IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人鳥取大学の特許一覧

特許7598148オリゴ糖合成にかかる繰り返し二糖とそのオリゴマーの製造法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】オリゴ糖合成にかかる繰り返し二糖とそのオリゴマーの製造法
(51)【国際特許分類】
   C07H 1/06 20060101AFI20241204BHJP
   C07H 15/04 20060101ALI20241204BHJP
   C07H 15/203 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
C07H1/06
C07H15/04 D CSP
C07H15/203
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021547006
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2020035624
(87)【国際公開番号】W WO2021054474
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2019171012
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020042193
(32)【優先日】2020-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】田村 純一
(72)【発明者】
【氏名】田村 敬裕
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/136399(WO,A1)
【文献】TEJBRANT, J,An approach to the synthesis of O-glycopeptides,Chemical communications,1992年,No. 7
【文献】FUKASE, K et al.,Synthesis of New Serine-Linked Oligosaccharides in Blood-Clotting Factors VII and IX and Protein Z.,Bulletin of the Chemical Society of Japan,1992年,Vol. 65,pp. 436-445
【文献】LOURENCO, EC et al.,Synthesis of potassium (2R)-2-O-α-D-glucopyranosyl-(1→6)-α-D-glucopyranosyl-2,3-dihydroxypropanoa,Carbohydrate Research,2009年,Vol. 344,pp. 2073-2078
【文献】INAMORI, K et al.,Dystroglycan Function Requires Xylosyl- and Glucoronyltransferase Activities of LARGE,SCIENCE,2012年,Vol. 335,pp. 93-96
【文献】TAMURA, T et al.,Regio- and stereo-controlled synthesis of β-Xyl(1-4)Rbo-5P1-Rbo, the partial structure of O-mannosy,Tetrahedron Letters,2018年12月31日,Vol. 60,pp. 465-468
【文献】DENG, S et al.,A Facile Synthetic Approach to a Group of Structurally Typical Diosgenyl Saponins,Tetrahedron Letters,1998年,Vol. 39,pp. 6511-6514
【文献】DENG, S et al.,Synthesis of three diosgenyl saponins: dioscin, polyphyllin D, and balanitin 7,Carbohydrate Research,1999年,Vol. 317,pp. 53-62
【文献】WINTER, HC et al.,Banana lectin is unique in its recognition of the reducing unit of 3-O-β-glucosyl/mannosyl disaccha,Glycobiology,2005年,Vol. 15,pp. 1043-1050
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 13/00
C07H 15/203
C07H 15/04
C07H 1/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(2’):
【化5】
[式中、X’は脱離基であり、Y’はキシロース残基の配座を固定する基であり、R’は隣接基関与能のない水酸基の保護基である]
で表されるキシロース誘導体と、
式(3’):
【化6】
[式中、X’は脱離基または保護された水酸基であり、R’は隣接基関与能のある水酸基の保護基であり、R’は水酸基の保護基であり、Y’はカルボキシル基またはヒドロキシメチル基の前駆体である基であり、R ’およびR ’はベンゾイル基ではない
で示されるグルコース誘導体またはグルクロン酸誘導体から、
式(4’):
【化7】
[式中、X’、R’、R’およびY’は上記定義と同じである]
で表されるα-グリコシドを製造する方法であって、下記工程1)~3):
工程1) 式(2’)で表されるキシロース誘導体と式(3’)で表されるグルコース誘導体またはグルクロン酸誘導体とを直接縮合させてα1→3グリコシドおよびβ1→3グリコシドの混合物を得て、
工程2) 工程1)で得られた混合物を脱保護し、次いで、
工程3) 工程2)で脱保護された混合物からα-グリコシドを分離する
を含み、工程3)の分離が、β-グリコシドをクロロホルムに溶解させてβ-グリコシドを除去することにより行われる、方法。
【請求項2】
工程1)の縮合が、NIS-AgOTf、NIS-TfOH、MeOTf、CuBr-AgOTf-nBuNI、またはNBS-AgOTfを縮合剤として用いて行われる、請求項記載の方法。
【請求項3】
工程2)の脱保護が、トリフルオロ酢酸(TFA)を用いる加水分解により、キシロース残基の2-、3-および4-位に水酸基を有するトリオールを形成させるものである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
’およびR ’がアセチル基である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
式(9):
【化10】
で示される四糖またはその誘導体。
【請求項6】
式(7):
【化11】
[式中、Xは脱離基または保護された水酸基、X~Xは水酸基の保護基、Xはアルキル基である]
で示される二糖供与体を、式(8):
【化12】
[式中、X~X13は水酸基の保護基である、たたしX12およびX13は一緒になってアセタールを形成してもよい]
で示される二糖受容体と反応させることにより四糖誘導体を得て、次いで、四糖誘導体を脱保護することにより式(9):
【化13】
で示される四糖を得ることを特徴とする、式(9)で示される四糖の製造方法。
【請求項7】
はトリクロロアセトイミドイルオキシ、X~Xはアセチル、Xはメチル、Xはアリル、XおよびX10はベンジル、X11はTBDPS、X12およびX13は一緒になってイソプロピリデンアセタールを形成している、請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖の合成中間体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
筋ジストロフィーの一種である糖鎖異常型筋ジストロフィーは、糖タンパクであるジストログリカンの生合成異常によって引き起こされ、筋細胞の傷害をはじめ、脳奇形や精神発達遅滞などの中枢神経障害を伴う。最近の研究により、筋細胞に存在するジストログリカンの糖鎖異常が糖鎖異常型筋ジストロフィーの原因であることがわかってきた。ジストログリカンの糖鎖のうち、ラミニンと親和性のある糖鎖部分をマトリグリカンという。マトリグリカンは、ラミニンを介して筋細胞と基底膜とを繋ぎとめるものであり、この糖鎖に生合成異常が生じることにより糖鎖異常型筋ジストロフィーが発症する。
【0003】
マトリグリカンを含むSer/Thr以降の糖鎖の全体構造について研究が進められ、リビトールリン酸を介してマトリグリカンが伸長するO-マンノシルグリカンであることがわかっている。マトリグリカンはその非還元末端部分にα-キシロースとβ-グルクロン酸からなる二糖の繰り返しを有する糖鎖を含んでおり(非特許文献1)、この二糖の繰り返しを有する糖鎖がラミニンとの結合に必要であることがわかっている(非特許文献2)。
【0004】
糖鎖異常型筋ジストロフィーの治療には、O-マンノシルグリカンの生合成に関与する糖鎖生合成酵素を規定する遺伝子の改善が有望視されている。しかし、関与する遺伝子の種類は多く、過剰発現した場合は病状が悪化することも報告されており、糖鎖異常型筋ジストロフィーの遺伝子治療は容易ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kanagawa, M. et al., Cell Rep., 14, 2209-2223 (2016)
【文献】Goddeeris, M. et al., Nature 503, 136-140 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ラミニンを介して筋細胞と基底膜とを繋ぎとめているジストログリカン上のマトリグリカンを再構築できれば、糖鎖異常型筋ジストロフィーの発症を抑制することができる。したがって、本発明が解決すべき課題は、マトリグリカンを再構築することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決せんと鋭意研究を重ね、α-キシロースとβ-グルクロン酸からなる二糖の繰り返しを有する糖鎖を合成するための二糖ユニット(Xylα1-3GlcAβ)の合成、該二糖ユニット同士を結合した四糖の合成、ならびに該繰り返しを有する糖鎖とαジストログリカンから伸長する糖鎖をつなぐ四糖部分の合成に成功し、マトリグリカンの再構築可能性を示した。本発明者らは、これらの知見から本発明を完成するに至った。
【0008】
したがって、本発明は以下のものを提供する。
[1]式(1):
【化1】

[式中、Xは脱離基または保護された水酸基であり、Yはカルボキシル基もしくはヒドロキシメチル基またはそれらの前駆体である基であり、R~Rはそれぞれ独立して水素であるかまたは水酸基の保護基である]
で表される二糖誘導体。

[2]Xがトリクロロアセトイミドイルオキシ、アルキルチオ、アリールチオ、ハロゲン、ペンテニルオキシ、アルコキシおよびフェノキシからなる群より選択される基であり、YがCOOZまたはCHOZであり、Zがアルキル基であり、Zは水酸基の保護基であり、R~Rがそれぞれ独立して置換ベンジルを含むベンジル、アリル、レブリノイル、置換ベンゾイルを含むベンゾイル、置換アセチルを含むアセチル、アリルオキシカルボニル、イソプロピリデン、ベンジリデンおよびトリアルキルシリルからなる群より選択される基である[1]記載の二糖誘導体。

[3]式(2):
【化2】

[式中、Xは脱離基であり、Yはキシロース残基の配座を固定する基であり、Rは、p-アルキルオキシベンジル、3,4-ジアルキルオキシベンジル、固相化されたp-アルキルオキシベンジル、固相化された3,4-ジアルキルオキシベンジル、ナフチル、ナフチルメチル、-CH=CH、-C(CH)=CH、-CH-CH=CH、-CH=CH-CH、-CH=C=CH、および水素からなる群から選択される基である]
で表されるキシロース誘導体と、
式(3):
【化3】

[式中、Xは脱離基または保護された水酸基であり、RおよびRは水酸基の保護基であり、Yはカルボキシル基またはヒドロキシメチル基の前駆体である基である]
で示されるグルコース誘導体またはグルクロン酸誘導体から、
式(4):
【化4】

[式中、X、R、RおよびYは上記定義と同じである]
で表されるα-グリコシドを製造する方法であって、下記工程1)~3):
工程1) 式(2)で表されるキシロース誘導体と式(3)で表されるグルコース誘導体またはグルクロン酸誘導体とを反応させて、キシロース誘導体のOR基とグルコース誘導体またはグルクロン酸誘導体の非保護水酸基とを介した混合アセタール誘導体を製造し、
工程2) 工程1)で得られた混合アセタール誘導体を、脱離基Xを活性化させることにより反応させてα1→3二糖誘導体を製造し、次いで、
工程3) 工程2)で得られた二糖誘導体を脱保護して式(4)に誘導する
を含む方法。

