作製し、Tol5のataA遺伝子欠損変異株である4140株(ΔataA)に導入して発現させた。これらループ欠損変異株と、比較のため野生株(AtaA)、ΔataAおよびNhead欠損株(ΔNhead、配列番号7)を、ポリスチレン(PS)プレートおよびガラスプレートを用いた微生物付着試験に供した。
【0100】
(方法)
(微生物付着試験)
回収した細胞を超純水で3回洗浄し、OD660が0.5となるようにBS-N培地中に懸濁した。細胞懸濁物(各200μL)を96穴のポリスチレン(PS)またはガラスプレートのウェル中に入れた。振とうせずに28℃で2時間インキュベート後、細胞懸濁物をマイクロピペットにより除去し、各ウェルを120μLのBS-N培地で3回リンスした。固定化した細胞は、200μLの0.1%クリスタルバイオレット溶液によって15分間染色した。200μLのBS-N培地による3回のリンス後、色素を200μLの70%エタノールを使用して細胞から溶出させ、溶出液の590nmにおける吸光度(A590)を、マイクロプレートリーダーによって測定した。BS-N培地の組成については、論文(S.Ishii,J.Koki,H.Unno,K.Hori;Two Morphological Types of Cell Appendages on a Strongly Adhesive Bacterium, Acinetobacter sp. Strain Tol5,Appl.Environ.Microbiol.70,(2004)5026-5029)と論文(H.Watanabe,Y.Tanji,H.Unno,K.Hori;Rapid Conversion of Toluene by an Acinetobacter sp.Tol5 Mutant Showing Monolayer Adsorption to Water-Oil Interface,J.Biosci.Bioeng.106 (2008)226-230)に記されている。
【0101】
(結果)
接着試験の結果を
図4に示す。
図4のグラフは、微生物の接着性を、A
590により測定した結果を示す。第1および第2のループ欠損株は接着性が大きく低下している結果となった。よって、これら二つのループがAtaAの接着に必須であることが判明した。
【0102】
(実施例5:大腸菌で発現させた組換えNheadの自己凝集性評価)
Nhead組換えタンパク質の精製時に、凝集しない試料を得ることができた。そこで、本実施例では、大腸菌で発現させた組換えNheadについて、動的光散乱法(DLS)により自己凝集性を評価した。
【0103】
(方法)
組換えタンパク質を0.2mg/mlの濃度になるようにPBS緩衝液に溶解して試料溶液を調製した。40μLの試料溶液を石英セルに入れ、He-Neレーザー(波長633nm)を装着したDLS測定装置(Zetasizer Nano ZSP、Malvern Instruments,UK)にて粒形を測定した。温度は25℃、平衡時間120秒、散乱角173°の条件で測定した。
【0104】
(結果および考察)
結果を
図5に示す。全くの予想外のことに、大腸菌で発現させた組換えNheadは、自己凝集性を示さなかった。したがって、大腸菌で発現させた組換えNheadは、Acinetobacter sp. Tol5株において発現したAtaA上のNheadとは異なる性質を示すことが明らかになった。
【0105】
(実施例6:Acinetobacter sp. Tol5株の凝集塊の特徴)
発明者は、偶然にも、AVLペプチドがNheadの第1および第2ループに相互作用し、AtaAによるAcinetobacter sp. Tol5株細胞の凝集塊を崩壊させる機能を有することを見出した。本実施例では、該ペプチドによるAcinetobacter sp. Tol5株の凝集塊の崩壊について顕微鏡観察を行った。
【0106】
(方法)
フローセル内の、Acinetobacter sp. Tol5株の凝集塊、およびAVLペプチド存在下でのAcinetobacter sp. Tol5株を、顕微鏡を用いて観察した。フローセルは下記のとおり自作したものを用いた。
【0107】
(フローセルの作製)
本開示において構築したフローセルシステムの基本構造は、細胞懸濁物または流体を送流するためのシリコーンチューブに細胞を観察するためにガラスチューブを連結したものである。直方体のフローセルシステムを構築するために、長さが300mmであり、内径が1mmであり、外径が2mmであるシリコーンチューブを、長さが50mmであり、各内径寸法が1mmである直方体ガラス(Vitrocom)の両端に連結し、その連結部をパラフィンフィルムでシールした。入口のシリコーンチューブを、三方活栓(テルモ株式会社)を介してシリンジポンプ(Legato 200、KD Scientific)に連結し、直方体のガラスチューブの細胞観察部(フローセル)に流体を送流した。
【0108】
上記フローセルにBS-N培地に懸濁したTol5細胞懸濁液を64μl/minの速度で30分間流して、ガラス製フローセルにTol5細胞の凝集塊を付着させた。その後、0.1mMのAVLペプチドを含むBS-N培地を同速度で流し、付着したTol5細胞凝集塊の挙動を、デジタル顕微鏡(キーエンス社製VHX-200)で観察した。
【0109】
(結果および考察)
結果を
図6に示す。Acinetobacter sp. Tol5株の細胞凝集塊は、AVLペプチドにより崩壊する様子が観察された。該ペプチドを含まない培地を同速度で流しても、凝集塊は全く影響を受けなかった。このことより、AVLペプチドは、AtaAのNhead同士の自己凝集を崩壊させる機能があることがわかった。
【0110】
(実施例7:大腸菌組換えNheadの接着性の計測)
本実施例では、大腸菌で発現させた組換えNheadの接着性を、QCM-Dによって計測した。
【0111】
(方法)
組換えNheadタンパク質(配列番号19)をPBS溶液中に50μg/mlの濃度で溶解させて試料液を準備した。装置はQ-Sense E4(Biolin scientific製、Sweden)を使用し、センサーにはポリスチレン(PS)製またはシリカ製のものを使用した。まず、250μl/分の流量でPBS緩衝液を流して装置が安定するまで待った。その後、試料液を同じ流速で1.5分間流し、流れを止めて15分間静置後、再び試料液を同流速で1.5分間流した。再び流れを止めて10分間静置後、PBS緩衝液を同流速で1分間流すことでリンスを行い、さらに流れを止めて5分間静置した。続いて、0.1mMのAVLペプチド溶液を同流速で2分間流し、流れを止めてから15分間静置した。最後にPBS緩衝液を同流速で2分間流してから流れを止め、10分間静置して測定を終了した。
【0112】
(結果)
結果を
図7Aおよび7Bに示す。ポリスチレンセンサーおよびシリカセンサーのいずれを使用した場合でも、Nhead添加後すぐにΔf7/7(Hz)値が低減し、平衡状態に達した。その後のNheadの再供給工程、緩衝液によるリンス工程、AVLペプチドの添加工程、2回目の緩衝液によるリンス工程を経ても、Δf7/7(Hz)値の変化は認められなかった。
【0113】
(考察)
大腸菌組換えNheadを添加すると瞬時にセンサーへ接着し、平衡に達したと考えられた。その後、大腸菌組換えNhead溶液を再供給しても、Δf7/7(Hz)値の変化は認められなかったことから、Nheadは新たに接着しなかったと考えられた。これらのことから、大腸菌組換えNheadは、ポリスチレン、シリカ表面への接着力は有するが、積層はしないと考察される。これは、大腸菌組換えNheadが自己凝集性を有しないことを反映している。また、緩衝液によるリンス程度では、表面に接着した大腸菌組換えNheadは剥がれないと考えられる。続いて、ネイティブNheadの自己凝集を崩壊させるAVLペプチドを供給しても、分離は認めらなかった。この事実からも、大腸菌組換えNheadは自己凝集性を示さず、積層接着もしていないことがわかる。再リンスによる分離も認められなかった。以上より、大腸菌組換えNheadは積層せずに、固体表面に単層接着することが判明した。なお、Nheadの再供給、リンス、AVLペプチドの供給、再リンスによるシグナルの若干の変動は、操作によるノイズと考えられる。
【0114】
(実施例8:WCheadを発現する細胞の自己凝集性および微生物固定化率)
実施例7までで、微生物細胞上のAtaAの先端に存在するとき、Nheadは接着性と自己凝集性を発揮するが、大腸菌で生産させた組換えNheadタンパク質は接着性のみを示し、自己凝集性を示さないという、研究当事者にとっても予測不可能で不可解な結果が得られた。応用的側面からすると、組換えNheadタンパク質のこの予想外の特性は、材料表面に単層接着するという有用な機能をもたらすものである。そこで、この理由を解明するために、Nhead以外のドメインの機能をより詳細に探ることとした。Cheadは、微生物細胞上のAtaA上に存在するときは、接着と自己凝集性には関与しないということが公的事実となっている(K.Koiwai,M.D.Hartmann,D.Linke,A.N.Lupas and K.Hori;Structural basis for toughness and flexibility in the C-terminal passenger domain of an Acinetobacter trimeric autotransporter adhesin,J.Biol.Chem.291(2016)3705-3724.)。しかし、CheadはAtaAファイバーの根元の方に存在する。この場所ではCheadは表面や他のAtaA分子と相互作用するのが難しいが、Nheadと同様にAtaAファイバーの先端にあれば、類似の構造(Ylhead)をもつCheadも接着や自己凝集の機能を発揮するのではないかとの仮説を立てた。そこで、AtaAのNheadをCheadに置換したWChead変異株を作製することとした。本実施例では、WCheadを発現する微生物細胞の自己凝集性および微生物固定化率の測定を行った。
【0115】
(方法)
WChead改変体は、全長のAtaAタンパク質のNheadドメインを欠損させ、その領域にCheadドメインを組み込むことによって、Chead-Nstalk-Chead-Cstalkのドメイン群構造をとるように作製した(配列番号25)。このWChead株と野生株(AtaA)、ΔAtaA株、ΔNhead株の細胞接着性を比較した。接着性については、
図4と同じ接着試験方法で試験した。また、自己凝集試験のために、微生物細胞をBS-N培地に初期OD
660が0.5になるように懸濁した菌懸濁液を調製した。この懸濁液を使用して、試験管沈降法(tube-settling assay)によって自己凝集性を調べた。本方法の詳細な手順は、M.Ishikawa,K.Shigemori,A.Suzuki,and K.Hori;Evaluation of adhesiveness of Acinetobacter sp.Tol5 to abiotic surfaces,J.Biosci.Bioeng.113(2012)719-725.に記載の通りである。ただし、試験管の静置時間は3時間とした。
【0116】
(結果)
結果を
図8Aおよび8Bに示す。
図8Aにおいて、野生型のAtaAで認められた自己凝集性は、ΔNhead欠損株において消失していたことから、Nheadが自己凝集性に関係していることが改めて示された。さらに、WCheadを発現させると自己凝集性が認められることから、Cheadもまた、Nheadと同様にAtaAファイバー先端に存在するときは、自己凝集性を発揮することが示された。
図8Bにおいて、野生型のAtaAで認められた微生物接着性は、WChead発現株ではΔNhead欠損株と同程度に低減しており、CheadはたとえAtaAファイバーの先端に位置しても、Nheadのように接着性を示すことはないことが明確となった。すなわち、Cheadは接着性を有しないものの、AtaAファイバー上の存在位置によっては凝集性を示し得る、すなわち潜在的には自己凝集機能を有するという、意外な事実を発見したのである。
【0117】
(考察)
ファイバーから切断されたAtaAのパッセンジャードメインは、接着能力と自己凝集能力を有することが公知となっている。このパッセンジャードメインはNheadとCheadの両方を含んでいる。AtaAファイバー上のCheadは、AtaAファイバーが細胞から切断されると細胞表層上に存在するときの立体障害から解放され、潜在的に有していた自己凝集機能を発揮することができるようになると考えられる。細胞表層上にAtaAファイバーが存在するときは、タンパク質の配向が揃っているため、先端のNheadだけで細胞凝集を引き起こすのに十分な力を発揮できる。しかし、細胞から切断されたAtaAのパッセンジャードメインファイバーは配向性を失うため、Nhead同士の接触効率は細胞上に存在するときと比べて低下する。そのため、Nheadだけでは自己凝集性を発揮できない。しかし、Cheadが存在すると、ファイバーの両端付近に凝集性を有するドメインがくることになり、自己凝集性を示すようになる。すなわち、微生物細胞から切断されたAtaA断片は、NheadとCheadの両方を有するときは自己凝集性を示すが、Cheadが存在しないでNheadしか有しないときは自己凝集性を示さなくなると考えられる。よって、Cheadを含まないAtaA断片、またはCheadの自己凝集機能を失わせるような変異を導入したCheadを有するAtaA断片がNheadを含んでいるときは、接着機能を有するが自己凝集機能を有しない組換えタンパク質となる。
【0118】
(実施例9:Nhead融合ペプチドによる融合物の固定化)
Nheadの単層接着性を利用して、機能性タンパク質を材料表面に固定する実施例を示す。この目的のため、モデルタンパク質としてSNAPタンパク質をNheadに融合した融合ペプチド(配列番号27)を設計した。
図9Aにコンストラクト設計を示す。
図3に示したNhead組換えタンパク質のGCN4pIIタグとHisタグの間にSNAPタンパク質を融合した設計とした。このNhead-SNAP融合ペプチドの配列を
図9Cに示す。精製したNhaed-SNAP融合ペプチドが正しくフォールディングされているかどうかを知る指標として、CDスペクトルによる二次構造の解析を行った。
【0119】
(方法)
pIBA-GCN4tri-His::ataA59-325からインバースPCRにより増幅した断片と、別に準備したSNAPタンパク質をコードするDNA(SNAP-DNA)断片をIn-Fusionクローニングにより結合してDNAコンストラクトを作製した。これを大腸菌に導入して生産させ、該融合ペプチドを精製した。具体的な手順は実施例3に記載したとおりである。