[4]Xがトリクロロアセトイミドイルオキシ、アルキルチオ、ハロゲン、アリールチオ、およびペンテニルオキシからなる群より選択される基であり、Yがアセタール、カーボネート、シリレンアセタール、およびスタニレンアセタールからなる群より選択される基であり、Rがp-メトキシベンジルおよびナフチルメチルからなる群より選択される基であり、Xがトリクロロアセトイミドイルオキシ、アルキルチオ、アリールチオ、ハロゲン、ペンテニルオキシ、アルコキシおよびフェノキシからなる群より選択される基であり、RおよびRがそれぞれ独立して置換ベンジルを含むベンジル、アリル、レブリノイル、置換ベンゾイルを含むベンゾイル、置換アセチルを含むアセチル、アリルオキシカルボニルおよびトリアルキルシリルからなる群より選択される基であり、YがCOOZまたはCHOZであり、Zがアルキル基であり、Zは水酸基の保護基である[3]記載の方法。

[5]R、Rが置換ベンゾイルを含むベンゾイル、置換アセチルを含むアセチルおよびレブリノイルからなる群より選択される基である[4]記載の方法。

[6]式(2’):
【化5】

[式中、X’は脱離基であり、Y’はキシロース残基の配座を固定する基であり、R’は隣接基関与能のない水酸基の保護基である]
で表されるキシロース誘導体と、
式(3’):
【化6】

[式中、X’は脱離基または保護された水酸基であり、R’は隣接基関与能のある水酸基の保護基、R’は水酸基の保護基であり、Y’はカルボキシル基またはヒドロキシメチル基の前駆体である基である]
で示されるグルコース誘導体またはグルクロン酸誘導体から、
式(4’):
【化7】

[式中、X’、R’、R’およびY’は上記定義と同じである]
で表されるα-グリコシドを製造する方法であって、下記工程1)~3):
工程1) 式(2’)で表されるキシロース誘導体と式(3’)で表されるグルコース誘導体またはグルクロン酸誘導体とを直接縮合させてα1→3グリコシドおよびβ1→3グリコシドの混合物を得て、
工程2) 工程1)で得られた混合物を脱保護し、次いで、
工程3) 工程2)で脱保護された混合物からα-グリコシドを分離する
を含む方法。

[7]工程1)の縮合が、NIS-AgOTf、NIS-TfOH、MeOTf、CuBr-AgOTf-nBuNI、またはNBS-AgOTfを縮合剤として用いて行われる、[6]記載の方法。

[8]工程2)の脱保護が、トリフルオロ酢酸(TFA)を用いる加水分解により、キシロース残基の2-、3-および4-位に水酸基を有するトリオールを形成させるものである、[6]または[7]記載の方法。

[9]工程3)の分離が、β-グリコシドをクロロホルムに溶解させてβ-グリコシドを除去することにより行われる、[6]~[8]のいずれかに記載の方法。

[10]式(1)で示される二糖誘導体を中間体(XGユニットという)として用いることを含む、式(5):
【化8】

[式中、Xは脱離基であるかまたは保護された水酸基であり、nは1以上の整数である]
で示されるXGユニットオリゴマーを製造する方法。

[11]式(1)で示される二糖誘導体を糖供与体とし、式(1’):
【化9】

[式中、Yはカルボキシル基またはヒドロキシメチル基の前駆体である基であり、Xは脱離基または保護された水酸基であり、R~R12は水酸基の保護基である]
で示される二糖誘導体を糖受容体として反応させることを含む[10]記載の方法。

[12]YがCOOZまたはCHOZであり、Zがアルキル基であり、Zは水酸基の保護基であり、Xがトリクロロアセトイミドイルオキシ、アルキルチオ、アリールチオ、ハロゲン、ペンテニルオキシ、アルコキシおよびフェノキシからなる群より選択される基であり、R~R12はそれぞれ独立して、置換ベンジルを含むベンジル、アリル、レブリノイル、置換ベンゾイルを含むベンゾイル、置換アセチルを含むアセチル、アリルオキシカルボニルおよびトリアルキルシリルからなる群より選択される基である[11]記載の方法。

[13]Rが置換ベンゾイルを含むベンゾイル、置換アセチルを含むアセチルおよびレブリノイルからなる群より選択される基である[12]記載の方法。

[14]式(9):
【化10】

で示される四糖またはその誘導体。

[15]式(7):
【化11】

[式中、Xは脱離基または保護された水酸基、X~Xは水酸基の保護基、Xはアルキル基である]
で示される二糖供与体を、式(8):
【化12】

[式中、X~X13は水酸基の保護基である、たたしX12およびX13は一緒になってアセタールを形成してもよい]
で示される二糖受容体と反応させることにより四糖誘導体を得て、次いで、四糖誘導体を脱保護することにより式(9):
【化13】

で示される四糖を得ることを特徴とする、式(9)で示される四糖の製造方法。

[16]Xはトリクロロアセトイミドイルオキシ、X~Xはアセチル、Xはメチル、Xはアリル、XおよびX10はベンジル、X11はTBDPS、X12およびX13は一緒になってイソプロピリデンアセタールを形成している、[15]記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、誘導体化されていてもよいα-キシロースと誘導体化されていてもよいβ-グルクロン酸からなる二糖ユニットが提供される。該二糖ユニットを用いて該ポストリン酸糖鎖を再構築することができる。このことは、糖鎖異常型筋ジストロフィーの発症抑制を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.二糖誘導体
本発明は、1の態様において、式(1):
【化14】

[式中、Xは脱離基または保護された水酸基であり、Yはカルボキシル基もしくはヒドロキシメチル基またはそれらの前駆体である基であり、R~Rはそれぞれ独立して水素であるかまたは水酸基の保護基である]
で表される二糖誘導体を提供する。
【0011】
としては公知の脱離基または保護された水酸基を使用でき、トリクロロアセトイミドイルオキシ、アルキルチオ、アリールチオ、ハロゲン、ペンテニルオキシ(4-ペンテニルオキシ)等の、糖鎖合成に一般的に使用される脱離基が例示されるが、これらに限定されない。本開示における他の箇所の脱離基も同様である。好ましい脱離基Xとしてはトリクロロアセトイミドイルオキシ、アルキルチオやフェニルチオなどのチオグリコシドを形成するものが例示されるが、これらに限定されない。水酸基の保護基は当業者によく知られている。すなわち、保護された水酸基は当業者によく知られている。Xはアルコキシまたはフェノキシであってもよい。
【0012】
はカルボキシル基もしくはヒドロキシメチル基またはそれらの前駆体である基である。カルボキシル基またはヒドロキシメチル基の前駆体である基は、当業者によく知られており、例えば酸化/還元反応、加水分解反応のような反応、加熱などを経ることにより典型的に1ステップでカルボキシル基またはヒドロキシメチル基に転換できる基を表す。カルボキシル基またはヒドロキシメチル基の前駆体は通常はカルボキシル基またはヒドロキシメチル基の誘導体でもある。Y基の例としては、COOZまたはCHOZなどが挙げられるが、これらに限定されない。ここで、Zはアルキル基であり、好ましくは炭素数1~3個のアルキル基である。より好ましいZ基はメチルである。Zは通常用いられる水酸基の保護基である。水酸基の保護基は公知であり、その具体例は本明細書に記載されている。
【0013】
~Rはそれぞれ独立して水素であるかまたは水酸基の保護基である。本開示における保護基は糖鎖形成後に除去可能な基であることが好ましい。本開示において、化合物中に複数の水酸基の保護基がある場合は、それら複数の保護基は互いに異なる種類であり得、または互いに同じ種類であり得る。互いに異なる種類の保護基を使用することにより、選択的な脱保護が促進され得る。このような水酸基の保護基は公知であり、例えば、Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis, 5th Edition (Wiley)の第2章に記載されている保護基を挙げることができる。具体的には、ベンジル基、p-メトキシベンジル基、p-メトキシフェニル基、p-ニトロベンジル基、ベンゾイル基、p-メチルベンゾイル基、ベンジリデン基、アセチル基、ピバロイル基、レブリノイル基、アリル基、メトキシメチル基、tert-ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、イソプロピリデン、ベンジリデン、アリルオキシカルボニル、トリアルキルシリルなどが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいR基としては、隣接基関与能のある置換ベンゾイルを含むベンゾイル、置換アセチルを含むアセチル、レブリノイルが挙げられるが、これらに限定されない。隣接基関与能のある保護基のさらなる例は後述するR’基について記載されており、それらをR基に用いることができる。好ましいR~R基としては、置換ベンジルを含むベンジル、アリル、レブリノイル、置換ベンゾイルを含むベンゾイル、置換アセチルを含むアセチル、アリルオキシカルボニル、トリアルキルシリル等の糖鎖合成に一般的に使用される保護基が挙げられるが、これらに限定されない。R~Rのうちの少なくとも1つ(例えばR、またはR~Rのいずれか)が保護基であることが好ましく、その場合の残りの基は水素である。R~Rのすべてが保護基であってもよい。
【0014】
本発明は、さらなる態様において、式(2):
【化15】

[式中、Xは脱離基であり、Yはキシロース残基の配座を固定する基であり、Rはp-アルキルオキシベンジル、3,4-ジアルキルオキシベンジル、固相化されたp-アルキルオキシベンジル、固相化された3,4-ジアルキルオキシベンジル、ナフチル、ナフチルメチル、-CH=CH、-C(CH)=CH、-CH-CH=CH、-CH=CH-CH、-CH=C=CH、および水素からなる群から選択される基である]
で表されるキシロース誘導体と、
式(3):
【化16】

[式中、Xは脱離基または保護された水酸基であり、RおよびRは水酸基の保護基であり、Yはカルボキシル基またはヒドロキシメチル基の前駆体である基である]
で示されるグルコース誘導体またはグルクロン酸誘導体から、
式(4):
【化17】

[式中、X、R、RおよびYは上記定義と同じである]
で表されるα-グリコシドを製造する方法であって、下記工程1)~3):
工程1) 式(2)で表されるキシロース誘導体と式(3)で表されるグルコース誘導体またはグルクロン酸誘導体とを反応させて、キシロース誘導体のOR基とグルコース誘導体またはグルクロン酸誘導体の非保護水酸基とを介した混合アセタール誘導体を製造し、
工程2) 工程1)で得られた混合アセタール誘導体を、脱離基Xを活性化させることにより反応させてα1→3二糖誘導体を製造し、次いで、
工程3) 工程2)で得られた二糖誘導体を脱保護して式(4)に誘導する
を含む方法を提供する。
【0015】
上記のα-グリコシドの製造方法において、式(2)の化合物が糖供与体、式(3)の化合物が糖受容体となる。
【0016】
式(2)の化合物において、Xは脱離基である。Xは上で説明した脱離基Xと同様であり、トリクロロアセトイミドイルオキシ、アルキルチオ、アリールチオ、フェニルスルフィニル、ハロゲン、ペンテニルオキシ等の、糖鎖合成に一般的に使用される脱離基が例示されるが、これらに限定されない。脱離基として好ましいXとしてはトリクロロアセトイミドイルオキシ、アルキルチオやアリールチオなどのチオグリコシドを形成するものが例示されるが、これらに限定されない。本開示において脱離基として記載されるアルキルチオ基は、例えば炭素数1~20のアルキルチオであり得るが、これに限定されない。本開示において脱離基として記載されるアリールチオ基は、例えばフェニルチオまたはトリルチオであり得るがこれに限定されない。
【0017】
式(2)の糖供与体において、Yは、キシロース残基を表記の配座に固定し、環の反転を防止しうる基である。なお、式(2)において、左側に表示された2つの酸素原子はY基に含まれる。具体的には、Yは、アセタール、カーボネート、シリレンアセタール、またはスタニレンアセタールであり得る。アセタールはジアセタールを含む。これらの構造を定義づける酸素原子が、上記式(2)の左側に表示された2つの酸素原子に相当することが理解されるべきである。より具体的には、Yは下記式(2a)で表される構造であり得る。
【化18】

式(2a)中、ZはC、Si、またはSnであり、Z=Cであり且つYがアセタールである場合にはnは0~2の整数(好ましくは0または1)でありそれ例外の場合はnは0である。各Zに結合する2つのLは、それぞれ独立してアルキル、フェニル、または水素である。2つのLのいずれか片方または両方がアルキルまたはフェニルであることが好ましい。nが1以上の場合は、各Zに結合する2つのLの片方はさらにアルキルオキシ(例えばメトキシ)またはフェニルオキシであり得る。あるいは、Z=Cであり且つYがカーボネートである場合には、Zに結合する2つのLは一緒になって「O=」を表す。アルキルおよびアルキルオキシにおけるアルキル基は、例えば炭素数1~6個のアルキル基であり得るが、これに限定されない。
式(2)の糖供与体の好ましい具体例を下記に示す。下記の例において、(2-1)および(2-2)はYがn=0のアセタールである実施形態、(2-3)はYがn=1のアセタールである実施形態、(2-4)、(2-5)、および(2-6)はそれぞれYがカーボネート、シリレンアセタール、およびスタニレンアセタールである実施形態を表す。ここに示されるL基は例示であって、L基はこれらに限定されない。
【化19】
【0018】
は、p-アルキルオキシベンジル、3,4-ジアルキルオキシベンジル、固相化されたp-アルキルオキシベンジル、固相化された3,4-ジアルキルオキシベンジル、ナフチル、ナフチルメチル、-CH=CH、-C(CH)=CH、-CH-CH=CH、-CH=CH-CH、-CH=C=CH、および水素からなる群から選択される。これらRは、IAD(intramolecular aglycon delivery:分子内アグリコン転移)法によりこの糖供与体の2位と糖受容体の3位(唯一の非保護水酸基)との間をつなぐ混合アセタールを生じさせる基である。IAD法自体は当業者に知られており、Carbohydrate Research, 343, 1553-1573 (2008)においてCumpsteyにより総説されている。例えば、Rがp-アルキルオキシベンジル、3,4-ジアルキルオキシベンジル、固相化されたp-アルキルオキシベンジル、固相化された3,4-ジアルキルオキシベンジル、ナフチル、またはナフチルメチルである場合に、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(DDQ)を用いる酸化条件下で、式(3)に示す糖受容体との間に(該糖受容体の第3位非保護水酸基を介して)混合アセタールを生じせしめる。当業者には理解されているように、DDQの他にも、Rの種類に応じて、混合アセタールを生じさせるために異なる試薬が用いられ得る(例えば、トシル酸等の酸触媒、N-ヨードスクシンイミド(NIS)、およびイミダゾールと4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)等の塩基触媒が挙げられるがこれらに限定されない)。特に、Rが水素である場合には、糖受容体との反応にMeSiClを加えてシリレン混合アセタール形成に関与させることができる。上記Cumpstey総説に記述されているように、IAD法により混合アセタールを生じさせるための具体的な試薬は当業者に知られており、当業者が適宜選択することができる。上述したR基中のアルキルオキシ基は例えば炭素数1~6のものであり得るがこれに限定されない。好ましいRとしてはp-メトキシベンジル、ナフチルメチルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
式(3)の糖受容体において、Xは脱離基または保護された水酸基であり、RおよびRは水酸基の保護基である。Xは上で説明したXと同様であり、RおよびRは上で説明したR~Rと、特にRおよびRと同様である。脱離基として好ましいXとしては、トリクロロアセトイミドイルオキシ、アルキルチオ、アリールチオ、ハロゲン、ペンテニルオキシ等の、糖鎖合成に一般的に使用される脱離基が挙げられる。好ましいRおよびRとしては、置換ベンジルを含むベンジル、アリル、レブリノイル、置換ベンゾイルを含むベンゾイル、置換アセチルを含むアセチル、アリルオキシカルボニル、トリアルキルシリル等の糖鎖合成に一般的に使用される保護基が挙げられる。特に好ましいRとしては、隣接基関与能のある置換ベンゾイルを含むベンゾイル、置換アセチルを含むアセチル、レブリノイルなどが挙げられるが、これらに限定されない。隣接基関与能のある保護基のさらなる例は後述するR’基について記載されており、それらをR基に用いることができる。
【0020】
は上で説明したYと同様であり、例えばCOOZまたはCHOZなどが挙げられるが、これらに限定されない。ここに、Zはアルキル基であり、好ましくは炭素数1~3個のアルキル基である。より好ましいZ基はメチルである。Zは通常用いられる水酸基の保護基である。水酸基の保護基は公知である。
【0021】
式(2)で示されるキシロース誘導体(糖供与体)と式(3)で示されるグルコース誘導体またはグルクロン酸誘導体(糖受容体)を縮合させて式(4)で示されるα-グリコシドを得る。α-グリコシドを得るための工程は以下の1)~3)を含む。工程1)~3)、特に工程1)、2)は、IAD法に基づくものである。
工程1) 式(2)で表されるキシロース誘導体と式(3)で表されるグルコース誘導体またはグルクロン酸誘導体とを反応させて、キシロース誘導体の2位のOR基とグルコース誘導体またはグルクロン酸誘導体の3位の非保護水酸基とを介した混合アセタール誘導体を製造し、
工程2) 工程1)で得られた混合アセタール誘導体を、脱離基Xを活性化せることにより反応させてα1→3二糖誘導体を製造し、次いで、
工程3) 工程2)で得られた二糖誘導体を脱保護して式(4)に誘導する。
【0022】
工程1)の反応は、例えば2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(DDQ)の存在下で行い得る。工程1)で製造される混合アセタール誘導体は、糖供与体の2位炭素と糖受容体の3位炭素がアセタールの2つの酸素原子とそれぞれ結合した混合アセタールである。工程2)で得られる二糖誘導体は、式(4)と同様に、糖供与体の1位炭素と糖受容体の3位炭素が同じ1つの酸素原子に結合して連結された二糖である。異なる種類の脱離基Xを活性化しうる多様な縮合剤(グリコシル化プロモーター)が当業者に知られており、IAD法の一部としてCumpstey総説にも詳しく記述されている。工程2)の反応は、例えばNIS-AgOTf、NIS-TfOH、MeOTf、CuBr-AgOTf-nBuNI、NBS-AgOTfなどの縮合剤(グリコシル化プロモーター)の存在下で行い得る。工程3)は脱保護工程である。保護基の種類によって脱保護の方法が異なるが、様々な保護基の脱保護の方法が公知である。例えばベンジル基などの場合は酸やアルカリによる加水分解にて脱保護を行ってもよい。トリフルオロ酢酸は脱保護のために特に好ましく用いられる。脱保護によりY基も除去されて、キシロースの3,4位に水酸基を残すことができる。
【0023】
上記のα-グリコシドの製造方法の具体例を以下のスキーム1に示す。
【化20】