【0120】
(結果)
CDスペクトルの解析の結果、大腸菌に作らせ精製したNhead-SNAP融合ペプチドは、ランダムコイル状態ではなく二次構造を形成していることが示さた(
図9B)。
【0121】
(実施例10:Nhead-SNAP融合ペプチドの様々な材料表面への固定化)
本実施例では、Nhead-SNAP融合ペプチドをガラス、ポリスチレン(PS)、チタン(Ti)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)の各表面に固定化することを試みた。
【0122】
(方法)
該融合ペプチドの表面への固定化の手順を
図10Aに示す。テフロン(登録商標)テープ(ニットーコーテープNo.303;日東電工)にポリ塩化ビニルテープ(VT-196;ニチバン)を4枚重ねて貼りつけたものに、穴あけパンチで直径5mmの穴を1.5cm間隔で空けた。使用前にテフロンテープを剥がし対象の素材に貼り付けることで、平らな素材に深さ0.8mmのポリ塩化ビニル製の試験用ウェルを作製した。ウェルに1μMのNhead-SNAP融合ペプチド溶液を滴下し、1時間静置した。陰性対照として、なにも加えないもの(Blank)およびSNAPタンパク質のみを添加したものも調製した。表面に固定された該融合ペプチドを定量するために、Nheadへの融合物であるSNAPタンパク質の蛍光基質分子であるSNAP Surface488を1μM滴下し、37℃で1時間静置することにより、ベンジルグアニル基を介してSNAPタンパク質に蛍光基質を共有結合させた。PBSで5回洗浄後、蛍光スキャナで506nmの励起波長を含んだ緑色LED光を照射しながら120秒間露光し、526nmの蛍光を撮影した。
【0123】
(結果)
結果を
図10Bに示す。Nhead-SNAP融合ペプチドを添加した全ての基板において、蛍光の発生が認められた。したがって、Nhead-SNAP融合ペプチドは、実験に使用した全ての材料に、Nheadを介して接着、固定することができることが明らかになった。なお、SNAPタンパク質だけでは基板に固定できないことも示されている。
【0124】
(実施例11:Nhead-SNAP融合ペプチドによる抗菌ペプチドの固定化)
本実施例では、Nhead-SNAP融合ペプチドにより抗菌ペプチドを固定化することによって、材料表面に抗菌活性を付与することを試みた。
【0125】
(方法)
12穴高撥水性印刷スライドガラス(松浪硝子工業)に3μMのNhead-SNAP融合ペプチド溶液を15μl添加し、室温で1時間静置した。20μlのPBSで3回洗浄を行い、9μMのベンジルグアニル(BG)化CAP18抗菌ペプチドを添加して37℃で1時間インキュベートすることにより、該融合ペプチドのSNAPタンパク質部分に該抗菌ペプチドを共有結合させた。その後、20μlのPBSで3回洗浄した。ここに、緑膿菌Pseudomonoas aeruginosa PAO1を懸濁させたM9培地(OD600=0.01)を15μl添加し、室温で15分間静置した。微生物懸濁液を除去後、20μlのM9培地で3回洗浄した。その後、15μlのM9培地を添加して、37℃で10時間、静置培養を行った。培養後、PBSで3回洗浄し、終濃度3.34μMのSYTO9で15分間、微生物細胞の蛍光染色を行った。最後にPBSで5回洗浄を行ってから、共焦点レーザー顕微鏡でスライドガラス上に形成されたバイオフィルムを観察した。
【0126】
(結果)
結果を
図11に示す。Nhead-SNAPでコーティング処理したポリスチレン表面に対してだけ、BG化抗菌ペプチドを添加すると該ペプチドが固定され、緑膿菌のバイオフィルム形成が抑制された。しかし、SNAPタンパク質だけでコーティング処理した表面も、非処理の表面も、BG化抗菌ペプチドを加えても緑膿菌のバイオフィルム形成を抑えることはできなかった。SNAPタンパク質自体には表面接着能がないこと、抗菌ペプチド自体も表面への吸着能を示さないことが確認された。よって、Nheadを接着タグとしてSNAPタンパク質を表面に固定し、さらにBG化した機能分子をSNAPに結合させることで、抗菌性表面など、機能性表面を作製することが可能になった。
【0127】
(実施例12:SNAPタンパク質をN末端側に有するSNAP-Nhead-GCN4pII融合ペプチドの作製)
本実施例は、SNAPタンパク質をN末端側に有するNhead(配列番号29)を作製し、それが正常にフォールディングするのか否かを明らかにすること目的としたものである。
【0128】
(方法)
ataA遺伝子がクローニングされているpDONR::ataAとSNAP-DNA断片を利用してオーバーラップPCRにより、(1)ataA遺伝子の上流の塩基配列(GA ATT CAT CTC CTA AGG AAA AGC GAT(配列番号5):下線は制限酵素EcoRI認識配列)、(2)AtaAシグナルペプチド認識配列(配列番号4のアミノ酸1位から59位)-SNAPタンパク質-グリシンリンカーをコードする塩基配列、(3)Nhead先端をコードする塩基配列(配列番号2の塩基配列7位~35位(制限酵素XmnI切断部位まで)を融合したDNAを調製した。これをpDONR::ataAのEcoRI、XmnI消化断片と繋ぐことによりAtaAのシグナルペプチド認識配列とNhead(正確には最初のアラニン残基を除いたもの)の間にSNAPタンパク質とグリシンリンカーを挿入したポリペプチドをコードする融合遺伝子断片を構築した。これを鋳型にして、SNAPタンパク質-グリシンリンカー-AtaAのNheadとコイルドコイル部分(配列番号1のアミノ酸3位~268位)をコードするDNA断片をPCR増幅した。これをpIBA-GCN4tri―Hisベクターに、実施例3と同様に挿入し、pIBA::SNAP-Nhead融合ペプチド(pIBA::SANP-AtaA60-325)を作製した。これを大腸菌に導入して組換えタンパク質として生産した。SNAP-Nhead融合ペプチドの生産と精製、および精製した融合ペプチドが正しくフォールディングされているかどうかの確認は、実施例3に準じて実施した。
【0129】
(結果)
結果を
図12に示す。CDスペクトルの解析の結果、大腸菌に作らせ精製したSNAP-Nhead融合ペプチドは、ランダムコイル状態ではなく二次構造が形成されていることが示され、フォールディングしていると推定された。
【0130】
(実施例13:SNAP-Nhead融合ペプチドの固定化能と機能評価)
本実施例では、実施例12で作製したSNAP-Nhead融合ペプチドによる抗菌ペプチドの固定化機能を評価した。
【0131】
(方法)