[上のスキーム中、Levは-C(=O)CC(=O)CHであり、Bzは-C(=O)Cであり、MBnは-CH4OCH3(p)であり、MPは-C4OCH3(p)であり、Meは-CHであり、Acは-C(=O)CHであり、MBzは-C(=O)C4CH3(p)である]
【0024】
本発明は、さらなる態様において、上記式(2)で示されるキシロース誘導体と、上記式(3)で示されるグルコース誘導体またはグルクロン酸誘導体とを、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(DDQ)等の存在下で反応させて混合アセタール誘導体を得て、該混合アセタール誘導体を縮合剤の存在下で縮合させ、次いで、所望により縮合物を脱保護することを含む、二糖(キシロースα1-3グルクロン酸、該二糖において、キシロース残基およびグルクロン酸残基は誘導体化されていてもよい)の製造方法を提供する。
所望により脱保護とは、保護基の一部(少なくとも1つ)または全部を除去することをいう。糖の誘導体化は当業者に公知である。例えば、上記二糖が公知の保護基を含んでいてもよく、公知の脱離基を含んでいてもよい。上記二糖の保護基および脱離基としては、上で説明したものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
式(2)に対応するキシロース誘導体(糖供与体)と式(3)に対応するグルコース誘導体またはグルクロン酸誘導体(糖受容体)との反応には以下の問題点があった:
・αキシロースには隣接基関与が利用できないため、アノマー位の立体制御が難しい。
・キシロースは環反転しやすい。
これらの問題点により、α-グリコシド結合が形成されない場合がある。
そこで、本発明者らは、分子内アグリコン転移を生ぜしめる保護基でキシロースの2位の水酸基を保護して糖受容体(グルクロン酸誘導体)と縮合させることにより、分子内アグリコン転移反応を生じさせ、α選択的なグリコシル化を可能とした。分子内アグリコン転移を生ぜしめる保護基としては上述したようにp-メトキシベンジル基、ナフチル基などが挙げられる。
さらに、本発明者らは、キシロースの3位および4位を、2,3-ブタンジオンなどを用いてジアセタール等として水酸基保護すると共に環固定することにより、キシロースの環反転を防止することにした。
これらの工夫により本発明者らは上記問題点を解決し、立体選択的に式(4)に示されるαグリコシドを合成することに成功した。
【0026】
上記方法で得られた式(4)の二糖の水酸基を適宜保護して式(1)で示す本発明の二糖誘導体を得ることができる。保護基の選択および着脱は当業者の技量の範囲内である。
【0027】
上記段落0014~0025に記載した方法では、立体選択的に二糖生成物が得られるものの、その収率が低い難点があった。そこで、本発明者らは、式(2’)で示されるキシロース誘導体(糖供与体)と式(3’)で示されるグルコース誘導体またはグルクロン酸誘導体(糖受容体)を、混合アセタール(分子内アグリコン転移)を経る方法によらないで直接縮合させて式(4’)で示されるα-グリコシドとβ-グリコシドを含む混合物を得た。所望のα-グリコシドの単離は困難であった。しかしながら、下のスキーム2に示すトリフルオロ酢酸(TFA)による加水分解で保護基を除去して得られた所望のα-グリコシドを含むジアステレオマー混合物の溶解性を鋭意検討した結果、所望のα-グリコシドはメタノールに可溶であるがクロロホルムには不溶である一方、副生成物であるβ-グリコシドは、逆にクロロホルムに可溶である事実を発見するに至った。この特性を利用して所望のα-グリコシドのみを上記段落0014~0025に記載した方法よりも高い収率で得ることに成功した。
【0028】
したがって、本発明は、さらなる態様において、
式(2’):
【化21】


[式中、X’は脱離基であり、Y’はキシロース残基の配座を固定する基であり、R’は水酸基の保護基である]
で表されるキシロース誘導体と、
式(3’):
【化22】

[式中、X’は脱離基または保護された水酸基であり、R’は水酸基の保護基であり、R’は水酸基の保護基であり、Y’はカルボキシル基またはヒドロキシメチル基の前駆体である基である]
で示されるグルコース誘導体またはグルクロン酸誘導体から、
式(4’):
【化23】

[式中、X’、R’、R’およびY’は上記定義と同じである]
で表されるα-グリコシドを製造する方法であって、下記工程1)~3):
工程1) 式(2’)で表されるキシロース誘導体と式(3’)で表されるグルコース誘導体またはグルクロン酸誘導体とを直接縮合させてα1→3グリコシドおよびβ1→3グリコシドの混合物を得て、
工程2) 工程1)で得られた混合物を脱保護し、次いで、
工程3) 工程2)で脱保護された混合物からα-グリコシドを分離する
を含む方法を提供する。
【0029】
縮合に用いる糖供与体103はαβいずれの立体配置でも生成物208aと208bを同じ収率で与える(下のスキーム2のMethod 1, Method 2)。したがって、使用する糖供与体103の立体化学は限定されないし、その混合物でも良い(下のスキーム2のMethod 3)。
【0030】
式(2’)で示される糖供与体において、X’およびY’は式(2)に関して説明したXおよびYとそれぞれ同じである。式(2’)において、左側に表示された2つの酸素原子はY’基に含まれる。R’は水酸基の保護基である。R’は隣接基関与能のない水酸基の保護基であることがより好ましく、隣接基関与能のあるアシル基はもっぱらβ-グリコシドを生じうる。特に適切なR’の具体例としては、ベンジル基、p-メトキシベンジル基、p-メトキシフェニル基、p-ニトロベンジル基、アリル基、メトキシメチル基、tert-ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいR’としてはp-メトキシベンジル基が挙げられるが、これに限定されない。
本開示において、隣接基関与(化学大辞典 共立出版)能のある水酸基の保護基とは、当業者に理解されるように、水酸基の保護基で-C(=O)Rとして一般化されるものをいい、式(2’)の例に沿っていうと、1位の脱離基(X’)が脱離した後に1位炭素原子上に生じるカルボカチオンを上記酸素原子が攻撃して形成される環構造が2位の水酸基と同じ面(cis面)を覆うことにより、反対側(trans側)からの受容体の攻撃を専らにさせる機能を持つ保護基である。この記述に該当しない保護基は、隣接基関与能のない保護基と解される。
【0031】
式(3’)で示される糖受容体において、R’は水酸基の保護基であるが、糖間の縮合においてβ-グリコシドを形成させるためには、R’は隣接基関与能のある水酸基の保護基であることが好ましい。隣接基関与能のある水酸基の保護基としては、-C(=O)Rとしてアシル基を形成するもの、例えばRがアルキルまたはアリールであるアセチル基、1~3個のハロゲン原子で置換されたアセチル基、ベンゾイル基、1~5個のハロゲン、ニトロ基および/または炭素数1~3個のアルキル基で置換されたベンゾイル基、およびレブリノイル基、ならびにベンジルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル基などが挙げられるがこれらに限定されない。好ましいR’としてはアセチル基、1~3個のハロゲン原子で置換されたアセチル基、ベンゾイル基、1~5個のハロゲン、ニトロ基および/または炭素数1~3個のアルキル基で置換されたベンゾイル基などが挙げられるがこれらに限定されない。X’、R’およびY’は式(3)に関して説明したX、RおよびYとそれぞれ同じである。例えば、X’がp-メトキシフェニルで保護された水酸基、R’およびR’がアセチル基、Y’がカルボン酸メチル基であってもよい。
【0032】
工程1)の縮合反応は、公知の縮合剤(グリコシル化プロモーター)を用いて行うことができる。公知の縮合剤としては、NIS-AgOTf、NIS-TfOH、MeOTf、CuBr-AgOTf-nBuNI、NBS-AgOTfなどが挙げられるが、NIS-AgOTfが好ましい。これらの縮合剤の存在下で脱離基X’が活性化する。直接縮合とは、糖供与体の置換基と糖受容体の置換基が、他の化合物または基を介さずに結合を生じさせることをいう。本開示では特に、直接縮合は、分子内アグリコン転移を介する態様と対照的に、はじめから1→3グリコシド結合を形成させる縮合を指す。
【0033】
工程2)の脱保護は、公知の方法にて行うことができる。好ましくは、キシロース残基の2-、3-、および4-位を脱保護してトリオールとする。このようなトリオールのうち、α-グリコシドは式(4’)の二糖誘導体である。しかも、後で述べる溶媒を用いて簡単に式(4’)の二糖誘導体を分離することができる。かかる脱保護に使用される薬剤としては酸が用いられる。このような酸としてはトリフルオロ酢酸(TFA)、トリクロロ酢酸などが好ましく、TFAが特に好ましい。
【0034】
工程3)において、工程2)で得られた脱保護されたグリコシド混合物(脱保護されたトリオールのジアステレオマー混合物)からα-グリコシドを分離する。ジアステレオマー(α-グリコシドとβ-グリコシド)の分離方法としては、クロマトグラフィーを用いる方法、溶媒抽出法などが用いられ得る。分離されたα-グリコシドが式(4’)の二糖誘導体と異なる場合は、公知の方法にて保護および/または脱保護などを行って、式(4’)の二糖誘導体を得てもよい。とりわけ、キシロース残基の2-、3-、および4-位を脱保護してトリオールとして得られたα-グリコシド(式(4’)の二糖誘導体)はクロロホルムには不溶であるがメタノールに可溶であり、β-グリコシドはクロロホルムに可溶である(メタノールへの溶解性は比較的低い)。この性質を利用して、ジアステレオマー混合物をクロロホルムで処理して、溶解したβ-グリコシドを除去することにより、所望のα-グリコシドを分離することができる。あるいはジアステレオマー混合物をメタノールで処理して溶解したα-グリコシドを回収することを経て、所望のα-グリコシドを分離してもよい。
【0035】
上記のα-グリコシドの新しい製造方法の具体例を以下のスキーム2に示す。
【化24】

[上のスキーム中、MBnは-CH4OCH3(p)であり、MPは-C4OCH3(p)であり、Meは-CHであり、Acは-C(=O)CHであり、NISはN-ヨードコハク酸イミドであり、AgOTfはトリフルオロメタンスルホン酸銀であり、TFAはトリフルオロ酢酸である]
【0036】
本発明は、さらなる態様において、上記式(2’)で示されるキシロース誘導体と、上記式(3’)で示されるグルコース誘導体またはグルクロン酸誘導体とを直接縮合させて、α-グリコシドおよびβ-グリコシドの混合物を得て、所望により該混合物を脱保護し、次いで、該混合物からα-グリコシドを分離することを含む、二糖(キシロースα1-3グルクロン酸、該二糖において、キシロース残基およびグルクロン酸残基は誘導体化されていてもよい)の製造方法を提供する。
所望により脱保護とは、保護基の一部(少なくとも1つ)または全部を除去することをいう。糖の誘導体化は当業者に公知である。例えば、上記二糖が公知の保護基を含んでいてもよく、公知の脱離基を含んでいてもよい。上記二糖の保護基および脱離基としては、上で説明したものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
2.二糖誘導体のオリゴマー
本発明の二糖誘導体は、ラミニンを介して筋細胞と基底膜とを繋ぎとめているジストログリカン上のポストリン酸糖鎖合成のための構成単位(本明細書においてXGユニットという場合がある)として使用することができる。二糖誘導体をオリゴマー化することにより、ポストリン酸糖鎖を再構築することができる。本発明の二糖誘導体は、ポストリン酸糖鎖を再構築するための必須合成単位である。
【0038】
二糖誘導体同士を縮合させることにより四糖誘導体を得ることができる。四糖誘導体と二糖誘導体を縮合させ、所望により脱保護を行って六糖誘導体を得ることができる。該六糖誘導体と二糖誘導体を縮合させ、所望により脱保護を行って八糖誘導体を得ることができる。あるいは四糖誘導体同士を縮合させ、所望により脱保護を行って八糖誘導体を得ることができる。このようにして、二糖誘導体のオリゴマーを合成することができる。
【0039】
したがって、本発明はさらなる態様において、式(1)で示される二糖誘導体を中間体(XGユニット)として用いることを含む、式(5):
【化25】

[式中、Xは脱離基であるかまたは保護された水酸基であり、nは1以上の整数である]
で示されるXGユニットのオリゴマーを製造する方法を提供する。オリゴマーの連結反応は単純に反復できるため、nの上限は特に制限されないことが当業者に理解される。nは例えば300以下、200以下、100以下、50以下、20以下等であり得る。
【0040】
式(5)で示される化合物のXが脱離基である場合、Xは上で説明したX等と同様の脱離基である。Xが保護された水酸基である場合、Xは上で説明したR等と同様の保護基を含み得る。
【0041】
具体的には、式(1)で示される二糖誘導体を糖供与体とし、式(1’):
【化26】

[式中、Yはカルボキシル基またはヒドロキシメチル基の前駆体である基であり、Xは脱離基または保護された水酸基であり、R~R12は水酸基の保護基である]
で示される二糖誘導体を糖受容体として、これらを縮合させることにより四糖誘導体を得ることができる。同様の手法にて、四糖誘導体どうしを縮合させ、あるいは式(1)で示される二糖誘導体と四糖誘導体を縮合させ、あるいは四糖誘導体と式(1’)で示される二糖誘導体縮合させ、あるいはこれらのオリゴマーとオリゴマーおよび/または二糖誘導体との縮合を繰り返すことにより、より鎖長の長いオリゴマー誘導体を得ることができる。これらのオリゴマー誘導体を公知の方法により脱保護して、より鎖長の長い式(5)に示すオリゴマーを得ることができる。
【0042】
式(1’)において、Yは上で説明したY等と同様の基である。Yの例としてはCOOZまたはCHOZなどが挙げられるが、これらに限定されない。ここに、Zはアルキル基であり、好ましくは炭素数1~3個のアルキル基である。より好ましいZ基はメチルである。Zは通常の水酸基の保護基である。Xは脱離基または保護された水酸基である。R~R12は水酸基の保護基であり、これらは上で説明したR等と同様の基である。好ましいXとしては、トリクロロアセトイミドイルオキシ、アルキルチオ、アリールチオ、ハロゲン、ペンテニルオキシ等の、糖鎖合成に一般的に使用される脱離基が挙げられるがこれらに限定されない。好ましいR~R12としては、置換ベンジルを含むベンジル、アリル、レブリノイル、置換ベンゾイルを含むベンゾイル、置換アセチルを含むアセチル、アリルオキシカルボニル、トリアルキルシリル等の糖鎖合成に一般的に使用される保護基が挙げられるが、これらに限定されない。好ましいRとしては、隣接基関与能のある置換ベンゾイルを含むベンゾイル、置換アセチルを含むアセチル、レブリノイルなどが挙げられるが、これらに限定されない。隣接基関与能のある保護基のさらなる例は上述するR’基について記載されており、それらをR基に用いることができる。
【0043】
式(1)で示される二糖誘導体を糖供与体とし、式(1’)で示される二糖誘導体を糖受容体として、これらを縮合させて四糖誘導体を合成する手順の具体例を以下のスキーム3に示す。下の具体例において得られたオリゴマー206bを、公知の方法で脱保護して式(5)に示すオリゴマー(n=1)を得ることができる。
【化27】

[上のスキーム中、Levは-C(=O)CC(=O)CHであり、Bzは-C(=O)Cであり、MPは-C4OCH3(p)であり、Meは-CHであり、MBzは-C(=O)C4CH3(p)である]
【0044】
上の具体例において得られたオリゴマー206bを、公知の方法、例えば水酸化ナトリウム水溶液のような塩基で処理することにより脱保護して、式(5)に示すオリゴマー(n=1)を得ることができる。
【0045】
本発明は、さらなる態様において、上記式(1)で示される二糖誘導体を糖供与体とし、上記式(1’)で示される二糖誘導体を糖受容体として反応させ、次いで、所望により、得られた四糖誘導体を脱保護することを含む、誘導体化されていてもよい式(5)で示される四糖の製造方法を提供する。
所望により脱保護とは、保護基の一部(少なくとも1つ)または全部を除去することをいう。糖の誘導体化は当業者に公知である。例えば、上記四糖が公知の保護基を含んでいてもよく、公知の脱離基を含んでいてもよい。上記四糖の保護基および脱離基としては、上で説明したものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
3.ポストリン酸糖鎖のキシロース-グルクロン酸繰り返し構造とαジストログリカンから伸びた糖鎖とを結合する四糖の合成
本発明は、さらなる態様において、式(9):
【化28】

で示される四糖またはその誘導体を提供する。式(9)の四糖は、ポストリン酸糖鎖のキシロース-グルクロン酸繰り返し構造とαジストログリカンから伸びた糖鎖とを結合する部分である。上記二糖誘導体、そのオリゴマー、および式(9)の四糖を用いてポストリン酸糖鎖を再構築することができる。再構築された糖鎖を、糖鎖異常型筋ジストロフィーの治療および予防のための医薬として用いることができる。式(9)の誘導体の例としては、式(9)中の水酸基の少なくとも一部または全部が保護基にて保護されている化合物、および式(9)中のカルボキシル基がアルキルエステル化されている化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。式(9)の四糖の誘導体の具体例としては、下のスキーム中の化合物404および405が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
本発明は、さらにもう1つの態様において、式(7):
【化29】

[式中、Xは脱離基または保護された水酸基、X~Xは水酸基の保護基、Xはアルキル基である]
で示される二糖供与体を、式(8):
【化30】

[式中、X~X13は水酸基の保護基である、たたしX12およびX13は一緒になってアセタールを形成してもよい]
で示される二糖受容体と反応させることにより四糖誘導体を得て、次いで、四糖誘導体を脱保護することにより式(9):
【化31】

で示される四糖を製造する方法を提供する。
【0048】
化合物(7)における脱離基Xとしては公知のものを使用でき、トリクロロアセトイミドイルオキシ、アルキルチオ、アリールチオ、ハロゲン、ペンテニルオキシ等の糖鎖合成に一般的に使用される脱離基が例示されるが、これらに限定されない。好ましい脱離基Xとしてはトリクロロアセトイミドイルオキシ、アルキルチオやフェニルチオなどのチオグリコシドを形成するものが例示されるが、これらに限定されない。化合物(7)における水酸基の保護基X~Xとしては、置換ベンジルを含むベンジル、アリル、レブリノイル、置換ベンゾイルを含むベンゾイル、置換アセチルを含むアセチル、アリルオキシカルボニル、トリアルキルシリル等の糖鎖合成に一般的に使用される保護基が挙げられるが、これらに限定されない。化合物(7)におけるアルキル基は、好ましくは炭素数1~3個のアルキル基であり、典型的にはメチル基である。1の具体例において、化合物(7)のXはトリクロロアセトイミドイルオキシ、X~Xはアセチル、Xはメチルである。
【0049】
化合物(8)における水酸基の保護基X~X13としては、キシロースの2、3位水酸基が保護され、リビトール側の保護基が除去されないあるいは変化しないかぎり、糖鎖合成に一般的に使用される保護基を使用できる。そのような保護基の例としては、置換ベンジルを含むベンジル、アリル、レブリノイル、置換ベンゾイルを含むベンゾイル、置換アセチルを含むアセチル、アリルオキシカルボニル、トリアルキルシリル等が挙げられるがこれらに限定されない。化合物(8)の2-位および3-位の水酸基は、アセタールによって保護されていてもよい。1の具体例において、化合物(8)のXはアリル、XおよびX10はベンジル、X11はTBDPS、2-位および3-位の水酸基はイソプロピリデンアセタールによって保護されている(つまり、X12およびX13は一緒になってイソプロピリデンアセタールを形成している)。
【0050】
式(7)の化合物は、公知の手法を用いて式(1)の二糖誘導体から誘導してもよい。
【0051】
式(8)の化合物は、公知の手法を用いて、例えば式(10):
【化32】

[式中、Levは-C(=O)CC(=O)CHであり、Bnは-CHであり、Allは-CHCH=CHであり、TBDPSは-Si(Ctert-Cである]
で示される二糖誘導体から誘導してもよい。
【0052】
上記方法の具体例を以下のスキーム4に示す。
【化33】