表面に固定した融合ペプチドにまずBG化抗菌ペプチドCAP18を反応させ、融合ペプチド内のSNAPタンパク質と共有結合させる。次に、固定化融合ペプチドにSNAPタンパク質の蛍光基質を反応させることで、抗菌ペプチドが結合できずに空席状態となっていたSNAPタンパク質に蛍光基質が共有結合する。この蛍光強度を、あらかじめCAP18を反応させずに蛍光基質を反応させた場合の蛍光強度と比較することで、CAP18の融合ペプチドへの結合効率を調べることができる。そのために、融合ペプチド溶液(1μM)100μlを、黒色のポリスチレン製96穴プレートにアプライし、室温で1時間静置することで、融合ペプチドをプレートに固定した。110μlのPBSで3回洗浄後、3μMのBG化CAP18抗菌ペプチド溶液100μlを添加して37℃で1時間インキュベートすることにより反応させた。110μlのPBSで3回洗浄した後、3μMのSNAP surface488を100μlアプライして、さらに37℃1時間反応させた。最後に110μlのPBSで5回洗浄して、プレートリーダーで485nmの励起光を当て、535nmの波長の蛍光強度を測定した。他方、CAP18との反応過程を除いてSNAP Surface488をアプライした場合の蛍光強度についても、同じ手法で測定した。なお、本試験は、SNAP-Nhead融合ペプチドに加え、コントロールとしてNhead-SNAP融合ペプチドとオリジナルのSNAPタンパク質についても実施した。
【0132】
(結果)
結果を
図13に示す。SNAP-Nhead融合ペプチドは、Nhead-SNAP融合ペプチドを使用した場合と同様の蛍光値の低減をもたらした。したがって、SNAP-Nhead融合ペプチドは、Nhead-SNAP融合ペプチドと同様のペプチド固定化能を有すると結論付けられた。
【0133】
(考察)
Nhead組換えタンパク質を接着タグとして使用する場合、固定したいペプチドはNheadのカルボキシ末端側またはアミノ末端側のどちらに融合してもよいことが示された。
【0134】
(実施例14:GCN4pIIタグ有さないNhead-SNAP融合ペプチドの作製)
本実施例は、AtaA断片の三量体化を補助することを期待して融合してきたGCN4pIIタグが、大腸菌組換えNheadタンパク質のフォールディングに必須であるか、なくてもよいかを明らかにすることを目的としたものである。
【0135】
(方法)
本実施例で作製した融合ペプチドのコンストラクト設計(配列番号31)を
図14Aに示す。実施例9に示したNhead-SNAP融合ペプチドの作製の際に構築したコンストラクトDNAを利用してインバースPCRによりGCN4pIIタグをコードする領域を削除することにより目的のコンストラクトDNAを構築した。このコンストラクトNhead-SNAP_ΔGCN4pII融合ペプチドのアミノ酸配列を
図14Cに示す。融合ペプチドの精製については実施例3に記載したNhead組換えタンパク質の精製法に準じて実施した。また、精製された該融合ペプチドのCDスペクトルを実施例3と同じ手法で測定した。
【0136】
(結果)
CDスペクトルの解析の結果、大腸菌に作らせ精製したNhead-SNAP_ΔGCN4pII融合ペプチドは、ランダムコイル状態ではなく二次構造を形成し、フォールディングされていることが示された(
図14B)。
【0137】
(考察)
上述の結果より、三量体化タグであるGCN4pIIタグは、大腸菌組換えNheadタンパク質およびその融合ペプチドの設計と作製においては必須でないと考えられる。
【0138】
(実施例15:コイルドコイル領域を除いたNhead-SNAP融合ペプチドの作製)
本実施例は、実施例9に示したNhead-SNAP融合ペプチドからコイルドコイル領域を除いて、Nheadドメイン領域(Nhead-neck)だけでも大腸菌組換えタンパク質の作製が可能か、作製されたコンストラクトが活性を有するためにフォールディングし得るかを明らかにすることを目的したものである。
【0139】
(方法)
本実施例で作製した融合ペプチドのコンストラクト設計(配列番号33)を
図15Aに示す。実施例9に示したNhead-SNAP融合ペプチドの作製の際に構築したコンストラクトDNAを利用してインバースPCRによりコイルドコイルをコードする領域を削除することにより目的のコンストラクトDNAを構築した。このコンストラクトNhead-SNAP_ΔCC融合ペプチドのアミノ酸配列を
図15Cに示す。融合ペプチドの精製については実施例3に記載したNhead組換えタンパク質の精製法に準じて実施した。また、精製された該融合ペプチドのCDスペクトルを実施例3と同じ手法で測定した。
【0140】
(結果)
CDスペクトルの解析の結果、大腸菌に作らせ精製したNhead-SNAP_ΔCC融合ペプチドは、ランダムコイル状態ではなく二次構造を形成し、フォールディングされていることが示された(
図15B)。
【0141】
(考察)
上述の結果より、大腸菌組換えNheadタンパク質およびその融合ペプチドの設計と作製においては、コイルドコイル部分は不要と考えられる。
【0142】
(実施例16:NheadとSNAPタンパク質との各種融合ペプチドの機能評価)
本実施例では、実施例14および15において作製した、NheadとSNAPタンパク質の各種融合ペプチドについて、固定化能力を評価した。融合ペプチドの固定化量を、SNAPタンパク質の蛍光基質を用いて評価した。
【0143】
(方法)
実施例13に準じた方法で黒色のポリスチレン製96穴プレートに固定した融合ペプチドに、SNAP Surface488を結合させ、プレートリーダーで測定することにより定量した。ただし、実施例13と異なり、あらかじめCAP18と結合させることはしなかった。
【0144】
(結果)
Nhead-SNAP_ΔGCN4pII融合ペプチドもNhead-SNAP_ΔCCも、Nhead-SNAP融合ペプチドと同等以上の固定化能を有していることが明らかとなった。
【0145】
(考察)
機能性ペプチドを融合する場合、GCN4pIIタグを利用する必要性もAtaAのコイルドコイル領域を残す必要性もないことが、はっきりした。これらがなくても、NheadおよびNheadの融合ペプチドは正しくフォールディングされ、機能を発揮する。
【0146】
(実施例17:大腸菌組換えNheadの表面接着タンパク質としての実用例)
本実施例では、大腸菌組換えNheadとストレプトアビジンとが結合して複合体を形成することを示す。
【0147】
(方法)
実施例5に準じ、DLSにより、大腸菌組換えNhead単独、ストレプトアビジン(SA)単独、NheadとSAの混合溶液中のタンパク質の粒形を測定した。単独のタンパク質溶液の場合、試料溶液の濃度は実施例5と同様に0.2mg/mlに調製した。二種類のタンパク質を混合する場合は、それぞれ0.2mg/mlに調製した試料溶液を等量ずつ混合してから5分間静置した。その後、混合液を40μl使用して測定した。
【0148】
(結果)
結果を
図17に示す。大腸菌組換えNhead単独またはSA単独では共に5~数10nmのところに単分子のピークが出ている。これらを混合すると、数千nmのピークにシフトしており、これは、単なる大腸菌組換えNheadとSAの単分子の和よりもはるかに大きい。両タンパク質分子が多数、複合体を形成しながら凝集したことを示している。
【0149】
(実施例18:大腸菌組換えNheadと中性アビジンとの結合)
本実施例では、大腸菌組換えNheadと中性アビジンとが結合して複合体を形成することを示す。
【0150】
(方法)
実施例17と同じ方法で実施した。ただし、実施例17のSAを、本実施例では中性アビジンに代えた。
【0151】
(結果)
結果を
図18に示す。大腸菌組換えNhead単独または中性アビジン単独では共に5~数10nmのところに単分子のピークが出ている。これらを混合すると、数千nmのピークにシフトしており、これは、単なる大腸菌組換えNheadと中性アビジンの単分子の和よりもはるかに大きい。両タンパク質分子が多数、複合体を形成しながら凝集したことを示している。
【0152】