[上のスキーム中、Levは-C(=O)CC(=O)CHであり、Etは-Cであり、Acは-C(=O)CHであり、MBzは-C(=O)C4CH3(p)であり、Allは-CHCH=CHであり、CSAはカンファースルホン酸であり、DMFはジメチルホルムアミドであり、TBDPSは-Si(Ctert-Cであり、THFはテトラヒドロフランであり、TMSOTfはトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリルであり、Allは-CHCH=CHであり、TBAFはテトラブチルアンモニウムフルオリドである]
【0053】
式(1)の二糖誘導体の水酸基の保護基をアセチル基とした化合物のグルクロン酸の1位に-OC(NH)CClなどの脱離基を導入して式(7)に示す化合物を得てもよい。式(10)に示す化合物をキシロースから誘導してもよい。式(10)に示す化合物の2位、3位および4位のレブリノイル保護基を脱保護して、次いで、2位および3位の水酸基と2-メトキシプロペンとの間で環を形成させて式(8)に示す化合物を得る。式(7)に示す化合物(糖供与体)と式(8)に示す化合物(糖受容体)を反応させ、次いで、公知の方法により脱保護を行って、式(9)に示す四糖を得る。
【0054】
本発明は、さらなる態様において、上記式(7)で示される二糖供与体を、上記式(8)で示される二糖受容体と反応させ、次いで、所望により、得られた四糖誘導体を脱保護することを含む、誘導体化されていてもよい式(9)で示される四糖の製造方法を提供する。
所望により脱保護とは、保護基の一部(少なくとも1つ)または全部を除去することをいう。糖の誘導体化は当業者に公知である。例えば、上記四糖が公知の保護基を含んでいてもよく、公知の脱離基を含んでいてもよい。上記四糖の保護基および脱離基としては、上で説明したものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
上記説明およびスキームに示した反応条件は例示であって、当業者はこれらの反応条件を適宜変更することができる。
【0056】
本明細書中の用語の意味は、特に断らない限り、生化学、生物学、化学、薬学、医学などの分野において通常に理解されている意味と同じである。
【0057】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、実施例はあくまでも例示説明であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0058】
実施例1 二糖誘導体の合成
(1)Dodecyl 3,4-O-(2,3-dimethoxybutan-2,3-diyl)-1-thio-α-D-xylopyranoside (102a)の合成
MeOH(94mL)に溶解した既知化合物(101a,6.19g,18.5mmol)にトリメチルオルトホルメート(18mL)、2,3-ブタンジオン(6.5mL)と触媒量のカンファースルホン酸を加え50℃で一晩攪拌した。トリエチルアミンを加え濃縮し、濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=20:1~5:1)で精製し、102a(2.97g,27%)を得た。
【0059】
(x)Dodecyl 3,4-O-(2,3-dimethoxybutan-2,3-diyl)-1-thio-β-D-xylopyranoside (102b)の合成
MeOH(30mL)に溶解した既知化合物(101b,2.10g,6.28mmol)にトリメチルオルトホルメート(6mL)、2,3-ブタンジオン(2.4mL)と触媒量のカンファースルホン酸を加え40℃で一晩攪拌した。トリエチルアミンを加え濃縮し、濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=20:1~3:1)で精製し、102b(2.52g,89%)を得た。
【0060】
(2)3,4-O-(2,3-dimethoxybutan-2,3-diyl)-2-O-(4-methoxy)benzyl-1-thio-α-D-xylopyranoside (103a)の合成
化合物(102a,941.9mg,2.099mmol)をジメチルホルムアミド(11mL)に溶解し、水素化ナトリウム(55%,106.3mg,2.44mmol)を加え2時間攪拌した.ここに4-メトキシベンジルクロリド(0.57mL,5.6mmol)を加え、4時間攪拌した.反応液に氷と1M 塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル=50:1~10:1)で精製し、103a(743.0mg,62%)を得た。
【0061】
(2)3,4-O-(2,3-dimethoxybutan-2,3-diyl)-2-O-(4-methoxy)benzyl-1-thio-β-D-xylopyranoside (103b)の合成
化合物(102b,2.52g,5.62mmol)をジメチルホルムアミド(28mL)に溶解し、水素化ナトリウム(55%,0.50g,11.5mmol)を加え2時間攪拌した.ここに4-メトキシベンジルクロリド(1.6mL,8.9mmol)を加え、3時間攪拌した.反応液に氷と1M 塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル=8:1~6:1)で精製し、103b(2.43g,76%)を得た。
【0062】
(3)Methyl (4-methoxyphenyl 2,4-di-O-acetyl-β-D-glucopyranoside) uronate (113a)の合成
MeOH(120mL)に溶解した既知化合物(111,22.75g,51.66mmol)に1.0M NaOH(120mL)を加え室温で一晩攪拌した.その後、1.0M HClで中和し、濃縮、乾燥した。得られた乾燥物にAcO(500mL)とI(0.24g)を加えて室温で8時間撹拌した。適当量のMeOH、氷、1Mハイポ(チオ硫酸ナトリウム)を加え、酢酸エチルで抽出し、無水MgSOで乾燥した。不溶物をろ過、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=6:1)で精製し、生成物を得た。得られた生成物をMeOH 400mLに溶解し、一週間加熱還流した。反応液を濃縮しシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=4:1)で精製し、113aを3.56g(3工程収率17%)得た。
【0063】
(4)Methyl (4-methoxyphenyl 2,4-di-O-benzoyl-β-D-glucopyranoside) uronate (113b)の合成
THF(212mL)と水(31mL)の混合溶媒に溶解した既知化合物(111,23.92g,54.31mmol)に1.25M LiOH(296mL)を0℃で加え6時間攪拌した。その後、1.0M HClで中和し、濃縮、乾燥した。得られた乾燥物をDMF(550mL)に溶解し、無水安息香酸(172.24g,761.34mmol)を加えて79℃で3時間撹拌した。その後、ピリジン(226mL)とDMAP(3.40g,27.8mmol)を加えて室温で終夜撹拌した。適当量の氷を加え、酢酸エチルで抽出し、氷冷1M HClと飽和食塩水で洗浄し、有機層を無水MgSOで乾燥した。不溶物をろ過、濃縮し、生成物をMeOH(563mL)に溶解し、酢酸ナトリウム(7.86g,95.8mmol)を加えて5時間加熱攪拌した。反応液を濃縮し、クロロホルムで抽出して常法による後処理を行ったのち、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル=8:1~0:1)で精製し、113bを10.9g(3工程収率38%)を得た。
【0064】
(5)Methyl (2,3,4-tri-O-acetyl-α-D-xylopyranosyl)-(1→3)-β-(4-methoxyphenyl2,4-di-O-acetyl-β-D-glucopyranosid)uronate (204a)の合成
DDQ(477.2mg,2.102mmol)のCHCl(5mL)溶液にモレキュラーシーブス4A(1.5g)を加え、113a(535.7mg,1.354mmol)のCHCl(10mL)溶液を加え、室温で1時間攪拌した。そこに103b(967.4mg,1.700mmol)のCHCl(7mL)溶液を攪拌しつつ0℃で加え、その後室温で4時間反応を継続した。反応液に0.1Mアスコルビン酸水溶液を加え、珪藻土濾過した濾液をクロロホルムで抽出した。有機層は0.1Mアスコルビン酸水溶液、飽和重曹水と飽和食塩水で洗浄し、無水MgSOで乾燥した。不溶物を濾別し、濾液の濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル=6:1~1:10)で精製し、混合アセタール(201a)を1.074g(83%)得た。NIS(525.5mg,2.34mmol)とAgOTf(195.3mg,760μmol)をCHCl(22mL)に懸濁させ、モレキュラーシーブス4A(2.3g)存在下、遮光して1時間攪拌した。混合アセタール(201a,1.074g)のCHCl(220mL)溶液を-20℃で滴下し2時間攪拌を続けた。反応液に適当量の1Mハイポ、飽和重曹水と飽和食塩水を加え、珪藻土濾過した濾液をクロロホルムで抽出した。有機層は1Mハイポ、飽和重曹水と飽和食塩水で洗浄し、無水MgSOで乾燥した。不溶物を濾別し、濾液の濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル=30:1~1:10~酢酸エチル:メタノール=30:1)で精製し、二糖画分(753.9mg)を得た。このうち299.7mgに0℃で90%トリフルオロ酢酸(15mL)を加え攪拌した。反応液は2時間かけて室温に戻し試薬を減圧留去した。濃縮残渣にピリジン(3mL)と無水酢酸(3mL)を加え3時間攪拌した。試薬を減圧留去し、濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=10:1~2:3)で精製し、204aを85.6mg(24%)得た。
【0065】
(6)Methyl α-D-xylopyranosyl-(1→3)-β-(4-methoxyphenyl 2,4-di-O-benzoyl-β-D-glucopyranosid)uronate (202ba)の合成
モレキュラーシーブス4A(1.74g)とDDQ(474.2mg,2.087mmol)のCHCl(3mL)懸濁液に113b(706.3mg,1.352mmol)のCHCl(7mL)溶液を加え、室温で1時間攪拌した。そこに103b(962.9mg,1.693mmol)のCHCl(8mL)溶液を攪拌しつつ0℃で加え、その後室温で一晩反応を継続した。反応液を再度0℃に冷却しDDQ(160.4mg,706μmol)を加え5時間攪拌した。室温に戻し204aの合成と同様の後処理を行い、濃縮残渣をゲル濾過カラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=1:1)とシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=1:0~2:1)で精製し、混合アセタール(201b)を435.5mg(収率30%)得た。遮光してNIS(124.6mg,553.8μmol)とAgOTf(61.6mg,0.24mmol)をCHCl(4mL)に懸濁させ、モレキュラーシーブス4A(0.43g)存在下、混合アセタール(201b,232.9mg)のCHCl(40mL)溶液を-20℃で滴下し3時間攪拌を続けた。204aの合成と同様の後処理を行い、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=1:1)で精製し、生成物(156.7mg)を得た。これに0℃で90%トリフルオロ酢酸(8mL)を加え2.5時間攪拌した。室温に戻し試薬を減圧留去し、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=1:1)で精製し、202ba(49.4mg,75.5μmol,2工程収率35%)を得た。
【0066】
(7)Methyl [2,4-di-O-(4-methyl)benzoyl-α-D-xylopyranosyl]-(1-3)-β-(4-methoxyphenyl 2,4-di-O-benzoyl-β-D-glucopyranosid)uronate (203b1), Methyl [3,4-di-O-(4-methyl)benzoyl-α-D-xylopyranosyl]-(1-3)-β-(4-methoxyphenyl 2,4-di-O-benzoyl-β-D-glucopyranosid)uronate (203b2)の合成
化合物202ba(239.2mg,365.4μmol)をトルエン(13mL)に溶解し、酸化ジブチルすず(IV)(327.6mg,1.32mmol)を加えディーンスターク装置で2.5時間反応させた。反応液を氷冷し塩化4-メチルベンゾイル(122μL,923μmol)を加え室温で終夜攪拌した。反応液に飽和重曹水を加え、酢酸エチルで抽出し、常法により後処理を行った。濃縮残渣をゲル濾過カラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=1:1)で精製し、生成物のクロロホルム溶液を1M HClと飽和食塩水で洗浄し、有機層の濃縮残渣(381.9mg)をトルエン(12.5mL)とメタノール(2.5mL)に溶解した。この溶液を氷冷し、2M TMS ジアゾメタン(660μL,11.6μmol)を加え、1時間後に減圧濃縮した。残渣をゲル濾過カラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=1:1)とシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=10:0~0:1)で精製し、203b1(202.9mg)と203b2(42.6mg,)をそれぞれ収率62%と25%で得た。
203b1: ESI-HRMS m/z [(M+Na)+]: calcd. for C49H46NaO16: 913.2678; found, 913.2678.
203b2: ESI-HRMS m/z [(M+Na)+]: calcd. for C49H46NaO16: 913.2678; found, 913.2658.
【0067】
(8)Methyl [3-O-levulynoyl-2,4-di-O-(4-methyl)benzoyl-α-D-xylopyranosyl]-(1→3)-β-(4-methoxyphenyl 2,4-di-O-benzoyl-β-D-glucopyranosid)uronate (204b)の合成
化合物(203b1,111.4mg,125μmol)をピリジン(640μL)に溶解し、1M レブリン酸(325μl,0.313mmol)の1,2-ジクロロエタン溶液と、DMAPを少量加え、室温で2時間撹拌した。反応液を飽和食塩水で中和し、CHCl抽出と常法による後処理を行った。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル=50:1~0:1)で精製し、204b(124.8mg)を定量的に得た。
【0068】
(9)Methyl (2,3,4-tri-O-acetyl-α-D-xylopyranosyl)-(1→3)-β-(4-methoxyphenyl 2,4-di-O-acetyl-β-D- glucopyranosylimidate)uronate (205a)の合成
化合物(204a,83.4mg,127μmol)をアセトニトリル(4mL)とHO(1mL)の混合溶液に溶解し、そこにCAN(203.6mg,371.4μmol)を加えて、室温で1.5時間撹拌した。反応液に0.1Mアスコルビン酸を加え、CHCl抽出と飽和食塩水による洗浄をし、常法による後処理を行った。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=5:1~2:3)で精製し、生成物(73.6mg)を得た。これをジクロロメタン(2mL)に溶解し、CClCN(127μL,1.25mmol)を加えて、0℃に冷却した。その後DBUを2滴加え、室温に戻して1時間撹拌した。反応液は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=10:1~1:1)で精製し、205a(72.8mg)を収率82%(2工程)で得た。
1H-NMR δH(CDCl3): 8.72 (s, 1H, NH), 6.67 (d, 1H, J1,2=3.54 Hz, GlcA-1), 5.35 (brt, 1H,J=10.08 Hz, Xyl-3), 5.33 (d, 1H, J1,2=3.72 Hz, Xyl-1), 5.30 (dd, 1H,J3,4=9.37 Hz, J4,5=10.20 Hz, GlcA-4), 5.10 (dd, 1H, J2,3=9.90 Hz, GlcA-2), 4.95 (ddd, 1H,J3,4=10.14 Hz, J4,5a=6.42 Hz, J4,5e=9.60 Hz, Xyl-4), 4.72 (dd, 1H, J2,3=10.26 Hz, Xyl-2), 4.35 (brt, 1H,J=9.63 Hz, GlcA-3), 4.35 (d, 1H, GlcA-5), 3.76 (m, 2H, Xyl-5a,e), 3.73 (s, 3H, COOMe), 2.09, 2.04, 2.04, 2.02, 2.01 (each s, 3Hx5, 5Ac)
【0069】
(10)Methyl [3-O-levulynoyl-2,4-di-O-(4-methyl)benzoyl-α-D-xylopyranosyl]-(1→3)-β-(4-methoxyphenyl 2,4-di-O-benzoyl-β-D-glucopyranosylimidate)uronate (205b)の合成
化合物(204b,124.8mg,126.2μmol)をアセトニトリル(5.8mL)とHO(1.4mL)の混合溶液に溶解し、そこにCAN(362.2mg,660.7μmol)を加えて、室温で4.5時間撹拌した。反応液に0.1Mアスコルビン酸を加え、CHCl抽出と飽和食塩水による洗浄をし、常法による後処理をおこなった。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル=50:1~0:1)で精製し、生成物(110.8mg)を得た。これをジクロロメタン(1mL)に溶解し、CClCN(125μL,1.25mmol)を加えて、0℃に冷却した。その後DBUを1滴加え、室温に戻して1時間撹拌した。反応液は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=50:1~0:1)で精製し、205b(109.7mg)を収率80%(2工程)で得た。
1H-NMR δH(CDCl3): 8.70 (s, 1H, NH), 7.97-7.95 (m, 2H, Ar), 7.64-7.58 (m, 4H, Ar), 7.54-7.51 (m, 3H, Ar), 7.33-7.29 (m, 2H, Ar), 7.22 (brt, 1H, J=7.80 Hz, Ar), 7.16 (d, 1H, J=7.98 Hz, Ar), 7.11 (d, 1H, J=7.98 Hz, Ar), 6.84 (d, 1H, J1,2=3.78 Hz, GlcA-1), 5.60 (brt, 1H,J=9.90 Hz, Xyl-3), 5.59-5.56 (m, 2H, GlcA-2, 4), 5.50 (d, 1H, J1,2=3.90 Hz, Xyl-1), 5.00 (dd, 1H, J2,3=10.44 Hz, Xyl-2), 4.97 (m, 1H,Xyl-4), 4.72 (t, 1H, J2,3= J3,4=9.46 Hz, GlcA-3), 4.52 (d, 1H, J4,5=10.20 Hz, GlcA-5), 3.70 (brt, 1H, J=10.92 Hz, Xyl-5a), 3,63 (dd, 1H, J4,5e=6.18 Hz, J5a,5e=11.22 Hz, Xyl-5e), 3.52 (s, 3H, COOMe), 2.40 (s, 6H, 2PhMe), 2.39-2.16 (m, 4H, 2CH2), 1.86 (s, 3H, Lev).
【0070】
(x)Methyl 3,4-O-(2,3-dimethoxybutan-2,3-diyl)-2-O-(4-methoxy)benzyl-α-D-xylopyranosyl-(1→3)-β-(4-methoxyphenyl 2,4-di-O-acetyl-α and β-D-glucopyranosid)uronate (208a, 208b)の合成