(比較例1:大腸菌組換えNheadとアビジンとの相互作用)
本実施例では、大腸菌組換えNheadはアビジンとは結合しないことを示す。
【0153】
(方法)
実施例17と同じ方法で実施した。ただし、実施例17のSAを、本実施例ではアビジンに代えた。
【0154】
(結果)
結果を
図19に示す。大腸菌組換えNhaed単独、アビジン単独、両タンパク質の混合物ともに5~数10nmのところに単分子のピークが出ており、大腸菌組換えNheadはアビジンとは結合できず、したがって複合体も形成されないことが明らかとなった。
【0155】
(考察)
大腸菌Nheadの他のタンパク質との複合体形成機能は、相手を選ぶ特異的な相互作用であることが示された。
【0156】
(実施例19:細胞の固定化)
本実施例では、表面に大腸菌組換えNheadをコーティングしたプレート上に、2種類の細菌の細胞を固定することができることを示す。
(方法)
方法の概略を
図20Aに示す。大腸菌組換えNheadを、プレート上にコーティングした。このプレート上に一定濃度に調整した枯草菌(Bacillus subtilis)または大腸菌(Escherichia coli)を滴下し、6時間インキュベートした。その後、プレートを純水(DW)で洗浄し、核染色剤により各細胞を染色した。共焦点顕微鏡下で、プレート上に固定された細胞を観察した。
【0157】
(結果)
結果を
図20Bに示す。枯草菌および大腸菌のいずれを滴下したプレートにおいても、細胞のプレートへの固定が認められた。Nheadによるコーティングを行っていないプレート、およびNheadの代わりにBSAを滴下したプレートでは、細胞の固定化は認められなかった。
【0158】
(実施例20:Nhead-SNAP融合ペプチドを表層に固定化したリポソーム(Nhead表層修飾リポソーム)の作製と確認)
(方法)
(Nhead表層修飾リポソームの作製)
実施例9に示したNhead-SNAP融合ペプチドをベンジルグアニル(BG)化リポソームと反応させることにより作製した。BG化リポソームの作製は以下の通りである。
【0159】
クロロホルム中に溶解した50mg/mlの卵黄ホスファチジルコリン(COATSOME NC-50(EPC)、油化産業)の300μlを入れた丸底フラスコ中を、1時間、真空引きしながら回転させた。脂質フィルムを、25μMのAlexaFluor647を補充した緩衝液A(10mM HEPES、pH7.6,50mM グルタミン酸カリウム)または緩衝液B(10mM Tris-HCl(pH9.0))により水和し、50mg/mlの脂質溶液300μLを得た。GUSを伴うサンプルに対しては、2μMのGUSを緩衝液Aに添加して使用した。電子顕微鏡観察のためのサンプルに対しては、1mg/mLのBSAを緩衝液Bに添加した。これらの脂質溶液を10分間ソニケーションし、10秒間ボルテックスを行った。脂質溶液をさらに5回の凍結解凍サイクルに供した。次いで、リポソーム懸濁液を、室温で0.8μmのVCTPアイソポアメンブレンフィルターを使用して、ミニエクストルーダー(Avanti Polar Lipids,Alabaster,AL,USA)によって押し出した。緩衝液AまたはBを用いて調製した300μLの巨大単一ラメラベジクル(LUV)に、1200μLの緩衝液Aまたは緩衝液Bをそれぞれ添加し、20,000×gで30分間遠心分離し、上清を1200μLの緩衝液AまたはBで置換することによって洗浄した。洗浄工程は、4回繰り返した。
【0160】
BGリポソームは、以下のとおり調製した。すなわち、まず、クロロホルム中に溶解した2mM BG-DSPE(PEG200)の14μlを、ガラスマイクロ試験チューブ内で真空引きしながら15分間回転させて、緩衝液AまたはBで水和した。その後、このBG-DSPE溶液を、LUV溶液に最終濃度93μMとなるように添加して、室温で20時間インキュベートし、上述のとおり4回洗浄した。
【0161】
リポソーム(LUV)溶液とNhead-SNAP融合ペプチド溶液(10μM)を低吸着1.5mLチューブ(MS-4215M;住友ベークライト)内で混合した。37℃で30分間インキュベートすることによりBG化LUVリポソームと該融合ペプチドを反応させ、Nhead修飾リポソームを得た。8000×g、4℃で5分間遠心し、上清を除去してリポソームのペレットを室温の10mMのTris-HCl(pH9.0)50μlに再懸濁してNhead表層修飾リポソーム溶液を得た。
【0162】
(方法)
(Nhead表層修飾リポソームの確認)DLSにより被修飾リポソームとNhead表層修飾リポソームの粒形を測定することにより、該修飾リポソームがきちんと作製されているかについて確認した。DLSの測定法は、実施例5に示した通りに行った。
【0163】
(結果および考察)
結果を
図21に示す。大腸菌組換えNhead表層修飾リポソームは、約90nmの粒子径に直径のピークが認められたのに対し、表層修飾をしていない通常のリポソームは、約60nmの粒子径に直径のピークが認められた。この結果から、大腸菌組換えNhead-SNAPのリポソーム表層への固定化は、表層修飾によるリポソーム直径の増大をもたらす一方で、リポソームの凝集はもたらさずに、単分散をもたらしたことがわかった。これは大腸菌組換えNheadおよびそのSNAPタンパク質融合ペプチドが凝集性を有しないためである。
【0164】
(実施例21:Nhead表層修飾リポソームの接着性の解析)
(方法)
45μlのリポソーム懸濁物(Nhead-SNAP融合ペプチドの濃度:1μMまたは10μM相当)を96穴ポリスチレンプレート(Becton,Dickinson and Company)に滴下し、5μlの10×リン酸緩衝生理食塩水(1.37M NaCl,27mM KCl,81mM Na2HPO4・7H2O,14.7mM KH2PO4)と混合した。リポソーム粒子をプレートの表面に接着させるために、リポソーム懸濁物を含むプレートを、室温で30分間700gで遠心分離した。未結合のリポソームを除去するために、ウェルを緩衝液(9.0mM Tris-HCl(pH9.0),137mM NaCl,2.7mM KCl,8.1mM Na2HPO4・7H2O,1.47mM KH2PO4)で2~4回洗浄後、50μlの10mM Tris-HCl緩衝液(pH9.0)をウェルに加えた。リポソームの接着は、リポソーム中に内包されたAF647の蛍光シグナルを、マイクロプレートリーダー(ARVO X3;PerkinElmer)によって測定することによって評価した。蛍光シグナルを、シグナル対ノイズ比を改善するために、トップリーディングモードによって定量した。接着したリポソームからの蛍光を検出する場合には、底面を黒色のプラスチックテープでマスクした。
【0165】
(結果および考察)
結果を
図22に示す。Nhead-SNAPと混合したBG化リポソームは、Nheadの濃度依存的にポリスチレンプレートへの接着が認められた。しかし、比較例として実施したBG化されていないリポソームは、Nheadで表層修飾されないため、プレートへの接着が認められなかった。
【0166】
(実施例22:NheadNstalk(NhNs)-SNAP融合ペプチドを表層に固定化したリポソーム(NheadNstalkファイバー表層修飾リポソーム)の作製と確認)
本実施例では、NheadNstalk(NhNs)-SNAP融合ペプチドを表層に固定化したリポソームの作製および確認を行った。