(αチオグリコシドを用いる縮合:Method 1)
トルエン(3.0mL)とジオキサン(3.0mL)の混合溶媒中で103a(397.8mg、0.699mmol)と113a(183.5mg、0.461mmol)を、モレキュラーシーブ4A(0.64g)の存在下、室温で1時間攪拌した。そこにNIS(238.2mg、1.059mmol)とAgOTf(71.4mg、0.278mmol)を-20Cで加えた。1.5時間後、1M ハイポ、飽和NaHCOと飽和NaClを加えて反応を中止し、珪藻土ろ過した濾液をCHClで抽出し、有機層は飽和NaHCOと飽和NaClで洗浄し、無水MgSOで乾燥した。不溶物をろ別し、ろ液の濃縮残渣をゲルろ過カラムカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=1:1)で精製し、208aと208bの混合物(245.9mg、α58%、β12%)を得た。

(βチオグリコシドを用いる縮合:Method 2)
トルエン(3.0mL)とジオキサン(3.0mL)の混合溶媒中で103b(184.7mg、0.325mmol)と113a(86.9mg、0.218mmol)を、モレキュラーシーブ4A(0.33g)の存在下、室温で2時間攪拌した。そこにNIS(110.1mg、0.489mmol)とAgOTf(38.4mg、0.150mmol)を-20℃で加えた。2時間後、1M ハイポ、飽和NaHCOと飽和NaClを加えて反応を中止し、珪藻土ろ過した濾液をCHClで抽出し、有機層は飽和NaHCOと飽和NaClで洗浄し、無水MgSOで乾燥した。不溶物をろ別し、ろ液の濃縮残渣をゲルろ過カラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=1:1)で精製し、208aと208bの混合物(120.7mg、α60%、β12%)を得た。