【0167】
(方法)
(NhNs-SNAP融合ペプチドの作製)
実施例9に示したNhead-SNAP融合ペプチドとpDONR::ataAを利用して、pIBA-GCN4tri-strept-tag::NhNs-SNAPのコンストラクトDNAを作製した。これで大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。得られた組換え大腸菌を、100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地にて37℃でOD
600が0.5~0.7になるまで培養し、0.2μg/mlのアンヒドロテトラサイクリンを添加後、さらに18℃で16時間培養することにより、NhNs-SNAP融合ペプチド(配列番号35)を生産した。該融合ペプチドの模式図を
図23に示す。上段はAtaAタンパク質の全長を、下段にNhNs-SNAP融合ペプチドを示す。該融合ペプチドを菌体内に生産させた組換え大腸菌の細胞溶解物とBG化LUVを使って、下記の通りNhNsファイバー表層修飾リポソームを調製した。
【0168】
(NhNs-SNAP融合ペプチドを表層に固定化したリポソームの作製)
BG化リポソームの懸濁液をNhNs-SNAP融合ペプチドを生産させた大腸菌BL21(DE3)形質転換株の細胞抽出物2.0mg/mLと混合した。ローター回転機により4℃で1時間インキュベートした後、15,000gで10分間遠心分離を行い、NhNsファイバー表層修飾リポソーム粒子を沈殿させた。沈殿したリポソーム粒子を10mM Tris-HCl(pH9.0)緩衝液で2回洗浄し、同緩衝液中に再懸濁した。
【0169】
(作製されたNhNsファイバー表層修飾リポソームの観察)
得られたNhNsファイバー表層修飾リポソームを電子顕微鏡で観察することにより、リポソームの修飾を確認した。リポソームの懸濁物を、10mM Tris-HCl緩衝液(pH9.0)中で50倍に希釈した。リポソームをカーボンコート銅フィルム(400メッシュ)に吸着させ、2%のリンタングステン酸溶液(pH7.0)で10秒間染色した。その後、グリッドを10分間真空乾燥させた。グリッドを、透過型電子顕微鏡(JEM-1400 plus、日本電子株式会社)を使用して、100kVの加速電圧で観察した。デジタル画像(3296×2472ピクセル)は、CCDカメラ(EM-14830RUBY2、日本電子株式会社)により取得した。
【0170】
(結果)
結果を
図24に示す。電顕観察において、リポソームの表面にNheadNstalkファイバーが固定され、リポソームの表層が該融合ペプチドで修飾されている様子が観察された。
【0171】
(実施例23:NheaNstalkファイバー修飾リポソームの分散・凝集性の評価)
(方法)
実施例5および17と同じ手順で、DLSによって測定した。ただし、比較のため、Acinetobacter sp. Tol5株およびΔataA変異株についても測定した。細菌細胞培養液を8,000gで遠心分離することによって回収し、純水で5回洗浄し、純水でOD660=0.05に調整して測定した。
【0172】
(結果および考察)
実施例23の結果を
図25に示す。
図25Aの結果から、AtaAの存在下と非存在下において、細菌細胞のサイズの分布は異なることが明らかになった。Acinetobacter sp. Tol5株での大部分のサイズは約1720nmであり、ΔataAの約1280nmと比べて440nmほど大きかった。これはネイティブAtaAのサイズ(225nm×2)に対応するものであった。また、
図25Bに示したとおり、100mMのKCl溶液中では凝集塊が沈降して、液が透明になっているのに対し、純水中では細胞は自己凝集しないで懸濁したままであるので、液は濁っていることがわかる。すなわち、ネイティブのAtaAを有するTol5細胞でも、純水中では自己凝集しない。したがって、
図25AのTol5にみられる5500nm近辺に見られる小さなピークは、Tol5株の凝集塊を示しているわけではない。直径から考えると、10程度の細胞が弱く絡まった小細胞集団であると推察される。
【0173】
図25Cの結果から、NhNsファイバー表層修飾リポソームの直径は約1280nmであり、非修飾のリポソームの直径約825nmより455nm大きかった。これはNheadNstalkの長さ180nmの2倍と同程度である。さらにNhNsファイバー表層修飾リポソームも自己凝集性を示さないことが明らかになった。5000nm付近に
図25AのTol5と同様に見られるピークも、NhNsファイバー表層修飾リポソームの凝集塊ではないと考えられる。
【0174】
(実施例24:NheadNstalkファイバー修飾リポソームの接着アッセイと接着リポソームによる酵素反応)
本実施例では、NhNsファイバー表層修飾リポソームによる接着と固定化されたリポソームによる酵素反応を示す。
【0175】
(方法)
(接着アッセイ)
実施例20と同じ方法で実施した。ただし、ポリスチレンプレートに加え96穴ガラス底プレート(松浪硝子工業)に対する接着性も評価した。
【0176】
(酵素反応)
酵素反応のため、リポソーム調製時に2μMのβグルクロニダーゼ(GUS)を封入した。以下の方法によりリポソームをプレートに固定し、酵素活性を測定した。
【0177】
プレート表面に接着させたリポソームに封入されたGUSによる酵素アッセイのために、リポソーム懸濁物を10mM Tris-HCl緩衝液(pH9.0)で50倍希釈し、50μLの懸濁物をポリスチレンウェルプレートに入れた。リポソームは、遠心分離によってプレート表面に接着させた。未固定のリポソームを洗浄除去した後、GUSの基質として、10μMのTokyoGreen-β GlcU(五稜化薬)を含む50μLの10mM Tris-HCl緩衝液を各ウェルに添加した。加水分解反応は、マイクロプレートリーダーを使用して、示される時点での蛍光シグナルとして検出した。励起波長および蛍光波長は、それぞれ485nmおよび535nmであった。
【0178】
(結果)
実施例24の結果を
図26に示す。
図26A(ポリスチレンプレート)および26B(ガラスプレート)のいずれにおいても、BG化リポソームを細胞溶解液と混合することによってNhNsファイバー表層修飾リポソームを得た場合には有意な蛍光が測定され、これらの蛍光は、細胞溶解液のタンパク質濃度の上昇に伴って増大した。逆に、コントロールのBG基修飾を施していない非修飾リポソーム(EggPCリポソーム)の場合には、蛍光は認められなかった。
【0179】
酵素活性の測定結果を
図26Cに示す。NhNsファイバー表層修飾リポソームを固定化したウェルにおいて、酵素反応を示す有意な蛍光が認められた。
(考察)
リポソーム表層をNheadNstalkで修飾することにより、様々な材料表面にリポソームを固定できるようになり、固定化したリポソームに内包した酵素により、化学反応を行うことができることが証明された。
【0180】
(実施例25:改変AtaAポリペプチドを使用した、自己凝集性および接着性の解析)
本実施例では、各種のAtaAポリペプチドを使用して、自己凝集性および接着性の比較を行う。
【0181】
(方法)
上述の実施例と同様の方法、または当業者に公知の本技術分野で慣用的に行われる実験手法または市販のキットを使用して、AtaAタンパク質由来の237アミノ酸以上および3364アミノ酸以下の長さの各種ドメイン欠損体、改変体および/または変異体をコードする発現コンストラクトの設計を行う。上述の実施例と同様の方法によって、これらの各種欠損体、改変体または変異体の自己凝集性および/または接着性の解析を行う。
【0182】
(実施例26:SNAPタンパク質以外のタグおよび/またはタンパク質との融合ペプチドの作製)
本実施例では、固定化技術にSpyTag/SpyCatcherシステムを導入し、SNAPタンパク質以外のタグおよび/またはタンパク質との融合タンパク質の作製を行い、材料表面にタンパク質を固定化する技術を確立した。
【0183】
(方法)
(SpyCatcher-Nhead発現プラスミドの構築)
pIBA-SNAP-AtaA
59-325-GCN4tri-HisをテンプレートにPCRでSNAPタグ以外の領域を含むDNA断片を、pDEST14-SpyCatcher002(Addgene)をテンプレートにPCRでSpyCatcherを含むDNA断片を増幅した。それらの断片をNEBuilder HiFi DNA Assemblyにより結合し、pIBA-SpyCatcher-AtaA
59-325-GCN4tri-His(配列番号36)を構築した(
図27)。
使用プライマー
1.GGATCCAGTGGTAGCGGAGGAGGTGGAGGTGCTAC(配列番号38)
2.GATGTCGTAATCCATTTTTTGCCCTCGTTATCTAG(配列番号39)
3.GATTACGACATCCCAACG(配列番号40)
4.GCTACCACTGGATCCAGTATG(配列番号41)
【0184】
(SpyTag-GFP発現プラスミドの構築)
pIVEX-SNAP-GFP(Addgene)をテンプレートにPCRでベクター領域とGFPを含むDNA断片をそれぞれ増幅し、それらをNEBuilder HiFi DNA Assemblyにより結合することで、pIVEX-SpyTag-GFP-his(配列番号37)を構築した(
図28)。
使用プライマー
1.GGTCATCACCACCATCATCATTAATGAGGATCCGGCTG(配列番号42)
2.AGGCGTCCACCATCACGATAGTAGGCACCATGGAGCCCAGGCCCA(配列番号43)
3.TGATGGTGGACGCCTACAAGCGTTACAAGGGCTTGGGAAGCGGCCG(配列番号44)
4.ATGGTGGTGATGACCGCCTCCTTTGTAGAGCTCATCCATG(配列番号45)
【0185】
(SpyCatcher-Nhead(配列番号36)の発現精製)
2LのLB培地(100μg/ml Amp)に、37℃で一晩培養した菌体培養液を20ml植菌した。37℃で3時間振とう培養した後に、誘導物質としてAHTCを200μg/lになるよう添加し28℃で4時間振とう培養を行った。遠心分離(6,000rpm,10min,4℃,R12A6ローター;日立工機)により集菌し、菌体を200mlのLysis buffer(25mM Tris-HCl,150mM NaCl,20mM Imidazole,pH9.0)に懸濁した。懸濁した菌体はフレンチプレス(LAB2000;SMT COMPANY)により1000barで10min破砕し、遠心分離(9,000rpm,10min,4℃,R12A6ローター)した。破砕液の上清をLysis bufferで平衡化したNi-NTA Superflowビーズ(Qiagen)に通液した後、Wash buffer(25mM Tris-HCl,150mM NaCl,50mM Imidazole,pH9.0)を10ml、Elution buffer(25mM Tris-HCl,150mM NaCl,400mM Imidazole,pH9.0)を50ml通液させ、カラムに吸着したタンパク質を溶出した。回収したタンパク質溶液はHiTrap Q HPカラム(column volume 5ml;GE Healthcare)を用いて陰イオン交換カラムクロマトグラフィーを行った。バッファーは25mM Tris-HCl(pH9.0)を用い、0-2M NaClの濃度勾配を掛けて溶出した。SpyCatcher-Nheadを含む溶出画分を回収し、透析用チューブ(Standard RC Tubing MWCO:12-14kD;Spectra/por 4 Dialysis Membrane)を用いて、4℃で50mM Phosphate-NaOH(pH6.0)に透析した。溶液をチューブから回収し、HiTrap SP HPカラム(column volume 5ml;GE Healthcare)を用いて陽イオン交換カラムクロマトグラフィーを行った。バッファーは50mM Phosphate-NaOH(pH6.0)を用い、0-2M NaClの濃度勾配を掛けて溶出した。SpyCatcher-Nheadを含む溶出画分を回収し、25mM Tris-HCl(pH9.0)を用いてSuperdex 200カラム(column volume 320ml;GE Healthcare)でゲルろ過カラムクロマトグラフィーを行った。SpyCatcher-Nheadを含む溶出画分を回収し、Amicon Ultra-15 Centrifugal filters Ultracel-10k(Merck MILLIPORE)を用いて限外ろ過により濃縮と25mM Tris-HCl(pH7.0)へのバッファー交換を行った。濃縮後のタンパク質の濃度はBCAアッセイ(Pierce BCA Protein Assay Kit;Thermo Fisher Scientific)にて測定した。
【0186】
(SpyTag-GFP(配列番号37)の発現精製)
2LのLB培地(100μg/ml Amp)に、37℃で一晩培養した菌体培養液を20ml植菌した。37℃で7時間振とう培養した後に、誘導物質としてイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を1mMになるよう添加し、37℃で3時間振とう培養を行った。遠心分離(6,000rpm,10min,4℃,R12A6ローター;日立工機)により集菌し、菌体を200mlのLysis buffer(25mM Tris-HCl,150mM NaCl,20mM Imidazole,pH9.0)に懸濁した。懸濁した菌体はフレンチプレス(LAB2000;SMT COMPANY)により1000barで10min破砕し、遠心分離(9,000rpm,10min,4℃,R12A6ローター)した。破砕液の上清をLysis bufferで平衡化したNi-NTA Superflowビーズ(Qiagen)に通液した後、Wash buffer(25mM Tris-HCl,150mM NaCl,50mM Imidazole,pH9.0)を10ml、Elution buffer(25mM Tris-HCl,150mM NaCl,400mM Imidazole,pH9.0)を50ml通液させ、カラムに吸着したタンパク質を溶出した。回収したタンパク質溶液はHiTrap Q HPカラム(column volume 5ml;GE Healthcare)を用いて陰イオン交換カラムクロマトグラフィーを行った。バッファーは25mM Tris-HCl(pH9.0)を用い、0-2M NaClの濃度勾配を掛けて溶出した。SpyCatcher-Nheadを含む素通り画分を回収し、25mM Tris-HCl(pH9.0)を用いてSuperdex 200カラム(column volume 320ml;GE Healthcare)でゲルろ過カラムクロマトグラフィーを行った。SpyCatcher-Nheadを含む溶出画分を回収し、Amicon Ultra-15 Centrifugal filters Ultracel-10k(Merck MILLIPORE)を用いて限外ろ過により濃縮と25mM Tris-HCl(pH7.0)へのバッファー交換を行った。濃縮後のタンパク質の濃度はBCAアッセイ(Pierce BCA Protein Assay Kit;Thermo Fisher Scientific)にて測定した。