(αとβチオグリコシドを用いる縮合:Method 3)
トルエン(10.0mL)とジオキサン(10.0mL)の混合溶媒中で103aと103bの約1:1混合物(1.05g、1.85mmol)と113a(491.4mg、1.234mmol)を、モレキュラーシーブ4A(1.81g)の存在下、室温で1時間攪拌した。そこにNIS(588.3mg、2.615mmol)とAgOTf(191.6mg、0.7458mmol)を-20℃で加えた。2時間後、1M ハイポ、飽和NaHCOと飽和NaClを加えて反応を中止し珪藻土ろ過した濾液をCHClで抽出し、無水MgSOで乾燥した。不溶物をろ過、濃縮しゲルろ過カラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=1:1)で精製し、208aと208bの混合物(754.4mg、α67%、β13%)を得た。
【0071】
(x)Methyl α-D-xylopyranosyl-(1→3)-β-(4-methoxyphenyl 2,4-di-O-acetyl-β-D-glucopyranosid)uronate (202aa)の合成
化合物208aと208bの混合物(754.4mg、α:β=67:13)に90%トリフルオロ酢酸(10.0mL)を加え0℃で攪拌した。2.5時間後濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル=1:1~酢酸エチル:メタノール=10:1)で精製し202aaと202abの混合物(474.5mg、収率91%)を得た。これをクロロホルムに懸濁させ,ろ過した.不溶物を回収し,202aa(427.8mg)を得た(208aと208bの混合物からの収率82%)。1H-NMR δH(CD3OD):6.98-6.92(m,2H,Ar-H),6.84-6.82(m,2H,Ar-H),5.19-5.11(m,4H,Glc A-1,2,4),4.95(d,1H,J1,2=3.84Hz,Xyl-1),4.27(d,1H,J4,5=9.96Hz,Glc A-5),4.12(t,1H,J2,3=J3,4=9.24Hz,Glc A-3),3.74,3.69(2s,3H×2,2O C H3),3.53-3.39(m,4H,Xyl-3,4,5ab),2.12,2.07(2s,3H×2,2A c).
【実施例2】
【0072】
実施例2 四糖誘導体(n=1である式(5)の化合物)の合成
(1)Methyl [3-O-levulinoyl-2,4-di-O-(4-methyl)benzoyl-α-D-xylopyranosyl]-(1→3)-(methyl 2,4-di-O-benzoyl-β-D-glucopyranosyluronate)-(1→3)-[2,4-di-O-(4-methyl)benzoyl-α-D-xylopyranosyl]-(1→3)-(4-methoxyphenyl 2,4-di-O-benzoyl-β-D-glucopyranosid)uronate (206b)の合成
二糖供与体(205b,109.7mg,106.7μmol)と二糖受容体(203b1,90.2mg,101μmol)をジクロロメタン(3.5mL)に溶解し、MSAW300(0.31g)を加えて、30分撹拌した。これを-20℃に冷却し、TMSOTf(10μL,53.5μmol)を加えて3時間撹拌した。反応溶液に飽和重曹水を加え、セライトろ過を行った。常法による後処理を行い、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=1:1)で精製し、206b(56.3mg,32.1μmol)を収率32%で得た。[α]D +21.0°(c 0.66,CHCl3). 1H-NMR δH(CDCl3): 7.92-7.899 (m, 4H, Ar), 7.66-7.62 (m, 5H, Ar), 7.59 (d, 2H, J=8.16 Hz, Ar), 7.55-7.50 (m, 7H, Ar), 7.41 (d, 2H, J=7.44 Hz, Ar), 7.33-7.27 (m, 5H, Ar), 7.18 (m, 3H, Ar), 7.15 (d, 2H, J=8.04 Hz, Ar), 7.11 (d, 2H, J=7.75 Hz, Ar), 7.06 (d, 2H, J=7.92 Hz, Ar), 6.91-6.89 (m, 2H, Ar), 6.88-6.86 (m, 2H, Ar), 6.71-6.70 (m, 2H, Ar), 5.55 (dd, 1H, J1,2=7.26 Hz, J2,3=8.64 Hz, H-21), 5.50 (brt, 1H, J=8.94 Hz, H-41), 5.45 (t, 1H, J2,3= J3,4=9.78 Hz, H-34), 5.42 (brt, 1H, J=9.45 Hz, H-43), 5.34 (d, 1H, J1,2=3.60 Hz, H-12), 5.28 (d, 1H, J1,2=3.96 Hz, H-14), 5.25 (brt, 1H, J=8.52 Hz, H-23), 5.09 (d, 1H, H-11), 5.00 (dd, 1H, J1,2=7.98 Hz, H-13), 4.81-4.76 (m, 3H, H-42, 24, 44), 4.71 (dd, 1H, J2,3=9.60 Hz, H-23), 4.43 (brt, 1H, J=9.27 Hz, H-32), 4.33 (brt, 1H, J=8.73 Hz, H-31), 4.17 (brt, 1H, J=9.08 Hz, H-33), 4.12 (d, 1H, J4,5=9.84 Hz, H-53), 4.11 (d, 1H, J4,5=9.19 Hz, H-51), 3.70, 3.53, 3.44 (3s, 3Hx3, 3OMe), 3.66 (dd, 1H, J4,5e=5.93 Hz, J5a,5e=11.53 Hz, H-52e), 3.49 (brt, 1H, J=10.78 Hz, H-52a), 3.31 (brt, 1H, J=11.05 Hz, H-54a), 3.21 (dd, 1H, J4,5e=6.00 Hz, J5a,5e=11.33 Hz, H-54e), 2.50, 2.45, 2.39, 2.37 (4s, 12H, 4PhMe), 2.44-2.10 (m, 4H, 2CH2), 1.83 (s, 3H, Lev). ESI-HRMS m/z [(M+Na)+]: calcd. for C96H90NaO32: 1777.5307; found, 1777.5330.
【0073】
(2)α-D-Xylopyranosyl-(1→3)-β-D-glucopyranosyluronic acid-(1→3)-α-D-xylopyranosyl-(1→3)-4-methoxyphenyl β-D-glucopyranosyluronic acid, disodium salt (207b)の合成
化合物(206b,15.1mg,8.60μmol)をTHF(1.4ml)とHO(0.1ml)の混合溶液に溶解し、1.25M LiOH(70μL,86μmol)を加え2.5時間撹拌した。減圧留去後0℃に冷却しMeOHを1.0mL加え、0.5M NaOH(50μL)を加えて室温で16日間撹拌した。50%酢酸(2滴)を加えて減圧留去し、得られた残渣をゲルろ過カラムクロマトグラフィー(LH-20,1%酢酸)とBond Elut(C8)で精製し、207bを4.1mg(収率64%)得た。[α]D +18.3°(c 0.41,H2O). 1H-NMR δH(H2O) (DHO=4.70 ppm): 7.00-6.99 (m, 2H, Ar), 6.87-6.85 (m, 4H, Ar), 5.26 (d, 1H, J1,2=3.78 Hz, H-14or2), 5.22 (d, 1H, J1,2=3.84 Hz, H-12or4), 4.87 (d, 1H, J1,2=7.80 Hz, H-11), 4.63 (d, 1H, J1,2=8.00 Hz, H-13), 3.68 (s, 3H, OMe), 3.61 (m, 1H, H-24or2), 3.56 (m, 2H, H-33, 32or4), 3.55(m, 1H, H-21), 3.41 (dd, 1H, J2,3=9.72 Hz, H-22or4), 3.38 (dd, 1H, J2,3=9.12 Hz, H-23). ESI-HRMS m/z[(M+Na)+]: calcd. for C29H40NaO22: 763.1903; found, 763.1884.
【実施例3】
【0074】
実施例3 式(9)に示す四糖誘導体の合成
(1)化合物402の合成
トルエン(6.0mL)とエタノール(3.0mL)の混合溶媒に溶解した式10、化合物401(273.6mg、0.2516mmol)にHNNH・AcOH(112.1mg)加え室温で一晩撹拌した。その後、反応液を濃縮しゲルろ過カラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=1:1)とシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール=100:1)で精製し、化合物402を137.0mg、収率75%で得た。
【0075】
(2)化合物403(式8)の合成
DMFに溶解させた化合物402(97.4mg、0.1340mmol)に、10-カンファースルホン酸(3.9mg)を加えて室温で撹拌させた。そこに、2-メトキシプロペン(14μL)を加えた。8時間後さらに2-メトキシプロペン(14μL)を加え一晩撹拌した。その後、さらに2-メトキシプロペン(28μL)を加え、2時間後、ジイソプロピルエチルアミンを加えて反応を停止させ、EtOAcで抽出し、無水MgSOで乾燥した。不溶物をろ過、濃縮しシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=6:1~4:1)で精製し、化合物403(式8)を70.2mg(収率68%)得た。
【0076】
(3)化合物404の合成
MSAW300に、CHClに溶解させた式7、化合物205a(135.4mg、0.1948mmol)と式8,化合物403(110.0mg、0.1405mmol)を加え、-78℃で撹拌した。そこにTMSOTf(4.0μL)を加えた。1.5時間後、飽和NaHCOを加えて反応を停止させ、CHClで抽出し、無水MgSOで乾燥した。不溶物をろ過、濃縮しゲルろ過カラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=1:1)で精製し、生成物(75.8mg)を得た。得られた生成物にAcO(3.0mL)とピリジン(3.0mL)を加え室温で一晩撹拌した。その後反応液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=3:1)で精製し、化合物404を67.3mg(2工程収率35%)得た。
【0077】
(4)化合物405の合成
(1,5-cyclooctadiene)bis(methyldiphenylphosphine)iridium(I) hexafluorophosphateにTHF(1.0mL)を加えHで活性化させたのちに、Ar雰囲気にした。そこにTHF(5.0mL)に溶解させた化合物404(67.3mg、0.04950mmol)を加えて、室温で1.5時間撹拌した。その後、水を加え、0℃にし、炭酸水素ナトリウム(8.9mg)とヨウ素(26.2mg)を加えて2時間撹拌した。その後、1Mハイポを加えて反応を停止させCHClで抽出し、無水MgSOで乾燥した。不溶物をろ過、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=3:1~酢酸エチル:メタノール=10:1)で精製し、生成物(60.0mg)を得た。得られた生成物をTHF(4.0mL)に溶解しAcOH(25μL)と1M t-ブチルアンモニウムフルオリド(220μL)加え、室温で2日間撹拌した。その後、CHClで抽出し、無水MgSOで乾燥した。不溶物をろ過、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=1:1)で精製し、化合物405を29.1mg(2工程収率54%)得た。
【0078】
(5)化合物406(式9)の合成
THF(4.0mL)と水(0.2mL)の混合溶媒に溶解した化合物405(29.1mg,0.0270mmol)に1.25M LiOH(210μL)を0℃で加え1時間攪拌した。反応液を濃縮し、メタノール(4.0mL)を加えて、0.1M NaOH(5滴)添加して一晩室温で撹拌した。AcOHを添加し反応を停止させ、反応液を濃縮し、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー(LH-20,1%酢酸)で精製し生成物(20.0mg)を得た。得られた生成物をメタノール(2.0mL)と水(2.0mL)の混合溶媒に溶解し、パラジウム-カーボンを加えた。その後、フラスコ内をH雰囲気にし、一晩室温で撹拌した。反応液をセライトろ過したのちに、濃縮、乾燥させ、式9、化合物406を14.6mg(2工程収率92%)得た。
1H-NMR δH(D2O): 5.17(d, 1H, J1,2=3.84 Hz, Xyl2-1), 4.44(d, 1H, J1,2=7.86 Hz, Xyl1-1), 4.42(d, 1H, J1,2=8.22 Hz, GlcA-1), 3.94(dd, 1H, J=5.34, 11.88 Hz, Xyl-5a), 3.86-3.84(m, 1H, Rbo-4), 3.74-3.72(m, 4H, Xyl2-4, Rbo-3, 5a, 1a), 3.69-3.60(m, 5H, Xyl1-4, GlcA-5, Rbo-2, 5b, Xyl2-5a), 3.54-3.43(m, 6H, Xyl2-3, 5b, Xyl1-3, GlcA-3,4, Rbo-1b), 3.38(dd, 1H, J2,3=9.66 Hz Xyl2-2), 3.27(d, 1H, J2,3=9.12 Hz, GlcA-2), 3.24-3.20(m, 2H, Xyl1-2, Xyl1-5b).13C NMR δC (D2O): 105.46(Xyl1-1), 103.84(GlcA-1), 101.52(Xyl2-1), 83.51(GlcA-4), 83.33(Rbo-4), 79.48(Xyl1-4), 77.56(Rbo-3), 76.37(Xyl1-3), 75.67(Xyl1-2), 75.60(Xyl2-3), 74.60, 74.40(GlcA-5, Rbo-2), 74.20(Xyl2-2), 74.12(Xyl2-4), 73.85(GlcA-2), 71.95(GlcA-3), 65.53(Xyl1-5), 65.22(Xyl2-5), 64.03(Rbo-1), 62.77(Rbo-5). ESI-HRMS m/z[(M+Na)+]: calcd. for C21H36NaO19: 615.1748; found, 615.1744.
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、医薬の製造分野、糖鎖工学の分野などにおいて利用可能である。