【0187】
(SpyTag-GFPとSpyCatcher-Nheadの結合試験)
25mM Tris-HCl(pH7)を用いてNhead-SpyCatcherとSpyTag-GFP-hisをそれぞれ1μMに調製した。Nhead-SpyCatcher溶液20μlとSpyTag-GFP-his溶液20μlを混合し37℃で5min静置した。その後SDS-PAGE、CBB染色により泳動度の変化を調べた(
図29)。
【0188】
(SpyCatcher-Nheadを用いたSpyTag-GFPのポリスチレンプレートへの固定化)
PBSを用いてNhead-SpyCatcherとSpyTag-GFP-his、Nheadをそれぞれ0.2μMに調製した。蛍光測定用96well黒色ポリスチレンプレート(655086;Greiner Bio-One)にNhead-SpyCatcher溶液、Nhead溶液、またはPBSを100μl滴下し、28℃で1時間静置した。各ウェルからピペッティングにより溶液を取り除いた後、100μlのPBSで2回洗浄した。洗浄後のウェルにSpyTag-GFP-his溶液を100μl滴下し37℃で5min静置した後、各ウェルを100μlのPBSで5回洗浄した。洗浄後のウェルに100μlのPBSを添加し、プレートリーダー(ARVO X3;Perkin Elmer)で励起波長485nm/蛍光波長535nmの蛍光強度を測定した(
図30)。
【0189】
(結果)
結果を
図30に示す。SpyTag/SpyCatcherシステムを使用した系でも、Nheadを介して材料表面にタンパク質を固定化することができることができることが実証された。
【0190】
(注釈)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、上述の説明および実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本願は、日本国特許庁に2019年7月18日に出願された特願2019-132488号に対して優先権主張を伴うものであり、その内容は全体が参考として本願において援用される。
【産業上の利用可能性】
【0191】
本開示は、バイオプロセスを使用する工業において有用性を有する。
【配列表フリーテキスト】
【0192】
配列番号1:シグナルペプチドを除き、開始位置にメチオニンを含むAtaA断片のアミノ酸配列
配列番号2:シグナルペプチドを除き、開始位置にメチオニンを含むAtaA断片の核酸配列
配列番号3:AtaAの全長の核酸配列
配列番号4:AtaAの全長のアミノ酸配列
配列番号5:ataAのクローニングに使用したプライマーの配列
配列番号6:Nheadが欠損した構造のAtaAの核酸配列(実施例2)
配列番号7:Nheadが欠損した構造のAtaAのアミノ酸配列(実施例2)
配列番号8:Nstalk内の一部が欠損した構造のAtaAの核酸配列(実施例2)
配列番号9:Nstalk内の一部が欠損した構造のAtaAのアミノ酸配列(実施例2)
配列番号10:Nstalk内の一部が欠損した構造のAtaAの核酸配列(実施例2)
配列番号11:Nstalk内の一部が欠損した構造のAtaAのアミノ酸配列(実施例2)
配列番号12:Nstalk内の一部が欠損した構造のAtaAの核酸配列(実施例2)
配列番号13:Nstalk内の一部が欠損した構造のAtaAのアミノ酸配列(実施例2)
配列番号14:Nstalk内の一部に加え、Cheadを欠損させた構造のAtaAの核酸配列(実施例2)
配列番号15:Nstalk内の一部に加え、Cheadを欠損させた構造のAtaAのアミノ酸配列(実施例2)
配列番号16:Cstalkの大部分が欠損(FGGドメインは保存)した構造のAtaAの核酸配列(実施例2)
配列番号17:Cstalkの大部分が欠損(FGGドメインは保存)した構造のAtaAのアミノ酸配列(実施例2)
配列番号18:AtaA59-325-GCN4pII-Hisの核酸配列(実施例3)
配列番号19:AtaA59-325-GCN4pII-Hisのアミノ酸配列(実施例3)
配列番号20:AtaAのΔ1st loop改変体の核酸配列(実施例4)
配列番号21:AtaAのΔ1st loop改変体のアミノ酸配列(実施例4)
配列番号22:AtaAのΔ2nd loop改変体の核酸配列(実施例4)
配列番号23:AtaAのΔ2nd loop改変体のアミノ酸配列(実施例4)
配列番号24:AtaAのWChead改変体の核酸配列(実施例8)
配列番号25:AtaAのWChead改変体のアミノ酸配列(実施例8)
配列番号26:AtaA59-325-GCN4pII-SNAP-Hisの核酸配列(実施例9)
配列番号27:AtaA59-325-GCN4pII-SNAP-Hisのアミノ酸配列(実施例9)
配列番号28:SNAP-AtaA60-325-GCN4pII-Hisの核酸配列(実施例12)
配列番号29:SNAP-AtaA60-325-GCN4pII-Hisのアミノ酸配列(実施例12)
配列番号30:AtaA59-325-SNAP-Hisの核酸配列(実施例14)
配列番号31:AtaA59-325-SNAP-Hisのアミノ酸配列(実施例14)
配列番号32:AtaA59-314-GCN4pII-SNAP-Hisの核酸配列(実施例15)
配列番号33:AtaA59-314-GCN4pII-SNAP-Hisのアミノ酸配列(実施例15)
配列番号34:NhNs-SNAPの核酸配列(実施例22)
配列番号35:NhNs-SNAPのアミノ酸配列(実施例22)
配列番号36:SpyCatcher-Nheadのアミノ酸配列(実施例26)
配列番号37:SpyTag-GFPのアミノ酸配列(実施例26)
配列番号38:SpyCatcher-Nhead発現プラスミドの構築に使用したプライマーの配列(実施例26)
配列番号39:SpyCatcher-Nhead発現プラスミドの構築に使用したプライマーの配列(実施例26)
配列番号40:SpyCatcher-Nhead発現プラスミドの構築に使用したプライマーの配列(実施例26)
配列番号41:SpyCatcher-Nhead発現プラスミドの構築に使用したプライマーの配列(実施例26)
配列番号42:SpyTag-GFP発現プラスミドの構築に使用したプライマーの配列(実施例26)
配列番号43:SpyTag-GFP発現プラスミドの構築に使用したプライマーの配列(実施例26)
配列番号44:SpyTag-GFP発現プラスミドの構築に使用したプライマーの配列(実施例26)
配列番号45:SpyTag-GFP発現プラスミドの構築に使用したプライマーの配列(実施例26)
【配列表】